【実施例】
【0016】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る三相ブラシレスDCモータの制御方法を用いたモータ制御装置の一例を示すブロック図である。
このモータ制御装置Aは、モータ10の磁気検出部Hc,Hsの出力に基づき転流角度を計算する演算部20と、該演算部20の出力信号に基づきインバータ回路に駆動指令を発する制御部30と、この制御部30の駆動指令に基づき三相ブラシレスDCモータへ駆動電力を供給するインバータ回路40とを備えている。
【0018】
モータ10は、
図2に示すように、マグネットのN極とS極を周方向へ交互に配置したロータ11と、該ロータ11の周囲に配設された三相コイル12と、該ロータ11の周囲に周方向に間隔を置いて配置された二つの磁気検出部Hc,Hsと、三相コイル12を内周面に固定したハウジング13とを備えた三相ブラシレスDCモータである。
【0019】
ロータ11は、長尺円筒状の2極のマグネット(永久磁石)により構成され、その径方向の一端側をN極とするとともに他端側をS極としている。
このロータ11の中心部には、長尺軸状のシャフト(図示せず)が固定され、該シャフトはその両端側もしくは一端側が軸受(図示せず)により回転自在に支持されている。
【0020】
三相コイル12は、
図2に示すように、U相コイル12u、V相コイル12v、W相コイル12wの3つを、角度120°間隔となるように配置し、ハウジング13の内周面に固定される。
U相コイル12u、V相コイル12v、W相コイル12wの各々は、コギングトルクの発生を抑制するために、各コイル内に磁性体コアを有さない構成とされる。
そして、これらU相コイル12u、V相コイル12v、W相コイル12wは、例えば、スター結線やデルタ結線等、周知のモータ結線方法により結線されている。
【0021】
また、ハウジング13は、磁性材料(例えばパーマロイ等)から円筒状に形成されており、三相コイル12によって生じる電磁力を強めるように作用する。
このハウジング13は、本実施例の作用効果を効果的に発揮する態様として、外径7mm以下のものを用いている。
【0022】
磁気検出部Hc,Hsの各々は、磁束を検出し、その磁束に比例した電圧信号を出力するホール素子である。
図示例によれば、一方の磁気検出部Hsは、周方向においてV相コイル12vとW相コイル12wの間の中央となる位置(換言すればU相コイル12uに対し180°間隔を置いて対向する位置)に配置される。
他方の磁気検出部Hcは、一方の磁気検出部Hsに対し、V相コイル12v側(図示例によれば、反時計回り)に90°間隔を置いて配置される。
磁気検出部Hc,Hsは、それぞれ、数百mV以下のアナログ電圧を電圧信号として出力し、この電圧信号は、差動増幅回路などの増幅回路によって増幅する。本実施例では、
図4に示すように0〜5Vの範囲で増幅した電圧信号を得られるように構成した。
【0023】
また、演算部20は、記憶装置及び演算処理回路等を具備した電子回路(例えばワンチップマイコン等)であり、磁気検出部Hc,Hsの各々から入力したアナログ電圧を演算処理する。
この演算部20は、磁気検出部Hc,Hsからの入力があると、これら磁気検出部Hc,Hsの出力電圧を、後述する式1に基づいて逆正接角度に変換し、この逆正接角度を制御部30に入力する。
【0024】
制御部30は、演算部20から入力される信号に応じて、インバータ回路40に3相の駆動指令を発する電子回路であり、例えば、記憶装置に記憶したプログラムを実行してCPUを機能させるようにしたマイコン等により構成される。
この制御部30は、二つの磁気検出部Hc,Hsの出力から把握される回転角度に応じて、三相コイル12の電流方向を変化させて(言い換えれば転流して)ロータ11を回転させるように、インバータ回路40に駆動指令を発する。
【0025】
インバータ回路40は、制御部30から入力した駆動指令に応じて、位相を120°ずらした三相交流を出力する電子回路である。
このインバータ回路40には、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)方式のインバータが用いられる。
【0026】
次に、モータ制御装置Aを用いた三相ブラシレスDCモータの制御方法について詳細に説明する。
この制御方法では、モータ10を駆動回転させる前段階として、モータ10を強制的に1回転以上回転させ、その直後に、三相コイル12のうちの二相のみに、一方をN極に他方をS極にするように駆動電力を通電することで、ロータ11を静止させ、この静止状態で二つの磁気検出部Hc,Hsの出力をそれぞれ測定する(以降、この工程を測定工程と称する。)。この測定工程は、通常、同一のモータについて、実運転の前に1回のみ行えばよいが、実運転の度にその前に行ったり、あるいは定期的に行ったりすることも可能である。
そして、モータ10を実運転する際には、この測定工程による測定値を転流の基準に用いた転流制御や、回転位置制御等が行われる。
【0027】
詳細に説明すれば、先ず、制御部30によって所定の時間間隔で三相コイル12の転流を行い、モータ10を1回転程度、強制回転させる。この時間間隔は、モータ10を所定の回転速度で1回転以上回転させるように、実験又は計算等によって予め求められた値を用いる。
なお、図示例では、
図2に示す位置を初期位置として、ロータ11を1回転以上回転させるようにしている。
【0028】
次に、先の強制回転の直後に、
図3及び
図10に示す測定工程が行われる。
この測定工程では、先ず、ロータ11を初期位置から約90°回転した位置で静止するように、三相コイル12のうちの二つの相を、転流を行わない通電状態に維持し(例えば
図3(a)の例示によればW相コイル12wをN極、V相コイル12vをS極に維持し)、この静止状態のまま、磁気検出部Hc,Hsの出力電圧を測定する。
【0029】
次に、ロータ11が静止状態から約60°(換言すれば初期位置から約150°)回転した位置で静止するように、三相コイル12のうちの二つの相を、転流を行わない通電状態に維持し(例えば
図3(b)の例示によればV相コイル12vをS極、U相コイル12uをN極に維持し)、この静止状態のまま、磁気検出部Hc,Hsの出力を測定する。
【0030】
以後、同様にして、通電する相や極を変化させて、ロータ11を直前の静止状態から約60°回転した位置で静止させる毎に、磁気検出部Hc,Hsの出力を測定する。
すなわち、ロータ11を前述のように静止させて磁気検出部Hc,Hsの出力を測定する操作が、
図3(a)〜(f)及び
図10ステップ1〜6に示すように、計6回行われる。
【0031】
図4は、測定工程におけるロータ角度、磁気検出部Hsの出力電圧、磁気検出部Hcの出力電圧等の関係を表にしたものである。
この表中の「通電パターン」において、「W→V」や「U→V」等は、「→」の左側に示す相のコイルがN極、同「→」の右側に示す相のコイルがS極になるように通電することを意味する。
同表中、「ロータ角度」は、
図2の状態を0°とした場合のロータ11の機械的な角度であり、以降、角度Aと称する場合もある。
同表中、「Hs信号」は、磁気検出部Hsの出力電圧であり、2.5Vを中心としたサインカーブ上に位置する。
同表中、「Hc信号」は、磁気検出部Hcの出力電圧であり、2.5Vを中心としたコサインカーブ上に位置する。
【0032】
次に、測定工程による測定値(
図4参照)に基づき、実運転にて転流の基準にするための6つの転流角度a,b,c,d,e,fを求める(
図10のステップ7)。
詳細に説明すれば、先ず、以下の式1に基づき逆正接角度を求める。
逆正接角度(°)=arctan((Hs信号−中心電圧)/(Hc信号−中心電圧))・・・式1
ここで、中心電圧は、磁気検出部Hc,Hsの出力範囲の中心となる電圧であり、図示例によれば2.5Vである。
【0033】
この数式による計算の結果は、例えば、
図5の表のようになる。
図5の表中、2列目は、「Hs信号−中心電圧」の値を示し、0Vを中心としたサインカーブ上に位置する。
また、
図5の表中、3列目は、「Hc信号−中心電圧」の値を示し、0Vを中心としたコサインカーブ上に位置する。
【0034】
また、
図5の表中、4列目の「逆正接角度」は、数式により求められた逆正接の角度である。図示例によれば、この角度は、通電パターンの変化に伴い、例えば、0°→60°→−60°→0°→60°→−60°のように変化する。なお、
図5の表中の逆正接角度は、理論値を示しているが、実際の測定値に基づく逆正接角度は、磁気検出部Hc,Hsの出力電圧に応じて、表中の数値以外の数値になる場合がある。
【0035】
また、
図5の表中、右端の列は、逆正接角度を、磁気検出部Hc,Hsの正負情報に応じた計算によってロータ1回転内の絶対角度に変換したものであり、回転位置制御の基準として用いる。以降、この絶対角度を、角度Bと称する場合もある。
角度Bは、二つの磁気検出部Hc,Hsの出力値から計算される角度である。図示例の場合、角度Bは、角度Aよりも90°小さい角度になっている(
図6参照)。
【0036】
なお、上述した強制回転及び演算工程等は、例えば、制御部30内に組み込まれたプログラムにより、自動的に行えばよいが、他例としては、図示しない制御回路及び測定器を用いて手動で行うことも可能である。
【0037】
次に、モータ10を実運転する際の制御について、
図7及び
図11に基づいて詳細に説明する。
例えば、
図7(a)に示す位置を初期位置とし、ロータ11を時計方向へ回転させる場合、先ず、W相がN極、V相がS極となるように、三相コイル12への通電が行われる。
【0038】
そして、制御部30は、演算部20から入力された角度Bが、上記測定工程にて記録した転流角度bになるのを待ち(
図11:ステップ11)、転流角度bになったならば転流を行う(ステップ12)。すなわち、U相がN極、V相がS極になるように、U相からV相に向かって電流を流す(
図7(b)参照)。
【0039】
次に、制御部30は、演算部20から入力された角度Bが、上記測定工程にて記録した転流角度cになるのを待ち(ステップ13)、転流角度cになったならば転流を行う(ステップ14)。すなわち、U相がN極、W相がS極になるように、U相からW相に向かって電流を流す(
図7(c)参照)。
【0040】
以降、
図7〜9及び
図11に順次に示すように、二つの磁気検出部Hc,Hsの出力値から計算される角度Bが、上記測定工程にて記録した次の転流角度になる毎に転流を行う処理を繰り返すことで、ロータ11の回転が継続する。
なお、
図7〜9中、「sin」は一方の磁気検出部Hsを示し、「cos」は他方の磁気検出部Hcを示す。
また、
図7〜9中のグラフは、磁気検出部Hs,Hcの出力波形を示し、同グラフ中の太い縦線は、その回転位置において、磁気検出部Hc,Hsの出力値から計算される回転角(角度B)を示す。
【0041】
また、モータ10を回転位置制御する場合、制御部30は、
図12に示すように、上述した転流制御による実運転中(ステップ31)、演算部20からの入力に基づき、上記測定工程による測定値を回転位置の基準とした回転角度を求め、この回転角度が予め設定された目標値になるのを待ち(ステップ32)、目標値となった場合に、制動のための電流を三相コイル12に流して、ロータ11の回転を停止する(ステップ33)。
ここで、回転位置の基準は、例えば、
図3(a)に示す状態の磁気検出部Hc,Hsの測定値から計算される角度Bとすればよい。
また、回転角度は、演算部20から入力された逆正接角度を、磁気検出部Hc,Hs出力の正負情報に応じた計算によってロータ1回転内の絶対角度に変換することで算出される(
図5参照)。
また、目標値は、ロータ11を停止させる回転角度であり、図示しない記憶装置に予め記憶されたものとすればよい。
【0042】
よって、上述した三相ブラシレスDCモータの制御方法及び該制御方法を用いたモータ制御装置Aによれば、高精度な制御を行える。具体的には、ロット毎や製品毎に、三相コイル12における二つの相のコイル間の間隔や、三相コイル12と磁気検出部Hc,Hsとの位置関係、その他各部の寸法がばらついた場合でも、個々の製品毎に行う上記測定工程によって測定される測定値を回転位置の基準に用いるようにしているため、転流のタイミングのずれによりモータ効率が低下したり、回転位置制御における停止位置の精度が低下したりするのを防ぐことができる。また、特に比較的小径なモータを構成した場合でも、高精度な制御を行うことができる。
【0043】
なお、図示例によれば、2極3スロットの三相ブラシレスDCモータを構成しているが、他例としては、4極以上や6スロット以上等、図示例以外の極数及びスロット数の三相ブラシレスDCモータを構成することも可能である。
この他例では、極数及びスロット数に応じて、上述した測定工程における測定回数および通電相の切り換え順序、実運転における転流の回数および通電相の切り換え順序等を適宜に変更する。また、必要に応じて、初期位置からの転流回数をカウントし、そのカウント値を回転角度の算出に用いてもよい。
【0044】
また、上記実施例では、比較的安価な態様として、磁気検出部Hc,Hsにホール素子を用いたが、これら磁気検出部Hc,Hsの他例としては、磁気抵抗素子や、その他の回転検出センサを用いることも可能である。