特許第6582215号(P6582215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582215
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】クラッチ機構
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20190919BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   F16D41/08 Z
   F16D41/06 E
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-561416(P2016-561416)
(86)(22)【出願日】2015年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2015063494
(87)【国際公開番号】WO2016084406
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-240541(P2014-240541)
(32)【優先日】2014年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 保幸
(72)【発明者】
【氏名】須藤 歩
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/133162(WO,A1)
【文献】 特開2005−325908(JP,A)
【文献】 特開2008−025792(JP,A)
【文献】 特表2000−504396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状空間を有する収納室と、前記収納室に同軸状に収納された出力回転体と、前記出力回転体に対し同軸状に設けられた入力回転体と、前記収納室の内周面と出力回転体の外周面との間に設けられた円柱状又は球状の係合子と、前記係合子を周方向の一方側へ付勢する付勢部材とを備え、
前記出力回転体の外周面に、前記一方側へ向かって前記収納室の内周面との間を徐々に狭めるカム面と、前記カム面の前記一方側に隣接する凹部とを形成し、
前記入力回転体に、前記凹部に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに前記凹部内から遠心方向へ突出する押圧伝達部を形成し、
前記係合子を、前記カム面および前記収納室の内周面に接触するように配置し、
前記入力回転体が前記一方側に対する他方側に回転した際に、前記押圧伝達部を前記係合子に当接した後に、同押圧伝達部を前記凹部内の周方向端面に当接して前記出力回転体を押動するようにしたクラッチ機構であって、
前記付勢部材は、長尺平板状のばね材を二股状に曲げ成形したものであり、曲げ部分が出力回転体の係止部に固定され、二股状に分かれた各片部が、対応する前記係合子の外周面に当接して付勢し、
前記収納室の内径に対する前記係合子の外径の比率を、0.20以上0.2以下の範囲とし、
前記収納室の内周面と前記係合子との接線と、前記係合子と前記カム面との接線とがなす角度をθとし、前記収納室の内周面と前記係合子との静摩擦係数と、前記係合子と前記カム面との静摩擦係数とのうち、何れか小さい方の静摩擦係数をμとした場合に、sinθ/(cosθ+1)≦μの関係が成り立つように前記角度θの上限値を設定するとともに、
前記角度θの下限値を11°に設定したことを特徴とするクラッチ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転体と出力回転体との間で回転力の伝達、遮断を行うクラッチ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは通電時には回転軸に所定のトルクを発生して回転し、回転位置を制御することも可能であるが、電源が供給されない状態では回転軸の回転を制御できず、回転軸に出力側からトルクを受けると、該回転軸が簡単に回転してしまう。そのため、例えば、テープフィーダユニット等、電源を供給しないときでも、停止位置を精度よく固定させておきたい機器では、逆入力クラッチ等の回転位置保持装置を具備する必要が生じる。
このような装置には、例えば特許文献1に記載される発明のように、円柱状空間を有する収納室(11)と、収納室(11)に同軸状に収納された出力回転体(20)と、出力回転体(20)に対し同軸状に設けられた入力回転体(30)と、収納室(11)の内周面と出力回転体(20)の外周面との間に設けられた係合子(41,42)と、係合子(41,42)を周方向の一方側へ付勢する付勢部材(50)とを備える。そして、出力回転体(20)の外周面に、前記一方側へ向かって収納室(11)の内周面との間を徐々に狭めるカム面(21,23)と、カム面(21,23)の前記一方側に隣接する凹部(22)とを形成し、入力回転体(30)に、凹部(22)に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに凹部(22)内から遠心方向へ突出する押圧伝達部(31)を形成している。そして、係合子(41,42)を、カム面(21,23)および収納室(11)の内周面に接触するように配置したものがある。
【0003】
この従来技術によれば、入力回転体(30)に回転力が加わった場合には、入力回転体(30)の押圧伝達部(31)が係合子(41又は42)に当接し、係合子(41又は42)とカム面(21又は23)との摩擦、および係合子(41又は42)と収納室(11)の内周面との摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部(31)が凹部(22)内の周方向端面に当接して出力回転体(20)を押動するため、出力回転体(20)がスムーズに回転する。また、出力回転体(20)に外部から回転力が加わった場合には、回転しようとする出力回転体(20)のカム面(21又は23)と収納室(11)の内周面との間に係合子(41又は42)が強く押し付けられので、入力回転体(30)及び出力回転体(20)の回転を阻むことができる。
【0004】
しかしながら、前記従来技術では、使用条件等により、収納室(11)の内周面と係合子(41又は42)との接触面圧が大きくなりすぎると、接触面に摩耗や変形を生じ、係合子(41又は42)が滑ってロック不良を生じたり、係合子(41又は42)が、カム面(21又は23)と収納室(11)内周面との間の凹部(22)寄りに噛み込んで解除不能になったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2013/133162A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、摩耗や変形等に起因する作動不良を軽減することができるクラッチ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための一手段は、円柱状空間を有する収納室と、前記収納室に同軸状に収納された出力回転体と、前記出力回転体に対し同軸状に設けられた入力回転体と、前記収納室の内周面と出力回転体の外周面との間に設けられた円柱状又は球状の係合子と、前記係合子を周方向の一方側へ付勢する付勢部材とを備える。そして、前記出力回転体の外周面に、前記一方側へ向かって前記収納室の内周面との間を徐々に狭めるカム面と、前記カム面の前記一方側に隣接する凹部とを形成し、前記入力回転体に、前記凹部に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに、前記凹部内から遠心方向へ突出する押圧伝達部を形成している。そして、前記係合子を、前記カム面および前記収納室の内周面に接触するように配置し、前記入力回転体が前記一方側に対する他方側に回転した際に、前記押圧伝達部を前記係合子に当接した後に、同押圧伝達部を前記凹部内の周方向端面に当接して前記出力回転体を押動するようにしたクラッチ機構である。更に、前記収納室の内径に対する前記係合子の外径の比率を、0.20以上0.27以下の範囲としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上説明したように構成されているので、摩耗や変形等に起因する作動不良を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るクラッチ機構の一例について要部を示す構造図である。
図2】同クラッチ機構の縦断面図である。
図3】径比率と乗り越えトルク従来比との関係を示すグラフである。
図4】楔角と乗り越えトルク従来比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態の第一の特徴は、円柱状空間を有する収納室と、前記収納室に同軸状に収納された出力回転体と、前記出力回転体に対し同軸状に設けられた入力回転体と、前記収納室の内周面と出力回転体の外周面との間に設けられた円柱状又は球状の係合子と、前記係合子を周方向の一方側へ付勢する付勢部材とを備える。そして、前記出力回転体の外周面に、前記一方側へ向かって前記収納室の内周面との間を徐々に狭めるカム面と、前記カム面の前記一方側に隣接する凹部とを形成し、前記入力回転体に、前記凹部に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに、前記凹部内から遠心方向へ突出する押圧伝達部を形成している。そして、前記係合子を、前記カム面および前記収納室の内周面に接触するように配置し、前記入力回転体が前記一方側に対する他方側に回転した際に、前記押圧伝達部を前記係合子に当接した後に、同押圧伝達部を前記凹部内の周方向端面に当接して前記出力回転体を押動するようにしたクラッチ機構である。更に、前記収納室の内径に対する前記係合子の外径の比率を、0.20以上0.27以下の範囲とした。
この構成によれば、収納室の内周面と係合子の外周面との接触面圧を比較的小さくすることができ、このことによって、収納室と係合子との接触面における摩耗及び変形を低減することができる。したがって、係合子が滑ってロック不良を生じたり、係合子が収納室内周面とカム面との間で前記凹部寄りに噛み込んで解除不能になったり等の作動不良を軽減することができる。
【0011】
第二の特徴としては、作動不良等をより効果的に軽減するために、前記収納室の内径に対する前記係合子の外径の比率を、0.25以下とした。
【0012】
第三の特徴としては、作動不良等をより効果的に軽減するために、前記収納室の内周面と前記係合子との接線と、前記係合子と前記カム面との接線とがなす角度をθとし、前記収納室の内周面と前記係合子との静摩擦係数と、前記係合子と前記カム面との静摩擦係数とのうち、何れか小さい方の静摩擦係数をμとした場合に、sinθ/(cosθ+1)≦μの関係が成り立つように前記角度θの上限値を設定するとともに、前記角度θの下限値を11°に設定した。
【実施例】
【0013】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
このクラッチ機構1は、図2の(A)−(A)線断面である図1および図1の(B)−(B)線方向から見たクラッチ機構1の側断面図である図2に示すように、収納室11を有する固定部材10と、収納室11に同軸状に収納された出力回転体20と、出力回転体20に対し同軸状に設けられた入力回転体30(図2参照)を有する。そして、収納室内周面11aと出力回転体20の外周面との間に設けられた一対の係合子41,42と、一方の係合子41を周方向の一方側(図1によれば時計方向側)へ付勢するとともに他方の係合子42を周方向の他方側(図1によれば反時計方向側)へ付勢する付勢部材50とを備える。
【0015】
このクラッチ機構1は、入力回転体30に回転力を発生させた際に、この回転力を出力回転体20に伝達して該出力回転体20を回転させ、また、出力回転体20に対し外部から回転力が加わった際には、該出力回転体20を回転不能にロックする。
【0016】
固定部材10内部の収納室11は、内周面11aにより囲まれた略円柱状の空間である。内周面11aは、凹凸のない円筒内周面状の曲面である。
固定部材10は、図示しない不動部位(例えば、テープフィーダの支持基板等)に、回転不能に固定される。
【0017】
出力回転体20は、収納室11に同芯状に配置された略円板状の部材であり、その中心側が固定部材10に対し回転自在に支持されている。この出力回転体20は、固定部材10に対し回転自在に嵌め合せられるとともに、その中心部に、外部へ露出した出力軸24を一体に有する。
この出力回転体20の外周部には、周方向の一方側(図1によれば時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める一方のカム面21と、前記一方のカム面21に背反するように他方側(図1によれば反時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める他方のカム面23とが形成されている。そして、カム面21又は23に隣接する凹部22と、付勢部材50を係止するための係止部25とが、所定角度(等間隔)置きに複数組(図示例によれば3組)並べ設けられる。
【0018】
カム面21とカム面23は、左右対称に設けられる。各カム面21,23は、周方向に湾曲する凸曲面状に形成され、より詳細に説明すれば、収納室内周面11aの半径から、各係合子41,42の直径を減じた値よりも大きな半径の円弧状に形成されるとともに、該円弧の中心位置を出力回転体20の中心位置からずらすようにしている。
【0019】
凹部22は、出力回転体20の外周面から求心方向へ凹むとともに、出力回転体20を軸方向へ貫通している。この凹部22内の周方向の両端には、後述する入力回転体30の押圧伝達部31によって押圧される被押圧面22a,22bを有する。これら被押圧面22a,22bは、径方向へわたる平坦面状に形成され、一方の被押圧面22aは、一方のカム面21と交差し、他方の被押圧面22bは、他方のカム面23と交差している。
【0020】
係止部25は、出力回転体20の外周部において、背反する一方のカム面21と他方のカム面23との間に凹状に形成される。
【0021】
入力回転体30は、出力回転体20に対し軸方向へ並ぶように設けられた略円盤状の部材である(図2参照)。
この入力回転体30は、中心側において、軸方向の一端側(図2によれば左端側)を出力回転体20に対し双方向へ回動するように嵌め合せ、また、軸方向の他端側に、軸部33を突設している。軸部33は、回転力を入力するための入力軸として用いてもよいし、該入力回転体30を安定的に回転支持するための支持軸として用いてもよい。
また、入力回転体30における出力回転体20側の側面には、凹部22毎に対応するように、周方向に所定間隔を置いて複数(図示例によれば3つ)の押圧伝達部31が突設されている。
【0022】
押圧伝達部31は、出力回転体20の凹部22に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに、凹部22内から遠心方向へ突出する略扇形状に形成され、周方向の両端部に、出力回転体20の被押圧面22a,22bに当接可能であって、且つ係合子41,42にも当接可能な当接面31a,31bを有する。
【0023】
また、係合子41,42は、円柱状又は球状(図示例によれば円柱状)に形成され、一方及び他方のカム面21,23に対応して一対に設けられている。
一対の係合子41,42のうち、一方の係合子41は、一方のカム面21および収納室内周面11aに接触するように配置され、他方の係合子42は、他方のカム面23および収納室内周面11aに接触するように配置される。
そして、各係合子41,42は、後述する付勢部材50に押圧された状態で、凹部22の各被押圧面22a,22bよりも凹部22内側へ若干突出した位置に静止している。
【0024】
付勢部材50は、長尺平板状のばね材をY字二股状に曲げ成形したものであり、その曲げ部分が出力回転体20の係止部25に嵌合固定される。
この付勢部材50において、二股状に分かれた各片部は、対応する係合子41又は42の外周面に当接して、係合子41又は42を、カム面21又は23と収納室内周面11aとの間に押し付けている。
【0025】
次に、上記構成のクラッチ機構1の動作について詳細に説明する。
先ず、出力回転体20及び入力回転体30の何れにも回転力が加わっていない状態(図1参照)では、係合子41,42が、それぞれ、付勢部材50に押圧されて、カム面21又は23と収納室11の内周面11aとの間の楔状部分に押し付けられ、出力回転体20が静止状態に維持される。
【0026】
前記状態において、入力回転体30に、一方向への回転力が加わった場合には、入力回転体30の押圧伝達部31が、先ず一方の係合子41に当接することで、該係合子41とカム面21との摩擦、および該係合子41と収納室内周面11aとの摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部31が凹部22内の被押圧面22aに当接して出力回転体20を押動する。このため、出力回転体20が前記一方向へスムーズに回転する。
また、入力回転体30に前記一方向に対する逆方向の回転力が加わった場合も、前記と略同様にして、出力回転体20が前記逆方向へスムーズに回転する。
【0027】
また、前記静止状態において、出力回転体20に外部から一方向又は他方向への回転力が加わった場合には、回転しようとする出力回転体20のカム面21又は23と収納室内周面11aとの間に、係合子41又は42が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体20の回転が阻まれる。
【0028】
上記構成のクラッチ機構1において、本願発明者らは、試行錯誤の実験の末、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率を特定の範囲の値に限定することで、作動不良を著しく軽減できることを見出した。以下、これについて詳細に説明する。
【0029】
図3は、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率(以降、径比率と称する。)と、乗り越えトルク従来比との関係を実験的に求めたグラフである。
ここで、乗り越えトルクとは、係合子41又は42が、対応するカム面21又は23と収納室内周面11aとの間を通って、カム面21と被押圧面22aとが交差する角部xを凹部22側へ乗り越えてしまうトルクを意味する。前記乗り越えを生じた場合には、作動不良を生じることになる。
そして、前記乗越えトルク従来比とは、本実施例を適用する前のクラッチ機構の乗り越えトルクに対する本実施例の乗り越えトルクの比率を示している。
また、図3のグラフ中、楔角θとは、係合子41又は42と、対応するカム面21又は23とがなす角度(図1参照)を意味する。
なお、本実施例を適用する前のクラッチ機構は、特許文献1の実施例の構造を具備し、径比率が約0.17、楔角が約10°であり、乗り越えトルクが約53mNmである。
【0030】
図3のグラフより、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率は、乗り越えトルク従来比が1よりも大きくなるように、0.20以上0.27以下の範囲に設定するのが好ましく、さらには、前記範囲にて0.25以下に設定するのが好ましいといえる。
また、前記範囲にて前記比率の上限値と下限値を設定した場合、乗り越えトルクが極大値の約1/2とするのが好ましく、その範囲に適合する径比率と楔角θを設定することが望ましい。
【0031】
また、楔角θについて更に述べれば、収納室11の内周面と係合子41又は42との静摩擦係数と、係合子41又は42と対応するカム面21又は23との静摩擦係数とのうち、何れか小さい方の静摩擦係数をμとした場合に、上記特許文献1にて示した条件式sinθ/(cosθ+1)≦μの関係が成り立つように楔角θの上限値を設定するとともに、該楔角θの下限値を11°に設定するのが好ましい。
楔角θが前記上限値を超える場合には、係合子41又は42がロックされずに滑ってしまう可能性が顕著に高くなる。また、楔角θが上記下限値を下回る場合には、接触面圧が高くなりすぎて各接触面の損傷が早期に進行してしまうおそれがある。
【0032】
また、図4は、楔角θと乗り越えトルク従来比との関係を実験的に調査してグラフ化したものである。
このグラフより、径比率を0.24とした場合には、少なくとも楔角θが10°以上18°以下の範囲で、乗り越えトルク従来比を1以上確保することができるといえる。また、楔角θのより好ましい範囲は、12°以上18°以下であり、さらに好ましい範囲は、14°以上16°以下である。
【0033】
よって、本実施例のクラッチ機構1によれば、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率、及び楔角θを上述したとおり適宜に設定したため、角部xの摩耗や変形を抑制するとともに、前記乗り越えトルクを比較的大きく確保して、係合子41又は42が角部xを乗り越えて噛み込むのを防ぐことができ、さらには、係合子41又は42の滑りや、各接触面の損傷等を防ぐことができ、これらの結果、作動不良を著しく軽減することができる。
【0034】
なお、上記実施例によれば、外部から、出力回転体20に対し一方向と他方向(時計方向と反時計方向)の何れの方向の回転力を加えた場合でも、係合子41,42等の作用によって出力回転体20が拘束されるようにしたが、他例としては、何れか一方向の回転力を加えた場合のみ出力回転体20を拘束する態様とすることが可能である。この態様は、例えば、上記クラッチ機構1から一方の係合子41を全て省いた構成とすればよい。
【0035】
また、上記実施例によれば、固定部材10に対し出力回転体20を回転自在に支持し、さらに出力回転体20に対し入力回転体30を回転自在に支持する構成(図2参照)としたが、この支持構造は、出力回転体20と入力回転体30がそれぞれ双方向へ回転する支持構造であればよく、他例としては、単一の軸部材によって出力回転体20と入力回転体30をそれぞれ回転自在に支持する構造等とすることが可能である。
【0036】
また、上記実施例によれば、出力回転体20の外周部に、カム面21,23、凹部22、係合子41,42及び付勢部材50等を3組並べ設けたが、他例としては、これらを2組又は4組以上設けることも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1:クラッチ機構
10:固定部材
11:収納室
11a:収納室内周面
20:出力回転体
21,23:カム面
22:凹部
22a,22b:被押圧面
30:入力回転体
31:押圧伝達部
31a,31b:当接面
41,42:係合子
50:付勢部材
図1
図2
図3
図4