特許第6582356号(P6582356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582356
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】化学蓄熱材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   C09K5/16
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-119186(P2015-119186)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2220(P2017-2220A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】劉 醇一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之貴
(72)【発明者】
【氏名】竹垣 希
(72)【発明者】
【氏名】大崎 善久
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰弘
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−186119(JP,A)
【文献】 特開平09−026225(JP,A)
【文献】 特開平06−213529(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069701(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/001883(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A):純度99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである、水酸化マグネシウムを用意する工程;及び
(B):工程(A)で用意した水酸化マグネシウムと、水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%のアルカリ金属塩とを混合する工程;
を含む、蓄熱材の製造方法。
【請求項2】
工程(A)が、
(A−1):塩化マグネシウム水溶液を用意する工程;
(A−2):塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率90〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程;
(A−3)水酸化マグネシウムスラリーを、攪拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程;並びに
(A−4)水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程;
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属塩がアルカリ金属の塩化物である、請求項1又は2に記載の製造方法
【請求項4】
アルカリ金属塩が塩化リチウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項5】
得られる蓄熱材の水和反応転化率が90%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項6】
得られる蓄熱材のアルゴンガス流通下において300℃における脱水反応速度定数が4.0×10−3[s−1]以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和反応速度及び水和反応転化率が高い、高性能な蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出規制ゆえに化石燃料の使用削減が求められており、各プロセスの省エネルギー化に加え、排熱の利用を進める必要がある。排熱の利用の手段としては、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱には、(1)放熱損失があるため長時間の蓄熱が不可能である、(2)顕熱量が小さいため大量の水が必要であり、蓄熱設備のコンパクト化が困難である、(3)出力温度が利用量に応じて非定常で、次第に降下する、等の問題がある。したがって、このような排熱の民生利用を進めるためには、より効率の高い蓄熱技術を開発する必要がある。
【0003】
効率の高い蓄熱技術として化学蓄熱法が挙げられる。化学蓄熱法は、物質の吸着、水和等の化学変化を伴うため、材料自体(水、溶融塩等)の潜熱や顕熱による蓄熱法に比べて単位質量当たりの蓄熱量が高くなる。化学蓄熱法としては、大気中の水蒸気の吸脱着による水蒸気吸脱着法、金属塩へのアンモニア吸収(アンミン錯体生成反応)、アルコール等の有機物の吸脱着による反応等が提案されている。環境への負荷や装置の簡便性を考慮すると、水蒸気吸脱着法が最も有利である。水蒸気吸脱着法に用いられる化学蓄熱材として、酸化マグネシウムが知られている。
【0004】
酸化マグネシウムは、100〜300℃の低温域では実用的な蓄熱材として機能しない。これは、マグネシウムの水酸化物が、上記低温域では有効な脱水反応を起こさないためである。これらを解決するために吸湿性金属塩を添加し、250℃程度で蓄熱可能な化学蓄熱材が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−186119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の化学蓄熱材は、水和反応速度及び水和反応転化率が十分ではなく、充分な熱量を短時間で確保及び放出できないという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、充分な熱量を短時間で確保及び放出できる、水和反応速度及び水和反応転化率が高い、蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者は、種々検討を重ねた結果、水酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム100mol%に対して、アルカリ金属塩を1〜30mol%含み、水酸化マグネシウムの純度が99.9質量%以上であり、Alが金属元素換算で100質量ppm以下であり、Caが100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmであることを特徴とする化学蓄熱材料が、水和反応速度及び水和反応転化率が高く、充分な熱量を短時間で確保及び放出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
(1)水酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%のアルカリ金属塩を含む蓄熱材であって、水酸化マグネシウムは、純度が99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである、蓄熱材。
(2)(A):純度99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである、水酸化マグネシウムを用意する工程;及び(B):工程(A)で用意した水酸化マグネシウムと、水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%のアルカリ金属塩とを混合する工程;を含む、蓄熱材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、充分な熱量を短時間で確保及び放出できる、高い水和反応速度及び水和反応転化率を有する蓄熱材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[蓄熱材]
蓄熱材は、水酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%のアルカリ金属塩を含む。ここで、蓄熱材に含まれる水酸化マグネシウムは、純度が99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである。
蓄熱材は、100〜350℃程度の温度で脱水吸熱反応を起こし、かつ、水蒸気暴露により水和発熱反応を起こすことにより蓄熱することが可能である。
【0012】
(水酸化マグネシウム)
水酸化マグネシウムは、純度が99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである。
【0013】
本明細書において、純度は、対象微粒子中の不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Ca、Cd、Cl、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)の含有量を測定し、これらの合計含有量を100質量%から差し引いた値とする。
Cl以外の上記不純物元素は、ICP発光分光分析装置を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定し、Cl量は、分光光度計を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した値とする。
【0014】
水酸化マグネシウムの純度は、99.9質量%以上であり、99.95質量%以上が好ましく、99.97質量%以上がより好ましい。
水酸化マグネシウムのAlの含有量は、100質量ppm以下であり、1〜80質量ppmが好ましく、2〜50質量ppmがより好ましい。水酸化マグネシウムのAlの含有量が100質量ppmを超えると、水和反応転化率が低下し、充分な熱量を短時間で放出できない。
水酸化マグネシウムのCaの含有量は、100質量ppmであり、1〜80質量ppmが好ましく、2〜50質量ppmがより好ましい。水酸化マグネシウムのCaの含有量が100質量ppmを超えると、脱水反応速度定数が低下し、充分な熱量を短時間で確保できない。
【0015】
<粒子径>
水酸化マグネシウムの粒子径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)は、3〜30μmであり、4〜25μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。3μm未満であれば、反応時に凝集しやすく、水和反応転嫁率が低下し、充分な熱量を短時間で確保できない。30μmより大きければ、水蒸気との接触面積が少なくなり水和反応転化率が低下し、充分な熱量を短時間で放出できない。
【0016】
(アルカリ金属塩)
アルカリ金属塩は、周囲雰囲気中で水分を吸着し、又は対応する水和物を生成するものであれば、特に限定されない。アルカリ金属として、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウム等が挙げられ、リチウム及びナトリウムが好ましく、リチウムがより好ましい。塩として、塩化物、水酸化物及び炭酸塩が挙げられ、塩化物が好ましい。よって、アルカリ金属塩として、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の炭酸塩が挙げられ、塩化リチウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属の塩化物が好ましく、塩化リチウムがより好ましい。
アルカリ金属塩は、単独で、又は2種以上の組み合わせで、使用することができる。
【0017】
アルカリ金属塩の量は、蓄熱材に含まれる水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%であり、5〜20mol%が好ましく、7〜15mol%がより好ましい。蓄熱材に含まれる水酸化マグネシウム100mol%に対して、アルカリ金属塩の量が1mol%未満であれば、蓄熱温度の低温化が不十分となり、30mol%超であれば、水酸化マグネシウム自体の脱水及び水和反応を阻害し、また単位質量又は単位体積当たりの蓄熱量(蓄熱密度)が減少するので、全体として蓄熱特性を低下させるおそれがある。
【0018】
化学蓄熱材は、本発明の効果を損なわない範囲で、更なる成分を含むことができる。このような成分として、パリゴルスカイト、ベントナイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、タルク、セピオライト及びゼオライトが挙げられる。
【0019】
蓄熱材は、形状安定性を向上させるために、パリゴルスカイト、ベントナイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、タルク、セピオライト及びゼオライトからなる群より選択される1種以上を含むことができる。これらは、ケイ酸塩、マグネシウム塩、及び/又はアルミニウム塩を主成分とする粘土鉱物である。粘土鉱物の量は、水酸化マグネシウムに対して、1〜30重量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。粘土鉱物の量が水酸化マグネシウムに対して、1質量%未満であれば、形状安定性が悪く、30質量%より大きければ、水酸化マグネシウムの特性を阻害する傾向がある。
【0020】
蓄熱材の水和反応転化率は、90%以上が好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上が特に好ましい。水和反応転化率が90%以上であると、充分な熱量を短時間で確保でき、蓄熱材としての性能がより向上する。
蓄熱材の脱水反応速度定数は、4.0×10−3[s−1]以上が好ましく、4.1×10−3[s−1]以上がより好ましく、4.2×10−3[s−1]以上が特に好ましい。脱水反応速度定数が4.0×10−3[s−1]以上であると、充分な熱量を短時間で放出でき、蓄熱材としての性能がより向上する。
【0021】
(蓄熱材の製造方法)
蓄熱材の製造方法は、(A):純度99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである、水酸化マグネシウムを用意する工程;及び(B):工程(A)で用意した水酸化マグネシウムと、水酸化マグネシウム100mol%に対して、1〜30mol%のアルカリ金属塩とを混合する工程;を含む。
【0022】
工程(A)において用意すべき水酸化マグネシウムは、純度99.9質量%以上であり、Alの含有量が100質量ppm以下であり、Caの含有量が100質量ppm以下であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定による、水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、3〜30μmである。水酸化マグネシウムは、好ましい態様を含み、上記したとおりである。水酸化マグネシウムの製造方法は、上記の特性を満足する水酸化マグネシウムが得られる限り特に限定されない。
【0023】
工程(A)は、下記工程(A−1)〜(A−4):
(A−1):塩化マグネシウム水溶液を用意する工程;
(A−2):塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率90〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程;
(A−3):水酸化マグネシウムスラリーを、攪拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程;並びに
(A−4):水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程;を含むのが好ましい。
【0024】
工程(A−1)は、塩化マグネシウム水溶液を用意する工程である。
【0025】
塩化マグネシウム水溶液は、マグネシウムイオンの濃度が0.1〜10mol/Lが好ましく、0.3〜8mol/Lがより好ましく、0.5〜5mol/Lが特に好ましい。マグネシウムイオンの濃度が0.1mol/L未満であると、生産効率が悪くなる。また、マグネシウムイオンの濃度が10mol/Lより高いと工程(B)で得られる水酸化マグネシウムスラリーの粘度が高くなり、ハンドリングが悪くなる。
【0026】
塩化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム6水和物及び無水塩化マグネシウムなどが挙げられ、水に溶解後、Si、Al、Fe、V、Cr、Mn、Ni、Zr、B、Znのそれぞれが、10質量ppm以下で、かつ、Caが30質量ppm以下となるものであれば、特に限定されない。
【0027】
上記の塩化マグネシウムに水を混合して塩化マグネシウム水溶液とする。
水の添加量は、塩化マグネシウムの無水物の重量に対して2〜5倍であることが好ましい。このとき水は、イオン交換した純水である。特に、水中にはSi量が有意に含有されるおそれがあるため、イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した純水を使用することが好ましい。
本明細書において、純水とは、イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した水をいう。
【0028】
工程(A−2)は、塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率90〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程である。
【0029】
本明細書において、反応率とは、塩化マグネシウムすべてが、水酸化マグネシウムとなるのに必要なアルカリ量を100mol%として算出した値とする。例えば、200mol%とは、当量にして2倍のアルカリ量を意味する。
【0030】
アルカリ水溶液のためのアルカリ源としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、並びにアンモニアが挙げられ、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であれば、水酸化マグネシウムの不純物のコンタミネーションが少ない。アルカリ水溶液の濃度は1〜18mol/Lとすることができ、好ましくは4〜16mol/Lであり、より好ましくは10〜14mol/Lである。
【0031】
アルカリ化合物が水酸化物である場合、純度を上げるためにアルカリ化合物を精製してもよい。例えば、アルカリ金属の水酸化物自体に混入されているSi等の不純物を精製除去するために、アルカリ金属の水酸化物を本反応に使用する前に、水酸化物イオンに対して、反応率が1〜30mol%(例えば、10mol%)になるように、マグネシウムイオンを含む水溶液を投入して予備反応を行ってもよい。前記予備反応により、アルカリ金属の水酸化物中の水酸化物イオンがマグネシウムイオンと反応して、水酸化マグネシウムとして沈殿するとともに、不純物が沈殿し除去される。これにより、残ったアルカリ金属の水酸化物の水溶液の不純物量が低減される。
【0032】
工程(A−3)は、水酸化マグネシウムスラリーを、攪拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程である。
【0033】
水熱処理は、水酸化マグネシウムスラリーを、例えば、オートクレーブを用いて、攪拌しながら、温度を101〜200℃に保持することにより行うことができる。水熱処理温度が101℃未満であると結晶が成長せず、凝集粒子が生成して分散が悪くなる。また水熱処理温度が200℃を超えると結晶が大きく成長しすぎ、粒子径が大きくなる傾向がある。水熱処理温度は好ましくは105〜150℃である。水熱処理時間は、0.5〜3時間とすることができる。水熱処理時間がこの範囲であると、結晶成長及び粒子径を適切な範囲に制御することができる。水熱処理時間は好ましくは1〜2時間である。
【0034】
均一な粒子径を有する、安定した微粒子を得るために、必要であれば、水熱処理に使用する水酸化マグネシウムスラリーに、純水を投入して、そのスラリー濃度を30g/L〜150g/Lに調節してもよい。
【0035】
工程(A−4)は、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程である。
攪拌は、例えば、10〜50℃で、100〜800rpmの回転速度で、0.5〜5時間で行うことができる。
攪拌終了後、濾過は、濾紙及び濾布等を用いて行うことができる。
水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で5〜100倍、好ましくは20〜50倍の純水を濾過の後に投入することにより行うことができる。
乾燥は、80〜200℃で0.5〜20時間の条件で行うことができる。
【0036】
工程(B)は、水酸化マグネシウム及びアルカリ金属塩と、更なる成分とを混合する工程を含むことができる。
【0037】
水酸化マグネシウム微粒子に、必要であれば水酸化マグネシウムに対し1〜30質量%の粘土鉱物を混合しながら、水酸化マグネシウムに対し10mol%のアルカリ金属塩と40〜80質量%の純水の混合溶液を少量ずつ添加することで粒子状に成形できる。その後、80〜120℃で5時間以上乾燥させ、篩に通すことで蓄熱材を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[評価]
(1)水酸化マグネシウム中の不純物元素の質量測定法
測定対象となる不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)は、ICP発光分光分析装置(商品名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した。Cl量は、分光光度計(商品名:UV−2550、島津製作所製)を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した。
また、純度は、100.00質量%から測定した上記の不純物量の合計値を差し引いた値として算出した。
【0040】
(2)脱水反応速度定数の測定方法
脱水反応は熱天秤測定装置(ULVAC理工製、TCD9600)を用いて測定した。
本発明の蓄熱材を電子天秤で計量し、熱天秤内の白金製セルに20mg載せた。次いで、反応器内の蓄熱材に対して不活性なパージガス(アルゴン)を100mL/分で流しながら、120℃で試料の物理吸着水を乾燥除去した。その後、昇温速度20℃/分で300℃まで加熱し、3時間維持し、脱水反応を行った。
昇温時にも脱水反応がわずかに進行するため、試料中のマグネシウム化合物全体(酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム)に対する、水酸化マグネシウムのモル分率が0.9となった時間を0分として測定した。
次に脱水反応速度は以下のように算出した。脱水反応の反応次数が1であることを仮定し、反応時間をt、水酸化マグネシウムのモル分率をy、反応速度定数をkとすると
【数1】

となる。ここで、初期条件をt=t、y=yとして(1)式を積分すると
lny=−kt+lny0 (2)
となり、時間tに対してlnyをプロットした時の傾きを反応速度定数kとした。
【0041】
(3)水和反応転化率の測定方法
水和反応は、熱天秤測定装置(ULVAC理工製、TCD9600)を用いて測定した。本発明の蓄熱材を電子天秤で計量し、熱天秤内の白金製セルに20mg載せた。次いで、反応器内の蓄熱材に対して不活性なパージガス(アルゴン)を100mL/分で流しながら、120℃で試料の物理吸着水を乾燥除去した。その後、昇温速度20℃/分で280℃まで加熱し、0.5時間保持して脱水させ、次いで室温にまで冷却してから水和反応を開始させた。水和反応は、110℃ 、アルゴンと水蒸気の混合気流下、水蒸気圧57.8kPaの条件で80分間暴露することによって行った。
蓄熱材中の塩化リチウム水和物の脱水と物理吸着水の離脱が完了し、水酸化マグネシウムの脱水が行われていない200℃における初期重量を完全に水酸化した状態と考えて、100%とし、反対に、完全に脱水した状態を0%とし、サンプルの初期重量と重量変化から水和転化率を算出した。
【0042】
(4)粒度測定
水酸化マグネシウムの粒度の測定は、水酸化マグネシウムをメタノール中に入れ、出力120Wの超音波を3分間照射し分散させ、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX-II Microtrac Inc.製)を使用して、体積基準の累積50%粒子径(D50)を測定した。
【0043】
[実施例1]
純度が99.99質量%の無水塩化マグネシウムを純水で溶解させ、マグネシウムイオン濃度が2.2mol/Lになるように調整した塩化マグネシウム溶液に、試薬特級の水酸化ナトリウムに純水を加えて濃度2.0mol/Lに調整した溶液を、ローラーポンプを用いて塩化マグネシウムに対する水酸化ナトリウムの反応率が110%になるように5mL/minで滴下を行った。
滴下完了後、120℃で1時間、300rpmで攪拌し、ろ過水洗後、120℃で乾燥を行い、水酸化マグネシウム微粒子を得た。
得られた水酸化マグネシウム微粒子に対し10mol%の割合の塩化リチウムと、50質量%の純水を混合して混合溶液を作成した。その混合溶液を少量ずつ水酸化マグネシウム微粒子に添加しながら混合し、粒子状に成形した。その後、120℃で5時間乾燥させ、蓄熱材を得た。
【0044】
[実施例2]
120℃で1時間攪拌を、0.5時間にした以外は実施例1と同様とした。
【0045】
[比較例1]
水酸化マグネシウム中のCaが3000ppm程度になるように、純度99.9%の炭酸カルシウムを、濃塩酸で溶解させ、塩化マグネシウム溶液に投入した以外は実施例1と同様とした。
【0046】
[比較例2]
水酸化マグネシウム中のAlが100ppm程度になるように、試薬特級の塩化アルミニウムを純水で溶解させ、塩化マグネシウム溶液に投入した以外は実施例1と同様とした。
【0047】
[比較例3]
水酸化マグネシウム微粒子として、試薬(水酸化マグネシウム、99.9%)(和光純薬製)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0048】
結果を表1にまとめる。
【0049】
【表1】
【0050】
合否判定は、脱水反応速度定数が4.0×10−3[s−1]以上であり、かつ、水和反応転化率が90%以上である場合を「○」とし、脱水反応速度定数が4.0×10−3[s−1]未満であるか、水和反応転化率が90%未満である場合を「×」とした。
【0051】
表1の結果からも明らかなように、本発明の蓄熱材は、高い水和反応速度及び水和反応転化率を有していた。比較例1はカルシウムの含有量が100ppmを超えるため、脱水反応速度定数が小さくなった。比較例2はアルミニウムの含有量が100ppmを超えるため、水和反応転化率が小さくなった。比較例3は水酸化マグネシウム粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が3μm未満であるため、水和反応転化率が小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の蓄熱材は、高い水和反応速度及び水和反応転化率を有する。そのため、エンジンや燃料電池等から排出される排気ガスの熱を有効利用するのに適している。例えば、排気ガスの熱は、自動車の暖機運転の短縮、搭乗者のアメニティーの向上、燃費の改善及び排気ガス触媒の活性向上による排気ガスの低害化等に活用することができる。特に、エンジンの場合、運転による負荷が一定でなく排気出力も不安定であることから、排気熱の直接利用は必然的に非効率・不便を伴う。本発明のような化学蓄熱系によると、排気熱を一旦化学的に蓄熱し、熱需要に応じて熱出力することで、より理想的な排気熱利用が可能となる。