(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582292
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】放電分析方法及び放電分析装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20190919BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20190919BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20190919BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20190919BHJP
C23C 16/52 20060101ALI20190919BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H05H1/46 M
H01L21/302 101B
H01L21/302 103
C23C14/34 U
C23C16/52
C23C16/50
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-148337(P2015-148337)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-27905(P2017-27905A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022563
【氏名又は名称】東京電子交易株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505195270
【氏名又は名称】鈴木 功一
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 功一
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9-243701(JP,A)
【文献】
特表2001-516940(JP,A)
【文献】
特開2004-288849(JP,A)
【文献】
特開2005-337200(JP,A)
【文献】
特表2007-503096(JP,A)
【文献】
特開2008-311338(JP,A)
【文献】
特開2010-15740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00
C23C 14/34
C23C 16/50
C23C 16/52
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを励起する交流電圧又は直流電圧をプラズマチャンバーに供給する配線に生じる磁界に基づいて前記プラズマチャンバー内で発生する放電を分析する方法であって、前記磁界に基づいて、タウンゼント放電と、前記タウンゼント放電よりも放射電磁波の周波数が低い第1及び第2の放電を検出し、前記第1の放電が前記タウンゼント放電に続いて発生した場合には、前記第1の放電をアーク放電であると判定し、前記第2の放電が前記タウンゼント放電の前に発生した場合には、前記第2の放電をコロナ放電であると判定する放電分析方法。
【請求項2】
前記タウンゼント放電は、1GHz〜3GHzの電磁波を放射するものである、請求項1に記載の放電分析方法。
【請求項3】
前記アーク放電及び前記コロナは、いずれも0.1MHz〜300MHzの電磁波を放射するものである、請求項2に記載の放電分析方法。
【請求項4】
前記コロナ放電と前記タウンゼント放電の間に発生する予兆放電であって、1GHz〜3GHzの電磁波を放射し、且つ、5μs以上持続する予兆放電を前記磁界に基づいてさらに検出する、請求項3に記載の放電分析方法。
【請求項5】
前記タウンゼント放電と前記第1及び第2の放電を同じ磁界プローブを用いて検出する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の放電分析方法。
【請求項6】
プラズマを励起する交流電圧又は直流電圧をプラズマチャンバーに供給する配線に生じる磁界に基づいて前記プラズマチャンバー内で発生する放電を検出する磁界プローブと、
前記磁界プローブの出力信号がタウンゼント放電の発生を示し、その後、前記タウンゼント放電よりも放射電磁波の周波数が低い第1の放電の発生を示している場合に、前記第1の放電をアーク放電であると判定し、前記磁界プローブの出力信号がタウンゼント放電の発生を示しており、且つ、その前に前記タウンゼント放電よりも放射電磁波の周波数が低い第2の放電の発生を示している場合に、前記第2の放電をコロナ放電であると判定する検出装置と、を備える放電分析装置。
【請求項7】
前記検出装置は、前記コロナ放電と前記タウンゼント放電の間に発生する予兆放電であって、前記出力信号の周波数が1GHz〜3GHzであり、且つ、5μs以上持続する予兆放電をさらに検出する、請求項6に記載の放電分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電分析方法および放電分析装置に関し、特に、プラズマ雰囲気内で発生する種々の放電現象を峻別する方法および装置に関する。また、本発明は、プラズマ処理装置に関し、特に、プラズマチャンバー内で発生する異常放電による処理対象物の損傷、チャンバー内部構造物の損傷、プラズマ励起用電源回路の損傷、プラズマ処理装置を制御する回路の電磁障害、周辺機器の電磁障害などを防止することが可能なプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、プラズマCVD装置やプラズマエッチング装置などのプラズマ処理装置が数多く用いられている。これらのプラズマ処理装置においては、プラズマチャンバー内に電極が配置されており、この電極に交流電圧及び/又は直流電圧を印加することによってプラズマを励起させることができる。プラズマ励起状態においては、プラズマチャンバー内のプロセスガスの構成原子又は構成分子が印加電圧によって加速された電子との電離衝突により活性化されてラジカルとなるため、熱による励起を行う装置と比べてより低温下での反応を起こすことが可能となる。
【0003】
しかしながら、プラズマCVD装置やプラズマエッチング装置では、プラズマチャンバー内で異常放電が発生することがあり、これによって半導体ウェハの一部が損傷するなどの障害が発生するおそれがある。このような異常放電は、プラズマCVD装置やプラズマエッチング装置だけでなく、イオンミリング装置、イオン注入装置、スパッタリング装置など、他のプラズマ処理装置においても発生することがある。このような問題を解決すべく、本発明者は、異常放電に伴って発生する電磁波などによって、異常放電の検出を行う技術を提案した(特許文献1、2参照)。
【0004】
この方法によれば、より確実に異常放電の検出を行うことができることから、半導体デバイスなど、プラズマ処理装置を用いて生産される各種デバイスの歩留まりを向上させるものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3631212号公報
【特許文献2】特許第5159055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラズマチャンバー内で発生する異常放電には種々の種類があり、このうち、被処理物を損傷させるものは主にアーク放電である。しかしながら、被処理物を損傷させるアーク放電と被処理物をほとんど損傷させないコロナ放電は、放射する電磁波の周波数がほとんど同じであることから、両者を峻別することは困難であった。
【0007】
したがって、本発明の一つの目的は、アーク放電の発生を正しく判定することが可能な放電分析方法、放電分析装置およびプラズマ処理装置を提供することである。
【0008】
さらに本発明者は、アーク放電の予兆となる放電現象を検知し、予兆となる放電現象が発生した場合にはプラズマチャンバーへの交流電圧又は直流電圧の印加を停止する方法について検討した。この場合、予兆となる放電現象は1〜3GHz程度の電磁波を放出することから、この周波数帯の電磁波を精度良く観測可能なループアンテナを用いた観測を行うことが好適であると考えられる。
【0009】
しかしながら、予兆となる放電現象は1〜3GHz程度の電磁波を放出するのに対し、アーク放電は0.1〜300MHz程度の電磁波を放出することから、ループアンテナを用いた場合、予兆となる放電現象をトリガとして交流電圧又は直流電圧の印加を停止した場合と停止しなかった場合とで、その後の観測結果に差が生じない。即ち、アーク放電の発生の有無を検証することができない。このため、交流電圧を停止する必要があったのか否か検証することが困難であり、観測結果をフィードバックすることが難しかった。
【0010】
したがって、本発明の他の目的は、予兆となる放電現象とアーク放電の両方を正しく観測可能な放電分析方法、放電分析装置およびプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、長年に亘る研究の結果、プラズマ雰囲気内における異常放電の発生順序に一定の法則があることを見いだした。具体的には、コロナ放電、タウンゼント放電(Townsend spark)、アーク放電の順序で発生することを突き止めた。また、タウンゼント放電には、その直前にプレスパーク(Pre-Spark)と呼ぶ、タウンゼント放電と同等の周波数成分を持ち、5μs〜1ms程度持続する放電を伴うことも判明した。本発明は、かかる知見に基づき成されたものである。
【0012】
本発明による放電分析方法は、プラズマ中で発生するタウンゼント放電と、前記タウンゼント放電よりも放射電磁波の周波数が低い第1の放電を検出し、前記第1の放電が前記タウンゼント放電に続いて発生した場合には、前記第1の放電をアーク放電であると判定することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、アーク放電の予兆としてタウンゼント放電を検出していることから、被処理物を損傷させるアーク放電の発生を正確に予知することが可能となる。尚、アーク放電は、その直前にグロー放電を伴うことがあるが、本発明において両者の峻別は重要ではない。したがって、タウンゼント放電とアーク放電の間にグロー放電が介在したとしても、タウンゼント放電に続いてアーク放電が発生したと見なしても構わない。
【0014】
本発明による放電分析装置は、プラズマチャンバー内で発生する放電を検出する磁界プローブと、前記磁界プローブの出力信号がタウンゼント放電の発生を示し、その後、前記タウンゼント放電よりも放射電磁波の周波数が低い第1の放電の発生を示している場合に、前記第1の放電をアーク放電であると判定する検出装置と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、広い周波数帯域特性を持つ磁界プローブを用いてタウンゼント放電を検出していることから、タウンゼント放電およびこれよりも周波数の低いアーク放電の両方を正しく観測することが可能となる。
【0016】
本発明によるプラズマ処理装置は、プラズマチャンバーと、プラズマを励起する交流電圧又は直流電圧を前記プラズマチャンバーに供給する電源装置と、前記プラズマチャンバー内で発生する放電を検出する磁界プローブと、前記磁界プローブの出力信号を検出する検出装置と、前記電源装置を制御する制御装置と、を備え、前記出力信号の周波数が1〜3GHzであり、これが5μs以上持続したことを前記検出装置が検出したことに応答して、前記制御装置は、前記電源装置を停止させ、或いは、前記交流電圧又は直流電圧を低下させることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、アーク放電の予兆となる放電現象の検知に応答してプラズマ励起用の交流電圧又は直流電圧の印加を停止或いは低下させていることから、アーク放電による被処理物の損傷を未然に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、アーク放電の発生を正しく判定することができるとともに、予兆となる放電現象とアーク放電の両方を正しく観測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態によるプラズマ処理装置の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】
図2は、異常放電の発生順序を示す表である。
【
図3】
図3は、プレスパーク及びタウンゼント放電の発生によって現れる出力信号S1の波形を示す図である。
【
図4】
図4は、評価装置26による評価結果を示す図であり、(a)は制御信号S2が活性化しても運転をそのまま継続したケースを示し、(b)は制御信号S2の活性化に応答してRF電源装置21を停止させたケースを示している。
【
図5】
図5は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第1のフローチャートである。
【
図6】
図6は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第2のフローチャートである。
【
図7】
図7は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第3のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態によるプラズマ処理装置の構成を概略的に示す模式図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態によるプラズマ処理装置はプラズマエッチング装置であり、プラズマチャンバー10と、プラズマチャンバー10内に配置された電極11に交流電圧を印加するRF電源装置21とを備えている。
【0023】
プラズマチャンバー10に設けられた電極11は、処理対象物である半導体ウェハ12を載置するステージを兼ねている。プラズマチャンバー10には、電極11のほか、プロセスガス13の吹き出し口14aを兼ねた電極14が設けられており、この電極14にはグランド電位が与えられている。プロセスガス13は、配管15を通ってプラズマチャンバー10内に導入され、半導体ウェハ12の近傍を通って、真空ポンプ16により排出される。そして、RF電源装置21を用いて電極11に交流電圧を印加すると、電極11と電極14との間のプロセスガス13がプラズマ化し、そのプラズマが半導体ウェハ12の表面に形成された膜をエッチングする。特に限定されるものではないが、RF電源装置21の出力は、200W〜5kW程度に設定される。
【0024】
RF電源装置21は、例えば13.56MHzの交流電圧を発生させる回路であり、発生した交流電圧は、RFマッチングユニット22を介してプラズマチャンバー10内の電極11に印加される。交流周波数については、100KHzや2.45GHzなど、より低周波又はより高周波の交流が用いられることもある。また、交流電圧ではなく直流電圧が用いられることもある。
【0025】
本実施形態においては、RF電源装置21とRFマッチングユニット22とを接続する配線L1上に近接して磁界プローブ23が設けられている。磁界プローブ23は、配線L1に流れる電流が放射する磁場を電界として検出するものであり、その特性はマクスウェルの方程式がそのまま当てはまる。また、磁界プローブ23の結合容量は、実質的にゼロと見なすことができる。使用する磁界プローブ23の種類については特に限定されず、多層配線基板を用いたタイプであっても構わないし、配線L1の周囲をクランプするタイプであっても構わない。
【0026】
また、
図1に示す例では、RF電源装置21とRFマッチングユニット22とを接続する配線L1上に近接して磁界プローブ23を設けているが、磁界プローブ23を設ける位置についてはこれに限定されず、交流電圧に重畳する高周波成分を観測可能である限り、どの位置に設けても構わない。例えば、電極11とRFマッチングユニット22とを接続する配線L2上に近接して磁界プローブ23を設けても構わない。
【0027】
磁界プローブ23の出力信号S1は分配器24によって分配され、それぞれ検出装置25および評価装置26に供給される。検出装置25は、出力信号S1を観測することによって、プラズマチャンバー10の内部で生じている異常放電を検出する装置であり、その検出結果である制御信号S2は、制御装置27に与えられる。制御信号S2としては、1ビットの2値信号(例えばTTL信号)を用いることができる。制御装置27は、制御信号S2に基づいてRF電源装置21の動作を制御する。評価装置26は、出力信号S1を観測する例えばオシロスコープなどを含む。
【0028】
また、プラズマチャンバー10の外壁にはガラス窓17が設けられており、ここから内部の様子を観察することができる。本実施形態では、ガラス窓17の外側にはフォトセンサ28が設けられており、これによってプラズマ光が検出される。フォトセンサ28の出力信号S3は、制御装置27に供給される。
【0029】
以上が本実施形態によるプラズマ処理装置の構成である。
【0030】
本実施形態によるプラズマ処理装置は上述の通り磁界プローブ23を備えており、これによりプラズマチャンバー10の内部で生じている異常放電を検出している。そして、磁界プローブ23は、ループアンテナなどに比べて周辺ノイズに強く、且つ、観測可能な周波数帯域が広い。具体的には、MHz帯からGHz帯の成分を高精度に観測することができる。
【0031】
本発明者は、長年に亘る研究の結果、プラズマ雰囲気内における異常放電の発生順序に一定の法則があることを見いだした。
図2は、異常放電の発生順序を示す表である。
【0032】
異常放電は、まずコロナ放電の発生から始まる。コロナ放電は、局所的な高電界に起因するものであり、その周波数は0.1〜300MHzであり、10ms以上の持続時間を持つ。コロナ放電はアーク放電と周波数帯域がほとんど同じであることから、これを直接観測するだけではコロナ放電とアーク放電を峻別することは困難である。
【0033】
コロナ放電が一定時間持続すると、その後、プレスパークと呼ぶ予兆現象が発生する。プレスパークは、コロナ密度の高まりによって発生し、その周波数は1〜3GHzであり、5μs〜1ms程度の持続時間を持つ。但し、コロナ放電が発生しても必ずプレスパークが発生するとは限らない。
【0034】
プレスパークが一定時間持続すると、アーク放電を誘発する高い電流密度を持ったタウンゼント放電が発生する。タウンゼント放電は、プレスパーク密度の高まりによって発生し、その振動周波数は1〜3GHzであり、数ns程度の過渡応答性を持つ。
【0035】
タウンゼント放電が発生すると、これに誘発されて、グロー放電およびアーク放電が発生する。但し、グロー放電およびアーク放電の周波数はいずれも0.1〜300MHzであり、両者を峻別することは困難である。しかしながら、本発明においては両者を峻別する必要はなく、タウンゼント放電の前に発生する0.1〜300MHz程度の異常放電をコロナ放電であると判定し、タウンゼント放電の後に発生する0.1〜300MHz程度の異常放電をアーク放電であると判定すればよい。かかる判定は、検出装置25又は評価装置26によって行うことができる。
【0036】
グロー放電は数ms程度の持続時間を持つ。また、アーク放電は100ms以上持続して熱電子を放出する完全雪崩降伏現象であり、処理対象物である半導体ウェハ12を損傷させる。或いは、パーティクル飛散、焼損、膜厚異常、特性変動などを生じさせる。尚、タウンゼント放電が発生しても、グロー放電およびアーク放電が必ず発生するとは限らない。
【0037】
図3は、プレスパーク及びタウンゼント放電の発生によって現れる出力信号S1の波形を示す図である。
【0038】
図3に示すように、プレスパークは1μs程度の短周期で発生し、その持続時間は5μs〜1μs程度である。その後、過渡応答性を持ったタウンゼント放電が発生する。プレスパークを含めて「タウンゼント放電」と見なしても構わない。プレスパークの持続時間が短い場合、例えば5μs未満である場合は、タウンゼント放電には移行せず、そのまま異常放電が終了することが多い。
【0039】
このため、出力信号S1を観測する検出装置25は、プレスパークが一定時間(例えば5μs)以上持続した場合に、アーク放電に至る可能性が高いと判断し、制御信号S2を活性化させればよい。具体的には、制御信号S2が二値信号である場合、プレスパークが一定時間(例えば5μs)以上持続したことに応答して、制御信号S2の論理レベルを「0」から「1」に変化させればよい。また、出力信号S1の波形がプレスパークを示しているか否かについては、その周波数成分および発生周期に基づいて判断することができる。
【0040】
制御信号S2が活性化すると、制御装置27はRF電源装置21を停止させることが好ましい。これにより、アーク放電による半導体ウェハ12の損傷を未然に防止することができる。但し、RF電源装置21を停止させるのではなく、交流電圧を低下させることによってアーク放電の発生を防止しても構わない。さらに、評価時においては、制御信号S2が活性化しても、RF電源装置21による交流電圧の印加をそのまま継続しても構わない。これにより、評価装置26を用いて異常放電の挙動を継続的に観測することができ、その結果をフィードバックすることによって、生産性を高めることができる。つまり、フィードバックによって、アーク放電の発生をより高確率で防止できるようになるとともに、RF電源装置21を不必要に停止させるケースを少なくすることができる。
【0041】
尚、プレスパークではなく、タウンゼント放電をトリガとして制御信号S2を活性化させることも可能であるが、タウンゼント放電は過渡応答であり発生時間がきわめて短いため、これをトリガとしてRF電源装置21を停止させても、アーク放電の発生を正しく防止できない可能性がある。したがって、RF電源装置21を停止させるトリガとしては、プレスパークを用いることが好ましい。
【0042】
図4は、評価装置26による評価結果を示す図であり、(a)は制御信号S2が活性化しても運転をそのまま継続したケースを示し、(b)は制御信号S2の活性化に応答してRF電源装置21を停止させたケースを示している。
図4において、RFと表記しているのはRF電源装置21の出力を示し、S1と表記しているのは磁界プローブ23の出力信号S1を示す。また、
図4には、ループアンテナの出力信号およびフォトセンサ28の出力信号S3についても示されている。
【0043】
図4(a)に示す例では、コロナ放電およびアーク放電が観測されており、その間に、より高周波のタウンゼント放電(プレスパークを含む)が観測されている。タウンゼント放電は、ループアンテナによっても観測されているが、ループアンテナではコロナ放電およびアーク放電を観測することができない。
【0044】
図4(b)に示す例では、プレスパークが一定時間持続したことに応答してRF電源装置21を停止させている。そして、80ms経過した後、RF電源装置21による交流電圧の印加を再開させている。交流電圧の印加再開は、徐々に出力を上げるいわゆるランプアップにより行うことが好ましい。
【0045】
図4(b)に示すように、このような動作を行うとアーク放電の発生が未然に防止されることが分かる。この場合であってもコロナ放電は発生するが、これは半導体ウェハ12を損傷させるものではない。また、コロナ放電の発生に応答してRF電源装置21を停止させると、実際にはアーク放電には至らないにもかかわらずRF電源装置21を停止させるケースが増加し、生産性が低下するおそれがある。しかしながら、本実施形態ではプレスパークが一定時間持続したことに応答してRF電源装置21を停止させていることから、アーク放電の発生を未然に防止できるとともに、RF電源装置21を不必要に停止させるケースを少なくすることができる。
【0046】
図5は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第1のフローチャートである。
【0047】
図5に示す例では、まずRF電源装置21をオンし(S11)、プラズマチャンバー10に交流電圧を印加する。この間、検出装置25は磁界プローブ23の出力信号S1を監視し、一定時間持続するプレスパークの発生を待つ(S12)。そして、一定時間持続するプレスパークの発生を検出すると、制御信号S2を活性化させ、制御装置27を介してRF電源装置21を停止させる(S13)。その後、制御装置27はフォトセンサ28の出力信号S3を監視し、プラズマ光の消失が確認されたことに応答して(S14)、RF電源装置21を再びオンする(S11)。これにより、アーク放電の予兆を未然に防止することができるとともに、プラズマ放電が完全に終結した後に交流電圧の印加を再開することができる。尚、プラズマ光が完全に消失したことをトリガとするのではなく、プラズマ光が所定の照度まで減光したことをトリガとしてRF電源装置21を再びオンしても構わない。
【0048】
図6は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第2のフローチャートである。
【0049】
図6に示す例では、ステップS11とステップS12の間に、コロナ放電を検出するステップS15が追加されている点において、
図5に示した第1のフローチャートと相違している。その他の点は、第1のフローチャートと同じである。本例では、コロナ放電を検出するステップS15が追加されていることから、プレスパークの誤検出によるRF電源装置21の不必要な停止回数を低減することが可能となる。
【0050】
図7は、検出装置25および制御装置27の動作を説明するための第3のフローチャートである。
【0051】
図7に示す例では、ステップS14の代わりに、所定時間を計時するステップS16が用いられている点において、
図5に示した第1のフローチャートと相違している。その他の点は、第1のフローチャートと同じである。本例では、プラズマ光の消失をトリガとするのではなく、RF電源装置21を停止させた後、所定時間が経過したことをトリガとしてRF電源装置21による交流電圧の印加を再開させている。これにより、フォトセンサ28が不要になるとともに、制御を簡素化することが可能となる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、アーク放電の発生を未然に防止することができる。しかも、磁界プローブ23を用いていることから、交流電圧の印加を継続した場合に発生する一連の異常放電、つまり、コロナ放電、タウンゼント放電およびアーク放電を全て観測することができ、観測結果のフィードバックが容易となる。
【0053】
また、従来は識別が困難であったコロナ放電とアーク放電を正しく識別することも可能となる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、半導体ウェハ12に対してプラズマ処理を行う減圧プラズマ処理装置を例に説明したが、本発明の適用対象がこれに限定されるものではなく、常圧プラズマ処理装置など、他のプラズマ処理装置に適用することも可能である。
【0056】
また、上記実施形態では、プラズマチャンバー10内でプラズマを励起するために交流電圧を用いているが、交流電圧の代わりに直流電圧を用いても構わない。この場合、RF電源装置21の代わりに直流電源装置を用いればよい。
【0057】
さらに、本発明の原理は、プラズマ処理装置のみならず、プラズマ現象が発生しうる全ての装置あるいは状況に対して応用できる。例えば、レチクル(露光マスク)の作製工程、磁気ヘッドの作製工程、平面ディスプレイの作製工程、液晶カラーフィルタの作製工程、CCDデバイスの作製工程、シート印刷工程、発光ダイオードまたはレーザーダイオードの作製工程、粉体搬送における粉体爆発の予防、レーザー露光工程、液浸露光工程、電子顕微鏡、EB 直描、車載Li電池用整流モジュール、車載用電子機器、オートクルーズ装置、携帯端末高周波モジュール、汎用交換機、MEMS、変圧器などに応用できる。
【符号の説明】
【0058】
10 プラズマチャンバー
11 電極
12 半導体ウェハ
13 プロセスガス
14 電極
14a 吹き出し口
15 配管
16 真空ポンプ
17 ガラス窓
21 RF電源装置
22 RFマッチングユニット
23 磁界プローブ
24 分配器
25 検出装置
26 評価装置
27 制御装置
28 フォトセンサ
L1 配線
L2 配線
S1 出力信号
S2 制御信号
S3 出力信号