(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイヤモンド単結晶は、該ダイヤモンド単結晶の表面に先端半径が50μmのダイヤモンド圧子を100N/minの負荷速度で押し当てる破壊強度試験において、亀裂発生荷重が5N以上である、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のダイヤモンド単結晶。
前記ダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステ
ン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、
前記内包物の含有密度は、20個/mm3以下である、
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のダイヤモンド単結晶。
前記ダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、
前記内包物は、最大差し渡し径が10μm以下である、
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のダイヤモンド単結晶。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。本明細書中においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。
【0013】
本発明の一態様に係るダイヤモンド単結晶は、(1)窒素原子を含むダイヤモンド単結晶であって、
前記窒素原子の濃度は、前記ダイヤモンド単結晶の結晶方位に沿って、周期的に変化し、
前記結晶方位に沿った一周期の距離の算術平均値(Aave)と、最大値(Amax)と、最小値(Amin)とは、下記式(I):
(Amax)/1.25≦(Aave)≦(Amin)/0.75 (I)
の関係を満たす、
ダイヤモンド単結晶である。
【0014】
本発明の一態様に係るダイヤモンド単結晶は、工具に用いた場合に、工具の耐摩耗性および耐欠損性などの機械特性を向上させ、工具寿命を向上させることができる。
【0015】
(2)前記一周期の算術平均値(Aave)は、1μm以上50μm以下であることが好ましい。これによると、工具の耐摩耗性や耐欠損性が向上する。
【0016】
(3)前記ダイヤモンド単結晶は、窒素原子を10ppm以上1000ppm以下の濃度で含有することが好ましい。ダイヤモンド単結晶中の、窒素原子濃度が1000ppmを超えると、ダイヤモンドの特性が著しく低下する。一方、窒素原子濃度が10ppm未満であると、亀裂が伝搬しやすく、十分なクラック伝搬抑制効果が得られない。
【0017】
(4)前記ダイヤモンド単結晶は、ラマン分光におけるラマンシフト1332cm
−1に現れるダイヤモンドフォノンピークの半値全幅が2.2cm
−1以上3.6cm
−1以下であることが好ましい。半値全幅が3.6cm
−1を超えると、ダイヤモンド単結晶中の窒素不純物の含有量が多く、機械的特性や熱的特性が低下する。一方、半値全幅が2.2cm
−1未満であると、ダイヤモンド単結晶中の窒素不純物の含有量が少なく、耐欠損性が低下する。
【0018】
(5)前記ダイヤモンド単結晶は、赤外分光における波数1130cm
−1での吸収係数が0.5cm
−1以上44cm
−1以下であることが好ましい。これによると、孤立置換型で結晶中に導入された窒素不純物がダイヤモンド単結晶の熱的・機械的特性を大きく損なうことなく、ダイヤモンド単結晶を工具材料として好適に使用できる。
【0019】
(6)前記ダイヤモンド単結晶は、X線回折による測定で格子定数が3.56712Å以上3.56755Å以下であることが好ましい。格子定数が3.56755Åを超えると、結晶歪が大きくなりすぎて、ダイヤモンド単結晶の熱的・機械的特性が損なわれる。
【0020】
(7)前記ダイヤモンド単結晶は、該ダイヤモンド単結晶の表面に先端半径が50μmのダイヤモンド圧子を100N/minの負荷速度で押し当てる破壊強度試験において、亀裂発生荷重が5N以上であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶は優れた破壊強度を有し、ダイヤモンド単結晶を工具材料として好適に使用できる。
【0021】
(8)前記ダイヤモンド単結晶は、大きさが0.2カラット以上であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶を耐磨工具や切削工具に用いる場合、ダイヤモンド単結晶から、用途に適する結晶方位を選んで、工具の摺動・切削点となる切れ刃を作製することができ、より良い性能の工具を提供できる。
【0022】
(9)前記ダイヤモンド単結晶は、一組の{100}面で形成される六面体の8箇所の角部のうち、4箇所以上の角部に{111}面が形成された結晶形を有し、{100}面における、3組の互いに平行な面の面間距離の平均値αと、{111}面における、2組以上の互いに平行な面の面間距離の平均値βとの比β/αが、0.8以上1.3以下であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶から、効率的に工具の摺動・切削点となる切れ刃を作製することができ、製造コストを削減できる。
【0023】
(10)前記ダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、前記内包物の含有密度は、20個/mm
3以下であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶を研磨基体へ接合する際に、ダイヤモンド単結晶と基体との熱膨張差によって、ダイヤモンド単結晶が破損することを防止できる。
【0024】
(11)前記ダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、前記内包物は、差し渡し径の最大値が10μm以下であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶を研磨基体へ接合する際に、ダイヤモンド単結晶と基体との熱膨張差によって、ダイヤモンド単結晶が破損することを防止できる。
【0025】
(12)本発明の一態様に係る工具は、上記(1)〜(11)のいずれかに記載のダイヤモンド単結晶を用いた、工具である。本発明の一態様に係る工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有し、工具寿命が優れている。
【0026】
(13)本発明の一態様に係るダイヤモンド単結晶の製造方法は、溶媒金属を用いた温度差法により、ダイヤモンド種結晶上に
ダイヤモンド単結晶を成長させるダイヤモンド単結晶の製造方法であって、ダイヤモンド単結晶合成中の前記溶媒金属中の窒化物の含有率は、0質量%を超え3質量%未満であり、前記溶媒金属の低温部における温度の変化率は、所定温度の1%未満である、ダイヤモンド単結晶の製造方法である。これによると、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有するダイヤモンド単結晶を得ることができる。なお、合成中の前記溶媒金属への窒化物導入方法は、前記溶媒金属に窒化物を添加する方法の他、炭素源に窒化物を添加する方法でもよい。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るダイヤモンド単結晶、工具およびダイヤモンド単結晶の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0028】
[ダイヤモンド単結晶]
本発明の一実施の形態に係るダイヤモンド単結晶について、
図1〜
図4を用いて説明する。
【0029】
ダイヤモンド単結晶は、一組の{100}面で形成される六面体の8箇所の角部のうち、4箇所以上の角部に{111}面が形成された結晶形を有する。具体的には、
図1に示されるように、ダイヤモンド単結晶1は、符号a1,a2、a3で示される面と、これらのそれぞれの面に平行な3面とを含む一組の{100}面で形成される六面体の8箇所の角部が、符号b1,b2,b3,b5で示される面を含む{111}面で切り落とされている形状を有する。
図1に示されるダイヤモンド単結晶1では、六面体の角部の8箇所に{111}面が形成されているが、{111}面の形成される角部の数は、4箇所以上であれば、特に限定されない。
【0030】
ダイヤモンド単結晶は窒素原子を含み、窒素原子の濃度は、ダイヤモンド単結晶の結晶方位に沿って、周期的に変化する。窒素原子の濃度が、ダイヤモンド単結晶の結晶方位に沿って、周期的に変化するとは、ダイヤモンド単結晶の外形を形成する結晶面の面方位に沿って、窒素濃度が周期性を持って摂動によって増減を繰り返すことを意味する。
【0031】
ダイヤモンド単結晶中に取り込まれる窒素不純物の量によって、結晶の硬度や強度が異なることが知られている。ダイヤモンド単結晶内の微視的領域での窒素量の変化に付随して、結晶の機械特性も微視的領域で変化する。ダイヤモンド単結晶内での機械特性の変化は、ダイヤモンド単結晶を工具として使用した際に、摺動部や刃先に発生したチッピングやクラックなどの伝搬方向を変えるため、チッピングやクラックの伝搬を抑止することができる。
【0032】
本実施形態のダイヤモンド単結晶では、窒素原子の濃度は、ダイヤモンド単結晶の結晶方位に沿って変化するため、結晶の機械特性も微視的領域で変化する。したがって、本実施形態のダイヤモンド単結晶は、工具材料として用いた場合に、チッピングやクラック伝搬の抑止効果が高く、工具の耐欠損性や耐摩耗性が向上する。
【0033】
ダイヤモンド単結晶中で、窒素濃度が結晶方位に沿って周期的に変化することは、50倍以上の高倍率の光学顕微鏡や、紫外線を照射することで発生する蛍光を観察する蛍光顕微鏡を用いて確認することができる。具体的には、ダイヤモンド単結晶中で、窒素濃度が結晶方位に沿って周期的に変化している場合、ダイヤモンド単結晶中に結晶面に平行な層構造が、結晶方位に沿って周期的に存在していることを確認できる。
【0034】
図2(a)は、
図1に示されるダイヤモンド単結晶1を、符号a3で示される面の上方から光学顕微鏡で観察した場合の観察像の概略図である。
図2(b)は、
図2(a)に示されるダイヤモンド単結晶1の一部の拡大模式図である。ダイヤモンド単結晶中で、窒素濃度が結晶方位に沿って周期的に変化していると、
図2(a)および
図2(b)に示されるように、ダイヤモンド単結晶の外形を構成する{100}面に略平行な線が、矢印Yで示される<100>方位に沿って周期的に観察される。{100}面に略平行な線は、結晶中に含まれる窒素濃度が周囲と比べて高い場所を示している。したがって、結晶の<100>方位に沿って、{100}面に略平行な線が周期的に存在することは、結晶中の窒素濃度が、<100>方位に沿って、周期的に変化しており、結晶中に周期的層構造が存在していることを示している。なお、ダイヤモンド単結晶中の窒素濃度の変化は、顕微ラマン分光のラマンピークの半値幅や、顕微赤外分光における1130cm
−1での吸収係数の違いによって確認することができる。
【0035】
本実施形態のダイヤモンド単結晶では、窒素原子濃度は、ダイヤモンド単結晶の結晶方位に沿って、周期的に変化し、結晶方位に沿った一周期の距離の算術平均値(Aave)と、最大値(Amax)と、最小値(Amin)とは、下記式(I):
(Amax)/1.25≦(Aave)≦(Amin)/0.75 (I)
の関係を満たす。
【0036】
結晶方位に沿った一周期の距離とは、例えば(100)成長セクタ内に存在する、<100>方位に沿って周期的に観察される、{100}面に略平行な複数の線同士の距離A1,A2,A3,A4,A5を意味する。ここでは(100)成長セクタを例示しているが、結晶方位に沿った一周期の距離とは、これに限定されず、他の結晶成長セクタに含まれる周期的に観察される結晶面に平行な線同士の距離も含むものとして定義する。
図2(a)および
図2(b)では、{100}面に略平行な線は6本描かれているが、{100}面に略平行な線の数は6本に限定されず、複数本以上であれば特に限定されない。
【0037】
一周期の距離の算術平均値(Aave)とは、例えば、{100}面に略平行な線の数がN本(N≧3)の場合は、以下の式(II)によって求められる。
【0038】
Aave=(A1+A2+・・・・+A(N−1))/(N−1) (II)
【0039】
一周期の距離の最大値(Amax)とは、{100}面に略平行な複数の線同士の距離A1,A2,A3,・・・,ANのうち、最も長い距離の値である。一周期の距離の最小値(Amin)とは、{100}面に略平行な複数の線同士の距離A1,A2,A3,・・・,ANのうち、最も短い距離の値である。一周期の距離の算術平均値(Aave)と、最大値(Amax)と、最小値(Amin)とが、上記式(I)の関係を満たすと、ダイヤモンド単結晶を工具として使用した場合に、チッピングやクラックの伝搬を効果的に抑止することができる。
【0040】
一周期の距離の算術平均値(Aave)は、1μm以上50μm以下が好ましい。これによると、チッピングやクラックの伝搬を効果的に抑止することができ、工具の耐摩耗性や耐欠損性が向上する。ダイヤモンド単結晶を細径の伸線ダイスやウォタージェット用オリフィス、精密用切削工具など高精度の加工に適用する場合には、一周期の距離の算術平均値(Aave)は小さい方が好ましく、1μm以上5μm以下が好ましい。
【0041】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、窒素原子を10ppm以上1000ppm以下の濃度で含有することが好ましい。ダイヤモンド単結晶中の窒素原子の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって測定することができる。ダイヤモンド単結晶が、窒素原子を1000ppmを超えて含むと、ダイヤモンドの特性を著しく損なう。一方、窒素原子濃度が10ppm未満であると、亀裂が伝搬しやすく、十分なクラック伝搬抑制効果が得られない。ダイヤモンド単結晶中の窒素原子の濃度は、10ppm以上800ppm
以下がより好ましく、10ppm以上600ppm以下がさらに好ましく、10ppm以上300ppm以下がさらに好ましい。
【0042】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、ラマン分光におけるラマンシフト1332cm
−1に現れるダイヤモンドフォノンピークの半値全幅が2.2cm
−1以上3.6cm
−1以下であることが好ましい。ダイヤモンド単結晶が多量に不純物や欠陥を含むと、結晶性が低下するため、ダイヤモンド本来の優れた熱的または機械的な特性が抑制される。ダイヤモンドの結晶性は、ラマン分光におけるラマンシフト1332cm
−1に現れるダイヤモンドフォノンピークがシャープであるほど良好で、結晶性が低下するほど、ダイヤモンドフォノンピークの半値全幅が増加する。ラマンシフト1332cm
−1に現れるダイヤモンドフォノンピークの半値全幅が3.6cm
−1以下であると、窒素添加による結晶性の低下が、結晶の機械的特性や熱的特性を大きく損なうことがない。一方、窒素などの不純物量が低く、結晶性が極めて高いダイヤモンド単結晶では、周期的構造の効果が発揮されず亀裂伝搬性が高くなりすぎて工具性能を損なうことがある。したがって、ラマンシフト1332cm
−1に現れるダイヤモンドフォノンピークの半値全幅は2.2cm
−1以上が好ましい。
【0043】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、赤外分光における波数1130cm
−1での吸収係数が0.5cm
−1以上44cm
−1以下であることが好ましい。ダイヤモンド結晶中に窒素原子が孤立置換型で導入されている場合、吸光測定を行うと1130cm
−1に吸収が存在する場合がある。透過法で吸光測定を行う場合、ランバート・ベールの吸収則より試料厚みを理論的に補正する方法が知られているが、同一物質間であっても大幅に吸光度が異なる材質間で正確な吸収係数を求めるためには、試料厚さを揃えて測定する必要がある。また、ダイヤモンド単結晶の赤外域での不純物や欠陥による吸収を議論する場合、ダイヤモンド固有の2フォノンによる吸収との相対比較が重要になる。試料が厚すぎるとスペクトルにおける2フォノンによる吸収がサチュレーションしてしまい、正確に比較することができなくなるため、適当な試料厚みに整えて測定する必要がある。
【0044】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、赤外分光における波数1130cm
−1での吸収係数が0.5cm
−1以上44cm
−1以下の範囲にあれば、結晶中に孤立置換型で導入された窒素がダイヤモンドの熱的・機械的特性を大きく損なうことがなく、ダイヤモンド単結晶を工具材料として好適に使用できる。吸収係数は36cm
−1以下であることが好ましく、27cm
−1以下がより好ましく、14cm
−1以下がさらに好ましい。
【0045】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、格子定数が3.56712Å以上3.56755Å以下であれば、結晶歪が大きくなりダイヤモンド単結晶の熱的・機械的特性を損なうことなく、工具材料として好適に使用できる。
【0046】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、該ダイヤモンド単結晶の表面に先端半径Rが50μmのダイヤモンド圧子を100N/minの負荷速度で押し当てる破壊強度試験において、亀裂発生荷重が5N以上であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶は優れた破壊強度を有し、ダイヤモンド単結晶を工具材料として好適に使用できる。
【0047】
破壊強度試験の具体的な方法は、以下のとおりである。まずR50μmのダイヤモンド圧子を試料にあてがい、100N/minの速度で圧子に荷重をかけていき、試料に亀裂が発生した瞬間の荷重(亀裂発生荷重)を測定する。亀裂が発生する瞬間はAEセンサーで測定する。亀裂発生荷重が大きいほどダイヤモンド単結晶の強度が高いことを示している。測定圧子としてR50μmよりも小さい圧子を用いると、亀裂が発生する前に試料が塑性変形してしまい、亀裂に対する正確な強度を測定できない。また、R50μmよりも大きい圧子を用いても測定は可能だが、亀裂発生までに要する荷重が大きくなる上、圧子と試料の接触面積が大きくなり、試料の表面精度による測定精度への影響や、単結晶の結晶方位の影響が顕著になるなどの問題がある。したがって、ダイヤモンド単結晶の破壊強度試験ではR50μmの圧子を用いることが望ましい。
【0048】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、大きさが0.2カラット(ct)以上であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶を耐磨工具や切削工具に用いる場合、ダイヤモンド単結晶から、効率的に工具の摺動・切削点となる切れ刃を作製することができ、製造コストを削減できる。ダイヤモンド単結晶は、大きさが0.74カラット以上であることがさらに好ましい。
【0049】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、一組の{100}面で形成される六面体の8箇所の角部のうち、4箇所以上の角部に{111}面が形成された結晶形を有し、{100}面における、3組の互いに平行な面の面間距離の平均値αと、{111}面における、2組以上の互いに平行な面の面間距離の平均値βとの比β/αが、0.8以上1.3以下であることが好ましい。これによると、ダイヤモンド単結晶を耐磨工具や切削工具に用いる場合、ダイヤモンド単結晶から、効率的に工具の摺動・切削点となる切れ刃を作製することができ、製造コストを削減できる。面間距離の平均値αと面間距離の平均値βとの比β/αの値は、0.9以上1.2以下がさらに好ましい。
【0050】
図3は、一組の{100}面で形成される六面体の8箇所の角部に{111}面が形成された結晶形を有するダイヤモンド単結晶21を示す。
図4は、
図3のダイヤモンド単結晶をX−X線で切断した断面図である。ダイヤモンド単結晶21において、{100}面における、3組の互いに平行な面の面間距離の平均値αとは、符号a1で示される面と、これに平行な面との距離D
1、符号a2で示される面と、これに平行な面との距離D
2、符号a3で示される面と、これに平行な符号a6で示される面との距離D
3の算術平均値を意味する。{111}面における、2組以上の互いに平行な面間距離の平均値βとは、符号b1で示される面と、これに平行な符号b7で示される面との距離D
5、符号b2で示される面と、これに平行な面との距離D
6(図示せず)、符号b3で示される面と、これに平行な面との距離D
7(図示せず)と、符号b4で示される面と、これに平行な符号b5で示される面との距離D
4の算術平均値を意味する。
【0051】
図3に示されるダイヤモンド単結晶21は、六面体の8箇所の角部に{111}面が形成されているため、{111}面において4組の平行な面が存在する。したがって、面間距離の平均値βとは、4つの面間距離D4,D5,D6,D7の平均値を意味する。六面体の6箇所の角部に{111}面が形成されている場合は、3組の平行な面が存在し、面間距離の平均値βとは、3つの面間距離の平均値を意味する。六面体の4箇所の角部に{111}面が形成されている場合は、2組の平行な面が存在し、面間距離の平均値βとは、2つの面間距離の平均値を意味する。
【0052】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、前記内包物の含有密度は、20個/mm
3以下である、ことが好ましい。
【0053】
本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素、これらの元素を2種以上含む1種以上の合金、これらの元素からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素(C)または酸素(O)との化合物、およびこれらの複合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む内包物を含有し、前記内包物は、差し渡し径の最大値が10μm以下であることが好ましい。差し渡し径とは、ある大きさ、形を持つ単結晶内に引くことのできる最大の直線の長さのことである。
【0054】
金属溶媒中でダイヤモンド結晶を成長させる合成方法においては、金属溶媒または金属溶媒中に含まれる金属(Ti,V,Cr,Mn,Fe,Ni,Co,Cu,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Hf,Ta,W,Os,Ir,Ptなど)の単体、合金、さらにこれらの炭化物や酸化物が結晶中に内包されることがある。内包物の含有密度や大きさが大きいと、ダイヤモンド単結晶を研磨基体へ接合する際に、ダイヤモンド単結晶と研磨基体との熱膨張差によってダイヤモンド単結晶が破損するおそれがあり、実用上の問題がある。ダイヤモンド単結晶は10μm以上のサイズを有する内包物を含まないことが好ましい。ダイヤモンド単結晶中の内包物の含有密度は、20個/mm
3以下が好ましく、実質的に結晶中に内包物が含まれないことがより好ましい。
【0055】
[工具]
本発明の一実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、耐欠損性や耐摩耗性に優れ、結晶内の性能バラつきが低く、品質が安定しており、様々な用途に適用できる。例えば、ドレッサー、伸線ダイス、スクライブツール、ウォタージェット用オリフィスなどの耐磨工具や切削工具の材料として用いることができる。本発明の一態様に係るダイヤモンド単結晶を用いた工具は、従来の合成ダイヤモンド単結晶及び、天然ダイヤモンド単結晶やダイヤモンド焼結体から作製されたものに比べて、長時間安定した加工を行うことができ、優れた工具寿命を有する。
【0056】
[ダイヤモンド単結晶の製造方法]
本発明の一実施の形態に係るダイヤモンド単結晶は、例えば、
図5に示される構成を有する試料室を用いて、温度差法で作製することができる。
【0057】
図5に示されるように、本実施の形態に係るダイヤモンド単結晶の製造に用いる試料室10では、黒鉛ヒータ7で囲まれた空間内に絶縁体2、炭素源3、溶媒金属4、種結晶5が配置され、黒鉛ヒータ7の外部には圧力媒体6が配置される。温度差法とは、試料室10の内部で縦方向の温度勾配を設け、高温部(T
high)に炭素源3、低温部(T
low)にダイヤモンドの種結晶5を配置し、炭素源3と種結晶5との間に溶媒金属4を配して、この溶媒金属4が溶解する温度以上でダイヤモンドが熱的に安定になる圧力以上の条件に保持して種結晶5上にダイヤモンド単結晶を成長させる合成方法である。
【0058】
炭素源3としては、ダイヤモンド粉末を用いることが好ましい。
溶媒金属4としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)などから選ばれる1種以上の金属またはこれらの金属を含む合金を用いることができる。溶媒金属4は、さらに、窒化アルミニウム、窒化鉄、窒化ケイ素の単体や混合粉末を含んでいてもよい。また、窒化銅(CuN)、窒化鉄(Fe
2N,Fe
3N)、窒化チタン(TiN)などの無機窒素化合物やメラミン、アジ化ナトリウムなどの有機窒素化合物を単体又は混合体として添加しても構わない。溶媒金属4は、さらに、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の元素を含んでいてもよい。
【0059】
金属溶媒4中の窒化物の含有量は、0質量%を超え、3質量%未満である。これによると、以下に詳述する条件で結晶を合成した場合に、ダイヤモンド結晶中に窒素が周期性を以て取り込まれるという効果を得ることができる。
【0060】
ダイヤモンド単結晶の合成時において、前記溶媒金属の低温部における温度の変化率は、所定温度の1%未満である。ここで、溶媒金属4の低温部における温度とは、種結晶5近傍(
図5の(T
low)で示される箇所)の溶媒金属4の温度を意味する。所定温度とは、溶媒金属4の低温部の制御温度を意味する。例えば、溶媒金属の低温部の温度を1300℃に制御した場合、1300℃が所定温度であり、所定温度の1%とは13℃である。したがって、この場合は、溶媒金属の低温部における温度は、1300℃±13℃の範囲、すなわち1287℃より高く、1313℃未満の範囲で制御することが必要となる。このように、溶媒金属の低温部における温度の変化率を、所定温度の1%未満に制御することで、ゆらぎによる自然摂動効果により、ダイヤモンド単結晶内に、窒素が周期性をもって取り込まれるため、ダイヤモンド単結晶中に周期性を有する層構造が形成される。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0062】
<ダイヤモンド単結晶の合成>
[試料1]
ダイヤモンド単結晶の合成は、
図5に示される構成を有する試料室を用いて、温度差法により行った。
【0063】
溶媒金属は、鉄−コバルト−ニッケルからなる合金を用い、該合金の100重量部に対して、窒化アルミニウム(AlN)、窒化鉄(FeN)及び、窒化ケイ素(SiN)の混合粉末を0.01重量部添加し、作製した。
【0064】
炭素源にはダイヤモンドの粉末、種結晶には約0.5mgのダイヤモンド単結晶を用いた。試料室内の温度を、炭素源の配置された高温部と、種結晶の配置された低温部との間に、数十度の温度差がつくように加熱ヒータで調整した。これに、超高圧発生装置を用いて、圧力5.5GPa、低温部の温度を1370℃±10℃(1360℃〜1380℃)の範囲で制御して60時間保持し、種結晶上にダイヤモンド単結晶を合成した。
【0065】
[試料2〜試料12]
溶媒金属の原料組成、低温部の温度および制御範囲を表1に示す数値に変更した他は、試料1と同様の方法で、ダイヤモンド単結晶を合成した。
【0066】
【表1】
【0067】
<ダイヤモンド単結晶の評価>
得られたダイヤモンド単結晶について、結晶の観察、内包物の観察、窒素濃度の測定、ラマン分光分析、赤外分光分析、格子定数測定、破壊強度試験を行った。
【0068】
(結晶の観察)
試料1〜試料11のダイヤモンド単結晶は、いずれも、約0.5〜2.5カラットであり、窒素を結晶内に含むIb型ダイヤモンド単結晶であった。試料12のダイヤモンド単結晶は、0.15カラットであり、窒素を結晶内に含むIb型ダイヤモンド単結晶であった。
【0069】
試料1〜試料12のダイヤモンド単結晶は、いずれも、互いに直交する6つの(100)面で形成される六面体の8箇所の角部に、(100)面と54.7°の角度をなす(111)面が形成された6−8面体結晶と呼ばれる結晶であった。
【0070】
試料1〜試料10及び試料12のダイヤモンド単結晶の内部を、50倍の倍率の光学顕微鏡で観察すると、<100>方向に沿って一定周期の周期構造が認められた。さらに、200倍の倍率の光学顕微鏡で観察して、<100>方向に沿った1周期の距離を測定し、算術平均値(Aave)と、最大値(Amax)と、最小値(Amin)を算出した。結果を表1に示す。
【0071】
試料11のダイヤモンド単結晶の内部を、50倍の倍率の光学顕微鏡で観察したところ、周期構造は認められなかった。
【0072】
試料1〜試料12のダイヤモンド単結晶において、互いに平行な3組の(100)面の面間距離と、互いに平行な4組の(111)面の面間距離を計測した。3組の(100)面の面間距離の平均値αと、4組の(111)面の面間距離の平均値βとの比β/αを算出した。結果を表1に示す。
【0073】
(内包物の観察)
各試料のダイヤモンド単結晶の内部を、30倍の倍率の光学顕微鏡で観察し、内包物の有無を確認した。内包物が認められた結晶については200倍の倍率の光学顕微鏡で詳細に観察し、内包物の差し渡し径、及び個数を計測した。結果を表1に示す。
【0074】
(窒素濃度の測定)
各試料のダイヤモンド単結晶中の窒素濃度をSIMS分析により求めた。結果を表1に示す。
【0075】
(ラマン分光分析)
各試料について、波長532nmのレーザーを励起光として、室温でラマン分光分析を行った。0.25cm
−1以下の波数分解能を持つ分光器でスペクトル解析を行って得られたダイヤモンドフォノンピークに、ローレンツ関数とガウス関数の複合関数を最小二乗法でフィッティングし、ピークの半値全幅を求めた。結果を表1に示す。
【0076】
(赤外分光分析)
各試料の光を透過させる2面を鏡面に研磨した後、フーリエ変換赤外分光光度計により、赤外領域での吸光度測定を行い、波数1130cm
−1における吸光係数を求めた。
【0077】
(格子定数測定)
各試料について、放射光を用いたX線構造解析を行い、格子定数を求めた。
【0078】
(破壊強度試験)
R50μmのダイヤモンド圧子を準備し、室温(23℃)で、100N/minの速度で各試料に荷重をかけていき、亀裂が発生した瞬間の荷重(N)を測定した。亀裂が発生する瞬間はAEセンサーで測定した。亀裂発生荷重が大きいほど、試料の強度が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0079】
<工具の性能評価>
得られたダイヤモンド単結晶を用いて各種工具を作製し、性能を評価した。なお、試料9は結晶サイズの制限で、スクライブホイールを作製することができなかった。更に結晶サイズが0.15ctと小さい試料12は、ダイス以外の工具は作製できなかった。
【0080】
(ドレッサー工具)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、ドレッサーとして作用する部分の幅が1.5mmのドレッサー工具を作製した。アルミナなどの硬質粒子を用いた砥石の成型に使用し、ドレッサー工具の寿命を評価した。砥石成型の評価条件は、砥石回転速度2200rpm、送り速度120mm/min、砥石への切り込み量0.05mmとした。工具のダイヤモンド結晶の摩耗が進み、砥石の成型が進まなくなる状態に達するまでにドレッサーとして使用した時間を測定し、工具寿命とした。
【0081】
表1には、試料6から作製された工具の工具寿命を基準(1)として、各試料から作製された工具の工具寿命を相対値で示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0082】
試料1〜6から作製した工具の寿命は、周期構造のばらつきが大きい試料9、窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具に比べ、2倍以上となった。また、試料1〜6から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0083】
ドレッサー工具として使用する場合、耐摩耗性が高い結晶面方位を工具として使用する必要がある。(111)面の面間距離と(100)面の面間距離との比(β/α)が0.8以上1.3以下である試料1〜6のダイヤモンド単結晶は、0.75−1.0ctの結晶からドレッサー工具を作製することができた。一方、(100)面の面間距離が短い平板状となる試料11と、(111)面の面間距離が短い試料10のダイヤモンド単結晶では、上述の形状のドレッサー工具を作製するために大きな結晶が必要であり、コスト高となった。
【0084】
(伸線ダイス)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、直径(φ)0.05mmの細径伸線用のダイスを作製し、Cu線の伸線評価を行った。ダイヤモンド単結晶の摩耗によって伸線径がφ0.055mmを超える、または、真円度が5μmを超えるまでのCu線の線引時間を測定し、工具寿命とした。
【0085】
表1には、試料6から作製された工具の工具寿命を基準(1)として、各試料から作製された工具の工具寿命を相対値で示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0086】
試料1〜6及び12から作製した工具の寿命は、周期構造のばらつきが大きい試料9及び10、窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具に比べ、2倍以上となった。また、試料1〜6及び12から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0087】
(スクライブツール)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、4ポイントのスクライブツールを作製し、サファイヤ基板を相手材として荷重50g、スクライブ速度1cm/min、スクライブ距離1mで摩耗試験を行い、耐摩耗性を評価した。
【0088】
表1には、試料6から作製された工具の摩耗量と、各試料から作製された工具の摩耗量との比(試料6の摩耗量/各試料の摩耗量)を、耐摩耗性の指標として示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0089】
試料1〜6から作製した工具の寿命は、周期構造のばらつきが大きい試料9及び10、窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具に比べ、1.5倍以上となった。また、試料1〜6から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0090】
(切削工具)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、先端角90°で先端R100nmの切削工具を作製した。ニッケルリンをメッキした金属板を相手材として、切削速度100m/minで深さ15μm×30μmピッチの溝加工を実施し、先端が1.5μm摩耗するまでの時間を工具寿命とした。
【0091】
表1には、試料6から作製された工具の工具寿命を基準(1)として、各試料から作製された工具の工具寿命を相対値で示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0092】
試料1〜6から作製した工具の耐摩耗性は、周期構造のばらつきが大きい試料9及び10、窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具に比べ、2倍以上となった。また、試料1〜6から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0093】
(スクライブホイール)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、直径3mm、厚さ0.8mm、刃先開角度120°のスクライブホイールを製作した。ガラス基板を相手材としてスクライブし、スクライブ可能距離を測定し、工具寿命とした。
【0094】
表1には、試料6から作製された工具の工具寿命を基準(1)として、各試料から作製された工具の工具寿命を相対値で示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0095】
試料1〜6から作製した工具の寿命は、周期構造のばらつきが大きい試料9及び10から作製した工具に比べ、2倍以上となった。また、試料1〜6から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0096】
窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具は、スクライブホイール作製中に結晶が破損し、評価できなかった。
【0097】
(ウォタージェット用オリフィス)
各試料のダイヤモンド単結晶を用いて、オリフィス穴径がφ150μm、高さが5mmのウォタージェット用オリフィスを製作した。ウォタージェット用オリフィスを用いてウォタージェット切断を行い、オリフィスの穴径がφ250μmに広がるまでの時間を測定し、工具寿命とした。
【0098】
表1には、試料6から作製された工具の工具寿命を基準(1)として、各試料から作製された工具の工具寿命を相対値で示す。値が大きいほど、工具寿命が優れている。
【0099】
試料1〜6から作製した工具の寿命は、周期構造のばらつきが大きい試料9及び10から作製した工具に比べ、2倍以上となった。また、試料1〜6から作製した工具は、周期構造の間隔が広い試料7、間隔が狭い試料8に比べても高い工具寿命を示した。
【0100】
窒素量が少なく結晶内に30μm程度の内包物が見られた試料11から作製した工具は、ウォタージェット作製中に結晶が破損し、評価できなかった。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。