特許第6581906号(P6581906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6581906確定因子によるヒト内皮の造血性多系列前駆細胞へのリプログラミング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581906
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】確定因子によるヒト内皮の造血性多系列前駆細胞へのリプログラミング
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20190912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20190912BHJP
   C12N 15/65 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20190912BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C12N5/0789
   C12N5/10ZNA
   C12N15/12
   C12N15/65 Z
   A61K35/28
   A61P7/00
   A61P35/00
   A61P35/02
【請求項の数】25
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-552909(P2015-552909)
(86)(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公表番号】特表2016-505266(P2016-505266A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】US2014011575
(87)【国際公開番号】WO2014113415
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2017年1月12日
(31)【優先権主張番号】61/752,688
(32)【優先日】2013年1月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ブラジスラヴ・エム・サンドラー
(72)【発明者】
【氏名】シャーイン・ラフィー
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/109208(WO,A1)
【文献】 特開2010−220581(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/100549(WO,A1)
【文献】 Blood,2012年,Vol.120, No.6,pp.1344-1347
【文献】 Stem Cells,2011年,Vol.29, No.7,pp.1158-1164
【文献】 Blood Cancer J.,2011年,Vol.1,e36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 1/00−7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト内皮細胞(EC)からヒト造血性多系列前駆細胞(HMLP)を生成する方法であって、(i)フィンケル−ビスキス−ジンキンス(Finkel-Biskis-Jinkins)マウス骨肉腫ウイルスのがん遺伝子ホモログB(FOSB)、またはFOSBと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、(ii)成長因子インディペンデント(growth factor independent)1転写リプレッサー(GFI1)、またはGFI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、(iii)ルント関連転写因子(Runt-related transcription factor)1(RUNX1)、またはRUNX1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、および(iv)脾臓病巣形成ウィルスプロウィルス融合がん遺伝子(spleen focus forming virus proviral integration oncogene)(SPI1)、またはSPI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体のすべてを発現するECを、内皮支持細胞と共に無血清培地中で培養することを含む方法。
【請求項2】
前記ECが、胎児の内皮細胞、新生児の内皮細胞、成人の内皮細胞、または内皮前駆細胞(EPC)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ECが、ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)または成人皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記内皮支持細胞が、アデノウイルスE4オープンリーディングフレーム1(E4ORF1)遺伝子またはAkt遺伝子のいずれかを発現するために形質転換されたヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ECが、FOSBまたはFOSBと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、GFI1またはGFI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、RUNX1またはRUNX1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、およびSPI1またはSPI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体の発現を駆動する1つまたはそれ以上のベクターで形質導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ベクターの少なくとも1つが選択可能なマーカーを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記選択可能なマーカーが、抗生物質抵抗性マーカー、酵素マーカー、エピトープマーカーまたは視覚マーカーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
内皮支持細胞の存在下で培養する前に、少なくとも1つの選択可能なマーカーを発現する細胞を選択することによって、前記ECが、FOSB、GFI1、RUNX1および/またはSPI1、またはそれらのいずれかの機能性誘導体の発現に関して富化される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
FOSB、GFI1、RUNX1SPI1、またはそれらのいずれかの機能性誘導体の1つまたはそれ以上の発現が誘導性である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
FOSB、GFI1、RUNX1SPI1、またはそれらのいずれかの機能性誘導体の1つまたはそれ以上の発現が一過性である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記HMLPが赤血球系、リンパ系、骨髄系、および巨核球細胞を産生することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
CD45+細胞の選択に基づいて、HMLPを単離することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記HMLPがCD45+CD34+である、請求項12の方法。
【請求項14】
前記HMLPがCD45+Lin-CD45RA-CD38-CD90+CD34+またはCD45+Lin-CD45RA-CD38-CD90-CD34+である細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記HMLPが、レシピエントに移植後、造血細胞に分化することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ECを少なくとも5日間培養してHMLPを生成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ECを、bFGF、EGF、SCF、FLT3、TPOおよびIL−6を含む無血清造血培地中、内皮支持細胞の存在下で増殖させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記培地が、IGF−1、IGF−2およびIL−3を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記培地が造血幹細胞培地である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
FOSBまたはFOSBと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、GFI1またはGFI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、RUNX1またはRUNX1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体、およびSPI1またはSPI1と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するその機能性誘導体の発現を駆動する1つまたはそれ以上のベクターを含むHMLPの集団。
【請求項21】
薬学的に許容しうる担体中に、請求項20に記載のHMLPを含む組成物。
【請求項22】
請求項20に記載のHMLPを含む、レシピエントにおける造血障害を治療するための医薬組成物。
【請求項23】
前記造血障害が白血病またはリンパ腫から選択される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記HMLPが前記レシピエントに対して自家である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記HMLPによって前記レシピエントに悪性転換が生じない、請求項22に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2013年1月15日に出願された米国仮出願61/752,688号に対する優先権を主張し、それは全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
体細胞は、核移植(非特許文献1;非特許文献2、非特許文献3)、細胞融合(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)、および転写因子の強制発現(非特許文献7;非特許文献8)によって多能性状態にリプログラミングされている。また、体細胞は、筋芽細胞(非特許文献9)、マクロファージ様細胞(非特許文献10)、ベータ細胞(非特許文献11)、肝細胞様細胞(非特許文献12)、ニューロン(非特許文献13)および内皮細胞(非特許文献14)のような最終分化細胞にもリプログラミングされている。最近、多くのグループが線維芽細胞を神経幹細胞/多系列神経前駆細胞へ直接にリプログラミングすることを報告した(非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17)。しかし、体細胞から機能的に移植可能な多系列造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)への直接変換は、達成が困難であった(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)。
【0003】
マウスの発生中、最終的な造血幹細胞(HSC)は、大動脈−性腺−中腎(AGM)領域内の背部大動脈で生じる(非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23)。ゼブラフィッシュ、マウスおよびおそらくヒトを含むこと脊椎動物では、HSCは、背部大動脈床および臍動脈の内側を覆う造血性血管細胞の層から発生すると考えられる(非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27)。この過程は、転写因子(TF)RUNX1の発現によって左右される(非特許文献28)。受胎産物中の内皮細胞(EC)およびHSPCの発生の密接な関連から造血のEC造血移行論(EC-hematopoietic transition theory of hematopoiesis)が導かれている(非特許文献29)。
【0004】
HSCおよび最終的な赤血球/骨髄系前駆細胞(EMP)は、造血ECを含有する多くの部位から生じることが知られているが、鍵となる分子の同一性およびそれらの活性の順序がわかりにくいままであるため(非特許文献30)、初期(primitive)造血ECから造血前駆細胞への自発的な個体発生の移行(transition)を駆動する分子プログラムを特徴づけることは困難であった(非特許文献31;非特許文献32)。造血EC子孫におけるTFの差次的発現は、最終的なHSPCまたはECを得るための早期の発生的決定につながっている(非特許文献33)。しかし、TFがこれらの細胞内運命決定を導くかどうか、または造血EC中で予め決められたプログラムを単に促進するかどうかは、明らかではない。初期HSCの生理学的増殖および有効な造血発生には、AGM、胎児肝臓および胎盤内のもののような解剖学的に明瞭なニッチによって提供される微小環境キュー(microenvironmental cue)も必要である(非特許文献34)。
【0005】
血液疾患の最新の治療方法は、健康なHSPCの移植に依存している。現在、十分な数の同種異系および自己由来HSPCを産生する主要な方法は2つあり、それらはいずれも制限がある:(1)HSPCのex-vivo増殖(例えば臍帯血からのHSPC);および(2)多能性細胞からHSPCへの誘導された分化。健康なHSPCのex-vivo増殖は、ドナーの有効性によって制限されており、そして自家移植の場合、精製方法、そして同種間移植の場合、HLA適合によって複雑になる。多能性細胞の誘導された分化は、造血系発生の理解および安定なECの生成によって制限されており、そして十分な量の成体移植可能なHSPCはまだ得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gurdon, J. B. et al., Nature 182:64-65 (1958)
【非特許文献2】Eggan, K. et al., Nature 428:44-49 (2004)
【非特許文献3】Noggle, S. et al, Nature 478:70-75 (2011)
【非特許文献4】Tada, M. et al., Curr Biol 11:1553-1558 (2001)
【非特許文献5】Cowan, C. A. et al., Science 309:1369-1373 (2005)
【非特許文献6】Blau, H. M. et al., Semin Cell Dev Biol 10:267-272 (1999)
【非特許文献7】Takahashi, K. et al., Cell 131:861-872 (2007)
【非特許文献8】Chen, M. J. et al., Cell Stem Cell 9:541-552 (2011)
【非特許文献9】Davis, R. L. et al, Cell 51:987-1000 (1987)
【非特許文献10】Xie, H. et al., Cell 117:663-676 (2004)
【非特許文献11】Zhou, Q. et al., Nature 455:627-632 (2008)
【非特許文献12】Sekiya, S. et al., Nature 475:390-393 (2011)
【非特許文献13】Vierbuchen, T. et al., Nature 463:1035-1041 (2010)
【非特許文献14】Ginsberg, M. et al., Cell 151:559-575 (2012)
【非特許文献15】Han, D. W. et al., Cell Stem Cell 10:465-472 (2012)
【非特許文献16】Lujan, E. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 109:2527-2532 (2012)
【非特許文献17】Thier, M. et al., Cell Stem Cell 10:473-479 (2012)
【非特許文献18】Szabo, E. et al. Nature 468:521-526 (2010)
【非特許文献19】Chambers, S. M. et al., Cell 145:827-830 (2011)
【非特許文献20】Pereira, C. F. et al., Cell Stem Cell 13:205-218 (2013)
【非特許文献21】North, T. E. et al., Immunity 16:661-672 (2002)
【非特許文献22】de Bruijn, M. F. et al., EMBO J 192:465-2474 (2000)
【非特許文献23】Medvinsky, A. et al., Cell 86:897-906 (1996)
【非特許文献24】Zovein, A. C. et al., Cell Stem Cell 3:625-636 (2008)
【非特許文献25】Boisset, J. C. et al., Nature 464:116-120 (2010)
【非特許文献26】Bertrand, J. Y. et al., Nature 464:108-111 (2010)
【非特許文献27】Kissa, K. et al., Nature 464:112-115 (2010)
【非特許文献28】Chen, M. J. et al., Nature 457:887-891 (2009)
【非特許文献29】Zovein, A. C. et al., Cell Stem Cell 3:625-636 (2008)
【非特許文献30】Orkin, S. H. et al., Cell 132:631-644 (2008)
【非特許文献31】Chen, M. J. et al., Nature 457:887-891 (2009)
【非特許文献32】North, T. E. et al., Cell 137:736-748 (2009)
【非特許文献33】Chen, M. J. et al. Cell Stem Cell 9:541-552 (2011)
【非特許文献34】Gekas, C. et al., Dev Cell 8:365-375 (2005)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ECの特定の転写因子の強制発現を実施し、そして無血清培地中、内皮支持細胞の存在下でECを培養することによる、内皮細胞(EC)からの造血性多系列前駆細胞(HMLP)の生成に関する。本発明に従って生成されるHMLPは、赤血球系、リンパ系、骨髄系、および巨核球細胞を産生することができる。これらの生成されたHMLPはマウスに移植可能であり、したがって、造血状態を含む障害の治療的な処置に用いることができる。
【0008】
したがって、本開示は、ヒト内皮細胞(EC)からヒト造血性多系列前駆細胞(HMLP)を生成する方法を提供する。本方法は、転写因子フィンケル−ビスキス−ジンキンス(Finkel-Biskis-Jinkins)マウス骨肉腫ウイルスのがん遺伝子ホモログB(FOSB)
、成長因子インディペンデント(growth factor independent)1転写リプレッサー(GFI1)、ルント関連転写因子(Runt-related transcription factor)1(RUNX1)、脾臓病巣形成ウィルスプロウィルス融合がん遺伝子(spleen focus forming virus proviral integration oncogene)(SPI1)、またはFOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の機能性ホモログまたは誘導体のそれぞれを発現するように形質転換されたECを、内皮支持細胞と共に無血清培地中で培養することを含む。
【0009】
HMLPを生成するために用いることができるECとしては、胎児、新生児、成人および前駆細胞ECが含まれる。いくつかの実施態様では、ECは、ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)または成人皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)から選択される。
【0010】
いくつかの実施態様において、転写因子の強制発現は、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の発現を駆動する1つまたはそれ以上のベクターを用いたECの形質導入によって実施される。また、これらのベクターの少なくとも1つとしては、選択可能なマーカー、例えば抗生物質抵抗性マーカー、酵素マーカー、エピトープマーカーまたは視覚マーカーが含まれる。ECは、内皮支持細胞の存在下で培養する前に、少なくとも1つの選択可能なマーカーを発現する細胞を選択することによってFOSB、GFI1、RUNX1および/またはSPI1の発現に関して富化することができる。いくつかの実施態様では、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の1つまたはそれ以上の発現は、誘導性および/または一過性である。
【0011】
内皮支持細胞は、さまざまなECから選択することができる。いくつかの実施態様において、支持細胞は、アデノウイルスE4オープンリーディングフレーム1(E4ORF1)遺伝子またはAkt遺伝子から選択される遺伝子を発現するように形質転換されたヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)である。
【0012】
ECは、無血清造血培地、例えば無血清造血幹細胞培地中、内皮支持細胞の存在下で増殖させることができる。無血清造血培地としては、成長因子および/またはサイトカイン、特にbFGF、EGF、SCF、FLT3、TPOおよびIL−6を含めることができる。無血清造血培地としては、IGF−1、IGF−2およびIL−3を含めることもできる。ECを少なくとも5日間培養してHMLPを生成することができる。HMLPは、CD45細胞の選択に基づいて細胞培養液から単離することができる。いくつかの実施態様において、HMLPは、CD45CD34細胞の選択によって選択される。生成されたHMLPは、典型的に細胞の不均一な混合物であるが、しかし、特定の実施態様において、HMLPの混合物は、CD45LinCD45RACD38CD90CD34および/またはCD45LinCD45RACD38CD90CD34である細胞を含む。
【0013】
さらに、本開示では、開示された方法により産生されたHMLPの集団、薬学的に許容しうる担体中の請求項1に記載の方法に従って産生されたHMLPを含む組成物が提供される。
【0014】
また、本明細書では、治療を必要とする対象にEC生成HMLPを投与することを含む、造血障害を治療する方法が提供される。HMLPは、レシピエントに移植後、造血細胞に分化することができる。造血障害は、例えば、白血病またはリンパ腫から選択することができる。対象に投与されたHMLPは、対象にとって自家、または対象にとって同種異系であることができる。開示された方法に従って生成されたHMLPは、レシピエント中で悪性形質転換を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】A.HUVECから造血性多系列前駆細胞へのリプログラミングプラットフォーム(rEC−HMLP)の概要。廃棄された臍帯からHUVECを単離し、表現型的に顕著なCD45CD133cKitCD31内皮細胞(EC)の純粋な集団を選別し、そしてさらなる実験のため増殖させた(−14日目〜0日目)。HUVECをFGRSで形質導入し、そして導入遺伝子の発現を安定化させた(1〜3日目)。形質導入されたHUVECを1/6の密度で培養し(4日目)、そして無血清培地中のE4ORF1HUVEC(E4−HUVEC)の血管性ニッチ様の層上で増殖させた(12〜40日目)。血管性ニッチ様の層上で形質導入細胞を播種して約2週間後、明瞭な扁平状コロニーが観察された(12〜16日目)。時間と共に(21〜29日目)、これらのコロニーのいくつかは、推定rEC−HMLPを表す三次元ブドウ状構造体を生じた。1カ月(29〜40日目)後、rEC−HMLPは豊富に増殖してプロトタイプ造血コロニーを生じた。リプログラミングの過程は、二相:第I相−特化および第II相−増殖にさらに分割される。増殖培養液を、形態学的変化、細胞数、および汎血球形成マーカーCD45の発現に関してルーチン的に検査した。灰色のトレースは、HUVECのrEC−HMLPへのリプログラミングにおける細胞数の動態を表す。黒色の線は、hES−EC細胞の造血前駆細胞への分化の低い増殖可能性を示す。
図1B】B.HUVECをTFのセットで形質導入した2〜3週後、丸くなった造血様CD45細胞の発生(白色矢印)。スケールバーは200μmである。
図1C】C.FGRS形質導入HUVECからの造血様クラスターの生成は、血管性ニッチおよび無血清環境で共培養することによって増強され、そして血清の存在によって遮断される。
図1D】D.TFを1つずつ除去することにより、HUVEC培養で造血様コロニーを生成可能な最小限の因子セット(FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1)が明らかになった。造血様クラスターの形成を惹起する能力に関して、26TFマイナス1のセットを評価した。アスタリスクは、TFの完全なセットと比較した、形質導入されたHUVECの造血様クラスターの数の統計的に有意な(p<0.05)低下を示す。対照は、非形質導入HUVECを表す。形質導入された細胞を、無血清造血培地中の非形質導入E4−HUVECの層上で培養した。
図1E】E.FGR因子の1つずつの除去は、長期持続造血様コロニーの生成にとって全4つのFGRS因子が必要かつ十分であることを示している。
図2A】A.混合型GFP E4−HUVECフィーダー血管性単層およびGFPFGRS形質導入HUVECのFACS解析は、GFP新生造血細胞がCD31(成熟した内皮細胞マーカー)の発現を喪失し、そしてCD45およびCD45CD34造血表現型を獲得したことを示している。灰色フォントのドット−プロットのパーセンテージは、上の左側のドット−プロット(GFP細胞)のゲートに相当する。黒色フォントのドット−プロットのパーセンテージは、GFP細胞に相当する。
図2B】B.FGRSリプログラミングHUVECの免疫表現型解析。系列マーカー、CD45RA、CD45、CD34、CD90およびCD38の発現に関して新生造血細胞を試験した。それぞれ造血幹様性細胞または多能性前駆細胞に関する表現型の基準を満たす、CD45LinCD45RACD38CD90CD34およびCD45LinCD45RACD38CD90CD34細胞の2つの集団を示す。
図2C】C.第I相終了後、FGRS形質導入および血管性ニッチ誘導の4週後、GFPCD45CD34細胞を選別し、そしてCFUアッセイのために播種した。CFUアッセイ(倍率×4)では典型的な造血コロニーが生じた;広視野(左の列)および対応する蛍光画像(右の列)。上部から底部:顆粒球−赤血球−単核球−巨核球(GEMM)、赤血球/骨髄、および顆粒球−マクロファージ(GM)コロニー。下方のパネル画像は、ヘモグルビン発現したコロニーを示す。グラフは、CFUアッセイの定量を示す。
図2D】D.CFUアッセイコロニーから得た細胞のサイトスピンのWright-Giemza染色により、分化するrEC−HMLPの系列特化が確認された(倍率×60)。本発明者らは、赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球前駆体の典型的な形態学的特徴を有する細胞を検出した。
図2E】E.CFUアッセイで増殖した細胞の免疫表現型解析は、CD235、CD11b、CD14、CD83およびCD45細胞を示し、rEC−HMLPが赤血球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫に分化したことを示唆している。
図3A】A.リプログラミングされた細胞(CD45GFP細胞1.5×10)を亜致死的に照射された(275Rad)マウス(n=9;照射1日後)に眼窩後注射した。
図3B】B.2、5、12および16週に注射したマウスの末梢血中で循環ヒトCD45細胞を検出した。2(n=7;17.38±7.73%)、5(n=6;15.1±13.39%)、12(n=6;14.14±5.44%)、および22〜40(n=6;21.23±22.27%)週で、循環ヒトCD45細胞を検出した。脊髄形成異常および線維性変化のさらなる分析のため22〜44週(10ヵ月まで)移植マウスを用いた。
図3C】C.移植後16週の末梢血、骨髄および脾臓の分析は、全3つの組織中のヒトCD45細胞および末梢血中のhCD45hCD235赤血球細胞の存在を示した。BMの結果を示す。BMおよび脾臓は、小さいが、容易に検出可能な数のCD41a(巨核球)細胞を有するrEC−HMLP(CD45CD33)の骨髄系子孫が集合した(populate)。
図3D】D.メチルセルロース培養のFACS分析は、CD45コンパートメントがCD235(グリコホリンA)を含み、そしてマウスTer119+細胞を含まないことを示し、CFUアッセイ中のヒトCD45CD34細胞の強い赤血球分化を示唆している。
図3E】E.CD45LinCD45RACD38CD90CD34を表現型的に特徴とし、そして多能性前駆細胞(MPP)の定義を満たすヒト細胞の小さな集団を示す、骨髄中にin vivo移植されたrEC−HMLPの表現型分析。
図3F】F.単一コロニーレベルにおいてウイルス組込みの同定。LinCD45RACD38CD90CD34細胞をCFUアッセイに用いた。CFUアッセイ開始の14日後、3つの明瞭な細胞凝集/コロニーを検出した。テンプレートとしてそれらのゲノムDNAを用いてそれぞれ増幅されたコロニーに関して、4回のPCR反応を実施した。それらは、リプログラミングに用いた全4つのFGRSウイルスベクターの組込みを示した(下部の画像;文字F−FOSB、G−GFI1、R−RUNX1、S−SPI1は、第1のコロニー中のこれらの因子のそれぞれに関して特異的なPCR生成物を示す)。
図3G】G.単細胞レベルにおけるウイルス組込みの同定。移植22週後に、宿主マウスから単離された21ヒトCD45細胞の全ゲノム増幅(WGA)。細胞を、Phi29ベースのWGAのため直接溶菌緩衝液にウェル当たり1細胞で、96−ウエルプレート中に選別した。WGAに続いてCMVプロモーターおよび導入遺伝子に特異的なプライマーによるPCR反応を行った。解析の定量化を示す。19細胞は、全4つのウイルス(FGRS)の組込みを示した。2細胞が3つのウイルスの組込みを示した:FGS(RUNX1は検出不可であった)およびGRS(FOSBは検出不可であった)。
図4A】A.hDMEC由来のrEC−HMLPのin vitroおよびin vivo機能検査の図解表示。第I相終了後、FGRS形質導入の4週後、rEC−HMLPを選別し、そしてCFUアッセイのため播種した。CFUアッセイでは典型的な造血コロニーが生じた(スケールバーは200μmである);広視野(上の列)。下のパネル画像は、ヘモグロビンを発現したコロニーを示す。CFUアッセイコロニー(倍率×60)から得た細胞のサイトスピンのWright-Giemsa染色を底部の列に示す。右のパネルのグラフは、CFUアッセイ(n=3)の定量化を示す。
図4B】B.CFUアッセイにおいて増殖した細胞の免疫表現型解析。右のグラフは、CFUアッセイ(n=3)から細胞の表面マーカー発現の定量化を示す。hDMECは、赤血球CD235、マクロファージCD11b、単球CD14、骨髄CD33、内皮CD144および樹状CD83細胞子孫を含むいくつかの系列に分化した。
図4C】C.2週齢新生仔免疫不全NSGマウスに亜致死的に照射し(100Rad)、そしてhDMEC由来のrEC−HMLP(5×10細胞)を移植した。一次移植4、6および12週後のマウス末梢血の分析は、循環ヒトCD45ならびにそれらの骨髄系および赤血球系子孫(n=6)を示した。
図4D】D.一次移植14週後のマウス脾臓の分析は、ヒトCD45の存在ならびにそれらのリンパ系(CD19およびCD56)および骨髄系(CD11bおよびCD41a)子孫(n=3)を示した。右端のグラフ:第1の列、左手y軸に対して測定されたhCD45(%);次の4つの列、右手y軸に対して測定されたlog2(hCD45%)。
図4E】E.一次移植14週後のマウスの骨髄の分析は、それぞれ(n=3)、ヒトHSCおよび多能性前駆細胞(MPP)の表現型定義を満たす、CD45LinCD45RACD38CD90CD34および/またはCD45LinCD45RACD38CD90CD34細胞の小さな集団を有するヒトCD45細胞の存在を示した。
図4F】F.12週後、hDMEC由来のrEC−HMLPで移植されたマウスの全骨髄を、成体(6〜8週齢)NSGマウスに二次移植した。二次移植3および5週後のマウス末梢血の分析は、循環ヒトCD45およびそれらの骨髄系子孫(n=6)を示した。右端のグラフ:最初の2つの列、左手y軸に対して測定されたhCD45(%);最後の列、右手y軸に対して測定されたhCD33(%)。
図5A】A.総合的な遺伝子転写プロファイリングは、CD45rEC−HLMP中で、およびin vivo移植されたCD45CD34rEC−HMLP中で、移植後22週後、スイッチが入る造血遺伝子および発現抑制される血管性遺伝子を明らかにした。両方の集団を、HUVECおよびCD34Lin臍帯血細胞の遺伝子発現と比較する。データは、log2(転写レベル)として示す。
図5B】B.移植後22週後のHUVEC、CD45rEC−HLMP、CD45CD34rEC−HMLPおよびCD34Lin細胞におけるプロトタイプ多能性遺伝子の発現と、ヒト胚性幹細胞(hESC)との比較。プロトタイプ多能性遺伝子、例えばOct4、Nanog、Sox2およびMycは、hESCおよびナイーブHUVECと比較してリプログラミングされた細胞中で上方制御されず、これは、HUVECのrEC−HMPLへのリプログラミングが多能性状態を通して移行することなく達成されたことを示している。
図5C】C.GFI1と共にSPI1によって、およびそれとは別にSPI1によって結合された部位の遺伝子オントロジー(GO)解析。各グラフは、ECからrEC−HMLPへの細胞独自性(cellular identity)の変更に関与しうるGO遺伝子群を示す。リプログラミング因子および可能な候補に関するコンセンサスDNA結合モチーフ(p<0.01)を各群のグラフの下に示す。上方制御または下方制御された遺伝子のすべての値は、|log2(rEC−HMLP/HUVEC)|≧2である。
図6A】A.rEC−HMLPは、SPI1の外因性発現なしでCD3、CD19およびCD14造血細胞に分化する。リプログラミングされた細胞は、Delta-like 4(OP9−DL4)を発現する骨髄間質細胞(OP9)層上で移され、そしてIL−7(10ng/ml)、IL−11(10ng/ml)およびIL−2(5ng/ml)で補充され、そしてドキシサイクリンを含まない無血清造血培地(方法を参照のこと)の存在下で増殖させた。
図6B】B.rEC−HMLPから分化したマクロファージは、食作用が可能である。画像は、摂取されたビーズが明確に認識できる堅固なプラスチック付着性のCD11bGFP細胞の群を示す。左から右の画像の列:GFP蛍光;DAPIで染色された細胞の核、蛍光ビーズ;CD11b染色;左の4枚のパネルの合わせた画像。スケールバーは15μmである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示の詳細な説明
本明細書において、内皮細胞(EC)を造血性多系列前駆細胞(HMLPまたはrEC−HMLP)にリプログラミングする方法が提供される。本方法は、ヒト臍帯静脈EC(HUVEC)およびヒト成人皮膚微小血管EC(hDMEC)のようなECをHMLPに有効にリプログラミングする、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1(FGRS)を含む、転写因子(TF)のセットを用いてEC細胞を培養することを含む。
【0017】
ヒト造血性多系前駆細胞(HMLP)は、本明細書において言及するように、多くのタイプの造血系細胞を生成する、またはそれらに分化する能力または可能性を有する細胞である。造血系、およびこれらの系列によって包含される分化細胞は、赤血球、単球、マクロファージ、巨核球、骨髄芽球、樹状細胞および顆粒球(好塩基球、好中球、好酸球およびマスト細胞)を含む骨髄系細胞;ならびにTリンパ球/T細胞、Bリンパ球/B細胞、およびナチュラルキラー細胞を含むリンパ系細胞である。本明細書に開示された方法によって生成されるHMLPは、T細胞、B細胞、赤血球、単球、マクロファージ、巨核球、骨髄芽球、樹状細胞および顆粒球を含む、骨髄系およびリンパ系の造血細胞を生成する能力を有する。

【0018】
本明細書に開示されたHMLPは、移植(レジデンシー(residency)を確立する)能力を有し、そしてレシピエントに移植した後、造血細胞の長期再増殖をもたらす。開示されたHMLPは、生着後、多系列の可能性を維持しており、そしてまた、1人のレシピエントから1人または複数のさらなるレシピエントまでその後の生着が可能であると同時に、多系列の可能性をなお維持している。長期生着の能力(例えば、移植後、4週、8週、12週、16週、もしくは20週、またはそれよりも長期)、多系列の可能性の維持、および二次的生着は、それぞれ、造血障害の治療に適用する際に細胞集団において非常に望ましい。
【0019】
HMLPは、細胞表面マーカーの発現によって定義することができる。HMLPは不均一な細胞集団を表すが、細胞は、CD45の発現を部分的に特徴としている(すなわち、細胞はCD45である)。特定の実施態様において、HMLPは、CD45CD34である。HMLPは、さらにCD90かつ/またはCD38であることができる。
【0020】
本発明に従って生成されるHMLPは、均一ではなく、そして細胞タイプの混合物を含有しており、それぞれの細胞タイプは、異なる細胞マーカー、異なる形態、および/または異なる分化レベルを示す。特定の実施態様において、HMLPは、骨髄系および/またはリンパ系の細胞に分化可能な少なくとも1つの前駆細胞を含有する。特定の実施態様において、HMLPの集団は、マーカーCD45LinCD45RACD38CD90CD34を発現する前駆細胞、および/またはマーカーCD45LinCD45RACD38CD90CD34を発現する前駆細胞を、集団中の細胞の総数の少なくとも0.01%〜少なくとも0.4%、または集団中100万当たり少なくとも10細胞〜100万当たり少なくとも250細胞含有する。
HMLPを生成する方法
【0021】
本明細書に開示された方法において、HMLPは、内皮細胞(EC)をリプログラミングしてリプログラミングされた内皮細胞由来のHMLP(rEC−HMLP、本明細書ではHMLPとも称する)を提供することによって生成される。本明細書に用いるように、「リプログラミング」は、分化した体細胞が、誘導元となるそれらの細胞よりも高い潜在能力を有する脱分化細胞に変換される遺伝過程のことをいう。ECは、細胞の分化状態を造血前駆細胞タイプに変える特定の転写因子の発現を細胞に強制することによってリプログラミングされる。
【0022】
HMLPの生成に用いることができる内皮細胞としては、成熟したEC(例えば、新生児、胎児および成人のEC)、および内皮前駆細胞(EPC)が含まれる。例示的なEC源としては、成人真皮または新生児包皮からのヒト皮膚微小血管EC(HDMEC)、ヒト臍帯静脈/臍帯血EC(HUVEC)、ヒト臍動脈EC(HUAEC)、ヒト大動脈EC(HAoEC)、ヒト冠動脈EC(HCAEC)、ヒト肺動脈EC(HPAEC)、ヒト伏在静脈EC(HSVEC)、ヒト皮膚の血液EC(HDBEC)、ヒト皮膚のリンパEC(HDLEC)、ヒト膀胱微小血管EC(HBMEC)、ヒト心臓微小血管EC(HCMEC)、ヒト肺微小血管EC(HPMEC)、ヒト子宮微小血管EC(HUMEC)、ヒト脳微小血管EC(HBMEC)および胎児胎盤微小血管EC(HPMEC)が含まれる。これらの細胞は、フォン・ウィルブランド因子(vWF)陽性、CD31陽性、CD144陽性、平滑筋アルファ−アクチン(SMA)陰性である。胎児微小血管ECは、マーカーCD34CD133VEGFR2CD45を有する胎児微小血管細胞としてさらに定義される(Solder E. et al., Microvasc. Res. 84:65-73 (2012)参照)。内皮前駆細胞は、成熟した内皮細胞に分化可能なそれらの前駆細胞を含み、そしてCD34VEGFR2、そしてまた、おそらくCD133CD45を特徴とする(Urbich C. and Dimmeler S., Circ. Res. 95:343-353 (2004))。好ましい実施態様において、ECは、HUVECまたはhDMECである。
【0023】
本発明に用いるECは、同種異系(リプログラミングされた細胞を受けることになっているレシピエントと遺伝子的に類似しているが、同一でない、例えば、同種のドナーに由来する)、同系(リプログラミングされた細胞を受けることになっているレシピエントと遺伝子的に同一であるか、または密接に関連があるドナーに由来する)、または自家(ドナーとレシピエントとが同じ個体である)であってもよい。
【0024】
リプログラミング因子
本明細書において確認された転写因子(TF)の発現(過剰発現および強制発現を含む)は、ECをHMLPにリプログラムミングすることができる。ECからHMLPを生成するには、少なくともFOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1(これらの4つの因子は、本明細書においてひとまとめにして「FGRS」または「リプログラミング因子」と呼ぶ)、またはそれらのそれぞれの機能性ホモログもしくは機能性誘導体の発現が必要である。
【0025】
FOSB(Finkel-Biskis-Jinkinsマウス骨肉腫ウイルスのがん遺伝子ホモログB)は、JUNファミリーのタンパク質と二量体化して転写因子複合体AP−1を形成するロイシンジッパータンパク質である。また、FOSBは、AP−1、G0S3、GOS3またはGOSBとしても知られている。FOSBは、少なくとも6つのスプライスバリアントアイソフォームを有する。例として、特定のヒトFOSBバリアント、FOSBアイソフォーム1に関する配列は、GenBank受入番号CAG46898に記載されている。
【0026】
GFI1(Growth factor independent 1転写リプレッサー)は、転写リプレッサーとして機能する核亜鉛フィンガータンパク質のファミリーのメンバーである。GFIファミリー亜鉛フィンガーリプレッサーは、ヒストン脱アセチル化酵素補充を介して多系列血液血液細胞発生の特化(specification)の役割を果たす多くの遺伝子を抑制するEHMT2−GFI1−HDAC1、AJUBA−GFI1−HDAC1およびRCOR−GFI−KDM1A−HDACのようなヘテロトリマー複合体を形成する。また、GFI1は、SCN2、GFI−1、GFI1AおよびZNF163としても知られている。GFI1には少なくとも4つの知られているスプライスバリアントアイソフォームがある。例として、特定のヒトGFI1バリアント、アイソフォーム1の配列は、GenBank受入番号AAH32751に記載されている。
【0027】
RUNX1(Runt-related転写因子1)は、多くのエンハンサーおよびプロモーターのコア要素に結合するヘテロダイマー転写因子であるコア結合因子(CBF)のアルファサブユニットである。RUNXファミリーには、多くのCBF結合TF、例えばRUNX2、RUNX3、CBFB、CEBP/Z、NFY/B、NFA/A、NFY/CおよびRBPJが含まれる。RUNX1には、少なくとも3つのスプライスバリアントアイソフォームがある。また、RUNX1は、AML1、AML1−EVI−1、AMLCR1、CBFA2、EVI−1およびPEBP2aBとしても知られている。例として、特定のヒトRUNX1バリアント、アイソフォーム1の配列は、GenBank受入番号AAI36381に記載されている。
【0028】
SPI1(脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロウイルス組込み癌遺伝子)は、ETSドメイン転写因子である。SPI1は、SPIB、ETV6、ETS1、ETV2およびERGを含む転写因子をコードするETSドメインのファミリーに属する。SPI1には、少なくとも3つのスプライスバリアントがある。また、SPI1は、hCG_25181、OF、PU.1、SFPI1、SPI−1およびSPI−Aとしても知られている。例として、特定のヒトSPI1バリアント、アイソフォーム1の配列は、GenBank受入番号EAW67924に記載されている。
【0029】
本明細書において具体的に参照された転写因子の機能性誘導体およびホモログは、開示された方法に使用することをさらに意図している。本明細書に用いるように、「機能性誘導体」は、本明細書に開示されたTFの生物学的機能を発揮する能力を有する分子、すなわち、例えば、ECをHMLPにリプログラミングする際に、開示されたTFに関して機能的に置換することができる分子である。機能性誘導体としては、融合タンパク質を含む、天然、合成または組換え供給源からの断片、部分、区分、同等物、類似体、突然変異体、ミメティックが挙げられる。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失または置換から誘導してもよい。アミノ酸挿入誘導体は、アミノおよび/またはカルボキシル末端の融合ならびに単一または複数のアミノ酸の配列内挿入を含む。生成した生成物の適したスクリーニングによりランダム挿入も可能であるが、挿入性アミノ酸配列変異体は、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基がタンパク質中の所定の部位に導入されたものである。欠失変異体は、配列から1つまたはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。置換アミノ酸変異体は、配列中の少なくとも1つの残基が除去され、そしてその位置に異なる残基が挿入されたものである。アミノ酸配列への付加には、他のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質との融合が含まれる。
【0030】
分子の変異体は、構造および機能において分子全体、またはそのフラグメントのいずれかと実質的に類似した分子のことを意味する。したがって、変異体という用語が本明細書に用いられるときは、2つの分子は、たとえ分子の一方の構造がもう一方で見いだされなくても、またはアミノ酸残基の配列が同一でなくても、それらが類似の活性を有する場合、互いの変異体である。変異体という用語は、例えば、遺伝子のスプライスバリアントまたはアイソフォームを含む。同等物は、機能性類似体またはアゴニストとして作用することができる分子への言及を含むことを理解すべきである。同等物は、必ずしも対象分子から誘導されなくてもよいが、しかし、特定の立体配置的類似性を共有してもよい。同等物には、ペプチドミミックも含まれる。
【0031】
「ホモログ」は、一般的な祖先DNA配列からの下降によって第2のタンパク質に関連したタンパク質である。同じタンパク質ファミリー(例えば、FOSファミリー、GFIファミリー、SPIファミリーまたはRUNXファミリー)のメンバーは、ホモログであることができる。「機能性ホモログ」は、所望の遺伝子の生物活性を発揮することが可能であり、すなわち、ECをHMLPにリプログラミングするにあたって開示されたTFに関して機能的に置換することができる関連タンパク質またはその断片である。本明細書に企図されるホモログおよび機能性ホモログは、異なる種から誘導されたタンパク質が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0032】
機能性誘導体またはホモログは、知られているFOSB、GFI1、RUNX1もしくはSPI1アミノ酸配列に対して75%、80%、85%、90%、95%もしくはそれ以上のアミノ酸配列同一性、またはFOSB、GFI1、RUNX1またはSPI1ファミリーメンバーもしくはその変異体に対して75%、80%、85%、90%、95%もしくはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有することができる。FOSB機能性誘導体またはホモログは、例えば、GenBank受入番号CAG46898に対して75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有することができる。GFI1機能性誘導体またはホモログは、例えば、GenBank受入番号AAH32751に対して75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有することができる。RUNX1機能性誘導体またはホモログは、例えば、GenBank受入番号AAI36381に対して75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有することができる。SPI1機能性誘導体またはホモログは、例えば、GenBank受入番号EAW67924に対して75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有することができる。
【0033】
FGRSリプログラミング因子に加えて、他のTFを用いることができる。例えば、FGRSに加えて、以下のTFの1つまたはそれ以上のいずれかを用いることができる:ZPF36(亜鉛フィンガータンパク質トリステロラプロリン)、FOS(FBJマウス骨肉腫ウイルスのがん遺伝子ホモログ)、JUNB(jun Bプロトオンコジーン)、GMFG(グリア成熟因子、ガンマ)、KLF2(クッペル様因子2)、NFE2(核因子、赤血球2)、KLF1(クッペル様因子1)、KLF4(クッペル様因子4)、LYL1(リンパ芽球性白血病由来配列1)、LMO2(LIM domain only 2)、TAL1(T細胞急性リンパ性白血病1)、GATA1(GATA結合タンパク質1)、IKZF1(IKAROSファミリー亜鉛フィンガー1)、GFI1B(成長因子インディペンデント 1B転写リプレッサー)、VAV2(vav 2グアニンヌクレオチド交換因子)、MEIS1(Meisホメオボックス1)、MYB(v-myb鳥骨髄芽球症ウイルスのがん遺伝子ホモログ)、MLLT3(骨髄系/リンパ系または混合系白血病(trithoraxホモログ、ショウジョウバエ);転位させる、3)、HLF(hepatic leukemia factor)、BEX1(brain expressed, X-linked 1)、BEX2(brain expressed, X-linked 2)、および/またはPBX1(プレB細胞白血病ホメオボックス1)、またはこれらのTFのいずれかの機能性誘導体もしくはホモログ。
【0034】
リプログラミング因子の発現のためのベクター
リプログラミング因子FGRSの発現は、外来性核酸をEC中に導入してEC中で所望の因子の発現を駆動することによって実施される。それぞれのリプログラミング因子は、EC中でポリヌクレオチドの発現を駆動することができる異種プロモーターに作動可能に連結されたリプログラミング因子をコードするベクター内のポリヌクレオチド導入遺伝子としてECに導入することができる。
【0035】
標的哺乳動物細胞に外来遺伝子を導入するのに有用な多くのベクターは、入手可能である。ベクターは、エピソーム、例えばプラスミドもしくはウイルス由来のベクター、例えばサイトメガロウィルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター(AAV)、などであってもよく、またはベクターは、組込み、例えば、相同組換えもしくはランダムインテグレーションを通してリプログラミング遺伝子を標的細胞ゲノム中に組み込む、例えばレトロウイルス由来のベクター、例えばMMLV(モロニーマウス白血病ウイルス)、HIV−1、ALV(トリ白血病ウイルス)、もしくはレンチウイルスベクターであってもよい。特定の実施態様において、ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0036】
一実施態様において、リプログラミング因子を発現するためのベクターは、リプログラミング因子遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む。本明細書に用いる「作動可能に連結された」または「転写調節下」という成句は、ポリヌクレオチドのRNAポリメラーゼおよび発現によって転写の開始を調節するポリヌクレオチドに関して、プロモーターが正確な位置および向きにあることを意味する。RNAポリメラーゼIプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター、RNAポリメラーゼIIIプロモーター、およびサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターを含むが、それらに限定されるわけではないいくつかのプロモーターは、リプログラミング因子を発現するベクターに使用するために適している。他の有用なプロモーターは、当業者に識別可能である。いくつかの実施態様では、プロモーターは、リプログラミング因子が発現したときに制御を可能にする誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターの適した例には、グルココルチコイドまたはエストロゲン受容体由来のステロイド調節プロモーターおよびテトラサイクリン調節プロモーター(tetオン(tet on)またはtetオフ(tet off))が含まれる。TFの構成的発現は、例えば、CMV、CAG(CMVエンハンサーを有するニワトリベータ−アクチンプロモーター)、またはPGK(ホスホグリセレートキナーゼ1)プロモーターを有する発現ベクターを用いて達成することができる。TFの誘導性発現は、例えば、テトラサイクリン反応性プロモーター、例えばTRE3GV(Tet−反応要素第3世代(Tet-response element 3rd generation))誘導性プロモーター(Clontech Laboratories, Mountain View, CA)用いて達成することができる。別法として、導入遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターは、特定の細胞タイプにおいておよび/または特定の発生地点で活性化されるプロモーターであってもよい。
【0037】
使用したプロモーターに応じて、FGRSリプログラミング因子のいずれか1つまたはすべての発現は、構成的(因子の連続的な発現)または誘導性(オンおよびオフが可能)であることができる。また、発現は、一過性、すなわち、限られた時間スパンにわたるEC中の興味の再プログラミング遺伝子の一時的な発現であることができる。一過性発現は、非組込み(non-integrative)ベクターの使用によって達成してもよく、その際、ベクターは時間と共に細胞または細胞集団から失われ、またはしばらくしてリプログラミング遺伝子の発現を中止するため操作することができる組込みもしくは非組込みベクター中の誘導性プロモーターの使用によって達成してもよい。特定の実施態様において、FGRSリプログラミング因子の1つまたはそれ以上の一過性発現は、3日を超えない、5日を超えない、10日を超えない、または1、2もしくは3週を超えない間、発現を起こさせるために利用する。
【0038】
適したベクターは、形質転換細胞を同定および/または選択するためのマーカーを含有することができる。選択可能なマーカーの例としては、可視マーカー、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、またはフルオレセイン;エピトープマーカー、例えばHis、c−myc、GST、フラグまたはHAタグ;酵素/栄養マーカー、例えばDHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素);または抗生物質抵抗性マーカー、例えばネオマイシン、プロマイシン、ブラスチシジンもしくはハイグロマイシンが含まれる。
【0039】
リプログラミング因子による内皮細胞の形質転換
リプログラミング因子を用いて内皮細胞をトランスフェクトまたは形質導入するなんらかの適した手段を、用いることができる。哺乳動物細胞の形質転換またはトランスフェクションのさまざまな技術に関して、Keown et al., 1990, Methods Enzymol. 185: 527-37; Sambrook et al., 2001, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y.を参照のこと。FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1を担持するベクターは、リポソーム介在性トランスフェクション、ポリブレン介在性トランスフェクション、DEAEデキストラン介在性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクションまたは微粒子銃を含むが、それらに制限されるわけではない当分野で知られている標準的な方法を用いて細胞中にトランスフェクトすることができる。同様に、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1は、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはヘルペスウイルス送達系のようなウイルス送達系を用いて内皮細胞に送達することができる。好ましい実施態様において、ECは、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の発現を駆動する1つ、2つ、3つまたは4つのレンチウイルスベクターによってトランスフェクトされる。
【0040】
FGRSリプログラミング因子の1つ、2つ、3つまたは全4つを発現するECは、形質転換細胞を示すマーカーを発現する細胞に関して選択することによって集団中で富化することができる。例えば、それぞれのリプログラミング因子は、異なる選択マーカーを有する別々のベクター中に配置することができる(例えば、ベクターは異なる抗生物質、異なる可視マーカーおよび/または異なる栄養マーカーに対する抵抗性を提供することができる)。異なるベクターによる形質転換を表す各マーカーに関する選択によって、全4つの因子で形質転換されたECの集団を増加させることができる。特定の例において、各ベクターが異なるリプログラミング因子をコードする異なるベクターは、それぞれ、抗生物質抵抗性または緑色蛍光タンパク質(GFP)によって標識される。
【0041】
ECリプログラミングの培養条件
FGRSで形質転換されたECは、培地中で血清を最少にするか、または含まずに(「無血清」培地)、培養することが好ましい。培地の血清の存在はHMLPの産生を低減することが、本発明者らによって見いだされている。形質転換されたECは、造血細胞の培養および増殖に適した無血清培地中で培養することができる。このような培地は、例えば、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)または他の適した培地に基づくことができ、そして補充物、例えば標準ウシ血清アルブミン、インスリン、2−メルカプトエタノール、および/またはトランスフェリン(例えば、STEMSPAN SFEM、Stemcell Technologies、バンクーバー、カナダ)を含むことができる。さらなる補充物としては、未分化細胞の成長のための定義済みを含む製剤血清置換補充物、例えば、KNOCKOUT serum replacement(GIBCO)を含むことができる。ECを3日、5日、10日、12日、1週、2週、もしくは3週、またはそれ以上の間、培養してECをHMLPにリプログラミングすることができる。
【0042】
ECリプログラミングを達成するためのさらなる培地補充物は、成長因子および/またはサイトカイン、例えば2〜8ng/mlのbFGF、5〜15ng/mlのEGF、15〜25ng/mlのSCF、15〜25ng/mlのFLT3、15〜25ng/mlのTPO、15〜25ng/mlのIGF−1、5〜15ng/mlのIGF−2、5〜15ng/mlのIL−3、および/または5〜15ng/mlのIL−6を含むことができる。好ましい実施例において、培地は、2〜8ng/mlのbFGF、5〜15ng/mlのEGF、15〜25ng/mlのSCF、15〜25ng/mlのFLT3、15〜25ng/mlのTPO、および5〜15ng/mlのIL−6を含む。
【0043】
内皮支持細胞
少なくともFGRS因子を発現するECを、内皮支持細胞と共に培養する。これらの支持細胞は、ECプログラミングが起こる生理環境に似たAGM様の(大動脈−性腺−中腎様の)ニッチ環境を提供する。好ましくは、内皮支持細胞を増殖させて組織培養容器の底面にコンフルエントな単層を形成し、次いで、培養容器に、形質転換されたECを播種する。任意の内皮細胞、例えば成熟したEC(例えば、新生児、胎児および成人EC)、および内皮前駆細胞(EPC)を支持細胞として用いることができる。例示的なEC源としては、成人真皮または新生児包皮からのヒト皮膚微小血管EC(hDMEC)、ヒト臍帯静脈/臍帯血EC(HUVEC)、および胎児胎盤微小血管EC(hPMEC)が含まれる。好ましい実施態様では、HUVECが内皮支持細胞として用いられる。
【0044】
支持細胞は、好ましくは、無血清環境中で増殖および生存させて無血清培地中でECによる培養を可能にすることができる。内皮細胞の多くのタイプは、血清がない場合、培養を維持することができない。無血清培養で支持細胞として生存および増殖を可能にする内皮細胞の改変により、その他の場合には血清を必要とする内皮細胞において、この障壁を克服することができる。
【0045】
内皮細胞は、例えば、血清がない場合に成長および増殖を駆動する遺伝子による細胞の形質転換によって改変することができる。血清なしの培養において内皮細胞の生存を支持する遺伝子の例としては、Akt(プロテインキナーゼBまたはPKB)遺伝子およびアデノウイルスE4ORF1遺伝子が含まれる。特定の実施態様において、HUVECは形質転換されてAktまたはアデノウイルスE4ORF1遺伝子から選択される遺伝子を発現する。E4ORF1によるHUVECの形質転換は、米国特許第8,465,732号に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。AktによるHUVECの形質転換は、例えば、Fujio and Walsh, J. Biol. Chem. 274:16349-16354 (1999)に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0046】
無血清環境中で生存および増殖を促進する遺伝子を用いて内皮細胞をトランスフェクトまたは形質導入する任意の適した手段を用いることができる。例えば、E4ORF1またはAkt遺伝子は、限定されるわけではないが、リポソーム介在性トランスフェクション、ポリブレン介在性トランスフェクション、DEAEデキストラン介在性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、または微粒子銃を含む当分野で知られている標準的な方法を用いて細胞中にトランスフェクトすることができる。同様に、E4ORF1またはAkt遺伝子は、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはヘルペスウイルス送達系のようなウイルス送達系を用いて内皮細胞に送達することができる。一実施態様において、E4ORF1またはAkt遺伝子は、レンチウイルス遺伝子送達系を用いて内皮細胞に送達される。
【0047】
支持細胞は、10〜30%ウシ胎児血清(Omega Scientific)、15〜25μg/ml内皮細胞補充物(例えばBiomedical Technologiesから入手可能: #BT-203)、0.5〜2×Pen/Strep、および15〜25単位/mlのヘパリン(例えばSigma: # H3149-100KU)を含む内皮成長培地(例えば、Medium 199, Thermo Scientific: #FB-01)中で培養することができる。支持細胞は、培養容器の表面上に層で培養することができ、そして好ましくは、支持細胞のコンフルエントな層が培養容器上に確立されたら、内皮増殖培地を無血清培地と交換し、そしてリプログラミング因子を発現するECを支持細胞層上で培養することができる。
【0048】
例えば、成熟したHUVEC(または、hDMEC)をFGRSリプログラミング因子により形質導入し、次いで、2〜3日後、洗浄し、そしてE4−HUVECフィーダーの確立された単層上で再び培養することができる。5×10の成熟したECの形質導入により、E4−HUVECによる無血清共培養中にHMLPの多数の明瞭なコロニーを生成することができる。
【0049】
培養液からのHMLPの単離
HMLPは、さらなる使用のため培養液から単離することができる。一実施態様において、HMLPは、CD45細胞を単離することによって単離される。別の実施態様において、HMLPは、CD45CD34細胞を単離することによって単離される。例えば、HMLPは、HMLPと内皮支持細胞(これはCD45である)との共培養液からCD45細胞を細胞選別および分離することによって単離することができる。
【0050】
HMLPは、不均一な/混合集団(例えば、集団中の異なる細胞がCD45またはCD45CD34の発現以外の異なるマーカーを発現する細胞の集団)として、または比較的均一な/実質的に純粋な集団(例えば、細胞の集団が50%を超える、60%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、85%を超える、90%を超える、95%を超える、または98%を超える細胞が、CD45またはCD45CD34の発現に加えてマーカーの共通なセットを発現する)として培養液から単離することができる。
【0051】
医薬組成物および治療方法
さらに、本開示は、薬学的に許容しうる担体を含むEC生成HMLPの医薬組成物を提供する。このような医薬組成物は、細胞に加えて、生理学的に許容しうるマトリックス(matrix)または生理学的に許容しうるビヒクル(vehicle)を含有してもよい。マトリックスおよび/またはビヒクルのタイプは、とりわけ意図する投与経路に左右される。適したマトリックスおよび/またはビヒクルは、当分野で知られている。このような組成物は、例えば、幹細胞または臍帯血細胞を保存するための確立された方法を用いて、液体窒素中に凍結および保存することができる。好ましい例では、医薬組成物は、患者に静脈内注入のために提供される。
【0052】
さらに、本明細書に開示されたEC生成HMLPおよび医薬組成物を利用する治療方法が提供される。本明細書に提供されるHMLPは、対象における造血細胞の再構成または所望の造血細胞タイプが富化された細胞集団の提供に適している。本発明のHMLPは、限定されるわけではないが、放射線治療および化学療法のような治療の後に、免疫不全の対象における十分な範囲の造血細胞の再構成に用いることができる。例えば、対象への注入または移植による開示されたHMLPの投与は、肝臓、膵臓、腎臓、肺、神経系、筋肉系、骨、骨髄、胸腺または脾臓の幹細胞または前駆細胞を増大または交換することができる。HMLP移植は、適合および不適合HLAタイプの造血移植を含む、自家または同種異系であることができる。ドナー細胞の免疫拒絶を低減するために宿主を処置する必要がありうることが認められている。
【0053】
対象または個体は、細胞ベースの治療を必要とする任意の動物であることができる。いくつかの実施態様において、個体は哺乳動物である。哺乳動物としては、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ウシ、ウマ、イヌ、ネコおよび同類が含まれるが、それらに限定されるわけではない。好ましい実施態様において、哺乳動物はヒトである。
【0054】
本明細書に提供される増殖された細胞を患者に投与することに関して、増殖された細胞の有効量は、数百またはそれ未満の少ないものから数100万またはそれ以上の多いものまでの範囲であってもよい。投与される増殖された細胞の数は、医学専門家によく知られた他の因子の中でも治療するサイズまたは総容積、ならびにレシピエントの必要性および状態を含むが、それらに限定されるわけではない、治療する障害の詳細に応じて変化することになるのは理解されるであろう。いくつかの実施態様では、100kgの人当たり10〜1010の細胞が対象または個体に投与または移植される。投与または移植の方法は、当分野でよく知られており、そして、例えば、注入が含まれる。本明細書において提供される増殖された細胞は、例えば、静脈内注入によって投与することができる。
【0055】
一実施態様において、HMLPは、骨髄移植において骨髄細胞を増大させる、または交換するために用いられる。現在、白血病、リンパ腫および他の生命にかかわる障害といったような疾患の治療としてヒト自家および同種骨髄移植が用いられる。しかし、これらの手法の欠点は、生着に必要な細胞を確保するために大量のドナー骨髄を取り出さなければならないということである。本発明は、レシピエントへの注入または移植に関して骨髄提供をEC生成HMLPで代用または補充することによって大量の骨髄提供の必要性を低減または排除する。
【0056】
いくつかの実施態様では、細胞の単回投与が提供される。別の実施態様では、多回投与が用いられる。多回投与は、連続3〜7日の初期治療計画のような定期的な期間にわたって提供し、次いで、他の時に繰り返すことができる。
【実施例】
【0057】
細胞培養。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、Goldberg, A. D. et al., (Cell)
140:678-691 (2010)に記載されたとおり得た。HUVECは、Endothelial Growth Media(EM):Medium 199(Thermo Scientific: #FB-01)、20%ウシ胎児血清(Omega Scientific)、20μg/ml内皮細胞補充物(Biomedical Technologies: #BT-203)、1X Pen/Strepおよび20単位/mlのヘパリン(Sigma: # H3149-100KU)中で培養した。成人初代ヒト皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)は、ScienCell Research Laboratories(cat #2020)から購入した。無血清造血培地は、StemSpan SFEM(Stemcell Technologies)、10%のKnockOut Serum Replacement(Invitrogen)、5ng/mlのbFGF、10ng/mlのEGF、20ng/mlのSCF、20ng/mlのFLT3、20ng/mlのTPO、20ng/mlのIGF−1、10ng/mlのIGF−2、10ng/mlのIL−3、10ng/mlのIL−6(すべてInvitrogen、eBioscienceまたはPeprotechから)でできていた。
【0058】
ヒト臍帯血前駆細胞の精製。ヒト臍帯血を、IRBプロトコール”Stage Specific Differentiation of Hematopoietic Stem Cells into Functional Hemangiogenic Tissue”(Weill Cornell Medical College IRB # 09060010445)の下で得た。臍帯血単核細胞を、Ficoll-Paque(GE)を用いる密度勾配によって精製し、そして抗CD34ミクロビーズ(Miltenyi)を用いる磁気分離を用いて、CD34前駆細胞に関して富化した。Human Progenitor Cell Enrichment Kit(StemCell Technologies)を用いるLin細胞の陰性選択によってさらなる精製を達成した。Arcturus PicoPure RNA単離キット(Applied Biosystems;このキットは、すべてのRNA抽出手順に用いた)を用いるFACSによって、単離されたLinCD34CD45細胞からRNAを抽出した。
【0059】
フローサイトメトリー。フローサイトメトリー分析をBecton Dickenson LSRII SORPにおいて実施し、そして蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting)(FACS)をAria II SORPにおいて実施した。使用した抗体は、ヒトCD45、CD34、CD14、CD31、CD43、CD90、CD41a、CD33、CD19、CD3、CD4、CD8、CD235、CD45RA、CD83、CD11b、CD38、LINカクテル、CD117、CD133、CD144(BD Pharmingen, eBioscience)またはマウスCD45(eBioscience.)に対して高めた。電圧調整および補正は、CompBeads(BD Pharmingen)を用いて行い、そしてフルオロフォアマイナス1対照(FMO)および非染色対照においてゲーティングを実施した。
【0060】
内皮細胞と造血前駆細胞との間で異なって発現される転写因子の同定。造血特化に不可欠である状態を確認するため、本発明者らは、新たに単離されたHUVECおよびLinCD34ヒト臍帯血造血前駆細胞においてRNA−シークエンシングを実施して、異なって発現されたTFを同定した。異なって発現された26個のTFを確認した(表1)。
【0061】
【表1】
【0062】
レンチウイルスベクター。転写因子候補をpLVX-IRES-Zs Green1レンチベクター(Clontech)、pLOCレンチベクター(OpenBiosystems)、またはLV105レンチベクター(Genecopoeia)のいずれかにサブクローニングした。レンチウイルス粒子は、Sandler, V. M. et al., PLoS One 6:e18265 (2011)に記載されたとおりパックした。簡潔には、ヒト胎生腎293FT(HEK293FT)細胞をレンチベクターおよび2つのヘルパープラスミド(psPAX2)およびpMD2.G(Addgeneを通してTrono Lab)と等モル比で共トランスフェクトした。形質移入48〜52時間後に、上清を集め、濾過し、そしてLenti-X濃縮器(Clontech)を用いて濃縮した。ウイルス価は、標的細胞としてHUVECを用いて限界希釈実験で決定した。本発明者らは、体積当たりの感染ウイルス粒子の数に対する読み出しとして、GFP細胞の数、または選択抗生物質(プロマイシン)の存在下で形成されたコロニーの数のいずれかを用いた。本発明者らは、HUVECまたはhES細胞由来のECについてはMOI5〜10、そして線維芽細胞の感染については10〜25を用いた。
【0063】
HUVECおよびHEF(ヒト胚線維芽細胞)を、SPI1を発現するレンチウイルスにより形質導入し、そしてプロマイシン(0.5〜1μg/ml)の存在下で10〜14日間増殖させて十分な数の細胞を得た。全4つのFGRSを発現するレンチウイルスを内皮細胞培地中に再懸濁し、そして支持細胞に加えた。12〜24時間後、形質導入されたECを、さらなるEC培地と共に供給した。形質導入後の2〜3日後、形質導入されたECを、支持細胞上で再び培養した。
【0064】
本発明者らは、26個の確定されたTFのさまざまな組合せをスクリーニングして、HUVECを造血細胞にリプログラミング可能なものを確定した。造血細胞による出発HUVEC培養液の潜在的汚染を排除するため、本発明者らは、新たに単離されたHUVECを選別して成熟したCD45CD133cKitCD31EC(図1A)を得た。外因的に発現されたTFがない場合、これらのHUVECは、決してCD45造血細胞を生じることがない。したがって、本発明者らは、最初の読出しとしてCD34CD45細胞の発生を用いて、血液学的可能性を獲得した細胞を確定した。緑色蛍光タンパク質(GFP)マーカーまたはプロマイシン抵抗性遣伝子のいずれかを有する、確定されたTFを発現するレンチウイルスベクターを用いてHUVECを形質導入した(図1A)。次いで、形質導入されたHUVECを、造血サイトカイン(TPO、KITL、FLT3L;方法を参照のこと)の存在下、血清なしで増殖させた。形質導入の約2週間後、HUVEC培養液は、丸いGFPCD45細胞の発生(図1B)および内皮単層から発生が始まったGFPCD45細胞の丸いブドウ状コロニー(図1A、12日目〜16日目)を示した。
【0065】
ECをリプログラミングするために必要な転写因子の確定。表1で確定したように、異なるTFを欠如させたそれぞれの形質転換により、一度に25TFを用いてHUVECを形質転換させた。TF候補をこのように系統的に「1つずつ脱落」させて、造血リプログラミングにはFOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1の強制発現が必要であることを示した(この組合せを「FGRS」と呼ぶ)(図1D、n=3)。他のTF候補は、必要なかった。本発明者らは、造血様コロニーの生成にはFGRS TFのみで十分であることを見いだした(図1E、n=3)。いずれか1つのFGRS因子を除去しても、造血様クラスターの形成が完全に排除されることはなかったが、しかし、クラスター数はかなり減少し(p<0.05)そして新生造血様細胞は活発に分裂しなかった。
【0066】
FGRS形質導入ECの成長を増強および持続させる支持細胞層のデザイン。ECおよびHSPCは、大動脈−性腺−中腎(AGM)領域で共発生する(co-develop)。初生HSCは、発育中の胎児中の増殖に適したニッチを必要とするため、血管性ニッチ支持細胞は、新生造血様細胞の生存を増強し、そして特化を持続しうる。この仮説を調べるため、本発明者らは、Butler, J. M. et al., (Blood) 120:1344-1347 (2012)によって記載されたように、アデノウイルスE4複合体(E4−HUVEC)のE4ORF1遺伝子の発現によって、HUVECの血清および成長因子を含まない培養を可能にするための血管性ニッチのin vitroモデルを用いた。本発明者らのグループおよびその他は、E4−HUVECは、初生造血細胞、マウスcKitLinSca1CD34Flt3およびヒトLinCD45RACD38CD34CD49fHSPCに対するそれらのニッチ様支持体を維持しており、それらは、致死的に照射を受けた一次および二次レシピエントに移植することができることを示している。
【0067】
この血管性ニッチ共培養系を用いて、本発明者らは、成熟したHUVEC(またはhDMEC)をFGRSリプログラミング因子で形質導入し、次いで、2〜3日後、洗浄し、そしてE4−HUVECフィーダーの確立された単層上で再び培養する、生体異物を含まないプラットフォームを考案した。5×10成熟したHUVECの形質導入により、E4−HUVECを用いる無血清共培養中に32.3±10.5(n=8)の明瞭なコロニーを得たが、しかし、血清を加えた場合、コロニーは観察されなかった。ナイーブHUVECは、1〜2週間を超える間、無血清培養において生存することができないため、血管性ニッチとして適しておらず、FGRS−ECが、リプログラミング中に血管性ニッチ支持体から利益を得るのを妨げる。実際に、ナイーブHUVECを用いた共培養から発生するGFP+造血様コロニー(形質導入されたHUVEC5×10当たり3.4±3.2のコロニー;n=5)は、支持細胞がない場合のFGRS−ECから成長(outgrowth)とは、まったく共通していなかった。
【0068】
E4−HUVECは、FGRS−ECを培養するのに必要な環境を提供する。FGRS形質導入EC(FGRS−EC)とE4−HUVECとの共培養は、造血様コロニーの収率および持続性を著しく高め、それにより最終的にrEC−HMLPの形態学的および分子的特徴が明らかになった。したがって、FGRS−ECからの造血細胞の効率的生成には、ニッチ様の機能を有するECからの長期的な支えとなるシグナルが必要である。
【0069】
これらの理由のため、本発明者らは、FGRS形質導入ECの造血リプログラミングのさらなる特徴づけのための血管性ニッチフィーダープラットフォーム、E4−HUVECを用いた。5×10ECの2日間の形質導入およびその後のE4−HUVECを用いた3週間の共培養により、32.3±10.5(n=8)の明瞭なコロニーが発生した(図1C)。これらのデータは、FGRS形質導入ECからの造血細胞の発生には、支えとなる血管細胞が不可欠であることを示唆している。
【0070】
培養された細胞のFGRS TFの発現の確認。ナイーブEC中に導入されたFGRSの適当な化学量論を考慮しない場合、リプログラミングの効率は、非常に低く、0.07%未満に近かった。したがって、リプログラミングの効率を改善するため、本発明者らは、TFの適当な化学量論を用いた形質導入されたFGRS形質導入ECのそれらのサブセットを選択する戦略を開発した。本発明者らは、最初に、GFI1、SPI1およびFOSB TFの適当な化学量論を用いてECを生成することに焦点を合わせたが、それは、EC中のそれらの天然の発現がごくわずかであるためである(表1を参照のこと)。これを行うため、本発明者らは、プロマイシン抵抗性(SPI1)またはGFP(FOSBおよびGFI1)によって標識されたFGRSレンチウイルス「カクテル」を用いて5×10ECを形質導入した。次いで、本発明者らは、プロマイシン選択を2日間適用してSPI1発現細胞を富化し、そしてGFP発現のためそれらを選別してSPI1GFP(FOSB/GFI1)ECを富化した。次いで、本発明者らは、これらのGFP細胞を12−ウェルプレート中に播種し、そして無血清培養で2日間それらを増殖させた(プレート当たり10細胞、n=3)。
【0071】
次いで、本発明者らは、造血培地のE4−HUVEC支持細胞層上でGFPプロマイシン耐性細胞10を再び培養し、そして共培養の約20日後、造血クラスターの数を定量化した。本発明者らは、これらのGFP、プロマイシン耐性細胞により、再培養細胞10当たり造血様コロニー156.0±3.6(n=3)が得られたことを見いだしており、リプログラミングの効率が少なくとも1.5%であったことを示唆している。この計算は、各コロニーが単一のリプログラミングされた細胞から生じており、そして本発明者らが、因子(SPI1およびFOSBまたはGFI1のいずれか/両方)の2つを発現することを知っている、形質導入されたECが、それぞれ全4つのFGRS TFを発現すると仮定している。効率は、各因子の適当な化学量論量を発現する細胞において、おそらくはるかに高い。したがって、本発明者らのリプログラミングアプローチが、HUVEC単層内に存在する造血/血管芽細胞ECの非常にまれな既存集団の自発分化のためである可能性は低い。
【0072】
支えとなる血管性ニッチは、FGRS−ECの増殖性多系列、赤血球−巨核球−骨髄系前駆細胞へのリプログラミングを促進する。E4−HUVECとの共培養の3〜4週間以内に、FGRS−ECは、急激に増殖を開始し、E4−HUVEC単層に部分的に付着したGFP+ブドウ状クラスターを形成し始めた。ブドウ状クラスターのWright-Giemsa染色は、造血前駆細胞およびそれらの子孫を形態学的に暗示する細胞を示した(図1B、右のパネル)。また、本発明者らは、時々、発達中の造血コロニーがそれらの周囲から物理的に分離された大きなマルチコロニーニッチ様の構造体の形成を観察した(n=4)。フローサイトメトリーは、ほとんどのFGRS−EC子孫(GFP細胞)が、成熟したECマーカー、CD31の発現を喪失し、そしてサブセットが、共発現されたCD34と共に汎血球形成マーカーCD45の発現を獲得したことを示した(図2A、n=9)。対照的に、GFP E4−HUVECは、高レベルCD31発現を保持しており、そしてCD34CD45のままであった。GFPCD45FGRS−EC子孫のサブセットは、他の造血マーカー、例えばCD43(8.96%±2.3;n=3)、CD90(Thy−1)(6.15%±1.13;n=3)、およびCD14(40.0%±4.95;n=3)を発現した。GFP細胞の増殖は、E4−HUVECとの4〜5週間の共培養の終了近くで増加し、入力ECの約400倍の増殖となる最大20×10のGFP+CD45細胞が生成することになった。(図3A;17.2×10±2.4;n=6)。3〜5日後、増殖速度および生細胞数の両方が急激に減少したが、GFPCD45の生成は、減少した速度で続いた。したがって、E4−HUVEC細胞の支えとなる血管性ニッチは、FGRS−ECの増殖性多系列、赤血球−巨核球−骨髄系前駆細胞(rEC−HMLP)へのリプログラミングを促進する。
【0073】
rEC−HMLPは、赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球前駆体細胞を生成することができる。rEC−HMLPの機能を評価するため、本発明者らは、標準メチルセルロースアッセイを用いてコロニー形成単位(CFU)アッセイを実施した。HUVECが、機能性rEC−HMLPに実際に変換された場合、これらの細胞は、CFUアッセイにおいて少なくとも2つの明瞭な造血系に分化することができるはずである。FGRSによるHUVECの形質導入および血管性ニッチ共培養の4週間後、GFP+CD45+CD34+rEC−HMPLを選別し、そしてCFUアッセイ(n=3)のため1200〜1600細胞/cm(5000〜7000細胞/35mmプレート)の密度で播種した。14日以内に、細胞からは、形態学的に似ているGFP細胞集合CFU−GM(顆粒球/マクロファージコロニー形成単位)、CFU−GEMM(顆粒球/赤血球/単球/巨核球コロニー形成単位)、および部分的にヘモグロビンを発現したBFU−Eタイプ造血コロニー(バースト形成単位−赤血球、赤血球前駆細胞タイプ)が生じた(図2C)。CFUアッセイにおける系列特化は、コロニーをWright-Giemsaで染色することによって検証した(図2D)。本発明者らは、Beutler, E., 編, Williams Hematology; McGraw Hill, Inc. (第5版, 1995)に定義されたような赤血球、マクロファージ、顆粒球、および巨核球前駆体の典型的な形態学的特徴を有する細胞を検出することができた。
【0074】
メチルセルロース培養から得られたコロニーの免疫表現型解析は、CD235、CD11b、CD14、CD83およびCD45細胞の存在を示し、rEC−HMLPが、赤血球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫に分化したことを示唆している。また、CD235(グリコホリンA)細胞は、CD45であり、赤血球分化を示唆している(図2E)。
【0075】
ヒト成人皮膚の微小血管内皮細胞は、自家HSCを形成可能である。本発明者らの方法が、HUVECとは別のECのリプログラミングに適用できるかどうか調べるため、本発明者らは、ヒト成人皮膚微小血管内皮細胞(hDMEC)を用いた。hDMECの移植可能なrEC−HMLPへのリプログラミングは、骨髄再構成のために移植可能な自家造血前駆細胞の生成が可能となりうるため、将来な臨床適用の可能性にとってより重要である。さらに、成人ECが、減少して低い数の造血ECを含みうる場合、このアプローチは、造血または血管芽細胞ECでなく、成熟したECが、造血細胞にリプログラミングされていることを示している。
【0076】
hDMECを、FGRS因子で形質導入し、そして無血清環境中で血管誘導を受けさせた(HUVECリプログラミングに用いたのと同じプロトコール)。リプログラミングされたhDMECのin vitro機能を評価するため、本発明者らは、CFUアッセイを実施した。FGRSによるhDMECの形質導入の4週間後、GFPCD45CD34細胞を選別し、そしてCFUアッセイ(n=3)のため1200〜1600細胞/cmの密度で播種した。12〜14日以内に細胞からは、形態学的に似ている細胞集合CFU−GM、CFU−GEMM、部分的にヘモグロビンを発現するBFU−E、および混合コロニーが生じた(図4A)。CFUアッセイにおける系列特化は、コロニーをWright-Giemsaで染色することによって検証した。本発明者らは、典型的な赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球の前駆体形態を有する細胞を検出することができた(図4A)。メチルセルロース培養から得られたコロニーの免疫表現型解析は、hDMECから誘導されたrEC−HMLPの、赤血球CD235(58.66±3.47%)、マクロファージCD11b(10.39±3.05%)、単球CD14(10.87±1.28)、および樹状CD83(7.94±0.80%)細胞子孫を含むいくつかの系列に分化する能力を示した(図4B)。
【0077】
HUVECは、rEC−HMLP様細胞を自発的に生成することができない。HUVECが、rEC−HMLP様細胞を自発的に生成できる造血または血管芽細胞を含むことがありうる可能性を排除するため、本発明者らは、2セットの実験を実施した。
【0078】
最初に、本発明者らは、ウェル当たり1細胞、2細胞、5細胞および10細胞の密度で表現型的に著しく成熟したHUVECを選別することによってクローン培養を生成した。これを達成するため、本発明者らは、多色フローサイトメトリーを実施し、そしてCD144(VE−カドヘリン)CD31E−セレクチンCD45HUVECを、1、2、5および10細胞の配置で、96−ウエルプレート中に選別した。E−セレクチン(CD62E)は、成熟したEC上でしか発現されず、そして任意の造血または非血管性細胞上には存在しない。次いで、これらのコロニーは、>10000細胞培養液(5および10−細胞クローンに関して)、>5000細胞(1−細胞#1クローンおよび2−細胞クローン)、および>3000細胞(1−細胞#2クローン)に増殖した。FGRSによる1−細胞培養液、2−細胞、5−細胞および10−細胞培養液の形質導入、続いてE4−HUVECとの共培養の結果、混合HUVEC培養実験において観察されたコロニーと類似した造血様コロニーが発生した。E−セレクチンは、最終的に分化した成熟した活性化EC上でしか発現しないため、FGRS形質導入HUVECのクローン集団中に、「造血または血管芽」ECの混入が存在し、造血細胞を生じているかもしれない可能性は低い。
【0079】
実験の第2のセットにおいて、本発明者らは、リプログラミング実験に用いた無血清培地中でHUVECを増殖させた。本発明者らは、血清除去および培地中の造血サイトカインのコンビナトリアル添加に反応したHUVECにおける増殖ならびにCD45およびCD34発現を比較した。血清不使用も造血サイトカインの最適カクテルの添加もないと、HUVEC中にCD45の任意の検出可能な発現を生じなかった。しかし、血清不使用単独および/またはそれとTGFシグナル伝達阻害との組み合わせは、いずれもそれらの血管の独自性(vascular identity)を持続させる、HUVEC中のCD34発現の有意な上方制御を生じた。まとめると、これらのデータは、FGRSがHUVEC内の既存の造血または血管芽前駆細胞をリプログラミングする可能性が低いというよりも、むしろFGRS TF+血管性誘導プロトコールが、最終的に分化したCD144CD31E−セレクチンCD45ECの造血細胞への変換を誘導することを示している。
【0080】
rEC−HMLPは、表現型的に正しいHSPCおよび多能性前駆細胞を生成することができる。rEC−HMLPのより詳細な表現型解析は、CD45LinCD45RACD38CD90CD34またはCD45LinCD45RACD38CD90CD34である細胞の小さな集団を示し、したがって、それぞれ、Chao, M. P. et al., (Cold Spring Harb Symp Quant Biol) 73:439-449 (2008)によって定義されたような、表現型的に顕著なHSPCまたは多能性前駆細胞の基準を満たしている(図2B、n=3)。
【0081】
CD45細胞は、増殖の可能性を有する。本発明者らは、無血清造血培地中のCD45およびCD45細胞の増殖可能性を比較した。CD45(12×10)およびCD45(60×10)細胞を個々のウェル中に選別し、そして2日間増殖させた。本発明者らは、CD45細胞の5倍増殖(56.6×10±7.9×10;n=3)およびCD45細胞の劇的な減少(4.6×10±1.0×10;n=3)を観察した。クローン増殖に関するCD45およびCD45細胞の可能性を調べるため、それらを1または2細胞/ウェルの密度で96−ウエルプレートに選別した。7日培養後、本発明者らは、1−細胞ソートの6.3±2.1ウェル(93.1±14.5細胞/ウェル)および2−細胞ソート(n=3)の29.0±4.3ウェル(112.1±21.2細胞/ウェル)においてCD45細胞増殖を観察した。1および2−細胞ソートにおける細胞数/ウェルの間の違いは、統計学的に有意でなく(p=0.78)検出された細胞増殖を有するウェルの数の違いが、ウェル中に選別された細胞数の反映というよりも選別された細胞の生存のためであったことを示唆している。本発明者らは、CD45細胞の有意な増殖をなんら検出しなかった。
【0082】
ヒト胚性幹細胞の分化およびリプログラミングの試み。本発明者らは、Rafii, S. et al., Blood 121:770-780 (2013)に記載されたように、ヒトVE−カドヘリンプロモーターの断片によって駆動された蛍光レポーターを介して、分化されたEC誘導体を特異的に確認するトランスジェニックhESCレポーター系統を用いた。内皮の関与を増大させるため、血管支持細胞との共培養においてhESC分化を開始した。簡潔には、Seandel, M. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 105:19288-19293 (2008)に記載されたように、HUVECを単離し、レンチウイルスAdE4ORF1により形質導入した。分化を開始するためにhESCを培養する1日前、MEF馴化培地を、FGF−2を含まず、かつ2ng/mlのBMP4で補充されたhESC培地で置き換えた。その翌日、hESCを、hESC培地(FGF−2なし、2ng/mlのBMP4を加えた)中のE4ORF1+ECの80%コンフルエント層上で直接培養し、そして48時間静置した。この培養地点を、分化0日目とみなした。以下の順序で組換えサイトカインを用いて細胞を順に刺激した:0〜7日目−10ng/mlのBMP4を補充した;2〜14日目−10ng/mlのVEGFAを補充した;2〜14日目−5ng/mlのFGF−2を補充した;7〜14日目−10μMのSB−431542を補充した。血管特異的レポーターおよびCD31を共発現するhESC由来細胞の分画を、FACSによって14日目に収集した。これらの細胞をFGRSカクテルで形質導入し、そして2〜3日後、E4ORF1 HUVECの層上で培養した。リプログラミングの程度を、フローサイトメトリーによって評価した。
【0083】
ヒト胚性幹細胞は、高度に増殖性のHSCを形成する能力が欠如している。現在、胚性幹細胞(ES)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む多能性幹細胞の、再増殖する造血細胞への分化は、限定された成功を示している。したがって、FGRSは、ヒトES由来のECのHSCへの分化を増強することができる欠損因子(missing factors)となりうる。この目的で、本発明者らは、hESをEC(hES−EC)38に分化させた。次いで、本発明者らは、VEGFR2陽性hES−ECを精製し、そしてそれらをFGRSで形質導入した。特に、FGRS形質導入hES−ECは、かなりの数のCD45CD144細胞を生成することができた。しかし、これらのCD45CD144細胞は、明瞭な安定な造血様コロニーの形成に失敗し、そして高増殖成長相に入らなかった。これらの結果は、hES−ECは、rEC−HMPLにリプログラミングされる際にHUVECほど許容的ではないことを示している。
【0084】
ECから生成されたrEC−HMLPは、移植され、in vivoで機能して造血細胞と入れ替わることができる。rEC−HMLPがin vivo生着可能であるかどうかを決定するため、本発明者らは、亜致死照射された(275Rad)免疫不全状態のNOD−SCID−IL2−受容体欠損(NSG)成体マウス(n=9;照射1日後)に、眼窩後注射を介してCD45GFPrEC−HMLP 1.5×10を移植した。ヒトCD45細胞の存在に関して、移植の2、5、12、16および22〜44週後に、注射されたマウスの末梢血を検査した(図3B)。本発明者らは、2(n=7;17.38±7.73%)、5(n=6;15.1±13.39%)、12(n=6;14.14±5.44%)、16(n=6;22.36±17.95%)および22〜44(n=6、21.23±22.27%)週に循環ヒトCD45細胞を検出した。移植16週後の末梢血、骨髄(BM)および脾臓の分析は、全3つの組織中のヒトCD45細胞および末梢血中のヒトCD45CD235赤血球細胞の存在を示した。BMおよび脾臓は、小さいが検出可能な数のCD41a+(巨核球)細胞を有するrEC−HMLP(CD45CD33)の骨髄系子孫が集合していた(図3C)。
【0085】
移植されたrEC−HMLPは、赤血球、巨核球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫を生成するそれらの能力を保持している。宿主から単離された移植されたrEC−HMLPが、それらの多系列可能性を保持しているかどうか決定するため、本発明者らは、二次的CFUアッセイを実施した。本発明者らは、移植の22(n=1)および24(n=4)週後に、移植されたマウスの骨髄からヒトCD45(hCD45)を単離した。これらの細胞をin vitroで24時間増殖させ、そしてCFUアッセイのためにhCD45hCD34細胞を選別した。14日以内に、培養された細胞から、CFU−GM、CFU−GEMMおよびBFU−Eと類似した形態を有するコロニーが生じた。細胞のサイトスピンのWright-Giemsa染色は、測定された細胞のヒト骨髄系子孫の典型的な形態を示した。メチルセルロース培養の免疫表現型解析は、ヒトCD45コンパートメントが、CD41a、CD14、CD83およびCD33細胞を含むことを示し、巨核球、マクロファージ、単球および樹状細胞子孫の存在を示唆している。CD45コンパートメントは、CD235を含み、マウスTer119細胞を含んでおらず、CFUアッセイにおけるヒトCD45CD34細胞の強い赤血球分化を示唆している(図3E)。
【0086】
NSGマウスの骨髄に移植されたrEC−HMLPの分析は、ヒト多能性前駆細胞の定義を満たすLinCD45RACD38CD90CD34細胞の小集団を示した(図3E)。これらの細胞がそれらの多系列の可能性を保持しており、そしてリプログラミングされたrEC−HMLPの誘導体であることを検証するため、本発明者らは、CFUアッセイのためにそれらを培養し、そして単一コロニー中のウイルス組込みをチェックした。4つのリプログラミング因子の存在に関して、個々のコロニーから単離されたゲノムDNAを分析した。すべての試験コロニー(n=3)は、FOSB、GFI1、RUNX1およびSPI1を発現するレンチウイルスベクターに関して陽性であった(図3F)。単細胞レベルでのウイルス組込みの頻度を定量化するため、本発明者らは、宿主骨髄からのヒトCD45細胞を分析した。全ゲノム増幅(WGA)のため、細胞を96−ウエルプレート(1細胞/ウェル)中に選別した。増幅されたゲノムDNAを、ウイルス組込みに関して試験した。すべての細胞(n=21)は、ウイルスベクター組込みに関して陽性であった。2つの細胞は、リプログラミングに用いられる4つのウイルスのうち3つの組込み(検出不可能なRUNX1を有するFGSおよび検出不可能なFOSBを有するGRS)を示した(図3G)。1細胞および単一コロニーウイルス組込みの結果から、宿主マウスから単離されたヒト造血細胞は、NSGマウスに移植されたrEC−HMLPから生じることが確認された。
【0087】
移植されたrEC−HMLPは、ゲノム完全性を保持している。CD45rEC−HMLP(形質導入後35日目)、およびNSGマウスの骨髄に移植されたCD45CD34rEC−HMLP(移植24週後)のゲノム完全性を評価するため、本発明者らは、Agilent SurePrint G3 Human CGH Microarray(1Mプローブ)を用いて比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)解析を実施した。解析は遺伝的異常を示さず、増殖性rEC−HLMPがin vitroおよびin vivoの両方において遺伝子的に安定のままであることを示唆している。
【0088】
移植されたrEC−HMLPは、in vivoで悪性形質転換に至らなかった。骨髄異形成症候群(MDS)に素因を含む、移植されたrEC−HMLPの悪性形質転換の可能性についての懸念に対処するため、本発明者らは、移植後の最大10ヵ月間、レシピエントマウスの骨髄、脾臓および肝臓を分析した(図3A)。循環CD45細胞の存在に関して、末梢血を最初に分析した。生着を示すマウスを屠殺し、そしてMDSの徴候に関して、それらの脾臓、肝臓および脛骨を分析した。マウスは、白血病およびリンパ腫、例えばリンパ節症、脾腫または臓器肥大の肉眼的な証拠をなんら示さなかった。本発明者らは、rEC−HMLP移植されたマウスの骨髄、脾臓および肝臓上の染色パネルを用いることによって総合的分析を実施した。本発明者らは、コラーゲンまたはデスミンの過剰沈着のなんらかの徴候を観察しなかった。また、骨髄の微視的な構造は、骨髄異形成症候群を暗示する線維性リモデリングの証拠を示さなかった。骨芽細胞、血管および血管周囲領域は、形態学的に無傷であった。本発明者らは、本発明者らのアプローチが、白血病誘発可能性を有する造血細胞の誘導に至らないと結論付けた。
【0089】
移植されたrEC−HMLPは、リンパ系細胞を生成する。HUVEC由来の移植されたrEC−HMLPのリンパ系子孫の数(脾臓、骨髄および末梢血中)は、無視できるほど小さく、移植されたrEC−HMLPがin vivoでT細胞キメラ現象に十分に関与しなかったことを示唆している。SPI1の構成的残留発現が、rEC−HMLPがT細胞に分化することを妨げる可能性に対処するため、本発明者らは、構成的に発現されたFGR因子と誘導性SPI1との組合せ(SPI1−Tet−On)を用いた。HUVECを、FGR+SPI1−Tet−Onレンチウイルスで形質導入し、そしてドキシサイクリンの存在下、HUVECフィーダー単層の層上で27日間増殖させた。本発明者らは、造血様コロニーの形成およびCD45細胞の数の増加を観察した。HUVECフィーダーは、ドキシサイクリンに抵抗性であり、そして新生造血細胞の誘導を通してそれらの血管性ニッチ機能を維持した。次に、リプログラミングされた細胞を、Delta-like 4(OP9−DL4)を発現する骨髄間質細胞(OP9)の層上に移し、そしてIL−7(10ng/ml)、IL−11(10ng/ml)およびIL−2(5ng/ml)を補充した無血清造血培地の存在下で増殖させた。CD3、CD19およびCD14の発現に関して細胞を試験した(3週間のOP9−DL4共培養;図6A)。特に、本発明者らは、小分画のCD3細胞(0.16±0.01%;n=3)、より多数のCD19(1.17±0.13%;n=3)およびCD14を発現する細胞の非常に有意な集団(16.46±1.02%;n=3)を確実に検出することができ、T細胞の生成を示している。
【0090】
移植されたrEC−HMLPは、機能性マクロファージを生成する。rEC−HMLPから分化したマクロファージの機能性評価を実施するため、本発明者らは、食作用アッセイを実施した。rEC−HMLPを、E4−HUVEC支持細胞層なしで、M−CSF(10ng/ml)、SCF(10ng/ml)、Flt−3(10ng/ml)、TPO(10ng/ml)および10%FBSの存在下、2週間培養した。本発明者らは、サイズの増加および培養細胞の粒状度を観察した。培養物をPBSで2回洗浄して非接着細胞を除去した。1μl/mlの低濃度で赤色蛍光ビーズと混合した成長培地を、付着細胞に37℃で1時間適用した。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、そして生細胞をCD11b抗体で染色した。細胞を固定し、そして核可視化のためDAPIで染色した。共焦点顕微鏡検査は、明らかに視認できる摂取されたビーズを有するしっかりと付着したCD11bGFP細胞の群を示した(図6B)。したがって、rEC−HMLPは、機能性マクロファージを生じることができる。
【0091】
hDMECから生成されたrEC−HMLPは、移植して、in vivoで機能して造血細胞を交換することができる。hDMECから生成されたrEC−HMLPがin vivoで生着可能かどうかを決定するため、本発明者らは、亜致死的に照射された(100Rad)2週齢新生児NSGマウスに、眼窩後注射を介してCD45GFPrEC−HMLP
1×10を移植した。ヒトCD45細胞の存在に関して、移植4、6および12週後に、注射されたマウスの末梢血を試験した(図4C)。本発明者らは、4(2.09±1.27%、n=6)、6(4.46±3.66%、n=6)および12(4.05±3.50%、n=6)週に循環ヒトCD45細胞を検出した。移植14週後の末梢血、骨髄および脾臓の分析は、全3つの組織中のヒトCD45細胞および末梢血中のヒトCD45CD235赤血球細胞の存在を示した(図4C、D、E)。移植14週後の脾臓の分析は、リンパ系子孫のCD19(10.13±4.98%;B細胞)およびCD56(1.62±0.67%;NK細胞)細胞の小さいが明瞭な集団を示した。これらは、CD11b(27.66±8.92%;マクロファージ)およびCD41a(4.90±1.51%;巨核球)骨髄性細胞に加えて、存在した(図4D)。
【0092】
また、移植されたhDMEC由来のrEC−HMLPは、in vivoで機能性HSC様細胞を生成する能力を保持する。移植されたhDMEC由来のrEC−HMLPが、in vivoで機能性HSC様細胞を生成したかどうかを機能的に試験するため、本発明者らは、二次移植を実施した。本発明者らは、移植12週後に、一次移植されたマウスの大腿から全骨髄を移植した(n=10)。一次移植の14週後にドナーマウスの骨髄中に移植されたrEC−HMLPの表現型解析は、それぞれヒトHSPCおよび多能性前駆細胞(MPP)の表現型定義を満たす、CD45LinCD45RACD38CD90CD34(10.37±2.55%)およびCD45LinCD45RACD38CD90CD34(13.83±2.14%)細胞の両方の有意な集団を示した(図4E)。本発明者らは、骨髄系子孫の有意な集団(n=6;44.32±23.21%)による移植の3(n=6;14.61±15.7%)および5(n=6;2.01±1.5%)週後の二次レシピエントのPB(末梢血)中にhCD45+を検出した(図4F)。長期的な一次生着および成功した二次短期生着は、リプログラミングされたhDMECの集団中のHSPC様細胞/自己再生MPPの存在を支持している。
【0093】
rEC−HMLPは、造血遺伝子の上方制御および血管遺伝子の下方制御を示す。次に、本発明者らは、培養されたHUVECの遺伝子発現プロファイルに対するrEC−HMLPの全ゲノム転写プロファイルおよび新たに単離されたCD34CD45Lin臍帯血造血細胞を比較して全ゲノムトランスクリプトームレベルでリプログラミングの程度を評価した(図5A)。本解析は、ナイーブHUVECおよびLinCD34CB細胞と比較したとき、移植前のCD45細胞および移植22週後のCD45CD34rEC−HMLPにおける造血遺伝子の上方制御および血管遺伝子発現のサイレンシングを示した。プロトタイプの多能性遺伝子、例えばOct4、Nanog、Sox2およびMycは、ヒト胚性幹細胞(hESC)およびナイーブHUVECと比較してリプログラミングされた細胞中で上方制御されず、これは、HUVECのrEC−HMPLへのリプログラミングが多能性状態を通して移行することなく達成されたことを示している(図5B)。移植後22週後のHUVEC、CD45rEC−HMLP、CD45CD34rEC−HMLP全トランスクリプトームおよびCD45CD34rEC−HMLPのよりタイトなクラスタリングを伴うCD34Lin細胞およびCB細胞の階層的クラスタリングは、rEC−HMLPのさらなるin vivo「培養(education)/リプログラミング」を示唆した。
【0094】
ChIP-Seqおよびデータ分析。ChIP-Seqは、Goldberg, A. D. et al., Cell 140:678-691
(2010)に記載されたとおり実施した。簡潔には、細胞を1%パラホルムアルデヒド中で15分間架橋させ、洗浄し、そして溶解した。Bioruptorを用いてクロマチンを約150塩基対の断片に切断し、洗浄し、そして溶出した。溶出されたクロマチンを脱架橋し(reverse-cross-link)、そしてカラム精製した(SPI1およびGFI抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから得た;カタログ番号sc−352およびsc−8558)。標準調製プロトコールに従ってIllumina TruSeq DNA Sample Preparation Kitを用いて、シークエンシングのため、ChIPサンプルを調製した(Illumina)。Illumina Hiseq 2000シーケンサーにおいて、標準Illuminaプロトコールに従ってシークエンシングサービスを実施した。BWAプログラム(Li, H. et al., Bioinformatics 25:1754-1760 (2009))を用いて、ChIP-seq読み取りデータを参照ヒトゲノム(hg19, NCBI Build 37)に対して整列させ、そしてPicard(sourceforgeからオンラインで入手可能)によってPCR重複を除去した。SPI1およびGFI1結合のゲノム全体の分布を生成するため、そしてピークの同定のため、2つを超えるミスマッチを含まない単一の最も適合する部位に位置づけられた独特の読み取りデータを残し、そして用いた。FDR<0.005を有するSPI1およびGFI1ChIPシグナルのゲノム富化を確認するため、ソフトウェアChIPseeqer 2.0(Giannopoulou, E. G. et al., BMC Bioinformatics 12:277 (2011))を、対照として入力DNAからのシークエンシングデータを有するChIP-Seqデータに適用した。転写開始点(TSS)から+/−2kb内の富化をプロモーターピークとして定義した。DAVIDによる遺伝子オントロジー(GO)解析(National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)、NIH)からオンラインで入手可能である)およびHOMERによるモチーフ解析(biowhat、University of California、San Diegoからオンラインで入手可能)のため、選択された遺伝子を提示した。
【0095】
SPI1およびGFI1のDNA結合部位の同定。ECのrEC−HMLPへの転写FGRS介在性リプログラミングの可能な機構を明らかにするため、本発明者らは、クロマチン免疫沈降結合大規模シークエンシング(ChIP-Seq)を用いて、HUVEC中のSPI1およびGFI1の全ゲノムDNA結合を比較した。本発明者らは、転写開始部位(TSS)から+/−2kbプロモーター領域に23587SPI1−結合および10999GFI1−結合ゲノム部位を確認した。特に、GFI1結合TSS(10999の10079)の91.6%は、SPI1結合TSSと重なっていた。しかし、SPI1結合プロモーターの57.3%は、GFIによって占有されなかった。SPI1、GFI1またはSPI1およびGFI1によって共に結合された遺伝子(共通の標的または「CT」)の転写レベルの比較は、GFI1単独によって結合されたほとんどの遺伝子が発現レベルの低下を示したが、が、SPI1単独、またはGFI1と組み合わせてSPI1によって結合された遺伝子は、上方制御された。結合部位の遺伝子オントロジー(GO)解析は、ECからrEC−HMLPへの細胞同一性の変更に関与することができた多くの遺伝子クラスターを明らかにした(図5C)。GOは、上方制御されたCT(log2(rEC−HMLP/HUVEC)≧2)が、造血系発生および骨髄系分化において知られている機能を有する遺伝子のクラスターに属したことを示したが、多数の下方制御されたCTは、血管系発生に関与することが知られている(図5C)。SPI1およびGFI1 TSS標的によって占有されたモチーフを結合する知られているDNAの探索は、下方制御されたCT((log2(HUVEC/rEC−HMLP)≧2)が、GFI1b(72遺伝子、p=0.001)およびFOSB結合モチーフ(64遺伝子、p=0.0001)を有する遺伝子のサブセットを含むことを示した。SPI1によって結合された上方制御された(log2(rEC−HMLP/HUVEC)≧2)遺伝子のTSSのサブセットは、RUNX1(133遺伝子、p=0.0001)およびFLI1(264遺伝子、p=0.01)の知られているDNA結合モチーフを含んだ。さらに、CTのサブセットは、知られているEBF(early B-cell factor)DNA結合モチーフ(130遺伝子、p=0.01)を含んだ。
【0096】
DNA結合モチーフ探索および全トランスクリプトーム発現分析と組み合わせたSPI1およびGFI1の全ゲノム結合プロファイルは、SPI1単独およびGFI1と組み合わせたSPI1は、造血遺伝子の発現を上方制御することを示唆している。特に、血管性遺伝子の発現は、SPI1およびGFI1ならびにおそらくFOSBによって抑制された。造血遺伝子の上方制御は、RUNX1およびFLI1の発現と協同するSPI1の発現に左右される。注目すべきことに、FLI1は、移植22週後のナイーブHUVEC、CD45rEC−HMLP、CD45CD34rEC−HMLP、およびLinCD34CB細胞中でも同様に発現される;標準化された発現は、それぞれ7.4、7.9、7.2、および7.6である。
【0097】
FGRS誘導リプログラミングがFGRS TFの内因性発現を誘発するかどうかを決定するため、本発明者らは、RNA-Seqによる5’および3’非翻訳領域(UTR)の発現を明らかにした。リプログラミングに用いられたレンチウイルス構築物は、UTRなしにFGRS因子のオープンリーディングフレームを発現するため、本発明者らは、内因的に発現された転写物を、それらのUTR配列の存在によって確認することができた。全トランスクリプトームRNA-Seqを用いた移植されたヒトrEC−HMLPの5’および3’FGRS因子の解析は、全4つのFGRS因子の内因性発現の活性化を示した。FGRS TFの内因性発現は、分画(%)=UTR/(UTR+ORF)としてUTRに由来するRNA−Seq読み取りデータの分画として算出され、ここで、UTRは、5’および3’UTRに整列させたRNA-seqの読み取りデータの数である。ORFは、興味の遺伝子のオープンリーディングフレームに整列させたRNA-seq読み取りデータの数である。この解析は、FGRS因子の内因性発現がin vitro(CD45rEC−HMLP)およびin vivo微小環境介在性培養期間後(CD45CD34in vivo)の両方でリプログラミングされた細胞を活性化することを示唆している。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B