特許第6581446号(P6581446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581446
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】絶縁膜及び記憶装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/1159 20170101AFI20190912BHJP
   H01L 27/11597 20170101ALI20190912BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01L27/1159
   H01L27/11597
   H01L21/316 Y
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-177264(P2015-177264)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-54903(P2017-54903A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】東芝メモリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】井野 恒洋
(72)【発明者】
【氏名】中崎 靖
(72)【発明者】
【氏名】藤井 章輔
(72)【発明者】
【氏名】松下 大介
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−065251(JP,A)
【文献】 特開2007−273548(JP,A)
【文献】 特開平11−087634(JP,A)
【文献】 特開2005−216951(JP,A)
【文献】 特開2015−015334(JP,A)
【文献】 特表2003−502837(JP,A)
【文献】 特開2001−210794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/1159
H01L 21/316
H01L 27/11597
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である絶縁膜。
【請求項2】
前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、
17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、
16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、
794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、
779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、
を含む請求項1記載の絶縁膜。
【請求項3】
バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、
17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、
16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、
794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、
779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、
を含む、絶縁膜。
【請求項4】
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、
を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である記憶装置。
【請求項5】
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、
を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、
17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、
16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、
794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、
779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、
を含む記憶装置。
【請求項6】
第1導電層と、
半導体層と、
前記第1導電層と前記半導体層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、
を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である記憶装置。
【請求項7】
第1導電層と、
半導体層と、
前記第1導電層と前記半導体層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、
を備え、
前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2であり、
前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、
17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、
16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、
794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、
779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、
を含む、記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、絶縁膜及び記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ハフニウムを含む絶縁膜の研究が行われている。例えば、HfSiOやHfZrOなどの10nm程度の薄膜は、強誘電性を示す。このような絶縁膜は、例えばCMOSプロセスに用いることができるため注目されている。このような絶縁膜において、大きな分極(自発分極)を得ることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−175020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、分極の大きい絶縁膜及び記憶装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である。
本発明の実施形態によれば、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、を含む
発明の別の実施形態によれば、第1導電層と、第2導電層と、前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、を含む記憶装置が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である。
本発明の別の実施形態によれば、第1導電層と、第2導電層と、前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、を含む記憶装置が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、を含む。
本発明の別の実施形態によれば、第1導電層と、半導体層と、前記第1導電層と前記半導体層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、を含む記憶装置が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料中の前記バリウムの濃度は、1原子%以上9原子%以下である。
本発明の別の実施形態によれば、第1導電層と、半導体層と、前記第1導電層と前記半導体層との間に設けられ、バリウムと酸化ハフニウムとを含む材料を含む絶縁膜と、を含む記憶装置が提供される。前記材料の結晶構造は、蛍石型の空間群Pbc2である。前記材料のX線光電子分光法によるエネルギースペクトルは、17.7eV以上18.5eV以下に位置する第1ピークと、16.3eV以上16.8eV以下に位置する第2ピークと、794.8eV以上795.3eV以下に位置する第3ピークと、779.6eV以上780.1eV以下に位置する第4ピークと、を含む
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る絶縁膜を示す模式的断面図である。
図2図2(a)〜図2(f)は、絶縁膜の特性を示すグラフ図である。
図3】絶縁膜の特性を示す模式図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、第3斜方晶の酸化ハフニウムを示す模式図である。
図5図5(a)〜図5(d)は、第3斜方晶のHf1−xBa2−δを示す模式図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、絶縁膜の特性を示すグラフ図である。
図7図7(a)〜図7(c)は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶素子を示す模式的断面図である。
図8】Baが添加されたHfOの特性を示す模式図である。
図9】実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を示す模式的断面図である。
図10図10(a)及び図10(b)は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を示す模式図である。
図11】実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を示す模式的斜視図である。
図12】実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る絶縁膜を例示する模式的断面図である。
実施形態に係る絶縁膜100は、バリウム(Ba)と酸化ハフニウム(HfO)とを含む材料を含む。換言すると、絶縁膜100の材料は、Baが添加されたHfOである。例えば、HfO中に添加されたBaの濃度は、1原子パーセント(%)以上9原子%以下である。すなわち、絶縁膜100の材料は、例えばHf1−xBa2ーδ(0.01≦x≦0.09)である。
【0009】
絶縁膜100の材料(HfBaO)の結晶構造は、第3斜方晶(空間群Pbc2)である。結晶構造に関する情報は、例えばX線回折などによって得られる。絶縁膜100の厚さは、例えば、3ナノメートル(nm)以上30nm以下である。
【0010】
図1に示した例では、絶縁膜100は、導電層12(第1導電層)及び導電層14(第2導電層)との間に設けられている。絶縁膜100は、導電層12及び導電層14と接している。すなわち、図1には、MFM(Metal/Ferroelectrics/Metal)構造を有する構造体(キャパシタ10)を例示している。
【0011】
なお、実施形態に係る絶縁膜100は、必ずしも導電層と接している必要はない。後述するように、絶縁膜100は、半導体や絶縁体と接し、デバイスの一部として用いられてもよい。
【0012】
図2(a)〜図2(f)は、絶縁膜の特性を例示するグラフ図である。
これらのグラフは、図1に示したMFM構造を有するキャパシタによって測定される、絶縁膜の電圧−分極特性を表す。電圧−分極特性は、例えばソーヤタワー回路を用いて測定できる。
【0013】
図2(a)〜図2(c)は、実施形態に係る絶縁膜101〜103の特性を例示する。絶縁膜101〜103のそれぞれには、図1に示した絶縁膜100と同様の説明が適用される。図2(a)の絶縁膜101の材料中のBaの濃度は、2原子%である。図2(b)の絶縁膜102の材料中のBaの濃度は、4原子%である。図2(c)の絶縁膜103の材料中のBaの濃度は、6原子%である。
【0014】
図2(d)〜図2(f)は、参考例に係る絶縁膜191〜193の特性を例示する。図2(d)は、HfOに2原子%のLaが添加された絶縁膜191の特性を示す。図2(e)は、HfOに2原子%のCeが添加された絶縁膜192の特性を示す。図2(f)は、HfOに2原子%のGdが添加された絶縁膜193の特性を示す。
【0015】
図2(a)〜図2(f)に関する絶縁膜は、酸化ハフニウムに添加される元素、及び、その濃度のいずれかにおいて互いに異なる。これ以外の形成条件や測定条件は、共通である。例えば、参考例に係る絶縁膜の材料も、第3斜方晶の結晶構造を有する。例えば、全て絶縁膜の形成に用いられた装置は、共通である。
【0016】
各グラフの横軸は、絶縁膜に印加される電圧V(V)を表す。各グラフの縦軸は、絶縁膜の分極P(μC/cm)を表す。これらの絶縁膜に印加される電圧Vが変化すると、分極Pの大きさ及び方向が変化し、電圧−分極特性には、ヒステリシスが見られる。すなわち、これらの絶縁膜は、強誘電性を有する。例えば、電圧Vを0Vから3V程度まで変化させ、再び0Vとしたときの分極P(残留分極)が自発分極Psに相当する。
【0017】
図2(a)〜図2(c)に示すように、実施形態に係る絶縁膜101〜103においては、自発分極Psが大きく、30〜35(μC/cm)程度である。一方、図2(d)〜図2(f)に示すように、参考例に係る絶縁膜においては、自発分極Psは比較的小さい。
【0018】
図2(a)〜図2(f)に関する絶縁膜の他、Hf1−x2−δを材料とする複数の絶縁膜を製作し、同様の評価を行った。ここで、元素Mは、Ba、La、Gd及びCeのいずれかである。元素Mのそれぞれにおいて、0.00≦x≦0.20の範囲内の様々な組成の絶縁膜を製作し、評価した。これらの絶縁膜においても、酸化ハフニウムに添加される元素及びその濃度以外の形成条件等は、共通である。
【0019】
元素MがBaの場合では0.01≦x≦0.06の範囲、元素MがLaの場合では0.01≦x≦0.04の範囲、元素MがGdの場合では0.01≦x≦0.04の範囲、元素MがCeの場合では0.01≦x≦0.02の範囲、において高い自発分極が得られる。元素Mとして上記のいずれを用いた場合においても、x=0.02のときに最大の自発分極Psが得られる。
【0020】
図3は、絶縁膜の特性を例示する模式図である。
図3の左縦軸は、前述の絶縁膜101、191〜193のそれぞれにおける、自発分極Ps(μC/cm)を表す。すなわち、図3は、x=0.02の組成における、自発分極Psを示す。
【0021】
図3の横軸は、酸化ハフニウムに添加された元素のイオン半径Ri(nm)を示す。イオン半径Ri(nm)は、添加された各元素に酸素が7配位している状態のイオン半径である。なお、図3には、元素を添加していない絶縁膜190(すなわちHfO)の自発分極Psも示している。絶縁膜190についてのイオン半径Riは、Hfのイオン半径を用いている。
【0022】
図3に示すように、イオン半径Ri(nm)が大きいと、自発分極Ps(μC/cm)が大きい傾向が得られた。このように、本願発明者は、第3斜方晶の結晶構造を有し且つBaが添加された酸化ハフニウムにおいて、大きな自発分極が生じることを見出した。
【0023】
図4(a)及び図4(b)は、第3斜方晶の酸化ハフニウムを例示する模式図である。 電界が印加される前の第3斜方晶のHfOのユニットセルにおいて、Hf原子の位置は、1種類である。一方、電界が印加される前の第3斜方晶のHfOのユニットセルにおいて、O原子の位置は、2種類である。つまり、図4に示したように、サイトO1に位置するO原子と、サイトO2に位置するO原子と、が存在する。サイトO1に位置するO原子は、c軸方向において反転対称性を有さない。例えば、Hf原子が位置するサイトとサイトO1との間の距離には、Hf原子が位置するサイトとサイトO2との間の距離よりも短いものと長いものの両方が存在する。このため、c軸に対して垂直であるようなHf4+面の正電荷と、c軸に対して垂直であるようなサイトO1のO2−面の負電荷と、によって、c軸方向に分極が生じる。
【0024】
例えば、第3斜方晶のHfOに電界を印加すると、サイトO1に存在するO原子のc軸方向における位置が変化する。HfO中において、Hf4+とO2−との距離が変化して分極方向が反転する。
【0025】
第1原理計算によれば、図4(b)に示したように、第3斜方晶のHfOには、分極(Pz)に関して、3つの安定点A、S1及びB’が存在する。例えば、安定点A、Bにおいて、エネルギーが最も低くなる。安定点Aに対応する分極と安定点B’に対応する分極とは、互いに逆向きである。安定点S1は、安定点Aと安定点B’の中間であって、Pz=0に対応する。
【0026】
HfOにBaが添加されると、ユニットセルにおいて一部のHf原子がBa原子で置換される。すなわち、Ba原子は、図4(a)に示したHf原子のサイトに配置される。例えば、酸素が7配位のHf4+が、酸素が7配位のBa2+で置換される。これにより、結晶中に酸素欠損が導入される。Hf1−xBa2−δにおいては、酸素欠損に誘起されて分極反転が生じると考えられる。
【0027】
酸素欠損が生じる位置は、上記のサイトO1とサイトO2との2種類が考えられる。本願発明者の検討の結果、酸素欠損がサイトO2に存在する場合に、図3に示したような大きな自発分極が生じることが第1原理計算により分かった。したがって、実施形態に係る絶縁膜においては、酸素欠損は、サイトO2に存在すると考えられる。
【0028】
図5(a)〜図5(c)は、第3斜方晶のHf1−xBa2−δを例示する。
図5(a)は上述の安定点Aに対応する状態を示し、図5(b)は安定点B’に対応する状態を示し、図5(c)は、安定点S1に対応する状態を示す。
図5(a)〜図5(d)に示した例では、実施形態に係る絶縁膜とは異なり、酸素欠損D1がサイトO1に存在する。
【0029】
図5(d)は、サイトO1に生じた酸素欠損D1の位置と、エネルギーとの関係を例示するグラフ図である。エネルギーは、酸素1原子当たりに換算した値である。この関係は、第1原理計算によって得られる。
【0030】
図5(d)に示したように、安定点Aに対応する状態及び安定点B’に対応する状態において、エネルギーが低い。但し、図5(d)では、図4(b)に示したHfOとは異なり、安定点Aに対応する状態のエネルギーは、安定点B’に対応する状態のエネルギーよりも低い。このように、サイトO1に酸素欠損D1が存在するHf1−xBa2−δにおいて、エネルギー曲線は、安定点S1を中心として非対称である。このことは、サイトO1に酸素欠損D1が生じると、電圧−分極特性のヒステリシス曲線が非対称となることを意味する。
【0031】
一方、例えば、図2(a)に示した通り、実施形態に係る絶縁膜の電圧−分極特性のヒステリシス曲線においては、電圧が正の時の曲線の形状と、電圧が負の時の曲線の形状とは、ほぼ対称である。したがって、実施形態に係る絶縁膜においては、酸素欠損D1は、サイトO1ではなく、サイトO2に位置すると考えられる。
【0032】
図6(a)及び図6(b)は、絶縁膜の特性を例示するグラフ図である。
図6(a)及び図6(b)は、第3斜方晶のHf1−xBa2−δのX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)によるエネルギースペクトルを示す。図6(a)は、Hfの4fピークとBaの5pピークとを示す。図6(b)は、Baの3dピークを示す。
【0033】
各グラフにおける複数の曲線は、組成比xが互いに異なる試料の測定結果である。図6(a)に示したスペクトルSp1は、x=0すなわちHfOの測定結果である。HfOにおいては、Hf4+に応じて、18.6eV及び17.0eVに4fピークが生じる。
【0034】
スペクトルSp2は、本実施形態に係る絶縁膜(すなわち、HfOにBaが添加されたHf1−xBa2−δ)の測定結果である。HfOに対してBaを添加すると、Hf4+に応じた4fピークのスペクトル強度が低下し、ピーク位置が低エネルギー側にシフトする。Baが添加されたHfOにおいては、Hf3+、Hf2+またはHf1+に応じたピークが少量見られる。
【0035】
実施形態に係る絶縁膜においては、例えば、18.6eVのピークのシフト量は、0.1eV以上0.9eV以下であり、17.0eVのピークのシフト量は、0.2eV以上0.7eV以下である。すなわち、実施形態に係る絶縁膜においては、17.7eV以上18.5eV以下に位置するピークと、16.3eV以上16.8eV以下に位置するピークと、が観測される。
【0036】
ここで、0価のHfすなわちHf金属に応じたピークが見えるようなスパッタ条件によって絶縁膜が作製された場合は、本実施形態に係る絶縁膜の構造を得ることはできない。Hf1+のピークも少ないことが望ましい。Hf2+のピークも、Hf3+のピークよりも低いことが望ましい。実施形態に係る絶縁膜においては、Hf2+のピーク及びHf1+のピークは観測されなくてもよい。
【0037】
さらに、Hf0.98Ba0.022−δにおけるXPSピークから、δが0.04程度と見積もられ、蛍石型のMX結晶構造における陰イオンサイトが欠損していることが判明した。組成を(HfO0.98(BaO)0.02−εとしたとき、εは、0.02程度と見積もられ、酸素が化学量論比よりもさらに欠損していることが分かる。
【0038】
Baの3dピークは、例えば、795.5eV付近及び780.3eV付近に位置する。図6(b)に示すように、実施形態に係る絶縁膜においては、795.5eVよりも0.2eV以上0.7eV以下低い位置、及び、780.3eVよりも0.2eV以上0.7eV以下低い位置に、ピークが観測される。すなわち、実施形態に係る絶縁膜においては、794.8eV以上795.3eV以下に位置するピークと、779.6eV以上780.1eV以下に位置するピークと、が観測される。
【0039】
Baの添加量(x)を増やすにつれて、図6(b)に示したピークの強度は、高くなる。一方、ピーク位置は、添加量(x)にあまり影響を受けない。このことは、実施形態に係る絶縁膜においては、酸素欠損が、ポテンシャルを変調するBaから遠いサイト(すなわちサイトO2)に存在すると考えられる。
【0040】
図7(a)〜図7(c)は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶素子を例示する模式的断面図である。
これらは、実施形態に係るMFM型の記憶素子の基本構造を例示している。この記憶素子は、例えば、不揮発性の記憶素子である。
【0041】
図7(a)に表したように、記憶素子10Aは、半導体層11と、導電層12、絶縁膜100と、導電層14と、を含む。
導電層12及び導電層14は、例えば電極膜である。半導体層11は、例えば基板である。基板の上に、図1に関して説明したキャパシタ10が形成されている。
【0042】
記憶素子10Aは、MIMS(Metal-Insulator-Metal-Silicon)型のキャパシタ絶縁膜を強誘電体膜とした構造を有する。これにより、キャパシタ電極に不揮発な電荷を蓄え、蓄えた電荷を読み取る。なお、実施形態に係る記憶素子には、必ずしもMFM型構造を採用する必要はない。
【0043】
例えば、書き込み時には、導電層12と導電層14との間に電圧を印加して、絶縁膜100の分極方向を変化させる。キャパシタ電極(導電層12及び導電層14)に蓄えられる電荷は、絶縁膜100の分極方向に応じて変化する。
【0044】
電荷を読み取るために選択素子や選択増幅素子を設けてもよい。選択素子は、例えば、キャパシタ電極に直列に接続されるダイオードである。選択増幅素子は、例えば、キャパシタ電極にソース又はドレインが接続されたトランジスタである。
【0045】
図7(a)には、一例として、トランジスタTrと記憶素子10Aとを含む記憶装置201を示す。記憶装置201は、FeRAMの構造を有する。この例では、導電層12が配線L1と接続され、導電層14がトランジスタTrのドレイン電極Drとが接続される。例えば、トランジスタTrのゲート電極Gaがワード線と接続され、トランジスタTrのソース電極Soがビット線と接続される。
【0046】
書き込み時には、ワード線によってゲート電極Gaを選択し、ビット線と配線L1を介して絶縁膜100に電圧が印加される。読み出し時には、ビット線と配線L1との間に流れる電流を読み取る。
【0047】
次に、このような記憶素子の製造方法の一例について説明する。
半導体層11は、例えばシリコン基板である。(100)面が露出した単結晶シリコンの基板を用いることが好ましい。その他、半導体層11には、単結晶ゲルマニウム基板、SiGeエピタキシャル基板、InP基板、GaN基板、GaAs基板またはInGaZnO基板など、メモリ周辺回路を形成することが可能な基板を用いてもよい。
【0048】
例えば、シリコンの(100)面が露出した基板上に、スパッタ法によって導電層12を形成する。導電層12は、例えば、TiN、高ドープポリシリコン、TaN、TW、HfN、ZrN、TaAlN、WAlN、HfAlN、ZrAlN及びIrの少なくともいずれかを含む。これらの材料によって形成された層には、例えばHfO膜と混合しにくく、耐酸化性が高いといった特徴がある。これらの材料によって形成された層においては、以下に述べる600℃〜800℃程度の熱処理によって、変形や構造の乱れが生じにくい。導電層12の厚さは、素子の微細化及びコスト低下の観点から、例えば10nm以下である。導電層12として用いる材料のヤング率は、230ギガパスカル(GPa)以上600GPa以下であることが望ましい。導電層12のヤング率が小さすぎる場合、後に導電層12の上に形成されるHfBaO膜が準安定構造を維持するような応力を、HfBaO膜に加えることが難しい。導電層12のヤング率が大きすぎる場合、HfBaO膜が所望の準安定構造を通り越し、別の準安定構造となってしまう。
【0049】
導電層12の形成には、スパッタ法以外に、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法又はEB(Electron Beam)蒸着法を用いてもよい。
【0050】
なお、導電層12は、必ずしも設けられなくてもよい。例えば、図7(b)に表した記憶素子10Bは、導電層12を含まない。記憶素子10Bにおいては、例えば、半導体層11の上に直接、絶縁膜100が設けられている。これ以外については、記憶素子10Bは、記憶素子10Aと同様である。
【0051】
導電層12の代わりに絶縁層を用いてもよい。例えば、図7(c)に表した記憶素子10Cは、導電層12を含まず、絶縁層121を含む。絶縁層121は、絶縁膜100と半導体層11との間に位置する。これ以外については、記憶素子10Cは、記憶素子10Aと同様である。絶縁層121は、半導体層11の上に意図的に形成されることが好ましい。絶縁層121は、以降のプロセスによって自然に形成されてもよい。
【0052】
導電層12、半導体層11または絶縁層121の上にスパッタ法を用いて、絶縁膜100となるHf1−xBa2−δ膜を形成する。xは例えば、0.02である。Hf1−xBa2−δ膜の厚さは、例えば、16nm以下である。16nmよりも厚い場合では、強誘電体となりにくい。
【0053】
Hf1−xBa2−δ膜を形成する際の基板の温度は、室温であることが好ましい。但し、基板の温度は、高温であってもよい。Hf1−xBa2−δ膜のスパッタ条件としては、なるべく基板にダメージを与えないような条件が望ましい。例えば、スパッタガス圧は1Pa以上が好ましい。基板とスパッタターゲットとをオフアクシス配置とすることが好ましい。スパッタターゲットは、Hf金属を含む。Ar+O雰囲気中における化成スパッタを用いてもよい。この場合には、Arの流量に対するOの流量を、1/10以下とする。
【0054】
その後、Hf1−xBa2−δ膜の上に導電層14(電極膜)を形成する。導電層14の材料等は、導電層12の場合と同様である。例えば、導電層14として、スパッタ法によりTiN膜を形成する。
【0055】
その後、導電層14の上にさらに半導体膜(図示せず)を形成してもよい。半導体膜の形成には、例えばALD法やCVD法などが用いられる。
【0056】
以上のようにして形成されたHf1−xBa2−δ膜は、例えば強誘電性を有さない。ここで、次に述べる熱処理(加熱冷却プロセス)を実施する。これにより、Hf1−xBa2−δ膜は、強誘電性を有する絶縁膜となる。
【0057】
図8は、Baが添加されたHfOの特性を例示する模式図である。
図8は、Hf1−xBa2−δ(x=0.02)における、生成エネルギーEc(V)と結晶体積Vc(nm)との関係を例示する。生成エネルギーEc及び結晶体積Vcは、Hfセルあたりの値である。生成エネルギーEcは、結晶構造が単斜晶であるときを基準(0V)としている。
【0058】
図8に示すように、スパッタによって形成された直後には、Hf1−xBa2−δ膜は、非晶質(amorphous)であり、常誘電体である。ここで、非晶質のHf1−xBa2−δ膜を例えば800℃以上に加熱後30℃/h未満の降温速度で冷却するか、例えばHf1−xBa2−δ膜になんら束縛条件を与えずに降温するか、例えばHf1−xBa2−δ膜の上層または下層にヤング率が230GPaに満たない材料又はHf1−xBa2−δ膜との反応が進み膨張するような材料を用いるか、例えばHf1−xBa2−δ膜の組成における酸素欠損δが0.01未満となるようにする。これにより結晶構造が変化し、生成エネルギーEcが低い状態となる。図8中の矢印Aaのように熱処理によって結晶体積Vcが減少しない場合、結晶構造は、単斜晶(monoclinic P2/c)となる。この結晶構造においては、Hf1−xBa2−δ膜は、常誘電体である。
【0059】
図8中の矢印AbのようにHf1−xBa2−δ膜を例えば800℃以上に加熱後30℃/h以上の降温速度で冷却する。この際、例えばHf1−xBa2−δ膜の上層及び下層の少なくとも一方に用いられる材料にヤング率が600GPaを超えるような材料、又はHf1−xBa2−δ膜との反応がほとんど起こらないような材料を用いるか、例えばHf1−xBa2−δ膜の組成における酸素欠損δが0.13以上0.17未満となるようにする。これにより、結晶体積Vcが大きく減少した場合、結晶構造は、正方晶(tetragonal P4/nmc)又は第1斜方晶(orthorhombic I Pbca)となる。これらの結晶構造においては、Hf1−xBa2−δ膜は、反強誘電体である。
【0060】
図8中の矢印AcのようにHf1−xBa2−δ膜を例えば800℃以上に加熱後30℃/h以上の降温速度で冷却する。この際、例えばHf1−xBa2−δ膜の上層及び下層の少なくとも一方に用いられる材料にヤング率が600GPaを超えるような材料、又はHf1−xBa2−δ膜との反応がほとんど起こらないような材料を用いるか、例えばHf1−xBa2−δ膜の組成における酸素欠損δが0.17以上となるようにする。これにより、結晶体積Vcがさらに大きく減少した場合、結晶構造は、立方晶(cubic Fm3m)となる。この結晶構造においては、Hf1−xBa2−δ膜は、常誘電体である。
【0061】
これに対して、図8中の矢印AdのようにHf1−xBa2−δ膜を例えば800℃以上に加熱後30℃/h以上の降温速度で冷却する。この際、例えばHf1−xBa2−δ膜の上層及び下層の少なくとも一方に用いられる材料にヤング率が230Gpa以上600GPa以下であるような材料又はHf1−xBa2−δ膜との反応がほとんど起こらないような材料を用いるか、例えばHf1−xBa2−δ膜の組成における酸素欠損δが0.01以上0.13未満となるようにする。これにより、結晶体積Vcが程よく減少した場合、結晶構造は、第3斜方晶(orthorombic III Pbc2)となる。この結晶構造においては、Hf1−xBa2−δ膜は、強誘電体である。これにより、実施形態に係る絶縁膜100が得られる。すなわち、冷却プロセスにおけるHf1−xBa2−δ膜の縮み量を適切に調整することにより、実施形態に係る絶縁膜100を得ることができる。Hf1−xBa2−δ膜が縮まない場合又は縮みすぎた場合は、強誘電性を得ることができない。Hf1−xBa2−δ膜を程よく縮ませることで、強誘電性が得られる。
【0062】
例えば、Hf1−xBa2−δ膜と接する層(例えば導電層12または導電層14)の熱膨張係数を調整する。これにより、冷却プロセスにおいて、Hf1−xBa2−δ膜の熱膨張係数と、Hf1−xBa2−δ膜と接する層の熱膨張係数との差に応じた応力がHf1−xBa2−δ膜に印加される。これにより、結晶体積Vcの減少量(すなわち結晶構造)を調整することが可能である。
【0063】
Hf1−xBa2−δ膜をスパッタで形成する際、雰囲気中の酸素流量を調整してもよい。流量に応じて、Hf1−xBa2−δ膜中の酸素欠損の量が変化する。熱処理においては、酸素欠損の量に応じて、膜中に内部応力が生じる。これにより、結晶体積Vcの減少量(すなわち結晶構造)を調整してもよい。この他、Hf1−xBa2−δ膜を縮ませる方法には、任意の方法を用いてよい。
【0064】
図9は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を例示する模式的断面図である。
図9に表したように記憶装置202は、記憶素子10Dを含む。記憶素子10Dは、半導体層11と絶縁膜100と導電層14とを含む。記憶素子10Dは、例えば強誘電体トランジスタ(Ferroelectric Field Effect Transistor:FeFET)である。
【0065】
半導体層11は、例えばシリコン基板である。半導体層11には、第1領域11sと第2領域11dと第3領域11cとが設けられる。第2領域11dは、X1方向において第1領域11sと離間する。第3領域11cは、第1領域11sと第2領域11dとの間に位置する。第1領域11s及び第2領域11dは、第1導電型(n型及びp型のいずれか)の不純物を含む。n型の不純物には、例えば、リン(P)や砒素(As)が用いられる。p型の不純物には、例えばホウ素(B)が用いられる。第3領域11cにおける第1導電型の不純物濃度は、第1領域11sにおける第1導電型の不純物濃度よりも低く、第2領域11dにおける第1導電型の不純物濃度よりも低い。例えば、第1領域11sはソース領域であり、第2領域11dはドレイン領域であり、第3領域11cはチャネル領域である。
【0066】
導電層14は、X1方向に対して垂直なZ1方向において、半導体層11と離間する。導電層14は、第3領域11cと対向するように設けられ、Z1方向において第3領域11cと並ぶ。導電層14は、例えばゲート電極である。
【0067】
導電層14と第3領域11cとの間に絶縁膜100が設けられる。
この例では、絶縁膜100と半導体層11との間に絶縁層122が設けられている。絶縁層122は、例えば、ゲート絶縁膜であり、酸化シリコンを含む。但し、絶縁層122は設けられなくてもよい。
【0068】
例えば、記憶装置202は、ワード線WL1、第1のビット線BL1、第2のビット線BL2をさらに含む。導電層14は、ワード線WL1と電気的に接続され、第1領域11sは、ビット線BL1と電気的に接続され、第2領域11dは、ビット線BL2と電気的に接続される。
【0069】
書き込み時にはワード線WL1を用いて導電層14と半導体層11との間に電圧を印加する。これにより、絶縁膜100に電圧を印加して分極方向を変化させる。分極方向の変化に応じて、トランジスタのフラットバンド電圧Vfbが変化する。すなわちトランジスタの閾値が変化する。読み出し時には、ワード線WL1を用いてメモリセルを選択し、第1領域11sと第2領域11dとの間に流れる電流によって、書き込まれた情報を読み取る。
【0070】
実施形態に係る絶縁膜100においては、前述したように自発分極Psが大きい。このため、分極方向が変化したときのフラットバンド電圧Vfbの変化(ΔVfb)が大きい。したがって、トランジスタの閾値の変化を大きくすることができる。
【0071】
記憶素子10Dと同様の構造を有するトランジスタにおいて、絶縁膜100の代わりに他の絶縁膜を用いた場合のΔVfb(V)の値を、図3の右縦軸に示す。実施形態に係る絶縁膜を用いた場合には、2V以上の大きなΔVfbが得られると見積もられた。これにより、例えば、動作の安定性が向上する。
【0072】
図10(a)及び図10(b)は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を例示する模式図である。
図10(a)は、記憶装置203を例示する模式的平面図である。図10(a)に示すように、記憶装置203は、複数の第1配線31と、複数の第2配線32と、記憶素子10Eと、制御部60と、を含む。
【0073】
複数の第1配線31のそれぞれは、Y2方向に延在し、Y2方向と交差するX2方向において互いに離間する。複数の第2配線32のそれぞれは、X2方向に延在し、Y2方向において互いに離間する。
【0074】
第1配線31のそれぞれと第2配線32のそれぞれとの間に記憶素子10Eが設けられる。記憶装置203は、例えばクロスポイント型の不揮発性記憶装置である。第1配線31は、ワード線及びビット線の一方に相当する。第2配線32は、ワード線及びビット線の他方に相当する。
【0075】
図10(b)は、図10(a)に示した記憶素子10Eを例示する模式的断面図である。図10(b)に示すように、記憶素子10Eは、導電層12と、絶縁層123と、絶縁膜100と、導電層14と、を含む。記憶素子10Eは、例えばFTJ(Ferroelectric tunnel junction)素子である。
【0076】
絶縁膜100は、導電層12と導電層14との間に設けられる。絶縁層123は、絶縁膜100と導電層12との間に設けられる。導電層14は、第1配線31と電気的に接続される。導電層12は、第2配線32と電気的に接続される。
【0077】
絶縁層123の厚さ(導電層12から導電層14へ向かう方向に沿った長さ)は、例えば0.1nm以上2.0nm以下である。絶縁層123には、酸化シリコンなどの絶縁体が用いられる。絶縁層123の厚さが薄いため、絶縁層123は、例えばトンネル絶縁膜として機能する。絶縁層123は、例えば整流層である。絶縁層123は、例えば保護膜層である。絶縁123は、例えばゲート絶縁膜である。
【0078】
第1配線31の端部及び第2配線32の端部は、図10(a)に示す制御部60に接続されている。制御部60は、第1配線31と第2配線32との間の電圧を制御する。これにより、導電層12及び導電層14を介して、絶縁膜100及び絶縁層123に電圧が印加される。
【0079】
書き込み時には、絶縁膜100に電圧を印加することで、絶縁膜100の分極方向を変化させる。絶縁膜100中のポテンシャルバリアは、分極方向によって変化する。このため、分極方向に応じて絶縁膜100の抵抗が変化する。読み出し時には、導電層12と導電層14との間に流れる電流によって書き込まれた情報を読み取る。
【0080】
自発分極が大きい絶縁膜100を用いることで、分極方向の変化に応じた抵抗の変化を大きくすることができる。記憶装置203においても、例えば動作の安定性が向上する。
【0081】
図11は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を例示する模式的斜視図である。
図11に示した記憶装置204は、例えば不揮発性の3次元メモリアレイである。
なお、図11においては、図を見易くするために、電極層間の絶縁層などの図示については省略している。
【0082】
図11に示すように、実施形態の記憶装置204は、半導体層11(基板)と、積層体15と、電極膜SGDと、電極膜SGSと、複数の柱状部CLと、第1配線層Laと、第2配線層Lbとを含む。第1配線層Laは、例えば上層配線層である。図11では、第1配線層Laは、ビット線BLとソース層SLとを含む。
【0083】
半導体層11(基板)の主面に垂直な方向をZ3方向とする。Z3方向に対して垂直な方向をX3方向とする。X3方向に対して垂直であり、Z3方向に対して垂直な方向をY3方向とする。
【0084】
第1配線層Laは、半導体層11(基板)とZ3方向において離間する。
積層体15は、第1配線層Laと半導体層11との間に設けられる。積層体15は、複数の電極層WLと、複数の絶縁部40とを含む。複数の電極層WLのそれぞれは、Z3方向において互いに離間する。複数の電極層WLの間には、複数の絶縁部40が配置されている。なお、図に示す電極層WLの積層数は一例であって、電極層WLの積層数は任意である。
【0085】
電極層WLは、金属を含む。電極層WLは、例えばタングステン、モリブデン、窒化チタンおよび窒化タングステンの少なくともいずれかを含む。電極層WLは、シリコンまたは金属シリサイドを含んでいてもよい。
【0086】
電極膜SGDは、第1配線層Laと積層体15との間に設けられる。電極膜SGDは、例えば、ドレイン側選択トランジスタSTDのゲート電極である。電極膜SGSは、半導体層11と積層体15との間に設けられる。電極膜SGSは、例えば、ソース側選択トランジスタSTSのゲート電極である。電極膜SGS及び電極膜SGDには、例えば電極層WLと同じ材料が用いられる。
【0087】
柱状部CLは、半導体層11と第1配線層Laとの間に設けられる。柱状部CLは、Z3方向に延在する。柱状部CLは、内部にZ3方向に延在する半導体膜20(図2を参照)を含む。柱状部CL(半導体膜20)の一端は、半導体層11と電気的に接続されている。柱状部CL(半導体膜20)の他端は、第1配線層Laのビット配線BLと電気的に接続されている。
【0088】
複数の柱状部CLは、X3−Y3平面に並べられている。各柱状部CLの少なくとも一部は、積層体15内に配置されている。換言すると、積層体15は、X3−Y3平面内において、各柱状部CLと並び、各柱状部CLの周囲を囲む。電極膜SGS及び電極膜SGDも、X3−Y3平面内において各柱状部CLと並び、各柱状部CLの周囲を囲む。
【0089】
第2配線層Lbは、第1配線層Laと半導体層11との間に設けられる。第2配線層Lbは、X3方向及びZ3方向に延在した形状を有する。図11の例では、複数の第2配線層Lbが、Y軸方向において積層体15と並べられている。各第2配線層Lbは、積層体15に挟まれている。
【0090】
第2配線層Lbの一端(下端)は、半導体層11と電気的に接続されている。第2配線層Lbは、柱状部CLと離間する。第2配線層Lbは、半導体層11を介して、柱状部CL(柱状部CL内の半導体膜20)と電気的に接続されている。第2配線層Lbの他端(上端)は、図示しないコンタクト部を介して、ソース層SLに電気的に接続されている。
【0091】
第1配線層Laは、複数のビット線BL(例えば金属膜)を含む。複数のビット線BLは、X3方向において互いに離間している。各ビット線BLは、Y3方向に延びている。
【0092】
柱状部CL(半導体膜20)には、Z3方向に電流を流すことが可能である。そして、1つの電極層WLと1つの柱状部CLとは、1つのメモリセルMC(図2参照)として機能する。電極層WLは、メモリセルMCにおいて、コントロールゲートとして機能する。つまり、ドレイン側選択トランジスタSTDと、ソース側選択トランジスタSTSと、の間には、各層の電極層WLをコントロールゲートとする複数のメモリセルMCが配置されている。
【0093】
複数のメモリセルMC、ドレイン側選択トランジスタSTDおよびソース側選択トランジスタSTSは、柱状部CLの半導体膜20を通じて直列に接続され、1つのメモリストリングを構成する。複数のメモリストリングが、X3−Y3平面内に配置されることにより、複数のメモリセルMCがX3方向、Y3方向およびZ3方向に3次元的に配置されている。
【0094】
図12は、実施形態に係る絶縁膜を用いた記憶装置を例示する模式的断面図である。
図12では、柱状部CL及び電極層WLの断面の一部を拡大して例示している。
柱状部CLは、コア絶縁層50と、半導体膜20と、絶縁膜100とを含む。絶縁膜100は、図1等に関して説明した絶縁膜100と同様である。半導体膜20は、例えばシリコンを主成分とする膜である。コア絶縁層50は、例えば酸化シリコンを含む。なお、コア絶縁層50は設けられなくてもよい。
【0095】
絶縁膜100は、半導体膜20と電極層WLとの間に設けられる。半導体膜20と絶縁膜100と電極層WLとによってメモリセルMCが形成される。なお、電極層WLと絶縁膜100との間、または、絶縁膜100と半導体膜20との間に、さらに別の膜(絶縁膜等)を設けてもよい。
【0096】
メモリセルMCは、例えば、コントロールゲートである電極層WLと、チャネルである半導体膜20と、を含む縦型トランジスタの構造を有する。絶縁膜100は、データ記憶層として機能する。すなわち、絶縁膜100の分極方向を変化させることで、メモリセルMCに対して書き込みを実施することができる。分極方向の変化に応じて、チャネル(半導体膜20)に流れる電流が変化する。この電流を検出することで、書き込まれた情報を読み取ることができる。
【0097】
実施形態によれば、分極の大きい絶縁膜及び記憶装置が提供できる。
【0098】
なお、本願明細書において、「電気的に接続」には、直接接触して接続される場合の他に、他の導電性部材などを介して接続される場合も含む。
【0099】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、絶縁膜、絶縁層、導電層、などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0100】
その他、本発明の実施の形態として上述した絶縁膜及び記憶装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての絶縁膜及び記憶装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0101】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
10…キャパシタ、 10A〜10E…記憶素子、 11…半導体層、 11c…第3領域、 11d…第2領域、 11s…第1領域、 12…導電層、 14…導電層、 15…積層体、 20…半導体膜、 31…第1配線、 32…第2配線、 40…絶縁部、 50…コア絶縁層、 60…制御部、 100〜103絶縁膜、 121〜123…絶縁層、 190〜193…絶縁膜、 201〜204…記憶装置、 BL、BL1、BL2…ビット線、 CL…柱状部、 D1…酸素欠損、 Dr…ドレイン電極、 Ec…生成エネルギー、 Ga…ゲート電極、 L1…配線、 La…第1配線層、 Lb…第2配線層、 MC…メモリセル、 O1、O2…サイト、 Ps…自発分極、 Ri…イオン半径、 Sp1、Sp2…スペクトル、 SGD、SGS…電極膜、 SL…ソース層、 STD…ドレイン側選択トランジスタ、 STS…ソース側選択トランジスタ、 So…ソース電極、 Tr…トランジスタ、 Vc…結晶体積、 Vfb…フラットバンド電圧、 WL…電極層、 WL1…ワード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12