【実施例】
【0013】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
このクラッチ機構1は、
図2の(A)−(A)線断面である
図1および
図1の(B)−(B)線方向から見たクラッチ機構1の側断面図である
図2に示すように、収納室11を有する固定部材10と、収納室11に同軸状に収納された出力回転体20と、出力回転体20に対し同軸状に設けられた入力回転体30(
図2参照)を有する。そして、収納室内周面11aと出力回転体20の外周面との間に設けられた一対の係合子41,42と、一方の係合子41を周方向の一方側(
図1によれば時計方向側)へ付勢するとともに他方の係合子42を周方向の他方側(
図1によれば反時計方向側)へ付勢する付勢部材50とを備える。
【0015】
このクラッチ機構1は、入力回転体30に回転力を発生させた際に、この回転力を出力回転体20に伝達して該出力回転体20を回転させ、また、出力回転体20に対し外部から回転力が加わった際には、該出力回転体20を回転不能にロックする。
【0016】
固定部材10内部の収納室11は、内周面11aにより囲まれた略円柱状の空間である。内周面11aは、凹凸のない円筒内周面状の曲面である。
固定部材10は、図示しない不動部位(例えば、テープフィーダの支持基板等)に、回転不能に固定される。
【0017】
出力回転体20は、収納室11に同芯状に配置された略円板状の部材であり、その中心側が固定部材10に対し回転自在に支持されている。この出力回転体20は、固定部材10に対し回転自在に嵌め合せられるとともに、その中心部に、外部へ露出した出力軸24を一体に有する。
この出力回転体20の外周部には、周方向の一方側(
図1によれば時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める一方のカム面21と、前記一方のカム面21に背反するように他方側(
図1によれば反時計方向側)へ向かって収納室11の内周面11aとの間を徐々に狭める他方のカム面23とが形成されている。そして、カム面21又は23に隣接する凹部22と、付勢部材50を係止するための係止部25とが、所定角度(等間隔)置きに複数組(図示例によれば3組)並べ設けられる。
【0018】
カム面21とカム面23は、左右対称に設けられる。各カム面21,23は、周方向に湾曲する凸曲面状に形成され、より詳細に説明すれば、収納室内周面11aの半径から、各係合子41,42の直径を減じた値よりも大きな半径の円弧状に形成されるとともに、該円弧の中心位置を出力回転体20の中心位置からずらすようにしている。
【0019】
凹部22は、出力回転体20の外周面から求心方向へ凹むとともに、出力回転体20を軸方向へ貫通している。この凹部22内の周方向の両端には、後述する入力回転体30の押圧伝達部31によって押圧される被押圧面22a,22bを有する。これら被押圧面22a,22bは、径方向へわたる平坦面状に形成され、一方の被押圧面22aは、一方のカム面21と交差し、他方の被押圧面22bは、他方のカム面23と交差している。
【0020】
係止部25は、出力回転体20の外周部において、背反する一方のカム面21と他方のカム面23との間に凹状に形成される。
【0021】
入力回転体30は、出力回転体20に対し軸方向へ並ぶように設けられた略円盤状の部材である(
図2参照)。
この入力回転体30は、中心側において、軸方向の一端側(
図2によれば左端側)を出力回転体20に対し双方向へ回動するように嵌め合せ、また、軸方向の他端側に、軸部33を突設している。軸部33は、回転力を入力するための入力軸として用いてもよいし、該入力回転体30を安定的に回転支持するための支持軸として用いてもよい。
また、入力回転体30における出力回転体20側の側面には、凹部22毎に対応するように、周方向に所定間隔を置いて複数(図示例によれば3つ)の押圧伝達部31が突設されている。
【0022】
押圧伝達部31は、出力回転体20の凹部22に対し周方向の遊びを有する状態で嵌り合うとともに、凹部22内から遠心方向へ突出する略扇形状に形成され、周方向の両端部に、出力回転体20の被押圧面22a,22bに当接可能であって、且つ係合子41,42にも当接可能な当接面31a,31bを有する。
【0023】
また、係合子41,42は、円柱状又は球状(図示例によれば円柱状)に形成され、一方及び他方のカム面21,23に対応して一対に設けられている。
一対の係合子41,42のうち、一方の係合子41は、一方のカム面21および収納室内周面11aに接触するように配置され、他方の係合子42は、他方のカム面23および収納室内周面11aに接触するように配置される。
そして、各係合子41,42は、後述する付勢部材50に押圧された状態で、凹部22の各被押圧面22a,22bよりも凹部22内側へ若干突出した位置に静止している。
【0024】
付勢部材50は、長尺平板状のばね材をY字二股状に曲げ成形したものであり、その曲げ部分が出力回転体20の係止部25に嵌合固定される。
この付勢部材50において、二股状に分かれた各片部は、対応する係合子41又は42の外周面に当接して、係合子41又は42を、カム面21又は23と収納室内周面11aとの間に押し付けている。
【0025】
次に、上記構成のクラッチ機構1の動作について詳細に説明する。
先ず、出力回転体20及び入力回転体30の何れにも回転力が加わっていない状態(
図1参照)では、係合子41,42が、それぞれ、付勢部材50に押圧されて、カム面21又は23と収納室11の内周面11aとの間の楔状部分に押し付けられ、出力回転体20が静止状態に維持される。
【0026】
前記状態において、入力回転体30に、一方向への回転力が加わった場合には、入力回転体30の押圧伝達部31が、先ず一方の係合子41に当接することで、該係合子41とカム面21との摩擦、および該係合子41と収納室内周面11aとの摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部31が凹部22内の被押圧面22aに当接して出力回転体20を押動する。このため、出力回転体20が前記一方向へスムーズに回転する。
また、入力回転体30に前記一方向に対する逆方向の回転力が加わった場合も、前記と略同様にして、出力回転体20が前記逆方向へスムーズに回転する。
【0027】
また、前記静止状態において、出力回転体20に外部から一方向又は他方向への回転力が加わった場合には、回転しようとする出力回転体20のカム面21又は23と収納室内周面11aとの間に、係合子41又は42が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体20の回転が阻まれる。
【0028】
上記構成のクラッチ機構1において、本願発明者らは、試行錯誤の実験の末、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率を特定の範囲の値に限定することで、作動不良を著しく軽減できることを見出した。以下、これについて詳細に説明する。
【0029】
図3は、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率(以降、径比率と称する。)と、乗り越えトルク従来比との関係を実験的に求めたグラフである。
ここで、乗り越えトルクとは、係合子41又は42が、対応するカム面21又は23と収納室内周面11aとの間を通って、カム面21と被押圧面22aとが交差する角部xを凹部22側へ乗り越えてしまうトルクを意味する。前記乗り越えを生じた場合には、作動不良を生じることになる。
そして、前記乗越えトルク従来比とは、本実施例を適用する前のクラッチ機構の乗り越えトルクに対する本実施例の乗り越えトルクの比率を示している。
また、
図3のグラフ中、楔角θとは、係合子41又は42と、対応するカム面21又は23とがなす角度(
図1参照)を意味する。
なお、本実施例を適用する前のクラッチ機構は、特許文献1の実施例の構造を具備し、径比率が約0.17、楔角が約10°であり、乗り越えトルクが約53mNmである。
【0030】
図3のグラフより、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率は、乗り越えトルク従来比が1よりも大きくなるように、0.20以上0.27以下の範囲に設定するのが好ましく、さらには、前記範囲にて0.25以下に設定するのが好ましいといえる。
また、前記範囲にて前記比率の上限値と下限値を設定した場合、乗り越えトルクが極大値の約1/2とするのが好ましく、その範囲に適合する径比率と楔角θを設定することが望ましい。
【0031】
また、楔角θについて更に述べれば、収納室11の内周面と係合子41又は42との静摩擦係数と、係合子41又は42と対応するカム面21又は23との静摩擦係数とのうち、何れか小さい方の静摩擦係数をμとした場合に、上記特許文献1にて示した条件式sinθ/(cosθ+1)≦μの関係が成り立つように楔角θの上限値を設定するとともに、該楔角θの下限値を11°に設定するのが好ましい。
楔角θが前記上限値を超える場合には、係合子41又は42がロックされずに滑ってしまう可能性が顕著に高くなる。また、楔角θが上記下限値を下回る場合には、接触面圧が高くなりすぎて各接触面の損傷が早期に進行してしまうおそれがある。
【0032】
また、
図4は、楔角θと乗り越えトルク従来比との関係を実験的に調査してグラフ化したものである。
このグラフより、径比率を0.24とした場合には、少なくとも楔角θが10°以上18°以下の範囲で、乗り越えトルク従来比を1以上確保することができるといえる。また、楔角θのより好ましい範囲は、12°以上18°以下であり、さらに好ましい範囲は、14°以上16°以下である。
【0033】
よって、本実施例のクラッチ機構1によれば、収納室11の内径Dに対する係合子41,42の外径dの比率、及び楔角θを上述したとおり適宜に設定したため、角部xの摩耗や変形を抑制するとともに、前記乗り越えトルクを比較的大きく確保して、係合子41又は42が角部xを乗り越えて噛み込むのを防ぐことができ、さらには、係合子41又は42の滑りや、各接触面の損傷等を防ぐことができ、これらの結果、作動不良を著しく軽減することができる。
【0034】
なお、上記実施例によれば、外部から、出力回転体20に対し一方向と他方向(時計方向と反時計方向)の何れの方向の回転力を加えた場合でも、係合子41,42等の作用によって出力回転体20が拘束されるようにしたが、他例としては、何れか一方向の回転力を加えた場合のみ出力回転体20を拘束する態様とすることが可能である。この態様は、例えば、上記クラッチ機構1から一方の係合子41を全て省いた構成とすればよい。
【0035】
また、上記実施例によれば、固定部材10に対し出力回転体20を回転自在に支持し、さらに出力回転体20に対し入力回転体30を回転自在に支持する構成(
図2参照)としたが、この支持構造は、出力回転体20と入力回転体30がそれぞれ双方向へ回転する支持構造であればよく、他例としては、単一の軸部材によって出力回転体20と入力回転体30をそれぞれ回転自在に支持する構造等とすることが可能である。
【0036】
また、上記実施例によれば、出力回転体20の外周部に、カム面21,23、凹部22、係合子41,42及び付勢部材50等を3組並べ設けたが、他例としては、これらを2組又は4組以上設けることも可能である。