【実施例】
【0087】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は本発明を限定的に解釈するためのものではない。
【0088】
[参考例1]
<採血>
本参考例および後述の実施例では適切な手続の下、母体血及び一般血の提供を受けた。母体血は、試験研究用として妊娠33週の妊婦から提供されたものである。胎児の性別は男性である。本実施例において用いられた一般血は、試験研究用として妊婦ではない人から提供されたものである。母体血及び一般血の採取は医療機関においてなされた。これらの血液は適正な管理の下、発明者らの研究室に輸送された。
【0089】
本参考例では母体血20mlを出発材料として使用し、採血後2時間で処理を開始した。
【0090】
全自動セルカウンターTC20(BIORAD)で測定したところ、母体血10mlには3.16×10
10個の血球が含まれていた。母体血をPBS(リン酸塩緩衝食塩水)で2倍に希釈した。
【0091】
<有核赤血球の濃縮>
母体血中の有核赤血球を密度勾配遠心法で濃縮した。ここで濃縮とは、有核赤血球以外の血球を除去することである。濃縮において母体血から除去される血球は無核の赤血球であることが好ましい。濃縮において母体血から血小板も除去されることがさらに好ましい。
【0092】
密度勾配積層遠心により有核赤血球の濃縮された画分Aが得られた。濃縮後において、画分A中における全血球に対する有核赤血球の割合は、母体血試料中における全血球に対する有核赤血球の割合よりも大きくなる。
【0093】
密度勾配積層遠心による分画は以下のように行った。パーコール及び食塩水を用いて密度1.085g/ml及び1.075g/mlの等張液を作成した。遠心管にこれらを順に積層した後、さらに母体血10mlを重層した。係る遠心管を20℃、1750Gで30分間遠心した。
【0094】
図4に密度勾配積層遠心の結果の模式図が表されている。遠心管46には上から順に、層45a〜fが形成されている。層45aには血漿が濃縮されている。層45bには白血球43が濃縮されている。層45a及びbの密度は1.075g/mlよりも小さいと考えられる。層45cは密度1.075g/mlの等張液の層である。
【0095】
図4に示す層45dには有核赤血球41が濃縮されている。層45dの密度は1.075g/mlよりも大きく、1.085g/mlよりも小さいと考えられる。層45dを分取するとともに血球を洗浄することで有核赤血球を含む画分を得た。かかる画分を試料1とした。試料1中の血球数を、全自動セルカウンターTC20を用いて測定した。血球数は約9.95×10
6個であった。
【0096】
図4に示す層45eは密度1.085g/mlの等張液の層である。層45fには無核赤血球42が濃縮されている。層45fの密度は1.085g/mlよりも大きいと考えられる。
【0097】
試料1の半分量を画分Aとして用い、以下の蛍光標識のステップを行った。
【0098】
<蛍光標識>
画分Aの血球をHoechst33342(Sigma−Aldrich製)、抗CD45-PE標識抗体(Miltenyi-Biotec製、クローン名:5B1)、及び抗CD235a-FITC標識抗体(Miltenyi-Biotec製、クローン名:REA175)で同時に染色した。染色に際して血球の架橋固定は行わなかった。染色は4℃で、10分間行った。染色後、血球の懸濁液を4℃、300Gの条件で10分間遠心することで標識された血球を回収した。
【0099】
抗体の希釈に際し、抗CD45-PE標識抗体と緩衝液との間の体積の比(希釈率)を1:10とした。また、抗CD235a-FITC標識抗体と緩衝液との間の体積の比(希釈率)を1:1099とした。
【0100】
セルソーティングで画分Aをさらに分画した。セルソーターとして
図4の模式図に示すセルソーターを用いた。係るセルソーターは血球を蛍光検出するものである。
【0101】
まず
図4に示す主流路47内に蛍光標識された画分Aを含む定常的な液体流を作る。液体流中の血球48aに励起光を投射して蛍光により標識のシグナルの有無を検出する。副流路49は主流路47と交差する。血球48aは主流路47と副流路49との交差点に向かって流れる。
【0102】
図4に示す血球48bはシグナルの検出された血球である。係る血球は主流路47内を流れて来て交差点に入る。副流路49では液体流と交差する方向にパルス流を生じることが出来る。上述のシグナルに基づき、血球48bを標的としてパルス流を発生させる。
【0103】
図4に示す血球48bを副流路49のパルス流に乗せることで、血球48bを主流路47の液体流から分離する。分離した血球48bを、逐次的に収集する。これにより収集された48bからなる画分Bが生成される。
【0104】
図4において、シグナルの無かった又は弱かった血球48cに対してはパルス流が付与されない。血球48cは主流路47内をそのまま液体流に乗って流れていく。
【0105】
係るセルソーターについては特許文献7に詳細が説明されている。また本実施例ではオンチップ・バイオテクノロジーから提供されるセルソーターを使用した(セルソーターの型式:On-chip−Sort MS6)。本参考例では細胞選別のためのセルソーターの動作条件は以下の通りであった。
【0106】
<セルソーティングによる分析>
図5はHoechst33342の蛍光強度分布を示す。縦軸は血球の出現頻度を表す。横軸はHoechstの蛍光シグナルの強度を表す。ピークが二つ表れている。出現頻度が強度40〜50の間で極小となった。係る範囲で境界値を定め、これより強度の大きい血球を有核の血球と推定した。また、これより強度の小さい血球を無核の血球と推定した。
【0107】
図6は母体血における免疫標識の蛍光強度分布を示す。
図7は一般血における免疫標識の蛍光強度分布を示す。縦軸は抗CD235a抗体に結合したFITC(fluorescein isothiocyanate)の発光のシグナルの強度を表す。横軸は抗CD45抗体に結合したPE(phycoerythrin)の発光のシグナルの強度を表す。
【0108】
図6及び
図7におけるAr1は、CD235a−FITCのシグナルが強く表れた集団を表す。Ar2は、CD45で標識された白血球の集団を表す。
【0109】
母体血の結果と一般血の結果との比較により、母体血では、一般血に比べてAr1に属する血球の数が多いことが分かった。
【0110】
図6において、Ar1の内、FITC(fluorescein isothiocyanate)の発光のシグナルの強度が1×10
3より大きいものを有核赤血球の候補とした。これは、予備実験においてバックグラウンドノイズ、すなわち白血球のFITCの発光のシグナル強度が1×10
3以下であったことによる。
【0111】
<分子生物学的解析>
画分Bの全体に対してNucleospin Tissue XS(タカラバイオ株式会社から購入)を使用して、DNA抽出を行った。
【0112】
本実施例ではDNA抽出で得られたDNAを鋳型としてPCR反応を行った。PCR反応ではEx-Taq polymeraseを使用した。
図14は分子生物学的解析の結果を表す。
図8に示される電気泳動像の内レーン1〜11はSRY遺伝子配列に対するPCRによる270bp長の増幅産物を表す。鋳型は以下の通りである。
【0113】
レーン1の左側には200bpのDNAラダーが示されている。
【0114】
レーン1:ヒト男性の標準DNA、200コピー。
【0115】
レーン2:ヒト女性の標準DNA、200コピー。
【0116】
レーン3:ヒト男性の標準DNA、0コピー。
【0117】
レーン4:ヒト男性の標準DNA、1コピー。
【0118】
レーン5:ヒト男性の標準DNA、4コピー。
【0119】
レーン6:ヒト男性の標準DNA、8コピー。
【0120】
レーン7:ヒト男性の標準DNA、16コピー。
【0121】
レーン8:ヒト男性の標準DNA、64コピー。
【0122】
レーン9:ヒト男性の標準DNA、100コピー。
【0123】
レーン10:試料1
図8に示す電気泳動像より、試料1には4〜16コピーのSRY遺伝子配列を有するDNAが含まれることが分かった。したがって、試料1には胎児由来の染色体DNAが含有されることが分かった。
【0124】
[実施例1]
<血球分離チップによる有核赤血球の濃縮>
実施例1では採血後2〜3時間経過した母体血0.3mlを使用し、有核赤血球の濃縮の
図1および
図2に示す血球分離チップによって行った。
【0125】
母体血は予め50倍に希釈した。希釈はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で行った。主流路への母体血希釈液の単位時間当たりの流量および副流路へのPBSの単位時間当たりの流量を血球分離チップ当たり25μl/分とした。血球分離チップによる分画は10時間行った。
【0126】
本実施例では、
図2における分岐流路を4個設け(59a−d)、それぞれの細流路の内接径はそれぞれ8、12、15及び25μmであった。本実施例において細流路の断面は四角であった。
【0127】
<分画>
15mlの母体血希釈液を上記血球分離チップで分画した結果を表1に示す。係る母体血には300μlの母体血全血が含まれた。母体血全血中には1.43×10
9個の血球が含まれると考えられる。全自動セルカウンターTC20を用いて測定した。分岐流路1〜4並びにフロースルー5を通過した画分の血球数は表1の通りである。
【0128】
【表1】
【0129】
表1に示される画分Fr4中の血球は3.29×10
7個であった。密度勾配積層遠心の結果も考慮すると、係る画分には有核赤血球及び白血球に相当する血球が含まれていると解される。画分Fr4を上述の画分Aとして用いて、セルソーティングによる解析を行った。
【0130】
画分Bの分取は参考例1と同様に行った。まず画分Aに対してHoechst33342及びPE修飾抗CD45抗体による染色を行った。染色は細胞に対して架橋固定を含む固定処理をせずに行った。次にFITC修飾抗CD235a抗体による染色を行った。抗体の濃度は参考例1と同様に最適化した。
【0131】
画分Fr4の3.29×10
7個の血球をオンチップ社のセルソーターで選別した。Hoechst33342及びCD235aに対して陽性、かつCD45に対して陰性の血球を選別した。以上により661個の血球を含有する画分を得た。
【0132】
<一細胞レベルでの分離>
図9には上述のように染色した血球が示されている。図に示すように凝集の発生は抑えられていた。このため、血球を一細胞レベルで互いに分離可能なことが示された。本実施例において凝集が抑えられたことは染色する抗体濃度を最適化したことによると考えられる。
【0133】
<染色体DNAの抽出>
上記画分Bを、血球を約200個ずつ有する3つの画分に分けた。これらの画分には1〜2個の胎児由来の有核赤血球が含まれているものと期待された。
【0134】
各画分に対して、染色体DNAの抽出を行った。染色体DNAに対してMALBAC(Multiple Annealing and Looping Based Amplification Cycles)法による全ゲノム増幅を行った。これにより胎児由来のY染色体が増幅され、後の工程でSRY遺伝子の検出を容易にすることができた。増幅された染色体DNAを鋳型として、SRY遺伝子配列特異的にPCR増幅を行った。SRY遺伝子のPCR産物の電気泳動層を
図10に示す。鋳型は以下の通りである。
【0135】
レーン1の左側には200bpのDNAラダーが示されている。
【0136】
レーン1:蒸留水。
【0137】
レーン2:ヒト男性の標準DNA、20ng。
【0138】
レーン3:ヒト女性の標準DNA、20ng。
【0139】
レーン4:MALBAC法による増幅産物1、450ng。
【0140】
レーン5:MALBAC法による増幅産物2、610ng。
【0141】
レーン6:MALBAC法による増幅産物3、700ng。
【0142】
レーン4の増幅産物1を鋳型としたPCRにおいては、SRYのバンドが見られた。他の増幅産物を鋳型としたPCRにおいては、SRYのバンドが見られなかった。以上より、画分Bを分画することで、胎児由来の血球を有する画分と、有しない画分とに分けられることが分かった。
【0143】
以上の事から、本実施例の血球分離チップにより有核赤血球を濃縮できることが確認された。
【0144】
[実施例2]
<血球分離チップによる有核赤血球の濃縮>
妊娠26週の43歳女性(胎児は男児)から提供された母体血をPBSで5倍に希釈し血球分離チップを用いて有核赤血球の濃縮を行った。約69時間経過後に希釈した母体血を用いた。
【0145】
用いた血球分離チップは実施例1で用いたものを改変したものである。実施例1で用いたチップは分岐流路を4つとフロースルーを備えていたが、本実施例では、内接径はそれぞれ15及び25μmである分岐流路を2つとフロースルーを備えたもの(
図11、59a、d)を10層重ねたもの、すなわちマイクロ流路単位中では各流路が平面的に配置されており、分離チップはマイクロ流路単位を有する層を10個有し、各層の有する前記マイクロ流路単位は縦方向に互いに重なり合うことでマイクロ流路スタックを形成しており、階層流路において、各層のマイクロ流路単位の有する主流路の入口、副流路の入口、除去流路の出口、回収流路の出口及び主流路の出口は全層を貫く柱流路にそれぞれまとめて接続されていて、主流路の入口の底層はふさがり、前記主流路の出口の一方がふさがっているものを用いた(
図12)。
【0146】
母体血希釈液の単位時間当たりの流量および副流路へのPBSの単位時間当たりの流量を血球分離チップあたり毎分50μlとし、60分間血球分離チップを用いて分画した。分岐流路1(Fr1)、分岐流路2(Fr2)およびフロースルー3(Fr3)を通過した画分の血球数は表2の通りである。
【0147】
【表2】
【0148】
得られたフラクション2には3.11×10
7個の血球が含まれると考えられた。全自動セルカウンターTC20を用いて測定した。
【0149】
<セルソーティングによる有核赤血球濃縮の確認>
母体血から得られた画分Fr2に含まれる血球3.11×10
7個のうち1/8量(0.40×10
6個)の血球を実施例1と同様にセルソーターで選別した。Hoechst33342及びCD235aに対して陽性、かつCD45に対して陰性の血球を選別した。以上により15429個の血球を含有する画分を得た(
図13、Arエリア)。
【0150】
Fr2から新たに得たその1/8量の血球をセルソーターで分離し、21981個の血球を含有する画分を得た(
図14、Arエリア)。
【0151】
得られた各画分から実施例1と同様に染色体DNAの抽出を行った。染色体DNAに対してMALBAC法による全ゲノム増幅を行った。増幅された染色体DNAをNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(タカラバイオ株式会社から購入)による精製後この一部を鋳型として、SRY遺伝子配列特異的にPCR増幅を行った。SRY遺伝子のPCR産物の電気泳動像を
図15に示す。鋳型は以下の通りである。
【0152】
[鋳型]
レーン5の右側には100bpのDNAラダーが示されている。
【0153】
レーン1:蒸留水。
【0154】
レーン2:市販のヒト男性の標準DNA、20ng。
【0155】
レーン3:市販のヒト女性の標準DNA、20ng。
【0156】
レーン4:母体血Fr2に含まれる染色体DNAのMALBAC法による増幅産物、10ng。
【0157】
レーン5:母体血Fr2に含まれる染色体DNAのMALBAC法による増幅産物、10ng。
【0158】
母体血からFr2画分に含まれる染色体DNAのMALBAC法による増幅産物を鋳型としたPCRにおいては、SRYのバンドが見られた。他の増幅産物を鋳型としたPCRにおいては、SRYのバンドが見られなかった。以上より、血球分離チップによる60分間の処理により胎児由来細胞を濃縮できることが分かった。
【0159】
また、参考例に示すように、密度勾配遠心法では、遠心管中に浮遊する画分を採取する必要があった。これに対して血球分離チップを用いた本実施例では、血球分離チップ自身で胎児由来細胞の濃縮された分画を分取することが出来た。
【0160】
[実施例3]
実施例2で用いた血球分離チップを
図16に示すように改変して用いた。すなわち、マイクロ流路単位を有する層中に4個の前記マイクロ流路単位が形成され、前記層が10個であるものを用いて、実施例2に準じて有核赤血球を濃縮した。マイクロ流路単位を有する層中に2以上のマイクロ流路単位が形成されることで、血球分離チップ中には複数の前記マイクロ流路スタックが立ち並んでいる。入口が接続する柱流路が一本の統合柱流路として統合されている。
【0161】
分岐流路の内接径は実施例2で示したものと同一であり、母体血希釈液の単位時間当たりの流量および副流路へのPBSの単位時間当たりの流量を血球分離チップあたり毎分200μlとし、60分間血球分離チップを用いて分画した。
【0162】
その結果、実施例2で示したのと同様に有核赤血球を濃縮することができた。
【0163】
上記の実施形態及び実施例では標的細胞として有核赤血球を例に挙げて本発明を説明した。ここで標的細胞は血球でなくてもよい。標的細胞は例えばCTC(末梢循環腫瘍細胞)でもよい。この場合、血液試料はがんの検査が必要な対象、がん患者、又はがんの治療をすでに行った患者から採取してもよい。
【0164】
[実施例4] <多層チップの性能評価>
【0165】
多層チップの性能評価を以下のとおり行った。実施例2と同様に、マイクロ流路単位を有する層が等間隔に連続的に積層されている多層チップを用いて、全血を分画した。全血は妊婦ではない一般成人の全血である。全血を希釈したものを分画した。希釈率は5倍とした。
【0166】
多層チップは実施例2で説明したものと同一のマイクロ流路単位を有する。ただし、本実施例で使用した多層チップは、マイクロ流路単位を有する層が8個である点で実施例2の多層チップと異なる。また同一のマイクロ流路単位を有する単層チップを対照として使用した。
【0167】
主流路の入口をまとめる柱流路への希釈血の流入速度を毎分20μlとした。多層チップに流入した希釈血は各層の副流路のそれぞれに分かれて流入する。単層チップでは唯一の主流路への希釈血の流入速度を毎分20μlとした。各チップで分画の処理がなされた血液の体積は600μlである。
【0168】
上述の通り副流路にPBSを通すことで、主流路の血液の流れに対する押さえつけを行った。チップ中の層の数によらず、副流路の入口をまとめる柱流路へのPBSの流入速度を毎分20μl(弱い押さえつけ)又は40μl(強い押さえつけ)とした。単層チップでは唯一の副流路へのPBSの流入速度を毎分20μlとした。多層チップに流入したPBSは各層の副流路のそれぞれに分かれて流入する。各チップに導入されたPBSの体積は600μl又は1,200μlである。
【0169】
画分F1を分岐流路1(Fr1、幅15μm、
図12の柱流路24aに相当)から取得した。画分F2を分岐流路2(Fr2,幅25μm、
図12の柱流路24dに相当)から取得した。画分F3をフロースルー(Fr3、
図12の柱流路に25相当)から取得した。各画分に含まれる血球を分析して表3に示す結果を得た。
【0170】
【表3】
【0171】
分析について説明する。画分F1からF3に回収された細胞数(C1)を全自動セルカウンターTC20(BIORAD)にて測定した。ただし、画分F1は予め400倍希釈してから細胞数を測定した。これは画分F1には脱核後の成熟赤血球を主として多くの細胞が含まれているからである。希釈率は100〜200倍でもよい。
【0172】
画分F1に対して溶血処理を施す。これにより、画分F1中の成熟赤血球を溶血する。白血球を初めとする有核の細胞は溶血処理後も残る。残った細胞の一部をFCMで解析した。画分F2では回収された細胞の一部をFCMで解析した。溶血後の画分F1と画分F2に対して蛍光核染色を行った。FCMにより核染色の陽性率(p)(%)を測定した。
【0173】
画分F1の分析では溶血処理後に残った細胞数(C2)を母数(C3)とした。画分F2の分析では多層チップで回収された細胞数(C1)を母数とした。母数(C3)に陽性率(p)(%)を乗じて、各画分中の有核細胞数(C4)を算出した。有核細胞数(C4)を元に、画分F1及び画分F2への有核細胞の分配比を求めた。画分F1及び画分F2の分配比の合計を100とする。またチップで回収された全細胞数に対する有核細胞数(C4)の割合を分画効率(%)として表に示した。
【0174】
弱い押さえつけ(毎分20μl)を適用したときの画分F2の陽性率(p)は、単層チップで4.86%であった。これに対して多層チップでは28.6%であった。この結果は単層チップでは太い方の分岐流路2に対して、多くの成熟赤血球が進入していることを表している。また多層チップでは成熟赤血球の分岐流路2への進入が緩和されていることを表している。
【0175】
弱い押さえつけ(毎分20μl)を適用したときの有核細胞の分配比(F1:F2)は単層チップで42.4:57.6であった。これに対して多層チップでは7.9:92.1であった。この結果は単層チップでは細い方の分岐流路1に対して、多くの有核細胞が進入していることを表している。また多層チップでは有核細胞の分岐流路1への進入が緩和されていることを表している。
【0176】
上記の結果より単層チップより多層チップの方が成熟赤血球と有核細胞とに対する水力学的な分級の精度が高いことが分かった。
【0177】
さらに分級の精度を高めるために強い押さえつけ(毎分40μl)を適用して分画を行った。画分F2の陽性率(p)は、単層チップで55.3%まで向上した。多層チップにても66.6%まで向上した。この結果は押さえつけを強くすることで成熟赤血球の分岐流路2への進入が緩和されていることを表している。
【0178】
強い押さえつけ(毎分40μl)を適用したときの有核細胞の分配比(F1:F2)は単層チップで21.5:78.5であった。多層チップでも4.6:95.4であった。これらの結果は押さえつけを強くすることで分級の精度を高められることを表している。
【0179】
強い押さえつけ(毎分40μl)を適用したときの分配比の向上は単層チップでは非常に大きいものであった。しかしながら多層チップでは分配比の大きな向上は見られなかった。これは弱い押さえつけ(毎分20μl)であっても、分配比がすでに十分に画分F2側に偏っていたことによると考えられる。以上より、チップの多層化は、押さえつけの強さに依存せずに分級精度を向上させることのできる手段であることが分かった。
【0180】
この出願は、2017年10月19日に出願された日本出願特願2017−202907を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0181】
本発明の他の態様は以下に述べるものである。
[1]血球分離チップを使用して血液試料中の血球を分画することで全血が数を基準として有核赤血球の濃縮された画分を取得する方法であって、前記血液試料は、血液試料それ自体、又は前記血液試料に比べて全血が数を基準として有核赤血球が濃縮されていない未漉縮試料であり、
前記血球分離チップは、前記血液試料が流れる主流路と、前記主流路の側方に接続する副流路と、前記副流路の下流において前記副流路とは反対側の前記主流路の側方に接続する除去流路と、前記除去流路の下流において前記副流路とは反対側の前記主流路の側方に接続する回収流路と、を有するマイクロ流路単位を備え、
副流路から流れ出す液が前記主流路を流れる血球を前記除去流路及び前記回収流路の側に向かって押し込み、
前記押し込まれた血球のうち無核赤血球が前記除去流路に進入することで、前記血液試料から無核赤血球が除去され、
前記無核赤血球が除去されて残った血球のうち有核赤血球が前記回収流路に進入することで前記血液試料から有核赤血球が前記画分として取得され、
前記除去流路と前記回収流路の内接径が異なり、前記主流路と前記除去流路との接続部における前記除去流路の内接径が、前記主流路と前記回収流路との接続部における前記回収流路の内接径より低い数値である、方法、
[2]前記血液試料が母体血試料であり、前記有核赤血球が胎児由来有核赤血球である、[1]記載の方法、
[3]前記主流路と前記除去流路との接続部において前記除去流路の内接径が4〜19μmであり、
前記主流路と前記回収流路との接続部において前記回収流路の内接径が20〜30μmである、[1]記載の方法、
[4]前記主流路への血液試料の1分間時間当たりの流量が0.5〜50μlである、[1]記載の方法、
[5]前記副流路の流量が、前記主流路への血液試料の1分間当たりの流量の1〜10倍である、[1]記載の方法、
[6]前記マイクロ流路単位中では各流路が平面的に配置されており、前記分離チップは前記マイクロ流路単位を有する層を2〜200個有し、
各層の有する前記マイクロ流路単位は縦方向に互いに重なり合うことでマイクロ流路ス
タックを形成しており、
前記階層流路において、各層の前記マイクロ流路単位の有する前記主流路の注入口、前記副流路の注入口、前記除去流路の排出口、前記回収流路の排出口及び前記主流路の排出口は全層を貫く縦流路にそれぞれまとめて接続されている、[1]に記載の方法、
[7]前記主流路の注入口の底層はふさがり、前記主流路の排出口の最上層または最下層がふさがっている、[6]記載の方法、
[8]前記マイクロ流路単位を有する層中に2以上の前記マイクロ流路単位が形成されることで、前記血球分離チップ中には複数の前記マイクロ流路スタックが立ち並んでおり、前記注入口が接続する前記縦流路が一本の統合縦流路として統合されている、[6]記載の方法、
[9]前記血液試料を注入する間に前記血液試料を定期的に攪拌する、[1]に記載の方法、
[10]前記マイクロ流路単位において、
前記回収流路の前記内接径は前記回収流路の途中で拡大し、
前記除去流路の前記内接径は前記除去流路の途中で拡大している、
[1]に記載の方法、
[11]血球分離チップを使用して血液試料中の血球を分画することで全血が数を基準として有核赤血球の濃縮された画分Aを取得し、前記血液試料は、血液試料それ自体、又は前記血液試料に比べて全血が数を基準として有核赤血球が濃縮されていない未漉縮試料であり、
画分Aを白血球及び核酸に対して特異的に標識するとともに、標識した前記画分A中の血球を少なくともセルソーティングによって選別することで、白血球に対して特異的な標識により標識された血が排除されているとともに核酸に対して特異的な標識により標識された血球が濃縮されている画分Bを取得し、
前記画分B中の血球に含まれる染色体の解析を行うことで、非侵襲的出生前遺伝学的検査における診断に供するデータを取得する方法であって、
前記血球分離チップは、前記血液試料が流れる主流路と、前記主流路の側方に接続する副流路と、前記副流路の下流において前記副流路とは反対側の前記主流路の側方に接続する除去流路と、前記除去流路の下流において前記副流路とは反対側の前記主流路の側方に接続する回収流路と、を有するマイクロ流路単位を備え、
副流路から流れ出す液が前記主流路を流れる血球を前記除去流路及び前記回収流路の側に向かって押し込み、
前記押し込まれた血球のうち無核赤血球が前記除去流路に進入することで、前記血液試料から無核赤血球が除去され、
前記無核赤血球が除去されて残った血球のうち有核赤血球が前記回収流路に進入することで前記血液試料から有核赤血球が前記画分として取得され、
前記除去流路と前記回収流路の内接径が異なり、前記主流路と前記除去流路との接続部における前記除去流路の内接径が、前記主流路と前記回収流路との接続部における前記回収流路の内接径より低い数値である、方法、
[12]染色体の解析が、蛍光in situハイブリダイゼーシヨン法、次世代ゲノムシークエンス法またはマイクロアレイ法による解析である[11]記載の方法、
[13]前記血液試料が母体血試料であり、前記有核赤血球が胎児由来有核赤血球である、[11]記載の方法、
[14]前記主流路と前記除去流路との接続部において前記除去流路の内接径が4〜19μmであり、
前記主流路と前記回収流路との接続部において前記回収流路の内接径が20〜30μmである、[11]記載の方法、
[15]前記主流路への血液試料の1分間単位時間当たりの流量が0.5〜50μlである、[11]記載の方法、
[16]前記副流路の流量が、前記主流路への血液試料の1分間当たりの流量の1〜10倍である、[11]記載の方法、
[17]前記マイクロ流路単位中では各流路が平面的に配置されており、前記分離チップは前記マイクロ流路単位を有する層を2〜200個有し、
各層の有する前記マイクロ流路単位は縦方向に互いに重なり合うことでマイクロ流路スタックを形成しており、
前記階層流路において、各層の前記マイクロ流路単位の有する前記主流路の注入口、前記副流路の注入口、前記除去流路の排出口、前記回収流路の排出口及び前記主流路の排出口は全層を貫く縦流路にそれぞれまとめて接続されている、[11]に記載の方法、
[18]前記主流路の注入口の底層はふさがり、前記主流路の排出口の最上層または最下層がふさがっている、[17]記載の方法、
[19]前記マイクロ流路単位を有する層中に2以上の前記マイクロ流路単位が形成されることで、前記血球分離チップ中には複数の前記マイクロ流路スタックが立ち並んでおり、前記注入口が接続する前記縦流路が一本の統合縦流路として統合されている、[17]記載の方法、
[20]前記血液試料を注入する間に前記血液試料を定期的に攪拌する、[11]に記載の方法、
[21]前記マイクロ流路単位において、
前記回収流路の前記内接径は前記回収流路の途中で拡大し、
前記除去流路の前記内接径は前記除去流路の途中で拡大している、
[11]に記載の方法。