特許第6582652号(P6582652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582652
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   C09K3/18 102
   C09K3/18 104
【請求項の数】33
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2015-139804(P2015-139804)
(22)【出願日】2015年7月13日
(65)【公開番号】特開2017-19948(P2017-19948A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 康雄
(72)【発明者】
【氏名】能勢 雅聡
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−137027(JP,A)
【文献】 特表2008−534696(JP,A)
【文献】 特開2014−194530(JP,A)
【文献】 特開平07−242737(JP,A)
【文献】 特開2014−021316(JP,A)
【文献】 特開2016−056293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A1)、(B1)、および(C1)
【化1】
[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、(−SiR3−n)単位毎に独立して、0〜3の整数であり;
ただし、式(A1)、および(B1)において、少なくとも1つのRが存在し;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり;
αは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR717273を表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
a’は、Rと同意義であり;
中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、一のRにおいて、p、qおよびrの和は3であり、式(C1)において、少なくとも1つのR72が存在し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
ただし、γを付して括弧でくくられた単位において、k、lおよびmの和は3である。]
のいずれかで表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、
および
下記式(S):
SiR51614−n (S)
[式中:
51は、それぞれ独立して、CH=CH−、CH=CHCH−、HSCHCHCH、HNCHCHNHCHCHCH、CH=C(CH)C(O)OCHCHCH
【化2】
であり;
61は、それぞれ独立して、加水分解性基であり;
nは0〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のシラン化合物を含み、
前記パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と、前記式(S)で表されるシラン化合物との質量比が、100:1〜10000:1である表面処理剤。
【請求項2】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
PFPEが、以下の式(i)〜(iv)のいずれか:
−(OCFCFCF− (i)
[式中、bは1〜200の整数である。]
−(OCF(CF)CF− (ii)
[式中、bは1〜200の整数である。]
−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF− (iii)
[式中、aおよびbは、それぞれ独立して、0または1〜30の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1〜200の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
または
−(OC−Rn”− (iv)
[式中、Rは、OC、OCおよびOCから選択される基であり;
n”は、2〜100の整数である。]
で表される基である、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
PFPEが、以下の式(iii):
−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF− (iii)
[式中、aおよびbは、それぞれ独立して、0または1〜30の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1〜200の整数であり、c/d比が、0.2以上1.5以下であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される基である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
、XおよびXが、それぞれ独立して、2〜4価の有機基であり、α、βおよびγが、それぞれ独立して、1〜3であり、α’、β’およびγ’が1である、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
、XおよびXが2価の有機基であり、α、βおよびγが1であり、α’、β’およびγ’が1である、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
、XおよびXが、それぞれ独立して、−(R31p’−(Xq’
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−(式中、s’は、1〜20の整数である)またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
は、−(Xl’−(式中、l’は、1〜10の整数である)を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−Si(R33−、−(Si(R33O)m’−Si(R33−(式中、m’は1〜100の整数である)、−CONR34−、−O−CONR34−、−NR34−および−(CHn’−(式中、n’は1〜20の整数である)からなる群から選択される基を表し;
33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し;
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
p’は、0または1であり;
q’は、0または1であり;
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
31およびXは、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。]
で表される基である、請求項6に記載の表面処理剤。
【請求項8】
、XおよびXが、それぞれ独立して:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)2Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化3】

からなる群から選択される、請求項6または7に記載の表面処理剤。
【請求項9】
が、−O−CFR13−(CF−であり、
13が、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し、
eが、0または1である、
請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項10】
が、−(CH−であり、
sが、0〜2の整数である、
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項11】
kが3であり、R中、qが3である、請求項1〜10のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項12】
、XおよびXが、それぞれ独立して、3〜10価の有機基である、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項13】
、XおよびXが、それぞれ独立して:
【化4】
[式中、各基において、Tのうち少なくとも1つは、式(A1)、(B1)、および(C1)においてPFPEに結合する以下の基:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CFO(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH4−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化5】
であり、
別のTのうち少なくとも1つは、式(A1)、(B1)、および(C1)において炭素原子またはSi原子に結合する−(CH−(nは2〜6の整数)であり、残りは、それぞれ独立して、メチル基、フェニル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6のアルキル基であり、
42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6のアルキル基またはC1−6のアルコキシ基を表す。]
からなる群から選択される、請求項12に記載の表面処理剤。
【請求項14】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、式(A1)で表される少なくとも1種の化合物である、請求項1〜13のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項15】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、式(B1)で表される少なくとも1種の化合物である、請求項1〜13のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項16】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、式(C1)で表される少なくとも1種の化合物である、請求項1〜13のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項17】
61が、それぞれ独立して、−OR62、−OCOR62、−O−N=CR62、−ONR、−NR62または−NR62−CO−R62であり;
62が、水素原子または炭素数1〜6個のアルキル基であり;
nが1または2である、
請求項1〜16のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項18】
式(S)で表されるシラン化合物が、下記化合物:
Si(OC
CH=CHSi(OCH
CH=CHSi(OCOCH
HSCHCHCHSi(OCH
NCHCHNHCHCHCHSi(OCH
NCHCHNHCHCHCHSi(CH)(OCH
CH=C(CH)C(O)OCHCHCHSi(OCH
CH=C(CH)C(O)OCHCHCHSi(OCHCHOCH
【化6】
ら選択される、請求項1〜17のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項19】
さらに溶媒を含む、請求項1〜18のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項20】
溶媒が、ハイドロフルオロエーテル系溶媒である、請求項19に記載の表面処理剤。
【請求項21】
ハイドロフルオロエーテル系溶媒が、COCH、COCまたはCFCHOCFCHFである、請求項20に記載の表面処理剤。
【請求項22】
式(S)で表されるシラン化合物の濃度が、表面処理剤全体中、0.0001質量%〜1質量%である、請求項1〜21のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項23】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項1〜22のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項24】
含フッ素オイルが、式(3):
21−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−R22
・・・(3)
[式中:
21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
22は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項23に記載の表面処理剤。
【請求項25】
含フッ素オイルが、式(3a)または(3b):
21−(OCFCFCFb’’−R22 ・・・(3a)
21−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−R22 ・・・(3b)
[式中:
21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
22は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;
式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’は、それぞれ独立して1以上300以下の整数であり;
添字a’’、b’’、c’’またはd’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項23または24に記載の表面処理剤。
【請求項26】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項1〜25のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項27】
真空蒸着用である、請求項1〜26のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項29】
基材と、該基材の表面に、請求項1〜27のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項30】
基材がガラスまたはサファイアガラスである、請求項29に記載の物品。
【請求項31】
ガラスが、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラスおよび石英ガラスから成る群から選択されるガラスである、請求項30に記載の物品。
【請求項32】
前記物品が光学部材である、請求項29〜31のいずれかに記載の物品。
【請求項33】
前記物品がディスプレイである、請求項29〜32のいずれかに記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、具体的には、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素シラン化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築部材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素シラン化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている。例えば、特許文献1および2には、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/07155号
【特許文献2】特表2008−534696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を基材に適用した場合、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物のシラン部位が加水分解し、基材表面に存在する反応性基との間で反応する。その結果、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物と基材との間で結合が形成され、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が基材上に固定される。しかしながら、本発明者らは、貯蔵の間に一部のシラン部位が加水分解し、他の分子と結合するなどしてシラン部位の反応性が失われると、基材表面に適用した場合に基材上の反応性基と反応せず、得られた表面処理層の摩擦耐久性などの機能が低下する虞があることに気付いた。
【0006】
本発明は、保存安定性に優れたパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記の課題は表面処理剤中の水分を可能な限り低減することによって解消できることを見出し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤に、表面処理剤中の水分を補足するシラン化合物を含有せしめることにより、表面処理剤の保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1の要旨によれば、下記一般式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2):
【化1】
[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、(−SiR3−n)単位毎に独立して、0〜3の整数であり;
ただし、式(A1)、(A2)、(B1)および(B2)において、少なくとも1つのRが存在し;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり;
αは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR717273を表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
a’は、Rと同意義であり;
中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、一のRにおいて、p、qおよびrの和は3であり、式(C1)および(C2)において、少なくとも1つのR72が存在し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
ただし、γを付して括弧でくくられた単位において、k、lおよびmの和は3である。]
のいずれかで表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、
および
下記式(S):
SiR51614−n
[式中:
51は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基であるか、あるいは2つのR51が、=CR57を構成してもよく;
57は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基であり;
61は、それぞれ独立して、加水分解性基であり;
nは0〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のシラン化合物を含む表面処理剤が提供される。
【0009】
本発明の第2の要旨によれば、上記表面処理剤を含有するペレットが提供される。
【0010】
本発明の第3の要旨によれば、基材と、該基材の表面に、上記表面処理剤より形成された層とを含む物品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤に、さらに加水分解性基を有するシラン化合物を配合することにより、保存安定性に優れた表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の表面処理剤について説明する。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基であって、炭化水素から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基および5〜10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「有機基」とは、炭素を含有する基を意味する。有機基としては、特に限定されないが、炭化水素基であり得る。また、「2〜10価の有機基」とは、炭素を含有する2〜10価の基を意味する。かかる2〜10価の有機基としては、特に限定されないが、炭化水素基からさらに1〜9個の水素原子を脱離させた2〜10価の基が挙げられる。例えば、2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0016】
本発明の表面処理剤は、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2):
【化2】
のいずれかで表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む。
【0017】
以下、上記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物について説明する。
【0018】
式(A1)および(A2):
【化3】
【0019】
上記式中、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−であり、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数、例えば1〜200の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数である。また、好ましくは、a、b、cおよびdの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0020】
一の態様において、PFPEは、−(OC−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)であり、好ましくは、−(OCFCFCF−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または−(OCF(CF)CF−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)であり、より好ましくは−(OCFCFCF−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0021】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。一の態様において、PFPEは、−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0022】
一の態様において、上記−(OC−(OC−(OC−(OCF−において、dに対するcの比(以下、「c/d比」という)の下限は、0.2、好ましくは0.3であり、c/d比の上限は、1.5、好ましくは1.3、より好ましくは1.1、さらに好ましくは0.9であり得る。c/d比を1.5以下にすることにより、この化合物から得られる表面処理層の滑り性および摩擦耐久性がより向上する。c/d比がより小さいほど、表面処理層の滑り性および摩擦耐久性はより向上する。一方、c/d比を0.2以上にすることにより、化合物の安定性をより高めることができる。c/d比がより大きいほど、化合物の安定性はより向上する。
【0023】
さらに別の態様において、PFPEは、−(OC−Rn”−で表される基である。式中、Rは、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記n”は、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OCおよびOCは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OCn”−または−(OC−OCn”−である。
【0024】
上記式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表す。
【0025】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基における「炭素数1〜16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0026】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。
【0027】
該炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0028】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0029】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0030】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、−OR、−OCOR、−O−N=CR、−NR、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは−OR(即ち、アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0031】
上記式中、R11は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、好ましくはヨウ素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0032】
上記式中、R12は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0033】
上記式中、nは、(−SiR3−n)単位毎に独立して、0〜3の整数であり、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0である。ただし、式中、すべてのnが同時に0になることはない。換言すれば、式中、少なくとも1つはRが存在する。
【0034】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(即ち、Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供するシラン部(即ち、αを付して括弧でくくられた基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0035】
上記式中、αは1〜9の整数であり、α’は1〜9の整数である。これらαおよびα’は、Xの価数に応じて変化し得る。式(A1)においては、αおよびα’の和は、Xの価数と同じである。例えば、Xが10価の有機基である場合、αおよびα’の和は10であり、例えばαが9かつα’が1、αが5かつα’が5、またはαが1かつα’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、αおよびα’は1である。式(A2)においては、αはXの価数から1を引いた値である。
【0036】
上記Xは、好ましくは2〜7価であり、より好ましくは2〜4価であり、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0037】
一の態様において、Xは2〜4価の有機基であり、αは1〜3であり、α’は1である。
【0038】
別の態様において、Xは2価の有機基であり、αは1であり、α’は1である。この場合、式(A1)および(A2)は、下記式(A1’)および(A2’)で表される。
【化4】
【0039】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
−(R31p’−(Xq’
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHs’−であり、
s’は、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
は、−(Xl’−を表し、
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−Si(R33−、−(Si(R33O)m’−Si(R33−、−CONR34−、−O−CONR34−、−NR34−および−(CHn’−からなる群から選択される基を表し、
33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し、好ましくはフェニル基またはC1−6アルキル基であり、より好ましくはメチル基であり、
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
m’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜100の整数、好ましくは1〜20の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
l’は、1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基が挙げられる。ここに、R31およびX(典型的にはR31およびXの水素原子)は、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0040】
好ましくは、上記Xは、−(R31p’−(Xq’−R32−である。R32は、単結合、−(CHt’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHt’−である。t’は、1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。ここに、R32(典型的にはR32の水素原子)は、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0041】
好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−R31−X−R32−、または
−X−R32
[式中、R31およびR32は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0042】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−X−、
−(CHs’−X−(CHt’
−X−、または
−X−(CHt’
[式中、s’およびt’は、上記と同意義である。]
である。
【0043】
上記式中、Xは、
−O−、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR34−、
−O−CONR34−、
−Si(R33−、
−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−O−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−O−(CHu’−Si(R33−O−Si(R33−CHCH−Si(R33−O−Si(R33−、
−O−(CHu’−Si(OCHOSi(OCH−、
−CONR34−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−CONR34−(CHu’−N(R34)−、または
−CONR34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R33
[式中、R33、R34およびm’は、上記と同意義であり、
u’は1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]を表す。Xは、好ましくは−O−である。
【0044】
上記式中、Xは、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR34−、
−CONR34−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−CONR34−(CHu’−N(R34)−、または
−CONR34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R33
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
を表す。
【0045】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−X−(CHt’−、または
−X−(CHt’
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0046】
さらにより好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−O−(CHt’−、
−(CHs’−(Si(R33O)m’−Si(R33−(CHt’−、
−(CHs’−O−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−(CHt’−、または
−(CHs’−O−(CHt’−Si(R33−(CHu’−Si(R33−(C2v)−
[式中、R33、m’、s’、t’およびu’は、上記と同意義であり、vは1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]
である。
【0047】
上記式中、−(C2v)−は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−であり得る。
【0048】
上記X基は、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基(好ましくは、C1−3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0049】
別の態様において、X基としては、例えば下記の基が挙げられる:
【化5】
【化6】
[式中、R41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基、またはC1−6アルコキシ基、好ましくはメチル基であり;
Dは、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CFO(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化7】
(式中、R42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6のアルキル基またはC1−6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。)
から選択される基であり、
Eは、−(CH−(nは2〜6の整数)であり、
Dは、分子主鎖のPFPEに結合し、Eは、PFPEと反対の基に結合する。]
【0050】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化8】
などが挙げられる。
【0051】
さらに別の態様において、Xは、式:−(R16−(CFR17−(CH−で表される基である。式中、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0〜10の整数であり、x、yおよびzの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0052】
上記式中、R16は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子、フェニレン、カルバゾリレン、−NR26−(式中、R26は、水素原子または有機基を表す)または2価の有機基である。好ましくは、R16は、酸素原子または2価の極性基である。
【0053】
上記「2価の極性基」としては、特に限定されないが、−C(O)−、−C(=NR27)−、および−C(O)NR27−(これらの式中、R27は、水素原子または低級アルキル基を表す)が挙げられる。当該「低級アルキル基」は、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピルであり、これらは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい。
【0054】
上記式中、R17は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または低級フルオロアルキル基であり、好ましくはフッ素原子である。当該「低級フルオロアルキル基」は、例えば、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、さらに好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0055】
この態様において、Xは、好ましくは、式:−(O)−(CF−(CH−(式中、x、yおよびzは、上記と同意義であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)で表される基である。
【0056】
上記式:−(O)−(CF−(CH−で表される基としては、例えば、−(O)x’−(CHz”−O−[(CHz’’’−O−]z””、および−(O)x’−(CFy”−(CHz”−O−[(CHz’’’−O−]z””(式中、x’は0または1であり、y”、z”およびz’’’は、それぞれ独立して、1〜10の整数であり、z””は、0または1である)で表される基が挙げられる。なお、これらの基は左端がPFPE側に結合する。
【0057】
別の好ましい態様において、Xは、−O−CFR13−(CF−である。
【0058】
上記R13は、それぞれ独立して、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表す。低級フルオロアルキル基は、例えば炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0059】
上記eは、それぞれ独立して、0または1である。
【0060】
一の具体例において、R13はフッ素原子であり、eは1である。
【0061】
さらに別の態様において、X基の例として、下記の基が挙げられる:
【化9】
[式中、
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基、またはC1−6アルコキシ基好ましくはメチル基であり;
各X基において、Tのうち任意のいくつかは、分子主鎖のPFPEに結合する以下の基:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CFO(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、または
【化10】
[式中、R42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6のアルキル基またはC1−6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。]
であり、別のTのいくつかは、分子主鎖のPFPEと反対の基(即ち、式(A1)および(A2)においては炭素原子、また、下記する式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)においてはSi原子)に結合する−(CHn”−(n”は2〜6の整数)であり、存在する場合、残りは、それぞれ独立して、メチル基、フェニル基またはC1−6アルコキシ基である。
【0062】
この態様において、X、XおよびXは、それぞれ独立して、3〜10価の有機基であり得る。
【0063】
上記式中、tは、それぞれ独立して、1〜10の整数である。好ましい態様において、tは1〜6の整数である。別の好ましい態様において、tは2〜10の整数であり、好ましくは2〜6の整数である。
【0064】
上記式中、Xは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表す。Xは、好ましくは、炭素数1〜20のアルキレン基であり、より好ましくは、−(CH−(式中、uは、0〜2の整数である)である。
【0065】
好ましい式(A1)および(A2)で示される化合物は、下記式(A1’)および(A2’):
【化11】
[式中:
PFPEは、それぞれ独立して、式:
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、0〜2の整数であり、好ましくは0であり;
は、−O−CFR13−(CF−であり;
13は、フッ素原子または低級フルオロアルキル基であり;
eは、0または1であり;
は、−(CH−であり;
uは、0〜2の整数であり;
tは、1〜10の整数である。]
で表される化合物である。
【0066】
式(B1)および(B2):
【化12】
【0067】
上記式(B1)および(B2)中、Rf、PFPE、R、Rおよびnは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0068】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供するシラン部(具体的には、−SiR3−n)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0069】
上記式中のβは、1〜9の整数であり、β’は、1〜9の整数である。これらβおよびβ’は、Xの価数に応じて決定され、式(B1)において、βおよびβ’の和は、Xの価数と同じである。例えば、Xが10価の有機基である場合、βおよびβ’の和は10であり、例えばβが9かつβ’が1、βが5かつβ’が5、またはβが1かつβ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、βおよびβ’は1である。式(B2)において、βはXの価数の値から1を引いた値である。
【0070】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0071】
一の態様において、Xは2〜4価の有機基であり、βは1〜3であり、β’は1である。
【0072】
別の態様において、Xは2価の有機基であり、βは1であり、β’は1である。この場合、式(B1)および(B2)は、下記式(B1’)および(B2’)で表される。
【化13】
【0073】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0074】
中でも、好ましい具体的なXは、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化14】
などが挙げられる。
【0075】
好ましい式(B1)および(B2)で示される化合物は、下記式(B1’)および(B2’):
[式中:
PFPEは、それぞれ独立して、式:
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
nは、0〜2の整数であり、好ましくは0であり;
は、−CHO(CH−、−CHO(CH−または−CHO(CH−である]
で表される化合物である。
【0076】
式(C1)および(C2):
【化15】
【0077】
上記式(C1)および(C2)中、RfおよびPFPEは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0078】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(C1)および(C2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供するシラン部(具体的には、−SiR基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(C1)および(C2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0079】
上記式中のγは、1〜9の整数であり、γ’は、1〜9の整数である。これらγおよびγ’は、Xの価数に応じて決定され、式(C1)において、γおよびγ’の和は、Xの価数と同じである。例えば、Xが10価の有機基である場合、γおよびγ’の和は10であり、例えばγが9かつγ’が1、γが5かつγ’が5、またはγが1かつγ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、γおよびγ’は1である。式(C1)において、γはXの価数の値から1を引いた値である。
【0080】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0081】
一の態様において、Xは2〜4価の有機基であり、γは1〜3であり、γ’は1である。
【0082】
別の態様において、Xは2価の有機基であり、γは1であり、γ’は1である。この場合、式(C1)および(C2)は、下記式(C1’)および(C2’)で表される。
【化16】
【0083】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0084】
中でも、好ましい具体的なXは、−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH−(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化17】
などが挙げられる。
【0085】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR717273を表す。
【0086】
式中、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0087】
上記Zは、好ましくは、2価の有機基であり、式(C1)または式(C2)における分子主鎖の末端のSi原子(Rが結合しているSi原子)とシロキサン結合を形成するものを含まない。
【0088】
上記Zは、好ましくは、C1−6アルキレン基、−(CH−O−(CH−(式中、gは、1〜6の整数であり、hは、1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH−(式中、iは、0〜6の整数である)であり、より好ましくはC1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0089】
式中、R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表す。Ra’は、Rと同意義である。
【0090】
中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個である。即ち、上記Rにおいて、R71が少なくとも1つ存在する場合、R中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在するが、かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。なお、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」とは、R中において直鎖状に連結される−Z−Si−の繰り返し数と等しくなる。
【0091】
例えば、下記にR中においてZ基を介してSi原子が連結された一例を示す。
【化18】
【0092】
上記式において、*は、主鎖のSiに結合する部位を意味し、…は、ZSi以外の所定の基が結合していること、即ち、Si原子の3本の結合手がすべて…である場合、ZSiの繰り返しの終了箇所を意味する。また、Siの右肩の数字は、*から数えたZ基を介して直鎖状に連結されたSiの出現数を意味する。即ち、SiでZSi繰り返しが終了している鎖は「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が2個であり、同様に、Si、SiおよびSiでZSi繰り返しが終了している鎖は、それぞれ、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が3、4および5個である。なお、上記の式から明らかなように、R中には、ZSi鎖が複数存在するが、これらはすべて同じ長さである必要はなく、それぞれ任意の長さであってもよい。
【0093】
好ましい態様において、下記に示すように、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化19】
【0094】
一の態様において、R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0095】
式中、R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0096】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは−OR(アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0097】
好ましくは、R72は、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0098】
式中、R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0099】
式中、pは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;qは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;rは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、p、qおよびrの和は3である。
【0100】
好ましい態様において、R中の末端のR’(R’が存在しない場合、R)において、上記qは、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0101】
上記式(C1)および(C2)においては、少なくとも1つのR72が存在する。
【0102】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0103】
上記Rは、好ましくは、水酸基、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)であり、好ましくは−ORである。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。より好ましくは、Rは、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0104】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0105】
式中、kは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;lは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;mは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、k、lおよびmの和は、3である。
【0106】
式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)で表される化合物は、当業者であれば当該分野で公知の技術を用いて適宜製造することができる。
【0107】
例えば、式(A1)および(A2)で表される化合物は、特許文献1に記載の方法により合成することができる。
【0108】
例えば、式(B1)および(B2)で表される化合物は、特許文献2に記載の方法により合成することができる。
【0109】
例えば、式(C1)および(C2)で表される化合物は、特開2014−218639号に記載の方法により合成することができる。
【0110】
本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の数平均分子量は、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは30,000以下、さらに好ましくは10,000以下である。
【0111】
本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるPFPE部分の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは4,000〜30,000、より好ましくは5,000〜10,000であり得る。
【0112】
本発明において、「数平均分子量」は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析により測定される。
【0113】
本発明の表面処理剤は、さらに、下記式(S):
SiR51614−n (S)
で表される少なくとも1種のシラン化合物を含む表面処理剤を含む。
【0114】
51は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20、好ましくは1〜10の有機基であり得る。また、R51のうち2つのR51は、=CR57を構成してもよい。
【0115】
57は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖であっても分枝鎖であってもよく、炭素数1〜3のアルキル基、例えばメチル基、エチル基またはプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。R57は、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。
【0116】
一の態様において、R51は、それぞれ独立して、式:
52−R53−R54−R55
で表される基である。
【0117】
式中、R52は、CH−、CH=CR58−、NR58−、SR58−、
【化20】
である。
【0118】
hおよびiは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、好ましくはhおよびiは1である。R58は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0119】
53は、単結合または炭素数1〜6のアルキレン基である。かかる炭素数1〜6のアルキレン基は、直鎖でも分枝鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。好ましい炭素数1〜6のアルキレン基は、−CHCHCH−、−CHCH−または−CH−である。
【0120】
54は、単結合、−O−、−CO−、−O−CO−、−CO−O−、−NR56−、−NR56−CO−または−NR56−CO−である。
【0121】
56は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0122】
55は、単結合または炭素数1〜6のアルキレン基である。かかる炭素数1〜6のアルキレン基は、直鎖でも分枝鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。好ましい炭素数1〜6のアルキレン基は、−CHCHCH−、−CHCH−または−CH−である。
【0123】
好ましい態様において、R51は、炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはエチル基またはメチル基、より好ましくはメチル基)、CH=CH−、HSCHCHCH、HNCHCHNHCHCHCH、CH=C(CH)C(O)OCHCHCH
【化21】
である。
【0124】
上記式中、R61は、それぞれ独立して、加水分解性基である。かかる加水分解性基としては、特に限定されないが、−OR62、−OCOR62、−O−N=CR62、−ONR、−NR62または−NR62−CO−R62が挙げられる。
【0125】
62は、水素原子または炭素数1〜6個のアルキル基である。かかる炭素数1〜6個のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、例えばメチル基、エチル基またはアルキル基である。R62は、好ましくは、メチル基またはエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0126】
上記式中、nは0〜3の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。
【0127】
式(S)で表されるシラン化合物の例としては、特に限定されないが、例えば、下記化合物が挙げられる:
Si(OC
CH=CHSi(OCH
CH=CHCHSi(OCH
HSCHCHCHSi(OCH
NCHCHNHCHCHCHSi(OCH
NCHCHNHCHCHCHSi(CH)(OCH
CH=C(CH)C(O)OCHCHCHSi(OCH
CH=C(CH)C(O)OCHCHCHSi(OCHCHOCH
【化22】
【0128】
本発明の表面処理剤は、撥水性、撥油性、防汚性、防水性および高い摩擦耐久性を基材に対して付与することができ、特に限定されるものではないが、防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として好適に使用され得る。
【0129】
一の態様において、本発明の表面処理剤中、(1)式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)のいずれかで表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(以下、「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(1)」ともいう)と、(2)式(S)で表される含フッ素化合物(以下、「シラン化合物(2)」ともいう)との質量比(それぞれ、2種以上の場合にはそれらの合計、以下も同様)は、特に限定されないが、好ましくは10:1〜100000:1であり、より好ましくは100:1〜10000:1である。パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(1)の割合を大きくすることにより、撥水性、撥油性等の機能をより高めることができ、シラン化合物(2)の割合を大きくすることにより、保存安定性をより向上させることができる。
【0130】
本発明の表面処理剤は、溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒としては、特に限定するものではないが、含フッ素有機溶媒が好ましい。
【0131】
上記含フッ素有機溶媒としては、例えば:
パーフルオロカーボン:パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカン
ハイドロフルオロカーボン:1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH(商品名))、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(アサヒクリンAC6000(商品名))、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、フロン134a、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン
ハイドロクロロフルオロカーボン:HCFC−225(アサヒクリンAK−225(商品名)等)、CFCFCHCl、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,2−トリクロロ―3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン
ハイドロフルオロエーテル:COCH(例えば、ノベックHFE−7100(商品名))、COC(例えば、ノベックHFE−7200(商品名))、CFCHOCFCHF
パーフルオロアルキルエーテル:パーフルオロブチルテトラヒドロフラン
パーフルオロアルキルアミン:パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン
含フッ素アルコール:パーフルオロアルキルエタノール、トリフルオロエタノール、HCFCFCHOH、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール
パーフルオロポリエーテル:クライトックス(商品名)、デムナム(商品名)、フォンブリン(商品名)等
パーフルオロアルキルエチレン
その他:パーフルオロアルキルブロミド、パーフルオロアルキルヨージド、メタクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル、
アクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル、ヘキサフルオロプロペンオリゴマー、キシレンヘキサフルオリド、
メチルペンタデカフルオロヘプチルケトン
からなる群から選択される溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。
【0132】
中でも、ハイドロフルオロエーテルが、シラン化合物(2)に対する溶解度が高い点で好ましい。
【0133】
式(S)で表されるシラン化合物は、特に限定されないが、表面処理剤全体中、0.0001質量%〜1質量%、好ましくは0.001質量%〜0.1質量%、より好ましくは0.002質量%〜0.1質量%の濃度で存在する。このような濃度で存在することにより、保存安定性をより向上させることができる。
【0134】
本発明の表面処理剤は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(1)およびシラン化合物(2)に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0135】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1―16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1−16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、C1−3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1〜300、より好ましくは20〜300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0136】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下、例えば1以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0137】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0138】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の合計100質量部(それぞれ、2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは5〜300質量部で含まれ得る。
【0139】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0140】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の合計と、式(3b)で表される化合物との質量比は、4:1〜1:4であることが好ましい。
【0141】
好ましい態様において、真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような平均分子量とすることにより、より優れた摩擦耐久性と表面滑り性を得ることができる。
【0142】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf−F(式中、RfはC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。また、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーであってもよい。Rf−Fで表される化合物およびクロロトリフルオロエチレンオリゴマーは、末端がC1−16パーフルオロアルキル基である上記分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0143】
含フッ素オイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0144】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0145】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは0〜200質量部で含まれ得る。
【0146】
シリコーンオイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0147】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0148】
触媒は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の加水分解および脱水縮合を促進し、表面処理層の形成を促進する。
【0149】
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0150】
次に、本発明の物品について説明する。
【0151】
本発明の物品は、基材と、該基材の表面に本発明の表面処理剤より形成された層(表面処理層)とを含む。この物品は、例えば以下のようにして製造できる。
【0152】
まず、基材を準備する。本発明に使用可能な基材は、例えばガラス、サファイアガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。好ましくは、基材は、ガラスまたはサファイアガラスである。
【0153】
上記ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学結合したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネートが好ましい。
【0154】
例えば、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0155】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0156】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素−炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア−ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0157】
またあるいは、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi−H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0158】
次に、かかる基材の表面に、上記の本発明の表面処理剤の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより、本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する。
【0159】
本発明の表面処理剤の膜形成は、上記の表面処理剤を基材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0160】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0161】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0162】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0163】
湿潤被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。本発明の表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:C5−12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C13CHCH(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC−6000)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC−225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCFCHOCFCHF(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE−3000))、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(1)およびシラン化合物(2)の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0164】
乾燥被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。
【0165】
膜形成は、膜中で本発明の表面処理剤が、加水分解および脱水縮合のための触媒と共に存在するように実施することが好ましい。簡便には、湿潤被覆法による場合、本発明の表面処理剤を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、本発明の表面処理剤の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加した本発明の表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体に、触媒添加した本発明の表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0166】
触媒には、任意の適切な酸または塩基を使用できる。酸触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸などを使用できる。また、塩基触媒としては、例えばアンモニア、有機アミン類などを使用できる。
【0167】
次に、必要に応じて、膜を後処理する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、水分供給および乾燥加熱を逐次的に実施するものであってよく、より詳細には、以下のようにして実施してよい。
【0168】
上記のようにして基材表面に本発明の表面処理剤を膜形成した後、この膜(以下、「前駆体膜」とも言う)に水分を供給する。水分の供給方法は、特に限定されず、例えば、前駆体膜(および基材)と周囲雰囲気との温度差による結露や、水蒸気(スチーム)の吹付けなどの方法を使用してよい。
【0169】
前駆体膜に水分が供給されると、本発明の表面処理剤中のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物のSiに結合した加水分解可能な基に水が作用し、当該化合物を速やかに加水分解させることができると考えられる。
【0170】
水分の供給は、例えば0〜250℃、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは100℃以上とし、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下の雰囲気下にて実施し得る。このような温度範囲において水分を供給することにより、加水分解を進行させることが可能である。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0171】
次に、該前駆体膜を該基材の表面で、60℃を超える乾燥雰囲気下にて加熱する。乾燥加熱方法は、特に限定されず、前駆体膜を基材と共に、60℃を超え、好ましくは100℃を超える温度であって、例えば250℃以下、好ましくは180℃以下の温度で、かつ不飽和水蒸気圧の雰囲気下に配置すればよい。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0172】
このような雰囲気下では、本発明のPFPE含有シラン化合物間では、加水分解後のSiに結合した基同士が速やかに脱水縮合する。また、かかる化合物と基材との間では、当該化合物の加水分解後のSiに結合した基と、基材表面に存在する反応性基との間で速やかに反応し、基材表面に存在する反応性基が水酸基である場合には脱水縮合する。その結果、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と基材との間で結合が形成される。
【0173】
上記の水分供給および乾燥加熱は、過熱水蒸気を用いることにより連続的に実施してもよい。
【0174】
過熱水蒸気は、飽和水蒸気を沸点より高い温度に加熱して得られるガスであって、常圧下では、100℃を超え、一般的には500℃以下、例えば300℃以下の温度で、かつ、沸点を超える温度への加熱により不飽和水蒸気圧となったガスである。本発明では、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の分解を抑制する観点から、好ましくは、250℃以下、好ましくは180℃以下の過熱水蒸気が水分供給および乾燥加熱に用いられる。前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すと、まず、過熱水蒸気と、比較的低温の前駆体膜との間の温度差により、前駆体膜表面にて結露が生じ、これによって前駆体膜に水分が供給される。やがて、過熱水蒸気と前駆体膜との間の温度差が小さくなるにつれて、前駆体膜表面の水分は過熱水蒸気による乾燥雰囲気中で気化し、前駆体膜表面の水分量が次第に低下する。前駆体膜表面の水分量が低下している間、即ち、前駆体膜が乾燥雰囲気下にある間、基材の表面の前駆体膜は過熱水蒸気と接触することによって、この過熱水蒸気の温度(常圧下では100℃を超える温度)に加熱されることとなる。従って、過熱水蒸気を用いれば、前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すだけで、水分供給と乾燥加熱とを連続的に実施することができる。
【0175】
以上のようにして後処理が実施され得る。かかる後処理は、摩擦耐久性を一層向上させるために実施され得るが、本発明の物品を製造するのに必須でないことに留意されたい。例えば、本発明の表面処理剤を基材表面に適用した後、そのまま静置しておくだけでもよい。
【0176】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い摩擦耐久性を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、防水性(電子部品等への水の浸入を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0177】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材としては、例えば、下記の光学部材が挙げられる:例えば、陰極線管(CRT:例、TV、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)などのディスプレイまたはそれらのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの;眼鏡などのレンズ;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバー;時計の表示面など。
【0178】
本発明によって得られる表面処理層を有する他の物品は、窯業製品、塗面、布製品、皮革製品、医療品およびプラスターなどを挙げることができる
【0179】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する他の物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0180】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1〜50nm、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0181】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0182】
本発明の表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、以下に示される化学式はすべて平均組成を示す。
【0183】
実施例
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物1として、以下の3種の化合物を準備した。

化合物A:
【化23】
(式中、lは20〜30の整数であり、mは1〜6の整数であり、平均分子量は約4000である(19F−NMR値)。)

化合物B:
【化24】
(式中、lは20〜30の整数であり、平均分子量は約4000である(19F−NMR値)。)

化合物C:
【化25】
(式中、Rfaは−CF(OC(OCF−OCF−であり、p/qは0.9であり、p+qは約45であり、nは3である。尚、添字pまたはqを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である。)
【0184】
また、式(S)で表されるシラン化合物2として、以下の3種の化合物を準備した。

化合物O:CH=CHSi(OCH
化合物P:CH=CHSi(OCOCH
化合物Q:CH=CHCHSi(OCH
【0185】
上記化合物1および2を、表1に示す割合で混合して、No.1〜No.18の表面処理組成物を得た。この時、希釈溶剤としては、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200を使用した。尚、No.1〜15は本発明の実施例であり、No.16〜18は比較例である。
【0186】
【表1】
【0187】
上記No.1〜No.18の表面処理組成物20gをサンプル瓶に入れ、それぞれイオン交換水0.1gを添加し、70℃±5℃の恒温機に7日間保存したのち25℃に戻し、外観を目視で観察した。結果を表2に示す。
【0188】
【表2】
【0189】
上記の結果から明らかなように、式(S)で表されるシラン化合物を添加した本発明の表面処理組成物は、式(S)で表されるシラン化合物を含まない表面処理組成物と比較して、保存安定性が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明は、種々多様な基材、特に透過性が求められる光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。