(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベースポリマーが、モノマーユニットとして、ヒドロキシ基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーからなる群から選択される1種以上を含有し、かつヒドロキシ基またはカルボキシ基に結合した架橋剤により架橋構造が導入されている、請求項1または2に記載の補強フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、補強フィルムの一実施形態を表す断面図である。補強フィルム10は、フィルム基材1の一主面上に粘着剤層2を備える。粘着剤層2は、基材フィルム1の一主面上に固着積層されている。粘着剤層2は光硬化性組成物からなる光硬化性粘着剤であり、紫外線等の活性光線の照射により硬化して、被着体との接着力が上昇する。
【0019】
図2は、粘着剤層2の主面上にセパレータ5が仮着された補強フィルムの断面図である。
図3は、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設された状態を示す断面図である。
【0020】
粘着剤層2の表面からセパレータ5を剥離除去し、粘着剤層2の露出面をデバイス20の表面に貼り合わせることにより、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設される。この状態では、粘着剤層2は光硬化前であり、デバイス20上に補強フィルム10(粘着剤層2)が仮着された状態である。粘着剤層2を光硬化することにより、デバイス20と粘着剤層2との界面での接着力が上昇し、デバイス20と補強フィルム10とが固着される。
【0021】
「固着」とは積層された2つの層が強固に接着しており、両者の界面での剥離が不可能または困難な状態である。「仮着」とは、積層された2つの層間の接着力が小さく、両者の界面で容易に剥離できる状態である。
【0022】
図2に示す補強フィルムでは、フィルム基材1と粘着剤層2とが固着しており、セパレータ5は粘着剤層2に仮着されている。フィルム基材1とセパレータ5を剥離すると、粘着剤層2とセパレータ5との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。剥離後のセパレータ5上には粘着剤は残存しない。
【0023】
図3に示す補強フィルム10が貼設されたデバイスは、粘着剤層2の光硬化前においては、デバイス20と粘着剤層2とが仮着状態である。フィルム基材1とデバイス20を剥離すると、粘着剤層2とデバイス20との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。デバイス20上には粘着剤が残存しないため、リワークが容易である。粘着剤層2を光硬化後は、粘着剤層2とデバイス20との接着力が上昇するため、デバイス20からフィルム1を剥離することは困難であり、両者を剥離すると粘着剤層2の凝集破壊が生じる場合がある。
【0024】
[フィルム基材]
フィルム基材1としては、プラスチックフィルムが用いられる。フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面は離型処理が施されていないことが好ましい。
【0025】
フィルム基材の厚みは、例えば4〜500μm程度である。剛性付与や衝撃緩和等によりデバイスを補強する観点から、フィルム基材1の厚みは20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、45μm以上がさらに好ましい。補強フィルムに可撓性を持たせハンドリング性を高める観点から、フィルム基材1の厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。機械強度と可撓性とを両立する観点から、フィルム基材1の圧縮強さは、100〜3000kg/cm
2が好ましく、200〜2900kg/cm
2がより好ましく、300〜2800kg/cm
2がさらに好ましく、400〜2700kg/cm
2が特に好ましい。
【0026】
フィルム基材1を構成するプラスチック材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。ディスプレイ等の光学デバイス用の補強フィルムにおいては、フィルム基材1は透明フィルムであることが好ましい。また、フィルム基材1側から活性光線を照射して粘着剤層2の光硬化を行う場合は、フィルム基材1は、粘着剤層の硬化に用いられる活性光線に対する透明性を有することが好ましい。機械強度と透明性とを兼ね備えることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂が好適に用いられる。被着体側から活性光線を照射する場合は、被着体が活性光線に対する透明性を有していればよく、フィルム基材1は活性光線に対して透明でなくてもよい。
【0027】
フィルム基材1の表面には、易接着層、易滑層、離型層、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層等の機能性コーティングが設けられていてもよい。なお、前述のように、フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面には離型層が設けられていないことが好ましい。
【0028】
[粘着剤層]
フィルム基材1上に固着積層される粘着剤層2は、ベースポリマー、光硬化剤および光ラジカル開始剤を含む光硬化性組成物である。補強フィルムが、ディスプレイ等の光学デバイスに用いられる場合、粘着剤層2の全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。粘着剤層2のヘイズは2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0029】
粘着剤層2は、光硬化前は被着体との接着力が小さいため、リワークが容易である。粘着剤層2に紫外線等の活性光線を照射すると、光ラジカル開始剤からラジカルが生成し、光硬化剤のラジカル重合反応(光硬化)により被着体との接着力が向上する。そのため、デバイスの使用時には補強フィルムがデバイス表面から剥離し難く、接着信頼性に優れる。
【0030】
光硬化性の粘着剤は紫外線等の照射により硬化が進行する。そのため、光硬化性の粘着剤組成物からなる粘着剤層2は、硬化のタイミングを任意に設定可能であり、工程のリードタイム等に柔軟に対応できるとの利点を有する。一方、補強フィルムの使用前や、補強フィルムを被着体と貼り合わせ後光硬化を行う前の状態において、保管環境における蛍光灯等からの光により、光ラジカル開始剤からラジカルが生成する場合がある。
【0031】
蛍光灯等の光によるラジカルの生成量は、光硬化の際の紫外線照射によるラジカル生成量に比べて十分に小さいため、蛍光灯下に短時間放置しても、光硬化反応はほとんど進行しない。しかし、補強フィルムを蛍光灯下で長期間保管すると、蛍光灯の光により光ラジカル開始剤から生成するラジカルの積算量が大きくなり、その影響が無視できなくなる場合がある。具体的には、光ラジカル開始剤から生成したラジカルにより光硬化剤の重合が進行して粘着剤の接着力が上昇し、被着体から補強フィルムの剥離が困難となる場合がある。また、長期間の保管による光ラジカル開始剤の失活に起因して、紫外線を照射しても光硬化が進行せず、接着力が上昇しなくなる場合がある。
【0032】
本発明の補強フィルムは、粘着剤層2を構成する光硬化性組成物が、ベースポリマー、光硬化剤および光ラジカル開始剤に加えて、酸化防止剤を含む。光ラジカル開始剤と酸化防止剤とを併用することにより、補強フィルムを蛍光灯下で長期間保管した場合でも、接着力の変化が小さく、かつ光照射時には接着力を適切に上昇させることが可能となる。
【0033】
<粘着剤の組成>
以下、光硬化性組成物を構成するベースポリマー、光硬化剤、光ラジカル開始剤および酸化防止剤のそれぞれについて、好ましい形態を順に説明する。
【0034】
(ベースポリマー)
ベースポリマーは粘着剤組成物の主構成成分である。ベースポリマーの種類は特に限定されず、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ゴム系ポリマー等を適宜に選択すればよい。特に、光学的透明性および接着性に優れ、かつ接着性の制御が容易であることから、粘着剤組成物は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有するものが好ましく、粘着剤組成物の50重量%以上がアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0035】
アクリル系ポリマーとしては、主たるモノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むものが好適に用いられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は直鎖でもよく分枝を有していてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸アラルキル等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対して40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、55重量%以上がさらに好ましい。
【0038】
アクリル系ベースポリマーは、共重合成分として、架橋可能な官能基を有するモノマー成分を含有することが好ましい。架橋可能な官能基を有するモノマーとしてはヒドロキシ基含有モノマーや、カルボキシ基含有モノマーが挙げられる。ベースポリマーのヒロドキシ基やカルボキシ基は、後述の架橋剤との反応点となる。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、ヒドロキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。エポキシ系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、カルボキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。ベースポリマーに架橋構造が導入されることにより、凝集力が向上し、粘着剤層2の接着力が向上するとともに、リワークの際の被着体への糊残りが低減する傾向がある。
【0039】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)メチル等が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−カルボキシエチル、カルボキシペンチル(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0040】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対するヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーの合計量が、1〜30重量%であることが好ましく、3〜25重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。特に、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリル酸エステルの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0041】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、N−ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N−アクリロイルモルホリン、N−ビニルカルボン酸アミド類、N−ビニルカプロラクタム等の窒素含有モノマーを含有することが好ましい。窒素含有モノマー成分を含有するアクリル系ベースポリマーは、湿熱環境下で適度な吸水性を発現し粘着剤の局所的な吸水が抑制されるため、粘着剤層の局所的な白化、局所的膨潤、剥離等の防止に寄与する。
【0042】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対する窒素含有モノマーの含有量が、1〜30重量%であることが好ましく、3〜25重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。アクリル系ベースポリマーは、窒素含有モノマーとして、N−ビニルピロリドンを上記範囲で含有することが好ましい。
【0043】
アクリル系ベースポリマーがモノマー成分としてヒドロキシ基含有モノマーと窒素含有モノマーの両方を含む場合に、粘着剤の凝集力および透明性が高められる傾向がある。アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対するヒドロキシ基含有モノマーと窒素含有モノマーの合計量が5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましく、15〜35重量%であることがさらに好ましい。
【0044】
アクリル系ベースポリマーは、上記以外のモノマー成分を含んでいてもよい。アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分として、例えば、シアノ基含有モノマー、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、エポキシ基含有モノマー、ビニルエーテルモノマー、スルホ基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー等を含んでいてもよい。
【0045】
光硬化前の粘着剤の接着特性は、ベースポリマーの構成成分および分子量に左右されやすい。ベースポリマーの分子量が大きいほど、粘着剤が硬くなる傾向がある。アクリル系ベースポリマーの重量平均分子量は、10万〜500万が好ましく、30万〜300万がより好ましく、50万〜200万がさらに好ましい。なお、ベースポリマーに架橋構造が導入される場合、ベースポリマーの分子量とは、架橋構造導入前の分子量を指す。
【0046】
ベースポリマーの構成成分における、高Tgモノマー成分の含有量が多いほど、粘着剤が硬くなる傾向がある。なお、高Tgモノマーとは、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が高いモノマーを意味する。ホモポリマーのTgが40℃以上のモノマーとしては、ジシクロペンタニルメタクリレート(Tg:175℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg:120℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg:173℃)、イソボルニルアクリレート(Tg:97℃)、メチルメタクリレート(Tg:105℃)、1−アダマンチルメタクリレート(Tg:250℃)、1−アダマンチルアクリレート(Tg:153℃)等の(メタ)アクリル系モノマー;アクリロイルモルホリン(Tg:145℃)、ジメチルアクリルアミド(Tg:119℃)、ジエチルアクリルアミド(Tg:81℃)、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Tg:134℃)、イソプロピルアクリルアミド(Tg:134℃)、ヒドロキシエチルアクリルアミド(Tg:98℃)等のアミド基含有ビニルモノマー;N−ビニルピロリドン(Tg:54℃)等が挙げられる。
【0047】
アクリル系ベースポリマーは、ホモポリマーのTgが40℃以上のモノマーの含有量が、構成モノマー成分全量に対して5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。適度な硬さを有しリワーク性に優れる粘着剤層を形成するためには、ベースポリマーのモノマー成分として、ホモポリマーのTgが80℃以上のモノマー成分を含むことが好ましく、ホモポリマーのTgが100℃以上のモノマー成分を含むことがより好ましい。アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対するホモポリマーのTgが100℃以上のモノマーの含有量が、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましく、3重量%以上であることが特に好ましい。特に、メタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0048】
上記モノマー成分を、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の各種公知の方法により重合することによりベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーが得られる。粘着剤の接着力、保持力等の特性のバランスや、コスト等の観点から、溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、酢酸エチル、トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20〜80重量%程度である。溶液重合に用いられる重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系等の各種公知のものを使用できる。分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。反応温度は通常50〜80℃程度、反応時間は通常1〜8時間程度である。
【0049】
(架橋剤)
粘着剤に適度の凝集力を持たせる観点から、ベースポリマーには架橋構造が導入されることが好ましい。例えば、ベースポリマーを重合後の溶液に架橋剤を添加し、必要に応じて加熱を行うことにより、架橋構造が導入される。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、ベースポリマー中に導入されたヒドロキシ基やカルボキシ基等の官能基と反応して架橋構造を形成する。ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基との反応性が高く、架橋構造の導入が容易であることから、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が好ましい。
【0050】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートHL」)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(例えば、三井化学製「タケネートD110N」、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(例えば、東ソー製「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等が挙げられる。
【0051】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が用いられる。エポキシ系架橋剤のエポキシ基はグリシジル基であってもよい。エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール−S−ジグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤として、ナガセケムテックス製の「デナコール」、三菱ガス化学製の「テトラッドX」「テトラッドC」等の市販品を用いてもよい。
【0052】
架橋剤の使用量は、ベースポリマーの組成や分子量等に応じて適宜に調整すればよい。架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.1〜10重量部程度であり、好ましくは0.3〜7重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは1〜4重量部である。また、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量(重量部)を架橋剤の官能基当量(g/eq)で割った値は、0.00015〜0.11が好ましく、0.001〜0.077がより好ましく、0.003〜0.055がさらに好ましく、0.0045〜0.044が特に好ましい。一般的なアクリル系の光学用透明粘着剤よりも架橋剤の使用量を大きくして粘着剤に適度な硬さを持たせることにより、リワーク時の被着体への糊残りが低減し、リワーク性が向上する傾向がある。
【0053】
架橋構造の形成を促進するために架橋触媒を用いてもよい。例えば、イソシアネート系架橋剤の架橋触媒としては、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ナーセム第二鉄、ブチルスズオキシド、ジオクチルスズジラウレート等の金属系架橋触媒(特にスズ系架橋触媒)等が挙げられる。架橋触媒の使用量は、一般には、ベースポリマー100重量部に対して0.05重量部以下である。
【0054】
(光硬化剤)
粘着剤層2を構成する粘着剤組成物は、ベースポリマーに加えて光硬化剤を含有する。光硬化性の粘着剤組成物からなる粘着剤層2は、被着体との貼り合わせ後に光硬化を行うと、被着体との接着力が向上する。
【0055】
光硬化剤としては、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましい。また、光硬化剤は、ベースポリマーとの相溶性を示す化合物が好ましい。ベースポリマーとの適度な相溶性を示すことから、光硬化剤は常温で液体であるものが好ましい。光硬化剤がベースポリマーと相溶し、組成物中で均一に分散することにより、被着体との接触面積を確保可能であり、かつ透明性の高い粘着剤層2を形成できる。また、ベースポリマーと光硬化剤とが適度な相溶性を示すことにより、光硬化後の粘着剤層2内に架橋構造が均一に導入されやすく、被着体との接着力が適切に上昇する傾向がある。
【0056】
ベースポリマーと光硬化剤との相溶性は、主に、化合物の構造の影響を受ける。化合物の構造と相溶性は、例えばハンセン溶解度パラメータにより評価可能であり、ベースポリマーと光硬化剤の溶解度パラメータの差が小さいほど相溶性が高くなる傾向がある。
【0057】
アクリル系ベースポリマーとの相溶性が高いことから、光硬化剤として多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ブタジエン(メタ)アクリレート、イソプレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系ベースポリマーとの相溶性に優れることから、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0058】
ベースポリマーと光硬化剤との相溶性は、化合物の分子量にも左右される。光硬化性化合物の分子量が小さいほど、ベースポリマーとの相溶性が高くなる傾向がある。ベースポリマーとの相溶性の観点から、光硬化剤の分子量は1500以下が好ましく、1000以下がより好ましく、500以下がさらに好ましく、400以下が特に好ましい。
【0059】
光硬化前の粘着剤層2においては、ベースポリマーの特性が接着性の主たる支配要因である。そのため、粘着剤組成物のベースポリマーが同一であれば、光硬化剤の種類が異なっても、光硬化前の粘着剤層の接着特性の差異は小さい。光硬化剤の種類や含有量は、主に、光硬化後の粘着剤層の接着力に影響を与える。官能基当量が小さく(すなわち、単位分子量あたりの官能基数が大きく)、光硬化剤の含有量が大きいほど、光硬化の前後で接着力に差を設けることができる。
【0060】
ベースポリマーとの相溶性が高く、かつ光硬化後の接着力を向上する観点から、光硬化剤の官能基当量(g/eq)は500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下がさらに好ましく、200以下が特に好ましい。一方、光硬化剤の官能基当量が過度に小さいと、光硬化後の粘着剤層の架橋点密度が高くなり、接着性が低下する場合がある。そのため、光硬化剤の官能基当量は80以上が好ましく、100以上がより好ましく、130以上がさらに好ましい。
【0061】
アクリル系ベースポリマーと多官能アクリレート光硬化剤との組み合わせにおいては、光硬化剤の官能基当量が小さい場合は、ベースポリマーと光硬化剤の相互作用が強く、初期接着力が上昇する傾向がある。本発明の用途においては、初期接着力の過度の上昇がリワーク性の低下につながる場合がある。光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力を適切な範囲に保持する観点からも、光硬化剤の官能基当量は上記の範囲内であることが好ましい。
【0062】
粘着剤組成物における光硬化剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、10〜50重量部が好ましい。光硬化剤の配合量を上記範囲とすることにより、光硬化後の粘着剤層と被着体との接着性を適切な範囲に調整できる。光硬化剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、15〜45重量部がより好ましく、20〜40重量部がさらに好ましい。
【0063】
(光ラジカル開始剤)
光ラジカル開始剤は、活性光線の照射によりラジカルを生成し、光ラジカル開始剤から光硬化剤へのラジカル移動により、光硬化剤のラジカル重合反応を促進する。光ラジカル開始剤(光ラジカル発生剤)としては、波長450nmよりも短波長の可視光または紫外線の照射によりラジカルを生成するものが好ましく、ヒドロキシケトン類、ベンジルジメチルケタール類、アミノケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ベンゾフェノン類、トリクロロメチル基含有トリアジン誘導体等が挙げられる。光ラジカル開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
粘着剤層2に透明性が求められる場合、光ラジカル開始剤は、400nmよりも長波長の光(可視光)に対する感度が小さいことが好ましく、例えば、波長405nmにおける吸光係数が1×10
2[mLg
−1cm
−1]以下である光ラジカル開始剤が好ましく用いられる。また、可視光の感度が小さい光ラジカル開始剤を用いれば、保管環境での外光に起因する光ラジカルの生成量が小さいため、補強フィルムの保管安定性を向上できる。
【0065】
補強フィルムの保管安定性を高める観点から、360nmよりも長波長に吸収極大を示さない光ラジカル開始剤を用いることが好ましい。360nmよりも長波長に吸収極大を示す光ラジカル開始剤は、蛍光灯からの紫外線(主に365nmおよび405nmの水銀輝線)を吸収して光ラジカルが生成しやすい。光ラジカル開始剤の光吸収の極大波長が360nm以下であれば、蛍光灯等の保管環境下での光に起因するラジカルの生成量が少ない。そのため、補強フィルムを蛍光灯下に長期間暴露した場合でも、光ラジカル開始剤の実効濃度を高く維持できる。また、蛍光灯等の保管環境での光に起因して生成した少量のラジカルは、酸化防止剤によりトラップされるため、保管環境下での光重合が抑制される。
【0066】
保管安定性が高く、長期保管後にも光照射により被着体との接着力を向上可能とするためには、粘着剤層に含まれる光ラジカル開始剤は、光吸収の極大波長が355nm以下であることが好ましい。一方、紫外線照射による光硬化効率を高めるためには、光ラジカル開始剤は310nmよりも長波長に光吸収極大を有することが好ましい。以上より、補強フィルムの保管安定性を向上するためには、粘着剤層2に含まれる光ラジカル開始剤は、波長360nmよりも長波長に吸収極大を有さず、かつ波長310〜355nmの範囲に吸収極大を有するものが好ましい。光ラジカル開始剤の吸収極大波長は、315〜350nmがより好ましく、320〜340nmがさらに好ましい。
【0067】
粘着剤層2における光ラジカル開始剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましく、0.02〜0.7重量部がより好ましく、0.03〜0.5重量部がさらに好ましい。粘着剤層2における光ラジカル開始剤の含有量は、光硬化剤100重量部に対して、0.005〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.4重量部がより好ましく、0.02〜0.3重量部がさらに好ましい。粘着剤層における光ラジカル開始剤の含有量が過度に小さいと、紫外線を照射しても光硬化反応が十分に進行しない場合がある。光ラジカル開始剤の含有量が過度に大きいと、酸化防止剤を併用した場合でも保管環境下での光硬化反応が進行して被着体との接着力が上昇し、補強フィルムのリワークが困難となる場合がある。
【0068】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、補強フィルムの保管環境における光硬化反応を抑制する作用を有する。光ラジカル開始剤に加えて酸化防止剤を含む組成物では、蛍光灯等からの光により光ラジカル開始剤から少量の光ラジカルが生成した場合でも、酸化防止剤がラジカルをトラップして安定ラジカルが生成するため、光硬化剤へのラジカル移動が抑制される。そのため、蛍光灯等からの光による光硬化(光硬化剤のラジカル重合反応)が抑制される。
【0069】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0070】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート等が挙げられる。リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト等が挙げられる。
【0071】
アミン系酸化防止剤としては、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン類;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン類;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン類;α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類等が挙げられる。
【0072】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(ジブチルヒドロキシトルエン;BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリン−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のビスフェノール系酸化防止剤;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6−(1H、3H、5H)トリオン、トコフェノール等の高分子型フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0073】
蛍光灯等の光により光ラジカル開始剤から生成したラジカルによる光硬化を抑制する観点から、酸化防止剤の中でも、アミン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤等のラジカル連鎖防止剤として作用するものが好ましく、ヒンダードフェノール構造を有するフェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0074】
ヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤は、フェノールのOH基が結合している芳香族環上の炭素原子に隣接炭素原子の少なくとも一方に、tert−ブチル基等の立体障害の大きな基が結合したものである。ヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF製「Irganox 1010」)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF製「Irganox 1076」)、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(BASF製「Irganox 1330」)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(BASF製「Irganox 3114」)、イソシアヌル酸トリス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル](BASF製「Irganox 3125」)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](ADEKA製「アデカスタブ AO−60」)、3、9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製「アデカスタブ AO−80」)、アクリル酸2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニル(住友化学製「スミライザーGS」)、アクリル酸2−tert−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル(住友化学製「スミライザー GM」)、2,2’−ジメチル−2,2’−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジイル)ジプロパン−1,1’−ジイル=ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパノアート](住友化学製「スミライザー GA−80」)、1,3,5−トリス(3−ヒドロキシ−4−tert−ブチル−2,6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(サイテック製「シアノックス 1790」)等が挙げられる。
【0075】
粘着剤層2における酸化防止剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜2重量部が好ましく、0.03〜1重量部がより好ましく、0.04〜0.7重量部がさらに好ましく、0.05〜0.5重量部が特に好ましい。酸化防止剤の含有量は、光ラジカル開始剤の含有量の0.2〜5倍が好ましく、0.3〜3倍がより好ましく、0.5〜2倍がさらに好ましい。
【0076】
(光ラジカル開始剤と酸化防止剤の併用効果)
光ラジカル開始剤に加えて酸化防止剤を含む組成物では、蛍光灯等からの光により光ラジカル開始剤から少量の光ラジカルが生成した場合でも、酸化防止剤がラジカルをトラップして安定ラジカルが生成する。そのため、蛍光灯等からの光によるラジカル重合反応が抑制される。補強フィルムの保管状態における重合反応を抑制する観点からは、酸化防止剤の含有量が多い方が好ましい。一方、酸化防止剤の含有量が過度に大きいと、光硬化のために紫外線照射を行っても、酸化防止剤が光生成ラジカルの大半をトラップするために、光ラジカル開始剤から光硬化剤へのラジカル移動が妨げられ、光硬化が不十分となる場合がある。そのため、保管環境における光重合を抑制して接着力の上昇を防止し、光照射時には適切に光硬化反応を進行させて接着力を上昇させるためには、酸化防止剤の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0077】
光ラジカル開始剤と酸化防止剤とを併用することにより、蛍光灯等からの光により生成したラジカルを酸化防止剤がトラップするため、保管環境下での光硬化反応による接着力の上昇を抑制できる。そのため、光ラジカル開始剤の種類に関わらず、酸化防止剤の作用により、保管環境での粘着剤層の光硬化を抑制できる。
【0078】
一方で、光ラジカル開始剤と酸化防止剤を含む粘着剤層を備える補強フィルムが蛍光灯下に長期間暴露されると、光ラジカル開始剤の失活により、光ラジカル開始剤の実効濃度(光ラジカルを生成可能な光ラジカル開始剤の濃度)が減少する。そのため、光硬化のために紫外線照射を行っても光ラジカルの生成量が少なく、光硬化反応が十分に進行しない場合がある。
【0079】
補強フィルムは、長期間保管後も、保管環境における蛍光灯等の光による粘着剤の光硬化が生じ難く、かつ光照射時には十分な量のラジカルを生成し、光硬化剤のラジカル重合反応により被着体との接着力が上昇することが好ましい。長期間保管後にも光硬化反応を十分に進行させるためには、保管環境におけるラジカル生成量が小さい光ラジカル開始剤を用いることが好ましい。具体的には、前述したように、360nm以下に吸収極大波長を有し、蛍光灯の水銀輝線(特に波長365nm)による光ラジカル生成量が小さい光ラジカル開始剤を用いることが好ましい。
【0080】
蛍光灯の光による光ラジカル開始剤からのラジカル生成量は、例えば、後述の実施例に示すように、極低温で波長365nmの光を照射し、電子スピン共鳴(ESR)法によりラジカル量を定量することにより評価できる。光ラジカル開始剤由来のラジカルは、常温での寿命が極端に短いため、ラジカル生成量の評価には極低温が適している。
【0081】
(その他の添加剤)
上記例示の各成分の他、粘着剤層中は、シランカップリング剤、粘着性付与剤、可塑剤、軟化剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0082】
[補強フィルムの作製]
フィルム基材1上に光硬化性の粘着剤層2を積層することにより、補強フィルムが得られる。粘着剤層2は、フィルム基材1上に直接形成してもよく、他の基材上でシート状に形成された粘着剤層をフィルム基材1上に転写してもよい。
【0083】
上記の粘着剤組成物を、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等により、基材上に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより粘着剤層が形成される。乾燥方法としては、適宜、適切な方法が採用され得る。加熱乾燥温度は、好ましくは40℃〜200℃、より好ましくは50℃〜180℃、さらに好ましくは70℃〜170℃である。乾燥時間は、好ましくは5秒〜20分、より好ましくは5秒〜15分、さらに好ましくは10秒〜10分である。
【0084】
粘着剤層2の厚みは、例えば、1〜300μm程度である。粘着剤層2の厚みが大きいほど被着体との接着性が向上する傾向がある。一方、粘着剤層2の厚みが過度に大きい場合は、光硬化前の流動性が高く、ハンドリングが困難となる場合がある。そのため、粘着剤層2の厚みは5〜100μmが好ましく、8〜50μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましく、13〜30μmが特に好ましい。
【0085】
粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合は、溶媒の乾燥と同時、または溶媒の乾燥後に、加熱またはエージングにより架橋を進行させることが好ましい。加熱温度や加熱時間は、使用する架橋剤の種類によって適宜設定され、通常、20℃〜160℃の範囲で、1分から7日程度の加熱により架橋が行われる。溶媒を乾燥除去するための加熱が、架橋のための加熱を兼ねていてもよい。
【0086】
ベースポリマーに架橋構造が導入されることにより、ゲル分率が上昇する。ゲル分率が高いほど粘着剤が硬く、リワーク等による被着体からの補強フィルムの剥離時に、被着体への糊残りが抑制される傾向がある。光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。粘着剤層2の光硬化前のゲル分率は、70%以上または75%以上であってもよい。
【0087】
粘着剤は未反応の光硬化剤を含有するため、光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は一般に90%以下である。光硬化前の粘着剤層2のゲル分率が過度に大きいと、被着体に対する投錨力が低下し、初期接着力が不十分となる場合がある。そのため、光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は、85%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0088】
ゲル分率は、酢酸エチル等の溶媒に対する不溶分として求めることができ、具体的には、粘着剤層を酢酸エチル中に23℃で7日間浸漬した後の不溶成分の、浸漬前の試料に対する重量分率(単位:重量%)として求められる。一般に、ポリマーのゲル分率は架橋度に等しく、ポリマー中の架橋された部分が多いほど、ゲル分率が大きくなる。また、光硬化剤の量が多いほど、ゲル分率は小さくなる。
【0089】
架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入後も、光硬化剤は未反応の状態を維持している。そのため、ベースポリマーと光硬化剤とを含む光硬化性の粘着剤層2が形成される。フィルム基材1上に粘着剤層2を形成する場合は、粘着剤層2の保護等を目的として、粘着剤層2上にセパレータ5を付設することが好ましい。粘着剤層2上にセパレータ5を付設後に架橋を行ってもよい。
【0090】
他の基材上に粘着剤層2を形成する場合は、溶媒を乾燥後に、フィルム基材1上に粘着剤層2を転写することにより補強フィルムが得られる。粘着剤層の形成に用いた基材を、そのままセパレータ5としてもよい。
【0091】
セパレータ5としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムが好ましく用いられる。セパレータの厚みは、通常3〜200μm、好ましくは10〜100μm程度である。セパレータ5の粘着剤層2との接触面には、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、もしくは脂肪酸アミド系等の離型剤、またはシリカ粉等による離型処理が施されていることが好ましい。セパレータ5の表面が離型処理されていることにより、フィルム基材1とセパレータ5を剥離した際に、粘着剤層2とセパレータ5との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。
【0092】
[補強フィルムの使用]
本発明の補強フィルムは、デバイスまたはデバイス構成部品に貼り合わせて用いられる。補強フィルム10は、粘着剤層2がフィルム基材1と固着されており、被着体との貼り合わせ後光硬化前は、被着体への接着力が小さい。そのため、光硬化前は被着体からの補強フィルムの剥離が容易であり、リワーク性に優れる。また、光硬化前は補強フィルムを切断し、被着体表面の一部の領域の補強フィルムを除去する等の加工も容易に行い得る。
【0093】
補強フィルムが貼り合わせられる被着体は特に限定されず、各種の電子デバイス、光学デバイスおよびその構成部品等が挙げられる。補強フィルムは被着体の全面に貼り合わせられてもよく、補強を必要とする部分にのみ選択的に貼り合わせられてもよい。また、被着体の全面に補強フィルムを貼り合わせ後、補強を必要としない箇所の補強フィルムを切断し、補強フィルムを剥離除去してもよい。光硬化前であれば、補強フィルムは被着体表面に仮着された状態であるため、被着体の表面から補強フィルムを容易に剥離除去できる。
【0094】
<光硬化前の粘着剤層の特性>
(接着力)
被着体からの剥離を容易とし、補強フィルムを剥離後の被着体への糊残りを防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は、5N/25mm以下が好ましく、2N/25mm以下がより好ましく、1.3N/25mm以下がさらに好ましい。保管やハンドリングの際の補強シートの剥離を防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は、0.005N/25mm以上が好ましく、0.01N/25mm以上がより好ましく、0.1N/25mm以上がさらに好ましく、0.3N/25mm以上が特に好ましい。
【0095】
補強フィルムは、粘着剤層を光硬化前の状態において、ポリイミドフィルムに対する接着力が上記範囲内であることが好ましい。フレキシブルディスプレイパネル、フレキシブルプリント配線板(FPC)、ディスプレイパネルと配線板とを一体化したデバイス等においては、可撓性の基板材料が用いられ、耐熱性や寸法安定性の観点から、一般的に、ポリイミドフィルムが用いられる。粘着剤層が基板としてのポリイミドフィルムに対して上記の接着力を有する補強フィルムは、粘着剤の光硬化前には剥離が容易であり、光硬化後は接着信頼性に優れる。
【0096】
(貯蔵弾性率)
粘着剤層2は、光硬化前の25℃におけるせん断貯蔵弾性率G’
iが1×10
4〜1.2×10
5Paであることが好ましい。せん断貯蔵弾性率(以下、単に「貯蔵弾性率」と記載する)は、JIS K7244−1「プラスチック−動的機械特性の試験方法」に記載の方法に準拠して、周波数1Hzの条件で、−50〜150℃の範囲で昇温速度5℃/分で測定した際の、所定温度における値を読み取ることにより求められる。
【0097】
粘着剤のように粘弾性を示す物質において、貯蔵弾性率G’は硬さの程度を表す指標として用いられる。粘着剤層の貯蔵弾性率は凝集力と高い相関を有しており、粘着剤の凝集力が高いほど被着体への投錨力が大きくなる傾向がある。光硬化前の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1×10
4Pa以上であれば、粘着剤が十分な硬さと凝集力を有するため、被着体から補強フィルムを剥離した際に被着体への糊残りが生じ難い。また、粘着剤層2の貯蔵弾性率が大きい場合は、補強フィルムの端面からの粘着剤のはみ出しを抑制できる。光硬化前の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1.2×10
5Pa以下であれば、粘着剤層2と被着体との界面での剥離が容易であり、リワークを行った場合でも、粘着剤層の凝集破壊や被着体表面への糊残りが生じ難い。
【0098】
補強シートのリワーク性を高め、リワーク時の被着体への糊残りを抑制する観点から、粘着剤層2の光硬化前の25℃における貯蔵弾性率G’
iは、3×10
4〜1×10
5Paがより好ましく、4×10
4〜9.5×10
4Paがさらに好ましい。
【0099】
<粘着剤層の光硬化>
被着体に補強フィルムを貼り合わせ後、粘着剤層2に活性光線を照射することにより、粘着剤層を光硬化させる。活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線、X線、α線、β線、およびγ線等が挙げられる。保管状態における粘着剤層の硬化を抑制可能であり、かつ硬化が容易であることから、活性光線としては紫外線が好ましい。活性光線の照射強度や照射時間は、粘着剤層の組成や厚み等に応じて適宜設定すればよい。粘着剤層2への活性光線の照射は、フィルム基材1側および被着体側のいずれの面から実施してもよく、両方の面から活性光線の照射を行ってもよい。
【0100】
<光硬化後の粘着剤層の特性>
(接着力)
デバイスの実用時の接着信頼性の観点から、光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、6N/25mm以上が好ましく、10N/25mm以上がより好ましく、12N/25mm以上がさらに好ましく、14N/25mm以上が特に好ましい。補強フィルムは、光硬化後の粘着剤層が、ポリイミドフィルムに対して上記範囲の接着力を有することが好ましい。光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力の4倍以上が好ましく、8倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。
【0101】
粘着剤層2は、光硬化後の25℃における貯蔵弾性率G’
fが1.5×10
5Pa以上であることが好ましい。光硬化後の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1.5×10
5Pa以上であれば、凝集力の増大に伴って被着体との接着力が向上し、高い接着信頼性が得られる。一方、貯蔵弾性率が過度に大きい場合は、粘着剤が濡れ拡がり難く被着体との接触面積が小さくなる。また、粘着剤の応力分散性が低下するため、剥離力が接着界面に伝播しやすく、被着体との接着力が低下する傾向がある。そのため、粘着剤層2の光硬化後の25℃における貯蔵弾性率G’
fは2×10
6Pa以下が好ましい。粘着剤層を光硬化後の補強シートの接着信頼性を高める観点から、G’
fは、1.8×10
5〜1.2×10
6Paがより好ましく、2×10
5〜1×10
6Paがさらに好ましい。
【0102】
粘着剤層2の光硬化前後の25℃における貯蔵弾性率の比G’
f/G’
iは、2以上が好ましい。G’
fがG’
iの2倍以上であれば、光硬化によるG’の増加が大きく、光硬化前のリワーク性と光硬化後の接着信頼性とを両立できる。G’
f/G’
iは4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。G’
f/G’
iの上限は特に限定されないが、G’
f/G’
iが過度に大きい場合は、光硬化前のG’が小さいことによる初期接着不良、または光硬化後のG’が過度に大きいことによる接着信頼性の低下に繋がりやすい。そのため、G’
f/G’
iは、100以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、25以下が特に好ましい。
【0103】
補強フィルムを付設後の被着体は、複数の積層部材の積層界面の親和性向上等を目的としたオートクレーブ処理や、回路部材接合のための熱圧着等の加熱処理が行われる場合がある。このような加熱処理が行われた際に、補強フィルムと被着体との間の粘着剤が、端面から流動しないことが好ましい。
【0104】
高温加熱時の粘着剤のはみ出しを抑制する観点から、光硬化後の粘着剤層2の100℃における貯蔵弾性率は、5×10
4Pa以上が好ましく、8×10
4Pa以上がより好ましく、1×10
5Pa以上がさらに好ましい。加熱時の粘着剤のはみ出し防止に加えて、加熱時の接着力低下を防止する観点から、光硬化後の粘着剤層2の100℃における貯蔵弾性率は、50℃における貯蔵弾性率の60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上が特に好ましい。
【0105】
[補強フィルムの使用形態]
本発明の補強フィルムは、各種デバイスの構成部材(仕掛品)や、完成後のデバイスに貼り合わせて用いられる。補強フィルムを貼り合わせることにより、適度な剛性が付与されるため、ハンドリング性向上や破損防止効果が期待される。デバイスの製造工程において、仕掛品に補強フィルムが貼り合わせられる場合は、製品サイズに切断される前の大判の仕掛品に補強フィルムを貼り合わせてもよい。ロールトゥーロールプロセスにより製造されるデバイスのマザーロールに、補強フィルムをロールトゥーロールで貼り合わせてもよい。
【0106】
デバイスの高度集積化、小型軽量化および薄型化に伴って、デバイスを構成する部材の厚みが小さくなる傾向がある。構成部材の薄型化により、積層界面での応力や等に起因する湾曲やカールが生じやすくなる。また、薄型化により自重による撓みが生じやすくなる。補強フィルムを貼り合わせることにより、被着体に剛性を付与できるため、応力や自重等による湾曲、カール、撓み等が抑制され、ハンドリング性が向上する。そのため、デバイスの製造工程で仕掛品に補強フィルムを貼り合わせることにより、自動化された装置による搬送や加工の際の不良や不具合を防止できる。
【0107】
自動搬送においては、搬送対象の仕掛品と、搬送アームやピン等との接触が不可避である。また、形状の調整や不要部分除去のために、仕掛品の切断加工がおこなわれる場合がある。高度集積化、小型軽量化および薄型化されたデバイスでは、搬送装置等との接触や切断加工の際に、局所的な応力の集中による破損が生じやすい。複数の部材が積層されたデバイスの製造工程においては、部材を順次積層するだけでなく、仕掛品から部材の一部や工程材等が剥離除去される場合がある。部材が薄型化されている場合は、剥離箇所およびその近傍に局所的に応力が集中して、破損や寸法変化が生じる場合がある。補強フィルムは粘着剤層による応力分散性を有しているため、搬送対象物および加工対象物に補強フィルムが貼り合わせられることにより、適度な剛性が付与されるとともに、応力が緩和・分散され、クラック、割れ、剥がれ、寸法変化等の不具合を抑制できる。
【0108】
このように、本発明の補強フィルムを貼り合わせることにより、被着体である仕掛品に適度な剛性が付与されるとともに、応力が緩和・分散されるため、製造工程において生じ得る種々の不具合を抑制し、生産効率を向上し、歩留まりを改善できる。また、補強フィルムは、粘着剤層を光硬化する前は、被着体からの剥離が容易であるため、積層や貼り合わせ不良が生じた場合もリワークが容易である。
【0109】
本発明の補強フィルムは、粘着剤層2が光硬化性であり、硬化のタイミングを任意に設定可能である。リワークや補強フィルムの加工等の処理は、被着体に補強フィルムを貼設後、粘着剤を光硬化するまでの間の任意のタイミングで実施可能であるため、デバイスの製造工程のリードタイムに柔軟に対応可能である。上述のように、粘着剤層が、光硬化剤および光ラジカル開始剤に加えて酸化防止剤を含有するため、蛍光灯等の光による光硬化が進行し難い。そのため、被着体に補強フィルムを添接した状態で長期間保管した場合でも、光硬化の前であれば被着体からの補強フィルムの剥離が容易である。
【0110】
完成後のデバイスの使用において、デバイスの落下、デバイス上への重量物の載置、デバイスへの飛来物の衝突等により、不意に外力が負荷された場合でも、補強フィルムが貼り合わせられていることにより、デバイスの破損を防止できる。また、粘着剤を光硬化後の補強フィルムはデバイスに強固に接着しているため、長期使用においても補強フィルムが剥がれ難く、信頼性に優れている。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
[補強フィルムの作製]
<ベースポリマーの重合>
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)63重量部、N−ビニルピロリドン(NVP)15重量部、メチルメタクリレート(MMA)9重量部、およびヒドロキシエチルアクリレート(HEA)13重量部、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、ならびに溶媒として酢酸エチル233重量部を投入し、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃に加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量(Mw)が120万のアクリル系ポリマーの溶液を得た。
【0113】
<粘着剤組成物の調製>
アクリル系ポリマー溶液に、架橋剤として三井化学製「タケネート D110N」(キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の75%酢酸エチル溶液)、多官能アクリルモノマーとして新中村化学工業製「A−200」(ポリエチレングリコール#200(n=4)ジアクリレート;分子量官308、官能基当量154g/eq)、光ラジカル開始剤、および酸化防止剤を添加し、均一に混合して、粘着剤組成物を調製した。架橋剤の配合量(固形分)は、ベースポリマー100重量部に対して2.5重量部、多官能アクリルモノマーの配合量は、ベースポリマー100重量部に対して30重量部とした。酸化防止剤としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](BASF製「イルガノックス1010」)を表1に示す量で配合した。光ラジカル開始剤としては、以下に示すものを表1に示す量で配合した。
【0114】
(光ラジカル開始剤)
IRG184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF製「イルガキュア184」、吸収極大波長:246nm、280nm、333nm)
IRG651:2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(BASF製「イルガキュア651」、吸収極大波長:250nm、340nm)
IRG819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製「イルガキュア819」、吸収極大波長:295nm、370nm)
【0115】
<粘着剤溶液の塗布および架橋>
表面処理がされていない厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製「ルミラーS10」)上に、上記の粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、ファウンテンロールを用いて塗布した。130℃で1分間乾燥して溶媒を除去後、粘着剤の塗布面に、セパレータ(表面がシリコーン離型処理された厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)の離型処理面を貼り合わせた。その後、25℃の雰囲気で4日間のエージング処理を行い、架橋を進行させ、フィルム基材上に光硬化性粘着シートが固着積層され、その上にセパレータが仮着された補強フィルムを得た。
【0116】
[接着力の測定]
厚み12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン製「カプトン50EN」)を、両面接着テープ(日東電工製「No.531」)を介してガラス板に貼付し、測定用ポリイミドフィルム基板を得た。幅25mm×長さ100mmに切り出した補強フィルムの表面からセパレータを剥離除去し、測定用ポリイミドフィルム基板にハンドローラを用いて貼り合わせ、光硬化前の試験サンプルとした。光硬化前の試験サンプルの補強フィルム側(PETフィルム側)から、波長365nmのLED光源を用いて積算光量400mJ/cm
2の紫外線を照射して粘着剤層を光硬化したものを光硬化後の試験サンプルとした。これらの試験サンプルを用い、補強フィルムのポリエチレンテレフタレートフィルムの端部をチャックで保持して、引張速度300mm/分で、補強フィルムの180°ピールを行い、ピール強度を測定した。
【0117】
<一定期間保管後の補強フィルムの接着力の評価>
補強シートを常温の明室下で静置し、1週間後および4週間後に、測定用ポリイミドフィルム基板と貼り合わせ、光硬化前および光硬化後の試験サンプルについて、上記と同様に180°ピール強度を測定した。
【0118】
それぞれの補強フィルムの粘着剤の組成、および光硬化前後の接着力の測定結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
いずれの試料においても、作製直後においては、光硬化前の接着力が0.2〜0.4N/25mmの範囲で被着体からの剥離が容易であり、光硬化後は接着力が15N/25mm以上に上昇しており被着体と強固に接着していた。
【0121】
酸化防止剤を含まない
粘着剤を用いた試料10では、4週間保管後の試料において光硬化前の接着力が大幅に上昇しており、被着体からの剥離が困難となっていた。一方、0.1重量部の酸化防止剤を添加した試料11では、4週間保管後の試料において光硬化前の接着力がわずかに上昇していたが、被着体からの剥離は十分に可能であった。また、試料11では、4週間保管後の試料の光硬化後の接着力は作製直後の試料と同等であった。
【0122】
酸化防止剤を含まない
粘着剤を用いた試料20および試料30では、試料10と同様、4週間保管後の試料において光硬化前の接着力の大幅な上昇がみられた。試料20および試料30では、1週間保管後の試料においても光硬化前の接着力が10N/25mm以上に上昇していた。0.1重量部の酸化防止剤を添加した試料21および試料31では、1週間保管後の試料においても、光硬化前は接着力が低く、光硬化後は高い接着力を示した。
【0123】
以上の結果の対比から、光ラジカル開始剤と酸化防止剤とを併用することにより、蛍光灯下で長期間保管した場合でも、光硬化前は被着体からのリワーク性に優れ、かつ光硬化により被着体に対して高い接着力を示す補強フィルムが得られることが分かる。
【0124】
酸化防止剤を0.5重量部添加した試料12では、1週間保管後は光硬化による接着力の上昇率が低下しており、4週間保管後は紫外線を照射しても接着力はほとんど上昇しなかった。酸化防止剤を1重量部添加した試料13では、1週間保管後においても、紫外線照射による接着力の上昇が不十分となっていた。試料21〜23の対比、および試料31〜33の対比においても、酸化防止剤の添加量の増加に伴い、紫外線照射を行っても接着力が上昇しなくなる傾向がみられた。
【0125】
これらの結果から、酸化防止剤の添加量が大きい場合には、試料調製からの保管期間が長くなるにつれて、光硬化が進行し難くなる傾向があるといえる。これは、試料調製からの蛍光灯下での保管期間が長くなるにしたがって、光ラジカル開始剤が失活し、紫外線照射を行ってもラジカル生成量が小さいためであると考えられる。
【0126】
蛍光灯下での保管期間が長くなり光ラジカル開始剤の実効濃度が低下すると、紫外線照射の際に生成するラジカル量が減少する。酸化防止剤は、保管環境の蛍光灯等の光により光ラジカル開始剤から生成したラジカルをトラップして不所望の光ラジカル重合を阻害する作用を有しているが、光硬化のために紫外線を照射した場合にも、ラジカルをトラップする作用を有する。そのため、蛍光灯下での保管期間が長くなり光ラジカル開始剤の実効濃度が低い場合は、光ラジカル開始剤から生成した光ラジカルのうち酸化防止剤にトラップされるラジカルの比率が高くなり、光ラジカル重合に寄与するラジカルの比率が低くなる。酸化防止剤の含有量が大きいほど、重合抑制効果(重合阻害)が大きいため、紫外線を照射しても光硬化剤の光ラジカル反応が進行し難く、接着力が十分に上昇しなくなると考えられる。
【0127】
以上の結果から、光ラジカル開始剤と併用する酸化防止剤の量を適切に調整することにより、蛍光灯下での保管期間が長い場合でも、光硬化前は被着体からのリワーク性に優れ、かつ紫外線照射により光硬化が適切に進行し、高い接着力を実現可能な補強フィルムが得られることが分かる。
【0128】
[電子スピン共鳴によるラジカル濃度の測定および考察]
上記の実施例で用いた光ラジカル開始剤のラジカル生成量および酸化防止剤の効果を検証するために、極低温で光を照射して、ESRによりラジカル生成量を評価した。
【0129】
光ラジカル開始剤(IRG184、IRG651またはIRG819)単独、酸化防止剤(イルガノックス1010)単独、および光ラジカル開始剤(Irg651またはIrg819)と酸化防止剤との併用系のそれぞれについて、濃度0.2モル/Lの酢酸エチル溶液を調製した(併用系ではそれぞれの濃度を0.2モル/Lとした)。試料溶液0.1mLをESR試料管(約3.5mmφの石英管)に装填し、ESRのキャビティ内にセットして、温度40Kにて光照射ESR測定を実施した。光照射のランプには、超高圧水銀灯(ウシオ電機製)を用い、ガラスフィルターにより波長290nm以下の短波長光をカットし、水フィルターにより熱線をカットした。キャビティの前面で計測した照度(波長365nm)は、18mW/cm
2であった。装置および主な測定条件を以下に示す。
【0130】
装置: ESP350E(BRUKER製)
付属装置: HP5351B マイクロ波周波数カウンター (HEWLETT PACKARD製)
ER035M ガウスメーター (BRUKER製)
ESR910 クライオスタット (BRUKER製)
キャビティ:TM110, 円筒型
測定温度: 40 K
中心磁場: 3385 G
磁場掃引幅: 400 G
変調: 100 kHz, 10 G
マイクロ波: 9.49 GHz, 0.16 mW
掃引時間: 83.89秒×2回
時定数: 327.68 ミリ秒
データポイント数:1024
【0131】
光照射開始から5分後、10分後、20分後、30分後、40分後、50分後および60秒後のESRスペクトルから、検量線法によりラジカル量を定量した。各試料について、光照射時間とラジカル濃度をプロットしたグラフを
図4に示す。
【0132】
3種類の光ラジカル開始剤についてみると、イルガキュア819(IRG819)が最も高いラジカル生成量を示した。これは、IRG819が波長370nmに吸収極大を示し、照射光(波長365nm)に対する感度が高いことに起因すると考えられる。イルガキュア184(IRG184)とイルガキュア651(IRG651)では、イルガキュア651の方が、大きなラジカル生成量を示した。
【0133】
これらのラジカル生成量は、試料10、試料20および試料30の蛍光灯下での保管時の光硬化前の接着力の変化との間に相関がみられる。すなわち、イルガキュア184は、蛍光灯からの光によるラジカルの生成量が小さいため、試料10は1週間保管後では光硬化前の接着力の上昇がみられなかったのに対して、イルガキュア651を用いた試料20およびイルガキュア819を用いた試料30では、蛍光灯からの光による光ラジカル生成量が相対的に大きいため、1週間保管後の試料において光硬化前の接着力が上昇したと考えられる。
【0134】
酸化防止剤(イルガノックス1010)は、3種類の光ラジカル開始剤よりも高いラジカル濃度を示した。これは、酸化防止剤から生成するラジカルの安定性が高く、光ラジカル開始剤に比べてラジカル消失量が小さいため、光照射時間の増加にともなって系中に蓄積するラジカル量が多いことに関連していると考えられる。
【0135】
光ラジカル開始剤(IRG651またはIRG819)と酸化防止剤との併用系においては、酸化防止剤単独の場合よりも低いラジカル濃度を示した。併用系のラジカル濃度が光ラジカル開始剤単独の場合と酸化防止剤単独の場合の合計よりも小さいことから、光ラジカル開始剤から生成したラジカルが酸化防止剤によりトラップされていると考えられる。
【課題】被着体との貼り合わせ直後はリワークが容易であり、被着体と強固に接着可能であり、かつ被着体との貼り合わせ後、接着力が向上するまでの時間を任意に設定可能な補強フィルムを提供する。
【解決手段】補強フィルム(10)は、フィルム基材(1)の一主面上に固着積層された粘着剤層(2)を備える。粘着剤層は、ベースポリマー、光硬化剤、光ラジカル開始剤、および酸化防止剤を含む光硬化性組成物からなり、ベースポリマー100重量部に対して、光硬化剤を10〜50重量部、光ラジカル開始剤を0.01〜1重量部、酸化防止剤を0.01〜2重量部含む。