(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、ハロゲンランプやセラミックヒータを利用して被加熱物を高速に昇温させる加熱装置がある。これらのハロゲンランプやセラミックヒータでは、急激にヒータ出力が100%付近まで高くなると、発熱自体も過剰に急激になり、ヒータ自身が破損することがある。このような特殊なヒータを利用した加熱(昇温)に対しては、特許文献1に開示された技術が有効である。
【0003】
特許文献1に開示された制御装置は、
図8(A)、
図8(B)に示すように設定値追従制御の応答過程を追従フェーズと収束フェーズと安定フェーズの3段階に分割し、設定値SPの変更開始時点を追従フェーズの開始時点とし、追従フェーズにおいて制御量PVが設定値SPを超えない特定の設定値追従制御経過時点を収束フェーズの開始時点とし、収束フェーズにおいて予め設定された状況に到達した時点を安定フェーズの開始時点として各フェーズの切り換えを行い、追従フェーズでは制御量PVを設定値SPに追従させる操作量を出力し、収束フェーズでは制御量PVを設定値SP近傍に収束させる操作量を出力し、安定フェーズでは制御量PVを設定値SPに安定させる操作量を出力することにより、追従フェーズ、収束フェーズ、安定フェーズのそれぞれの制御特性を別々に調整できるようにしたものである。
【0004】
特許文献1に開示された制御装置では、昇温過程の追従フェーズでPID制御を採用したり、固定の出力値を採用したりできるので、ヒータの発熱が過剰にならないように調整しやすい。例えば、想定された昇温動作範囲内にすることにより、昇温全体が所望の動作になる。また、ある程度の想定範囲外であれば、インターロック機能などにより安全確保も可能である。
【0005】
ヒータによる昇温を対象とする実質的なインターロック機能としては、操作量上限値OHの利用が一般的である。具体的には、昇温前に設定値SP(温度設定値)が低い場合は、制御量PV(温度)も低く維持するのであるから、操作量上限値OHも低く設定しておくのが合理的である。
【0006】
そして、昇温を開始する場合は設定値SPを高い数値に変更するので、この設定値SPの変更に合せて徐々に操作量上限値OHを上昇させていく。PID制御により操作量MV(ヒータ出力)が高い数値を要求されたとしても、操作量上限値OHが急激に高い数値に上昇することがなければ、急激にヒータ出力が100%付近まで高くなることも回避できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体デバイスを製造する半導体製造装置等の実際の製造装置では、電源系と制御機器とが、必ずしも適切に連携した構成になっているとは限らない。例えば、作業の安全性などの観点から、昇温前にはヒータのブレーカをOFFにしておき、その状態でPID制御の演算機能をONにして設定値SPを昇温後の目標温度に設定変更し、設定値SPの設定変更に誤りがないことを確認してから、ヒータのブレーカをONにするという手順で機器が操作されることがある。この場合、電源系(ブレーカ)が昇温に適した状態になるタイミングは、制御機器(PID制御の演算機能)が昇温設定になるタイミングよりも、遅れることになる。
【0009】
このとき、設定値SPの設定変更に誤りがないことを確認するために想定以上の時間を使ってしまうなどにより、ヒータのブレーカをONにするまでの“遅延時間”が長くなると、徐々に上昇するはずの操作量上限値OHが、ブレーカをONにする時点で100%あるいはその付近まで上昇してしまい、インターロックとして機能しなくなる。すなわち、急激にヒータ出力が100%付近まで高くなってしまうわけであり、改善が求められている。
【0010】
図9(A)、
図9(B)に示した例では、設定値SPの変更に合せて操作量上限値OHが徐々に上昇し、PID制御で算出される操作量MVも操作量上限値OHの制限を受けつつ上昇していくが、ヒータのブレーカがONになるまで、ヒータに電力が供給されないために、実際のヒータ出力は0%になっている。そして、ブレーカがONになった時点では、操作量上限値OHが既に最大値100%に達しているので、ヒータ出力も100%まで急激に上昇している。
【0011】
なお、以上のようなインターロック機能に関わる問題は、温度制御に限らず、他の制御でも同様に発生し得る。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ヒータなどの操作部のブレーカをOFFにし、続いて制御演算機能をONにして設定値SPを目標温度に変更し、設定値SPの確認後にブレーカをONにするような作業手順で操作される制御装置において、インターロック機能が損なわれないようにすることができる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【0013】
なお、ブレーカと制御装置とを協調させるために、ブレーカと制御装置との間を何らかの信号線で繋いで、ブレーカと制御装置とを連動させる等の方法は、実装作業を含めてコストアップになる要素なので、このような解決方法は好適ではなく、本発明では採用されないことを前提としておく。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の制御装置は、設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する操作量算出手段と、この操作量算出手段で算出された操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理を行なうリミット処理手段と、この上限リミット処理された操作量MVを制御対象に出力する操作量出力手段と、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが前記閾値THS以上で制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THDより小さい場合に、前記操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが前記閾値THS以上に変更された後に、制御量変化率ΔPVが前記閾値THD以上となった場合に、前記操作量上限値OHを前記第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整手段とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の制御装置は、設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する操作量算出手段と、この操作量算出手段で算出された操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理を行なうリミット処理手段と、この上限リミット処理された操作量MVを制御対象に出力する操作量出力手段と、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが前記閾値THS以上で制御量PVが予め規定された閾値THPより低い場合に、前記操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが前記閾値THS以上に変更された後に、制御量PVが前記閾値THP以上となった場合に、前記操作量上限値OHを前記第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整手段とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の制御装置の1構成例は、さらに、制御量PVが予め規定された閾値THG以上で、制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THE以上となった場合に、前記操作量上限値OHを前記第2の値よりも低い、予め規定された第3の値に変更する上限値抑制手段を備えることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の制御方法は、設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する操作量算出ステップと、この操作量算出ステップで算出した操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理を行なうリミット処理ステップと、この上限リミット処理した操作量MVを制御対象に出力する操作量出力ステップと、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが前記閾値THS以上で制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THDより小さい場合に、前記操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが前記閾値THS以上に変更された後に、制御量変化率ΔPVが前記閾値THD以上となった場合に、前記操作量上限値OHを前記第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整ステップとを含むことを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の制御方法は、設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する操作量算出ステップと、この操作量算出ステップで算出した操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理を行なうリミット処理ステップと、この上限リミット処理した操作量MVを制御対象に出力する操作量出力ステップと、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが前記閾値THS以上で制御量PVが予め規定された閾値THPより低い場合に、前記操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが前記閾値THS以上に変更された後に、制御量PVが前記閾値THP以上となった場合に、前記操作量上限値OHを前記第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整ステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが閾値THS以上で制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THDより小さい場合に、操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となった場合に、操作量上限値OHを第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整手段を設けることにより、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となるまで操作量上限値OHを低い値に維持しておくので、ヒータなどの操作部の出力が急激に100%付近まで高くなってしまうことを回避することができ、インターロック機能が損なわれないようにすることができる。その結果、本発明では、ヒータなどの操作部の破損を防ぐことができる。
【0020】
また、本発明では、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが閾値THS以上で制御量PVが予め規定された閾値THPより低い場合に、操作量上限値OHを最大値よりも低い、予め規定された第1の値に維持し、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量PVが閾値THP以上となった場合に、操作量上限値OHを第1の値よりも高い、予め規定された第2の値に変更する上限値調整手段を設けることにより、制御量PVが閾値THP以上となるまで操作量上限値OHを低い値に維持しておくので、ヒータなどの操作部の出力が急激に100%付近まで高くなってしまうことを回避することができ、インターロック機能が損なわれないようにすることができる。その結果、本発明では、ヒータなどの操作部の破損を防ぐことができる。
【0021】
また、本発明では、さらに、制御量PVが予め規定された閾値THG以上で、制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THE以上となった場合に、操作量上限値OHを第2の値よりも低い、予め規定された第3の値に変更する上限値抑制手段を設けることにより、さらに安全性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[発明の原理1]
昇温前にヒータのブレーカをOFFにしておき、ブレーカがOFFの状態でPID制御の演算機能をONにして設定値SPを昇温後の目標温度に設定変更し、設定値SPの設定変更に誤りがないことを確認するという工程では、確認が終了するまで昇温は始まらない。したがって、確認が終了するまで制御量PVの変化率ΔPVには、特定の大きな数値は検出されない。
【0024】
そこで、発明者は、この制御量変化率ΔPVを判断指標として、操作量上限値OHを適宜低い数値に維持しておくことで、ブレーカがONになる前に操作量上限値OHが高い数値になってしまうこと、すなわち急激にヒータ出力が100%付近まで高くなってしまうことを回避できることに想到した。
【0025】
[発明の原理2]
昇温前にヒータのブレーカをOFFにしておき、ブレーカがOFFの状態でPID制御の演算機能をONにして設定値SPを昇温後の目標温度に設定変更し、設定値SPの設定変更に誤りがないことを確認するという工程では、上記のとおり確認が終了するまで昇温は始まらない。したがって、確認が終了するまで制御量PV自体には、特定の大きな数値は検出されない。
【0026】
そこで、発明者は、この制御量PVを判断指標として、操作量上限値OHを適宜低い数値に維持しておくことで、ブレーカがONになる前に操作量上限値OHが高い数値になってしまうこと、すなわち急激にヒータ出力が100%付近まで高くなってしまうことを回避できることに想到した。
【0027】
[発明の原理3]
上記の発明の原理1または発明の原理2に基づく技術を採用したとしても、何らかの誤動作要因により、想定外の危険な昇温が生じることを考慮しておくことが好ましい。発明の原理1と発明の原理2では、制御量変化率ΔPVと制御量PVを別々に利用する判断指標としていたが、これらを組合せてさらに安全性を改善できる。
【0028】
例えば、制御量PVが特定の閾値以上の高温状態で、制御量変化率ΔPVが特定の閾値以上の昇温状態になるのであれば、操作量上限値OHを低い数値に変更するのが好適である。
【0029】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態は、上記発明の原理1に対応する例である。ここでは、ヒータによる昇温を代表的な適用対象として説明するが、本発明は原理的には温度の制御に限るものではなく、他の制御に適用してもよい。
【0030】
図1に示すように、制御装置は、設定値SPを取得し登録する設定値取得部1と、制御量PVを計測器から入力する制御量入力部2と、PID制御演算により設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する操作量算出部3と、操作量算出部3で算出された操作量MVに対し、操作量下限値OLにより下限リミット処理を行ない、操作量上限値OHにより上限リミット処理を行なうリミット処理部4と、操作量MVを制御対象に出力する操作量出力部5と、設定値SPが予め規定された閾値THSより低い場合、あるいは設定値SPが閾値THS以上で制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THDより小さい場合に、操作量上限値OHを予め規定された数値OH1に維持し、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となった場合に、操作量上限値OHを数値OH1よりも高い、予め規定された数値OH2に変更する上限値調整部6とを備えている。
【0031】
次に、本実施の形態の制御装置の動作を
図2を参照して説明する。
図2は制御装置の動作を示すフローチャートである。
設定値SP(例えば温度設定値)は、制御装置のオペレータなどによって設定され、設定値取得部1を介して操作量算出部3と上限値調整部6とに入力される(
図2ステップS100)。
【0032】
制御量PV(例えば温度計測値)は、図示しない計測器(例えば被加熱物の温度を計測する温度センサ)によって計測され、制御量入力部2を介して操作量算出部3と上限値調整部6とに入力される(
図2ステップS101)。
操作量算出部3は、周知のPID制御演算により設定値SPと制御量PVに基づき操作量MVを算出する(
図2ステップS102)。
【0033】
上限値調整部6は、設定値SPが予め規定された閾値THSよりも低い場合(
図2ステップS103においてNO)、リミット処理部4で使用される操作量上限値OHを予め規定された低い数値OH1に維持する(
図2ステップS104)。
【0034】
閾値THSは、変更前の設定値SPの想定される初期値よりも高い値であり、かつ変更後の設定値SPの想定値以下の値に予め設定される。数値OH1は、操作量上限値OHの最大値100%よりも低い値であり、ヒータなどの操作部の破損が生じる可能性がない値として予め設定される。ヒータには、破損が生じない温度上昇パターンが必ずあるからこそヒータとして利用できるのであり、また本質的に温度上昇して高温に至ることが前提のものなのであるから、通常はOH1を0%に近いくらいの低い値にまでする必要はない。すなわち、0%と100%の中間付近という低い値であれば、概ね妥当である。本実施の形態では、例えばOH1=50%である。
【0035】
また、上限値調整部6は、設定値SPが閾値THS以上であっても(ステップS103においてYES)、制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THDより小さい場合には(
図2ステップS105においてNO)、操作量上限値OHを低い数値OH1のまま維持する(ステップS104)。閾値THDは、設定値SPの変更によって生じる制御量変化率ΔPVの想定値よりも低い値に予め設定される。
【0036】
次に、上限値調整部6は、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となった場合(ステップS105においてYES)、操作量上限値OHを予め規定された高い数値OH2に変更する(
図2ステップS106)。
【0037】
数値OH2は、操作量上限値OHの最大値100%以下で、かつ数値OH1より高い値に設定される。上記の数値OH1は固定値でよいが、数値OH2は複数の値をとり得るようにしている。つまり、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となって、ステップS105の判定がYESとなる度に、操作量上限値OHを直前の値に対して所定幅ΔOHだけ増やすようにしている(ステップS106)。
【0038】
これにより、設定値SPの変更に合せて(制御量PVの上昇に応じて)、操作量上限値OHを徐々に上昇させることができる。この場合、操作量上限値OH=OH2は予め規定された値(例えば100%)で上昇が頭打ちとなる。所定幅ΔOHは、1制御周期当たりのヒータ出力の許容可能な最大上昇幅以下の値に予め設定しておけばよい。なお、数値OH2を固定値としてOH1からOH2に1回だけ変更できるようにしてもよいが、その場合にはヒータ出力が急激に上昇しないように設定しておく必要がある。
【0039】
リミット処理部4は、操作量算出部3で算出された操作量MVを所定の操作量下限値OL以上の値に制限する下限リミット処理と、操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理とを行なう(
図2ステップS107)。
IF MV<OL THEN MV=OL ・・・(1)
IF MV>OH THEN MV=OH ・・・(2)
つまり、リミット処理部4は、操作量MVが操作量下限値OLより小さい場合、操作量MV=OLとし、操作量MVが操作量上限値OHより大きい場合、操作量MV=OHとする。
【0040】
操作量出力部5は、リミット処理部4でリミット処理された操作量MVを制御対象に出力する(
図2ステップS108)。操作量MVの出力先は、ヒータやバルブなどの操作部(不図示)である。ヒータの場合には、操作量MVの実際の出力先は、ヒータに電力を供給する電力調整器(不図示)となる。
制御装置は、
図2のステップS100〜S108の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(
図2ステップS109においてYES)、制御周期毎に実行する。
【0041】
図3(A)、
図3(B)は本実施の形態の制御装置の動作例を示す図であり、
図3(A)は設定値SPおよび制御量PVの変化を示す図、
図3(B)は操作量出力部5から出力される操作量MV、リミット処理部4に設定される操作量上限値OH、およびヒータ出力の変化を示す図である。
【0042】
図3(A)、
図3(B)の例では、時刻t1より前の時点において設定値SPが閾値THS(例えば100℃)より低いので、操作量上限値OHがOH1=50%に維持されている。時刻t1において設定値SPが40℃から300℃に変更されると、操作量出力部5から出力される操作量MVが上昇する。このとき、設定値SPは閾値THS以上になったものの、ヒータのブレーカがOFFのままであり、ヒータに電力が供給されないために、ヒータ出力は0%のままであり、制御量PVは上昇しない。したがって、制御量変化率ΔPVが閾値THDより小さいので、操作量上限値OHがOH1=50%に維持されている。
【0043】
次に、時刻t2においてヒータのブレーカがONになると、操作量MVの上昇に応じた分だけヒータ出力が上昇するので、制御量PVが上昇し、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となる。これにより、操作量上限値OHがOH1からOH2に変更され、このOH2が最大値100%に向かって徐々に上昇していく。このとき、操作量出力部5から出力される操作量MVは操作量上限値OH=OH2の制限を受けつつ上昇するので、ヒータ出力が急激に上昇することはない。
【0044】
以上のように、本実施の形態では、制御量変化率ΔPVが閾値THD以上となるまで操作量上限値OHを低い数値に維持しておくことにより、ブレーカがONになる前に操作量上限値OHが高い数値になってしまうこと、すなわち急激にヒータ出力が100%付近まで高くなってしまうことを回避できる。これにより、本実施の形態では、ヒータの破損を防ぐことができる。
【0045】
本実施の形態では、制御量変化率ΔPVを判断指標にしているので、設定値SPが閾値THS未満から閾値THS以上になるケースであれば、本実施の形態が機能する設定値SPは細かく特定されることはない。すなわち、判断指標自体の汎用性が高く、利便性のよい方法と言える。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、上記発明の原理2に対応する例である。第1の実施の形態と同様に、ヒータによる昇温を代表的な適用対象として説明するが、本発明は原理的には温度の制御に限るものではなく、他の制御に適用してもよい。本実施の形態においても、制御装置の構成は第1の実施の形態と同様であるので、
図1の符号を用いて説明する。
【0047】
次に、本実施の形態の制御装置の動作を
図4を参照して説明する。
図4は制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4のステップS100〜S104の処理は第1の実施の形態で説明したとおりなので、説明は省略する。
【0048】
次に、本実施の形態の上限値調整部6は、設定値SPが閾値THS以上であっても(
図4ステップS103においてYES)、制御量PVが予め規定された閾値THPより低い場合には(
図4ステップS110においてNO)、操作量上限値OHを低い数値OH1のまま維持する(
図4ステップS104)。閾値THPは、変更前の設定値SPの想定される初期値よりも高い値であり、かつ変更後の設定値SPの想定値以下の値に予め設定される。
【0049】
上限値調整部6は、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量PVが閾値THP以上となった場合(ステップS110においてYES)、操作量上限値OHを予め規定された高い数値OH2に変更する(
図4ステップS106)。
【0050】
第1の実施の形態で説明したとおり、数値OH2は複数の値をとり得る。つまり、制御量PVが閾値THP以上となって、ステップS110の判定がYESとなる度に、操作量上限値OHを直前の値に対して所定幅ΔOHだけ増やすようにすればよい(ステップS106)。また、数値OH2を固定値としてOH1からOH2に1回だけ変更できるようにしてもよいが、その場合にはヒータ出力が急激に上昇しないように設定しておく必要がある。
【0051】
図4のステップS107,S108の処理は第1の実施の形態で説明したとおりなので、説明は省略する。
制御装置は、
図4のステップS100〜S104,S110,S106〜S108の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(
図4ステップS109においてYES)、制御周期毎に実行する。
【0052】
図5(A)、
図5(B)は本実施の形態の制御装置の動作例を示す図であり、
図5(A)は設定値SPおよび制御量PVの変化を示す図、
図5(B)は操作量出力部5から出力される操作量MV、リミット処理部4に設定される操作量上限値OH、およびヒータ出力の変化を示す図である。
【0053】
図5(A)、
図5(B)の例では、時刻t1より前の時点において設定値SPが閾値THS(例えば100℃)より低いので、操作量上限値OHがOH1=50%に維持されている。時刻t1において設定値SPが40℃から300℃に変更されると、操作量出力部5から出力される操作量MVが上昇する。このとき、設定値SPは閾値THS以上になったものの、ヒータのブレーカがOFFのままであり、ヒータに電力が供給されないために、ヒータ出力は0%のままであり、制御量PVは上昇しない。したがって、制御量PVが閾値THP(例えば80℃)より低いので、操作量上限値OHがOH1=50%に維持されている。
【0054】
次に、時刻t2においてヒータのブレーカがONになると、操作量MVの上昇に応じた分だけヒータ出力が上昇するので、制御量PVが上昇し、時刻t3において制御量PVが閾値THP以上となる。これにより、操作量上限値OHがOH1からOH2に変更され、このOH2が最大値100%に向かって徐々に上昇していく。このとき、操作量出力部5から出力される操作量MVは操作量上限値OH=OH2の制限を受けつつ上昇するので、ヒータ出力が急激に上昇することはない。
【0055】
以上のように、本実施の形態では、制御量PVが閾値THP以上となるまで操作量上限値OHを低い数値に維持しておくことにより、ブレーカがONになる前に操作量上限値OHが高い数値になってしまうこと、すなわち急激にヒータ出力が100%付近まで高くなってしまうことを回避できる。
【0056】
なお、本実施の形態では、閾値THPを1つの値としているが、これに限るものではなく、閾値THPとして複数の値が上限値調整部6に予め設定されており、この複数の閾値THPの各々に対して操作量上限値OH=OH2が予め設定されるようにしてもよい。この場合、閾値THPの値が高くなるほど、対応する操作量上限値OH=OH2の値も高くなる。
【0057】
上限値調整部6は、設定値SPが閾値THS以上に変更された後に、制御量PVが複数の閾値THPのうちいずれかの閾値THP以上となった場合(ステップS110)、操作量上限値OHを、PV≧THPが成立する閾値THPのうちの最も高い閾値THPに対応する数値OH2に変更すればよい(ステップS106)。これにより、設定値SPと制御量PVの両方およびその変化過程を利用して、特定の昇温工程などに特化したきめ細かなインターロック機能を実現できる。
【0058】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図6は本発明の第3の実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図であり、
図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第1の実施の形態に上記発明の原理3を適用したものに対応する例である。第1の実施の形態と同様に、ヒータによる昇温を代表的な適用対象として説明するが、本発明は原理的には温度の制御に限るものではなく、他の制御に適用してもよい。
【0059】
本実施の形態の制御装置は、設定値取得部1と、制御量入力部2と、操作量算出部3と、リミット処理部4と、操作量出力部5と、上限値調整部6と、制御量PVが予め規定された閾値THG以上で、制御量変化率ΔPVが予め規定された閾値THE以上となった場合に、操作量上限値OHを数値OH2よりも低い、予め規定された数値OH3に変更する上限値抑制部7とを備えている。
【0060】
次に、本実施の形態の制御装置の動作を
図7を参照して説明する。
図7は制御装置の動作を示すフローチャートである。
図7のステップS100〜S106の処理は第1の実施の形態で説明したとおりなので、説明は省略する。ただし、本実施の形態では、制御量PVは、制御量入力部2を介して上限値抑制部7にも入力される。
【0061】
上限値抑制部7は、制御量PVが閾値THG以上で(
図7ステップS111においてYES)、制御量変化率ΔPVが閾値THE以上となった場合(
図7ステップS112においてYES)、操作量上限値OHを予め規定された低い数値OH3に変更する(
図7ステップS113)。
【0062】
閾値THGは、変更後の設定値SPの想定値以下の値で、かつ閾値THPよりも高い値であり、ヒータなどの操作部の破損が生じる可能性がある高温の値に予め設定される。閾値THEは、制御量PVが閾値THG以上の高温のときに、ヒータなどの操作部の破損の可能性が高まる値に予め設定される。
【0063】
数値OH3は、数値OH2よりも低い値であり、制御量PVが閾値THG以上の高温のときに、ヒータなどの操作部の破損の可能性を低減することができる値として予め設定される。本実施の形態では、例えばOH3=50%である。なお、数値OH3はOH1と同じ値でもよいし、異なる値でもよい。
【0064】
図7のステップS107,S108の処理は第1の実施の形態で説明したとおりなので、説明は省略する。
制御装置は、
図7のステップS100〜S106,S111〜S113,S107,S108の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(
図7ステップS109においてYES)、制御周期毎に実行する。
【0065】
以上により、本実施の形態では、第1の実施の形態と比較して、さらに安全性を改善することができる。
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態に発明の原理3を適用しているが、第2の実施の形態に発明の原理3を適用してもよい。第2の実施の形態に発明の原理3を適用する場合には、
図4のステップS104およびS106とステップS107との間に、ステップS111〜S113の処理を追加すればよい。
【0066】
第1〜第3の実施の形態で説明した制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。