(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の全体構成]
本発明の実施形態たる環縫いミシンとしての縁かがり縫いミシンに搭載したルーパ糸通し装置100を
図1乃至
図12に基づいて説明する。
図1はルーパ糸通し装置100の斜視図である。なお、
図1においてZ軸方向は鉛直上下方向を示し、X軸方向は水平であって布送りが行われる方向を示し、Y軸方向は水平であってX軸方向に直交する方向を示す。また、Y軸方向であってミシンの立胴部側を後方、面部側を前方という場合がある。
【0013】
縁かがり縫いミシンは、針板の下側に設けられ、縫い針を備えた針棒の上下動と同期して往復動作を行う下ルーパ1と上ルーパ2とを備えている。
下ルーパ1は、後方に向けられた尖鋭な先端部に下ルーパ糸を繰り出す糸繰り出し穴を有し、先端部を前後に往復移動させることにより縫い針から上糸のループを捕捉する。
上ルーパ2は、前方斜め上に向けられた尖鋭な先端部に上ルーパ糸を繰り出す糸繰り出し穴を有し、先端部を前斜め上と後斜め下とに往復移動させることにより下ルーパ1から下ルーパ糸のループを捕捉する。また、この上ルーパ2は前斜め上に移動したときにその先端部が被縫製物である布地の縁からその上側まで到達し、その際に、上ルーパ2に形成された上ルーパ糸のループに縫い針が突入し捕捉される。
つまり、縁かがり縫いミシンは、縫い針と下ルーパ1と上ルーパ2との協働により縁かがり縫いを行っている。
【0014】
[ルーパ糸通し装置]
ルーパ糸通し装置100は、下ルーパ1の先端の糸繰り出し穴までルーパ糸を案内する第一のルーパ側糸案内経路10と、上ルーパ2の先端の糸繰り出し穴までルーパ糸を案内する第二のルーパ側糸案内経路20と、下ルーパ糸を挿入する糸導入口311を有する第一の装置側糸案内経路30と、上ルーパ糸を挿入する糸導入口411を有する第二の装置側糸案内経路40と、正圧のエアーを第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の途中に送り込む正圧エアー供給部50と、第一のルーパ側糸案内経路10と第一の装置側糸案内経路30とを接続し、第二のルーパ側糸案内経路20と第二の装置側糸案内経路40を接続する接続部60とを備えている。
【0015】
[第一のルーパ側糸案内経路]
図2は第一と第二のルーパ側糸案内経路10,20と第一と第二の装置側糸案内経路30,40との非接続状態における拡大斜視図、
図3は接続状態における拡大斜視図である。
図1〜
図3に示すように、第一のルーパ側糸案内経路10は、下ルーパ1のX軸方向における片面側に形成された溝に埋め込まれるようにして装備され、一部が湾曲したパイプ状の案内管11と、案内管11に連通した真っ直ぐな円筒状の接続管12とを備えている。
案内管11の一端部は下ルーパ1の先端部の糸繰り出し口につながっており、他端部は接続管12の前端部につながっている。そして、案内管11と接続管12は、いずれも全長に渡ってその中心を貫通する糸通し穴が形成され、互いの糸通し穴は連通している。
【0016】
接続管12は、下ルーパ1の基端部近傍に固定支持され、その後端部が第一の装置側糸案内経路30に接続可能である。
なお、第一のルーパ側糸案内経路10は縫製中には下ルーパ1と共に往復動作を行うが、下ルーパ糸を通すために第一の装置側糸案内経路30と接続する際には、下ルーパ1が所定の停止位置にあり、接続管12はY軸方向に沿った状態が維持される。
【0017】
図4は接続管12の斜視図、
図5は側面図、
図6は接続管12に後述する第一の装置側糸案内経路30の接続管33が挿入された状態の側面図である。
接続管12は、
図4及び
図5に示すように、前端部の外径が後端部の外径よりも小さく、当該小径の前端部の外周が下ルーパ1に支持されている。
さらに、接続管12の後端部は広く開口し、前方に向かうにつれて徐々に縮径している。つまり、接続管12の後端部には、すり鉢状の円錐面121が形成されており、後方から挿入された第一の装置側糸案内経路30の接続管33を接続管12の中心に導くことができる。
【0018】
さらに、接続管12の後端部には、当該接続管12の直径方向に沿ってスリット状の逃がし口122が形成されている。この逃がし口122は、
図5に示すように、接続管12の後端面から第一の装置側糸案内経路30の接続管33が挿入される方向に向かって凹状となるように形成されている。そして、逃がし口122は、
図6に示すように、接続管12に挿入された第一の装置側糸案内経路30の接続管33の前端部よりも逃がし口122の底面が幾分前方となるようにその深さが設定されており、接続管12と第一の装置側糸案内経路30の接続管33との間で下ルーパ糸を圧送する正圧エアーの一部を外部に排出する隙間Sが形成されている。
かかる逃がし口122の作用効果については後述する。
【0019】
[第二のルーパ側糸案内経路]
第二のルーパ側糸案内経路20は、上述した第一のルーパ側糸案内経路10と構成及び構造が近似しており、第一のルーパ側糸案内経路10と構造が同一となる部分については説明を省略する場合がある。
図1〜
図3に示すように、第二のルーパ側糸案内経路20は、上ルーパ2のX軸方向における片面側に形成された溝に埋め込まれるようにして装備され、一部が湾曲したパイプ状の案内管21と、案内管21に連通した真っ直ぐな円筒状の接続管22とを備えている。
案内管21の一端部は上ルーパ2の先端部の糸繰り出し口につながっており、他端部は接続管22の前端部につながっている。そして、案内管21と接続管22は、いずれも全長に渡ってその中心を貫通する糸通し穴が形成され、互いの糸通し穴は連通している。
【0020】
接続管22は、上ルーパ2の基端部近傍に固定支持され、その後端部が第二の装置側糸案内経路40に接続可能である。
また、第二のルーパ側糸案内経路20も縫製中には上ルーパ2と共に往復動作を行うが、上ルーパ糸を通す際に上ルーパ2が所定の停止位置となり、接続管22はY軸方向に沿った状態が維持される。
【0021】
接続管22もまた、前端部の外径が後端部の外径よりも小さく、当該小径の前端部において上ルーパ2に支持されている。また、接続管22の後端部にすり鉢状の円錐面221を備え、スリット状の逃がし口222が形成されている点も、接続管12と同じである。
そして、図示しないが、この逃がし口222もまた、接続管22に挿入された第二の装置側糸案内経路40の接続管43の前端部よりも逃がし口222の底面が幾分前方となるようにその深さが設定されており、上ルーパ糸を圧送する正圧エアーの一部を外部に排出する隙間S(
図6参照)が形成されている。
【0022】
[正圧エアー供給部]
正圧エアー供給部50は、
図1に示すように、縁かがり縫いミシンのフレームのベッド部の上部に固定装備された支持ブロック51と、支持ブロック51に内蔵されたポンプ52及びその駆動源となるモーター53と、支持ブロック51の上部に取り付けられたカバー54とを備えている。
【0023】
上記モーター53はその出力軸がポンプ52の駆動部に接続されている。
ポンプ52は吸気口と排気口とを備え、排気口は支持ブロック51に形成された導通路516に接続されている。そして、ポンプ52の作動により発生する正圧のエアーを導通路516に供給する。
なお、ポンプ52は、縁かがり縫いミシンに内蔵可能な小型のものであれば、その形式は問わない。
【0024】
図7は支持ブロック51における第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の配設箇所をX−Z平面に沿った断面で示した断面図、
図8は支持ブロック51と第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の一部の構成の分解斜視図である。
図7及び
図8に示すように、支持ブロック51は、第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の糸導入口311,411側の一部の構成をそれぞれ保持するための二つの貫通穴511,511が上下に貫通形成されている。
各貫通穴511は、内径が最も大きな大径部512、大径部512よりも幾分内径が小さな等径部513、下方に向かって徐々に縮径した円錐状のテーパ部514、最も内径が小さな小径部515が上から順番に同心で連なっている。
また、支持ブロック51には、ポンプ52から発生する正圧のエアーを各貫通穴511の大径部512の下部へ導く導通路516が形成されている。この導通路516により、ポンプ52からの正圧のエアーを第一及び第二の装置側糸案内経路30,40内に供給することができる。
【0025】
カバー54は長方形の平板であり、支持ブロック51の上面に取り付けられている。このカバー54には、支持ブロック51の二つの貫通穴511,511に対応する位置に上下に貫通した開口部541,541が形成されている。この開口部541,541は、貫通穴511,511の大径部512,512よりも幾分小径であり、第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の糸導入口311,411が上方に露出されるようになっている。
また、カバー54の後端部近傍には糸通し開始ボタン542が設けられている。この糸通し開始ボタン542を押下すると、モーター53が駆動を開始し、ポンプ52が作動して、エアーによる第一及び第二の装置側糸案内経路30,40からの下ルーパ糸及び上ルーパ糸の糸通しが可能な状態となる。
【0026】
[第一及び第二の装置側糸案内経路]
図1,
図7及び
図8に示すように、第一の装置側糸案内経路30は、下ルーパ糸の糸導入口311が形成された導入部材31と、上端部が導入部材31に連結されるパイプ状の案内管32と、案内管32の下端部に対して前後に移動可能に連結されたパイプ状の接続管33と備えている。
また、第二の装置側糸案内経路40は、上ルーパ糸の糸導入口411が形成された導入部材41と、上端部が導入部材41に連結されるパイプ状の案内管42と、案内管42の下端部に対して前後に移動可能に連結されたパイプ状の接続管43と備えている。
【0027】
上記第一の装置側糸案内経路30の導入部材31及び案内管32の上端部は、第二の装置側糸案内経路40導入部材41及び案内管42の上端部と同一構造なので、
図7においては共通化して図示している。
即ち、案内管32,42は、いずれも、一端部が上方を向いた状態でZ軸方向に沿って配設され、中間部が湾曲し、他端部が前方を向いた状態でY軸方向に沿った状態で配設されている。
そして、案内管32,42の一端部の外径は、貫通穴511の小径部515の内径と略一致し、案内管32,42の一端部には、上方に向かって拡径した円錐形状部321,421が形成されている。
この円錐形状部321,421の傾斜角度は、貫通穴511のテーパ部514の傾斜角度と一致しており、貫通穴511に対して上方から挿入された案内管32,42は、円錐形状部321,421の外周面が、貫通穴511のテーパ部514に隙間無く密接する。
【0028】
そして、導入部材31,41は、その下端部が案内管32,42の円錐形状部321,421の内側に挿入された状態で貫通穴511の内部に配置されている。
【0029】
また、導入部材31,41の外周面には半径方向外側に延出された円形のフランジ部312,412が形成されている。このフランジ部312,412は、導入部材31,41を貫通穴511の内部に配置したときに、貫通穴511の大径部512の下端部近傍に位置する。
そして、導入部材31,41のフランジ部312,412の上側には、シール材としてのOリング34,44が配置される。
Oリング34,44は、貫通穴511の大径部512の内周面と導入部材31,41の外周面とに密着し、大径部512の内部空間を気密状態で上下に二分する。
このため、大径部512の下部に連通する導通路516から供給される正圧のエアーは、Oリング34,44の下側のみに供給され、上側への漏れを防止する。
また、Oリング34,44の外径は、前述したカバー54の開口部541の内径よりも大きく、カバー54を支持ブロック51の上面に固定したときに、Oリング34,44及びフランジ部312,412を介して導入部材31,41を上から保持することができる。
【0030】
また、
図9及び
図10に示すように、導入部材31,41の下端部には、下方に向けて縮径した円錐面314,414が形成されている。この円錐面314,414は、前述した案内管32,42の円錐形状部321,421と傾斜角度が一致しており、導入部材31,41の円錐面314,414と円錐形状部321,421の内面とは隙間なく密接させることが可能である。
また、導入部材31,41の円錐面314,414には、上下方向に複数の通気溝313,413が形成されている。
従って、導通路516から貫通穴511の内部に正圧のエアーが供給されると、正圧のエアーは複数の通気溝313,413に通って案内管32,42内へ侵入し、案内管32,42と複数の通気溝313,413との合流地点よりも下側において、下方へ向かう気流を発生させる。
その結果、案内管32,42と複数の通気溝313,413との合流地点より上側に位置する導入部材31,41の糸導入口311,411及び糸通し穴の内部は、ベルヌーイの法則に従って気圧の低下を生じ、糸導入口311,411から下方への吸引力が発生する。
【0031】
案内管32,42は、前述したように、その一端部が支持ブロック51に支持されてZ軸方向に沿った形状であり、その中間部で湾曲して他端部はY軸方向に沿った形状で前方を向いている。
この案内管32,42の他端部は、ミシンのベッド部内に固定装備された本体プレート71に取り付けられた固定ブラケット72により固定支持されている。
【0032】
さらに、案内管32,42の他端部には、真っ直ぐな円筒からなる接続管33,43が取り付けられている。かかる接続管33,43は、その内径が案内管32,42の他端部の外径と略一致し、案内管32,42の他端部を内側に挿入し、当該案内管32,42に対して摺動することができる。
即ち、接続管33,43は、Y軸方向に沿って往復移動することができる。
【0033】
第一及び第二の装置側糸案内経路30,40のそれぞれの接続管33,43は、前述した下ルーパ1と上ルーパ2とが所定の停止位置にあるときの第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の接続管12,22と同心となるように配置されている。
そして、接続管33,43を非接続位置(
図2)から接続位置(
図3)に前進移動させるとその前端部を、第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の接続管12,22の円錐面121,221に挿入することができ、この挿入により相互間を連結することができる。
【0034】
[接続部]
接続部60は、
図1に示すように、接続管33,43を前後移動可能に支持する支持ブラケット61と、接続管33,43を保持すると共に本体プレート71に対して前後にスライド移動可能に支持された可動板62と、可動板62に前進移動を付与する引っ張りバネ63と、可動板62に前後移動を入力する操作レバー64と、非接続位置から接続位置へ移動する際の各ルーパ1,2の位置を規定するストッパピン65とを備えている。
【0035】
支持ブラケット61は板状であり、Y−Z平面に沿った本体プレート71から垂直に立ち上げられたX−Z平面に沿った壁面部に接続管33,43を挿入可能な二つの支持孔を有し、当該支持孔に対して摺動することにより、接続管33,43の前後移動を可能としている。
【0036】
可動板62は、Y軸方向に沿った長尺の平板の前端部を屈曲させて立ち上げた支持壁621を有している。
この支持壁621は、X−Z平面に沿っており、接続管33,43を貫通させて前後方向に摺動可能に支持している。各接続管33,43には締結リング624,624が装備されており、接続位置から非接続位置へ移動する際に、後方に移動する支持壁621が締結リング624,624と係合することにより、接続官33,43を後方へ移動させることができる。また、引っ張りバネ63よりも弱い押圧バネ623,623が、締結リング624,624と当接しており、締結リング623,624を介して接続管33,43を前方に付勢している。つまり、接続管33,43は、可動板62の前後移動に伴って移動を行うことができる。
【0037】
また、引っ張りバネ63はその一端部が可動板62に連結され、他端部が支持ブラケット61に連結されている。これにより、可動板62は、常時、前方に張力を付与されており、可動板62を拘束しない状態では、接続管33,43が第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の接続管12,22に連結された状態となる。
【0038】
操作レバー64は本体プレート71に対してX軸回りに回動可能に支持されており、この操作レバー64には同時回動を行うカム部材641が併設されている。カム部材641は、その回動半径方向外側に突出した突起642が設けられており、カム部材641は、突起642が可動板62の後端部に設けられた凸部622に対して前方から当接するように配置されている。
【0039】
そして、操作レバー64を
図1における時計方向に回動させると、カム部材641の突起642が凸部622を介して可動板62を後方に移動させ、操作レバー64を
図1における反時計方向に回動させると、カム部材641による押圧が解除されて引っ張りバネ63の張力により可動板62が前方に移動する。つまり、操作レバー64の回動操作により、接続管33,43を前後に移動させて、第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の接続管33,43が第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の接続管12,22に対する接続状態と非接続状態とを切り替えることができる。
【0040】
また、ストッパピン65は、X軸方向に沿って移動可能であり、その一端部がカム部材641側に突出するように図示しないバネにより付勢されており、操作レバー64を反時計方向に回動させると、カム部材641の図示しない傾斜面に押圧されて内側に押し込まれるようになっている。
また、各ルーパ1,2の往復動作を付与する駆動軸には糸通し位置決めカラー(図示なし)が固定されており、ストッパピン65の他端部は糸通し位置決めカラーの外周面と係合可能となっている。糸通し位置決めカラーの外周面には凹部が一箇所設けられており、操作レバー64を反時計方向に回動操作することにより、この凹部にストッパピン65が押し込まれると、駆動軸が固定され、各ルーパ1,2を所定の停止位置に停止させることができる。
つまり、操作レバー64を反時計方向に回動させることにより、ストッパピン65を押し込み、上ルーパ2と下ルーパ1を所定の停止位置に固定し、適正な位置にある接続管12,22に対して接続管33,43を接続状態とすることができる。
【0041】
[ルーパ糸通し装置の動作]
図1に示すように、操作レバー64を反時計方向に回動させると、カム部材641がストッパピン65を内側へ押し込み、下ルーパ1及び上ルーパ2を前述した所定の停止位置に固定する。これにより、第一のルーパ側糸案内経路10の接続管12及び第二のルーパ側糸案内経路20の接続管22がY軸方向に沿った状態となると共に、第一の装置側糸案内経路30の接続管33及び第二の装置側糸案内経路40の接続管43に対して接続可能な位置に固定される。
【0042】
そして、操作レバー64の回動により、可動板62は前方に移動し、押圧バネ623,623により付勢された第一の装置側糸案内経路30の接続管33及び第二の装置側糸案内経路40の接続管43が、可動板62の移動に伴い前方に移動する。
これにより、第一及び第二の装置側糸案内経路30,40の接続管33,43は、
図2の非接続状態から
図3の接続状態に移行し、接続管33,43は、それぞれ、第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の接続管12,22の円錐面121,221の内側に挿入され、接続管33と接続管12とが接続され、接続管43と接続管22とが接続される。
【0043】
さらに、開始ボタン542を押下すると、モーター53及びポンプ52が駆動を開始して、
図7に示すように、導通路516を通じて導入部材31,41の下端部の通気溝313,413から案内管32,42内に正圧のエアーが流入する。これにより、導入部材31,41の糸導入口311,411に吸引力が発生する。
【0044】
そして、第一の装置側糸案内経路30及び第一のルーパ側糸案内経路10を通じて下ルーパ1の糸繰り出し穴まで正圧のエアーが供給され、第二の装置側糸案内経路40及び第二のルーパ側糸案内経路20を通じて上ルーパ2の糸繰り出し穴まで正圧のエアーが供給された状態となる。
この時、各ルーパ1,2の糸繰り出し口は小さいことや、各ルーパ側糸案内経路10,20の案内管11,21は各ルーパ1,2に沿って設けることから糸捕捉の妨げとならないように、より細径の管が使用されること等の理由により、各ルーパ側糸案内経路10,20は各装置側糸案内経路30,40よりも流動抵抗が大きくなる。
従って、その境界となる、接続管33と接続管12の接続部と接続管43と接続管22の接続部とでは、それぞれ、エアーが円滑に流入し難くなるおそれがある。
【0045】
仮に、
図12に示すように、接続管33,43と接続管12,22の接続部に逃がし口が形成されていない場合には、過剰なエアーの逃げ道がなく、これによって第一の装置側糸案内経路30,40の内部圧力が高くなり、導入部材31,41の糸導入口311,411から外側へ向かってエアーが逆流するおそれがある。
しかしながら、
図11に示すように、接続管12,22の後端部には逃がし口122,222が形成されているので、過剰なエアーは逃がし口122,222から第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の外部に排出される。
【0046】
従って、導入部材31,41の糸導入口311,411では吸引力が良好に維持され、糸導入口311から下ルーパ糸を挿入すると、下ルーパ1の糸繰り出し穴まで円滑に送られて下ルーパ糸の糸通しを行うことができる。同様に、糸導入口411から上ルーパ糸を挿入すると、上ルーパ2の糸繰り出し穴まで円滑に送られて上ルーパ糸の糸通しを行うことができる。
【0047】
糸通し完了後は、開始ボタン542の押下を止めると、モーター53及びポンプ52が駆動を停止して、正圧のエアーの供給が止まる。
そして、操作レバー64を時計方向に回動させると、接続管33,43が接続管12,22から離間して後退する。
さらに、ストッパピン65は、カム部材641により位置決めカラーの凹部への押し込み状態が解除される。これにより、駆動軸の規制状態が解除され、各ルーパ1,2は動作が可能となり、縁かがり縫いミシンは縫製を行うことが可能となる。
【0048】
[実施形態の技術的効果]
上記縁かがり縫いミシンの糸通し装置100は、第一のルーパ側糸案内経路10と第一の装置側糸案内経路30との境界部である接続管12の後端部と、第二のルーパ側糸案内経路20と第二の装置側糸案内経路40との境界部である接続管22の後端部とに、正圧のエアーの一部を第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20の外部に逃がす逃がし口122,222を設けている。
このため、第一及び第二のルーパ側糸案内経路10,20に対して過剰となる正圧のエアーが供給された場合でも、逃がし口122,222から外部に排出することができ、導入部材31,41の糸導入口311,411からのエアーの逆流を抑え、良好な糸通しを行うことが可能となる。
【0049】
また、逃がし口122,222を第一のルーパ側糸案内経路10と第一の装置側糸案内経路30との境界部及び第二のルーパ側糸案内経路20と第二の装置側糸案内経路40との境界部に設けたので、エアーの流動抵抗が高くなる位置に合致し、余分なエアーを効果的に排出でき、糸導入口311,411からのエアーの逆流を十分に抑え、より良好な糸通しを行うことが可能となる。
【0050】
また、逃がし口122,222をスリットから形成したので、形成が容易であり、装置の生産コスト低減、生産性の向上などを図ることが可能となる。
さらに、各ルーパ側糸案内経路10,20における接続管12,22に対して各装置側糸案内経路30,40の接続管33,43を挿入して接続を行う構造であり、逃がし口122,222は、挿入する方向に凹状となるスリットとしている。従って、接続管12,22に対する接続管33,43の挿入する深さに応じて逃がし口122,222の開き量を容易に調整することができ、エアーの排出量の適正化を図ることにより、糸導入口311,411からのエアーの吹き出しの発生をさらに抑え、より良好な糸通しを行うことが可能となる。
【0051】
[その他]
なお、上記逃がし口122,222は、余分なエアーを外部に排出可能な構造であれば、スリットでなくともよい。例えば、接続管12,22の内部から外部に貫通する貫通孔、複数の小孔としても良いし、接続管12,22の後端部側の周壁をメッシュとしても良い。
【0052】
また、逃がし口122,222は、各装置側糸案内経路30,40の接続管33,43の前端部側に形成しても良い。
また、接続管33,43を接続管12,22よりも外径を大きくして、接続管33,43の前端部に円錐面を形成し、接続管33,43の円錐面に接続管12,22の後端部を挿入する構造としてもよい。
【0053】
また、逃がし口122,222は各ルーパ側糸案内経路10,20と各装置側糸案内経路30,40の境界位置に限らず、より各ルーパ1,2の糸繰り出し口側に設けてもよい。つまり、各ルーパ側糸案内経路10,20の途中に設けてもよい。その場合も、余分な正圧のエアーを各ルーパ側糸案内経路10,20の外部に排出でき、良好な糸通しを行うことが可能となる。
【0054】
また、上記糸通し装置100は縁かがり縫いミシンに搭載する場合を例示したが、他の環縫いミシン、例えば、二重環縫いミシンのルーパの糸繰り出し穴に対するルーパ糸の糸通しを行っても良い。その場合には、二重環縫いミシンには上ルーパは搭載されないので、下ルーパのみに糸通しを行う構成とする。