特許第6581593号(P6581593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581593
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】コート金属基材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20190912BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20190912BHJP
   C04B 38/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C23C28/04
   C23C26/00 C
   C04B38/02 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-555097(P2016-555097)
(86)(22)【出願日】2015年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2015064472
(87)【国際公開番号】WO2016063561
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-217445(P2014-217445)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 友好
(72)【発明者】
【氏名】河合 孝則
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−332081(JP,A)
【文献】 特開2014−162972(JP,A)
【文献】 特開平04−147985(JP,A)
【文献】 特公平06−043257(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基材上に、セラミック原料からなるセラミックコート層が形成されたコート金属基材であって、
前記セラミックコート層の内部には、均一に分散した気孔が形成されており、前記セラミックコート層の表面粗さ(Ra)が8μm以下であって、
前記気孔は前記セラミックコート層に直接囲まれており、
前記セラミック原料の軟化点は、250〜550℃であることを特徴とするコート金属基材。
【請求項2】
前記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である請求項1に記載のコート金属基材。
【請求項3】
前記基材の表面にはアルマイト層が形成されており、
前記アルマイト層が形成された基材上に前記セラミックコート層が形成されている請求項2に記載のコート金属基材。
【請求項4】
前記セラミックコート層は、さらに結晶性無機材を含む請求項1〜のいずれかに記載のコート金属基材。
【請求項5】
前記結晶性無機材は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ランタニア、サマリア、シリカ、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、及び、ハフニアからなる群から選択される少なくとも一種からなる請求項に記載のコート金属基材。
【請求項6】
前記セラミックコート層の厚さは10〜1000μmである請求項1〜のいずれかに記載のコート金属基材。
【請求項7】
前記セラミックコート層の厚さ方向の全領域が収まるように、前記セラミックコート層の厚さが5μm以上50μm未満の場合には2000倍、50μm以上100μm未満の場合には1000倍、100μm以上300μm未満の場合には500倍、300μm以上500μm未満の場合には200倍、500μm以上1000μm未満の場合には150倍、1000μm以上2000μm未満の場合には100倍の倍率で撮影された前記セラミックコート層の断面における走査型電子顕微鏡画像を、縦の長さを前記セラミックコート層の厚さとし、横の長さを前記セラミックコート層の厚さの1.5倍とする矩形領域として5箇所無作為に選択し、さらに、前記矩形領域をそれぞれ縦3×横3の9領域に等分割して合計45の領域とした場合に、
前記45の領域の全てにおいて、気孔径が0.1μm以上の気孔が10個以上存在している請求項1〜のいずれかに記載のコート金属基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート金属基材に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した自動車等の車両では、エンジン部分で大きな熱が発生するが、発生した熱はエンジン部材を介して周囲に拡散し易く、必ずしも発生した熱を充分に利用しきれていないのが現状である。
【0003】
そこで、エンジンに発生する熱を有効に利用し、燃費等の特性をより向上させようとする研究が盛んに行われており、熱ロスの低減に向け、エンジンやその周辺部材の軽量化等を図るために用いられているアルミニウム製部材の断熱化を図る試みも行われている。
【0004】
従来、アルミニウム部材の断熱化を図る方法として、基材表面に断熱性の膜を形成する試みが行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−072745号公報
【特許文献2】国際公開第2012/093697号
【特許文献3】特開2014−092035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、アルミニウム合金母材の表面に陽極酸化処理によるポーラス層を形成し、該ポーラス層の上に上記母材よりも熱伝導率が低いZrO等を含有する被覆層を設けたアルミ製品の断熱構造が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載された被覆層は溶射皮膜であるため、皮膜強度及び基材との接着性が充分ではなく、皮膜にクラックが発生したり、剥離したりするという問題があった。また、特許文献1には、ポーラス層の表面の凹凸を反映して被覆層の表面にも凹凸が形成されることが開示されている。凹凸の形成された被覆層の表面をガスが流通する場合、被覆層の凹凸によってガスの流れが乱され、流体抵抗の増加に起因する熱伝達係数の増加によって、断熱性能が低下するという問題があった。
【0007】
特許文献2には、気孔が表面被覆層の厚み方向の中心部に偏在している表面被覆層を備えた排気管が開示されている。特許文献2によれば、気孔が表面被覆層の厚み方向の中央部に偏在していると、表面近傍で発生したクラックが気孔によって進展を阻害され、表面被覆層が完全に破壊されることが防止できると記載されている。しかしながら、この方法では、断熱性を向上させることのできる気孔が表面被覆層の中心部にしか存在しないため、例えばエンジン部材などのように高い断熱性能が要求される箇所への適用においては断熱性能が不充分であるという問題があった。
【0008】
特許文献3には、シリコーン系樹脂と、磁性粉末と、上記シリコーン系樹脂の一部が酸化されてなるSi系酸化物と、非磁性材料からなる中空状粒子を含む断熱層が形成されたエンジン燃焼室部材の断熱構造体が開示されている。特許文献3のように、気孔を中空状粒子によって形成した場合、気孔とセラミックコート層であるSi系酸化物層との界面に中空状粒子の殻層が存在することとなる。そのため、セラミックコート層であるSi系酸化物層と殻層との熱膨張率の差に起因してクラックが発生しやすいという問題があった。
【0009】
上記の問題を解決すべく発明者らが鋭意研究を行ったところ、セラミックコート層に均一に分散した気孔を形成し、セラミックコート層の表面粗さ(Ra)を8μm以下に抑え、さらに、気孔がセラミックコート層によって直接囲まれるように構成することで、断熱性を向上させることができることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、断熱性に優れるセラミックコート層をその表面に形成させたコート金属基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のコート金属基材は、金属からなる基材上に、セラミック原料からなるセラミックコート層が形成されたコート金属基材であって、上記セラミックコート層の内部には、均一に分散した気孔が形成されており、上記セラミックコート層の表面粗さ(Ra)が8μm以下であり、上記気孔は上記セラミックコート層に直接囲まれていることを特徴とする。
【0012】
本発明のコート金属基材は、セラミックコート層の内部に均一に分散した気孔が形成されている。そのため、断熱性に優れたセラミックコート層となる。
さらに、セラミックコート層の表面は、表面粗さ(Ra)が8μm以下であるため、セラミックコート層表面を流れるガスの流れが乱れにくく、見かけの熱伝導率を低くすることができる。
加えて、気孔はセラミックコート層に直接囲まれている、換言すると、中空状粒子による殻層が存在していないため、殻層に由来するクラックの発生を抑制することができる。
なお、表面粗さ(Ra)はJIS B 0601(2001)に準拠した算術平均粗さであり、例えば、表面粗さ測定機等により測定することができる。
【0013】
なお、均一に分散した気孔であるかどうかは、以下の手順によって確認することができる。
まず、セラミックコート層の断面を走査型電子顕微鏡(以下、SEMともいう)により観察して、その断面における気孔の様子を撮影し、以下の手順で気孔径が0.1μmを超える気孔の数をカウントする。
セラミックコート層の厚さ(膜厚ともいう)ごとに撮影倍率を次のように変更する。
5μm以上50μm未満の場合:2000倍
50μm以上100μm未満の場合:1000倍
100μm以上300μm未満の場合:500倍
300μm以上500μm未満の場合:200倍
500μm以上1000μm未満の場合:150倍
1000μm以上2000μm未満の場合:100倍
なお、SEM画像は、気孔の分散を確認する対象となるセラミックコート層を任意の5箇所で撮影する。この時、SEM画像中にセラミックコート層の厚さ方向の全領域が収まるように撮影する。続いて、撮影したSEM画像を、縦3×横3の9つの領域に分割し、各領域中に存在する気孔径が0.1μm以上の気孔の数をカウントする。
気孔径が0.1μm以上の気孔が各領域において10個以上確認できた場合、すなわち、9領域×5箇所=45領域の全てにおいて、気孔径が0.1μm以上の気孔が10個以上確認できた場合、そのセラミックコート層に存在する気孔は、均一に分散しているとする。
なお、撮影したSEM画像を9つの領域に分割する場合、セラミックコート層の厚さ方向については、セラミックコート層の厚さ(膜厚)が三等分となるように分割し、セラミックコート層の厚さ方向に対して垂直な方向については、上記分割されたセラミックコート層の厚さ方向の1.5倍の長さとなるような所定の領域とする。
【0014】
すなわち、本発明のコート金属基材は、上記セラミックコート層の厚さ方向の全領域が収まるように、上記セラミックコート層の厚さが5μm以上50μm未満の場合には2000倍、50μm以上100μm未満の場合には1000倍、100μm以上300μm未満の場合には500倍、300μm以上500μm未満の場合には200倍、500μm以上1000μm未満の場合には150倍、1000μm以上2000μm未満の場合には100倍の倍率で撮影された上記セラミックコート層の断面における走査型電子顕微鏡画像を、縦の長さを上記セラミックコート層の厚さとし、横の長さを上記セラミックコート層の厚さの1.5倍とする矩形領域として5箇所無作為に選択し、さらに、上記矩形領域をそれぞれ縦3×横3の9領域に等分割して合計45の領域とした場合に、上記45の領域の全てにおいて、気孔径が0.1μm以上の気孔が10個以上存在しているともいえる。
【0015】
本発明のコート金属基材においては、上記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。
金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であると、軽量であるため、エンジン等の軽量化及び燃料消費率の向上を図ることができる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金はその表面にアルマイト処理等を施すことによってアルマイト層を形成することができる。
【0016】
本発明のコート金属基材においては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面にはアルマイト層が形成されており、上記アルマイト層が形成された基材上に上記セラミックコート層が形成されていることが好ましい。
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に形成されたアルマイト層は、基材の一部を変質させたものであるため、基材とアルマイト層は一体化している。そして、アルマイト層はその表面に多数の凹凸を有しているので、セラミックコート層との接触面積が増えることとなる。さらに、アルマイト層は酸化物で構成されているため、酸素を介してセラミックコート層を構成する原子と化学的に結合することができ、基材とセラミックコート層との接着力が高まる。そのため、基材とセラミックコート層との接着性を向上させることができる。
また、本発明のコート金属基材においては、焼成工程で軟化したセラミックコート原料が金属基材の表面に行き渡って表面の凹凸に入り込むことにより、基材表面の凹凸を相殺する。そのため、金属基材表面に凹凸が形成されている場合であっても、この凹凸形状がセラミックコート層の表面形状に反映されず、セラミックコート層の表面には凹凸が形成されない。そのため、セラミックコート層の接着力を維持しつつ、セラミックコート層の表面の表面粗さを小さくすることができる。
【0017】
本発明のコート金属基材において、上記セラミック原料の軟化点は、250〜550℃であることが好ましい。
セラミック原料の軟化点が250℃未満であると、軟化点が低すぎるため、焼成の際に、セラミック原料が溶融しにくく、均一な厚さの膜を形成することが困難となることがある。一方、セラミック原料の軟化点が550℃を超えると、セラミックコート原料を構成するセラミック原料が軟化するよりも前に界面活性剤の熱分解が終了してしまうことがある。このような場合、界面活性剤の熱分解により発生した分解ガスは、焼成雰囲気中に拡散してしまい、気孔を形成することができない。
【0018】
本発明のコート金属基材において、上記セラミックコート層は、さらに結晶性無機材を含むことが好ましい。セラミックコート層に結晶性無機材を含むことで、セラミックコート層の機械的強度、耐熱性、接着性、及び、断熱性等を向上させることができる。
【0019】
本発明のコート金属基材において、上記結晶性無機材は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ランタニア、サマリア、シリカ、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、及び、ハフニアからなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。
これらの結晶性無機材は耐熱性に優れるため、上記結晶性無機材を含むセラミックコート層の耐熱性を向上させることができる。
【0020】
本発明のコート金属基材において、上記セラミックコート層の厚さは10〜1000μmであることが好ましい。
セラミックコート層の厚さが10μm未満の場合、セラミックコート層の厚さが薄すぎるため、コート金属基材が充分な断熱性を発揮することができない。
一方、セラミックコート層の厚さが1000μmを超えると、セラミックコート層に熱衝撃等が加わった際に、クラックが発生しやすくなることがある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明のコート金属基材の断面を模式的に示した断面図であり、図1(b)は図1(a)の矩形Aで示す領域の部分拡大断面図である。
図2図2(a)は、セラミックコート層中の気孔が均一に分散しているか確認する手順を模式的に示したものであり、図2(b)は、SEM画像を9つの領域に区画する方法を模式的に示した説明図である。
図3図3は、実施例1に係るコート金属基材の断面を撮影したSEM画像である。
【0022】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0023】
本発明のコート金属基材は、金属からなる基材上に、セラミック原料からなるセラミックコート層が形成されたコート金属基材であって、上記セラミックコート層の内部には、均一に分散した気孔が形成されており、上記セラミックコート層の表面粗さ(Ra)が8μm以下であって、上記気孔は上記セラミックコート層に直接囲まれていることを特徴とする。
【0024】
図1(a)は、本発明のコート金属基材の断面を模式的に示した断面図であり、図1(b)は図1(a)の矩形Aで示す領域の部分拡大断面図である。
図1に示すように、本発明のコート金属基材10では、金属からなる基材11上にセラミックコート層12が形成されている。
セラミックコート層12の内部には、均一に分散した気孔13が存在している。
そして、図1(b)に示すように、気孔13はセラミックコート層12に直接囲まれている。さらに、セラミックコート層の表面12aでは、表面粗さ(Ra)が8μm以下となっている。
なお、本明細書における表面粗さ(Ra)はJIS B 0601(2001)に基づいて測定される値である。
【0025】
気孔が均一に分散しているかを確認する方法を図2(a)及び図2(b)を用いて説明する。
図2(a)は、セラミックコート層中の気孔が均一に分散しているか確認する手順を模式的に示したものであり、図2(b)は、SEM画像を9つの領域に区画する方法を模式的に示した説明図である。
まず、気孔の分散を確認したいセラミックコート層の断面をSEMによって撮影する。
このとき、図2(a)に示す矩形Bで示された領域が、SEM画像を撮影する領域となる。図2(a)に示すように、SEM画像は、セラミックコート層12のうち、セラミックコート層の厚さ方向の全域がSEM画像内に収まる倍率を選択するようにする。
SEMの倍率はセラミックコート層の厚さ(膜厚)により異なり、セラミックコート層の厚さが5μm以上50μm未満の場合には2000倍、50μm以上100μm未満の場合には1000倍、100μm以上300μm未満の場合には500倍、300μm以上500μm未満の場合には200倍、500μm以上1000μm未満の場合には150倍、1000μm以上2000μm未満の場合には100倍とする。1つのセラミックコート層につき、無作為に5箇所のSEM画像を撮影する。図2(a)が無作為に撮影されたSEM画像の1つ(5箇所のうちの1箇所)であるとして、以下説明を続ける。
撮影したSEM画像は、図2(b)に示すように、縦3×横3の9ブロックに分割する。
図2(b)に示したSEM画像は、縦方向(図2(b)中、両矢印cで示す方向)をセラミックコート層の厚さ方向の全域を三等分するよう、両矢印cを三等分した両矢印c、c及びcによって区画されている。セラミックコート層の厚さがSEM画像中で変動する場合、最も厚さが厚くなっている箇所におけるセラミックコート層の厚さを基準とする。
また、縦方向に垂直な方向である横方向(図2(b)中、両矢印bで示す方向)の長さbはセラミックコート層の厚さcの1.5倍の長さであり、これを三等分した両矢印b、b及びbは全て、c、c、cの1.5倍の長さである。
すなわち、SEM画像は、(セラミックコート層の厚さ)×(セラミックコート層の厚さの1.5倍の長さ)によって定義される長方形を、厚さ方向(縦方向)及び長さ方向(横方向)にそれぞれ三等分することにより9つの領域に区画される。
続いて、9つに区画された各領域中に存在する気孔径が0.1μm以上の気孔の数をカウントする。9領域×5箇所の合計45領域の全てにおいて、気孔径が0.1μm以上の気孔の数が10個以上あれば、そのセラミックコート層には気孔が均一に分散していると判断する。
【0026】
換言すると、本発明のコート金属基材は、セラミックコート層の厚さ方向の全領域が収まるように、セラミックコート層の厚さが5μm以上50μm未満の場合には2000倍、50μm以上100μm未満の場合には1000倍、100μm以上300μm未満の場合には500倍、300μm以上500μm未満の場合には200倍、500μm以上1000μm未満の場合には150倍、1000μm以上2000μm未満の場合には100倍の倍率で撮影されたセラミックコート層の断面における走査型電子顕微鏡(以下、SEMともいう)画像を、縦の長さをセラミックコート層の厚さとし、横の長さをセラミックコート層の厚さの1.5倍とする矩形領域として5箇所無作為に選択し、さらに、上記矩形領域をそれぞれ縦3×横3の9領域に等分割して合計45の領域とした場合に、45の領域の全てにおいて、気孔径が0.1μm以上の気孔が10個以上存在しているともいえる。
【0027】
なお、気孔径が0.1μm以上の気孔の数をカウントする際に、複数の気孔が連結して1つの気孔を形成している場合、1つの気孔としてカウントする。さらに、区画した領域中に完全に収まっていない気孔に関してはカウントしない。即ち、例えば、セラミックコート層に存在する気孔が全て、互いに連続した連続気孔である場合、気孔の数は全体で1個とカウントするため、9つに分割された各領域における気孔の数は全て0個となる。
【0028】
本発明のコート金属基材は、均一に分散した気孔が存在しているため、断熱性能に優れる。
【0029】
本発明のコート金属基材を構成するセラミックコート層には気孔が存在しているが、この気孔はセラミックコート層に直接囲まれている。
気孔がセラミックコート層に直接囲まれていない場合としては、気孔がセラミックコート層とは異なる構造物、例えば中空状粒子等によって形成されている場合が挙げられる。このような場合、気孔は上記中空状粒子(殻層ともいう)を介してセラミックコート層に囲まれていることになる。セラミックコート層と上記殻層とは異なる物質である場合、熱膨張係数の違いによって、セラミックコート層にクラックが発生することがある。
本発明のコート金属基材を構成するセラミックコート層では、気孔がセラミックコート層に直接囲まれており、殻層が存在しないため、上記のような問題が発生しない。
【0030】
本発明のコート金属基材を構成するセラミックコート層の室温での熱伝導率は0.1〜3W/m・Kであることが好ましい。
熱伝導率が0.1W/m・K未満であると、上記熱伝導率を達成するために必要な気孔率が高くなるため、形成されたセラミックコート層の機械的強度が低下しすぎることがある。一方、熱伝導率が3W/m・Kを超えると、充分な断熱の効果が得られないという問題がある。所望の断熱効果を得るためには、セラミックコート層の厚さを厚くする必要があるため、本発明のコート金属基材をエンジン部材等に適用しようとする場合には設計におけるスペースの確保が困難となる問題がある。なお熱伝導率の測定は、レーザーフラッシュ装置(熱定数測定装置:NETZSCH LFA457 Microflash)を用い、JIS R 1611(2010)に基づいて測定される。
【0031】
セラミックコート層中に形成されている気孔について、その平均気孔径は特に限定されないが、0.1〜80μmであることが好ましく、0.5〜50μmであることが好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましい。
平均気孔径が0.1μm未満の場合、気孔によって得られる断熱効果が小さく、充分な断熱効果が得られないことがある。一方、平均気孔径が80μmを超えた場合、気孔の大きさが大きすぎるため、セラミックコート層の機械的強度が低下してしまうことがある。
気孔の平均気孔径は、上述した気孔が均一に分散しているかどうか、の判定に用いたSEM画像と同様の画像を用いて求めることができる。具体的には、区画された9つの領域に存在する全ての気孔についての気孔径を測定し、平均値を求めることにより平均気孔径が得られる。気孔の形状が円形でない場合、その気孔の直径は、投影面積円に相当する直径(ヘイウッド径)とする。
【0032】
本発明のコート金属基材を構成するセラミックコート層の気孔率は5〜75%であることが好ましく、10〜60%であることがより好ましく、20〜45%であることがさらに好ましい。
セラミックコート層の気孔率が5%未満である場合、セラミックコート層の断熱性能が充分でないことがある。一方、セラミックコート層の気孔率が75%を超える場合、気孔率が高すぎるためにセラミックコート層の機械的強度が低下し、クラックが発生し易くなることがある。
セラミックコート層の気孔率は、上述した気孔が均一に分散しているかどうか、の判定に用いたSEM画像と同様の画像を用いて求めることができる。具体的には、区画された9つの領域に存在している全ての気孔が占める面積の合計値を求め、これを9つの領域の合計面積で除した値とし、この値を5箇所で測定し、その5箇所の平均値をセラミックコート層の気孔率とする。
【0033】
セラミックコート層の表面(基材と接触していない側の表面)は、表面粗さ(Ra)が8μm以下であって、4μm以下が好ましく、2μm以下がさらに好ましい。
表面粗さ(Ra)の下限は特に限定されないが、製品の歩留まりの関係から1μmであることが好ましい。
セラミックコート層の表面粗さ(Ra)が8μmを超えた場合、セラミックコート層の表面を流れる流体の流れが乱流となりやすく、熱伝達係数が増加するため、エネルギーのロスにつながる。
【0034】
次に、本発明のコート金属基材を構成する各部材について順次説明する。
まずは、本発明のコート金属基材を構成する基材について説明する。
金属からなる基材としては、ステンレス鋼、耐熱鋼(SUH)、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、インコネル、ハステロイ、インバー等が挙げられる。また、各種鋳造品(例えば、鋳鉄、鋳鋼、炭素鋼等)等が挙げられる。
耐熱鋼(SUH)として、具体的には、マルテンサイト系耐熱鋼(SUH3、SUH11等)、オーステナイト系耐熱鋼(SUH35等)、フェライト系耐熱鋼(SUH446等)等が挙げられる。また、インコネル(NCF751等)のNi基耐熱合金も挙げられる。
また、アルミニウム合金としては、純アルミ(1000番台)、Al−Cu系合金(2000番台)、Al−Mn系合金(3000番台)、Al−Si系合金(4000番台)、Al−Mg系合金(5000番台)、Al−Mg−Si系合金(6000番台)、Al−Zn―Mg系合金(7000番台)等が挙げられる。なお、上記合金の組成は、特に限定されるものではない。
【0035】
基材の形状は特に限定されるものではなく、例えば、ガス流通部材として使用される部材の形状等に合わせて任意にその形状を設定することができるが、少なくともガスが流通する部分には、セラミックコート層が形成されていることが好ましい。ガス流通部材の具体例としては、例えば、吸気ポート、排気ポート、エンジンバルブ、ピストン等のエンジン部材が挙げられる。上記基材は、平板、湾曲板、屈曲板等の板状体や、傘型やキノコ型等の円錐体等であってもよい。
【0036】
上記基材の表面には、粗化処理が施されていることが好ましい。粗化処理により表面積が増大し、基材とセラミックコート層との密着性が増大するからである。
粗化処理された基材の表面粗さ(Ra)は、0.05〜10μmであることが好ましい。
上記表面粗さ(Ra)が0.05μm未満では、基材の表面積の増加が密着性の増加に余り寄与しない。一方、上記表面粗さ(Ra)が10μmを超えると、基材表面に形成されたセラミックコート層と基材表面との間に空気が介在し易くなり、セラミックコート層との密着性が低下する。
【0037】
次に、基材表面に形成されていてもよいアルマイト層について説明する。
基材にアルマイト層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、従来から用いられている公知の方法を使用することができるが、例えば、基材を陽極として電解浴中で通電すること[アルマイト処理(陽極酸化処理ともいう)]によってアルマイト層を形成する方法を適用することができる。
基材の一部にアルマイト処理を行う場合、アルマイト処理を行わない部分にマスキングテープ等を貼り付けて保護することが好ましい。
【0038】
アルマイト層の厚さは0.2〜100μmであることが好ましい。
アルマイト層の厚さが0.2μm未満であると、アルマイト層の厚さが薄すぎるため、セラミックコート層との密着力の向上という効果がほとんど得られないことがある。一方、アルマイト層の厚さが100μmを超えると、アルマイト層を形成するための時間がかかり過ぎ、不経済である。アルマイト層の厚さは10〜50μmであることがより好ましい。
なお、アルマイト層の厚さは、コート金属基材の断面をSEM等を用いて観察することによって測定することができる。
【0039】
アルマイト層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属基材の酸化により形成された酸化アルミニウム又は酸化アルミニウムと他の金属酸化物の複合酸化物の層であり、基材を構成する金属とアルマイト層とは、酸素を介して化学結合しているため、基材とアルマイト層とはしっかりと密着している。
【0040】
電解時の電流波形としては、直流、交流、交直重畳、交直併用、不完全整流波形、パルス波形、矩形波などを用いることができる。
また、電解方法としては、定電流、低電圧、定電力法及び連続、断続あるいは電流回復を応用した高速アルマイト法などを用いることができる。
【0041】
次に、セラミックコート層について説明する。
セラミックコート層は、セラミック原料からなっており、セラミック原料としては、非晶性無機材が挙げられる。
非晶性無機材は、ガラスからなることが好ましく、軟化点が250〜550℃の低軟化点ガラスからなるものであることがより好ましい。
軟化点が250〜550℃の低軟化点ガラスとしては、SiO−TiO系ガラス、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、B−PbO系ガラス、Al−SiO−B−PbO系ガラス、NaO−P−SiO系ガラス等が挙げられる。
なお、軟化点は、JIS R 3103−1(2001)に規定される方法に基づいて、例えば、有限会社オプト企業製の硝子自動軟化点・歪点測定装置(SSPM−31)を用いて測定することができる。
【0042】
上記セラミックコート層は、上記したセラミック原料に加えて、さらに結晶性無機材を含んでいてもよい。
上記結晶性無機材としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ランタニア、サマリア、シリカ、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、及び、ハフニアからなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。
【0043】
上記セラミックコート層の厚さは、10〜1000μmが好ましく、10〜600μmがより好ましく、10〜200μmがさらに好ましい。
上記セラミックコート層の厚さが10μm未満では、セラミックコート層の厚さが薄すぎるため、コート金属基材が充分な断熱性を発揮することができない。一方、上記セラミックコート層の厚さが1000μmを超えると、セラミックコート層に熱衝撃等が加わった際に、クラックが発生しやすくなることがある。
【0044】
次に、本発明のコート金属基材を製造する方法について説明する。
本発明のコート金属基材は、例えば、金属からなる基材を準備する基材準備工程と、上記基材上にセラミック原料と界面活性剤とからなるセラミックコート原料を塗布することによりセラミックコート層形成用の塗布層を形成する塗布層形成工程と、上記塗布層が形成された基材を所定の温度で焼成してセラミックコート層を形成させる焼成工程によって製造することができる。
【0045】
以下、上述した基材準備工程、塗布層形成工程、焼成工程について説明する。
【0046】
(a)基材準備工程
基材準備工程では、金属からなる基材を準備する。
【0047】
基材の形状、材料等は、本発明のコート金属基材の説明において説明したものと同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
【0048】
まず、基材準備工程においては、基材表面の不純物を除去すべく洗浄処理を行うことが好ましい。
上記洗浄処理としては特に限定されず、従来公知の洗浄処理法を用いることができ、具体的には、例えば、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行う方法等を用いることができる。
【0049】
基材とセラミックコート層との密着性をさらに向上させたい場合には、セラミックコート層を形成する部分に粗化処理を施してもよい。粗化処理の方法としては、例えば、サンドブラスト処理、エッチング処理、高温酸化処理、アルカリ処理等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。この粗化処理後にさらに洗浄処理を行ってもよい。
なお、粗化処理は、後述する塗布層形成工程よりも先に行うことが好ましい。
【0050】
上記基材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である場合、基材表面には、アルマイト処理を施すことが好ましい。
アルマイト処理を施すことにより、基材表面にアルマイト層を形成し、基材とセラミックコート層との密着性をさらに向上させることができる。
基材の一部にアルマイト処理を行う場合には、アルマイト処理を行わない部分にマスキングテープ等を貼り付けて保護することが好ましい。
なお、アルマイト処理は、後述する塗布層形成工程よりも先に行うことが好ましい。
【0051】
アルマイト処理の際に用いる電解浴としては、酸性浴の他に、アルカリ浴、あるいはホルムアミド系とホウ酸系などの非水浴も用いることができる。酸性浴としては、硫酸、リン酸、クロム酸、しゅう酸、スルホサリチル酸、ピロリン酸、スルファミン酸、リンモリブデン酸、ホウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、イタコン酸、リンゴ酸、グリコール酸などを一種又は二種以上溶解した水溶液を用いることができる。
また、アルカリ浴としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、アンモニア水などを一種又は二種以上溶解した水溶液を用いることができる。
上記アルマイト処理により、基材の表面に0.2〜100μmのアルマイト層を形成する。
【0052】
(b)塗布層形成工程
(b−1)セラミックコート原料調製工程
続いて、塗布層を形成するためのセラミックコート原料を調製する。
セラミック原料と界面活性剤を混合することによりセラミックコート原料が得られる。
セラミック原料と混合されてセラミックコート原料を構成する界面活性剤は、液体であってもよく、固体であってもよい。
【0053】
セラミック原料は、本発明のコート金属基材の説明において説明したものと同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
【0054】
セラミックコート原料は、例えば、セラミック原料と、界面活性剤と、水とを混合し、ボールミル等によって湿式混合することにより得ることができる。上記3成分を混合する順番及び組み合わせは特に限定されず、例えば、まずセラミック原料と水とを混合し、さらに界面活性剤を添加してもよいし、セラミック原料と界面活性剤を混合した後に水を添加してもよいし、セラミック原料と界面活性剤と水とを一度に混合してもよい。
なお、界面活性剤は、分子内に親水基と疎水基を有する物質の総称であり、その種類は特に限定されず、液体であってもよく、固体であってもよい。
【0055】
セラミックコート原料中に含まれる界面活性剤は、続く焼成工程において熱分解を起こし、気孔を形成する。すなわち、界面活性剤は造孔剤として機能する。
【0056】
セラミック原料と水との配合比は、特に限定されるものではないが、セラミック原料100重量部に対して、水100重量部程度が好ましい。このような重量比率でセラミック原料と水とを混合すると、金属基材に塗布するのに適した粘度となりやすいからである。また、必要に応じて、上記セラミックコート原料には、有機溶剤等の分散媒及び有機結合剤を配合してもよい。
【0057】
上記分散媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒を用いることができる。セラミックコート原料中の分散媒の含有量は特に限定されないが、例えば、セラミック原料100重量部に対して、分散媒が50〜150重量部であることが好ましい。このような割合で分散媒を配合することにより、セラミックコート原料の粘度が基材に塗布するのに適した粘度となるからである。
上記有機結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、分散媒と有機結合剤とを併用してもよい。
【0058】
セラミックコート原料中における界面活性剤の含有量は、セラミックコート原料全量に対して、固形分換算で0.1〜10重量%であることが好ましく、0.2〜5重量%であることがより好ましく、0.5〜3重量%であることがさらに好ましい。
界面活性剤の含有量が0.1重量%未満の場合、セラミックコート層に充分な量の気孔を形成できないことがある。一方、界面活性剤の含有量が10重量%を超える場合には、添加する界面活性剤の量が多すぎるため、気孔が大量に形成されて互いに連結してしまうことがある。このような気孔はセラミックコート層に均一に分散した気孔とはならず、断熱性能の低下及び機械的強度の低下を招くおそれがある。
【0059】
界面活性剤としては、水溶性の界面活性剤であることが好ましい。
界面活性剤が水溶性であると、軟化したセラミック原料中での自己分散性に優れ、均一な気孔を形成しやすくなる。そのため、高い断熱性能を有するセラミックコート層が得られる。また、上記界面活性剤の種類は特に限定されず、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの界面活性剤を用いてもよいが、セラミック原料中での自己分散性及び均一な気孔の形成という観点から、アニオン系の界面活性剤を用いることがさらに好ましい。
アニオン系の界面活性剤としては、ポリカルボン酸及び/又はその塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物及び/又はその塩、ポリアクリル酸及び/又はその塩、ポリメタクリル酸及び/又はその塩、ポリビニルスルホン酸及び/又はその塩等が挙げられる。
なお、水溶性の界面活性剤とは、グリフィン法におけるHLB値が8.0以上のものを示す。
【0060】
界面活性剤の熱分解温度は200〜600℃であることが好ましい。
界面活性剤の熱分解温度が上記範囲であると、セラミックコート層中に均一に分散した気孔を形成しやすくなる。
熱分解温度が200℃未満であると、焼成工程の初期の段階において、セラミックコート原料を構成するセラミック原料が軟化するよりも前に界面活性剤の熱分解が終了してしまうことがある。このような場合、界面活性剤の熱分解により発生した分解ガスは、焼成雰囲気中に拡散してしまい、気孔を形成することができない。一方、熱分解温度が600℃を超える値とすることは技術的に困難である。
なお、界面活性剤の熱分解温度は、熱重量分析(TGA)によって測定される、界面活性剤の重量が5重量%減少する際の温度である。
【0061】
セラミックコート原料には、必要に応じて、さらに、結晶性無機材を添加してもよい。
セラミックコート原料に結晶性無機材を加える場合、結晶性無機材を添加するタイミングは特に限定されないが、例えば、上述したセラミック原料と界面活性剤と水とを混合する前に、セラミック原料と結晶性無機材を混合する工程を有していてもよい。
結晶性無機材は、本発明のコート金属基材の説明において説明したものと同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
なお、セラミックコート原料としてさらに結晶性無機材を加える場合、上述したセラミック原料と界面活性剤と水とを混合する前に、セラミック原料と結晶性無機材を混合する工程を有していてもよい。
【0062】
(b−2)塗布工程
次に、塗布工程として、基材上に、セラミックコート層を形成するためのセラミックコート原料を塗布することによりセラミックコート層形成用の塗布層を形成する。
【0063】
塗布層の厚さは特に限定されないが、10〜1000μmであることが好ましく、10〜200μmの厚さのセラミックコート層を形成することのできる厚さであることが好ましい。
塗布層の厚さが10μm未満の場合、形成されるセラミックコート層の厚さが薄すぎるため、コート金属基材が充分な断熱性を発揮することができないことがある。
一方、塗布層の厚さが1000μmを超えると、形成されるセラミックコート層の厚さが厚くなりすぎて、セラミックコート層に熱衝撃が加わった際に、クラックが発生しやすくなることがある。
【0064】
基材に塗布層を形成する方法としては、例えば、スプレーコート、静電塗装、インクジェット、スタンプやローラ等を用いた転写、ハケ塗り等の方法が挙げられる。
【0065】
(c)焼成工程
次に、焼成工程として、塗布層が形成された基材に300〜600℃で焼成を施し、基材表面にセラミックコート層を形成する。
焼成温度は、非晶性無機材の軟化点以上とすることが好ましい。焼成温度を非晶性無機材の軟化点以上の温度とすることにより、塗布された非晶性無機材が軟化、溶融し、形成されたセラミックコート層と基材とが強固に密着する。
このとき、セラミックコート原料中に含まれる界面活性剤が、軟化したセラミック原料中に分散し、熱分解を起こすことによって気孔が形成される。
界面活性剤には自己分散性があるため、軟化したセラミック原料中に広く分散して、セラミックコート層中に均一に分散した気孔を形成することができる。さらに、界面活性剤が分解して形成された気孔はセラミックコート層に直接囲まれることとなるので、異物の発生が抑制され、断熱性能の低下やクラックの発生を抑制することができる。
また、焼成中に、気孔がセラミックコート層の表面に露出した場合、セラミックコート層を形成するセラミック原料は軟化しているため、気孔が露出した箇所を速やかに塞ぐことができる。そのため、焼成後のセラミックコート層は、表面に気孔が露出しておらず、平坦度の高い(表面粗さの低い)セラミックコート層が得られる。
基材表面にアルマイト層が形成されている場合には、セラミックコート層とアルマイト層とが強固に密着するとともに、アルマイト層に形成されたクラック等の凹凸の内部にもセラミックコート層が浸透し、基材やアルマイト層に対してより強固に密着する。
【0066】
以下に、本発明のコート金属基材の作用効果を列挙する。
(1)本発明のコート金属基材では、基材上に形成されたセラミックコート層中に気孔が均一に分散している。そのため、断熱性能及び耐熱衝撃性に優れる。
【0067】
(2)本発明のコート金属基材は、気孔がセラミックコート層に直接囲まれているため、気孔内に異物の混入が起こりにくく、気孔を内部から破壊されることを抑制することができる。そのため、コート金属基材の断熱性能の低下及びクラックの発生を抑制することができる。
【0068】
(3)本発明のコート金属基材は、セラミックコート層の表面粗さ(Ra)が8μm以下となっているため、コート金属基材の表面を流れる流体の流れが乱されにくく、熱伝導率を低く保つことができる。
【0069】
(実施例)
以下に実施例を掲げ本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0070】
(実施例1)
(a)基材準備工程
基材として、アルミニウム(A1050)からなる板(150mm×70mm×0.5mmt)を準備し、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行い、続いて、サンドブラスト処理を行って基材の表面(両面)を粗化した。サンドブラスト処理は、Al砥粒を用いて60分間行った。これにより、基材表面のJIS B 0601(2001)に基づき測定した表面粗さ(Ra)は、1.0μmとなった。
【0071】
(b)塗布層形成工程
(b−1)セラミックコート原料調製工程
非晶性無機材の粉末として、SiO−TiO系ガラス(軟化点400℃)を準備した。
有機結合剤として、メチルセルロースを準備した。
界面活性剤としてはポリカルボン酸型界面活性剤を準備した。
原料混合物の調製にあたっては、非晶性無機材の粉末100重量部に界面活性剤を2重量部加え、さらに水を100重量部加えて、ボールミルで湿式混合することによりスラリーを調製し、セラミックコート原料を得た。
【0072】
(b−2)塗布工程
平板状の基材の表面に、スプレーコートによりセラミックコート原料を塗布した。
焼成後のセラミックコート層が330μmの膜厚となるように塗布時間を調整し、乾燥機内で100℃で60分乾燥した。
【0073】
(c)焼成工程
上記工程の後、空気中、520℃の加熱炉において10分間加熱することによりセラミックコート層を形成し、実施例1に係るコート金属基材を得た。この後、コート金属基材の表面を垂直に切断し、その断面をSEMにより撮影した。得られた写真を図3に示す。なお、図3の左上部にみられるセラミックコート層の欠けは、SEM画像を撮影するためにセラミックコート層を切断した際に欠けたものである。
【0074】
(実施例2)
(c)焼成工程において、560℃で60分間加熱したほかは、実施例1と同様の方法で実施例2に係るコート金属基材を得た。
【0075】
(比較例1)
(c)焼成工程において、610℃で10分間加熱したほかは、実施例1と同様の方法で比較例1に係るコート金属基材を得た。
【0076】
(コート金属基材の特性の評価)
各実施例及び比較例で製造したコート金属基材について、その特性を以下の手順で評価した。
【0077】
(気孔の分散性の確認及び膜厚の測定)
各実施例及び比較例で製造したコート金属基材の表面を垂直に切断し、その断面を無作為に5箇所選び出し、SEMにより撮影した。得られた各SEM画像を上述した方法によりそれぞれ9つの領域に区画し、各領域中に存在する気孔径が0.1μm以上の気孔の数をカウントすることにより気孔が均一に分散されているかどうかを確認した。結果を表1に示す。なお、気孔が均一に分散しているものを○、気孔が均一に分散していないものを×として示している。
さらに、5つのSEM画像から無作為に選択した10箇所についてセラミックコート層の厚さを測定し、この平均値をセラミックコート層の厚さ(膜厚)とした。結果を表1に示す。
【0078】
(気孔率の測定)
気孔の分散性の確認で用いたものと同様のSEM画像を用いて、セラミックコート層中に示す気孔の割合を求めた。5つのSEM画像における気孔の割合の平均値を気孔率として求めた。結果を表1に示す。
【0079】
(気孔径の測定)
気孔の分散性の確認で用いたものと同様のSEM画像を用いて、目視により全ての気孔の大きさ(気孔径)を測定し、得られた数値を平均化することによって平均気孔径を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
(表面粗さの測定)
実施例及び比較例で製造したコート金属基材について、表面粗さ測定機(東京精密社製、ハンディサーフE−35B)を用いてセラミックコート層の表面粗さRaを測定した。結果を表1に示す。
【0081】
(熱伝導率の測定)
各実施例及び比較例における(b−1)セラミックコート原料調製工程で調製したセラミックコート原料を水平面に静置したアルミ板上に塗布し、各実施例及び比較例と同様の条件で焼成することで、それぞれ、実施例1、実施例2、比較例1に係る熱伝導率測定用の試験片を作製した。熱伝導率測定用の試験片の膜厚は実施例1に係る試験片が330μm、実施例2に係る試験片及び比較例1に係る試験片が700μmであった。この試験片について、レーザーフラッシュ装置(熱定数測定装置:NETZSCH LFA457 Microflash)を用い、JIS R 1611(2010)に基づいて測定を行い、セラミックコート層の厚さ方向の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。ただし、比較例1に係る試験片は脆く、レーザーフラッシュ装置に設置する際に割れてしまい、熱伝導率を測定することができなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
以上の結果から、本発明のコート金属基材は、セラミックコート層中に気孔が均一に分散しており、断熱性に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0084】
10 コート金属基材
11 基材
12 セラミックコート層
12a セラミックコート層の表面
13 気孔
図1
図2
図3