(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0023】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、及び(C)相溶化剤を含む。必要に応じて、衝撃改良剤、オイル、遷移金属、ハロゲン、有機安定剤、スチレン系熱可塑性樹脂、安定剤、難燃剤、滴下防止剤、付加的成分等を含んでいてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、2つの構造部とこれらを連結する幅3〜5mm、長さ5〜25mm、厚み0.3〜0.7mmのヒンジ部とを含む試験片を成形したときに、上記(A)ポリアミドを含む連続相、上記(B)ポリフェニレンエーテルを含む分散相が形成されており、
上記試験片の、上記ヒンジ部における長さ方向の中点を通る、幅方向及び厚み方向に沿う面による断面において、表面から厚み方向に20μmまでの部分Iにおける分散相の平均楕円率をE−20、表面から厚み方向に上記厚みに対して48%の長さから52%の長さまでの部分IIにおける分散相の平均楕円率をE−midとしたときに、以下の式(1)を満たす。
4.0≦(E−20)/(E−mid) ・・・(1)
本発明の熱可塑性樹脂組成物の各成分について、以下に詳しく述べる。
【0024】
((A)ポリアミド)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記ポリアミドの種類としては、ポリマーの繰り返し単位構造中にアミド結合{−NH−C(=O)−}を有するものであれば、いずれも使用することができる。
【0025】
上記ポリアミドは、アミノカルボン酸の重縮合、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合等によって得られる重合体を意味する。
【0026】
上記アミノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノナノン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸等が挙げられる。
【0027】
上記ラクタム類としては、特に限定されないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε−カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。中でも、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムが好ましい。
【0028】
上記ジアミンとしては、脂肪族、脂環式及び芳香族ジアミンが挙げられ、具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルナノメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン(2−メチル−1,5−ジアミノペンタンとも記される。)、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0029】
上記ジカルボン酸としては、脂肪族、脂環式及び芳香族ジカルボン酸が挙げられ、具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。
【0030】
上記アミノカルボン酸、上記ラクタム類、上記ジアミン、上記ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記アミノカルボン酸、上記ラクタム類、上記ジアミン、上記ジカルボン酸として、重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合し、押出機等で高分子量化したものも好適に使用することができる。
【0031】
上記ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミド6,MXD(m−キシリレンジアミン)、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド 6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,I、ポリアミド9,T等が挙げられる。中でも、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6/6,6及びこれらの混合物が好ましく、ポリアミド6,6、ポリアミド6,6とポリアミド6との混合物がより好ましい。
上記ポリアミドは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記ポリアミドとして、ポリアミド6,6とポリアミド6との混合物を用いる場合、ポリアミド6,6とポリアミド6の混合物の総量100質量%に対して、ポリアミド6,6を70〜99質量%含むことが好ましく、80〜90質量%含むことがより好ましい。
【0033】
上記ポリアミドは、ポリアミドに添加することが可能な公知の添加剤等を、ポリアミド100質量部に対して、10質量部未満含んでいてもよい。
【0034】
上記ポリアミドの、ISO307:1994に準拠して96%硫酸で測定される粘度数は、100〜130mL/gであることが好ましく、110〜128mL/gであることがより好ましい。粘度数が上記範囲であることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性と機械的強度をより高めることが可能となる。
上記ポリアミドは、粘度数が異なる複数のポリアミドの混合物であっても良い。粘度数が異なる複数のポリアミドを使用した場合においても、ポリアミド混合物の粘度数は上記範囲内にあることが望ましい。ポリアミド混合物の粘度数は、所望の混合比で混合したポリアミド混合物の粘度数を測定することで確かめることができる。
【0035】
上記ポリアミドの末端基は、ポリフェニレンエーテルとの反応に関与する。ポリアミドは末端基としてアミノ基又はカルボキシル基を有しているが、一般的にカルボキシル基濃度が高くなると、耐衝撃性が低下して流動性が向上し、アミノ基濃度が高くなると耐衝撃性が向上して流動性が低下する。
上記ポリアミドの末端基のアミノ基/カルボキシル基濃度比は、9/1〜1/9であることが好ましく、6/4〜1/9であることがより好ましく、5/5〜1/9であることがさらに好ましい。
【0036】
上記ポリアミドの末端基としてのアミノ基濃度は、50μmol/g以下であることが好ましく、40μmol/g以下であることがより好ましく、35μmol/g以下であることがさらに好ましく、また、10μmol/g以上であることが好ましい。末端アミノ基濃度が50μmol/g以下であると、熱可塑性樹脂組成物の金型内での流動性の大幅な低下、成形品の加熱後の変形の増大、成形品のシワ模様(湯ジワ)の発生を防止できる。
上記ポリアミドの末端基は、当業者には明らかであるような公知の方法を用いることで調整することができ、例えば、ポリアミド重合時に、ジアミン、モノアミン、ジカルボン酸、及びモノカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上を添加する方法等により、調整することができる。
【0037】
((B)ポリフェニレンエーテル)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記ポリフェニレンエーテルとしては、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される繰り返し単位(フェニレンエーテルに由来する繰り返し単位)を有する、ホモ重合体又は共重合体が挙げられる。
上記ポリフェニレンエーテルは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
【化1】
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜9のアリール基又はハロゲン原子を表す。但し、R
3及びR
4は同時に水素原子ではない。)
【0039】
上記ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル);2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体);等が挙げられる。中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、又はこれらの混合物が好ましい。
【0040】
上記ポリフェニレンエーテルの製造方法は、公知の方法を適用でき、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書、同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報、同63−152628号公報等に記載された方法等が挙げられる。
【0041】
上記ポリフェニレンエーテルの還元粘度(0.5g/dLクロロホルム溶液、30℃測定、ウベローデ型粘度管で測定)は、0.40〜0.55dL/gであることが好ましく、0.40〜0.45dL/gであることがより好ましく、0.41〜0.45dL/gであることがさらに好ましい。
【0042】
上記ポリフェニレンエーテルは、還元粘度が異なる2種以上のポリフェニレンエーテルの混合物であってもよく、例えば、還元粘度0.45dL/g以下のポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dL/g以上のポリフェニレンエーテルの混合物、還元粘度0.40dL/g以下の低分子量ポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dL/g以上のポリフェニレンエーテルの混合物等の2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルの混合物であってもよい。
【0043】
上記ポリフェニレンエーテルは、重合時に用いた溶媒が、ポリフェニレンエーテル(100質量%)中に5質量%未満の量で残存していてもよい。
ポリフェニレンエーテルに残存する重合時の溶媒としては、重合後の乾燥工程で完全に除去するのは困難であり、ポリフェニレンエーテル(100質量%)中に数百質量ppmから数質量%の範囲で残存している溶媒が挙げられ、例えば、トルエン、キシレンの各異性体、エチルベンゼン、炭素数1〜5のアルコール類、クロロホルム、ジクロルメタン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン等が挙げられる。
【0044】
上記ポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性された変性ポリフェニレンエーテルであってもよい。変性ポリフェニレンエーテルとしては、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルが挙げられる。
上記変性化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
分子構造内に炭素−炭素二重結合及びカルボン酸基又は酸無水物基を有する上記変性化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、及びこれらの酸無水物等が挙げられる。中でも、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、フマル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。また、これら不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基のうちの1個又は2個がエステルになってもよい。
【0046】
分子構造内に炭素−炭素二重結合及びグリシジル基を有する変性化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。中でも、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが好ましい。
【0047】
分子構造内に炭素−炭素二重結合及び水酸基を有する変性化合物としては、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オール等の一般式C
nH
2n−3OH(nは正の整数)、一般式C
nH
2n−5OH(nは正の整数)、一般式C
nH
2n−7OH(nは正の整数)等で表される不飽和アルコール等が挙げられる。
【0048】
変性ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)100℃以上ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられ、中でも(1)又は(2)の方法が好ましい。
【0049】
変性ポリフェニレンエーテルを製造する際の、上記変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることがより好ましい。
【0050】
変性ポリフェニレンエーテルを製造する際にラジカル開始剤を用いる場合、ラジカル開始剤の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0051】
上記変性ポリフェニレンエーテルにおける上記変性化合物の付加率は、変性ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがより好ましい。変性ポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物及び/又は変性化合物の重合体が、1質量部未満残存していても構わない。
【0052】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルの含有割合は、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルの合計量100質量部に対して、ポリアミド40〜90質量部、ポリフェニレンエーテル60〜10質量部であることが好ましく、ポリアミド50〜85質量部、ポリフェニレンエーテル50〜15質量部であることがより好ましく、ポリアミド60〜80質量部、ポリフェニレンエーテル40〜20質量部であることがさらに好ましい。
ポリアミド及びポリフェニレンエーテルの含有割合が上記範囲にあると、特に優れた機械強度とヒンジ特性を持つ成形品を得ることができる。
【0053】
上記ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤等を、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満含んでいてもよい。
【0054】
((C)相溶化剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記相溶化剤としては、国際公開第01/81473号中に詳細に記載されている、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の化合物が好ましい。中でも、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群から選択させる少なくとも1種が好ましく、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、熱可塑性樹脂組成物のウェルド強度といった付加的な特性が向上する観点から、マレイン酸及び/又はその無水物が特に好ましい。
上記相溶化剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記相溶化剤の含有量は、上記相溶化剤としてマレイン酸及び/又はその無水物を選択した場合、上記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、0.03〜0.3質量部であることが好ましく、0.07〜0.3質量部であることがより好ましく、0.1〜0.3質量部であることがさらに好ましい。相溶化剤の含有量が上記範囲にあると、ヒンジ特性、機械特性、流動性、成形品外観に一層優れた成形品を得ることができる。
また、上記相溶化剤の含有量は、ポリアミド中にポリフェニレンエーテルが分散しやすくなり、成形品においてポリアミドが連続相を、ポリフェニレンエーテルが分散相を一層形成しやすくなる観点から、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルとの合計100質量部に対して、0.03〜10.0質量部であることが好ましく、0.05〜5.0質量部であることがより好ましい。
【0056】
上記相溶化剤としてフマル酸、クエン酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる一種以上を選択した場合、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記相溶化剤の含有量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、0.5〜4.0質量部であることが好ましく、1.0〜3.0質量部であることがより好ましく、1.5〜2.5質量部であることがさらに好ましい。相溶化剤の含有量が上記範囲にあると、ヒンジ特性、機械特性、流動性、成形品外観に一層優れた成形品を得ることができる。
【0057】
((D)衝撃改良剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性を更に向上させる目的で、衝撃改良剤をさらに含んでいてもよい。
【0058】
上記衝撃改良剤としては、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体及びその水素添加物、並びにエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。
本明細書において、「主体とする」とは、主体とする化合物に由来する構成単位の、重合体ブロック中の含有量が、50質量%以上であることをいい、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック中に、少量の共役ジエン化合物又は他の化合物に由来するモノマー単位を含む場合であっても、重合体ブロックの50質量%以上が芳香族ビニル化合物から形成されていれば、芳香族ビニル化合物を主体とするブロック共重合体とみなす。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおいても同様である。
【0059】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。
【0060】
上記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン、これらの組み合わせ等が挙げられ、中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0061】
共役ジエン化合物を主体とする上記重合体ブロックのミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)において、1,2−ビニル含量又は1,2−ビニル含量と3,4−ビニル含量との合計量は、5〜80%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましく、15〜40%であることが最も好ましい。
通常、共役ジエン化合物の結合形態として、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合、1,4−ビニル結合があるが、ビニル結合量とは、重合時の共役ジエン化合物の結合形態の割合を示すものである。例えば、1,2−ビニル結合量とは、上記3種の結合形態中の1,2−ビニル結合の割合を意味するものである。1,2−ビニル結合量、3,4−ビニル結合量、1,4−ビニル結合量は、赤外分光光度計、核磁気共鳴装置等を用いて測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出することができる。
【0062】
上記ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[A]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]が、A−B型、A−B−A型、又はA−B−A−B型の結合形式を有するブロック共重合体であることが好ましく、これらの混合物であっても構わない。中でも、A−B−A型、A−B−A−B型、又はこれらの混合物が好ましく、A−B−A型が最も好ましい。
【0063】
上記衝撃改良剤としては、水素添加されたブロック共重合体を使用することもできる。水素添加されたブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする上記重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする上記重合体ブロックからなる上記ブロック共重合体中の脂肪族二重結合を水素添加処理することにより、0%を越えて100%までの範囲内の二重結合に対する水素添加処理割合において制御したものをいう。上記ブロック共重合体の水素添加率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく95%以上であることが最も好ましい。
【0064】
上記ブロック共重合体の数平均分子量は、150,000以上であることが好ましい。なお、水素添加されたブロック共重合体においては、水素添加後の数平均分子量をいう。
本明細書において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いて、紫外分光検出器で測定し、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をいう。この時、重合時の触媒失活に起因した低分子量成分が検出されることがあるが、その場合は分子量計算に低分子量成分は含めない。通常、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.0〜1.1の範囲内である。
【0065】
上記ブロック共重合体中に含まれる、芳香族ビニル化合物を主体とする各上記重合体ブロックの数平均分子量の平均は、30,000以上であることが好ましい。数平均分子量の平均を30,000以上とすることにより、ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物ブロックが、ポリフェニレンエーテルと相溶化しやすくなる。
芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下式により求めることができる。
Mn(a)={Mn×a/(a+b)}/N
[上式中において、Mn(a)は芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnはブロック共重合体の数平均分子量、aはブロック共重合体中のすべての芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの含有量(質量%)、bはブロック共重合体中のすべての共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの含有量(質量%)、Nはブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの数を表す。]
【0066】
上記衝撃改良剤としてのブロック共重合体は、本発明の効果を損なわない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの組成の異なるもの、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの組成の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量、1,2−結合ビニル含有量及び/又は3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を2種以上混合して用いてもよい。
【0067】
また、本発明で使用するこれらブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であってもよい。
上記変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物としては、上述の変性ポリフェニレンエーテルの変性化合物と同じものが挙げられる。
【0068】
上記変性されたブロック共重合体の製造方法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)ブロック共重合体の軟化点温度以上250℃以下の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられ、中でも、(1)の方法が好ましく、ラジカル開始剤存在下で行う(1)の方法が最も好ましい。
【0069】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、上記衝撃改良剤の含有量は、上記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、5〜70質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましく、10〜20質量部であることがさらに好ましい。
また、上記衝撃改良剤の含有量は、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルとの合計100質量部に対して、0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。
【0070】
(オイル)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、さらにオイルを含んでいてもよい。
【0071】
上記オイルとは、30℃において液状の無機又は有機の油脂を指し、合成油、鉱物油、動物油、植物油等が挙げられ、中でも、大豆油、アマニ油等の植物油;ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、芳香族系オイル、ベンジルトルエン等の熱媒用オイル:等が好ましく、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、芳香族系オイルがより好ましく、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルがさらに好ましく、パラフィン系オイルが最も好ましい。上記オイルは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、オイルは、一般に、芳香環含有化合物、ナフテン環含有化合物及びパラフィン系化合物の三成分が組み合わさった混合物であって、全炭素数に対するパラフィン鎖の炭素数の割合が50%以上であるものがパラフィン系オイルと呼ばれ、ナフテン環炭素数の割合が30〜45%であるものがナフテン系オイルと呼ばれ、芳香族炭素数の割合が30%超であるものが芳香族系オイルと呼ばれる。
【0072】
上記パラフィン系オイルの数平均分子量としては、100〜10000であることが好ましく、100〜2000であることがより好ましく、200〜1500であることがさらに好ましい。
上記パラフィン系オイルとしては、パラフィン系化合物の含有量が50質量%以上であるものが好ましく、パラフィン系化合物の含有量が50〜90質量%であり、ナフテン環含有化合物の含有量が10〜40質量%であり、芳香環含有化合物の含有量が5質量%以下であるものがより好ましい。また上記パラフィン系オイルの数平均分子量は、100〜2000であることが好ましく、200〜1500であることがより好ましい。
パラフィン系オイルの市販品としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW−380(出光石油化学株式会社製、動粘度381.6cst(40℃)、平均分子量746、ナフテン環炭素数27%,パラフィン環炭素数73%)等が挙げられる。
【0073】
上記オイルを添加する方法は、特に限定されないが、例えば、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルの溶融混練時に液体状態で添加する方法、上記ポリアミド、上記ポリフェニレンエーテル、及び少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなる上記ブロック共重合体からなる群から選ばれる1種以上にあらかじめ混合する方法等が挙げられる。特に、上記ブロック共重合体にオイルをあらかじめ混合する方法が好ましい。上記ブロック共重合体に上記オイルをあらかじめ混合することにより、シワ状の凹凸の抑制、成形品の加熱時の変形の抑制といった効果をより高めることができる。上記オイルの添加量は、上記ブロック共重合体100質量部に対して、70質量部未満であることが好ましく、60質量部未満であることがより好ましい。
【0074】
(遷移金属、ハロゲン)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド添加による耐熱安定性の向上効果を、更に向上させる目的で、遷移金属及び/又はハロゲンをさらに含んでいてもよい。
上記遷移金属としては、銅、セリウム、ニッケル、コバルトが好ましく、特に銅が好ましい。
上記ハロゲンとしては、臭素、ヨウ素が好ましい。
上記遷移金属及び/又はハロゲンは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中の上記遷移金属の含有量は、10質量ppm以上200質量ppm未満であることが好ましく、10質量ppm以上100質量ppm未満であることがより好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中の上記ハロゲンの含有量は、500質量ppm以上1500質量ppm未満であることが好ましく、700質量ppm以上1200質量ppm未満であることがより好ましい。
【0076】
これら遷移金属及び/又はハロゲンの添加方法としては、例えば、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する時に粉体として添加する方法、ポリアミドの重合時に添加する方法、ポリアミドに高濃度で添加したマスターペレットを作製した後、このマスターペレットを熱可塑性樹脂組成物へ添加する方法等が挙げられる。中でも、ポリアミドの重合時に添加する方法が好ましい。
【0077】
(有機安定剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、有機安定剤をさらに含んでいてもよい。
上記有機安定剤としては、イルガノックス1098(チバスペシャリティーケミカルズ製)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;イルガフォス168(チバスペシャリティーケミカルズ製)等のリン系加工熱安定剤;HP−136(チバスペシャリティーケミカルズ製)等のラクトン系加工熱安定剤;イオウ系耐熱安定剤;ヒンダードアミン系光安定剤;等が挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、又はこれらの混合物が好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中の上記有機安定剤の含有量としては、上記ポリアミド(100質量部)に対して、0.001〜1質量部であることが好ましい。
上記有機安定剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
(スチレン系熱可塑性樹脂)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記ポリアミドと上記ポリフェニレンエーテルとの合計100質量部に対して、スチレン系熱可塑性樹脂を50質量部未満さらに含んでいてもよい。
上記スチレン系熱可塑性樹脂としては、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
上記スチレン系熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(安定剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテルの安定化の観点から、安定剤をさらに含んでいてもよい。
上記安定剤としては、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤;ヒンダードフェノール系安定剤;リン系安定剤;ヒンダードアミン系安定剤;等の有機安定剤が挙げられる。
上記安定剤の含有量としては、上記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、5質量部未満が挙げられる。
上記安定剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(難燃剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤をさらに含んでもよい。
【0081】
上記難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機難燃剤;メラミン、シアヌル酸、これらの塩等の含窒素環状化合物;トリフェニルフォスフェート、水酸化トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、これらの誘導体等の有機リン酸エステル類;ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン等のリン酸系含窒素化合物;特開平11−181429号公報に記載されるホスファゼン系化合物;ホウ酸亜鉛等のホウ酸化合物;シリコーンオイル類;赤燐;国際公開第WO2007/055147号に記載されるホスフィン酸塩類;これらの混合物;等が挙げられる。中でも、含窒素環状化合物、有機リン酸エステル類、リン酸系含窒素化合物、ホスファゼン系化合物、ホウ酸化合物、シリコーンオイル類、ホスフィン酸塩類が好ましく、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)及びその誘導体、ホスフィン酸塩類、これら混合物がより好ましい。
【0082】
上記ホスフィン酸塩類は、下式(3)で表されるホスフィン酸塩、下式(4)で表されるジホスフィン酸塩、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでなるものである。
【化3】
[式(3)中、R
11及びR
12は、各々独立して、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素原子数1〜6のアルキル基、アリール基、又はフェニル基であり;M
1は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり;aは1〜3の整数であり;mは1〜3の整数であり;a=mである。]
【化4】
[式(4)中、R
21及びR
22は、各々独立して、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素原子数1〜6のアルキル基、アリール基、又はフェニル基であり;R
23は、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数6〜10のアリーレン基、炭素原子数6〜10のアルキルアリーレン基又は炭素原子数6〜10のアリールアルキレン基であり;M
2は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり;bは1〜3の整数であり;jは1又は2であり;nは1〜3の整数であり;b・j=2nである。]
【0083】
上記難燃剤としては、実質的にハロゲンを含まない無機又は有機の難燃剤が好ましい。
本明細書において、実質的にハロゲンを含まないとは、難燃剤を含む熱可塑性樹脂組成物中のハロゲン濃度が2質量%未満であることをいう。難燃剤を含む熱可塑性樹脂組成物中のハロゲン濃度は、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましい。
【0084】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における上記難燃剤の含有量は、上記ポリアミド、上記ポリフェニレンエーテル及び上記衝撃改良剤の合計量100質量部に対して、5〜25質量部であることが好ましい。
【0085】
上記難燃剤の添加方法としては、例えば、熱可塑性樹脂組成物中の分散相樹脂と連続相樹脂にそれぞれ難燃剤を配合する方法等が挙げられる。具体的には、リン酸エステル類、含窒素環状化合物、リン酸系含窒素化合物、ホスファゼン系化合物、ホウ酸化合物、シリコーンオイル、及びホスフィン酸塩類からなる群から選ばれる1種以上の難燃剤を、分散相を形成する樹脂と連続相を形成する樹脂とに配合する方法が挙げられる。
中でも、分散相と連続相に、異なる難燃剤を配合することが好ましい。具体的には、分散相にリン酸エステル類、リン酸系含窒素化合物、ホスファゼン系化合物、及びシリコーンオイルからなる群から選ばれる1種以上を配合し、連続相に含窒素環状化合物、リン酸系含窒素化合物、ホウ酸化合物、及びホスフィン酸塩類からなる群から選ばれる1種以上を配合することが望ましい。
【0086】
(滴下防止剤)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、滴下防止剤をさらに含んでいてもよい。
上記滴下防止剤としては、テトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー等が挙げられる。上記滴下防止剤は、上記熱可塑性樹脂組成物中のハロゲン濃度が2質量%未満の量であれば、難燃剤としても使用可能である。
【0087】
(付加的成分)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記した成分のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で、付加的成分をさらに含んでいてもよい。
【0088】
上記付加的成分としては、ポリエステル、ポリオレフィン等の上記以外の熱可塑性樹脂;タルク、カオリン、ゾノトライト、ワラストナイト、酸化チタン、チタン酸カリウム、炭素繊維、ガラス繊維等の無機充填剤;無機充填剤と樹脂との親和性を高める為の公知のシランカップリング剤;低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等の可塑剤;カーボンブラック等の着色剤;カーボンファイバー、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリル等の導電性付与剤;帯電防止剤;各種過酸化物;酸化防止剤;紫外線吸収剤;光安定剤;等が挙げられる。
【0089】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(100質量部)中の上記付加的成分の含有量は、50質量部以下であることが好ましく、20質量部未満であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0090】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、及び(C)相溶化剤、並びに任意に上記衝撃改良剤、上記オイル、上記繊維金属及び/又はハロゲン、上記有機安定剤、上記スチレン系熱可塑性樹脂、上記安定剤、上記難燃剤、上記滴下防止剤、上記付加的成分等を加え、混練する方法が挙げられる。
【0091】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を製造する際に用いる加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられる。中でも、二軸押出機が好ましく、特に、上流側供給口と1カ所以上の下流側供給口を備えた二軸押出機が最も好ましい。
【0092】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を製造する際の溶融混練温度は、特に限定されないが、混練状態等を考慮して、通常240〜360℃の中から任意に選ぶことができる。
【0093】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、押出後のストランドをカットして、ペレットとしてもよい。
【0094】
(熱可塑性樹脂組成物の物性)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の水分率は、150〜500質量ppmであることが好ましい。水分率が上記範囲であると、射出成形時にポリフェニレンエーテルに適切な配向がかかり、成形品表層と内部のポリフェニレンエーテルの平均楕円率及び面積分率が上記範囲を満たし、特に優れた外観とヒンジ特性を持つ成形品を得ることができる。
本明細書において、水分率とは、ISO15512(B法)に準拠し、水分気化装置とカールフィッシャー電量測定装置を有した水分含有率測定システムを用いて、オーブンの設定温度を185℃として測定できる、熱可塑性樹脂組成物のペレットの水分率をいう。
上記水分率は、例えば、押出時に得られたペレットを、素早くアルミニウムコートされた防湿袋に入れること等により、500質量ppm以下に調整することができる。また、500質量ppm以上吸湿した場合は、真空乾燥機、除湿乾燥機、熱風乾燥機等で、再乾燥して調整することもできる。
【0095】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えばゲート3から熱可塑性樹脂組成物を流し、2つの構造部4とこれらを連結する幅wが3〜5mm、長さlが5〜25mm、厚みt1が0.3〜0.7mmのヒンジ部2とを含む試験片1(
図1に示される試験片)を成形したときに、上記(A)ポリアミドを含む連続相、上記(B)ポリフェニレンエーテルを含む分散相が形成されている。上記連続相は、上記(A)ポリアミドのみから形成されていることが好ましい。
連続相に上記ポリアミドが、分散相に上記ポリフェニレンエーテルが含まれることにより、ヒンジ特性に優れた成形品が得られる。また、連続相が上記ポリアミド、分散相が上記ポリフェニレンエーテルを含む成形品を形成できる熱可塑性樹脂組成物は、流動性にも優れる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を用いると、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの溶融粘度の違いから、成形品の大きさによらず、ポリアミドを含む連続相及びポリフェニレンエーテルを含む分散相が形成された成形品を得ることができる。
なお、2つの構造部4とこれらを連結するヒンジ部2とを含む試験片1において、2つの構造部4は、ヒンジ部2の長さ方向が曲げ線方向となるように折り曲げられることが好ましい。ここで、ヒンジ部の幅wは、2つの構造部4間の間隔と等しいことが好ましい。また、ヒンジ部の幅、ヒンジ部の長さ方向及びヒンジ部の厚み方向は、それぞれ垂直であり、ヒンジ部の長さ方向はヒンジ部の厚み方向より長いことが好ましい。
【0096】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、ゲート3から熱可塑性樹脂組成物を流しこんで成形した、2つの構造部4とこれらを連結する幅wが3〜5mm、長さlが5〜25mm、厚みt1が0.3〜0.7mmのヒンジ部2とを含む試験片1(
図1に示される試験片)において、上記ヒンジ部における長さ方向の中点を通る、幅方向及び厚み方向に沿う面による断面において、表面から厚み方向に20μmまでの部分Iにおける分散相の平均楕円率をE−20、表面から厚み方向に上記厚みt1に対して48%の長さから52%の長さまでの部分IIにおける分散相の平均楕円率をE−midとしたときに、以下の式(1)を満たす。
4.0≦(E−20)/(E−mid) ・・・(1)
上記(E−20)/(E−mid)は、4.5以上であることが好ましい。また、7.0以下であることが好ましい。
なお、上記部分I及び上記部分IIは、ヒンジ部にあることが好ましい。
平均楕円率が上記範囲であると、ヒンジ部で繰り返し開閉を行っても割れにくい、ヒンジ特性に特に優れた成形品を得ることができる。
上記平均楕円率は、例えば、射出成形時の、樹脂温度、金型温度、射出速度、ゲート点数、ゲート形状、成形品厚み、水分率、ゲート厚み等により調整することができる。
ここで平均楕円率とは、3個の試験片の上記部分I及び上記部分IIを透過型電子顕微鏡で5000倍に拡大観察し、画像解析装置(商品名「A像くん」、旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて、各試験片の部分I又は部分IIごとに、50個の分散相の長径と短径を計測し、楕円率=長径/短径を算出し、部分Iの楕円率の平均値(合計150個の分散相の楕円率の平均値)、部分IIの楕円率の平均値(合計150個の分散相の楕円率の平均値)を算出したものである。
なお、
図1において、上記ヒンジ部における長さ方向の中点を通る、幅方向及び厚み方向に沿う面による断面とは、ヒンジ部の重心Xを通り、幅方向及び厚み方向に沿う断面であり、折り曲げ方向に平行な断面や曲げ線方向に垂直な断面としてよい。
【0097】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記部分Iにおける分散相の面積分率をS−20、上記部分IIにおける分散相の面積分率をS−midとしたときに、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
1.10≦(S−20)/(S−mid) ・・・(2)
上記(S−20)/(S−mid)は、1.15以上であることがより好ましい。また、1.60以下であることが好ましい。
面積分率が上記範囲であると、ヒンジ部で繰り返し開閉を行っても、一層割れにくくなり、ヒンジ特性に一層優れた成形品を得ることができる。
上記面積分率は、例えば、射出成形時の、樹脂温度、金型温度、射出速度、ゲート点数、ゲート形状、成形品厚み、水分率、ゲート厚み等により調整することができる。
面積分率とは、3個の試験片の上記部分I又は上記部分IIから任意に選択した20μm四方の正方形中に占める、分散相の合計面積のことをいう。分散相の面積は、透過型電子顕微鏡で5000倍に拡大観察し、画像解析装置(商品名「A像くん」、旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて測定することができる。
【0098】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に一層優れる観点から、荷重たわみ温度が、160〜200℃であることが好ましい。なお、荷重たわみ温度は、実施例の評価試験における(1)荷重たわみ温度に記載の方法で測定することができる。
【0099】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、機械的強度に一層優れる観点から、シャルピー衝撃強度が20〜30kJ/m
2であることが好ましい。なお、シャルピー衝撃強度は、実施例の評価試験における(2)シャルピー衝撃強度に記載の方法で測定することができる。
【0100】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、機械的強度に一層優れる観点から、曲げ弾性率が2200〜2800MPaであることが好ましい。なお、曲げ弾性率は、実施例の評価試験における(3)曲げ弾性率に記載の方法で測定することができる。
【0101】
[成形品]
本発明の成形品は、少なくとも一部が本実施形態の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品である。本実施形態の成形品は全体が本実施形態の熱可塑性樹脂組成物からなっていてもよい。
本実施形態の成形品としては、ヒンジ部を有する成形品が挙げられ、具体的には、
図1に示すような、2つの構造部とこれらを連結するヒンジ部とを有し、ヒンジ部で連結された一方の構造部にゲート3が設けられている成形品等が挙げられる。
本明細書において、「ヒンジ部」とは、1つの部品内の2つの構造部を連結する部分のことを言う。ヒンジ部は、例えば、薄板状、フィルム状、紐状の構造をしていてもよい。
【0102】
上記ヒンジ部としては、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂組成物により形成されたヒンジ部が好ましく、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物から形成されたヒンジ部がより好ましい。
上記ヒンジ部の厚みとしては、0.1〜3.0mmであることが好ましく、0.3〜1.2mmであることがより好ましく、0.3〜0.9mmであることがさらに好ましく、0.3〜0.7mmであることが特に好ましい。成形品の厚みが上記範囲であると、ヒンジ特性と機械強度に特に優れる。
上記ヒンジ部の幅としては、3〜5mmが好ましく、3mmがより好ましい。また、上記ヒンジ部の長さとしては、5〜25mmが好ましい。
本実施形態の成形品では、上記ヒンジ部において、前述の式(1)を満たすことが好ましく、前述の式(1)(2)を満たすことがより好ましい。
【0103】
本実施形態の成形品において、ゲート点数は特に限定されない。また、ゲートが設けられる位置は、折り曲げ方向に平行な断面において、分散相が折り曲げ方向に配向して楕円形状になりやすく、ヒンジ特性に優れたヒンジ部を形成しやすくなる観点から、構造部とヒンジ部とが連結している面に、好適にはヒンジ部の幅方向の延長上に設けられていることが好ましく、例えば、上記ヒンジ部の折り曲げ方向と平行となる位置(
図1のゲート3の位置)であることが好ましい。また、ゲートの延在方向がヒンジ部の幅方向に沿うようにゲートが設けられていることが好ましい。
上記ゲートの厚みとしては1.5mm以下であることが好ましく、1.2mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましく、0.9mm以下であることが特に好ましい。また、ゲート厚みは、0.3mm以上であることが好ましい。ゲートの厚みが1.0mm以下であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低くても、外観とヒンジ特性に一層優れた成形品を得ることができる。また、ゲートの厚みが1.0mm以下となり、熱溶融した樹脂が金型に流れ込む際の導入口が薄くなると、樹脂が射出される際にひずみがかかりやすくなることで、ポリフェニレンエーテルを含む分散相が真円から楕円に変形し、また、ポリフェニレンエーテルの分布に傾斜が起こしやすくなることで、得られる成形品が分散状態をとりやすくなる。ゲート厚みが1.5mm超であると、成形時にひずみが十分に起こらず、ヒンジ特性が低下する。
ゲートの厚みとは、金型のゲート部分に相当する部分のうち最も薄い部分の厚みをいう。
なお、本実施形態の成形品におけるゲートは、成形後に切り取ってもよい。
【0104】
本実施形態の成形品において、上記ヒンジ部が連結する上記構造部としては、特に限定されず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物、本発明以外の熱可塑性樹脂組成物、熱硬化性樹脂、紙、布帛、金属、木材、セラミックス等を含む材料から形成されていてもよい。中でも、ヒンジ部との接着力が強固になるという観点から、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物から形成されていることが好ましい。
また、上記構造部のサイズは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されない。
【0105】
本実施形態の成形品は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物のみからなる成形品であってもよいし、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物と、各種熱可塑性樹脂又はその組成物、熱硬化性樹脂、紙、布帛、金属、木材、セラミックス等の各種の材料との複合材料からなる成形品であってもよい。
【0106】
本実施形態の成形品は、ポリアミド及びポリフェニレンエ−テル系樹脂が本来有する優れた特性をバランス良く兼ね備え、ヒンジ特性および成形品外観に優れているので、それらの特性を生かして、自動車用部品、工業材料、産業資材、電気電子部品、機械部品、事務機器用部品、家庭用品、シ−ト、フィルム、繊維、その他の任意の形状及び用途の各種成形品として有効に使用することができる。特に電気電子部品及び自動車用電気電子部品として好適であり、中でも自動車用電気電子部品の一つである、リレーブロックとして好適である。
【0107】
[成形品の製造方法]
本発明の成形品を製造する方法は、上記熱可塑性樹脂組成物を、ゲート厚み1.0mm以下のゲートを有する成形金型にて、成形温度270〜290℃、金型温度30〜60℃、射出速度45cm
3/sec以上で、成形する工程を含む。
【0108】
本実施形態の成形品は、本発明の成形品を製造する方法により製造することが好ましい。
本実施形態の成形品を製造する際の成形方法や成形装置は、目的とする成形品の種類、用途、形状などに応じて、一般に用いられている種々の成形方法や成形装置が使用でき、成形方法としては射出成形が好ましい。
【0109】
本実施形態の成形品を製造する際の成形温度としては、成形時のポリフェニレンエーテルの分散相の配向を促す観点から、270〜290℃が好ましい。成形温度が270℃未満であると、流動性が低く成形が困難となる。また、290℃超であると、分散相の配向が起こりにくい。
【0110】
本実施形態の成形品を製造する際の金型温度としては、分散相の配向を促しながら薄肉成形を達成し、さらに表面のポリフェニレンエーテル割合を適正範囲に制御する観点から、30〜60℃が好ましい。金型温度が30℃未満であると、薄肉の成形が困難である上、厚み方向に表面から20μmまでのポリフェニレンエーテルの割合が減少する。金型温度が60℃超であると、ポリフェニンエーテル相の配向が起こりにくい。
【0111】
本実施形態の成形品を製造する際の射出速度は、分散相を配向させる観点から、45cm
3/sec以上が好ましい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は実施例などにより何ら限定されるものではない。
【0113】
まず以下に、実施例、比較例で使用した熱可塑性樹脂組成物の原料について説明する。
(A)ポリアミド(PA)
ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(PA66)(粘度数=120mL/g、末端アミノ基濃度=30μmol/g、末端カルボキシル基濃度=110μmol/g、PA66の重合時に、ヨウ化銅と、ヨウ化カリウム共存下で重合し、PA66中に、銅元素を100質量ppm、ヨウ素を4000質量ppm含む。)
(B)ポリフェニレンエーテル (PPE)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(還元粘度=0.42dL/g(0.5g/dLクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定))
(C)相溶化剤
MAH(商品名「無水マレイン酸」、三菱化学株式会社製)
(D)衝撃改良剤
SEBS(ポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレンの各ブロックからなる共重合体、数平均分子量=170,000、ポリスチレンブロック1個あたりの数平均分子量=29,800、スチレン成分合計含有量=35質量%、1,2−ビニル結合量=38%、ポリブタジエン部の水素添加率=98%以上、パラフィン系オイルを35質量%含有)
(E)付加的成分
過酸化物(Peroxide)(商品名「パーヘキサ25B−40」、日本油脂株式会社製)
【0114】
次に、押出混練方法について説明する。
上流側に1カ所と、押出機中央部に1カ所の供給口を有する二軸押出機(商品名「ZSK−70]、ウェルナー&フライデラー社製(ドイツ)」のシリンダー温度を上流側供給口(以下メイン−Fと略記)より押出機中央部供給口(以下サイド−Fと略記)までを320℃、サイド−Fからダイまでを270℃に設定した。
【0115】
下記表1、2に示す割合に従い、メイン−Fより、PPE、SEBS、及び相溶化剤としてMAH、過酸化物をそれぞれ均一混合したものを供給し、サイド−Fより、下記表1,2に示す割合の量のPAを供給し、溶融混練して押出し、ストランドバス(全長5m)に約2mの距離で浸漬し冷却し、ストランドをペレタイザーでカットし、ペレットを得た。得られたペレットへの吸湿を防止するため、ただちにアルミニウムコートされた防湿袋に入れた。
なお、このときのスクリュー回転数は300回転/分とし、吐出量は1.5t/hであった。また、サイド−Fのあるバレルの直前のバレルと、ダイ直前のバレルにそれぞれ開口部を設け、真空吸引することにより残存揮発分及び残存オリゴマーの除去を行った。この時の真空度は−700mmHgであった。
なお、表1、2中の各成分の含有量は、(A)ポリアミドと(B)ポリフェニレンエーテルとの合計量を100質量部とした時の値である。
【0116】
実施例及び比較例で行った各評価試験は、以下のようにして行った。
(1)荷重たわみ温度
ASTM D648に従い、以下の方法で荷重たわみ温度を測定した。
射出成形機(TOYOplaster TI50G2)を用いて、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットから、表1、2に示す成形条件にて、幅12.7mm×長さ127mm×厚み3.2mmのASTMタンザク試験片を成形した。得られた成形片を用いて、1.82MPa荷重下での荷重たわみ温度(加熱変形温度)を測定した。
(2)シャルピー衝撃強度
射出成形機(TOYOplaster TI50G2)を用いて、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットから、表1、2に示す成形条件にて、幅10mm×長さ80mm×厚み4mm、ノッチ深さ2mmのシャルピー衝撃強度測定用試験片に射出成形し、ISO 179に準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。
(3)曲げ弾性率
射出成形機(TOYOplaster TI50G2)を用いて、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットから、表1、2に示す成形条件にて、幅10mm×長さ80mm×厚み4mmの曲げ弾性率測定用試験片を射出成形し、ギアーオーブンを用い、80℃の環境下に24時間静置し熱履歴処理を行った。測定はISO178に準じて行った。
(4)ヒンジ特性
射出成形機(TOYOplaster TI50G2)を用いて、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットから、表1、2に示す成形条件にて、
図1、2に示すヒンジ特性評価用試験片を成形し、JISK7118−1995に準じて、23℃、50%RH雰囲気下で自動繰り返しヒンジ試験機(東洋精機製作所(株)製)を用いて、ヒンジ部をほとんど180°まで折り曲げ、元の位置(0°)の位置に戻す動作を33回/分の速度で繰り返し、何回折り曲げた段階で折れて破壊するかを測定した。
(5)表面外観
射出成形機(TOYOplaster TI50G2)を用いて、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットから、カラーチップ成形片に射出成形し、目視で三段階評価を行った。なお、成形時に混合する異物は、樹脂の炭化物、水分等によるものと考えられる。
○;良い(目視で確認できる、黒点、シルバーストリークスがない)
△;普通(目視で確認できる黒点が3個以下であり、シルバーストリークス、ボイドがない)
×;悪い(シルバーストリークス、ボイド等が見られる)
(6)平均楕円率
3個のヒンジ特性評価用試験片を成形し、各試験片について、ヒンジ部における長さ方向の中点を通る、幅方向及び厚み方向に沿う面による断面において、厚み方向に表面から20μmまでの部分I、及び、表面から厚み方向に前記厚みに対して48%の長さから52%の長さまでの部分IIを、TEM(商品名「透過電子顕微鏡HT7700」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で、5000倍に拡大観察し、画像解析装置(商品名「自動画像解析処理装置 LUZEX SE」、株式会社ニレコ製)を用いて、各試験片の部分I及び部分IIごとに50個の分散相の長径と短径を計測し、楕円率=長径/短径を算出して、3個のヒンジ特性評価用試験片の部分Iの楕円率の平均E−20(150個の分散相の楕円率の平均)、3個のヒンジ特性評価用試験片の部分IIの楕円率の平均E−mid(150個の分散相の楕円率の平均)から、「E−20/E−mid」を求めた。
なお、部分I及び部分IIの分散相は、ヒンジ部から選択した。また、ヒンジ部の厚みが0.6mmである場合、部分Iは厚み方向に表面から20μmまでの部分をいい、部分IIは、表面から厚み方向に288μmから、表面から厚み方向に312μmまでの部分をいう。
(7)面積分率
3個のヒンジ特性評価用試験片を成形し、各試験片について、ヒンジ部における長さ方向の中点を通る、幅方向及び厚み方向に沿う面による断面において、厚み方向に表面から20μmまでの部分I、及び、表面から厚み方向に前記厚みに対して48%の長さから52%の長さまでの部分IIを、TEM(商品名「透過電子顕微鏡HT7700」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で、5000倍に拡大観察し、上記部分I及び上記部分IIから任意に選択した20μm四方の正方形中に占める、分散相の合計面積(面積分率)を、画像解析装置(商品名「自動画像解析処理装置 LUZEX SE」、株式会社ニレコ製)を用いて測定した。そして、3個のヒンジ特性評価用試験片の部分Iの面積分率の平均値S−20、3個のヒンジ特性評価用試験片の部分IIの面積分率の平均値S−midから、「S−20/S−mid」を求めた。
なお、部分I及び部分IIの分散相は、ヒンジ部から選択した。
(8)水分率
ISO15512:1999のB法に準拠(オーブン設定温度:185℃)して、実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットの水分率を測定した。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例と比較例との対比から、(E−20)/(E−mid)の値が4.0以上であると、高いヒンジ特性が維持されることが明らかとなった。また、(E−20)/(E−mid)の値が4.0以上であり、(S−20)/(S−mid)の値が1以上であると、一層高いヒンジ特性が得られた。更に、比較例6から、熱可塑性樹脂組成物のペレット中の水分率が高い場合は、成形品の表面の外観不良が生じやすいことが判った。また、PPEを75質量部添加した比較例7では、PPE部分が層状となり、(E−20)/(E−mid)は測定不可能であった。