(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調節部は、前記糸捕捉部材の停止位置を決定するストッパーであり、当該ストッパーは前記糸捕捉部材との当接位置を変更調節可能であることを特徴とする請求項1記載の穴かがりミシン。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[穴かがりミシンの概略]
以下、図面を参照して、本発明にかかる穴かがりミシン100について説明する。
図1は穴かがりミシン100の斜視図、
図2はその内部構成の概略図である。なお、以下の説明において、水平方向であって穴かがりミシン100による布送り方向をY軸方向、水平方向であってY軸方向に直交する方向をX軸方向、鉛直上下方向をZ軸方向というものとする。また、必要に応じて、
図1に示すように、Y軸方向における一方を「前」、他方を「後」とし、X軸方向における一方を「右」、他方を「左」とする。
【0014】
穴かがりミシン100は、被縫製物を載置する載置部としての送り板71を備え、当該送り板71を一定の送り方向(以下、「布送り方向(Y軸方向)」という)に沿って移動させることにより被縫製物の送りを行う送り機構としての布送り機構70と、縫い針1を上下動させる針上下動機構20と、縫い針を送り方向に直交する方向(X軸方向)に沿って移動させる移動機構としての針振り機構270と、送り板71の上で被縫製物を上から保持する押さえ部材としての布押さえ41と、布押さえ41により送り板71の上で被縫製物を保持する押さえ上げ機構40と、穴かがり縫いを行うボタン穴を被縫製物に形成するメス機構60と、上糸に張力を付与する糸調子装置11と、上糸に下糸を絡める釜機構と、上糸の切断を行う上糸切断装置(図示略)と、下糸の切断を行う下糸切断機構50と、下糸を捕捉する下糸捕捉機構80と、上記各部の動作制御を行う制御装置90と、上記各構成を格納保持するミシンフレーム101とを備えている。そして、布送り機構70(送り機構)と針上下動機構20と針振り機構270との協働により送り板71(載置部)に載置された被縫製物に対して穴かがり縫いを行う。
なお、上記穴かがりミシン100の糸調子装置11、上糸切断装置は、従来周知のものと同一なので詳細な説明は省略する。
また、上記穴かがりミシン100は穴かがり縫いを行う穴が形成される被縫製物を縫製の対象とするミシンである。なお、この穴はボタン穴に限らず、穴かがり縫いを要する全ての穴を対象とすることが可能だが、ここではY軸方向に沿ったボタン穴を例示する。
【0015】
[ミシンフレーム]
ミシンフレーム101は、穴かがりミシン100の下部を構成すると共にY軸方向に沿って延在するベッド部102と、ベッド部102の後端部から立設された立胴部103と、立胴部103の上端部からY軸方向に沿って前方に向かって延出されたアーム部104とから構成されている。
上記ベッド部102はほぼ直方体状に形成されており、その長方形の上面部は長辺がY軸方向に沿っている。そして、ベッド部102の上面は縫製時には被縫製物が載置される作業領域となる。
立胴部103は、ベッド部102の上面後端部側において、左側に寄せて配置されている。これにより、ベッド部102の上面のほぼ右半分は、Y軸方向の全長に渡って被縫製物を載置する作業領域とすることが可能となっている。
アーム部104は、立胴部103の上端部から前方に向かってベッド部102の前端部近くまで延出されている。なお、以下の説明では、アーム部104の前端部端面を面部105というものとする。
【0016】
[針上下動機構]
針上下動機構20は、縫い針1を保持する針棒21の上下動動作を付与する機能を有する。また、針棒21は上下動を行いつつ、針上下動機構20に併設された針振り機構270によりX軸方向に沿って揺動し、縫い針1は針振りを行う。この針上下動機構20は、
図2に示すように、縫い針1を下端部で保持する針棒21と、針棒21の上下動の駆動源となるサーボモーターとしてのミシンモーター22と、ミシンモーター22の出力軸に直結された上軸23と、上軸23の前端部に固定装備された釣合錘24と、釣合錘24の回転中心からの偏心位置に上端部が連結されたクランクロッド25を備えている。
【0017】
上記上軸23は、アーム部104の内部でY軸方向に沿った状態で回転可能に支持されている。そして、ミシンモーター22はその出力軸が上軸23連結されている。
クランクロッド25は、その下端部が針棒抱き31を介して針棒21に対してY軸回りに回動可能に連結されている。従って、ミシンモーター22の駆動により上軸23を通じて釣合錘24が回転を行うと、その偏心位置に連結されたクランクロッド25の上端部は円運動を行うが、その下端部では針棒21に沿った上下方向の往復動作のみが伝達される。
【0018】
[針振り機構]
針振り機構270は、針棒21をその長手方向に沿って往動可能に支持する揺動台26と、針振りの駆動源となる針振りモーター27(
図10参照)と、針振りモーター27により往復回動を行う揺動軸28と、揺動軸28の前端部に固定装備されて揺動台26に揺動動作を付与する揺動アーム29とを備えている。
【0019】
揺動台26は、アーム部104の内側であって面部105のすぐ近傍に配置され、その上端部がY軸方向に沿った段ネジ30により揺動可能に支持されている。この揺動台26は、針棒21を挿通する二つのメタル軸受け(図示略)により、縫い針1側を下方に向けた状態で針棒21を上下に摺動可能に支持している。
【0020】
揺動軸28は、アーム部104内において、Y軸方向に沿った状態で回転可能に支持されている。この揺動軸28は、その後端部側から針振りモーター27により回動動作が入力される。
また、揺動アーム29は、その揺動端部が下方に向けられた状態で揺動軸28の前端部側に軸支されており、当該揺動端部にはY軸回りに回動可能な状態で角駒32が装備されている。この角駒32は、揺動台26の凹部に嵌合している。揺動台26の凹部は、角駒32のX軸方向における両側面に摺接する対向面を備え、角駒32のZ軸方向の位置変位を許容する。従って、揺動アーム29が下方を向いた状態でX軸方向に揺動を行うと、揺動台26に対して角駒32の上下方向の変位を許容しつつX軸方向の揺動が付与される。
これにより、ミシンモーター22による針棒21の針落ちタイミングに合わせて針棒21を所定量だけ揺動させることにより、X軸方向における任意の位置に針落ちを行うことが可能となっている。
【0021】
[釜機構]
釜機構は、ベッド部102内においてY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された下軸33と、下軸33により回転が付与される垂直釜34と、下軸33にトルク伝達を行うために上軸23に装備された主動スプロケット35と、下軸33に装備された図示しない従動スプロケットと、主動スプロケット35と従動スプロケットとの間に掛け渡された歯付きのタイミングベルト36とを備えている。
上軸23から下軸33に対しては二倍速の回転が伝達されるように主動スプロケット35と従動スプロケットとの歯数が設定されており、縫い針1の一回の上下動につき、垂直釜34は二回転を行うようになっている。
垂直釜34は、下軸33に固定装備されると共に剣先を備える外釜と、ボビンケースを保持して回転を行わない内釜とを備えている。この垂直釜34としては、前方と後方のいずれの布送りに対してもパーフェクトステッチを維持することが出来るいわゆるDP釜が使用されている。
【0022】
[メス機構]
メス機構60は、Y軸方向に沿った切れ目により穴かがり縫いを行う穴(ボタン穴)を形成する布切りメス61と、当該布切りメス61を保持するベース部材62と、ベース部材62を下端部で保持すると共にアーム部104により昇降可能に支持されたメス支持棒(図示略)と、メス支持棒を介して布切りメス61に昇降動作を付与する駆動源としてのソレノイド63(
図10参照)とを備えている。
布切りメス61は、縫い針1の後方に併設されており、その刃面がY−Z平面に平行になるようにベース部材62に支持されている。従って、布切りメス61を下降させることにより、被縫製物にY軸方向に沿ったボタン穴を形成することができる。
ベース部材62は布切りメス61を着脱可能としており、歯幅の異なる布切りメス61と交換してサイズの異なるボタン穴の形成を可能としている。
メス支持棒は、図示しない引っ張りバネにより常に上方に付勢されており、ソレノイド63は切断時に引っ張りバネに抗して布切りメス61を下降させるようになっている。
【0023】
[布送り機構]
布送り機構(送り機構)70は、ベッド部102の上面に配置された長方形状の送り板71と、ベッド部102内において二本のガイドシャフト72,72によりY軸方向に沿って滑動可能に支持された送りベース73と、Y軸方向の布送りの駆動源である送りモーター74と、二つのプーリー75,75の間に張設されたタイミングベルト76とを備えている。
上記ガイドシャフト72,72は、いずれもY軸方向に平行な状態でベッド部102内に固定支持されている。
【0024】
送り板(載置部)71は、その長辺がY軸方向に平行となるようにベッド部102の上面に配置され、その前端部近傍であってX軸方向のほぼ中央部にはY軸方向に沿った長穴711が上下方向に貫通形成されている。長穴711は、針振り幅よりも十分に広い幅で形成され、送り板71の下側には、布切りメスが挿通されるY軸方向に沿ったスリット状の開口部と針振りを許容するX軸方向に沿った針穴とが形成された針板82(
図1では図示略)が配置されている。
【0025】
送りベース73は、図示しない滑り軸受けを介してガイドシャフト72,72により滑動可能に支持されており、その上部において送り板71を保持している。
二つのプーリー75,75の一方は、送りモーター74の出力軸に取り付けられており、もう一方は、ベッド部102の内壁に回転可能に支持されている。そして、これらのプーリー75,75はいずれもX軸回りに回転可能であると共にこれらの相互間に掛け渡されたタイミングベルト76がY軸方向に沿った状態となるように配置されている。
そして、このタイミングベルト76は、その一部が送りベース73の下部に連結されており、送りモーター74が回転駆動を行うと、タイミングベルト76を介して送りベース73及び送り板71がY軸方向に移動を行うようになっている。
【0026】
従って、送り板71の上面において布送り41によって保持された被縫製物は、送りモーター74に対する動作制御によってY軸方向において任意に移動位置決めを行うことが可能となっている。そして、前述したように、縫い針1は、針上下動機構20によりX軸方向について任意の位置に針落ちを行うことが出来るので、当該針上下動機構20と布送り機構70との協働により、被縫製物に対してX−Y平面における任意の位置に針落ちを行うことが可能となっている。
【0027】
[押さえ上げ機構]
押さえ上げ機構40は、送り板71の上面で被縫製物を押さえる布押さえ41(押さえ部材)と、布押さえ41を支持する押さえアーム43と、押さえアーム43を下方に押圧する加圧体としてのスライドローラー44と、スライドローラー44に抗して布押さえ41を昇降させる押さえモーター49とを備えている。
押さえアーム43はY軸方向に沿って長尺であり、その後端部が送り板71の上面においてX軸回りに回動可能に支持されている。これより、押さえアーム43の前端部に支持している布押さえ41を上下動させることができる。
布押さえ41は、X−Y平面に沿った矩形の平板であり、中央部には、穴かがり縫い目が形成可能な範囲で開口が形成されている。
スライドローラー44は、Y軸方向に沿った押さえアーム43の上面に沿って転動するので、押さえアーム43がY軸方向に沿って移動する場合でも、当該移動を妨げることなく下方への押圧力を付与することができる。
【0028】
[下糸捕捉機構]
図3は下糸切断機構50及び下糸捕捉機構80の底面図である。
図示のように、下糸捕捉機構80は、送り板71の下側でベッド部102に固定装備された針板台81と、針板台81の上面に装備された針板82と、針板台81の底面側に設けられた糸たぐり部材83及び糸たぐり腕84と、針板台81の底面側に設けられた糸捕捉部材85及び糸捕捉腕86と、糸たぐり腕84に糸捕捉動作の回動力を付与する伝達リンク87と、伝達リンク87を上下に進退移動させるモーター、ソレノイド又はエアシリンダーからなるアクチュエーター56とを主に備えている。
【0029】
針板台81は、X−Y平面に沿った略矩形の平板であり、中央部には開口部811が形成されている。そして、この針板台81の開口部811に懸架状態で針板82が装備されている。針板82は、Y軸方向に沿った長尺な平板であり、布切りメス61が挿通されるY軸方向に沿ったスリット状の挿通孔と針振りを許容するX軸方向に沿ったスリット状の針穴とが隣接して貫通形成されている。つまり、針板台81における針落ち位置及び布切りメス61の下降位置に針板82が配置されている。
【0030】
針板台81の開口部811は、これら針落ち及び布切りメス61の下降を許容することができる範囲で形成されると共に、その内側に後述する下糸切断機構50の上下のメス51,52が配置され、これら上下のメス51,52による切断動作も許容できるようにより広く形成されている。
【0031】
糸たぐり腕84は、X−Y平面に沿った板状のベルクランクであり、針板台81の底面の開口部811の後側に段ネジによってZ軸回りに回動可能に取り付けられている。そして、回動軸となる段ネジから概ね前方に向かって延出された一方の回動腕部に糸たぐり部材83の基端部がネジにより固定装備されている。また、回動軸となる段ネジから概ね後方に向かって延出された他方の回動腕部には、伝達リンク87の一端部がZ軸回りに回動可能に連結されている。そして、下糸の捕捉動作を行う際には、伝達リンク87から左方への張力が入力され、糸たぐり腕84は、
図3における時計回りの回動動作を行う。
【0032】
また、この糸たぐり腕84は、その回動中心位置の近傍に前方に突出した突起部841が形成されている。この突起部841は、後述する糸捕捉腕86の外縁部に形成された凸部861に当接するように配置され、下糸の捕捉動作を行う際に、糸捕捉腕86に対して糸たぐり腕84とは逆回りの連動回動を行うように作用する。
【0033】
糸たぐり部材83は、X−Y平面に沿った長尺の板状であり、その基端部が糸たぐり腕84の回動端部に固定連結され、先端部は概ね前方に延出されている。そして、糸たぐり部材83は、下糸の捕捉動作を行う際に、糸たぐり腕84と一体的に回動動作を行う。
この糸たぐり部材83は、下糸の捕捉動作の開始前には、針穴の左方に待機しており、下糸の捕捉動作を開始すると右方に回動する。これにより、糸たぐり部材83の右縁部で下糸に当接し、右方に位置する糸捕捉部材85側に下糸を寄せることができる。
【0034】
糸捕捉腕86は、X−Y平面に沿った板状のベルクランクであり、針板台81の底面の開口部811の右側に段ネジによってZ軸回りに回動可能に取り付けられている。そして、回動軸となる段ネジから概ね前方に向かって延出された一方の回動腕部に糸捕捉部材85の基端部がネジにより固定装備されている。また、回動軸となる段ネジから概ね右方に向かって延出された他方の回動腕部には、糸捕捉腕86に対して
図3における反時計回りの回動を付与する引っ張りバネ88が連結されている。なお、引っ張りバネ88の反対側の端部は針板台81にネジ止めされている。
また、糸捕捉腕86は、その回動軸となる段ネジの左方に延出された凸部861を有しており、当該凸部861の後側の外縁部は、前述した糸たぐり腕84の突起部841が当接する。この凸部861の機能については後述する。
【0035】
糸捕捉部材85は、X−Y平面に沿った平板状であり、基端部は後方に向かって直線状に延びており、中間部で左方に90°屈曲し、先端部は略矩形となっている。
この糸捕捉部材85の先端部は、その左縁部に左側に開口したV字状の切り欠き851が形成されている。下糸を捕捉する際には、糸たぐり部材83は時計回りに回動し、糸捕捉部材85は反時計回りに回動して、切り欠き851の最深部(最も右側)に下糸を寄せて、糸たぐり部材83の右縁部が切り欠き851の最深部を通過する際に下糸を捕捉するようになっている。
【0036】
なお、
図4に示すように、糸捕捉部材85は糸たぐり部材83の上側に位置しており、糸捕捉部材85の下面と糸たぐり部材83の上面とが互いに摺接する。このため、下糸を捕捉する際には、糸たぐり部材83と糸捕捉部材85との間に引き込まれて挟持された状態となる。これにより、下糸に対して下方への張力を働き、被縫製物は幾分下方に引き込まれた状態となる。後述する下糸切断機構50は、この状態で下糸の切断を行うので、被縫製物の下糸の残端を短くすることができる。
【0037】
ここで、前述した糸捕捉腕86の凸部861の機能について説明する。
糸捕捉腕86は、前述したように、引っ張りバネ88により反時計回りに回動力が付与されており、これにより、糸捕捉部材85には、糸捕捉時の動作方向への回動力が付与された状態にある。
一方、糸たぐり腕84は、糸捕捉動作開始前には、糸たぐり部材83が待機位置(針穴より左方となる位置)となるように、伝達リンク87から反時計回りの回動力が入力されている。このとき、糸たぐり腕84の突起部841は、糸捕捉腕86の凸部861を押圧し、引っ張りバネ88に抗して糸捕捉腕86を時計回りに押し戻して、糸捕捉部材85が待機位置(針穴より右方となる位置)となるように維持する。
さらに、糸捕捉時には、糸たぐり腕84には伝達リンク87から時計回りの回動力が入力されるので、糸捕捉腕86は、引っ張りバネ88の張力に従って反時計回りに回動する。このため、糸たぐり部材83は右方に回動し、糸捕捉部材85は連動して左方に回動する。
つまり、糸捕捉腕86の凸部861は、糸たぐり腕84の突起部841との協働により、糸たぐり部材83及び糸捕捉部材85が各々の待機位置に位置した状態から、互いに接近する方向に連動して回動させる。これにより、前述したように、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部に下糸を導いて保持することができる。
【0038】
また、下糸捕捉機構80は、下糸を捕捉する糸捕捉部材85の捕捉時の停止位置をX軸方向について調節する調節部としてのストッパー89を備えている。糸捕捉部材85の捕捉時の停止位置をX軸方向について調節することにより、下糸の切断時における傾き角度を調節することができる。
【0039】
ストッパー89は、
図3及び
図5に示すように、頭部891の外周が糸捕捉部材85の基端部の左縁部に当接する偏心ネジによって構成されている。即ち、このストッパー89は、針板台81の底面に形成されたネジ穴に螺合するネジ軸892が頭部891の中心から偏心した位置に設けられている。これにより、ストッパー89を回転操作することにより、X軸方向における頭部891の偏心量が変動し、
図6(A)及び
図6(B)に示すように、糸捕捉部材85の糸捕捉動作時の停止位置を調節することができる。
なお、符号893は、回転調節を行うストッパー89の緩み止めとなるナットである。
【0040】
このストッパー89は、
図7に示すように、頭部891の偏心量がX軸方向について左右いずれも等しい場合(中立位置とする)には、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部の捕捉時の停止位置を左右いずれにも振られていない状態(中立位置とする)の縫い針1の先端の直下位置と一致させることができる。
また、ストッパー89は、
図8に示すように、頭部891の偏心量をX軸方向左側に最も大きくした場合には、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部の捕捉時の停止位置を左側に最も大きく振られた状態の縫い針1の先端の直下位置と一致させることができる。
さらに、ストッパー89は、
図9に示すように、頭部891の偏心量をX軸方向右側に最も大きくした場合には、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部の捕捉時の停止位置を右側に最も大きく振られた状態の縫い針1の先端の直下位置と一致させることができる。
【0041】
[下糸切断機構]
下糸切断機構50は、
図3に示すように、針板台81の底面であって開口部811の左前側において基端部がZ軸回りに回動可能に連結された上メス51と、上メス51の他端部の下面にZ軸回りに回動可能に連結された下メス52と、下メス52の下面に当該下メス52と同軸でZ軸回りに回動可能に連結された板バネ53と、上メス51を下糸捕捉機構80の糸たぐり腕84と連結して連動して回動させる連動リンク54とを備えている。
また、この下糸切断機構50の上メス51,下メス52及び板バネ53は、針板82の下側であって下糸捕捉機構80の糸たぐり部材83及び糸捕捉部材85の上側となるように配置されている。
【0042】
上メス51は、X−Y平面に沿った板状であって、前述したように、基端部がZ軸回りに回動可能に針板台81に支持されており、回動端部には下糸を切断する刃先が形成されている。この上メス51の刃先は、回動端部の前側の縁部に概ねX軸方向に沿うように形成されている。そして、切断動作前には、刃先が針穴に対して左後方となる待機位置にあり、切断時には、上メス51が
図3における反時計回りに回動して、その刃先が針穴のすぐ左側に接近するように配置されている。
なお、切断時の上メス51の回動動作は、連動リンク54を介して糸たぐり腕84から入力される。
【0043】
下メス52は、X−Y平面に沿った板状であって、その回動中心から左方に延出された回動端部に上メス51との協働により下糸を切断する刃先が形成されている。この下メスの刃先は、回動端部の後側の縁部に概ねX軸方向に沿うように形成されている。そして、切断動作前には、下メス52の刃先は上メス51の刃先の前側で対向する待機位置にあり、切断時には、上メス51の回動に伴って刃先が後方に回動し、針穴の下方に達してから相互の刃先が閉じて切断を行うようになっている。
この下メス52は、前側の縁部に前方に突出した突起521が形成されており、上メス51の反時計回りの回動により突起521が針板台81の開口部811の内縁部に当接し、上メス51に対して刃先が閉じる方向に回動が行われる。
【0044】
板バネ53は、X−Y平面に沿った板状であって、その回動中心から左方に延出された延出端部を下方から見た形状が上メス51の回動端部とほぼ一致している。そして、下糸の切断時には、下メス52の回動端部が上メス51の回動端部と板バネ53の延出端部との間に進入する。これにより、上メス51と下メス52との間では下糸の切断が行われ、下メス52と板バネ53との間では垂直釜34から延びる下糸の切断端部が挟持される。
なお、符号55は、縫製開始前に下メス52を刃先が開く方向に回動させて下糸を解放させる作動レバーである。
【0045】
[穴かがりミシンの制御系]
図10は穴かがりミシン100の制御系を示すブロック図である。穴かがりミシン100は、上記各構成の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置90を備えている。そして、制御装置90は、各種の制御プログラムを記憶するROM92と、制御プログラムを実行するCPU91と、CPU91の作業領域となるRAM93と、穴かがり縫いの縫製パターンデータ及びミシンの動作制御に要する各種の設定データを記憶すると共に記憶内容を書き換え可能なEEPROM96とを備えている。
また、CPU91には、ミシンモーター22及びその回転角度を検出するエンコーダー221と接続されたミシンモータードライバー22a、針振りモーター27を駆動する針振りモータードライバー27a、送りモーター74を駆動する送りモータードライバー74a、押さえモーター49及びその回転角度を検出するエンコーダー46と接続された押さえモータードライバー49a、下糸の捕捉動作と下糸の切断動作とを行うアクチュエーター56のドライバー56a、布切りメス61を昇降させるソレノイド63を駆動させるソレノイドドライバー63a及び糸調子装置11の糸張力駆動源である糸調子ソレノイド111を駆動させる糸調子ソレノイドドライバー111aが図示しないインターフェイスを介して接続されている。
また、CPU91には、穴かがり縫いの縫製パターンデータの選択等の縫製に関する各種設定の入力を行う操作パネル94と、縫製の開始を入力するスタートスイッチ95とが接続されている。
【0046】
[穴かがりミシンの縫製動作]
上記穴かがりミシン100の縫製動作について説明を行う。
上記穴かがりミシン100のEEPROM96に記録された縫製パターンデータは、ボタン穴の周囲に形成する穴かがり縫いの一針ごとの針落ち位置を示すデータが記録されている。
制御装置90のCPU91は、操作パネル94により選択された所定の縫製パターンデータをEEPROM96から読み出すと、第一針から最終針までの全針についてそれぞれの針落ち位置に順番に運針するための針振りモーター27及び送りモーター74の動作量を算出する。
【0047】
そして、スタートスイッチ95が押下されると、CPU91は、ミシンモーター22の駆動を開始して縫製を開始する。
さらに、ミシンモーター22の駆動開始以降は、エンコーダー221によりその軸角度を読み取り、所定の軸角度に到達すると、算出された針振りモーター27及び送りモーター74の動作量に基づいて駆動を行い、縫い針1をX軸方向における目標値置に位置決めし、被縫製物をY軸方向における目標位置に位置決めして、一針ごとに目標の針落ち位置に運針を行う。
そして、縫製パターンデータに定められた全ての針落ち位置に対する運針が終わると、CPU91は、ミシンモーター22を停止させる。
【0048】
なお、メス機構60によるボタン穴の形成は、穴かがり縫いの前と後のいずれで行うかを予め設定することができる。
穴かがり縫いの前に設定されている場合には、ミシンモーター22の駆動開始前にメス機構60によるボタン穴の形成が行われ、その後、ボタン穴の周囲に穴かがり縫い目が形成される。
また、穴かがり縫いの後に設定されている場合には、先にミシンモーター22の駆動を開始してボタン穴の形成予定位置の周囲に穴かがり縫い目が形成され、その後に、メス機構60によるボタン穴の形成が行われる。
【0049】
さらに、CPU91は、上糸と下糸の切断を行う。
下糸の切断動作開始前は、下糸捕捉機構80の糸たぐり部材83が針穴の左方の待機位置に、糸捕捉部材85が針穴の右方の待機位置に位置している。そして、これらの状態から、アクチュエーター56を作動させて、糸たぐり腕84を
図3における時計回りに回動させ、糸たぐり部材83を針穴に向けて回動させる。また、糸捕捉腕86が糸たぐり腕84に連動して
図3における反時計回りに回動し、糸捕捉部材85は針穴に向かって回動する。
その後、糸捕捉部材85は、ストッパー89に当接して所定位置で回動を停止するが、糸たぐり部材83は針穴の下方を通過するまで回動動作が継続される。これにより、先に停止した糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部において下糸が捕捉される。
【0050】
また、糸たぐり腕84の時計回りの回動に伴い、下糸切断機構50の上メス51は待機位置から
図3における反時計回りに回動を行い、針穴に向かって前進する。そして、下糸捕捉機構80により下糸が捕捉されると、下糸切断機構50では、上メス51の刃先と下メス52の刃先とが閉じられ、被縫製物と下糸捕捉機構80との間で張られた下糸が切断される。
その後、CPU91は、押さえモーター49により布押さえ41を上昇させて被縫製物を解放し、縫製が終了する。
【0051】
ここで、縫製パターンデータには、最終針の針落ち位置Lが、
図7(A)に示すように、ボタン穴Bの延長線上に設定されているものと、
図8(A)に示すように、ボタン穴Bの延長線上に対して左側に設定されているものと、
図9(A)に示すように、ボタン穴Bの延長線上に対して右側に設定されているものとがある。
【0052】
最終針の針落ち位置Lが、ボタン穴Bの延長線上に設定されている場合には、予め、ストッパー89の頭部891の偏心量が左右等しくなる位置にストッパー89を回転調節する。これにより、
図7(B)に示すように、下糸捕捉機構80に捕捉された下糸は被縫製物から糸捕捉部材85にかけてほぼZ軸方向に沿った状態となり、この状態で下糸切断機構50が切断を行うことにより、被縫製物側の下糸の残端をより短くすることができる。
【0053】
また、最終針の針落ち位置Lが、ボタン穴Bの延長線上の左側に設定されている場合には、予め、ストッパー89の頭部891の左側への偏心量が大きくなる位置にストッパー89を回転調節する。これにより、
図8(B)に示すように、下糸捕捉機構80に捕捉された下糸は被縫製物から糸捕捉部材85にかけてほぼZ軸方向に沿った状態となり、この状態で下糸切断機構50が切断を行うことにより、被縫製物側の下糸の残端をより短くすることができる。
なお、最終針の針落ち位置Lと糸捕捉時の糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部のX軸方向の位置が一致するようにストッパー89の偏心量を調節することがより望ましい。
【0054】
また、最終針の針落ち位置Lが、ボタン穴Bの延長線上の右側に設定されている場合には、予め、ストッパー89の頭部891の右側への偏心量が大きくなる位置にストッパー89を回転調節する。これにより、
図9(B)に示すように、下糸捕捉機構80に捕捉された下糸は被縫製物から糸捕捉部材85にかけてほぼZ軸方向に沿った状態となり、この状態で下糸切断機構50が切断を行うことにより、被縫製物側の下糸の残端をより短くすることができる。
この場合も、最終針の針落ち位置Lと糸捕捉時の糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部のX軸方向の位置が一致するようにストッパー89の偏心量を調節することがより望ましい。
【0055】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記穴かがりミシン100の下糸捕捉機構80は、糸捕捉部材85の下糸の捕捉する際の停止位置をボタン穴の長手方向に直交する方向(X軸方向)について調節するストッパー89を備えるので、ボタン穴Bに対してX軸方向の左右いずれに穴かがり縫いの最終針の針落ちが行われる場合でも、同じ方向に寄せて下糸を捕捉することができ、被縫製物から捕捉位置に渡る下糸の傾斜を低減して垂直に近づけることができ、下糸切断後の残端をより短くすることが可能となる。
特に、糸捕捉部材85の下糸の捕捉する際の停止位置をX軸方向について調節する調節部をストッパー89により構成しているので、簡易な構成で簡易な操作により下糸捕捉位置の調節を行うことが可能となる。
また、調節部をストッパー89により構成することにより、既存の穴かがりミシンについても、容易な改造により調節部を設けることができ、下糸切断後の残端をより短くするという効果を容易に実現することが可能となる。
【0056】
[ストッパーの他の例]
上記調節部としてのストッパー89は偏心ネジを例示したが、糸捕捉部材85のX軸方向の停止位置を調節可能な他の部材を使用しても良いことは言うまでもない。
例えば、
図11に示すように、偏心した位置に貫通孔が形成された円形のカラー89Aをストッパー89と同じ位置にネジ891Aによって設けても良い。この場合、ネジ891Aを緩めてカラー89Aを回転させることで糸捕捉部材85側の偏心量を変更し、ネジ891Aを再び締結する。これにより、糸捕捉部材85のX軸方向の停止位置を調節することができる。
【0057】
また、
図12に示すように、X軸方向にスライドして位置調節を行う調節体89Bをストッパー89と同じ位置に設けても良い。
この調節体89Bは、針板台81の底面に密着する底板部891Bと、当該底板部891Bの右端部から直角に立ち上げられてY−Z平面に沿った立壁部892Bとからなり、立壁部892Bの右側壁面が糸捕捉部材85に当接してX軸方向について所定位置に停止させる。
また、底板部891Bの中央にはX軸方向に沿った長穴893Bが貫通形成されており、当該長穴893Bにネジ894Bを挿通して、針板台81の底面に固定される。
この場合、ネジ894Bを緩めて調節体89Bの取り付け位置をX軸方向について調節し、ネジ894Bを再び締結する。これにより、糸捕捉部材85のX軸方向の停止位置を調節することができる。
なお、この調節体89Bは、例えば、金属板の折曲加工や板金加工により形成することができる。
【0058】
[下糸捕捉機構の他の例]
上記実施形態では、下糸捕捉機構80の調節部は、手動操作による調節作業を要するストッパー89を例示したが、これに限らず、捕捉用アクチュエーターで糸捕捉部材85の停止位置を調節する調節部を有する構成としても良い。
例えば、
図13に示す下糸捕捉機構80Cのように、アクチュエーターとして制御装置90のCPU91が動作量を制御可能なモーター88C(例えば、ステッピングモーター等)と、当該モーター88Cの出力軸に設けられた回動アーム881Cと、当該回動アーム881Cの回動端部と糸捕捉腕86の右側の回動腕部とを連結するリンク部材882Cとを備える構成としても良い。なお、この下糸捕捉機構80Cの場合、糸たぐり腕84の突起部841と糸捕捉腕86に連結された引っ張りバネ88とを除去して、糸たぐり腕84と糸捕捉腕86とは連結構造による連動が行われないようにしており、これら以外については下糸捕捉機構80と同じ構成としている。
これにより、CPU91が調節部として機能して、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部をX軸方向について任意に位置決めすることができるので、縫製完了後の下糸の残端をより短くすることが可能となる。
【0059】
下糸捕捉の際の糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部をX軸方向の停止位置については、例えば、操作パネル94から数値入力で設定可能としてもよい。
また、制御装置90のCPU91が、縫製を行うために選択された縫製パターンデータを読み取り、最終針のX軸方向の針落ち位置を算出し、その値に合わせて糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部のX軸方向における停止位置を決定し、下糸を捕捉する際に当該算出した停止位置となるようにモーター88Cを制御しても良い。
その場合、糸捕捉部材85の切り欠き851の最深部のX軸方向における停止位置は、最終針のX軸方向の針落ち位置と一致させることが望ましいが、完全に一致せずに、左右方向について針落ち位置と停止位置とが同方向に寄せるだけでもよい。
これらの場合、縫製パターンを決定すれば自動的に適正な下糸の切断が実行されるので、ミシンのオペレータの作業負担を飛躍的に低減することが可能となる。
【0060】
[その他]
送り機構として被縫製物をY軸方向に沿って移動させる布送り機構70を例示したが、これに限らず、送り機構としては、縫い針1をY軸方向に沿って移動させる機構を設けてもよい。
また、針振り機構270に替えて被縫製物をX軸方向に沿って移動させる移動機構を設けてもよい。