【実施例】
【0057】
細胞培養。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、Goldberg, A. D. et al., (Cell)
140:678-691 (2010)に記載されたとおり得た。HUVECは、Endothelial Growth Media(EM):Medium 199(Thermo Scientific: #FB-01)、20%ウシ胎児血清(Omega Scientific)、20μg/ml内皮細胞補充物(Biomedical Technologies: #BT-203)、1X Pen/Strepおよび20単位/mlのヘパリン(Sigma: # H3149-100KU)中で培養した。成人初代ヒト皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)は、ScienCell Research Laboratories(cat #2020)から購入した。無血清造血培地は、StemSpan SFEM(Stemcell Technologies)、10%のKnockOut Serum Replacement(Invitrogen)、5ng/mlのbFGF、10ng/mlのEGF、20ng/mlのSCF、20ng/mlのFLT3、20ng/mlのTPO、20ng/mlのIGF−1、10ng/mlのIGF−2、10ng/mlのIL−3、10ng/mlのIL−6(すべてInvitrogen、eBioscienceまたはPeprotechから)でできていた。
【0058】
ヒト臍帯血前駆細胞の精製。ヒト臍帯血を、IRBプロトコール”Stage Specific Differentiation of Hematopoietic Stem Cells into Functional Hemangiogenic Tissue”(Weill Cornell Medical College IRB # 09060010445)の下で得た。臍帯血単核細胞を、Ficoll-Paque(GE)を用いる密度勾配によって精製し、そして抗CD34ミクロビーズ(Miltenyi)を用いる磁気分離を用いて、CD34
+前駆細胞に関して富化した。Human Progenitor Cell Enrichment Kit(StemCell Technologies)を用いるLin
+細胞の陰性選択によってさらなる精製を達成した。Arcturus PicoPure RNA単離キット(Applied Biosystems;このキットは、すべてのRNA抽出手順に用いた)を用いるFACSによって、単離されたLin
−CD34
+CD45
+細胞からRNAを抽出した。
【0059】
フローサイトメトリー。フローサイトメトリー分析をBecton Dickenson LSRII SORPにおいて実施し、そして蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting)(FACS)をAria II SORPにおいて実施した。使用した抗体は、ヒトCD45、CD34、CD14、CD31、CD43、CD90、CD41a、CD33、CD19、CD3、CD4、CD8、CD235、CD45RA、CD83、CD11b、CD38、LINカクテル、CD117、CD133、CD144(BD Pharmingen, eBioscience)またはマウスCD45(eBioscience.)に対して高めた。電圧調整および補正は、CompBeads(BD Pharmingen)を用いて行い、そしてフルオロフォアマイナス1対照(FMO)および非染色対照においてゲーティングを実施した。
【0060】
内皮細胞と造血前駆細胞との間で異なって発現される転写因子の同定。造血特化に不可欠である状態を確認するため、本発明者らは、新たに単離されたHUVECおよびLin
−CD34
+ヒト臍帯血造血前駆細胞においてRNA−シークエンシングを実施して、異なって発現されたTFを同定した。異なって発現された26個のTFを確認した(表1)。
【0061】
【表1】
【0062】
レンチウイルスベクター。転写因子候補をpLVX-IRES-Zs Green1レンチベクター(Clontech)、pLOCレンチベクター(OpenBiosystems)、またはLV105レンチベクター(Genecopoeia)のいずれかにサブクローニングした。レンチウイルス粒子は、Sandler, V. M. et al., PLoS One 6:e18265 (2011)に記載されたとおりパックした。簡潔には、ヒト胎生腎293FT(HEK293FT)細胞をレンチベクターおよび2つのヘルパープラスミド(psPAX2)およびpMD2.G(Addgeneを通してTrono Lab)と等モル比で共トランスフェクトした。形質移入48〜52時間後に、上清を集め、濾過し、そしてLenti-X濃縮器(Clontech)を用いて濃縮した。ウイルス価は、標的細胞としてHUVECを用いて限界希釈実験で決定した。本発明者らは、体積当たりの感染ウイルス粒子の数に対する読み出しとして、GFP
+細胞の数、または選択抗生物質(プロマイシン)の存在下で形成されたコロニーの数のいずれかを用いた。本発明者らは、HUVECまたはhES細胞由来のECについてはMOI5〜10、そして線維芽細胞の感染については10〜25を用いた。
【0063】
HUVECおよびHEF(ヒト胚線維芽細胞)を、SPI1を発現するレンチウイルスにより形質導入し、そしてプロマイシン(0.5〜1μg/ml)の存在下で10〜14日間増殖させて十分な数の細胞を得た。全4つのFGRSを発現するレンチウイルスを内皮細胞培地中に再懸濁し、そして支持細胞に加えた。12〜24時間後、形質導入されたECを、さらなるEC培地と共に供給した。形質導入後の2〜3日後、形質導入されたECを、支持細胞上で再び培養した。
【0064】
本発明者らは、26個の確定されたTFのさまざまな組合せをスクリーニングして、HUVECを造血細胞にリプログラミング可能なものを確定した。造血細胞による出発HUVEC培養液の潜在的汚染を排除するため、本発明者らは、新たに単離されたHUVECを選別して成熟したCD45
−CD133
−cKit
−CD31
+EC(
図1A)を得た。外因的に発現されたTFがない場合、これらのHUVECは、決してCD45
+造血細胞を生じることがない。したがって、本発明者らは、最初の読出しとしてCD34
+CD45
+細胞の発生を用いて、血液学的可能性を獲得した細胞を確定した。緑色蛍光タンパク質(GFP)マーカーまたはプロマイシン抵抗性遣伝子のいずれかを有する、確定されたTFを発現するレンチウイルスベクターを用いてHUVECを形質導入した(
図1A)。次いで、形質導入されたHUVECを、造血サイトカイン(TPO、KITL、FLT3L;方法を参照のこと)の存在下、血清なしで増殖させた。形質導入の約2週間後、HUVEC培養液は、丸いGFP
+CD45
+細胞の発生(
図1B)および内皮単層から発生が始まったGFP
+CD45
+細胞の丸いブドウ状コロニー(
図1A、12日目〜16日目)を示した。
【0065】
ECをリプログラミングするために必要な転写因子の確定。表1で確定したように、異なるTFを欠如させたそれぞれの形質転換により、一度に25TFを用いてHUVECを形質転換させた。TF候補をこのように系統的に「1つずつ脱落」させて、造血リプログラミングにはFOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の強制発現が必要であることを示した(この組合せを「FGRS」と呼ぶ)(
図1D、n=3)。他のTF候補は、必要なかった。本発明者らは、造血様コロニーの生成にはFGRS TFのみで十分であることを見いだした(
図1E、n=3)。いずれか1つのFGRS因子を除去しても、造血様クラスターの形成が完全に排除されることはなかったが、しかし、クラスター数はかなり減少し(p<0.05)そして新生造血様細胞は活発に分裂しなかった。
【0066】
FGRS形質導入ECの成長を増強および持続させる支持細胞層のデザイン。ECおよびHSPCは、大動脈−性腺−中腎(AGM)領域で共発生する(co-develop)。初生HSCは、発育中の胎児中の増殖に適したニッチを必要とするため、血管性ニッチ支持細胞は、新生造血様細胞の生存を増強し、そして特化を持続しうる。この仮説を調べるため、本発明者らは、Butler, J. M. et al., (Blood) 120:1344-1347 (2012)によって記載されたように、アデノウイルスE4複合体(E4−HUVEC)のE4ORF1遺伝子の発現によって、HUVECの血清および成長因子を含まない培養を可能にするための血管性ニッチのin vitroモデルを用いた。本発明者らのグループおよびその他は、E4−HUVECは、初生造血細胞、マウスcKit
+Lin
−Sca1
+CD34
−Flt3
−およびヒトLin
−CD45RA
−CD38
−CD34
+CD49f
+HSPCに対するそれらのニッチ様支持体を維持しており、それらは、致死的に照射を受けた一次および二次レシピエントに移植することができることを示している。
【0067】
この血管性ニッチ共培養系を用いて、本発明者らは、成熟したHUVEC(またはhDMEC)をFGRSリプログラミング因子で形質導入し、次いで、2〜3日後、洗浄し、そしてE4−HUVECフィーダーの確立された単層上で再び培養する、生体異物を含まないプラットフォームを考案した。5×10
4成熟したHUVECの形質導入により、E4−HUVECを用いる無血清共培養中に32.3±10.5(n=8)の明瞭なコロニーを得たが、しかし、血清を加えた場合、コロニーは観察されなかった。ナイーブHUVECは、1〜2週間を超える間、無血清培養において生存することができないため、血管性ニッチとして適しておらず、FGRS−ECが、リプログラミング中に血管性ニッチ支持体から利益を得るのを妨げる。実際に、ナイーブHUVECを用いた共培養から発生するGFP+造血様コロニー(形質導入されたHUVEC5×10
4当たり3.4±3.2のコロニー;n=5)は、支持細胞がない場合のFGRS−ECから成長(outgrowth)とは、まったく共通していなかった。
【0068】
E4−HUVECは、FGRS−ECを培養するのに必要な環境を提供する。FGRS形質導入EC(FGRS−EC)とE4−HUVECとの共培養は、造血様コロニーの収率および持続性を著しく高め、それにより最終的にrEC−HMLPの形態学的および分子的特徴が明らかになった。したがって、FGRS−ECからの造血細胞の効率的生成には、ニッチ様の機能を有するECからの長期的な支えとなるシグナルが必要である。
【0069】
これらの理由のため、本発明者らは、FGRS形質導入ECの造血リプログラミングのさらなる特徴づけのための血管性ニッチフィーダープラットフォーム、E4−HUVECを用いた。5×10
4ECの2日間の形質導入およびその後のE4−HUVECを用いた3週間の共培養により、32.3±10.5(n=8)の明瞭なコロニーが発生した(
図1C)。これらのデータは、FGRS形質導入ECからの造血細胞の発生には、支えとなる血管細胞が不可欠であることを示唆している。
【0070】
培養された細胞のFGRS TFの発現の確認。ナイーブEC中に導入されたFGRSの適当な化学量論を考慮しない場合、リプログラミングの効率は、非常に低く、0.07%未満に近かった。したがって、リプログラミングの効率を改善するため、本発明者らは、TFの適当な化学量論を用いた形質導入されたFGRS形質導入ECのそれらのサブセットを選択する戦略を開発した。本発明者らは、最初に、GFI1、SPI1およびFOSB TFの適当な化学量論を用いてECを生成することに焦点を合わせたが、それは、EC中のそれらの天然の発現がごくわずかであるためである(表1を参照のこと)。これを行うため、本発明者らは、プロマイシン抵抗性(SPI1)またはGFP(FOSBおよびGFI1)によって標識されたFGRSレンチウイルス「カクテル」を用いて5×10
6ECを形質導入した。次いで、本発明者らは、プロマイシン選択を2日間適用してSPI1発現細胞を富化し、そしてGFP発現のためそれらを選別してSPI1
+GFP
+(FOSB/GFI1)ECを富化した。次いで、本発明者らは、これらのGFP
+細胞を12−ウェルプレート中に播種し、そして無血清培養で2日間それらを増殖させた(プレート当たり10
5細胞、n=3)。
【0071】
次いで、本発明者らは、造血培地のE4−HUVEC支持細胞層上でGFP
+プロマイシン耐性細胞10
4を再び培養し、そして共培養の約20日後、造血クラスターの数を定量化した。本発明者らは、これらのGFP
+、プロマイシン耐性細胞により、再培養細胞10
4当たり造血様コロニー156.0±3.6(n=3)が得られたことを見いだしており、リプログラミングの効率が少なくとも1.5%であったことを示唆している。この計算は、各コロニーが単一のリプログラミングされた細胞から生じており、そして本発明者らが、因子(SPI1およびFOSBまたはGFI1のいずれか/両方)の2つを発現することを知っている、形質導入されたECが、それぞれ全4つのFGRS TFを発現すると仮定している。効率は、各因子の適当な化学量論量を発現する細胞において、おそらくはるかに高い。したがって、本発明者らのリプログラミングアプローチが、HUVEC単層内に存在する造血/血管芽細胞ECの非常にまれな既存集団の自発分化のためである可能性は低い。
【0072】
支えとなる血管性ニッチは、FGRS−ECの増殖性多系列、赤血球−巨核球−骨髄系前駆細胞へのリプログラミングを促進する。E4−HUVECとの共培養の3〜4週間以内に、FGRS−ECは、急激に増殖を開始し、E4−HUVEC単層に部分的に付着したGFP+ブドウ状クラスターを形成し始めた。ブドウ状クラスターのWright-Giemsa染色は、造血前駆細胞およびそれらの子孫を形態学的に暗示する細胞を示した(
図1B、右のパネル)。また、本発明者らは、時々、発達中の造血コロニーがそれらの周囲から物理的に分離された大きなマルチコロニーニッチ様の構造体の形成を観察した(n=4)。フローサイトメトリーは、ほとんどのFGRS−EC子孫(GFP
+細胞)が、成熟したECマーカー、CD31の発現を喪失し、そしてサブセットが、共発現されたCD34と共に汎血球形成マーカーCD45の発現を獲得したことを示した(
図2A、n=9)。対照的に、GFP E4−HUVECは、高レベルCD31発現を保持しており、そしてCD34
+CD45
−のままであった。GFP
+CD45
+FGRS−EC子孫のサブセットは、他の造血マーカー、例えばCD43
+(8.96%±2.3;n=3)、CD90
+(Thy−1
+)(6.15%±1.13;n=3)、およびCD14
+(40.0%±4.95;n=3)を発現した。GFP
+細胞の増殖は、E4−HUVECとの4〜5週間の共培養の終了近くで増加し、入力ECの約400倍の増殖となる最大20×10
6のGFP+CD45
+細胞が生成することになった。(
図3A;17.2×10
6±2.4;n=6)。3〜5日後、増殖速度および生細胞数の両方が急激に減少したが、GFP
+CD45
+の生成は、減少した速度で続いた。したがって、E4−HUVEC細胞の支えとなる血管性ニッチは、FGRS−ECの増殖性多系列、赤血球−巨核球−骨髄系前駆細胞(rEC−HMLP)へのリプログラミングを促進する。
【0073】
rEC−HMLPは、赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球前駆体細胞を生成することができる。rEC−HMLPの機能を評価するため、本発明者らは、標準メチルセルロースアッセイを用いてコロニー形成単位(CFU)アッセイを実施した。HUVECが、機能性rEC−HMLPに実際に変換された場合、これらの細胞は、CFUアッセイにおいて少なくとも2つの明瞭な造血系に分化することができるはずである。FGRSによるHUVECの形質導入および血管性ニッチ共培養の4週間後、GFP+CD45+CD34+rEC−HMPLを選別し、そしてCFUアッセイ(n=3)のため1200〜1600細胞/cm
2(5000〜7000細胞/35mmプレート)の密度で播種した。14日以内に、細胞からは、形態学的に似ているGFP細胞集合CFU−GM(顆粒球/マクロファージコロニー形成単位)、CFU−GEMM(顆粒球/赤血球/単球/巨核球コロニー形成単位)、および部分的にヘモグロビンを発現したBFU−Eタイプ造血コロニー(バースト形成単位−赤血球、赤血球前駆細胞タイプ)が生じた(
図2C)。CFUアッセイにおける系列特化は、コロニーをWright-Giemsaで染色することによって検証した(
図2D)。本発明者らは、Beutler, E., 編, Williams Hematology; McGraw Hill, Inc. (第5版, 1995)に定義されたような赤血球、マクロファージ、顆粒球、および巨核球前駆体の典型的な形態学的特徴を有する細胞を検出することができた。
【0074】
メチルセルロース培養から得られたコロニーの免疫表現型解析は、CD235、CD11b、CD14、CD83およびCD45細胞の存在を示し、rEC−HMLPが、赤血球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫に分化したことを示唆している。また、CD235
+(グリコホリンA)細胞は、CD45
−であり、赤血球分化を示唆している(
図2E)。
【0075】
ヒト成人皮膚の微小血管内皮細胞は、自家HSCを形成可能である。本発明者らの方法が、HUVECとは別のECのリプログラミングに適用できるかどうか調べるため、本発明者らは、ヒト成人皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)を用いた。hDMECの移植可能なrEC−HMLPへのリプログラミングは、骨髄再構成のために移植可能な自家造血前駆細胞の生成が可能となりうるため、将来な臨床適用の可能性にとってより重要である。さらに、成人ECが、減少して低い数の造血ECを含みうる場合、このアプローチは、造血または血管芽細胞ECでなく、成熟したECが、造血細胞にリプログラミングされていることを示している。
【0076】
hDMECを、FGRS因子で形質導入し、そして無血清環境中で血管誘導を受けさせた(HUVECリプログラミングに用いたのと同じプロトコール)。リプログラミングされたhDMECのin vitro機能を評価するため、本発明者らは、CFUアッセイを実施した。FGRSによるhDMECの形質導入の4週間後、GFP
+CD45
+CD34
+細胞を選別し、そしてCFUアッセイ(n=3)のため1200〜1600細胞/cm
2の密度で播種した。12〜14日以内に細胞からは、形態学的に似ている細胞集合CFU−GM、CFU−GEMM、部分的にヘモグロビンを発現するBFU−E、および混合コロニーが生じた(
図4A)。CFUアッセイにおける系列特化は、コロニーをWright-Giemsaで染色することによって検証した。本発明者らは、典型的な赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球の前駆体形態を有する細胞を検出することができた(
図4A)。メチルセルロース培養から得られたコロニーの免疫表現型解析は、hDMECから誘導されたrEC−HMLPの、赤血球CD235
+(58.66±3.47%)、マクロファージCD11b
+(10.39±3.05%)、単球CD14
+(10.87±1.28)、および樹状CD83
+(7.94±0.80%)細胞子孫を含むいくつかの系列に分化する能力を示した(
図4B)。
【0077】
HUVECは、rEC−HMLP様細胞を自発的に生成することができない。HUVECが、rEC−HMLP様細胞を自発的に生成できる造血または血管芽細胞を含むことがありうる可能性を排除するため、本発明者らは、2セットの実験を実施した。
【0078】
最初に、本発明者らは、ウェル当たり1細胞、2細胞、5細胞および10細胞の密度で表現型的に著しく成熟したHUVECを選別することによってクローン培養を生成した。これを達成するため、本発明者らは、多色フローサイトメトリーを実施し、そしてCD144(VE−カドヘリン)
+CD31
+E−セレクチン
+CD45
−HUVECを、1、2、5および10細胞の配置で、96−ウエルプレート中に選別した。E−セレクチン(CD62E)は、成熟したEC上でしか発現されず、そして任意の造血または非血管性細胞上には存在しない。次いで、これらのコロニーは、>10000細胞培養液(5および10−細胞クローンに関して)、>5000細胞(1−細胞#1クローンおよび2−細胞クローン)、および>3000細胞(1−細胞#2クローン)に増殖した。FGRSによる1−細胞培養液、2−細胞、5−細胞および10−細胞培養液の形質導入、続いてE4−HUVECとの共培養の結果、混合HUVEC培養実験において観察されたコロニーと類似した造血様コロニーが発生した。E−セレクチンは、最終的に分化した成熟した活性化EC上でしか発現しないため、FGRS形質導入HUVECのクローン集団中に、「造血または血管芽」ECの混入が存在し、造血細胞を生じているかもしれない可能性は低い。
【0079】
実験の第2のセットにおいて、本発明者らは、リプログラミング実験に用いた無血清培地中でHUVECを増殖させた。本発明者らは、血清除去および培地中の造血サイトカインのコンビナトリアル添加に反応したHUVECにおける増殖ならびにCD45およびCD34発現を比較した。血清不使用も造血サイトカインの最適カクテルの添加もないと、HUVEC中にCD45の任意の検出可能な発現を生じなかった。しかし、血清不使用単独および/またはそれとTGFシグナル伝達阻害との組み合わせは、いずれもそれらの血管の独自性(vascular identity)を持続させる、HUVEC中のCD34発現の有意な上方制御を生じた。まとめると、これらのデータは、FGRSがHUVEC内の既存の造血または血管芽前駆細胞をリプログラミングする可能性が低いというよりも、むしろFGRS TF+血管性誘導プロトコールが、最終的に分化したCD144
+CD31
+E−セレクチン
+CD45
−ECの造血細胞への変換を誘導することを示している。
【0080】
rEC−HMLPは、表現型的に正しいHSPCおよび多能性前駆細胞を生成することができる。rEC−HMLPのより詳細な表現型解析は、CD45
+Lin
−CD45RA
−CD38
−CD90
+CD34
+またはCD45
+Lin
−CD45RA
−CD38
−CD90
−CD34
+である細胞の小さな集団を示し、したがって、それぞれ、Chao, M. P. et al., (Cold Spring Harb Symp Quant Biol) 73:439-449 (2008)によって定義されたような、表現型的に顕著なHSPCまたは多能性前駆細胞の基準を満たしている(
図2B、n=3)。
【0081】
CD45
+細胞は、増殖の可能性を有する。本発明者らは、無血清造血培地中のCD45
+およびCD45
−細胞の増殖可能性を比較した。CD45
+(12×10
3)およびCD45
−(60×10
3)細胞を個々のウェル中に選別し、そして2日間増殖させた。本発明者らは、CD45
+細胞の5倍増殖(56.6×10
3±7.9×10
3;n=3)およびCD45
−細胞の劇的な減少(4.6×10
3±1.0×10
3;n=3)を観察した。クローン増殖に関するCD45
+およびCD45
−細胞の可能性を調べるため、それらを1または2細胞/ウェルの密度で96−ウエルプレートに選別した。7日培養後、本発明者らは、1−細胞ソートの6.3±2.1ウェル(93.1±14.5細胞/ウェル)および2−細胞ソート(n=3)の29.0±4.3ウェル(112.1±21.2細胞/ウェル)においてCD45
+細胞増殖を観察した。1および2−細胞ソートにおける細胞数/ウェルの間の違いは、統計学的に有意でなく(p=0.78)検出された細胞増殖を有するウェルの数の違いが、ウェル中に選別された細胞数の反映というよりも選別された細胞の生存のためであったことを示唆している。本発明者らは、CD45
−細胞の有意な増殖をなんら検出しなかった。
【0082】
ヒト胚性幹細胞の分化およびリプログラミングの試み。本発明者らは、Rafii, S. et al., Blood 121:770-780 (2013)に記載されたように、ヒトVE−カドヘリンプロモーターの断片によって駆動された蛍光レポーターを介して、分化されたEC誘導体を特異的に確認するトランスジェニックhESCレポーター系統を用いた。内皮の関与を増大させるため、血管支持細胞との共培養においてhESC分化を開始した。簡潔には、Seandel, M. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 105:19288-19293 (2008)に記載されたように、HUVECを単離し、レンチウイルスAdE4ORF1により形質導入した。分化を開始するためにhESCを培養する1日前、MEF馴化培地を、FGF−2を含まず、かつ2ng/mlのBMP4で補充されたhESC培地で置き換えた。その翌日、hESCを、hESC培地(FGF−2なし、2ng/mlのBMP4を加えた)中のE4ORF1+ECの80%コンフルエント層上で直接培養し、そして48時間静置した。この培養地点を、分化0日目とみなした。以下の順序で組換えサイトカインを用いて細胞を順に刺激した:0〜7日目−10ng/mlのBMP4を補充した;2〜14日目−10ng/mlのVEGFAを補充した;2〜14日目−5ng/mlのFGF−2を補充した;7〜14日目−10μMのSB−431542を補充した。血管特異的レポーターおよびCD31を共発現するhESC由来細胞の分画を、FACSによって14日目に収集した。これらの細胞をFGRSカクテルで形質導入し、そして2〜3日後、E4ORF1 HUVECの層上で培養した。リプログラミングの程度を、フローサイトメトリーによって評価した。
【0083】
ヒト胚性幹細胞は、高度に増殖性のHSCを形成する能力が欠如している。現在、胚性幹細胞(ES)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む多能性幹細胞の、再増殖する造血細胞への分化は、限定された成功を示している。したがって、FGRSは、ヒトES由来のECのHSCへの分化を増強することができる欠損因子(missing factors)となりうる。この目的で、本発明者らは、hESをEC(hES−EC)38に分化させた。次いで、本発明者らは、VEGFR2陽性hES−ECを精製し、そしてそれらをFGRSで形質導入した。特に、FGRS形質導入hES−ECは、かなりの数のCD45
+CD144
−細胞を生成することができた。しかし、これらのCD45
+CD144
−細胞は、明瞭な安定な造血様コロニーの形成に失敗し、そして高増殖成長相に入らなかった。これらの結果は、hES−ECは、rEC−HMPLにリプログラミングされる際にHUVECほど許容的ではないことを示している。
【0084】
ECから生成されたrEC−HMLPは、移植され、in vivoで機能して造血細胞と入れ替わることができる。rEC−HMLPがin vivo生着可能であるかどうかを決定するため、本発明者らは、亜致死照射された(275Rad)免疫不全状態のNOD−SCID−IL2−受容体欠損(NSG)成体マウス(n=9;照射1日後)に、眼窩後注射を介してCD45
+GFP
+rEC−HMLP 1.5×10
6を移植した。ヒトCD45
+細胞の存在に関して、移植の2、5、12、16および22〜44週後に、注射されたマウスの末梢血を検査した(
図3B)。本発明者らは、2(n=7;17.38±7.73%)、5(n=6;15.1±13.39%)、12(n=6;14.14±5.44%)、16(n=6;22.36±17.95%)および22〜44(n=6、21.23±22.27%)週に循環ヒトCD45
+細胞を検出した。移植16週後の末梢血、骨髄(BM)および脾臓の分析は、全3つの組織中のヒトCD45
+細胞および末梢血中のヒトCD45
−CD235
+赤血球細胞の存在を示した。BMおよび脾臓は、小さいが検出可能な数のCD41a+(巨核球)細胞を有するrEC−HMLP(CD45
+CD33
+)の骨髄系子孫が集合していた(
図3C)。
【0085】
移植されたrEC−HMLPは、赤血球、巨核球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫を生成するそれらの能力を保持している。宿主から単離された移植されたrEC−HMLPが、それらの多系列可能性を保持しているかどうか決定するため、本発明者らは、二次的CFUアッセイを実施した。本発明者らは、移植の22(n=1)および24(n=4)週後に、移植されたマウスの骨髄からヒトCD45
+(hCD45
+)を単離した。これらの細胞をin vitroで24時間増殖させ、そしてCFUアッセイのためにhCD45
+hCD34
+細胞を選別した。14日以内に、培養された細胞から、CFU−GM、CFU−GEMMおよびBFU−Eと類似した形態を有するコロニーが生じた。細胞のサイトスピンのWright-Giemsa染色は、測定された細胞のヒト骨髄系子孫の典型的な形態を示した。メチルセルロース培養の免疫表現型解析は、ヒトCD45
+コンパートメントが、CD41a
+、CD14
+、CD83
+およびCD33
+細胞を含むことを示し、巨核球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫の存在を示唆している。CD45
−コンパートメントは、CD235
+を含み、マウスTer119
+細胞を含んでおらず、CFUアッセイにおけるヒトCD45
+CD34
+細胞の強い赤血球分化を示唆している(
図3E)。
【0086】
NSGマウスの骨髄に移植されたrEC−HMLPの分析は、ヒト多能性前駆細胞の定義を満たすLin
−CD45RA
−CD38
−CD90
−CD34
+細胞の小集団を示した(
図3E)。これらの細胞がそれらの多系列の可能性を保持しており、そしてリプログラミングされたrEC−HMLPの誘導体であることを検証するため、本発明者らは、CFUアッセイのためにそれらを培養し、そして単一コロニー中のウイルス組込みをチェックした。4つのリプログラミング因子の存在に関して、個々のコロニーから単離されたゲノムDNAを分析した。すべての試験コロニー(n=3)は、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1を発現するレンチウイルスベクターに関して陽性であった(
図3F)。単細胞レベルでのウイルス組込みの頻度を定量化するため、本発明者らは、宿主骨髄からのヒトCD45
+細胞を分析した。全ゲノム増幅(WGA)のため、細胞を96−ウエルプレート(1細胞/ウェル)中に選別した。増幅されたゲノムDNAを、ウイルス組込みに関して試験した。すべての細胞(n=21)は、ウイルスベクター組込みに関して陽性であった。2つの細胞は、リプログラミングに用いられる4つのウイルスのうち3つの組込み(検出不可能なRUNX1を有するFGSおよび検出不可能なFOSBを有するGRS)を示した(
図3G)。1細胞および単一コロニーウイルス組込みの結果から、宿主マウスから単離されたヒト造血細胞は、NSGマウスに移植されたrEC−HMLPから生じることが確認された。
【0087】
移植されたrEC−HMLPは、ゲノム完全性を保持している。CD45
+rEC−HMLP(形質導入後35日目)、およびNSGマウスの骨髄に移植されたCD45
+CD34
+rEC−HMLP(移植24週後)のゲノム完全性を評価するため、本発明者らは、Agilent SurePrint G3 Human CGH Microarray(1Mプローブ)を用いて比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)解析を実施した。解析は遺伝的異常を示さず、増殖性rEC−HLMPがin vitroおよびin vivoの両方において遺伝子的に安定のままであることを示唆している。
【0088】
移植されたrEC−HMLPは、in vivoで悪性形質転換に至らなかった。骨髄異形成症候群(MDS)に素因を含む、移植されたrEC−HMLPの悪性形質転換の可能性についての懸念に対処するため、本発明者らは、移植後の最大10ヵ月間、レシピエントマウスの骨髄、脾臓および肝臓を分析した(
図3A)。循環CD45
+細胞の存在に関して、末梢血を最初に分析した。生着を示すマウスを屠殺し、そしてMDSの徴候に関して、それらの脾臓、肝臓および脛骨を分析した。マウスは、白血病およびリンパ腫、例えばリンパ節症、脾腫または臓器肥大の肉眼的な証拠をなんら示さなかった。本発明者らは、rEC−HMLP移植されたマウスの骨髄、脾臓および肝臓上の染色パネルを用いることによって総合的分析を実施した。本発明者らは、コラーゲンまたはデスミンの過剰沈着のなんらかの徴候を観察しなかった。また、骨髄の微視的な構造は、骨髄異形成症候群を暗示する線維性リモデリングの証拠を示さなかった。骨芽細胞、血管および血管周囲領域は、形態学的に無傷であった。本発明者らは、本発明者らのアプローチが、白血病誘発可能性を有する造血細胞の誘導に至らないと結論付けた。
【0089】
移植されたrEC−HMLPは、リンパ系細胞を生成する。HUVEC由来の移植されたrEC−HMLPのリンパ系子孫の数(脾臓、骨髄および末梢血中)は、無視できるほど小さく、移植されたrEC−HMLPがin vivoでT細胞キメラ現象に十分に関与しなかったことを示唆している。SPI1の構成的残留発現が、rEC−HMLPがT細胞に分化することを妨げる可能性に対処するため、本発明者らは、構成的に発現されたFGR因子と誘導性SPI1との組合せ(SPI1−Tet−On)を用いた。HUVECを、FGR+SPI1−Tet−Onレンチウイルスで形質導入し、そしてドキシサイクリンの存在下、HUVECフィーダー単層の層上で27日間増殖させた。本発明者らは、造血様コロニーの形成およびCD45
+細胞の数の増加を観察した。HUVECフィーダーは、ドキシサイクリンに抵抗性であり、そして新生造血細胞の誘導を通してそれらの血管性ニッチ機能を維持した。次に、リプログラミングされた細胞を、Delta-like 4(OP9−DL4)を発現する骨髄間質細胞(OP9)の層上に移し、そしてIL−7(10ng/ml)、IL−11(10ng/ml)およびIL−2(5ng/ml)を補充した無血清造血培地の存在下で増殖させた。CD3、CD19およびCD14の発現に関して細胞を試験した(3週間のOP9−DL4共培養;
図6A)。特に、本発明者らは、小分画のCD3
+細胞(0.16±0.01%;n=3)、より多数のCD19
+(1.17±0.13%;n=3)およびCD14を発現する細胞の非常に有意な集団(16.46±1.02%;n=3)を確実に検出することができ、T細胞の生成を示している。
【0090】
移植されたrEC−HMLPは、機能性マクロファージを生成する。rEC−HMLPから分化したマクロファージの機能性評価を実施するため、本発明者らは、食作用アッセイを実施した。rEC−HMLPを、E4−HUVEC支持細胞層なしで、M−CSF(10ng/ml)、SCF(10ng/ml)、Flt−3(10ng/ml)、TPO(10ng/ml)および10%FBSの存在下、2週間培養した。本発明者らは、サイズの増加および培養細胞の粒状度を観察した。培養物をPBSで2回洗浄して非接着細胞を除去した。1μl/mlの低濃度で赤色蛍光ビーズと混合した成長培地を、付着細胞に37℃で1時間適用した。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、そして生細胞をCD11b抗体で染色した。細胞を固定し、そして核可視化のためDAPIで染色した。共焦点顕微鏡検査は、明らかに視認できる摂取されたビーズを有するしっかりと付着したCD11b
+GFP
+細胞の群を示した(
図6B)。したがって、rEC−HMLPは、機能性マクロファージを生じることができる。
【0091】
hDMECから生成されたrEC−HMLPは、移植して、in vivoで機能して造血細胞を交換することができる。hDMECから生成されたrEC−HMLPがin vivoで生着可能かどうかを決定するため、本発明者らは、亜致死的に照射された(100Rad)2週齢新生児NSGマウスに、眼窩後注射を介してCD45
+GFP
+rEC−HMLP
1×10
5を移植した。ヒトCD45
+細胞の存在に関して、移植4、6および12週後に、注射されたマウスの末梢血を試験した(
図4C)。本発明者らは、4(2.09±1.27%、n=6)、6(4.46±3.66%、n=6)および12(4.05±3.50%、n=6)週に循環ヒトCD45
+細胞を検出した。移植14週後の末梢血、骨髄および脾臓の分析は、全3つの組織中のヒトCD45
+細胞および末梢血中のヒトCD45
−CD235
+赤血球細胞の存在を示した(
図4C、D、E)。移植14週後の脾臓の分析は、リンパ系子孫のCD19
+(10.13±4.98%;B細胞)およびCD56
+(1.62±0.67%;NK細胞)細胞の小さいが明瞭な集団を示した。これらは、CD11b
+(27.66±8.92%;マクロファージ)およびCD41a
+(4.90±1.51%;巨核球)骨髄性細胞に加えて、存在した(
図4D)。
【0092】
また、移植されたhDMEC由来のrEC−HMLPは、in vivoで機能性HSC様細胞を生成する能力を保持する。移植されたhDMEC由来のrEC−HMLPが、in vivoで機能性HSC様細胞を生成したかどうかを機能的に試験するため、本発明者らは、二次移植を実施した。本発明者らは、移植12週後に、一次移植されたマウスの大腿から全骨髄を移植した(n=10)。一次移植の14週後にドナーマウスの骨髄中に移植されたrEC−HMLPの表現型解析は、それぞれヒトHSPCおよび多能性前駆細胞(MPP)の表現型定義を満たす、CD45
+Lin
−CD45RA
−CD38
−CD90
+CD34
+(10.37±2.55%)およびCD45
+Lin
−CD45RA
−CD38
−CD90
−CD34
+(13.83±2.14%)細胞の両方の有意な集団を示した(
図4E)。本発明者らは、骨髄系子孫の有意な集団(n=6;44.32±23.21%)による移植の3(n=6;14.61±15.7%)および5(n=6;2.01±1.5%)週後の二次レシピエントのPB(末梢血)中にhCD45+を検出した(
図4F)。長期的な一次生着および成功した二次短期生着は、リプログラミングされたhDMECの集団中のHSPC様細胞/自己再生MPPの存在を支持している。
【0093】
rEC−HMLPは、造血遺伝子の上方制御および血管遺伝子の下方制御を示す。次に、本発明者らは、培養されたHUVECの遺伝子発現プロファイルに対するrEC−HMLPの全ゲノム転写プロファイルおよび新たに単離されたCD34
+CD45Lin
−臍帯血造血細胞を比較して全ゲノムトランスクリプトームレベルでリプログラミングの程度を評価した(
図5A)。本解析は、ナイーブHUVECおよびLin
−CD34
+CB細胞と比較したとき、移植前のCD45細胞および移植22週後のCD45
+CD34
+rEC−HMLPにおける造血遺伝子の上方制御および血管遺伝子発現のサイレンシングを示した。プロトタイプの多能性遺伝子、例えばOct4、Nanog、Sox2およびMycは、ヒト胚性幹細胞(hESC)およびナイーブHUVECと比較してリプログラミングされた細胞中で上方制御されず、これは、HUVECのrEC−HMPLへのリプログラミングが多能性状態を通して移行することなく達成されたことを示している(
図5B)。移植後22週後のHUVEC、CD45
+rEC−HMLP、CD45
+CD34
+rEC−HMLP全トランスクリプトームおよびCD45
+CD34
+rEC−HMLPのよりタイトなクラスタリングを伴うCD34
+Lin
−細胞およびCB細胞の階層的クラスタリングは、rEC−HMLPのさらなるin vivo「培養(education)/リプログラミング」を示唆した。
【0094】
ChIP-Seqおよびデータ分析。ChIP-Seqは、Goldberg, A. D. et al., Cell 140:678-691
(2010)に記載されたとおり実施した。簡潔には、細胞を1%パラホルムアルデヒド中で15分間架橋させ、洗浄し、そして溶解した。Bioruptorを用いてクロマチンを約150塩基対の断片に切断し、洗浄し、そして溶出した。溶出されたクロマチンを脱架橋し(reverse-cross-link)、そしてカラム精製した(SPI1およびGFI抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから得た;カタログ番号sc−352およびsc−8558)。標準調製プロトコールに従ってIllumina TruSeq DNA Sample Preparation Kitを用いて、シークエンシングのため、ChIPサンプルを調製した(Illumina)。Illumina Hiseq 2000シーケンサーにおいて、標準Illuminaプロトコールに従ってシークエンシングサービスを実施した。BWAプログラム(Li, H. et al., Bioinformatics 25:1754-1760 (2009))を用いて、ChIP-seq読み取りデータを参照ヒトゲノム(hg19, NCBI Build 37)に対して整列させ、そしてPicard(sourceforgeからオンラインで入手可能)によってPCR重複を除去した。SPI1およびGFI1結合のゲノム全体の分布を生成するため、そしてピークの同定のため、2つを超えるミスマッチを含まない単一の最も適合する部位に位置づけられた独特の読み取りデータを残し、そして用いた。FDR<0.005を有するSPI1およびGFI1ChIPシグナルのゲノム富化を確認するため、ソフトウェアChIPseeqer 2.0(Giannopoulou, E. G. et al., BMC Bioinformatics 12:277 (2011))を、対照として入力DNAからのシークエンシングデータを有するChIP-Seqデータに適用した。転写開始点(TSS)から+/−2kb内の富化をプロモーターピークとして定義した。DAVIDによる遺伝子オントロジー(GO)解析(National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)、NIH)からオンラインで入手可能である)およびHOMERによるモチーフ解析(biowhat、University of California、San Diegoからオンラインで入手可能)のため、選択された遺伝子を提示した。
【0095】
SPI1およびGFI1のDNA結合部位の同定。ECのrEC−HMLPへの転写FGRS介在性リプログラミングの可能な機構を明らかにするため、本発明者らは、クロマチン免疫沈降結合大規模シークエンシング(ChIP-Seq)を用いて、HUVEC中のSPI1およびGFI1の全ゲノムDNA結合を比較した。本発明者らは、転写開始部位(TSS)から+/−2kbプロモーター領域に23587SPI1−結合および10999GFI1−結合ゲノム部位を確認した。特に、GFI1結合TSS(10999の10079)の91.6%は、SPI1結合TSSと重なっていた。しかし、SPI1結合プロモーターの57.3%は、GFIによって占有されなかった。SPI1、GFI1またはSPI1およびGFI1によって共に結合された遺伝子(共通の標的または「CT」)の転写レベルの比較は、GFI1単独によって結合されたほとんどの遺伝子が発現レベルの低下を示したが、が、SPI1単独、またはGFI1と組み合わせてSPI1によって結合された遺伝子は、上方制御された。結合部位の遺伝子オントロジー(GO)解析は、ECからrEC−HMLPへの細胞同一性の変更に関与することができた多くの遺伝子クラスターを明らかにした(
図5C)。GOは、上方制御されたCT(log2(rEC−HMLP/HUVEC)≧2)が、造血系発生および骨髄系分化において知られている機能を有する遺伝子のクラスターに属したことを示したが、多数の下方制御されたCTは、血管系発生に関与することが知られている(
図5C)。SPI1およびGFI1 TSS標的によって占有されたモチーフを結合する知られているDNAの探索は、下方制御されたCT((log2(HUVEC/rEC−HMLP)≧2)が、GFI1b(72遺伝子、p=0.001)およびFOSB結合モチーフ(64遺伝子、p=0.0001)を有する遺伝子のサブセットを含むことを示した。SPI1によって結合された上方制御された(log2(rEC−HMLP/HUVEC)≧2)遺伝子のTSSのサブセットは、RUNX1(133遺伝子、p=0.0001)およびFLI1(264遺伝子、p=0.01)の知られているDNA結合モチーフを含んだ。さらに、CTのサブセットは、知られているEBF(early B-cell factor)DNA結合モチーフ(130遺伝子、p=0.01)を含んだ。
【0096】
DNA結合モチーフ探索および全トランスクリプトーム発現分析と組み合わせたSPI1およびGFI1の全ゲノム結合プロファイルは、SPI1単独およびGFI1と組み合わせたSPI1は、造血遺伝子の発現を上方制御することを示唆している。特に、血管性遺伝子の発現は、SPI1およびGFI1ならびにおそらくFOSBによって抑制された。造血遺伝子の上方制御は、RUNX1およびFLI1の発現と協同するSPI1の発現に左右される。注目すべきことに、FLI1は、移植22週後のナイーブHUVEC、CD45
+rEC−HMLP、CD45
+CD34
+rEC−HMLP、およびLin
−CD34
+CB細胞中でも同様に発現される;標準化された発現は、それぞれ7.4、7.9、7.2、および7.6である。
【0097】
FGRS誘導リプログラミングがFGRS TFの内因性発現を誘発するかどうかを決定するため、本発明者らは、RNA-Seqによる5’および3’非翻訳領域(UTR)の発現を明らかにした。リプログラミングに用いられたレンチウイルス構築物は、UTRなしにFGRS因子のオープンリーディングフレームを発現するため、本発明者らは、内因的に発現された転写物を、それらのUTR配列の存在によって確認することができた。全トランスクリプトームRNA-Seqを用いた移植されたヒトrEC−HMLPの5’および3’FGRS因子の解析は、全4つのFGRS因子の内因性発現の活性化を示した。FGRS TFの内因性発現は、分画(%)=UTR/(UTR+ORF)としてUTRに由来するRNA−Seq読み取りデータの分画として算出され、ここで、UTRは、5’および3’UTRに整列させたRNA-seqの読み取りデータの数である。ORFは、興味の遺伝子のオープンリーディングフレームに整列させたRNA-seq読み取りデータの数である。この解析は、FGRS因子の内因性発現がin vitro(CD45
+rEC−HMLP)およびin vivo微小環境介在性培養期間後(CD45
+CD34
+in vivo)の両方でリプログラミングされた細胞を活性化することを示唆している。