特許第6581569号(P6581569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581569
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】抗真菌局所組成物および処置の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20190912BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190912BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/4741 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K31/137
   A61K47/34
   A61P31/10
   A61K31/7048
   A61K31/496
   A61K31/4741
   A61K9/06
   A61K9/12
   A61K9/70 401
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-516087(P2016-516087)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公表番号】特表2016-536271(P2016-536271A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】GB2014052911
(87)【国際公開番号】WO2015044669
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】1317005.5
(32)【優先日】2013年9月25日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1320723.8
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515285475
【氏名又は名称】ブルーベリー セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】リドゥン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】グッド,リアム
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−536233(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/177986(WO,A1)
【文献】 特開2011−194189(JP,A)
【文献】 特開2012−235899(JP,A)
【文献】 特開2013−066730(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054123(WO,A1)
【文献】 mycoses, 2012, Vol.55, Supplement 4, p.207, Abstract No. P361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A61K 9/06
A61K 9/12
A61K 9/70
A61K 31/137
A61K 31/4741
A61K 31/496
A61K 31/7048
A61K 47/34
A61P 31/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーおよび抗真菌剤から形成されたナノ粒子を含む、真菌爪感染症または真菌皮膚感染症を処置するための局所組成物であって、前記ポリマーが、直鎖状および/もしくは分岐状もしくは環状ポリモノグアニド/ポリグアニジン、またはポリビグアニドを含み、前記抗真菌剤がテルビナフィンを含む、局所組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む、請求項1に記載の局所組成物。
【請求項3】
前記抗真菌剤が、前記抗真菌剤の治療的に有効な全身用量より少ない投与量で前記組成物中に存在する、請求項1または2に記載の局所組成物。
【請求項4】
1つまたは複数の以下の成分:緩衝液、賦形剤、結合剤、油、水、乳化剤、グリセリン、抗酸化剤、防腐剤および香料をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の局所組成物であって、尿素をさらに含んでもよい、局所組成物。
【請求項5】
前記真菌皮膚感染症が、水虫または皮膚糸状菌感染症および/もしくは酵母菌感染症を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の局所組成物。
【請求項6】
前記抗真菌剤が、以下の群:ナイスタチン、ケトコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾールまたはベルベリンから選択される1つまたは複数のさらなる薬剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の局所組成物。
【請求項7】
クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤または散剤の形態である、請求項1から6のいずれか一項に記載の局所組成物。
【請求項8】
マイクロニードルアレイにより投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の局所組成物であって、前記マイクロニードルアレイが、接着パッチに組み込まれていてもよい、局所組成物。
【請求項9】
ナノ粒子を形成するために適切な条件下で、直鎖状および/もしくは分岐状もしくは環状ポリモノグアニド/ポリグアニジン、またはポリビグアニドを含むポリマーと、テルビナフィンを含む抗真菌剤とを混合するステップを含む、真菌爪感染症または真菌皮膚感染症を処置するための局所組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物を製造するために使用される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
マイクロニードルアレイとの組合せで使用される請求項1から8のいずれか一項に記載の局所組成物あって、前記マイクロニードルアレイが、接着パッチに組み込まれていてもよい、局所組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子を形成することが可能なポリマーおよび抗真菌剤を含む、真菌感染症を処置するための局所組成物(およびそのような組成物を生成する方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は、ヒトおよび動物の両方でますます一般的になっているが、抗真菌組成物の毒性、そのような組成物の溶解度の低さ、および旧来からの医薬製剤を使用しては到達が困難と証明できる一部の感染症の位置の遠隔性から、そのような感染症の処置は問題であり続けている。
【0003】
抗真菌薬、例えばアムホテリシンB、ハマイシン、フィリピンおよびナイスタチンの広域スペクトルは、1960年代に発見された。しかし、毒性のため、ハマイシンおよびナイスタチンが局所的に使用され、アムホテリシンBが全身的に使用されるにとどまっている。抗真菌薬治療の飛躍的進歩は、アゾール、特にケトコナゾールの導入であった。現在使用されている抗真菌薬の主な分類は、ポリエン、アゾール、アリルアミン、リポペプチドおよびピリミジンである。しかし、ポリエンは、哺乳類細胞に毒性である。アゾールは、局所的に忍容性が良好であるが、全身的に投与された場合に副作用を有し、アゾールへの耐性が数件報告されている。フルシトシンは、最も一般的に使用されているピリミジンである。これは、優れた組織透過性を有するが、フルシトシンに対する耐性が急激に発現し、胃腸の副作用を生じることがある。リポペプチドは低毒性を呈し、有効性を試験するためいくつかのトライアルが依然として進行中である。
【0004】
新たな抗真菌薬の開発は、真菌が真核性であり、細胞標的は、破壊される場合は宿主細胞にも損傷を与える恐れがあるため、制約される。真菌感染症の拡大、および抗真菌薬の使用の増加は、真菌の間で耐性の出現を引き起こしている。真菌性疾患は、免疫不全患者において罹患率および死亡率の上昇を引き起こしているので、抗真菌薬の耐性は重大な臨床的影響を有する。
【0005】
新たに発見された薬物のおよそ40%が、水溶解度の問題から適正に送達されないために機能しないと評価されている。薬物を局所送達する場合、皮膚のバリア性質は、必要とされる薬物の用量を獲得するために、透過促進剤を必要とすることが多い。
【0006】
爪真菌症(より一般的には真菌性爪感染症として知られている)は、爪に肥厚、脱色、変形および割れを引き起こす。処置しないと、爪が非常に厚くなるので、その爪によって靴の内側へと圧迫が加えられ、圧迫、刺激および疼痛を引き起こす恐れがある。特に糖尿病患者、末梢血管疾患患者および免疫不全患者においてはさらなる合併症の危険性がある。真菌性爪感染症は、精神的および社会的問題を引き起こし得る。真菌性爪感染症の発生率は、加齢に伴って上昇し、60代超では約30%の有病率を有し、欧州ではアジアより一層値が高く、著しい発生率である。真菌性爪感染症は、1つまたは複数の趾爪および/または指爪に影響を与えることがあり、処置されていないままであれば、爪を徹底的に傷付けることがある。
【0007】
真菌性爪感染症の現行の処置は、6〜12カ月にわたり1週間につき1〜2回の局所ネイルラッカー/ペイント(例えばアモロルフィン)として、および/または経口抗真菌薬(例えばテルビナフィンもしくはイトラコナゾール)としてのものである。経口抗真菌薬は、重度の副作用、例えば胃腸障害を有する恐れがあり、肝不全を引き起こす恐れさえある。再発は、一般的に症例の25〜50%で報告されており、多くの患者は、予測される副作用および処置時間の長さのために処置コースに取り組まず、疾患がよりひどくなる場合にのみ処置を始めることが多いと予想される。現在の経口または局所処置は、作用するのに6〜12カ月かかることがある。経口処置は、爪先に到達させるために全身循環を満たさなければならず、用量を増加させると胃腸および肝臓の合併症に対する危険性を上昇させる。肥厚した爪を透過する際には局所処置は無効となり、再度高い投与量を必要とする。
【0008】
水虫(別名足の白癬、足白癬またはモカシン足(moccasin foot)として知られている)は、一般的に、トリコフィトン(Trichophyton)属中の真菌(最も一般的にはT.ルブルム(T rubrum)またはT.メンタグロファイテス(T mentagrophytes))によって引き起こされる皮膚の真菌感染症である。水虫を引き起こす様々な寄生真菌は、他の皮膚感染症、例えば爪真菌症および頑癬も引き起こすことがある。真菌性爪感染症とは異なるが、水虫も、処置の遵守および持続について問題を有する。
【0009】
アスペルギルス症は、アスペルギルス真菌(Aspergillus fungi)によって引き起こされる肺の感染症によって引き起こされる。この感染症は、いくつかの症状、例えば結核および慢性閉塞性肺疾患に関連する。感染症は、併用療法のアプローチを利用する場合でも処置が困難になり得ることが多い。アスペルギルス感染症は、トリアゾールにますます耐性となっている。
【0010】
真菌性角膜炎は、真菌感染症によって引き起こされる角膜の炎症である。ナタマイシンの眼病用懸濁液剤は、糸状菌感染症に使用されることが多いが、フルコナゾールの眼病用液剤は、カンジダ感染症に推奨されている。アムホテリシンBの点眼薬は、処置が困難な症例に使用されるが、これらの点眼薬は、患者に毒性の恐れがある。
【0011】
口腔カンジダ症は、カンジダ(Candida)属による口腔の粘膜の真菌感染症である。これは、うまく処置することが困難なことが多い免疫不全患者において、特に問題となる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、現行の抗真菌処置に関連する、1つまたは複数の上記の問題に取り組むことである。局所的な抗真菌処置を提供することも本発明の目的である。さらに、いくつかの体組織、例えば爪および/または真皮、粘膜ならびに角膜および/または強膜を経由する抗真菌剤の透過性を向上させる処置を提供することも、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下を提供する。
[1]ナノ粒子を形成することが可能なポリマーおよび抗真菌剤を含む、真菌感染症を処置するための局所組成物。
[2]上記ポリマーが、直鎖状および/もしくは分岐状もしくは環状ポリモノグアニド/ポリグアニジン、ポリビグアニド、それらの類似体または誘導体を含む、上記[1]に記載の局所組成物。
[3]上記ポリマーが、ポリヘキサメチレンビグアニドを含む、上記[1]または[2]に記載の局所組成物。
[4]上記ナノ粒子が、上記抗真菌剤と共に、および/または上記抗真菌剤の存在下で形成される、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[5]上記抗真菌剤が、上記抗真菌剤の治療的に有効な全身用量より少ない投与量で上記組成物中に存在する、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[6]1つまたは複数の以下の成分:緩衝液、賦形剤、結合剤、油、水、乳化剤、グリセリン、抗酸化剤、防腐剤および香料をさらに含む、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[7]尿素をさらに含む、上記[6]に記載の局所組成物。
[8]上記真菌感染症が、真菌性爪感染症、水虫または真菌性皮膚感染症を含む、上記[1]から[7]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[9]上記抗真菌剤が、以下の群:ナイスタチン、テルビナフィン、ケトコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾールまたはベルベリンから選択される1つまたは複数の薬剤を含む、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[10]上記真菌感染症が、皮膚糸状菌感染症および/または酵母菌感染症を含む、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[11]クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤または散剤の形態である、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[12]マイクロニードルアレイにより投与される、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の局所組成物。
[13]上記マイクロニードルアレイが、接着パッチに組み込まれる、上記[12]に記載の局所組成物。
[14]局所薬物の調製における、抗真菌剤と共に、または抗真菌剤に結合させて、1つまたは複数のナノ粒子を形成するためのポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)の使用。
[15]上記ナノ粒子が、感染領域への上記抗真菌剤の送達ビヒクルとして使用される、上記[14]に記載のPHMBの使用。
[16]上記PHMBが、上記抗真菌剤との相乗効果を形成する、上記[14]または[15]に記載のPHMBの使用。
[17]ナノ粒子を形成するために適切な条件下で、ナノ粒子を形成することが可能なポリマーと抗真菌剤とを混合するステップを含む、真菌感染症を処置するための局所組成物を生成する方法。
[18]上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の組成物を生成するために使用される、上記[17]に記載の方法。
[19]ナノ粒子を形成することが可能なポリマーおよび抗真菌剤を含む組成物、ならびに真菌性爪感染症の処置に使用するマイクロニードルアレイの組合せ。
[20]上記マイクロニードルアレイが、接着パッチに組み込まれる、上記[19]に記載の組合せ。
本発明の第一の態様に従って、ナノ粒子を形成することが可能なポリマーおよび抗真菌剤を含む、真菌感染症を処置するための局所組成物が提供される。
【0014】
ポリマーおよび抗真菌剤からナノ粒子を形成することにより、抗真菌剤が細胞に格段に効率的に取り込まれるので、放出プロファイルをより遅くするだけではなく、治療量も低下させた局所薬物に製剤でき、この局所薬物を、全身的にではなく局所的に送達させ、ひいては経口的に投与される一部の抗真菌剤の危険性を除去できることを、本発明者らは有利に見出した。安全なナノポリマー送達系と強力な抗真菌剤を組み合わせることにより、効き目を改善し、感染症に対する現行の処置スケジュールを6カ月から6週間に潜在的に短縮できる局所処置が得られる。
【0015】
「局所組成物」という用語は、体表面の外面、例えば皮膚、爪、眼、気管支、粘膜、口腔および胃腸管に適用される(または適用され得る)組成物を意味するように意図されている。
【0016】
「ナノ粒子」という用語は、およそ0.5〜200nmの範囲の平均直径を有する構造を意味するように意図されている。好ましくは、ナノ粒子は、1から150nmの範囲、より好ましくは2から120nmの範囲、最も好ましくは5から120nmと予想される。一部の例では、ナノ粒子は、およそ100から120nmの上限範囲が好ましく、50から175nmの範囲がより好ましく、75から150nmの範囲がより一層好ましく、110から140nmの範囲が最も好ましい。他の例では、ナノ粒子は0.5から10nmの下限範囲が好ましく、0.5から8nmの範囲がより好ましく、1から7nmがより一層好ましく、約7nm以下が最も好ましい。「抗真菌剤」という用語は、真菌感染症を引き起こす真菌の増殖および/または生存を阻害することが可能な様々な化合物および分子を包含するように意図されている。
【0017】
ポリマーは、直鎖状および/もしくは分岐状もしくは環状ポリモノグアニド/ポリグアニジン、ポリビグアニド、それらの類似体または誘導体を含むことが好ましい。直鎖状および/もしくは分岐状もしくは環状ポリモノグアニド/ポリグアニジン、ポリビグアニド、それらの類似体または誘導体は、以下の式1aまたは式1bに従っていてよく、以下の表AおよびBで例が示されている:
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
式中:
「n」は、ポリマー中の繰り返し単位の数を指し、nは、2から1000、例えば2または5から、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800または900に変化し得る;
【0020】
およびGは、ビグアニドまたはグアニジンを含むカチオン基を独立して表し、式中、LおよびLは、グアニドの窒素原子に直接結合している。したがって、ビグアニドまたはグアニジン基は、ポリマー骨格に統合される。ビグアニドまたはグアニジン基は、式1aにおける側鎖部分ではない。
【0021】
カチオン基の例:
ビグアニド
【0022】
【化3】
(PHMB中の場合)
または
グアニジン
【0023】
【化4】
(PHMG中の場合)
【0024】
本発明において、LおよびLは、ポリマー中のカチオン基GおよびGの間の連結基である。LおよびLは、C〜C140の炭素原子を含有する脂肪族基、例えばアルキル基、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、C、C、C、C、C、CもしくはC10;C〜C10、〜C20、〜C30、〜C40、〜C50、〜C60、〜C70、〜C80、〜C90、〜C100、〜C110、〜C120、〜C130もしくは〜C140のアルキルを独立して表すことができ;またはLおよびLは、(独立して)C〜C140(例えばC、C、C、C、C、C、C、C、CもしくはC10;C〜C10、〜C20、〜C30、〜C40、〜C50、〜C60、〜C70、〜C80、〜C90、〜C100、〜C110、〜C120、〜C130または〜C140)の、脂環式、複素環式、芳香族、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルであってよく、またはLおよびLは、(独立して)1個または複数の、好ましくは1個の、酸素、窒素または硫黄原子、官能基ならびに飽和もしくは不飽和環状部分が場合により介在するポリアルキレンラジカルであってよい。適切なLおよびLの例は、表Aに一覧表示されている基である。
【0025】
、L、GおよびGは、脂肪族、脂環式、複素環式、アリール、アルカリルおよびオキシアルキレンラジカルを使用して修飾されていてよい。
【0026】
NおよびGは、好ましくは末端基である。典型的には、本発明における使用のポリマーは、末端アミノ(N)およびシアノグアニジン(G)またはグアニジン(G)末端基を有する。そのような末端基は、脂肪族、脂環式複素環式、複素環式、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルへの連結により、(例えば1,6−ジアミノヘキサン、1,6ジ(シアノグアニジノ)ヘキサン、1,6−ジグアニジノヘキサン、4−グアニジノ酪酸で)修飾されていてよい。さらに、末端基は、受容体リガンド、デキストラン、シクロデキストリン、脂肪酸または脂肪酸誘導体、コレステロールまたはコレステロール誘導体またはポリエチレングリコール(PEG)への連結により修飾されていてよい。場合により、ポリマーは、NおよびG位のグアニジンもしくはビグアニドもしくはシアノアミンもしくはアミンもしくはシアノグアニジン、またはN位のシアノアミンおよびG位のシアノグアニジン、またはN位のグアニジンおよびG位のシアノグアニド、またはGのL1アミンおよびNのシアノグアニジンで終了させることができる。Gは、L−アミン、L−シアノグアニジンまたはL−グアニジンであってよい。合成中の重合(n)またはポリマー鎖開裂、および副反応の数に応じて、例として上に記載した末端基の不均一な混合物が生じ得る。したがって、NおよびG基は上記の不均一な混合物として交換/存在できる。あるいは、それぞれの末端LおよびG基が互いに直接連結される場合に、NおよびGはなくてもよく、ポリマーは環状であってよい。
【0027】
式1bにおいて、Xは存在していてもなくてもよい。L、LおよびXは「LまたはL」に対して上記の通りである。したがって、LおよびLおよびXは、ポリマー中のカチオン基GおよびGの間の連結基である。LおよびLおよびXは、C〜C140の炭素原子を含有する脂肪族基、例えばアルキル基、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、C、C、C、C、C、CもしくはC10;C〜C10、〜C20、〜C30、〜C40、〜C50、〜C60、〜C70、〜C80、〜C90、〜C100、〜C110、〜C120、〜C130もしくは〜C140のアルキルを独立して表すことができる;または、LおよびLおよびXは、独立してC〜C140(例えばC、C、C、C、C、C、C、C、CもしくはC10;C〜C10、〜C20、〜C30、〜C40、〜C50、〜C60、〜C70、〜C80、〜C90、〜C100、〜C110、〜C120、〜C130もしくは〜C140)の、脂環式、複素環式、芳香族、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルであってよく、またはLおよびLおよびXは、独立して、1個または複数の、好ましくは1個の、酸素、窒素または硫黄原子、官能基ならびに飽和もしくは不飽和環状部分が場合により介在するポリアルキレンラジカルであってよい。適切なLおよびLおよびXの例は、表Bに一覧表示されている基である。
【0028】
「G」および「G」は、カチオン部分であり、同一であっても異なっていてもよい。そのうち少なくとも1つは、ビグアニジン部分またはカルバモイルグアニジンであり、他の部分は上の通り(ビグアニジンもしくはカルバモイルグアニジン)またはアミンであってよい。誤解を避けるため、式1bにおいて、カチオン部分であるGおよびGは、単一のグアニジン基のみを含有しない。例えば、GおよびGは、典型的には、単一のグアニジン基を含有しない。そのような化合物の例は、表Bに一覧表示されているポリアリルビグアニド、ポリ(アリルビグアニジノ−co−アリルアミン)、ポリ(アリルカルバモイルグアニジノ−co−アリルアミン)、ポリビニルビグアニドである。
【0029】
ポリアリルビグアニドの例は、下に示されている通りである:
【0030】
【化5】
【0031】
ポリアリルビグアニジンLおよびLが同一である場合、GおよびG5は同様なので、ポリアリルビグアニドは下のように簡略化できる。
【0032】
【化6】
【0033】
ポリ(アリルカルバモイルグアニジノ−co−アリルアミン)の例は、下に示されている通りである。
【0034】
【化7】
【0035】
本発明に使用するポリマーは、一般的に、それらに結合する対イオンを有すると予想される。適切な対イオンは、以下:ハロゲン化物(例えば塩素)、リン酸、乳酸、ホスホン酸、スルホン酸、アミノカルボン酸、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、有機リン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸および有機硫酸イオンを含むが、それらに限定されない。
【0036】
本発明に使用するポリマーは、「n」の数が異なるポリマーの不均一な混合物であってもよいし、標準的な精製方法により精製された、特定の数の「n」を含む均質な分画であってもよい。上で指し示したように、ポリマーは環状であってもよく、さらに分岐状であってもよい。
【0037】
「n」の好ましい数は、2〜250、2〜100、2〜80および2〜50を含む。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
本発明の方法に使用されるポリマーは、直鎖状、分岐状またはデンドリマー分子を含み得る。ポリマーは、直鎖状、分岐状またはデンドリマー分子の組合せを含み得る。ポリマーは、例えば上に記載した式1aまたは式1bの分子の1つまたはいずれかの組合せを含み得る。
【0042】
例えば、ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアニド(PHMG)、ポリエチレンビグアニド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアニド(PTMB)またはポリエチレンヘキサメチレンビグアニド(PEHMB)の1つまたは複数を含み得る。一部の例は、表AおよびBに一覧表示されている。
【0043】
したがって、ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアニド(PHMG)、ポリエチレンビグアニド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアニド(PTMB)、ポリエチレンヘキサメチレンビグアニド(PEHMB)、ポリメチレンビグアニド(PMB)、ポリ(アリルビグアニジノ−co−アリルアミン)、ポリ(N−ビニルビグアニド)、ポリアリルビグアニドの1つまたは複数の均一または不均一な混合物を含み得る。
【0044】
ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含むことが最も好ましい。
【0045】
ナノ粒子は、抗真菌剤と共に、および/または抗真菌剤の存在下で形成され得る。様々な方法を使用して、ナノ粒子を形成することができ、ナノ粒子はポリマーおよび抗真菌剤の複合体として形成されることが想定される。しかし、真菌に対する抗真菌剤の効き目を保つような方法では、ポリマーナノ粒子を独立して形成し、次いで抗真菌剤がナノ粒子に吸収または付着されるように抗真菌剤とインキュベートしてもよい。
【0046】
本発明の一実施形態において、普通、全身的に投与される抗真菌剤は、抗真菌剤の治療的に有効な全身用量より少ない投与量で組成物中に存在する。局所組成物は、抗真菌剤をより効率的に感染部位へ投与できるので、投与量を低下させることができ、これにより、一部の薬剤に関する、潜在的な毒性学的問題を低下させることができる。
【0047】
組成物は、以下の成分:緩衝液、賦形剤、結合剤、油、水、乳化剤、グリセリン、抗酸化剤、防腐剤および香料、または局所クリーム剤および軟膏剤に普通に見出されるあらゆる追加成分の1つまたは複数をさらに含み得ることが、当業者には明らかと予想される。さらに、組成物は、スプレー装置と使用するいくつかの形態、例えばペーストまたは懸濁液であってよく、またはマイクロニードルアレイ送達系と共に使用するために製剤してよい。マイクロニードルアレイが用いられる場合、接着パッチに組み込まれ得る。
【0048】
特定の用途のために、組成物は、抗真菌剤を感染領域に送達させるように、透過剤をさらに含み得る。例えば、感染症が爪の内側または爪そのものの中にある真菌性爪感染症に罹患した患者の爪は、尿素を使用してナノ粒子に突破させることができる。
【0049】
本発明の組成物は、鼻腔内に、または吸入によっても投与でき、適切な高圧ガス、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロ−エタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134Aもしくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227EA3)、二酸化炭素または他の適切なガスの使用を伴う加圧容器、ポンプ、スプレーまたはネブライザーからの乾燥粉末吸入具またはエアロゾルスプレー型(aerosol spray presentation)の形態で簡便に送達できる。加圧エアロゾルの場合、投与量単位は、定量を送達するための弁を設けることにより判定できる。加圧容器、ポンプ、スプレーまたはネブライザーは、組成物の溶液または懸濁液を含有でき、例えばエタノールおよび高圧ガスの混合物を溶媒として使用し、これは、潤滑油、例えばトリオレイン酸ソルビタンをさらに含有していてよい。吸入具または吸入器に使用するカプセル剤およびカートリッジ剤(例えばゼラチンから作られる)は、本発明の組成物の粉末ミックス、および適切な粉末ベース、例えばラクトースまたはデンプンを含有するように製剤できる。
【0050】
エアロゾルまたは乾燥粉末製剤は、好ましくは、各定量、または「一吹き」が患者に送達する少なくとも1μgの組成物を含有するように用意される。エアロゾルを用いた合計の一日用量は、患者によって変化すると考えられ、単回投与、またはより一般的には、一日を通じた分割投与で投与され得ることが理解されると予想される。
【0051】
あるいは、本発明の組成物は、坐剤もしくはペッサリー剤の形態で投与してもよく、またはこれらは、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤もしくは散布剤の形態で局所的に適用してもよい。本発明の組成物は、例えば、皮膚パッチを使用することにより経皮的に投与してもよい。これらは、特に眼の疾患を処置するために、眼経路によっても投与され得る。
【0052】
眼病用に使用するために、本発明の組成物は、ナノ粒子系を使用して、または等張のpH調整した滅菌生理食塩水中のミクロ化懸濁液剤として、または好ましくは、等張のpH調整した滅菌生理食塩水中の液剤として、場合により防腐剤、例えば塩化ベンジルアルコニウムと組み合わせて製剤できる。あるいは、これらは、軟膏、例えばワセリンとして製剤できる。
【0053】
皮膚への局所的用途のために、本発明の組成物は、例えば、以下:鉱油、液体石油、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水の1つまたは複数との混合物に懸濁した、または溶解した活性化合物を含有する適切な軟膏剤として製剤できる。あるいは、これらは、例えば、以下:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液体パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水の1つまたは複数との混合物に懸濁または溶解した適切なローション剤またはクリーム剤として製剤できる。
【0054】
本明細書で上に記載されている局所組成物を使用して、いくつかの真菌感染症を処置できる。しかし、真菌性爪感染症、水虫または他の種類の真菌性皮膚感染症/皮膚糸状菌感染症(例えば鼠蹊部白癬(頑癬)、体白癬(体部白癬)、頭皮白癬(頭部白癬)、他の「白癬」型感染症)を処置することには特に適している。本発明は、酵母菌感染症、例えば、それらに限定されないが、間擦疹、癜風および鵝口瘡(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans))を処置することにも適すると予想される。
【0055】
用いられる抗真菌剤は当然のことながら、感染症を引き起こす真菌に対するその効き目によって大いに左右されると予想される。抗真菌剤は、以下の群:ナイスタチン、テルビナフィン、ケトコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾールまたはベルベリンから選択される1つまたは複数の薬剤を含み得る。
【0056】
真菌感染症は、皮膚糸状菌感染症を含み得る。しかし、本発明を使用して、酵母菌感染症および/またはコロニー形成を処置することもできる。
【0057】
本発明のさらなる態様において、ポリヘキサメチレンビグアニド、および真菌感染症を処置するための抗真菌剤の、ナノ粒子の組合せを含む局所薬物が示される。
【0058】
本発明のさらなる態様に従って、局所薬物の調製における、抗真菌剤と共に、または抗真菌剤に結合させて、1つまたは複数のナノ粒子を形成するためのポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)の使用が示される。ナノ粒子は、真菌感染症を処置する際に感染領域へ抗真菌剤を送達し、相乗効果も生むビヒクルとして使用されると予想される。PHMBの使用により、本発明の第一の態様に関連して、本明細書で上に記載した組成物が形成されることになると、当業者には明らかと予想される。
【0059】
本発明のさらに別の態様に従って、ナノ粒子を形成するために適切な条件下で、ナノ粒子を形成することが可能なポリマーと抗真菌剤とを混合するステップを含む、真菌感染症を処置するための局所組成物を生成する方法が示される。この方法も、本明細書で上に記載されている組成物を生成するために用いられることになると明らかと予想される。
【0060】
本発明のさらなる追加の態様において、ナノ粒子を形成することが可能なポリマーおよび抗真菌剤を含む組成物、ならびに真菌性爪感染症の処置に使用するマイクロニードルアレイの組合せが示される。マイクロニードルアレイは、接着パッチに組み込むことができる。マイクロニードルは、長さ2mm未満であってよい。より好ましくは、マイクロニードルは長さ1.5mm未満である。最も好ましくは、マイクロニードルは長さ1mm未満である。好ましくは、500μm未満のマイクロニードルを皮膚に挿入する。より好ましくは、400μm未満のマイクロニードルを皮膚に挿入する。最も好ましくは、約300〜200μmのマイクロニードルを皮膚に挿入する。好ましくは、マイクロニードルは、組成物を真皮および/または表皮に投与する。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の実施形態は、以下の実験および添付の図に対して、例示の目的でのみここに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)EBY100に対する、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌薬の最小阻害濃度(MIC)における低下を示すグラフである。黒い正方形は、薬物単体のMICを表し、黒い丸はPHMBと組み合わせた場合の薬物のMICを表す。各薬物のMICにおける低下倍率は、ナイスタチンが2分の1、アムホテリシンBが4分の1、ベルベリンが2分の1、ケトコナゾールが4分の1およびテルビナフィンが8分の1である。
図2】出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)NOD24に対する、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌薬のMICを示すグラフである。黒い正方形は、薬物単体のMICを表し、黒い丸は、PHMBと組み合わせた場合の薬物のMICを表す。各薬物のMICにおける低下倍率は、ナイスタチンが4分の1、アムホテリシンBが16分の1、ベルベリンが16分の1、ケトコナゾールが4分の1およびテルビナフィンが16分の1である。
図3】カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対する、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌薬のMICにおける低下を示すグラフである。黒い正方形は、薬物単体のMICを表し、黒い丸は、PHMBと組み合わせた場合の薬物のMICを表す。各薬物のMICにおける低下倍率は、ナイスタチンが2分の1、アムホテリシンBが2分の1、ベルベリンが2分の1、ケトコナゾールが4分の1およびテルビナフィンが4分の1である。
図4-1】図4A−4Eは、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌剤の蛍光性/吸光度の変化を示すグラフである。PHMBの存在および不在下における、蛍光性化合物の蛍光発光強度の変化を試験した。ケトコナゾール(図4A)、アムホテリシンB(図4B)、ベルベリン(図4C)およびナイスタチン(図4D)の蛍光性は低下した(蛍光クエンチング)。PHMBの存在および不在下におけるテルビナフィンの吸光度の変化を試験し、上昇することを見出した(色素増強効果)(図4E)。
図4-2】図4A−4Eは、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌剤の蛍光性/吸光度の変化を示すグラフである。PHMBの存在および不在下における、蛍光性化合物の蛍光発光強度の変化を試験した。ケトコナゾール(図4A)、アムホテリシンB(図4B)、ベルベリン(図4C)およびナイスタチン(図4D)の蛍光性は低下した(蛍光クエンチング)。PHMBの存在および不在下におけるテルビナフィンの吸光度の変化を試験し、上昇することを見出した(色素増強効果)(図4E)。
図5図5(a)および(b)は、動的光散乱を使用して試験した、形成された粒子のサイズ分布を示すグラフである。図5(a)は、ベルベリンをPHMBと1:3の比で組み合わせた場合に形成された粒子のサイズ分布(平均サイズ=22.22±1.591nm)を示す一方、図5(b)は、ケトコナゾールをPHMBと1:3の比で組み合わせた場合に形成された粒子のサイズ分布を示す。ピーク1の平均サイズ=1.15±0.017、ピーク2の平均サイズ=5.88±0.71およびピーク3の平均サイズ=498.9±65.2。
図6】PHMBと組み合わせた場合にベルベリンの送達が向上したことを示す、カンジダ・アルビカンス(C albicans)の蛍光顕微鏡画像を示す図である。A=DAPIで染色したので核が青い、未処置のカンジダ・アルビカンス(C albicans)。B=少量のベルベリンを送達したため細胞質の内側で緑色の蛍光を示す、1μg/mlのベルベリン単体で処置したカンジダ・アルビカンス(C albicans)。C=細胞質の緑色の蛍光が増加したことを示し、これによりベルベリンの送達が増加したことを指し示す、1μg/mlのベルベリンおよび1.25μg/mlのPHMBで処置したカンジダ・アルビカンス(C albicans)。Bar=5μm。
図7】ベルベリン単体ならびにベルベリンおよびPHMBとの組合せで処置した場合の、ベルベリン陽性カンジダ・アルビカンス(C albicans)細胞のフローサイトメトリー分析を示すグラフである。細胞の%は、3回±SDの平均として表される。この図は、1.25から5μg/mlへPHMBの濃度が増加するにつれ、細胞への送達が増加することを指し示す。ベルベリンの各濃度に対して、縦の列は以下の通りである:ベルベリン単体、1.25μg/mlのPHMB;2.5μg/mlのPHMB;および5μg/mlのPHMB。
図8】テルビナフィンおよびPHMBを含む、生成されたナノ粒子のサイズ/ナノ粒子の濃度を示すグラフである。
図9】テルビナフィンおよびPHMBを含む、生成されたナノ粒子のサイズ/ナノ粒子の相対強度を示すグラフである。
図10】テルビナフィンおよびPHMBを含む、生成されたナノ粒子のサイズ/ナノ粒子の相対強度の3Dプロットを示すグラフである。
図11】本発明の組成物を送達するための、マイクロニードルパッチで処置されることになる爪のある指の平面略図である。
図12図11で示されている指の断面略図である。
図13】マイクロニードルパッチの断面略図である。
【0063】
以下の実験の目的は、カチオン性ポリマーであるポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を用いたナノテクノロジーに基づく送達系を使用して、抗真菌薬の細胞送達を向上させることができるか否かを調べることである。この実験は、抗真菌薬とPHMBを組み合わせ、これにより小分子とナノ粒子を形成できる新たな方略も調査した。PHMBは安価であり、容易に利用できる殺菌剤であり、一般的に包帯、スイミングプールおよびコンタクトレンズ液に使用される消毒剤である。消毒作用は、微生物の細胞膜を破壊することにより作用し、それにより細胞含有物の漏出を引き起こすと考えられている。実験は、抗真菌剤およびPHMBの組み合わせにより、何らかの相乗効果が存在する場合は、薬物の用量の減少、ひいては薬物および薬剤の毒性の低下、ならびに/または内在化の促進が可能となるか否かも評価した。
【0064】
この実験は、抗真菌薬が作用する細胞内標的を有し、現在診療所で使用されているが、溶解度の問題、毒性および耐性のため、さほど好ましくない抗真菌薬に焦点を合わせている。臨床的に使用されている抗真菌薬と共に、in vitro抗真菌薬活性が証明されている新規な候補のベルベリンも研究した(Zhao et al., (2010) J. Therm. Analysis and Calorimetry, 102, 49-55)。選択した候補を、以下の表1で例示する。
【0065】
【表4】
【0066】
チェッカーボードアッセイを使用して、抗真菌剤およびPHMBの組合せに対する、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)NOD24および出芽酵母(S cerevisiae)EBY100の臨床分離株のin vitro感受性を評価した。薬物およびPHMBの間の相互作用、ナノ粒子の形成ならびに細胞の吸収量も評価した。
【0067】
抗真菌薬
ナイスタチン、テルビナフィン、ケトコナゾールおよびベルベリンを、Sigma−Aldrich、UKから粉末として入手した。アムホテリシンBを、Sigmaから脱イオン水中の溶液として入手した。ジメチルスルホキシド(DMSO)もSigmaからであった。ナイスタチン(5mg/ml)、テルビナフィン(15mg/ml)、ケトコナゾール(5mg/ml)およびアムホテリシンB(0.2mg/ml)のストック溶液をDMSO中で調製した。ベルベリンを水中に溶解して、10mg/mlのストック溶液を作った。PHMBのストック(5mg/ml)も水中で作った。ストック溶液はすべて異なる500μlのアリコートとし、−20℃で保持し、光から保護した。
【0068】
菌株
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の菌株2種およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の臨床分離株1種を研究した。出芽酵母(S cerevisiae)NOD24は、Royal Veterinary Collegeから、および出芽酵母(S cerevisiae)EBY100はAllinson Bread(登録商標)、UKから入手した。カンジダ・アルビカンス(C albicans)の臨床分離株もRoyal Veterinary Collegeから入手した。
【0069】
培地
RPMI1640培地を粉末として入手して、蒸留水に溶解し、標準的な手順に従って0.165Mのモルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)を用いて緩衝した。1Mの水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを7に調整した。サブローグルコース寒天(SGA)を粉末として入手した。培地および化学物質はすべて、Sigma−Aldrich、UKからのものであった。
【0070】
接種材料の調製
酵母の接種材料は、SGA中で24時間増殖させた培養物から5つのコロニーを採取し、RPMI1640をMOPSと混合することにより調製した。混合物の光学密度は分光光度法で、3×10コロニー形成単位の酵母/mlに相当する1に調整した。この懸濁液を、MOPSと共にRPMI1640中にさらに希釈して、最終接種材料のサイズを0.5×10CFU/mlとした。
【0071】
チェッカーボード滴定試験
チェッカーボード滴定試験は、CLSI推奨の標準的な手順ごとに滅菌96ウェルプレートで実行して、薬物単体およびPHMBと組み合わせた抗真菌薬効果を試験した。MOPSを用いて緩衝したRPMI1640培地を、試験培地として使用した。DMSO中でストックを作った場合、薬物の希釈液は試験培地中で調製され、水中でストックを作った場合、薬物のさらなる希釈液は水そのものの中で調製された。試験した濃度は:ナイスタチン0.000039mg/mlから0.02mg/ml、アムホテリシンB0.032mg/mlから0.0000625mg/ml、ベルベリン0.01mg/mlから0.00002mg/ml、ケトコナゾール0.032mg/mlから0.0000625mg/ml、およびテルビナフィン0.16mg/mlから0.00031mg/mlである。増殖対照および滅菌対照はすべてのプレートに存在していた。すべてのプレートを3回調製した。
【0072】
インキュベーションならびに最小阻害濃度(MIC)および部分阻害濃度指標(Fractional Inhibitory Concentration Index)(FICI)の計算
パラフィンホイルを用いてプレートを密閉して、蒸発を防ぎ、カンジダ・アルビカンス(C albicans)は37℃で、および出芽酵母(S cerevisiae)は30℃で保持した。24時間後のカンジダ・アルビカンス(C albicans)および出芽酵母(S cerevisiae)NOD24に対して、Powerwave340ユニバーサルマイクロプレート分光計(Biotek)を利用して、MICを視覚的に記録した。しかし、出芽酵母(S cerevisiae)EBY100では、増殖対照ウェルでさえも24時間後に増殖が見られなかったので、MICは48時間後に記録された。MICは、増殖が見えない最低濃度と定義した。FICIは、薬物のin vitro相互作用を分析するために使用され、以下に示されている方程式を使用して計算した。
【0073】
【数1】
【0074】
FICI値は、推奨されている基準に従って解釈した(FICI≦0.5は「相乗効果」、>0.5であるが≦4は「相互作用なし」および>4は「拮抗効果」)。
【0075】
蛍光性および吸光度の研究
蛍光性抗真菌薬とPHMBの相互作用を蛍光定量的に試験した。特定の濃度の各薬物を異なる濃度のPHMBと相互作用させ、蛍光強度の変化を研究した。96ウェル平底クォーツプレート中で実験を実行した。150μg/mlのベルベリン、5μg/mlのケトコナゾールおよび5μg/mlのアムホテリシンBを、1:0から1:10のw/w比でPHMBと混合した。50μg/mlのナイスタチンを、1:0から1:4のw/w比でPHMBと混合した。蛍光性ではないテルビナフィンの場合、吸光度の変化を研究した。10μg/mlのテルビナフィンを、1:0から1:5のw/w比でPHMBと混合した。水はこの濃度でPBS中に沈殿するので、水を使用したベルベリンを除いて、すべての薬物に関して、溶液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のストックから調製した。混合物をピペット操作により完全に混合し、室温で20分間にわたり保持し、次いで、蛍光性/吸光度の変化を試験した。蛍光性は、Infinite M200Pro Fluorometer(Tecan)で試験した。蛍光強度を試験するために、励起および発光波長は、それぞれ、ナイスタチンでは320nmおよび410nm、アムホテリシンBでは340nmおよび480nm、ベルベリンでは350nmおよび550nm、ケトコナゾールでは260nmおよび375nmであった。テルビナフィンの場合、ND1000分光計(Nanodrop)を使用して、吸光度の変化を研究した。テルビナフィンの吸光度ピークは272nmの位置であった。272nmの最大吸光度の変化は、PHMBの濃度に対してプロットした。
【0076】
粒子形成および粒子サイズの測定
動的光散乱(DLS)を使用して、形成された複合体のサイズを評価した。これは、動いている粒子からの散乱光を測定することにより、粒子のサイズを判定できるという原理に基づく。抗真菌薬(100μg/ml)およびPHMBをPBS中に1:3のw/w比で完全に混合し、20分間室温で保持した。Zetasizer S(Malvern Instruments、UK)を使用して、粒子サイズを測定した。
【0077】
顕微鏡法
ベルベリンの細胞送達は、化合物が顕微鏡法によって検出できるほど蛍光性であるため、視覚的に検出した。カンジダ・アルビカンス(C albicans)細胞を、ベルベリン単体で、ならびにベルベリンおよびPHMBの組合せでも処置した。1μg/ml、2μg/mlおよび3μg/mlのベルベリン溶液50μlを、1μg/mlおよび2.5μg/mlのPHMB50μlと、3〜4回にわたるピペット操作により滅菌96ウェルプレート中で適切に混合し、室温で20分間にわたり保持した。RPMI1640におけるカンジダ・アルビカンス(C albicans)細胞100μlをこれらのウェル、ベルベリン単体の溶液100μlおよびPBS100μlに加え、37℃で1時間にわたり保持した。各ウェルの含有物をエッペンドルフチューブに移し、5000rpmで10分間にわたり遠心分離した。上澄みの除去後、2.5μg/mlの4’,6’ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)100μlを、各チューブに加えて、真菌の核を染色した。アガロースベッドでスライドを調製し、油浸レンズを使用したDM4000正立蛍光顕微鏡(Leica microsystems)下で観察した。
【0078】
フローサイトメトリー
PHMBと組み合わせた場合の、カンジダ・アルビカンス(C albicans)中へのベルベリンの細胞送達を、フローサイトメトリーを使用して定量的に試験した。96ウェルプレート中で、1μg/ml〜5μg/mlのベルベリン単体、ならびにこれらの濃縮物と1.25、2.5、5μg/mlのPHMBの組合せで酵母細胞を処置した。手順は、顕微鏡法のものとまったく同じであった。遠心分離後、100μlの上澄みを除去し、400μlのPBSを加え、FACS Canto(商標)IIフローサイトメーター(BD Biosciences)にFITC(フルオレセインイソチオシアネート)フィルタを使用してベルベリンの送達について試験した。FACS Divaソフトウェアを使用してデータを取得し、Flowjo5.6.5ソフトウェアを使用して分析した。
【0079】
統計解析
ウィルコクソンの符号順位検定を使用して、PHMBと組み合わせた場合の抗真菌薬のMICの変化を統計的に分析した。0.05未満のp値は有意とみなした。SPPSSバージョン2.0ソフトウェアを使用して、統計解析を行った。
【0080】
チェッカーボードアッセイ
チェッカーボードアッセイを用いて、PHMBおよび薬物が共に作用する場合に何らかの低下が生じるか否かを知るために抗真菌薬のMICの変化を評価することにより、選択した抗真菌薬およびそれとPHMBの組合せに対する真菌の感受性を測定した。すべての薬物は、PHMBと組み合わせた場合のMICにおいて有意な低下を示した(p値=0.043)。抗真菌薬のMICおよびFICI値は、以下の表2に要約されている。
【0081】
【表5】
MICの下落は、図1から3に示されている。すべての薬物が、0.00005mg/ml未満のPHMBと組み合わせて、すべての微生物に対するMICの下落を示した。以下に表3で例示されている抗真菌薬と組み合わせた場合にも、PHMBのMICの有意な(p値=0.045)低下がみられた。
【0082】
【表6】
【0083】
チェッカーボードアッセイ中に、培地中のテルビナフィンに関する溶解度の問題に直面した。しかし、これは37℃で10分間にわたり保持することにより解決した。抗真菌薬の一部は、相乗効果を示した。予想通り、異なる微生物に対して、異なる薬物のMICに差が生じた。出芽酵母(S cerevisiae)NOD24に対する抗真菌薬のMICでは大幅な下落を観察した。テルビナフィンおよびケトコナゾールの場合、PHMBとの強力な相乗作用を見出した。アムホテリシンBの場合、出芽酵母(S cerevisiae)EBY100に対して試験した場合に、相乗効果を観察した。チェッカーボードアッセイからの結果により、PHMBは、これらの抗真菌薬の作用を増強できることが指し示される。
【0084】
蛍光性および吸光度の研究
PHMBおよび抗真菌薬の間における相互作用を、それらの蛍光強度の変化を研究することにより試験した。この結果は、図4で描写されている。すべての化合物の蛍光性で低下が生じた。ケトコナゾールおよびPHMBの間の比が1:6では、蛍光性はほぼ50%に下落した。ナイスタチンの蛍光性は、わずかな低下しか示さなかった。研究中に、ベルベリンはPBS中に沈殿することを見出したので、水を溶媒として使用した。ベルベリンの蛍光性の下落は生じたが、次いで、わずかな上昇が始まったものの、ベルベリン単体を用いた試料を超えることはなかった。アムホテリシンBを用いた観察も同様であった。試料の蛍光性におけるこの下落は、蛍光クエンチと呼ばれる。テルビナフィンの場合、吸光度はわずかな上昇が見出された。これは色素増強効果と呼ばれる。蛍光クエンチおよび色素増強効果は、PHMBが抗真菌薬と相互作用することを示す。
【0085】
形成された粒子のサイズ
PHMBおよび抗真菌薬の間で形成された複合体のサイズは、DLSを使用して測定した。ケトコナゾールおよびベルベリンの場合(図5)、ナノ粒子を観察した。しかし、ケトコナゾールの場合、いくつかのより大きいサイズの粒子も生じた。ベルベリンの場合(図5(a))、粒子の64.5%がおよそ22.2±1.5nmであった。しかし、ケトコナゾール(図5(b))では、サイズが10nm未満のものは、粒子の10%未満にすぎなかった。1を超える多分散性指標は、より広い粒子サイズ分布を意味する。他の薬物の場合、50から≦1000nmの粒子を観察した。この結果は、PHMBがすべての抗真菌薬と粒子を形成し、テルビナフィン、ケトコナゾールおよびベルベリンとナノ粒子を形成することを示す。
【0086】
顕微鏡法
蛍光顕微鏡検査法を使用して、カンジダ・アルビカンス(C albicans)中へのベルベリンの細胞送達を試験した。ベルベリンをPHMBと組み合わせた場合に、図6に描写されているベルベリン単体と比較して、細胞の蛍光性にかなりの上昇が生じた。蛍光性の上昇は、同一の濃度のベルベリンに対して、PHMBの濃度が上昇した場合にも観察された。図6は、1例のベルベリン濃度しか表さないが、研究したすべての濃度で同様の結果が観察された。PHMBを加えると、ベルベリン単体と比較してベルベリンの細胞への進入が増加することが結果から指し示される。これは、PHMBがベルベリンの真菌への送達を向上できると定性的に証明している。
【0087】
フローサイトメトリー
カンジダ・アルビカンス(C albicans)へのベルベリン送達の向上を、フローサイトメトリーを使用して定量した。ベルベリンの発光ピークがFITCの吸収スペクトルに近づくようにFITCフィルタを使用した。図7に描写されているように、PHMBと組み合わせた場合に、ベルベリンに陽性の細胞の数に明らかな増加が生じた。観察は、顕微鏡法と同様であった、すなわち、PHMB濃度の上昇に伴って、ベルベリンに陽性の細胞は増加した。より高い濃度のベルベリン単体を用いても、わずかな増加が観察された。これらの結果は、PHMBが、ベルベリンのカンジダ・アルビカンス(C albicans)への細胞送達を増加させることを指し示す。
【0088】
結果
PHMBは低毒性で、臨床的に安全な消毒薬であり、実験は、抗真菌薬とこのカチオン性ポリマーを組み合わせることにより、抗真菌薬の送達の向上を示す。この薬物を、PHMBと組み合わせた場合の、カンジダ・アルビカンス(C albicans)および出芽酵母(S cerevisiae)に対する薬物の抗真菌薬活性の変化に関して試験した。蛍光性/吸光度の研究および動的光散乱を使用して、ポリマーおよび薬物の間における相互作用を試験した。フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡検査法を使用して、ベルベリンの細胞送達を研究した。
【0089】
実験は、PHMBと組み合わせた場合の、すべての薬物のMICにおける有意な低下(p値=0.043)が生じることを示す。研究したすべての薬物の蛍光強度および吸光度も、相互作用を指し示すPHMBの存在下で変化した。薬物−PHMBの相互作用は、動的光散乱により確認した。ベルベリン、テルビナフィンおよびケトコナゾールの場合、ナノ粒子を観察した。顕微鏡法を使用して、ベルベリンのカンジダ・アルビカンス(C albicans)への細胞送達の増加を視覚化し、フローサイトメトリーを通じて定量した。
【0090】
PHMBは、抗真菌薬の作用を増強し、ナノ粒子を形成し、ベルベリンの細胞送達を向上させ、抗真菌剤と組み合わせたナノ粒子の使用は、in vivoでの抗真菌活性を改善することが想定される。
【0091】
PHMBは、表2で例示されているすべての薬物のMICで低下が生じたように、研究したすべての薬物の抗真菌薬作用を向上させた。ケトコナゾール、テルビナフィンおよびアムホテリシンBに対する相乗効果を観察した。
【0092】
PHMBは、選択した抗真菌薬とナノ粒子を形成すると仮定された。ナイスタチン、テルビナフィンおよびアムホテリシンBをPHMBと1:3の比で組み合わせた場合に、ナノ粒子は検出されなかった。500から1000nmの範囲内のサイズより大きいサイズの粒子を検出した。これは、凝集または沈殿に起因する可能性がある。しかし、粒子を形成し、反応の培地/溶媒を変化させ、pHを調整する温度を変更することに加えて、薬物およびPHMBを様々な比で組み合わせることによりナノ粒子が形成されると考えられる。
【0093】
この研究で調査した薬物送達の代替技術は、細胞内および局所の真菌感染症、ならびに高度に耐性な真菌による感染症に適用の可能性を有する。ヒストプラスマカプスラーツム(Histoplasma capsulatum)およびクリプトコックスネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)のような細胞内の真菌による感染症は、細胞膜を経た運搬は困難であり、細胞の内側における活性が低下するため、処置することが困難である。PHMBをベースとした薬物送達系により、現存するものと比較してさほど高価ではない液剤が得られ、使用される抗真菌剤の用量がより低くなる。
【0094】
PHMB(または、ナノ粒子を形成することが可能な、まったく同様のポリマー)は、以下の表4に一覧表示される真菌を標的とする抗真菌剤と組み合わせることができると想定される。
【0095】
【表7】
【0096】
テルビナフィンおよびPHMBを用いたナノ粒子形成
実験を実施して、テルビナフィンおよびPHMBを用いて形成されるナノ粒子を形成した。
【0097】
テルビナフィンを、DMSO中で10mg/mlのストック濃度に溶解した。次いで、これを超純水中で1mg/mlの濃度にさらに希釈し(10mg/mlのテルビナフィン20μlをHO180μlに加えた)、ボルテックスすることにより完全に混合した。
【0098】
PHMB(水中に1mg/ml)を20分間にわたり60℃で加熱し、次いで、使用する前に室温に冷却した。
【0099】
ここまで試験した条件下で最適なナノ粒子サイズおよび数が得られたことから、PHMB:テルビナフィンの比を3:1で一定に保持した。
【0100】
PHMB/テルビナフィンのナノ粒子製剤:
10倍の、30:10(PHMB:テルビナフィン、μg/ml)のナノ粒子製剤を、300μlで作った。288μlのPBSを1.5ml滅菌チューブに加えた。1mg/mlのPHMB9μlを加え、5回にわたる上下のピペット操作により混合した。次いで、1mg/mlのテルビナフィン3μlを徐々に加え、5回にわたる上下のピペット操作により混合した。次いで、PHMBの存在下で、室温で1時間にわたりインキュベーションを続け、ナノ粒子を形成した。
【0101】
次いでこの溶液を、Nanosight LM10ナノ粒子サイジングマシンで判定するために、PBSを用いてさらに10倍に希釈した(最終濃度3μg/mlのPHMBおよび1μg/mlのテルビナフィンを得るため)。
【0102】
測定値をNanosight LM10マシン(Nanosight Limited、Wiltshire、UKから入手した)で、20℃にて1分間にわたり、カメラレベル9、スクリーンゲイン10および検出閾値6で読み込んだ。
【0103】
Nanosightの結果は図8から10に示され、以下の表5で要約されている。
【0104】
【表8】
【0105】
図8〜10で示されているように、PHMB、ならびにテルビナフィンおよびPHMBを含むナノ粒子が生成され、次いでこれを、様々な潜在的な真菌感染症を後に処置するための局所薬物を調製する際に使用できる。
【0106】
マイクロニードルパッチ
経皮パッチは、皮膚を通して直ちに吸収できる、小分子の脂溶性薬物の投与に長らく使用されている。この非侵襲的な送達経路は、多くの薬物のバイオアベイラビリティを劇的に低下させることもある、消化管および肝臓の門脈系の両方を迂回させることにより、薬物を全身循環に直接吸収させることができるため、経口送達に合わない多くの薬物の投与に有利である。経皮的送達は、患者の不快感、針への不安、投与する者に対する不慮の針刺し損傷の危険性、および鋭利な物の廃棄を取り巻く問題を大幅に低減することにより、皮下注射に関連する多くの課題も克服する。
【0107】
これらの多くの利点にもかかわらず、薬物の経皮的送達は、皮膚を通した吸収に適合する分子の種類に限局している。小分子の塩および治療タンパク質の送達は、吸収を向上させる賦形剤の存在下でさえ、皮膚がこれらの分子に有効な保護バリアとなるので、典型的には、旧来からの経皮的送達によっては実行不可能である。しかし、マイクロニードル技術は、抗真菌剤を含有するナノ粒子を、表皮、真皮および爪母(爪上皮において爪と皮膚とが接する場所)に直接的に送達するために用いることができる。この方法で本発明の組成物を送達することにより、ナノ粒子は爪母および毛細血管系に進入し、抗真菌ナノ粒子組成物が、硬い爪甲の下の爪床に、および真菌へと送達されると予想される。この方法で、強力な抗真菌剤は、作用部位へと直接的に送達でき、ひいては処置時間を短縮させ、効力を向上できる。
【0108】
図11および12は、破線により示されている処置領域12内の指にマイクロニードルパッチ(図13で例示する)を貼付することができる指10の略図を示す。処置領域12は、爪14の裏の真皮から、および爪母(爪上皮)16でも形成され、そこで爪および皮膚が接する。爪根18は、爪の裏の真皮の下における領域に位置し、ひいては、本発明の組成物を送達するためのマイクロニードルパッチを貼付することにより効率的に処置できる。もちろん、マイクロニードルパッチは、指爪に加えて趾爪にも使用できる。
【0109】
図13は、本発明の組成物を真菌性爪感染症に罹患した患者に貼付するために使用できる、マイクロニードルパッチの略図を示す。マイクロニードルパッチ20は、接着剤24を有する材料の可撓性ウエブ22から形成され、接着剤24はウエブの底面に塗布される。複数の先端30を有する、下向きに伸びた一連のマイクロニードル26は、可撓性ウエブの底面の中央に位置する。先端は、組成物を含有する貯蔵器28につながる導管を有する針として形成されてもよいし、または単に組成物でコーティングした先端を有していてもよい。代替形状として、貯蔵器28は、規定の時間を超えてアレイの先端に組成物を継続的にコーティングできるように、マイクロニードルアレイの周囲に配置された孔を通して組成物を放出できる。いくつかの異なるマイクロニードルパッチが現在利用できること、および本発明の組成物は様々なマイクロニードルパッチを用いた使用のために適合できることが、当業者には明らかと予想される。
【0110】
マイクロニードルは、長さ2mm未満であってよく、好ましくは約250μmを、患者の不快感を最小限にとどめて皮膚内に挿入し、注射後の感染症、出血、または皮内投与に対する不注意による静脈注射の危険性を最小限にとどめて設けられた小孔をもたらすと予想される。さらに、マイクロニードルは、これらの小さい突起では不慮の皮膚の刺し傷はまず起こり得ないので、注射投与に対する危険性を低下させる。
【0111】
マイクロニードルパッチは、すべての患者が行わなければならないことは、包装からパッチを除去すること、および指または爪先の適切な部分に一定期間にわたりパッチを貼付することである場合に、単回処置に使用できると想定される。代替として、マイクロニードルパッチは、組成物と組み合わせて販売してよく、患者は、一定量の組成物でマイクロニードルの表面をコーティングし、そのパッチを指示された手段で体に貼付すると予想される。パッチは、患者または家庭医が、処置される指または爪先の正しい位置でマイクロニードルを正しく配置することを促すように、外面にマーキングを備えていてもよい。
【0112】
エアロゾル
本発明の組成物は、エアロゾル製剤にも製剤できる。この作業例では、PHMBナノ粒子をカスポファンギン(リポペプチド抗真菌薬)と形成し、乾燥させる。乾燥させたナノ粒子を、次いで噴霧剤に加える。噴霧剤は、エアロゾルクラウドを生成するための力を提供し、カスポファンギンのナノ粒子の活性成分を懸濁または溶解させることになる媒体にもなる。
【0113】
様々な噴霧剤が使用される可能性があるが、一般的にいえば:
・−100から+30℃の範囲の沸点を有し、
・おおよそ1.2から1.5gcm−3の密度(おおよそ懸濁または溶解させる薬物の密度)を有し、
・40から80psigの蒸気圧を有し、
・患者に非毒性であり、
・不燃性であり、
・一般的な添加剤を溶解させることが可能でなければならない。活性成分は完全に可溶性、または完全に不溶性であるべきである。
【0114】
喘息吸入具に使用される噴霧剤は、そのようなヒドロフルオロアルカン(HFA):HFA134a(1,1,1,2,−テトラフルオロエタン)もしくはHFA227(1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン)またはそれらの組合せが特に適切であると予想される。さらに、または代替として、浸透およびバイオアベイラビリティを向上させるリン脂質を利用してよい。
【0115】
ナノ粒子は、湿度が加えられると、例えば調製物が肺中の湿潤環境にスプレーされると再溶解すると予想される。調製物は、フルオロポリマーで内部コーティングし、定量投与を施せるように絞り弁で密閉したアルミニウム合金容器に含有されることが好ましい。必要であれば、霧化ノズルおよびダストキャップを適合させてもよい。
【0116】
先述の実施形態では、特許請求の範囲によって生じる保護の範囲を限定することは意図されず、本発明がどのように実践され得るかについて例を記載することが意図されている。
【符号の説明】
【0117】
10 指
12 処置領域
14 爪
16 爪母(爪上皮)
18 爪根
20 マイクロニードルパッチ
22 材料の可撓性ウエブ
24 接着剤
26 下向きに伸びたマイクロニードル
28 貯蔵器
30 先端
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13