特許第6582400号(P6582400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000002
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000003
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000004
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000005
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000006
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000007
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000008
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000009
  • 特許6582400-非常用電源システム 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582400
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】非常用電源システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20190919BHJP
   H01M 2/36 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01M12/06 Z
   H01M2/36 101H
   H01M12/06 J
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-242132(P2014-242132)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-103442(P2016-103442A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 洋
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−054055(JP,A)
【文献】 特開2014−191861(JP,A)
【文献】 特表2005−527069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/36−2/40、6/24−6/52
12/00−16/00
H02J 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電気機器に電力供給可能な金属空気電池と、電解液を貯蔵する貯蔵槽を備えて前記金属空気電池に電解液を供給する供給手段と、前記電気機器に停電後に電力供給可能な蓄電部と、前記金属空気電池と前記貯蔵槽とを連通する配管と、前記貯蔵槽から当該配管を通じて前記金属空気電池に供給される電解液を閉弁状態で遮断し、開弁状態で電解液の供給を許容する開閉弁と、当該開閉弁の開閉の切り替えを制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記蓄電部の電圧が、停電発生時から一定時間以上経過し、かつ、所定の電圧値未満となった後に前記開閉弁を開弁させることで、前記金属空気電池に電解液が供給され、停電発生時から前記一定時間以上経過し、かつ、前記蓄電部の電圧が前記所定の電圧値以上の場合、前記開閉弁の閉弁状態が維持されること特徴とする非常用電源システム。
【請求項2】
前記電解液は、水を含む溶液であることを特徴とする請求項1に記載の非常用電源システム。
【請求項3】
前記金属空気電池は、複数設けられ、並列およびまたは直列に接続されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非常用電源システム。
【請求項4】
前記金属空気電池は、複数設けられ、少なくとも1つの金属空気電池に電解液を供給した後、当該金属空気電池の容量が少なくなった際に別の金属空気電池に電解液が供給されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の非常用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池によって電気機器に電力を供給することができる非常用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器にあっては、停電等の際にも稼働を継続することが要求される場合があり、かかる要求に対応すべく、電気機器に対し、非常用電源を搭載したり外付けしたりすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。この非常用電池としては、リチウムイオン電池やニッケル水素電池、鉛蓄電池等の蓄電池がよく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−189813号公報
【特許文献2】特開2008−198362号公報
【特許文献3】特開2014−191861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した蓄電池にあっては、停電が発生せずに未使用の場合でも、経年劣化等の理由により、数年で十分な電力供給ができなくなって交換する必要があった。また、災害等の非常時に長時間運転するためには、電気量を大きくする必要があり、設備投資の負担が大きくなる、という問題もあった。
【0005】
また、非常用電池として、特許文献2及び3に開示される金属空気電池が利用されている。特許文献2の金属空気電池は、電極、溶液、電解質、配線、空気拡散紙をケース又は袋に封入してなる。この金属空気電池では、使用時に電極、溶液、電解質を瞬時に反応させ、配線コードを繋ぐことで電池として機能させるようにしている。特許文献3の金属空気電池は、袋状のセパレータ内に負極が設けられ、待機状態ではセパレータ内に電解液が注入されない状態としている。
【0006】
上記の金属空気電池は、イオン伝導媒体として働く液体(溶液、電解液)を注入すると、電池容量がなくなるまで電流が流れつづけるため、停電時に1回しか使用できなくなる。そのため、瞬間的に停電或いは電圧低下(以下、「瞬停」とする)した際や、短時間の停電時に金属空気電池を使用すると、金属空気電池の交換頻度が高くなる、という問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、未使用状態で長期に亘り電力供給可能な状態にすることができる非常用電源システムを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、未使用状態で長期に亘り電力供給可能な状態にすることができ、また、瞬停状態へも対応することができる非常用電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非常用電源システムは、所定の電気機器に電力供給可能な金属空気電池と、当該金属空気電池に電解液を供給する供給手段とを有することを特徴とする。電解液の供給手段としては、電解液を貯蔵する貯蔵槽と、金属空気電池と貯蔵槽を連通する配管とがある。
【0010】
この構成によれば、金属空気電池を利用しているので、未使用つまり電解液を供給しない状態であれば、上述した蓄電池に比べ、十分な電力を供給可能な状態に長期間維持することができる。しかも、電力供給時には、上述した蓄電池に比べ、エネルギー密度を高めることができ、電力供給時間を長くしたり、電気量を増大したりすることができ、設備上の負担軽減を図ることができる。
【0011】
更に、本発明の非常用電源システムは、所定の電気機器に電力供給可能な金属空気電池と、電解液を貯蔵する貯蔵槽を備えて前記金属空気電池に電解液を供給する供給手段と、前記電気機器に停電後に電力供給可能な蓄電部と、前記金属空気電池と前記貯蔵槽とを連通する配管と、前記貯蔵槽から当該配管を通じて前記金属空気電池に供給される電解液を閉弁状態で遮断し、開弁状態で電解液の供給を許容する開閉弁と、当該開閉弁の開閉の切り替えを制御する制御手段とを有し、前記制御手段は、前記蓄電部の電圧が、停電発生時から一定時間以上経過し、かつ、所定の電圧値未満となった後に前記開閉弁を開弁させることで、前記金属空気電池に電解液が供給され、停電発生時から前記一定時間以上経過し、かつ、前記蓄電部の電圧が前記所定の電圧値以上の場合、前記開閉弁の閉弁状態が維持されること特徴とする。蓄電部は、一次電池または二次電池、コンデンサ等から構成される。
【0012】
この構成によれば、金属空気電池と蓄電部とを組み合わせて利用するので、瞬停や短時間の停電時に、金属空気電池に電解液を供給せずに蓄電部から電気機器に電力供給することができる。従って、瞬停時等では金属空気電池が発電せず、金属空気電池の使用機会を少なくすることができる。これにより、金属空気電池の交換頻度を抑制することができ、しかも、金属空気電池は保持劣化を回避できるので、メンテナンスコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属空気電池を未使用状態で長期に亘り電力供給可能な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の参考例に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図2】第2の参考例に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図3】第3の参考例に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図4】第4の参考例に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図5】第の実施の形態に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図6】第の実施の形態に係る制御手段の機能ブロック図である。
図7】非常用電源システムからの電力供給の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】第の実施の形態に係る非常用電源システムの構成を示す概略図である。
図9】非常用電源システムからの電力供給の流れの他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、参考例を説明した後、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。ここで、「停電」とは、電気機器への電力供給が完全に停止する場合の他、電気機器へ供給される電力の電圧値が極めて低い状態を含む。
【0016】
[第1の参考例
図1は、第1の参考例に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。図1に示すように、第1の参考例に係る非常用電源システム10は、台風や落雷などの自然災害や、突発的な事故による停電時において、電気機器1に対し通電して電力を供給可能に設けられている。非常用電源システム10は、電気機器1とは別体とされて電気機器1の外部に配設される、いわゆる外付けタイプとされる。電気機器1としては、空調設備や自動販売機、サーバ設備の他、これらを含むデータセンターや照明機器、信号機等を例示することができ、不図示の商用電源等によって稼働するものである。
【0017】
非常用電源システム10は、金属空気電池12と、電解液を供給する供給手段30とを備えている。金属空気電池12は、所定の容器内に設けられた正極及び負極を含み、常時は、電解液が注入されていない待機状態とされる。金属空気電池12では、電解液が供給されることで、マグネシウムや亜鉛等の金属からなる負極から電子が放出される。正極では、負極から流れる電子が大気中の酸素によって受け取られる。これにより、金属空気電池12は、電解液の供給によって、待機状態から発電状態に切り換わる。
【0018】
発電状態において、金属空気電池12では、正極において大気中の酸素を利用するので、正極の反応に電解液が不要となって正極での反応物質の重量を理論上ゼロにできる。これにより、鉛蓄電池等の二次電池に比べ、電解液の重量を実質半分にすることができ、エネルギー密度を向上させることができる。また、待機状態では、電解液と電極とは非接触となるので、一次電池や二次電池のような劣化や自己放電をなくすことができる。
【0019】
ここで、金属空気電池12に注入される電解液は、負極での化学反応を起こす物質であればよく、水や水を含む溶液等からなる。水を含む溶液としては、塩水、水道水、雨水、河川水、池の水、泥水、汚水、市水、井戸水、工業用水、海水、清涼飲料水、果汁、純水、尿等を例示することができる。従って、非常時等で、物資が乏しい場合でも、金属空気電池12から容易に電力供給させることができる。
【0020】
金属空気電池12は、非常用配線16を介して電気機器1の電源2に接続されている。金属空気電池12は、上述した発電状態とすることで、非常用配線16を通じて電気機器1に電力を供給可能となっている。
【0021】
供給手段30は、電解液を貯蔵する貯蔵槽32と、貯蔵槽32と金属空気電池12とを連通する配管34と、配管34に設けられた開閉弁36とを含んで構成される。
【0022】
開閉弁36は、貯蔵槽32から配管34を通じて金属空気電池12に供給される電解液を閉弁状態で遮断し、開弁状態で電解液の供給を許容するものである。開閉弁36は、電磁弁またはアクチュエータを含む構成とされ、配線38を介して電気機器1の電源2と電気的に接続されて電気駆動可能に設けられる。開閉弁36は、常時は配線38を介して電源2と通電された状態とされ、この通電によって閉弁状態を維持する。一方、開閉弁36は、電源2との通電が切断されると、閉弁状態から開弁状態に切り換わる。
【0023】
ここで、貯蔵槽32は、金属空気電池12より上方に配設されることが好ましい。これにより、開閉弁36の開弁状態で、電解液が自重で金属空気電池12に流れ込むようになる。その結果、ポンプ等の動力を利用することなく電解液を貯蔵槽32から金属空気電池12に供給でき、ひいては、非常用電源システム10の構成の簡略化、コストダウンを図ることができる。なお、本発明の供給手段30において、ポンプ等の動力を利用して電解液を供給することを妨げるものでない。
【0024】
以上の構成において、通常時には、電気機器1の電源2に対し、不図示の商用電源等から電力が供給され、電源2から配線38を介して開閉弁36に通電される。従って、通常時は、開閉弁36が閉弁状態となり、貯蔵槽32から金属空気電池12へ電解液は供給されない。
【0025】
この一方、停電時には、電源2から開閉弁36への通電が切断されて開閉弁36が開弁状態となる。これにより、貯蔵槽32内の電解液が配管34を通じて金属空気電池12に供給され、金属空気電池12が発電状態になる。この発電によって、金属空気電池12から非常用配線16を通じて電源2に電力が供給され、電気機器1の稼働を継続させることができる。
【0026】
このように、第1の参考例によれば、以下に述べる作用効果を奏する。通常時には、金属空気電池12に電解液が未供給の待機状態となり、金属空気電池12が劣化することを回避することができる。これにより、蓄電池に比べ、電力を供給可能な状態を長期に亘って維持することができる。また、金属空気電池12によって電力供給するので、蓄電池に比べてエネルギー密度を高めることができ、軽量化、コンパクト化を図りつつ、電気容量を増大させることができる。
【0027】
しかも、第1の参考例では、非常用電源システム10の供給手段30が貯蔵槽32を有し、開閉弁36を介して電解液を供給するので、停電時に金属空気電池12を自動的に発電状態にすることができる。従って、停電後に、電気機器1に速やかに電力供給でき、電気機器1の稼働停止時間を短縮することができる。
【0028】
次に、本発明の前記以外の参考例及び実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、説明する参考例や実施の形態より前に記載された参考例や実施の形態と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いる場合があり、説明を省略若しくは簡略にする場合がある。
【0029】
[第2の参考例
図2は、第2の参考例に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。図2に示すように、第2の参考例に係る非常用電源システム10は、電気機器1の内部に搭載されて電気機器1に含まれる構成となる、いわゆる内蔵タイプとされる。第2の参考例に係る非常用電源システム10は、第1の参考例と同様の供給手段30を採用して構成されている。従って、第2の参考例においても、第1の参考例と同様の作用効果を奏することができる。しかも、第2の参考例では、電気機器1に非常用電源システム10が搭載されるので、設置作業の簡略化等の利便性を得ることができる。
【0030】
なお、第1及び第2の参考例においては、開閉弁36を手動で開閉するタイプのものに変更してもよい。この場合、停電しているか否かを人によって確認し、その人の判断において開閉弁36を手動操作して開弁し、貯蔵槽32の電解液が金属空気電池12に供給される。これにより、停電によって電気機器1の稼働が停止しても支障がない場合は、金属空気電池12の発電を行わなくてよくなり、金属空気電池12が無駄に消費されることを回避することができる。
【0031】
[第3の参考例
図3は、第3の参考例に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。非常用電源システム10は、電気機器1とは別体とされて電気機器1の外部に配設される、いわゆる外付けタイプとされる。非常用電源システム10は、金属空気電池12と、供給手段の一部としての配管14とを備えている。
【0032】
金属空気電池12は、非常用配線16を介して電気機器1の電源2に接続されている。金属空気電池12は、上述した発電状態とすることで、非常用配線16を通じて電気機器1に電力を供給可能となっている。
【0033】
配管14は、一方の端部が金属空気電池12に接続されている。また、配管14の他方の端部は、電解液が貯蔵された貯蔵槽20に接続可能に設けられている。貯蔵槽20は、非常用電源システム10とは別の構成とされ、停電時に、非常用電源システム10を構成する筐体等の外部で配管14に接続される。
【0034】
以上の構成において、通常時には、電気機器1に対し、不図示の商用電源等から電力が供給される。この一方、商用電源等の停電後には、非常用電源システム10の外部において、作業者等によって貯蔵槽20を配管14に接続する。これにより、貯蔵槽20内の電解液が配管14を通じて金属空気電池12に供給され、金属空気電池12が発電状態になる。この発電によって、金属空気電池12から非常用配線16を通じて電気機器1に電力が供給され、電気機器1の稼働を継続させることができる。
【0035】
[第4の参考例
図4は、第4の参考例に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。図4に示すように、第4の参考例に係る非常用電源システム10は、電気機器1の内部に搭載されて電気機器1に含まれる構成となる、いわゆる内蔵タイプとされる。非常用電源システム10は、金属空気電池12と、供給手段の一部としての配管14とを備えている。金属空気電池12は、電気機器1の内部において非常用配線16を介し、電気機器1の電源2に接続されている。
【0036】
配管14は、一方の端部が金属空気電池12に接続され、他方の端部が、非常用電源システム10及び電気機器1の外部の貯蔵槽20に接続可能に設けられている。
【0037】
第4の参考例において、停電時には、第3の参考例と同様にして、金属空気電池12から電気機器1の電源2に電力が供給される。従って、第4の参考例によっても、第3の参考例と同様の作用効果を奏する。しかも、第4の参考例では、電気機器1に非常用電源システム10が搭載されるので、設置作業の簡略化等の利便性を得ることができる。
【0038】
[第の実施の形態]
図5は、第の実施の形態に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。図5に示すように、第の実施の形態に係る非常用電源システム10は、台風や落雷などの自然災害や、突発的な事故による停電時において、電気機器1に対し通電して電力を供給可能に設けられている。非常用電源システム10は、電気機器1とは別体とされて電気機器1の外部に配設される、いわゆる外付けタイプとされる。電気機器1としては、空調設備や自動販売機、サーバ設備の他、これらを含むデータセンターや照明機器、信号機等を例示することができ、不図示の商用電源等によって稼働するものである。
【0039】
非常用電源システム10は、金属空気電池12と、供給手段30と、蓄電部50と、制御手段60とを備えている。金属空気電池12は、所定の容器内に設けられた正極及び負極を含み、常時は、電解液が注入されていない待機状態とされる。金属空気電池12では、電解液が供給されることで、マグネシウムや亜鉛等の金属からなる負極から電子が放出される。正極では、負極から流れる電子が大気中の酸素によって受け取られる。これにより、金属空気電池12は、電解液の供給によって、待機状態から発電状態に切り換わる。
【0040】
発電状態において、金属空気電池12では、正極において大気中の酸素を利用するので、正極の反応に電解液が不要となって正極での反応物質の重量を理論上ゼロにできる。これにより、鉛蓄電池等の二次電池に比べ、電解液の重量を実質半分にすることができ、エネルギー密度を向上させることができる。また、待機状態では、電解液と電極とは非接触となるので、一次電池や二次電池のような劣化や自己放電をなくすことができる。
【0041】
ここで、金属空気電池12に注入される電解液は、負極での化学反応を起こす物質であればよく、水や水を含む溶液等からなる。水を含む溶液としては、塩水、水道水、雨水、河川水、池の水、泥水、汚水、市水、井戸水、工業用水、海水、清涼飲料水、果汁、純水、尿等を例示することができる。従って、非常時等で、物資が乏しい場合でも、金属空気電池12から容易に電力供給させることができる。
【0042】
供給手段30は、電解液を貯蔵する貯蔵槽32と、貯蔵槽32と金属空気電池12とを連通する配管34と、配管34に設けられた開閉弁36とを含んで構成される。
【0043】
開閉弁36は、貯蔵槽32から配管34を通じて金属空気電池12に供給される電解液を閉弁状態で遮断し、開弁状態で電解液の供給を許容するものである。開閉弁36は、電磁弁またはアクチュエータを含む構成とされ、配線42を介して制御手段60と電気的に接続されて電気駆動可能に設けられる。開閉弁36は、制御手段60によって開閉の切り換えが制御され、常時は閉弁状態を維持する一方、後述する条件下において、閉弁状態から開弁状態に切り換わるよう制御される。
【0044】
ここで、貯蔵槽32は、金属空気電池12より上方に配設されることが好ましい。これにより、開閉弁36の開弁状態で、電解液が自重で金属空気電池12に流れ込むようになる。その結果、ポンプ等の動力を利用することなく電解液を貯蔵槽32から金属空気電池12に供給でき、ひいては、非常用電源システム10の構成の簡略化、コストダウンを図ることができる。なお、本発明の供給手段30において、ポンプ等の動力を利用して電解液を供給することを妨げるものでない。
【0045】
蓄電部50は、本実施の形態では、リチウムイオン電池、鉛電池、ニッケル水素電池、キャパシタ等の再充電可能な二次電池、コンデンサ等が用いられる。蓄電部50は、配線52を介して制御手段60と電気的に接続され、停電時に、制御手段60に電力供給可能となっている。また、蓄電部50は、配線54を介して電気機器1の電源2と電気的に接続されている。この接続によって、通常時は、電源2から蓄電部50に電力が供給され、蓄電部50が充電され、停電時には、蓄電部50から電源2に対し、電気機器1を稼働するための電力を供給可能に設けられている。
【0046】
ここで、蓄電部50と電気機器1の電源2とを接続する配線54には、非常用配線56が接続され、この非常用配線56は、金属空気電池12に接続されている。非常用配線56を通じ、上述した発電状態の金属空気電池12から電源2及び蓄電部50に電力を供給可能となっている。
【0047】
制御手段60は、配線58を介して電気機器1の電源2と電気的に接続されている。
【0048】
次いで、制御手段60の機能について説明する。図6は、制御手段の機能ブロック図である。図6に示すように、制御手段60は、電力輸送部61、電圧測定部62、停電検出部63、タイマー部64及び判定部65を有する。電圧測定部62の他に、電流測定部を用いる場合もある。また、電圧と電流を測定し、測定値から算出した電力値を用いて制御する場合もある。電力輸送部61は、配線58,52を通じて供給される電源2及び蓄電部50からの電力を開閉弁36に輸送する機能を備えた回路からなる。電圧測定部62は、配線52を介して蓄電部50から供給される電力の電圧値を測定する機能を備えた測定器からなる。停電検出部63は、電源2から供給される電力を検出し、不図示の商用電源において停電が発生しているか否かを検出する。タイマー部64は、所定のタイミングにおける時間を測定する。判定部65は、電圧測定部62、タイマー部64の測定結果を所定の閾値と比較し、その比較結果に基づいて電力輸送部61における電力輸送の切換制御を行う機能を有する。
【0049】
以上の構成において、通常時には、電気機器1に対し、不図示の商用電源等から電力が供給される。この一方、商用電源等の停電時には、非常用電源システム10から電力が供給される。非常用電源システム10からの電力供給は、以下に述べる流れによって行われる。図7は、非常用電源システム10からの電力供給の流れの一例を示すフローチャートである。
【0050】
図7に示すように、電力機器1での停電が発生すると、蓄電部50から電源2及び制御手段60への電力供給が開始される(ステップ(以下、「ST」という)101)。また、停電の発生によって、電源2から制御手段60への電力供給が停止され、その電力を停電検出部63で検出することで、停電の発生が検出される(ST102)。停電検出部63で停電の発生が検出されたタイミングにおいて、タイマー部64による時間測定が開始される(ST103)。更に、電圧測定部62においては、蓄電部50から供給される電力の電圧値Vの測定が開始される(ST104)。
【0051】
ST104において測定された電圧値Vは、判定部65において、閾値となる電圧値Vaと比較される(ST105)。この閾値となる電圧値Vaは、蓄電部50の電気容量に対応して設定されるものであり、電気容量が所定割合より小さくなって電気機器1を動作させるには不十分となる境界値若しくはこれに近似する値とされる。ST105の比較において、測定された電圧値Vが閾値となる電圧値Va未満である場合(ST105:YES)、判定部65において、タイマー部64による測定時間Tが閾値となる時間Taと比較される(ST106)。閾値となる時間Taは、電圧値Vの低下が継続されて停電が復旧する可能性が低い状態となる期間とされる。従って、ST106の比較において、測定された時間Tが閾値となる時間Ta未満である場合(ST105:NO)、ST105の電圧値V,Vaの比較が繰り返される。
【0052】
ST106の比較において、測定された時間Tが閾値となる時間Ta以上となる場合(ST106:YES)、判定部65によって開閉弁36が制御されて閉弁状態から開弁状態とされる(ST107)。これにより、貯蔵槽32内の電解液が配管34を通じて金属空気電池12に供給され(ST108)、金属空気電池12が発電状態になる。この発電によって、金属空気電池12から非常用配線56を通じて電源2及び蓄電部50の両方に電力が供給され、電気機器1の稼働を継続させることができる。
【0053】
なお、金属空気電池12からの電力の供給先は、電源2及び蓄電部50の何れか一方としてもよい。金属空気電池12から蓄電部50だけに電力供給される場合には、充電された蓄電部50から電源2に対し、電力が供給される。
【0054】
このように、第の実施の形態では、金属空気電池12に電解液を供給して発電状態にする前に、蓄電部50から電気機器1に電力供給することができる。そして、蓄電部50からの電力供給を開始した後、蓄電部50の電圧値が上記電圧値Va以上となれば、開閉弁36の閉弁状態を維持し、金属空気電池12に電解液を供給しないようにして電気機器1を商用電源にて通常に稼働させることができる。これにより、商用電源での瞬停や短時間の停電では、金属空気電池12を未使用とすることができ、金属空気電池12の交換頻度を少なくすることができ、メンテナンスコストを抑えることができる。
【0055】
また、第の実施の形態によれば、以下に述べる作用効果を奏する。通常時には、金属空気電池12に電解液が未供給の待機状態となり、金属空気電池12が劣化することを回避することができる。これにより、金属空気電池12にあっては、電力を供給可能な状態を長期に亘って維持することができる。また、蓄電部50の電気容量が減少した場合、金属空気電池12によって電力供給可能としたので、エネルギー密度を高めることができ、軽量化、コンパクト化を図りつつ、電気容量を増大させることができる。
【0056】
しかも、第の実施の形態では、非常用電源システム10の供給手段30が貯蔵槽32を有し、開閉弁36を介して電解液を供給するので、停電時に金属空気電池12を自動的に発電状態にすることができる。
【0057】
[第の実施の形態]
図8は、第の実施の形態に係る非常用電源システムを示す概略構成図である。図8に示すように、第の実施の形態に係る非常用電源システム10は、電気機器1の内部に搭載されて電気機器1に含まれる構成となる、いわゆる内蔵タイプとされる。第の実施の形態に係る非常用電源システム10は、第の実施の形態に係る非常用電源システム10と設置位置が異なる点以外は、同様の構成とされる。従って、第の実施の形態においても、第の実施の形態と同様の作用効果を奏することができ、且つ、電気機器1に非常用電源システム10が搭載されるので、設置作業の簡略化等の利便性を得ることができる。
【0058】
なお、第及び第の実施の形態においては、開閉弁36を手動で開閉するタイプのものに変更してもよい。この場合、停電しているか否かを人によって確認し、その人の判断において開閉弁36を手動操作して開弁し、貯蔵槽32の電解液が金属空気電池12に供給される。これにより、停電によって電気機器1の稼働が停止しても支障がない場合は、金属空気電池12の発電を行わなくてよくなり、金属空気電池12が無駄に消費されることを回避することができる。
【0059】
本発明は上記実施の形態に限定されず種々変更して実施することが可能である。また、上記実施の形態で説明した数値、寸法、材質、方向については特に制限はない。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【0060】
例えば、非常用電源システム10からの電力供給は、図9に示す流れによって行ってもよい。図9は、非常用電源システムからの電力供給の流れの他の一例を示すフローチャートである。
【0061】
図9のフローチャートでは、図7のフローチャートで説明した流れと同様に、ST101〜103を行う。ST103の後、判定部65において、停電が発生してからタイマー部64による測定時間Tが閾値となる時間Tbと比較される(ST201)。閾値となる時間Tbは、停電が発生してから電気機器1が非稼働状態として許容し得る最長期間とされる。従って、ST201の比較において、測定された時間Tが閾値となる時間Tb未満である場合(ST201:NO)、開閉弁36は閉弁状態が維持され、蓄電部50から電源2及び制御手段60への電力供給が継続された状態となる。
【0062】
ST201の比較において、測定された時間Tが閾値となる時間Tb以上となる場合(ST201:YES)、ST107,108が行われ、金属空気電池12からの電力供給によって、電気機器1の稼働が継続される。このような電力供給の流れによれば、停電発生から一定時間となる時間Tbが経過した後に開閉弁36が開弁されるので、その時間Tbの経過前に、手作業等によって電気機器1の電源2を復旧させる時間を稼ぐことができる。従って、この流れによっても、瞬停や短時間の停電では金属空気電池12を未使用とすることができ、金属空気電池12の交換頻度を少なくすることができる。
【0063】
また、第及び第の実施の形態において、蓄電部50は、再充電可能な二次電池の他、乾電池などの一次電池としてもよい。蓄電部50を一次電池とした場合、電源2や金属空気電池12からの電力供給は行われず、蓄電部50の電気容量や出力電圧が所定値未満となった場合には交換となる。
【0064】
また、第の実施の形態において、蓄電部50や制御手段60が電気機器1に内蔵される構成に変更してもよい。
【0065】
また、金属空気電池12は、1体に限られるものでなく複数設けてもよい。複数の金属空気電池12は、出力電圧や電気容量に応じ、並列接続だけとしたり、直列接続だけとしたり、並列接続及び直列接続を両方とも採用したりしてもよい。
【0066】
また、金属空気電池12を複数設け、少なくとも1つの金属空気電池12に電解液を供給してから所定時間経過後、所定条件下で別の金属空気電池12に電解液の供給を開始するようにしてもよい。上記所定条件としては、電力供給中の金属空気電池12の電圧や電流、発電時間等を測定し、この測定結果を所定の閾値と比較して金属空気電池12の容量が所定値より少なくなる条件を例示することができる。これにより、金属空気電池12から供給される電力を所定範囲内で長期間維持することができる。
【0067】
また、供給手段30は、金属空気電池12に電解液を供給できる限りにおいて、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、未使用状態で長期に亘り電力供給可能な状態を維持しつつ、電池容量を増大させることができ、例えば、工業用、業務用に用いられる電気機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 電気機器
2 電源
10 非常用電源システム
12 金属空気電池
14 配管
20 貯蔵槽
30 供給手段
32 貯蔵槽
34 配管
36 開閉弁
50 蓄電部
60 制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9