(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582550
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】シングルキャビティ式トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
F16H15/38
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-105364(P2015-105364)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-217507(P2016-217507A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100097995
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悦一
(72)【発明者】
【氏名】板垣 浩文
(72)【発明者】
【氏名】大黒 優也
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−040607(JP,A)
【文献】
特開2013−213563(JP,A)
【文献】
特開2004−169801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面どうしを互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転可能に設けられた第1ディスクおよび第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、軸方向に固定された前記第1ディスクに向けて前記第2ディスクを軸方向に押圧する押圧機構と、前記第2ディスクの背面側に当該第2ディスクと同軸に設けられて、スラスト荷重を受ける軸受とを備えたシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機において、
前記押圧機構は油圧室を備え、
前記油圧室は、前記第2ディスクの背面に設けられた凹所の底面と、前記凹所に設けられた前記軌道輪との間に設けられ、
前記軌道輪の外径面に周方向に延在して設けられた凹溝に、リング状のシール部材が嵌め込まれ、このシール部材が前記凹所の内周面に油密に相対的に摺接していることを特徴とするシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
主に自動車用の変速機として使用されるシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、互いに対向する面がそれぞれ円弧形状の凹断面を有する入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらのディスク間に挟持される回転自在なパワーローラとを組み合わせたトロイダル変速機構(バリエータ)を備えている。入力側ディスクは、トルクを入力する入力軸方向への移動が可能なように入力軸に対して駆動結合され、出力側ディスクは、入力軸に対して相対的に回転可能かつ入力側ディスクから離れる方向への移動が制限されるように入力側ディスクと対向して取り付けられる。
【0003】
このようなシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、入力側ディスクが回転するとパワーローラを介して出力側ディスクが回転するため、入力軸に入力される回転運動は出力側ディスクへと伝達され、出力側ディスクと一体的に回転する出力歯車から取り出される。この際、パワーローラの周面が入力側ディスクの外周付近と出力側ディスクの中心付近とにそれぞれ当接するようにパワーローラの回転軸の傾斜角度を変化させることで入力軸から出力歯車への増速が行われ、これとは逆に、パワーローラの周面が入力側ディスクの中心付近と出力側ディスクの外周付近とにそれぞれ当接するようにパワーローラの回転軸の傾斜角度を変化させることで入力軸から出力歯車への減速が行われる。さらに両者の中間の変速比についても、パワーローラの回転軸の傾斜角度を適当に調節することにより、ほぼ無段階に得ることができる。
【0004】
また、このようなシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、出力歯車の背後に設けられ前記出力側ディスクから加わるスラスト荷重を支承する出力側軸受と、前記入力軸の前記出力側ディスク側端部に設けられ前記入力側ディスクから加わるスラスト荷重を支承する入力側軸受と、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクを互いに近づける方向に前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクをのうち少なくとも一方を押圧する押圧機構とを備えている。
【0005】
このようなシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機の一例として、特許文献1および特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献1に記載のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、
図3に示すように、入力側ディスク2の背面側に、入力側ディスク2を出力側ディスク3側に押し付ける押圧機構としてのローディングカム機構6が設けられている。ローディングカム機構6は、カムディスク4とカムローラ5とを備えている。カムディスク4は入力軸1に対してスプライン係合し、カムローラ5はカムディスク4と入力側ディスク2との間に設けられている。そして、カムローラ5がカムディスク4と入力側ディスク2に設けられたカム面を転動することによって、入力側ディスク2を出力側ディスク3に向って押圧するようになっている。
【0006】
また、特許文献2に記載のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、
図3に示すように、入力側ディスク2の背面側に、入力側ディスク2を出力側ディスク3側に押し付ける押圧機構としての油圧ローディング機構12が設けられている。油圧ローディング機構12はシリンダ24を備えている。このシリンダ24は、入力軸1の外周に同軸に配設した筒部26と、筒部26の外周に一体形成した円盤部28と、円盤部28の外周から入力軸1の軸線方向に延在する環状縁部29とを備え、筒部26の内周側および外周側の一部が入力軸1の外周および入力側ディスク2の内周にスプライン係合されることにより、シリンダ24が入力軸1の軸線に沿って摺動自在に設けられている。シリンダ24は、その環状縁部29が入力側ディスク2の背面側から外周部に嵌合しており、入力側ディスク2の背面と、シリンダ24とで囲まれた空間が油圧室となっている。そして、油圧室に油が供給されると、入力側ディスク2を出力側ディスク3に向って押圧するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−32900号公報
【特許文献2】特開2003−35351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、ローディングカム機構6が、カムディスク4とカムローラ5とを備えているため、カムディスク4の軸方向の厚さ寸法と、カムローラ5の直径の分、バリエータの軸方向の寸法が長くなるとともに、カムディスク4およびカムローラ5によって重量増となる。
また、特許文献2に記載のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、油圧ローディング機構12が、入力側ディスク2の背面側において、入力軸1の外周に同軸に配設した筒部26と、筒部26の外周に一体形成した円盤部28と、円盤部28の外周から入力軸1の軸線方向に延在する環状縁部29とを有するシリンダ24を備えているので、このシリンダ24の軸方向の長さ寸法の分、バリエータの軸方向の寸法が長くなるとともに、シリンダによって重量増となる。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、バリエータの軸方向の寸法および重量を低減できるシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機はそれぞれの内側面どうしを互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転可能に設けられた第1ディスクおよび第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、軸方向に固定された前記第1ディスクに向けて前記第2ディスクを軸方向に押圧する押圧機構と、前記第2ディスクの背面側に当該第2ディスクと同軸に設けられて、スラスト荷重を受ける軸受とを備えたシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機において、
前記押圧機構は、前記第2ディスクの背面と前記軌道輪との間に油密に設けられた油圧室とを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、押圧機構が第2ディスクの背面と前記軌道輪との間に油密に設けられた油圧室とを備えた構成となっているので、従来のローディングカム機構を構成するカムディスクとカムローラや、従来の油圧ローディング機構を構成するシリンダ等とは異なり、押圧機構の軸方向の長さを低減できるともに、従来要していたカムディスク、カムローラ、シリンダ等が不要になるので、従来に比して重量を低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、押圧機構が第2ディスクの背面と前記軌道輪との間に油密に設けられた油圧室とを備えた構成となっているので、従来に比して、バリエータの軸方向の寸法や重量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機を示すもので、側断面図である。
【
図2】同、出力側ディスクの背面と軌道輪との間に油圧室を設け場合を示す要部の断面図である。
【
図3】従来のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機の一例を示す平断面図である。
【
図4】従来のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機の他の例を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図示しないエンジン等を含む駆動源によって回転駆動されるトルク入力軸としての入力軸1と、入力軸1に軸方向に固定された状態で取り付けられて、当該入力軸1とともに回転する入力側ディスク(第1ディスク)2と、入力軸1に回転可能にかつ軸方向に移動可能に取り付けられている出力側ディスク(第2ディスク)3と、これら入力側ディスク2および出力側ディスク3の互いに対向する円弧形状の凹面間に挟持される回転自在なパワーローラ7とを備えたトロイダル変速機構(バリエータ)10と、出力側ディスク3を入力側ディスク2側に向けて押圧する押圧機構20とを備えている。
【0015】
入力軸1の右端部には、大径部1aが設けられ、この大径部1aの左端面に規制部材9が当接され、この規制部材9が入力側ディスク2の背面に設けられた凹所に嵌め込まれるとともに、当該凹所の底面に当接されている。これによって、入力側ディスク2が出力側ディスク3から離れる方向(右方向)へ移動するのを規制している。
【0016】
また、本実施の形態のシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、バリエータ10の左側に遊星歯車機構30を備えている。
遊星歯車機構30は、太陽歯車31と、遊星歯車32と、キャリア33と、リング歯車34とを備えて構成されている。太陽歯車31は入力軸1に同軸に、かつ、入力軸1に対して回転可能に設けられ、当該太陽歯車31には図示しない出力軸が、入力軸1と同軸に連結されている。
遊星歯車32は、太陽歯車31の周囲に周方向に所定間隔で複数設けられ、当該太陽歯車31に噛合している。
【0017】
キャリア33は遊星歯車32の右側方に、太陽歯車31と同軸に設けられた円板状のものであり、当該キャリア33に、遊星歯車32の軸32aが固定されている。このキャリア33によって、複数の遊星歯車32は周方向に所定間隔で配置され、かつ、同期してキャリア33ともに太陽歯車31の軸回りに回転(公転)するようになっている。
キャリア33には、入力軸1に回転可能に設けられた軌道輪35が係合しており、この軌道輪35によって、キャリア33が回転可能に支持されている。
軌道輪35の左側にはリング状の受け部材36が入力軸1と同軸に設けられており、この受け部材36は、入力軸1に固定された規制部材37によって、左方への移動が規制されている。なお、規制部材37は入力軸1に形成された溝に嵌め込まれたうえで、固定リング39によって固定されている。また、固定リング39にはバネ押え40が設けられ、このバネ押え40と受け部材36との間に皿バネ41が設けられ、この皿バネ41によって受け部材36が右方に付勢されている。
【0018】
また、受け部材36と軌道輪35との対向する面には、それぞれ軌道溝が対向して設けられ、当該軌道溝に転動体としての玉42が周方向に所定間隔で複数設けられている。また、複数の玉42は保持器42aによって周方向に所定間隔で保持されている。したがって、受け部材36、軌道輪35、玉42および保持器42aによってスラスト軸受43が構成されている。
【0019】
前記リング歯車34は、略円筒状に形成され、その左端部側の内周面に設けられた歯車が遊星歯車32に噛合している。また、リング歯車34の右端部側の内周面には被係合部34bが設けられ、この被係合部34bに出力側ディスク3の外周面に設けられた係合部3bが係合している。したがって、リング歯車34は出力側ディスク3とともに回転するようになっている。
このような構成の遊星歯車機構30では、リング歯車34が出力側ディスク3によって回転すると、遊星歯車32がキャリア33とともに、太陽歯車31の軸回りに回転移動し、これによって、太陽歯車31が回転して、出力軸(図示略)が回転するようになっている。
【0020】
前記押圧機構20は以下のように構成されている。
すなわちまず、出力側ディスク3の背面側には、スラスト軸受43と隣接しかつ同軸にスラスト軸受(軸受)45が設けられている。このスラスト軸受45は、スラスト荷重を受けるものであり、前記キャリア33を回転自在に支持する軌道輪35と、この軌道輪35に対向して当該軌道輪35と同軸に設けられた軌道輪46と、転動体としての複数の玉47と、当該複数の玉47を周方向に所定間隔で保持する保持器47aとによって構成されている。つまり、スラスト軸受45とスラスト軸受43とは、軌道輪35が共通となっている。
【0021】
そして、スラスト軸受45の軌道輪46と出力側ディスク3の背面との間に油圧室51が設けられている。
すなわちまず、出力側ディスク3の背面には、円孔状の凹所50が出力側ディスク3と同軸に、かつ軸方向に窪んで設けられている。
一方、スラスト軸受45の軌道輪46は凹所50の入口部に挿入されている。軌道輪46はドーナツ板状に形成され、その直径は凹所50の内径とほぼ等しいか若干小さくなっており、中央の孔の内径は入力軸1の直径とほぼ等しいか若干大きくなっており、当該孔に入力軸1が挿通されている。
【0022】
軌道輪46の外径面に周方向に延在して設けられた凹溝に、リング状のシール部材46aが嵌め込まれており、このシール部材46aが凹所50の内周面に油密に相対的に摺接している。また、軌道輪46の内径面に周方向に延在して設けられた凹溝にリング状のシール部材46bが嵌め込まれており、このシール部材46bが入力軸1の外周面に油密に相対的に摺接している。
また、出力側ディスク3の内径面に周方向に延在して設けられた凹溝にリング状のシール部材46cが嵌め込まれており、このシール部材46cが入力軸1の外周面に油密に摺接している。
これによって、凹所50には、軌道輪46と凹所50の底面との間に油圧室51が油密に設けられている。
【0023】
また、入力軸1には軸方向に延在する油路52が設けられており、この油路52の端部は、油圧室51に面する入力軸1の外周面に開口している。したがって、油圧室51に油路52を通して油を供給し、この油圧によって、出力側ディスク3を入力側ディスク2に向けて押圧移動させるようになっている。
つまり、軌道輪46は、玉47、軌道輪35、玉42を介して、受け部材36によって出力側ディスク3から離れる方向(左方)への移動が規制されているので、油圧室51に生じる油圧によって出力側ディスク3が入力側ディスク2に向けて押圧移動するようになっている。
【0024】
このように、本実施の形態では、押圧機構20が出力側ディスク3の背面に設けられた凹所50と、この凹所50に設けられた軌道輪46と、この軌道輪46と凹所50の底面との間に設けられた油圧室51とを備えた構成となっているので、従来のローディングカム機構を構成するカムディスクとカムローラや、従来の油圧ローディング機構を構成するシリンダ等とは異なり、押圧機構20を凹所50に収めることができる。
したがって、従来に比して、バリエータ10の軸方向の寸法を低減できるともに、従来要していたカムディスク、カムローラ、シリンダ等が不要になるので、従来に比して重量を低減できる。
【0025】
なお、本実施の形態では、出力側ディスク3の背面に設けられた凹所50の底面と軌道輪46との間に油圧室51を設けたが、例えば、
図2に示すように、軌道輪46の外径部によって出力側ディスク3の外径部を覆うとともに、これらの間にシール部材53を設けることによって、出力側ディスク3の背面と、軌道輪46との間に油圧室51を油密に設けてもよい。
また、本実施の形態では、遊星歯車機構30のキャリア33を回転可能に支持する軌道輪35を一方の軌道輪とするスラスト軸受45の、他方の軌道輪46を凹所50に設ける構成としたが、凹所50に設ける軌道輪は、スラスト軸受45を構成する軌道輪46に限ることはない。例えば、出力側ディスク3からのスラスト荷重を一方の軌道輪で直接受けるような構成の軸受の他方の軌道輪を凹所50に設ける構成としてもよい。
また、本実施の形態では、出力側ディスク3を押圧機構20によって押圧する場合を例にとって説明したが、トロイダル型無段変速機では、入力側ディスクと出力側ディスクの入出力関係を逆にする場合もある。したがって、本発明は入力側ディスクを押圧機構200によって押圧する場合にも適用できる。
【0026】
さらに、本実施の形態では本発明を、シングルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機に適用した場合を例にとって説明したが、本発明はシングルキャビティ式のフルトロイダル型無段変速機にも適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 入力軸(軸)
2 入力側ディスク(第1ディスク)
3 出力側ディスク(第2ディスク)
4 パワーローラ
20 押圧機構
45 スラスト軸受(軸受)
46 軌道輪
50 凹所
51 油圧室