特許第6581567号(P6581567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581567
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/10 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   F04B39/10 K
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-512662(P2016-512662)
(86)(22)【出願日】2015年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2015059534
(87)【国際公開番号】WO2015156144
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-78300(P2014-78300)
(32)【優先日】2014年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】池田 英明
(72)【発明者】
【氏名】貞方 康輔
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043017(WO,A1)
【文献】 特開2003−120563(JP,A)
【文献】 特開2007−146761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが駆動することにより流体を圧縮する圧縮機において、
前記流体が通過するポートが設けられた弁座板と、
前記弁座板に設けられ、前記ポートを開閉する弁とを備え、
前記弁は一端が固定具により前記弁座板に固定されており、
前記弁座板は、前記弁と接触する側の面に、前記ポートの中心部に向けて低くなる斜面を備えており
前記固定具から遠い部分における前記傾斜面の傾斜角は、前記固定具に近い部分における前記傾斜面の傾斜角よりも大きく、10°以下であることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記傾斜面の傾斜角は連続的に変化することを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
モータがピストンを駆動することにより流体を圧縮する往復動圧縮機において、
前記ピストンの往復動に伴い流体が通過するポートが設けられた弁座板と、
前記弁座板に設けられ、前記ポートを開閉する弁とを備え、
前記弁は一端が固定具により前記弁座板に固定されており、
前記弁座板は、前記弁と接触する側の面に、前記ポートの中心部に向けて低くなる斜部または複数の段差部を備えており
前記傾斜部または複数の段差部の径方向の高さの差をh、径方向長さをrとしたとき、h/rを周方向位置により異ならせ、
前記固定具から遠い部分における前記傾斜部または前記段差部の径方向の高さの差hと径方向長さrの比h/rを前記固定具に近い部分における前記傾斜部または前記段差部の径方向の高さの差hと径方向長さrの比h/rよりも大きく、記傾斜部または段差部における傾斜角は10°以下であることを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項4】
前記傾斜部を平面または曲面により形成することを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記傾斜部または前記段差部の径方向の高さの差hと径方向長さrの比h/rを連続的に変化することを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2007−146761号公報(特許文献1)がある。
【0003】
特許文献1には、「吐出孔を取り囲む環状弁座面が弁板に形成され、環状弁座面を取り囲む環状シール面が弁板に形成され、環状弁座面は環状シール面よりもシリンダボア側へオフセットしており、吐出室内圧とシリンダボア内圧との差圧が零の時に吐出弁は環状シール面に当接し、前記差圧が正の所定値に達すると吐出弁は弾性変形して環状弁座面に当接する」往復動圧縮機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−146761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の往復動圧縮機の吐出孔を取り囲む環状弁座面と環状弁座面を取り囲む環状シール面の形状は周方向の位置によらず一定である。ここで、高圧の圧縮空気を得ようとすると、弁にかかる圧力差が大きくなり、弁の開放端側と固定端側とで弁の変形量が大きくなる。このとき特許文献1の往復動圧縮機の吐出孔は弁の変形に追従した形状になっていないため、シール性が低下していた。このため、特許文献1の往復動圧縮機は、特に高圧の圧縮空気を得ようとしたときに圧縮空気がシリンダの吐出室側から圧縮室側に逆流して圧縮効率を向上させることができなかった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、弁と吐出(吸入)ポートとのシール性を向上させ、圧縮空気の逆流を抑制し、圧縮効率を向上させた圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、モータがピストンを駆動することにより流体を圧縮する往復動圧縮機において、前記ピストンの往復動に伴い流体が通過するポートが設けられた弁座板と、前記弁座板に設けられ、前記ポートを開閉する弁とを備え、前記弁座板の前記弁と接触する側の面に、前記ポートの中心部に向けて低くなるような傾斜面を形成したことを特徴とする圧縮機を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弁と吐出(吸入)ポートとのシール性を向上させ、圧縮空気の逆流を抑制し、圧縮効率を向上させた圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例にかかる圧縮機の圧縮部の断面図(上死点)
図2】本発明の実施例にかかる圧縮機の圧縮部の断面図(下死点)
図3】本発明の実施例にかかる圧縮機の弁座板と弁の詳細図
図4】本発明の実施例にかかる圧縮機の断面図
図5】本発明の変形例にかかる圧縮機の弁座板と弁の詳細図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る圧縮機の実施例を、図1図5を用いて説明する。
【0011】
図4を用いて本実施例にかかる往復動圧縮機の全体構造について説明する。
【0012】
シリンダ11内に往復動可能に設けられたピストン21は、コネクティングロッド22にボルト23によって締結された円板状のリテーナ24とによって構成されている。
【0013】
シリンダ11はクランクケース1に接続される。クランクケース1は、モータ等の駆動源を収容するもので、ピストン21はモータの回転軸2に偏心軸3、軸受4を介して接続されている。モータが駆動すると、回転軸2が回転し、軸受4を介して回転軸2の回転運動が偏心軸3の偏心運動に変換される。偏心軸3の偏心運動に伴い、偏心軸3に接続されたピストン21がシリンダ11内を揺動しつつ往復動する。ピストン21は、シリンダ11内を揺動しつつ往復動することにより、空気などの流体を圧縮する。
【0014】
揺動ピストン21の外周側に設けられたリップリング25は、樹脂材料を用いてリング状に形成されている。また、リップリング25は、コネクティングロッド22とリテーナ24に挟まれて、ボルト23によって締結された状態で固定されている。さらに、リップリング25はシリンダ11の内周面に締代をもって摺接している。リップリング25は、揺動ピストン21の揺動に追従して拡縮径し、ピストン21とシリンダ11との間をシールする。
【0015】
シリンダ11とシリンダヘッド12の間に固定された弁座板14には吐出ポート17が設けられている。また、弁座板14には圧力差によって吐出ポートを開閉する弁18がボルト19によって固定されている。
【0016】
図1図2を用いて本実施例における往復度圧縮機の動作について説明する。
【0017】
通常、弁18は弁座板14に接触して吐出ポート17が閉状態となっている。図1に示すように、圧縮工程においてピストン21がシリンダ11内を上昇し、シリンダ11内部の圧力が上昇して弁18の上下の圧力差が大きくなると、弁18が押し上げられて弁座板14から離れ、吐出ポート17が開状態となる。このとき、圧縮室7から吐出室6へ空気が吐出され、空気が圧縮される。
【0018】
また、図2に示すように、吸込工程においてピストン21がシリンダ11内を下降し、シリンダ11内部の圧力が減少して弁18の上下の圧力差が小さくなると、弁18が弁座板14に押し付けられて、吐出ポート17が閉状態となる。このようにして、吐出室6から圧縮室7へ空気が逆流しないようにしている。
【0019】
ピストン21の往復動に伴い、弁18によって吐出ポートが開閉し、吸込工程で吸い込まれた空気が吐出工程でシリンダから外部に接続されたタンクに吐出されることにより、空気が圧縮される。
【0020】
図3を用いて本実施例おける弁座板の形状について説明する。
【0021】
例えば、吸込工程時において、弁18の吐出室6側(弁18を弁座板14の上に配置した時の上側)の圧力が高く、圧縮室7側(弁18を弁座板14の上に配置した時の下側)の圧力が低い場合において、弁18にかかる圧力差が大きくなり、弁18が弁座板14に強く接触することにより、弁18が変形する。 このとき、弁18の変形を考慮した形状に弁座板14を形成しないと、弁18と弁座板14との間に隙間が形成されてしまい、吐出ポート17のシール性が低下する。
【0022】
ここで、弁18は一方の端をボルト19で固定された固定端であり、他方の端は開放された開放端である。吐出ポート17の周辺における弁18の変形は吐出ポート17の周方向によって異なる。具体的には、図3に示すように、弁18の開放端側18aの変形角度αと固定端側18bの変形角度βはα > β の関係になる。即ち、開放端に近づけば近づくほど変形角度は大きくなり、固定端に近づけば近づくほど変形角度は小さくなる。
【0023】
そこで、本実施例では、弁座板14の弁18と接触する側の面には傾斜部14aが設けて傾斜面を形成した。弁18が弁座板14よりも上になるように配置したとき、傾斜面は吐出ポート17に近づくにつれて低くなるように形成されている。
【0024】
傾斜面は、吐出ポート17形成時の面取りとして行うものではなく、上記のように、幅を持って弁18と弁座板14が接触しシール性を向上させるために形成するものであるため、弁18と弁座板の寸法等により異なるが、傾斜面の傾斜角は10°以下で形成される。
さらに、よりシール性を高めるために、弁18の変形に対応して斜面の傾斜角を周方向の位置により異ならせるようにした。具体的には、弁座板14の傾斜部14aは弁18の開放端側の傾斜角が大きく(α)、固定端側の傾斜角が小さく(β)なる形状とした。即ち、開放端に近づけば近づくほど傾斜角を大きくなるようにし、固定端に近づけば近づくほど傾斜角を小さくなるようにした。
【0025】
ここで、傾斜部14aの吐出ポート17の中心から見た径方向外側と径方向内側の高さの差をh、傾斜部の径方向長さをrとしたとき、hとrの比h/rは周方向の位置によって異なっている。このとき、h/rを弁18の開放端に近づくほど大きく、固定端に近づくほど小さくなっている。
【0026】
傾斜部の傾斜角(α)及び(β)や比h/rは、望ましくは、シミュレーションや計測により、弁18の変形量やシール性を考慮してそれぞれ決定する。但し、傾斜部の傾斜角や比h/rを周方向の位置に関わらず一定の値としてもよく、幅を持って弁18と弁座板14が接触するためシール性の向上が可能である。
【0027】
これにより、弁座板14の形状が弁18の変形に対応したものとなるため、弁18に周方向において微小なうねりやしわなどの変形が発生せず、図3に示す弁18と弁座板14との接触部の面圧分布のように全周にわたってある幅で弁18と弁座板14とが接触するようになり(面接触となり)、弁座板14と弁18との隙間を小さくすることができる。そのため、吸込工程において、吐出室6から圧縮室6への逆流を効果的に防止でき、吐出性能を向上させることができる。
【0028】
また、弁18の固定端側部分18cの変形(盛り上がり)が小さくなり、この部分に発生する応力を小さくすることができる。このため、弁18の厚さを薄くするでき、弁18が弁座板14を叩く音を小さく抑え、圧縮機運転時の騒音を小さく抑えることが可能となる。
【0029】
さらに、本実施例では、弁座板14の傾斜部14aは円周方向に対して滑らかにつながるように構成した。弁の18の変形量は円周方向に対して連続的に変化するため、それに対応して、弁座板14の傾斜部14aの傾斜角とhとrの比h/rも連続的に変化させることにより、吐出室6から圧縮室6への逆流をより効果的に防止でき、吐出性能を向上させることができる。
【0030】
本実施例では、吐出ポート17側の弁座板14の形状について説明してきたが、吸込ポート側の弁座板の形状についても同様の構成することにより、弁と吸込ポートとのシール性を向上させ、圧縮性能を向上させることできる。
【0031】
なお、本実施例では、弁座板14に平面状の傾斜部14aを形成したが、傾斜部14aは平面状ではなく曲面状であってもよい。このとき、傾斜部14aの吐出ポート17の中心から見た径方向外側と径方向内側の高さの差をh、傾斜部の径方向長さをrとしたとき、hとrの比h/rは周方向の位置によって異なっている。h/rは弁18の開放端に近づくほど大きくなり、固定端に近づくほど小さくなるようにする。
【0032】
また、本実施例では、弁座板14に傾斜部14aを形成したが、傾斜部14aに代えて段差部にしてもよい。図5に示すように、弁座板14に複数の段差部14bを設け、吐出ポート17の中心から見た径方向外側と径方向内側の高さの差(図5では段差が複数段あるため、最も高いところと低いところの高さの差)をh、段差部の径方向長さをr(図5では段差が複数段あるため、ポートに最も近いところと遠いところの差)としたとき、hとrの比h/rは周方向の位置によって異なっている。h/rは弁18の開放端に近づくほど大きくなり、固定端に近づくほど小さくなるようにする。
【0033】
また、段差部14bが複数段設けてあるため、弁18と弁座板14の段差の角部14cが円周状に線接触し、複数の線接触が形成される。これにより、漏れ通路に複数の微小隙間を形成できるため、ラビリンス効果によって吸込工程において、吐出室6から圧縮室6への逆流(漏れ)を効果的に防止でき、吐出性能を向上させることができる。
【0034】
なお、h/rは周方向の位置によらず一定としても複数の線接触が形成されシール性の向上が可能である。
【0035】
また、本実施例では、傾斜部と段差部を組み合わせたものを弁座板に形成してもよい。
【0036】
以上より本実施例によれば、弁18と弁座板14とが強く接触し、弁18が変形した場合でも、弁18と弁座板14との間の隙間を小さくすることでシール性を向上させ、圧縮空気の逆流を効果的に防止して吐出性能を向上できる。
【0037】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 クランクケース
2 軸
3 偏心軸
4 軸受
5 錘
6 吐出室
7 圧縮室
11 シリンダ
12 シリンダヘッド
14 弁座板
14a 傾斜部
17 吐出ポート
18 弁
18a 弁開放端側
18b 弁固定端側
19 ボルト
21 ピストン
22 コネクティングロッド
23 ボルト
24 リテーナ
25 リップリング
α 弁開放端側変形角度(吐出ポート端傾斜角度)
β 弁固定端側変形角度(吐出ポート端傾斜角度)
図1
図2
図3
図4
図5