【実施例】
【0073】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
実施例1は、カバノアナタケから抽出物を抽出した実施例である。
1)カバノアナタケの子実体の刻み5.0kg(ロシア産;ロット番号No.131008、チハヤ株式会社)に80%エタノールを加え、室温で抽出した。
2)上記1)で得られた抽出物を50%エタノールで溶解・吸引濾過して、不溶部(56.1g)と可溶部(183.0g)とを得た。すなわち、抽出物を50%エタノールで溶解処理した処理液を吸引濾過することで、可溶部と不溶部とに分離した。なお、溶解処理で得た処理液は、懸濁した状態の懸濁液であった。
なお、80%エタノール、50%エタノールは、いずれもエタノール水溶液であり、エタノール水溶液の全体積に対するエタノールの体積が80%、50%である。以下、同様に表記する。
【0075】
不溶部には、極性の低い化合物すなわち低極性化合物が含有される。一方、極性の高い化合物すなわち高極性化合物、例えばイノシトールは25℃における水への溶解度が14g/100mLであることから、可溶部に含まれる。
【0076】
(実施例2)
実施例2は、実施例1で得られたカバノアナタケからの抽出物から、ラノステロール、3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール、イノトジオール、3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン及びトラメテノール酸(化合物Z1〜Z5)を単離した実施例である。
【0077】
得られた50%エタノール不溶部1gから、化合物A(84.8mg)、化合物B(55.0mg)、化合物C(219.9mg)、化合物D(28.1mg)及び化合物E(117.6mg)を単離した。具体的には、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて、ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(12:1→10:1→9:1→8:1→4:1→2:1)を用い、グラジェント溶出を行った(分画操作1)。
【0078】
単離された化合物A,B,C,D及びEの分子構造を
13C−NMR及び
1H−NMRにより解析し、実測値を文献値と比較した。その結果、以下に記載するように、化合物A,B,C,D及びEは、いずれも上記一般式(LTT)で表わされるラノスタン型トリテルペノイドであることが確認された。
【0079】
なお、この実施例において、可溶部は、エタノール水溶液に実際に溶解した物質(化合物)からなる溶解部を、また不溶部ないし50%エタノール不溶部は、実際に溶解しなかった物質(化合物)からなる非溶解部を意味する。本実施例では、化合物Z1〜Z5を不溶部から抽出したが可溶部からの抽出を否定するものではない。後述の化合物Z6〜Z14の抽出についても同様である。
【0080】
化合物A,B,C,D及びEについての
13C−NMR及び
1H−NMRの実測値を、下記表1,2,3,4及び5に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
以上の実測値を、下記文献1)〜4)の値と比較して、化合物A〜Dを同定した。
1)秋久俊博,松本太郎,ステロール及びトリテルペンアルコールの
13C−NMRスペクトル,油化学,Vol.36(5),:301−319,1987
2)Satoru Sawai, Tomoyoshi Akashi, Nozomu Sakurai, Hideyuki Suzuki, Daisuke Shibata, Shin-ichi Ayabe, and Toshio Aoki Satoru, Plant Lanosterol Synthase: Divergence of the Sterol and Triterpene Biosynthetic Pathways in Eukaryotes, Plant Cell Physiol (May 2006) 47 (5): 673-677, supplementary data
3)Zheng-Fei Yan, Yang Yang, Feng-Hua Tian, Xin-Xin Mao, Yu Li, and Chang-Tian Li, Inhibitory and Acceleratory Effects of Inonotus obliquus on Tyrosinase Activity and Melanin Formation in B16 Melanoma Cells, Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,Vol.2014, 1-11.
4)Kahlos, Kirsti; Hiltunen, R.; Von Schantz, M., 3β-Hydroxylanosta-8,24-dien-21-al, a new triterpene from Inonotus obliquus, Planta Medica (1984), 50(2), 197-8.
【0087】
化合物Aの実測値は文献1)〜3)に記載されている値と比較し、化合物B,Dの実測値は文献4)に記載されている値と比較した。化合物C,Eの実測値は、文献3)、4)に記載されている値と比較した。
【0088】
化合物Aは、上記一般式(LTT)において、R
1=CH
3かつR
2=Hの化合物、すなわち、下記化学式(S1)で表わされるラノステロール(化合物Z1)と同定された。
【0089】
【化2】
【0090】
化合物Bは、上記一般式(LTT)において、R
1=CHOかつR
2=Hの化合物、すなわち、下記化学式(S2)で表わされる3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(化合物Z2)と同定された。
【0091】
【化3】
【0092】
化合物Cは、上記一般式(LTT)において、R
1=CH
3かつR
2=OHの化合物、すなわち、下記化学式(S3)で表わされるイノトジオール(化合物Z3)と同定された。
【0093】
【化4】
【0094】
化合物Dは、上記一般式(LTT)において、R
1=CH
2OHかつR
2=Hの化合物、すなわち、下記化学式(S4)で表わされる3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z4)と同定された。
【0095】
【化5】
【0096】
化合物Eは、上記一般式(LTT)において、R
1=COOHかつR
2=Hの化合物、すなわち、下記化学式(S5)で表わされるトラメテノール酸(化合物Z5)と同定された。
【0097】
【化6】
【0098】
(実施例3)
実施例3は、実施例2で単離した5種類のラノスタン型トリテルペノイド(化合物Z1〜Z5)について、毛乳頭細胞増殖促進作用試験を行った実施例である。
【0099】
まず、正常ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡績株式会社製、商品名「ヒト頭髪毛乳頭細胞 Human Follicle Dermal Papilla Cells (HFDPC) (Code No.CA60205a)」)を培養した。用いた培地は、低血清培地である毛乳頭細胞増殖培地(東洋紡績株式会社製、商品名「毛乳頭細胞増殖培地」(PCGM)(Code.TMTPGM-250))の基礎培地250mLに、培地添加物であるウシ胎児血清(FCS)2.5mL、インスリン・トランスフェリン・トリヨードサイロニン混液(ITT)1.25mL、牛下垂体抽出液(BPE)2.5mL及びサイプロテロンアセテート(Cyp)1.25mLを添加した毛乳頭細胞増殖培地である。
【0100】
37℃、5%CO
2で培養された細胞を、トリプシン/EDTA溶液(0.05%濃度)によりトリプシン処理した。処理後の細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地DMEM(ナカライテスク株式会社製、以下、「DMEM」と略記する)を用いて、1.0×10
4細胞/mLの濃度に希釈した。希釈された細胞を、96ウエルのマイクロプレートFalcon(登録商標)(Becton Dickinson Labware社製、商品名「MICROTEST
TM 96」)に、200μL/ウエルで播種した。3日間培養した後、培地を吸引除去した。
【0101】
被験試料としての化合物Z1〜Z5を、所定の濃度で無血清DMEMに溶解した。濃度は、0.01953μmol/L、0.078125μmol/L、0.3125μmol/L、1.25μmol/L、5μmol/L、20μmol/Lとした。溶解された各被験試料を、上記の細胞を播種した96ウエルマイクロプレートの各ウエルに200μL/ウエルの量で添加した。さらに4日間培養した後、上記培地を吸引除去した。毛乳頭細胞増殖作用は、MTTアッセイを用いて測定した。即ち、MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2―イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を、終濃度0.4mg/mLで無血清のDMEMに溶解し、100μL/ウエルで添加した。
【0102】
2時間培養後、細胞内にブルーホルマザンの生成が確認された。このブルーホルマザンを、50μLの2−プロパノールで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定して、第1の吸光度を得た。同時に、濁度として波長650nmにおける吸光度を測定して、第2の吸光度を得た。第1の吸光度と第2の吸光度の差をもってブルーホルマザン生成量とした。毛乳頭細胞増殖促進率(%)は、下記式(1)により算出した。
【0103】
毛乳頭細胞増殖促進率(%)=A1/B1 × 100
・・・式(1)
A1:被験試料添加時のブルーホルマザン生成量
B1:被験試料無添加時のブルーホルマザン生成量
【0104】
化合物Z1〜Z5のそれぞれについて算出された毛乳頭細胞増殖促進率を、下記表6にまとめる。毛乳頭細胞増殖促進率は、化合物Z1〜Z5の各濃度について、それぞれ6点求めた。6点の平均値及び標準誤差を、(平均値±標準誤差)として表6中に示す。参照としては、毛乳頭細胞増殖促進作用を有することが知られているミノキシジルを用いた。
【0105】
【表6】
【0106】
上記表6に示されるように、3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z4)は、0.3125μmol/Lという低濃度で、80μmol/Lのミノキシジルに匹敵する毛乳頭細胞増殖促進作用を示すことが認められた。また、3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z4)は、1.25μmol/Lの濃度では、80μmol/Lのミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖促進作用が得られている。
【0107】
トラメテノール酸(化合物Z5)もまた、0.3125μmol/Lという低濃度で、80μmol/Lのミノキシジルと同程度の毛乳頭細胞増殖促進作用が得られている。0.3125μmol/Lのイノトジオール(化合物Z3)及び20μmol/Lのラノステロール(化合物Z1)にも、80μmol/Lのミノキシジルに近い毛乳頭細胞増殖促進作用が確認された。
【0108】
5種類のラノスタン型トリテルペノイド(化合物Z1〜Z5)の低濃度における毛乳頭細胞増殖促進作用試験の結果を、下記表7及び
図1に示す。これらの表7及び
図1には、比較のために、ミノキシジルについての結果も合わせて示してある。
【0109】
【表7】
【0110】
3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(化合物Z2)もまた、0.01953μmol/L及び0.078125μmol/Lという低濃度で、80μmol/Lのミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖促進作用が得られている。
【0111】
実施例3の結果から、ラノステロール、3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール、イノトジオール、3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン及びトラメテノール酸、(化合物Z1〜Z5)は、毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分となり得ることが確認された。これらの化合物Z1〜Z5は、ミノキシジルより低濃度でミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖促進作用を示している。したがって、ラノステロール、3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール、イノトジオール、3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン及びトラメテノール酸(化合物Z1〜Z5)は、ミノキシジルより毛乳頭細胞増殖促進作用が優れていることがわかる。
【0112】
(実施例4)
実施例4は、実施例2で単離した5種類のラノスタン型トリテルペノイド(化合物Z1〜Z5)の混合物について、毛乳頭細胞増殖促進作用試験を行った実施例である。
【0113】
混合物における各化合物の濃度(選択濃度)は、ラノステロール(20μmol/L),3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(0.3125μmol/L),イノトジオール(0.3125μmol/L),3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(5μmol/L)及びトラメテノール酸(1.25μmol/L)とした。
【0114】
この混合物について、上述と同様の手法により毛乳頭細胞増殖促進作用試験を行った。算出された毛乳頭細胞増殖促進率を、各種濃度のミノキシジルについての結果とともに、下記表8にまとめる。
【0115】
【表8】
【0116】
上記表8に示されるように、5種類のラノスタン型テルペノイドである化合物Z1〜Z5を所定の濃度で含む混合物は、20μmol/Lのミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖促進作用を示すことが認められた。
【0117】
(実施例5)
実施例5は、実施例2で単離した5種類のラノスタン型トリテルペノイド(化合物Z1〜Z5)について、ヘアサイクルに関与する各種増殖因子遺伝子に対する産生促進試験を行った実施例である。産生促進試験は、mRNAの発現を評価するmRNA発現促進作用試験により行った。
【0118】
ヒト正常毛乳頭細胞(HFDPC:頭頂部由来)を60mmシャーレに播種し、ヒト正常毛乳頭細胞用培地(PCGM)を用いて培養した。細胞がコンフルエントになった後、培地を10%FBS含有のDMEM培地へ交換して2時間培養した。被験試料としての化合物Z1〜Z5は、所定の濃度で無血清のDMEM培地に溶解した。濃度は、1.25μmol/L、5μmol/L、20μmol/Lとした。
【0119】
溶解された各被験試料を、培養後の各シャーレに3mLずつ添加した。さらに6時間培養後、一般的な方法によりtotalRNAを調製した。被験試料無添加で培養した細胞についても、同様にtotalRNAを調製した。それぞれのRNA量を分光光度計で測定し、200ng/μLになるようにtotalRNAを調製した。
【0120】
このtotalRNAを鋳型とし、ヘアサイクルに関与する各種増殖因子及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Smart Cycler(登録商標)(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR(登録商標)Prime Script TM RT-PCR Kit (Perfect Real Time) (code No.RR063A)によるリアルタイム2Step RT−PCR反応により行った。
【0121】
各種増殖因子のmRNA発現量は、GAPDH mRNAの発現量で補正し算出した。各種増殖因子mRNAの発現率は、下記式(2)により算出した。
各種増殖因子mRNA発現率(%)=A2/B2 × 100
・・・式(2)
A2:被験試料添加時の補正値
B2:被験試料無添加時(コントロール)の補正値
【0122】
上記増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インシュリン様増殖因子−1(IGF−1)及び肝細胞増殖因子(HGF)について調べた。
【0123】
化合物Z1〜Z5のそれぞれについての各種増殖因子mRNA発現率を、下記表9〜表13にまとめる。表9〜表13に示すmRNA発現率は、それぞれ1点について、コントロールを100%とした相対値である。さらに、血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進作用を有することが従来から知られているアデノシンについて、mRNA発現率を下記表14にまとめる。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
【表11】
【0127】
【表12】
【0128】
【表13】
【0129】
【表14】
【0130】
上記表に示されるように、ラノステロール(化合物Z1)、3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(化合物Z2)、イノトジオール(化合物Z3)及び3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z4)には、被験試料無添加の1.2〜1.6倍程度のFGF−7 mRNA産生促進作用が認められている。
【0131】
実施例5の結果から、ラノステロール、3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール、イノトジオール及び3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z1〜Z4)のそれぞれは、FGF−7産生促進剤の有効成分となり得ることが確認された。これらの化合物Z1〜Z4は、いずれも5μmol/Lという低濃度で、25μmol/Lのアデノシンと同等以上の産生促進作用を示すことから、従来知られているアデノシンよりFGF−7産生促進作用が優れていることがわかる。
【0132】
上記表13に示されるように、20μmol/Lのトラメテノール酸(化合物Z5)は、被験試料無添加の1.5倍程度のVEGF mRNA発現促進作用が認められている。トラメテノール酸(化合物Z5)は、VEGF産生促進剤の有効成分となり得ることが、実施例5の結果に示されている。しかも、トラメテノール酸(化合物Z5)は、20μmol/Lでも、25μmol/Lのアデノシンを超えるVEGF mRNA発現促進作用を示しており、従来知られているアデノシンよりVEGF産生促進作用が優れている。
【0133】
さらに、イノトジオール(化合物Z3)には、被験試料無添加の1.2倍程度のIGF−1 mRNA発現促進作用が確認された。3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(化合物Z2)及びイノトジオール(化合物Z3)には、HGF mRNA発現促進作用が確認された。イノトジオール(化合物Z3)は、IGF−1産生促進剤の有効成分として用いることができる。3β−ヒドロキシラノスト−8,24−ジエン−21−アール(化合物Z2)及びイノトジオール(化合物Z3)のそれぞれは、HGF産生促進剤の有効成分として用いることができる。
【0134】
(実施例6)
実施例6は、実施例2で単離した5種類のラノスタン型トリテルペノイド(化合物Z1〜Z5)について、テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害作用試験を行った実施例である。
【0135】
テストステロンをプロピレングリコールに溶解して、濃度4.2mg/mLの溶液を調製した。この溶液20μLと、1mg/mL NADPH含有5mmol/L Tns−HCl緩衝液(pH7.13)825μLとを、蓋付きV底試験管で混合した。被験試料としての化合物Z1〜Z5は、エタノール、50%エタノールまたは精製水に溶解して溶液を調製した。
【0136】
前述の蓋付きV底試験管中の混合液に、被験試料の溶液80μL及びS−9ラット肝ホモジネート75μLを加えて再び混合した。試験管中の内容物を37℃で60分間反応させた後、塩化メチレン1mLを加えて反応を停止した。反応後の混合物を遠心分離(1600×g、10分)し、塩化メチレン相について、下記の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。さらに、同様の方法で空試験を行った。
【0137】
テストステロンから3α−アンドロスタンジオール及びジヒドロテストステロンへの変換率を求めるために、予め、3α−アンドロスタンジオール、ジヒドロテストステロン及びテストステロンの標準品のエタノール溶液をガスクロマトグラフィー分析し、これら3化合物のピーク面積を求めた。
【0138】
S−9による反応後の3α−アンドロスタンジオール、ジヒドロテストステロン及びテストステロンそれぞれのピーク面積について、標準品のピーク面積に対する相対比を下記式(3)にしたがって求めた。その後、式(4)にしたがって被験試料の変換率を算出した。
【0139】
相対比=被験試料のピーク面積/標準品のピーク面積 ・・・式(3)
変換率(%)=(A3+B3)/(A3+B3+C3)×100
・・・式(4)
A3:3α−アンドロスタンジオールの相対比
B3:ジヒドロテストステロンの相対比
C3:テストステロンの相対比
【0140】
算出された変換率に基づき、下記式(5)にしたがってテストステロン5α−リダクターゼ活性阻害率を求めた。
テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害率(%)
=(1−E/D)×100 ・・・式(5)
D:空試験での変換率
E:被験試料添加での変換率
【0141】
なお、ガスクロマトグラフィーの条件は、以下のとおりである。
使用機器 :Shimadzu GC−2010
カラム :DB−1701
(φ0.53mm×30m。膜厚:1.0μm)
カラム/注入温度 :240℃/300℃
検出器 :FID
キャリアガス :窒素ガス
【0142】
化合物Z1〜Z5についてのテストステロン5α−リダクターゼ活性阻害率及び50%阻害濃度(IC
50)を、陽性対照としてのβ−エストラジオールの結果とともに、下記表15にまとめる。
【0143】
【表15】
【0144】
実施例6の結果から、イノトジオール(化合物Z3)及び3β,21−ジヒドロキシラノスト−8,24−ジエン(化合物Z4)は、テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0145】
(実施例7)
実施例7は、実施例1で得られたカバノアナタケからの抽出物から、エルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)、イノトラクトンB(化合物Z8)、ベツリン(化合物Z9)、β−シトステロール(化合物Z10)、エルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)、イノノツサンC(化合物Z12)、3β,22R,25−トリヒドロキシラノスト−8,23E−ジエン(化合物Z13)、イノノツトリオールA(化合物Z14)をそれぞれ抽出した実施例である。
【0146】
実施例1で得られた50%エタノール不溶部から、以下に説明する手順により、化合物F、化合物G、化合物H1、化合物H2、化合物I、化合物J、化合物K、化合物L、化合物M、化合物Nを得た。
【0147】
実施例2の分画操作1の際に得られる18個のフラクションFA1〜FA18のうちの5番目〜7番目のフラクションFA5〜FA7のそれぞれから溶離溶媒を除去して分取物を得た。フラクションFA5〜FA7から得た分取物の混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(12:1)」)にて、9個のフラクションFB1〜FB9に分画した(分画操作2)。
【0148】
分画操作2で得られるフラクションFB1〜FB9のうちの6番と7番目のフラクションFB6、FB7のそれぞれから溶離溶媒を除去して分取物を得た。フラクションFB6、FB7から得た分取物の混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:トルエン→「トルエン:アセトンの混合溶媒(30:1→15:1)」→酢酸エチル)にて10個のフラクションFC1〜FC10に分画した(分画操作3)。
【0149】
なお、上記溶離溶媒の説明における矢印は、溶離溶媒の組成ないしそれに用いる混合溶媒の比率を変化させることを示し、グラジェント溶出を行っていることを意味する。後述する、高速液体クロマトグラフィーに用いる溶離液についても同様である。
【0150】
分画操作3で得られるフラクションFC1〜FC10のうちの3番目のフラクションFC3から溶離溶媒を除去したものを化合物F(12.0mg)として取得した。また、4番目のフラクションFC4から溶離溶媒を除去したものを化合物G(4.3mg)として取得した。
【0151】
また、実施例1で得られた50%エタノール不溶部39.4gを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(12:1→11:1→10:1→9:1→8:1→6:1→4:1→2:1)」)にて、8個のフラクションFD1〜FD8に分画した(分画操作4)。
【0152】
フラクションFD1〜FD8のうちの4番のフラクションFD4から溶離溶媒を除去した分取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(15:1→13:1→10:1→8:1→6:1→4:1)」)にて11個のフラクションFE1〜FE11に分画した(分画操作5)。
【0153】
フラクションFE1〜FE11のうちの8番目と9番目のフラクションFE8,FE9のそれぞれから溶離溶媒を除去して分取物を得た。フラクションFE8,FE9から得た分取物の混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「トルエン:アセトンの混合溶媒(20:1→19:1→18:1)」)にて6個のフラクションFF1〜FF6に分画した(分画操作6)。
【0154】
分画操作5によるフラクションFE1〜FE11のうちの6番目及び7番目のフラクションFE6、FE7と、分画操作6によるフラクションFF1〜FF6のうちの1番目のフラクションFF1とからそれぞれ溶離溶媒を除去し、それぞれ分取物を得た。フラクションFE6、FE7及びフラクションFF1からの得た各分取物の混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(12:1→10:1→9:1→8:1→7:1)」)にて14個のフラクションFG1〜FG14に分画した(分画操作7)。
【0155】
上記分画操作7で得られたフラクションFG1〜FG14のうちの8番目のフラクションFG8から溶離溶媒を除去したものを化合物J(113.9mg)として取得した。
【0156】
分画操作4によるフラクションFD1〜FD8のうちの6番目のフラクションFD6から溶離溶媒を除去した分取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「トルエン:アセトンの混合溶媒(30:1→25:1→20:1→15:1)」)にて10個のフラクションFH1〜FH10に分画した(分画操作8)。
【0157】
分画操作8で得られたフラクションFH1〜FH10のうちの5番目のフラクションFH5から溶離溶媒を除去したものを化合物H1(209mg)として取得した。また、6番目のFH6から溶離溶媒を除去したものを化合物H2(120.8mg)として取得した。
【0158】
フラクションFH1〜FH10のうちの7番目と8番目のフラクションFH7、FH8のそれぞれから溶離溶媒を除去した分取物を得た。フラクションFH7、FH8から得た分取物の混合液を、高速液体クロマトグラフィー(カラム:N−2タイプ、溶離液:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(8:2)」、流量7.0mL/分)にて8個のフラクションFI1〜FI8に分画した(分画操作9)。
【0159】
分画操作9で得られたフラクションFI1〜FI8のうちの4番目のフラクションFI4から溶離溶媒を除去したものを化合物I(10.2mg)として取得した。
【0160】
また、分画操作8により得られたフラクションFH1〜FH10のうちの9番目のフラクションFH9から溶離溶媒を除去した分取物を得、この分取物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(6:1→5:1→4:1→3:1)」)にて12個のフラクションFJ1〜FJ12に分画した(分画操作10)。
【0161】
分画操作10で得られたフラクションFJ1〜FJ12のうちの9番目のフラクションFJ9から溶離溶媒を除去したものを化合物K(9.4mg)として取得した。
【0162】
分画操作4によるフラクションFD1〜FD8のうちの8番目のフラクションFD8から溶離溶媒を除去した分取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離溶媒:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(6:1→4:1→2:1→1:1)」)にて13個のフラクションFK1〜FK13に分画した(分画操作11)。
【0163】
分画操作11により得られたフラクションFK1〜FK13のうち10番目のフラクションFK10から溶離溶媒を除去した分取物を得た。このフラクションFK10から得た分取物を、高速液体クロマトグラフィー(カラム:N−6タイプ、溶離液:「ヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(6:1)」、流量3.0mL/分)にて、18個のフラクションFL1〜FL18に分画した(分画操作12)。
【0164】
フラクションFL1〜FL18のうちの17番目のフラクションFL17を、高速液体クロマトグラフィー(カラム:R−41タイプ、溶離液:「アセトニトリル(CH
3CN):水(H
2O)の混合溶媒(7:3)」、流量5.0mL/分)にて、12個のフラクションFL1〜FL12に分画した(分画操作13)。
【0165】
分画操作13で得られるフラクションFL1〜FL12のうちの2番目のフラクションFL2から溶離溶媒を除去したものを化合物M(7.7mg)として、12番目のフラクションFL12から溶離溶媒を除去したものを化合物N(47.3mg)としてそれぞれ取得した。
【0166】
以上のようにして得た化合物F、G、H1、H2、I〜Nの分子構造を
13C−NMR及び
1H−NMRにより解析した。この結果、化合物H1と化合物H2とは同一の化合物を抽出したものと確認された。また、化合物L(47.3 mg)は、分画操作1で得られるフラクションFA1〜FA18のうちの10番目のフラクションFA10から取得される化合物と同一の化合物を抽出したものと確認された。さらに、化合物Iは、12番目のフラクションFA12から取得される化合物と、化合物Nは、16番目のフラクションFA16から取得される化合物とそれぞれ同一の化合物を抽出したものと確認された。
【0167】
化合物F、G、H1、H2及びI〜Nの
13C−NMR及び
1H−NMRの実測値を文献値と比較した。その結果、以下に記載するように、化合物F、G、H1、H2及びI〜Nは、エルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)、イノトラクトンB(化合物Z8)、ベツリン(化合物Z9)、β−シトステロール(化合物Z10)、エルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)、イノノツサンC(化合物Z12)、ラノスタ−8,23 E−ジエン−3β−,22R,25−トリオール(化合物Z13)、イノノツトリオールA(化合物Z14)を抽出したものであることが確認された。
【0168】
化合物F、G、H1、H2及びI〜Nについての
13C−NMR及び
1H−NMRの実測値を、表16〜表24に示す。なお、表21には、他の分画操作で得られ化合物Kと同一と確認された化合物K0の実測値を、表22にはフラクションFA10から取得された化合物L0の実測値をあわせて示す。
【表16】
【0169】
【表17】
【0170】
【表18】
【0171】
【表19】
【0172】
【表20】
【0173】
【表21】
【0174】
【表22】
【0175】
【表23】
【0176】
【表24】
【0177】
化合物の同定は、実測値を上記文献1)と次の文献5)〜14)とに記載された文献値とを比較することによって行った。
5) Seo, Hyo Won; Arch.Pharm. Res., 2009, 32(11), 1573-1579
6) Jeffrey L.C. Wright, Can. J. Chem.,1979, 57,2569-2571
7) Alejandro F. Barrero,et.al.,A.C.S.and A.S.P,1998,1491-1496
8) You-Min Ying,et.al.,Phytochemistry,2014,108,171-176
9) Mochammad Sholichin,Kazuo Yamasaki, Ryoji Kasai and Osamu,Chem.Pharma.Bull.,1980, 28(3), 1006-1008
10) Kuo-Ching Kao, Yu-Ling Ho, I-Hsin Lin,Li-Kang Ho and Yuan-Shiun Chang, J. Chin. Chem. Soc.,2004, 51(1),199-204
11) Garg. V.K., and Nes, W.R., Phytochemistry, 1984, 23, 2925-2929
12) T. Akihisa, S. Thakur, F.U. Rosenstein, T. Matsumoto, Lipids, 1986, 21, 39-47
13) Zhao Fenqin, et.al.Fitoterapia,2015,101,34-40
14) S Taji, et al., European Journal of Medicinal Chemistry 43 (2008),2373-2379
15) Sayaka Taji, Takeshi Yamada and Reiko Tanaka,Helvetica Chimica Acta, 2008,91,1513-1524
【0178】
化合物F、Gの実測値は文献1)、5)〜7)に記載されている値と比較し、化合物Hの実測値は文献8)に記載されている値と比較し、化合物Iの実測値は文献9)、10)に記載されている値と比較した。また、化合物Jの実測値は文献1)、11)、12)に記載されている値と比較し、化合物Kの実測値は文献5)に記載されている値と比較し、化合物Lの実測値は文献13)に記載されている値と比較した。さらに、化合物Mの実測値は文献14)に記載されている値と比較し、化合物Nの実測値は文献15)に記載されている値と比較した。
【0179】
化合物Fは、下記化学式(S6)で表わされるエルゴステロール(化合物Z6)と判断できた。
【0180】
【化7】
【0181】
化合物Gは、下記化学式(S7)で表わされるステラステロール(化合物Z7)と判断できた。
【0182】
【化8】
【0183】
化合物H1、H2は、下記化学式(S8)で表わされるイノトラクトンB(化合物Z8)と判断できた。
【0184】
【化9】
【0185】
化合物Iは、下記化学式(S9)で表わされるベツリン(化合物Z9)と判断できた。
【0186】
【化10】
【0187】
化合物Jは、下記化学式(S10)で表わされるβ−シトステロール(化合物Z10)と判断できた。
【0188】
【化11】
【0189】
化合物Kは、下記化学式(S11)で表わされるエルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)と判断できた。
【0190】
【化12】
【0191】
化合物Lは、下記化学式(S12)で表わされるイノノツサンC(化合物Z12)と判断できた。
【0192】
【化13】
【0193】
化合物Mは、下記化学式(S13)で表わされる3β,22R,25−トリヒドロキシラノスト−8,23E−ジエン(化合物Z13)と判断できた。
【0194】
【化14】
【0195】
化合物Nは、下記化学式(S14)で表わされるイノノツトリオールA(化合物Z14)と判断できた。
【0196】
【化15】
【0197】
(実施例8)
実施例8は、実施例7で得られた化合物Z6〜Z12について、毛乳頭細胞増殖促進作用試験を行った実施例である。
【0198】
上述の実施例3と同じ手法により、毛乳頭細胞増殖促進作用試験を行い、毛乳頭細胞増殖促進率を、実施例7で得たエルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)、イノトラクトンB(化合物Z8)、ベツリン(化合物Z9)、β−シトステロール(化合物Z10)、エルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)及びイノノツサンC(化合物Z12)について求めた。被験試料としての化合物Z6〜Z12の濃度は、0.3125μmol/L、1.25μmol/L、5μmol/L、20μmol/Lとした。化合物Z6〜Z10の試験と化合物Z1、Z12の試験とは、別々に行った。各試験では、参照として化合物Z1及びミノキシジルを用いた。
【0199】
毛乳頭細胞増殖促進率(%)は、前述の式(1)により算出した。化合物Z6〜Z10についての毛乳頭細胞増殖促進率を表25及び
図2のグラフに、化合物Z11、Z12についての毛乳頭細胞増殖促進率を表26及び
図3のグラフにそれぞれ示す。表25、表26には、各濃度のラノステロール(化合物Z1)及びミノキシジルについての結果をあわせて示す。表25、表26に示される、化合物Z6〜Z12、Z1及びミノキシジルの濃度ごとの毛乳頭細胞増殖促進率は、それぞれ3点の平均値±標準誤差である。
【0200】
【表25】
【0201】
【表26】
【0202】
表25に示されるように、濃度が1.25μmol/Lのエルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)及びイノトラクトンB(化合物Z8)は、同濃度及びそれ以上の濃度のラノステロール(化合物Z1)及びミノキシジルよりも強い毛乳頭細胞増殖促進作用を示すことが認められた。また、表26に示されるように、濃度が0.315μmol/Lのエルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)及びイノノツサンC(化合物Z12)は、同濃度のラノステロール(化合物Z1)及び同濃度以上のミノキシジルよりも強い毛乳頭細胞増殖促進作用を示すことが認められた。これらは、ラノスタン骨格が活性にとって重要であることを示唆している。
【0203】
実施例8の結果から、エルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)、イノトラクトンB(化合物Z8)、エルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)及びイノノツサンC(化合物Z12)は、毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分となり得ることが確認された。これらの化合物Z6〜Z8、Z11、Z12は、ミノキシジルより低濃度でミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖促進作用を示している。したがって、化合物Z6〜Z8、Z11、Z12は、ミノキシジルより毛乳頭細胞増殖促進作用が優れていることがわかる。
【0204】
(実施例9)
実施例9は、実施例2で得た化合物Z6〜Z14について、ヘアサイクルに関与する各種増殖因子遺伝子に対する産生促進試験を行った実施例である。産生促進試験は、mRNAの発現を評価するmRNA発現促進作用試験により行った。
【0205】
エルゴステロール(化合物Z6)、ステラステロール(化合物Z7)、イノトラクトンB(化合物Z8)、ベツリン(化合物Z9)、β−シトステロール(化合物Z10)、エルゴステロールペルオキシド(化合物Z11)、イノノツサンC(化合物Z12)、3β,22R,25−トリヒドロキシラノスト−8,23E−ジエン(化合物Z13)、イノノツトリオールA(化合物Z14)を被験試料として、上述と実施例5と同様の手法により、mRNA発現促進作用試験を行った。各被験試料の濃度は、1.25μmol/L、5μmol/L、20μmol/Lとした。
【0206】
上記試験により、増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インシュリン様増殖因子−1(IGF−1)及び肝細胞増殖因子(HGF)の各mRNA発現量を求めた。増殖因子のmRNA発現量は、GAPDH mRNAの発現量で補正し、前述の式(2)により増殖因子mRNA発現率(%)を算出した。 化合物Z6〜Z14のそれぞれについての各種増殖因子mRNA発現率を、表27〜35にまとめる。表27〜35に示されるmRNA発現率(単位:%)は、それぞれ1点について、コントロールを100%とした相対値である。また、濃度が25μmol/Lのアデノシンについて、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)及び血管内皮増殖因子(VEGF)のmRNA発現率(%)を表36に示す。
【0207】
【表27】
【0208】
【表28】
【0209】
【表29】
【0210】
【表30】
【0211】
【表31】
【0212】
【表32】
【0213】
【表33】
【0214】
【表34】
【0215】
【表35】
【0216】
【表36】
【0217】
表27〜表35に示されるように、化合物Z6〜Z14には、被験試料無添加の場合の1.15〜1.6倍程度のFGF−7 mRNA産生促進作用が認められる。この実施例9の結果から、化合物Z6〜Z14は、FGF−7産生促進剤の有効成分となり得ることが確認された。特に、20μmol/Lの化合物Z6、化合物Z8及び化合物Z10は、25μmol/Lのアデノシンの1.01〜1.08倍程度のFGF−7 mRNA産生促進作用が認められ、従来知られているアデノシンよりFGF−7産生促進作用が優れていることがわかる。
【0218】
表27、表29、表30に示されるように、化合物Z6、化合物Z8及び化合物Z9は、例えば1.25μmol/Lにおいて被験試料無添加の1.1倍〜1.2倍程度の、また20μmol/Lにおいて被験試料無添加の1.2〜2.1倍程度のVEGF mRNA発現促進作用が認められる。この実施例9の結果から、化合物Z6、化合物Z8及び化合物Z9は、VEGF産生促進剤の有効成分となり得ることが確認された。しかも、化合物Z6、化合物Z8及び化合物Z9は、20μmol/L以下でも、25μmol/Lのアデノシンに匹敵ないしそれを超えるVEGF mRNA発現促進作用を示しており、従来知られているアデノシンよりVEGF産生促進作用が優れていることがわかる。
【0219】
表27〜表29、表31、表33、表34に示されるように、化合物Z6〜Z8、Z10、Z12、Z13は、被験試料無添加の1.1〜1.55倍程度のIGF−1 mRNA発現促進作用が確認された。これにより、化合物Z6〜Z8、Z10、Z12、Z13は、IGF−1産生促進剤の有効成分として用いることができることがわかる。
【0220】
表27〜表29に示されるように、化合物Z6〜Z8は、被験試料無添加の1.3〜1.4倍程度のHGF mRNA発現促進作用が確認された。これにより、HGF産生促進剤の有効成分として用いることができることがわかる。
【0221】
以上の各実施例の結果より、化合物Z1〜Z14は、毛乳頭細胞増殖促進剤、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤、血管内皮増殖因子(VEGF)産生促進剤、インシュリン様増殖因子−1(IGF−1)産生促進剤及び肝細胞増殖因子(HGF)産生促進剤としての新規な有効成分であることがわかる。また、化合物Z1〜Z14は、FGF−7、VEGF、IGF−1及びHGFのmRNA発現に対しては、異なる機構を介して毛髪の成長を刺激し得ると推察される。この効果は、ラノスタン骨格の8位の二重結合及び4位のジメチルの有無とは無関係に思われるが、ラノスタン型トリテルペノイドの側鎖に関係があると推察される。
【0222】
(実施例10)
実施例10は、実施例1で得られた80%エタノール抽出物(50%エタノール不溶部及び可溶部)について、発毛に関する活性評価試験を行った結果である。
【0223】
下記表37には、毛乳頭細胞増殖促進作用試験の結果を示す。毛乳頭細胞増殖促進作用試験は、実施例3で説明した手法により行った。
【0224】
【表37】
【0225】
上記表37に示されるように、50%エタノール不溶部は、3.125μg/mLという低濃度で、4.185μg/mLのミノキシジルを超える毛乳頭細胞増殖作用を示すことが認められた。この際の不溶部の毛乳頭細胞増殖作用は、12.5μg/mLの可溶部の毛乳頭細胞増殖促進作用に匹敵する。
【0226】
下記表38、表39には、ヘアサイクルに関与する各種増殖遺伝子に対する産生促進試験の結果を示す。各種増殖遺伝子に対する産生促進試験は、実施例5で説明した手法により行った。表38は、濃度を3.125μg/mLとした際の結果であり、表39は、濃度を12.5μg/mLとした際の結果である。さらに、アデノシンについての結果を、下記表40にまとめる。
【0227】
【表38】
【0228】
【表39】
【0229】
【表40】
【0230】
上記表に示されるように、50%エタノール不溶部は、3.125μg/mLという低濃度で、13.4μg/mLのアデノシンに匹敵するFGF−7産生促進作用及びVEGF産生促進作用を示すことが認められた。
【0231】
下記表41には、テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害作用試験の結果を示す。テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害作用試験は、実施例6で説明した手法により行った。
【0232】
【表41】
【0233】
上記表41には、50%エタノール不溶部が、テストステロン5α−リダクターゼ活性阻害作用を有することが示されている。
【0234】
さらに、50%エタノール不溶部及び可溶部について、アンドロゲンレセプター拮抗阻害作用試験を行った。試験方法を以下に説明する。
【0235】
まず、マウス自然発生乳がん(シオノギ癌,SC−115)よりクローニングされたSC−3細胞を、2%DCC−FBS及び10
-8mol/Lテストステロンを含有するMEM培地(MEM/2培地)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、MEM/2培地で1.0×10
5細胞/mLの濃度に希釈した。希釈された細胞を、96ウエルプレートに100μL/ウエルで播種した。
【0236】
一晩培養した後、培地を抜き抜いた。0.5%BSA含有Ham F12+MEM(HMB)に溶解した10
−9mol/Lジヒドロテストステロンと被験試料を100μL添加した。48時間培養後、終濃度0.4mg/mLでMEM/2に溶解したMTTを、100μL/ウエルで添加した。
【0237】
2時間培養した後、ブルーホルマザンの生成が確認された。このブルーホルマザンを、2−プロパノール200μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定して、第1の吸光度を得た。同時に、濁度として波長650nmにおける吸光度を測定して、第2の吸光度を得た。第1の吸光度と第2の吸光度の差をもってブルーホルマザン生成量とした。
【0238】
空試験としてHMBのみで培養した細胞を用い、陽性対照として10
−9mol/LのDHTのみを含有したHMBで培養した細胞を用い、同様の方法で試験を行って補正した。得られた結果を、下記表42に示す。
【0239】
【表42】
【0240】
上記表42には、50%エタノール不溶部が中程度のアンドロゲンレセプター拮抗阻害作用を有することが示されている。
【0241】
(実施例8)
以下に、本発明に係る育毛剤の処方例を示す。
カバノアナタケ抽出物 0.5g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
ニンジンエキス 0.2g
D−パントテニルアルコール 0.1g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.3g
センブリエキス 0.2g
ビワ葉エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 5.0g
エタノール 25.0g
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0g