(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582354
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法及び添加剤
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20190919BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20190919BHJP
【FI】
C12G3/06
C12G3/04
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-260062(P2014-260062)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-119841(P2016-119841A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】土井 規央
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−021055(JP,A)
【文献】
特開2003−093084(JP,A)
【文献】
特開2013−143930(JP,A)
【文献】
特開平08−188791(JP,A)
【文献】
特開2010−268758(JP,A)
【文献】
特開2005−015686(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/152558(WO,A1)
【文献】
Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2008, Vol.56, pp.5813-5819
【文献】
Perfumer & Flavorist, 1993, Vol.18, pp.23-25
【文献】
Flavor and Fragrance Journal, 2002, Vol.17, pp.207-211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール度数が10%以上である蒸留酒に添加される、アルコール刺激感マスキング剤であって、
2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を含有し、
アルコール刺激感マスキング物質を蒸留酒中のアルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下になるように含有させることによって、アルコール刺激感をマスキングするために使用される、アルコール刺激感マスキング剤。
【請求項2】
前記蒸留酒が、焼酎を含む、請求項1に記載のアルコール刺激感マスキング剤。
【請求項3】
2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を含有し、
アルコール度数が10%以上であり、
前記マスキング物質の含有量が、アルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下である
蒸留酒。
【請求項4】
焼酎を含む、請求項3に記載の蒸留酒。
【請求項5】
2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を、アルコール度数が10%以上である蒸留酒に添加する工程を含む、蒸留酒のアルコール刺激感マスキング方法であって、
前記蒸留酒における前記マスキング物質の含有量がアルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下になるように、前記マスキング物質を添加する
蒸留酒のアルコール刺激感マスキング方法。
【請求項6】
前記蒸留酒が焼酎を含む、請求項5に記載のアルコール刺激感マスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法及び添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料には、所望する香りを付与するための成分が添加されることがある。例えば、特開2003−93084号公報には、芳香成分として、2,6−ノナジエナールを比較的高い特定の濃度(50ppb以上)含有させる点が開示されている。また、特開2005−21055号公報にも、2,6−ノナジエナールを含有するグリーンな香りを持つ生成物を添加して得られたアルコール飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−93084号公報
【特許文献2】特開2005−21055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、アルコール飲料には、アルコールに起因する刺激感(以下、アルコール刺激感という)があり、このアルコール刺激感のために飲みにくいと感じる消費者もいる。そこで、本発明の課題は、アルコール刺激感をマスキングすることができる、アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法及び添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールが、それぞれアルコール刺激感のマスキング効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下の事項を含んでいる。
〔1〕2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を含有する、アルコール飲料用の添加剤。
〔2〕2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を含有するアルコール飲料であって、
前記アルコール飲料における前記マスキング物質の含有量が、アルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下である
アルコール飲料。
〔3〕前記マスキング物質が2,4−デカジエナールを含む、前記〔2〕に記載のアルコール飲料。
〔4〕蒸留酒である、前記〔3〕に記載のアルコール飲料。
〔5〕アルコール度数が10%以上である、前記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のアルコール飲料。
〔6〕2,6−ノナジエナール及び2,4−デカジエナールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質をアルコール原料に添加する工程を含む、アルコール飲料の製造方法であって、
前記アルコール飲料における前記マスキング物質の含有量がアルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下になるように、前記マスキング材を添加する
アルコール飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アルコール刺激感をマスキングすることができる、アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法及び添加剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。
本発明に係るアルコール飲料用の添加剤は、2,6−ノナジエナール(2,6-nonadienal)及び2,4−デカジエナール(2,4-decadienal)からなる群より選択される少なくとも1種のアルコール刺激感マスキング物質を含有する。この添加剤は、アルコール飲料中におけるマスキング物質の含有量が、アルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下になるように、アルコール飲料に添加される。なお、本明細書において「ppt」は質量比を表す。また、添加剤の形態は特に限定されず、例えば、2,4−デカジエナール及び/又は2,6−ノナジエナールを高含有させた原酒なども含まれる。
【0008】
[アルコール刺激感マスキング物質]
2,4−デカジエナールは、油が酸化したときに生じる成分の一種であり、劣化した油の臭いの原因となる成分として知られている。しかしながら、本願発明者の知見によれば、2,4−デカジエナールは、アルコール刺激感のマスキング作用をも有している。そして、アルコール度数に対して特定の含有量になるように2,4−デカジエナールを用いれば、劣化した油のような臭いを付与することなく、アルコール刺激感をマスキングすることができる。
【0009】
一方、2,6−ノナジエナールは、特開2003−93084号公報の[0005]に記載されるように、青臭い匂いを生じさせることが知られている。しかしながら、本願発明者の知見によれば、2,4−デカジエナールと同様に、2,6−ノナジエナールもアルコール刺激感のマスキング作用を有している。そして、アルコール度数に対して特定の含有量になるように2,6−ノナジエナールを用いれば、青臭い匂いを生じさせることなく、アルコール刺激感をマスキングすることができる。
【0010】
尚、アルコール刺激感マスキング物質は、2,4−デカジエナールを含んでいることがより好ましい。
【0011】
アルコール飲料中におけるマスキング物質の含有量は、アルコール度数1%に対して6ppt以上80ppt以下である。すなわち、マスキング物質の含有量(ppt)/アルコール度数(%)は、6以上80以下である。例えばアルコール度数が10%である場合、アルコール飲料中におけるマスキング物質の含有量は、60ppt以上800ppt以下である。マスキング物質の含有量が高すぎる場合、2,4−デカジエナールに起因する劣化した油の臭い又は2,6−ノナジエナールに起因する青臭い匂いが付与される場合がある。一方、マスキング物質の含有量が低すぎる場合、アルコール刺激感のマスキング効果が十分に得られない。尚、好ましくは、アルコール飲料中におけるマスキング物質の含有量は、アルコール度数1%に対して8ppt以上40ppt以下である。
【0012】
[その他の成分]
本発明の添加剤中には、マスキング物質(2,6−ノナジエナール及び/又は2,4−デカジエナール)以外にも、他の成分が含まれていてもよい。他の成分は限定されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸フェニルエチル、カプリル酸エチルなどが挙げられる。
【0013】
[アルコール飲料]
本発明のアルコール飲料は、アルコール原料に、上記の添加剤を添加することにより得ることができる。アルコール原料としては、特に限定されるものではないが、好ましくは蒸留酒である。ビール等の醸造酒をアルコール原料として用いた場合、2,4−デカジエナールに起因する劣化した油の臭い又は2,6−ノナジエナールに起因する青臭い匂いが付与されやすい傾向にある。蒸留酒としては、例えば、焼酎、醸造用アルコール、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類及びリキュール類等を挙げることができる。これらのアルコール類は、単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。これらのアルコール原料の中でも、焼酎を用いることがより好ましい。
【0014】
アルコール飲料のアルコール度数は、限定されるものではないが、好ましくは10%以上である。アルコール度数が10%未満である場合、マスキングすべきアルコール刺激感が元々少ないため、本発明によりアルコール刺激感のマスキング効果が感じられにくい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
(例1〜5)
アルコール度数25%の焼酎に、異なる添加量で2,4−デカジエナールを添加し、例1〜5に係るアルコール飲料を得た。得られたアルコール飲料について官能評価を行い、アルコール刺激感のマスキング効果の有無を試験した。各アルコール飲料における2,4−デカジエナールの添加量及び官能評価の結果を下記表1に示す。
【表1】
表1に示されるように、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が4〜80pptである例1〜5に係るアルコール飲料では、アルコール刺激感のマスキング効果が確認された。ただし、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が80pptである例5では、マスキング効果は感じられるがオイリー臭が目立ちバランスが悪くなった。
【0016】
(例6〜9)
例1〜5で使用した焼酎と同じ種類の焼酎に純水を加え、アルコール度数を12.5%に調整した。そして、異なる添加量で2,4−デカジエナールを添加し、例6〜9に係るアルコール飲料を得た。得られたアルコール飲料について官能評価を行い、アルコール刺激感のマスキング効果の有無を試験した。各アルコール飲料における2,4−デカジエナールの添加量及び官能評価の結果を下記表2に示す。
【表2】
表2に示されるように、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が8〜80pptである例7〜9に係るアルコール飲料では、アルコール刺激感のマスキング効果が確認された。一方、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が4pptである例6では、マスキング効果が見られなかった。また、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が80pptである例9では、マスキング効果は感じられるがオイリー感、すなわち劣化した油のような臭いが目立っていた。
【0017】
(例10〜15)
例1〜5で使用した焼酎と同じ種類の焼酎に純水を加え、アルコール度数を5%に調整した。そして、異なる添加量で2,4−デカジエナールを添加し、例10〜15に係るアルコール飲料を得た。得られたアルコール飲料について官能評価を行い、アルコール刺激感のマスキング効果の有無を試験した。各アルコール飲料における2,4−デカジエナールの添加量及び官能評価の結果を下記表3に示す。
【表3】
表3に示されるように、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が10〜80pptである例11〜14に係るアルコール飲料では、アルコール刺激感のマスキング効果が確認された。一方、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が5pptである例10では、マスキング効果が見られなかった。また、アルコール度数1%あたりの2,4−デカジエナール添加量が160pptである例15では、オイリー感、すなわち劣化した油のような臭いが目立っていた。
【0018】
(実施例16〜17)
例1〜5で使用した焼酎と同じ種類の焼酎に純水を加え、アルコール度数を12.5%に調整した。そして、200pptの添加量で2,6−ノナジエナールを加え、例16に係るアルコール飲料を得た。また、2,6−ノナジエナールを添加しない以外は例16と同一の条件で得られたアルコール飲料を例17とした。そして、例16及び例17のアルコール飲料について、官能評価を行った。結果を下記表4に示す。
【表4】
表4に示されるように、2,6−ノナジエナールが添加されていない例17では、後味に雑味があり、アルコールの刺激感(ピリピリ感)が感じられたのに対し、例16では、後味がマイルドであり、アルコール刺激感のマスキング効果が確認された。