特許第6582714号(P6582714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582714並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法、電流バランス制御装置およびパワーモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582714
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法、電流バランス制御装置およびパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20190919BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H02M1/00 M
   H03K17/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-160977(P2015-160977)
(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-41936(P2017-41936A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】特許業務法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅浩
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0098577(US,A1)
【文献】 特開2014−230307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H03K 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続されたパワー半導体素子をそれぞれ駆動するための電流バランス制御回路をループ状のデイジーチェーン型で接続し、
前記電流バランス制御回路では、すべての前記パワー半導体素子を一斉にスイッチング動作させる度に、
ある前記パワー半導体素子第1の電流情報と隣接する前記パワー半導体素子第2の電流情報とを比較し、
第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが前第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、前第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングを前記第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅れ時間差の分だけ遅らせて次のスイッチング動作時のターンオンおよびターンオフのタイミングにすることによりすべての前記パワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせるようにした、
並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法。
【請求項2】
並列接続されるパワー半導体素子を駆動するための電流バランス制御装置であって、
前記パワー半導体素子をスイッチング動作させる度に、自身の前記パワー半導体素子第1の電流情報と隣接する前記パワー半導体素子第2の電流情報とを受けて前記第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが前記第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、前記第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングと前記第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅延時間差を検出する遅延時間差検出回路と、
前記遅延時間差に応じて前記パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを調整するためのタイミング調整信号を生成するタイミング調整信号生成回路と、
前記タイミング調整信号により、前記パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを遅らせるよう可変してすべての前記パワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせていくゲートドライバと、
を備え
前記遅延時間差検出回路が隣接する前記パワー半導体素子の前記第2の電流情報を受け、逆側に隣接する前記パワー半導体素子の前記遅延時間差検出回路には前記第1の電流情報を供給するようにしてすべてループ状のデイジーチェーン型で接続される電流バランス制御装置。
【請求項3】
前記ゲートドライバは、出力抵抗を可変する機能を有し、前記タイミング調整信号により前記出力抵抗を可変する請求項2記載の電流バランス制御装置。
【請求項4】
並列接続されるパワー半導体素子と前記パワー半導体素子を駆動するための電流バランス制御装置とを備えたパワーモジュールであって、
前記電流バランス制御装置は、
前記パワー半導体素子をスイッチング動作させる度に、自身の前記パワー半導体素子第1の電流情報と隣接する前記パワー半導体素子第2の電流情報とを受けて前記第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが前記第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、前記第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングと前記第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅延時間差を検出する遅延時間差検出回路と、
前記遅延時間差に応じて前記パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを遅らせるよう調整するためのタイミング調整信号を生成するタイミング調整信号生成回路と、
前記タイミング調整信号により、前記パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを可変してすべての前記パワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせていく出力抵抗可変ゲートドライバと、
を備え
前記遅延時間差検出回路が隣接する前記パワー半導体素子の前記第2の電流情報を受け、逆側に隣接する前記パワー半導体素子の前記遅延時間差検出回路には前記第1の電流情報を供給するようにしてすべてループ状のデイジーチェーン型で接続されるパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列接続されたパワー半導体素子間の電流アンバランスを相互に調整する協調制御方法、電流バランス制御装置およびパワー半導体素子と電流バランス制御装置とを一体に備えたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ、無停電電源装置などの電力変換装置では、パワー半導体素子をスイッチング駆動して電力変換を行っている。パワー半導体素子は、1素子あたりに流すことができる最大の電流値が物性的・技術的に制限されるため、その制限を超える負荷電流が必要なときには、複数のパワー半導体素子を並列に接続して電流容量を増大させることが行われている。
【0003】
図7はパワー半導体素子を2個並列に接続した場合のスイッチング回路を示す図、図8は2個のパワー半導体がスイッチングするときの電流変化を示す図、図9はタイミング検出回路の例を示す図、図10はタイミング検出回路の動作説明図である。
【0004】
なお、図7では、パワー半導体素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の場合を示している。しかし、パワー半導体素子は、このIGBTに限らず、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)も一般に使用されている。このスイッチング回路は、IGBT101およびIGBT102のコレクタ同士およびエミッタ同士を接続して構成され、電力変換装置のたとえばトーテムポール出力回路におけるハイサイドおよびローサイドのアーム部を構成することができる。
【0005】
このように並列に接続されたIGBT101,102は、ゲートにパルス状のゲート電圧が同時に印加されることによってそれぞれターンオンまたはターンオフされる。このとき、コレクタに流れ込む電流をIcとしたとき、IGBT101には、電流Ic1が流れ、IGBT102には、電流Ic2が流れる。理想的には、電流Icは、IGBT101,102によって均等に分配され、Ic1=Ic2=Ic/2となるのがよい。しかし、そのスイッチング動作の過渡時において、IGBT101,102のそれぞれに流れる電流にアンバランスが生じることがある。
【0006】
このような電流アンバランスは、たとえば、IGBT101,102が持つデバイス特性(Vth, Vce_sat等)などのばらつき、基板レイアウトの非対称性などに起因する並列素子間でのターンオンまたはターンオフタイミングの差によって引き起こされる。IGBT101,102の間で電流が流れ始めるターンオンのタイミングと、電流が切れるターンオフのタイミングとに時間差が生じてしまうと、IGBT101,102の間において過渡的な電流アンバランスが生じてしまう。たとえば、図8に示したように、IGBT101が先に流れ始め、少し遅れてIGBT102が流れ始めたとする。この場合、ターンオンのタイミングのときに、IGBT101しか電流が流れないので、遅れ時間差Δtdの間にIGBT101に電流が集中して大電流が流れてしまうことになる。電流集中があると、短時間ではあるが、最大定格を超えて電流が流れることでIGBT101が破壊されたり、素子温度が急上昇して素子特性が大きく劣化したりするおそれがある。
【0007】
このために、並列に設けた複数のIGBT間の電流アンバランスを低減することが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1では、それぞれのIGBTのターンオンおよびターンオフのタイミングを検出し、遅れ時間差Δtdがゼロになるように、すなわち、先にターンオンしたIGBTのターンオンおよびターンオフのタイミングを遅らせるように制御している。この制御は、IGBTのゲートを駆動する回路に可変ゲート抵抗回路を設け、その可変ゲート抵抗回路の抵抗値を遅れ時間差Δtdに応じて変化させるようにしている。これにより、並列に接続されて同時に駆動される複数のIGBTは、IGBT相互の電流アンバランスを低減することができるようになる。
【0008】
IGBTのターンオンおよびターンオフのタイミングは、図9に示すタイミング検出回路によって検出することができる。図9は、たとえばIGBT101のターンオンおよびターンオフのタイミングを検出するものであるが、他のIGBT102においても同様の構成のタイミング検出回路によってそれぞれターンオンおよびターンオフのタイミングが検出される。
【0009】
このタイミング検出回路は、センス抵抗Rsと、コンパレータ103と、基準電圧源Vrefとを備えている。IGBT101は、そのチップのエミッタ領域を部分的に分離区画することによって形成された電流センス端子を有している。この電流センス端子には、メインのエミッタ端子との面積比に応じた電流がセンス電流Isとして流れる。このセンス電流Isは、IGBT101の電流センス端子に接続されたセンス抵抗Rsを介してグランドに流れることで、センス抵抗Rsの両端には、エミッタ電流に比例したセンス電圧Vsが生起される。このセンス電圧Vsは、コンパレータ103にて基準電圧源Vrefと比較され、信号Ipulseが出力される。
【0010】
この信号Ipulseは、図10に示したように、センス電圧Vsが基準電圧源Vrefを超えたとき、立ち上がり、センス電圧Vsが基準電圧源Vrefを下回ったとき、立ち下がる信号となる。この信号Ipulseの立ち上がりがIGBT101のターンオンのタイミングとなり、信号Ipulseの立ち下がりがIGBT101のターンオフのタイミングとなる。これらのタイミングは、図示しない制御回路に送られ、そこで、IGBT102のタイミングと比較され、それぞれのタイミングが一致するように可変ゲート抵抗回路の抵抗値が制御されることになる。これにより、並列に接続されたIGBT101,102のターンオンおよびターンオフのタイミングが揃えられ、IGBT101,102の電流アンバランスが低減されることになる。
【0011】
このように、並列に接続されるパワー半導体素子が2個の場合、それぞれのパワー半導体素子の制御回路では、ターンオンおよびターンオフのタイミングは、接続相手のパワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングと比較するだけでよい。しかしながら、並列に接続されるパワー半導体素子が多くなると、すべてのパワー半導体素子間で相互にターンオンおよびターンオフのタイミングに関して連絡を取り合う協調制御が必要になるので、それぞれに制御回路の規模が大きくなってしまう。
【0012】
そこで、複数のパワー半導体素子の電流アンバランスを低減する方法としては、パワー半導体素子の特性をあらかじめ測定し、その中から、特性が近接したものを選別して組み合わせる方法がある。これは、特性の揃ったパワー半導体素子を選別するのに、多大の手間と時間がかかるため、量産の電力変換装置には向かない方法である。このため、複数のパワー半導体素子の電流アンバランスを低減する協調制御方法として、マスタ・スレーブ型による協調制御方法が知られている。
【0013】
図11はマスタ・スレーブ型による協調制御方法を説明する図である。ここでは、一例として、それぞれパワー半導体素子およびその制御回路を備えたパワーモジュールを6個並列に接続する場合について説明する。
【0014】
マスタ・スレーブ型は、並列に接続される6個のパワーモジュールPM1〜PM6のうち、1つのモジュールをマスタモジュールとし、他のモジュールをスレーブモジュールとして協調動作を行う形態である。マスタモジュール(ここでは、パワーモジュールPM1)は、他のすべてのスレーブモジュール(ここでは、パワーモジュールPM2〜PM6)に接続されて、すべてのスレーブモジュールのターンオンおよびターンオフのタイミング情報を収集する。マスタモジュールは、自身のタイミング情報と収集したスレーブモジュールのタイミング情報とから、電流アンバランスを低減するための個々の基準情報を算出し、算出した基準情報は、それぞれ対応するスレーブモジュールに送信される。マスタモジュールは、算出した基準情報を制御目標として電流バランス制御を行う。スレーブモジュールは、マスタモジュールから与えられた基準情報をリファレンスとして電流バランス制御を行う。これにより、すべてのパワーモジュールPM1〜PM6間において、それらの電流アンバランスの低減が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2014−230307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
マスタ・スレーブ型による協調制御によれば、マスタモジュールは、自らも含めたすべてのモジュールの動作状態を検出し、検出した動作状態からそれぞれのモジュールで目標とすべき基準情報を算出する。このような算出は、並列接続されるパワーモジュールの数だけ必要になるため、マスタモジュールにとって大きな負荷となり、しかも、構成が複雑化する。
【0017】
また、マスタモジュールは、並列数を増加する毎にスレーブモジュールとの通信ラインおよび入出力端子が新たに必要になるため、並列数毎のバリエーションをあらかじめ用意しておく必要があるという問題点があった。
【0018】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、構成がシンプルで、並列数に依存しないような、並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法、電流バランス制御装置およびパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明では上記の課題を解決するために、並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法が提供される。この並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法は、並列接続されたパワー半導体素子をそれぞれ駆動するための電流バランス制御回路をループ状のデイジーチェーン型で接続し、電流バランス制御回路では、すべてのパワー半導体素子を一斉にスイッチング動作させる度に、あるパワー半導体素子第1の電流情報と隣接するパワー半導体素子第2の電流情報とを比較し、第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングを第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅れ時間差の分だけ遅らせて次のスイッチング動作時のターンオンおよびターンオフのタイミングにすることによりすべてのパワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせるようにした。
【0020】
本発明は、また、並列接続されるパワー半導体素子を駆動するための電流バランス制御装置が提供される。この電流バランス制御装置は、パワー半導体素子をスイッチング動作させる度に、自身のパワー半導体素子第1の電流情報と隣接するパワー半導体素子第2の電流情報とを受けて第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングと第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅延時間差を検出する遅延時間差検出回路と、遅延時間差に応じてパワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを調整するためのタイミング調整信号を生成するタイミング調整信号生成回路と、タイミング調整信号により、パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを遅らせるよう可変してすべてのパワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせていくゲートドライバと、を備え、遅延時間差検出回路が隣接するパワー半導体素子の第2の電流情報を受け、逆側に隣接するパワー半導体素子の遅延時間差検出回路には第1の電流情報を供給するようにしてすべてループ状のデイジーチェーン型で接続される。
【0021】
本発明は、さらに、並列接続されるパワー半導体素子とパワー半導体素子を駆動するための電流バランス制御装置とを備えたパワーモジュールが提供される。このパワーモジュールの電流バランス制御装置は、パワー半導体素子をスイッチング動作させる度に、自身のパワー半導体素子第1の電流情報と隣接するパワー半導体素子第2の電流情報とを受けて第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングが第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングよりも早いとき、第1の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングと第2の電流情報から得られたターンオンおよびターンオフのタイミングとの遅延時間差を検出する遅延時間差検出回路と、遅延時間差に応じてパワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを遅らせるよう調整するためのタイミング調整信号を生成するタイミング調整信号生成回路と、タイミング調整信号により、パワー半導体素子のターンオンおよびターンオフのタイミングを可変してすべてのパワー半導体素子の中で最も遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせていく出力抵抗可変ゲートドライバと、を備え、遅延時間差検出回路が隣接するパワー半導体素子の第2の電流情報を受け、逆側に隣接するパワー半導体素子の遅延時間差検出回路には第1の電流情報を供給するようにしてすべてループ状のデイジーチェーン型で接続される。
【発明の効果】
【0022】
上記構成の並列接続されたパワー半導体素子の協調制御方法、電流バランス制御装置およびパワーモジュールは、1種類の電流バランス制御回路をループ状のデイジーチェーン型で接続できるので、並列接続の数に制約されないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】並列接続されたパワー半導体素子の協調制御をデイジーチェーン型で実現した概略構成を示す図である。
図2】パワーモジュールの構成例を示す図である。
図3】6個のパワーモジュールで構成したスイッチング回路の全体図である。
図4】電流バランス制御回路の構成例を示す図である。
図5】出力抵抗可変ゲートドライバの構成例を示す図である。
図6】電流バランス制御回路の動作を説明する図であって、(A)は起動時のタイムチャート、(B)は整定時のタイムチャートである。
図7】パワー半導体素子を2個並列に接続した場合のスイッチング回路を示す図である。
図8】2個のパワー半導体がスイッチングするときの電流変化を示す図である。
図9】タイミング検出回路の例を示す図である。
図10】タイミング検出回路の動作説明図である。
図11】マスタ・スレーブ型による協調制御方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では、スイッチング回路を6個のパワーモジュールで構成した場合を例に説明するが、本発明は、2以上の複数のパワーモジュールで構成した場合に適用される。また、パワー半導体素子は、IGBTを例に示すが、パワーMOSFETでも同じように適用することができる。
【0025】
図1は並列接続されたパワー半導体素子の協調制御をデイジーチェーン型で実現した概略構成を示す図、図2はパワーモジュールの構成例を示す図、図3は6個のパワーモジュールで構成したスイッチング回路の全体図である。図4は電流バランス制御回路の構成例を示す図、図5は出力抵抗可変ゲートドライバの構成例を示す図、図6は電流バランス制御回路の動作を説明する図であって、(A)は起動時のタイムチャート、(B)は整定時のタイムチャートである。
【0026】
スイッチング回路は、図3に示したように、6個のパワーモジュールPM1〜PM6で構成され、すべてのIGBT11〜16が並列に接続されている。また、電流バランス制御回路21〜26は、図1に示したように、ループ状の構成であるデイジーチェーン型に接続されている。すなわち、パワーモジュールPM1〜PM6のIGBT11〜16は、それぞれコレクタ同士、およびエミッタ同士を接続し、ゲートは、それぞれ電流バランス制御回路21〜26によって駆動されるように構成されている。
【0027】
パワーモジュールPM1〜PM6は、それぞれ同じ構成を有しているので、ここでは、それらの具体的構成を、図2に代表して示したパワーモジュールPM1で説明する。IGBT11は、そのエミッタにセンス電流検出部31が接続されている。このセンス電流検出部31は、たとえば、IGBT11のエミッタに直列に接続されたシャント抵抗とすることができ、このシャント抵抗にて電圧信号に変換された信号を電流情報として検出する。また、IGBT11のエミッタ領域をセンス領域とメイン領域とに分割し、センス領域に流れる電流をセンス抵抗にて電圧信号に変換し、変換された信号を電流情報として検出する。
【0028】
このセンス電流検出部31によって検出された電流情報は、自身の電流バランス制御回路21に供給されるとともに、次段のパワーモジュールPM6の電流バランス制御回路26に供給される。また、電流バランス制御回路21は、前段のパワーモジュールPM2のセンス電流検出部32によって検出された電流情報を受ける。このようにして、電流バランス制御回路21は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM2の電流情報とからIGBT11のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をする。同様に、電流バランス制御回路22は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM3のセンス電流検出部33から得られた電流情報とからIGBT12のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をする。電流バランス制御回路23は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM4のセンス電流検出部34から得られた電流情報とからIGBT13のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をする。電流バランス制御回路24は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM5のセンス電流検出部35から得られた電流情報とからIGBT14のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をする。電流バランス制御回路25は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM6のセンス電流検出部36から得られた電流情報とからIGBT15のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をする。そして、電流バランス制御回路26は、自身の電流情報と前段のパワーモジュールPM1のセンス電流検出部31から得られた電流情報とからIGBT16のターンオンおよびターンオフのタイミングの遅れ時間差Δtdがゼロになるような制御をすることになる。
【0029】
電流バランス制御回路21〜26は、それぞれ同じ構成を有しているので、ここでは、それらの具体的構成を、図4に代表して示した電流バランス制御回路21で説明する。電流バランス制御回路21は、遅延時間差検出回路41と、タイミング調整信号生成回路42と、出力抵抗可変ゲートドライバ43とを有している。
【0030】
遅延時間差検出回路41は、自身のセンス電流検出部31から受けた電流情報と、前段のパワーモジュールPM2が検出した電流情報とを受ける。遅延時間差検出回路41は、まず、それぞれ入力された電流情報からIGBT11およびIGBT12のターンオンおよびターンオフのタイミングを検出する。これらのタイミングは、たとえば、図9に示したタイミング検出回路によって検出される。遅延時間差検出回路41は、次に、それぞれ検出されたIGBT11およびIGBT12のターンオンおよびターンオフのタイミングを比較し、ターンオンおよびターンオフのそれぞれのタイミングの遅延時間差を求める。すなわち、ターンオンについては、自身のターンオンのタイミングを時刻t1とし、前段のターンオンのタイミングを時刻t2とすると、遅延時間差検出回路41は、t1−t2>0かどうかを判断し、その場合に、その遅延時間差を検出する。時間差t1−t2が0より大きくない場合、時間差0を検出する。このように、遅延時間差検出回路41は、自身のターンオンのタイミングが前段のターンオンのタイミングより早い場合、遅延時間差を出力し、自身のターンオンのタイミングが前段のターンオンのタイミングより遅い場合、遅延時間差=0を出力する。また、ターンオフの場合についても、同様に、タイミングが比較され、そのタイミングの時間差に応じた遅延時間差が検出される。
【0031】
タイミング調整信号生成回路42は、遅延時間差検出回路41からターンオンおよびターンオフにおける遅延時間差を受けて、遅延時間差に応じたタイミング調整信号を生成する。このタイミング調整信号は、タイミング調整信号生成回路42の出力段に設けられたデコーダにてデジタル信号に変換され、出力抵抗可変ゲートドライバ43のイネーブル端子ENに入力される。
【0032】
出力抵抗可変ゲートドライバ43は、たとえば、図5に示した構成を有することができる。すなわち、この出力抵抗可変ゲートドライバ43は、所定の出力抵抗値を有してセグメント化された複数(図示の例では、4個)の信号出力回路51〜54を出力抵抗可変ゲートドライバ43の出力段として並列に設けている。
【0033】
イネーブル端子ENに入力されるデコーダの出力信号は、信号出力回路51〜54の動作を選択的に許可するイネーブル信号として用いる。イネーブル信号は、信号出力回路51〜54を、設定すべきゲート抵抗に応じて選択的に駆動し、これによってその出力抵抗(ゲート抵抗)を可変設定するように構成される。なお、この出力抵抗可変ゲートドライバ43は、たとえば、2進の重み付けをした出力抵抗値を有する複数の信号出力回路51〜54を並列に設けた例を示している。
【0034】
次に、図6に示すタイムチャートを使って、本発明の動作について説明する。まず、電流バランス制御回路21〜26は、それぞれ入力信号Inputを一斉に受けてIGBT11〜16のゲートを駆動する出力信号Outputを出力する。このとき、パワーモジュールPM1では、電流バランス制御回路21が自身のターンオン時のタイミングと前段のパワーモジュールPM2のターンオン時のタイミングとを比較する。図6の(A)の例では、パワーモジュールPM1のターンオン時のタイミングが前段のターンオン時のタイミングより早いので、電流バランス制御回路21は、遅延時間差に相当するデコード信号をイネーブル信号として出力抵抗可変ゲートドライバ43に出力する。ターンオフ時のタイミングについても、同様に、前段のタイミングと比較され、遅延時間差に相当するデコード信号を出力する。この図示の例では、パワーモジュールPM1のターンオフ時のタイミングが前段のターンオフ時のタイミングよりも遅いので、電流バランス制御回路21は、遅延時間差=0に相当するデコード信号を出力抵抗可変ゲートドライバ43に出力する。
【0035】
他のパワーモジュールPM2〜PM6についても、同様に、自身のターンオンおよびターンオフのタイミングと前段のターンオンおよびターンオフのタイミングとを比較し、自身のタイミングが早ければ、前段のタイミングとの遅延時間差を求める。
【0036】
以上のようにして求められたそれぞれの遅延時間差は、パワーモジュールPM1〜PM6の次のスイッチング動作のときに出力抵抗可変ゲートドライバ43に反映され、出力抵抗可変ゲートドライバ43は、それぞれ遅延時間差に相当する出力抵抗に可変される。このスイッチング動作のときも、パワーモジュールPM1〜PM6は、自身のターンオンおよびターンオフのタイミングと前段のターンオンおよびターンオフのタイミングとを比較し、自身のタイミングが早ければ、前段のタイミングとの遅延時間差を求める。この遅延時間差は、パワーモジュールPM1〜PM6の次のスイッチング動作のときに出力抵抗可変ゲートドライバ43に反映され、出力抵抗可変ゲートドライバ43は、それぞれ遅延時間差に相当する出力抵抗に可変される。
【0037】
このように、パワーモジュールPM1〜PM6が何度かスイッチング動作を繰り返すことにより、すべてのパワーモジュールPM1〜PM6の遅延時間差がなくなるようになる。最終的には、図6の(B)に示したように、すべてのパワーモジュールPM1〜PM6は、起動時のスイッチング動作で一番遅かったターンオンおよびターンオフのタイミングに合わせられることになる。すなわち、すべてのパワーモジュールPM1〜PM6は、ターンオンおよびターンオフのタイミングが揃った状態でスイッチング動作することになる。
【0038】
以上、本発明をその好適な実施の形態について説明したが、これに限定されない。たとえば、出力抵抗可変ゲートドライバ43は、2進の重み付けをした出力抵抗値を有する複数の信号出力回路51〜54を並列に設けた例を示したが、同一抵抗値を有する複数の信号出力回路を並列に設けてもよい。また、出力抵抗可変ゲートドライバ43の代わりに、ゲートドライバとIGBTとの間に、可変ゲート抵抗回路を設け、この可変ゲート抵抗回路のゲート抵抗をイネーブル信号で可変するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
11〜16 IGBT
21〜26 電流バランス制御回路
31〜36 センス電流検出部
41 遅延時間差検出回路
42 タイミング調整信号生成回路
43 出力抵抗可変ゲートドライバ
51〜54 信号出力回路
EN イネーブル端子
Input 入力信号
Output 出力信号
PM1〜PM6 パワーモジュール
図1
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