(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、軸受装置としては、特開平5−290769号(特許文献1)に記載されているものがある。この軸受装置は、X線管に搭載されている。この軸受装置は、ガラスハウジングと、陽極部と、陰極と、中間筒状部と、一対の軸受と、与圧バネと、スペーサと、封止体と、与圧バネとを備える。
【0003】
陰極および陽極部の夫々は、ガラスハウジング内に配置されている。陰極は、ガラスハウジングに対して静止している。一方、陽極部は、一体構造を有し、円筒部と、回転軸と、陽極とを有する。回転軸は、円筒部の径方向の内方に位置している。回転軸は、円筒部の中心軸上を延在している。回転軸と、円筒部とは、回転軸の軸方向の一方側で円板状の段部により連結されている。
【0004】
陽極は、皿状の形状を有している。陽極は、上記円板状の段部の回転軸の軸方向の一方側に固定されている。陰極は、回転軸の軸方向からみたとき、陽極に重なっている。中間筒状部は、円筒部と、回転軸との間に配置されている。中間筒状体は、環状の封止体によってガラスハウジングに係止されている。一対の軸受は、中間筒状部を、回転軸に対して回動自在に支持している。
【0005】
与圧バネは、回転軸の外周面と、中間筒状体の内周面との間に配置されている。また、スペーサは、一方の軸受に軸方向に当接するように配置されている。与圧バネおよびスペーサで、軸受の隙間や与圧を調整している。このようにして、軸受隙間が大きい場合に生じる振動を抑制している。
【0006】
このX線管は、磁場発生器を有する。磁場発生器は、ガラスハウジングの外部でかつ円筒部の径方向の外方側に配置されている。磁場発生器は、円筒部に径方向に重なっている。磁場発生器が駆動すると、円筒部が回動し、皿状の陽極が回転するようになっている。また、磁場発生器が駆動すると、陰極と陽極との間に120[KV]程度の電圧が印加され、陰極から出た熱電子が陽極に衝突し、陽極からX線が発生するようになっている。このX線管用軸受装置は、ターゲットである陽極が高速回転する構造になっており、熱電子と衝突して高温になる部分が常に移動する。このようにして、熱電子と衝突する陽極の面積を増大させて、大きな管電流を流せるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のX線管用軸受装置に関し、本発明者は以下の課題を見出した。
【0009】
すなわち、上記隙間や与圧を調整するスペーサが、連れ回りを起こすことがあり、この連れ回りに起因して、大きな騒音が発生することがある。
【0010】
ここで、スペーサに穴を開けると共に、軸受の外周面に軸方向に延在する溝を形成した上で、圧入ピンを上記穴および上記溝に収容すると、軸受の外輪に対するスペーサの相対回転を抑制できる。
【0011】
しかし、この場合においても、圧入ピンとスペーサの穴との締め代が大きいと、ピンやスペーサが湾曲して、隙間や与圧を適切に調整できない場合がある。一方、上記締め代が小さいと連れ回りを防止する効果が得られないことがある。
【0012】
そこで、本発明の課題は、スペーサで与圧や隙間を適切に調整でき、かつ、スペーサの連れ回りを抑制できて、異音の発生を抑制できる軸受装置
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、この発明の軸受装置
の製造方法は
外周面にその外周面の軸方向に延在する溝を有する転がり軸受と、
上記転がり軸受の上記軸方向の片側の端面に当接すると共に、上記軸方向に延在する貫通穴を有するスペーサと、
上記スペーサの上記貫通穴を貫通すると共に、一方の端部が上記溝に収容されている一体のピンとを備え、
上記ピンは、金属製の本体部と、上記本体部の外周面を被覆すると共に、上記本体部よりも硬度が低い軟質金属からなる軟質金属膜とを有
し、
上記ピンは、円柱状であり、
上記貫通穴は、円筒穴であり、
上記本体部の上記外周面の外径は、上記貫通穴の内径よりも小さく、かつ、上記ピンは上記貫通穴に圧入されている軸受装置の製造方法であって、
上記ピンの外径は、そのピンを貫通穴に圧入する前の状態で、上記貫通穴の内周面の内径よりも大きくなっていて、
上記ピンを上記貫通穴に圧入して、上記ピンの軟質金属膜の締め代に対応する部分を上記貫通穴の内周面で剥がすことを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、ピンが、金属製の本体部と、本体部の外周面を被覆すると共に、上記本体部よりも硬度が低い軟質金属からなる軟質金属膜とを有する。ここで、軟質金属膜は、剥がれ易いから、スペーサの貫通穴にピンを挿入するときに、余剰な軟質金属膜の一部分を剥がすことができる。したがって、スペーサの貫通穴にピンを圧入する際に、過大な力がスペーサおよびピンにかかることがないから、スペーサやピンの変形を抑制できる。したがって、スペーサで適切に与圧や隙間を調整できる。
【0015】
また、本発明によれば、ピンの外周側の部分が、軟質金属膜で構成されているから、ピンの断面の外接円の径がスペーサの貫通穴の断面の外接円の径よりも大きい場合であっても、ピンの圧入時に余剰な軟質金属膜の一部分を剥がすことができて、圧入に要する力を低減できる。したがって、圧入前のピンの外径を、ピンをスペーサの貫通穴に適切に固定するのに十分な大きさにできるから、スペーサとピンとの間に隙間が生成することを抑制できて、スペーサの連れ回りを適切に抑制できる。
【0017】
本発明によれば、ピンにおいて硬度が高い本体部の外径が、貫通穴の内径よりも小さいから、スペーサの貫通穴へのピンの圧入を容易におこなうことができて、ピンおよびスペーサの変形を適切に抑制できる。
【0018】
また、
本発明によれば、
上記ピンの外径は、そのピンを貫通穴に圧入する前の状態で、上記貫通穴の内周面の内径よりも大きくなっているから、軟質金属膜の外周面が、上記貫通穴の内周面に接触
し、スペーサの連れ回りも適切に抑制できる。
【0019】
また、一実施形態では、
上記軟質金属膜は、銀のメッキ膜からなるか、または、鉛のメッキ膜からなる。
【0020】
上記実施形態によれば、軟質金属膜の本体部への被覆(コーティング)を容易に行うことができる。
【0021】
また、上記実施形態によれば、スペーサの貫通穴へのピンの圧入の際に、軟質金属膜において穴から押し出された部分を、スペーサの周辺に位置させることができる。そして、この穴から押し出された軟質金属膜の一部を、緩衝材として使用できて、その一部で衝撃を吸収できる。したがって、フレッチング等の不具合が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スペーサの連れ回りを抑制できて、異音の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態のX線管の軸方向の断面図である。
【0026】
図1に示すように、このX線管は、X線管用軸受装置(以下、単に、軸受装置という)と、磁気発生器とを備え、軸受装置は、管球容器を構成するガラスハウジング1と、駆動モータロータとしてのカップ状部2と、陽極ターゲット3と、回転軸4と、陽極固定部5と、第1および第2玉軸受6,7と、陰極8と、封止体9とを有する。
【0027】
カップ状部2は、一体部材であり、円筒部21と、蓋部22とを有する。蓋部22は、円筒部21の片側の開口を塞いでいる。陽極ターゲット3は、蓋部22の円筒部21側とは反対側に結合されている。回転軸4は、円筒部21の内部に位置する。回転軸4は、円筒部21に円筒部21の径方向に間隔をおいて位置している。
【0028】
陽極固定部5は、一体部材である。陽極固定部5は、円筒部58と、蓋部59とを有する。蓋部59は、円筒部58の片側の開口を塞いでいる。陽極固定部5の蓋部59は、回転軸4の軸方向の陽極ターゲット3側とは反対側に位置している。陽極固定部5の円筒部58は、カップ状部2の円筒部21と、回転軸4との間に位置している。陽極固定部5の円筒部58は、回転軸4を収容している。
【0029】
第1玉軸受6は、陽極固定部5の円筒部58の軸方向の一方側で、陽極固定部5の円筒部58を回転軸4に対して回転自在に支持し、第2玉軸受7は、陽極固定部5の円筒部58の軸方向の他方側で、陽極固定部5の円筒部58を回転軸4に対して回転自在に支持している。
【0030】
封止体9は、環状部材である。封止体9は、ガラスハウジング1と、陽極固定部5の蓋部59との間を封止している。ガラスハウジング1、陽極固定部5の蓋部59および封止体9は、密封室を画定している。密封室内は、真空となっている。陽極固定部5と、ガラスハウジング1とは、回転軸4等で構成されている一体の回転体を、真空中に保持している。
【0031】
陰極8を、陽極ターゲット3に対応するように配置している。陰極8はガラスハウジング1内に位置している。陰極8は、ガラスハウジング1に固定されている。
図1に示すように、磁気発生部60を、ガラスハウジング1の外部に配置している。磁気発生部60は、カップ状部2の円筒部21にその円筒部21に径方向に重なっている。
【0032】
上記構成において、磁界発生器が駆動されると、カップ状部2が回動するようになっており、陽極ターゲット3と、陰極8の間に高電圧が印加されるようになっている。すると、熱電子が陰極8から陽極ターゲット3に高速で移動する。そして、高速の熱電子が、陽極ターゲット3に衝突して、X線が発生するようになっている。
【0033】
また、カップ状部2が回動することにより、陽極ターゲット3が高速回転するから、熱電子と衝突して高温になる部分が常に移動するようになっている。このようにして、熱電子と衝突する陽極ターゲット3の面積を増大させて、大きな電流を流せるようにしている。
【0034】
図2は、軸受装置の回転軸4付近を示す模式部分断面図である。
【0035】
図2に示すように、回転軸4は、その軸方向の一方側に第1軌道溝41を有し、軸方向の他方側に第2軌道溝42を有する。また、第1玉軸受6は、一方側外輪61と、複数の第1の玉62と、第1軌道溝41とを有する。第1玉軸受6は、アンギュラ型の玉軸受である。
図2に示すように、一方側外輪61は、アンギュラ型の軌道溝64を有している。このアンギュラ型の軌道溝64の内径は、軸方向の一方側に行くにしたがって大きくなっている。複数の第1の玉62は、一方側外輪61の軌道溝64と、第1軌道溝41との間に配置されている。
【0036】
第2玉軸受7は、他方側外輪71と、複数の第2の玉72と、第2軌道溝42とを有する。第2玉軸受7は、アンギュラ型の玉軸受である。
図2に示すように、他方側外輪71は、アンギュラ型の軌道溝74を有している。このアンギュラ型の軌道溝74の内径は、軸方向の他方側に行くにしたがって大きくなっている。複数の第2の玉72は、他方側外輪71の軌道溝74と、第2軌道溝42との間に配置されている。
【0037】
図2に示すように、この軸受装置は、ばね収容部材80と、与圧ばね81と、ばね受止部材82と、スペーサの一例としてのC型スペーサ89とを有する。ばね収容部材80は、筒状の部材である。ばね収容部材80は、回転軸4に外嵌されている。ばね収容部材80は、小径筒状部90と、大径筒状部91とを有する。小径筒状部90と、大径筒状部91とは、径方向に延在する段部93を介して連なっている。小径筒状部90の大径筒状部91側とは反対側の端部は、他方側外輪71の軸方向の一方側の端面に接触している。
【0038】
図2に示すように、小径筒状部91の内周面の内径は、回転軸4の外周面の外径よりも若干大きくなっている。小径筒状部91の内周面は、回転軸4の外周面に対して径方向に僅かな隙間を介して対向している。与圧ばね81は、コイル状ばねである。与圧ばね81は、大径筒状部91の内周面と、回転軸4の外周面との間に配置されている。与圧ばね81の軸方向の他方側の端部は、段部93に接触している。
【0039】
ばね受止部材82は、筒状部96と、フランジ部97とを有する。フランジ部97は、筒状部96の軸方向の他方側の端部から径方向の外方側に延在している。上記フランジ部97は、与圧ばね81の一方側の端部に接触している。
【0040】
C型スペーサ83は、軸方向において、第1玉軸受6と、ばね受止部材82との間に配置されている。C型スペーサ83の軸方向の一方側の端面が、一方側外輪61の軸方向の他方側の端部に接触している一方、C型スペーサ83の軸方向の他方側の端面は、ばね受止部材82の筒状部96におけるフランジ部97側とは反対側の端部に接触している。ばね受止部材82およびC型スペーサ83は、与圧ばね81から直接的に第1玉軸受6に与圧が付与されることで、第1玉軸受6の挙動が不安定になることを防止している。ばね受止部材82およびC型スペーサ83は、軸方向の寸法を調整する役割も担っている。
【0041】
与圧ばね81は、ばね受止部材82に軸方向の一方側の力を付与する一方、ばね収容部材80に軸方向の他方側の力を付与している。与圧ばね81は、ばね受止部材82およびC型スペーサ83を介してアンギュラ玉軸受である第1玉軸受6に軸方向の与圧を付与する一方、ばね収容部材80を介してアンギュラ玉軸受である第2玉軸受7に軸方向の与圧を付与している。
【0042】
尚、詳述しないが、回転軸4は、軸方向の他方側にカップ部材取付部77を有する。このカップ部材取付部77は、レセプタクル78を有する。このレセプタクル78を用いて、カップ状部2(
図1参照)を、回転軸4に固定している。
【0043】
図3は、C型スペーサ83の厚さ方向の一方側の端面を、厚さ方向の外方側から見たときの模式図であり、
図4は、
図3のAA線断面図である。
【0044】
図3に示す模式図において、C型スペーサ83は、C字形状を有している。
図3に示すように、C型スペーサ83は、円柱形状の貫通穴86を有する。貫通穴86は、C型スペーサ83の厚さ方向に延在している。C型スペーサ83を面対称とできる平面が存在している。その平面は、貫通穴86と、C型スペーサ83の切欠き89とを通過している。また、
図4に示すように、貫通穴86は、径方向(C型スペーサを延長して環状体としたときの径方向のこと)の略中央に位置している。
【0045】
図5は、ピン50の斜視図である。また、
図6は、
図5のBB線断面図であり、ピン50の径方向の模式断面図(ピンをその軸方向に垂直な切断面で切断したときの模式断面図)である。尚、
図6においては、軟質金属膜52を誇張して描いている。
【0046】
図5に示すように、ピン50は、丸棒状の形状を有している。また、
図6に示すように、ピン50は、円柱状かつ金属製の本体部51と、軟質金属膜52とを有する。
図6に示すように、軟質金属膜52は、本体部51の外周面55を被覆している。軟質金属膜52は、本体部51よりも硬度が低い軟質金属からなっている。本体部51の材質としては、例えば、SUS304等のステンレス鋼材や、S45C等の炭素鋼等を好適に適用できる。また、軟質金属膜52としては、例えば、銀メッキ膜や鉛メッキ膜を好適に採用できる。
【0047】
図7は、C型スペーサ83の貫通穴86にピン50を挿通してなるスペーサアッセンブリ88の模式図である。尚、
図7において、斜線で示す領域は、軟質金属膜52を示す。また、
図7においては、軟質金属膜52の厚さを誇張して描いている。尚、一例としては、軟質金属膜52の膜厚を、数十[μm]程度の厚さとできるが、軟質金属膜52の膜厚を、それ以外の膜厚としてもよい。
【0048】
このスペーサアッセンブリ88を、ピン50をC型スペーサ83に対して
図7に矢印Cで示す方向に相対移動させて、ピン50をC型スペーサ83の貫通穴86に圧入することにより作成している。
【0049】
ピン50をC型スペーサ83の貫通穴86に圧入する前、ピン50の本体部51の外周面55の外径は、C型スペーサ83の貫通穴86の内周面の内径よりも小さくなっている。また、ピン50をC型スペーサ83の貫通穴86に圧入する前、ピン50の外径は、C型スペーサ83の貫通穴86の内周面の内径よりも大きくなっている。
【0050】
このようにして、C型スペーサ83の貫通穴86へのピン50の圧入時に、軟質金属膜52の一部を貫通穴86の内周面で剥がして、その剥がした一部が、C型スペーサ83の厚さ方向のピン50の挿入側の端面周辺に位置するようにしている。このように、貫通穴86の内周面の内径よりもピン50の外径を大きくすることにより、圧入後に、C型スペーサ83の貫通穴86の内周面と、ピン50の外周面とが、隙間なく接触するようにしている。また、締め代に対応する部分を、軟質金属膜52で構成することにより、ピン50をC型スペーサ83の貫通穴86に圧入し易くしている。また、締め代に対応する部分を、軟質金属膜52で構成することにより、剥がれた軟質金属膜52の一部を、ピン50の外周面におけるC型スペーサ83の周辺に配置して、この軟質金属膜52の一部で衝撃を吸収している。
【0051】
図8は、スペーサアッセンブリ88の斜視図である。
【0052】
図8に示すように、ピン50は、一方側突出部25と、他方側突出部26とを有する。一方側突出部25は、C型スペーサ83からC型スペーサ83の厚さ方向の一方側に突出する一方、他方側突出部26は、C型スペーサ83からC型スペーサ83の厚さ方向の他方側に突出している。
【0053】
図9は、C型スペーサ83の連れ回り防止構造を示す模式図である。
【0054】
図9に示すように、第1玉軸受6の外輪61は、軸方向に延在する軸方向延在溝36を有し、ばね収容部材80の外周面も、軸方向に延在する軸方向延在溝37を有する。
図9に示すように、外輪61の軸方向延在溝36は、径方向の外方かつ軸方向の他方側に開口している。また、ばね収容部材80の軸方向延在溝37は、径方向の外方かつ軸方向の一方側に開口している。
【0055】
図9に示すように、スペーサアッセンブリ88の一方側突出部25を、外輪61の軸方向延在溝37に収容すると共に、スペーサアッセンブリ88の他方側突出部26を、ばね収容部材80の軸方向延在溝37に収容している。このようにして、C型スペーサ83が、第1玉軸受6の外輪61に対して周方向に相対回転することを抑制し、また、ばね収容部材80が、C型スペーサ83に対して周方向に相対回転することを抑制している。
【0056】
上記実施形態によれば、ピン50を、金属製の本体部51と、本体部51の外周面55を被覆すると共に、本体部51よりも硬度が低い軟質金属からなる軟質金属膜52とで構成している。したがって、軟質金属膜52は、剥がれ易いから、C型スペーサ83の貫通穴86にピン50を挿入するときに、余剰な軟質金属膜52の一部分を剥がすことができる。したがって、C型スペーサ83の貫通穴86にピン50を圧入する際に過大な力がC型スペーサ83およびピン50にかかることがなくて、C型スペーサ83やピン50の変形を抑制できる。したがって、C型スペーサ83で適切に与圧や隙間を調整できる。
【0057】
また、上記実施形態によれば、ピン50の外周側の部分が、軟質金属膜52で構成されているから、ピン50の外径がC型スペーサ83の貫通穴86の内径よりも大きい場合であっても、ピン50の圧入時に余剰な軟質金属膜52の一部分を剥がすことができて、圧入に大きな力を要することがない。したがって、圧入前のピン50の外径を、ピン50をC型スペーサ83の貫通穴86に固定するのに十分な大きさにできるから、C型スペーサ83とピン50との間に隙間が生成することを抑制できて、C型スペーサ83の連れ回りを適切に抑制できる。
【0058】
また、上記実施形態によれば、ピン50において硬度が高い本体部51の外径が、貫通穴86の内径よりも小さいから、C型スペーサ83の貫通穴86へのピン50の圧入を容易におこなうことができて、ピン50およびC型スペーサ83の変形を適切に抑制できる。
【0059】
また、上記実施形態によれば、軟質金属膜52の外周面が、貫通穴86の内周面に接触しているから、C型スペーサ83の連れ回りも適切に抑制できる。
【0060】
また、上記実施形態によれば、C型スペーサ83の貫通穴86へのピン50の圧入の際に、軟質金属膜52において穴から押し出された部分を、C型スペーサ83の周辺に位置させることができる。そして、この穴から押し出された軟質金属膜52の一部を緩衝材として使用できて、その一部で衝撃を吸収できる。したがって、フレッチング等の不具合が生じることを抑制できる。
【0061】
尚、上記実施形態では、C型スペーサ83の貫通穴86の内径が、ピン50の本体部51の外径よりも大きくて、かつC型スペーサ83の貫通穴86の内径が、ピン50の外径よりも小さかった。しかし、スペーサの貫通穴の内径が、ピンの本体部の外径と同一で、かつスペーサの貫通穴の内径が、ピンの外径よりも小さくてもよい。また、C型スペーサの貫通穴の内径は、ピンの本体部の外径よりも若干小さくてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、C型スペーサ83の貫通穴86が、円柱形状を有し、ピン50が、丸棒状の形状を有していた。しかし、スペーサの貫通穴が、円柱形状以外の形状を有し、ピンが、丸棒状以外の形状を有してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、ピン50の本体部51の材質の例として、SUS304等のステンレス鋼材や、S45C等の炭素鋼を挙げ、軟質金属膜52の材質の例として、銀や鉛を挙げた。しかし、ピン50の本体部51の材質として、それら以外の公知の如何なる金属を採用してもよく、軟質金属膜52の材質として、それら以外の公知のいかなる金属を採用してもよい。要は、ピン50の本体部51の硬度が、軟質金属膜52の硬度よりも高ければ、ピン50の本体部51の材質として如何なる材質を採用してもよく、また、軟質金属膜52の材質としていかなる材質を採用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、軟質金属膜52としてメッキ膜を挙げた。しかし、軟質金属膜は、溶射や、CVD(Chemical Vapor Deposition)法や、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法や、PVD(Physical Vapor Deposition)法等、メッキ以外の手法で本体部にコーティングされてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、スペーサが、C型形状のスペーサ83であった。しかし、スペーサは、O型形状のスペーサであってもよく、環状のスペーサであってもよい。また、スペーサは、E型形状のスペーサであってもよい。要は、スペーサは、回転軸に取付可能で、かつ、厚さ方向に延在する貫通穴を有する構造を有していれば、いかなる構造であってもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、C型スペーサ83と、ピン50とを有するスペーサアッセンブリ88が、一方側突出部25と、他方側突出部26とを有し、一方側突出部25を、第1玉軸受6の外輪61の外周面の軸方向延在溝36に収容すると共に、他方側突出部26を、ばね収容部材80の外周面の軸方向延在溝37に収容した。このようにして、三つの部材61,80,83の回り止めをおこなった。しかし、スペーサと、ピンとを有するスペーサアッセンブリは、スペーサの厚さ方向の一方側のみに突出部を有して、この突出部を、軸受の外周面の軸方向延在溝に収容してもよい。このようにして、二つの部材の回り止めのみを行ってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、軸受装置が、X線管用軸受装置であった。ここで、軸受装置は、上記実施形態で説明したものに対して、X線管において、もう既に公知となっている変更を行ってもよい。例えば、上記実施形態では、軸受装置の第1,第2玉軸受6,7が、アンギュラ玉軸受であった。しかし、軸受装置は、深溝玉軸受等、アンギュラ玉軸受以外の如何なる玉軸受を有してもよく、軸受装置は、ころ軸受等、玉軸受以外の転がり軸受を有してよい。また、上記実施形態では、回転軸4の外周面が、玉軸受6,7の軌道溝41,42を有していた。しかし、転がり軸受が、内輪を有し、転がり軸受の内輪を回転軸に外嵌する構成でもよい。このように、軸受装置は、上記実施形態の軸受装置に対して、X線管において、もう既に公知となっている如何なる変更を行ってもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、軸受装置が、X線管用軸受装置であった。しかし、軸受装置は、X線の発生の用途で使用されなくてもよい。軸受装置は、軸受と、スペーサとを有していればよく、軸受装置は、如何なる用途で使用されてもよい。この軸受装置は、いかなる用途でもスペーサの連れ回りが生じる場合に好適に採用できる。また、上記実施形態および変形例で説明した全ての構成のうちの二以上の構成を組み合わせて新たな実施形態を構築できることは、勿論である。