【0030】
(b−4)重合開始剤として利用可能な有機過酸化物として、例えば、下記のものが挙げられる。各物質について、括弧内に10時間半減期温度を示す。
t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=51℃)
t−ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)
t−ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)
ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10=59℃)
ジラウロイルパーオキサイド(T10=62℃)
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=65℃)
2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(T10=66℃)
t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキシルヘキサノエート(T10=70℃)
ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド(T10=71℃)
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=72℃)
ジベンゾイルパーオキサイド(T10=74℃)
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0041】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物>
[エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造]
実施例1−1〜1−14及び比較例1−1〜1−4について、表1に示す組成でエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を製造した。この一例として、実施例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造プロセスを以下に示す。なお、他の実施例及び比較例に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物も、実施例1−1と同様のプロセスで製造した。
【0042】
(実施例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造)
内容積5Lのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、更に懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名「ウルトラセン510」、東ソー株式会社製、VAc含有量6%、MFR=2.5g/10min)800gを入れ、攪拌して分散させた。
【0043】
これとは別に、3.0gのラジカル重合開始剤、10.0gのラジカル(共)重合性有機過酸化物を、140gのスチレン(St)及び60gのメタクリル酸グリシジル(GMA)に溶解させた溶液を生成し、この溶液をオートクレーブ中に投入し攪拌した。
【0044】
ラジカル重合開始剤としてはジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃、日油株式会社製)を用い、ラジカル(共)重合性有機過酸化物としてはt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート(MEC)を用いた。
【0045】
そして、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することによって、ラジカル重合開始剤及びラジカル(共)重合性有機過酸化物を含む単量体組成物をエチレン−酢酸ビニル共重合体中に含浸させた。
【0046】
その後、オートクレーブを80〜85℃に昇温し、当該温度で7時間保持して重合させ、水洗及び乾燥することにより、(B)ビニル共重合体であるポリ(St/GMA/MEC)共重合体と、が(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体によって含浸されたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を得た。
【0047】
得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物からポリ(St/GMA/MEC)共重合体を酢酸エチルで抽出した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定の結果、ポリ(St/GMA/MEC)共重合体の重量平均分子量は40万であることがわかった。
【0048】
比較例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物は、(B)ビニル共重合体を含有していない。
【0049】
比較例1−2に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量が上記実施形態よりも多い。
【0050】
比較例1−3に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が上記実施形態よりも少ない。
【0051】
比較例1−4に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の代わりに低密度ポリエチレンが用いられている。
【0052】
【表1】
【0053】
表1中の各略称の意味は以下のとおりである。
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(各実施例及び各比較例では、適宜、以下の3種類のうちいずれか1つを用いている。)
(I)「ウルトラセン510」、東ソー株式会社製、VAc含有量6%、MFR=2.5(g/10min)
(II)「ウルトラセン537」、東ソー株式会社製、VAc含有量15%、MFR=3.0(g/10min)
(III)「ウルトラセン750」、東ソー株式会社製、VAc含有量32%、MFR=30(g/10min)
LDPE:低密度ポリエチレン(「スミカセンG401」住友化学株式会社製、密度=0.926g/cm
3)
St:スチレン
GMA:メタクリル酸グリシジル
AN:アクリロニトリル
MEC:t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート
R355:ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド
BW:ベンゾイルパーオキサイド(「ナイパーBW」、10時間半減期温度=74℃、日油株式会社製)
【0054】
<グラフト共重合体>
[グラフト共重合体の製造]
実施例2−1〜2−14及び比較例2−1〜2−4では、表2に示すように、それぞれ実施例1−1〜1−14及び比較例1−1〜1−4に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を用いてグラフト共重合体を製造した。この一例として、実施例2−1に係るグラフト共重合体の製造プロセスを以下に示す。なお、他の実施例及び比較例に係るグラフト共重合体も、実施例2−1と同様のプロセスで製造した。
【0055】
(実施例2−1に係るグラフト共重合体の製造)
まず、実施例1−1で得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物をラボプラストミル一軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)で200℃にて溶融混練し、グラフト化反応させることにより主鎖がエチレン−酢酸ビニル共重合体から成り、側鎖がポリ(St/GMA)から成るグラフト共重合体を得た。
【0056】
得られたグラフト共重合体のMFR(190℃/2.16kgf)を測定したところ、1.4(g/10min)であり、グラフト化反応が進行していることを確認した。また、得られたグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡(「JEOL JSM T300」、日本電子株式会社製)で観察したところ、粒径0.1〜0.2μmの真球状樹脂が均一に分散していることが確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
<ポリアセタール樹脂組成物>
[ポリアセタール樹脂組成物の製造]
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5について、表3に示す配合割合で、ポリアセタール樹脂(商品名「ジュラコンM90−44」、ポリプラスチックス株式会社製)に対して、上記のグラフト共重合体を適宜所定量ドライブレンドし、190℃に設定した二軸押出機にて溶融混練し、ポリアセタール樹脂組成物を得た。表3では、ポリアセタール樹脂を「POM」との略称で示している。
【0059】
なお、比較例3−1に係るポリアセタール樹脂組成物は、グラフト共重合体を用いずに、ポリアセタール樹脂のみにより製造した。実施例3−1〜3−16ではそれぞれ実施例2−1〜2−14で得られたグラフト共重合体を用い、比較例3−2〜3−5ではそれぞれ比較例2−1〜2−4に係るグラフト共重合体を用いた。
【0060】
[評価方法]
・引張り強さ
JIS K−7113に準拠し、試験速度50mm/minとして行った。
【0061】
・曲げ弾性率
JIS K−7203に準拠し、試験速度2mm/minとして行った。
【0062】
・摺動性評価(スラスト式摩擦摩耗試験)
試験機:オリエンテック株式会社製 摩擦摩耗試験機 EFM−III−F
評価材:内径20mm、外径25.6mmの円筒材
評価材材質:表3に示す組成のポリアセタール樹脂組成物
相手材:内径20mm、外径25.6mmの円筒材
相手材材質: (1)炭素鋼(S45C)(2)評価材と同材(3)ジュラコンM90−44
試験条件(相手材材質が(1)の場合):荷重50N、線速度10cm/sec
試験条件(相手材材質が(2)/(3)の場合):荷重20N、線速度10cm/sec
試験時間:12時間
本試験では、各相手材材質(1)(2)(3)について、それぞれ各評価材の摩耗量(mg)及び動摩擦係数を求めた。
【0063】
[評価材の作製]
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係るポリアセタール樹脂組成物を射出成形機によって成形することにより、実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係る評価材を作製した。射出成形の条件としては、バレル温度を200℃とし、金型温度を90℃とした。
【0064】
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係る評価材についての評価結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
[評価結果]
・機械物性
実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、引張り強さとして50MPa以上の大きい値が得られ、曲げ弾性率として1.5GPa以上の高い値が得られた。この一方で、比較例3−4〜3−5に係る評価材では、引張り強さが50MPa未満の小さい値であった。
【0067】
・摺動性評価
実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(1)炭素鋼(S45C)とするスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0068】
また、実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(2)評価材と同材とする、つまり当該評価材同士でのスラスト式摩擦摩耗試験においても、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0069】
更に、実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(3)ジュラコンM90−44、つまりニート樹脂でのスラスト式摩擦摩耗試験においても、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0070】
この一方で、比較例3−4に係る評価材では、相手材を(1)炭素鋼(S45C)とするスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−4に係る評価材では、動摩擦係数が0.25より高い値であった。
【0071】
また、比較例3−1および比較例3−3〜3−5に係る評価材ではいずれも、相手材を(2)評価材と同材とする、つまり当該評価材同士でのスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−2および比較例3−4〜3−5に係る評価材では、動摩擦係数も0.25より高い値であった。
【0072】
更に、比較例3−1〜3−2および比較例3−5に係る評価材は、相手材を(3)ジュラコンM90−44、つまりニート樹脂でのスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−5に係る評価材はいずれも、動摩擦係数も0.25より高い値であった。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。