(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582132
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ノズル、鋳造装置及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20190912BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20190912BHJP
B22D 41/54 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
B22D11/10 330T
B22D41/50 520
B22D41/54
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-526083(P2018-526083)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公表番号】特表2018-534147(P2018-534147A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】KR2015014134
(87)【国際公開番号】WO2017090819
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0167722
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2015-0167725
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウク
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−104655(JP,A)
【文献】
特開昭62−192254(JP,A)
【文献】
特開平02−251347(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1489377(KR,B1)
【文献】
特開2001−170742(JP,A)
【文献】
特開2012−000661(JP,A)
【文献】
特開2015−163408(JP,A)
【文献】
特開2006−068798(JP,A)
【文献】
特開昭57−085659(JP,A)
【文献】
特開2001−170761(JP,A)
【文献】
特開2003−126945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B22D 41/50−41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼が移動することができる内孔部を有し、前記溶鋼が、前記内孔部の外側に移動できる吐出口が形成されるノズル本体と、
前記ノズル本体の内壁の少なくとも一部を取り囲み、マグネシア安定化ジルコニア(MgO stabilized ZrO2,MSZ)を含むライナーと、
前記ライナーは、前記マグネシア安定化ジルコニアを80ないし95重量%と、炭素を5ないし20重量%と
前記マグネシア安定化ジルコニアは、マグネシア(MgO)を8ないし15モル%を含有し、
前記ライナーの長さ方向に対して、前記ライナーの上側と下側のうちの少なくともいずれか一方に、ダミーリングが備えられ、
前記ダミーリングは、前記ノズル本体を製造する時、焼成温度より高く、鋳造温度より低い融点を有する炭素含有物質を含むことを特徴とするノズル。
【請求項2】
前記ノズル本体は、Al2O3を含み、
前記ノズル本体は、前記ノズル本体の全体重量に対して、20重量%ないし30重量%の炭素成分を含有することを特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
前記ダミーリングは、前記ライナーの長さに対して、1乃至2%の長さに形成されることを特徴とする請求項1 又は2に記載のノズル。
【請求項4】
鋳造装置であって、
内部に溶鋼が収容されるタンディッシュと、
前記タンディッシュの下部に連結され、ノズル本体と、
前記ノズル本体の内壁の少なくとも一部を取り囲み、マグネシア安定化ジルコニア(MgO stabilized ZrO2,MSZ)を含むライナーとを含む浸漬ノズルと、
前記タンディッシュに収容された溶鋼と前記ノズル本体を通電させる電源部と、を含むことを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
前記ノズル本体は、Al2O3を含み、
前記ノズル本体の全体重量に対して、20重量%ないし30重量%の炭素成分を含有し、
前記ライナーは、8ないし15mol%のマグネシア(MgO)を含有するマグネシア安定化ジルコニアを80ないし95重量%、及び炭素を5ないし20重量%含むことを特徴とする請求項4に記載の鋳造装置。
【請求項6】
前記ライナーの長さ方向に対して、前記ライナーの上側と下側のうちの少なくともいずれか一方に、ダミーリングが備えられることを特徴とする請求項5に記載の鋳造装置。
【請求項7】
前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される電極を含み、
前記電源部は、前記電極及び前記浸漬ノズルに電源を印加することを特徴とする請求項4に記載の鋳造装置。
【請求項8】
鋳片を鋳造する鋳造方法であって、
内部にマグネシア安定化ジルコニアを含有するライナーと、
前記ライナーの長さ方向に対して前記ライナーの上側と下側の少なくともいずれか一方にダミーリングが形成された浸漬ノズルを設ける過程、
前記浸漬ノズルをタンディッシュに接続する過程、
前記浸漬ノズルを用いて前記タンディッシュに収容された溶鋼を金型に注入する過程、
前記溶鋼とノズル本体を通電させて、前記溶鋼の中に含まれる酸素を、前記浸漬ノズル側に排出させる過程、を含み,
前記溶鋼を金型に注入する過程は、前記溶鋼の熱を利用して前記ダミーリングを溶解させる過程を含むことを特徴とする鋳造方法。
【請求項9】
前記溶鋼と前記ノズル本体が通電されると、前記溶鋼中に生成された金属酸化物が、酸素イオンと陽イオンに分解され、
前記酸素イオンが、前記ライナーを介して前記ノズル本体に移動して、前記溶鋼中の酸素が浸漬ノズル側に排出されることを特徴とする請求項8に記載の鋳造方法。
【請求項10】
前記溶鋼は陰極に、前記浸漬ノズルは陽極にして通電させることを特徴とする請求項9に記載の鋳造方法。
【請求項11】
前記溶鋼と前記浸漬ノズルを通電させる過程で、0.1ないし10mA/cm2の電流密度が印加されるように通電させることを特徴とする請求項10に記載の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル、鋳造装置及び鋳造方法に係り、より詳しくは、電気化学的脱酸反応を通じて詰まり現象を抑制することができるノズル、鋳造装置及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造工程は、精錬が完了した溶鋼が盛られているレードル(ladle)が連続鋳造装置に設置されて、液体状態の溶鋼がレードルからタンディッシュ(tundish)を経て、モールド(mold)に移動しながら、固体の状態の鋳片に変わる工程である。このとき、浸漬ノズルは、タンディッシュの下部に位置して、タンディッシュからモールドへ溶鋼を移動させ、溶鋼に浸漬されて、溶鋼と長時間接するようになるので、優れた耐久性が要求される。浸漬ノズルは、主に耐火性及び溶融金属に対する耐蝕性の優れたアルミナ(Al
2O
3)と介在物(スラグ成分)に対して濡れ性が小さく、膨張量が少なく、熱伝導性の良好な黒鉛(C)を組み合わせたAl
2O
3−C材質で形成される。
【0003】
浸漬ノズルは、タンディッシュの溶鋼をモールドに供給する流路の役割をする円筒形の耐火物である。溶鋼が浸漬ノズルの内部に移動する間に、温度の下落、溶鋼とノズル内壁界面においての界面反応、溶鋼中の介在物のノズル内壁付着などの理由で、ノズル内壁からノズルの中心方向に詰まり層が成長する。このようなノズルの詰まり現象は、連続鋳造工程の中断を招き、生産性及び鋳片品質の低下などの悪影響を引き起こすことになる。したがって、このようなノズルの詰まりを防止するために、不活性ガスをノズル内部から溶鋼に供給して気泡により介在物の付着を防止するポーラス(Porus)型浸漬ノズルや、ノズルの詰まりを誘発する代表的な酸化物である酸化アルミニウムと反応し低融点化合物を形成する耐火物を導入してノズルの詰まり層がノズルの材質とともに溶け落ちるようにする溶損型ノズル、及び介在物の付着や溶鋼との接触を抑制する耐火物材質を導入してノズルの詰まりを低減しようとする努力が続いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鋳造時に電気化学的脱酸反応を起こして、ノズルの詰まり現象を抑制することができるノズル、鋳造装置及び鋳造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、鋳造工程の効率及び生産性を向上させることができるノズル、鋳造装置及び鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係るノズルは、溶鋼が移動することができる内孔部を有し、溶鋼が内孔部の外側に移動できる吐出口が形成されるノズル本体と、ノズル本体の内壁の少なくとも一部を取り囲み、マグネシア安定化ジルコニア(MgO stabilized ZrO
2,MSZ)を含むライナーと、を含むことを特徴とする。
【0006】
ノズル本体は、Al
2O
3を含み、ノズル本体の全体重量に対して、20重量%ないし30重量%の炭素成分を含有することが好ましい。
ライナーは、マグネシア安定化ジルコニアを80ないし95重量%と、炭素を5ないし20重量%と、を含むことがよい。
マグネシア安定化ジルコニアは、マグネシア(MgO)を8ないし15モル%含有することができる。
【0007】
ライナーの長さ方向に対して、ライナーの上側と下側のうち、少なくともいずれか一方に、ダミーリングが備えられることが好ましい。
ダミーリングは、炭素成分を含むことがよい。
ダミーリングは、ライナーの長さに対して、1ないし2%の長さに形成されることができる。
【0008】
本発明の実施形態に係る鋳造装置は、内部に溶鋼が収容されるタンディッシュと、タンディッシュの下部に連結されるノズル本体と、ノズル本体の内壁の少なくとも一部を取り囲み、マグネシア安定化ジルコニア(MgO stabilized ZrO
2,MSZ)を含むライナーとを含む浸漬ノズルと、タンディッシュに収容された溶鋼とノズル本体を通電させる電源部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
ノズル本体は、Al
2O
3を含み、ノズル本体は、ノズル本体の全体重量に対して、20重量%ないし30重量%の炭素成分を含有することが好ましい。
ライナーは、マグネシア安定化ジルコニアを80ないし95重量%と、炭素を5ないし20重量%を含むことができる。
マグネシア安定化ジルコニアは、マグネシア(MgO)を8ないし15モル%を含有することがよい。
【0010】
ライナーの長さ方向に対して、ライナーの上側と下側のうちの少なくともいずれか一方に、ダミーリングが備えられることが好ましい。
ダミーリングは、炭素成分を含むことがよい。
ダミーリングは、ライナーの長さに対して、1ないし2%の長さに形成されることが好ましい。
タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される電極を含み、電源部は、電極及び浸漬ノズルに電源を印加することができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る鋳造方法は、タンディッシュに収容された溶鋼を、浸漬ノズルを介して金型に注入して鋳片を鋳造する鋳造方法であって、浸漬ノズルは、タンディッシュに連結されるノズル本体と、ノズル本体の内壁に備えられ、マグネシア安定化ジルコニアを含有するライナーと、を含み、溶鋼とノズル本体とを通電させて、溶鋼中に含まれる酸素を浸漬ノズル側に排出させることを特徴とする。
【0012】
溶鋼とノズル本体が通電されると、溶鋼中に生成された金属酸化物が酸素イオンと陽イオンに分解され、酸素イオンがライナーを介してノズル本体に移動して、溶鋼中の酸素が浸漬ノズル側に排出されることが好ましい。
溶鋼は陰極に、浸漬ノズルは陽極にして通電させることがよい。
溶鋼と浸漬ノズルを通電させる過程で、0.1ないし10mA/cm
2の電流密度が印加されるように通電させることができる。
ライナーの上側と下側のうちの少なくとも一方には、ダミーリングが備えられ、ダミーリングは、鋳片を鋳造する過程において溶解され、空間を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のノズル、鋳造装置及び鋳造方法によると、ノズル、例えば、鋳造工程で使用される浸漬ノズルの内孔部が詰まる現象を抑制あるいは防止することができる。即ち、鋳造温度で、溶鋼と接触するノズルの内孔部に、電気化学的脱酸を可能にする固体電解質を用いてライナーを形成し、溶鋼と浸漬ノズルを通電することによって、鋳造中に溶鋼と接触する浸漬ノズルの内壁に金属酸化物等の介在物が積層され、ノズルの内孔部に詰まりが発生することを抑制あるいは防止することができる。これにより、ノズル内壁での界面酸素濃度を下げて、ノズル内壁と溶鋼の濡れ性を低減させることができる。したがって、ノズルの詰まりを起こす主な要因であるノズルの内孔部での介在物の生成と溶鋼の濡れ性が改善されて、ノズルが詰まる現象を抑制あるいは防止することができる。これにより、ノズルの詰まりによる鋳造中断などの問題点を解決することができるので、鋳造効率及び生産性を向上させることができ、これを用いて製造された鋳片の品質を向上させることができる。また、ノズルの寿命を向上させて、ノズルの交換に要する時間とコストを節減することができる。
さらに、浸漬ノズルの内部にイオン伝導性に優れた固体電解質を用いたライナーを形成することにより、介在物の生成抑制のための消費電力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例に係る鋳造装置の概略図である。
【
図2】本発明の実施例に係る鋳造装置に適用されるノズルの断面図であり、(a)は垂直方向の断面図、(b)は水平方向の断面図である。
【
図3】鋳造中にノズルの内孔部で発生する脱酸反応の模式図であり。(a)は、ノズル本体の内壁に移動してきた金属酸化物、(b)は、通電により、酸素イオンと金属に分解された金属酸化物、(c)は、ライナーを介してノズル本体側に移動する酸素イオンを示した。
【
図4】鋳造中にノズルの内部構造の変化を示す断面図であり、(a)は、ダミーリングの存在を示す鋳造前の図、(b)は、ダミーリングの溶解でできた空間をライナーの膨張により埋める鋳造時の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、添付した図面を基にして、本発明の実施例をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下に開示する実施例に限定されるものではなく、相互に異なる多様な形態で具現さすることができる。本実施例は、本発明の開示が通常の知識を有する者に対し発明の範疇を完全に理解させるために提供されるものである。説明中、同一の構成については同一の符号を与え、図面は、本発明の実施例を正確に説明するために、部分的にサイズが誇張されて表現されることができる。図面上で同一の符号は、同一の要素を示す。
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る鋳造装置の概略図であり、
図2は、本発明の実施例に係る鋳造装置に適用されるノズルの断面図であり、(a)は垂直方向の断面図、(b)は水平方向の断面図である。
図3は、鋳造中にノズルの内孔部で発生する脱酸反応の模式図であり、(a)は、ノズル本体の内壁に移動してきた金属酸化物、(b)は、通電により、酸素イオンと金属に分解された金属酸化物、(c)は、ライナーを介してノズル本体側に移動する酸素イオンを示した。
図4は、鋳造中のノズルの内部構造の変化を示す断面図であり、(a)は、ダミーリングの存在を示す鋳造前の図、(b)は、ダミーリングが溶解されてできた空間をライナーの膨張により埋める鋳造時の図である。
図1に基づくと、鋳造装置、例えば、連続鋳造装置は、精錬を経た溶鋼を盛る容器であるレードル(ladle)から溶鋼60を受鋼貯蔵し、分配するタンディッシュ10、溶鋼60の流量を制御するストッパー20、スライディングプレート30、溶鋼60をモールド50に排出する浸漬ノズル40、及び溶鋼60を凝固させて鋳片61を作るモールド50を含むことができる。
図1では溶鋼の流量を制御するために、ストッパー20とスライディングプレート30とが同時に備えた例を示したが、実際の操業では、ストッパー20とスライディングプレート30のいずれか一つを使用することもできる。また、鋳造装置はタンディッシュ10内の溶鋼と浸漬ノズル40に電圧を印加する電源部70を含むことが好ましい。
【0017】
図2を基にすると、浸漬ノズル40は、溶鋼が移動する内孔部を持ち、溶鋼が外側、例えば、モールドに移動できる吐出口42を含むノズル本体41と、ノズル本体41の内壁の少なくとも一部を取り囲むように備えられ、マグネシア安定化ジルコニア(MgO stabilized ZrO
2,MSZ)を含有するライナー43と、を含むことができる。また、図示していないが、浸漬ノズル40は、ノズル本体41の外壁の少なくとも一部を取り囲むスラグライン部47を含むこともできる。
ノズル本体41は、溶鋼が移動できるように、少なくとも上部が開放された円筒形の形状に形成される。また、ノズル本体41の下部側には、溶鋼を内孔部から外側に吐出する吐出口42が形成される。ノズル本体41は、Al
2O
3−Cを用いて形成される。このとき、ノズル本体41は、導電性を持つようにC成分を20ないし30重量%程度含むように形成される。これは、浸漬ノズル40と、浸漬ノズル40に沿って流れる溶鋼との間に通電回路を形成するためである。
ライナー43は、ノズル本体41の内壁、即ち、溶鋼と接触する面に形成される。ライナー43は、ノズル本体41の内壁全体にわたって形成されることもあるが、ノズル本体41の上部側から吐出口42の上部まで形成される。これに、ライナー43は、ノズル本体41の内部にノズル本体41の内壁に沿って上下方向に開口された中空の円筒形に形成される。
【0018】
ライナー43は、ノズル本体41の内壁に形成されて、溶鋼中の酸素イオンをノズル本体41側に移動させる役割をする。ライナー43は、イオン伝導性に優れた材料としてよく知られているマグネシア安定化ジルコニア(MSZ)で形成することができる。マグネシア安定化ジルコニアは、固体状態でイオンが電気を伝える性質を持つ固体電解質として、固体燃料電池、溶融金属中の酸素の濃度を測定するプローブ(probe)などに適用される。
本発明では、このマグネシア安定化ジルコニア(MSZ)をライナー43として使用し、溶鋼中の酸素イオンをノズル本体41側に誘導することによって、浸漬ノズル40の内壁に介在物、例えば、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2などの金属酸化物が発生することを抑制あるいは防止することができる。
鋳造時、溶鋼の中に含まれる酸素は、界面で活性化される特性により、溶鋼と浸漬ノズル40の内壁の界面で金属酸化物を生成する。このように生成された金属酸化物は、溶鋼との界面エネルギーが高く、溶鋼の中で浸漬ノズル40の内壁に自発的に移動して取り付く。このような過程が繰り返され、又、連続して起きるため、浸漬ノズル40の内孔部が詰まるノズルの詰まり現象が発生する。本発明では、ノズル本体41の内壁にイオン伝導性に優れた固体電解質を用いてライナー43を形成し、溶鋼と浸漬ノズル40、即ち、ノズル本体41を通電させて酸素イオンを溶鋼外に誘導することにより、浸漬ノズル40の内壁に金属酸化物が付着することを抑制あるいは防止する。
【0019】
金属酸化物の生成と付着を抑制するメカニズムを説明すると、次のとおりである。
図3の(a)を基にすると、鋳造時、溶鋼の中に含まれる酸素は、金属酸化物を形成し、ノズル本体41の内壁に移動する。そして、
図3の(b)に示したとおり、溶鋼とノズル本体41が通電されると、金属酸化物の周辺に密集した電子が金属酸化物を、酸素イオンと陽イオン(金属イオン)に分解する。こうして分解された酸素イオンは、
図3の(c)に示したとおり、イオン伝導性に優れたライナー43を介してノズル本体側に移動し、ノズル本体の気孔から外部に排出されて、酸素ガスとなる。そして、陽イオンは、溶鋼の中に吸収される。このような過程、即ち、脱酸反応を通じて溶鋼の中の酸素を溶鋼外部に排出させることによって、浸漬ノズル40内の金属酸化物の生成及び付着を抑制する。これにより、ノズルの詰まり現象を抑制あるいは防止することができる。
ライナー43は、ライナー43全体の重量に対して、マグネシア安定化ジルコニア(MSZ)を80ないし95重量%と、炭素を5ないし20重量%を含むことができる。このとき、マグネシア安定化ジルコニア(MSZ)は、温度変化に伴う相変移により体積変化が起こることを抑制するために、8ないし15モル%程度のマグネシア(MgO)と、残りはジルコニア(ZrO
2)で構成することができる。このように、ジルコニアに酸化マグネシウムを安定化剤として使用することによって、ジルコニアが温度変化にも比較的安定した相を保持することができるため、鋳造中、ライナー43にクラックが発生したり、破損したりすることを防止することができる。
【0020】
一方、ライナー43を、温度変化に安定したマグネシア安定化ジルコニアを用いて製造しても、温度変化による体積膨張を完全に抑制することはできない。また、ライナー43と、ノズル本体41の熱膨張率が互いに異なり、ライナー43の熱膨張率がノズル本体41の熱膨張率より大きいため、鋳造時、ライナー43の体積膨張により、ライナー43とノズル本体41との間に応力が作用して、ライナー43にクラックが発生したり、破損したりする現象が発生する。
これにより、ライナー43の長さ方向に対して上側と下側のうちの少なくともいずれか一方には、ライナー43の体積膨張に伴う空間を確保するために、ダミーリング45を形成する。ダミーリング45は、ライナー43の長さに対して、およそ1ないし2%程度の長さに形成される。ダミーリング45の長さが提示された範囲より小さい場合には、ライナー43の体積膨張に対して適切に対応することができないため、ライナー43の破損が避けられない。一方、ダミーリング45の長さが提示された範囲より大きい場合には、ノズル本体41が溶鋼に露出されて、金属酸化物が生成し付着する。ダミーリング45は、ライナー43の体積膨張に伴う空間を確保することができる場合には、形成する必要はないが、浸漬ノズル40の製造特性上、製造後にライナー43の体積膨張に対応する空間を確保することは難しいので、ダミーリング45の形成は避けられない。即ち、浸漬ノズル40を製造する過程は、浸漬ノズル40を構成する原料を成形型に注入した後、加圧成形工程と焼成工程を含むが、これは、成形型に原料注入時に特定の位置、即ち、ライナー43の体積膨張に対応する空間を確保することが難しいためである。これに、ダミーリング45は、ライナー43を構成する成分より融点の低い物質を用いて形成される。即ち、ダミーリング45は、浸漬ノズル40を製造する時、ライナー43の上側及び下側のうちのいずれか一方に形成されるが、鋳造する時には、溶鋼の熱により溶解されて除去される。これにより、ライナー43の体積膨張のためのスペースを確保することができる。これに、ダミーリング45は、浸漬ノズル40を製造する時、焼成温度より高く、鋳造温度より低い融点を有する黒鉛などの炭素含有物質を用いて製造することができる。
【0021】
このような構成により、ノズル本体41の内部には、ノズル本体41の長さ方向に沿ってダミーリング45/ライナー43、またはダミーリング45/ライナー43/ダミーリング45が形成される。鋳造前には、
図4の(a)に示したとおり、ライナー43の一端、例えば、上端にダミーリング45が存在するが、鋳造時には、
図4の(b)に示したとおり、ダミーリング45が溶鋼の熱により除去され、ライナー43の上端、または上端及び下端に空間を形成するようになり、溶鋼の熱によりライナー43は、「X」ほど体積が膨張して、ダミーリング45が溶解しながら形成する空間を埋めるようになる。これにより、ライナー43の体積膨張によるライナー43とノズル本体41との間に発生する応力を緩和させて、ライナー43にクラックが発生したり、破損されることを抑制あるいは防止することができる。
また、浸漬ノズル40の外壁には、スラグライン部47が形成されることができる。スラグライン部47は、スラグ(またはフラックス62)、溶鋼などに対する耐蝕性を高める構成として、吐出口42の上部側、例えば、モールド内の溶鋼の湯面周辺に形成されることがよい。スラグライン部47は、様々な物質を利用して形成されることができ、例えば、カルシア・マグネシア部分安定化ジルコニア、黒鉛などの混合物を用いて形成することができる。
【0022】
電源部70は、タンディッシュ10内の溶鋼と浸漬ノズル40を通電させる。これに、タンディッシュ内の溶鋼に電源を印加するための第1電極72を備えることができ、第2電極に浸漬ノズル40を使用することができる。タンディッシュ内の溶鋼に電源を印加するための第1電極72は、タンディッシュ内の溶鋼に浸漬されるように備えられ、第1電極72は、浸漬ノズル40、即ち、ノズル本体41と同じ物質で形成することができる。また、電源部70は、第1電極72と第2電極(浸漬ノズル40)に電源、例えば、電圧または電流を印加し、第1電極72は陰極(cathode)に、第2電極は陽極(anode)として電源を印加する。これに、第1電極72と第2電極に電源を印加すると、電子が第1電極72から第2電極側に移動するようになり、溶鋼と浸漬ノズル40の界面で分解された酸素イオンが電子の移動方向、即ち、溶鋼からノズル本体側に移動する。したがって、溶鋼の中の酸素イオンが、ライナー43を介してノズル本体41側に移動して、外部に排出される。このような過程を経て浸漬ノズル40の内孔部に金属酸化物が付着して、ノズルの詰まり現象が発生することを抑制あるいは防止することができる。
【0023】
以下では、本発明の実施例に係るノズルを製造する方法について説明する。
本発明の実施例に係るノズルは、浸漬ノズル40を形成するための原料を用意する段階と、浸漬ノズル40を形成するための成形型に原料を注入し、加圧して成形体を形成する段階と、成形体を焼成して、浸漬ノズル40を形成する段階と、を含む。
原料を用意する過程は、ノズル本体41を形成するための原料と、ライナー43を形成するための原料と、ダミーリング45を形成するための原料と、を用意する過程を含む。
原料が用意されると、成形型にそれぞれの原料を注入して、浸漬ノズル40の成形体を形成する。このとき、成形型の内部に円筒形の芯材を挿入し、ライナーとダミーリングを形成するためのスペーサーを、芯材の外側に離隔されるように挿入する。そして、スペーサーと芯材との間には、ライナー43とダミーリング45を形成するための原料を順次に注入し、スペーサーと成形型との間には、ノズル本体41を形成するための原料を注入する。以後、スペーサーを除去した後、成形型の内部に注入した原料を加圧して浸漬ノズル40を形成するための成形体を形成する。
【0024】
以後、成形型から成形体を引き出し、焼成炉で成形体を約1000℃以下の温度で焼成して、浸漬ノズル40を製造する。成形体を焼成する過程で、ダミーリング45は、成形体を形成する時に形成された形状をそのまま維持することができる。
このように形成された浸漬ノズル40を利用して鋳造を行うと、ダミーリング45は、溶鋼の熱により溶解されて除去され、ライナー43の上側及び下側にライナー43の体積膨張に対応するスペースを容易に確保することができる。鋳造する時、溶鋼によりライナー43の体積が膨張する場合、ダミーリング45が除去された空間によりライナー43に亀裂が発生したり、ライナー43が破損されることを防止することができる。
【0025】
以下では、本発明の実施例に係る鋳造装置を用いて鋳片を鋳造する方法について説明する。
本発明の実施例に係る鋳造方法は、タンディッシュ10に収容された溶鋼60を浸漬ノズル40を介してモールド50に注入して、鋳片61を鋳造する鋳造方法であって、溶鋼60と浸漬ノズル40を通電させて、溶鋼の中に含まれる酸素を浸漬ノズル側に排出させることができる。
鋳造を開始する前に、溶鋼60と浸漬ノズル40を通電させるための回路を構成する。回路構成は、タンディッシュ10内の溶鋼60に第1電極72を沈設し、配線を用いて、第1電極72と第2電極、即ち、ノズル本体41を連結する。そして、配線を介して、第1電極72と第2電極を、外部に設置された電源部70に連結する。
そして、鋳造が開始されると、タンディッシュ10内の溶鋼60をモールド50に注入し、電源部70を介して、第1電極72と第2電極であるノズル本体41に電源を印加する。このとき、第1電極72は陰極に、第2電極は陽極になるように設定して、電流が第1電極72から第2電極側に流れるようにする。
【0026】
電源部70を介して、第1電極72及び第2電極に印加される電力は、0.1ないし10mA/cm
2程度の電流密度で印加されるように調節する。これは、ノズル本体41の内部に備えられたライナー43がイオン伝導性が非常に高いため、比較的に小さなサイズの電流が流れても、酸素イオンが円滑に移動することができるためである。このとき、電流密度が提示された範囲より小さい場合には、金属酸化物のイオン化及び酸素イオンの移動が円滑に行われない。また、電流密度が提示された範囲内では、金属酸化物のイオン化と酸素イオンの移動が円滑に行われるので、電流密度を提示された範囲より大きくする必要がない。
このように、第1電極72と第2電極に電源が印加されると、電子が第1電極72から第2電極であるノズル本体41側に移動し、これにより、第1電極72から第2電極側に電流が流れる。
図3を基にして、再度説明すると、第1電極72と第2電極に電源が印加されると、浸漬ノズル40の内壁側に生成された金属酸化物の周辺に電子が密集し、電子によって金属酸化物が酸素イオンと陽イオンに分解される。このように分解された酸素イオンは、電子の移動方向、即ち、溶鋼からノズル本体41の方向に移動する。このとき、酸素イオンは、浸漬ノズル40の内壁に形成されたライナー43を介してノズル本体41に移動する。固体電解質であるライナー43は、酸素イオンに対してのみ透過性を有するため、陽イオンは、溶鋼の中に溶解されて吸収される。このような過程は、電源が印加される間、持続的に遂行され、浸漬ノズル40の内壁に金属酸化物が生成及び付着されるのを抑制あるいは防止することができる。したがって、金属酸化物の生成及び付着により発生するノズルの詰まり現象を防止することができる。
【0027】
以下、本発明の実施例に係る鋳造装置を用いた試験結果について説明する。
試験のために、浸漬ノズルの内壁の一部に固体電解質としてライナーを形成し、残りの部分は、ライナーを形成していない浸漬ノズルを製作した。このように製作された浸漬ノズルを用いて溶鋼13ton規模の試験設備で鋳造を実施した。このとき、2mA/cm
2の電流密度で印加するよう電源を供給した。そしてノズルの詰まり現象を加速するように、溶鋼の中にAl
2O
3介在物が多量に発生する条件を適用した。以後の試験では、最後に使用された浸漬ノズルを切断して、その内部を観察した。
【0028】
実験の結果、ライナーが適用された領域では、0.3mm以下の介在物層が付着していたが、ライナーが適用されていない領域Bでは、介在物と原材料の混合で1.8ないし3.5mm程度の介在物層が付着していることが確認された。
このような試験を通じて浸漬ノズルに固体電解質を含むライナーを形成し、溶鋼と浸漬ノズルを通電させると、溶鋼の中の酸素が除去されて、浸漬ノズル内壁で金属酸化物の生成及び付着が抑制されることを確認することができた。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施例について、図に示して説明したが、本発明は、上記した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載する本発明の要旨を逸脱することなく、当該本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、これから様々な変形及び均等な他の実施例が可能である点を理解するだろう。したがって、本発明の技術的保護範囲は、次の特許請求の範囲によって定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るノズル、鋳造装置及び鋳造方法は、鋳片を鋳造する連続鋳造工程において、ノズルの詰まり現象を抑制あるいは防止して、鋳片の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0031】
10:タンディッシュ
20:ストッパー
30:スライディングプレート
40:浸漬ノズル
41:ノズル本体、第2電極
42:吐出口
43:ライナー
45:ダミーリング
47:スラグライン部
50:モールド
60:溶鋼
61:鋳片
62:フラックス
70:電源部
72:第1電極
B:ライナーが適用されていない領域
M:金属元素
X:溶鋼の熱により膨張したライナーの長さ