(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ミシンフレームの概略]
以下、図面を参照して、本発明にかかるミシンの押さえ上げ機構10について説明する。
図1はミシンフレーム100内における押さえ上げ機構10の全体構成の配置を示す正面図である。なお、以下の説明において、水平方向であって
図1に示すミシンフレーム100のベッド部101の長手方向に沿った方向をY軸方向、水平方向であってY軸方向に直交する方向をX軸方向、鉛直上下方向をZ軸方向というものとする。また、必要に応じて、
図1に示すように、Y軸方向における一方を「左」、他方を「右」とし、X軸方向における一方(
図1の紙面奥側)を「奥」、他方(
図1の紙面手前側)を「手前」とする。
【0018】
ミシンフレーム100は、ミシン下部に延在するミシンベッド部101、当該ミシンベッド部101の右端部から立設された立胴部102、当該立胴部102の上端部から左方に延出されたミシンアーム部103とからなる。
ミシンベッド部101の左端部が針落ち位置となっており、その上面には針板104が装備されている。また、ミシンアーム部103の左端部には図示を省略した針棒が上下動可能な状態でZ軸方向に沿って支持されている。
【0019】
[押さえ上げ機構の概略構成]
押さえ上げ機構10は、布押さえ11と、布押さえ11を下端部で保持する押さえ棒12と、押さえ棒12の長手方向中間部に固定装備された棒抱き13と、当該棒抱き13を介して押さえ棒12及び布押さえ11を下方に押圧する押さえバネ14と、ミシンフレーム100に対して上下動可能に支持され、棒抱き13に対して下方から当接して押し上げ可能な押し上げ部材15と、押し上げ部材15に上昇動作を伝えるベルクランク状のリンク体16と、回動操作により布押さえ11を押さえ上げ位置まで持ち上げる手動レバー20と、布押さえ11の高さを検出する押さえ高さ検出部30と、布押さえ11の上昇動作の駆動源となる押さえモーター17と、押さえモーター17のトルクを直線的な動作に変換するカム機構40と、カム機構40からリンク体16に対して動作伝達を行うワイヤー機構50と、膝上げ機構18と、押さえモーター17の制御装置90(
図11参照)とを備えている。
【0020】
[布押さえ及び押さえ棒]
布押さえ11は、底面が平滑であって布送り方向上流側(手前側)が上方に反り上がったいわゆる舟形の押さえである。
押さえ棒12は、針棒の近傍においてZ軸方向に沿った状態でミシンアーム部103により上下動可能に支持されている。
【0021】
[棒抱き]
図2は棒抱き周辺の構成を示す正面図、
図3は左側面図、
図4は斜視図である。
棒抱き13は、押さえ棒12を挿通する貫通穴がその中央部に形成されたブロック状であり、その外部から奥側に向かって回り止めとなる腕部131が延出されている。この棒抱き13は、外部から貫通穴に通された押さえ棒12に到達する固定ネジにより、当該押さえ棒12に対して締結固定されている。
腕部131はミシンアーム部103の内壁にZ軸方向に沿って形成された長穴105に通されている。
また、棒抱き13の右側上部には、右方に延出された延出部132が形成されている。この延出部132の下面が、リンク体16の一方の回動端部において手前側に延出されたボス部161の上部に当接し、リンク体16が回動した際には、棒抱き13へは上方向の移動動作のみが伝達される構造となっている。
【0022】
また、棒抱き13の上端面には押さえバネ14の下端部が当接しており、当該棒抱き13及び押さえ棒12を介して布押さえ11の下方への押さえ圧は付与されている。
なお、押さえバネ14の上端部は図示しないミシンアーム部103の内壁に圧接し、当該押さえバネ14は圧縮された状態を維持して、布押さえ11に対して常に押さえ圧を付与している。
【0023】
[押し上げ部材]
押し上げ部材15は、押さえ棒12を挿通する貫通穴がその中央部に形成されたブロック状であり、その外部から奥側に向かって回り止めとなる腕部151が延出されている。この押し上げ部材15は、押さえ棒12に対して固定されておらず、当該押さえ棒12に対して相対的に上下動可能となっている。
そして、押し上げ部材15は、棒抱き13のすぐ下側に配設され、その上部が棒抱き13の下部に当接して、棒抱き13を上方に押し上げることが可能となっている。また、この押し上げ部材15は下方から棒抱き13に当接しているため、当該押し上げ部材15とは分離して棒抱き13が上方へ移動することを拘束しない構造となっている。
【0024】
押し上げ部材15の腕部151は、上方から見て、棒抱き13の腕部131と同じ配置で同じ長さで延出されており、前述した長穴105に挿通されている。これにより、この押し上げ部材15の腕部151は、その上面が概ね全長に渡って棒抱き13の腕部131の下面に当接した状態となっている。
また、押し上げ部材15の腕部151は、手動レバー20が下方から当接し、上方に押し上げられるようになっている。そのため、腕部151の下側には、手動レバー20と当接する傾斜面155と、手動レバー20を係止する凸状の被嵌合部156が形成されている。この被嵌合部156は、押し上げ部材15の水平な下端面と傾斜面155との境界位置に形成されている(
図8〜
図10参照)。
【0025】
また、押し上げ部材15の右側上部には、右方に延出された延出部152が形成されている。この延出部152にはY軸方向に沿った長穴153が貫通形成されており、リンク体16の前述したボス部161が挿入されている。この長穴153はZ軸方向の幅についてはボス部161の直径とほぼ等しいか或いは僅かに大きく、Y軸方向の幅についてはボス部161の直径よりも十分に大きくなっている。これにより、リンク体16が回動を行うと、ボス部161のZ軸方向の変位はほぼ等しく押し上げ部材15に伝わり、リンク体16が
図2における時計方向に回動を行った場合には押し上げ部材15は上方に移動動作が付与され、リンク体16が
図2における反時計方向に回動を行った場合には押し上げ部材15は下方に移動動作が付与される。
また、リンク体16の回動時におけるボス部161のY軸方向の変位は押し上げ部材15に伝わらず、また、リンク体16の回動動作とも干渉しない。
【0026】
また、押し上げ部材15の腕部151には、その途中から左方に延出された連結部154が形成されている。この連結部154は、押さえ高さ検出部30の検出部材31を保持している。つまり、押さえ高さ検出部30は、押し上げ部材15を介して布押さえ11の高さ検出を行っている。
【0027】
[リンク体]
リンク体16は、いわゆるベルクランクであり、X軸方向に沿った支軸162によりミシンアーム部103内でフレームに対して回動可能に支持されている。
そして、リンク体16は、支軸162を中心として概ね左方と上方とに延出された二本の回動アーム163,164が形成されている。そして、一方の回動アーム163の先端部には前述したボス部161が手前側に向かって凸設されており、他方の回動アーム164の先端部にはワイヤー機構50が連結されている。
回動アーム164には、ワイヤー機構50を介して、押さえモーター17から右方への張力が付与され、リンク体16全体が
図2における時計方向に回動を行う。これにより、もう一方の回動アーム163も時計方向に回動し、ボス部161を介して押し上げ部材15に上方への移動動作を付与することができる。
なお、押さえモーター17は、ワイヤー機構50のワイヤー51を介してリンク体16を回動させており、ワイヤー51は張力を良好に伝えることはできるが押圧力は十分に伝えることはできない。従って、押さえモーター17によりリンク体16を反時計方向に回動させる押圧力を付与することは殆ど困難であるが、押し上げ部材15は、棒抱き13を介して押さえバネ14から下方に押圧されているので、押さえモーター17を反時計方向に駆動することにより押し上げ部材15を下降させることは可能である。
【0028】
[押さえ高さ検出部]
押さえ高さ検出部30は、押し上げ部材15の連結部154に支持された検出部材31と、検出部材31の上下動により回転する検出歯車32と、検出歯車32の回転量を検出するエンコーダー33と、エンコーダー33を保持してミシンアーム部103のフレームに固定された保持板34と、検出部材31の揺れやがたつきを抑える固定用バネ35とを備えている。
【0029】
上記検出部材31には、上下方向に沿ってラック歯311が形成されており、検出歯車32に噛合している。これにより、検出部材31の上下動の変位に応じて比例的に検出歯車32は回転を行う。
検出歯車32は、エンコーダー33の検出軸に設けられている。従って、押し上げ部材15を通じて布押さえ11の上下方向の位置変化量がエンコーダー33により検出することができる。
また、エンコーダー33は原点位置が定められており、当該原点位置からの変化量を求めることができるので、原点位置と布押さえ11の高さとの関係を予め取得しておくことにより、エンコーダー33の検出値から布押さえ11がいずれの高さに位置しているかを検出することができる。
エンコーダー33は、インクリメント型、アブソリュート型のいずれを使用することも可能である。
【0030】
なお、前述したように、押し上げ部材15と棒抱き13とは上下に分離可能かつ押し上げ部材15は押さえ棒12に固定されていない構造の為、微小押さえ上げ時には縫製中の送り歯による押え棒12の上下及び、布の厚み等による押え棒12の上下によらず、押し上げ部材15の高さは設定高さに保持される。そして、棒抱き13は押さえバネ14により押し上げ部材15側に常時押圧されているので、微小押さえ上げ状態でも押さえバネ5による押さえ圧をかけることが可能である。また、棒抱き13は押さえバネ14により押し上げ部材15側に常時押圧されているので、布押さえ11が外力により押さえバネ14に抗して押し上げられる等の状況が生じない限り、押さえ高さ検出部30は、押し上げ部材15を通じて布押さえ11の高さを検出することが可能である。
【0031】
[カム機構]
図5及び
図6はカム機構40の周辺の斜視図である。
カム機構40は、カム部材41と、カム部材41をミシンベッド部101内においてX軸回りに回転可能に支持する支持板42と、ミシンベッド部101内においてX軸回りに回動可能に支持された伝達リンク43とから主に構成されている。
【0032】
カム部材41は、最外周が押さえモーター17の出力軸に設けられたピニオン歯車44に噛合する歯車411となっており、これによって押さえモーター17からトルク付与が行われる。
さらに、カム部材41は、その片面側に最外周の歯車411よりも小さく外周カム412が形成されている。この外周カム412は、外径が最も小さな起点位置から外径が最も大きな終点位置までが360°の回転により到達し、
図5における時計方向に向かって徐々に外径が大きくなるように形成されている。
【0033】
伝達リンク43は、いわゆるベルクランクであり、X軸方向に沿った支軸431によりミシンベッド部101内でフレームに対して回動可能に支持されている。
そして、伝達リンク43は、支軸431を中心として概ね左斜め上側と右側とに延出された二本の回動アーム432,433を備えている。そして、一方の回動アーム432の先端部にはコロ434が回転可能に装備されており、他方の回動アーム433の先端部にはワイヤー機構50が連結されている。
【0034】
回動アーム432は、コロ434をX軸回りに回転可能に支持しており、当該コロ434は、前述したカム部材41の外周カム412に当接している。なお、回動アーム432には、コロ434を外周カム412に圧接させる図示しない引っ張りバネの一端部が連結されている。
例えば、コロ434が外周カム412の外径が最も小さな起点位置に当接している状態で、カム部材41を反時計方向に回転させると、外周カム412に上方から当接しているコロ434は徐々に上方に押し上げられ、これにより、伝達リンク43の回動アーム433の回動端部を徐々に下方に回動させることができる。
【0035】
回動アーム433は、回動端部に平面部435が設けられており、当該平面部435は、上下に尖設された貫通穴が形成されている。
この貫通穴には、ワイヤー機構50のワイヤー51が上方から遊挿されており、当該ワイヤー51の下端部には貫通穴からワイヤー51が抜けないように抜け止め511が装備されている。
従って、上記回動アーム433が支軸431を中心として時計方向に回動すると、ワイヤー51を下方に引っ張ることができる。ワイヤー51を下方に引っ張ると、前述したリンク体16を
図2における時計方向に回動させることができ、布押さえ11に上昇動作を付与することができる。
なお、回動アーム433は、抜け止め511によりワイヤー51を下方に引っ張ることはできるが、回動アーム433を反時計方向に回動させても、貫通穴に遊挿状態のワイヤーを上方に移動させることはできない。
【0036】
[膝上げ機構]
また、
図1及び
図6に示すように、カム機構40には、膝上げ機構18が併設されている。この膝上げ機構18は、膝で布押さえ11の上昇動作を操作する図示しない膝上げレバーと、膝上げレバーを回動可能に支持する支軸181と、支軸181に固定装備され、膝上げレバーと共に回動動作を行う出力腕182とを備えている。
【0037】
膝上げレバーは、ミシンベッド部101の右端部近傍の底面から下方に垂下支持されており、ミシンのオペレータが膝で回動操作することができる配置となっている。この膝上げレバーは、その下端部が右方に回動するように操作が加えられる。
支軸181は、X軸方向に沿った状態でミシンベッド部101内に回動可能に支持されており、膝上げレバーと共に回動する。
出力腕182は、ミシンベッド部101内において、支軸181から左方に向かって延出されており、前述した膝上げレバーの回動操作により、出力腕182の回動端部は下方に回動する。そして、出力腕182の回動端部の下側には、カム機構40の伝達リンク43の平面部435が配置されている。
このため、膝上げレバーを膝により右方に回動操作すると、出力腕182の回動端部が伝達リンク43の平面部435を下方に押し込むことができ、これにより、ワイヤー51を下方に引っ張って、布押さえ11に上昇動作を付与することができる。
なお、膝上げレバーの回動操作により、カム機構40の伝達リンク43が回動せしめられるが、カム機構40のカム部材41は外周カム412なので、
図6に示すように、コロ434が外周カム412から離間するだけであり、カム機構40の動作には干渉しないようになっている。
【0038】
[ワイヤー機構]
ワイヤー機構50は、
図1に示すように、カム機構40の伝達リンク43の回動アーム433の回動端部とリンク体16の回動アーム164の先端部とを連結するワイヤー51と、ワイヤー51を挿通させるチューブ52と、チューブ52の両端部に設けられたワイヤー51の導入管53,54と、チューブ52のガイド55,56と、ワイヤー51の一端部を回動アーム164の先端部に連結する連結部材57とを備えている。
【0039】
チューブ52は、導入管53,54とガイド55,56とにより、ミシンフレーム100内に支持されており、伝達リンク43の回動アーム433からリンク体16の回動アーム164まで、ワイヤー51を適正にガイドすることができる。
ワイヤー51は、チューブ52内を摺動して、伝達リンク43の回動アーム433側の端部から付与された張力をリンク体16の回動アーム164側の端部に伝達することができる。
【0040】
連結部材57は、
図2に示すように、X軸方向に沿った支軸571を介してリンク体16の回動アーム164の先端部に連結されており、回動アーム164に対して支軸571回りに回動可能となっている。また、この連結部材57は、Y軸方向に長尺であってその右端部にワイヤー51の一端部が連結されている。さらに、連結部材57は、Y軸方向に沿った長穴572が形成されており、前述した支軸571が長穴572に挿入されている。従って、連結部材57は、回動アーム164に対して、ワイヤー51の延長線上に沿うようにY軸方向に沿って相対的に移動可能である。
後述するが、押し上げ部材15は手動レバー20により上方へ移動動作が付与されると、その際、リンク体16は
図2における時計方向に回動する。そのような場合に、連結部材57の長穴572に沿って支軸571が右方に移動するので、回動アーム164の回動による右方向の変位は、連結部材57及びワイヤー51に伝達されないようになっている。
【0041】
[手動レバー]
図7は手動レバー20の斜視図、
図8〜
図10は手動レバー20の使用動作の説明図である。
手動レバー20は、X軸方向に沿った支軸21によりミシンアーム部103のフレームに回動可能に支持されており、その回動中心から半径方向外側に向かって延出された入力腕22から手動で回動操作が入力される。
手動レバー20は、
図8〜
図10に示すように、回動角度について三つの姿勢をとることにより、所定の機能を発揮する。
【0042】
図8は入力腕22が下向きの状態であり、この状態では、押し上げ部材15に対して全く干渉しない状態である。押し上げ部材15は、その下部に下方に突出した被嵌合部156が形成されているが、手動レバー20の支軸21近傍には、回動半径方向に大きく凹んだ被干渉部25が形成されているので、被嵌合部156との干渉は生じない。
また、
図8における押し上げ部材15は、布押さえ11が押さえ位置(布押さえ11が針板104の上面に接する高さであり、使用範囲の最低位置である。この高さを0[mm]とする)となるときの位置を示している。つまり、押し上げ部材15は最下点に位置しており
図8の位置より下方には移動しないので、手動レバー20とは干渉を生じない。
なお、手動レバー20は、その回動端部の角部24が支持壁面に当接してストッパーとなり、入力腕22がこれ以上下方に回動しない構造となっている。
【0043】
図9は入力腕22がほぼ水平の状態であり、この状態では、手動レバー20は、押し上げ部材15を上方に押し上げて、布押さえ11を押さえ上げ位置(被縫製時に布押さえ11を針板の上方に退避させるときの高さであり、高さ6[mm])まで上昇させている。
この時、手動レバー20の回動端部近傍に形成された凹状の嵌合部23が、押し上げ部材15の被嵌合部156に嵌合する。被嵌合部156は下向きの凸部であり、嵌合部23に対して上から嵌合する。
押し上げ部材15が棒抱き13を介して押さえバネ14から下方に押圧されていること、嵌合部23の凹んだ方向と被嵌合部156の突出した方向とが手動レバー20の回動半径方向に沿っていること等により、嵌合部23と被嵌合部156とが嵌合すると、手動レバー20は回動が規制された状態となる。この規制状態は、押さえバネ14に抗して押し上げ部材15を上方に押し上げることにより解除することができる。
【0044】
また、手動レバー20は、その重心Gの位置が支軸21に対して入力腕22の先端部側に位置している。そして、手動レバー20が外部から何ら拘束されない状態の場合、重心Gの位置は支軸21の真下となり、入力腕22はほぼ垂直に下方を向いた状態となる。この状態を重心Gの最低位置とした場合、
図9の姿勢の手動レバー20の重心Gの位置は最低位置よりも上方にあるので、押し上げ部材15を上方に押し上げて嵌合部23と被嵌合部156の嵌合状態を解除すると、手動レバー20は自重によって重心Gが最低位置となる方向に向かって回動する。つまり、嵌合状態を一旦解除すると、手動レバー20は自重で回動を生じるので、押し上げ部材15を押し上げることを止めて下方に戻しても、嵌合部23と被嵌合部156とが再び嵌合状態には戻らないようになっている。
なお、実際には、手動レバー20にはストッパーとしての角部24が設けられているので、重心Gが最低位置となるまで回動することはできず、嵌合解除後の手動レバー20は
図8の位置で停止する。
【0045】
図10は入力腕22が上方を向いた状態であり、この状態では、手動レバー20の嵌合部23の隣に形成された円弧状のカム部26が、押し上げ部材15の傾斜面155に当接して、布押さえ11が押さえ上げ位置よりも上方(高さ7[mm])まで上昇させている。必要に応じて布押さえ11を押さえ上げ位置よりも上に退避させる場合に、手動レバー20をこのように操作する。
【0046】
また、手動レバー20の他に、回動操作により布押さえ11を押さえ上げ位置又はそれよりも上方まで持ち上げる膝上げレバーを使用しても良い。
【0047】
[ミシンの制御系]
図11にミシンの押さえ上げ機構10の制御系のブロック図を示す。
ミシンの押さえ上げ機構10は、その構成の動作制御を行う制御装置90を備え、当該制御装置90に対して、布押さえ11の昇降動作の駆動源となる押さえモーター17、各種の設定の入力を行う設定入力部95がそれぞれの駆動回路17a、95aを介して接続されている。
また、制御装置90に対して押さえモーター17の原点位置を検出する原点センサ171、布押さえ11の高さの検出を行うエンコーダー33、布押さえ11を昇降させる押さえ上げボタン96が接続されている。
【0048】
押さえモーター17の原点センサ171が検出する原点位置は、布押さえ11が押さえ位置となるときの押さえモーター17の位置に一致している。
設定入力部95からは、布押さえ11の押さえ位置ではなく、布押さえ11を任意の高さに設定することもできる。これにより、設定入力部95からは、微小押さえ上げ高さにする場合の高さ設定を行うことができる。微小押さえ上げ高さとは、例えば厚地の被縫製物を押さえる場合に、針板と布押さえ11の底面との間に隙間ができる程度に押さえ位置よりも幾分上となるように合わせる高さであり、0より高く3[mm]以下の範囲で任意に設定することができる。
【0049】
布押さえ11を微小押さえ上げ高さ等の任意の高さにする場合には、CPU91は、押さえ高さ検出部30のエンコーダー33による高さ検出を行いつつ布押さえ11が目標の高さとなるように押さえモーター17を制御するが、原点センサ171により押さえモーター17の原点位置を検出して布押さえ11を押さえ高さとしてから目標の高さとなる分だけ上昇方向に押さえモーター17を駆動させる制御を行うことも可能である。
【0050】
押さえ上げボタン96は、布押さえ11を昇降させるボタンであり、布押さえ11が押さえ上げ位置にあるときに押下すると、布押さえ11を押さえ位置(微小押さえ上げ高さが設定されている場合には当該微小押さえ上げ高さ)まで下降させる動作を行い、布押さえ11が押さえ位置(微小押さえ上げ高さが設定されている場合には当該微小押さえ上げ高さ)にあるときに押下すると、布押さえ11を押さえ上げ位置まで上昇させる動作を行う。下降、上昇いずれの動作の場合も、制御装置90は、エンコーダー33が検出する布押さえ11の高さを監視しながら、押さえモーター17に対して位置決め制御を行う。
【0051】
上記制御装置90は、上記制御を行うために、ミシンの押さえ上げ機構10の各部の制御及び演算処理を行うCPU91と、CPU91の作業エリアとなるRAM92と、CPU91が処理するプログラムが記憶されたROM93と、演算処理に用いられるデータが記憶されるとともに当該データを書き換え可能に構成された記憶部としてのEEPROM94と、を備えている。
【0052】
[押さえ上げボタンによる布押さえの昇降動作制御]
押さえ上げボタンの押下による布押さえの昇降動作制御の詳細を
図12のフローチャートに基づいて説明する。
まず、制御装置90のCPU91は、押さえ上げボタン96の押下を検出すると(ステップS1)、エンコーダー33の出力により、布押さえ11が押さえ上げ位置にいるか否かを判定する(ステップS3)。
これにより、布押さえ11が押さえ上げ位置にいると判定した場合には(ステップS3:YES)、押さえモーター17を布押さえ11が下降する方向に駆動させる(ステップS5)。
【0053】
そして、CPU91は、再び、エンコーダー33の出力を読み取り、布押さえ11の下降が行われているかを判定する(ステップS7)。
この時、仮に、手動レバー20により布押さえ11が押さえ上げ位置に保持されている場合には(
図9の状態)、押さえモーター17を下降方向に駆動しても、布押さえ11の下降動作は行われない。
【0054】
従って、エンコーダー33の出力から布押さえ11が下降していないと判定した場合には(ステップS7:NO)、CPU91は、押さえモーター17を布押さえ11が上昇する方向に駆動させる(ステップS9)。
これにより、CPU91はエンコーダー33の出力を監視して、布押さえ11が布押さえ解除位置まで上昇したか否かを判定する(ステップS11)。布押さえ解除位置とは、前述した手動レバー20の嵌合部23と押し上げ部材15の被嵌合部156の嵌合状態を解除するのに十分な高さである(例えば、高さ7[mm]とする)。
【0055】
そして、布押さえ解除位置の到達が検出されると、押し上げ部材15は十分に上方に移動しているので、手動レバー20の嵌合部23が押し上げ部材15の被嵌合部156から外れて、自重により手動レバー20の入力腕22が
図8の位置まで回動する。
この状態で、CPU91は、再び、押さえモーター17を布押さえ11が下降する方向に駆動させる(ステップS13)。
【0056】
そして、CPU91はエンコーダー33の出力を監視して、布押さえ11が押さえ位置(微小押さえ高さが設定されている場合にはその設定高さ)まで下降したか否かを判定する(ステップS15)。
上記判定により、布押さえ11が押さえ位置(又は微小押さえ高さ)まで到達していない場合には下降を継続し(ステップS15:NO)、布押さえ11が押さえ位置(又は微小押さえ高さ)に到達した場合には(ステップS15:YES)、押さえモーター17の駆動を停止させて(ステップS17)、布押さえの昇降動作制御を終了する。
【0057】
また、ステップS7の判定において、布押さえ11の下降が検出された場合には(ステップS7:YES)、手動レバー20により押し上げ部材15が保持された状態ではないので、そのまま、布押さえ11が押さえ位置(又は微小押さえ高さ)に到達するまで下降させて(ステップS15)、布押さえ11が押さえ位置(又は微小押さえ高さ)に到達した場合には(ステップS15:YES)、押さえモーター17の駆動を停止させて(ステップS17)、布押さえの昇降動作制御を終了する。
【0058】
一方、ステップS3の判定において、エンコーダー33の出力により布押さえ11が押さえ上げ位置にいないと判定した場合には(ステップS3:NO)、布押さえ11は押さえ位置(又は微小押さえ高さ)にいることになるので、押さえモーター17を布押さえ11が上昇する方向に駆動させる(ステップS13)。
そして、エンコーダー33による、布押さえ11の押さえ上げ位置への到達の検出を判定し(ステップS21)、到達していない場合には、上昇を継続し、到達した場合には、押さえモーター17の駆動を停止させて(ステップS17)、布押さえの昇降動作制御を終了する。
【0059】
[手動レバーによる自動押さえ上げ解除制御]
手動レバー20を使用した場合には、押さえモーター17は、人為的操作に干渉しないように、押さえモーター17における原点位置(布押さえ11を押さえ位置とする軸位置)に戻すことが望ましい。このため、手動レバー20により操作が行われた場合に制御装置90のCPU91は以下の制御を実行する。
即ち、布押さえ11が押さえ上げ位置にある状態で、手動レバー20の入力腕22を
図10のように上方を向いた状態まで回動させた場合における布押さえ11の昇降動作時の制御の詳細を
図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0060】
この制御では、押さえモーター17によって布押さえ11が押さえ上げ位置に引き上げられた状態にあることを前提とする。即ち、制御装置90のCPU91は、押さえモーター17によって布押さえ11を押さえ上げ位置に引き上げる動作制御を行うと、
図13の処理を周期的に実行する。
【0061】
CPU91は、エンコーダー33の出力を監視して、布押さえ11が押さえ上げ位置にいる状態から布押さえ11が押さえ上げ位置よりも上方まで上昇させられたか否かを判定する(ステップS31)。
次いで、押さえ上げ位置よりも上方まで上昇したことが検出された場合には(ステップS31:YES)、手動レバー20が操作されたとCPU91は判断し、CPU91は押さえモーター17が原点にあるかを判定し(ステップS33)、押さえモーター17が原点に無い場合には(ステップS33:NO)、押さえモーター17を下降方向へ駆動させ(ステップS35)、原点センサ171が原点を検出するまで出力を監視しながら(ステップS37)、下降方向への駆動を継続して、押さえモーター17が原点位置に到達したところで駆動を停止させる(ステップS39)。
そして、CPU91は、自動押さえ上げ解除制御を終了する。
【0062】
また、ステップS31において、押さえ上げ位置よりも上方まで上昇したことが検出されない場合には(ステップS31:NO)、CPU91は、手動レバー20は操作されていないと判断して処理を終了する。
また、ステップS33において、押さえモーター17が原点にあることが検出された場合には(ステップS33:YES)、CPU91は、既に、自動押さえ上げ解除制御が実行済みであるものとして処理を終了する。
【0063】
また、ミシンの使用者による手動レバー20による操作が終わると、手動レバー20は嵌合部23と被嵌合部156の嵌合により
図9に示すような水平状態となり、この手動レバー20によって布押さえ11自体は押さえ上げ位置となるが、押さえモーター17は原点にある為、手動レバー20による手動操作が可能となる。従って、手動レバー20を操作して入力腕22を下向きの状態にすれば、布押え11を押さえ位置へ下降する事が可能となる。
【0064】
なお、上記自動押さえ上げ解除制御は、押さえモーター17によって布押さえ11を押さえ上げ位置に引き上げる動作制御を行った後であることを前提とし、押さえモーター17によって布押さえ11を押さえ位置まで下降させた場合には、対象としない。この場合には、押さえモーター17は既に原点位置にあり、その状態で手動レバー20により布押さえ11を上昇又は下降させても干渉を生じないためである。
【0065】
また、自動押さえ上げ解除制御が終わると、CPU91は、微小押さえ高さ設定の有無の判定処理を行う。自動押さえ上げ解除制御の完了後、CPU91は、
図14に示す微小押さえ高さ設定の有無の判定処理を周期的に実行する。
即ち、CPU91は、自動押さえ上げ解除制御の実行後に、ミシンの使用者により操作レバー20が
図8に示す状態に引き下げられると、布押さえ11は押さえ位置まで下降する。
【0066】
CPU91は、周期的にエンコーダー33の出力を監視して、布押さえ11が押さえ位置に下降したか否かを判定する(ステップS41)。そして、布押さえ11の押さえ位置の下降を検出しない場合には(ステップS41:NO)、微小押さえ高さ設定の有無を終了する。
一方、布押さえ11の押さえ位置の下降を検出した場合には(ステップS41:YES)、CPU91は、微小押さえ上げ設定の設定値が設定がされているか否かを判定し(ステップS43)、設定されていない場合には微小押さえ高さ設定の有無を終了する。
【0067】
また、微小押さえ上げ設定の設定値が設定がされている場合には(ステップS43:YES)、押さえモーター17を上昇方向に駆動し(ステップS45)、エンコーダー33により布押さえ11が設定された微小押さえ高さに到達するまで上昇を継続する(ステップS47)。
そして、布押さえ11が設定された微小押さえ上げ高さに到達すると、押さえモーター17の駆動を停止させて制御を終了する(ステップS49)。
【0068】
以上のように、微小押さえ高さ設定の有無の判定処理では、布押さえ11を一旦押さえ位置まで下降させてからエンコーダー33の検出を利用して微小押さえ高さへの布押さえ11の位置決めを行っているので、正確に布押さえ11を微小押さえ高さ似合わせることが可能となる。
【0069】
また、上記自動押さえ上げ解除制御は、操作レバー20による押さえ上げ位置より上方への布押さえ11の引き上げをトリガーとして実行する場合を例示したが、膝上げレバーによる押さえ上げ位置より上方への布押さえ11の引き上げが行われた場合にも、
図13に示す制御と同一の制御が実行される。
【0070】
また、膝上げレバーの場合には、
図9に示す操作レバー20のように布押さえ11を押さえ上げ位置で保持する構造ではないので、膝上げレバーによる布押さえ11の引き上げ操作を止めると、布押さえ11はそのまま押さえ位置まで下降することとなるが、自動押さえ上げ解除制御に続いて行われる微小押さえ高さ設定の有無の判定処理は、布押さえ11が押さえ位置に到達することをトリガーとして実行されるので、膝上げレバーを使用する場合にも、
図14に示す処理と同一の処理が実行される。
【0071】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記構成からなるミシンの押さえ上げ機構10は、ミシンアーム部103内のフレームに対して上下動可能に支持され、棒抱き13に対して下方から当接して押し上げ可能な押し上げ部材15を備え、押さえモーター17は、押し上げ部材15を介して棒抱き13に上昇動作を付与することから、押さえモーター17の動作制御により布押さえ11を任意の高さに合わせることができる。そして、布押さえ11の高さを目標位置に合わせて押さえモーター17を停止させても、押し上げ部材15の存在により、棒抱き13は押さえモーター17に拘束されることなく上方移動が可能である。
従って、布押さえ11は、押さえモーター17による調節後の高さよりも上方に持ち上げると押さえバネ14の押圧力が作用するので、任意の高さに調節された状態で被縫製物に押さえ圧を付与することが可能となり、被縫製物の布ズレを押さえつつミシンに良好な送りを行わせることが可能となる。
【0072】
また、布押さえ11を押さえ上げ位置まで持ち上げたときに、押し上げ部材15側に形成された被嵌合部156に嵌合する嵌合部23を手動レバー20に形成したので、手動により、布押さえ11を押さえ上げ高さに移動させることも可能となる。
また、被嵌合部156と嵌合部23とは、凹凸構造なので、手動レバー20を手動で回動させて解除して、押さえ位置又は微小押さえ高さに移動することも可能である。
なお、手動レバー20により押さえ上げ位置に布押さえ11を上昇させる際に、押し上げ部材15も上昇させる構造となっているが、連結部材57の長穴572がリンク体16の回動を許容して、カム機構40及び押さえモーター17側にその動作を伝えないので、押さえモーター17に干渉されることなく、布押さえ11を手動で上昇させることが可能である。
【0073】
また、上記ミシンの押さえ上げ機構10は、手動レバー20の嵌合部23は、押し上げ部材15の被嵌合部156に対して下方から嵌合し、手動レバー20は、嵌合部23が被嵌合部156に嵌合したときにその重心Gが最低位置より上方となり、押し上げ部材15の上方移動により嵌合部23と被嵌合部156との嵌合状態が解除されて自重によって重心Gが下方に移動する方向に回動可能であり、押さえモーター17により押し上げ部材15を上方に移動させて嵌合部23と被嵌合部156の嵌合状態を解除させるモーター制御部としての制御装置90を備えている。
このため、手動レバー20の嵌合部23と押し上げ部材15の被嵌合部156との嵌合状態を押さえモーター17の駆動制御によって解除することができ、手動による作業を低減し、操作性の向上を図ることが可能である。
【0074】
また、押さえ上げ機構10は、布押さえ11の高さを検出する押さえ高さ検出部30を備え、モーター制御部としての制御装置90は、押さえ高さ検出部30により布押さえ11が押さえ上げ位置に位置することを検出した状態で(
図12のステップS3参照)、押さえモーター17を布押さえ11が下降する方向に駆動した時に(
図12のステップS5参照)、押さえ高さ検出部30により布押さえ11の下降移動が検出されない場合に(
図12のステップS7参照)、嵌合部23と被嵌合部156の嵌合状態を解除させる位置まで押さえモーター17を布押さえ11が上昇する方向に駆動させる手動レバー解除制御(
図12のステップS9及びS11参照)を行っている。
従って、手動レバー20側にその操作位置を検出するためのセンサを設けることなく、手動レバー20が布押さえ11を押さえ上げ高さに保持している状態を検出することができ、センサ等の部品点数の低減、部品設置の省スペース化による機構の小型化を実現することが可能となる。
【0075】
また、押さえ上げボタン96を押下して押さえモーター17によって布押さえ11を押さえ上げ位置に上昇させた場合、従来のミシンでは手動レバー20を手動操作しても布押さえ11の位置変更操作をすることはできなくなるが、本願の場合は押さえモーター17による布押さえ11の自動押え上げ状態から、手動レバー20又は膝上げレバーによる手動動作への移行が可能なため、自動押さえ状態を解除して布押さえの押さえ位置(又は微小押さえ高さ)へ下降操作を行うことが可能になり、作業の効率化が図れる。
【0076】
[その他]
手動レバー20は、押し上げ部材15の腕部151に当接して、棒抱き13及び布押さえ11を押さえ上げ位置まで上昇させる動作を行っているが、この構造に限定せずに、押し上げ部材15の腕部151を削除し、替わりに、当該腕部151と同一構造の傾斜面155及び被嵌合部156を設けた棒抱き13の腕部131に対して手動レバー20が上昇動作を付与する構造としても良い。
【0077】
また、押さえ上げ機構10の制御装置90は、押さえ上げ機構10を搭載したミシンの制御装置によって代用しても良い。