(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように偏光層を設けて眼鏡レンズを作製することにより、二色性色素の偏光性を利用して眼鏡レンズに防眩性を付与することができる。そして、かかる眼鏡レンズを備えた眼鏡によれば、眼鏡装用者が感じる眩しさを低減することができる。
【0005】
一方、特許文献1の段落0044には、特許文献1の
図1(E)に示された構成において、機能性膜8として、フォトクロミック膜が例示されている。なお同図に示されている色素保護膜とは、特許文献1の段落0043に記載されている通り、偏光層と一体化するものであるので、本明細書においては、色素保護膜が形成された態様については、色素保護膜も偏光層の一部と見なすものとする。即ち、特許文献1には、偏光層に隣接する機能性膜8として、フォトクロミック膜が例示されているのである。フォトクロミック膜(フォトクロミック層)によれば、フォトクロミック層に含まれるフォトクロミック色素が光に応答して発色・退色することにより、眼鏡レンズに、明るい屋外で発色しカラーレンズと同様な防眩性を発揮し、屋内に移ると退色して光透過性を回復する性質を付与することができる。
【0006】
上記の通り、偏光層およびフォトクロミック層は、いずれも眼鏡レンズに防眩性を付与するために有効な層である。そこで本発明者らが、偏光層とフォトクロミック層とを有する眼鏡レンズを得ることを試みたところ、偏光層とフォトクロミック層との界面で剥離(密着不良)が生じてしまい、耐久性に劣るものとなってしまうことが新たに判明した。
【0007】
そこで本発明の目的は、偏光層とフォトクロミック層とを兼ね備え、かつ耐久性に優れる眼鏡レンズを提供することにある。
【0008】
上記目的は、以下の眼鏡レンズ:
レンズ基材の少なくとも一方の面側に、
二色性色素を含有する偏光層と、
フォトクロミック色素を含有するフォトクロミック層と、
を有し、かつ、
偏光層とフォトクロミック層とを中間層を介して有する眼鏡レンズ、
によって達成された。この点に関し、本発明者らは、フォトクロミック層、偏光層のいずれかに含まれる成分が他方の層に影響を及ぼすことが上記の密着不良の一因ではないかと考えている。これに対し、両層を隣接させずに中間層を介して配置することによって、一方の層の成分が他方の層に影響を及ぼすことを緩和または防止できることが両層の間での剥離防止に寄与するのではないかと、本発明者らは推察している。ただし上記記載は本発明者らによる推察に過ぎず、本発明は、上記記載によって何ら限定されるものではない。
【0009】
一態様では、中間層は、水系樹脂層である。
【0010】
一態様では、水系樹脂層は、水系ポリウレタン樹脂層である。
【0011】
一態様では、上記眼鏡レンズは、レンズ基材上に、該レンズ基材側から、偏光層、中間層、およびフォトクロミック層をこの順に有する。
【0012】
一態様では、上記眼鏡レンズは、機能性層を、中間層とは反対側のフォトクロミック層上に更に有する。
【0013】
一態様では、上記眼鏡レンズは、レンズ基材と偏光層との間に、ケイ素酸化物を含む配列層を更に有する。
【0014】
一態様では、フォトクロミック層および機能性層の少なくとも一方に、ピペリジン環含有化合物が含まれる。ピペリジン環含有化合物は、一態様では、ヒンダードアミンである。
【0015】
一態様では、偏光層は、中間層側の表面がシランカップリング剤処理が施された表面である。
【0016】
一態様では、シランカップリング剤処理は、エポキシシラン処理およびアミノシラン処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの処理である。
【0017】
一態様では、レンズ基材の上記の偏光層やフォトクロミック層が設けられる面は、凸面である。
【0018】
本発明の更なる態様は、上記眼鏡レンズと、この眼鏡レンズを取り付けたフレームと、を有する眼鏡に関する。
【0019】
本発明の更なる態様は、
レンズ基材上に、二色性色素を含有する偏光層形成用水系塗布液を塗布し乾燥処理を施すことにより偏光層を形成する工程と、
上記偏光層上に、中間層を形成する工程と、
上記中間層上に、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック層形成用硬化性組成物を塗布し、この組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成する工程と、
を含む、眼鏡レンズの製造方法、
に関する。
【0020】
一態様では、中間層は、水系樹脂を含有する水系樹脂組成物を塗布し乾燥処理を施すことにより形成される。
【0021】
一態様では、上記水系樹脂組成物に含まれる水系樹脂は、水系ポリウレタン樹脂である。
【0022】
一態様では、上記製造方法は、レンズ基材上に、ケイ素酸化物を含有する配列層を形成する工程を更に含み、形成された配列層上に偏光層が形成される。
【0023】
一態様では、上記製造方法は、上記フォトクロミック層上に、機能性層形成用組成物を塗布することにより機能性層を形成する工程を更に含む。
【0024】
一態様では、前記フォトクロミック層形成用硬化性組成物および一種以上の機能性層形成用組成物の少なくとも一つに、ピペリジン環含有化合物が含まれる。ピペリジン環含有化合物は、一態様では、上記フォトクロミック層形成用硬化性組成物に含まれる。また、一態様では、ピペリジン環含有化合物はヒンダードアミンである。
【0025】
一態様では、上記製造方法は、偏光層を形成する工程の後、形成された偏光層表面にシランカップリング剤処理を施す工程を更に含み、シランカップリング剤処理が施された偏光層表面上に、中間層が形成される。シランカップリング剤処理は、一態様では、エポキシシラン処理およびアミノシラン処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの処理である。
【0026】
一態様では、上記の工程は、レンズ基材の凸面上で行われる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、偏光層とフォトクロミック層とを兼ね備え、かつ耐久性に優れる(詳しくは、偏光層とフォトクロミック層との間の剥離が低減または防止された)眼鏡レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の眼鏡レンズは、レンズ基材の少なくとも一方の面側に、 二色性色素を含有する偏光層と、フォトクロミック色素を含有するフォトクロミック層と、を有し、かつ、偏光層とフォトクロミック層とを中間層を介して有する眼鏡レンズである。
以下、上記眼鏡レンズについて、更に詳細に説明する。
【0029】
[眼鏡レンズおよびその製造方法]
<積層順序>
本発明の眼鏡レンズは、レンズ基材上に、偏光層とフォトクロミック層とを中間層を介して有している限り、積層順序は特に限定されるものではない。一態様では、レンズ基材により近い層として偏光層が含まれている、即ち、レンズ基材、偏光層、中間層およびフォトクロミック層がこの順に眼鏡レンズに含まれている。また、他の一態様では、レンズ基材により近い層としてフォトクロミック層が含まれている、即ち、レンズ基材、フォトクロミック層、中間層および偏光層がこの順に眼鏡レンズに含まれている。フォトクロミック層の発色・退色の応答速度の観点からは、物体側(光の入射側)に近い層としてフォトクロミック層が含まれていることが好ましい。この点からは、前者の態様(レンズ基材、偏光層、中間層およびフォトクロミック層がレンズ基材側からこの順に眼鏡レンズに含まれていること)が好ましい。なおレンズ基材の少なくとも一方の面側に上記の層が存在すればよく、片面側のみに存在しても両面側とも存在してもよい。偏光層およびフォトクロミック層は、レンズ基材の片面側のみに存在することで十分な機能を発揮することができる。
【0030】
<レンズ基材>
レンズ基材は、プラスチックレンズ基材、ガラスレンズ基材等の、通常眼鏡レンズに使用される各種レンズ基材を、何ら制限なく用いることができる。軽量であること、割れにくいこと等の観点から、レンズ基材は、プラスチックレンズ基材であることが好ましい。具体例としては、これらに限定されるものではないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を、プラスチックレンズ基材を構成する樹脂として挙げることができる。なおレンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60〜1.75程度である。ただしレンズ基材の屈折率は、これに限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。
【0031】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。詳細を後述する偏光層やフォトクロミック層が設けられる面は、レンズ基材の凸面であることが、偏光層の偏光特性をより良好に発揮する観点からは好ましい。
【0032】
レンズ基材上には、直接または他の層を介して間接的に、偏光層またはフォトクロミック層(上記の理由からは好ましくは偏光層)が形成されている。ここで形成される他の層の例としては、例えばハードコート層を挙げることができる。ハードコート層を設けることにより、眼鏡レンズに防傷性(耐擦傷性)を付与することができ、また眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることもできる。ハードコート層の詳細については、例えば特開2012−128135号公報段落0025〜0028、0030を参照できる。またハードコート層に関する後述の記載も参照できる。なお、レンズ基材としてはハードコート層付きで市販されているものもあり、本発明ではそのようなレンズ基材を用いてもよい。また、上記の他の層としては、後述する配列層も例示できる。
【0033】
<偏光層>
次に、偏光層について説明する。上記眼鏡レンズにおいて偏光層は、フォトクロミック層に対して、レンズ基材により近い層として含まれていてもよく、より遠い層として含まれていてもよい。以下では、レンズ基材上に、偏光層、中間層およびフォトクロミック層をこの順に有する眼鏡レンズを例にとり説明する。ただし先に記載した通り、上記の層の積層順序は限定されるものではない。
【0034】
偏光層は、少なくとも二色性色素を含む。二色性色素の偏光性は、通常、主に二色性色素が一軸配向することにより発現される。二色性色素を一軸配向させるためには、二色性色素を含む塗布液を、溝を有する表面上に塗布することが好ましい。二色性色素を一軸配向させるための溝は、レンズ基材表面に形成してもよいが、二色性色素の偏光性をより良好に発現させる観点からは、レンズ基材上に設けた配列層の表面に溝を形成することが好ましい。
【0035】
(配列層)
配列層は、通常、レンズ基材表面上に直接または他の層を介して間接的に設けられる。レンズ基材と配列層との間に形成され得る層の一例としては、先に記載したハードコート層を挙げることができる。配列層の厚さは、通常0.02〜5μm程度であり、好ましくは0.05〜0.5μm程度である。配列層は、蒸着、スパッタ等の公知の製膜法によって製膜材料を堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法によって形成してもよい。上記製膜材料として好適なものとしては、金属、半金属、またはこれらの酸化物、複合体もしくは化合物を挙げることができる。より好ましくは、Si、Al、Zr、Ti、Ge、Sn、In、Zn、Sb、Ta、Nb、V、Y、Crから選ばれる材料またはその酸化物、さらにはこれら材料の複合体もしくは化合物を用いることができる。これらの中でも配列層としての機能付与の容易性の観点からはSiO、SiO
2等のケイ素酸化物が好ましく、中でも後述するシランカップリング剤との反応性の点からはSiO
2が好ましい。一方、塗布法によって形成される配列層としては、無機酸化物ゾルを含むゾル−ゲル膜を挙げることができる。上記ゾル−ゲル膜の形成に好適な塗布液の一例としては、例えば、特開2010−256895号公報に記載の配列層コート液を挙げることができる。
【0036】
次いで、上記配列層上に塗布される塗布液中の二色性色素を一軸配向させるために、通常、形成した配列層上に溝を形成する。溝が形成された配列層表面に二色性色素を含む塗布液を塗布すると、二色性色素が溝に沿って、または溝と直交する方向に配向する。これにより、二色性色素を一軸配向させ、その偏光性を良好に発現させることができる。上記溝の形成は、例えば、液晶分子の配向処理のために行われるラビング工程によって行うことができる。ラビング工程は、被研磨面を布などで一定方向に擦る工程であり、その詳細については、例えば米国特許2400877号明細書や米国特許4865668号明細書等を参照できる。または、特開2009−237361号公報段落0033〜0034に記載の研磨処理により、配列層上に溝を形成することも可能である。形成される溝の深さやピッチは、二色性色素を一軸配向させることができるように設定すればよい。
【0037】
(二色性色素)
「二色性」とは、媒質が光に対して選択吸収の異方性を有するために、透過光の色が伝播方向によって異なる性質を意味し、二色性色素は、偏光に対して色素分子のある特定の方向で光吸収が強くなり、これと直交する方向では光吸収が小さくなる性質を有する。また、二色性色素の中には、水を溶媒とした時、ある濃度・温度範囲で液晶状態を発現するものが知られている。このような液晶状態のことをリオトロピック液晶という。この二色性色素の液晶状態を利用して特定の一方向に色素分子を配列させることができれば、より強い二色性を発現することが可能となる。上記溝を形成した表面上に二色性色素を含有する塗布液を塗布することにより二色性色素を一軸配向させることができ、これにより良好な偏光性を有する偏光膜を形成することができる。二色性色素としては、特に限定されるものではなく、偏光レンズ等の偏光部材に通常使用される各種二色性色素を挙げることができる。具体例としては、アゾ系、アントラキノン系、メロシアニン系、スチリル系、アゾメチン系、キノン系、キノフタロン系、ペリレン系、インジゴ系、テトラジン系、スチルベン系、ベンジジン系色素等が挙げられる。また、米国特許2400877号明細書、特表2002−527786号公報に記載されているもの等でもよい。
【0038】
二色性色素の多くは水溶性であるため、偏光層は、二色性色素を含有する偏光層形成用水系塗布液を、上記の配列層表面等の被塗布面に塗布し乾燥処理を施すことにより形成することが好ましい。偏光層形成用水系塗布液は、溶液または懸濁液であることができ、塗布液中の二色性色素の含有量は、例えば1〜50質量%程度であるが、所望の偏光性が得られればよく上記範囲に限定されるものではない。
【0039】
偏光層形成用水系塗布液は、二色性色素に加えて、他の成分を含むこともできる。他の成分としては、二色性色素以外の色素を挙げることができ、このような色素を配合することで所望の色相を有する偏光層を形成することができる。さらに塗布性等を向上させる観点から、必要に応じてレオロジー改質剤、接着性促進剤、可塑剤、レベリング剤等の添加剤を配合してもよい。
【0040】
塗布液の塗布方法としては、特に限定はなく、ディップ法、スピンコート法等の公知の方法が挙げられる。偏光層の厚さは、通常0.05〜5μm程度であるが、特に限定されるものではない。なお、後述するシランカップリング剤は、特許文献1に記載の色素保護膜について記載したように、通常、偏光層に浸透し実質的に偏光層に含まれることになる。
【0041】
(非水溶化処理)
二色性色素として水溶性色素を用いる場合には、膜安定性を高めるために塗布液を塗布し乾燥処理を施した後に非水溶化処理を施すことが好ましい。非水溶化処理は、例えば色素分子の末端水酸基をイオン交換することや色素と金属イオンとの間でキレート状態を作り出すことにより行うことができる。そのためには、形成した偏光層を金属塩水溶液に浸漬する方法を用いることが好ましい。金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えばAlCl
3、BaCl
2、CdCl
2、ZnCl
2、FeCl
2およびSnCl
3等を挙げることができる。非水溶化処理後、偏光層の表面をさらに乾燥させてもよい。
【0042】
偏光層に対しては、膜強度および膜安定性を高めるために二色性色素の固定化処理を施すことが好ましい。固定化処理は、上記の非水溶化処理の後に行うことが望ましい。固定化処理により、偏光層中で二色性色素の配向状態を固定化することができる。
【0043】
(シランカップリング剤処理)
固定化処理は、好ましくは、偏光層表面をシランカップリング剤処理することによって行うことが好ましい。シランカップリング剤処理は、例えば濃度1〜15質量%程度、好ましくは1〜10質量%程度の溶液としてシランカップリング剤を偏光層表面に塗布することにより実施することができる。上記溶液を調製するために用いる溶媒は、水系溶媒であることが好ましく、水または水とアルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒であることがより好ましい。なお本発明および本明細書において、水系溶媒とは、少なくとも水を含む溶媒をいうものとする。上記溶液の塗布は、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の公知の手段によって行うことができる。固定化処理の途中に、レンズ基材と偏光層を含む部材を加熱炉内等に所定期間放置することにより、固定化効果を更に高めることができる。この炉内雰囲気温度および放置時間は、使用するシランカップリング剤の種類に応じて決定することができ、通常、室温〜120℃、5分〜3時間程度である。
【0044】
シランカップリング剤としては、エポキシシラン(エポキシ基含有シランカップリング剤)およびアミノシラン(アミノ基含有シランカップリング剤)が好ましい。固定化効果の観点からは、少なくともエポキシ基含有シランカップリング剤溶液を偏光層表面に塗布することによりシランカップリング剤処理(エポキシシラン処理)を行うことが好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤の塗布(アミノシラン処理)の後、エポキシシラン処理を行うことが更に好ましい。これは、エポキシシランと比べてアミノシランは、その分子構造に起因して、一軸配向した二色性色素の分子間に入り込みやすいと推察されるからである。
【0045】
シランカップリング剤とは、一般にR−Si(OR’)
3で表される構造を有し(複数存在するR’は同一であっても異なっていてもよい)、エポキシシラン(エポキシ基含有シランカップリング剤)とは、上記Rで表される官能基にエポキシ基を含むものである。エポキシ基は、通常、2価の連結基を介してSiに結合している。2価の連結基としては、後述の具体例化合物に含まれる連結基を挙げることができる。
一方、上記R’で表される官能基は、通常アルキル基であり水系溶媒中で加水分解を受けシラノール(Si−OH)を生成する。上記R’で表されるアルキル基の炭素数は、例えば1〜10であり、好ましくは1〜3である。
【0046】
エポキシシランの具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシドキシ基含有トリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等のエポキシアルキルアルコキシシランを挙げることができる。
【0047】
アミノシラン(アミノ基含有シランカップリング剤)とは、上記Rで表される官能基にアミノ基を含むものであり、アミノシランに関する上記構造式の詳細は、Rにアミノ基を含む点以外は先にエポキシシランについて述べた通りである。
【0048】
アミノシランの具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシドキシ基含有トリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等のエポキシアルキルアルコキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランを挙げることができる。
【0049】
シランカップリング剤は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、シランカップリング剤の塗布後偏光層表面を純水、脱イオン水等ですすぎ洗いすることにより最表面に過剰に付着したシランカップリング剤を除去することも可能である。シランカップリング剤を塗布した後の偏光層を含む部材を、加熱処理することもできる。加熱処理は、例えば45〜145℃、好ましくは50〜90℃の炉内温度の加熱炉に上記部材を配置することによって行うことができる。
【0050】
<中間層>
本発明の眼鏡レンズにおいて、以上説明した偏光層は、中間層を介してフォトクロミック層と積層されている。中間層は、好ましくは少なくとも樹脂を含む層であり、樹脂は好ましくは水系樹脂である。なお本発明および本明細書において、水系樹脂とは、この樹脂および水系溶媒を少なくとも含む水系塗布液(水系樹脂組成物)が乾燥すると固化する性質を有する樹脂をいうものとする。そして、水系樹脂組成物が乾燥して固化することによって形成される層が、水系樹脂層である。
【0051】
水系樹脂組成物に含まれる水系溶媒は、例えば水や水と極性溶媒等との混合溶媒であり、好ましくは水である。また、水系樹脂組成物の固形分濃度は、液安定性および製膜性の観点から、好ましくは1〜62質量%であり、より好ましくは5〜38質量%である。水系樹脂組成物は、水系樹脂のほかに、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0052】
水系樹脂組成物は、水系樹脂を、水系溶媒に溶解した状態または微粒子(好ましくはコロイド粒子)として分散した状態で含むことができる。水系樹脂組成物は、中でも、水系溶媒中(好ましくは水中)に水系樹脂が微粒子状に分散した分散液であることが望ましく、この場合、水系樹脂の粒径は、組成物の分散安定性の観点から、0.3μm以下であることが好ましい。また、水系樹脂組成物のpHは、25℃において、5.5〜9.0程度であることが安定性の点から好ましく、25℃での粘度は、塗布適性の点から、5〜500mPa・sであることが好ましく、10〜50mPa・sであることがより好ましい。
【0053】
水系樹脂としては、水系ポリウレタン樹脂、水系アクリル樹脂、水系エポキシ樹脂等が挙げられ、偏光層とフォトクロミック層との間における剥離をより効果的に防止または低減する観点からは、水系ポリウレタン樹脂が好ましい。即ち、中間層は、水系ポリウレタン樹脂層であることが好ましい。水系ポリウレタン樹脂を含有する水系樹脂組成物は、例えば高分子量ポリオール化合物と有機ポリイソシアネート化合物とを、必要に応じて鎖延長剤とともに、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、このプレポリマーを中和後、鎖延長剤を含有する水系溶媒に分散させて高分子量化することにより調製することができる。そのような水系樹脂組成物およびその調製方法については、例えば、特許第3588375号明細書段落0009〜0013、特開平8−34897号公報段落0012〜0021、特開平11−92653号公報段落0010〜0033、特開平11−92655号公報段落0010〜0033等を参照できる。また、水系樹脂組成物としては、水性ウレタンとして市販されている市販品をそのまま、または必要に応じて水系溶媒で希釈して使用することも可能である。市販されている水性ポリウレタンとしては、例えば、旭電化工業(株)製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学(株)製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン(株)製の「ソフラネート」シリーズ、花王(株)製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業(株)製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業(株)製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ(株)製の「ネオレッツ」シリーズ等を用いることができる。
【0054】
水系ポリウレタン樹脂を含む水系樹脂組成物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールを基本骨格に持ち、カルボキシル基、スルホン基等のアニオン性基を持つ末端イソシアネートプレポリマーを水系溶媒に分散させた結果、得られたものが好ましい。
【0055】
以上説明した水系樹脂組成物を、好ましくはシランカップリング剤処理後の偏光層表面に塗布および乾燥させることにより、偏光層上に中間層として、水系樹脂層を形成することができる。塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法を用いることができる。塗布条件は、所望の厚さの中間層を形成できるように適宜設定すればよい。水系樹脂層であるか否かを問わず、中間層の厚さは、偏光層とフォトクロミック層との間での剥離をより効果的に防止または低減する観点から、5〜20μmの範囲であることが好ましく、7〜10μmの範囲であることがより好ましい。なお中間層は、一層のみであってもよく、組成の異なる二層以上であってもよい。偏光層とフォトクロミック層との間に二層以上の層を設ける場合、中間層の厚さとは、二層以上の層の総厚をいうものとする。なお、水系樹脂組成物の塗布前には、被塗布面である偏光層表面に対し、酸、アルカリ、各種有機溶媒等による化学的処理、プラズマ、紫外線、オゾン等による物理的処理、各種洗剤を用いる洗剤処理等の公知の表面処理の1つ以上を行うこともできる。
【0056】
水系樹脂組成物の塗布後、この組成物を乾燥させることにより、中間層として水系樹脂層を形成することができる。上記乾燥は、例えば室温〜100℃の雰囲気中に5分〜24時間、水系樹脂組成物を塗布した偏光層を含む部材を配置することにより行うことができる。なお室温とは、加熱・冷却等の温度制御なしの雰囲気温度をいうものとし、一般に、15〜25℃程度であるが、天候や季節によって変わり得るため、上記範囲に限定されるものではない
【0057】
以上、中間層の好ましい態様として水系樹脂層について説明したが、中間層は、例えば硬化性組成物に硬化処理を施し形成される硬化層であってもよい。
【0058】
<フォトクロミック層>
(フォトクロミック色素)
次に、フォトクロミック層について説明する。上記眼鏡レンズにおいてフォトクロミック層は、中間層を介して偏光層上に積層されている。フォトクロミック層は、少なくともフォトクロミック色素を含む。フォトクロミック色素としては、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物を何ら制限なく用いることができる。その詳細については、WO2008/001578A1段落0076〜0088を参照できる。フォトクロミック層は、好ましくは、フォトクロミック色素を含む硬化性組成物(フォトクロミック層形成用硬化性組成物)を中間層上に塗布し、この組成物に硬化処理を施すことにより形成することができる。硬化性組成物とは、少なくとも硬化性化合物を含む組成物をいう。フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、硬化性化合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部のフォトクロミック色素を含むことができる。
【0059】
(硬化性化合物)
硬化性化合物は、光照射、加熱等の硬化処理によって硬化する(重合する)性質を有する化合物であればよい。入手のし易さ、硬化性の良さ等からは、アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を有する化合物がより好ましい。なお、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を示す。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落0050〜0075を参照できる。
【0060】
(重合開始剤)
フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、通常、重合開始剤を含む。重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の光重合開始剤および熱重合開始剤から適宜選択することができる。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落0089〜0090を参照できる。
【0061】
(添加剤)
フォトクロミック層形成用硬化性組成物には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、更に、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤が含まれていてもよい。これら添加剤としては、公知の化合物を何ら制限なく使用できる。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落0092〜0097を参照できる。
【0062】
好ましい添加剤の一例としては、ピペリジン環含有化合物を挙げることができる。ピペリジン環含有化合物は、フォトクロミック層の酸化を防止することにより、その耐久性を向上することのできる添加剤である。ピペリジン環含有化合物、フォトクロミック層の耐久性をより向上する観点からは、ヒンダードアミンを使用することがより好ましい。ここでヒンダードアミンとは、分子中に、下記構造:
【化1】
を含むものであって、*で表される位置で水素原子等の原子または他の構造と結合する。ヒンダードアミンは、上記構造を主鎖および側鎖の一方または両方に含む重合体であってもよい。またヒンダードアミンであるか否かにかかわらず、ピペリジン環含有化合物は、ピペリジン環を主鎖および側鎖の一方または両方に含む重合体であってもよい。また、含有されるピペリジン環は、上記構造のようにアルキル基等の置換基によって置換されていてもよい。
【0063】
ピペリジン環含有化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、4000以下であることができる。ピペリジン環含有化合物の分子量は、一態様では、1000未満であることができ、一態様では1000以上であることができる。また、ピペリジン環含有化合物の分子量は、例えば100以上であることができるが、100未満であってもよい。なお分子量は、重合体(多量体)については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求められる重量平均分子量をいうか、または分子量分布が上記範囲内にあることをいうものとする。また、本明細書に記載の平均分子量とは、上記のように求められる重量平均分子量をいうものとする。
【0064】
ピペリジン環含有化合物は、フォトクロミック層形成用硬化性組成物において、硬化性化合物100質量部に対し、例えば0.001〜20質量部含まれ、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部含まれることができる。なおピペリジン環含有化合物はフォトクロミック層形成用硬化性組成物のみに添加してもよく、フォトクロミック層形成用硬化性組成物には添加せず、後述する機能性層形成用組成物に添加してもよく、両組成物に添加してもよい。
【0065】
フォトクロミック層は、以上説明した成分を含むフォトクロミック層形成用硬化性組成物を中間層表面に塗布し、この組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。フォトクロミック層形成用硬化性組成物の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、硬化性化合物のみを予め混合し、塗布の直前に他の成分を添加・混合してもよい。フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、25℃での粘度が20〜500mPa・sであることが好ましく、50〜300mPa・sであることがより好ましく、60〜200mPa・sであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック層形成用硬化性組成物の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。フォトクロミック層形成用硬化性組成物の塗布は、スピンコート法等の公知の塗布方法によって行うことができる。
【0066】
フォトクロミック層形成用硬化性組成物を中間層上に塗布した後、この組成物に含まれる硬化性化合物の種類に応じた硬化処理(光照射、加熱等)を施すことにより、フォトクロミック層を形成することができる。硬化処理は、公知の方法で行うことができる。フォトクロミック層の厚さは、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。
【0067】
<機能性層>
本発明の眼鏡レンズは、物体側表面の再表層として前述のフォトクロミック層または偏光層を有していてもよいが、フォトクロミック層と偏光層とのうち、よりレンズ基材から遠い(即ち物体側に位置する)層の上に更に一層以上の機能性層を有することが好ましい。かかる機能性層は、二層以上設けることも可能である。任意に設けられる機能性層としては、公知のハードコート層、撥水層、反射防止層(多層反射防止膜)等の各種機能性層を挙げることができる。一例として、以下に、ハードコート層について説明する。
【0068】
ハードコート層は、眼鏡レンズの耐久性向上と光学特性を両立する観点からは、厚さが0.5〜10μmの範囲であることが好ましい。ハードコート層としては、眼鏡レンズの耐久性向上の点からは、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含むものが好ましい。そのようなハードコート層を形成可能な機能性層形成用組成物(ハードコート組成物)の一例としては、特開昭63−10640号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0069】
また、有機ケイ素化合物の好ましい態様としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を挙げることもできる。
(R
1)
a(R
3)
bSi(OR
2)
4−(a+b) ・・・(I)
【0070】
一般式(I)中、R
1は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R
3は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0071】
R
2で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
R
2で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
R
2で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
R
3で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
R
3で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報の段落0073に記載されているものを挙げることができる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化層としてハードコート層を形成することができる。
【0072】
前記ハードコート層に含まれる金属酸化物粒子は、ハードコート層の屈折率の調整および硬度向上に寄与し得る。具体例としては、酸化タングステン(WO
3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化チタニウム(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化スズ(SnO
2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb
2O
5)等の粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、ハードコート層における金属酸化物粒子の含有量は、屈折率および硬度を考慮して適宜設定可能であるが、通常、ハードコート組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記金属酸化物粒子は、ハードコート層中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0073】
ハードコート層は、上記成分および必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製したハードコート組成物を被塗布面上に塗布し、硬化性基に応じた硬化処理(光照射、加熱等)を施すことにより形成することができる。ハードコート組成物を加熱により硬化させる態様においては、加熱温度(加熱処理を行う雰囲気温度)は、100℃未満とすることが好ましく、95℃以下とすることが好ましい。加熱温度は、例えば80℃以上であるが、硬化性化合物の種類に応じて設定すればよく、80℃未満であってもよい。ハードコート組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができる。
【0074】
[眼鏡]
本発明の更なる態様は、上記の本発明の眼鏡レンズと、この眼鏡レンズを取り付けたフレームとを有する眼鏡を提供することもできる。眼鏡レンズについては、先に詳述した通りである。その他の眼鏡の構成については、特に制限はなく、公知技術を適用することができる。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
偏光レンズの作製
(1)配列層の形成
レンズ基材として、メニスカス形状のポリチオウレタンレンズ(HOYA(株)製 商品名EYAS、中心肉厚2.0mm厚、直径75mm、凸面の表面カーブ(平均値)約+0.8)を用いて、下記(6)に記載の方法でハードコート組成物を調製し、上記レンズ基材の凸面上にスピンコート法にて塗布した後、加熱温度90℃で120分間加熱し硬化処理することで、厚さ2μmのハードコート層を形成した。
上記ハードコート層上に、真空蒸着法により、厚さ約0.2μmのSiO
2膜を形成した。
形成されたSiO
2膜に、研磨剤含有ウレタンフォーム(研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製商品名POLIPLA203A、平均粒径0.8μmのAl
2O
3粒子、ウレタンフォーム:上記レンズ凸面の曲率とほぼ同形状)を用いて、一軸研磨加工処理を回転数350rpm、研磨圧50g/cm
2の条件で30秒間施した。研磨処理を施したレンズは純水により洗浄、乾燥させた。こうしてハードコート層付レンズ基材の凸面に、配列層を形成した。
【0077】
(2)偏光層の形成
(2−1)偏光層形成用水系塗布液の塗布
上記乾燥後、研磨処理面上に、水溶性の二色性色素(スターリング オプティクスインク(Sterling Optics Inc)社製商品名Varilight solution 2S)の約5質量%水溶液(偏光層形成用水系塗布液)2〜3gを、スピンコート法により塗布した。スピンコート法による塗布は、偏光層形成用水系塗布液を回転数300rpmで供給し、8秒間保持、次に回転数400rpmで45秒間保持、さらに1000rpmで12秒間保持することで行った。
(2−2)固定化処理
次いで、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き上げ、純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される(非水溶化処理)。
(2−3)シランカップリング剤処理
上記(2)の後、レンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬し、その後純水で3回洗浄し、加熱炉内(炉内温度85℃)で30分間加熱処理した後、加熱炉内から取り出し室温まで冷却した。
上記冷却後、レンズをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した後、加熱炉内(炉内温度60℃)で30分間加熱処理した。加熱処理後、レンズを加熱炉内から取り出し室温まで冷却した。
以上のシランカップリング剤処理後、形成された偏光層の厚さは、約1μmであった。
【0078】
(3)水系ポリウレタン樹脂層(中間層)の形成
上記(2)で得られた偏光層表面に、水系樹脂組成物としてポリウレタン骨格にアクリル基を導入したポリウレタンの水分散液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100mPa・s、固形分濃度38質量%)をスピンコート法により塗布した後、温度25℃相対湿度50%の雰囲気下で15分間風乾処理し、厚さ約7μmの水系ポリウレタン樹脂層を形成した。
【0079】
(4)フォトクロミック層形成用硬化性組成物の調製
プラスチック製容器内で、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、ピペリジン環含有化合物(ヒンダードアミン(三共製サノールLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)、平均分子量467))を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−1870(BASF社製)0.6質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM503)を攪拌しながら6質量部滴下した。その後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック層形成用硬化性組成物を得た。
【0080】
【化2】
【0081】
(5)フォトクロミック層の形成
上記(3)で形成した水系ポリウレタン樹脂層上に、(4)で調製したフォトクロミック層形成用硬化性組成物をスピンコート法で塗布した。その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、UVランプ(Dバルブ)で波長405nmの紫外線を積算光量で3240mJ/cm
2(180mW/cm
2)3分間照射し、更に、加熱温度80℃で150分間硬化処理を行い、厚さ約40μmのフォトクロミック層を形成した。
【0082】
(6)ハードコート組成物の調製
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、および、水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え十分に混合し、液温5℃で24時間攪拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコ−ン系界面活性剤0.05質量部、および、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ−トを1.5質量部加え、十分に撹拌した後、濾過を行ってハードコート組成物を調製した。
【0083】
(7)ハードコート層の形成
上記(5)で形成したフォトクロミック層上に、上記(6)で調製したハードコート組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)で塗布を行い、加熱温度90℃で120分間加熱し硬化処理することで、厚さ3μmのハードコート層を形成した。
【0084】
以上の工程により、レンズ基材上に、ハードコート層、配列層、偏光層(シランカップリング剤処理済)、水系ポリウレタン樹脂層、フォトクロミック層、およびハードコート層をこの順に有する眼鏡レンズを得た。
【0085】
[実施例2]
フォトクロミック層形成用硬化性組成物の成分からヒンダードアミンを除いた点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0086】
[比較例1]
水系ポリウレタン樹脂の形成を行わずに偏光層上に直接フォトクロミック層を形成した点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0087】
[比較例2]
水系ポリウレタン樹脂の形成を行わずに偏光層上に直接フォトクロミック層を形成した点以外、実施例2と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0088】
評価方法
(1)初期密着性の評価
上記方法により作製した直後の眼鏡レンズについて、以下の方法で密着性を評価した。
<密着性評価方法>
実施例、比較例の各眼鏡レンズの凸面側を1.5mm間隔で100目クロスカットし、このクロスカットしたところに粘着テープ(ニチバン株式会社製セロファンテープ)を強く貼り付けた後、粘着テープを急速に剥がした後の100目中の剥離マス目数を調べた。判断基準は以下の通りである。
(評価基準)
○ 剥離マス目数0〜2/100
△ 剥離マス目数3〜5/100
× 剥離マス目数6以上/100
(2)耐温水性試験後の密着性
実施例、比較例の各眼鏡レンズについて、50℃の温水に24時間浸漬した後に風乾させた眼鏡レンズの密着性を上記方法で評価した。
(3)耐湿性試験後の密着性
実施例、比較例の各眼鏡レンズについて、温度40℃かつ相対湿度90%の環境下で168時間保管した後の眼鏡レンズの密着性を上記方法で評価した。
(4)曇りの有無の評価
実施例、比較例の各眼鏡レンズについて、温度50℃の環境下で72時間保管した後の眼鏡レンズの曇りの有無を、以下の方法で評価した。
株式会社村上色彩技術研究所製ヘイズメーターMH−150にて、眼鏡レンズのヘイズ値を測定した。ヘイズ値が0.3%以下の場合、目視では曇りは確認されないため、眼鏡レンズとして適用可能な光学特性を有すると判断することができる。そこで以下の評価基準により、曇りの有無を評価した。
(評価基準)
○ ヘイズ値0.3以下
× ヘイズ値0.3超
【0089】
以上の結果を、表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示す結果から、以下の点が確認された。
(1)実施例1、2と比較例1、2との対比から、偏光層とフォトクロミック層との間に中間層を設けることにより、偏光層とフォトクロミック層との間で剥離が生じることを防ぐことができ、密着性を高めることができることが確認された。
(2)比較例1の眼鏡レンズを断面顕微鏡観察したところ、配列層において曇り(白化)が生じていることが確認された。これに対し、比較例2では曇りが生じていないことから、比較例1と比較例2との違いであるピペリジン環化合物の有無が、曇りの発生有無に影響していると考えられる。ピペリジン環化合物がフォトクロミック層から染み出し配列層に達した結果、配列層に含まれるケイ素酸化物(SiO
2)が変質したことが、比較例1において曇りが発生した理由と推察される。フォトクロミック層にピペリジン環含有化合物を含み、かつフォトクロミック層と偏光層との間に中間層を設けた実施例1では曇りが発生しなかったことから、中間層がピペリジン環化合物が配列層に達することを抑制することに寄与したと考えられる。