特許第6582044号(P6582044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582044凍結間葉系細胞の製造方法、及び、移植用治療材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582044
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】凍結間葉系細胞の製造方法、及び、移植用治療材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20190912BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20190912BHJP
【FI】
   C12N5/077
   C12N1/04
   A61K35/32
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-517902(P2017-517902)
(86)(22)【出願日】2016年5月2日
(86)【国際出願番号】JP2016063589
(87)【国際公開番号】WO2016181885
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2018年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-98784(P2015-98784)
(32)【優先日】2015年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509249069
【氏名又は名称】株式会社セルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 寿光
(72)【発明者】
【氏名】大谷 憲司
(72)【発明者】
【氏名】大友 宏一
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/133140(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/042618(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146992(WO,A1)
【文献】 KENMOTSU, M., et al.,Analysis of side population cells derived from dental pulp tissue,International Endodontic Journal,2010年,Vol. 43,pp. 1132-1142
【文献】 Sigma 細胞培養ガイド 2013 (プロトコール集+製品紹介)[オンライン],2013年 8月,検索日 2016-08-05, インターネット<URL: http://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/SAJ/Brochure/1/saj1603.pdf>
【文献】 PERRY, B. C,. et al.,Collection, Cryopreservation, and Characterization of Human Dental Pulp-Derived Mesenchymal Stem Cel,TISSUE ENGINEERING: Part C,2008年,Vol. 14, No. 2,pp. 149-156
【文献】 LINDEMANN, D., et al.,Effects of cryopreservation on the characteristics of dental pulp stem cells of intact deciduous tee,Archives of oral biology,2014年 5月 2日,Vol. 59,pp. 970-976
【文献】 GIOVENTU, S., et al.,A novel method for banking dental pulp stem cells,Transfusion and Apheresis Science,2012年,Vol. 47,pp. 199-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/077−5/0775
C12N 1/04
A61K 35/32
A61K 35/28
A61L 27/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄細胞を含む歯髄組織を2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物で処理し歯髄細胞を分散させる工程であって、前記タンパク質分解酵素の混合物がコラゲナーゼもしくはディスパーゼを含む混合物であるか、または、アクターゼ(登録商標)である工程と、
前記歯髄細胞を凍結保存する工程と、
を含み、前記歯髄細胞を凍結保存する工程の前に歯髄細胞を培養する工程を含まない、凍結歯髄細胞の製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素の混合物で処理し歯髄細胞を分散させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させる工程を含む、請求項1に記載の凍結歯髄細胞の製造方法。
【請求項3】
前記酵素反応を停止させる工程は、血清を添加して行う、請求項に記載の凍結歯髄細胞の製造方法。
【請求項4】
前記酵素反応を停止させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させた細胞を洗浄する工程を含む、請求項2又は3に記載の凍結歯髄細胞の製造方法。
【請求項5】
前記酵素反応を停止させる工程の後に、細胞懸濁液をろ過する工程を含まない、請求項2〜4のいずれか1項に記載の凍結歯髄細胞の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の凍結歯髄細胞の製造方法により製造した凍結歯髄細胞を解凍する工程を含む移植用治療材の製造方法。
【請求項7】
前記凍結歯髄細胞の製造方法により製造した凍結歯髄細胞を解凍する工程の後に、さらに、解凍した細胞を培養する工程を含む、請求項に記載の移植用治療材の製造方法。
【請求項8】
前記解凍した細胞を培養する工程の後に、さらに、歯髄幹細胞を分化させる工程を含む、請求項に記載の移植用治療材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結間葉系細胞の製造方法、及び、移植用治療材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
体性幹細胞の一つである間葉系幹細胞は、骨芽細胞や脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などの間葉系に属する細胞への分化能をもつとされる細胞の総称で、間葉系組織であるすべての組織に存在すると考えられており、骨や筋肉、血管、神経の再構築などの再生医療への応用が期待されている。
【0003】
細胞は継代中に細菌やカビなどに汚染される恐れや、遺伝的変化を起こす恐れがある。また、ヒト二倍体細胞や初代培養細胞は、限られた分裂回数しか増殖できず継代すると老化を引き起こす。このような理由から当分の間使用しない細胞は、超低温冷凍庫や液体窒素タンク中で凍結保存し、必要に応じで細胞を解凍する。
【0004】
間葉系幹細胞や間葉系幹細胞を含む間葉系細胞群においても同様な理由から、当分の間使用しない場合には凍結保存する。骨・軟骨・皮膚組織の再生、及び心筋梗塞・脳梗塞や脊髄損傷等に対する治療の必要性が生じた場合に、その対象者や細胞の型が一致する間葉系幹細胞または間葉系幹細胞を含む間葉系細胞群を解凍し移植用治療材を調製した上で、対象者に移植することで組織の再生などの治療の効果をもたらすことが期待されている。
【0005】
細胞は、対数増殖期にある状態が最も凍結保存に適していることが知られている。例えば、非特許文献1および2は、凍結前の細胞の状態が重要であり、対数増殖期の細胞が適していることを記載している。よって、組織から採取した細胞の凍結保存方法としては、一般に、(1)個体から組織を採取し、(2)採取した組織を細かく切り刻み、トリプシンやコラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素で組織から細胞を分散させ、(3)分散させた細胞を培地に懸濁し、(4)適当な環境下で初代培養し、(5)さらに2代、3代と継代培養したのち、(6)対数増殖期にある細胞を回収し、凍結保存に用いる(非特許文献3)、等の方法が採用されている。しかし、このような細胞の凍結保存方法は、細胞を凍結保存する前に細胞を培養する工程を経なければならず、その工程は複雑である。また、細胞バンクのように、大量の細胞を凍結保存する必要がある事業においては、細胞を培養するための試薬や機器、COインキュベータやスペースなどの設備に必要なコストが、凍結する細胞の量に比例して増大し、また、作業に必要な時間や労力は人件費として大きな負担となっていた。また、このようなコストは、最終的な再生医療へ適用される最終製品などに反映されるためコストダウンの方法が望まれていた。
【0006】
一方で、個体から採取した組織片をそのまま凍結しても、解凍した後にその組織片から分散させた細胞の生存率や培養フラスコ等への接着率は低く、培養細胞として維持することが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】改訂培養細胞実験ハンドブック、2008、羊土社、77頁および84頁
【非特許文献2】あなたの細胞培養、大丈夫ですか?!、2015、羊土社、110−111頁
【非特許文献3】小山秀機著、細胞培養ラボマニュアル、1999年、シュプリンガー・フェアラーク東京、52−54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、従来の凍結保存と比較してより簡便な方法で高い生存率及び接着率を維持した凍結間葉系細胞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まず、凍結処理前の細胞の培養工程を簡便にするために、細胞の培養期間について着目し、培養期間短縮化の検討を行った。そこで、組織より酵素処理により分散した細胞を、細胞剥離による損傷を回復させる意図で、培養液中で2〜3日培養し、培養皿上に接着させた細胞について凍結・解凍処理を試みた。しかしながら、当該方法の細胞を用いた凍結・解凍後の結果は、従来の対数増殖期にある細胞の凍結保存と比較して、解凍後の細胞の生存率や培養フラスコ等への接着率が非常に低いものであった。また、この結果は、従来の対数増殖期にある細胞が最も凍結保存に適しているという知見と一致するものであった。
このような結果を受け、本発明者らはさらに鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、組織からタンパク質分解酵素処理で分散させた間葉系細胞を、培養工程を経ずに凍結保存したところ、組織から酵素処理により分散した細胞であって凍結保存していない細胞と比較して、同程度の高い生存率及び接着率を維持できることを見出した。本発明は、上記知見により完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕間葉系細胞を含む組織を2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系細胞を分散させる工程と、
前記間葉系細胞を凍結保存する工程と、
を含み、前記間葉系細胞を凍結保存する工程の前に間葉系細胞を培養する工程を含まない、凍結間葉系細胞の製造方法;
〔2〕前記間葉系細胞を含む組織は、歯髄組織であり、前記間葉系細胞は、歯髄細胞である、上記〔1〕に記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔3〕前記タンパク質分解酵素は、コラゲナーゼを含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔4〕前記2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物は、アクターゼである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔5〕前記タンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系幹細胞を分散させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させる工程を含む、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔6〕前記酵素反応を停止させる工程は、血清を添加して行う、上記〔5〕に記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔7〕前記酵素反応を停止させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させた細胞を洗浄する工程を含む、上記〔5〕又は〔6〕に記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔8〕前記酵素反応を停止させる工程の後に、細胞懸濁液をろ過する工程を含まない、上記〔5〕〜〔7〕のいずれか1つに記載の凍結間葉系細胞の製造方法;
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の凍結間葉系細胞の製造方法により製造した凍結間葉系細胞を解凍する工程を含む移植用治療材の製造方法;
〔10〕前記凍結間葉系細胞の製造方法により製造した凍結間葉系細胞を解凍する工程の後に、さらに、解凍した細胞を培養する工程を含む、上記〔9〕に記載の移植用治療材の製造方法;
〔11〕前記解凍した細胞を培養する工程の後に、さらに、間葉系幹細胞を分化させる工程を含む、上記〔10〕に記載の移植用治療材の製造方法;
〔12〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の製造方法によって製造された凍結間葉系細胞、又は上記〔9〕〜〔11〕のいずれか1つに記載の製造方法によって製造された移植用治療材を含むキット;
に、関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来では必要であった「(4)適当な環境下で初代培養し」または「(5)さらに2代、3代と継代培養したのち」という培養の工程を経ることなく、間葉系細胞を含む組織から分散させた細胞を含む凍結間葉系細胞を製造することが可能となるので、凍結保存までかかる時間、コスト、及び労力を大幅に削減することができる。これにより、同時期に大量の凍結間葉系細胞を製造することができるので、将来に必要となる間葉系細胞を大量にストックしておくことが可能となる。また、本発明によれば、高い生存率及び接着率を維持したまま、間葉系細胞を含む組織から分散させた細胞を含む凍結間葉系細胞を製造することが可能となるので、当該凍結間葉系細胞に含まれる間葉系幹細胞を用いた再生医療への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、酵素処理細胞の接着と、培養歯髄細胞の接着の検体数を示す。
図2図2は、酵素処理細胞の接着と、培養歯髄細胞の接着の平均日数を示す。
図3図3は、酵素処理細胞と、培養歯髄細胞の継代までの平均日数を示す。
図4図4は、酵素処理細胞の形態を示す。
図5図5は、培養歯髄細胞の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る凍結間葉系細胞の製造方法は、間葉系細胞を含む組織を2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系細胞を分散させる工程と、得られた間葉系細胞を凍結保存する工程とを含み、間葉系細胞を凍結保存する工程の前に間葉系細胞を培養する工程を含まない、凍結間葉系細胞の製造方法を含む。
【0014】
本明細書において「間葉系細胞」には、間葉系幹細胞が含まれる。すなわち、本発明は、一実施の形態として、「間葉系細胞」を「間葉系幹細胞」に置き換えることも可能であり、例えば、本発明には、下記実施の形態が含まれる:
間葉系幹細胞を含む組織を2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系幹細胞を分散させる工程と、
前記間葉系幹細胞を凍結保存する工程と、
を含み、前記間葉系幹細胞を凍結保存する工程の前に間葉系幹細胞を培養する工程を含まない、凍結間葉系幹細胞の製造方法。
なお、本明細書において間葉系幹細胞とは、間葉に由来する体性幹細胞をいい、間葉系に属する細胞への分化能をもつ。
また、本明細書において間葉系細胞を含む組織とは、特に、間葉に由来する体性幹細胞を含む組織をいい、具体的には、以下に限定されないが、骨髄組織、脂肪組織、胎盤組織、臍帯組織、及び歯髄組織等の組織を含む。
【0015】
間葉系細胞を含む組織は生体から採取することができ、採取は通常、その組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し適切な保存液に保存すればよい。具体的には、注射器により生体から組織を吸引する方法、生体に局所麻酔をして外科的手術により採取する方法等がある。
【0016】
本明細書においてタンパク質分解酵素は、コラゲナーゼ、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、プロナーゼ、及びディスパーゼを含むが、これらに限定されない。また、2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物とは、異なる2種以上のタンパク質分解酵素を含む混合物をいい、例えば、コラゲナーゼとプロナーゼ、コラゲナーゼとトリプシン、コラゲナーゼとヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼとディスパーゼ等が挙げられる。また、タンパク質分解酵素の混合物は、一実施の形態において、動物由来成分および微生物由来成分を含まないものであることがより好ましい。混合物には、緩衝液や、いわゆるReady−to−useに適したその他の各種添加物等を含んでもよい。
【0017】
2種以上のタンパク質分解酵素を含む混合物に用いられる緩衝液は、当業者が適宜選択することができ、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、又はリン酸緩衝生理食塩水等を使用することができる。タンパク質分解酵素の種類に応じて適しているものを選択することもできる。
【0018】
2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物は、市販の酵素、例えばアクターゼ(Accutase、登録商標、Innovative Cell Technology社)、及びアキュマックス(Accumax、登録商標、Innovative Cell Technology社)等であってもよい。
また、例えば、コラゲナーゼとディスパーゼの組み合わせを用いる際には、それぞれPBSに溶解させた5%ディスパーゼと4%コラゲナーゼとを1:1で混合して用いることができる。なお、当業者であれば、実際に用いるタンパク質分解酵素ごとに適宜、濃度や混合比を設定することができる。
【0019】
タンパク質分解酵素処理に用いる酵素の濃度、温度、及び時間等の条件は、用いる酵素によって適宜決定することができ、例えば、酵素処理の温度は0℃以上37℃以下、時間は30分以上6時間以下の条件で行ってもよい。また、タンパク質分解酵素処理を2回以上行ってもよく、その回数は当業者が適宜選択することができる。なお、好ましい実施の形態においては、タンパク質分解酵素処理の工程は1回のみである。例えば、30分のタンパク質分解酵素処理を2回行うのであれば、当該方法に相当する時間、すなわち1時間のタンパク質分解酵素処理を1回で行うことが好ましい。タンパク質分解酵素処理を1回のみとすることで、より緩やかに組織から間葉系細胞を分散することができ、好ましい。タンパク質分解酵素処理を1回行うとは、タンパク質分解酵素を含む混合物を組織及び/又は細胞に入れてから、タンパク質分解酵素を含む混合物をその組織及び/若しくは細胞から除去するまで、並びに/又はタンパク質分解酵素阻害剤をその組織及び/若しくは細胞に添加するまでの工程を1回行うことをいう。
酵素処理を1回のみとする場合、例えば、ヒト由来の歯髄細胞を対象とする際には、37℃で約1時間の酵素処理を1回行えば良い。また、他の動物由来であっても、当業者は適宜、1回の酵素処理で十分となる酵素処理の温度や時間を設定することができる。
【0020】
本明細書において「間葉系細胞を含む組織を2種類以上のタンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系細胞を分散させる」とは、2種類以上のタンパク質分解酵素を含む混合物に組織を入れ、酵素と反応させて細胞同士の接着を剥離し、間葉系細胞を含む組織を単一細胞にすることを含む。組織をはさみ、メス、及びピンセット等を使って細かく切り刻んでから酵素処理を行ってもよい。組織の全てを単一細胞にする必要はなく、当業者であれば凍結保存に適するように酵素処理の条件を調節することができる。
【0021】
本明細書において「細胞の凍結」は、公知の方法で行えばよく、例えば、細胞を細胞保存液に懸濁させて保存容器に入れ、当該保存容器をそのまま凍結保存する方法や、当該保存容器をプログラムフリーザーやバイセル凍結処理容器で凍結した後に液体窒素タンクやディープフリーザーに移して保存する方法等がある。
【0022】
本明細書において「細胞の保存」は、解凍した後にその細胞を培養できる状態で保存することをいう。細胞が培養できるか否かは、公知の方法で判断することができ、例えば解凍後の細胞を培養フラスコに播種した後、その細胞が培養フラスコに接着するか否か、解凍後の細胞を継代培養できるか否か等で判断することができる。
【0023】
細胞保存液は、細胞を培養できる状態で保存することができるものであればよく、血清を用いてもよいし、セルバンカー1(日本全薬工業株式会社)、Culture Sure(和光)、TCプロテクター(DSファーマバイオメディカル)等の市販の細胞保存液を用いることができる。
【0024】
細胞保存液は、凍結保護物質を含んでもよい。凍結保護物質とは、凍結保存を行う際に細胞の機能や生存率をできるだけ維持するため、凍結に由来する様々な障害を防止する目的で添加される物質をいい、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド、エチレングリコール、グリセロール、プロパンジオール、プロピレングリコール、ブタンジオール、及びポリエチレングリコール等の鎖状ポリオール等を用いることができる。
【0025】
本明細書において「間葉系細胞を凍結保存する工程の前に間葉系細胞を培養する工程を含まない」とは、組織をタンパク質分解酵素で処理し細胞に分散させる工程の後であって、細胞を凍結保存する工程の前に、細胞を培養する工程を含まない、または、実質的に含まないことをいう。「細胞を培養する工程を実質的に含まない」とは、細胞を培養皿上に接着させ、増殖または維持させる意図で培養液などを用いて長時間培養する工程を含まないことを意味し、そのような意図がない態様である限り、培養液中に細胞を数分〜数十分程度置くことは、細胞を培養する工程に実質的に含まれない。よって、「間葉系細胞を凍結保存する工程」の一実施の形態には、培養皿に接着していない間葉系細胞または浮遊性の間葉系細胞を凍結保存することが含まれる。なお、好ましい実施の形態は、組織をタンパク質分解酵素で処理し細胞に分散させる工程の後であって、細胞を凍結保存する工程の前に、培養液中に細胞を置く工程が全くない態様であり、酵素処理により分散した間葉系細胞はすぐに凍結することが好ましい。
【0026】
また、本明細書において「細胞を培養する」とは、細胞を培地の入った容器(フラスコやシャーレ)内で増殖または維持させることをいう。また、個体から組織を取り出して細胞に分散し、培地の入った容器にその細胞を移し、最初の植え替えを行うまで細胞を増殖させることを初代培養といい、既存の培養細胞(初代培養細胞を含む)を、別の容器に移し替えて増殖させることを継代培養という。培養には、初代培養と継代培養を含む。
【0027】
細胞の培養は、培養細胞が接着している培地を含む容器を、例えば、37℃、湿度100%、及びCO2濃度5%のインキュベータ内に静置することで行うが、温度、湿度、及びCO2濃度等の条件は細胞の種類に応じて、当業者が適宜判断することができる。
【0028】
培地は、特に限定されず、例えば、イーグル最小必須培地(MEM培地)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM培地)、RPMI−1640培地、α−MEM培地、F−12培地、及びAIM−V培地等の細胞培養に使用されている市販の培地を用いることができる。培地には、必要に応じて、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、ウシ新生仔血清(NBS)、仔ウシ血清(CS)、成牛血清、ウマ血清、ブタ血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ヒト血清等の血清を添加することができる。また、培地には、必要に応じて、各種の添加剤を加えてもよい。
【0029】
本発明に係る凍結間葉系細胞の製造方法は、歯髄組織を2種類のタンパク質分解酵素の混合物で処理し歯髄細胞を分散させる工程と、得られた歯髄細胞を凍結保存する工程とを含み、歯髄細胞を凍結保存する工程の前に歯髄細胞を培養する工程を含まない、凍結歯髄細胞の製造方法を含む。
【0030】
本明細書における歯髄組織は、乳歯及び永久歯のいずれからも採取することができ、従来医療廃棄物として処理されてきた乳歯や親知らずなどの抜去歯の歯髄から得ることが可能である。歯髄組織は、歯科医療施設において歯科処置的に抜歯された歯から取り出すことができ、自然抜歯された歯から取り出されてもよい。なお、歯科処置的に抜歯された歯など、その場ですぐに凍結処理を行うことができない場合には、輸送のため、例えば、α―MEMなどの培地に歯を浸し、低温(例えば、4℃)で保存することができる。
また、歯髄組織の由来はヒトに限られず、その他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ)であってもよい。
【0031】
歯髄組織からは歯髄細胞を得ることができる。また、歯髄組織由来の歯髄細胞には歯髄幹細胞が含まれる。歯髄幹細胞は、歯髄から単離できる組織幹細胞の一種である。組織幹細胞は体性幹細胞とも呼ばれ、あらゆる細胞に分化することができる胚性幹細胞に対して、組織幹細胞は分化できる細胞の種類が限られている。
【0032】
本発明に係る凍結間葉系細胞の製造方法は、タンパク質分解酵素の混合物で処理し間葉系細胞を分散させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させる工程を含んでもよい。
【0033】
酵素反応の停止は、タンパク質分解酵素阻害剤を添加して行うことができる。タンパク質分解酵素阻害剤は、タンパク質分解酵素処理の工程で用いたタンパク質分解酵素の阻害剤を用いることができ、例えば、タンパク質分解酵素処理の工程で用いた酵素がトリプシンであれば、トリプシン阻害剤を用いることができる。また、血清は様々なタンパク質分解酵素阻害剤を含むので、血清をタンパク質分解酵素阻害剤として用いることもできる。酵素反応の停止は、タンパク質分解酵素阻害剤や血清を培地に添加して、組織を分散させたタンパク質分解酵素の混合物に当該培地を加えて行ってもよい。
なお、用いるタンパク質分解酵素によっては、酵素反応を停止するために、タンパク質分解酵素阻害剤の添加を必要としない。このような場合、酵素の阻害剤となる成分(動物由来の血清や、大豆由来のタンパク質分解酵素阻害剤)を含まない培地やPBS、無血清培地等の添加により酵素が希釈されて活性を失えば足り、直接、凍結保存液や他の培地へ置換してもよいし、下記で説明する洗浄工程を直接行ってもよい。すなわち、酵素反応を停止させる工程には、酵素の阻害剤となる成分を含まない培地やPBS、無血清培地などを用いて、酵素を希釈して行うこともできる。
【0034】
本発明に係る凍結間葉系細胞の製造方法は、酵素反応を停止させる工程の後に、さらに、酵素反応を停止させた細胞を洗浄する工程を含んでもよい。細胞の洗浄は、例えば、十分量のリン酸緩衝液等の緩衝液を細胞に加え、細胞を洗い、リン酸緩衝液等を廃棄することで行う。1度洗浄した細胞に再度リン酸緩衝液等を加え、細胞を洗い、リン酸緩衝液等を廃棄する、という工程を数回繰り返してもよい。緩衝液やその量、及び洗浄の回数は、当業者は適宜選択することができる。
【0035】
また、本発明に係る凍結間葉系細胞の製造方法は、一実施の形態において、酵素反応を停止させる工程の後に、細胞懸濁液をろ過する工程を含まない。「細胞懸濁液をろ過する」とは、酵素処理により得られた、または、酵素処理後の洗浄工程により得られた間葉系細胞を含む細胞懸濁液を、ナイロンメッシュやセルストレーナーを用いてろ過することをいう。このようなろ過工程を経ないことにより、細胞へのダメージを軽減できる点において好ましい。
【0036】
本発明に係る移植用治療材の製造方法は、上記凍結間葉系細胞の製造方法によって製造した凍結間葉系細胞を解凍する工程を含む。
【0037】
本明細書において「細胞を解凍する」とは、細胞を融解することをいい、当業者が公知の方法に従って行うことができる。例えば、細胞が懸濁されている保存容器を窒素タンクやディープフリーザーから取り出し、37℃の温浴に浸し、できるだけ素早く細胞を融解することで行ってもよい。
【0038】
本発明に係る移植用治療材の製造方法は、上記凍結間葉系細胞の製造方法により製造した凍結間葉系細胞を解凍する工程の後に、さらに、解凍した細胞を培養する工程を含んでもよい。
【0039】
本明細書において「解凍した細胞を培養する」工程は、当業者が公知の方法に従って行うことができる。例えば、(1)急速解凍した細胞を培地に懸濁し、(2)細胞懸濁液を遠心し、上清を取り除き、(3)沈殿した細胞に再び培地を加え、(4)細胞をT−75フラスコに播種し、37℃、湿度100%、及びCO2濃度5%のインキュベータ内にて増殖させることによって行ってもよい。
【0040】
本発明に係る移植用治療材の製造方法は、解凍した細胞を培養する工程の後に、さらに、培養により得られた間葉系幹細胞を分化させる工程を含んでもよい。
【0041】
本明細書において「間葉系幹細胞を分化させる」とは、間葉系幹細胞を誘導物質に曝露させ、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、及び血管細胞等などに分化させることをいう。これらの分化誘導方法は公知であり、骨芽細胞への分化は、10%血清、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸、及びアスコルビン酸等の誘導物質、脂肪細胞への分化はデキサメタゾン、1-メチル-3-イソブチルキサンチン、インスリン、及びインドメタシン等の誘導物質が知られており、誘導物質を培地へ添加すると分化誘導できる。間葉系幹細胞を各種細胞へ分化させるための誘導物質を含む培地添加剤は市販のものを用いることができる。各種細胞が分化したか否かの評価は、対比染色液等の市販のものを用いて判断することができる。
【0042】
本発明に係る移植用治療材の製造方法で製造した移植用治療材は、骨、筋肉、血管、及び神経等の再生が期待される部位に、点滴やカテーテル等によって移植することができる。また、部位を切開して移植用治療材を移植し治療してもよい。治療効果が得られる限り、他の医薬と併用することも可能である。治療材の移植の量及び回数は、当業者が適宜決定することが可能である。
【0043】
治療の対象はヒトに限られず、その他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ)であってもよい。
【0044】
本発明に係る移植用治療材の製造方法で製造した移植用治療材は、移植対象に由来する間葉系幹細胞を用いても、移植対象以外の者に由来する間葉系幹細胞を用いてもよい。移植対象以外の者に由来する間葉系幹細胞を用いる場合には、例えば、細胞バンクから、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA)が一致する細胞を選択し、これを用いてもよい。
【0045】
本発明は、上記製造方法によって製造された凍結間葉系細胞、及び上記移植用治療材を含むキットを含む。かかるキットには、間葉系幹細胞を含む間葉系の細胞群を培養するための培地またはその成分の全部又は一部が含まれていてもよい。培地のほか、分化誘導物質、分化を評価するための試薬、培養容器のコーティング材料、各種試薬、緩衝液、及び使用説明書等を備えていてもよい。
【0046】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
試薬の調製
(1)200mM L−アスコルビン酸溶液
L−アスコルビン酸(和光)1.76gを大塚蒸留水50mLに溶解した。
(2)α−MEM溶液
α−MEM(GIBCO)39.5mL、FBS(ニチレイ)10mL、P/S(GIBCO)500μL、及び200mM L−アスコルビン酸溶液25μLを混合した。
(3)リンス用PBS
PBS(−)(GIBCO)49mL、FBS(ニチレイ)1mL、P/S(GIBCO)500μLを混合した。
(4)細胞保存液
クライオザーブ(DMSO)(NIPRO)100μL、FBS(ニチレイ)900μLを混合した。
【0048】
実施例1.酵素処理をした細胞の凍結保存と解凍後の細胞培養
(1)歯髄組織の取り出し
歯牙を歯科的に抜去した後、α−MEM溶液を満たした15mLの無菌チューブに、α−MEM溶液に浸かる状態になるように歯髄を入れて低温(4℃)で冷蔵し、輸送時間を含めて24時間保存した。
滅菌シャーレに歯牙を取り出し、ピンセット及びリーマーを用いて歯髄組織を取り出した。歯髄組織を試験管に移し、リンス用PBS3mLで洗浄した。歯髄組織を自然に沈殿させ上清を廃棄し、沈殿した歯髄組織をさらにリンス用PBS3mLで洗浄し、この洗浄の工程をさらに3回繰り返し、合計で5回の洗浄を行った。
【0049】
(2)タンパク質分解酵素処理
(1)の5回目の洗浄の後、上清を廃棄し、沈殿した歯髄組織に37℃アクターゼを6mL加え、1時間酵素処理をした。この間、10分に1度、1度につきピペッティングを20回行い歯髄細胞を分散させた。1時間の酵素処理後、4℃に氷冷したα−MEM溶液9mLをチューブに加えて酵素反応を停止させた。100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、歯髄細胞を沈殿させ、上清のα−MEM溶液は廃棄した。再度α−MEM溶液を3mL加え、半量を下記の参考例1.の試験に用いた。残りの半量は100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、歯髄細胞を沈殿させ、上清のα−MEM溶液は廃棄した。リンス用PBS3mLを加え100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、歯髄細胞を沈殿させ、上清のα−MEM溶液は廃棄した。
【0050】
(3)凍結保存
(2)で得られた歯髄細胞に4℃の細胞保存液を1mL加え、全量をクライオチューブに移した。クライオチューブは−80℃のフリーザーで1晩凍結した後、−150℃のフリーザーに移して保存した。
【0051】
(4)解凍後の歯髄細胞の培養
(3)で得られた凍結保存した歯髄細胞(以下、「酵素処理細胞」という。)を、37℃のウォーターバスにて細胞保存液が融解しクライオチューブの側面から剥がれるまで解凍した。解凍後は37℃に加温したα−MEM溶液6mLを満たした15mLチューブにクライオチューブの中身を移した。クライオチューブはα−MEM溶液2mL(1mL×2回)で共洗いを行った。その後100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、上清を廃棄した。沈殿した歯髄細胞にα−MEM溶液を500μL加え、このα−MEM溶液20μLとトリパンブルー20μLとを混合し、血球計算盤にて細胞数を計測し、「播種細胞数」とした。細胞数計測後、α−MEM溶液4.5mLを加えて計5mLにし、T−25フラスコへ播種し培養を行った。
10例中8例で細胞のフラスコへの接着が確認された(表1)。
表中、凍結期間とは、−80℃に移してから解凍するまでの日数である。また、接着確認日とは、播種した細胞のうち1−2個がフラスコに接着し(接着確認日前日)、その翌日に前日確認した1−2個の接着した細胞にコロニー形成が認められた場合に、そのコロニー形成が認められた日を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例1.歯髄組織のままでの凍結保存と解凍後の細胞培養
(1)歯髄組織の取り出し
上記実施例1(1)と同様の方法で歯髄組織を取り出し、リンス用PBSで5回洗浄した。
【0054】
(2)凍結保存
(1)の洗浄の後、自然に沈殿した歯髄組織に冷却した細胞保存液を1mL加え、全量をクライオチューブに移した。クライオチューブは−80℃のフリーザーで1晩凍結した後、液体窒素に移して保存した。
【0055】
(3)タンパク質分解酵素処理
(2)で得られた凍結保存した歯髄組織を、37℃のウォーターバスにて解凍した。ピンセットを用いて、リンス用PBS10mLが入った15mLチューブに歯髄組織を移した。その後、組織を自然沈殿させ、上清のリンス用PBSを廃棄し、再度リンス用PBS2mLをチューブに加えタッピングし、上清のリンス用PBSを廃棄した。再びリンス用PBS2mLを加えタッピングし、上清のリンス用PBSを廃棄した。
沈殿した歯髄組織に37℃アクターゼを3mL加え、1時間酵素処理をした。この間、20分に1度、1度につきピペッティングを20回行い歯髄細胞を分散させた。1時間の酵素処理後、氷冷したα−MEM溶液10mLが入った15mLチューブに全量を移し、酵素反応を停止させた。100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、歯髄細胞を沈殿させ、上清のα−MEM溶液は廃棄した。
【0056】
(4)歯髄細胞の培養
(3)で得られた歯髄細胞をナイロンメッシュ(pore size 70μm)に通し、単一細胞を回収した。回収した細胞を15mLチューブに移し、100×g、室温の条件下で5分間の遠心分離を行い、歯髄細胞を沈殿させ、上清を廃棄した。回収した歯髄細胞にα−MEM溶液2.5mLを加えてT−12.5フラスコへ播種し培養を行った。
10例中全てで細胞のフラスコへの接着が確認できなかった。
【0057】
参考例1.歯髄細胞の培養(凍結なし)
(1)歯髄組織の取り出し
本参考例1.では、上記実施例1(1)および(2)で調製し、二つに分けた歯髄細胞群の一方(半量)を用いた。
【0058】
(2)歯髄細胞の培養
上記実施例1(1)および(2)で得られた歯髄細胞(以下、「培養歯髄細胞」という。)にα−MEM溶液を3.5mL加え計5mL加えてにし、T−25フラスコへ播種し培養を開始した。
10検体中8検体で細胞のディッシュへの接着が確認された(表2)。
播種細胞数は、(2)の遠心分離で得られた歯髄細胞に、α−MEM溶液を500μL加え(細胞数の計測後に、α−MEM溶液4.5mLを加え、計5mLにした)、このα−MEM溶液20μLとトリパンブルー20μLとを混合し、血球計算盤にて細胞数を計測したものである。
【0059】
【表2】
【0060】
試験例1.解凍後の酵素処理細胞(実施例1)と、培養歯髄細胞(参考例1)の細胞の接着
解凍後の酵素処理細胞(実施例1)と、培養歯髄細胞(参考例1)の接着検体数と接着平均日数を比較した。
いずれも10検体中8検体の細胞に接着が認められた(表3、図1)。接着平均日数に両者で差は見られなかった(表3、図2)。本発明に係る方法によれば、凍結しても、凍結しないで培養した場合と同等の生存率が得られることが確認された。
【0061】
【表3】
【0062】
試験例2.解凍後の酵素処理細胞(実施例1)と、培養歯髄細胞(参考例1)の継代までの平均日数
T−25フラスコ内で細胞が80−90%コンフルエントになるまでの平均日数を比較した。
細胞の継代までにかかる日数に両者で差は見られず、このことから細胞増殖速度に差が見られないことがわかった(表4、図3)。
【0063】
【表4】
【0064】
試験例3.解凍後の酵素処理細胞(実施例1)と、培養歯髄細胞(参考例1)の形態の比較
培養中の酵素処理細胞(図4)と、培養歯髄細胞(図5)の形態を倒立位相差顕微鏡にて比較した。
両者で細胞の形態の差は見られなかった。
【0065】
試験例4.解凍後の酵素処理細胞(実施例1)のCFU−Fアッセイおよび分化誘導
実施例1で得られた解凍後の酵素処理細胞より形成されたコロニーに対して、CFU−Fアッセイおよび分化誘導を行い、歯髄幹細胞が含まれているか確認を行った。
実施例1で得られた解凍後の酵素処理細胞はフラスコへの接着を確認後、α―MEM溶液を用いてさらに1週間培養し、コロニーを形成させた。CFU−Fアッセイおよび分化誘導は、当該コロニーに対して行った。また、CFU−Fアッセイおよび分化誘導方法は、公知の文献(Sato et al., “Characterization of mesenchymeal progenitor cells in crown and root pulp from human mesiodentes” Oral Dis. 2015 Jan;21(1):e86-97)に記載の方法に従って試験および評価を行った。その結果、実施例1で得られた解凍後の酵素処理細胞は、CFU−Fコロニー形成と、骨芽細胞および脂肪細胞への分化能を有していることが確認できた。

図1
図2
図3
図4
図5