(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チューブ状部材における前記着色部が、前記チューブ状部材の周囲方向における、チューブ状部材の他方端側にある出入口の位置と同じ側および反対側の少なくとも一方側に形成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の涙道チューブ。
前記着色部が前記チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置と同じ側および反対側に形成されており、一方の着色部の幅が他方の着色部の幅と異なるように形成されている請求項5に記載の涙道チューブ。
幅の細い前記着色部が、前記チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置と同じ側に形成され、幅の太い前記着色部が、反対側に形成されている請求項6に記載の涙道チューブ。
【背景技術】
【0002】
流涙症をもたらす涙道閉塞の治療には、(i)涙道ブジーによるプロービング、(ii)涙道チューブの留置、(iii)涙嚢鼻腔吻合術(DCR)、(iv)涙小管形成術、(v)鼻涙管形成術、(vi)涙丘移動術などがある。
【0003】
前記(i)の涙道ブジーによるプロービングは、ブジーと呼ばれる細管を涙道内に挿入することで閉塞部位を開通させ、涙液の流路を再建するものである。その後に使用する(ii)涙道チューブは、流路の維持と組織の再建を図るために留置する涙道内挿管器具である。これらの治療は容易で低侵襲であることから第一治療として行われる場合が多い。これに対して、(iii)涙嚢鼻腔吻合術(DCR)、(iv)涙小管形成術、(v)鼻涙管形成術、(vi)涙丘移動術は、効果は高いが、顔に切開を入れたり骨に穴をあけたりするので相対的に侵襲度が高く、最終手段として行われる。
【0004】
前記(ii)において使用する涙道チューブは、前記(i)の涙道ブジーによるプロービングのあと、流路の維持と組織の再建を図るために留置するものである。前記(ii)の涙道チューブの留置は前述の(iii)〜(vi)の各治療方法と比して容易で低侵襲、かつ効果が高い。その中でも特許文献1に示されるような、チューブの中央部分が細く柔らかいチューブやロッドで形成され、その両側が硬く太いチューブでできている涙道チューブ(例えば、特許文献1、2、3を参照)が広く普及している。
【0005】
当該涙道チューブは、チューブと、該チューブの両側の切れ目から挿入された一対のブジーからなり、ブジーを操作してチューブを涙道内へと誘導し留置する。尚、
図3に示すように、涙道は涙点(21、22)、涙小管(23、24)、涙嚢(26)、鼻涙管(27)などからなっている。この涙道内に涙道チューブが挿入される。
【0006】
しかし、前記涙道チューブを挿入するためには、ブジーを用いた涙道内での操作を術者の指先の感覚を頼りとした手探り状態で行わなければならず、術者に高度な操作技術がないとブジーがチューブを突き破ったり、また正常な涙道以外に穴を開ける(仮道)こともあり、その場合、治療成績は不良であった。
【0007】
そこで、近年の涙道閉塞治療の分野では、より安全で確実な治療を行う観点から、涙道チューブ挿入術として、シース誘導内視鏡下穿破法(SEP)とシース誘導チューブ挿入法(SGI)とを組み合わせた挿入術が行われている。
【0008】
SEPでは、涙道内視鏡に被せたテフロン(登録商標)製またはポリウレタン製の外筒部分のシースを涙道内視鏡よりも先行させて涙点に挿入し、涙道内視鏡で涙道内を観察しながら閉塞部を穿破し、次いで、シース先端が鼻涙管開口部から出る位置まで挿入を行った後、シースを残したままで涙道内視鏡のみ抜去する。例えば、
図1(a)、(b)に示すように涙道内視鏡29に装着したシース30を、上涙点21から上涙小管23を経て涙道31の下鼻道28にある閉塞部位32に挿入し、この閉塞部位32を貫通した後、涙道内視鏡29を取り外す。
【0009】
SGIでは、前記SEPにて挿入した涙点側のシース端部に涙道チューブを連結し、鼻内視鏡観察下で閉塞部から出たシース先端を鉗子でつまんで引き出す。このことにより涙道チューブはシースに引かれてSEPにて開放された閉塞部のスペースに挿入される。その後シースと涙道チューブの連結を外し留置が完了する。例えば、
図2(a)に示すように前記シース30に涙道チューブ33を接続し、
図2(b)に示すように前記涙道チューブ33を接続した側と反対の側から前記シース30を引っ張って涙道31内に前記涙道チューブ33を挿入して閉塞部位32を貫通させる。次に、
図2(c)に示すように前記シース30を取り外して前記涙道チューブ33を涙道31内に留置する。
【0010】
次いで、図示しないが、涙道内視鏡29に装着した別のシース30を、涙道チューブ33を挿入していない下涙点22から下涙小管24を経て涙道31の下鼻道28にある閉塞部位32に挿入し、この閉塞部位32を貫通した後、涙道内視鏡29を取り外し、このシース30に、前記閉塞部位32を貫通していない涙道チューブ33の端部を接続し、前記涙道チューブ33を接続した側と反対の側から前記シース30を引っ張って涙道チューブ33のもう一方の端部を貫通させ、最後に前記シース30を取り外して、
図3に示すように前記涙道チューブ33を涙道31内に留置する。
【0011】
前記のSEPとSGIとを組み合わせた挿入術は、従来のように盲目的に行うのではなく、閉塞部の穿破を涙道内視鏡下で実施できる点で安全性に優れた方法である。また、SEPに用いるシースは剛性の高い材質でできているため、手元部からの操作、力が先端にダイレクトに伝わり微細な操作を行うことができ、また、術中に涙道内視鏡が折れたり、先端部ファイバーが破損したりするリスクも少ないという利点がある。
しかしながら、前記の従来のシースを用いた手技においては、入り組んだ形状で暗く、かつ閉塞している涙道内にシースを挿入していくのは涙道内視鏡を用いても難しく、粘膜にシース等が突き刺さり仮道を形成したり、もともとあった仮道に誤って挿入したりする可能性があった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明でいう涙道とは、
図3に示すように、上/下涙点(21/22)、上/下涙小管(23/24)、総涙小管(25)、涙嚢(26)、鼻涙管(27)、鼻腔管(図示せず)、Hasner’s valve(図示せず)から構成され、涙腺(図示せず)から産出された涙液を眼表面から下鼻道(28)へと導く管(眼球付属器)である。
図3は、涙道の解剖学的な構造を模式的に示したものである。尚、上涙点(21)から、上涙小管(23)、総涙小管(25)を経て下鼻道(28)へと導く管を上涙道といい、下涙点(22)から下涙小管(24)、総涙小管(25)を経て下鼻道(28)へと導く管を下涙道という。
【0028】
本発明の涙道チューブは、一方端に内腔へ連通する開口部を有する一対のチューブ状部材と、これらチューブ状部材の他方端同士をつなぐ接続部材と、を含む涙道チューブであって、
少なくとも一方の前記チューブ状部材における一方端を含む末端部が無色材料で形成され、
前記無色材料で形成される前記末端部の周囲の一部に、前記チューブ状部材の長軸方向に沿う着色部が形成され、
一対の前記チューブ状部材の一方のチューブ状部材の色相が、色相環にて、前記着色部の色相に対して補色色相または隣接補色色相であること
を特徴とする。
【0029】
前記チューブ状部材の構造としては、同一の樹脂組成物からなる一体型のチューブでもよいし、樹脂の種類が異なる複数の層が厚み方向に積層された積層構造、樹脂の種類が異なる複数のチューブが長軸方向に連結された列構造を有するチューブでもよい。
【0030】
前記チューブ状部材を構成する樹脂としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン、シリコーン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、イソブチレン系共重合体、およびこれらのアロイなどを含む樹脂組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明では、上記アロイとしては特に限定はないが、例えば、ポリウレタンとイソブチレン系共重合体のアロイを用いる場合、前記イソブチレン系ブロック共重合体(A)と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)との割合を調整することで、チューブの硬さを調整できる。熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合を大きく設定するほど、チューブの硬度を大きくすることができる。尚、抗血栓性、表面滑り性、柔軟性の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)が1重量%以上含まれていることが好ましい(即ち、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜99/1)。中でも、耐摩耗性の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜70/30であることが好ましい。特に、圧縮応力の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜50/50であることが好ましい。本発明に用いられる一体のチューブ用の樹脂組成物はイソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)のみからなるものでもよいが他の成分を混合してもよい。
【0031】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)として、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、SIBSという場合がある)であるカネカ社製の「SIBSTAR102T」が好ましい。熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)(以下、TPUという場合がある)として、エーテル系芳香環式ポリウレタンである日本ミラクトラン社製の「ミラクトランE385PNAT」、Lubrizol社製「テコタンTT1074A」またはエーテル系脂環式ポリウレタンであるLubrizol社製の「テコフレックスEG100A」、「テコフレックスEG85A」またはポリカーボネート系ポリウレタンであるLubrizol社製「カルボタンPC3575A」などが好ましい。
【0032】
前記チューブ状部材が、厚み方向の積層構造を有するチューブである場合、各層に使用する樹脂を変えてもよい。例えば、内側の層には、挿入術を行う際、涙道チューブのプッシャビリティを向上させるために、剛性の高い樹脂としてポリエチレンを使用することが好ましい。また、外側の層には、涙道内と接触する部分にはより柔らかい材質の樹脂としてポリウレタンを使用することが好ましい。
前記積層構造が3層である場合には、最外層にポリウレタンを使用し、中間層に接着性のあるポリエチレンを使用し、最内層に剛性の高いポリエチレンを使用することで、閉塞部穿破のためのプッシャビリティを得ることができ、かつ涙道内で操作した場合の安全性に優れるという利点がある。
4層以上の場合でも、最外層にはポリウレタン、最内層には剛性の高いポリエチレンを使用することが好ましい。
また、各層同士は、チューブ状部材の長軸方向全体にわたって溶着することで剛性の連続性が保たれ、キンクが生じにくく、涙道チューブを挿入時に力が他方端側から一方端側へ伝わり易く、操作性に優れるという利点がある。
【0033】
前記チューブ状部材の内腔は、涙道チューブを涙道に挿入する際にはチューブ状部材の基端部に設けた出入口から挿入した涙道内視鏡を収容するための空間となり、また涙道チューブを涙道内に留置した際にはチューブ状部材の基端部に設けた出入口を通じて涙などの体液の流路となる。
【0034】
前記チューブ状部材の一方端にある開口部は、涙道チューブを留置した際には涙などの体液の流路の一部となり、また基端部に設けた出入口から挿入した涙道内視鏡の先端部を前記開口部付近にまで挿入した際には、前記開口部を経て涙道内視鏡からの視野を確保して、チューブが仮道を作ったりして、粘膜等を傷付け出血を引き起こす等の問題を避けることができる。
【0035】
また、前記チューブ状部材の外径は、涙道に挿入可能な範囲であればよいが、例えば、最大外径は0.8mm以上1.7mm以下であれば、国籍、性別の違いによらず、幅広い患者の涙道に対応することができる。
【0036】
前記チューブ状部材の長さとしては、市販の涙道チューブと同じ程度であればよく、特に限定はない。
【0037】
前記チューブ状部材には、接続部材と接続している他方端側にチューブ状部材の内腔に通じる出入口を有している。出入口は、涙道内視鏡などの涙道操作具を挿入・排出するための出入口となるだけでなく、涙道チューブが涙道内に留置された場合には涙などの体液の出入口になる。
前記出入口は、チューブ状部材の壁に形成されていてもよいし、チューブ状部材の基端部に、例えば、接続部材に向かってチューブ状の基端部を斜めカットすることで形成されていてもよい。
前記出入口の形状や面積について、特に限定はない。
【0038】
本発明の涙道チューブでは、少なくとも一方の前記チューブ状部材における一方端を含む末端部が無色材料で形成されている点に一つの特徴があり、この特徴を有することで、涙道内視鏡を涙道チューブに挿入した状態で、チューブ状部材の開口部からだけでなく、チューブ状部材の壁面からも外部の様子を涙道内視鏡で観察することが可能になる。
【0039】
前記末端部を構成する末端部を構成する無色材料には、全く色がついていない透明な材料のほか、構成樹脂に由来する着色があっても、内腔にある涙道内視鏡から壁部を通して外部の様子が観察できる程度に透明な材料(例えば、半透明な青色)も含まれる。
【0040】
前記末端部の全長の範囲については特に限定はなく、一方端から2〜10mmの範囲であればよい。
【0041】
本発明の涙道チューブでは、少なくとも一方のチューブ状部材において前記無色材料で形成される前記末端部の周囲の一部に、前記チューブ状部材の長軸方向に沿う着色部が単数または複数形成されている点にも一つの特徴があり、この特徴を有することで、チューブ状部材の開口部からだけでなく、チューブ状部材の壁面からも外部の様子を涙道内視鏡で観察できることに加えて、手技中に末端部の位置を確認することが可能になる。
前記着色部は、さらにチューブ状部材の一方端まで形成されていると、手技中に涙道内にあるチューブ状部材の一方端の位置まで確認することができる。
【0042】
前記着色部の形状については、特に限定はないが、一連状の線または破線であることで、チューブ状部材の末端部の位置や状態を、そのチューブ状部材の内腔にある涙道内視鏡から観察して把握することが容易になり正確な涙道チューブ挿入術が行えるという利点がある。
【0043】
前記着色部が前記末端部の周囲全長に対する1/50以上1/3以下の長さの幅を有することで、手技中に涙道内に挿入されているチューブ状部材の末端部の位置や状態を、そのチューブ状部材の内腔にある涙道内視鏡から観察して把握することがより容易になる。前記着色部の幅は、1/20以上1/5以下がより好ましい。
【0044】
また、前記チューブ状部材における前記着色部の位置は、特に限定はないが、例えば、前記チューブ状部材の他方端側に設けた出入口の位置を基準として、周囲方向における出入口の位置と同じ側および反対側の少なくとも一方側に形成されていると、涙道内視鏡から観察できる着色部の位置と、基端部の出入口の位置から、末端部の向きも確認することができる。
中でも、チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置と同じ側および反対側に着色部を形成している場合、涙道内の閉塞部を穿破する際に末端部が変形しても、末端部の変形状態、かつ、開口部と涙道内視鏡との位置関係を正確に把握することができる。
さらに、前記複数の着色部の幅を変えること、例えば、幅の細い前記着色部(幅細着色部)が、前記チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置と同じ側に形成され、幅の太い前記着色部(幅広着色部)が、反対側に形成されていることで、涙道チューブの向きを確認することができ、方向を間違えずに目的の場所に確実に涙道チューブを挿入することがより簡単になる。もちろん、幅広着色部が、前記チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置と同じ側に形成され、幅細着色部が、反対側に形成されていても、上記同様の効果を奏する。ただし、幅広着色部が前記チューブ状部材の周囲方向における出入口の位置に対して反対側に形成されている方が、出入口、ひいては涙道チューブの向きを比較的容易に把握でき、正確な挿入術を使いやすい。
【0045】
前記着色部の具体的な色については、特に限定はないが、鼻腔内はおおむね赤色であるため、涙道内視鏡を通して目で確認し易いように、色相環にて赤色と補色色相または隣接補色色相の関係になる色に調整すればよく、例えば、青、シアン等が挙げられる。
【0046】
また、前記着色部は少なくとも1本のチューブ状部材の末端部に設けていればよいし、2本のチューブ状部材の末端部に着色部がそれぞれ設けられていてもよい。2本のチューブ状部材に着色部が設けられている場合、それぞれの着色部の色は同じでも異なっていてもよい。また、一連状の線または破線の着色部が設けられており、前記線が複数ある場合には、各線の色は同じでも異なっていてもよい。
【0047】
本発明の涙道チューブでは、一対の前記チューブ状部材の一方のチューブ状部材の色相が、色相環にて、前記着色部の色相に対して補色色相または隣接補色色相であることで、涙道中の暗い環境下に挿入されているチューブ状部材の具体的な位置を容易に確認することができる。
【0048】
具体的には、前記着色部を有するチューブ状部材では、着色部から他方端側のチューブ状部材の全周囲にも着色を行っていればよい。
従来のシースを用いた手技においては、入り組んだ形状で暗く、かつ閉塞している涙道内にシースを挿入していくのは涙道内視鏡を用いても難しく、粘膜にシース等が突き刺さり仮道を形成したり、もともとあった仮道に誤って挿入したりする可能性があった。
しかし、前記のように、着色部から他方端側のチューブ状部材の全周囲に着色を行っていれば、先に涙道内に挿入されているチューブ状部材の位置を、後から挿入するチューブ状部材内の涙道内視鏡から確認し、それを道標にして、正確な挿入術を行える。そのため、仮道の形成などを防止できる。
【0049】
前記着色部から他方端側のチューブ状部材の色については、色相環にて前記着色部の色相に対して補色色相または隣接補色色相となるように調整すればよく、例えば、黄、黄緑、緑等が挙げられる。
【0050】
中でも、涙道内視鏡から確認し易いという観点から、着色部の色が青色であり、着色された他方端側のチューブ状部材の色が黄色であることが好ましい。
【0051】
前記着色部は、金型を用いてのライン入りチューブ押出成形や、チューブ状部材の所望の位置に着色した中実チューブを熱溶着するなどの方法にて作製すればよく、作製方法は特に限定されない。
【0052】
また、前記着色部から他方端側のチューブ状部材の着色は少なくとも1本のチューブ状部材に施されていればよいし、2本のチューブ状部材にそれぞれ施されていてもよい。2本のチューブ状部材に前記着色が施されている場合、それぞれの色は同じでも異なっていてもよい。
【0053】
なお、2本のチューブ状部材に前記着色が施されていると、先に涙道内に挿入されているチューブ状部材の位置を後から挿入するチューブ状部材内から涙道内視鏡を通して確認した場合、鼻腔内面に対して先に留置されているチューブ状部材色が際立って見える。すなわち、暗い涙道内でもチューブ状部材の確認がより明確に行うことができ、後に留置するチューブ状部材の位置精度を高められる。さらに、2本のチューブ状部材に施されている色の種類によっては、前記チューブ状部材の末端部に着色部がなくとも使用することができる場合がある。このような色としては、黄、黄緑、緑等が挙げられる。
【0054】
なお、末端部が、無色透明ではなく、涙道内視鏡から末端部の壁部を通して外部の様子を観察できる程度に透明な材料(例えば、半透明の青色)にすることで、着色部を無くす場合もある。このようになっていても、例えば、2本のチューブ状部材に着色が施されている場合に、先に涙道内に挿入されているチューブ状部材の位置を後から挿入するチューブ状部材内から(例えば、末端部から)涙道内視鏡を通して確認することができるので、暗い涙道内でもチューブ状部材の確認がより明確に行うことができ、後に留置するチューブ状部材の位置精度を高められる。
【0055】
本発明の涙道チューブでは、前記チューブ状部材と前記接続部材とが接続される。前記接続部材は、2つのチューブ状部材の他方端同士を接続するためのものであり、チューブ状部材よりも小さい径であればよく、この径については特に限定はない。
前記接続部材を構成する樹脂としては、柔軟な樹脂で構成されていればよく、例えば、シリコーン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、イソブチレン系共重合体、およびこれらのアロイなどを含む樹脂組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
前記接続部材の長さとしては、市販の涙道チューブと同じ程度であればよく、特に限定はない。
【0057】
前記チューブ状部材と前記接続部材との接続の仕方としては、特に限定はない。例えば、前記チューブ状部材の他方端側の端部と前記接続部材の端部とが当接されていてもよいし、接続面がより大きく、接続箇所の強度がより高まる観点から、前記チューブ状部材の基端部の側面と前記接続部材の側面とで接続されていてもよい。
【0058】
また、本発明の涙道チューブは、涙道への挿入性や涙道内での操作性を優れたものとする観点から、前記チューブ状部材や接続部材の表面に親水性コーティングを施してもよい。
【0059】
前記親水性コーティング部分に用いる親水性コーティングとは、血液や涙液と接触した際に潤滑性が発現し、涙道挿入時の抵抗が低減され、涙道内で好適な操作性を実現するためのものである。親水性コーティングの種類は特に限定されず、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、モノメトキシポリアルキレングリコール等の親水性ポリマー、またはこれらのブレンド等が好適に使用される。
【0060】
本発明で用いられる涙道内視鏡としては、涙道閉塞治療に使用できるものであればよく、特に限定はない。
また、本発明の涙道チューブを涙道内に挿入する際には、涙道内視鏡以外の涙道チューブ操作具を使用することもできる。このような涙道チューブ操作具としては、例えばブジーなどの操作棒が挙げられる。
【0061】
以下に本発明に係る涙道チューブを図面に示した複数の実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの実施態様により何ら制限されるものではない。
【0062】
図4(a)、(b)、(c)は、本発明の涙道チューブ1の外観の一例を示したものである。
図4(a)は涙道チューブ1の斜視図、
図4(b)は涙道チューブ1の側面図、
図4(c)は涙道チューブ1の上面図を示す。
【0063】
涙道チューブ1は、一対のチューブ状部材2と、これらチューブ状部材2の端同士をつなぐ接続部材3とを含む涙道チューブである。
前記チューブ状部材2はいずれも一方端(先端)4に開口部5を有しており、開口部5は内腔6へ連通している。また、一対の前記チューブ状部材2はいずれも他方端側7で接続部材3と接続している。
【0064】
前記チューブ状部材2は、
図4(c)に示すように、一方端4から他方端7にかけて、末端部8、本体9および基端部10から構成されており、基端部10に出入口11を有している。
【0065】
涙道チューブ1では、少なくとも一方の前記チューブ状部材2における一方端4を含む末端部8が無色材料で形成されている。
【0066】
前記末端部8の全長の範囲については特に限定はなく、一方端4から2〜10mmの範囲であればよい。
【0067】
また、本発明の涙道チューブでは、前記無色材料で形成される前記末端部8の周囲の一部に、前記チューブ状部材の長軸方向に沿う着色部(ライン)12が形成されている。なお、
図4(a)では、着色部12は、チューブ状部材の周囲方向に対して出入口11の反対側に設けられているため、
図4(b)の側面図では見えない位置にある。
【0068】
前記着色部12は、
図4(a)、(c)に示すように、チューブ状部材2の一方端4まで形成されていてもよいし、より短くてもよい。
【0069】
前記着色部12の形状については、
図4(a)、(c)に示すように、一連状の線でもよいし、
図5(a)、(b)に示すように、破線でもよい。なお、
図5(b)は、
図5(a)のチューブ状部材2の末端部8付近の拡大図である。
【0070】
前記着色部12の幅としては、前記末端部8の周囲全長に対して1/50以上1/3以下の長さの幅であればよい。例えば、
図6(a)、(b)に示すように、末端部8の周囲全長に対して1/3の長さの幅にしても、着色部12以外の透明な壁部を通して涙道内の確認はできる。なお、
図6(b)は、
図6(a)のチューブ状部材2の末端部8付近の拡大図である。
【0071】
また、前記着色部12は、前記チューブ状部材2の周囲方向における出入口11の位置と同じ側および反対側の少なくとも一方側に形成されていてもよい。例えば、チューブ状部材2の基端部10や本体9の直交断面の中心に対して偏心した、基端部10のテーパー形状の最も細い部分の箇所(他方端7)の位置を、出入口11の位置の反対側としてもよい。
具体的には、
図4(a)、(c)に示す涙道チューブ1では、着色部12は、チューブ状部材2の周囲方向における出入口11の位置と反対側に形成されている。また、
図4(a)、(c)において着色部12の位置が長軸方向に対する直交断面方向にて、末端部8を境に反対側に変えた場合には、図示しないが、その着色部12は、チューブ状部材2の周囲方向における出入口11の位置と同じ側に形成されていることになる。
また、
図7(a)、(b)に示すようにチューブ状部材2の周囲方向における出入口11の位置と同じ側および反対側に着色部12a、12bが2つ形成されていてもよい。この場合について、例えば、
図8に示すように、出入口11の位置と同じ側の着色部12aの幅は、出入口11の位置と反対側の着色部12bの幅と、異なっていることが好ましい(ただし、これに限定されず、異なる幅を有する着色部12aと12bの配置が逆になっていてもよいし、同幅の着色部12a、12bが形成されていてもよい。)。このようになっていると、末端部8が涙道内の閉塞部や狭窄部を穿破する際に大きく変形した上、材質の透明性から涙道内視鏡で把握しにくくなったとしても、2本の着色部12a、12bにより、末端部8の変形状態が立体的に把握され、開口部5の位置を涙道内視鏡で把握でき、ひいては涙道内視鏡の先端位置を把握できる。また、幅長を異とする着色部12a、12bと出入口11との位置関係より、涙道チューブの向きも把握できる。これらによって、正確な涙道チューブ挿入術を行える。
【0072】
また、一方のチューブ状部材2において、前記着色部12よりも他方端側のチューブ状部材2の全周囲に別の着色した部分13が設けられている。
前記着色した部分13は、
図4(a)〜(c)に示すように、少なくともチューブ状部材2の本体9に形成していればよいが、さらに基端部10にも形成してもよい。
前記着色した部分13は、チューブ状部材2の一方にあればよい。また、
図9(a)、(c)に示す涙道チューブ1のように両方のチューブ状部材2に着色した部分13を施してもよい。なお、
図9(a)〜(c)に示す涙道チューブ1の構成は、前記着色した部分13が2つある以外は、
図4(a)〜(c)に示す涙道チューブ1の構成と同じである。
【0073】
前記着色した部分13の色相は、色相環にて、前記着色部12の色相に対して補色色相または隣接補色色相である。
中でも、前記着色した部分13の色が黄色であり、前記着色部12の色が青色であることで、暗い涙道内でチューブ状部材2の位置を確認し易くなるため好ましい。
また、
図9(a)、(c)に示す涙道チューブ1のように、2本のチューブ状部材2にそれぞれ着色した部分13が施されている場合、一方の着色した部分13の色を黄、黄緑または緑にし、他方の着色した部分13の色を前記の色と同じ色または異なる色にしてもよい。
【0074】
なお、本発明の涙道チューブ1において、前記出入口11は、
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)に示すようにチューブ状部材の他方端側の末端に設けている以外に、チューブ状部材2の壁部に設けてもよい。例えば、
図4(c)のチューブ状部材2の本体9の任意の壁部に孔を設けてもよい(図示せず)。前記孔の形状については特に限定はないが、楕円形状が好ましい。
また、
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)に示す涙道チューブ1では、いずれも一方のチューブ状部材2に着色した部分13を施しているが、
図9(a)と同様に、両方のチューブ状部材2に着色した部分13を施していてもよい。また、2本のチューブ状部材2にそれぞれ着色した部分13が施されている場合、一方の着色した部分13の色を黄、黄緑または緑にし、他方の着色した部分13の色を前記の色と同じ色または異なる色にしてもよい。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
チューブ状部材の末端部が単層、本体が4層の積層構造を有する涙道チューブを以下のようにして作製した。
まず、末端部が単層で、本体が4層構造を有するチューブの他方端に、同径のポリウレタン製の基端部用チューブを当接し、その基端部用チューブの側面に、接続部材用のロッドの側面を接続し、前記当接面よりも一方端側にまでロッドの先端の位置がくるように調整して、各部の接続箇所を一度に熱溶着した。
次いで、基端部の一方端側付近から他方端側付近までを斜めカットして出入口を形成することで、
図4(a)〜(c)に示す外観を有する、一対のチューブ状部材および接続部材を有する涙道チューブを作製した。
【0076】
使用した各部材の構成は以下のとおり。
(チューブ状部材)
(1)末端部
低密度ポリエチレン製
末端部長さ:約4mm、直径:0.9〜1.3mmの先細のテーパー形状
(2)本体
最内層(第1層):低密度ポリエチレン製、内側中間層(第2層):高密度ポリエチレン製、外側中間層(第3層):接着性低密度ポリエチレン製、最外層(第4層):ポリウレタン製
内腔の直径:0.96mm
また、チューブ状部材の末端部と本体は、内腔からも涙道内視鏡で観察できる程度に透明な状態であった。
(3)基端部
ポリウレタン製
内径:0.96mm、長さ:5mm
(接続部材)
ポリウレタン製
直径:0.7mm
全長:23mm
【0077】
次いで、得られた涙道チューブにある2本のチューブ状部材2において、接続部材3のロッドの接続面と同じ側(基端部10の出入口11の位置と反対側)の末端部8に一方端まで形成された青色の着色部12を設けた。着色部12は一連状の線で、末端部の周囲全長に対して1/10の長さの幅に調整した。
また、一方のチューブ状部材では、着色部12から他方端側の本体9の全周囲を黄色に着色した。
【0078】
(試験例1)
実施例1で得られた涙道チューブを使用してSEPと同様の挿入術により実際の涙道に涙道チューブを留置した。
まず、黄色に着色したチューブ状部材の基端部の出入口から開口部付近まで涙道内視鏡のプローブを挿入して装着した後、実際の涙道の上涙点から上涙点小管を通過して下鼻道まで涙道チューブを挿入していった。涙道内の様子は、涙道チューブのチューブ状部材の開口部から観察して把握することができ、また挿入する際には、チューブ状部材の着色部の向きを確認することで方向を間違えずに閉塞部などの目的の場所に確実に挿入することができた。下鼻道から涙道チューブの先が出たことを確認した後、涙道内視鏡を取り外して涙道チューブを涙道内に留置した。
続いて、透明なチューブ状部材の基端部の出入口から開口部付近まで涙道内視鏡のプローブを挿入して装着した後、涙道の下涙点から下涙点小管を通過して挿入していった。真っ暗な涙嚢および鼻涙管においても、先に挿入したチューブ状部材の位置は、黄色の着色部分を見つけることで簡単に把握できた。また、黄色の着色部の方向を確認することで挿入すべき下鼻道の位置も簡単に把握できた。
【0079】
(試験例2)
実施例1で得られた涙道チューブにある2本のチューブ状部材2において、基端部10の出入口11の位置と同じ側および反対側の末端部8の表面に、
図7(a)、(b)に示すように、それぞれ一方端4まで形成された一連状で青色の着色部12a、12bを設けた。なお、
図8に示すように、出入口11と同じ側の着色部12aの幅は、出入口11と反対側の着色部12bの幅に比べて狭くなるように調整した。これ以外の構成は、試験例1と同じようにした。
【0080】
試験例1と同様に、着色した涙道チューブを使用してSEPと同様の挿入術により実際の涙道に涙道チューブを留置した。涙道内の閉塞部を穿破する際、末端部が大きく変形したが、末端における円周方向にて対角関係に2本の着色部が存在することで、末端部の変形状態、かつ、開口部と涙道内視鏡との位置関係を正確に把握しながら挿入術を行うことができた。また、2本の着色部のうち、出入口11と同じ側の着色部の幅を細くしていることから、涙道チューブの向きを確認することができ、方向を間違えずに目的の場所に確実に挿入することができた。