特許第6582654号(P6582654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582654
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20190919BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20190919BHJP
   C08F 257/02 20060101ALI20190919BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C08L59/00
   C08L51/06
   C08F257/02
   C08F2/44 C
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-140195(P2015-140195)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2017-19956(P2017-19956A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】森保 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】田坂 知久
(72)【発明者】
【氏名】美馬 和晃
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−138214(JP,A)
【文献】 特開2002−038034(JP,A)
【文献】 特開平04−120159(JP,A)
【文献】 特開2001−011137(JP,A)
【文献】 特開平07−003108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08F 2/00−2/60,6/00−301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X)ポリアセタール樹脂と、
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を溶融混練することにより得られる(Y)グラフト共重合体と、
を含有し、
前記(X)ポリアセタール樹脂の含有量を100重量部とすると、前記(Y)グラフト共重合体の含有量が3〜30重量部であり
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物は、
(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)ビニル共重合体と、を含有し、
前記(B)ビニル共重合体が、前記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体に含浸されており、
前記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体が、1〜20重量%の酢酸ビニルを含み、
前記(B)ビニル共重合体が、(b−1)スチレンと、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、(b−3)t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートと、(b−4)重合開始剤と、により構成され
前記(Y)グラフト共重合体は、
主鎖が、前記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体から成り、
側鎖が、前記(b−1)スチレンと、前記(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、のビニル共重合体から成る
ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物であって、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物が、
前記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、前記(b−1)スチレンと、前記(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、の含有量の合計を100重量部とすると、前記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が60〜95重量部である
ポリアセタール樹脂組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物、グラフト共重合体、及びポリアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械特性、電気特性、成形性、成形品の寸法精度に加え、摺動性にも優れている。このため、ポリアセタール樹脂は、軸受けや歯車等の摺動部材として広い分野で使用されている。
【0003】
ところが、近年、上記の分野の発展に伴い、摺動部材に対してより高度な要求がなされるようになってきている。特に、摺動部材には、摩擦係数、摩耗量、摺動音(きしみ音)などといった摺動性の更なる向上が求められている。
【0004】
ポリアセタール樹脂の摺動特性を向上させる技術が、特許文献1,2に開示されている。特許文献1,2に記載の技術では、ポリアセタール樹脂に添加物を混合することにより、ポリアセタール樹脂の摺動特性を向上させる。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、添加物として、ポリエチレンやエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体と、アクリロニトリル−スチレン共重合体やポリスチレンと、のグラフト共重合体を用いる。特許文献2に記載の技術では、添加剤として、オレフィン系共重合体とビニル系共重合体とから成る多相構造樹脂を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−259766号公報
【特許文献2】特開平4−120159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリアセタール樹脂に上記の混合物を混合したポリアセタール樹脂組成物では、相手材を金属とする摺動試験では十分な摺動性が得られるものの、当該ポリアセタール樹脂組成物同士の摺動試験では十分な摺動性が得られない。また、これらのポリアセタール樹脂組成物では、添加物を添加していないポリアセタール樹脂(ニート樹脂)を相手材とする摺動試験の摩耗量および動摩擦係数が高い値となる。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ポリアセタール樹脂について機械物性を維持しつつ摺動性を向上させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)ビニル共重合体と、を含有する。
上記(B)ビニル共重合体が、上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体に含浸されている。
上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体が、1〜20重量%の酢酸ビニルを含む。
上記(B)ビニル共重合体が、(b−1)スチレンと、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、(b−3)t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートと、(b−4)重合開始剤と、により構成される。
【0010】
この構成のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物をポリアセタール樹脂に添加することにより、機械物性及び摺動性に優れたポリアセタール樹脂組成物が得られる。
【0011】
上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、上記(b−1)スチレンと、上記(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、の含有量の合計を100重量部とすると、上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が60〜95重量部であってもよい。
この構成のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を用いることにより、更に摺動性に優れたポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。
【0012】
本発明の一形態に係るグラフト共重合体は、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を溶融混練することにより得られる。
上記グラフト共重合体の主鎖が、上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体から成る。
上記グラフト共重合体の側鎖が、上記(b−1)スチレンと、上記(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、のビニル共重合体から成る。
この構成のグラフト共重合体に添加することにより、機械物性及び摺動性に優れたポリアセタール樹脂組成物が得られる。
【0013】
本発明の一形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、(X)ポリアセタール樹脂と、(Y)グラフト共重合体と、を含有する。
上記(X)ポリアセタール樹脂の含有量を100重量部とすると、上記(Y)グラフト共重合体の含有量が3〜30重量部である。
この構成により、機械物性及び摺動性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
ポリアセタール樹脂について機械物性を維持しつつ摺動性を向上させるための技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0016】
<概要>
本実施形態では、特定の主鎖と側鎖からなる(Y)グラフト共重合体を(X)ポリアセタール樹脂に配合することにより、上記の(Y)グラフト共重合体が(X)ポリアセタール樹脂に良好に分散したポリアセタール樹脂組成物を生成する。
【0017】
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物では、ポリアセタール樹脂本来の優れた機械的物性が維持されるとともに、相手材の種類や負荷の大きさに依らず優れた摺動性が得られる。このポリアセタール樹脂組成物は、電気部品、電子部品、機械部品、精密機器部品、自動車部品などの広い分野で利用することができる。
【0018】
本実施形態に係る(Y)グラフト共重合体は、以下に説明するエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を溶融混練することにより得られる。
【0019】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物>
本実施形態に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、(B)ビニル共重合体と、を含有する。(B)ビニル共重合体は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体に含浸されている。
【0020】
[(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)]
本実施形態に係る(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の構造単位での酢酸ビニルの含有量は、1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることが更に好ましい。
【0021】
(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニルの含有量を20重量%以下に留めることにより、ポリアセタール樹脂組成物の摺動性が向上し、酢酸ビニルの含有量を10重量%以下に留めることにより、ポリアセタール樹脂組成物の摺動性が更に向上する。更に、これらの場合に、(Y)グラフト重合体の耐熱性が向上する。
【0022】
この一方で、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニルの含有量を1重量%以上とすることにより、得られる(Y)グラフト共重合体の(X)ポリアセタール樹脂に対する分散性が向上する。
【0023】
また、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、任意の流動性を有するものを選択可能である。しかし、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠した測定方法で、190℃において、0.1〜25(g/10min)であることが好ましく、1.0〜10(g/10min)であることが更に好ましい。
【0024】
(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、MFRを25(g/10min)以下に、更にMFRを10(g/10min)以下に留めることにより、ポリアセタール樹脂組成物の摺動性が向上する。この一方で、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、MFRを0.1(g/10min)以上とし、更にMFRを1.0(g/10min)以上とすることにより、(Y)グラフト重合体の製造プロセスにおける作業性が向上する。
【0025】
[(B)ビニル共重合体]
本実施形態に係る(B)ビニル共重合体は、(b−1)スチレンと、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、(b−3)t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートと、(b−4)重合開始剤と、から成るビニル単量体組成物により構成される。
【0026】
(B)ビニル共重合体における各単量体(b−1),(b−2),(b−3),(b−4)の含有量は適宜決定可能である。しかし、(b−1)スチレンの含有量と、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つの含有量と、の合計を100重量部とすると、(b−1)スチレンの含有量が50〜99重量部であることが好ましい。これにより、摺動性及び機械物性に特に優れたポリアセタール樹脂組成物が得られる。
【0027】
また、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(b−1)スチレンと、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、の含有量の合計を100重量部とすると、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が60〜95重量部であることが好ましい。この場合に、ポリアセタール樹脂組成物における特に良好な摺動性が得られる。
【0028】
(B)ビニル共重合体における(b−3)t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートは、下記化学式(1)で表される化合物である。本実施形態に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を溶融混練すると、(b−3)t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートの過酸化結合が熱分解してラジカルを発生させることにより、(Y)グラフト共重合体が得られる。
【化1】
…(1)
【0029】
(B)ビニル共重合体における(b−4)重合開始剤は、特定の種類に限定されず、有機過酸化物やアゾ開始剤などといった公知のものを利用可能である。
【0030】
(b−4)重合開始剤として利用可能な有機過酸化物として、例えば、下記のものが挙げられる。各物質について、括弧内に10時間半減期温度を示す。
t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=51℃)
t−ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)
t−ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)
ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10=59℃)
ジラウロイルパーオキサイド(T10=62℃)
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=65℃)
2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(T10=66℃)
t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキシルヘキサノエート(T10=70℃)
ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド(T10=71℃)
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=72℃)
ジベンゾイルパーオキサイド(T10=74℃)
【0031】
(b−4)重合開始剤として利用可能なアゾ化合物として、例えば、下記のものが挙げられる。各物質について、括弧内に10時間半減期温度を示す。
2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)
2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)(T10=65℃)
2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(T10=67℃)
【0032】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、(X)ポリアセタール樹脂と、(Y)グラフト共重合体と、を含有する。
【0033】
[(X)ポリアセタール樹脂]
(X)ポリアセタール樹脂は、公知の製造方法により製造可能である。(X)ポリアセタール樹脂には、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーのいずれを用いてもよい。また、(X)ポリアセタール樹脂の基体樹脂としては、ポリアセタールを公知の方法で架橋又はグラフト共重合して変性させたものを用いることができる。(X)ポリアセタール樹脂の重合度や末端基の構造も、特定のものに限定されない。
【0034】
[(Y)グラフト共重合体]
本実施形態に係る(Y)グラフト共重合体は、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を溶融混練することにより得られる。エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では(B)ビニル共重合体が(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体に含浸されているため、均一なグラフト共重合体が得られる。
【0035】
(Y)グラフト共重合体の主鎖は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体から成る。(Y)グラフト共重合体の側鎖は、(b−1)スチレンと、(b−2)アクリロニトリル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも1つと、のビニル共重合体から成る。
【0036】
(Y)グラフト共重合体の含有量は、(X)ポリアセタール樹脂の含有量を100重量部とすると、3〜30重量部であることが好ましく、5〜20重量部であることが更に好ましい。
【0037】
(Y)グラフト共重合体の含有量を3重量部以上とすることによりポリアセタール樹脂組成物の摺動性が向上し、(Y)グラフト共重合体の含有量を5重量部以上とすることによりポリアセタール樹脂組成物の摺動性が更に向上する。
【0038】
この一方で、(Y)グラフト共重合体の含有量を30重量部以下に留めることによりポリアセタール樹脂組成物の機械物性や外観品質が向上し、(Y)グラフト共重合体の含有量を20重量部以下に留めることによりポリアセタール樹脂組成物の機械物性や外観品質が更に向上する。
【0039】
[その他の添加物]
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じ、上記以外の添加物を含有していてもよい。このような添加物としては、例えば、鉱油、炭化水素、脂肪酸、アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、金属石けん、天然ワックス、シリコーンなどの潤滑剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機難燃剤、ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤、金属粉、タルク、ガラス繊維、カーボン繊維、木粉等の有機又は無機の充填剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、着色剤等の添加剤及び他のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、等のエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0041】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物>
[エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造]
実施例1−1〜1−14及び比較例1−1〜1−4について、表1に示す組成でエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を製造した。この一例として、実施例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造プロセスを以下に示す。なお、他の実施例及び比較例に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物も、実施例1−1と同様のプロセスで製造した。
【0042】
(実施例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物の製造)
内容積5Lのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、更に懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名「ウルトラセン510」、東ソー株式会社製、VAc含有量6%、MFR=2.5g/10min)800gを入れ、攪拌して分散させた。
【0043】
これとは別に、3.0gのラジカル重合開始剤、10.0gのラジカル(共)重合性有機過酸化物を、140gのスチレン(St)及び60gのメタクリル酸グリシジル(GMA)に溶解させた溶液を生成し、この溶液をオートクレーブ中に投入し攪拌した。
【0044】
ラジカル重合開始剤としてはジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃、日油株式会社製)を用い、ラジカル(共)重合性有機過酸化物としてはt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート(MEC)を用いた。
【0045】
そして、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することによって、ラジカル重合開始剤及びラジカル(共)重合性有機過酸化物を含む単量体組成物をエチレン−酢酸ビニル共重合体中に含浸させた。
【0046】
その後、オートクレーブを80〜85℃に昇温し、当該温度で7時間保持して重合させ、水洗及び乾燥することにより、(B)ビニル共重合体であるポリ(St/GMA/MEC)共重合体と、が(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体によって含浸されたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を得た。
【0047】
得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物からポリ(St/GMA/MEC)共重合体を酢酸エチルで抽出した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定の結果、ポリ(St/GMA/MEC)共重合体の重量平均分子量は40万であることがわかった。
【0048】
比較例1−1に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物は、(B)ビニル共重合体を含有していない。
【0049】
比較例1−2に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量が上記実施形態よりも多い。
【0050】
比較例1−3に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が上記実施形態よりも少ない。
【0051】
比較例1−4に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物では、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の代わりに低密度ポリエチレンが用いられている。
【0052】
【表1】
【0053】
表1中の各略称の意味は以下のとおりである。
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(各実施例及び各比較例では、適宜、以下の3種類のうちいずれか1つを用いている。)
(I)「ウルトラセン510」、東ソー株式会社製、VAc含有量6%、MFR=2.5(g/10min)
(II)「ウルトラセン537」、東ソー株式会社製、VAc含有量15%、MFR=3.0(g/10min)
(III)「ウルトラセン750」、東ソー株式会社製、VAc含有量32%、MFR=30(g/10min)
LDPE:低密度ポリエチレン(「スミカセンG401」住友化学株式会社製、密度=0.926g/cm
St:スチレン
GMA:メタクリル酸グリシジル
AN:アクリロニトリル
MEC:t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート
R355:ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド
BW:ベンゾイルパーオキサイド(「ナイパーBW」、10時間半減期温度=74℃、日油株式会社製)
【0054】
<グラフト共重合体>
[グラフト共重合体の製造]
実施例2−1〜2−14及び比較例2−1〜2−4では、表2に示すように、それぞれ実施例1−1〜1−14及び比較例1−1〜1−4に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物を用いてグラフト共重合体を製造した。この一例として、実施例2−1に係るグラフト共重合体の製造プロセスを以下に示す。なお、他の実施例及び比較例に係るグラフト共重合体も、実施例2−1と同様のプロセスで製造した。
【0055】
(実施例2−1に係るグラフト共重合体の製造)
まず、実施例1−1で得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂組成物をラボプラストミル一軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)で200℃にて溶融混練し、グラフト化反応させることにより主鎖がエチレン−酢酸ビニル共重合体から成り、側鎖がポリ(St/GMA)から成るグラフト共重合体を得た。
【0056】
得られたグラフト共重合体のMFR(190℃/2.16kgf)を測定したところ、1.4(g/10min)であり、グラフト化反応が進行していることを確認した。また、得られたグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡(「JEOL JSM T300」、日本電子株式会社製)で観察したところ、粒径0.1〜0.2μmの真球状樹脂が均一に分散していることが確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
<ポリアセタール樹脂組成物>
[ポリアセタール樹脂組成物の製造]
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5について、表3に示す配合割合で、ポリアセタール樹脂(商品名「ジュラコンM90−44」、ポリプラスチックス株式会社製)に対して、上記のグラフト共重合体を適宜所定量ドライブレンドし、190℃に設定した二軸押出機にて溶融混練し、ポリアセタール樹脂組成物を得た。表3では、ポリアセタール樹脂を「POM」との略称で示している。
【0059】
なお、比較例3−1に係るポリアセタール樹脂組成物は、グラフト共重合体を用いずに、ポリアセタール樹脂のみにより製造した。実施例3−1〜3−16ではそれぞれ実施例2−1〜2−14で得られたグラフト共重合体を用い、比較例3−2〜3−5ではそれぞれ比較例2−1〜2−4に係るグラフト共重合体を用いた。
【0060】
[評価方法]
・引張り強さ
JIS K−7113に準拠し、試験速度50mm/minとして行った。
【0061】
・曲げ弾性率
JIS K−7203に準拠し、試験速度2mm/minとして行った。
【0062】
・摺動性評価(スラスト式摩擦摩耗試験)
試験機:オリエンテック株式会社製 摩擦摩耗試験機 EFM−III−F
評価材:内径20mm、外径25.6mmの円筒材
評価材材質:表3に示す組成のポリアセタール樹脂組成物
相手材:内径20mm、外径25.6mmの円筒材
相手材材質: (1)炭素鋼(S45C)(2)評価材と同材(3)ジュラコンM90−44
試験条件(相手材材質が(1)の場合):荷重50N、線速度10cm/sec
試験条件(相手材材質が(2)/(3)の場合):荷重20N、線速度10cm/sec
試験時間:12時間
本試験では、各相手材材質(1)(2)(3)について、それぞれ各評価材の摩耗量(mg)及び動摩擦係数を求めた。
【0063】
[評価材の作製]
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係るポリアセタール樹脂組成物を射出成形機によって成形することにより、実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係る評価材を作製した。射出成形の条件としては、バレル温度を200℃とし、金型温度を90℃とした。
【0064】
実施例3−1〜3−16及び比較例3−1〜3−5に係る評価材についての評価結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
[評価結果]
・機械物性
実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、引張り強さとして50MPa以上の大きい値が得られ、曲げ弾性率として1.5GPa以上の高い値が得られた。この一方で、比較例3−4〜3−5に係る評価材では、引張り強さが50MPa未満の小さい値であった。
【0067】
・摺動性評価
実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(1)炭素鋼(S45C)とするスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0068】
また、実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(2)評価材と同材とする、つまり当該評価材同士でのスラスト式摩擦摩耗試験においても、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0069】
更に、実施例3−1〜3−16に係る評価材ではいずれも、相手材を(3)ジュラコンM90−44、つまりニート樹脂でのスラスト式摩擦摩耗試験においても、摩耗量として4.0mg以下の小さい値が得られ、動摩擦係数として0.25以下の低い値が得られた。
【0070】
この一方で、比較例3−4に係る評価材では、相手材を(1)炭素鋼(S45C)とするスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−4に係る評価材では、動摩擦係数が0.25より高い値であった。
【0071】
また、比較例3−1および比較例3−3〜3−5に係る評価材ではいずれも、相手材を(2)評価材と同材とする、つまり当該評価材同士でのスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−2および比較例3−4〜3−5に係る評価材では、動摩擦係数も0.25より高い値であった。
【0072】
更に、比較例3−1〜3−2および比較例3−5に係る評価材は、相手材を(3)ジュラコンM90−44、つまりニート樹脂でのスラスト式摩擦摩耗試験において、摩耗量が4.0mgより大きい値であった。これに加え、比較例3−1〜3−5に係る評価材はいずれも、動摩擦係数も0.25より高い値であった。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。