(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581854
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】加工飲食品用の耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3562 20060101AFI20190912BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20190912BHJP
A23F 5/14 20060101ALI20190912BHJP
A23C 9/156 20060101ALN20190912BHJP
A23L 2/02 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
A23L3/3562
A23L2/00 P
A23L2/44
A23F5/14
!A23C9/156
!A23L2/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-175840(P2015-175840)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-51107(P2017-51107A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅廣
(72)【発明者】
【氏名】早川 茂
(72)【発明者】
【氏名】オッシャロエン シワポン
(72)【発明者】
【氏名】松原 幸子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一
【審査官】
池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−188368(JP,A)
【文献】
特開2015−042164(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/075473(WO,A1)
【文献】
特開2014−176323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L3/00−3/54
A23L2/00−2/84
A23F3/00−5/50
A01J1/00−99/00
A23C1/00−23/00
C12Q1/00−3/00
C12N1/00−7/08
A01N1/00−65/48
A01P1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工飲食品に添加するための耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤であって、
プシコース、ソルボースおよびタガトースからなる群から選ばれる一種以上を有効成分とすること、
加工飲食品100質量部に対して2〜20質量部の有効成分とすること、および
前記耐熱性芽胞形成菌が耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌であること、
を特徴とする耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤。
【請求項2】
プシコース、ソルボースおよびタガトースからなる群から選ばれる一種以上を、加工飲食品の製造工程において添加し、加工飲食品100質量部に対して、2〜20質量部含有させることを特徴とする、加工飲食品における耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制方法。
【請求項3】
加工飲食品における耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌による腐敗防止方法である請求項2に記載の増殖抑制方法。
【請求項4】
耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌の増殖が抑制された加工飲食品の製造方法である請求項2に記載の増殖抑制方法。
【請求項5】
耐熱性芽胞形成菌が耐熱性好酸性菌であり、かつ、加工飲食品がpH3〜4.5の酸性飲料である、請求項2ないし4のいずれかに記載の増殖抑制方法。
【請求項6】
耐熱性好酸性菌が、アリシクロバチルス(
Alicyclobacillus)属の細菌である、請求項5に記載の増殖抑制方法。
【請求項7】
耐熱性芽胞形成菌が、フラットサワー菌であり、かつ、加工飲食品がpH5〜7のコーヒー飲料である、請求項2ないし4のいずれかに記載の増殖抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工飲食品用の耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤、加工飲食品の製造工程における耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制方法若しくは耐熱性芽胞形成菌による腐敗を防止する方法に関する。また本発明は、このような耐熱性芽胞形成菌増殖抑制剤を配合した飲食品および耐熱性芽胞形成菌の増殖が抑制された加工飲食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、加工飲食品の菌汚染による腐敗を防止する方法としては、加熱殺菌処理がもっともよく知られているが、バチルス属(Bacillus)などの細菌のように「芽胞」と呼ばれる硬い殻をもった耐熱性の高い細胞構造を形成している菌を加熱により完全に殺菌するには、高温高圧処理や高温長時間処理といった厳しい条件の加熱処理が必要とされる。
【0003】
しかし、高温高圧殺菌や高温長時間殺菌といった処理は、飲食品の本来の食感や風味を著しく損なうことから、加工飲食品の種類によっては適用することに限界があり、そのような厳しい条件下にさらされる機会を減らしつつ、乳化剤等の静菌効果を有する物質を添加するなどの手法が併用されることが多い。
【0004】
例えば、加工飲食品のうち果汁飲料やスポーツ飲料に代表される酸性飲料は、pHが概ね3〜4.5と低いことから、通常の細菌、酵母、カビの殺菌を目的とした加熱細菌条件により商業的無菌を確保するのが通常である。食品衛生法には65℃・10分という比較的低温短時間の殺菌処理方法が規定されている。しかしながら、耐熱性芽胞形成菌は多種多様であり、それらの条件で生育可能な微生物も存在する点から、そのような殺菌処理では、依然として、上記耐熱性芽胞形成菌のひとつである耐熱性好酸性菌による汚染の問題が残る。耐熱性好酸性菌とは、アリシクロバチルス・アシドテレストリス(
Alicyclobacillus acidoterrestris)に代表される、グラム陽性の有芽胞細菌であるアリシクロバチルス(
Alicyclobacillus)属に属する細菌であって、pH4以下の酸性下においても通常の加熱殺菌処理では容易には死滅せず、果汁中のフェルラ酸を異臭原因物質となるグアイアコールに変換させる作用を持つ。
【0005】
また、pHが概ね5〜6.5と酸性飲料よりもpHが高いコーヒー飲料等は、通常、123℃・20分程度の殺菌処理条件が採用されるが、上記耐熱性芽胞形成菌のひとつであるフラットサワー菌(
Bacillus coagulansや
Geobacillus stearothermophilus)による汚染の問題が未だ残る。
【0006】
そこで、上記耐熱性好酸性菌による汚染に対する具体的な防止策として、例えば、ジグリセリンミリスチン酸エステルおよび/またはその塩を有効成分として含む耐熱性好酸性菌抑制剤(特許文献1)、カテキン類を配合することによって耐熱性好酸性菌の増殖が抑制する方法(特許文献2)、紫ニンジン汁を有効成分として含有することを特徴とする耐熱性好酸性菌の増殖抑制剤(特許文献3)、ブドウ種子の水抽出物およびブドウ果実搾汁粕の水抽出物から選ばれる少なくとも1種を酸性飲料中に特定量配合することを特徴とする酸性飲料の製造方法、(特許文献4)、ホップ抽出物を添加することを特徴とする耐熱性好酸性菌の増殖抑制方法(特許文献5)、乳酸を特定量添加し耐熱性好酸性菌の増殖が抑制された酸性飲料の製造方法(特許文献6)などが提案されている。
【0007】
また、上記フラットサワー菌による汚染を防止する方策としては、例えば、ジグリセリン脂肪酸モノエステル組成物を配合したり(特許文献7)、マンノシルエリスリトールリピッドを配合したり(特許文献8)、特定の脂肪酸エステルを特定比で配合したりする方法(特許文献9)等が提案されている。
【0008】
しかし、これら提案された物質の多くは、その物質特有の匂いや味を加工飲食物に付与することとなり、飲食品本来の有する風味等を損なわないとまでは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−160411号公報
【特許文献2】特開2014−132850号公報
【特許文献3】特開2009−072165号公報
【特許文献4】特許4740517号公報
【特許文献5】特開2005−137241号公報
【特許文献6】特許4988560号公報
【特許文献7】特開平8−228676号公報
【特許文献8】特開2015−42164号公報
【特許文献9】特開2008−245598号公報
【特許文献10】特許第5715046号公報
【特許文献11】特許第5639759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、飲食品の原料に由来する、あるいはその製造工程で混入する耐熱性芽胞形成菌の増殖を抑制する効果を有するが、加工飲食品の風味等を損なわない、耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤を提供することを目的とする。また、該菌増殖抑制剤を用いた方法により、加工飲食品中の耐熱性芽胞形成菌の増殖を抑制し、腐敗を防止する簡便な方法等を提供すること、ならびに、耐熱性芽胞形成菌による変敗に対して安定した、しかも、風味、香味の変調のない、優れた味覚の加工飲食品の製造方法等を提供することを目的とする。好ましくは加工飲食品として芽胞形成菌対策が必要な特定の液状食品、より好ましくは酸性飲料とコーヒー飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、希少糖であるD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる一種以上を飲料中に添加することによって、耐熱性芽胞形成菌の増殖が抑制され、腐敗が防止される効果があることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、以下の(1)の加工飲食品用
に添加するための耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤を要旨とする。
(1)
加工飲食品に添加するための耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤であって、
プシコース、ソルボースおよびタガトースからなる群から選ばれる一種以上を有効成分とする
こと、
加工飲食品100質量部に対して2〜20質量部の有効成分とすること、および
前記耐熱性芽胞形成菌が耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌であること、
を特徴とする耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤。
【0013】
また、本発明は、以下の(
2)ないし(
7)の加工飲食品
における耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制方法を要旨とする。
(2)プシコース、ソルボースおよびタガトースからなる群から選ばれる一種以上を、加工飲食品の製造工程において添加
し、加工飲食品100質量部に対して、2〜20質量部含有させることを特徴とする、加工飲食品
における耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制方法。
(3)加工飲食品
における耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌による腐敗防止方法である上記(2)に記載の増殖抑制方法。
(4)
耐熱性好酸性菌またはフラットサワー菌である耐熱性芽胞形成菌の増殖が抑制された加工飲食品の製造方法である上記(2)に記載の増殖抑制方法。
(5)
耐熱性芽胞形成菌が耐熱性好酸性菌であり、かつ、加工飲食品がpH3〜4.5の酸性飲料である、上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の増殖抑制方法。
(6)
耐熱性好酸性菌が、アリシクロバチルス(
Alicyclobacillus)属の細菌である、上記(5)に記載の増殖抑制方法。
(7)
耐熱性芽胞形成菌が、フラットサワー菌であり、かつ、加工飲食品がpH5〜7のコーヒー飲料である、上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、D−プシコース、D−フラクトース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる一種以上を有効成分とする耐熱性芽胞形成菌、特に耐熱性好酸性菌やフラットサワー菌等の好気性芽胞菌の変敗菌の増殖抑制剤を提供することができる。
例えば、アリシクロバチルス・アシドテレストリス(
Alicyclobacillus acidoterrestris)やアリシクロバチルス・アシディフィルス(
Alicyclobacillus
acidifilus)等のアリシクロバチルス(
Alicyclobacillus)属の細菌である耐熱性好酸性菌に対しては、プシコース15%以上、タガトース10%以上、ソルボース10%以上で効果がある。ただし、pHが概ね3〜4.5と低い果汁飲料(例ジュース)においては、それぞれ5%添加で効果がある。また、バチルス・コアギュランス(
Bacillus coagulans)やジオバチルス・ステアロサーモフィラス(
Geobacillus stearothermophilus)のフラットサワー菌に対しては、タガトース2%以上、ソルボース5%以上で効果があり、プシコース5%以上で一定の効果はある。
また、本発明によれば、加工飲食品の製造工程においてD−プシコース、D−フラクトース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる一種以上を有効成分とする耐熱性芽胞形成菌の増殖抑制剤を添加することにより耐熱性芽胞形成菌の増殖に起因する加工飲食品の腐敗を防止することができる。
D−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる一種以上の単糖は、甘味料であり、その物質特有の甘味を加工飲食物に付与することを考慮すれば足りるのであり、耐熱性芽胞形成菌による変敗に対して安定した、しかも、風味、香味の変調のない、優れた味覚の加工飲食品、特にpHが概ね3〜4.5と低い果汁飲料やスポーツ飲料に代表される酸性飲料、pHが概ね5〜6.5と酸性飲料よりもpHが高いコーヒー飲料等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各種糖2%を含む培養液にフラットサワー菌(
Geobacillus stearothermophilus)を植菌した後の経時的な菌数変化を示す図である。
【
図2】各種糖5%を含む培養液にフラットサワー菌(
Geobacillus stearothermophilus)を植菌した後の経時的な菌数変化を示す図である。
【
図3】各種糖10%を含む培養液にフラットサワー菌(
Geobacillus stearothermophilus)を植菌した後の経時的な菌数変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における耐熱性好酸性菌の増殖抑制剤は、D−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる一種以上を、耐熱性芽胞形成菌の増殖を抑制する有効成分として含有する。
【0017】
本発明における耐熱性芽胞形成菌とは、好気性芽胞菌の変敗菌を指し、耐熱性好酸性菌やフラットサワー菌が挙げられる。耐熱性好酸性菌とはアリシクロバチルス(
Alicyclobacillus)属の細菌であって、例えば、アリシクロバチルス・アシドテレストリス(
Alicyclobacillus
acidoterrestris)やアリシクロバチルス・アシディフィルス(
Alicyclobacillus acidifilus)等が挙げられる。また、フラットサワー菌とは、増殖により飲食品を変敗させてもガス産生しないため缶詰容器底がフラットであることおよび酸産生により内容物がサワーとなることに起因して命名された、耐熱性芽胞形成菌のひとつであって、具体的には、バチルス・コアギュランス(
Bacillus coagulans)やジオバチルス・ステアロサーモフィラス(
Geobacillus
stearothermophilus)などを指す。
【0018】
本発明において使用するD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースは、現在、商業的に比較的容易に入手できる。また、これら物質はそれぞれの純品を使用してもよいが、混合物を使用しても良く、これら物質のすべてを含有するものとしては、例えば、レアシュガースウィート(松谷化学工業(株))が挙げられる。また、D−プシコースは、ズイナ等の植物から抽出したもの、微生物またはその組換体から得られる酵素(イソメラーゼやエピメラーゼ等)を利用する酵素法によりD−グルコースやD−フラクトースを原料として異性化したもの(例えば、松谷化学工業(株)の「Astraea Allulose」)などがあり、商業的に容易に入手することができる。一方、D−タガトースおよびD−ソルボースは、(株)希少糖生産技術研究所より入手することができる。たとえば、高タガトース含有シロップは次のように製造することができる。
ラクトース100部を純水400部に溶解させ、ラクターゼ1部を添加する。溶液を40℃に保ち、pH4−5で24−48時間酵素反応させた後、90℃で加熱し酵素を失活させる。消石灰を添加し、20℃、pH12で4時間反応させた後、シュウ酸で中和する。ろ過、脱塩により精製した後、Brix70まで濃縮して高タガトース含有シロップを得ることができる。
【0019】
本発明において使用するD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースは、加工飲食品100質量部に対して2質量部以上含まれる場合に、耐熱性芽胞形成菌である耐熱性好酸性菌やフラットサワー菌の増殖を抑制する効果が得られる。しかしながら、20質量部を超えて使用すると過剰に甘味を付与することとなるので、加工飲食品の種類によっては、加工飲食品本来の風味や味に影響を及ぼす場合がある。よって、より好ましくは、加工飲食品100質量部に対してD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれる1種以上を、合計で2〜20質量部含ませるよう加工飲食品の製造工程のいずれかの段階において添加するのがよい。加工飲食品としては芽胞形成菌対策が必要な特定の液状食品、好ましくは酸性飲料とコーヒー飲料、最も好ましくはより少ない添加量で効果があり、かつ、該少量使用で飲食品の味に深み(コク)を与える、フラットサワー菌対策が必要なコーヒー飲料を対象とする。
【0020】
本発明における酸性飲料とは、概ねpH3〜4.5と低いものを指し、具体例としては、果汁飲料、野菜飲料、乳清飲料、炭酸飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料等が挙げられる。
【0021】
これら飲料のうち、果汁、野菜汁および酸味料からなる群から選ばれる少なくともひとつ以上を含み、かつ、糖類を含む飲料においては、特に耐熱性好酸性菌の増殖が問題となるので、本発明は非常に有益である。なお、ここでいう糖類とは、耐熱性芽胞形成菌が生育するのに必要な糖であればいずれの糖でもよく、単糖および二糖に限定されない。また、酸味料とは、食品添加物であって、具体的には、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0022】
また、本発明におけるコーヒー飲料とは、コーヒー豆を原料とする抽出物を含む飲料であればいずれでもよく、概ねpHが5〜7である。
【0023】
本発明における加工飲食品の製造方法は、特に限定されず、従来の公知の方法を用いればよい。ただし、加工飲食品中にD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースの群から選ばれる少なくとも一つ以上を含むことにより耐熱性芽胞形成菌の増殖を抑制することができる。その結果、保存による加工飲食品の風味等の劣化を防ぐことができる点において、本発明は有益である。また、本発明の有効成分であるD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースは、甘味を有することから、甘味を有する加工飲食品においてはその加工飲食品本来の風味や味質に悪影響を及ぼさず、非常に使いやすいものといえる。特に、果汁の主成分であるブドウ糖、果糖、ショ糖の甘味とは非常に馴染みやすく、果汁を含む加工飲食品の本来の風味や味質に違和感を与えないという点において、非常に使いやすいといえる(特許文献10、11参照)。
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。なお、例中の%は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【実施例】
【0025】
<耐熱性好酸性菌の菌体懸濁液の調製>
アリシクロバチルス・アシドテレストリス(
Alicyclobacillus acidoterrestris、NBRC106287)を製品評価技術基盤機構から入手し、その菌体をYSG液体培地(pH3.5、酵母エキス0.2%、可溶性でんぷん0.2%、グルコース0.1%)で復元後、菌液をYSG寒天培地(pH3.5、酵母エキス0.2%、可溶性でんぷん0.2%、グルコース0.1%、寒天1.5%)に接種し、45℃で7日間培養した。次に寒天培地上のコロニーを滅菌水で集菌し、80℃で10分間加熱して芽胞菌液を調製した。以後の実験には、この芽胞菌液を耐熱性好酸性菌として用いた。
【0026】
<各糖の耐熱性好酸性菌に対する増殖抑制効果の確認>
各糖の耐熱性好酸性菌に対する増殖抑制効果を確認することとした。まず、単糖(D−グルコース、D−プシコース、D−ソルボースまたはD−タガトース)、二糖(スクロース)、希少糖含有シロップおよびタガトースシロップの各40%溶液(pH3.5)を調製し、次に、これら各糖液を用いて表1の配合に従って調製した培地(調製培地)に、前記耐熱性高酸性菌を10
3 CFU/mLとなるように植菌した「試験液」を調製した。次に、各試験液50μLをYSG寒天培地(n=3)に各々塗布し、寒天培地上のコロニー数の経時的変化(0日目および45℃・1日間保存後)を観察した。なお、試験液は、必要に応じて滅菌水にて100倍、1000倍または10000倍に希釈してYSG寒天培地に塗布した。試験液1mLあたりの菌数は、「(プレート1枚あたりのコロニー平均数)×(1000/50)×(希釈倍率)」の対数値(底を10とした)で表した(表2)。
菌に対する増殖抑制効果の有無は、加工飲食品に一般に使用される砂糖(スクロース)またはD−グルコースを含有する各対照区と比較して確認することとし、両対照区のいずれよりも上記対数値が小さいときに、その試験区には菌の増殖抑制効果があるとし(1〜3点)、対数値が対照区のものより1以上小さいときには、顕著に効果があるとした(3点)。また、対数値が対照区と同じまたは大きいときには、効果はない(0点)とした。
【0027】
なお、試験に使用した希少糖含有シロップ(松谷化学工業株式会社「レアシュガースウィート」)の糖組成は、固形分あたり、プシコース5.4%、ソルボース5.3%、タガトース2%、アロース1.4%、マンノース4.3%、グルコース46.6%、フルクトース30%、その他オリゴ糖5%であり、タガトース高含有シロップの糖組成は、固形分あたり、タガトース29%、ガラクトース12.6%、グルコース43.2%、フルクトース5.9%、ラクトース2.4%、プシコース2.2%、その他のオリゴ糖4.7%であった。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
その結果、D−タガトース、D−ソルボースおよび希少糖含有シロップ(RSS)の各10%濃度の試験液では、スクロースまたはD−グルコースの各10%濃度の試験液と比較して、保存1日後の耐熱性好酸性菌の菌数は顕著に少なく(表2)、菌の増殖抑制効果が認められた。また、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボース、希少糖含有シロップおよびタガトース高含有シロップの各15%濃度の試験液では、スクロースまたはD−グルコースの各10%濃度の試験液と比較して、保存1日後の耐熱性好酸性菌の菌数は顕著に少なく、菌の増殖抑制効果が認められた(表2)。
【0031】
<糖を添加した酸性果汁飲料における耐熱性好酸性菌の増殖抑制効果>
各糖の酸性果汁飲料における耐熱性好酸性菌の増殖抑制効果を確認するため、以下のような実験をおこなった。まず、市販のオレンジジュース(キリンビバレッジ社製「小岩井 純水みかん」pH3.4)に、各糖(スクロース、D−グルコース、D−フルクトース、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボースまたは希少糖含有シロップ)を試験液量に対して添加濃度が2%または5%となるよう調製した液に、前述の方法に従って、10
3 個/mLとなるよう耐熱性好酸性菌を植菌した試験液を調製した。0日目と7日目の耐熱性好酸性菌の菌数を前述の方法に従って測定し、対数値で表した(表3)。この対数値に1.0以上の差がある場合、試験区間に差がある(小さいほうの試験区に菌の増殖抑制効果がある)とした。
【0032】
【表3】
【0033】
その結果、最終濃度2%のいずれの試験区でも増殖抑制効果は認められない一方、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボースおよび希少糖含有シロップの各5%添加した試験区では、耐熱性好酸性菌の増殖抑制効果が確認された。また、最終濃度5%の試験区の保存7日後の匂いを確認したところ、スクロースまたはD−グルコースの各試験区では明らかに腐敗臭が認められたが、それ以外の試験区では腐敗臭は認められなかった。
【0034】
<フラットサワー菌の菌体懸濁液の調製>
ジオバチルス・ステアロサーモフィルス(
Geobacillus stearothermophilus、NBRC12550)を製品評価技術基盤機構から入手し、その菌体を液体培地(pH7.0、ポリペプトン1%、酵母エキス0.2%、硫酸マグネシウム7水和物0.1%)で復元後、菌液を芽胞形成用寒天培地(pH7.0、ポリペプトン1%、酵母エキス0.2%、硫酸マグネシウム7水和物0.1%、塩化マンガン4水和物0.36%、寒天1.5%)に接種し、55℃で3日間培養した。次に寒天培地上のコロニーを滅菌水で集菌し、105℃で4分間加熱して芽胞菌液を調製した。以後の実験には、この芽胞菌液をフラットサワー菌として用いた。
【0035】
<各糖のフラットサワー菌に対する増殖抑制効果の確認>
各糖のフラットサワー菌に対する増殖抑制効果を確認するため、単糖(D−グルコース、D−フラクトース、D−プシコース、D−ソルボースまたはD−タガトース)、二糖(スクロース)、希少糖含有シロップ、タガトース高含有シロップ、果糖ブドウ糖液糖の各40%溶液を各々調製し、次に、これら各糖液を用いて下表4の組成に従った培地を調製し(調製培地)、上記のフラットサワー菌を10
3 CFU/mLとなるように植菌した「試験液」を調製した。55℃保存0時間(植菌直後)、6時間、12時間および24時間後の各試験液50μLをサンプリングし、予め55℃で保温しておいた寒天入り液体培地で混釈した(n=3)。次に、この混釈液を55℃で1日間培養後、その寒天培地のコロニー数を計測した。なお、試験液は、必要に応じ、滅菌水にて100倍、1000倍または10000倍に希釈し、寒天入り液体培地で混釈して用いた。試験液1mLあたりの菌数は、「(プレート1枚あたりのコロニー平均数)×(1000/50)×(希釈倍率)」の対数値(log菌数)/ml」で表した(表5、
図1、
図2および
図3)。
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
その結果、D−タガトースでは、2%以上の試験区においてフラットサワー菌に対する強い増殖抑制効果が確認された(表5)。D−ソルボースでは、2%の試験区においては培養初期(6時間)の段階では増殖が抑えられており、5%以上の試験区においては、フラットサワー菌に対する強い増殖抑制効果が認められた。D−プシコースでは、2%の試験区ではフラットサワー菌に対する増殖抑制効果が認められなかったが、5%以上では培養初期(6時間)の段階では増殖が抑えられており、一定の増殖抑制効果が認められた。
【0039】
<各糖のミルクコーヒー飲料におけるフラットサワー菌に対する増殖抑制効果の確認>
まず、ミルク入りコーヒー飲料を下表6の配合で試験飲料を調製し、耐圧瓶に入れてレトルト殺菌(123℃、20分)を行った。なお、表6の配合中の「糖」は、スクロース、D−グルコース、D−フルクトース、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボース、希少糖含有シロップ(RSS)、タガトース高含有シロップまたは果糖ブドウ糖液糖(HFCS)のいずれかである。次に、前述の方法に従って、各試験液に10
3 個/mLとなるよう上記フラットサワー菌を植菌し、これを55℃で保存した。植菌直後(0日目)と保存7日後のフラットサワー菌の菌数を測定し、菌数の対数値を示した(表7)。
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
その結果、D−ソルボース、D−タガトースおよびタガトース高含有シロップの各5%を含有する試験区では、スクロースまたはD−グルコースと比較して7日目の菌数が顕著に少なく、フラットサワー菌に対する強い増殖抑制効果が認められた(表6)。また、D−プシコースおよび希少糖含有シロップの各5%を含有する試験区では、若干の増殖抑制効果が認められた(表6)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、 飲食品における耐熱性芽胞形成細菌(芽胞状態の該細菌を含む)に対して、甘味料である特定の単糖が優れた静菌作用を発揮する、低コストで、かつ、香味に問題を生じさせることのない、実用的な増殖抑制を提供すること、および、該増殖抑制を用いた増殖抑制方法により、微生物による変敗に対して安定した、しかも、香味の変調のない、優れた味覚の飲食品を提供することなどの点において産業上の利用可能性を有する。