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特許6582361真空圧密浚渫工法とタワー式気密載荷函体及び専用作業船。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582361
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】真空圧密浚渫工法とタワー式気密載荷函体及び専用作業船。
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/02 20060101AFI20190919BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20190919BHJP
   E02F 3/88 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   E02D3/02 101
   E02D3/10
   E02F3/88 D
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-505957(P2018-505957)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2017010246
(87)【国際公開番号】WO2017159692
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-76870(P2016-76870)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506101805
【氏名又は名称】近藤 正佳
(73)【特許権者】
【識別番号】506147755
【氏名又は名称】近藤 宇生
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正佳
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−309073(JP,A)
【文献】 特開平06−264432(JP,A)
【文献】 特開平07−149286(JP,A)
【文献】 特開平10−007074(JP,A)
【文献】 特開平03−244708(JP,A)
【文献】 実開昭55−024384(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/02
E02D 3/10
B63B 35/00−35/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底地盤等の真空圧密浚渫工法において、底面開口の気密載荷函体の内部天井面に真空タンク層を、これの直下にドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成し、隔室上面には透水性蓋を設け、前記函体の外部上面の中央部分には函体タワーを取付けたタワー式気密載荷函体を使用して、圧密工程では海底土等を底面開口の前記函体で浚渫可能な強度以上に圧密の進行を図り、浚渫工程では前記函体の空圧,水圧を制御して海底土等の浚渫を行うことで、底面開口のタワー式気密載荷函体によって圧密と浚渫を一連の工程とすることを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項2】
請求項1の海底地盤等の真空圧密浚渫工法において、圧密工程の前工程でタワー式気密載荷函体に中詰状態にある海底土等の最表層部の浚渫対象外のきわめて小さい比重の浮泥を当該函体の隔室から外部へ直接排出する工程を特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項3】
請求項1の海底地盤等の真空圧密浚渫工法において、圧密工程ではタワー式気密載荷函体の中詰海底土等の含水比をこれの液性限界の含水比以下とし、浚渫工程では中詰海底土等の保持は前記函体の内部上面の真空吸引力と壁面付着力を活用し、海底地盤等からの切り離し時は前記函体底面の気密状態を自動通水装置で解除する工程を特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項4】
請求項1のタワー式気密載荷函体を使用する真空圧密浚渫工法の中詰海底土等の積み下ろしにおいて、前記透水性蓋は隔室内を上下動する可動透水性蓋とし、当該可動透水性蓋を圧縮空気、又は可動蓋駆動装置で押し下げることで、前記函体の中詰海底土等を押し出して積み下ろしを行うことを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項5】
請求項1のタワー式気密載荷函体のドレーンシステムの装置において、ドレーンが隔室と真空タンク層を断続的に移動して、ドレーンが隔室に在るときは中詰海底土の圧密が進行し、ドレーンの移動時においては隔室では圧密により密度増加してドレーンに付着した中詰海底土を削ぎ落とし、真空タンク室ではドレーン表面を洗浄することを繰り返すシステムの装置を備えたことを特徴とするタワー式気密載荷函体。
【請求項6】
請求項5のタワー式気密載荷函体において、隔室には複数のパネルドレーンが一体となった上下可動なユニットパネルドレーンが設置され、隔室の天端には固定透水性蓋が固定され、この固定透水性蓋には当該ユニットパネルドレーンが擦り抜ける複数のスリットが設けられ、ユニットパネルドレーンは真空タンク層でこれの上部をドレーンホルダーで一体的に固定され、また、真空タンク層はユニットパネルドレーンを引き上げるのに必要な高さがあり、ドレーンホルダーは上下駆動装置に連動している構成とし、且つ、当該ユニットパネルドレーンの上下動で当該ユニットパネルドレーンが真空タンク層に在る時にはこれを洗浄する機能を有することを特徴とするタワー式気密載荷函体。
【請求項7】
請求項6のタワー式気密載荷函体を使用する超高含水比の流動状態の海底土等の真空圧密浚渫工法において、前記気密載荷函体の据付け工程は前記ユニットパネルドレーンが隔室に位置する状態で海底地盤等に押し込んで海底土等をタワー式気密載荷函体の中詰状態とし、圧密工程は前記真空タンク層を真空状態にすることで圧密沈下を進行させ、圧密速度が低下したら当該ユニットパネルドレーンを真空タンク層内に引き上げることで前記固定透水性蓋のスリットにより圧密で密度増加してドレーンに付着した中詰海底土を削ぎ落とし、並行して真空タンク層内では当該ユニットパネルドレーンを洗浄し、続いて当該ユニットパネルドレーンを隔室の位置に下げることで圧密未進行の中詰海底土等との新たな排水面とすることを繰り返えすことで、中詰海底土等の圧密の排水距離を常に極小距離にして急速圧密を実現することを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項8】
請求項1又は6の真空圧密浚渫工法におけるタワー式気密載荷函体において、振動装置を備えた当該気密載荷函体の急速圧密工程は当該気密載荷函体の真空タンク層を真空状態とすることで静荷重の大気圧と水圧を載荷し、且つ、当該気密載荷函体の隔壁、またはユニットパネルドレーンの固有振動に合わせて前記振動装置を稼動させることでこれを共振させ、中詰海底土等には静荷重に加えて振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで急速圧密を行うことを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項9】
請求項1又は6の真空圧密浚渫工法におけるタワー式気密載荷函体において、振動装置を備えた当該気密載荷函体の有害物質の溶出工程は、当該気密載荷函体の真空タンク層を真空状態とすることで静荷重の大気圧と水圧を載荷し、且つ、当該気密載荷函体の隔壁,またはユニットパネルドレーンの固有振動に合わせて前記振動装置を稼動させることでこれを共振させ、中詰海底土には静荷重に加えて振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで強制的な有害物質の溶出と急速圧密による中詰海底土の高密度化を図り、次に汚染水浄化工程は真空タンク層に溜まった汚染水を排水装置で汚染水浄化装置に送り無害化して汚染海底土等の汚染拡散を防止することを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項10】
請求項1又は6のタワー式気密載荷函体を装備した専用作業船において、台船の中央には当該函体が納まる空間を形成し、この空間を囲んで取り外し可能とした当該函体のガイドタワー及びガイドタワー支承桁が台船に固定され、これに組み込まれた当該函体の函体タワーはガイドタワー内を上下動する機能を有し、且つ当該函体が納まる台船の開口空間の船底にはこれを開閉する移動式船底装置が装備されていることを特徴とする専用作業船。
【請求項11】
請求項1又は6のタワー式気密載荷函体を装備した専用作業船おいて、当該函体の位置を台船の前方とするための吊り込み櫓が台船に固定され、前記吊り込み櫓の鉛直ガイドレールに組み込まれた当該函体の函体タワーは、前記ガイドレール内を上下動する機能を有し、且つ浚渫作業時に前方に偏る専用作業船の重心を水平支持に加えて鉛直支持を持たせた移動式スパッド装置により安定を保つことを特徴とする専用作業船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶の航路・泊地の増深・水深維持における海底,河底地盤の真空圧密,浚渫そして圧密した浚渫土を埋立,海底盛土等の材料に再使用に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな河川の河口の水域に堆積する土砂は、含水比が大きい軟弱土であることが多い。特に背後に大都市を持つ港湾の水域の堆積土は,生活廃水や工業排水の流入で有機物を多く含んで堆積して超軟弱土となる。軟弱土の特徴は含水比が非常に大きいことであるが、有機物が含むとその含水比は200%と非常に大きくなり、表層部は400%にも及ぶ。表層部は浮泥と呼ばれ、密度が極めて小さい流動体の泥土である。一般に高塑性粘土であってもこれの液性限界の含水比は高くても100%程度である。液性限界を超える含水比の軟弱土は形を作らず流動的な泥土である。
【0003】
船舶の航行の可否は水深で決まる。そこを航行する最大の船舶の喫水の水深を常に維持しなければならない。このため、恒常的な維持浚渫が必要となる。
浚渫とは水底の土砂を浚って深くすることである。浚った土砂は他の場所へ移動させ埋立などに利用する。海洋,港湾の土木分野では、浚渫工事と埋立工事は一連の工事とすることが多い。浚渫の目的はさまざまである。新規に航路や泊地をつくるための浚渫もあれば、既存の航路の拡幅や増深のための浚渫、水深維持のための浚渫がある。さらには埋立のための土砂の採取、環境対策のための水底汚泥の除去の浚渫などである。
【0004】
浚渫は対象の土砂の種類,浚渫の規模,浚渫土をどこで処分するかによって浚渫船が選定される。浚渫船はポンプ浚渫船とグラブ浚渫船に大別され、前者は大規模浚渫に適している。ポンプ浚渫船はカッター付きポンプ浚渫船が一般的で、水底の土砂をカッターで切り崩して水と一緒にポンプで吸込み、排砂管を通じて埋立地や処分地に搬送する。1時間当たりの浚渫能力は2千mのものがある。浚渫船は一般に自分で航行しない非自航式が大半であるが、自航式浚渫船もある。
欧米の大型の浚渫,埋立工事にはトレーリングサクションホッパー浚渫船(日本ではドラグサクション浚渫船)と呼ばれている自航式の浚渫船が活躍している。この浚渫船は水底の土砂と水を浚渫ポンプで吸い上げ船倉に積み込んで運搬する。
【0005】
浚渫土を埋立の材料に使用する場合、浚渫土が砂質土であれば、従来の浚渫埋立方法でも問題は少ない。しかし、浚渫土が粘性土であれば、浚渫時に水が混合されて液性限界の数倍の高含水比となる。これは人工的に作られた超軟弱粘性土である。このような不必要な水が混合された不良土を運搬し,人工的不良土を埋立材として使っているのが現状である。
【0006】
現在の浚渫技術は確実に進歩している。大容量浚渫技術の開発,GPSを利用した船位計測技術,さらには環境保全型の浚渫工法である。この工法の例として、密閉型のグラブを使用して、余分な海水をグラブから排出して汚濁拡散が少なく、高含泥率な浚渫を実現しているものがある。しかしながら、この工法であっても浮泥対策としては課題が多い。余分な海水をグラブから排出する際に浮泥そのものが排出されてしまう。根本的に既存の浚渫技術には、浚渫土を土木再生材として原位置の河底,海底において脱水改良するという発想がないことにある。
【0007】
日本の浚渫土の利用状況は、港湾,工業用地等の埋立地に利用されてきた。しかし、こうした浚渫土の埋立地の確保は年々難しい状況になっている。そこで、粘性土の浚渫土はプラントでの脱水減容化、あるいは固化材の混合で改良してから、埋立材への使用を積極的に進めている。しかし、コスト高でその利用率は小さい。
【0008】
日本において、真空圧密工法は、従来、陸上の地盤改良工法として多く利用されてきたが、海底地盤等にも利用が進められている。海底地盤の真空圧密工法の特徴は何らかの方法で載荷地盤面の気密を保持して、載荷重には大気圧に加えて水圧をも利用する。この工法を環境面から見た特徴は、原位置で水質汚濁を発生することなく、圧密沈下により海底地盤の強度増加と減容化が図れることにある。もしも、圧密沈下だけで航路等の水深が確保されたならば浚渫土を一切発生させない水深維持工法となる。
【0009】
特許文献1の工法は海底地盤の真空圧密による地盤改良工法関するもので、主に港湾施設の粘性土地盤の残留沈下対策として開発された。従って、この工法には浚渫の工程は無い。この工法の大きな特徴は、真空圧密の静荷重である大気圧及び水圧に、動荷重(静荷重の5%程度)である繰り返し荷重を併用する。これにより海底地盤に圧力変動を伝達させることで過剰間隙水圧の波動を発生させて急速圧密沈下を実現している。
【0010】
特許文献2の工法は、特許文献1の真空圧密による地盤改良工法と浚渫工法を一連の工法として発展させたものである。以降、この一連の工法は真空圧密浚渫工法と称する。真空圧密浚渫工法は、浚渫土を土木再生材として原位置の河底,海底において、脱水改良して浚渫することを意図した工法である。液性限界の含水比を大きく超える含水比の超軟弱土、さらには浮泥にこそ圧密による原位置での脱水改良が必要である。
【0011】
特許文献2の大きな特徴は二つある。一つ目は浚渫を実現するタワー式気密載荷函体の底面を底板シャッターで開閉する機能である。当該函体は真空圧密の気密載荷函体と浚渫のグラブバケットを兼用するものである。二つ目は専用作業船の自行移動を実現する移動式スパッド機能である。
【0012】
特許文献2の工法による海底土の積込みは、底板シャッターによって実現している。海底土の積み下ろしである中詰海底土の押し出しは、透水性蓋(剛性フィルター)を通過した圧縮空気で中詰海底土の上面を加圧して押し出すとしている。
【0013】
特許文献2のタワー式気密載荷函体の基本構造は、底面開口の箱型構造で内部天井面に真空タンク層を、これの下面にドレーン機能のある函体隔壁で内部空間を分割して複数の隔室を形成する。ここで、隔室の上面には排水は通すが土粒子は通さない透水性蓋が設けられる。また、特許文献2は当該函体の底面には底板シャッターが設置されている。(特許文献2はタワー式載荷函体と称している。また、真空タンク層を微小厚の空間,透水性蓋を剛性フィルターと称している)
【0014】
真空圧密浚渫工法の共通な作業工程は、気密載荷函体を海底地盤に押し込んで海底土を当該函体の中詰め状態とする据付け工程、(以降、中詰状態の海底土を中詰海底土と称す)次に圧密工程,浚渫工程,浚渫土の運搬工程に分けられる。浚渫工程は当該函体の中詰海底土を海底からの切り離し,水中または気中での保持する海底土の積み込み、そして押し出しによる積み下ろしの工程に細分される。
【0015】
気密載荷函体による中詰海底土の積み込み,積み下ろし、すなわち中詰海底土の気中吊り上げ,押し出しについて、模型隔室による検証実験を行った。実際の隔室の大きさは1.0m×1.0m×1.0mの立方体を想定する。模型の縮尺は1/5である。なお、模型隔室には底板シャッターは無い。模型隔室は内空上部を透水性蓋で区切られた気密タンク層がある。実験の試料土は高塑性の再生粘土で初期含水比Woは100〜110%、限界Wlは85%である。土層箱の試料土に模型隔室を据え付けて、試料土を模型隔室の中詰状態とした。据え付けられた模型隔室の内部は気密状態である。気密タンク層を真空ポンプで真空状態にして、中詰試料土を大気圧で載荷して圧密を進めた。圧密進行状態は中詰試料土の含水比Wを液性限界Wlで区分する。
【0016】
模型隔室の中詰試料土の気中吊り上げは、気密タンク層を真空ポンプで真空状態にして中詰試料土の上面を真空吸引する。結果は次の通りである。
W>Wl:吊り上げ不可。中詰試料土の大部分が抜け落ちた。
W=Wl:吊り上げ可。ただし、中詰試料土の底面は一部がえぐられた状態である。
W<Wl:吊り上げ可。ただし、中詰試料土の底面は平らな状態ではない。
中詰試料土の底面が平らではないのは、模型隔室を土層箱から気中に吊り上げるとき、気密状態の中詰試料土の底面に負圧が発生したからと考えた。そこで模型隔室の側面に8本の弁の付いた通気パイプを取り付けた。模型隔室の吊り上げ時に底面の気密を解除した実験の結果は、底面がほぼ平らとなった。
【0017】
模型隔室の中詰試料土の気中での押し出しは、模型隔室の真空状態を解除して行う。結果は次の通りである。
W=Wl:押し出しは真空状態を解除しただけで可。
W<Wl:押し出しは真空状態を解除したけれども不可。
模型気密隔室の中詰試料土の押し出しは、中詰試料土の含水比が液性限界の含水比付近では、気密タンク層の真空状態を解除しただけで抜け落ちた。しかし、含水比が明らかに小さい場合は、特許文献2の圧縮空気で中詰試料土を押し出し方法は機能しなかった。また、振動,打撃を加えても抜け落ちることはなかった。隔室の壁面付着強度が大きな妨げになっている。
結局、特許文献2の工法は、軟弱な中詰海底土を液性限界の含水比までしか圧密することができない。逆に言うと、液性限界の含水比よりも明らかに小さい含水比の海底粘性土は、特許文献2の工法では浚渫できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特願2007−309073号公報
【特許文献2】特願2015−87107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
課題1は、特許文献2の工法の浚渫は、気密載荷函体の底面を底板シャッターで開閉する機能で実現している。しかしながら、その機能の仕組みは土中の稼動装置としては複雑で故障のリスクが大きい。施工中に故障した場合は、現場では対応できず工事が中断される。
【0020】
課題2は、特許文献2の工法における浚渫土の積み下ろし、すなわち中詰海底土の押し出しは圧縮空気で中詰海底土の上面を加圧して押し出すとしている。しかしながら、中詰海底土の含水比が液性限界の含水比よりも明らかに小さい場合は機能しない。従って,浚渫土の積み下ろしができない。
【0021】
課題3は、真空圧密浚渫工法は圧密により原位置で脱水改良、引き続き浚渫を行うことを意図した工法である。特許文献1の圧密工法は過剰間隙水圧の波動を発生させて急速圧密を実現している。高塑性粘性土の場合、圧密速度は2〜3倍高くなるとしている。しかしながら、液性限界の含水比を大きく超える超軟弱土となると、特許文献1の急速圧密を取り入れた特許文献2の圧密工法でも長時間の圧密時間が必要になる。これでは真空圧密浚渫工法の利点を大きく損なう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は真空圧密工法と浚渫工法を一連の工法としたもので、上述した課題を解決する手段が全て組み込まれたシステムが必要となる。つまり、底面開口のタワー式気密載荷函体で圧密に加えて浚渫である海底土の積み込みと積み下ろしを可能にした工法である。
本発明のタワー式気密載荷函体の基本構造は次のとおりである。
海底地盤の真空圧密浚渫工法において、底面開口の気密載荷函体の内部天井面に真空タンク層を、これの直下にドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成し、隔室上面には透水性蓋を設け、前記函体の外部上面の中央部分には水深を超える高さの函体タワーを取付けたタワー式気密載荷函体を使用する。
【0023】
本発明のタワー式気密載荷函体の作業工程は次のとおりである。
前記函体の据付け工程は前記函体を海底地盤に押し込むことで海底土を函体の中詰状態とする。圧密工程は前記真空タンク層を真空状態にすることで中詰海底土及び海底地盤に大気圧及び水圧を載荷して圧密沈下を進行させ、圧密沈下は海底土を底面開口の前記函体で浚渫可能な強度以上に強度増加を図る。浚渫工程における海底土の積み込みは、前記函体の真空状態を保ちながら前記函体の底面の気密状態を解除して前記函体を引き上げることで中詰海底土を海底から切り離し、中詰海底土の積み下ろしは前記函体の真空状態を停止し、必要に応じて圧縮空気あるいは振動の併用により押し出す。
本発明の真空圧密浚渫工法は、圧密工程では海底土を底面開口の前記函体で浚渫可能な強度以上に圧密進行を図り、浚渫工程では前記函体の空圧,水圧を制御することで海底土を浚渫することが大きな特徴である。
【0024】
タワー式気密載荷函体の主要装置の構成は次のとおりである。
当該函体の中央部分の外部上面に真空タンク層と連通した真空タンク室を設けて排水装置の設置と振動装置の固定設置をし、当該函体の外部上面と底面の水圧が連通する自動弁の付いた自動通水装置と当該函体の隔室から外部へ直接排水する自動弁の付いた自動排水装置を設置し、さらに当該函体タワーのタワー上部には真空装置とコンプレッサーを設置した構成である。
ここで、振動装置は真空タンク室に直付け固定する。これはこの装置の稼動で当該函体に共振を起こす固有の震動を伝え、この振動を中詰海底土に伝達すためである。また、自動通水装置は当該函体の中詰土を海底から切り離して吊り上げるとき、当該函体の真空状態を保ちながら底面の気密状態を解除するための装置である。また、自動排水装置は浚渫対象外となる海底土の最表層部の浮泥の比重が極めて小さいものなど、透水性蓋を通さずに排出されるための装置である。これは透水性蓋の無駄な目詰まりを避ける処置である。また、前項の真空タンク層の真空状態とは、真空装置と排水装置の稼動により真空タンク層に溜まり水がない真空の空間状態を云う。
【0025】
上述した課題1は、浚渫の要である底板シャッターの故障のリスクが大きいことである。解決するための手段は、前述の模型隔室による検証実験にある。タワー式気密載荷函体の中詰海底土の落下力は自重である。これに対する落下防止力は、中詰海底土の上面の真空吸引力と隔室の壁面付着力である。
ここで、中詰海底土の落下力及び防止力のつり合いを考える。当該函体の高さは最大でも2m,十分に圧密の進んだ中詰海底土の単位体積重量は16kN/m程度、真空ポンプによる単位面積の真空吸引力を80kN/mとすると、真空吸引力80kN/m>中詰海底土の単位面積重量32kN/m
真空吸引力だけで十分吊り上げられる。ここで、真空吸引力は中詰海底土の上面に作用して引き上げる力である。従って、このつり合いは中詰海底土が分断されない一体のものという一体条件が付く。前述の隔室模型実験から、中詰海底土の一体条件は、中詰海底土の含水比W<液性限界の含水比Wlである。
【0026】
底面開口の気密載荷函体を使用した海底地盤の真空圧密浚渫工法の浚渫において、気密載荷函体の中詰海底土の含水比が液性限界の含水比よりも高ければ圧密工程でこれ以下として中詰海底土の一体性を確保し、中詰海底土の上面の真空吸引力と壁面付着力で中詰海底土を保持する。
浚渫工程における浚渫土の積込みとは、当該函体の中詰海底土の海中,気中での保持のことを指す。一体条件を確保した中詰海底土の保持は、真空吸引力と壁面付着力を活用することで容易である。リスクの大きい底板シャッターは不要である。
【0027】
上述した課題2は浚渫工程における積み下ろし、すなわち中詰海底土の押し出しで、特許文献2の圧縮空気による方法では機能しない。これの原因は、透水性蓋(剛性フィルター)は、水は通すが土粒子は通さない機能である。透水性蓋は高い圧縮空気を通過させると大きな抵抗が発生する。このため、透水性蓋は高い圧縮空気を通過させようとすると破損に至る。
【0028】
課題2の解決手段は、真空圧密浚渫工法に使用するタワー式気密載荷函体において、透水性蓋は上下の可動透水性蓋とする。可動透水性蓋ごと中詰海底土を押し下げることで、前記函体の中詰海底土の周面の付着強度を切り、必要に応じて振動を加えながら中詰海底土を押し出す。
【0029】
可動透水性蓋を押し下げる方法は2つある。一つは圧縮空気による方法、もう一つは可動蓋駆動装置で押し下げる方法である。これらの方法の使い分けは必要とする押し下げる力の大きさによる。前者は簡易な方法であるが圧縮空気の圧が高くなると隔室の壁面と可動透水性蓋の隙間から圧縮空気が漏れて機能が低下する。これに対して後者は個々の隔室の可動透水性蓋に上下の駆動装置が必要であるが確実な方法である。ここで、上下の可動蓋駆動装置の一例として複動型の油圧シリンダーがある。
【0030】
上述した課題3は、含水比が極めて大きい超軟弱粘性土は圧密時間が長時間となることである。圧密時間の短縮の基本は排水距離の短縮である。代表的な工法としてはバーチカルドレーン工法がある。排水距離は最も短くても30cm程度である。本工法では1〜2cmの極小排水距離を設定している。特許文献1の静荷重と動荷重の併用する急速圧密工法と組み合わせることにより超急速圧密工法を実現する。
【0031】
ドレーン材は、水は通すが土粒子は通さない。そして、水の通過量が多ければ多いほど目詰まりを起こす。また、含水比の高い粘土ほど圧密時間が長い傾向にある。浮泥がこれに相当する。浮泥の場合は1〜2分で目詰まりを起こし圧密速度は急速に低下する。ユニットパネルドレーンの片面の圧密の進捗は数mmから十数mmである。ユニットパネルドレーンは両面が排水面であるから、両面では進捗は2倍になる。これでも急速圧密には程遠い。
【0032】
極小排水距離を実現する方法は、タワー式気密載荷函体のドレーンが断続的に移動するドレーンシステムである。
ドレーンが隔室と真空タンク室を断続的に移動して、ドレーンが隔室に在るときは中詰海底土の圧密が進行し、移動時においては隔室では圧密で密度増加してドレーンに付着した中詰海底土を削ぎ落とし、真空タンク室ではドレーン表面を洗浄することを断続的移動に合わせて繰り返す。これにより中詰海底土の圧密の排水距離を常に極小距離にして超急速圧密を実現する。ドレーンは柔軟なベルトドレーンと剛性のあるパネルドレーンがある。ベルトドレーンの移動は回遊で、ベルトドレーンの配置は定滑車で位置決めされる。これに対してパネルドレーンの移動は上下の往復である。
【0033】
極小排水距離を実現する方法の一例として、上下可動するユニットパネルドレーン装置が使用される。ユニットパネルドレーン装置はユニットパネルドレーン,パネルドレーンホルダー,ドレーン上下駆動装置,パネルドレーン洗浄装置から成る。この装置の構成は次のとおりである。
タワー式気密載荷函体において、隔室には複数のパネルドレーンが一体となった上下可動なユニットパネルドレーンが設置され、隔室の天端には、固定透水性蓋が固定され、この蓋には当該ユニットパネルドレーンが擦り抜ける複数のスリットが設けられ、ユニットパネルドレーンは真空タンク層でこれの上部をドレーンホルダーで一体的に固定され、真空タンク層はユニットパネルドレーンを引き上げるのに必要な高さがあり、ドレーンホルダーは上下駆動装置に連動している構成を特徴とするタワー式気密載荷函体である。
【0034】
超高含水比の流動状態の海底堆積土の真空圧密浚渫工法は上下可動のユニットパネルドレーン装置が組み込まれたタワー式気密載荷函体を使用する。これの工程は次のとおりである。
気密載荷函体の据付け工程はユニットパネルドレーンが隔室に位置する状態で気密載荷函体を海底地盤に押し込んで海底土を気密載荷函体の中詰海底土状態とする。圧密工程は真空タンク層を真空状態にすることで、中詰海底土に大気圧及び水圧を載荷して圧密沈下を進行させ、圧密速度が低下したら当該ユニットパネルドレーンを真空タンク層内に引き上げる。これにより、前記固定透水性蓋のスリットにより圧密が進行してユニットパネルドレーンに付着している中詰海底土を削ぎ落とし、続いてユニットパネルドレーンを隔室の元の位置に下げることで圧密未進行の中詰海底土との新たな排水面とすることを繰り返す。これにより、中詰海底土の圧密の排水距離を常に極小距離にして急速圧密を実現する。
【0035】
超高含水比の流動状態の海底土の真空圧密浚渫工法は、前述のようにユニットパネルドレーン装置を装備したタワー式気密載荷函体が使用される。パネルドレーンは、水は通すが土粒子は通さない材質でできている。しかし、このドレーンは使っているうちに目詰まりを起こし透水性が悪くなってくる。通過する水の量が多いほど目詰まりの割合が高くなる。
超高含水比の海底土の場合は特に顕著で、目詰まりを解除する必要がある。その手段は当該ユニットパネルドレーンの上下動で真空タンク層に在る時間内に当該ユニットパネルドレーンを洗浄する機能を設ける。これは固定透水性蓋に並列するスリットの中間に水による高圧洗浄装置を設けるもので、当該ユニットパネルドレーンが上下する間に高圧散水で自動洗浄する。
【0036】
本発明の動荷重併用による急速圧密工法は特許文献1の工法をさらに発展させたものである。
飽和粘性土地盤に振動を加えると、地盤の固体部分には応力変動(縦波と横波)と間隙水部分には圧力変動(縦波のみ)が発生する。粘性土地盤の応力変動の伝播は、減衰が速いので対象地盤を深くすると大きなエネルギーを必要とする。これに対して圧力変動の伝播の減衰は緩やかなので大規模地盤改良にも有効である。圧力変動の伝播は大気圧と水圧の静荷重に繰返し荷重の動荷重が合成されるので過剰間隙水圧の波動となる。特許文献1の工法は地盤を振動させる巨大なエネルギーは使わない圧力変動に限定した繰返し荷重としたことは当然である。特許文献1は圧力変動のみの振動荷重を特に繰り返し荷重と称している。これに対して本発明の急速圧密の対象は小規模の表層地盤、気密載荷函体の中詰海底土である。従って、応力変動,圧力変動が共に有効である。その分、振動装置は小型化が図れる。
【0037】
本発明の動荷重併用の急速真空圧密浚渫工法の工程は、前記気密載荷函体の真空タンク層を真空状態とすることで静荷重の大気圧と水圧を載荷し、且つ、当該気密載荷函体の隔壁,またはユニットパネルドレーンの固有振動に合わせて前記振動装置を稼動させることでこれを共振させ、中詰海底土には振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで急速圧密を行うことを特徴とする。共振させることで振動装置はさらなる小型化が図れ、真空タンク室に直付け固定することが可能となっている。
【0038】
本発明の静荷重に加えて応力変動と圧力変動の両変動を伝達する動荷重の併用は急速圧密だけではなく強制的な有害物質の溶出にも効果がある。
汚染海底堆積土の汚染拡散防止工法において、有害物質の溶出工程は、前記函体の真空タンク層を真空状態とすることで静荷重の大気圧と水圧を載荷し、且つ、当該気密載荷函体の隔壁,またはユニットパネルドレーンの固有振動に合わせて前記振動装置を稼動させることでこれを共振させ、中詰海底土には振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで強制的な有害物質の溶出と急速圧密による中詰海底土の高密度化を図り、次に汚染水浄化工程は真空タンク層に溜まった汚染水を排水装置で汚染水浄化装置に送り無害化して汚染拡散を防止することを特徴とする。
【0039】
本発明のタワー式気密載荷函体は、通常は専用作業船に装備される。当該函体は専用作業船の中央に装備する函体中央型専用作業船と前方に装備する函体前方型専用作業船がある。函体中央型専用作業船は、浚渫土の運搬を当該函体に中詰め状態で運搬することも可能である。当該函体は底面が開口状態なので、専用作業船は長距離運搬時に汚濁を撒き散らかさないように船底が必要である。函体前方型専用作業船は、汎用型の専用作業船で浚渫土の運搬は土運船となる。この専用作業船は浚渫時に船体重心が前方に偏るので安定対策が必要である。これらの専用作業船の構成,機能は次項のとおりである。
【0040】
タワー式気密載荷函体を装備した函体中央型専用作業船は、台船の中央には当該函体が納まる空間を形成し、この空間を囲んで取り外し可能な当該函体のガイドタワー及びガイドタワー支承桁が台船に固定され、これに組み込まれた当該荷函体はガイドタワー内を上下動する機能を有し、且つ当該函体が納まる台船の開口空間の船底にはこれを開閉する移動式船底装置が装備されていることを特徴とする専用作業船。
【0041】
同様に、タワー式気密載荷函体を装備した函体前方型専用作業船は、当該函体の位置を台船の前方とするための吊り込み櫓が台船に固定され、前記吊り込み櫓の鉛直ガイドレールに組み込まれた当該函体は、前記ガイドレール内を上下動する機能を有し、且つ浚渫作業時に前方に偏る専用作業船の重心を水平支持に加えて鉛直支持を持たせた移動式スパッド装置により安定を保つことを特徴とする専用作業船。
【発明の効果】
【0042】
本発明の真空圧密浚渫工法は、海底土の含水比がこれの液性限界の含水比以上であれば少なくともこれを以下まで圧密する。これにより、真空圧密工法の底面開口のタワー式気密載荷函体のシンプルな装置,機能で浚渫工程における海底土の積み込みを可能とした。
【0043】
本発明の真空圧密浚渫工法は、タワー式気密載荷函体の透水性蓋を可動透水性蓋とし、透水性蓋ごと中詰海底土を押し下げる。このため浚渫工程では圧密により高密度した海底土の積み下ろしを可能とした。
【0044】
超高含水比の海底土の急速圧密において、ユニットパネルドレーン装置で中詰海底土の排水距離を極小とすることで超急速圧密実現した。
【0045】
本発明の真空圧密浚渫工法は、真空圧密工法の装置,機能を発展させることによって急速真空圧密と浚渫を一連の工程として実施する。これにより、浚渫土は圧密により減容化が図られると共に従来の浚渫のように海底土をかき乱して海水が混合された浚渫土ではなく、圧密後の強度増加,密度増加が図られた海底土がそのままの状態で浚渫土となるという効果を生み出す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】タワー式気密載荷函体1Aを海底に据付けた状態の立面図
図2】同気密載荷函体11Aの立面図
図3】同タワー式気密載荷函体1Aを海底から切り離した状態の立面図
図4】同気密載荷函体11Aの中詰海底土を積み下ろした状態の立面図
図5】タワー式気密載荷函体1Bを海底に据え付けた状態の立面図
図6】同気密載荷函体11Bの立面図
図7】気密載荷函体11Bのドレーンシステムの説明図
図8】タワー式気密載荷函体1Aを装備した函体中央型専用作業船2Cの 立面図
図9】同専用作業船2Cの台船21上面における平面図
図10】同専用作業船2Cのタワー式気密載荷函体1Aが、海底で圧密を進めている状態の立面図
図11】同専用作業船2Cの気密載荷函体11Aを海底埋立面または盛土面に据え付け中詰海底土を積み下ろした状態の立面図
図12】タワー式気密載荷函体1Aを装備した函体前方型専用作業船2Dの側面図
図13】同専用作業船2Dの立面図
図14】同専用作業船2Dの台船21上面における平面図
図15】同専用作業船2Dの気密載荷函体1Aを海底面に据え付け圧密進行状態の立面図
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の真空圧密浚渫工法の最大の特徴は、底面開口のタワー式気密載荷函体1を用いて真空圧密と浚渫を一連の工程で実施することにある。本発明のタワー式気密載荷函体1は、気密載荷函体11と函体タワー12から成る。タワー式気密載荷函体1は一体型の函体タワー12Aとタワー基部とタワー上部から成る分離型の函体タワー12Bの二種類がある。分離型の函体タワー12Bは水深の深さによってタワー上部の長さを変える。また、長尺の函体タワー12は作業船に装着するとき分離型が都合良い。当該函体11の水平断面積は正方形で、一辺は10m〜30m程度、高さは1〜2m程度である。
【0048】
本発明のタワー式気密載荷函体1及び気密載荷函体11は浚渫対象の海底土の含水比によって構造が異なる。通常含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体1A,気密載荷函体11Aと超高含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体1B,気密載荷函体11Bである。また、本発明の真空圧密浚渫工法は工事の規模によってタワー式気密載荷函体1を装着する作業船が異なる。既存のクレーン船、或いは2種類の専用作業船2である。専用作業船2はタワー式気密載荷函体1を中央に装備する函体中央型専用作業船2Cと前方に装備する函体前方型専用作業船2Dである。専用作業船2Cは浚渫土運搬をこれの函体11に中詰め状態で運搬する。当該気密載荷函体11は底面が開放されているので、専用作業船2Cは運搬時に汚濁を撒き散らかさないように移動式船底装置24が設けられている。なお、本発明のタワー式気密載荷函体1を使用する真空圧密浚渫工法の作業工程は、どの作業船も同じである。
【実施例1】
【0049】
以下本発明の通常含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体1Aの実施形態を図1図4に基づいて説明する。
図1はタワー式気密載荷函体1Aを海底に据え付けた状態の立面図、或いは圧密工程の実施状態の立面図、図2は気密載荷函体11Aの立面図、図3はタワー式気密載荷函体1Aを海底地盤から切り離した状態の立面図、図4は気密載荷函体11Aの海底中詰土を海底面に積み下ろしをした状態の立面図である。
【0050】
タワー式気密載荷函体1Aの構成は、気密載荷函体11Aと函体タワー12から成る。気密載荷函体11Aは真空タンク層111,函体隔壁112,隔室113,真空タンク室114,可動透水性蓋115Aから成る。タワー式気密載荷函体1Aの装置構成は、自動通水パイプ14,真空装置15,排水装置16,コンプレッサー17,振動装置18,自動排水装置19,可動蓋駆動装置116である。可動透水性蓋115Aの駆動方法は圧縮空気(コンプレッサー17)と可動蓋駆動装置116(複動型油圧シリンダー)の2通りがあるが、ここでは後者とした。
【0051】
タワー式気密載荷函体1Aを使用する真空圧密浚渫工法の作業工程は、まず据え付け工程で排水装置16を僅かに稼働させながら、海底土を当該函体11Aの中詰状態とする。このとき可動透水性蓋115Aは隔室113の上端にある。ここで、海底土の最表層部に浚渫対象外となるきわめて小さい比重の浮泥があれば、これを自動排水装置19で当該函体11Aの外に直接排出する。次に圧密工程は真空装置15,排水装置16を稼働させることで中詰海底土6及び海底地盤5に大気圧及び水圧の静荷重を載荷する。
急速圧密工法は静荷重載荷に並行して振動装置18を稼働させて当該函体の函体隔壁112を共振させることで、中詰海底土6には振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで急速圧密を促す。(図1,2を参照)中詰海底土6の含水比がこれの液性限界の含水比よりも大きい場合は、液性限界の含水比以下として当該函体11Aで浚渫可能な強度以上となるように圧密して強度増加を図る。
【0052】
浚渫工程における海底土の積み込みは、当該タワー式気密載荷函体1Aの真空状態を保ちながら自動通水パイプ14を開とすることでこれの底面の気密状態を解除して、当該函体1Aを引き上げ、中詰海底土6を海底地盤5から切り離す。(図3参照)中詰海底土の積み下ろしは当該函体1Aの真空状態を停止し、低い圧縮空気を送りながら、可動透水性蓋115Aを可動蓋駆動装置116で押し下げて海底中詰土6の積み下ろしを行う。(図4参照)
【実施例2】
【0053】
以下本発明の超高含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体1Bの実施形態を図5図7に基づいて説明する。浮泥は超高含水比の海底土の代表的なものである。浮泥の真空圧密での大きな課題はドレーンの目詰まりと圧密時間の長さである。
図5はタワー式気密載荷函体1Bを海底に据え付けた状態の立面図、或いは圧密工程の実施状態の立面図、図6は気密載荷函体11Bの立面図、図7は気密載荷函体11Bのドレーンシステムの説明図である。
【0054】
当該気密載荷函体11Bの基本構成及び基本作業工程は、気密載荷函体11Aとほぼ同じであるが、大きく異なるのは上下可動するユニットパネルドレーン装置13及びこれの関連にある。
タワー式気密載荷函体1Bを海底に据え付けた状態の時点では、ユニットパネルドレーン131の位置は隔室113に在る。(図5図6参照)隔室113の天端には固定透水性蓋115Bがあり、この蓋には当該ユニットパネルドレーン131が擦り抜ける複数のスリットが設けられている。ユニットパネルドレーン131の頭部は真空タンク層111に突き出ていて、この頭部はパネルドレーンホルダー132で一体的に固定され、さらにドレーン上下駆動装置133に連動されている。ここで、真空タンク層111はユニットパネルドレーン131を引き上げるのに必要な十分な高さがある。図7において、134はドレーン洗浄装置で、前記複数のスリットの列の中間位置に等間隔に設置されてある。
【0055】
急速圧密工程は図5のタワー式気密載荷函体1Bを海底に据え付けた状態から始められる。圧密工程の装置の基本的な操作はタワー式気密載荷函体1Aと同じである。当該函体1Bの真空タンク層111を真空状態とすることで静荷重の大気圧と水圧を載荷し、且つ、ユニットパネルドレーン131の固有振動に合わせて振動装置18を稼動させることでこれを共振させ、中詰海底土6には静荷重に加えて振動の動荷重による応力変動と圧力変動の両変動を伝達させることで超急速圧密を行う。
【0056】
図7は気密載荷函体11Bのドレーンシステムの説明図で、ユニットパネルドレーン131が隔室113と真空タンク層111を断続的に移動するユニットパネルドレーン装置13の立面図である。中詰海底土6の圧密進行は図7aである。圧密速度が低下したらユニットパネルドレーン131を真空タンク層111に引き上げる。この状態が図7bである。ユニットパネルドレーン131が移動する。すなわち、図7aの状態から図7bで状態である。この移動のとき、前記固定透水性蓋115Bのスリットにより圧密が進行してユニットパネルドレーン131に付着している中詰海底土6を削ぎ落とし、真空タンク層111ではドレーン洗浄装置134でユニットパネルドレーン131が洗浄される。ユニットパネルドレーン131が隔室113の位置に下がると、圧密未進行の中詰海底土6との新たな排水面ができ、圧密が進行する。この作業工程を繰り返すことにより、中詰海底土6の圧密の排水距離を常に極小距離にして急速圧密を実現する。ここで、圧密工程のユニットパネルドレーン131の上下動のサイクルタイムは数分である。
【0057】
浚渫工程における海底土の積み込みは、当該函体1Bの真空状態を保ちながら自動通水パイプ14を開とすることでこれの底面の気密状態を解除して、当該函体1Bを引き上げることで、中詰海底土6を海底から切り離す。中詰海底土6の積み下ろしは当該函体1Bの真空状態を停止し、ユニットパネルドレーン131を真空タンク層111に引き上げる。ユニットパネルドレーン131と海底中詰土6の付着強度を切り、必要に応じて振動の併用により中詰海底土6を押し出す。
【実施例3】
【0058】
本発明の函体中央型専用作業船2Cの構成は図8図9に基づいて説明する。大規模な真空圧密,浚渫及び海底盛土工の一連の工程については、図10図11に基づいて説明する。タワー式気密載荷函体1はA,Bの二種類あるがここではタワー式気密載荷函体1Aを使用した例である。
【0059】
図8は本発明のタワー式気密載荷函体1Aを装備した函体中央型専用作業船2Cの浮上時の立面図である。図9は当該専用作業船2Cの台船21上面における平面図で、タワー式気密載荷函体1Aを2基並列とした例である。
本発明の函体中央型専用作業船2Cを構成する主な構造体及び装置は、2基のタワー式気密載荷函体1A,2基のガイドタワー22,2基のガイドタワー支承桁23,4隻の台船21,4基の移動式スパッド装置3,2組の移動式船底装置24である。4隻の台船21は2基のタワー式気密載荷函体1Aが納まる空間を形成して接合一体化している。
当該専用作業船2Cは作業時においても船体重心が中央なので安定性がきわめて高い。また、気密載荷函体11Aの引き上げ高さは台船21に収納する位置までである。図8の船底装置24は閉の状態である。
【0060】
タワー式気密載荷函体1Aはガイドタワー22内を自在に上下移動する。これの移動はラックアンドピニオンシステムで実現する。函体タワー12の両側面に一対のラックを固定し、2基の函体上下駆動装置25を組み合わせる。函体上下駆動装置25は減速機付モーターの回転運動を直線運動に変換してラックに伝達する。2基の函体上下駆動装置25は同時稼動である。
【0061】
本発明の函体中央型専用作業船2Cの移動式スパッド装置3は特許文献2と同等で、専用作業船2Cの移動を自在に正確に行う装置である。移動式スパッド装置3は移動式スパッド31を4機と台船21の外周4辺に設けた軌道32から成る。
【0062】
移動式船底装置24は作業船底板241と底板支承桁242から構成される。作業船底板241は薄い箱型で半浮体構造になっている。このため、水中重量は自重と浮力が相殺されて移動における摩擦は生じない。これの移動はウインチで操作される。底板支承桁242は2本の溝形の鋼材を横に向かい合わせた形式の構造で、左右の台船21の両端まで伸ばして固定される。これの溝に作業船底板241が組み込まれる。
【0063】
図10は函体中央型専用作業船2Cのタワー式気密載荷函体1Aが、海底に据え付けられて圧密を進めている状態の立面図である。図10の移動式船底装置24は開の状態である。タワー式気密載荷函体1Aの海底据え付け工程及び圧密工程は、段落番号0051の通りである。また、浚渫工程は段落番号0052の通りである。
【0064】
図11は気密載荷函体11Aを海底埋立面、または海底盛土7の盛土面に据え付けた状態の立面図である。函体中央型専用作業船2Cによる海底盛土工程は次の通りである。
浚渫土で海底盛土7をする手段は、所要の強度に高めた浚渫土を気密載荷函体11Aに中詰め状態で海底盛土7の工区まで運搬する。そして、気密載荷函体11Aを海底盛土7の所定の位置に降下させて据え付ける。本発明の海底盛土工は中詰海底土を海中落下させることはない。これは中詰海底土の材料劣化,海水汚濁を発生させないためである。気密載荷函体11Aの盛土面における中詰海底土の抜き出し(積み下ろし)は、真空タンク層111の真空状態を停止すると共に可動蓋駆動装置116で可動透水性蓋115Aを押して中詰海底土を押し出す。本発明による浚渫土の再利用の効果は、盛土材としての強度があるので所定の盛土勾配を確保できる。必要に応じて後付けで法面防護工を行えばよい。
【0065】
大規模な圧密,浚渫及び海底盛土工事の場合は、圧密浚渫工区の工区外の近隣に浚渫土の仮置き場を確保すると良い。函体中央型専用作業船2Cを複数用意して、役割を分担させる。圧密及び浚渫と再圧密,運搬及び盛土である。圧密及び浚渫の専用作業船2Cは、気密載荷函体11Aで浚渫可能な必要最小限の圧密、すなわち、函体中詰土の含水比が液性限界よりも少し低くなる程度の圧密を実施して圧密浚渫工区の作業時間の短縮を図る。再圧密,運搬及び盛土の専用作業船2Cは函体中詰土が盛土材としての十分な強度が得られる圧密時間を確保する。これは圧密浚渫工区が船舶航行の激しい航路等の場合、圧密作業時間の短縮を図り航行の制限期間を短縮させるためである。圧密及び浚渫と再圧密,運搬及び盛土の専用作業船2Cの割合は後者が大きい。具体的な割合は後者の再圧密時間及び運搬距離等で決定される。
【0066】
浚渫対象の海底堆積土の含水比が液性限界よりも高い場合の圧密浚渫工程は次の通りである。
函体中央型専用作業船2Cは圧密終了後に直ちに浚渫の工程をとらずに対象区域全体の圧密工程を先行させる。その理由は、海底堆積土は液性限界を超えて流動化状態であるから、浚渫しても周りの海底堆積土が流入して浚渫部分を埋め戻してしまう。このため、周りの海底土の含水比も液性限界以下とする必要がある。函体中央型専用作業船2Cは圧密工程と仮置き場までの運搬工程を分業として複数隻で実施するのが好適である。
【0067】
海底堆積土が有害物質で汚染されて拡散する恐れのある場合、函体中央型専用作業船2Cによる拡散防止対策工法は次の通りである。
対策工法は圧密,浚渫,覆土の工程を経て実施される。その狙いは汚染堆積土の溶出しやすい汚染物質の除去と現位置の良質海底土による覆土である。本発明による振動圧密は有害物質の溶出を促進する。圧密工程において、堆積土の間隙水は真空タンク層111に溜まり、排水装置16で排水される。この排水には有害物質が溶出しているので汚染水浄化装置を経由して無害化する。この段階で溶出しやすい汚染物質は除去される。
【0068】
通常、汚染された海底堆積土は薄く広く分布している。また、拡散する汚染堆積土は液性限界を超えて流動化状態にある。従って、対象全区域の圧密工程を先行させる。対象全区域の圧密及び間隙水の浄化が完了したならば覆土工程に移る。覆土材は良質な浚渫土が利用できると好都合である。
【0069】
浚渫による海底面の水深管理はタワー式気密載荷函体1の底面の水準高さで実施される。タワー式気密載荷函体1の形状寸法は既知である。圧密工程終了時の函体タワー12の水準高さが確認されれば良い。函体タワー12の高さは水準測量で実施される。函体タワー12には天端からの標尺が印されているのが好適である。
【実施例4】
【0070】
函体前方型専用作業船2Dは、汎用型の専用作業船で浚渫土の運搬は土運船となる。この型の作業船は浚渫時に船体重心が前方に偏るので安定対策が必要である。当該専用作業船2Dの構成,機能は図12図14に基づいて説明する。
【0071】
図12は本発明の函体前方型専用作業船2Dでタワー式気密載荷函体1Aが浮上の状態の側面図である。図13は同専用作業船2Dの立面図である。図14は同専用作業船2Dの平面図である。図において、26は操舵棟,27は吊り込み櫓,28はウインチ,3は移動式スパッド装置で移動式スパッド31,軌道32でから成る。
【0072】
本発明の函体前方型専用作業船2Dは、気密載荷函体1の位置を台船21の前方とするための吊り込み櫓27を台船21に固定する。当該気密載荷函体1は吊り込み櫓27の鉛直ガイドレールに組み込まれ、ガイドレール内を上下動する機能を有する。また、浚渫作業時の当該専用作業船2Dは重心が前方に偏るので水平支持に加えて鉛直支持を持たせた移動式スパッド装置3で必要に応じて安定の補助をする。図14において、4基の移動式スパッド装置3うち3基を台船21前方に集中させた状態の平面図である。なお、実施例3の移動式スパッド装置3は、専用作業船2Cの移動を自在に正確に行う装置としては特許文献2と同等である。図15は同専用作業船2Dの気密載荷函体1Aを海底面に据え付け圧密進行状態の立面図である。
【0073】
本発明の函体前方型専用作業船2Dによる真空圧密,浚渫の作業操作及び工程は、タワー式載荷函体1が同じものであるから、函体中央型専用作業船2Cと同様である。ただし、海底盛土工は不向きである。当該専用作業船2Dは港湾施設の岸壁等の際などの浚渫も容易である。これに対して、函体中央型専用作業船2Cは岸壁等の際などの浚渫は不向きである。
【符号の説明】
【0074】
1 タワー式気密載荷函体
1A 通常含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体
1B 超高含水比の海底土用のタワー式気密載荷函体
11 気密載荷函体
11A 通常含水比の海底土用の気密載荷函体
11B 超高含水比の海底土用の気密載荷函体
111 真空タンク層
112 函体隔壁
113 隔室
114 真空タンク室
115 透水性蓋
115A 可動透水性蓋
115B 固定透水性蓋
116 可動蓋駆動装置
12 函体タワー
12A 一体型函体タワー
12B 分離型函体タワー
121 排気菅
122 排水菅
123 送気菅
13 ユニットパネルドレーン装置
131 ユニットパネルドレーン
132 パネルドレーンホルダー
133 ドレーン上下駆動装置
134 ドレーン洗浄装置
14 自動通水装置
15 真空装置
16 排水装置
17 コンプレッサー
18 振動装置
19 自動排水装置
2 専用作業船
2C 函体中央型専用作業船
2D 函体前方型専用作業船
21 台船
22 ガイドタワー
23 ガイドタワー支承桁
24 移動式船底装置
241 作業船底板
242 底板支承桁
25 函体上下動駆動装置
26 操舵棟
27 吊り込み櫓
28 ウインチ
3 移動式スパッド装置
31 移動式スパッド
32 軌道
4 海面
5 海底地盤
6 中詰海底土
7 海底盛土
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15