【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、総括実施型研究(ERATO)、「山元アトムハイブリットプロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
IMAOKA,T. et al,Finding the Most Catalytically Active Platinum Clusters With Low Atomicity,Angewandte Chemie, International Edition,2015年,Vol.54, No.34,pp.9810-9815
【文献】
IMAOKA,T. et al,Magic Number Pt13 and Misshapen Pt12 Clusters: Which One is the Better Catalyst?,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135, No.35,pp.13089-13095
【文献】
KITAZAWA,H. et al,Synthesis of a dendrimer reactor for clusters with a magic number,Chemistry Letters,2012年,Vol.41, No.8,pp.828-830
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記異種金属塩化合物は、デンドリマーの前記環境の異なる部位に直接配位する異種金属塩であるか、あるいは前記異種金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンが前記部位に配位して集積される化合物である請求項1〜4のいずれか一項2に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体。
前記各異種金属塩化合物を、集積させる前記環境の異なる部位のうち1つに対する当量もしくは集積させる前記環境の異なる部位のうち2つ以上に対する総和当量となる量で混合する請求項6または7に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法。
1種の前記異種金属塩化合物を混合した後、他の前記異種金属塩化合物を混合する際に、前記溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける等吸収点の変化をともなう請求項6〜8のいずれか一項に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法。
4種以上の前記異種金属塩化合物はいずれも、前記デンドリマーを含む溶液に混合した際に、前記環境の異なる各部位へ同じ順に集積していく請求項6〜9のいずれか一項に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法。
前記異種金属塩化合物は、デンドリマーの前記環境の異なる部位に直接配位する異種金属塩であるか、あるいは前記異種金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンが前記部位に配位して集積される化合物である請求項6〜10のいずれか一項に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法。
前記デンドリマーは、前記環境の異なる部位として、前記異種金属塩化合物と錯形成するイミン部位を含む請求項6〜11のいずれか一項に記載のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明においてデンドリマーの「環境の異なる部位」とは、デンドリマーにおける金属塩を集積し得る部位であって、金属塩化合物との相互作用が互いに異なる部位を意味する。当該部位は、金属塩化合物との錯形成部位、イオン結合部位、共有結合部位を含む。「錯形成部位」とは、デンドリマーにおける金属塩化合物との錯体を形成する部位を意味し、シッフ塩基となる部分である。1方向の電子密度勾配型デンドリマーでは、錯形成強度等の相互作用の強度が内層から外層へ次第に弱くなるように段階的に変化し、環境の異なる部位を形成するが、その他に、例えば、最外層に電子供与性の配位子を持つデンドリマーが、最外層だけ強い配位環境になった場合には、最も相互作用が強い部位が最外層となるように、内層における相互作用がそれよりも弱い部位とともに、環境の異なる部位を形成する。
【0022】
本発明において「相互作用の強度」とは、デンドリマーと金属塩化合物との錯形成、イオン結合部位、共有結合などのしやすさを意味し、デンドリマーの「錯形成強度」とは、集積する金属塩化合物へのシッフ塩基として塩基性が強く電子密度が高いことを意味する。異種金属塩化合物の「錯形成強度」とは、デンドリマーの塩基性の錯形成部位に集積するルイス酸としての強さを意味する。この錯形成強度は、例えば、デンドリマーの溶液に金属塩を滴下したときの紫外可視吸収スペクトルより、錯形成にともない吸収が増加する波長における吸光度の、濃度比(金属塩/デンドリマー)に対するプロットの結果より相対的に決定することができる。
【0023】
本発明において「金属塩化合物」とは、金属とアニオンとの塩、配位子との錯体等を含む広義のであり、更に、デンドリマーの環境の異なる部位に直接配位するそのような金属塩である他、金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンが前記部位に配位して集積される化合物も包含する。本発明において、デンドリマーは、異種金属塩が環境の異なる部位に直接配位する以外に、異種金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンが配位して集積されてもよい。この場合、「金属塩との相互作用」は「有機カチオンまたはプロトンとのの相互作用」に置き換えるものとする。
【0024】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体は、互いに金属種が異なる4種以上の異種金属塩化合物が、上記式(I)で表される基をコアとするデンドリマーの環境の異なる部位ごとに集積されたものである。
【0025】
式(I)中、n個のXはそれぞれ独立に、六員環芳香族ヘテロ環化合物およびその誘導体、または電子供与性の官能基を有するベンゼン誘導体の残基である2価の基を示し、Phはフェニレン基を示し、nは1〜3の整数を示す。
【0026】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体は、上記の環境の異なる部位をコア自体にも有している。1方向の電子密度勾配型デンドリマーでは、コアから末端にかけて塩基性勾配が生じているため、コアやそれに最も近い1世代目の錯形成部位の錯形成定数が最も高く、外側に向かって段階的に錯形成定数が減少していく。この錯形成定数の差が駆動力となって、金属塩化合物は段階的にコアを初めとして中心に近い1世代目から2世代目、3世代目と集積されていく。
【0027】
各層までが充填される数は、テトラフェニルメタンのようにコアの分岐数が4の場合、4、12、28、60となり、コアの分岐数が3の場合、3、9、21、45となり、コアの分岐数が2の場合、2、6、14、30となる。しかし、本発明のようにコアに1つの配位サイトを追加したピリジルトリフェニルメタンコアのようなデンドリマーでは(
図25)、第1世代以降の各層においてその一部の錯形成部位が他の錯形成部位とは互いに異なる環境となり、これにより、コアに1個、第1世代の層に1個、3個、第2世代の層に2個、6個、第3世代の層に4個、12個、第4世代の層に8個、24個、すなわち各層までが充填される数がコアを含めて1、2、5、7、13、17、29、37となるように順に各世代の層へ集積される(
図26)。すなわち、最初にピリジルトリフェニルメタンコアのピリジン部と結合しているデンドロンの錯形成部位(イミン部位)と錯形成し、次いで各層のその他の錯形成部位と錯形成する。
【0028】
式(I)においてn=1の場合は上記のとおりであるが、n=2の場合は、例えば、コアに2個、第1世代の層に2個、2個、第2世代の層に4個、4個、第3世代の層に8個、8個、第4世代の層に16個、16個、すなわち各層までが充填される数がコアを含めて2、4、6、10、14、22、30、46となるように順に各世代の層へ集積し得る。n=3の場合は、例えば、コアに3個、第1世代の層に3個、1個、第2世代の層に6個、2個、第3世代の層に12個、4個、第4世代の層に24個、8個、すなわち各層までが充填される数がコアを含めて3、6、7、13、15、27、31、55となるように順に各世代の層へ集積し得る。
【0029】
すなわち、第1世代以降の各層において、上記の環境の異なる部位が2つ以上形成されるため、60個以下の集積サイトにおける環境の異なる部位を少なくとも8つ形成し得る。したがって、5種以上の異種金属塩化合物の段階的集積が可能となり、特に少ない合計原子数での集積が可能となるため、サブナノ粒子の応用の幅が飛躍的に広がる。
【0030】
式(I)において、六員環芳香族ヘテロ環化合物は、ヘテロ原子として窒素、リン、ヒ素から選ばれる少なくとも1種を有する。これらの中でも、窒素が好ましい。
【0031】
ヘテロ原子として窒素を有する六員環芳香族ヘテロ環化合物としては、例えば、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,3−トリアジン等が挙げられる。
【0032】
ヘテロ原子としてリンを有する六員環芳香族ヘテロ環化合物としては、例えば、ホスホリン等が挙げられる。
【0033】
ヘテロ原子としてヒ素を有する六員環芳香族ヘテロ環化合物としては、例えば、アルセニン等が挙げられる。
【0034】
六員環芳香族ヘテロ環化合物の誘導体としては、例えば、六員環芳香族ヘテロ環の水素原子が1価の基で置換されたものや、六員環芳香族ヘテロ環の隣接する2つの原子と一緒になって縮合環を形成するもの等が挙げられる。
【0035】
六員環芳香族ヘテロ環化合物の誘導体の置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル、エチル)、アリール基(炭素数6〜20のアリール基、例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換または無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、芳香族ヘテロ環基(例えば炭素数4〜20)等が挙げられる。
【0036】
六員環芳香族ヘテロ環の隣接する炭素原子と一緒になって縮合環を形成するものとしては、例えば、六員環芳香族ヘテロ環に付加する環がアリール基(例えば炭素数6〜20)、芳香族ヘテロ環基(例えば炭素数4〜20)であるもの等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、六員環芳香族ヘテロ環化合物およびその誘導体としては、ピリジンが好ましい。
【0038】
六員環芳香族ヘテロ環化合物およびその誘導体の残基である2価の基は、その2つの結合部位の位置は特に限定されないが、六員環芳香族ヘテロ環の互いにパラ位となる位置、特に炭素原子の位置が結合部位であることが好ましい。
【0039】
電子供与性の官能基を有するベンゼン誘導体としては、例えば、ベンゼン環の水素原子が電子供与性の官能基を含む1価の基で置換されたものや、ベンゼン環の隣接する2つの原子と一緒になって電子供与性の官能基を含む縮合環を形成するもの等が挙げられる。ここで電子供与性とは、異種金属塩や、異種金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンと相互作用し集積し得る配位性等を持つことを意味する。
【0040】
電子供与性の官能基としては、例えば、窒素原子を有する基、酸素原子を有する基、硫黄原子を有する基等が挙げられる。
【0041】
窒素原子を有する基としては、例えば、アミノ基、置換アミノ基(ジアルキルアミノ基等)、イミノ基(−NH−)、アミド基、シアノ基、ニトロ基、窒素環基(5員環等の窒素環基、カルバゾール基、モルホリニル基等)等が挙げられる。
【0042】
酸素原子を有する基としては、例えば、ヒドロキシル基、エーテル基、カルボキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基)、ホルミル基、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、酸素環基(5員環等の酸素環基等)等が挙げられる。
【0043】
硫黄原子を有する基としては、例えば、チオ基(−S−)、チオール基(−SH)、チオカルボニル基(−SO−)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等のC
1−4アルキルチオ基等)、スルホ基、スルファモイル基、スルフィニル基(−SO
2−)等が挙げられる。
【0044】
ベンゼン環の隣接する2つの原子と一緒になって電子供与性の官能基を含む縮合環を形成するものとしては、例えば、六員環芳香族ヘテロ環に付加する環が芳香族ヘテロ環基(例えば炭素数4〜20)であるもの等が挙げられる。具体的には、例えば、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、キノキサリン、シンノリン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0045】
電子供与性の官能基を有するベンゼン誘導体は、上記に例示した電子供与性の官能基以外に、上記に六員環芳香族ヘテロ環化合物の誘導体の置換基として例示したような置換基を有していてもよい。
【0046】
これらの中でも、電子供与性の官能基を有するベンゼン誘導体としては、置換アミノ基が好ましい。
【0047】
電子供与性の官能基を有するベンゼン誘導体の残基である2価の基は、その2つの結合部位の位置は特に限定されないが、ベンゼン環の互いにパラ位となる位置が結合部位であることが好ましい。
【0048】
デンドリマーは、中心から規則的に分枝した構造を持つ樹状高分子であり、コアとなる中心分子と、側鎖部分となるデンドロンとから構成される。また、デンドロン部分の分岐回数は世代とも呼ばれる。デンドリマーの中心分子から一段階分岐した部分を第1世代、二段階分岐した部分を第2世代と呼ぶ。一般にデンドリマーはコアから規則正しく、完全に樹状分岐をしているポリマーであり、中心付近が疎、表面付近が密な球形構造をしており、中心から分岐を繰り返すごとに世代数が増えていく。
【0049】
デンドリマーは、ダイバージェント法、コンバージェント法等によって製造することができる。ダイバージェント法は、官能基を複数持つ分子をコアとし、中心から外側に向かって枝を伸ばしていく方法である。コンバージェント法は、外側から内側に枝を伸ばしていき、最後にコアに接着させて球状高分子にする方法であり、デンドリマーの外殻となる部分から内側に向かってデンドロンの合成を進めていき、最後にコアにいくつかのデンドロンを結合させる。
【0050】
本発明においてデンドリマーは、樹状構造の分岐点に錯形成部位として電子供与性の結合または原子を含むものが好ましい。例えば、電子供与体になる孤立電子対を持つ窒素原子や酸素原子を含むデンドリマー等が挙げられる。金属塩化合物が配位することのできる窒素原子としては、アゾメチン結合(−CH=N−)中の窒素原子等が挙げられる。本発明においてデンドリマーは、このように錯形成部位がイミン部位を含むことが好ましい。
【0051】
本発明に使用されるデンドリマーとしては、例えば、フェニルアゾメチンデンドリマーや、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリプロピレンイミンデンドリマー等のポリアルキレンイミンデンドリマー、ポリベンジルエーテルデンドリマー等のポリアリールアルキルエーテルデンドリマー等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、フェニルアゾメチンデンドリマーが好ましい。フェニルアゾメチンデンドリマーは、π共役による剛直な構造であるため非常に硬いことを特徴とし、分子の内部には十分な広さの空間が確保され、金属塩化合物と錯体を形成する配位サイトを多数有していることから、4種以上の多数の異種金属塩化合物を内層から外層へ各段階の錯形成部位に精密集積するのに適している。
【0053】
フェニルアゾメチンデンドリマーとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0054】
【化3】
上記式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーのコアとなる中核分子基であり、フェニルアゾメチンデンドリマー分子は、この中核分子基を中心として、外側に向かって式(1)中のBで表される単位の連鎖を成長させる。その結果、成長後のフェニルアゾメチンデンドリマー分子は、上記Aを中心として、上記Bが連鎖して放射状に成長した構造を有する。Bが連鎖する回数を「世代」と呼び、中核分子基Aに隣接する世代を第1世代として、外側に向かって世代数が増加していく。上記式(1)中のAは、次式
【0055】
【化4】
の構造で表され、R
1は、上記式(I)で表される基である。
【0056】
上記式(1)中のBは、上記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成させる次式
【0057】
【化5】
の構造で表され、R
2は、同一または異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。このBは、フェニルアゾメチンデンドリマーの世代を構成し、中核分子基Aに直接結合するBが第1世代となる。
【0058】
上記一般式(1)中のRは、末端基として上記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【0059】
【化6】
の構造で表され、R
3は、同一または異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。Rは、フェニルアゾメチンデンドリマー分子の放射状に伸びた構造の末端に位置することになる。
【0060】
上記式(1)において、pは、フェニルアゾメチンデンドリマーの上記Bの構造を介しての世代数を表し、qは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、q=2
p×4である。
【0061】
置換基を有してもよい芳香族基であるR
2、R
3は、それぞれ独立に、その骨格構造として、フェニル基またはその類縁の構造であってよく、例えば、フェニル基、フェニレン基、ビフェニル基、ビフェニレン基、ビフェニルアルキレン基、ビフェニルオキシ基、ビフェニルカルボニル基、フェニルアルキル基等の各種のものが挙げられる。これらの骨格は、置換基として、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基、アルキルチオ基、カルボニル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基等の各種の置換基が例示される。上記骨格は、これらの置換基を、任意に1または複数有することができる。
【0062】
上記式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマーは、単分子化合物としては比較的大きな分子(例えば、4世代(n=3)のフェニルアゾメチンデンドリマーであれば、直径約2nm程度である。)であり、分子内に、金属原子が配位することのできる窒素原子を所定の間隔で複数有する。このため、フェニルアゾメチンデンドリマーは、単分子化合物としては比較的大きな分子サイズの内部に、複数個の金属元素を1原子ずつ規則的に配置させることができる。
【0063】
フェニルアゾメチンデンドリマーのサイズは、世代数、末端に結合する芳香族基のサイズ、末端に結合する芳香族基が有する置換基のサイズを適宜選択することで調整できる。その構造に基づいてフェニルアゾメチンデンドリマーのサイズを調整することで、フェニルアゾメチンデンドリマーを用いて形成されるデンドリマーの異種金属塩集積体のサイズを調整することができる。
【0064】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法では、最初の工程として、デンドリマーを含む溶液を調製する。
【0065】
本発明において、デンドリマーとその異種金属塩集積体を溶解させる溶媒は、これらを溶解させることができるものであれば特に限定されない。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、四塩化炭素等の含塩素系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソール、アセトフェノン等の芳香族系有機溶媒、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、リモネン、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、アセトニトリル等の有機溶媒が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
金属塩化合物を混合する前の溶液中におけるデンドリマーの濃度は、特に限定されないが、0.001〜100μmol/Lが好ましく、0.01〜10μmol/Lがより好ましい。
【0067】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法では、次の工程として、デンドリマーの環境の異なる部位ごとに相互作用の強度が互いに異なる4種以上の異種金属塩化合物を溶液と混合し、4種以上の異種金属塩化合物が環境の異なる部位ごとに集積したデンドリマーの異種金属塩集積体を得る。
【0068】
デンドリマーに集積させる4種以上の異種金属塩化合物における金属元素としては、特に限定されない。このような金属元素は、例えば、触媒としての使用のような、金属元素の使用目的に応じて適宜選択される。デンドリマーに集積させる異種金属塩における金属元素の典型例としては、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、錫、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、ビスマス等が挙げられる。
【0069】
4種以上の異種金属塩化合物におけるカウンターアニオンもしくは配位子としては、特に限定されないが、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲンイオンや、トリフルオロメタンスルホン酸、酢酸、アセチルアセトン、サレン、シクロペンタジエン等が挙げられる。
【0070】
異種金属塩化合物は、デンドリマーの前記環境の異なる部位に直接配位する異種金属塩である他、異種金属塩が対アニオンとなる有機カチオンまたはプロトンが前記部位に配位して集積される化合物であってもよい。
【0071】
異種金属塩アニオンと有機カチオンを含む化合物としては、例えば、トリフェニルメチリウムカチオンのペンタクロロスズ酸塩、ヘキサクロロアンチモン酸塩等が挙げられる。
【0072】
異種金属塩アニオンとプロトンを含む化合物としては、例えば、テトラクロロ金酸、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロイリジウム酸、ヘキサクロロオスミウム酸、過レニウム酸、タングステン酸等が挙げられる。
【0073】
金属塩の配位力は、カウンターアニオンの電子的な効果、有機配位子の配位子の立体的効果や、ダミーの配位力を利用した金属集積、すなわち金属塩そのものではなく有機カチオンやプロトンの配位力によって、その対アニオンとして金属を集積すること、その他、金属塩の酸化数を変更することによっても調整可能である。これらの手段によって、同一元素であっても金属集積における配位力のバリエーションを増やすことができ、2種の金属の集積順序を変化させることも可能である。
【0074】
4種以上の異種金属塩化合物をデンドリマー溶液と混合する方法としては、特に限定されないが、金属塩化合物の溶液のデンドリマー溶液への滴下等が挙げられる。
【0075】
デンドリマーと金属塩とが混合されると、これらの錯形成を例とすると、金属元素がデンドリマーの錯形成部位に配位し、デンドリマーの内部に取り込まれる。1方向の電子密度勾配型デンドリマーでは、このとき、金属元素はデンドリマーの中心部側の錯形成部位に優先的に配位するので、中心部側に存在する錯形成部位から外側に存在する錯形成部位の順に配位する。最初に混合した金属塩はデンドリマーのコアもしくは第1世代の錯形成部位から外側に世代順に配位し、次いで混合した錯形成強度の弱い別の金属塩は、先の金属塩が配位した錯形成部位からさらに外側に世代順に配位する。そのため、デンドリマーと金属塩とのモル比を制御することにより、デンドリマーの所望の位置に金属元素を配置できる。
【0076】
金属塩化合物をデンドリマーに集積する方法として、金属塩化合物溶液を滴下する順番および金属溶液の混合は制限されない。これはデンドリマー部位との錯形成は可逆的であるため、エネルギー的に最安定な配置に変化するためである。これは自発的に、錯体結合強度の強い金属等が配位力の高い錯形成部位に、錯体結合強度の弱い金属等は配位力の弱い錯形成部位に結合することを意味する。実際に錯形成強度の弱い金属を配位力の強い内層に集積させ、その後に錯形成強度の強い金属を入れた場合、結合部位が入れ替わることが報告されている。(Bull. Chem. Soc. Jpn. 2007, 80, 1563-1572.)
本発明では、互いに金属種が異なる4種以上の異種金属塩化合物が、デンドリマーの環境の異なる部位ごとに集積されたデンドリマーの異種金属塩集積体を得る。ここで集積する金属種と金属塩化合物の数は、特に限定されない。フェニルアゾメチンデンドリマーの場合、一例としては、4〜8種の異種金属塩化合物を集積させることができ、例えば、4種の異種金属塩化合物を13個、5種の異種金属塩化合物を13個、6種の異種金属塩化合物を17個、8種の異種金属塩化合物を37個集積させることができる。
【0077】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体の製造方法では、各異種金属塩化合物を、集積させる環境の異なる部位のうち1つに対する当量もしくは集積させる環境の異なる部位のうち2つ以上に対する総和当量となる量で混合することが好ましい。また、1種の異種金属塩化合物を混合した後、他の異種金属塩化合物を混合する際に、溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける等吸収点の変化をともなうことが好ましい。このような態様は、4種以上の異種金属塩化合物が環境の異なる部位ごとに集積したデンドリマーの異種金属塩集積体を得るのに適している。すなわち、デンドリマーとこれらの金属塩化合物との錯形成は、溶媒中で各世代のデンドリマーの錯形成部位に対する金属塩化合物当量を制御することにより行うことができる。そして、紫外可視吸収スペクトルにより等吸収点の段階シフトを確認した後、次の種類の金属塩化合物を混合することで、段階的な集積が可能となる。フェニルアゾメチンデンドリマーの場合、金属塩化合物を混合していくと320nm付近のFree baseイミン由来の吸収が減少し、400nm付近の錯体由来の吸収が増加し、デンドリマーのイミン部位に対して金属塩が配位していることが確認できる。等吸収点の変化に要した金属塩化合物の当量数が各層のイミン数と一致することで、金属塩化合物の錯形成が内層から外層へ段階的に起きていることが確認できる。
【0078】
本発明において、4種以上の異種金属塩化合物はいずれも、デンドリマーを含む溶液に混合した際に、環境の異なる各部位へ同じ順に集積していくことが好ましい。4種以上の異種金属塩化合物の選定条件としては、各金属塩化合物が同溶媒条件でデンドリマーに精密集積できること、各金属塩化合物が同溶媒条件で異なる錯形成定数を持つこと、デンドリマーの混合集積時に錯形成部位の段階にともなう数の等吸収点が出ることが考慮される。4種以上の異種金属塩化合物はいずれも、デンドリマーを含む溶液に混合した際に、環境の異なる各部位へ同じ順に集積していくこと、例えば、4種以上の異種金属塩化合物はいずれも、デンドリマーを含む溶液に各異種金属塩化合物単独で混合した際に、内層から外層へ各段階の錯形成部位ごとに順に錯形成することは、4種以上の異種金属塩化合物が環境の異なる部位ごとに集積したデンドリマーの異種金属塩集積体を得るのに適した条件である。
【0079】
錯形成定数の異なる金属塩のデンドリマー中での混合集積においては、次の理論的考察が考慮される。
【0080】
以下に模式的に示すように、デンドリマー中の錯形成部位(以下、イミンを例とする。)への金属塩の集積において、強い金属塩と弱い金属塩の2種を用いた場合をモデルとして考察する。
【0081】
【化7】
このように強い金属塩から弱い金属塩へ内側の強いイミン、外側の弱いイミンの順に段階的に集積する場合と、これらがランダムな個数・組成比で集積する非段階的集積の場合がある。どのような条件のときに、どの程度の選択性で、強い金属塩が内側に、弱い金属塩が外側に集積するのかに関して、強い金属塩と内側の強いイミンとの錯形成定数をK
1、強い金属塩と外側の弱いイミンとの錯形成定数をK
1′、弱い金属塩と内側の強いイミンとの錯形成定数をK
2、弱い金属塩と外側の弱いイミンとの錯形成定数をK
2′とすると、強い金属塩と内側の強いイミン、弱い金属塩と外側の弱いイミンが錯形成した混合錯体Aと、弱い金属塩と内側の強いイミン、強い金属塩と外側の弱いイミンが錯形成した混合錯体Bについて、次式
【0082】
【数1】
が成り立ち、段階的集積の選択性は、
【0083】
【数2】
となる。量子化学に基づいた単純な理論モデルを用いると、無次元錯形成定数について次のとおりとなる。
【0084】
【数3】
混合錯体の濃度比Rは、次式:
【0085】
【数4】
で表され、実験で求まる次式の次元付き錯形成定数:
【0086】
【数5】
との関係は、イミンおよび金属塩の初期濃度をC
0とすると次のとおりとなる。
【0087】
【数6】
第4世代(G4)のフェニルアゾメチンデンドリマーではλ〜2であり(K. Yamamoto et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 78, 349 (2005).)、次のような関係となる。
【0088】
【数7】
第4世代(G4)のフェニルアゾメチンデンドリマーでは次式:
【0089】
【数8】
の関係が成り立ち(K. Yamamoto et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 78, 349 (2005).)、以上より段階的集積の選択性は、錯形成定数のオーダー差、混合錯体の濃度比との関係において次のとおりとなる。
【0090】
【表1】
つまり2種の混合錯体について理論計算から段階的集積の選択性に必要な条件が推測される。しかしながら、4種以上、特に5種以上の多数の異種金属錯体を段階的に精密集積させることを想定した場合、異種金属塩ごとに考慮しなければならない、デンドリマーにおける錯形成強度が異なる錯形成部位への錯形成定数の増加、カウンターアニオンの置換可能性とそれによる錯形成強度の変化など、理論的な側面からは必ずしもカバーしきれない予測不能な要因が複雑に関与し得ることが考えられ、段階的な精密集積が達成し得るか、非段階的でランダムな集積となるのか、正確な予測は困難である。本発明は、後述の実施例での実験結果に基づき、これまでにない多数種の異種金属錯体を内層から外層へ段階的に精密集積したデンドリマー錯体が実際に得られた知見によって完成されたものである。
【0091】
本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体は、互いに金属種が異なる4種以上の異種金属塩化合物が、デンドリマーの環境の異なる部位ごとに集積されたものである。そして、このデンドリマーの異種金属塩集積体を還元することによって、4種以上の異種金属の合金を含むサブナノ金属粒子を製造することができる。
【0092】
ここで「サブナノ」の用語は、粒子の粒径が例えば0.5〜2.5nmの範囲内にあること、特に0.8〜1.8nmの範囲内にあることを意味している。いくつかの原子が集まり、それらの一部もしくは全体が直接結合することによってつくられる多面体型の原子集団は一般にクラスターと称されているが、その意味においてサブナノ金属粒子はクラスターである。
【0093】
デンドリマーの異種金属塩集積体の還元は、例えば、金属塩化合物に対して還元作用を有し、これを0価の状態まで還元することができる還元剤を用いて溶液中で行うことができる。このような還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化シアノホウ素ナトリウム、水素、ヒドラジン類、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素テトラn−ブチルアンモニウム、水素化ホウ素メチルアンモニウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、ボラン錯体類、トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化トリブチルホウ素リチウム、水素化トリブチルホウ素カリウム、Schwartz試薬、Stryker試薬、水素化トリブチルスズ、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カルシウム、ベンゾフェノンケチルラジカル類、金属ナフタレニド類、過酸化水素等が挙げられる。
【0094】
このようにしてデンドリマーの異種金属塩集積体を還元することで、集積させた金属塩化合物の数に相当する大きさのサブナノ金属粒子を、デンドリマーに包含されたものとして調製することができる。本発明のデンドリマーの異種金属塩集積体を用いて得られるサブナノ金属粒子としては、例えば、4元素13原子、5元素13原子、6元素17原子、8元素37原子等のサブナノ金属粒子が挙げられる。このようなサブナノ金属粒子は、各種の担体物質に担持してもよい。担体物質としては、多孔質物質、例えば、ケッチェンブラック等の多孔質炭素材や、メソポーラスシリカ、ゼオライト等が挙げられる。担体物質への担持によって、サブナノ金属粒子の凝集等を抑え、触媒として用いた場合には活性の低下を効果的に抑えることが可能となる。
【0095】
本発明のデンドリマー錯体から得られるサブナノ金属粒子は、触媒や発光材料をはじめとして各種の分野、例えば、医薬品、電子機能材料、環境適合材料等のための素材としての応用が期待される。
【0096】
極性官能基を持たない炭化水素化合物の酸化反応において、有害な有機溶媒中で金属の過酸化物を量論量使用する手法が用いられてきた。近年、無溶媒で空気中の酸素を用いたクリーンな酸化反応の研究が盛んに行われている。中でも、貴金属のナノ粒子を多孔質のカーボン材料や金属酸化物へと担持した触媒の研究は広く行われており有望な触媒系として期待されている。こういった不均一系触媒の反応性を決める上で重要な要素が担持されている金属ナノ粒子の形状、サイズ、金属組成である。特に2nm以下のサイズ領域では、触媒の粒子径を小さくしていくとその比表面積の増大だけでなく、金属表面の電子状態も大きく変化し反応性が大きく変わることがわかっており新たな高機能触媒の開発において注目されている。本発明者らは、独自開発していたデンドリマーを用いた手法を用い、様々な金属の組み合わせの合金ナノ粒子を合成し、空気中の酸素分子を酸化剤として用いた常圧下での炭化水素の酸化反応の触媒活性を評価した。この研究過程で銅原子と他の貴金属からなる合金ナノ粒子が、有機化合物の酸化反応に用いられる市販触媒と比較すると24倍もの活性を有することを見出した。また、この触媒を用い触媒量の有機ヒドロペルオキシドを加えることで常温常圧下で炭化水素のアルデヒドやケトンへの酸化反応を進行させることが分かった。また、異なる金属組成の合金触媒による活性の変化や生成物と中間体であるケトン、有機ヒドロペルオキシドの組成比等を調べることで触媒の合金化による反応の促進過程を突き止めた。
【0097】
発光材料は基礎・応用共に活発に研究されている分野である。これまで様々な発光分子が開発されてきたが、今後はその機能化が求められている。本発明者らのグループが独自開発していたデンドリマーと呼ばれる規則的に枝分かれを繰り返す樹状構造をした高分子を利用することで、発光体を精密に配置した分子を作ることに成功し、分子内に配置する化学種として塩化ビスマスに着目した。この塩化ビスマスがデンドリマー内に精密に集積され発光特性を発現することで、制御可能な発光デンドリマーの構築が実現している。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
図1に示すように、5元素13原子に相当する金属塩のフェニルアゾメチンデンドリマーへの段階的集積を試みた。ピリジルトリフェニルメタンをコアとする第4世代のフェニルアゾメチンデンドリマーPyTPM−G4は、コアの窒素原子より、コアに直結する第1世代G1から第4世代G4にかけて、内層から外層へ次第に弱くなる段階的な電子密度勾配を持つ。つまりコアからピリジン部位へ1当量、第1世代のイミン部位へ1当量、3当量、そして第2世代のイミン部位に2当量、6当量でイミン塩基性の差異による段階的な錯形成部位を持つ。本実施例ではPyTPM−G4に対して従来未知である5種の異種金属塩の段階的集積を試みた。
【0099】
まず、
図2に示すように、テトラフェニルメタンをコアとする第1世代のフェニルアゾメチンデンドリマーTPM−G1の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2、を滴下したときの紫外可視吸収スペクトル変化を測定し、310nmでの吸光度比A/Asat.を濃度比:金属塩/TPM−G1に対してプロットした。
【0100】
デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(TPM−G1 30μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。
【0101】
図2に示すように、5種金属塩の錯形成強度には差があり、錯形成の強さは、GaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2の順であった。この結果より、各金属塩が同溶媒条件で異なる錯形成定数を持つこと(G1)が明らかとなった。
【0102】
次に、PyTPM−G4の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2を13当量まで各々滴下し集積を試みた。
図3は、PyTPM−G4の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2を13当量まで各々滴下したときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。
図4は、PyTPM−G4の溶液にBiCl
3、SnBr
2を13当量まで各々滴下したときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(PyTPM−G4 3μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。
【0103】
GaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2のいずれも等吸収点が5つ確認され、これらが1、1、3、2、6当量の順で集積することが確認された。
図2から
図4より、5種金属塩のPyTPM−G4への精密集積を達成し、段階的集積の条件として、各金属塩が同溶媒条件でPyTPM−G4に精密集積できること、各金属塩が同溶媒条件で異なる錯形成定数を持つこと(G1)、各金属塩が同溶媒条件でPyTPM−G4に13当量精密集積できることが明らかとなった。
【0104】
次に、PyTPM−G4の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2を順に1、1、3、2、6当量で13当量まで滴下し集積を試みた。
図5は、そのときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(PyTPM−G4 3μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。等吸収点が5つ確認され、これらが1、1、3、2、6当量の順で集積することが確認された。このことから、集積順序の入れ替わりなく5種金属塩のPyTPM−G4への精密混合集積を達成できることが明らかとなった。
【0105】
次に、5種金属塩をPyTPM−G4へ精密集積したデンドリマー錯体からサブナノ合金クラスターの合成を試みた。
図6にその合成手順を示す。上記で得た5種金属塩のPyTPM−G4錯体を、NaBH
4溶液を加えて還元を行い、構成原子数と組成比の制御された、5元素・13原子のフェニルアゾメチンデンドリマーサブナノ金属粒子@PyTPMG4デンドリマーを得た。担持剤のケッチェンブラックを加え担持した(1.5hr)。
図6は、この担持体についてのHAADF−STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法)による観察写真であり、明るい白い輝点はサブナノ粒子を示している。アトムカウンティング法とともに、13原子クラスターの像を確認した。
図7より、1nm前後の粒子を多数確認し、高い収率でサブナノクラスターの合成に成功したことを確認した。
図8は、5種金属塩をPyTPM−G4への精密集積したデンドリマー錯体から合成した13原子クラスターのEDSスペクトルとEDSマッピングである。Ga、In、Au、Bi、Snのピークをクラスター中にそれぞれ確認し、5元素クラスターの生成を確認した。
<実施例2>
図9および
図10は、4元素13原子に相当する金属塩のフェニルアゾメチンデンドリマーへの段階的集積を試みた。
【0106】
図9は、PyTPM−G4の溶液にGaCl
3、InBr
3、BiCl
3、SnBr
2、を順に1、1、3、8当量で13当量まで滴下したときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(PyTPM−G4 3μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。等吸収点が5つ確認され、これらが1、1、3、8当量の順で集積することが確認された。このことから、集積順序の入れ替わりなく4種金属塩のPyTPM−G4への精密混合集積((GaCl
3)
1(InBr
3)
1(BiCl
3)
3(SnBr
2)
8@PyTPM−G4)を達成できることが明らかとなった。
【0107】
図10は、PyTPM−G4の溶液に各種組成および組成比の金属塩を順に13当量まで滴下したときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。In
2Au
3Bi
2Sn
6、In
1Au
4Bi
2Sn
6、In
1Au
1Bi
5Sn
6、In
1Au
1Bi
3Sn
8、Ga
2Au
3Bi
2Sn
6、Ga
1Au
4Bi
2Sn
6、Ga
1Au
1Bi
5Sn
6、Ga
1Au
1Bi
3Sn
8、Ga
1In
1Bi
5Sn
6、Ga
1In
1Bi
3Sn
8、Ga
1In
1Au
5Bi
6、Ga
1In
1Au
3Bi
8、Ga
2In
3Au
2Sn
6、Ga
1In
4Au
2Sn
6、Ga
1In
1Au
5Sn
6、Ga
1In
1Au
3Sn
8の各金属組成について、金属塩の順次添加時に等吸収点が5つ確認され、実施例1の5元素13原子に相当する金属塩のフェニルアゾメチンデンドリマーへの段階的集積より、13原子で元素の種類を1つ減らすことで、様々な組成において異種金属塩が段階的に集積したデンドリマー錯体が得られることが明らかとなった。
<実施例3>
次に、実施例1の結果を踏まえて、6元素17原子に相当する金属塩のフェニルアゾメチンデンドリマーへの段階的集積を試みた。
図11左は、PyTPM−G4の溶液にPtCl
4を17当量まで滴下したときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。等吸収点が6つ確認され、1、1、3、2、6、4当量の順で集積することが確認された。また
図11右では、テトラフェニルメタンをコアとする第1世代のフェニルアゾメチンデンドリマーTPM−G1の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4を滴下したときの紫外可視吸収スペクトル変化を測定し、310nmでの吸光度比A/Asat.を濃度比:金属塩/TPM−G1に対してプロットした。6種金属塩の錯形成強度には差があり、錯形成の強さは、GaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4の順であった。この結果より、各金属塩が同溶媒条件で異なる錯形成定数を持つこと(G1)が明らかとなった。
【0108】
次に、PyTPM−G4の溶液にGaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4を順に1、1、3、2、6、4当量で17当量まで滴下し集積を試みた。
図12は、そのときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(PyTPM−G4 3μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。等吸収点が6つ確認され、これらが1、1、3、2、6、4当量の順で集積することが確認された。このことから、集積順序の入れ替わりなく6種金属塩のPyTPM−G4への精密混合集積を達成できることが明らかとなった。
<実施例4>
次に、8元素37原子に相当する金属塩のフェニルアゾメチンデンドリマーへの段階的集積を試みた。
【0109】
まず、
図13に示すように、テトラフェニルメタンをコアとする第1世代のフェニルアゾメチンデンドリマーTPM−G1の溶液にFeCl
3、GaCl
3、InBr
3、AuBr
3、SbBr
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4を滴下したときの紫外可視吸収スペクトル変化を測定した。また、310nmでの吸光度比A/Asat.を濃度比:金属塩/TPM−G1に対してプロットした。
【0110】
デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(TPM−G1 30μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。
【0111】
図13に示すように、8種金属塩の錯形成強度には差があり、錯形成の強さは、FeCl
3、GaCl
3、InBr
3、AuBr
3、SbBr
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4の順であった。この結果より、各金属塩が同溶媒条件で異なる錯形成定数を持つこと(G1)が明らかとなった。
【0112】
次に、PyTPM−G4の溶液にFeCl
3、GaCl
3、InBr
3、AuBr
3、SbBr
3、BiCl
3、SnBr
2、PtCl
4を順に1、1、3、2、6、4、12、8当量で37当量まで滴下し集積を試みた。
図14は、そのときの紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(PyTPM−G4 3μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。等吸収点が8つ確認され、これらが1、1、3、2、6、4、12、8当量の順で集積することが確認された。このことから、集積順序の入れ替わりなく8種金属塩のPyTPM−G4への精密混合集積を達成できることが明らかとなった。
<参考例1>
錯形成強度への金属塩のカウンターアニオンの効果を検討した。
【0113】
テトラフェニルメタンをコアとする第1世代のフェニルアゾメチンデンドリマーTPM−G1の溶液に
図15に示す金属塩を滴下したときの紫外可視吸収スペクトル変化を測定し、310nmでの吸光度比A/Asat.を濃度比:金属塩/TPM−G1に対してプロットした。
【0114】
デンドリマーをジクロロメタン(DCM)とアセトニトリル(AN)の混合溶媒に溶解したDCM/AN=1:1溶液(TPM−G1 30μM)に対し、金属塩のアセトニトリル(AN)溶液を滴下した。測定は20℃で行った。同一金属種(In、Sn、Sb、Au、Pt)について2種のハロゲン(BrとCl)を対比した。
【0115】
その結果、
図15に示すように、錯形成強度はIn
IIIX
3ではBr>Cl、Sn
IIX
2ではCl>Br、Sb
IIIX
3ではBr>Cl、Au
IIIX
3ではBr>Cl、PtX
4ではBr>>Clの傾向がみられた。これは主にハロゲン原子Xの電子的な効果によるものと考えられる。このように、カウンターイオンによって配位力を調整可能であることが確認された。
【0116】
次に、金属塩の対アニオンを有機配位子に変更することで配位力の制御を行うことを試みた。
【0117】
図16は、モデル化合物TPM−G1を用いて、四塩化チタンの対アニオンをシクロペンタジエニル配位子(cp)に変化させた際の配位力の変化をプロットしたものである。溶媒はDCM(ジクロロメタン)/THF(テトラヒドロフラン)=3:1、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。配位子の効果を正確に検証するため、金属の酸化数は同じものを比較している。
【0118】
その結果、Ti
IVCl
4>Ti
IVCl
3(cp)>Ti
IVCl
2(cp)
2の順で配位力が強くなることが分かった。ハロゲン原子の電子的な効果に加え、配位子の立体的効果を利用することで、配位力を大きくコントロールすることに成功した。
【0119】
上記に示したような金属塩の対アニオンの電子的・立体的効果を利用することで、二種の金属の集積順序を変化させることが可能である。
【0120】
図17は、モデル化合物TPM−G1を用いて、インジウムとスズの塩化物・臭化物(Cl、Br)とトリフルオロメタンスルホン酸塩(OTf)の配位力を比較したプロットである。インジウムとスズの塩化物・臭化物(Cl、Br)では、溶媒はDCM(ジクロロメタン)/AN(アセトニトリル)=1:1、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。トリフルオロメタンスルホン酸塩(OTf)では、溶媒はTHF(テトラヒドロフラン)、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。
【0121】
同図に示されるように、インジウム(In)とスズ(Sn)の配位力を逆転させることができる。これにより二種以上の金属の混合集積において、これらの集積順序のコントロールが可能となることが示唆された。
<参考例2>
ダミーの配位力を利用した金属集積を試みた。
(有機カチオンによる集積)
金属塩そのものではなく有機カチオンの配位力によって、その対アニオンとして金属を集積することを試みた。
【0122】
図18は、TPM−G4デンドリマー中に、トリフェニルメチリウムカチオン(Ph
3C
+)のテトラフルオロホウ酸塩を集積させた際の紫外可視吸収スペクトルによる滴定を示す。溶媒はDOX(ジオキサン)/THF(テトラヒドロフラン)=20:1、TPM−G4の濃度は3μM、温度は20℃である。それぞれ等吸収点が各4層でそれぞれ別個に確認できる。
【0123】
この結果から、デンドリマー中には金属塩だけではなく有機カチオンも精密集積することが可能であることが分かる。
【0124】
図19の上側は、モデル化合物TPM−G1を用いて、トリフェニルメチリウムカチオンのテトラフルオロホウ酸塩、ペンタクロロスズ酸塩、ヘキサクロロアンチモン酸塩(BF
4−、[Sn
IVCl
5]
−、[Sb
VCl
6]
−)の配位力の比較をプロットしたものである。溶媒はDCM(ジクロロメタン)/AN(アセトニトリル)=1:1、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。このように有機カチオンの配位力を利用して、その対アニオンとして金属を集積させることが可能である。
【0125】
プロットからはトリフェニルメチリウムカチオンの配位力は対アニオンにあまり依存しないことが分かる。一方、
図19の下側は、スズ、アンチモンの各々について、上記トリフェニルメチリウムカチオンの塩と、塩化物・臭化物との配位力の比較をプロットしたものである。このように、同一元素であっても金属集積における配位力のバリエーションを増やすことができる。
(プロトンによる集積)
金属塩そのものではなくプロトンの配位力によって、その対アニオンとして金属を集積することを試みた。
【0126】
図20は、TPM−G4デンドリマー中に、ヘキサクロロ白金酸を集積させた際の紫外可視吸収スペクトルによる滴定を示す。溶媒はDOX(ジオキサン)/AN(アセトニトリル)=1:1、TPM−G4の濃度は3μM、温度は20℃である。等吸収点が各4層でそれぞれ別個に確認できる。
【0127】
この結果から、デンドリマー中には金属塩だけではなくプロトンも精密集積することが可能であることが分かる。
【0128】
図21の上側は、モデル化合物TPM−G1を用いて、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラクロロ金酸、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロイリジウム酸(TfOH、H[Au
IIICl
4]、H
2[Pt
IVCl
6]、H
2[Ir
IVCl
6])の配位力の比較をプロットしたものである。溶媒はDCM(ジクロロメタン)/AN(アセトニトリル)=1:1、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。
【0129】
プロットからはプロトンの配位力は酸のpKaに依存して変化することが考えられる。このようにプロトンの配位力を利用して、その対アニオンとして金属を集積させることが可能である。
【0130】
一方、
図21の下側は、金、白金の各々について、上記プロトン化合物と、塩化物・臭化物との配位力の比較をプロットしたものである。このように、同一元素であっても金属集積における配位力のバリエーションを増やすことができる。
【0131】
また、多価の金属錯体アニオン([Pt
IVCl
6]
2−、[Ir
IVCl
6]
2−)では金属に対してプロトンの数が異なるため特別な集積数のコントロールを行うことができる。
<参考例3>
金属塩の酸化数による配位力制御
金属塩の酸化数を変更することで配位力の制御を行うことも可能である。
図22は、モデル化合物TPM−G1を用いて、塩化スズの酸化数を+II価と+IV価に変化させた際の配位力の変化をプロットしたものである。溶媒はDCM(ジクロロメタン)/AN(アセトニトリル)=1:1、TPM−G1の濃度は30μM、温度は20℃である。酸化数の効果を正確に検証するため、金属の対アニオンは同じものを比較している。
【0132】
その結果、Sn
IVCl
4>Sn
IICl
2の順で配位力が強くなることが分かった。酸化数の変化により配位力をコントロールすることに成功した。
【0133】
以上の参考例1〜3より、金属種をスズに限ってみても、
図23に示すように、対アニオンの変更、酸化数の変更、ダミー集積法などを利用することで、配位力を様々にコントロールすることが可能である。
<実施例5>
GaCl
3、InBr
3、AuCl
3、BiCl
3、SnBr
2を用いて溶液中で還元合成した5元素クラスター(デンドリマーと還元剤込み)を石英基板上にキャストし乾燥させたものをサンプルとした。このサンプルを用いて光学特性(吸収・発光特性)を調べた。このサンプルのUV−VIS励起スペクトルとNIR発光スペクトルを
図24に示す(Integration 0.1s/nm,Average 30)。5元素クラスターサンプルは近赤外領域の940nm付近に発光を持った。デンドリマーと還元剤のみではこの発光が生じないことも確認した。またUV−VIS吸収と励起スペクトルから判断してクラスターの吸収は410nm付近にあることが明らかとなった。