特許第6581796号(P6581796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581796
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】液晶パネルおよび液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13363 20060101AFI20190912BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   G02F1/13363
   G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-73262(P2015-73262)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191900(P2016-191900A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
【審査官】 鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−160979(JP,A)
【文献】 特開2005−208356(JP,A)
【文献】 特開2008−191407(JP,A)
【文献】 特開2007−206605(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0192297(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13363
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層を備える液晶セルと;前記液晶セルの第一の主面側に配置された第一の偏光子と;前記液晶セルの第二の主面側に配置された第二の偏光子と;前記液晶セルと前記第一の偏光子との間に配置された第一の光学異方性素子と;前記第一の光学異方性素子と前記液晶セルとの間に配置された第二の光学異方性素子と、を備え、
前記液晶セルは、無電界状態における液晶分子のプレチルト角が0.5°以下であり、
前記第一の偏光子の吸収軸方向と前記第二の偏光子の吸収軸方向とが直交しており、
面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、
前記第一の光学異方性素子は、nx>nzであり、かつnx≧ny≧nzを満たす正の屈折率異方性を有する光学異方性素子であり
前記第二の光学異方性素子は、nz>nyであり、かつnz≧nx≧nyを満たす負の屈折率異方性を有する光学異方性素子であり
前記第一の光学異方性素子および前記第二の光学異方性素子の少なくとも一方は、波長550nmにおけるレターデーションR550と波長450nmにおけるレターデーションR450との比R450/R550が1.1以上である、液晶パネル。
【請求項2】
前記第一の光学異方性素子のR450/R550と前記第二の光学異方性素子のR450/R550との差が0.1以下である、請求項1に記載の液晶パネル。
【請求項3】
前記第一の光学異方性素子および前記第二の光学異方性素子の両方のR450/R550が1.1以上である、請求項1または2に記載の液晶パネル。
【請求項4】
前記第一の光学異方性素子がnx>ny≧nzの屈折率異方性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶パネル。
【請求項5】
前記第一の光学異方性素子がnx=ny>nzの屈折率異方性を有し、前記第二の光学異方性素子がnz≧nx>nyの屈折率異方性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶パネル。
【請求項6】
前記液晶セルの無電界状態における液晶分子の配向方向と、前記第一の偏光子の吸収軸方向とが直交する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶パネル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶パネルと、前記液晶パネルの第一の主面側または第二の主面側のいずれかに配置された光源と、を備える、液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セルと偏光子との間に光学異方性素子とを備える液晶パネルに関する。また、本発明は、上記液晶パネルを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルは、一対の偏光子の間に、液晶セルを備える。インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶セルは、無電界状態において液晶分子が基板面と略平行な方向にホモジニアス配向しており、横方向の電界印加により液晶分子を基板面に平行な面内で回転させ、光の透過(白表示)と遮蔽(黒表示)を制御している。IPS方式のように、無電界状態で液晶分子がホモジニアス配向した横電界方式の液晶パネルは、視野角特性に優れている。
【0003】
しかしながら、IPS方式の液晶パネルは、偏光子の吸収軸に対して45度の角度(方位角45度、135度、225度、315度)において斜め方向から視認した場合に、黒表示の光漏れが大きく、コントラストの低下やカラーシフトが生じ易いとの問題がある。そこで、斜め方向から視認時のコントラスト向上やカラーシフト低減を目的として、液晶セルと偏光子との間に光学異方性素子(位相差板)を配置する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、正の屈折率異方性を有する光学異方性素子と負の屈折率異方性を有する光学異方性素子を用いて、IPS方式液晶パネルの斜め方向の黒輝度やカラーシフトを低減する方法について、方位角45°、極角(パネル面の法線方向に対する角度)60°の場合を例として、ポアンカレ球を用いた説明がなされている。
【0005】
特許文献2では、nx>ny=nzの屈折率異方性(正の屈折率異方性)を有するポジティブAプレートと、nz>nx=nyの屈折率異方性(負の屈折率異方性)を有するポジティブCプレートを用いて、IPS方式液晶パネルの黒表示における斜め方向のカラーシフトを低減できることが開示されている。特許文献3では、長波長ほど大きなレターデーションを有する(いわゆる逆波長分散の)液晶材料を用いた正の屈折率異方性を有する光学素子と、熱可塑性樹脂材料を用いた負の屈折率異方性を有する光学素子との積層位相差板により、IPS方式液晶パネルの光学補償を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−208356号公報
【特許文献2】特開2007−206605号公報
【特許文献3】WO2013/146633号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IPS等の横電界方式の液晶パネルにおいて、視認方向による色変化が生じる原因の1つに、液晶のプレチルトの影響が挙げられる。例えば、ラビングした配向膜を用いて液晶分子を配向させた場合、液晶分子は1〜2°程度のプレチルト角を有している。そのため、液晶セルを透過する光の方向(方位角)が異なると、液晶分子の見掛け上のレターデーションが変化し、方位角による色変化を生じる原因となっている。
【0008】
近年、光配向技術を利用することにより、液晶分子のプレチルト角がほぼ0°(低チルト角)の横電界方式液晶セルが開発され、量産化が開始されている。低チルト角の液晶セルを用いることにより、方位角の変化に伴う色相変化の低減が可能となった。一方、方位角による色相変化が小さく、全方位での色の均一性が高められたことに伴って、パネル全体としてのわずかな色相の違いがより顕著に認識されるようになっている。
【0009】
一般に、液晶パネルの光学補償は、比視感度の高い波長550nm付近(緑色)の光に対して最適化されている。そのため、黒表示時には、最適値からの光学設計のズレが大きい波長の光が漏れて、画面が着色して視認される。光学設計上、すべての視認方向における色相を完全なニュートラルとすることは困難であるため、黒表示時には、光漏れを生じた光の波長に応じて画面がわずかに着色して視認される。青(波長450nm付近)は赤(波長650nm付近)よりも比視感度低いため、黒表示時の色相は青系が好まれる傾向がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記特許文献2や特許文献3に記載の光学異方性素子の組み合わせを、低チルト角の横電界方式液晶パネルの光学補償に用いた場合、視認方向によっては、黒表示の画面が紫〜赤系の色相で視認されることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記に鑑みて、低チルト角の横電界方式液晶セルの黒表示時の色相について検討の結果、光学異方性素子のレターデーションの波長分散を所定範囲に調整することにより、視認方向の変化に伴うカラーシフトが小さく、かつ黒表示時に青系の色相を呈する液晶パネルが得られることが見出された。
【0011】
本発明の液晶パネルは、無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層を備える液晶セルと、液晶セルの第一の主面側に配置された第一の偏光子と、液晶セルの第二の主面側に配置された第二の偏光子と、液晶セルと第一の偏光子との間に配置された第一の光学異方性素子と、第一の光学異方性素子と液晶セルとの間に配置された第二の光学異方性素子と、を備える。第一の偏光子の吸収軸方向と前記第二の偏光子の吸収軸方向とは直交している。液晶セルは、無電界状態における液晶分子のプレチルト角が0.5°以下である。
【0012】
第一の光学異方性素子は正の屈折率異方性を有し、第二の光学異方性素子は負の屈折率異方性を有する。第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の少なくとも一方は、波長550nmにおけるレターデーションR550と波長450nmにおけるレターデーションR450との比R450/R550が1.1以上である。
【0013】
本発明の液晶パネルは、液晶セルの無電界状態における液晶分子の配向方向(初期配向方向)と、第一の偏光子の吸収軸方向とが直交することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、上記の液晶パネルの第一の主面側(第一の偏光子側)または第二の主面側(第二の偏光子側)のいずれかに、光源を備える液晶表示装置に関する。第一の主面側に光源を備える場合、液晶表示装置はEモードである。第二の主面側に光源を備える場合、液晶表示装置はOモードである。本発明の液晶パネルは、Eモード、Oモードのいずれの液晶表示装置にも適用可能である。第二の主面側に光源が配置されたOモードの液晶表示装置は、よりコントラストが高く視認性に優れる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶パネルは、視認方向の変化に伴うカラーシフトが小さく、黒表示時の色相が統一されており、色変化が小さいことから、視認性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による液晶表示装置の模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態による液晶パネルの構成概念図である。
図3】本発明の一実施形態による液晶パネルの構成概念図である。
図4】本発明の一実施形態による液晶パネルの構成概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[液晶パネル全体の概略]
図1は、本発明の一実施形態の液晶パネル100を含む液晶表示装置の模式断面図である。液晶パネル100は、第一の主面および第二の主面を有する液晶セル10を備える。液晶セル10の第一の主面側に第一の偏光子30が配置され、第二の主面側に第二の偏光子40が配置される。液晶セル10と第一の偏光子30との間には、第一の偏光子30側から、第一の光学異方性素子60および第二の光学異方性素子70が配置されている。すなわち、本発明の液晶パネルは、第一の主面側から、第一の偏光子30、第一の光学異方性素子60、第二の光学異方性素子70、液晶セル10、および第二の偏光子40を、この順に備える。
【0018】
[液晶セル]
液晶セル10は、一対の基板間に液晶層を備える。一般的な構成では、一方の基板にカラーフィルター及びブラックマトリクスが設けられており、他方の基板に液晶の電気光学特性を制御するスイッチング素子等が設けられている。
【0019】
液晶層は、無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む。無電界状態における液晶分子の配向方向11を、「初期配向方向」と称する。ホモジニアス配向した液晶分子とは、液晶分子の配向ベクトルが基板平面に対して、平行かつ一様に配向した状態のものをいう。なお、液晶分子の配向ベクトルは基板平面に対してわずかに傾いており、プレチルトを有している。本発明の液晶パネルに用いられる液晶セル10は、プレチルト角が0.5°以下の低チルトセルである。液晶セル10のプレチルト角は0.3°以下が好ましい。液晶セルのプレチルト角が小さいことにより、斜め方向から視認した場合でもコントラストが高く、かつ視認方位角の変化に伴う色相変化の小さい液晶パネルが得られる。
【0020】
無電解状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶セルとしては、インプレーンスイッチング(IPS)モード、フリンジフィールドスイッチング(FFS)モード、強誘電性液晶(FLC)モード等が挙げられる。液晶分子としては、ネマチック液晶やスメクチック液晶等が用いられる。一般には、IPSモード、およびFFSモードの液晶セルには、ネマチック液晶が用いられ、FLCモードの液晶セルにはスメクチック液晶が用いられる。
【0021】
[偏光子]
液晶セル10の第一の主面側には第一の偏光子30が配置され、第二の主面側には第二の偏光子40が配置される。偏光子は、自然光や任意の偏光を直線偏光に変換するものである。本発明の液晶パネルにおいて、第一の偏光子30および第二の偏光子40としては、目的に応じて任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、米国特許5,523,863号等に開示されている二色性物質と液晶性化合物とを含む液晶性組成物を一定方向に配向させたゲスト・ホストタイプの偏光子や、米国特許6,049,428号等に開示されているリオトロピック液晶を一定方向に配向させたE型偏光子等も用いることができる。
【0022】
これらの偏光子の中でも、高い偏光度を有するという観点から、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素染色および延伸を施すことにより、PVA系偏光子が得られる。
【0023】
PVA系偏光子として、厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることもできる。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51−069644号公報、特開2000−338329号公報、WO2010/100917号パンフレット、特許第4691205号明細書、特許第4751481号明細書等に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。このような薄型偏光子は、例えば、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸する工程と、ヨウ素染色する工程とを含む製法により得られる。
【0024】
本発明の液晶パネルにおいて、第一の偏光子30と第二の偏光子40は、両者の吸収軸方向35,45が直交するように配置される。また、第一の偏光子30の吸収軸方向35と液晶セル10の初期配向方向11は、平行または直交となるように配置される。好ましくは、図2〜4に示すように、第一の偏光子30の吸収軸方向35と液晶セル10の初期配向方向11は直交する。
【0025】
なお、本明細書において、「直交」とは、完全に直交する場合のみならず、実質的に直交することを包含し、その角度は一般に90±2°の範囲であり、好ましくは90±1°、より好ましくは90±0.5の範囲である。同様に、「平行」とは、完全に平行であるもののみならず、実質的に平行であることを包含し、その角度は一般に±2°以内であり、好ましくは±1°以内、より好ましくは±0.5°以内である。
【0026】
[第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子]
本発明の液晶パネルは、液晶セル10と第一の偏光子30との間に、第一の偏光子30側から、第一の光学異方性素子60および第二の光学異方性素子70を備える。
【0027】
第一の光学異方性素子60は、正の屈折率異方性を有する。正の屈折率異方性を有する光学異方性素子は、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx>nzであり、かつnx≧ny≧nzを満たす。正の屈折率異方性を有する光学異方性素子の具体例としては、ポジティブAプレート(nx>ny=nz)、ネガティブBプレート(nx>ny>nz)およびネガティブCプレート(nx=ny>nz)が挙げられる。
【0028】
正の屈折率異方性を有する光学素子を構成する材料としては、正の固有複屈折を有するポリマーが好ましく用いられる。正の固有複屈折を有するポリマーは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その配向方向の屈折率が相対的に大きくなるものを指す。正の固有複屈折を有するポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のサルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド等のスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、環状ポリオレフィン系(ポリノルボルネン系)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロースエステル類等が挙げられる。また、正の固有複屈折を有する材料として液晶材料を用いてもよい。
【0029】
第二の光学異方性素子70は、負の屈折率異方性を有する。負の屈折率異方性を有する光学異方性素子は、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nz>nyであり、かつnz≧nx≧nyを満たす。負の屈折率異方性を有する光学異方性素子の具体例としては、ネガティブAプレート(nz=nx>ny)、ポジティブBプレート(nz>nx>ny)およびポジティブCプレート(nz>nx>ny)が挙げられる。
【0030】
負の屈折率異方性を有する光学素子を構成する材料としては、負の固有複屈折を有するポリマーが好ましく用いられる。負の固有複屈折を有するポリマーは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その配向方向の屈折率が相対的に小さくなるものを指す。負の固有複屈折を有するポリマーとしては、例えば、芳香族やカルボニル基などの分極異方性の大きい化学結合や官能基が、ポリマーの側鎖に導入されているものが挙げられ、具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、フマル酸エステル系樹脂等が挙げられる。また、負の固有複屈折を有する材料として液晶材料を用いてもよい。例えば、フィルム面に対して垂直配向させたディスコティック液晶からネガティブAプレートが得られる。また、フィルム上に液晶化合物をホメオトロピック配向させることによりポジティブCプレートが得られる。
【0031】
本明細書において、ポジティブAプレートにおける「ny=nz」との記載、あるいはネガティブAプレートにおける「nz=ny」の記載は、面内の屈折率(nxまたはny)と厚み方向の屈折率nzが必ずしも完全に一致する必要はない。Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz係数が0.97〜1.03の範囲内であれば、nx=nyのポジティブAプレートとみなすことができ、Nz係数が−0.03〜0.03の範囲内であれば、nz=nyのネガティブAプレートとみなすことができる。同様に、ネガティブCプレートおよびポジティブCプレートにおける「nx=ny」との記載は、面内の遅相軸方向の屈折率(nx)と進相軸方向の屈折率(ny)とが必ずしも完全に一致する必要はなく、Nz係数が20以上あるいは−20以下であれば、nx=nyのCプレートとみなすことができる。なお、本明細書において、屈折率やレターデーションの値は、波長550nmにおける値である。
【0032】
光学異方性素子の材料としてポリマー材料が用いられる場合、ポリマーフィルムを延伸し、特定の方向の分子配向性を高めることにより、光学異方性素子(位相差フィルム)を形成できる。ポリマーフィルムの延伸方法としては、縦一軸延伸法、横一軸延伸法、縦横逐次二軸延伸法、縦横同時二軸延伸法等が挙げられる。延伸手段としては、ロール延伸機、テンター延伸機やパンタグラフ式あるいはリニアモーター式の二軸延伸機等、任意の適切な延伸機を用いることができる。
【0033】
光学異方性素子の材料として液晶材料が用いられる場合、液晶材料(液晶モノマーおよび/または液晶ポリマー)を基材上に塗布し、必要に応じて、液晶モノマーの重合、液晶材料の配向処理、溶媒除去(乾燥)等を行い、液晶層を形成することにより、光学異方性素子が得られる。液晶モノマーとしては、ネマチック性やスメクチック性等の配向性を示し、末端に、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等の不飽和二重結合やエポキシ基等の重合性官能基を少なくとも1つ有する液晶性化合物が用いられる。液晶モノマーを含有する液晶材料は、液晶モノマーに加えて、重合開始剤を含有してもよい。重合性液晶モノマーの重合方法としては、たとえば、熱重合や紫外線重合等が挙げられ、重合方法に応じて適宜の重合開始剤が用いられる。液晶ポリマーとしては、ネマチック性やスメクチック性等の液晶配向を示す、主鎖型液晶ポリマーもしくは側鎖型液晶ポリマー、またはこれらの複合型の液晶性化合物が用いられる。液晶ポリマーの分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が2000〜100000程度のものが好ましい。
【0034】
基材上に液晶層が形成されたものは、そのまま光学異方性素子として用いてもよい。例えば、正の屈折率異方性を有する第一の光学異方性素子上に、第二の光学異方性素子としてディスコティック液晶等の負の屈折率異方性を有する液晶層を形成することにより、第一の光学異方性素子と第二の光学異方性素子とが一体積層された積層光学異方性素子が得られる。また、基材上に形成された液晶層(光学異方性素子)を、他の光学異方性素子上に転写することにより、積層光学異方性素子を得ることもできる。
【0035】
第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の厚みd,dは、光学異方性素子を構成する材料等に応じて適宜選択され得る。ポリマー材料が用いられる場合、各光学異方性素子の厚みは、一般に3μm〜200μm程度である。液晶材料が用いられる場合、各光学異方性素子の厚み(液晶層の厚み)は、一般に0.1μm〜20μm程度である。
【0036】
第一の光学異方性素子60および第二の光学異方性素子70は、少なくともいずれか一方のR450/R550が1.1以上である。R450/R550は、波長550nmにおけるレターデーションR550と波長450nmにおけるレターデーションR450の比である(以下、「波長分散」と称する場合がある)。AプレートおよびBプレートでは、波長450nmと波長550nmにおける正面レターデーションの比から、波長分散R450/R550が求められる。Cプレートでは、フィルム面の法線から40°傾いた方向から測定した斜め方向レターデーションから、波長分散R450/R550が求められる。
【0037】
第一の光学異方性素子のR450/R550を1.1以上とする場合、その材料としては、ポリアリレート系樹脂、サルホン系樹脂、スルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド樹脂等が好ましく用いられる。第二の光学異方性素子のR450/R550を1.1以上とする場合、その材料としては、側鎖に芳香族環を有するアクリル系ポリマー等が好ましく用いられる。また、ポリマー材料中に、金属や金属酸化物のナノ粒子を分散させる等の方法により、レターデーションの波長分散を調整することもできる。
【0038】
第一の光学異方性素子および/または第二の光学異方性素子として、レターデーションの波長分散R450/R550が大きいものを用いることにより、低チルトセルを用いた液晶パネルの黒表示時の色相を全方位において青系で統一することができ、カラーシフトが小さくなる。前述のように、液晶パネルの光学補償は、波長550nm付近(緑色)の光に対して最適化されている。波長分散R450/R550の大きい光学異方性素子が用いられた場合、緑色の光は黒表示時の光抜けが生じないように適切に光学補償されるのに対して、短波長側(青色)では、光学異方性素子のレターデーションが、光抜けを生じさせないための最適なレターデーションよりも大きいために、光抜けが生じ、その結果黒表示が青系の色相を帯びる。本発明においては、光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を大きくして、黒表示時の短波長側の光の光抜けを相対的に大きくすることにより、視認する角度(方位角)が変化した場合でも、青系の色相が保持される。
【0039】
第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のいずれか一方のレターデーションの波長分散R450/R550が1.1以上であれば、他方はR450/R550が1.1未満でもよい。第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の両方のR450/R550が1.1以上であれば、カラーシフトがさらに低減される傾向があるため好ましい。
【0040】
第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のR450/R550の上限は特に限定されないが、R450/R550が過度に大きいと、黒表示時の青色の光抜けが大きくなったり、白表示時に画面が着色する傾向がある。そのため、R450/R550は、1.3以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。
【0041】
第一の光学異方性素子のR450/R550と第二の光学異方性素子のR450/R550との差は、0.1以下が好ましく、0.08以下が好ましく、0.06以下がさらに好ましい。両者の波長分散が近接していれば、第一の光学異方性素子と第二の光学異方性素子との積層体を1つの積層光学素子とみなした場合に、当該積層光学素子のレターデーションの波長分散の視認方向による変化が小さいために、カラーシフトが小さくなる傾向がある。
【0042】
[第一の光学異方性素子と第二の光学異方性素子の組み合わせ]
第一の光学異方性素子が、nx>ny=nzの屈折率異方性を有するポジティブAプレートである場合、第二の光学異方性素子としては、nz>nx>nyの屈折率異方性を有するポジティブBプレートまたはnz>nx=nyの屈折率異方性を有するポジティブCプレートが好ましく用いられる。中でも、第二の光学異方性素子が、ポジティブCプレートである場合に、斜め方向における全方位角における色相を青系に調整しやすい。
【0043】
第一の光学異方性素子が、nx>ny>nzの屈折率異方性を有するネガティブBプレートである場合、第二の光学異方性素子としては、nz=nx>nyの屈折率異方性を有するネガティブAプレート、nz>nx>nyの屈折率異方性を有するポジティブBプレート、およびnz>nx=nyの屈折率異方性を有するポジティブCプレートのいずれでもよい。中でも、第二の光学異方性素子が、ネガティブAプレートまたはポジティブCプレートであることが好ましく、特に、第二の光学異方性素子がポジティブCプレートである場合に、全方位角における色相を青系に調整しやすい。
【0044】
第一の光学異方性素子が、nx=ny>nzの屈折率異方性を有するネガティブCプレートである場合、第二の光学異方性素子としては、nz=nx>nyの屈折率異方性を有するネガティブAプレート、またはnz>nx>nyの屈折率異方性を有するポジティブBプレートが好ましく用いられる。中でも、第二の光学異方性素子が、ポジティブAプレートである場合に、全方位角における色相を青系に調整しやすい。
【0045】
液晶セル10と第一の偏光子30との間に配置される第一の光学異方性素子60および第二の光学異方性素子70の軸方向は特に限定されないが、光学異方性素子がAプレートまたはBプレートである場合は、遅相軸方向が、液晶セル10の初期配向方向11と平行または直交となるように、各光学異方性素子が配置されることが好ましく、光学異方性素子の遅相軸方向が、液晶セル10の初期配向方向11と平行であることが、各光学異方性素子が配置されることが特に好ましい。
【0046】
図2〜4は、本発明の液晶パネルの好ましい形態における各光学素子の配置を表す構成概念図である。図2〜4における矢印は、光学異方性素子の光学軸方向(図4の矢印363は進相軸方向、その他の矢印は全て遅相軸方向)を表している。
【0047】
第一の光学異方性素子160がポジティブAプレートまたはネガティブBプレートであり、第二の光学異方性素子170ネガティブAプレートまたはポジティブBプレートである場合、図2に示すように、第一の光学異方性素子の遅相軸方向163、および第二の光学異方性素子の遅相軸方向173は、いずれも液晶セル10の初期配向方向11と平行であり、第一の偏光子30の吸収軸方向35と直交することが好ましい。
【0048】
第一の光学異方性素子260がポジティブAプレートまたはネガティブBプレートであり、第二の光学異方性素子270がポジティブCプレートである場合、図3に示すように、第一の光学異方性素子の遅相軸方向263は、液晶セル10の初期配向方向11と平行であり、第一の偏光子30の吸収軸方向35と直交することが好ましい。
【0049】
第一の光学異方性素子360がネガティブCプレートであり、第二の光学異方性素子370がネガティブAプレートまたはポジティブBプレートである場合、図4に示すように、第二の光学異方性素子の遅相軸方向373は、液晶セル10の初期配向方向11と平行であり、第一の偏光子30の吸収軸方向35と直交することが好ましい。
【0050】
第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションは特に制限されず、黒表示時に、斜め方向から視認した場合の波長550nmの光の光抜けを小さくできるように、正面レターデーションReおよび厚み方向レターデーションRthを調整すればよい。上述のように、本発明においては、光学異方性素子のレターデーションR450/R550が大きいために、黒表示時に短波長の青色の光が光抜けを生じるが、比視感度の高い緑色の光の光抜けが抑制されていれば、コントラストを高く保つことができる。
【0051】
図2〜4に示すように、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の遅相軸方向が液晶セルの初期配向方向と平行である場合、第一の光学異方性素子の正面レターデーションReと第二の光学異方性素子の正面レターデーションReの和Re+Reは、90〜120nmが好ましく、100〜170nmがより好ましい。第一の光学異方性素子の厚み方向レターデーションRthと第二の光学異方性素子の厚み方向レターデーションRthの和Rth+Rthは、30〜100nmが好ましく、40〜80nmがより好ましい。(Rth+Rth)/(Re+Re)は0.2〜0.8が好ましく、0.3〜0.7がより好ましい。
【0052】
液晶セル10と偏光子30との間に配置される、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の光学異方性を上記範囲とすることにより、斜め方向、特に、偏光子の吸収軸に対して45度の角度(方位角45度、135度、225度、315度)における黒輝度を低減し、コントラストを高めることができる。
【0053】
なお、正面レターデーションReおよびRe、ならびに厚み方向レターデーションRthおよびRthは、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子それぞれの、面内の遅相軸方向の屈折率をnxおよびnx;面内の進相軸方向の屈折率をnyおよびny;厚み方向の屈折率をnzおよびnz;厚みをd、およびdとした場合に、以下で定義される。
Re=(nx−ny)×d
Rth=(nx−nz)×d
Re=(nx−ny)×d
Rth=(nx−nz)×d
【0054】
[各光学部材の配置]
本発明の液晶パネルは、液晶セル10の第一の主面側に、第二の光学異方性素子70、第一の光学異方性素子60および第一の偏光子30を配置し、液晶セル10の第二の主面側に第二の偏光子40を配置することにより作製できる。
【0055】
第一の偏光子30と第一の光学異方性素子60との間や、第二の偏光子40と液晶セル10との間には、偏光子保護フィルムとして光学等方性フィルムを設けることもできる。偏光子の表面に偏光子保護フィルムを設けることにより、偏光子の耐久性を高めることができる。偏光子保護フィルムとして用いられる光学等方性フィルムは、法線方向及び斜め方向のいずれの方向を透過する光に対しても、その偏光状態を実質的に変換しないものを指す。具体的には、光学等方性フィルムは、正面レターデーションReが10nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthが20nm以下であることが好ましい。光学等方性フィルムの正面レターデーションは5nm以下がより好ましい。光学等方性フィルムの厚み方向レターデーションは10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。
【0056】
本発明の液晶パネルは、上記以外の光学層やその他の部材を含むこともできる。例えば、第一の偏光子30および第二の偏光子40の外面(液晶セル10と対向しない面)には、偏光子保護フィルムが設けられることが好ましい。偏光子の外面に設けられる偏光子保護フィルムは、光学等方性でもよく、光学異方性を有するものでもよい。一方、第一の偏光子30の液晶セル10側の面、および第二の偏光子40の液晶セル10側に設けられる偏光子保護フィルムは、上記のように光学等方性であることが求められる。また、本発明の液晶パネルは、第一の偏光子30と液晶セル10との間には、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子以外に光学異方性素子を含まないことが好ましく、第二の偏光子40と液晶セル10との間には、光学異方性素子を含まないことが好ましい。
【0057】
液晶セルと上記の各光学部材を積層することにより液晶パネルが形成される。その形成過程においては、液晶セル上に各部材順次別個に積層してもよく、予めいくつかの部材を積層したものを用いることもできる。これらの光学部材の積層順序は特に制限されない。第一の偏光子30、第一の光学異方性素子60、および第二の光学異方性素子70を積層して予め積層偏光板80を形成し、この積層偏光板80を、粘着剤(不図示)を介して、液晶セル10と貼り合わせることが好ましい。なお、前述のように、第一の偏光子30と第一の光学異方性素子60との間には、偏光子保護フィルムとして光学等方性フィルムが含まれていてもよい。
【0058】
各部材の積層には、接着剤や粘着剤が好ましく用いられる。接着剤や粘着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0059】
[液晶表示装置]
上記の液晶パネルの第一の主面側(第一の偏光子30側)または第二の主面側(第二の偏光子40側)のいずれかに光源を配置することにより、液晶表示装置が形成される。第一の主面側に光源が配置される場合、光源側の偏光子(第一の偏光子30)の吸収軸方向35と液晶セル10の初期配向方向11とが直交となるため、液晶表示装置はEモードとなる。図1に示すように、第二の主面側に光源105が配置される場合、光源側の偏光子(第二の偏光子40)の吸収軸方向45と液晶セル10の初期配向方向11とが平行となるため、液晶表示装置はOモードとなる。
【0060】
本発明の液晶パネル100は、EモードおよびOモードのいずれで用いることもできる。Oモードでは、第二の偏光子40を透過した直線偏光が、光学異方性素子の影響を受けることなくそのまま液晶セル10に入射するため、コントラストがより高められる傾向がある。
【0061】
液晶パネルと光源との間には、輝度向上フィルム(不図示)を設けることもできる。輝度向上フィルムは、光源側の偏光子と一体で設けてもよい。例えば、Oモードの液晶表示装置では、光源側の第二偏光子の外面に、接着剤層を介して輝度向上フィルムを貼り合わせたものを用いることができる。また、偏光子と輝度向上フィルムとの間に、偏光子保護フィルムが設けられていてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例と比較例の対比により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
光源側から、偏光子、IPS液晶セル(正面レターデーション:322nm、プレチルト角:0.1°)、第二の光学異方性素子(nx=nz>nyのネガティブAプレート;正面レターデーションRe=120nm)、第一の光学異方性素子(nx=ny>nzのネガティブCプレート;厚み方向レターデーションRth=80nm)、および偏光子をこの順に備えるOモードの液晶表示装置をシミュレーションモデルとして、シミュレーションを実施した。第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素のレターデーションの波長分散は、いずれもR450/R550=1.10とした。各光学異方性素子の配置は図4に示す通りとした。
【0064】
シミュレーションには、シンテック社製、液晶表示器用シミュレーター「LCD MASTER Ver.6.084」を用いた。LCD Masterの拡張機能を使用して、各視認方向(極角θ=0〜80°、方位角φ=0〜360°)における、コントラストおよび黒表示時のXYZ表色系の色度xyを求めた。
【0065】
[比較例1]
液晶セルのプレチルト角を2°に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にシミュレーションを行った。
【0066】
[比較例2]
第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素のレターデーションの波長分散R450/R550を1.02に変更したこと以外は、上記比較例1と同様の条件でシミュレーションを行った。
【0067】
上記実施例1および比較例1,2のコントラス分布図、および極角60°で方位角を変化させた場合のxy色度図(CIE色度図)上の軌跡を表1に示す。なお、表1〜7において、正面レターデーションRe,厚み方向レターデーションRth,および波長分散R450/R550は、上段が第一の光学異方性素子、下段が第二の光学異方性素子の数値である。
【0068】
【表1】
【0069】
液晶セルのプレチルト角が小さく、かつ光学異方性素子のR450/R550が大きい実施例1では、色度図上の軌跡が、無彩色を表す(x,y)=(0.33,0.33)からスペクトル軌跡の波長450nm付近の点に向かう直線上に分布しており、視認方位角に関わらず青系の色相を有していることが分かる。一方、プレチルトが2°の液晶セルを用いた比較例1および比較例2では、色度図上の軌跡で囲まれた領域が広がっており、光学異方性素子の波長分散R450/R550の値に関わらず、色相の統一性が低く、カラーシフトが大きいことが分かる。これらの結果から、液晶セルのプレチルト角が小さい場合に、光学異方性素子のレターデーションの波長分散を所定範囲とすることにより、視認方位角が変化しても色相を青系で統一できることが分かる。
【0070】
[実施例2〜4および比較例3]
実施例1と同様に、プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子の厚み方向レターデーションRthを60nmに変更し、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2の結果から、光学異方性素子の波長550nmにおけるレターデーションの値が同じであれば、波長分散が異なっていても、コントラストには大きな変化がないことが分かる。第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のいずれもレターデーションの波長分散R450/R550=1.02である比較例2では、色度図上の軌跡で囲まれた領域の面積が広くカラーシフトが大きいことが分かる。また、比較例2では、赤色の領域に張り出して軌跡が存在する(すなわち、視認する方向によっては黒表示が赤みを帯びて視認される)ことが分かる。
【0073】
これに対して、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の少なくともいずれか一方のR450/R550が1.10以上である実施例2〜4では、比較例2に比べて色度図上の軌跡で囲まれた領域の面積が小さくカラーシフトが小さいことに加えて、赤色の領域への軌跡の張り出しがなく、視認する方向が変化しても青系の色相が維持されていることが分かる。
【0074】
[実施例5〜7および比較例3]
プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子としてnx=ny>nzのネガティブCプレート、第二の光学異方性素子としてnz>nx>nyのポジティブBプレートを用い、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。各実施例および比較例で用いた光学異方性素子の特性およびシミュレーション結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
[実施例8,9および比較例4,5]
プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子としてnx>ny>nzのネガティブBプレート、第二の光学異方性素子としてnz>nx=nyのポジティブCプレートを用い、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。各実施例および比較例で用いた光学異方性素子の特性およびシミュレーション結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
[実施例10〜12および比較例6]
プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子としてnx>ny>nzのネガティブBプレート、第二の光学異方性素子としてnx=nz>nyのネガティブAプレートを用い、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。各実施例および比較例で用いた光学異方性素子の特性およびシミュレーション結果を表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
[実施例13〜15および比較例7]
プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子としてnx>ny=nzのポジティブAプレート、第二の光学異方性素子としてnz>nx=nyのポジティブCプレートを用い、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。各実施例および比較例で用いた光学異方性素子の特性およびシミュレーション結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
[実施例16〜18および比較例8]
プレチルト角0°の液晶セルを用い、第一の光学異方性素子としてnx>ny=nzのポジティブAプレート、第二の光学異方性素子としてnz>nx>nyのポジティブBプレートを用い、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を変更してシミュレーションを実施した。各実施例および比較例で用いた光学異方性素子の特性およびシミュレーション結果を表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
以上の結果から、液晶セルのプレチルト角が小さい場合は、第一の光学異方性素子および第二の光学異方性素子の組み合わせとして、ネガティブCプレートとネガティブAプレートの組み合わせ(表2)、ネガティブCプレートとポジティブBプレートの組み合わせ(表3)、ネガティブBプレートとポジティブCプレートの組み合わせ(表4)、ネガティブBプレートとネガティブAプレートの組み合わせ(表5)、ポジティブAプレートとポジティブCプレートの組み合わせ(表6)、およびポジティブAプレートとポジティブBプレートの組み合わせ(表7)のいずれを用いた場合も、少なくとも一方の光学異方性素子のレターデーションの波長分散R450/R550を1.10以上とすることにより、カラーシフトが小さく、かつ視認方向が変化しても青系の色相が維持された液晶パネルが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0085】
100 液晶パネル
10 液晶セル
11 初期配向方向
30,40 偏光子
35,45 吸収軸
60,70 光学異方性素子(位相差板)
80 積層偏光板
105 光源
101,201,203 液晶パネル
160,170,260,270,360,370, 光学異方性素子(位相差板)
163,173,263,272,373, 遅相軸
363 進相軸
図1
図2
図3
図4