(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る駆動制御装置の概略構成図である。
図1に示すように、駆動制御装置1は、組込型マイコン2と、駆動部3と、電源部4と、速度検出器5とを備える。駆動制御装置1は、DCモータであるモータ6を駆動させるものである。
【0017】
組込型マイコン2は、同期整流方式によるPWM制御で駆動部3を制御する。組込型マイコン2は、装置内組み込み型のDSP(Digital Signal Processor)、CPU(Central Processing Unit)等からなる。組込型マイコン2は、速度設定部11と、速度比較部12と、PID調整部(請求項のトルク算出部に相当)13と、駆動電圧・デューティ比算出部(請求項の駆動電圧算出部、デューティ比設定部に相当)14と、キャリア信号発生部15と、単純PWM発生部(請求項のPWM発生部に相当)16と、キャプチャユニット17と、回転速度検出部18とを備える。
【0018】
速度設定部11、速度比較部12、PID調整部13、駆動電圧・デューティ比算出部14、キャリア信号発生部15、キャプチャユニット17、および回転速度検出部18は、組込型マイコン2においてファームウェア(ソフトウェア)により構成される。単純PWM発生部16は、組込型マイコン2にハードウェアとして内蔵されたものである。
【0019】
速度設定部11は、モータ6の回転速度の目標値を示す目標速度指令を速度比較部12へ出力する。目標値は、外部から速度設定部11に入力される。
【0020】
速度比較部12は、モータ6の回転速度と目標値とを比較して、それらの差である誤差速度を算出する。モータ6の回転速度は、回転速度検出部18から速度比較部12に入力される。
【0021】
PID調整部13は、誤差速度に基づき、モータ6の回転速度を目標値にするためにモータ6に必要なトルクを、PID演算により算出する。
【0022】
駆動電圧・デューティ比算出部14は、PID調整部13で算出されたトルク、モータ6の回転速度、およびモータ6の電気的仕様に基づき、同期整流方式によるモータ6の駆動電圧を算出する。また、駆動電圧・デューティ比算出部14は、算出した駆動電圧に基づき、同期整流方式におけるPWM信号のデューティ比を設定する。また、駆動電圧・デューティ比算出部14は、算出した駆動電圧に応じたPWM設定値を算出し、これを後述の単純PWM発生部16の比較器19へ出力する。
【0023】
キャリア信号発生部15は、予め設定された周期の鋸歯状波または三角波のキャリア信号を生成し、このキャリア信号を単純PWM発生部16へ出力する。
【0024】
単純PWM発生部16は、矩形波のPWM信号を発生し、このPWM信号を駆動部3へ出力する。単純PWM発生部16は、比較器19を有する。比較器19は、キャリア信号とPWM設定値との比較により、設定されたデューティ比のPWM信号を発生する。比較器19は、設定されたデューティ比のPWM信号を後述する駆動部3のスイッチ素子SW1へ出力し、それとは位相が逆のPWM信号をスイッチ素子SW2へ出力する。
【0025】
キャプチャユニット17は、速度検出器5から出力される、モータ6の回転角度に応じたパルス信号を取得し、その周期を計測する。
【0026】
回転速度検出部18は、キャプチャユニット17で計測されたパルス信号の周期に基づき、モータ6の回転速度を算出する。回転速度検出部18は、算出した回転速度を速度比較部12へ出力する。
【0027】
駆動部3は、組込型マイコン2から入力されるPWM信号により、モータ6を駆動させる。駆動部3は、プリドライバ21と、Hブリッジ回路22とを備える。
【0028】
プリドライバ21は、単純PWM発生部16の比較器19とHブリッジ回路22のスイッチ素子SW1,SW2とを接続する。プリドライバ21を介して、比較器19から出力される互いに位相が逆のPWM信号が、スイッチ素子SW1,SW2にそれぞれ入力される。
【0029】
Hブリッジ回路22は、4つのスイッチ素子SW1〜SW4を備える。スイッチ素子SW1,SW2が、モータ6の一方の端子に接続されるラインにおいて、電源電圧端子Pと接地端子との間に直列に接続されている。また、スイッチ素子SW3,SW4が、モータ6の他方の端子に接続されるラインにおいて、電源電圧端子Pと接地端子との間に直列に接続されている。Hブリッジ回路22において、対角線上に位置するスイッチ素子SW1,SW4が一方の対になり、スイッチ素子SW2,SW3が他方の対になる。例えば、スイッチ素子SW1に入力されるPWM信号のH(ハイ)期間では、スイッチ素子SW1,SW4がオン状態になる。このとき、スイッチ素子SW2に入力されるPWM信号はL(ロー)期間であり、スイッチ素子SW2,SW3がオフ状態になる。
【0030】
電源部4は、駆動部3に電圧を供給する。電源部4は、Hブリッジ回路22の電源電圧端子Pに接続されている。
【0031】
速度検出器5は、モータ6の回転角度に応じたパルス信号を出力する。速度検出器5は、例えば、ロータリエンコーダからなる。
【0032】
上述した駆動制御装置1における制御において、PID調整部13、駆動電圧・デューティ比算出部14、キャリア信号発生部15、単純PWM発生部16、および駆動部3が、制御要素を形成する。制御対象は、モータ6を含む電気系とメカ系全体である。制御量は、モータ6の回転速度である。速度検出器5、キャプチャユニット17、および回転速度検出部18が、フィードバック要素(モータの回転速度負帰還ループ)を形成する。
【0033】
次に、駆動制御装置1の制御における制御対象について説明する。
【0034】
まず、メカ系の制御対象について説明する。
【0035】
メカ系の制御対象は、例えば、
図2に示すような、印刷装置に設けられる用紙搬送部31からなる。用紙搬送部31は、搬送ベルト32を有する。搬送ベルト32は、駆動ローラ33および従動ローラ34,35に掛け渡される環状のベルトである。駆動ローラ33は、モータ6により回転駆動される。従動ローラ34,35は、搬送ベルト32に従動する。駆動ベルト36により、モータ6の駆動力が駆動ローラ33へ伝達される。モータ6の駆動により駆動ローラ33が回転し、搬送ベルト32が回転することで、搬送ベルト32上に載置された用紙が搬送される。
【0036】
メカ系は、
図2に示すように、用紙搬送部31の搬送ベルト32等をモータ軸上に等価置換した単純化モデルで表現できる。
【0037】
ところで、
図3に示すように、メカ系の負荷(総合負荷)は、摩擦負荷と粘性負荷との合計になる。このような負荷特性を有するメカ系の単純化モデルの運動方程式(ニュートンの第二法則)は、以下の式(1)で表される。
【0038】
Tm(t)=Jm・dωm(t)/dt+Wq・ωm(t)+To …(1)
ωm[rad/sec]:角速度
Tm[N・m]:供給されるトルク
Jm[kg・m
2]:慣性モーメント
Wq[N・m/(rad/sec)]:粘性負荷抵抗
To[N・m]:摩擦負荷トルク
式(1)をラプラス変換してS関数表現にすると、以下の式(2)のようになる。
【0039】
Tm(s)=Jm・S・ωm(s)+Wq・ωm(s)+To …(2)
したがって、以下の式(3)により、角速度(回転速度)ωm(s)が得られる。
【0040】
ωm(s)=(Tm(s)-To)/(Jm・S+Wq) …(3)
ここで、メカ系の制御対象のブロック線図による表現を
図4に示す。
図4において、加え合わせ点41は、トルクTm(s)から摩擦負荷トルクToを減算した値(Tm(s)-To)を出力する。ブロック42は、加え合わせ点41から入力される(Tm(s)-To)に1/(Jm・S+Wq)を乗算し、式(3)で表される角速度(回転速度)ωm(s)を出力する。
【0041】
次に、電気系の制御対象について説明する。
【0042】
電気系の制御対象は、モータ6である。DCモータであるモータ6は、
図5に示すような等価回路で表すことができる。ここで、各パラメータの内容は以下の通りである。
【0043】
Vpm[V]:端子間電圧(モータに供給されるPWM電圧)
Ve[V]:逆誘起電圧(モータ自身の回転で発電する電圧)
KE[V/(rad/sec)]:誘起電圧定数(回転速度→誘起電圧変換定数)
La[H]:電機子巻線インダクタンス
Ra[Ω]:電機子巻線抵抗
Im[A]:電機子巻線電流
KT[N・m/A]:トルク定数(電流→トルク変換定数)
Tm[N・m]:発生するトルク
ωm[rad/sec]:角速度
図5に示す等価回路によれば、モータ6の表現式は、以下の式(4)〜式(6)のようになる。
【0044】
Vpm(t)=La・dIm(t)/dt+Ra・Im(t)+Ve(t) …(4)
Ve(t)=KE・ωm(t) …(5)
Tm(t)= KT・Im(t) …(6)
式(4)〜式(6)をラプラス変換してS関数表現にすると、それぞれ以下の式(7)〜式(9)のようになる。
【0045】
Vpm(s)=La・S・Im(s)+Ra・Im(s)+Ve(s) …(7)
Ve(s)=KE・ωm(s) …(8)
Tm(s)= KT・Im(s) …(9)
式(7)、式(8)より、電機子巻線電流Im(s)は、以下の式(10)により表される。
【0046】
Im(s)=(Vpm(s)-KE・ωm(s))/(La・S+Ra) …(10)
ここで、
図5に示した等価回路のブロック線図による表現を
図6に示す。
図6において、加え合わせ点51は、端子間電圧Vpm(s)から逆誘起電圧Veを減算した値(Vpm(s)-Ve)を出力する。ブロック52は、加え合わせ点51から入力される(Vpm(s)-Ve) に1/(La・S+Ra)を乗算し、式(10)で表される電機子巻線電流Im(s)を出力する。ブロック53は、電機子巻線電流Im(s)にトルク定数KTを乗算し、式(9)で表されるトルクTm(s)を出力する。トルクTm(s)はメカ系に作用し、角速度(回転速度)ωm(s)が得られる。ブロック54は、角速度ωm(s)に誘起電圧定数KEを乗算し、式(8)で表される逆誘起電圧Ve(s)を加え合わせ点51へ出力する。
【0047】
次に、駆動制御装置1における回転速度制御の動作について、
図7のブロック線図を用いて説明する。なお、
図7のブロック線図におけるメカ系および電気系の制御対象の部分は、それぞれ
図4、
図6に示したブロック線図と同様である。
【0048】
図7において、加え合わせ点61は、モータ6の回転速度の目標値ωr(s)からモータ6の角速度(回転速度)ωm(s)を減算して誤差速度ωe(s)を出力する。加え合わせ点61の演算は、
図1の速度比較部12による処理に相当する。目標値ωr(s)は、速度設定部11が速度比較部12へ出力するものである。角速度ωm(s)は、速度検出器5の出力パルス信号に応じて回転速度検出部18で算出されるものである。
【0049】
ブロック62は、加え合わせ点61から入力される誤差速度ωe(s)に対して、上述した式(1)の運動方程式に基づくPID要素別適正ゲインの調整を行い、モータ6の回転速度を目標値ωr(s)にするために必要なトルクTm’(s)を算出する。ここで、Kdは微分(加速度)ゲインである。Kpは比例(速度)ゲインである。Kiは積分(変位)ゲインである。ブロック62の演算は、
図1のPID調整部13による処理に相当する。
【0050】
ブロック63は、ブロック62から入力されるトルクTm’(s)、モータ6の角速度ωm(s)、およびモータ6の電気的仕様(電気的パラメータ)に基づき、同期整流方式によるモータ6の駆動電圧Vpm(s)’を算出する。モータ6の電気的パラメータとしては、電機子巻線インダクタンスLa、電機子巻線抵抗Ra、トルク定数KT、および誘起電圧定数KEが用いられる。駆動電圧Vpm(s)’は、以下の式(11)により算出される。
【0051】
Vpm(s)’=Vl(s)+Vr(s)+Ve(s)
=(Tm’(s)/KT)・(La・S+Ra)+KE・ωm(s) …(11)
ここで、モータ6に流す電流Im(s)’は、以下の式(12)により算出される。
【0052】
Im(s)’= Tm’(s)/KT …(12)
ブロック63の演算は、
図1の駆動電圧・デューティ比算出部14による処理の一部に相当する。駆動電圧・デューティ比算出部14には、駆動電圧Vpm(s)’を算出する際の逆誘起電圧Ve(s)の算出に用いるために、回転速度検出部18からモータ6の角速度ωm(s)が入力される。
【0053】
ブロック64では、ブロック63から入力される駆動電圧Vpm(s)’に応じたPWM設定値Vpm(s)”を算出する。PWM設定値Vpm(s)”は、
図1の単純PWM発生部16でPWM信号を生成するために用いられるものである。PWM設定値Vpm(s)”は、以下の式(13)により算出される。
【0054】
Vpm(s)”=Vpm(s)’/2+Vps(s)/2 …(13)
ここで、Vpsは、
図1の電源部4による駆動電源電圧である。ブロック64の演算は、
図1の駆動電圧・デューティ比算出部14による処理の一部に相当する。
【0055】
ブロック65では、駆動電圧Vpm(s)’に応じたPWM信号のデューティ比を設定し、そのデューティ比のPWM信号によりモータ6を駆動させる。PWM信号のデューティ比(PWM_Duty)は、以下の式(14)により算出される。
【0056】
PWM_Duty[%]=(Vpm(s)’+Vps(s))・100/2・Vps(s) …(14)
ここで、同期整流方式では、モータの駆動電圧の平均値と、PWM信号のデューティ比とが比例することが知られている。また、デューティ比が50%のときは駆動電圧の平均値が0となり、モータが停止状態となる。デューティ比が50%より大きい場合は駆動電圧の平均値が正の値になり、デューティ比が50%未満の場合は駆動電圧の平均値が負の値になる。これにより、モータを正方向および逆方向に回転させることができる。
【0057】
式(11)で算出される駆動電圧Vpm(s)’は、-Vps(s)から+Vps(s)の間の値である。Vpm(s)’=Vps(s)のときにデューティ比が100%となり、Vpm(s)’=-Vps(s)のときにデューティ比が0%となる。また、Vpm(s)’=0のときにデューティ比が50%となる。そして、上述した同期整流方式の特徴から、駆動電圧Vpm(s)’とデューティ比とが比例する。このことから、式(14)により、駆動電圧Vpm(s)’に応じたPWM信号のデューティ比が算出される。
【0058】
ブロック65の処理は、
図1の駆動電圧・デューティ比算出部14の一部、キャリア信号発生部15、単純PWM発生部16、および駆動部3の処理に相当する。
【0059】
以上のような制御により、モータ6の端子間電圧Vpm(s)が、ブロック63で算出された、モータ6の回転速度を目標値ωr(s)にするための駆動電圧Vpm(s)’と等しくなるよう制御される。駆動電圧Vpm(s)’による駆動により、モータ6において発生するトルクTm(s)は、ブロック62で算出されたトルクTm’(s)と等しくなる。また、モータ6に流れる電流(電機子巻線電流)Im(s)は、Tm’(s)から算出される電流Im(s)’と等しくなる。
【0060】
次に、駆動制御装置1における回転速度制御のアルゴルを、
図8を用いて説明する。
図8は、回転速度制御のアルゴル(S関数をZ変換した表現)を図式化したものである。このアルゴルは、組込型マイコン2に組込まれるファームウェアで実行されるものである。
【0061】
図8において、減算部71は、モータ6の回転速度の目標値ωr(z)からモータ6の角速度(回転速度)ωm(z)を減算して誤差速度ωe(z)を出力する。減算部71は、
図1の速度比較部12に相当する。
【0062】
減算部72は、減算部71から入力される誤差速度ωe(z)から、遅延部73で単位遅延された誤差速度ωe(z)を減算する。
【0063】
微分演算部74は、減算部72の演算結果に微分ゲインKdを乗算して微分トルクTd(z)を算出する。
【0064】
比例演算部75は、減算部71から入力される誤差速度ωe(z)に比例ゲインKpを乗算して比例トルクTp(z)を算出する。
【0065】
加算部76は、減算部71から入力される誤差速度ωe(z)に、遅延部73で単位遅延された誤差速度ωe(z)を加算する。
【0066】
積分演算部77は、加算部76の演算結果に積分ゲインKiを乗算する。加算部78は、積分演算部77の演算結果に遅延部79で単位遅延された積分トルクTi(z)を加算して、積分トルクTi(z)を算出する。
【0067】
加算部80は、微分トルクTd(z)と比例トルクTp(z)と積分トルクTi(z)とを加算して、PID出力トルクTm’(z)を算出する。PID出力トルクTm’(z)は、モータ6の回転速度を目標値ωr(z)にするために必要なトルクである。
【0068】
減算部72,遅延部73,微分演算部74,比例演算部75,加算部76,積分演算部77,加算部78,遅延部79,および加算部80による処理は、
図1のPID調整部13による処理に相当する。
【0069】
電流変換部81は、PID出力トルクTm’(z)をトルク定数KTで割ることにより、モータ6に流す電流Im(z)’に変換する。
【0070】
減算部82は、電流変換部81から入力される電流Im(z)’から、遅延部83で単位遅延された電流Im(z)’を減算する。
【0071】
インダクタンス電圧算出部84は、減算部82の演算結果にインダクタンス分の変換定数KLを乗算して、インダクタンス電圧Vl(z)を算出する。
【0072】
巻線抵抗電圧算出部85は、電流変換部81から入力される電流Im(z)’に巻線抵抗分の変換定数KRを乗算して、巻線抵抗電圧Vr(z)を算出する。
【0073】
逆誘起電圧算出部86は、モータ6の角速度ωm(z)に誘起電圧定数KEを乗算して、逆誘起電圧Ve(z)を算出する。
【0074】
加算部87は、インダクタンス電圧Vl(z)と巻線抵抗電圧Vr(z)と逆誘起電圧Ve(z)とを加算して、同期整流方式によるモータ6の駆動電圧Vpm(z)’を算出する。
【0075】
デューティ比算出部88は、前述の式(14)により、PWM信号のデューティ比(PWM_Duty)を算出する。デューティ比のPWM信号により、モータ6が駆動される。
【0076】
電流変換部81、減算部82、遅延部83、インダクタンス電圧算出部84、巻線抵抗電圧算出部85、逆誘起電圧算出部86、加算部87、およびデューティ比算出部88による処理は、
図1の駆動電圧・デューティ比算出部14による処理に相当する。
【0077】
速度変換部89は、速度検出器5から出力されるパルス信号(モータスピードパルス)をモータ6の角速度ωm(z)に変換する。角速度ωm(z)は、減算部71および逆誘起電圧算出部86へ出力される。速度変換部89による処理は、
図1のキャプチャユニット17および回転速度検出部18の処理に相当する。
【0078】
次に、単純PWM発生部16でPWM信号を発生する動作について説明する。
【0079】
キャリア信号発生部15から単純PWM発生部16の比較器19に入力されるキャリア信号は、
図9に示すように、0からVps(s)の間の値をとる。
【0080】
前述した式(13)で算出されるPWM設定値Vpm(s)”も、0からVps(s)の間の値となる。モータ6の駆動電圧Vpm(s)’=0のとき、Vpm(s)”=Vps(s)/2となる。Vpm(s)’>0のとき、Vpm(s)”>Vps(s)/2となる。Vpm(s)’<0のとき、Vpm(s)”<Vps(s)/2となる。
【0081】
比較器19は、キャリア信号とPWM設定値Vpm(s)”とを比較し、PWM設定値Vpm(s)”の値がキャリア信号の値を上回っている期間をハイレベル、PWM設定値Vpm(s)”の値がキャリア信号の値を下回っている期間をローレベルとするPWM信号を発生する。
【0082】
これにより、
図9に示すように、Vpm(s)”>Vps(s)/2 のとき、すなわちVpm(s)’>0のとき、デューティ比が50%より大きいPWM信号が生成される。また、Vpm(s)”=Vps(s)/2のとき、すなわちVpm(s)’=0のとき、デューティ比が50%のPWM信号が生成される。Vpm(s)”<Vps(s)/2のとき、すなわちVpm(s)’<0のとき、デューティ比が50%より小さいPWM信号が生成される。
【0083】
このように、単純PWM発生部16は、キャリア信号とPWM設定値Vpm(s)”との単純な比較によりPWM信号を生成するので、短時間でPWM信号を生成できる。これにより、高精度なモータ6の回転速度制御や、目標速度指令に対する高速な応答性能が実現される。
【0084】
単純PWM発生部16で生成されたPWM信号は駆動部3に入力され、PWM信号のデューティ比に応じてモータ6が駆動される。
【0085】
PWM信号により駆動制御されるモータ6に印加される電圧およびモータ6に流れる電流Imの波形の例を
図10、
図11に示す。
図10は、PWM信号のデューティ比が90%の場合のモータ6の印加電圧および電流Imの波形図の一例である。この場合、モータ6に正の電流Imが流れ、モータ6が正方向に回転する。
図11は、PWM信号のデューティ比が10%の場合のモータ6の印加電圧および電流Imの波形図の一例である。この場合、モータ6に負の電流Imが流れ、モータ6が逆方向に回転する。
【0086】
次に、駆動制御装置1によるモータ6の回転速度制御と、モータ6のインダクタンス成分を無視した回転速度制御との比較について説明する。
【0087】
モータ6のインダクタンス成分を無視した回転速度制御は、前述の式(11)において、Vl(s)=0として駆動電圧Vpm(s)’を算出するものである。
【0088】
図12、
図13は、駆動制御装置1によるモータ6の回転速度制御のシミュレーション結果を示す図である。
図14、
図15は、モータ6のインダクタンス成分を無視した比較例の回転速度制御のシミュレーション結果を示す図である。
図12、
図14は、モータ6の角速度ωmおよび誤差速度ωeの推移を示している。
図13、
図15は、PWM信号のデューティ比およびモータ6に流れる電流Imの推移を示している。
【0089】
図12では、
図14と比較して、一点鎖線で囲んだ部分に現れている、速度変化点での誤差速度ωeが小さくなっている。また、
図13では、
図15と比較して、PWM信号のデューティ比およびモータ6に流れる電流Imの遷移がシャープになっている。
【0090】
このように、駆動制御装置1では、インダクタンス成分を考慮することで、インダクタンスによる電流の電圧に対する積分遅れによる応答性能の低下が抑えられる。
【0091】
次に、駆動制御装置1におけるモータ6の回転速度制御性能の実証データを
図16〜
図23に示す。
【0092】
図16、
図17は、正方向の回転時における回転速度ムラ比率Wowの計測データである。
図16、
図17は、互いに異なる目標値ωrに対する回転速度ムラ比率Wowの計測データである。
図18、
図19は、逆方向の回転時における回転速度ムラ比率Wowの計測データである。
図18、
図19は、互いに異なる目標値ωrに対する回転速度ムラ比率Wowの計測データである。
図20〜
図23は、それぞれ
図16〜
図19の回転速度ムラ比率WowをFFT解析した結果を示す図である。
【0093】
ここで、回転速度ムラ比率Wow[%]は、以下の式(15)で表されるものである。
【0094】
Wow=(ωm-ωr)・100/ωr …(15)
図20〜
図23に示すように、正回転、逆回転ともに、角速度ωmが100rad/sec以上において回転速度ムラ比率Wowが0.1%[rms]以下であることが確認された。このように、駆動制御装置1では、高精度な回転速度制御性能が得られた。
【0095】
次に、4種類の運転パターン(運転パターンA〜D)におけるモータ6の角速度ωmおよび誤差速度ωeの計測データを
図24〜
図27に示す。また、運転パターンA〜Dにおけるモータ6に流れる電流Imの計測データを
図28〜
図31に示す。
【0096】
運転パターンAは、正回転状態→停止状態→逆回転状態となるパターンである。運転パターンBは、逆回転状態→瞬間停止→正回転状態となるパターンである。運転パターンCは、高速正回転状態と低速正回転状態との間で切り替わるパターンである。運転パターンDは、高速逆回転状態と低速逆回転状態との間で切り替わるパターンである。
【0097】
図24〜
図31に示すように、すべての運転パターンA〜Dにおいて、目標速度指令(目標値ωr)に対して1〜数msec程度での高速な応答性能が得られた。
【0098】
以上説明したように、駆動制御装置1では、駆動電圧・デューティ比算出部14は、PID調整部13で算出されたトルク、モータ6の回転速度、およびモータ6の電気的仕様(電気的パラメータ)に基づき、同期整流方式によるモータ6の駆動電圧を算出する。また、駆動電圧・デューティ比算出部14は、算出した駆動電圧に基づき、同期整流方式におけるPWM信号のデューティ比を設定する。これにより、モータ電流負帰還ループを構成することなく、誤差速度に応じたデューティ比を設定できる。したがって、駆動制御装置1によれば、モータ電流負帰還ループを構成するための電流検出器やAD変換器を省略でき、ハードウェア構成を簡素化できる。
【0099】
駆動電圧を算出するために用いるモータ6の電気的仕様(電気的パラメータ)には、モータ6のインダクタンス(電機子巻線インダクタンスLa)が含まれるので、インダクタンスによる電流の積分遅れによる応答性能の低下が抑えられる。
【0100】
また、駆動制御装置1では、単純PWM発生部16は、キャリア信号とPWM設定値との比較により、設定されたデューティ比のPWM信号を発生する。このため、モータ電流負帰還ループを用いた構成で生じるような、モータに流れる電流を検出しながらPWM信号のデューティ比を追従収束する処理による遅れが生じない。このため、短時間でPWM信号を生成できる。この結果、高精度な回転速度制御や、目標速度指令に対する俊敏な応答が可能になる。
【0101】
また、駆動制御装置1によれば、制御系全体をデジタル化でき、自由度の高いファームウェアによる速度制御(完全デジタルプログラマブルサーボ)システムを構築できる。
【0102】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。