【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[測定方法]
(表面積Sの測定方法)
下記実施例及び比較例で得られた薄膜キャパシタ10の下部電極層1の下面4の表面積Sを、非接触断面粗さ測定装置(商品名:NH−3N、三鷹光器社製)により、測定した。
【0038】
(十点平均粗さRzの測定方法)
下記実施例及び比較例で得られた薄膜キャパシタ10の下部電極層1の下面4の粗さ曲線を、接触式表面粗さ計(商品名:サーフコム1500S、東京精密社製)にて触針して、計測し、十点平均粗さRzを算出した。なお、十点平均粗さRzは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートルで表したものを言う(JIS B0601(2013)附属書JA参照)。
【0039】
(実施例1〜3及び比較例1〜9)
[薄膜キャパシタ及び半導体装置の作製]
下部電極層1と、上部電極層3と、下部電極層1及び上部電極層3の間に設けられた誘電体層2とを備える薄膜キャパシタ10を作製した。上記下部電極層1には、厚さ方向の投影面積S
0が100mm
2であり、算術平均厚さ40μmの電解Ni箔を用い、電解ドラムの表面状態を調節することで、一方の面(下面)の表面積Sを下記表1に記載のとおりに100mm
2から1000mm
2の範囲で変更した。上記誘電体層2は、厚さ800nmのBaTiO
3からなり、上記下部電極層1の他方の面(上面)上に形成した。上記上部電極層3は、上記誘電体層2上に、厚さ0.5μmのNi層、厚さ1.0μmのCu層、及び厚さ16.5μmのCu層をこの順で積層することにより形成した。
【0040】
2枚のプリプレグ(商品名:MEGTRON、パナソニック社製)の間に、得られた薄膜キャパシタ10を配置して、加熱加圧することにより、薄膜キャパシタ10が埋め込まれた、70mm×70mm×200μmの支持基板13を得た。支持基板13に引出電極を形成した後、支持基板13の上部電極層3側の主面に形成した引出電極上に球状バンプ12を介して半導体素子11を搭載し、薄膜キャパシタをバイパスコンデンサとして有する、実施例1〜3及び比較例1〜9の半導体装置20を作製した。実施例1〜3及び比較例1〜9の半導体装置20における、下部電極層1の下面4の表面積S、下部電極層1の厚さ方向の投影面積S
0、S/S
0比、及び、下面4の十点平均粗さRzをまとめて表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[放熱性試験]
図3(a)及び(b)に示すように、支持基板13の下部電極層1側の主面に形成した引出電極を、球状バンプ14を介して母基板24と接続した。次に、作製した半導体装置20の半導体素子11の上面に熱電対Aのプラス端子21とマイナス端子22との熱接点23を設け、半導体装置の温度が測定可能となるようにした。熱電対Aには、K型熱電対を用いた。半導体装置20及び熱電対Aを300Kに設定した恒温槽内に配置した。十分な時間を経過させた後、半導体素子11の温度が恒温槽の温度設定値とほぼ同じとなったことを確認した。
【0043】
半導体素子11に50Wの電力を供給し、電力供給して0ミリ秒後から2000ミリ秒後までの半導体素子11の温度を、200ミリ秒ごとに測定した。実施例1〜3及び比較例1〜9における、半導体素子11の温度の測定結果を下記表2に示す。なお、薄膜キャパシタ10が埋め込まれた支持基板13の内部をX線CTスキャナを用いて観察したところ、下部電極層1の下面4の表面積Sは埋め込まれる前から変化しておらず、半導体装置製造工程において下部電極層1に変形がなかったことを確認した。
【0044】
【表2】
【0045】
表2をグラフ化したものが
図4及び
図5である。すなわち、
図4は実施例1〜3及び比較例1〜4の半導体装置の半導体素子温度(K)と、電力供給後の経過時間(ミリ秒)との関係を示すグラフである。また、
図5は実施例3及び比較例5〜9の半導体装置の半導体素子温度(K)と、電力供給後の経過時間(ミリ秒)との関係を示すグラフである。表2、
図4及び
図5より、実施例及び比較例のいずれにおいても、半導体素子11に電力を供給した直後は半導体素子温度が上昇するが、2000ミリ秒後には電力供給による半導体素子11の発熱と薄膜キャパシタ10を介した母基板への放熱が釣り合い、半導体素子温度が安定していることが確認できる。
【0046】
表2及び
図4を参照して、実施例1〜3及び比較例1〜4を比較すると、S/S
0比が大きくなるほど、半導体素子温度の到達点が下がることが確認できる。これは、S/S
0比の増大によって放熱量(薄膜キャパシタ10の伝熱量)が増加したためであると考えられる。しかし、表2、
図4及び
図5を参照して、実施例2、実施例3及び比較例5〜9を比較すると、S/S
0比が2.500を超えた辺りから、半導体素子温度の到達点の低下傾向がなくなり、S/S
0比が5.000を超えた辺りから、逆に上昇に転じていることが確認できる。これは、S/S
0比の増大によって、支持基板13内に薄膜キャパシタ10を埋め込む際に、支持基板13内の下部電極層1の下面4の付近に空隙15が生じやすくなり、空隙15の個数が増えた結果、熱伝導率が低下したためであると考えられる。
【0047】
図6は
図2に示す半導体装置のV−V線に沿った横断面図の模式図である。実施例及び比較例で得られた放熱性試験後の半導体装置について、X線CTスキャナを用いて
図6に示すV−V線に沿った断面を観察したところ、空隙15が下部電極層1の下面4の付近に点在していた。さらに、実施例及び比較例で得られた放熱性試験後の半導体装置を、
図6に示すX−X線に沿って切断し、切断面を観察して空隙15の個数を数えた。
【0048】
図7は実施例1〜3及び比較例1〜9で得られた半導体装置のS/S
0比と、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度の到達点(半導体素子到達温度)(K)及び支持基板13内の下部電極層1の下面4の付近の空隙15の数(支持基板と薄膜キャパシタとの間の空隙15の数)(個)との関係を示すグラフである。
図7に示すグラフから、S/S
0比が5.000を超えた辺りから、空隙15の数が増加する傾向を示しており、同時に半導体素子温度が上昇していることが確認できる。このことから、空隙15の増加が半導体素子温度の上昇の一因となったと考えられる。また、
図7に示すグラフからは、空隙15の数が8個以上となった辺りから半導体素子温度が上昇していることが確認できる。
【0049】
例えば、パーソナルコンピュータで用いられる半導体素子が安定に動作するには、半導体素子温度が323(K)(摂氏50℃)あたりであることが望ましい。また、半導体素子温度が343(K)(摂氏70℃)を超えると、半導体素子の動作が不安定になってくる。実施例1〜3で得られる半導体装置では、半導体素子に電力供給後も343(K)以下の半導体素子温度が維持されていることが確認できた。
【0050】
(実施例4及び実施例5)
下部電極層1として電解Ni箔に代えて、それぞれ電解Fe箔及び電解Cu箔を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4及び実施例5の半導体装置20を作製した。実施例4及び実施例5で得られた半導体装置に対し、実施例1と同様の工程で放熱性試験を行った。実施例4及び実施例5の半導体装置20における、下部電極層1の材料、S/S
0比、下部電極層1の熱伝導率λ、下面4の十点平均粗さRz、及び、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度の到達点をまとめて表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3によると、薄膜キャパシタ10の下部電極層1の材料が鉄である実施例4では、半導体素子温度が半導体素子の安定動作温度の上限近くまで上がるのに対し、薄膜キャパシタ10の下部電極層1の材料がそれぞれニッケル及び銅である実施例1及び実施例5では、半導体素子の安定動作温度の上限値を十分下まわっていることが確認できた。
【0053】
(実施例6〜12)
図8は実施例6〜12で得られた半導体装置の概略断面図である。下部電極層1に、Arイオンビームによる逆スパッタリングにて、下面4の表面粗さを調整した電解Ni箔を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6〜12の半導体装置を作製した。なお、実施例6〜12では、電解Ni箔の下面4の十点平均粗さRzがそれぞれ0.02μm、0.10μm、0.50μm、1.00μm、2.00μm、3.00μm及び4.00μmとなるように、逆スパッタリングを行った。各実施例について、半導体装置を5つずつ作製し、それぞれの半導体装置に対して実施例1と同様の工程で放熱性試験を行った。なお、薄膜キャパシタ10が埋め込まれた支持基板13の内部をX線CTスキャナを用いて観察したところ、下部電極層1の下面4の十点平均粗さRzは埋め込まれる前から変化しておらず、半導体装置製造工程において下部電極層1に変形がなかったことを確認した。実施例6〜12の半導体装置における下面4の十点平均粗さRz、S/S
0比、支持基板13内の下部電極層1の下面4の付近の空隙15の数、及び、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度の到達点を、表4にまとめて示す。
【0054】
【表4】
【0055】
表4から、実施例6〜10では、空隙の数が2個以内に収まっているのに対し、実施例11〜12では、空隙の数が4〜6個に増加していることが確認できる。一方、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度に注目すると、実施例6〜10では、半導体素子温度が323(K)(摂氏50℃)付近にあり、半導体素子が安定に動作する推奨温度に近いのに対し、実施例11〜12では、半導体素子温度が343(K)(摂氏70℃)付近に増加したものの、半導体素子が安定に動作する温度の上限以下であることが分かった。実施例11〜12における半導体素子温度の増加は、実施例6〜10に比べて空隙の数が増加したことによるものと考えられる。なお、実施例6〜12においてそれぞれ5つずつ用意した半導体装置において、各サンプルでのS/S
0比と十点平均粗さRzの関係は定まらず、S/S
0比と十点平均粗さRzとが必ずしも同等の指標でないことを確認した。
【0056】
(実施例13〜19)
下部電極層1として電解Ni箔に代えて、電解Fe箔を用いたこと以外は、実施例6〜12と同様にして、実施例13〜19の半導体装置20を作製した。実施例13〜19で得られた半導体装置に対し、実施例6と同様の工程で放熱性試験を行った。実施例13〜19の半導体装置20における、下部電極層1の材料、下部電極層1の熱伝導率λ、S/S
0比、下面4の十点平均粗さRz、及び、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度の到達点をまとめて表5に示す。
【0057】
(実施例20〜26)
下部電極層1として電解Ni箔に代えて、電解Cu箔を用いたこと以外は、実施例6〜12と同様にして、実施例20〜26の半導体装置20を作製した。実施例20〜26で得られた半導体装置に対し、実施例6と同様の工程で放熱性試験を行った。実施例20〜26の半導体装置20における、下部電極層1の材料、S/S
0比、下面4の十点平均粗さRz、下部電極層1の熱伝導率λ、及び、放熱性試験における2000ミリ秒後の半導体素子温度の到達点をまとめて表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から、十点平均粗さRzを2.00μm以下に設定した実施例13〜17、実施例6〜10、及び実施例20〜24では、放熱性試験における半導体素子温度の上昇が確認されなかった。一方、十点平均粗さRzを約3.00μm以上に設定した実施例18〜19、実施例11〜12及び実施例25〜26では、放熱性試験における半導体素子温度の上昇が確認された。しかし、薄膜キャパシタ10の下部電極層1の材料がニッケル又は銅である実施例18〜19及び実施例11〜12では、半導体素子温度は安定に動作できる推奨温度に近いことが確認できた。また、薄膜キャパシタ10の下部電極層1の材料が鉄である実施例25〜26では、半導体素子温度が343(K)(摂氏70℃)付近に増加したものの、半導体素子が安定に動作する温度の上限以下であることが分かった。
【0060】
以上、本発明に係る半導体装置は、半導体素子からの発熱を効率的に放散することができ、半導体素子に電力供給後も安定に動作できることが確認された。上記半導体装置は、複雑な構造を有さなくともショート不良の発生等を抑制することができる。