(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記異常相に対する駆動電流の供給を停止するように前記アウター用駆動装置あるいは前記インナー用駆動装置を制御する制御装置を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の電動機システム。
前記制御装置は、負荷要求トルクに応じて前記インナーステータあるいは前記アウターステータの何れか一方あるいは前記インナーステータ及び前記アウターステータの両方に駆動電流を供給する動作モードを設定し、前記負荷要求トルクの低領域では前記インナー用駆動装置を作動させて前記インナーステータのみに駆動電流を供給させ、前記負荷要求トルクの中間領域では前記アウター用駆動装置を作動させて前記アウターステータのみに駆動電流を供給させ、前記負荷要求トルクの高領域では前記インナー用駆動装置及び前記アウター用駆動装置を作動させて前記インナーステータ及び前記アウターステータに駆動電流を供給させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動機システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る電動機システムは、
図1に示すように、ダブルステータ型SRモータ1、直流電源2、アウター用インバータ3A、インナー用インバータ3B、電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bw(検出器)、アウター用信号生成回路5A、インナー用信号生成回路5B及び演算装置6を具備する。
【0015】
ここで、これら複数の構成要素のうち、直流電源2及びアウター用インバータ3Aは、本発明におけるアウター用駆動装置を構成し、直流電源2及びインナー用インバータ3Bは、本発明におけるインナー用駆動装置を構成している。また、アウター用信号生成回路5A、インナー用信号生成回路5B及び演算装置6は、本発明における制御装置を構成している。
【0016】
ダブルステータ型SRモータ1は、
図2に示すように、円環状(円筒状)のロータ1aの外側に同じく円環状(円筒状)のアウターステータ1bが配置され、またロータ1aの内側にインナーステータ1cが配置された回転モータである。このダブルステータ型SRモータ1は、アウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bから駆動電流が供給されることによりロータ1aが所定方向に回転する。なお、このダブルステータ型SRモータ1は、相数が「3」である三相交流モータの一種である。
【0017】
ロータ1aは、外側において周方向に一定間隔で並ぶ所定数の突出部1d(外側突極)と、内側において周方向に一定間隔で並ぶ所定数の突出部1e(内側突極)とが形成された磁性部材である。このような外側突極1d及び内側突極1eは、図示するように、例えば8個(8極)であり、周方向において同一位置に設けられている。なお、各外側突極1d及び各内側突極1eの周方向における幅やロータ1aの半径方向における突出量は、ダブルステータ型SRモータ1に要求される性能に応じて適宜設定される。
【0018】
アウターステータ1bは、内側において周方向に一定間隔で並ぶ所定数の突出部1fが形成された円環状(円筒状)のコア1gと、各突出部1fに巻回される複数のステータ巻線1h(アウター巻線)とを備える。各突出部1f及び各ステータ巻線1hは、各々にアウターステータ1bのスロットを構成している。各突出部1f及び各ステータ巻線1hの個数、つまりアウターステータ1bのスロット数は、図示するように、例えば12個(12スロット)である。
【0019】
インナーステータ1cは、外側において周方向に一定間隔で並ぶ所定数の突出部1iが形成された円環状(円筒状)のコア1jと、各突出部1iに巻回される複数のステータ巻線1k(インナー巻線)とを備える。各突出部1i及び各ステータ巻線1kは、各々にインナーステータ1cのスロットを構成している。各突出部1i及び各ステータ巻線1kの個数、つまりインナーステータ1cのスロット数は、図示するように、例えば12個(12スロット)である。
【0020】
直流電源2は、アウター用インバータ3A及びインナー用インバータ3Bに所定電圧の直流電力を供給する電圧源である。アウター用インバータ3Aは、アウター用信号生成回路5Aから入力される制御信号に基づいて上記直流電力を交流電力に変換し、各アウター巻線1hに供給する電力変換器である。インナー用インバータ3Bは、インナー用信号生成回路5Bから入力される制御信号に基づいて上記直流電力を交流電力に変換し、各インナー巻線1kに供給する電力変換器である。
【0021】
このようなアウター用インバータ3A及びインナー用インバータ3Bは、上記直流電力を例えばU相、V相及びW相からなる三相交流電力に変換する三相インバータである。すなわち、アウター用インバータ3Aは、アウターステータ1bの12スロットのうち、互いに直交する位置関係にある4スロットのアウター巻線1hにU相の駆動電流を供給し、残りの8スロットのうち互いに直交する位置関係にある4スロットのアウター巻線1hにV相の駆動電流を供給し、残りの互いに直交する位置関係にある4スロットのアウター巻線1hにW相の駆動電流を供給する。
【0022】
一方、インナー用インバータ3Bは、インナーステータ1cの12スロットのうち、互いに直交する位置関係にある4スロットのインナー巻線1kにU相の駆動電流を供給し、残りの8スロットのうち互いに直交する位置関係にある4スロットのインナー巻線1kにV相の駆動電流を供給し、残りの互いに直交する位置関係にある4スロットのインナー巻線1kにW相の駆動電流を供給する。
【0023】
電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bw(検出器)は、アウター用インバータ3A及びインナー用インバータ3Bからダブルステータ型SRモータ1に供給される各相の駆動電流を検出し、検出値を演算装置6に出力する。すなわち、電流センサ4Auは、アウター用インバータ3Aからダブルステータ型SRモータ1に供給されるU相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。電流センサ4Avは、アウター用インバータ3Aからダブルステータ型SRモータ1に供給されるV相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。電流センサ4Awは、アウター用インバータ3Aからダブルステータ型SRモータ1に供給されるW相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。
【0024】
電流センサ4Buは、インナー用インバータ3Bからダブルステータ型SRモータ1に供給されるU相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。電流センサ4Bvは、インナー用インバータ3Bからダブルステータ型SRモータ1に供給されるV相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。電流センサ4Bwは、インナー用インバータ3Bからダブルステータ型SRモータ1に供給されるW相の駆動電流を検出して演算装置6に出力する。
【0025】
ここで、各相の駆動電流は、各相のアウター巻線1h及びインナー巻線1kの異常を示す物理量でもある。すなわち、アウター巻線1hあるいは/及びインナー巻線1kが断線すると、駆動電流は流れない。一方、アウター巻線1hあるいは/及びインナー巻線1kが短絡すると、駆動電流は異常に大きな値となる。また、アウター用インバータ3Aあるいはインナー用インバータ3Bにおいて、何れかの相のスイッチングレグ対が異常になると、駆動電流が流れなかったり、あるいは異常な大きさとなる。したがって、電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwは、本実施形態において、ダブルステータ型SRモータ1における各相の異常を検出する検出器として機能する。
【0026】
アウター用信号生成回路5Aは、演算装置6から入力される操作量に基づいて、U相、V相及びW相に対応するアウター用インバータ3A用(アウターステータ1b用)の制御信号を生成する信号発生器である。インナー用信号生成回路5Bは、演算装置6から入力される操作量に基づいて、U相、V相及びW相に対応するインナー用インバータ3B用(インナーステータ1c用)の制御信号を生成する信号発生器である。
【0027】
演算装置6は、例えば予め記憶した制御プログラムに基づいてアウター用信号生成回路5A及びインナー用信号生成回路5Bを制御するソフトウエア制御装置であり、中央演算装置(CPU)、制御プログラムを記憶する不揮発性メモリ(ROM)、揮発性メモリ(RAM)及び他の構成要素をの間で信号の授受を行うインタフェース回路等から構成されている。
【0028】
このような演算装置6は、各電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwから入力される検出値及び別途設けられた操作部(図示略)から入力された制御目標に基づいてアウター用インバータ3A用(アウターステータ1b用)あるいは/及びインナー用インバータ3B用(インナーステータ1c用)の操作量を演算することにより、アウターステータ1bあるいはインナーステータ1cの何れか一方あるいは両方に駆動電流を供給するようにアウター用信号生成回路5A及びインナー用信号生成回路5Bをフィードバック制御する。このようなアウター用信号生成回路5Aつまりアウター用インバータ3Aの制御及びインナー用信号生成回路5Bつまりインナー用インバータ3Bの制御は、制御プログラムに基づく演算装置6の基本制御機能である。
【0029】
また、演算装置6は、電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwの各検出値に基づいてアウター巻線1h及びインナー巻線1kの健全/異常を評価し、この評価結果に基づいてトルク補償処理を行う。このようなトルク補償処理は、制御プログラムに基づく演算装置6の補助制御機能である。
【0030】
詳細については後述するが、演算装置6は、アウターステータ1bあるいはインナーステータ1cの何れか一方に駆動電流を供給する状態において、何れかのステータ巻線(アウター巻線1hあるいは/及びインナー巻線1k)の断線を異常巻線として判定する、つまり電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwの各検出値に基づいて駆動電流が異常な相を異常相として判定すると、上記異常巻線(異常相)と同相で駆動電流が供給されていないステータ巻線(アウター巻線1hあるいは/及びインナー巻線1k)に駆動電流を供給するようにアウター用信号生成回路5A(つまりアウター用インバータ3A)及びインナー用信号生成回路5B(つまりインナー用インバータ3B)を制御する。
【0031】
次に、このように構成された電動機システムの動作について、
図3〜
図6をも参照して詳しく説明する。
【0032】
演算装置6は、例えばトルク目標値が制御目標として操作部から与えられると、各電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwから入力される駆動電流の検出値、つまりダブルステータ型SRモータ1の実際のトルク(実トルク)を示す制御量に基づいて、上記実トルクをトルク目標値と一致させるように操作量を生成してアウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bに出力する。
【0033】
アウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bは、このような操作量に応じた制御信号(例えばPWM信号)を生成してアウター用インバータ3Aあるいは/及びインナー用インバータ3Bに出力する。この結果、ダブルステータ型SRモータ1は、実トルクがトルク目標値を維持するように回転する。すなわち、本実施形態に係る電動機システムでは、ダブルステータ型SRモータ1は、演算装置6の基本制御機能に基づいて所望のトルク性能、つまりダブルステータ型SRモータ1の負荷が要求するトルク(負荷要求トルク)を発揮する。
【0034】
ここで、ダブルステータ型SRモータ1のトルク(発生トルク)と回転数との関係は、
図3に示す通りである。ダブルステータ型SRモータ1は、回転数が比較的低い領域(回転領域)では一定のトルクを発揮するが、回転数が比較的高い領域(回転領域)では回転数が高くなるに従ってトルクが徐々に低下する。演算装置6は、このようなダブルステータ型SRモータ1の性能(回転性能)に対して、3つの制御領域R1〜R3を設定している。
【0035】
制御領域R1は、発揮可能な回転数範囲においてトルクが比較的小さい領域(トルク低領域)であり、制御領域R2は、発揮可能な回転数範囲においてトルクが中間的な値となる領域(トルク中間領域)であり、また制御領域R3は、発揮可能な回転数範囲においてトルクが比較的高い領域(トルク高領域)である。
【0036】
そして、演算装置6は、このような3つの制御領域R1〜R3に対応する動作モードを設定している。すなわち、演算装置6は、制御領域R1についてはインナーステータ1cのインナー巻線1kのみに駆動電流を供給する第1動作モードを設定し、制御領域R2についてはアウターステータ1bのアウター巻線1hのみに駆動電流を供給する第2動作モードを設定し、制御領域R3についてはインナーステータ1cのインナー巻線1k及びアウターステータ1bのアウター巻線1hの両方に駆動電流を供給する第3動作モードを設定している。
【0037】
ここで、インナーステータ1cは、ロータ1aを挟んだ状態でアウターステータ1bの内側(ロータ1aの回転中心側)に位置しているので、アウターステータ1bよりも径が小さい。このために、インナーステータ1cとロータ1aとの電磁気的な作用によってロータ1aに発生するトルク(インナートルク)は、アウターステータ1bとロータ1aとの電磁気的な作用によってロータ1aに発生するトルク(アウタートルク)よりも小さい。
【0038】
このようなインナートルクとアウタートルクとの大小関係を勘案し、ダブルステータ型SRモータ1の回転効率をより高くするために、制御領域R1ではインナートルクのみが発生するようにインナーステータ1cのインナー巻線1kのみに駆動電流を供給し、制御領域R2ではアウタートルクのみが発生するようにアウターステータ1bのアウター巻線1hのみに駆動電流を供給する。
【0039】
このようにしてアウターステータ1bあるいは/及びインナーステータ1cを作動させることによりダブルステータ型SRモータ1が所望のトルク性能(回転性能)を発揮して回転している状態において、アウター巻線1hあるいは/及びインナー巻線1kに断線が発生すると、ダブルステータ型SRモータ1は、所望のトルク性能(回転性能)を発揮し得ない状態に陥る。このような場合に、演算装置6は、
図4に示すトルク補償処理を実行することによりダブルステータ型SRモータ1が所望のトルク性能を維持するようにアウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bを制御する。
【0040】
すなわち、演算装置6は、各電流センサ4Au、4Av、4Aw、4Bu、4Bv、4Bwの検出値のうち、現在作動させているステータに該当する検出値を予め設定された電流しきい値と所定のタイムインターバルで順次比較することにより、ステータ巻線に異常が発生したか否かを判定する(ステップS1)。そして、このステップS1の判定が「Yes」つまりステータ巻線の異常つまり断線発生を検知すると、断線したステータ巻線(異常巻線)への駆動電流の供給停止(通電停止)を行わせる操作量をアウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bに出力する(ステップS2)。
【0041】
そして、演算装置6は、異常巻線以外のステータ巻線(健全巻線)によって発生し得る最大トルクを演算し(ステップS3)、当該最大トルクと負荷要求トルクとを比較することにより動作モードの変更(モード変更)が必要か否かを判断する(ステップS4)。すなわち、最大トルクが負荷要求トルク以上の場合、健全巻線に通電する駆動電流を増加させることにより負荷要求トルクを実現できるが、最大トルクが負荷要求トルクを下回る場合には、健全巻線に通電する駆動電流を増加させても負荷要求トルクを実現することができない。
【0042】
したがって、演算装置6は、上記ステップS4の判断が「Yes」の場合、つまりモード変更)が必要であると判断した場合には、追加通電すべきステータ巻線(追加通電巻線)を選定し(ステップS5)、当該追加通電巻線に通電する駆動電流の大きさ(補償通電量)を演算する(ステップS6)。この補償通電量は、健全巻線に通電されている駆動電流で発生し得るトルク(残存トルク)と負荷要求トルクとの差分トルクに相当する駆動電流である。
【0043】
ここで、
図5は、ステータ巻線の異常の前後におけるダブルステータ型SRモータ1のトルクを制御領域R1〜R3毎に示す波形図(トルク波形図)である。ダブルステータ型SRモータ1のトルクは、三相のステータ巻線に電気角として互いに120°異なる駆動電流が順次供給されることによって発生するので、上記電気角に対応したリップル(トルクリップル)を持つ。また、ダブルステータ型SRモータ1の平均トルクは、各相の駆動電流によって発生するトルクを重ね合わせたものとなり、制御領域R1→制御領域R2→制御領域R3の順に高くなる(異常前参照)。
【0044】
このようなダブルステータ型SRモータ1において、何れかの相の駆動電流がステータ巻線に供給されない状態(異常巻線)が発生した場合、当該異常巻線は、ダブルステータ型SRモータ1のトルクに寄与しなくなるので、平均トルクが低下すると共にトルクリップルが大きくなる(異常後参照)。
【0045】
しかしながら、制御領域R1の異常後のトルク波形に示すように、インナー巻線1kの何れかの相が異常巻線となった場合に、当該異常巻線と同相のアウター巻線1hに駆動電流を供給することによって、異常前と同様な平均トルクとトルクリップルとを実現することができる。また、制御領域R2の異常後のトルク波形に示すように、アウター巻線1hの何れかの相が異常巻線となった場合に、当該異常巻線と同相のインナー巻線1kに駆動電流を供給することによって、異常前と同様とはならないが、平均トルクを異常前に近づけると共にトルクリップルを減少させることができる。
【0046】
さらに、制御領域R3の異常後のトルク波形に示すように、ダブルステータ駆動されている状態においてインナー巻線1kあるいはアウター巻線1hの何れかが異常巻線となった場合に、当該異常巻線と同相のインナー巻線1kあるいはアウター巻線1hに供給する駆動電流を増加させることによって補助トルクを発生させる。この場合、異常後のトルクは異常前のトルクと同様にはならないが、平均トルクを異常前に近づけると共にトルクリップルを減少させることができる。
【0047】
図6は、上記ステップS5における追加通電巻線の選定方法を示す真理値表である。
図6(a)、(b)のうち、(a)は上述した制御領域R1における真理値表を示し、(b)は上述した制御領域R2における真理値表を示している。また、これら
図6において、「No」は各状態に付与した連番であり、「mode」は異常巻線の個数を示し、「異常フラグ」における「Uo」、「Vo」、「Wo」、「Ui」、「Vi」、「Wi」は、各々にU相、V相及びW相のアウター巻線1h及びインナー巻線1kの異常(1)/正常(0)を示している。また、「駆動フラグ」における「Gate_Uo」、「Gate_Vo」、「Gate_Wo」、「Gate_Ui」、「Gate_Vi」、「Gate_Wi」は、各々にU相、V相及びW相のアウター巻線1h及びインナー巻線1kに対する駆動電流の通電(1)/非通電(0)を示している。
【0048】
制御領域R1は、インナー巻線1kのみに駆動電流を通電し、アウター巻線1hには駆動電流を通電しないダブルステータ型SRモータ1の動作状態である。すなわち、
図6(a)の「mode 0」に示すように、ダブルステータ型SRモータ1が制御領域R1において正常運転している場合、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの駆動フラグは全て「1」に設定され、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの駆動フラグは全て「0」に設定される。
【0049】
このような正常運転において、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの何れか1つが異常になると、例えば
図6の「No 1」に示すように、U相のインナー巻線1kが断線すると、U相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が停止され、また同相であるU相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相のインナー巻線1kの断線に起因するトルクの低下がU相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0050】
ここで、上述したようにアウタートルクはインナートルクよりも大きいので、U相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電によって発生するトルクによってU相のインナー巻線1kの断線に起因するトルクの低下を十分に補償することができる。
【0051】
また、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの何れか2つが異常になると、例えば
図6(a)の「No 4」に示すように、U相及びV相のインナー巻線1kが断線すると、U相及びV相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が停止され、また同相であるU相及びV相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相及びV相のインナー巻線1kの断線に起因するトルクの低下がU相及びV相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0052】
さらに、
図6(a)の「No 7」に示すように、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの全てが断線すると、U相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が停止され、またU相、V相及びW相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの断線に起因するトルクの低下がU相、V相及びW相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0053】
一方、制御領域R2は、アウター巻線1hのみに駆動電流を通電し、インナー巻線1kには駆動電流を通電しないダブルステータ型SRモータ1の動作状態である。すなわち、
図6(b)の「mode 0」に示すように、ダブルステータ型SRモータ1が制御領域R2において正常運転している場合、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの駆動フラグは全て「1」に設定され、U相、V相及びW相のインナー巻線1kの駆動フラグは全て「0」に設定される。
【0054】
このような制御領域R2の正常運転において、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの何れか1つが異常になると、例えば
図6(b)の「No 1」に示すように、U相のアウター巻線1hが断線すると、U相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が停止され、またU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相のアウター巻線1hの断線に起因するトルクの低下がU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0055】
ここで、アウタートルクはインナートルクトルクよりも大きいので、上述した制御領域R1の場合と同様にU相のアウター巻線1hの断線に起因するトルクの低下をU相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電のみによって十分に補償することはできない。したがって、制御領域R2の場合には、インナー巻線1kの全てに駆動電流を通電することによってU相のアウター巻線1hの断線に起因するトルクの低下を補償する。
【0056】
また、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの何れか2つが異常になると、例えば
図6(b)の「No 4」に示すように、U相、V相及びW相のアウター巻線1hが断線すると、U相及びV相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が停止され、また上述した「No 1」の場合と同様にU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相及びV相のアウター巻線1hの断線に起因するトルクの低下がU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0057】
さらに、
図6(b)の「No 7」に示すように、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの全てが断線すると、U相、V相及びW相のアウター巻線1hへの駆動電流の通電が停止され、またU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電が開始される。この結果、U相、V相及びW相のアウター巻線1hの断線に起因するトルクの低下がU相、V相及びW相のインナー巻線1kへの駆動電流の通電によって発生するトルクによって補償される。
【0058】
すなわち、この場合には、制御領域R2が制御領域R1に切り替えられる。上述したようにアウタートルクはインナートルクトルクよりも大きいので、この切替によって制御領域R2におけるトルクの十分な補償はできないが、ダブルステータ型SRモータ1の回転を停止させることなく回転の継続を試みる。
【0059】
そして、演算装置6は、上記補償通電量を追加通電巻線に供給させる操作量を生成してアウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bに出力する(ステップS7)。この結果、追加通電巻線に補償通電量が供給されるので、ダブルステータ型SRモータ1は、一次的に実トルクが低下するものの、補償通電量の作用によって負荷要求トルクを維持する。
【0060】
ここで、上記補償通電量については、残存トルクと負荷要求トルクとの差分トルクに代えて、最大トルクと負荷要求トルクとの差分トルクに相当する駆動電流を補償通電量としてもよい。ただし、何れを補償通電量とするかについては、ダブルステータ型SRモータ1の回転効率の最大化を目的として選定されることが好ましい。
【0061】
一方、演算装置6は、上記ステップS4の判断が「No」の場合、つまりモード変更)が必要でないと判断した場合には、健全巻線に通電する駆動電流の大きさ(補償通電量)を演算する(ステップS8)。この補償通電量は、健全巻線によって負荷要求トルクを発生させるために必要な駆動電流である。そして、演算装置6は、現行の駆動電流に代えて補償通電量に相当する駆動電流を健全巻線に供給させる操作量を生成してアウター用信号生成回路5Aあるいは/及びインナー用信号生成回路5Bに出力する(ステップS9)。この結果、健全巻線に補償通電量が供給されることにより、ダブルステータ型SRモータ1は、一次的に実トルクが低下するものの、補償通電量の作用によって負荷要求トルクを維持する。
【0062】
このような本実施形態によれば、アウターステータ1bとインナーステータ1cの一方が異常が発生した場合に他方がトルクの低下を補うので、ダブルステータ型SRモータ1のステータ巻線の異常後における回転性能を異常前の回転性能に近づけることが可能である。また、本実施形態によれば、異常巻線への通電を停止するので、通電を継続することによる二次的な異常発生を防止することが可能である。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態は、三相のダブルステータ型SRモータ1に関するものであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、三相以上の相数を有するダブルステータ型SRモータであれば適用可能であり、よって例えば四相あるいは五相のダブルステータ型SRモータにも適用可能である。
【0064】
(2)上記実施形態では、制御領域R2においてアウター巻線1hに断線が発生すると、全相のインナー巻線1kに駆動電流を通電してトルク補償を行ったが、本発明はこれに限定されない。全相のインナー巻線1kではなく、U相、V相及びW相のインナー巻線1kのうち何れか二相のインナー巻線1kに駆動電流を通電してトルク補償を行ってもよい。