特許第6582589号(P6582589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6582589-オーディオ機器 図000002
  • 特許6582589-オーディオ機器 図000003
  • 特許6582589-オーディオ機器 図000004
  • 特許6582589-オーディオ機器 図000005
  • 特許6582589-オーディオ機器 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582589
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】オーディオ機器
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20190919BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H04L7/00 410
   H04B1/04 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-121465(P2015-121465)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-11335(P2017-11335A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123940
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 辰一
(72)【発明者】
【氏名】田中 克明
(72)【発明者】
【氏名】飯田 尚
【審査官】 阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−318604(JP,A)
【文献】 特開2011−151675(JP,A)
【文献】 特表2011−525068(JP,A)
【文献】 特開2010−011274(JP,A)
【文献】 特開平04−048839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを経由して接続されたオーディオ機器と、該オーディオ機器に接続されオーディオ信号から音響再生する第1再生部と、前記ネットワーク経由で前記オーディオ機器に無線接続された第2再生部を有するスレーブ機器と、前記ネットワークと異なる第2無線通信で接続されオーディオ信号から音響再生する第3再生部と、からなるシステムで用いられるオーディオ機器であって、
オーディオ信号を入力する信号入力部と、
第1再生部に、前記オーディオ信号を出力する第1出力部と、
第2再生部に、第1遅延時間だけ遅延する前記無線接続を介して前記オーディオ信号を出力する第2出力部と、
第3再生部に、第2遅延時間だけ遅延する前記第2無線通信を介して前記オーディオ信号を出力する第3出力部と、
前記オーディオ信号を一時記憶し、一時記憶した信号を読み出して前記第1出力部、第2出力部および第3出力部に出力するバッファと、
を備え、
前記バッファは、
前記第2出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第2読出位置および前記第3出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第3読出位置を、前記第1出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第1読出位置よりもそれぞれ前記第1遅延時間および第2遅延時間先行させることによって、前記第1再生部、第2再生部および前記第3再生部で同期再生を行う、
オーディオ機器。
【請求項2】
前記バッファは、前記第2遅延時間を前記第1遅延時間と同じとし、前記第3読出位置を前記第2読出位置と共通にして、前記第2読出位置から読み出したバッファ信号を前記第2出力部および前記第3出力部に出力する請求項1に記載のオーディオ機器。
【請求項3】
前記オーティオ信号の出力開始時に、前記バッファは、前記第1遅延時間、第2遅延時間のうち長い方の時間分の無音データを書き込み、該無音データに続けて前記オーディオ信号が最低バッファ分以上バッファされた後、
前記無音データの先頭を前記第1出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第1読出位置として読み出しを開始し、
前記第1読出位置よりも前記第1遅延時間先行した位置を前記第2出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第2読出位置として読み出しを開始し、
前記第1読出位置よりも前記第2遅延時間先行した位置を前記第3出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第3読出位置として読み出しを開始する
請求項1に記載のオーディオ機器。
【請求項4】
前記第1出力部のみにオーディオ信号を読み出しているときに、該オーディオ信号の途中から前記第2出力部に向けた読み出しを開始する場合、
前記第1読出位置よりも先行するオーディオ信号が、前記第1遅延時間以上バッファされている場合、前記第2読出位置を前記第1読出位置よりも前記第1遅延時間先行した位置に設定して第2読出位置からの読み出しを開始し、
前記第1読出位置よりも先行するオーディオ信号のバッファ量が、前記第1遅延時間未満である場合、前記第2読出位置を、バッファしている前記オーディオ信号の最も先行する位置に設定するとともに、第1読出位置を該第2読出位置から前記第1遅延時間遡った位置に移動させ、先の第1読出位置から前記移動した第1読出位置までのバッファエリアに無音データを書き込んで第1および第2読出位置からのバッファ信号の読み出しを開始する
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のオーディオ機器。
【請求項5】
前記第1出力部に向けたバッファは、第1のサンプリングレートを有するオーディオ信号を保持し、前記第2出力部もしくは前記第3出力部に向けたバッファは、前記オーディオ信号がダウンサンプリングされ第2のサンプリングレートを有するオーディオ信号を保持する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のオーディオ機器。
【請求項6】
前記第1のサンプリングレートは、前記第2のサンプリングレートよりも高いことを特徴とする請求項5に記載のオーディオ機器。
【請求項7】
前記オーディオ機器は、ネットワークを介して他のオーディオ機器の再生制御を行い同期再生を行うグループを形成する請求項6に記載のオーディオ機器。
【請求項8】
前記第2出力部または第3出力部に向けたバッファの最低バッファ量を、前記第1出力部へ向けた最低バッファ量よりも少なくすることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のオーディオ機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オーディオ信号を複数の機器で同期して再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタのオーディオ機器で再生されたオーディオ信号を他の複数のオーディオ機器で再生するシステムが提案されている。この場合、マスタの機器から他のオーディオ機器へはそれぞれ異なる伝送手段でオーディオ信号が伝送される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−074374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それぞれ異なる伝送手段は、全て同じ性能であるとは限らなず、たとえば、遅延の大小や伝送レートなどがそれぞれ異なっている場合が多い。このようにそれぞれ異なる複数の伝送手段にオーディオ信号をそのまま入力していたのでは、遅い系統では音が遅れて同期が取れないという問題点がある。また、マスタ、スレーブというグループ管理していない機器との同期再生はできないという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、オーディオ信号の伝送手段の性能に合わせて同期をとることにより、複数のオーディオ機器で同期した再生を可能にすること、および、異メーカ製品などでグループ化できないオーディオ機器においても同期した再生を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオーディオ機器は、ネットワークを経由して接続されたオーディオ機器と、該オーディオ機器に接続されオーディオ信号から音響再生する第1再生部と、ットワーク経由でーディオ機器に無線接続された第2再生部を有するスレーブ機器と、ットワークと異なる第2無線通信で接続されオーディオ信号から音響再生する第3再生部と、からなるシステムで用いられているオーディオ機器である。このオーディオ機器は、オーディオ信号を入力する信号入力部と、第1再生部にケーブルを介してオーディオ信号を出力する第1出力部と、第2再生部にケーブルよりも信号が第1遅延時間だけ遅延する無線接続を介してオーディオ信号を出力する第2出力部と、第3再生部にケーブルよりも信号が第2遅延時間だけ遅延する第2無線通信を介してオーディオ信号を出力する第3出力部と、オーディオ信号を一時記憶し、一時記憶した信号を読み出して第1出力部、第2出力部および第3出力部に出力するバッファと、を備える。バッファは、第2出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第2読出位置および第3出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第3読出位置を、第1出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第1読出位置よりもそれぞれ第1遅延時間および第2遅延時間先行させることによって第1再生部、第2再生部および第3再生部で同期再生を行う。
【0007】
上記発明において、第2遅延時間を第1遅延時間と同じとし、第読出位置を第読出位置と共通にして、第読出位置から読み出したバッファ信号を第出力部および第出力部に出力してもよい。
【0008】
上記発明において、オーティオ信号の出力開始時に、バッファは、第1遅延時間、第2遅延時間のうち長い方の時間分の無音データを書き込み、該無音データに続けてオーディオ信号が最低バッファ分以上バッファされた後、無音データの先頭を第1出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第1読出位置として読み出しを開始し、第1読出位置よりも第1遅延時間先行した位置を第2出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第2読出位置として読み出しを開始し、第1読出位置よりも第2遅延時間先行した位置を第3出力部に向けたバッファ信号の読み出し位置である第3読出位置として読み出しを開始してもよい。
【0009】
上記発明において、第1出力部のみにオーディオ信号を読み出しているときに、そのオーディオ信号の途中から第2出力部に向けた読み出しを開始する場合には以下の処理を行う。第1読出位置よりも先行する(後に読み出される)オーディオ信号が、第1遅延時間Td1以上バッファされている場合、第2読出位置を第1読出位置よりも第1遅延時間Td1先行した位置に設定して第2読出位置からの読み出しを開始する。第1読出位置よりも先行するオーディオ信号のバッファ量が、第1遅延時間Td1未満である場合、第2読出位置をバッファしているオーディオ信号の最も先行する(新しい)位置に設定するとともに、第1読出位置をこの第2読出位置から第1遅延時間Td1遡った位置に移動させ、先の第1読出位置から今回移動した第1読出位置までのバッファエリアに無音データを書き込んで第1および第2読出位置からのバッファ信号の読み出しを開始する。
【0010】
上記発明において、第1出力部に向けたバッファが、第1のサンプリングレートを有するオーディオ信号を保持し、第2出力部もしくは第3出力部に向けたバッファが、オーディオ信号がダウンサンプリングされ第2のサンプリングレートを有するオーディオ信号を保持するようにしてもよい。
上記発明において、第1のサンプリングレートが、第2のサンプリングレートよりも高くてもよい。
上記発明において、オーディオ機器が、ネットワークを介して他のオーディオ機器の再生制御を行い同期再生を行うグループを形成してもよい。
上記発明において、第2出力部または第3出力部に向けたバッファの最低バッファ量を、第1出力部に向けた最低バッファ量よりも少なくしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、グループ化された異なる性能の伝送手段で接続されている複数のオーディオ機器および、グループ化されていない単独接続のオーディオ機器とで同期した再生が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施形態であるオーディオシステムの構成図
図2】同無線オーディオシステムのマスタ機器のブロック図
図3】マスタ機器のバッファの構成図
図4】バッファの読み出し方式を説明する図
図5】バッファの読み出し方式を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1はこの発明の実施形態であるオーディオシステム1の構成図である。また、図2はマスタ機器10のブロック図である。
【0014】
オーディオシステム1は、マスタ機器10、パワードスピーカ11(第1再生部)、および、1台または複数台のスレーブ機器12(第2再生部)を有している。マスタ機器10およびスレーブ機器12は、ネットワーク3を介してコントローラ4によって制御される。マスタ機器10およびスレーブ機器12は、グループ化されており、マスタ機器10で再生されたオーディオ信号が、スレーブ機器12においても同期して放音される。また、マスタ機器10には、一対一通信であるBluetooth(登録商標)でグループ化されていないスピーカ装置(Bluetoothスピーカ)13が接続されている。マスタ機器10は、再生したオーディオ信号をBluetooth経由でスピーカ装置13に送信し、スピーカ装置13もほぼ同期したタイミングでオーディオ信号を放音する。
【0015】
マスタ機器10にはオーディオソース2が供給される。マスタ機器10は、たとえばレシーバであり、入力したオーディオソース2を増幅してパワードスピーカ11に出力する。マスタ機器10とパワードスピーカ11とは、デジタルケーブル等で接続されており、高品質なデジタル信号の伝送が可能である。パワードスピーカ11は、高品質なオーディオ信号を入力してデコードおよびアナログ変換して増幅且つ放音する。また、スレーブ機器12は、たとえばワイヤレススピーカであり、マスタ機器10とは、ネットワーク3経由で接続される。ネットワーク3はWi−Fiなどの無線LANを含んでいる。マスタ機器10からスレーブ機器12へは中程度の品質でオーディオ信号が伝送される。マスタ機器10は、中程度の音質を同期再生を確保するためスレーブ機器12に対して再送制御を行うユニキャスト方式(例えばTCP)でオーディオ信号を伝送する。図1には、スレーブ機器12を2台記載しているが、1台のマスタ機器10に対してスレーブ機器12を9台まで接続可能である。また、マスタ機器10およびスレーブ機器12は、オーディオシステム1以外の機器である(つまりグループ化されていない)スピーカ装置13に対しても、Bluetooth通信を行い、疑似同期のようなオーディオ信号の伝送を行うことができる。ここで、高品質のオーディオ信号とは、例えば192kbps/24ビットの信号であり、中品質のオーディオ信号とは、例えば48kbps/16ビットである。なお、スレーブ機器12に送信する中品質のオーディオ信号とスピーカ装置13に送信する中品質のオーディオ信号は同じものであってもよく、ビットレートや量子化ビット数が異なっていてもよい。
【0016】
オーディオソース2は、たとえばDLNAサーバ、USB接続の記憶メディア(ハードディスク、半導体メモリなど)から供給される。供給されるオーディオソース2のファイル形式は、たとえばFLACファイルなどであり、高品質のオーディオ信号(192kbps/24ビット)の条件を満たすものである。
【0017】
図2は、マスタ機器10であるレシーバのブロック図である。マスタ機器10は、制御部20、デコーダ21、サンプリンレートコンバータ(SRC)22、バッファ23、24、信号出力部25(第1出力部)、および、無線LAN通信部26(第2出力部)を備えている。制御部20は、コントローラ4のコマンドに応じて機器全体を制御する。デコーダ21は、オーディオソース2(FLACファイルなど)を入力してストリーミング信号にデコードする。このストリーミングのオーディオ信号は、高品質(192kbps/24ビット)のものである。デコードされたオーディオ信号はバッファ23に入力されるとともに、サンプリングレートコンバータ22、27に入力される。サンプリングレートコンバータ22は、入力された高品質のオーディオ信号(192kbps/24ビット)を中品質のオーディオ信号(たとえば48kbps/16ビット)に変換する。変換されたオーディオ信号はバッファ24に入力される。また、サンプリングレートコンバータ27は、入力された高品質のオーディオ信号を中品質のオーディオ信号に変換する。変換されたオーディオ信号はバッファ28に入力される。したがって、同程度のオーディオ信号品質変換するのであれば、SRC27の出力をバッファ24に入力し、SRC22を省略しても良い。
【0018】
バッファ23(24、28)は図3に示すように、メモリ230(240、280)、書込制御部231(241、281)、読出制御部232(242、282)を有している。メモリ230(240、280)は、デュアルポートSRAMであり、一方のポートから書込制御部231(241、281)がオーディオ信号の書き込みを行い、もう一方のポートから読出制御部232(242、282)が書き込まれたオーディオ信号を読み出す。書き込みおよび読み出しの手順の詳細は、図4図5を参照して後述する。信号出力部25は、バッファ23から読み出された高品質のオーディオ信号をパワードスピーカ11に向けて出力する。信号出力部25とパワードスピーカ11とはデジタルケーブルで接続されており、遅延のない高品質の信号伝送が可能である。
【0019】
無線LAN通信部26は、バッファ24から読み出された中品質のオーディオ信号をネットワーク3(無線LAN)を経由してスレーブ機器12に送信する。上述したようにスレーブ機器12との通信はユニキャストで行われるため、無線LAN通信部26は、スレーブ機器12の台数分のオーディオ信号をネットワーク3に送出する。このため、ネットワーク3を経由したスレーブ機器12へのオーディオ信号の伝送は、デジタルケーブルを経由したパワードスピーカ11への伝送に対して信号の遅延が発生する。バッファ23,24は、この遅延を吸収してパワードスピーカ11およびスレーブ機器12で同期再生を可能にしている。また、Bluetooth通信部29は、バッファ28から読み出されたオーディオ信号をBluetoothの一対一通信によりスピーカ装置13に送信する。Bluetoothは、プロファイルによって大小はあるものの最大0.2秒程度の遅延が発生する。しかし、この遅延に完全に対応していたのでは、オーディオシステム1全体の動作レスポンスの低下につながる。そこで、オーディオ信号の再生中は、Bluetoothのスピーカ装置13に対応するバッファ28では、パワードスピーカ11に対応するバッファ23の読出位置T1から所定の遅延時間(0.05秒程度)だけずらせた読出位置T3を固定的に設定して遅延を吸収する。一方で、スピーカ装置13が接続された状態でのオーディオ信号の再生開始時、および、スピーカ装置13の途中接続時には、オーディオシステム1の再生に遅延や音切れが発生しないように、バッファ23、24の読出位置に変更を加えず、バッファ28にオーディオ信号が貯まるのを待ってスピーカ装置13への送信を開始するようにしている。
【0020】
バッファ23は高品質のオーディオ信号をバッファするため、メモリ230も大容量である。バッファ24のメモリ240およびバッファ28のメモリ280は、音質にあわせた容量に設定されている。デコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22、27からバッファ23、24、28へは、同じ時刻のオーディオ信号が並行して入力される。デコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22、27の処理速度はオーディオ信号の再生速度よりも速いため、デコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22、27は、バッファ23、24、28のバッファ量を見ながら適宜動作する。例えば、バッファ量が減少すると書込制御部231、241、281がデコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22、27に対してバッファアンダーラン警告を出力し、これに合わせてデコーダ21、サンプリングレートコンバータ22、27が処理を再開する。読出制御部232、242、282は、オーディオ信号の再生速度でオーディオ信号をメモリ230、240、280から読み出し、後段の信号出力部25、無線LAN通信部26およびBluetooth通信部29にそれぞれ出力する。なお、バッファ23、24および28から単位時間あたりに読み出されるデータ量、単位時間の再生のために必要なデータ量は、オーディオ信号のビットレート、量子化ビット数などの違いによりそれぞれ異なるため、書込制御部231、241および281、読出制御部232、242および282は、そのデータの大きさを考慮して、それぞれ異なる書込/読出ポインタ制御を行う。
【0021】
図4図5を参照してバッファ23,24,28にバッファされるオーディオ信号の読み出しの方式について説明する。図4は、読み出し方式の基本形態を示している。バッファ23の読出制御部232は、時刻T1(第1読出位置)のオーディオ信号を読み出している。信号出力部25−パワードスピーカ11の信号伝送系(系統A)はほぼ遅延がないため、T1は、ほぼその時点での放音位置である。すなわち、T1時刻でT1の位置にあるオーディオ信号が再生されて放音されている。一方、バッファ24の読出制御部242は、T1よりもTd1先行する(後で再生される)時刻T2(第2読出位置)のオーディオ信号を読み出している。また、バッファ28の読出制御部282は、T1よりもTd2先行する時刻T3(第3読出位置)のオーディオ信号を読み出している。無線LAN通信部26−スレーブ機器12の信号伝送系(系統B)は、若干の遅延が発生するため、その遅延時間Td1だけ先行したオーディオ信号を読み出してスレーブ機器12に送信することにより、パワードスピーカ11とスレーブ機器12で同期したオーディオ信号の再生が可能になる。すなわち、時刻T2以降で系統Aと系統Bとが揃ってバッファ23、24のT2以降のオーディオ信号を再生する。遅延は、無線LANの輻輳、再送制御、および、廉価なスレーブ機器12のスループットなどによって発生する。また、Bluetooth通信部29−スピーカ装置13の信号伝送系(系統C9 は、Bluetoothはそのプロファイルに応じた遅延が発生するため、その遅延時間Td2だけ先行したオーディオ信号を読み出してスピーカ装置13に送信することにより、スピーカ装置13でパワードスピーカ11、スレーブ機器12とほぼ同期したオーディオ信号の再生が可能になる。すなわち、時刻T3以降で系統A、系統Bおよび系統Cが揃ってバッファ23、24、28のT3以降のオーディオ信号を再生する。同期再生中には、デコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22、27の間欠動作によってバッファ23,24、28のデータバッファ量が変動するが、読出位置T1とT2およびT3の時間差がそれぞれTd1、Td2である状態が維持されて読み出しが継続する。
【0022】
なお、上述したように、オーディオシステム1に外付けされるスピーカ装置13に対しては、オーディオ信号の再生中は遅延を考慮した読出位置T3から読み出されるが、スタート時や途中接続時などはこの系統Cのために特段の処理は行われず、バッファ28に十分なオーディオ信号がバッファされた時点でスピーカ装置13に対する送信が開始される。また、別の方式の処理として、Td1=Td2としてバッファ24から読みだしたオーディオ信号をそのままBluetooth送信部29から送信する、または、バッファ28にバッファ24と同じ制御を行う、などの処理によってグループ化されていないスピーカ装置13に対する処理をグループ化されたスレーブ機器12の制御と同じにし、処理を簡略化してもよい。
【0023】
図5(A)は、同期再生のスタート時の処理を説明する図である。オーディオソース2の再生開始時(例えば、曲の最初)からパワードスピーカ11およびスレーブ機器12で同期再生を行う場合、同図の処理が行われる。(図5(A)の系統Cは遅延時間をTd1からTd2に変更するだけなのでその記載を省略した。)まず、再生開始に先立って、系統Aのバッファ23に遅延時間Td1分の無音データ(0データ)を書き込む。これは曲の先頭で、すなわち、それより前のオーディオ信号が無い時点で系統Aの読出位置T1を系統Bの読出位置T2からTd1遡った位置に同期させるためである。こののち再生開始に必要な最低限のオーディオ信号がバッファされると読出位置T1から無音データの読み出し(再生)がスタートする。B系統のバッファ24はオーディオ信号の先頭から読み出しを開始し、系統Aのバッファ23はそれよりもTd1遡った無音データの先頭から読み出しを開始する。系統Aのパワードスピーカ11は、無音データをTd1時間再生したのち実際のオーディオ信号の先頭が再生される。また、スレーブ機器12ではバッファ24から読み出されたオーディオ信号の先頭が伝送や再生のためにTd1時間遅延して再生が開始される。これにより、パワードスピーカ11とスレーブ機器12でこれ以後同期した再生が行われる。こののち、バッファ28に十分なオーディオ信号がバッファされるとスピーカ装置13でも同期した再生が開始される。
【0024】
図5(B)、(C)は、パワードスピーカ11(系統A)がオーディオ信号を再生していた場合に、途中からスレーブ機器12(系統B)およびスピーカ装置13(系統C)の同期再生を開始させる場合の処理を示している。(図5(B)、(C)の系統Cは遅延時間をTd1からTd2に変更するだけなのでその記載を省略した)図5(B)は、オーディオ信号が十分にバッファされており、パワードスピーカ11での再生を継続しながらスレーブ機器12での同期再生を開始できる場合の読み出し形態を示している。図5(C)は、オーディオ信号のバッファ量が十分でなく、パワードスピーカ11での再生を一時中断してスレーブ機器12との同期再生を開始する場合の読み出し形態を示している。なお、スレーブ機器12の再生が行われていない場合でも、バッファ24にはサンプリングレートコンバータ22からオーディオ信号が継続的に書き込まれており、バッファされたオーディオ信号は読み出されないまま古いものから順に捨てられて(上書きされて)いる。
【0025】
図5(B)においては、信号出力部25からパワードスピーカ11に向けてオーディオ信号を出力しているときに、コントローラ4からスレーブ機器12での再生指示が入力されると、そのときのバッファ23の読出位置を参照し、その位置からTd1分先行する位置から、バッファ24の読み出しを開始する。その読出位置以前のバッファ24のバッファデータは破棄する。バッファ24から読み出されたオーディオ信号がネットワーク3経由でスレーブ機器12に送信されることにより、パワードスピーカ11の再生音が途切れることなく、スレーブ機器12において途中(時刻T2以降)から同期再生が開始される。バッファ28(不図示)においても同様でT1からTd2分先行する位置から、バッファ28の読出しを開始し、その読出し位置以前のデータを破棄する。スレーブ機器12同様、スピーカ装置13でもTd2の時間遅延の後、ほぼ同期した再生が開始される。
【0026】
図5(C)において、信号出力部25からパワードスピーカ11に向けてオーディオ信号を出力している途中でコントローラ4からスレーブ機器12での再生指示が入力されたときのバッファ23、24のバッファ量が、同期再生を開始するための量に不足していた場合には、以下の処理を行う。すなわち、そのときのバッファ23の読出位置T4から、バッファ24においてTd1だけ先行させると最低バッファ分を確保できない場合、バッファ24の読出位置T2(第2読出位置)を最低バッファ位置T2に設定する。そうすると、バッファ23の読出位置は、T2からTd1さかのぼった位置であるT1となるが、その位置のオーディオ信号は既に読み出している。そこで、T4から今回移動させた読出位置T1まで無音データを書き足す。そして、バッファ23,24で読出位置T1,T2から同時に読み出しを開始する。したがって、バッファ23では、最初に、既に再生したT1〜T4の区間を繰り返すための無音データが読み出され、このためパワードスピーカ11では短時間音が途切れる。その後、パワードスピーカ11ではT4〜T2の時間に相当するオーディオ信号が単独で再生され、時刻T2以後パワードスピーカ11、スレーブ機器12で同期して再生が開始される。図5(C)の場合では系統Cの動作はTd1=Td2として扱い、スピーカ装置13でも時刻T2以降パワードスピーカ11とほぼ同期した再生が開始されるものとする。
【0027】
遅延時間Td1は、マスタ機器10に工場出荷時に予め設定されていてもよく、ユーザが再生音を聴きながら同期ずれを推定して設定してもよい。また、マスタ機器10、スレーブ機器12で内部時刻の同期がとれている場合には、オーディオ信号の再生時刻(絶対時刻)をタイムスタンプで付加しておけば、遅延時間Td1の設定は高精度でなくてもよくなる。
【0028】
上記実施形態において、パワードスピーカ11はデジタルケーブルでマスタ機器10に接続されているが、パワードスピーカ11もスレーブ機器12と同様に(スレーブ機器2の一つとして)、ネットワーク3でマスタ機器10に接続されてもよい。
【0029】
図5(C)において、バッファ23,24のバッファ量が不足する場合、バッファ23に無音データを書き込んでいるが、デコーダ21およびサンプリングレートコンバータ22を起動して十分なオーディオ信号のバッファ量がたまってから(図5(B)の状態になってから)同期再生をスタートさせてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 オーディオシステム
10 マスタ機器
11 パワードスピーカ
12 スレーブ機器
13 スピーカ装置
23、24、28 バッファ
図1
図2
図3
図4
図5