(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バルブシート(35a)及び前記シート面(35b)の両方が、対向する前記バルブシート(35a)又は前記シート面(35b)側に向かうように凸状に形成された請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費向上と二酸化炭素排出量の削減を図るため、停車時にエンジンを停止状態とし、ブレーキの解除又はアクセルペダルの踏み込みと同時にエンジンを再始動するインテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ(以下において、ISGと略称する。)のアイドルストップ機構が搭載されたエンジンが提案されている。
【0003】
図5に、通常運転時における補機50の駆動と、エンジン停止状態からの再始動とを両立するISG51のアイドルストップ機構を備えたエンジンEのベルト伝動装置を示す。このベルト伝動装置においては、エンジンEのクランクシャフト52に設けられたクランクプーリP
1と、ISG51の回転軸に設けられたISGプーリP
2と、ウォータポンプ等の補機50の回転軸に設けられた補機プーリP
3との間に補機駆動ベルト53を掛け渡し、この補機駆動ベルト53に油圧式オートテンショナA(以下において、適宜、単にテンショナという。)に設けられたテンションプーリ54を押し付けて、ベルト張力の調節を行う。
【0004】
エンジンの通常運転時においては、クランクプーリP
1を矢印の方向に回転してISGプーリP
2及び補機プーリP
3を駆動し、ISG51をジェネレータとして機能させる(
図5(a)参照)。その一方で、エンジンEの再始動時においては、ISGプーリP
2を矢印の方向に回転してクランクプーリP
1を駆動し、ISG51をスタータとして機能させる(
図5(b)参照)。
【0005】
このベルト伝動装置においては、テンションプーリ54は、補機駆動ベルト53に緩みが生じやすい、クランクプーリP
1のベルト進行方向側(クランクプーリP
1とISGプーリP
2との間の符号53aを付した部分)に設けられる。このテンションプーリ54は、プーリアーム55によって回転自在に支持されている。このプーリアーム55は、テンショナAによって揺動自在となっており、このテンショナAの付勢力によって、テンションプーリ54を介して補機駆動ベルト53に張力が付与される。これにより、ベルト伝動装置の駆動時における補機駆動ベルト53の張力変化が吸収される。
【0006】
テンショナとして、例えば、特許文献1に示す構成のものがある(本文献の
図1参照)。このテンショナは、内底面に閉塞端が形成されたシリンダを有する。この内底面にはスリーブ嵌合孔が形成され、このスリーブ嵌合孔からスリーブが立設されている。スリーブにはロッドの下部が摺動自在に挿通され、このスリーブとロッドの下端部との間で圧力室が形成されている。ロッドの上端部には、ばね座が固定されており、このばね座とシリンダの内底面との間に介在して、シリンダとロッドを互いに伸長する方向に付勢するリターンスプリングが設けられている。
【0007】
ばね座の上端には、プーリアームと連結される連結片が設けられている。また、ばね座には、リターンスプリングの上部を覆うスプリングカバーと、シリンダの上部外周を覆うダストカバーとが同軸に設けられている。スプリングカバーは、筒体によってその外周が覆われている。シリンダの上端開口部内には、シール部材としてのオイルシールが取り付けられ、このオイルシールの内周が筒体の外周面に弾性接触して、シリンダの上部開口を閉塞し、シリンダの内部に充填された作動油が外部に漏洩するのを防止している。
【0008】
このようにオイルシールを取り付けることによって、シリンダとスリーブとの間に、密閉されたリザーバ室が形成される。リザーバ室と圧力室との間は、通路で連通している。この通路の圧力室側の端部には、チェックバルブが設けられている。このチェックバルブは、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力よりも高くなったときに、通路を閉じるようになっている。
【0009】
補機駆動ベルトの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力によってシリンダとロッドが互いに伸長する方向に相対移動し、プーリを介して補機駆動ベルトに張力が付与される。このように、シリンダとロッドが伸長する場合、圧力室内の圧力がリザーバ室内の圧力よりも小さくなるため、チェックバルブが通路を開放し、この通路を通ってリザーバ室内の作動油が圧力室内に流入する。
【0010】
その一方で、補機駆動ベルトの張力が大きくなると、リターンスプリングの付勢力に抗してロッドがシリンダ内に押し込まれる方向に相対移動し、補機駆動ベルトの張力が軽減される。このように、ロッドがシリンダに押し込まれる場合、圧力室内の圧力がリザーバ室内の圧力よりも大きくなるため、チェックバルブが通路を閉じる。このとき、圧力室内の作動油は、スリーブの内径面とロッドの外径面との間に形成された微小隙間を通ってリザーバ室に流入する。作動油が微小隙間を流れるときの流動抵抗によってダンパ力(油圧減衰力)が発揮され、このダンパ力によって、テンショナに負荷される押し込み力が緩衝されつつ、この押し込み力とリターンスプリングの付勢力が釣り合う位置まで、ロッドがシリンダに押し込まれる。このテンショナのダンパ力は、前記微小隙間の大きさによって決まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図5に示したように、テンションプーリ54は、駆動源であるクランクプーリP
1のベルト進行方向側(クランクプーリP
1とISGプーリP
2との間)に設けられており、通常運転時における補機駆動ベルト53の緩みを適切に解消することができる。ところが、ISG51のアイドルストップ機構を備えたエンジンEにおいては、ISG再始動時において、テンションプーリ54の取り付け位置が駆動源であるISGプーリP
2のベルト進行方向の反対側となり、補機駆動ベルト53に高い張力が生じやすい。
【0013】
この高い張力が、テンションプーリ54を介してテンショナAに作用すると、このテンショナAが過度に押し込まれた状態となる。すると、補機駆動ベルト53に緩みが生じ、補機駆動ベルト53と各プーリP
1、P
2、P
3間で滑りが生じ、補機駆動ベルト53の寿命が低下したり、ISG再始動不良が生じたりする虞がある。ISG再始動時における補機駆動ベルト53の緩みをなくすために、テンショナAのダンパ力を大きくすると、通常走行時において補機駆動ベルト53が過張力状態となり、各プーリP
1、P
2、P
3を回転自在に支持する軸受が損傷しやすくなるとともに、クランクシャフト52の回転抵抗となって燃費が低下する問題が生じ、共通のテンショナAで、通常走行時とISG始動時のいずれにおいても補機駆動ベルト53のベルト張力を適切に調節するのは困難であると考えられている。
【0014】
そこで、この発明は、補機駆動ベルトのベルト張力を、通常運転時及びISGによるエンジン再始動時のいずれにおいても常時適切な大きさに調節することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、この発明においては、底部に閉塞端を有し、内部に作動油が充填されたシリンダと、前記シリンダの底部から立設された筒状のバルブスリーブと、前記バルブスリーブに、その軸方向に摺動自在に挿通された筒状のプランジャと、前記プランジャに、その軸方向に摺動自在に挿通されたロッドと、前記バルブスリーブと前記ロッドを互いに逆向きに付勢するリターンスプリングと、前記ロッドと前記プランジャを互いに逆向きに付勢するバルブスプリングと、前記バルブスリーブと前記プランジャ及び前記ロッドとの間に形成される圧力室と、前記シリンダと前記バルブスリーブとの間に形成されるリザーバ室と、前記圧力室と前記リザーバ室とを連通する油通路に設けられ、前記圧力室内の作動油の圧力が前記リザーバ室内の作動油の圧力よりも高いときに前記油通路を閉じる第一チェックバルブと、前記ロッドと前記プランジャとの間に形成される第一狭窄路と、前記バルブスリーブと前記プランジャとの間に形成され、前記第一狭窄路よりも流動抵抗が大きい第二狭窄路と、前記圧力室内の作動油の圧力の上昇に伴って、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記第一狭窄路を閉じる、前記ロッド側に形成されたバルブシートと、このバルブシートに対向するように前記プランジャ側に形成されたシート面によって構成される第二チェックバルブと、を備え、前記バルブシート又は前記シート面の少なくとも一方が、対向する前記バルブシート又は前記シート面側に向かうように凸状に形成された油圧式オートテンショナを構成した。
【0016】
この構成によると、補機駆動ベルトのベルト張力を、通常運転時及びISGによるエンジン再始動時のいずれにおいても常時適切な大きさに調節することができる。
【0017】
すなわち、通常運転時においては、補機駆動ベルトの張力が、テンションプーリを介してテンショナに作用すると、作用した押し込み力によって、圧力室内の作動油の圧力がリザーバ室内の作動油の圧力よりも高くなる。すると、第一チェックバルブが閉じて、圧力室内の作動油は第一狭窄路を通ってリザーバ室に流入する。この作動油が第一狭窄路を流れる際の流動抵抗により、圧力室内にダンパ力が発生し、このダンパ力によって前記押し込み力が緩衝され、補機駆動ベルトは適正張力に保持される。
【0018】
その一方で、ISGによるエンジン再始動時においては、上述したように、テンションプーリが駆動源であるISGプーリのベルト進行方向の反対側に配置されているため、通常運転時と比較して、補機駆動ベルトの張力が急激に上昇する。すると、通常運転時と同様に第一チェックバルブが閉じるのとともに、プランジャが、圧力室内の作動油の圧力によって、バルブスプリングの付勢力に抗して上昇し、第二チェックバルブによって第一狭窄路が閉じた状態となる。この第一狭窄路が閉じると、圧力室内の作動油は第二狭窄路を通ってリザーバ室に流入する。第二狭窄路の流動抵抗は、第一狭窄路の流動抵抗よりも大きいため、圧力室内の圧力低下は小さく、圧力室でのダンパ作用によりロッドの押し込みが抑制される。その結果、クランクシャフトを駆動するのに必要な補機駆動ベルトの張力が確保され、ベルトと各プーリ間のスリップが防止される。
【0019】
しかも、第二チェックバルブを構成するバルブシート又はシート面の少なくとも一方を凸状に形成したことにより、このバルブシートとシート面が面接触した場合と比較して接触面積が小さくなり、大きな接触圧を確保することができる。このため、この第二チェックバルブ(第一狭窄路)からの作動油の漏れを防止することができ、ISGによるエンジン再始動不良を一層確実に防止することができる。
【0020】
前記構成においては、前記バルブシート及び前記シート面の両方が、対向する前記バルブシート又は前記シート面側に向かうように凸状に形成された構成とするのが好ましい。このように、バルブシート及びシート面の両方を凸状に形成することにより、第二チェックバルブによって第一狭窄路を閉じたときのバルブシートとシート面との間の接触圧が一層高まり、この第二チェックバルブ(第一狭窄路)からの作動油の漏れを確実に防止することができる。
【0021】
前記各構成においては、前記ロッドの上部に形成された大径軸部の下端側に前記バルブシートが、前記プランジャの上端側に前記シート面がそれぞれ形成された構成とするのが好ましい。ロッドはプランジャに挿通された状態で軸方向に摺動しており、このロッドとプランジャとの間で常に同軸状態が保たれている。このように、ロッドとプランジャにバルブシート及びシート面を形成することにより、このバルブシートとシート面を安定的に当接させることができ、第二チェックバルブ(第一狭窄路)からの作動油の漏れを一層確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明においては、底部に閉塞端を有し、内部に作動油が充填されたシリンダと、前記シリンダの底部から立設された筒状のバルブスリーブと、前記バルブスリーブに、その軸方向に摺動自在に挿通された筒状のプランジャと、前記プランジャに、その軸方向に摺動自在に挿通されたロッドと、前記バルブスリーブと前記ロッドを互いに逆向きに付勢するリターンスプリングと、前記ロッドと前記プランジャを互いに逆向きに付勢するバルブスプリングと、前記バルブスリーブと前記プランジャ及び前記ロッドとの間に形成される圧力室と、前記シリンダと前記バルブスリーブとの間に形成されるリザーバ室と、前記圧力室と前記リザーバ室とを連通する油通路に設けられ、前記圧力室内の作動油の圧力が前記リザーバ室内の作動油の圧力よりも高いときに前記油通路を閉じる第一チェックバルブと、前記ロッドと前記プランジャとの間に形成される第一狭窄路と、前記バルブスリーブと前記プランジャとの間に形成され、前記第一狭窄路よりも流動抵抗が大きい第二狭窄路と、前記圧力室内の作動油の圧力の上昇に伴って、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記第一狭窄路を閉じる、前記ロッド側に形成されたバルブシートと、このバルブシートに対向するように前記プランジャ側に形成されたシート面によって構成される第二チェックバルブと、を備え、前記バルブシート又は前記シート面の少なくとも一方が、対向する前記バルブシート又は前記シート面側に向かうように凸状に形成された油圧式オートテンショナを構成した。
【0023】
このようにテンショナを構成することにより、補機駆動ベルトの張力を、通常運転時及びISGによるエンジン再始動時のいずれにおいても常時適切な大きさに調節することができ、通常走行時におけるプーリを回転自在に支持する軸受の耐久性と燃費の向上を図ることができるとともに、エンジン再始動時における、確実な再始動性を確保することができる。しかも、ロッドをプランジャに挿通するとともに、ロッドに形成したバルブシート又はプランジャに形成したシート面の少なくとも一方を凸状に形成したことにより、このバルブシートとシート面との間の大きな接触圧を確保することができ、この第二チェックバルブを確実に閉弁することができる。このため、補機駆動ベルトの十分な張力を確保して、ISGによるエンジン再始動不良を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係る油圧式オートテンショナ(以下において、適宜、単にテンショナという。)の一実施形態を
図1に示す。
図1に示すように、シリンダ10は底部に閉塞端を有し、その底部の下面側にプーリアーム55(
図5参照)に連結される連結片11が設けられている。連結片11には、一側面から他側面に貫通する軸挿入孔11aが形成されている。この軸挿入孔11a内には、筒状の支点軸11bと、その支点軸11bを回転自在に支持する滑り軸受11cとが組み込まれている。プーリアーム55は、支点軸11bに挿通されたボルト(図示せず)によって、連結片11に対し揺動自在に取り付けられる。
【0026】
シリンダ10の底部には、バルブスリーブ嵌合孔12が形成され、そのバルブスリーブ嵌合孔12に、鋼製のバルブスリーブ13が立設されている。バルブスリーブ13には、このバルブスリーブ13と軸方向に摺動自在に、筒状のプランジャ14が挿通されている。このプランジャ14は、バルブスリーブ13の内周上部に形成された小径内径面13aに沿って摺動する。プランジャ14の上端部には径方向外向きのフランジ14aが、外周下部には下側ほど外径が大径となるテーパ溝14bがそれぞれ形成されている。フランジ14aの上面内径側は、後述する第二チェックバルブ35のシート面35bとなっている。このシート面35bは、第二チェックバルブ35の後述するバルブシート35aに向かうように、凸状に形成されている。
【0027】
プランジャ14の外周下部に形成されたテーパ溝14bには、周方向の一部に切れ目が形成された抜け止めリング15が設けられている。この抜け止めリング15は、自然状態での外径がプランジャ14の外径より大きい。
【0028】
プランジャ14には、このプランジャ14と軸方向に摺動自在にロッド16が挿通されている。このロッド16の上部側は、プランジャ14への挿通部分よりも大径の大径軸部16aであり、この大径軸部16aの下端部が、第二チェックバルブ35のバルブシート35aとなっている。このバルブシート35aは、プランジャ14に形成されたシート面35bに向かうように、凸状に形成されている。
【0029】
ロッド16の外周下部には、リング溝16bが形成されている。このリング溝16bには、周方向の一部に切れ目が形成された抜け止めリング17が設けられている。この抜止めリング17は、自然状態での外径がロッド16の外径より大きい。
【0030】
ロッド16のシリンダ10の外部に位置する上端部には、ばね座18が設けられている。そのばね座18とシリンダ10の内底面間には、バルブスリーブ13(シリンダ10)とロッド16(ばね座18)を互いに逆向きに付勢するリターンスプリング19が組み込まれている。
【0031】
ばね座18の上端には、エンジンE(
図5参照)に連結される連結片20が設けられている。連結片20には、一側面から他側面に貫通するスリーブ挿入孔20aが形成されている。このスリーブ挿入孔20a内には、スリーブ20bと、そのスリーブ20bを回転自在に支持する滑り軸受20cとが組み込まれている。連結片20は、スリーブ20bに挿通されたボルト(図示せず)によって、エンジンEに対し揺動自在に取り付けられる。
【0032】
ばね座18は成形品からなり、その成形時にシリンダ10の上部外周を覆う筒状のダストカバー21と、リターンスプリング19の上部を覆う筒状のスプリングカバー22とが一体的に成形される。このばね座18として、アルミのダイキャスト成形品や、熱硬化性樹脂等の樹脂の成形品を採用することができる。スプリングカバー22は、ばね座18の成形時にインサート成形される筒体23によって外周の全体が覆われている。この筒体23として、鋼板のプレス成形品を採用することができる。
【0033】
プランジャ14に形成されたフランジ14aとばね座18の対向面間には、バルブスプリング24が組み込まれている。バルブスプリング24は、プランジャ14をロッド16に対して下向きに付勢している。ロッド16に設けられた抜け止めリング17は、ロッド16の下端部に形成されたリング溝16b、及び、プランジャ14の下端部と係合可能となっていて、ロッド16からのプランジャ14の抜け止め作用が発揮される。
【0034】
バルブスリーブ13とプランジャ14及びロッド16の下端部との間には、圧力室25が形成される。この圧力室25の容量は、オートテンショナを伸縮して、プランジャ14又はロッド16の少なくとも一方がバルブスリーブ13に対して軸方向に相対移動することによって変化する。
【0035】
シリンダ10の上側開口部内には、シール部材26としてのオイルシール(以下において、シール部材26と同じ符号を付する。)が組込まれている。そのオイルシール26の内周が、筒体23の外周面に弾性接触してシリンダ10の上側開口を閉塞し、シリンダ10の内部に充填された作動油の外部への漏洩を防止し、かつ、ダストの内部への侵入を防止している。
【0036】
このオイルシール26の組み込みにより、シリンダ10とバルブスリーブ13との間に密閉されたリザーバ室27が形成される。リザーバ室27と圧力室25は、バルブスリーブ嵌合孔12とバルブスリーブ13の嵌合面間に形成された油通路28、及び、バルブスリーブ嵌合孔12の底面中央部に形成された円形凹部からなる油溜り29を介して連通している。
【0037】
バルブスリーブ13の下端部には第一チェックバルブ30が組み込まれている。第一チェックバルブ30は、バルブスリーブ13の下端部内に圧入されたバルブシート30aの弁孔30bを圧力室25側から開閉する鋼製のチェックボール30cと、そのチェックボール30cを弁孔30bに向けて付勢するスプリング30dと、チェックボール30cの開閉量を規制するリテーナ30eとから構成される。圧力室25内の作動油の圧力が、リザーバ室27内の作動油の圧力より高くなると、チェックボール30cが弁孔30bを閉じ、圧力室25と油通路28の連通を遮断して、圧力室25内の作動油が油通路28を通ってリザーバ室27に流れるのを防止する。
【0038】
ロッド16とプランジャ14の摺動面間には、円筒状の第一狭窄路31が形成されている。また、プランジャ14とバルブスリーブ13の摺動面間には、円筒状の第二狭窄路32が形成されている。第二狭窄路32の隙間量は第一狭窄路31の隙間量より小さく、その隙間量の相違から、第二狭窄路32の流動抵抗の方が、第一狭窄路31の流動抵抗より大きくなっている。第一狭窄路31又は第二狭窄路32を通って、作動油が圧力室25からリザーバ室27に流動する際の流動抵抗によってダンパ作用が発揮される。ロッド16に設けられた抜け止めリング17には、その周方向の一部に切れ目が形成されており、この切れ目によって、第一狭窄路31とリザーバ室27が連通した状態となっている。
【0039】
第一狭窄路31の隙間量は、
図5(a)に示すエンジンEの通常運転時において、補機駆動ベルト53の張力変動を吸収可能なダンパ力が発揮されるように設定される。その一方で、第二狭窄路32の隙間量は、
図5(b)に示すISG51によるエンジンEの再始動時に、バルブスリーブ13にロッド16が急激に押し込まれるのを防止可能なダンパ力が発揮されるように設定される。
【0040】
ロッド16とプランジャ14の間には、エンジン再始動時に伴う圧力上昇時に、第一狭窄路31を閉塞する第二チェックバルブ35が構成される。ロッド16の大径軸部16aの下端側がバルブシート35aとして、プランジャ14のフランジ14aの上面内径側がシート面35bとしてそれぞれ機能する。圧力室25内の圧力によって、プランジャ14がバルブスプリング24の付勢力に抗して上昇すると、バルブシート35aにシート面35bが着座する。これにより、第一狭窄路31が閉じられた状態となる。バルブシート35aは曲率rを有する曲面からなる凸形状であり、その曲率rは、ロッド小径部の半径(r1)よりも大きく、その10倍よりも小さいことが好ましい。具体的には曲率r=5.3〜53の範囲となることが好ましい。さらに好ましくは、バルブシート35aは、対向するプランジャ14のシート面35bのプランジャ軸線に対する角度が30°以上となる組み合わせが望ましい。
【0041】
図2(a)に示すように、バルブシート35aの表面は、対向するシート面35bに向かうように、凸状に形成されている。また、シート面35bの表面は、対向するバルブシート35aに向かうように、凸状に形成されている。このように、バルブシート35a及びシート面35bの表面を凸状とすることにより、
図2(b)に示すように、バルブシート35a及びシート面35bを当接させた際に、接触面積を極力小さくすることができ、大きな接触圧を確保することができる。このため、第二チェックバルブ35(第一狭窄路31)からの作動油の漏れを防止することができ、ISGによるエンジン再始動不良を確実に防止することができる。シート面35bは、曲率rを有する曲面からなる凸形状であり、その曲率rは、バルブシート35aの曲率rと同程度か若しくは大きいことが好ましい。
【0042】
バルブシート35a及びシート面35bの両方を凸状とする代わりに、
図2(c)に示すように、バルブシート35aの表面を凸状とし、シート面35bの表面を平面とすることもできる。この場合においても、
図2(d)に示すように、バルブシート35a及びシート面35bを当接させた際に、接触面積を極力小さくすることができ、大きな接触圧を確保することができるためである。図示はしないが、バルブシート35aの表面を平面に、シート面35bの表面を凸状とすることもできる。
【0043】
プランジャ14にバルブスリーブ13からの引き抜き力が作用すると、プランジャ14に設けた抜け止めリング15が、バルブスリーブ13の小径内径面13aの下端の段差部13bに当接する。この当接によって、バルブスリーブ13の上端からプランジャ14が抜けるのを防止することができる。
【0044】
図5に示すベルト伝動装置においては、テンションプーリ54は、補機駆動ベルト53に緩みが生じやすい、クランクプーリP
1のベルト進行方向側(クランクプーリP
1とISGプーリP
2との間)に設けられる。このテンションプーリ54を揺動自在に支持するプーリアーム55は、テンショナのシリンダ10の底部側の連結片11に、エンジンEは、このテンショナのばね座18の上端側の連結片20にそれぞれ取り付けられる。
【0045】
図1に示すテンショナの作用について説明する。エンジンEの運転時において、補機50の負荷変動等によって補機駆動ベルト53の張力が小さくなると、リターンスプリング19の付勢力によって、シリンダ10(バルブスリーブ13)とばね座18(ロッド16)が互いに逆向きに付勢される。このとき、ロッド16がバルブスリーブ13から抜ける方向に相対移動し、圧力室25の体積が拡大する。その結果、リザーバ室27内の作動油の圧力よりも圧力室25内の作動油の圧力の方が低くなる。このため、第一チェックバルブ30が開いた状態となって、油通路28及び油溜り29を通ってリザーバ室27から圧力室25に作動油がスムーズに流れ、テンショナの全長が伸長して、補機駆動ベルト53の緩みが直ちに吸収される。
【0046】
その一方で、補機駆動ベルト53の張力が高くなると、補機駆動ベルト53からテンショナの全長を短縮する押し込み力が作用し、バルブスリーブ13内にロッド16が押し込まれる。このとき、圧力室25の体積が減少し、リザーバ室27内の作動油の圧力よりも圧力室25内の作動油の圧力の方が高くなるため、第一チェックバルブ30のチェックボール30cが弁孔30bを閉鎖する。
【0047】
通常運転時においては、補機駆動ベルト53の張力上昇がそれほど急激ではなく、圧力室25内の作動油の圧力上昇はそれほど大きくないため、
図3(a)に示すように、バルブスプリング24の付勢力によって第二チェックバルブ35は開いたままの状態となる。このため、圧力室25内の作動油が、第一狭窄路31を通ってリザーバ室27に流れ(
図3(a)中の矢印f1参照)、この第一狭窄路31を通る際の流動抵抗によって、圧力室25にダンパ力が発生する。このダンパ力によって前記押し込み力が緩衝され、補機駆動ベルト53は適正張力に保持される。
【0048】
その一方で、エンジン再始動時においては、通常運転時と比較して補機駆動ベルト53の張力上昇が急激に生じ、圧力室25内の作動油の圧力が急激に上昇する。この急激な圧力上昇に伴って、プランジャ14がバルブスプリング24の付勢力に抗して上昇する。そして、
図3(b)に示すように、バルブシート35aにシート面35bが着座して、第二チェックバルブ35が閉じた状態となる。第二チェックバルブ35が閉じられると、圧力室25内の作動油は、第二狭窄路32を通ってリザーバ室27に流れる(
図3(b)中の矢印f2参照)。
【0049】
上述したように、第二狭窄路32の流動抵抗は、第一狭窄路31の流動抵抗よりも大きいため、圧力室25内の作動油は、第一狭窄路31を流れる場合と比較して、第二狭窄路32をゆっくりと流れる。このため、圧力室25の急激な圧力低下が生じず、エンジンEの再始動時におけるベルト張力を維持するための十分なダンパ作用が発揮され、補機駆動ベルト53とプーリP
1からP
3との間のスリップを防止することができる。
【0050】
この実施形態によると、エンジンEの通常運転時に、圧力室25内の作動油を流動抵抗の小さな第一狭窄路31からリザーバ室27に流し、エンジンEの再始動時に、圧力室25内の作動油を流動抵抗の大きな第二狭窄路32からリザーバ室27に流すことができるので、エンジンEの通常運転時及び再始動時のそれぞれにおいて、補機駆動ベルト53に適正な張力を付与することができる。しかも、バルブシート35aの表面を対向するシート面35bに向かう凸状に形成するとともに、シート面35bの表面を対向するバルブシート35aに向かう凸状に形成したことにより、このバルブシート35aとシート面35bを当接させた際に高い当接圧を確保することができ、第二チェックバルブ35(第一狭窄路31)からの作動油の漏れを確実に防止することができる。
【0051】
しかも、ロッド16をプランジャ14に挿通しているので、このロッド16とプランジャ14の寸法誤差が大きい場合や、オートテンショナにモーメント荷重が作用した場合においても、ロッド16とプランジャ14との間の同軸を確保することができ、この第二チェックバルブ35を確実に閉弁することができる。このため、補機駆動ベルト53の十分な張力を確保して、ISG51によるエンジン再始動不良を確実に防止することができる。
【0052】
図4に、この実施形態に係るテンショナ(以下「実施品」という。)の反力特性と、従来のテンショナ(以下「従来品」という。)の反力特性の比較を示す。
【0053】
実施品としては、上記実施形態で説明したテンショナを使用した。このテンショナは、
図1等に示すように、底部に閉塞端を有する筒状のシリンダ10と、シリンダ10の底部から立設されたバルブスリーブ13と、バルブスリーブ13に、その軸方向に摺動自在に挿通された筒状のプランジャ14と、プランジャ14に、その軸方向に摺動自在に挿通されたロッド16と、バルブスリーブ13とロッド16を互いに逆向きに付勢するリターンスプリング19と、ロッド16とプランジャ14を互いに逆向きに付勢するバルブスプリング24と、バルブスリーブ13とプランジャ14及びロッド16との間に形成される圧力室25と、シリンダ10とバルブスリーブ13との間に形成されるリザーバ室27と、圧力室25とリザーバ室27とを連通する油通路28に設けられ、圧力室25内の作動油の圧力がリザーバ室27内の作動油の圧力よりも高いときに油通路28を閉じる第一チェックバルブ30と、ロッド16とプランジャ14との間に形成される第一狭窄路31と、バルブスリーブ13とプランジャ14との間に形成され、第一狭窄路31よりも流動抵抗が大きい第二狭窄路32と、圧力室25内の作動油の圧力の上昇に伴って、バルブスプリング24の付勢力に抗して第一狭窄路31を閉じる、ロッド16側に形成されたバルブシート35aと、このバルブシート35aに対向するようにプランジャ14側に形成されたシート面35bによって構成される第二チェックバルブ35を備え、バルブシート35a及びシート面35bが、対向するバルブシート35a又はシート面35b側に向かうように凸状に形成されている。
【0054】
また、従来品としては、特許第5086171号公報の
図1に示すテンショナ(実施品のプランジャ14に相当する部材が無いテンショナ。ロッドがバルブスリーブに直接摺動する。)を使用した。
【0055】
両テンショナに対し、シリンダ10を固定した状態でばね座18を上下に加振し、ばね座18に作用する上向きの力(テンショナ反力)の変化を測定した。加振条件は以下のとおりである。
・制御方法:変位制御
・加振波形:サイン波
・加振周波数:10Hz
【0056】
変位制御の方式として、ばね座18に作用する力(テンショナ反力)がどのように増減するかによらず、ばね座18の位置の時間変化がサイン波となるようにばね座18の変位を制御する方式を採用した。加振の振幅は、エンジンEの通常運転時にテンショナに加わる一般的な加振の振幅(例えば±0.1mm〜±0.2mm程度)よりも大きい±0.5mmとした。実施品及び従来品には、いずれもばね定数が約35N/mmのリターンスプリング19を使用した。
【0057】
上記の加振試験により得たテンショナ変位(ばね座18の下向きの変位)とテンショナ反力(ばね座18に作用する上向きの力)の関係を
図4に示す。
【0058】
実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が急・緩・急の3段階の行程で変化している。すなわち、テンショナが収縮する過程で、実施品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最小値(点P1)を起点として比較的急に増加する第一行程(点P1〜点P2)と、ほとんど増加せずにほぼ一定の大きさを維持する第二行程(点P2〜点P3)と、比較的急に増加する第三行程(点P3〜点P4)とを順に経て、テンショナ反力の最大値(点P4)まで変化する。
【0059】
その後、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が急・緩・急・緩の4段階の行程で変化している。すなわち、テンショナが伸長する過程で、実施品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最大値(点P4)を起点として比較的急に減少する第一行程(点P4〜点P5)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第二行程(点P5〜点P6)と、比較的急に減少する第三行程(点P6〜点P7)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第四行程(点P7〜点P1)とを順に経て、テンショナ反力の最小値(点P1)まで変化する。
【0060】
これに対し、従来品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が最小値(点Q1)から最大値(点Q2)までおおむね単調に増加する。また、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が急・緩の2段階の行程で変化する。すなわち、テンショナが伸長する過程で、従来品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最大値(点Q2)を起点として比較的急に減少する第一行程(点Q2〜点Q3)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第二行程(点Q3〜点Q1)とを順に経てテンショナ反力の最小値(点Q1)まで変化する。
【0061】
つまり、実施品のテンショナは、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力の増加率が急から緩に変わる変化点P2と、テンショナ反力の増加率が緩から急に変わる変化点P3とを順に有する反力特性を示す。また、実施品のテンショナは、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P5と、テンショナ反力の減少率が緩から急に変わる変化点P6と、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P7とを順に有する反力特性を示す。
【0062】
実施品のテンショナがこのような反力特性を示す理由を、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0063】
<点P1〜点P2>
ロッド16(
図3(a)参照)が下降すると、プランジャ14はバルブスプリング24によって下向きに付勢されて、ロッド16と一体に下降する。プランジャ14とロッド16が一体に下降すると、圧力室25内の作動油の一部が第一狭窄路31を通って圧力室25からリザーバ室27に流出するとともに(
図3(a)中の符号f1参照)、圧力室25内の作動油が加圧される。そして、この加圧に伴って、テンショナ反力が比較的急に増加する(
図4の点P1〜点P2)。
図4の点P2において、圧力室25内の作動油からプランジャ14に作用する上向きの圧力と、バルブスプリング24からプランジャ14に作用する下向きの付勢力とが釣り合う。
【0064】
<点P2〜点P3>
ロッド16がさらに下降すると、圧力室25内の作動油からプランジャ14に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング24からプランジャ14に作用する下向きの付勢力を上回り、プランジャ14が上昇する。この間は、ロッド16の下降に伴いプランジャ14が上昇するので、圧力室25の体積がほとんど変化せず、圧力室25の圧力がほぼ一定となる。このため、テンショナ反力は、ほぼ一定となる(
図4の点P2〜点P3)。このとき、圧力室25の体積がほとんど変化しないため、第一狭窄路31および第二狭窄路32には作動油がほとんど流れない。
図4の点P3において、シート面35bがバルブシート35aに着座して第二チェックバルブ35が閉じた状態となり、プランジャ14の上昇が停止する(
図3(b)参照)。
【0065】
この発明の構成においては、バルブシート35aの表面を対向するシート面35bに向かう凸状に形成するとともに、シート面35bの表面を対向するバルブシート35aに向かう凸状に形成することにより(
図2(a)参照)、シート面35bをバルブシート35aに着座させた際(
図2(b)参照)に高い当接圧が確保され、第二チェックバルブ35(第一狭窄路31)からの作動油の漏れが確実に防止されている。なお、バルブシート35aの表面を対向するシート面35bに向かう凸状に形成する一方で、シート面35bの表面を平面とする場合、又は、バルブシート35aの表面を平面とする一方で、シート面35bの表面を対向するバルブシート35aに向かう凸状に形成する場合も、同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
<点P3〜点P4>
図4の点P3においては、シート面35bがバルブシート35aに着座しているので(
図3(b)参照)、ロッド16がさらに下降すると、プランジャ14もロッド16と一体に下降する。この下降に伴って、圧力室25内の作動油がさらに加圧される。そして、この加圧に伴って、テンショナ反力が再び急に増加する(
図4の点P3〜点P4)。このとき、第二チェックバルブ35が閉じているため、第一狭窄路31には作動油が流れず、圧力室25内の作動油の一部が、第二狭窄路32を通って圧力室25からリザーバ室27に流出する(
図3(b)中の符号f2参照)。
【0067】
<点P4〜点P5>
図4の点P4においては、圧力室25内の作動油からプランジャ14に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング24からプランジャ14に作用する下向きの付勢力を上回っているので、ロッド16(
図3(b)参照)が上昇すると、プランジャ14もロッド16と一体に上昇する。この上昇に伴って、圧力室25内の作動油の圧力が低下し、テンショナ反力が比較的急に減少する(
図4の点P4〜点P5)。このとき、第二狭窄路32には作動油がほとんど流れない。また、シート面35bがバルブシート35aに着座しているので(
図3(b)参照)、第一狭窄路31にも作動油は流れない。
図4の点P5において、圧力室25内の作動油からプランジャ14に作用する上向きの圧力と、バルブスプリング24からプランジャ14に作用する下向きの付勢力とが釣り合う。
【0068】
<点P5〜点P6>
ロッド16がさらに上昇すると、圧力室25内の作動油からプランジャ14に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング24からプランジャ14に作用する下向きの付勢力を下回り、プランジャ14が下降する。この間は、ロッド16の上昇に伴いプランジャ14が下降するので、圧力室25の体積がほとんど変化せず、圧力室25の圧力がほぼ一定となる。このため、テンショナ反力は、ほぼ一定となる(
図4の点P5〜点P6)。このとき、第一狭窄路31及び第二狭窄路32には作動油がほとんど流れない。
図4の点P6において、プランジャ14の下方の移動がプランジャ14の下端と抜け止めリング17との当接によって阻止され、プランジャ14の下降が停止する(
図3(a)参照)。
【0069】
<点P6〜点P7>
図4の点P6においては、プランジャ14のロッド16に対する下方への相対移動が、プランジャ14の下端と抜け止めリング17との当接によって阻止されているので(
図3(a)参照)、ロッド16がさらに上昇すると、プランジャ14もロッド16と一体に上昇する。この上昇に伴って、圧力室25の体積が増加するため、圧力室25内の作動油の圧力が再び減少し始め、テンショナ反力が再び急に減少する(
図4の点P6〜点P7)。このとき、第一狭窄路31及び第二狭窄路32には作動油がほとんど流れない。
図4の点P7において、圧力室25内の作動油の圧力がリザーバ室27内の作動油と同等の圧力まで低下し、圧力室25内の作動油の加圧が完全に解放される。
【0070】
<点P7〜点P1>
図4の点P7においては、プランジャ14のロッド16に対する下方への相対移動が、プランジャ14の下端と抜け止めリング17との当接によって阻止されているので(
図3(a)参照)、ロッド16がさらに上昇すると、プランジャ14もロッド16と一体に上昇する。この上昇に伴って、圧力室25内の作動油の圧力がリザーバ室27内の圧力を下回って第一チェックバルブ30が開き、作動油が油通路28を通ってリザーバ室27から圧力室25に流れる。そのため、圧力室25内の作動油の圧力はほとんど変化せず、テンショナ反力もほぼ一定となる(
図4の点P7〜点P1)。
【0071】
以上のとおり、実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が所定値(
図4の点P2のときの値)に達すると、プランジャ14が上昇して圧力室25の体積の変化を吸収し、その間、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図4の点P2〜点P3)。そのため、実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力の増加率が急から緩に変わる変化点P2と、テンショナ反力の増加率が緩から急に変わる変化点P3とを順に有する反力特性を示す。
【0072】
その一方で、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が所定値(
図4の点P5のときの値)に達すると、プランジャ14が下降して圧力室25の体積の変化を吸収し、その間、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図4の点P5〜点P6)。そのため、実施品は、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P5と、テンショナ反力の減少率が緩から急に変わる変化点P6とを順に有する反力特性を示す。
【0073】
実施品のテンショナは、上述の反力特性を有することにより、エンジンEの通常運転時には、テンショナ反力の大きさを小さく抑えて、
図5(a)に示すテンションプーリ54が補機駆動ベルト53に付与する張力を小さく抑えることができる。その一方で、ISG51によるエンジンEの再始動時には、大きいテンショナ反力を発生させて、
図5(b)に示す補機駆動ベルト53とISGプーリP
2の間のスリップを確実に防止することができる。
【0074】
すなわち、エンジンEの通常運転時には、
図4中に符号S1で示すように、テンショナが、上記の加振試験で行った±0.5mmよりも小さい振幅(例えば±0.1mm〜±0.2mm程度の振幅)で変位する。このとき、テンショナ反力は、テンショナが収縮する過程では、点P1を起点として、点P2を経て、点P2と点P3の間の値まで増加し、その後、テンショナが伸長する過程では、点P2と点P3の間の値を起点として、点P5と点P6の間の値まで減少し、さらに点P6と点P7とを順に経て、点P1まで減少する。このように、実施品のテンショナを使用すると、エンジンEの通常運転時には、テンショナ反力の最大値を点P2と点P3の間の値に抑えることができ、
図5(a)に示すテンションプーリ54が補機駆動ベルト53に付与する張力を小さく抑えて、エンジンEの低燃費化を図ることができる。
【0075】
その一方で、ISG51によるエンジンEの再始動時には、テンショナは、
図4中に符号S2で示すように、上記の加振試験で行った±0.5mmの振幅の最大値か、その近傍まで収縮する。このとき、テンショナ反力は、点P4かその近傍まで増加する。実施品のテンショナによると、再始動時のように、テンショナ変位が大きい領域で、大きいテンショナ反力を発生させることができ、
図5(b)に示す補機駆動ベルト53とISGプーリP
2の間のスリップを確実に防止することができる。
【0076】
これに対し、従来品のテンショナでは、エンジンEの通常運転時には、補機駆動ベルト53の張力が過大となりやすい傾向がある。すなわち、
図4中に符号S1で示す振幅でテンショナが変位するとき、テンショナが収縮する過程では、テンショナ反力が、点Q1を起点として、点Q1と点Q2の間の値まで増加し、その後、テンショナが収縮する過程では、点Q1と点Q2の間の値を起点として、点Q3と点Q1の間の値まで減少し、さらに点Q1まで減少する。このように、従来品のテンショナを使用すると、通常運転時には、テンショナ反力の最大値が点Q1と点Q2の間の値まで増加するので、
図5(a)に示すテンションプーリ54が補機駆動ベルト53に付与する張力が過大となりやすく、エンジンEの低燃費化を図ることが難しい。
【0077】
また、従来品のテンショナは、ISG51によるエンジンEの再始動時には、大きいテンショナ反力を発生させることが難しい。すなわち、テンショナが、
図4中に符号S2で示すように、上記の加振試験で行った±0.5mmの振幅の最大値かその近傍まで収縮したとき、テンショナ反力は、点Q2かその近傍までしか増加しない。そのため、再始動時に、
図5(b)に示す補機駆動ベルト53とISGプーリP
2の間にスリップが生じやすい。
【0078】
上記実施形態に係るテンショナはあくまでも例示であって、補機駆動ベルト53のベルト張力を、通常運転時及びISGによるエンジン再始動時のいずれにおいても常時適切な大きさに調節する、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、各部材の形状や配置は適宜変更することができる。特に、第二チェックバルブ35を構成するバルブシート35a(ロッド16の大径軸部16aの下端部)やシート面35b(プランジャ14のフランジ14aの上面内径側)の形状は、このバルブシート35aとシート面35bが当接した際に高い当接圧を確保し得る限りにおいて、適宜変更することができる。