(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記爪のうち前記本体の長手方向両端に設けられた一対の端爪(21、24)に、把持された電線が特定方向の外力により前記一対の端爪から外れることを防止する抜け止め小爪(29)が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電線把持具。
前記複数の保持部は、前記高圧活線工具を操作する作業者から視て左右にずれ、且つ、前記電線把持具の端部を保持する高さについて、作業者に近い側の保持部が下となり作業者から遠い側の保持部が上となるように、上下にずれて配置されていることを特徴とする請求項5に記載の作業用保持具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された巻付けグリップ金具を架空電線に取り付ける作業では、作業者が高圧活線工具を用いて、電線を押さえつつ、電線に対して巻付けグリップ金具を数回巻き付ける必要があり、作業時間がかかる。また、金属製であるため塩害地域では使用に適さないという問題があった。
【0005】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取り付け作業時間を短縮し、塩害地域でも使用可能な(従来技術の巻付けグリップ金具に代わる)電線把持具、及び、その電線把持具を備える落線防止器材を提供することにある。また、電線把持具を架空電線へ取り付ける作業の作業性を向上させる作業用保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電線把持具は、少なくとも表面が絶縁性の材料で形成され、水平方向に延びる本体と、本体の上縁に設けられ、上縁の延伸方向に直交する一方側及び他方側に交互に開口し電線を把持可能な3つ以上の爪と、本体の下縁に設けられ、連結ロープが固定されるロープ取付板とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の電線把持具は、一方側及び他方側に交互に開口した3つ以上の爪に電線を蛇行させるように係止させる。したがって、電線に巻き付ける作業を必要とした従来技術の巻付けグリップ金具に比べ、掌握力を確保しつつ、作業時間を短縮することができる。
また、樹脂製であるため塩害地域でも使用可能である。
【0008】
本発明では、本体の上縁に対向する爪の上壁、及び、爪の上壁に対向する部分の上縁の少なくとも一方から他方に向かって突出し、把持された電線のずれを規制する規制凸部が設けられてい
る。規制凸部は、爪の上壁及び上縁の両方に対で設けられていること
が好ましい。
また好ましくは、爪のうち本体の長手方向両端に設けられた一対の端爪に、把持された電線が特定方向の外力により一対の端爪から外れることを防止する抜け止め小爪が設けられている。
【0009】
また、本発明の落線防止器材は、複数の電線把持具と、電線把持具のロープ取付板に固定され、複数の電線把持具を連結する連結ロープとを備える。
この落線防止器材を複数の並行する架空電線に取り付けることで、断線した電線の落下を好適に防止することができる。
【0010】
さらに、本発明の作業用保持具は、上記落線防止器材を、高圧活線工具を用いて架空電線に取り付ける作業において、複数の電線把持具を一括して保持するものであって、各電線把持具の一方の端部を保持する複数の保持部と、高圧活線工具によって握持される握持部とを備える。
好ましくは、複数の保持部は、高圧活線工具を操作する作業者から視て左右にずれ、且つ、電線把持具の端部を保持する高さについて、作業者に近い側の保持部が下となり作業者から遠い側の保持部が上となるように、上下にずれて配置されている。
【0011】
本発明の作業用保持具を用いると、作業者は、片手で持った高圧活線工具で複数の電線把持具を一括して保持しつつ、もう一方の手で持った高圧活線工具で電線把持具を一つずつ順に電線に取り付けることができる。したがって、作業途中で高圧活線工具を持ち替えることなく、3つ以上の電線把持具を一連の動作で架空電線に取り付けることができる。よって、取り付け作業の作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による電線把持具、落線防止器材、及び、作業用保持具を図面に基づいて説明する。落線防止器材は、複数の並行する架空電線に取り付けられ、断線した電線の落下を防止するものであり、複数の電線把持具と連結ロープとから構成される。本実施形態の電線把持具は、例えば、屋外用ポリエチレン絶縁電線(OE電線)を把持するものとして適用される。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態の電線把持具、及び落線防止器材の構成について、
図1〜
図6を参照して説明する。まず、電線把持具の単体構成について、
図1、
図2を参照する。ここで、正面図である
図1(b)の上方向を「上」、下方向を「下」とする。
図1、
図2に示すように、電線把持具101は、本体11、4つの爪21〜24、及びロープ取付板31等を備える。本実施形態では、電線把持具101は、絶縁性材料である樹脂で一体成形されている。
【0015】
本体11は、水平方向に棒状に延びている。
4つの爪21〜24は、本体11の上縁12に設けられている。以下、4つの爪21〜24を、
図1の左側から順に、第1爪21、第2爪22、第3爪23及び第4爪24とする。本体11の長手方向両端に設けられた第1爪21及び第4爪24は「一対の端爪」を構成する。第1爪21と第4爪24とは上縁12の中心点Xに対し点対称に設けられており、且つ、中央寄りの第2爪22と第3爪23とは上縁12の中心点Xに対し点対称に設けられている。本体11の上縁12に接続する各爪21〜24の側縁は、丸みのある傾斜を有するように形成され、且つ根元部が角丸めされているため、耐振動性能が向上する。
【0016】
第1爪21の側面図である
図2(c)、及び、第2爪22の断面図である
図2(d)に示すように、各爪21〜24は、上壁25及び背壁26を含み、本体11を合わせた側面視形状が略C字状を呈している。
図1(b)にて、第1爪21及び第3爪23は向こう側に開口しており、第2爪22及び第4爪24は手前側に開口している。つまり、爪21〜24は、上縁12の延伸方向に直交する一方側及び他方側に交互に開口している。
【0017】
中央寄りの第2爪22と第3爪23について、本体11の上縁12に対向する爪22、23の上壁25、及び、爪22、23の上壁25に対向する部分の上縁12には、一方から他方に向かって突出する規制凸部17、18が対で設けられている。
すなわち、爪22、23の上壁25には、上縁12に向かって下方に突出する規制凸部17が設けられており、上縁12には、上壁25に向かって上方に突出する規制凸部18が設けられている。
図3(b)に示すように、一対の規制凸部17、18の間には電線91が隙間無く挟持される。これにより、爪21〜24に把持された電線91のずれが規制される。
【0018】
「一対の端爪」である第1爪21及び第4爪24には、開口側の縁に沿って、上壁25から下方に突出する抜け止め小爪29が設けられている。
上縁12の長手方向両端部には、第1爪21及び第4爪24が開口する側に、縁の肉厚が薄くなっている段部15が形成されている。また、第1爪21及び第4爪24の背壁26には、水平方向の逃がし溝16が形成されている。段部15及び逃がし溝16は、後述する作業用保持具70に本体11をスライドさせて挿着するためのものである。
ロープ取付板31は、本体の下縁13から下方に突き出すように設けられ、3つの挿通穴321〜323が形成されている。
【0019】
図3に、電線91が電線把持具101に把持された状態を示す。電線91は、本体11の上縁12に沿って、4つの爪21〜24の上壁25及び背壁26によって規制された空間に係止される。
図3(a)の平面視において、電線91は、手前側及び向こう側に交互に開口する4つの爪21〜24に係止され、蛇行するように保持される。
【0020】
このように、電線91は、平面方向に蛇行した状態で電線把持具101に把持される。また、電線91は、爪22、23の上壁25、及び本体11の上縁12に対で設けられた規制凸部17、18の間に隙間無く挟持され、ずれが規制される。これにより、電線91に対する「掌握力」が確保される。したがって、断線した電線91が落下するときの衝撃力で滑り落ちたり、後述する保護管の挿入時に電線把持具101がずれたりすることを防止することができる。
【0021】
また、本実施形態では、電線把持具101に把持された電線91に対し第1爪21及び第4爪24の開口方向に向かう外力Fが加わったとき、抜け止め小爪29によって、電線91が爪21、24から外れることが防止される。これにより、電線把持具101が電線91から脱落することを防止することができる。
【0022】
また、
図3(b)に示すように、ロープ取付板31の挿通穴321〜323には、連結ロープ40が結び付けられる。以下、連結ロープ40の結び目が記載された図は、連結ロープ40がロープ取付板31に「固定されている」ことを表現するものであり、必ずしも結び方を正しく記載したものではない。
【0023】
続いて、
図4に示すように、上記電線把持具101、及び、電線把持具101と同仕様の電線把持具102、103の計3つの電線把持具が連結ロープ40で連結され、落線防止器材50が構成される。
図5に示すように、落線防止器材50は、電柱95に接続された並行する3本の架空電線91、92、93に取り付けられる。詳しくは、架空電線91、92、93は、それぞれ、落線防止器材50の電線把持具101、102、103に把持される。また、電線把持具101、102、103の外側には、ポリエチレン製の保護管60が被せられる可能性がある。
【0024】
図6に示すように、保護管60は、筒部61及び下垂部63を有する。電線把持具101は、本体11及び爪21(〜24)が筒部61の内部空間62に収容され、ロープ取付板31が下垂部63の隙間64から下方に抜け出るように、且つ、電線91を把持した電線把持具101に対してスムースに挿入可能なように、大きさや形状が設定されている。
【0025】
図5に示すように落線防止器材50が架空電線91、92、93に取り付けられることにより、災害や劣化等によって架空電線91、92、93のいずれかが途中で断線したとしても、隣の架空電線に取り付けられた電線把持具から連結ロープ40を介して引っ張られる。したがって、断線した電線が地面、又は人に触れる可能性のある高さまで落下することを防止することができる。
【0026】
また、落線防止器材用の電線把持具として、従来技術の巻付けグリップ金具を使用した場合、架空電線への取り付け作業において巻付けグリップ金具に電線を巻き付ける作業が必要であり、作業時間がかかるという問題があった。それに対し、本実施形態の電線把持具101は、4つの爪21〜24に電線を蛇行させるように係止させればよいため、作業時間を短縮することができる。
また、金属製の巻付けグリップ金具に対し、本実施形態の電線把持具101は、絶縁性材料である樹脂で形成されているため、塩害地域にも使用可能である。
【0027】
次に、落線防止器材50を架空電線に取り付ける作業に用いる作業用保持具の構成、及び、作業用保持具を用いた落線防止器材50の取り付け作業方法について
図7〜
図12を参照して説明する。
図12に示すように、作業用保持具の単体構成を示す
図7〜
図10において、作業者の視方向に最も近い図が
図10となる。そのため、
図10を正面図とし、
図7、
図8、
図9をそれぞれ平面図、左側面図及び右側面図とする。なお、握持部78の断面を示すため、
図8を部分断面図で表す。また、
図10に示される方向に基づいて、以下の文中で、「上下」又は「左右」という。
【0028】
図7〜
図10に示すように、作業用保持具70は、3つの電線把持具101、102、103の一方の端部を保持する3つの保持部721、722、723、及び、高圧活線工具80によって握持される握持部78等を備えている。
3つの保持部721、722、723は、透明の基板71上に取り付けられている。保持部721、722、723は、正面図において、すなわち作業者から視て左右にずれて配置されている。且つ、保持部721、722、723は、電線把持具101、102、103の端部を保持する高さについて、作業者に近い側の保持部721が下となり作業者から遠い側の保持部723が上となるように、上下にずれて配置されている。
【0029】
各保持部721、722、723の上面には、電線把持具101、102、103の本体11の下縁13側を収容する収容溝74が形成されている。収容溝74の両側には、収容溝74の開口幅を狭め、収容される本体11の深さ方向の位置を規制するガイド板75が設けられている。これにより、電線把持具101、102、103を横方向(
図7、
図10のブロック矢印SL方向)にスライドさせて保持部721、722、723に挿着することができる。
【0030】
基板71の保持部721の後方には、高圧活線工具80の先端部82(
図11参照)が嵌まり込む略台形の工具穴771及び長方形の工具穴772が形成されている。工具穴771、772には、高圧活線工具80の先端部82(
図11参照)が嵌まり込む。工具穴771と工具穴772との間を橋渡しする部分は、高圧活線工具80によって握持される握持部78となる。略台形の工具穴771に位置決めされることにより、作業中の高圧活線工具80のずれが防止される。また、後ろ側の保持部723の右側面には、叩いたときの衝撃を和らげるための緩衝板79が貼り付けられている。
【0031】
3つの電線把持具101、102、103の端部を作業用保持具70の各保持部721、722、723に挿着した状態を
図11に示す。このように、3つの電線把持具101、102、103は、ロープ取付板31を下にして整列した姿勢で一括して保持される。
また、高圧活線工具80の先端部82を作業用保持具70の工具穴771、772に嵌めて握持部78を握持すると、作業用保持具70を安定した状態で持つことができる。
【0032】
図12に示すように、高所作業車のバケットBに乗った作業者Mは、作業用保持具70を握持した高圧活線工具80の操作部81を左手に持ち、目的の架空電線91、92、93に近づく。そして、右手に持った別の高圧活線工具80の操作部81を操作して、電線把持具101、102、103を一つずつ順に、架空電線91、92、93に対して前後に蛇行させるように動かしながら取り付ける。基板71が透明であるため、作業者は、作業用保持具70の下から基板71を透かして電線把持具101、102、103の位置等を確認することができる。
【0033】
このとき、右手側の高圧活線工具80の先端部82に、破線で示すようなアタッチメント83を用いて電線把持具101、102、103を把持しながら作業を行ってもよい。また、保持部723の右側面に貼り付けられた緩衝板79を左方向に叩くことにより、作業用保持具70と電線把持具101、102、103とを容易に離すことができる。
これにより、作業途中で高圧活線工具80を持ち替えることなく、3つの電線把持具101、102、103を一連の動作で架空電線91、92、93に取り付けることができる。よって、取り付け作業の作業性を向上させることができる。
【0034】
(第2実施形態)
第2実施形態の電線把持具を
図13に示す。上記第1実施形態の電線把持具101と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態の電線把持具104は、第1実施形態の電線把持具101と同様に樹脂で一体成形されているが、いくつかの点で形状や構造が異なる。
【0035】
第2実施形態の爪21〜24は、本体11の上縁12に対し側縁部がほぼ直角に形成されている。各爪21〜24の背壁26は、中心点Xに近い側の肉厚が薄く、中心点Xから遠い側の肉厚が厚くなるように傾斜しており、電線91の湾曲を案内する。
背壁26の表面には、点状に分布した滑り止め突起27が形成されており、電線91が滑ることが防止される。なお、滑り止め突起27は、点状に分布するものに限らず、条、溝等の形状としてもよい。
上縁12の第1爪21と第2爪22との間、及び、第3爪23と第4爪24との間には、凸部19が段状に形成されている。凸部19に倣って電線91が上下方向にも湾曲することにより、電線91に対する掌握力がさらに増す。凸部19は、局所的に段状に形成されるものに限らず、例えば、上縁13の全体を上下に波打つ形状に形成してもよい。
【0036】
「一対の端爪」である第1爪21及び第4爪24には、本体11とは反対方向に延伸する延伸部28が設けられている。延伸部28は、第1爪21及び第4爪24の上壁25の上面に沿って庇状に延びており、第1爪21及び第4爪24の開口側の縁に沿って、下方に突出する抜け止め小爪29が設けられている。
本体11の下縁13から下方に突き出すロープ取付板31は、
図1のものに比べて比較的長さが短い。
【0037】
特に第2実施形態では、本体11の下縁13の両端部寄りに作業用把持板36が形成されている。また、本体22の両端部に段部15及び逃がし溝16は形成されていない。
作業用把持板36の表面には、高圧活線工具80でこの作業用把持板36を把持するときの滑り止めとして、滑り止め突起37が形成されている。作業用把持板36の下端にはガイド部38が設けられている。ガイド部38は、高圧活線工具80の脱落を防止する機能を有する。また、ガイド部38は、作業用保持具70の挿着溝76(
図14参照)への挿着を案内する。
第2実施形態の電線把持具104も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0038】
第2実施形態の電線把持具104に対応する作業用保持具70の保持部の形状を
図14に示す。
図14では、手前の保持部721について例示する。
保持部721には、作業用把持板36を横方向にスライドさせて挿着可能な挿着溝76が形成されている。作業用把持板36を挿着溝76に挿着することにより、第1実施形態の
図11、
図12と同様に、平行に配置された3つの電線把持具104の端部を作業用保持具70で保持しつつ作業することができる、また、
図12に対応する作業状態において、保持されていない側(図の右側)の作業用把持板36を高圧活線工具80で把持することができる。
【0039】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態の電線把持具101、104は、樹脂で一体成形されているが、他の実施形態では、複数の樹脂部材を組み合わせて電線把持具を構成してもよい。また、電線把持具は、樹脂以外の絶縁性材料として碍子等で形成されてもよく、表面を絶縁コーティングした金属等で形成されてもよい。
(イ)電線把持具の爪の数は、上記実施形態で例示した4つに限らない。平面視で電線が蛇行するように把持し、適正な掌握力が確保されるように3つ以上設けられればよい。
(ウ)爪22、23の上壁25の規制凸部17、及び、本体の上縁12の規制凸部18は、二つのうちいずれか片方のみを設けるようにしてもよい。
【0040】
(エ)電線把持具のロープ取付板の構成は、3つの挿通穴321、322、323を有するものに限らず、1つ以上の穴、溝、爪、突起等の種々の形状の結び止め部を有するものや、接着等によって連結ロープ40を接合するもの等、連結ロープ40を固定することができるどのような構成としてもよい。
【0041】
(オ)落線防止器材において連結ロープ40で連結される複数の電線把持具の数は、3つに限らず、2つ、又は4つ以上としてもよい。
(カ)作業用保持具の具体的な形状は、
図7〜
図12に例示したものに限らず、電線把持具の端部形状や使用する高圧活線工具の先端部形状等に応じて適宜変更してよい。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。