特許第6582674号(P6582674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582674
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20190919BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20190919BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20190919BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20190919BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-146895(P2015-146895)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-24623(P2017-24623A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/054253(WO,A1)
【文献】 特開2006−182057(JP,A)
【文献】 特開2004−130971(JP,A)
【文献】 特開2001−253356(JP,A)
【文献】 特開2011−225175(JP,A)
【文献】 特開2015−091676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪の転舵角とステアリングの回転角度である操舵角との比である舵角比を変更可能な操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、
前記操舵角を取得する操舵角取得処理部と、
前記転舵角を取得する転舵角取得処理部と、
前記取得した転舵角が転舵角閾値に達することと、前記取得した操舵角が操舵角閾値に達することとの論理和が真となる場合に、前記操舵角が更に大きくなる側への前記ステアリングの操作の停止を促す制限制御を実行する操舵制限処理部と
前記転舵角閾値と前記操舵角閾値とが互いに等しい共通閾値となるように前記操舵角取得処理部が取得する前記操舵角と前記転舵角取得処理部が取得する前記転舵角との計量単位を設定する計量単位設定処理部と、を備え、
前記操舵制限処理部は、前記転舵角および前記操舵角の最大値が前記共通閾値以上となる場合に前記制限制御を実行する操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータと、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータと、を備え、
前記操舵制限処理部は、
前記転舵角および前記操舵角のうちの最大値が前記共通閾値以上となることを条件に、前記制限制御のための反力である制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、
前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角設定処理部と、
前記ステアリングの回転に連動して回転する回転軸の回転角度を検出する操舵側センサの出力値に基づく操舵角を前記目標操舵角にフィードバック制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、
前記設定された制限用反力に基づき、前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部と、
前記転舵輪の転舵に連動して変位する部材の変位量を検出する転舵側センサの出力値に基づく転舵角を前記目標転舵角にフィードバック制御するために前記転舵アクチュエータを操作する転舵角制御処理部と、
を備え、
前記計量単位設定処理部は、前記転舵側センサの出力値および前記操舵側センサの出力値の少なくとも一方に所定の演算処理を施して前記操舵角制御処理部に入力される操舵角および前記転舵角制御処理部に入力される転舵角の少なくとも一方を生成するものであり、
前記操舵角取得処理部は、前記目標操舵角を取得し、
前記転舵角取得処理部は、前記目標転舵角を取得する請求項記載の操舵制御装置。
【請求項3】
車両の転舵輪の転舵角とステアリングの回転角度である操舵角との比である舵角比を変更可能な操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、
前記操舵角を取得する操舵角取得処理部と、
前記転舵角を取得する転舵角取得処理部と、
前記取得した転舵角が転舵角閾値に達することと、前記取得した操舵角が操舵角閾値に達することとの論理和が真となる場合に、前記操舵角が更に大きくなる側への前記ステアリングの操作の停止を促す制限制御を実行する操舵制限処理部と、を備え、
前記ステアリングには、当該ステアリングと一体的に回転するステアリング側機器が設けられ、
前記ステアリング側機器は、ケーブルを介して前記ステアリングに対して相対回転する外部側機器に接続されており、
前記操舵角閾値は、前記ケーブルによって定まる操舵角の上限値に基づき設定されている操舵制御装置。
【請求項4】
前記制限制御は、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータと、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータと、を備え、
前記操舵制限処理部は、前記反力アクチュエータに操作信号を出力することにより、前記増加制御を実行する請求項記載の操舵制御装置。
【請求項6】
車両の転舵輪の転舵角とステアリングの回転角度である操舵角との比である舵角比を変更可能な操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、
前記操舵角を取得する操舵角取得処理部と、
前記転舵角を取得する転舵角取得処理部と、
前記取得した転舵角が転舵角閾値に達することと、前記取得した操舵角が操舵角閾値に達することとの論理和が真となる場合に、前記操舵角が更に大きくなる側への前記ステアリングの操作の停止を促す制限制御を実行する操舵制限処理部と、を備え、
前記制限制御は、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御するものであり、
前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、前記ステアリングに加わるトルクを前記転舵輪側に伝達させつつ前記舵角比を変更する可変舵角比アクチュエータとを備え、
前記操舵制限処理部は、前記ステアリングの操作による前記転舵輪の転舵を前記転舵アクチュエータによってアシストするアシスト力を低減操作することにより、前記増加制御を実行する操舵制御装置。
【請求項7】
前記ステアリングには、当該ステアリングと一体的に回転するステアリング側機器が設けられ、
前記ステアリング側機器は、ケーブルを介して前記ステアリングに対して相対回転する外部側機器に接続されている請求項1,2,4〜6のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪の転舵角とステアリングの回転角度である操舵角との比である舵角比を変更可能な操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵装置には、転舵輪の転舵角に許容される上限値が存在する。たとえば、ラックアンドピニオン機構を備える操舵装置においては、ラックの軸方向の変位がラックストッパによって規制されている。
【0003】
そして、転舵角の絶対値が上限値となる直前において、ステアリングに転舵角の増加を抑制するように反力を加えるいわゆるエンド当て処理(操舵制限処理)が周知である。たとえば、特許文献1には、ステアリングと転舵輪との動力伝達を遮断した状態でステアリングの操作に応じて転舵輪を転舵アクチュエータによって転舵させるステアバイワイヤシステムにおける操舵制限処理が記載されている。
【0004】
一方、ステアリングには、エアバッグやホーン等が搭載されている。そして、それらの電気配線をスパイラルケーブルを介して車体側に固定された電子機器に接続することが周知である。これにつき、特許文献2には、操舵角で転舵角を除算した値を舵角比としたときに舵角比が最小である場合において、ラック軸がラックストッパに接触するまでステアリングを操作可能なようにスパイラルケーブルの長さを設定することが記載されている(図13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4725132号
【特許文献2】特開2006−176102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、スパイラルケーブルの長さは、必ずしも上記特許文献2に記載の長さに設定されるとは限らない。ここで、実際のスパイラルケーブルの長さが、上記特許文献2に記載のものよりも短い場合には、以下の問題が生じる。なお、以下では、舵角比を、操舵角で転舵角を除算した値と定義する。
【0007】
すなわち、操舵角がスパイラルケーブルの長さから定まる操舵角の上限値に近づくことに基づき上記操舵制限処理を実行する場合、操舵角が上限値を超えて操舵角を増加させようとステアリングが操作される事態は回避される。ただし、この場合、舵角比が大きくなる場合、ラック軸がラックストッパに接触するタイミングにおいても、操舵角には余裕があるために、操舵制限処理が実行されないおそれがある。
【0008】
これに対し、転舵角に基づき上記舵角制限処理を実行するなら、舵角比が大きい場合であっても、ラック軸がラックストッパに接触する前に操舵制限処理を実行することができる。しかしこの場合には、舵角比が小さい場合に、転舵角に余裕があるときであっても、操舵角は、スパイラルケーブルの長さから定まる上限値に達することがあり、この場合には、操舵角が上限値に達しても舵角制限処理が実行されないおそれがある。
【0009】
なお、スパイラルケーブルとラックアンドピニオン機構とを備えるものに限らず、転舵角と操舵角とがそれぞれ独立に上限値を有するものにあっては、転舵角や操舵角が上限値に近づいて更にこれを超えようとするステアリングの操作を制限することができないおそれがある。
【0010】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転舵角が上限値を超えようとするステアリングの操作と操舵角が上限値を超えようとするステアリングの操作とがなされる事態を抑制できるようにした操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.車両の転舵輪の転舵角とステアリングの回転角度である操舵角との比である舵角比を変更可能な操舵装置に操作信号を出力する操舵制御装置において、前記操舵角を取得する操舵角取得処理部と、前記転舵角を取得する転舵角取得処理部と、前記取得した転舵角が転舵角閾値に達することと、前記取得した操舵角が操舵角閾値に達することとの論理和が真となる場合に、前記操舵角が更に大きくなる側への前記ステアリングの操作の停止を促す制限制御を実行する操舵制限処理部と、を備える。
【0012】
上記構成では、操舵角が操舵角閾値に達することと転舵角が転舵角閾値に達することとの論理和が真となる場合、操舵制限処理部によって、操舵角が更に大きくなる側へのステアリングの操作の停止を促す制限制御が実行される。このため、操舵角が、操舵角の上限値に達する前に、操舵角が操舵角閾値に達して制限制御を実行することができる。また、転舵角が転舵角の上限値に達する前に、転舵角が転舵角閾値に達して制限制御を実行することができる。このため、転舵角が上限値を超えようとするステアリングの操作と操舵角が上限値を超えようとするステアリングの操作とがなされる事態を抑制できる。
【0013】
2.上記1記載の操舵制御装置において、前記転舵角閾値と前記操舵角閾値とが互いに等しい共通閾値となるように前記操舵角取得処理部が取得する前記操舵角と前記転舵角取得処理部が取得する前記転舵角との計量単位を設定する計量単位設定処理部を備え、前記操舵制限処理部は、前記転舵角および前記操舵角の最大値が前記共通閾値以上となる場合に前記制限制御を実行する。
【0014】
上記構成では、転舵角閾値と操舵角閾値とが互いに等しい共通閾値となるように、操舵角および転舵角の計量単位が設定され、それらの最大値が共通閾値以上となる場合に制限制御が実行される。このため、操舵角が操舵角閾値に達する場合には、最大値が共通閾値以上となり、転舵角が転舵角閾値に達する場合にも、最大値が共通閾値以上となり、制限制御が実行される。
【0015】
3.上記1または2記載の操舵制御装置において、前記制限制御は、前記操舵装置に操作信号を出力することによって前記ステアリングの操作に抗する力である反力を増加制御するものである。
【0016】
上記構成では、制限制御として、反力の増加制御を実行する。この場合、ユーザはステアリングを、操舵角が大きくなる側に更に操作しようとすることに抗する大きな力を受けることになる。したがって、操舵角が更に大きくなる側へのステアリングの操作の停止を促すことができる。
【0017】
4.上記3記載の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータと、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータと、を備え、前記操舵制限処理部は、前記反力アクチュエータに操作信号を出力することにより、前記増加制御を実行する。
【0018】
上記構成では、少なくとも上記動力遮断状態において転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータを備えているため、ステアリングの操作と一義的な関係を有しないように転舵角を設定することができる。換言すれば、操舵装置に操作信号を出力することによって、舵角比を変更することができる。
【0019】
また、上記構成では、反力アクチュエータを操作することによって、増加制御を実行することができる。
5.上記2記載の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ステアリングの操作に抗する力である反力を前記ステアリングに付与する反力アクチュエータと、少なくとも前記転舵輪と前記ステアリングとの動力遮断状態において前記転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータと、を備え、前記操舵制限処理部は、前記転舵角および前記操舵角のうちの最大値が前記共通閾値以上となることを条件に、前記制限制御のための反力である制限用反力をゼロよりも大きい値に設定する制限用反力設定処理部と、前記設定された制限用反力に基づき、前記操舵角の目標値である目標操舵角を設定する目標操舵角設定処理部と、前記ステアリングの回転に連動して回転する回転軸の回転角度を検出する操舵側センサの出力値に基づく操舵角を前記目標操舵角にフィードバック制御するために前記反力アクチュエータを操作する操舵角制御処理部と、前記設定された制限用反力に基づき、前記転舵角の目標値である目標転舵角を設定する目標転舵角設定処理部と、前記転舵輪の転舵に連動して変位する部材の変位量を検出する転舵側センサの出力値に基づく転舵角を前記目標転舵角にフィードバック制御するために前記転舵アクチュエータを操作する転舵角制御処理部と、を備え、前記計量単位設定処理部は、前記転舵側センサの出力値および前記操舵側センサの出力値の少なくとも一方に所定の演算処理を施して前記操舵角制御処理部に入力される操舵角および前記転舵角制御処理部に入力される転舵角の少なくとも一方を生成するものであり、前記操舵角取得処理部は、前記目標操舵角を取得し、前記転舵角取得処理部は、前記目標転舵角を取得する。
【0020】
上記構成では、少なくとも上記動力遮断状態において転舵輪を転舵させる力を付与する転舵アクチュエータを備えているため、ステアリングの操作と一義的な関係を有しないように転舵角を設定することができる。換言すれば、操舵装置に操作信号を出力することによって、舵角比を変更することができる。
【0021】
また、上記構成では、操舵角が目標操舵角にフィードバック制御され、転舵角が目標転舵角にフィードバック制御されるため、目標操舵角が大きくなるときには操舵角が大きくなり、目標転舵角が大きくなるときには転舵角が大きくなると考えられる。このため、目標操舵角および目標転舵角の最大値が共通閾値以上となる場合には、操舵角および転舵角の最大値が共通閾値以上となると考えられる。
【0022】
また、上記構成では、制限用反力設定処理部が制限制御のために制限用反力を設定し、これに基づき目標操舵角が設定される。そして、操舵角制御処理部によって、操舵角が目標操舵角にフィードバック制御される。このため、操舵角が目標操舵角を超えて大きくなろうとする場合、ステアリングに加わる反力が増加制御される。また、制限用反力は、操舵角や転舵角が共通閾値に達する場合に付与されるものであり、制限用反力が大きいほど、目標操舵角は、大きくなりにくくなる。このため、操舵角が共通閾値に達した後、ユーザは、ステアリングを操舵角が大きくなる側に更に操作しようとすることに抗する大きな力を受けることになる。したがって、操舵角が更に大きくなる側へのステアリングの操作の停止を促すことができる。
【0023】
6.上記3記載の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、前記ステアリングに加わるトルクを前記転舵輪側に伝達させつつ前記舵角比を変更する可変舵角比アクチュエータとを備え、前記操舵制限処理部は、前記ステアリングの操作による前記転舵輪の転舵を前記転舵アクチュエータによってアシストするアシスト力を低減操作することにより、前記増加制御を実行する。
【0024】
上記構成では、ステアリングの操作によるトルクが舵角比可変アクチュエータを介して転舵輪に伝達される。このため、転舵輪を転舵させる際に生じる反作用がステアリングに及ぶこととなる。そして、反作用によってステアリングに加わる反力は、アシスト力が大きいほど小さくなる。このため、アシスト力を低減することによって、反力の増加制御を実現することができる。
【0025】
7.上記1〜6のいずれか1つに記載の操舵制御装置において、前記ステアリングには、当該ステアリングと一体的に回転するステアリング側機器が設けられ、前記ステアリング側機器は、ケーブルを介して前記ステアリングに対して相対回転する外部側機器に接続されている。
【0026】
上記構成では、操舵角の大きさがケーブルによって規制される。このため、操舵角が操舵角閾値以上となる場合に制限制御が実行されないなら、操舵角がケーブルの長さから定まる上限値に達した後にも操舵角を増加させようとするトルクがステアリングに加わって、ケーブルの長さが最大となっても未だケーブルを伸ばそうとする力が加わり、ケーブルの信頼性の低下を招くおそれがある。この点、上記構成では、操舵制限処理部によって、操舵角が操舵角閾値以上となる場合に制限制御が実行されるために、ケーブルの長さが最大となっても未だケーブルを伸ばそうとする力が加わる事態を抑制することができることから、ケーブルの信頼性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施形態にかかる操舵制御装置を備えるシステム構成図。
図2】同実施形態にかかる制御装置の実行する処理を示すブロック図。
図3】同実施形態にかかる操舵角および転舵角の閾値を示す図。
図4】最大値選択処理部の処理を示す流れ図。
図5】第2の実施形態にかかる操舵制御装置を備えるシステム構成図。
図6】同実施形態にかかる制御装置の実行する処理を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1の実施形態>
以下、操舵制御装置にかかる第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる操舵装置においては、ステアリングホイール(ステアリング10)が、ステアリング10の操作に抗する力である反力を付与する反力アクチュエータ20に接続されている。反力アクチュエータ20は、ステアリング10に固定されたステアリングシャフト22、反力側減速機24、反力側減速機24に回転軸26aが連結された反力モータ26、および反力モータ26を駆動するインバータ28を備えている。
【0029】
ステアリングシャフト22は、クラッチ12を介して転舵アクチュエータ40のピニオン軸42に連結可能とされている。
転舵アクチュエータ40は、第1ラックアンドピニオン機構48、第2ラックアンドピニオン機構52、転舵側モータ56およびインバータ58を備えている。
【0030】
第1ラックアンドピニオン機構48は、所定の交叉角をもって配置されたラック軸46とピニオン軸42とを備え、ラック軸46に形成された第1ラック歯46aとピニオン軸42に形成されたピニオン歯42aとが噛合されている。なお、ラック軸46の両端には、タイロッドを介して転舵輪30が連結されている。
【0031】
第2ラックアンドピニオン機構52は、所定の交叉角をもって配置されたラック軸46およびピニオン軸50を備えており、ラック軸46に形成された第2ラック歯46bとピニオン軸50に形成されたピニオン歯50aとが噛合されている。
【0032】
ピニオン軸50は、転舵側減速機54を介して、転舵側モータ56の回転軸56aに接続されている。転舵側モータ56には、インバータ58が接続されている。なお、ラック軸46は、ラックハウジング44に収容されている。
【0033】
操舵制御装置(制御装置60)は、反力アクチュエータ20および転舵アクチュエータ40を備えた操舵装置を操作することにより、ステアリング10の操作に応じて転舵輪30を転舵させる制御を実行する。すなわち、本実施形態では、反力アクチュエータ20および転舵アクチュエータ40によってステアバイワイヤシステムを実現しており、制御装置60は、通常、クラッチ12を遮断状態に維持しつつ、ステアリング10の操作に応じて転舵輪30を転舵させる制御を実行する。この際、制御装置60は、操舵側センサ62によって検出される反力モータ26の回転軸26aの回転角度θs0や、トルクセンサ64によって検出されるステアリングシャフト22に加わるトルクTrq、転舵側センサ66によって検出される転舵側モータ56の回転軸56aの回転角度θt0、車速センサ68によって検出される車速Vを取り込む。
【0034】
ステアリング10には、スパイラルケーブル装置70が連結されている。スパイラルケーブル装置70は、ステアリング10に固定された第1ハウジング72と、車体に固定された第2ハウジング74と、第1ハウジング72および第2ハウジング74によって区画された空間に収容されて且つ第2ハウジング74に固定された筒状部材76と、筒状部材76に巻きつけられるスパイラルケーブル78とを備えている。筒状部材76には、ステアリングシャフト22が挿入されている。スパイラルケーブル78は、ステアリング10に固定されたホーン80と、車体に固定されたバッテリ82等とを接続する電気配線である。
【0035】
図2に、制御装置60が実行する処理の一部を示す。
積算処理部M2は、操舵側センサ62によって検出された回転角度θs0と転舵側センサ66によって検出された回転角度θt0とを、0〜360°よりも広い角度領域の数値に変換して回転角度θs,θtとする。すなわち、たとえば、ステアリング10が車両を直進させる中立位置から右側または左側に最大限回転操作される場合、回転軸26aは、複数回転する。したがって、積算処理部M2では、たとえばステアリング10が中立位置にある状態から回転軸26aが所定方向に2回転する場合、出力値を720°とする。なお、積算処理部M2は、中立位置における出力値をゼロとする。
【0036】
計量単位設定処理部M4は、積算処理部M2による処理が施された操舵側センサ62の出力値に換算係数Ksを乗算して操舵角θhを算出し、積算処理部M2による処理が施された転舵側センサ66の出力値に換算係数Ktを乗算して、転舵角θpを算出する。ここで、換算係数Ksは、反力側減速機24と反力モータ26の回転軸26aとの回転速度との比に応じて定められており、これにより、回転軸26aの回転角度θsの変化量をステアリング10の回転量に変換する。このため、操舵角θhは、中立位置を基準とするステアリング10の回転角度となる。また、換算係数Ktは、転舵側減速機54と転舵側モータ56の回転軸56aとの回転速度比、ピニオン軸50とラック軸46との回転速度比、およびラック軸46とピニオン軸42との回転速度比の積となっている。これにより、回転軸56aの回転量を、クラッチ12が連結されていると仮定した場合におけるステアリング10の回転量に変換する。
【0037】
なお、図2における処理は、回転角度θs,θt、操舵角θhおよび転舵角θpが所定方向の回転角度の場合に正、逆方向の回転角度の場合に負とする。すなわち、たとえば、積算処理部M2は、ステアリング10が中立位置にある状態から回転軸26aが所定方向とは逆回転する場合に、出力値を負の値とする。ただし、これは、制御系のロジックの一例に過ぎない。特に、本明細書では、回転角度θs,θt、操舵角θhおよび転舵角θpが大きいとは、中立位置からの変化量が大きいこととする。換言すれば、上記のように正負の値を取りうるパラメータの絶対値が大きいこととする。
【0038】
制限用反力設定処理部M6は、ステアリング10の回転量が許容最大値に近づく場合に、ステアリング10が更に上限値側に操作されるのに抗する反力である制限用反力Fieを設定する。
【0039】
ベース反力設定処理部M8は、ステアリング10の操作に応じたベース反力Fibを設定する。ヒステリシス反力設定処理部M10は、ステアリング10の変化速度の符号に応じてステアリング10に加わる反力を互いに異なるように設定するためのヒステリシス反力Fihを設定する。これは、たとえば、ステアリング10が中立位置に対して右側に切られている状態において、さらに右側に切られる場合と中立位置側に戻される場合とで反力を相違させるものである。
【0040】
加算処理部M12は、制限用反力Fie、ベース反力Fibおよびヒステリシス反力Fihを加算することによって、合計反力Firを算出する。
アシスト軸力設定処理部M20は、トルクセンサ64によって検出されたトルクTrqに基づき、アシスト軸力Faを算出する。ここで、アシスト軸力Faは、トルクTrqが大きいほど大きい値に設定される。
【0041】
目標操舵角設定処理部M22は、トルクセンサ64によって検出されたトルクTrqとアシスト軸力Faと合計反力Firとに基づき、目標操舵角θh*を設定する。ここでは、トルクTrqとアシスト軸力Faとの和から合計反力Firを減算した値である最終軸力Ffと、目標操舵角θh*とを関係づける以下の式(c1)にて表現されるモデル式を利用する。
【0042】
Ff=C・θh*’+J・θh*’’ …(c1)
上記の式(c1)にて表現されるモデルは、ステアリング10と転舵輪30とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリング10の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角度との関係を定めるモデルである。上記の式(c1)において、粘性係数Cは、操舵装置の摩擦等をモデル化したものであり、慣性係数Jは、操舵装置の慣性をモデル化したものである。ここで、粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じて可変設定される。
【0043】
操舵角制御処理部M24は、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための操作量として、反力モータ26が生成する反力トルクTrqa*を設定する。具体的には、目標操舵角θh*から操舵角θhを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、反力トルクTrqa*とする。
【0044】
操作信号生成処理部M26は、反力トルクTrqa*に基づき、インバータ28の操作信号MSsを生成してインバータ28に出力する。これは、たとえば、反力トルクTrqa*に基づきq軸電流の指令値を設定し、dq軸の電流を指令値にフィードバック制御するための操作量としてdq軸の電圧指令値を設定する周知の電流フィードバック制御にて実現することができる。なお、d軸電流はゼロに制御してもよいが、反力モータ26の回転速度が大きい場合には、d軸電流の絶対値をゼロより大きい値に設定し弱め界磁制御を実行してもよい。もっとも、低回転速度領域においてd軸電流の絶対値をゼロよりも大きい値に設定することも可能である。
【0045】
舵角比可変処理部M28は、車速Vに基づき、操舵角θhと転舵角θpとの比である舵角比を可変設定するための目標動作角θa*を設定する。加算部M30は、目標操舵角θh*に目標動作角θa*を加算することにより、目標転舵角θp*を算出する。
【0046】
転舵角制御処理部M32は、転舵角θpを目標転舵角θp*にフィードバック制御するための操作量として、転舵側モータ56が生成するトルクTrqt*を設定する。具体的には、目標転舵角θp*から転舵角θpを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、トルクTrqt*とする。
【0047】
操作信号生成処理部M34は、トルクTrqt*に基づき、インバータ58の操作信号MStを生成してインバータ28に出力する。これは、操作信号生成処理部M26による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0048】
上記ベース反力設定処理部M8およびヒステリシス反力設定処理部M10は、目標操舵角θh*を入力とする。具体的には、ベース反力設定処理部M8は、目標操舵角θh*の大きさ(中立位置を基準とする回転量)が大きいほどベース反力Fibを大きい値に設定する。なお、図2には、目標操舵角θh*がゼロから所定の回転方向に大きくなるにつれてベース反力Fibが大きくなることのみを示したが、所定の回転方向とは逆方向に大きくなる場合であっても、ベース反力Fibは大きくなる。
【0049】
一方、上記制限用反力設定処理部M6は、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*との最大値であるエンド角θeを入力として、制限用反力Fieを設定する。これは、ラック軸46が軸方向に変位してラック軸46の端部がラックハウジング44に接触する直前と、ステアリング10がスパイラルケーブル78から定まる上限値まで回転する直前との双方において、ステアリング10に加わる力を増加制御するための設定である。以下、これについて説明する。
【0050】
図3に、操舵角θhおよび転舵角θpのそれぞれの上限値θhH,θpHの関係を示す。図示されるように、本実施形態では、操舵角θhの上限値θhHと転舵角θpの上限値θpHとがほぼ等しい値となっている。これは、計量単位設定処理部M4による操舵角θhおよび転舵角θpの計量単位の設定によって実現したものである。すなわち、本実施形態では、クラッチ12が締結状態とされる場合に、ラック軸46がラックハウジング44に接触するまで軸方向に変位したときに、ステアリング10を更にわずかに回転可能なように、スパイラルケーブル78の長さにわずかにマージンを持たせてある。このため、計量単位設定処理部M4によって、操舵角θhをステアリング10の回転角度とし、転舵角θpを目標動作角θa*をゼロと仮定したときのステアリング10の回転角度とすることにより、操舵角θhの上限値θhHと転舵角θpの上限値θpHとがほぼ等しい値となる。
【0051】
そのため、本実施形態では、操舵角θhおよび転舵角θpに共通閾値θenを設けて、操舵角θhが上限値θhHに達する前であって且つ転舵角θpが上限値θpHに達する前にステアリング10の反力を増加制御する。図2に示した制限用反力設定処理部M6は、エンド角θeと制限用反力Fieとの関係を定めたマップを備えている。このマップは、エンド角θeが共通閾値θen以上となることで正となるものであり、特に、共通閾値θenを超えてある程度大きくなると、人の力ではそれ以上の操作ができないほど大きい値が設定されている。なお、図2には、エンド角θeがゼロから所定の回転方向に大きくなるにつれて制限用反力Fieが大きくなることのみを示したが、ベース反力Fibと同様、所定の回転方向とは逆方向に大きくなる場合であっても、制限用反力Fieは大きくなる。
【0052】
具体的には、図2に示すように、最大値選択処理部M36を備えて、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*との最大値を選択させる。
図4に、最大値選択処理部M36の処理の手順を示す。この処理は、最大値選択処理部M36によって、たとえば所定周期で繰り返し実行される。
【0053】
図4に示す一連の処理において、最大値選択処理部M36は、まず、目標操舵角θh*を取得する(S10)。次に、最大値選択処理部M36は、目標転舵角θp*を取得する(S12)。そして、最大値選択処理部M36は、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*との最大値をエンド角θeとして出力する(S14)。ここで、最大値とは、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*とのうち中立位置に対応する値(ゼロ)から離れている度合いが大きい方という意味である。
【0054】
なお、最大値選択処理部M36は、ステップS14の処理が完了する場合、この一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用を説明する。
【0055】
目標操舵角設定処理部M22は、ユーザがステアリング10に加えるトルクTrqに応じて目標操舵角θh*を設定し、加算部M30では、これに応じて目標転舵角θp*を算出する。そして、転舵角制御処理部M32は、転舵角θpを目標転舵角θp*とするためのトルクTrqt*を設定する。このため、転舵側モータ56のトルクがトルクTrqt*に制御され、ひいては、転舵角θpが目標転舵角θp*に制御される。
【0056】
一方、操舵角制御処理部M24では、操舵角θhを目標操舵角θh*とするための反力トルクTrqa*を設定する。ここで、目標操舵角θh*は、トルクTrqとアシスト軸力Faとの和と合計反力Firとを一致させるための最終軸力Ffに基づき設定される。そして、ベース反力Fibは、操舵角θhが大きいほど大きい値に設定されている。さらに、ユーザがステアリング10に加えるトルクTrqとアシスト軸力Faとの和が合計反力Firとなるような目標操舵角θh*が設定される。したがって、操舵角θhが大きいほど、反力モータ26によって付与される、ステアリング10を中立位置側に戻そうとするトルクである反力も大きい値となる。
【0057】
ここで、エンド角θeが共通閾値θenを超えてさらに大きくなろうとする場合、ベース反力Fib等と比較して制限用反力Fieが急激に大きくなる。この場合、合計反力Firが急激に大きくなり、トルクTrqとアシスト軸力Faとの和も急激に大きくなる。このため、反力モータ26がステアリング10を中立位置側に戻そうとするトルク(反力トルクTrqa*)が大きくなり、ユーザがステアリング10をそれ以上切り続けることが困難となる。このため、エンド角θeが操舵角θhである場合、操舵角θhが勢いよく変化しつつ上限値θhHに達することは十分に抑制される。
【0058】
また、目標操舵角θh*が大きくなろうとすることが制限される場合、目標転舵角θp*も大きくなろうとすることが制限される。このため、エンド角θeが転舵角θpである場合、転舵角θpが勢いよく変化して上限値θpHに達することは十分に抑制される。
【0059】
以上説明した本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)エンド角θeが共通閾値θen以上となる場合に、制限用反力Fieをゼロよりも大きい値に設定した。これにより、転舵角θpが上限値θpHを超えようとするステアリング10の操作と操舵角θhが上限値θhHを超えようとするステアリング10の操作とがなされる事態を抑制できる。
【0060】
(2)目標操舵角設定処理部M22をモデルにて構成した。これにより、ステアリング10に加える反力を制御する制御器の適合工数を低減することができる。すなわちたとえば、モデルに代えて、制限用反力設定処理部M6をエンド角θeおよび車速Vと制限用反力Fieとの関係を規定するマップとする場合には、マップの次元数が増加するために、図2の構成と比較して、制限用反力設定処理部M6の適合データ量が増加する。
【0061】
(3)スパイラルケーブル装置70を備えた。この場合、操舵角θhが操舵角閾値θhH以上となる場合に反力トルクの増加制御が実行されないなら、操舵角θhがスパイラルケーブル78の長さから定まる上限値θhHに達した後にも操舵角θhを増加させようとするトルクがステアリング10に加わる。そしてこれにより、スパイラルケーブル78の長さが最大となっても未だスパイラルケーブル78を伸ばそうとする力が加わり、スパイラルケーブル78の信頼性の低下を招くおそれがある。この点、本実施形態では、操舵角θhが共通閾値θen以上となる場合に反力の増加制御が実行されるために、スパイラルケーブル78の長さが最大となっても未だスパイラルケーブル78を伸ばそうとする力が加わる事態を抑制することができることから、スパイラルケーブル78の信頼性の低下を抑制することができる。
【0062】
<第2の実施形態>
以下、操舵制御装置にかかる第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0063】
図5に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図5において、図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
本実施形態にかかる操舵装置は、反力アクチュエータ20に代えて、可変舵角比アクチュエータ90を備える。可変舵角比アクチュエータ90は、ステアリングシャフト22に一体回転可能に連結されたハウジング92、ハウジング92の内部に収容されるVGRモータ94、インバータ100、および減速機構96を備えている。減速機構96は、差動回転可能な3つの回転要素からなる機構、例えば遊星歯車機構や波動歯車装置(ストレイン・ウェーブ・ギヤリング)等により構成される。減速機構96を構成する3つの回転要素は、ハウジング92、VGRモータ94の回転軸に連結された回転軸94a、およびピニオン軸42に連結された出力軸98にそれぞれ連結されている。すなわち、減速機構96では、ハウジング92の回転速度とVGRモータ94の回転速度とにより出力軸98の回転速度が一義的に定まる。可変舵角比アクチュエータ90では、減速機構96を通じて、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト22の回転にVGRモータ94の回転軸94aの回転を上乗せして出力軸98に伝達することにより、ステアリングシャフト22に対する出力軸98の相対的な回転角を変化させる。これにより、操舵角θhに対する転舵角θpの比である舵角比を可変設定する。なお、ここでの「上乗せ」は、加算および減算の双方を含む。また、以下では、ステアリングシャフト22に対する出力軸98の相対的な回転角を「出力軸98の動作角θa」と称する。
【0064】
なお、舵角比側センサ102は、VGRモータ94の回転軸94aの回転角度θmを検出する。また、トルクセンサ64は、出力軸98のトルクTrqを検出する。
図6に、本実施形態にかかる制御装置60の実行する処理を示す。なお、図6において、図2に示した処理に対応するものについては、便宜上、同一の符号を付している。
【0065】
動作角算出処理部M40は、減速機構96を構成する各回転要素間のギア比に応じて定まる減速比に基づき、回転角度θmから出力軸98の実際の動作角θaを算出する。
一方、舵角比制御処理部M44は、動作角θaを目標動作角θa*にフィードバック制御するための操作量として舵角比トルクTrqv*を算出する。詳しくは、目標動作角θa*から動作角θaを減算した値を入力とする比例要素、積分要素、および微分要素のそれぞれの出力値の和を、舵角比トルクTrqv*とする。
【0066】
操作信号生成処理部M46は、VGRモータ94のトルクを舵角比トルクTrqv*に制御するためのインバータ100の操作信号MSvを生成してインバータ100に出力する。これは、操作信号生成処理部M26による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0067】
ベース値設定処理部M48は、トルクセンサ64によって検出されたトルクTrqおよび車速センサ68によって検出された車速Vに基づき、アシストトルクのベース値Ta1*を設定する。ここで、ベース値Ta1*は、トルクTrqが大きいほど大きい値とされる。
【0068】
減算部M50は、転舵角θpから動作角θaを減算して操舵角θhを算出する。補正処理部M54は、ベース値Ta1*から制限用反力Fieを減算した値を、アシストトルクTa*として出力する。
【0069】
操作信号生成処理部M34は、転舵側モータ56のトルクをアシストトルクTa*に制御するための操作信号MStを生成してインバータ58に出力する。これは、操作信号生成処理部M26による操作信号の生成処理と同様に行うことができる。
【0070】
なお、本実施形態では、最大値選択処理部M36が、図4のステップS10の処理において操舵角θhを取得し、図4のステップS12の処理において転舵角θpを取得し、ステップS14の処理においてそれらの最大値を選択してエンド角θeとする。
【0071】
ここで、本実施形態の作用を説明する。
ユーザがステアリング10を操作すると、ステアリング10に加えられたトルクは、出力軸98を介してラック軸46に伝達される。また、転舵側モータ56は、アシストトルクTa*に応じたトルクを生成し、このトルクもラック軸46に伝達される。
【0072】
ここで、エンド角θeが共通閾値θen以上となる場合、アシストトルクTa*は、ベース値Ta1*に対して制限用反力Fieだけ小さくなる。制限用反力Fieは、エンド角θeが共通閾値θenを超えると急激に大きくなるため、エンド角θeが共通閾値θenを超える場合、アシストトルクTa*は急激に小さくなる。このため、操舵角θhが更に大きくなるようにステアリング10が操作されるのには大きなトルクが必要となる。
【0073】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。以下において、「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項と上記実施形態における事項との対応関係を符号等によって例示した部分があるが、これには、例示した対応関係に上記事項を限定する意図はない。なお、「課題を解決するための手段」の欄に記載した操舵角取得処理部は、ステップS10の処理を実行する制御装置60に対応する。また、転舵角取得処理部は、ステップS12の処理を実行する制御装置60に対応する。また、操舵制限処理部は、第1の実施形態において、制限用反力設定処理部M6、目標操舵角設定処理部M22、操舵角制御処理部M24、操作信号生成処理部M26、最大値選択処理部M36等に対応する。また、第2の実施形態において、制限用反力設定処理部M6、最大値選択処理部M36、補正処理部M54、操作信号生成処理部M34等に対応する。また、外部側機器は、バッテリ82に対応する。
【0074】
・「目標操舵角設定処理部(M22)について」
上記実施形態では、上記の式(c1)にて表現されるモデル式を用いて目標操舵角θh*を設定したが、これに限らない。たとえば、以下の式(c2)にて表現されるモデル式を用いてもよい。
【0075】
Ff=K・θh*+C・θh*’+J・θh*’’ …(c2)
ここで、バネ係数Kは、車両の影響をモデル化したものであり、サスペンションやホールアラインメント等の仕様によって決定される。
【0076】
モデル式を用いて目標操舵角θh*を設定するものに限らない。たとえば、最終軸力Ffおよび車速Vと目標操舵角θh*との関係を定めたマップ等を用いてもよい。
・「反力について」
上記第1の実施形態において、ベース反力設定処理部M8やヒステリシス反力設定処理部M10を備えなくてもよい。すなわち、合計反力Firが、ベース反力Fibやヒステリシス反力Fihを含まなくてもよい。
【0077】
・「目標転舵角設定処理部(M22,M28,M30)について」
上記構成では、最終軸力Ffに基づき算出された目標操舵角θh*に目標動作角θa*を加算することによって、目標転舵角θp*を算出したがこれに限らない。たとえば、上記の式(c1)や式(c2)に準じたモデル式に基づき目標転舵角θp*を直接算出してもよい。
【0078】
・「操舵角制御処理部(M24)について」
上記実施形態では、目標操舵角θh*から操舵角θhを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための操作量としたが、これに限らない。たとえば、操舵角制御処理部M24を積分要素のみから構成し、積分要素の出力値を操作量としてもよく、また、積分要素および比例要素のみから構成し、それらの出力値の和を操作量としてもよい。
【0079】
また、操作量をトルクとするものに限らない。たとえば、反力モータ26のd軸電流をゼロとする制御を前提とする場合において、操作量をq軸電流としてもよい。
・「転舵角制御処理部(M32)について」
上記実施形態では、目標転舵角θp*から転舵角θpを減算した値を入力とする比例要素、積分要素および微分要素のそれぞれの出力値の和を、転舵角θpを目標転舵角θp*にフィードバック制御するための操作量としたが、これに限らない。たとえば、転舵角制御処理部M32を積分要素のみから構成し、積分要素の出力値を操作量としてもよく、また、積分要素および比例要素のみから構成し、それらの出力値の和を操作量としてもよい。
【0080】
また、操作量をトルクとするものに限らない。たとえば、転舵側モータ56のd軸電流をゼロとする制御を前提とする場合において、操作量をq軸電流としてもよい。
・「計量単位設定処理部(M4)について」
操舵角を、ステアリング10の回転角度に換算して且つ、転舵角を、目標動作角θa*がゼロである状態におけるステアリング10の回転角度に換算する処理に限らない。たとえば、転舵角を、目標動作角θa*がゼロである状態における回転軸26aの回転角度に換算する処理であってもよい。ただし、ここでの回転角度は、0°未満と360°より大きい角度とを含む。また、たとえば、操舵角を、目標動作角θa*がゼロである状態における回転軸56aの回転角度に換算する処理であってもよい。ただし、ここでの回転角度は、0°未満と360°より大きい角度とを含む。
【0081】
また、たとえば、回転角度θsの上限値θsHと、回転角度θtの上限値θtHとに基づき、操舵角を、「θs・θtH」とし、転舵角を、「θt・θsH」としてもよい。この場合、共通閾値は、「θsH・θtH」となる。
【0082】
なお、操舵角および転舵角の計量単位は、回転角度に関する計量単位であることも必須ではない。たとえば、「転舵側センサについて」の欄に記載したように、転舵側センサがラック軸46の軸方向の変位量を検出するものにおいて、回転角度θsを、目標動作角θa*がゼロである状態におけるラック軸46の変位量に換算した値を操舵角としてもよい。
【0083】
・「最大値(θen)について」
上記第1の実施形態において、目標操舵角θh*と目標転舵角θp*との最大値とする代わりに、操舵角θhと転舵角θpとの最大値としてもよい。
【0084】
操舵角θhまたは目標操舵角θh*と転舵角θpまたは目標転舵角θp*との2つのパラメータの大きい方に限らない。たとえば、ラック軸46のそれぞれ別の箇所に互いに相違する転舵側モータがトルクを付与する構成において、それら転舵側モータのそれぞれの回転角度の検出値に応じた一対の転舵角と、操舵角との最大値であってもよい。また、たとえば、4輪操舵車において、前輪側の転舵角と後輪側の転舵角と、操舵角との最大値であってもよい。
【0085】
・「操舵角閾値(θen)、転舵角閾値(θen)について」
操舵側閾値および転舵側閾値を互いに等しい共通閾値とするものに限らない。たとえば、計量単位設定処理部M4を備えず、制限用反力設定処理部M6に代えて、回転角度θsに基づき制限用反力を設定する処理と、回転角度θtに基づき制限用反力を設定する処理とを備え、それら一対の制限用反力の和や、一対の制限用反力の大きい方を、加算処理部M12に入力される制限用反力Fieとしてもよい。
【0086】
・「増加制御について」
上記第1の実施形態では、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するために反力アクチュエータ20を操作することとし、目標操舵角θh*を制限用反力Fieに基づき設定することにより増加制御を実現したが、これに限らない。たとえば、エンド角θeおよび車速と、制限用反力との関係を定めたマップを備えて制限用反力を算出し、これをアシストトルクから減算した値を、反力モータ26のトルクの指令値としてもよい。
【0087】
なお、第1の実施形態における増加制御においては、クラッチ12を締結状態に切り替えてもよい。これにより、反力モータ26を小型化しても、ステアリング10に付与される反力を大きくすることが容易となる。
【0088】
・「制限制御について」
反力アクチュエータ20を操作することにより、操舵角がさらに大きくなるステアリング10の操作の停止を促す制限制御としては、反力を増加制御するものに限らない。たとえば、ステアリング10に振動を付与する処理であってもよい。
【0089】
また、反力アクチュエータ20を用いるものに限らず、たとえば、操舵装置以外の機器であるスピーカ等を備える機器を操作して、警告音を発する処理であってもよい。
・「舵角比の可変処理について」
上記実施形態では、舵角比可変処理部M28が、車速Vに応じて舵角比を可変設定したが、これに限らない。たとえば、車速Vに加えて操舵角θhを加味してもよい。また、たとえば、車両の横滑り防止制御やレーンキープアシスト制御等の公知の走行支援制御のための操作量として、舵角比を操作してもよい。これは、たとえば、走行支援制御に応じた舵角比を演算する装置から舵角比についての情報を取得することにより実現することができる。
【0090】
・「操舵側センサ(62)について」
操舵側センサとしては、反力モータ26の回転軸26aの回転角度θs0を検出する回転角度センサに限らず、たとえば、ステアリングシャフト22の回転角度を検出するものであってもよい。
【0091】
・「転舵側センサ(66)について」
転舵側センサとしては、転舵側モータ56の回転軸56aの回転角度を検出する回転角度センサに限らず、たとえば、ピニオン軸50の回転角度を検出するものであってもよい。また、回転角度センサにも限らず、たとえばラック軸46の軸方向の変位量を検出するセンサであってもよい。
【0092】
・「転舵アクチュエータ(40)について」
転舵アクチュエータとしては、第1ラックアンドピニオン機構48および第2ラックアンドピニオン機構52を備えるものに限らない。たとえば、第1ラックアンドピニオン機構48のピニオン軸42に、転舵側減速機54を介して転舵側モータ56のトルクを付与する構成であってもよい。
【0093】
また、ラックアンドピニオン機構を備えるものに限らず、たとえば、ボール・ナット型のものであってもよい。
・「VGRシステムの制御について」
図6に示したものに限らない。たとえば、ベース値Ta1*にトルクTrqを加算した値からモデルに基づき目標転舵角θp*を算出し、実際の転舵角θpを目標転舵角θp*にフィードバック制御するための操作量によって、アシストトルクTa*を補正して操作信号生成処理部M34に取り込んでもよい。
【0094】
・「ステアリング側機器(80)について」
ステアリング側機器としては、ホーン80に限らない。たとえば、エアバッグ等であってもよい。
【0095】
・「操舵角の上限値について」
ケーブルによって定められるものに限らない。たとえば、ステアリングシャフト22の回転角度を検出するセンサを備えるものにおいて、センサの検出上限値がある場合には、これによって操舵角の上限値を定めてもよい。
【0096】
・「転舵角の上限値について」
ラック軸46の変位量の上限値によって定められるものに限らない。たとえば、ラック軸46の変位量を検出するセンサを備えて転舵角を検出するものにおいて、センサの検出上限値がある場合には、これによって操舵角の上限値を定めてもよい。
【符号の説明】
【0097】
10…ステアリング、12…クラッチ、20…反力アクチュエータ、22…ステアリングシャフト、24…反力側減速機、26…反力モータ、26a…回転軸、28…インバータ、30…転舵輪、40…転舵アクチュエータ、42…ピニオン軸、42a…ピニオン歯、44…ラックハウジング、46…ラック軸、46a…第1ラック歯、46b…第2ラック歯、48…第1ラックアンドピニオン機構、50…ピニオン軸、50a…ピニオン歯、52…第2ラックアンドピニオン機構、54…転舵側減速機、56…転舵側モータ、56a…回転軸、58…インバータ、60…制御装置、62…操舵側センサ、64…トルクセンサ、66…転舵側センサ、68…車速センサ、70…スパイラルケーブル装置、72…第1ハウジング、74…第2ハウジング、76…筒状部材、78…スパイラルケーブル、80…ホーン、82…バッテリ、90…可変舵角比アクチュエータ、92…ハウジング、94…VGRモータ、94a…回転軸、96…減速機構、98…出力軸、100…インバータ、102…舵角比側センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6