(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水に対する親和性が前記第2表面側の面よりも前記第3表面側の面の方が高くなるように、前記第3表面と前記貫通孔の前記第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされており、
前記水に対する親和性を向上させる表面処理は、前記第3表面と前記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、前記第3表面と前記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む、
請求項1又は2に記載の試料支持体。
水に対する親和性が前記第3表面側の面よりも前記第2表面側の面の方が高くなるように、前記第2表面と前記貫通孔の前記第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされており、
前記水に対する親和性を向上させる表面処理は、前記第2表面と前記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、前記第2表面と前記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の試料支持体。
前記第2工程は、水に対する親和性が前記第2表面側の面よりも前記第3表面側の面の方が高くなるように、前記第3表面と前記貫通孔の前記第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含み、
前記水に対する親和性を向上させる表面処理は、前記第3表面と前記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、前記第3表面と前記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む、
請求項12又は13に記載の試料支持体の製造方法。
前記第2工程は、水に対する親和性が前記第3表面側の面よりも前記第2表面側の面の方が高くなるように、前記第2表面と前記貫通孔の前記第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含み、
前記水に対する親和性を向上させる表面処理は、前記第2表面と前記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、前記第2表面と前記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む、
請求項12に記載の試料支持体の製造方法。
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、前記基板及び前記導電層には、前記第2表面と前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、
載置部の載置面に前記第2表面が対向するように前記載置面に前記試料支持体を載置する第2工程と、
前記第3表面側から前記複数の貫通孔に対して試料を含む溶液を滴下する第3工程と、
前記導電層に電圧を印加しつつ前記第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第4工程と、
を含み、
水に対する親和性が前記第2表面側の面よりも前記第3表面側の面の方が高くなるように、前記基板の第2表面に疎水性のコーティング層が設けられている、
試料のイオン化方法。
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、前記基板及び前記導電層には、前記第2表面と前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、
載置部の載置面に前記第2表面が対向するように前記載置面に前記試料支持体を載置する第2工程と、
前記第3表面側から前記複数の貫通孔に対して試料を含む溶液を滴下する第3工程と、
前記導電層に電圧を印加しつつ前記第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第4工程と、
を含み、
水に対する親和性が前記第2表面側の面よりも前記第3表面側の面の方が高くなるように、前記第3表面と前記貫通孔の前記第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている、
試料のイオン化方法。
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、前記基板及び前記導電層には、前記第2表面と前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、
載置部の載置面に載置された試料に前記第2表面が対向するように、前記試料支持体を前記試料上に配置する第2工程と、
前記試料の成分が毛細管現象によって前記複数の貫通孔を介して前記第3表面側に移動した状態で、前記導電層に電圧を印加しつつ前記第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第3工程と、
を含み、
水に対する親和性が前記第3表面側の面よりも前記第2表面側の面の方が高くなるように、前記第2表面と前記貫通孔の前記第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている、
試料のイオン化方法。
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、前記基板及び前記導電層には、前記第2表面と前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、
載置部の載置面に載置された試料に前記第2表面が接触するように、前記試料支持体を前記試料上に配置する第2工程と、
前記試料の成分が毛細管現象によって前記複数の貫通孔を介して前記第3表面側に移動した状態で、前記導電層に電圧を印加しつつ前記第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第3工程と、
を含み、
水に対する親和性が前記第3表面側の面よりも前記第2表面側の面の方が高くなるように、前記第3表面に疎水性のコーティング層が設けられている、
試料のイオン化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような質量分析においては、イオン化された試料(試料イオン)が検出され、その検出結果に基づいて試料の質量分析が実施される。このような質量分析においては、信号強度(感度)の向上が望まれている。
【0005】
そこで、本開示は、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体、当該試料支持体の製造方法、及び当該試料支持体を用いた試料のイオン化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備え、基板及び導電層には、導電層の基板とは反対側の第3表面と第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されており、第2表面及び第3表面の少なくとも一方に、第2表面側の面と第3表面側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理がされている。
【0007】
上記試料支持体は、第2表面及び第3表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備える。例えば、毛細管現象によって基板の複数の貫通孔内に測定対象の試料の成分が進入した状態において、基板の第1表面に対してレーザ光が照射されることにより、導電層を介して当該レーザ光のエネルギーが試料の成分に伝達され、試料の成分がイオン化される。ここで、本発明者らの鋭意研究により、なるべく試料の成分を貫通孔内に留めておくことによってイオン化された試料(試料イオン)の信号強度が増大するという知見が得られた。そこで、上記試料支持体では、導電層の第3表面及び基板の第2表面の少なくとも一方に、水に対する親和性を第2表面側の面と第3表面側の面との間で互いに異ならせるための表面処理がされている。すなわち、第2表面及び第3表面の一方側の面(以下「第1面」)が第2表面及び第3表面の他方側の面(以下「第2面」)よりも水に対する親和性が高い状態が実現されている。これにより、測定対象の試料の成分を、水に対する親和性が比較的高い第1面から貫通孔内に適切に進入させることが可能となる。さらに、水に対する親和性が比較的低い第2面において、貫通孔内に進入した試料の成分の貫通孔内からの流出を抑制することができる。従って、上記試料支持体によれば、試料の成分を貫通孔内に留め易くすることができ、試料イオンの信号強度を向上させることができる。
【0008】
水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、第2表面に疎水性のコーティング層が設けられていてもよい。この場合、第2表面に設けられた疎水性のコーティング層により、貫通孔の第2表面側の開口からの試料の成分の流出を抑制することができる。これにより、例えば、試料支持体の第3表面に対して試料を含む溶液を滴下した場合に、試料の成分を貫通孔の第3表面側の開口から貫通孔内に進入させると共に、第2表面に設けられた疎水性のコーティング層によって当該試料の成分を貫通孔内に適切に留めることが可能となる。従って、上記構成によれば、試料支持体の第3表面に対して試料を含む溶液を滴下する測定方式(以下「滴下方式」ともいう。)において、試料イオンの信号強度を向上させることができる。特に、極低濃度の試料を測定する際において、試料の成分を貫通孔内に適切に留めることにより試料の成分を濃縮させることができ、試料イオンを容易に且つ適切に検出することが可能となる。
【0009】
水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、第3表面と貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされており、水に対する親和性を向上させる表面処理は、第3表面と上記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第3表面と上記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含んでいてもよい。この場合、第3表面及び貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面に水に対する親和性を向上させる表面処理がされていることにより、貫通孔の第3表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進することができる。これにより、滴下方式において試料の成分を貫通孔内に適切に進入させることができ、試料イオンの信号強度を向上させることができる。
【0010】
水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされており、水に対する親和性を向上させる表面処理は、第2表面と上記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第2表面と上記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含んでいてもよい。この場合、第2表面及び貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面に水に対する親和性を向上させる表面処理がされていることにより、貫通孔の第2表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進することができる。これにより、例えば、試料支持体の第2表面が試料に対向するように試料支持体を試料上に配置する測定方式(以下「吸い上げ方式」ともいう。)において、試料の成分を貫通孔内に適切に進入させることができ、試料イオンの信号強度を向上させることができる。
【0011】
水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第3表面に疎水性のコーティング層が設けられていてもよい。この場合、吸い上げ方式において、毛細管現象によって貫通孔内を第2表面側から第3表面側に移動した試料の成分が第3表面に沿って他の貫通孔上へと移動してしまうことを抑制することができる。これにより、第3表面側に移動した試料の元の位置情報(試料を構成する分子の二次元分布情報)が維持され易くなり、イメージング質量分析の精度(解像度)を向上させることが可能となる。
【0012】
基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されていてもよい。この場合、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板により、毛細管現象による試料の成分の移動を適切に実現することができる。
【0013】
貫通孔の幅は、1nm〜700nmであってもよい。この場合、上述した毛細管現象による試料の成分の移動を適切に実現することができる。
【0014】
導電層の材料は、白金又は金であってもよい。この場合、導電層に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0015】
本開示の他の側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備え、第1表面及び第2表面の少なくとも一方に、第1表面側の面と第2表面側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理がされており、表面処理は、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第1表面側の面の方が高くなるように、第1表面と貫通孔の第1表面側の縁部を含む部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第1表面と貫通孔の第1表面側の縁部を含む部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む処理、又は、水に対する親和性が第1表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む処理である。
【0016】
この試料支持体によれば、導電層を省略することができると共に、上述した導電層を備える試料支持体と同様の効果を得ることができる。
【0017】
親水性のコーティング層は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成された層であってもよい。この場合、貫通孔内への試料の成分の流通を促進可能な親水性のコーティング層が適切に実現される。
【0018】
疎水性のコーティング層は、金属の蒸着により形成された層又は自己組織化単分子膜により形成された層であってもよい。この場合、貫通孔内からの試料の成分の流出を抑制可能な疎水性のコーティング層が適切に実現される。
【0019】
本開示の一側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を用意する第1工程であって、基板及び導電層には、導電層の基板とは反対側の第3表面と第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている、該第1工程と、第2表面及び第3表面の少なくとも一方に、第2表面側の面と第3表面側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理を行う第2工程と、を含む。
【0020】
上記製造方法によれば、上述した効果を奏する試料支持体を得ることができる。
【0021】
第2工程は、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、第2表面に疎水性のコーティング層を設ける工程を含んでいてもよい。上記製造方法によれば、貫通孔内に進入した試料の成分が貫通孔の第2表面側の開口から流出することを抑制できる試料支持体、すなわち滴下方式において試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体を得ることができる。
【0022】
第2工程は、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、第3表面と貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含み、水に対する親和性を向上させる表面処理は、第3表面と上記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第3表面と上記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含んでいてもよい。上記製造方法によれば、貫通孔の第3表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進できる試料支持体、すなわち滴下方式において試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体を得ることができる。
【0023】
第2工程は、水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含み、水に対する親和性を向上させる表面処理は、第2表面と上記部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第2表面と上記部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含んでいてもよい。上記製造方法によれば、貫通孔の第2表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進できる試料支持体、すなわち吸い上げ方式において試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体を得ることができる。
【0024】
第2工程は、水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第3表面に疎水性のコーティング層を設ける工程を含んでいてもよい。上記製造方法によれば、毛細管現象によって貫通孔内を第2表面側から第3表面側に移動した試料の成分が第3表面に沿って他の貫通孔上へと移動してしまうことを抑制できる試料支持体、すなわち吸い上げ方式においてイメージング質量分析の精度を向上させることが可能な試料支持体を得ることができる。
【0025】
本開示の他の側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を用意する第1工程と、基板の第1表面及び基板の第2表面の少なくとも一方に、第1表面側の面と第2表面側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理を行う第2工程と、を含み、表面処理は、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第1表面側の面の方が高くなるように、第1表面と貫通孔の第1表面側の縁部を含む部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第1表面と貫通孔の第1表面側の縁部を含む部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む処理、又は、水に対する親和性が第1表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに親水性のコーティング層を設けること、及び、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とにエキシマ照射又はプラズマ照射を行うことの少なくとも一方を含む処理である。
【0026】
上記製造方法によれば、導電層を省略することができると共に上述した導電層を備える試料支持体と同様の効果を奏する試料支持体を得ることができる。
【0027】
第2工程において、親水性のコーティング層は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成されてもよい。この場合、親水性のコーティング層を容易に且つ適切に形成することができる。
【0028】
第2工程において、疎水性のコーティング層は、金属の蒸着又は自己組織化単分子膜により形成されてもよい。この場合、疎水性のコーティング層を容易に且つ適切に形成することができる。
【0029】
本開示の第1側面に係る試料のイオン化方法は、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、基板及び導電層には、第2表面と導電層の基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に第2表面が対向するように載置面に試料支持体を載置する第2工程と、第3表面側から複数の貫通孔に対して試料を含む溶液を滴下する第3工程と、導電層に電圧を印加しつつ第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第4工程と、を含み、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、基板の第2表面に疎水性のコーティング層が設けられている。
【0030】
第1側面に係る試料のイオン化方法において、第3表面と貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされていてもよい。
【0031】
第1側面に係る試料のイオン化方法によれば、貫通孔内に進入した試料の成分が貫通孔の第2表面側の開口から流出することを抑制できる試料支持体を用いて滴下方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンを適切に検出することができる。さらに、第3表面及び貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面に水に対する親和性を向上させる表面処理がされている場合には、貫通孔の第3表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進でき、試料イオンの信号強度をより一層効果的に向上させることができる。
【0032】
本開示の第2側面に係る試料のイオン化方法は、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、基板及び導電層には、第2表面と導電層の基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に第2表面が対向するように載置面に試料支持体を載置する第2工程と、第3表面側から複数の貫通孔に対して試料を含む溶液を滴下する第3工程と、導電層に電圧を印加しつつ第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第4工程と、を含み、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第3表面側の面の方が高くなるように、第3表面と貫通孔の第3表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている。
【0033】
第2側面に係る試料のイオン化方法によれば、貫通孔の第3表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進できる試料支持体を用いて滴下方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンを適切に検出することができる。
【0034】
本開示の第3側面に係る試料のイオン化方法は、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備える試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に第2表面が対向するように載置面に試料支持体を載置する第2工程と、第1表面側から複数の貫通孔に対して試料を含む溶液を滴下する第3工程と、基板に電圧を印加しつつ第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第4工程と、を含み、水に対する親和性が第2表面側の面よりも第1表面側の面の方が高くなるように、第2表面に疎水性のコーティング層が設けられている。
【0035】
第3側面に係る試料のイオン化方法によれば、貫通孔内に進入した試料の成分が貫通孔の第2表面側の開口から流出することを抑制できる試料支持体を用いて滴下方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンを適切に検出することができる。
【0036】
本開示の第4側面に係る試料のイオン化方法は、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、基板及び導電層には、第2表面と導電層の基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に載置された試料に第2表面が対向するように、試料支持体を試料上に配置する第2工程と、試料の成分が毛細管現象によって複数の貫通孔を介して第3表面側に移動した状態で、導電層に電圧を印加しつつ第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第3工程と、を含み、水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている。
【0037】
本開示の第4側面に係る試料のイオン化方法において、水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第3表面に疎水性のコーティング層が設けられていてもよい。
【0038】
第4側面に係る試料のイオン化方法によれば、貫通孔の第2表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進できる試料支持体を用いて吸い上げ方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンを適切に検出することができる。さらに、第3表面に疎水性のコーティング層が設けられている場合には、第3表面側に移動した試料の成分が第3表面に沿って他の貫通孔上へと移動してしまうことを抑制できるため、イメージング質量分析の精度を向上させることができる。
【0039】
本開示の第5側面に係る試料のイオン化方法は、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備える試料支持体であって、基板及び導電層には、第2表面と導電層の基板とは反対側の第3表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている該試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に載置された試料に第2表面が接触するように、試料支持体を試料上に配置する第2工程と、試料の成分が毛細管現象によって複数の貫通孔を介して第3表面側に移動した状態で、導電層に電圧を印加しつつ第3表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第3工程と、を含み、水に対する親和性が第3表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第3表面に疎水性のコーティング層が設けられている。
【0040】
第5側面に係る試料のイオン化方法によれば、第3表面側に移動した試料の成分が第3表面に沿って他の貫通孔上へと移動してしまうことを抑制できる試料支持体を用いて吸い上げ方式によるイオン化を行うことにより、イメージング質量分析の精度を向上させることができる。
【0041】
本開示の第6側面に係る試料のイオン化方法は、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備える試料支持体を用意する第1工程と、載置部の載置面に載置された試料に第2表面が対向するように、試料支持体を試料上に配置する第2工程と、試料の成分が毛細管現象によって複数の貫通孔を介して第1表面側に移動した状態で、基板に電圧を印加しつつ第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第3工程と、を含み、水に対する親和性が第1表面側の面よりも第2表面側の面の方が高くなるように、第2表面と貫通孔の第2表面側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている。
【0042】
第6側面に係る試料のイオン化方法によれば、貫通孔の第2表面側の開口から貫通孔内への試料の成分の流通を促進できる試料支持体を用いて吸い上げ方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンを適切に検出することができる。
【0043】
第4側面〜第6側面に係る試料のイオン化方法において、試料は、乾燥試料であり、上記イオン化方法は、第3工程よりも前に、載置面に載置された試料に対して、試料の粘性を低くするための溶液を加える工程を更に含んでいてもよい。この場合、測定対象の試料が乾燥試料である場合において、毛細管現象による当該試料の成分の貫通孔内の移動を促進することができる。その結果、乾燥試料を吸い上げ方式によってイオン化する場合において、試料イオンの信号強度を適切に向上させることができる。
【発明の効果】
【0044】
本開示によれば、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体、当該試料支持体の製造方法、及び当該試料支持体を用いた試料のイオン化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面に示される各部材(又は部位)の寸法又は寸法の比率は、説明をわかり易くするために、実際の寸法又は寸法の比率とは異なることがある。
【0047】
[第1実施形態に係る試料支持体の構成]
図1及び
図2に示されるように、第1実施形態に係る試料支持体1は、基板2と、フレーム3と、導電層4と、を備えている。試料支持体1は、試料のイオン化用の試料支持体である。試料支持体1は、例えば質量分析を行う際に、測定対象の試料の成分をイオン化するために用いられる。基板2は、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bを有している。基板2には、複数の貫通孔2cが一様に(均一な分布で)形成されている。各貫通孔2cは、基板2の厚さ方向(第1表面2a及び第2表面2bに垂直な方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bに開口している。
【0048】
基板2は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、基板2の厚さは、例えば1μm〜50μm程度である。基板2の厚さ方向から見た場合における貫通孔2cの形状は、例えば略円形である。貫通孔2cの幅は、例えば1nm〜700nm程度である。貫通孔2cの幅とは、基板2の厚さ方向から見た場合における貫通孔2cの形状が略円形である場合には、貫通孔2cの直径を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、貫通孔2cに収まる仮想的な最大円柱の直径(有効径)を意味する。
【0049】
フレーム3は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、フレーム3は、接着層5によって基板2の第1表面2aに固定されている。接着層5の材料としては、放出ガスの少ない接着材料(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)が用いられることが好ましい。フレーム3は、基板2の厚さ方向から見た場合に基板2と略同一の外形を有している。フレーム3には、開口3aが形成されている。基板2のうち開口3aに対応する部分は、後述する毛細管現象によって試料の成分を第1表面2a側に移動させるための実効領域Rとして機能する。
【0050】
フレーム3は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合におけるフレーム3の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、フレーム3の厚さは、例えば1mm以下である。基板2の厚さ方向から見た場合における開口3aの形状は、例えば円形であり、その場合における開口3aの直径は、例えば数mm〜数十mm程度である。このようなフレーム3によって、試料支持体1のハンドリングが容易化すると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
【0051】
導電層4は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、導電層4は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに一続きに(一体的に)形成されている。導電層4は、実効領域Rにおいて、基板2の第1表面2aのうち貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。すなわち、各貫通孔2cの導電層4側の開口は、導電層4によって塞がれていない。つまり、各貫通孔2cは、導電層4の基板2とは反対側の第3表面4aと第2表面2bとに開口しており、実効領域Rにおいては、各貫通孔2cが開口3aに露出している。
【0052】
導電層4は、導電性材料によって形成されている。ただし、導電層4の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
【0053】
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層4が形成されていると、後述する試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層4の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
【0054】
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、実効領域Rにおいて基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光のエネルギーを、導電層4を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層4の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
【0055】
以上の観点から、導電層4の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層4は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm〜350nm程度に形成される。なお、導電層4の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0056】
試料支持体1においては、基板2の第2表面2b及び導電層4の第3表面4aの少なくとも一方に、第2表面2b側の面と第3表面4a側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理がされている。本実施形態では一例として、第2表面2b側の面の水に対する親和性を基板材料(基板2)よりも低くするための表面処理が第2表面2bに対して施されている。また、第3表面4a側の面の水に対する親和性を基板材料よりも高くするための表面処理が第3表面4aに対して施されている。これにより、水に対する親和性が第2表面2b側の面(本実施形態では後述するコーティング層6の表面)よりも第3表面4a側の面(本実施形態では後述するコーティング層7の表面)の方が高い構成が実現されている。
【0057】
具体的には、基板2の第2表面2bには、疎水性のコーティング層6が設けられている。コーティング層6は、例えば、金属の蒸着により形成された層(金属膜)である。コーティング層6は、導電層4よりも水に対する親和性が低い材料によって形成されている。コーティング層6の材料としては、例えばAu(金)等を用いることができる。或いは、コーティング層6は、自己組織化単分子膜(SAM膜:Self-Assembled Monolayer)により形成された層であってもよい。本実施形態では一例として、コーティング層6は、第2表面2bに設けられると共に、各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面(すなわち、貫通孔2c間の隔壁部2dの側面の第2表面2b側の一部)にも設けられている。ただし、コーティング層6が後述するような機能を発揮するためには、コーティング層6は、少なくとも第2表面2bに設けられていればよく、各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面に設けられていなくてもよい。また、本実施形態では、コーティング層6は、第2表面2bの全面に設けられているが、第2表面2bのうち実効領域Rに対応する領域(基板2の厚み方向から見て実効領域Rと重なる領域)にのみ設けられていてもよい。コーティング層6の厚さは、例えば1nm〜100nmである。
【0058】
また、導電層4の第3表面4aには、親水性のコーティング層7が設けられている。コーティング層7は、実効領域Rに対応する領域に設けられている。コーティング層7は、各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面(すなわち、隔壁部2dの側面の第1表面2a側の一部及び導電層4の側部)にも設けられている。コーティング層7は、例えば、酸化チタン(TiO2)又は酸化亜鉛(ZnO)の成膜により形成された層である。コーティング層7は、例えば、原子層堆積法によって形成されている。コーティング層7の厚さは、例えば1nm〜50nmである。また、コーティング層7のうち各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に沿った部分(すなわち、貫通孔2c内に入り込んだ部分)の幅(基板2の厚さ方向における長さ)は、例えば1nm〜1000nmである。
【0059】
図3は、基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の拡大像を示す図である。
図3において、黒色の部分は貫通孔2cであり、白色の部分は隔壁部2dである。
図3に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の貫通孔2cが一様に形成されている。実効領域Rにおける貫通孔2cの開口率(基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域Rに対して全ての貫通孔2cが占める割合)は、実用上は10〜80%であり、特に60〜80%であることが好ましい。複数の貫通孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の貫通孔2c同士が互いに連結していてもよい。
【0060】
図3に示される基板2は、Al(アルミニウム)を陽極酸化することにより形成されたアルミナポーラス皮膜である。例えば、Al基板に対して陽極酸化処理が施されることにより、Al基板の表面部分が酸化されると共に、Al基板の表面部分に複数の細孔(貫通孔2cになる予定の部分)が形成される。続いて、酸化された表面部分(陽極酸化皮膜)がAl基板から剥離され、剥離された陽極酸化皮膜に対して上記細孔を拡幅するポアワイドニング処理が施されることにより、上述した基板2が得られる。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。
【0061】
[第1実施形態に係る試料支持体の製造方法]
次に、
図2及び
図4〜
図6を参照して、試料支持体1の製造方法について説明する。
図4〜
図6の各々は、実効領域Rに対応する部分の拡大断面図である。まず、
図4に示されるように、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2が用意される。基板2は、例えば、上述したようなバルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られる。
【0062】
続いて、
図5に示されるように、基板2及び導電層4(すなわち、基板2の第1表面2aに導電層4が設けられた構造体)が用意される(第1工程)。本実施形態では、基板2の第1表面2aに接着層5を介してフレーム3が固定された後に、導電層4が、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに一続きに形成される。
【0063】
続いて、
図6に示されるように、基板2の第2表面2b及び導電層4の第3表面4aの少なくとも一方に、第2表面2b側の面と第3表面4a側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理が行われる(第2工程)。本実施形態では、水に対する親和性が第2表面2b側の面よりも第3表面4a側の面の方が高くなるように、第2表面2bと各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面とに、疎水性のコーティング層6が設けられる。また、第3表面4aと各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面とに、親水性のコーティング層7が設けられる。以上により、
図2に示した試料支持体1が得られる。
【0064】
[第1実施形態に係る試料支持体を用いた試料のイオン化方法]
次に、
図7及び
図8を参照して、試料支持体1を用いた試料のイオン化方法について説明する。ここでは一例として、試料のイオン化のために照射されるエネルギー線としてレーザ光を用いたレーザ脱離イオン化法(質量分析装置20による質量分析方法の一部)について説明する。
図7及び
図8においては、基板2に形成された複数の貫通孔2cのうち、実効領域Rに対応する貫通孔2cのみを模式的に示している。また、試料支持体1における導電層4、接着層5、コーティング層6及びコーティング層7については、図示を省略している。また、
図1及び
図2に示される試料支持体1と
図7及び
図8に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
【0065】
まず、上述した試料支持体1が用意される(第1工程)。試料支持体1は、レーザ脱離イオン化法及び質量分析方法を実施する者によって製造されることで用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から取得されることで用意されてもよい。
【0066】
続いて、
図7の(a)に示されるように、スライドグラス(載置部)8の載置面8aに第2表面2bが対向するように載置面8aに試料支持体1が載置される(第2工程)。スライドグラス8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面8aとなっている。なお、スライドグラス8に限定されず、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)を載置部として用いることができる。本実施形態では一例として、試料支持体1は、第2表面2bとスライドグラス8の載置面8aとの間に隙間が設けられるように、導電性のテープ9(例えば、カーボンテープ等)によってスライドグラス8に固定される。当該隙間は、例えば、後述する試料Sを含む溶液のうち第2表面2b側から流出した溶液を逃すための領域として機能し得る。すなわち、当該溶液が基板2の第1表面2a上(導電層4の第3表面4a上)に溢れ出て試料のイオン化を阻害してしまうことを防止する役割を果たす。また、テープ9は、フレーム3の表面3b上の導電層4に接触し、且つ、スライドグラス8の載置面8aに接触することにより、試料支持体1をスライドグラス8に対して固定する。テープ9は、試料支持体1の一部であってもよいし、試料支持体1とは別に用意されてもよい。テープ9が試料支持体1の一部である場合(すなわち、試料支持体1がテープ9を備える場合)には、例えば、テープ9は、予め、基板2の周縁部において第1表面2a側に固定されていてもよい。本実施形態では、テープ9は、フレーム3の表面3b上に形成された導電層4上に固定されていてもよい。
【0067】
続いて、
図7の(a)に示されるように、第3表面4a側から複数の貫通孔2c(実効領域Rに対応する複数の貫通孔2c)に対して、ピペット10によって、試料Sを含む溶液が滴下される(第3工程)。これにより、
図7の(b)に示されるように、試料Sを含む溶液が、各貫通孔2cの第3表面4a側の開口から各貫通孔2c内に進入し、試料Sを含む溶液の一部が各貫通孔2c内に留まる。
【0068】
ここで、試料支持体1では、第3表面4a及び各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に親水性のコーティング層7(
図2及び
図6参照)が設けられていることにより、各貫通孔2cの第3表面4a側の開口から各貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通が促進されている。すなわち、第3表面4a上(コーティング層7上)に滴下された試料Sを含む溶液が、親水性のコーティング層7を伝って、各貫通孔2cの内部に進入し易くなっている。つまり、親水性のコーティング層7は、第3表面4a側の溶液を各貫通孔2c内へと適切に導く役割を果たす。これにより、試料Sの成分S1を各貫通孔2c内に適切に進入させることができる。
【0069】
また、試料支持体1では、第2表面2bに疎水性のコーティング層6(
図2及び
図6参照)が設けられていることにより、各貫通孔2cの第2表面2b側の開口からの、各貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1の流出が抑制されている。すなわち、疎水性のコーティング層6が設けられていることにより、各貫通孔2c内から第2表面2b側の開口から流出しようとする試料Sを含む溶液が、第2表面2bに沿って(コーティング層6を伝って)外部に流出し難くなっている。つまり、疎水性のコーティング層6は、各貫通孔2c内の溶液が第2表面2bに沿って外部に流出することを妨げる役割を果たす。これにより、各貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1の第2表面2b側からの流出を抑制し、当該成分S1を各貫通孔2c内に適切に留めることができる。その結果、各貫通孔2c内において、試料Sの成分S1が濃縮させられる。
【0070】
続いて、
図8に示されるように、各貫通孔2c内に試料Sの成分S1が留まっている試料支持体1がスライドグラス8に固定された状態で、スライドグラス8、試料支持体1及び試料Sが、質量分析装置20の支持部21(例えば、ステージ)上に載置される。続いて、質量分析装置20の電圧印加部22によって、スライドグラス8の載置面8a及びテープ9を介して試料支持体1の導電層4(
図2参照)に電圧が印加される。本実施形態では、コーティング層7が設けられていない部分(フレーム3上に設けられた導電層4の部分)において、導電層4とテープ9とが導通している。ただし、フレーム3が設けられない場合等において、導電層4とテープ9とがコーティング層7を介して接触させられてもよい。コーティング層7は、非常に薄い膜であり、導電層4とテープ9との間の導通の大きな妨げとはならないからである。
【0071】
続いて、質量分析装置20のレーザ光照射部23によって、フレーム3の開口3aを介して、基板2の第1表面2a(導電層4の第3表面4a)に対してレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)に対して照射される。本実施形態では、レーザ光照射部23は、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。なお、実効領域Rに対応する領域に対するレーザ光Lの走査は、支持部21及びレーザ光照射部23の少なくとも1つが動作させられることにより、実施可能である。
【0072】
このように、導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、基板2の貫通孔2c内(特に第1表面2a側)に留まっている試料Sの成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される(第4工程)。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層4(
図2参照)から、貫通孔2c内に留まっている試料Sの成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した試料Sの成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の第1工程〜第4工程が、試料支持体1を用いた試料Sのイオン化方法(ここでは、レーザ脱離イオン化法)に相当する。なお、導電層4の第3表面4aにはコーティング層7が設けられているが、上述した通り、当該コーティング層7は非常に薄い膜であるため、レーザ光Lを導電層4に照射する上で大きな妨げとはならない。
【0073】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1と質量分析装置20のイオン検出部24との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層4とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部24によって試料イオンS2が検出される(第5工程)。本実施形態では、質量分析装置20は、飛行時間型質量分析法(TOF−MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の第1工程〜第5工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0074】
[第1実施形態の作用効果]
以上述べたように、試料支持体1は、第2表面2b及び第3表面4aに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2を備えている。例えば、毛細管現象によって基板2の複数の貫通孔2c内に測定対象の試料Sの成分S1が進入した状態において、基板2の第1表面2a(導電層4の第3表面4a)に対してレーザ光が照射されることにより、導電層4を介して当該レーザ光のエネルギーが試料Sの成分S1に伝達され、試料Sの成分S1がイオン化される。ここで、本発明者らの鋭意研究により、なるべく試料Sの成分S1を貫通孔2c内に留めておくことによってイオン化された試料(試料イオンS2)の信号強度が増大するという知見が得られた。そこで、試料支持体1では、導電層4の第3表面4a及び基板2の第2表面2bの少なくとも一方に、水に対する親和性を第2表面2b側の面と第3表面4a側の面との間で互いに異ならせるための表面処理がされている。すなわち、第2表面2b及び第3表面4aの一方側の面(本実施形態では第3表面4aに設けられたコーティング層7の表面)が第2表面2b及び第3表面4aの他方側の面(本実施形態では第2表面2bに設けられたコーティング層6の表面)よりも水に対する親和性が高い状態が実現されている。これにより、測定対象の試料Sの成分S1を、水に対する親和性が比較的高い第3表面4a側の面から貫通孔2c内に適切に進入させることが可能となる。さらに、水に対する親和性が比較的低い第2表面2b側の面において、貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1の貫通孔2c内からの流出を抑制することができる。従って、試料支持体1によれば、試料Sの成分S1を貫通孔2c内に留め易くすることができ、試料イオンS2の信号強度を向上させることができる。
【0075】
また、水に対する親和性が第2表面2b側の面よりも第3表面4a側の面の方が高くなるように、第2表面2bに疎水性のコーティング層6が設けられている。当該コーティング層6により、貫通孔2cの第2表面2b側の開口からの、貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1の流出を抑制することができる。これにより、例えば、試料支持体1の第3表面4aに対して試料Sを含む溶液を滴下した場合に、試料Sの成分S1を貫通孔2cの第3表面4a側の開口から貫通孔2c内に進入させると共に、第2表面2bに設けられた疎水性のコーティング層6によって当該試料Sの成分S1を貫通孔2c内に適切に留めることが可能となる。従って、上記構成によれば、試料支持体1の第3表面4aに対して試料Sを含む溶液を滴下する測定方式(以下「滴下方式」ともいう。)において、試料イオンS2の信号強度を向上させることができる。特に、極低濃度(例えば1μmol/L以下の濃度)の試料Sを測定する際において、試料Sの成分S1を貫通孔2c内に適切に留めることにより試料Sの成分S1を濃縮させることができる。その結果、試料イオンS2を容易に且つ適切に検出すること(上述した質量分析における信号検出)が可能となる。
【0076】
また、第3表面4aと貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている。本実施形態では、第3表面4aと上記部分の内面とに親水性のコーティング層7が設けられている。当該コーティング層7により、貫通孔2cの第3表面4a側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進することができる。これにより、滴下方式において試料Sの成分S1を貫通孔2c内に適切に進入させることができ、試料イオンS2の信号強度を向上させることができる。
【0077】
また、基板2は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている。この場合、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板2により、毛細管現象による試料Sの成分S1の移動を適切に実現することができる。
【0078】
また、貫通孔2cの幅は、1nm〜700nmである。この場合、上述した毛細管現象による試料Sの成分S1の移動を適切に実現することができる。
【0079】
また、導電層4の材料は、白金又は金である。この場合、導電層4に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0080】
また、親水性のコーティング層7は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成された層である。この場合、貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進可能な親水性のコーティング層7が適切に実現される。
【0081】
また、疎水性のコーティング層6は、金属の蒸着により形成された層又は自己組織化単分子膜により形成された層である。この場合、貫通孔2c内からの試料Sの成分S1の流出を抑制可能な疎水性のコーティング層6が適切に実現される。
【0082】
また、上述した試料支持体1の製造方法によれば、試料支持体1を適切に得ることができる。具体的には、試料支持体1の製造方法における第2工程は、第2表面2bに疎水性のコーティング層6を設ける工程を含む。これにより、貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1が貫通孔2cの第2表面2b側の開口から流出することを抑制できる試料支持体1、すなわち滴下方式において試料イオンS2の信号強度を向上させることができる試料支持体1を得ることができる。また、上記第2工程は、第3表面4aと貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含む。本実施形態では、当該第2工程は、第3表面4aと上記部分の内面とに親水性のコーティング層7を設ける工程を含む。これにより、貫通孔2cの第3表面4a側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進できる試料支持体1を得ることができる。また、上記第2工程において、親水性のコーティング層7は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成される。これにより、親水性のコーティング層7を容易に且つ適切に形成することができる。また、上記第2工程において、疎水性のコーティング層6は、金属の蒸着又は自己組織化単分子膜により形成される。これにより、疎水性のコーティング層6を容易に且つ適切に形成することができる。
【0083】
また、上述した試料支持体1を用いた試料のイオン化方法によれば、貫通孔2c内に進入した試料Sの成分S1が貫通孔2cの第2表面2b側の開口から流出することを抑制できる試料支持体1を用いて滴下方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンS2を適切に検出することができる。さらに、第3表面4a及び貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に水に対する親和性を向上させる表面処理(本実施形態では、コーティング層7の形成)がされていることにより、貫通孔2cの第3表面4a側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進でき、試料イオンS2の信号強度をより一層効果的に向上させることができる。
【0084】
[第1実施形態の変形例]
第1実施形態では、第2表面2b及び第3表面4aの両方に表面処理(ここではコーティング層6,7の形成)が行われたが、表面処理は第2表面2b及び第3表面4aの一方にのみ行われてもよい。例えば、貫通孔2cの第3表面4a側の開口からの試料Sの成分S1の流入をより促進させる必要がない場合等には、上述したコーティング層7は省略されてもよい。また、例えば、貫通孔2cの第2表面2b側の開口からの試料Sの成分S1の流出をより抑制する必要がない場合等には、上述したコーティング層6は省略されてもよい。
【0085】
また、基板2は、導電性を有していてもよく、質量分析方法において基板2に電圧が印加されてもよい。基板2が導電性を有する場合には、試料支持体1において導電層4を省略することができると共に、上述した導電層4を備える試料支持体1を用いる場合と同様の効果を得ることができる。この場合、上記第1実施形態における「導電層4の第3表面4a」は、「第1表面2a」と読み替えられる。すなわち、第3表面4a及び貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に設けられたコーティング層7は、第1表面2a及び貫通孔2cの第1表面2a側の縁部を含む部分の内面に設けられることになる。
【0086】
[第2実施形態に係る試料支持体の構成]
次に、
図9を参照して、第2実施形態に係る試料支持体1Aについて説明する。試料支持体1Aは、水に対する親和性が第3表面4a側の面よりも第2表面2b側の面の方が高くされている点で、第1実施形態に係る試料支持体1と相違している。具体的には、試料支持体1Aでは、第2表面2b側の面の水に対する親和性を基板材料よりも高くするための表面処理が第2表面2bに対して施されていると共に、第3表面4a側の面の水に対する親和性を基板材料よりも低くするための表面処理が第3表面4aに対して施されている。
【0087】
より具体的には、
図9に示されるように、試料支持体1Aは、基板2の第2表面2b及び各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面に、疎水性のコーティング層6の代わりに親水性のコーティング層7が設けられている点で、試料支持体1と相違する。また、試料支持体1Aは、導電層4の第3表面4a及び各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に、親水性のコーティング層7の代わりに疎水性のコーティング層6が設けられている点で、試料支持体1と相違する。
【0088】
[第2実施形態に係る試料支持体の製造方法]
試料支持体1Aの製造方法は、上述した試料支持体1の製造方法の第2工程において、水に対する親和性が第3表面4a側の面よりも第2表面2b側の面の方が高くなるように、第2表面2b及び第3表面4aの各々に表面処理を行う点で、上述した試料支持体1の製造方法と相違しており、その他の点については上述した試料支持体1の製造方法と同様である。具体的には、試料支持体1Aの製造方法では、第2工程において、第2表面2bと各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面とに、親水性のコーティング層7が設けられる。また、第3表面4aと各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面とに、疎水性のコーティング層6が設けられる。以上により、
図9に示した試料支持体1Aが得られる。なお、疎水性のコーティング層6については、第1実施形態に係るコーティング層6と同様に、少なくとも第3表面4aに設けられればよく、各貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に設けられなくてもよい。
【0089】
[第2実施形態に係る試料支持体を用いた試料のイオン化方法]
次に、
図10〜
図12を参照して、試料支持体1Aを用いた試料のイオン化方法(ここではレーザ脱離イオン化法(質量分析装置20による質量分析方法の一部))について説明する。
図10〜
図12においては、試料支持体1Aにおける貫通孔2c、導電層4、接着層5、コーティング層6及びコーティング層7の図示が省略されている。また、
図9に示される試料支持体1Aと
図10〜
図12に示される試料支持体1Aとでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
【0090】
まず、上述した試料支持体1Aが用意される(第1工程)。試料支持体1Aは、レーザ脱離イオン化法及び質量分析方法を実施する者によって製造されることで用意されてもよいし、試料支持体1Aの製造者又は販売者等から取得されることで用意されてもよい。
【0091】
続いて、
図10の(a)に示されるように、試料Sがスライドグラス8の載置面8aに載置される。続いて、
図10の(b)に示されるように、試料Sに基板2の第2表面2bが対向するように、試料支持体1Aが試料S上に配置される(第2工程)。すなわち、コーティング層7が試料Sの表面(上面)に接触するように、試料支持体1Aが配置される。この状態で、
図11の(a)に示されるように、スライドグラス8に対して試料支持体1Aが固定される。このとき、試料Sは、基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域R内に配置される。また、試料支持体1Aは、テープ9によって、スライドグラス8に対して固定される。ここで、試料Sは、例えば組織切片等の薄膜状の生体試料(含水試料)である。
【0092】
続いて、
図11の(b)に示されるように、スライドグラス8と試料支持体1Aとの間に試料Sが配置された状態で、試料Sの成分S1が、毛細管現象によって複数の貫通孔2c(
図9参照)を介して基板2の第1表面2a側(導電層4の第3表面4a側)に移動する。基板2の第1表面2a側に移動した成分S1は、表面張力によって第1表面2a側に留まる。なお、試料Sが乾燥試料である場合には、試料Sの粘性を低くするための溶液(例えばアセトニトリル、メタノール、アセトン等の有機溶媒)が試料Sに加えられる。これにより、毛細管現象によって複数の貫通孔2cを介して基板2の第1表面2a側に試料Sの成分S1を移動させることができる。
【0093】
ここで、試料支持体1Aでは、第2表面2b及び各貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面に親水性のコーティング層7(
図9参照)が設けられていることにより、各貫通孔2cの第2表面2b側の開口から各貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通が促進されている。すなわち、試料Sの成分S1が、親水性のコーティング層7を伝って、各貫通孔2cの第2表面2b側の開口から各貫通孔2c内に進入し易くなっている。つまり、親水性のコーティング層7は、第2表面2b側の試料Sの成分S1を各貫通孔2c内へと適切に導く役割を果たす。これにより、試料Sの成分S1を各貫通孔2c内に適切に進入させることができる。
【0094】
また、試料支持体1Aでは、第3表面4aに疎水性のコーティング層6(
図9参照)が設けられていることにより、毛細管現象によって貫通孔2c内を第2表面2b側から第3表面4a側に移動した試料Sの成分S1が第3表面4aに沿って(コーティング層6を伝って)他の貫通孔2c(チャネル)上へと移動してしまうことを抑制することができる。これにより、第3表面4a側に移動した試料Sの元の位置情報(試料Sを構成する分子の二次元分布情報)が維持され易くなり、イメージング質量分析の精度(解像度、画像分解能)を向上させることが可能となる。
【0095】
続いて、
図12に示されるように、各貫通孔2c内に試料Sの成分S1が留まっている試料支持体1Aがスライドグラス8に固定された状態で、スライドグラス8、試料支持体1A及び試料Sが、質量分析装置20の支持部21上に載置される。続いて、質量分析装置20の電圧印加部22によって、スライドグラス8の載置面8a及びテープ9を介して試料支持体1Aの導電層4(
図9参照)に電圧が印加される。本実施形態では、コーティング層6が設けられていない部分(フレーム3上に設けられた導電層4の部分)において、導電層4とテープ9とが導通している。ただし、試料支持体1Aにおいてフレーム3が省略される場合等において、導電層4とテープ9とがコーティング層6を介して接触させられてもよい。コーティング層6は非常に薄い膜であり、導電層4とテープ9との間の導通の大きな妨げとはならないからである。
【0096】
続いて、質量分析装置20のレーザ光照射部23によって、フレーム3の開口3aを介して、基板2の第1表面2a(導電層4の第3表面4a)に対してレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)に対して照射される。本実施形態では、レーザ光照射部23は、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。なお、実効領域Rに対応する領域に対するレーザ光Lの走査は、支持部21及びレーザ光照射部23の少なくとも1つが動作させられることにより、実施可能である。
【0097】
このように、導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、基板2の貫通孔2c内(特に第1表面2a側)に留まっている試料Sの成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される(第3工程)。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層4(
図9参照)から、貫通孔2c内に留まっている試料Sの成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した試料Sの成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の第1工程〜第4工程が、試料支持体1Aを用いた試料Sのイオン化方法(ここでは、レーザ脱離イオン化法)に相当する。なお、導電層4の第3表面4aにはコーティング層6が設けられているが、上述した通り、当該コーティング層6は非常に薄い膜であり、レーザ光Lを導電層4に照射する上で大きな妨げとはならない。
【0098】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1Aと質量分析装置20のイオン検出部24との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層4とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部24によって試料イオンS2が検出される(第5工程)。本実施形態では、質量分析装置20は、飛行時間型質量分析法(TOF−MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の第1工程〜第5工程が、試料支持体1Aを用いた質量分析方法に相当する。
【0099】
[第2実施形態の作用効果]
以上述べたように、試料支持体1Aでは、第2表面2bと貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理がされている。本実施形態では、第2表面2bと上記部分の内面とに親水性のコーティング層7が設けられている。当該コーティング層7により、貫通孔2cの第2表面2b側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進することができる。これにより、試料支持体1Aの第2表面2bが試料Sに対向するように試料支持体1Aを試料S上に配置する測定方式(以下「吸い上げ方式」ともいう。)において、試料Sの成分S1を貫通孔2c内に適切に進入させることができ、試料イオンS2の信号強度を向上させることができる。
【0100】
また、第3表面4aに疎水性のコーティング層6が設けられている。当該コーティング層6により、吸い上げ方式において、毛細管現象によって貫通孔2c内を第2表面2b側から第3表面4a側に移動した試料Sの成分S1が第3表面4aに沿って他の貫通孔2c上へと移動してしまうことを抑制することができる。これにより、第3表面4a側に移動した試料Sの元の位置情報が維持され易くなり、イメージング質量分析の精度を向上させることが可能となる。
【0101】
また、上述した試料支持体1Aの製造方法によれば、試料支持体1Aを適切に得ることができる。具体的には、試料支持体1Aの製造方法における第2工程は、第2表面2bと貫通孔2cの第2表面2b側の縁部を含む部分の内面とに水に対する親和性を向上させる表面処理を行う工程を含む。本実施形態では、当該第2工程は、第2表面2bと上記部分の内面とに親水性のコーティング層7を設ける工程を含む。これにより、貫通孔2cの第2表面2b側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進できる試料支持体1A、すなわち吸い上げ方式において試料イオンS2の信号強度を向上させることができる試料支持体1Aを適切に得ることができる。また、上記第2工程は、第3表面4aに疎水性のコーティング層6を設ける工程を含む。これにより、毛細管現象によって貫通孔2c内を第2表面2b側から第3表面4a側に移動した試料Sの成分S1が第3表面4aに沿って他の貫通孔2c上へと移動してしまうことを抑制できる試料支持体1Aを得ることができる。また、上記第2工程において、親水性のコーティング層7は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成される。これにより、親水性のコーティング層7を容易に且つ適切に形成することができる。また、上記第2工程において、疎水性のコーティング層6は、金属の蒸着又は自己組織化単分子膜により形成される。これにより、疎水性のコーティング層6を容易に且つ適切に形成することができる。
【0102】
また、上述した試料支持体1Aを用いた試料のイオン化方法によれば、貫通孔2cの第2表面2b側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進できる試料支持体1Aを用いて吸い上げ方式によるイオン化を行うことにより、試料イオンS2を適切に検出することができる。さらに、第3表面4aに疎水性のコーティング層6が設けられていることにより、第3表面4a側に移動した試料Sの成分S1が第3表面4aに沿って他の貫通孔2c上へと移動してしまうことを抑制できるため、イメージング質量分析の精度を向上させることができる。
【0103】
また、試料Sが乾燥試料である場合には、上記第3工程よりも前に、載置面8aに載置された試料Sに対して、試料Sの粘性を低くするための溶液(例えばアセトニトリル、メタノール、アセトン等の有機溶媒)が加えられる。これにより、測定対象の試料Sが乾燥試料である場合において、毛細管現象による当該試料Sの成分S1の貫通孔2c内の移動を促進することができる。その結果、乾燥試料を吸い上げ方式によってイオン化する場合において、試料イオンS2の信号強度を適切に向上させることができる。
【0104】
[第2実施形態の変形例]
第2実施形態では、第2表面2b及び第3表面4aの両方に表面処理(ここではコーティング層7,6の形成)が行われたが、表面処理は第2表面2b及び第3表面4aの一方にのみ行われてもよい。例えば、イメージング質量分析を実施しない場合(第3表面4a上での試料Sの成分S1の移動を防ぐ必要がない場合)等には、上述したコーティング層6は省略されてもよい。また、例えば、貫通孔2cの第2表面2b側の開口からの試料Sの成分S1の流入をより促進させる必要がない場合等には、上述したコーティング層7は省略されてもよい。
【0105】
また、基板2は、導電性を有していてもよく、質量分析方法において基板2に電圧が印加されてもよい。基板2が導電性を有する場合には、試料支持体1Aにおいて導電層4を省略することができると共に、上述した導電層4を備える試料支持体1Aを用いる場合と同様の効果を得ることができる。この場合、上記第2実施形態における「導電層4の第3表面4a」は、「第1表面2a」に読み替えられる。すなわち、第3表面4a及び貫通孔2cの第3表面4a側の縁部を含む部分の内面に設けられたコーティング層6は、第1表面2a及び貫通孔2cの第1表面2a側の縁部を含む部分の内面に設けられることになる。
【0106】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0107】
例えば、上記実施形態では、水に対する親和性を向上させる表面処理として、親水性のコーティング層7を設ける処理を例示したが、水に対する親和性を向上させる表面処理は、当該処理に限定されない。例えば、水に対する親和性を向上させる表面処理として、親水性のコーティング層を設ける代わりに(又は親水性のコーティング層を設ける処理と併用して)、エキシマ照射又はプラズマ照射を行う処理が実行されてもよい。同様に、上記実施形態では、水に対する親和性を低減させる表面処理として、疎水性のコーティング層6を設ける処理を例示したが、水に対する親和性を低減させる表面処理は、当該処理に限定されない。例えば、水に対する親和性を低減させる表面処理として、疎水性のコーティング層を設ける代わりに(又は疎水性のコーティング層を設ける処理と併用して)、イオンミリング等のドライエッチングにより表面の粗さを変える処理(粗化処理等)が実行されてもよい。
【0108】
また、導電層4は、少なくとも基板2の第1表面2aに設けられていれば、基板2の第2表面2b及び貫通孔2cの内面に設けられていなくてもよいし、基板2の第2表面2b及び貫通孔2cの内面に設けられていてもよい。また、上述した試料支持体1,1Aを用いた試料のイオン化方法においては、テープ9以外の手段(例えば、接着剤、固定具等を用いる手段)で、スライドグラス8に対して試料支持体1,1Aが固定されてもよい。
【0109】
また、質量分析装置20においては、レーザ光照射部23が、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを一括で照射し、イオン検出部24が、当該領域の二次元情報を維持しながら、試料イオンS2を検出してもよい。つまり、質量分析装置20は、投影型質量分析装置であってもよい。また、上述した試料のイオン化法は、試料Sを構成する分子の質量分析(イメージング質量分析を含む)だけでなく、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
【0110】
また、試料支持体1の用途は、レーザ光Lの照射による試料Sのイオン化に限定されない。試料支持体1は、レーザ光L以外のエネルギー線(例えば、イオンビーム、電子線等)の照射による試料Sのイオン化に用いられてもよい。
【0111】
また、上述した実施形態では、基板2に1つの実効領域Rが設けられていたが、基板2に複数の実効領域Rが設けられていてもよい。また、複数の貫通孔2cは、実効領域Rのみに形成されている必要はなく、上述した実施形態のように、例えば、基板2の全体に形成されていてもよい。つまり、複数の貫通孔2cは、少なくとも実効領域Rに形成されていればよい。また、上述した実施形態では、1つの実効領域Rに1つの試料Sが対応するように試料Sが配置されたが、1つの実効領域Rに複数の試料Sが対応するように試料Sが配置されてもよい。
試料支持体は、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備える。基板及び導電層には、導電層の基板とは反対側の第3表面と第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている。第2表面及び第3表面の少なくとも一方に、第2表面側の面と第3表面側の面との間で水に対する親和性を互いに異ならせるための表面処理がされている。