(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
まず、半導体装置について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施の形態における半導体装置を示す図である。
【0010】
半導体装置100は、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140(放熱板)とが積層されてケース150に収納されて、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140のおもて面側とが樹脂(図示を省略)で封止されている。
【0011】
半導体チップ110は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の半導体素子を含む。なお、
図1では、半導体チップ110を1個のみ記載しているが、必要に応じて複数配置することも可能である。
【0012】
積層基板120は、絶縁板121と、絶縁板121のおもて面に形成された回路板122と、絶縁板121の裏面に形成された金属板123とを有する。また、積層基板120は、回路板122上に半導体チップ110がはんだ(図示を省略)を介して設けられている。
【0013】
放熱ベース140は、熱伝導性が高い、例えば、アルミニウム、金、銀、銅等の金属により構成されており、おもて面に積層基板120がはんだ130を介して設けられている。また、このような放熱ベース140の表面には耐食性を向上させるためにニッケル等による保護膜を形成してもよい。保護膜はニッケルの他、クロム、金等を適用することもできる。保護膜はスパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)やめっきによって形成される。また、放熱ベース140の裏面には、複数の小さな窪みが形成され、窪みが複数重なり合って構成されている。なお、放熱ベース140の裏面に対する窪みの形成方法の詳細については後述する。
【0014】
なお、半導体チップ110内、また、半導体チップ110の主電極と、ケース150の端子とが、ワイヤ(図示を省略)にて電気的に接続されている。
このような構成を有する半導体装置100は、放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160(放熱材)を介して放熱フィン170(放熱器)が設けられている。放熱フィン170は、熱伝導性が高い、例えば、アルミニウム、金、銀、銅等の金属により構成されており、放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160を挟んでネジ(図示を省略)で取り付けられている。
【0015】
なお、サーマルコンパウンド160は、例えば、ノンシリコーン系の有機オイルと、当該有機オイルに含有されたフィラー(その一例として、アルミナ)とを含む。なお、フィラーの充填率は80wt%〜95wt%、フィラーの平均粒径は、0.1μm〜10μm(平均5μm)である。また、サーマルコンパウンド160の熱伝導率は1.99W/(m・K)、粘度が542Pa・s(回転速度0.3rpm時)、112Pa・s(回転速度3rpm時)である。このようなサーマルコンパウンド160が、放熱ベース140に対して厚さ100μm程度塗布されている。
【0016】
このような半導体装置100では、放熱ベース140の裏面に複数の小さな窪みが形成され、窪みが複数重なり合って構成されている。このため、放熱ベース140の裏面に塗布するサーマルコンパウンド160に対する濡れ性が向上する。また、放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160を介して放熱フィン170を設けると、放熱ベース140の窪みがアンカー効果によりサーマルコンパウンド160に対する密着性が向上する。このため、半導体チップ110の動作発熱に基づく半導体装置100の温度変化に応じて放熱ベース140が変形しても、放熱ベース140の裏面のサーマルコンパウンド160の外部への押し出し(ポンプアウト)が抑制される。したがって、半導体装置100では、ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)が向上するため、半導体装置100の放熱性の低下が抑制され、半導体装置100の信頼性が維持されるようになる。
【0017】
次に、以下では、放熱ベース140の裏面の複数の窪みの形成方法の詳細については説明する。
まず、放熱ベース140の裏面に対する複数の窪みの形成方法について、
図2を用いて説明する。
【0018】
図2は、実施の形態におけるショットピーニング処理を説明するための図である。
なお、
図2(A)は、ショットピーニング処理を説明する図を表し、
図2(B)は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140を説明するための図を表している。
【0019】
半導体装置100の放熱ベース140の裏面に複数の窪みが、ショットピーニング(SP)処理により形成される。
放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を実行するために、放熱ベース140の裏面の窪み141の形成領域に対して、例えば、
図2(A)に示されるように、ショットピーニング処理装置200が設置される。
【0020】
ショットピーニング処理装置200は、超音波振動装置210と、超音波振動装置210により振動される複数のショット材220とを含む。
このようなショットピーニング処理装置200では、超音波振動装置210を駆動させることにより、ショット材220が振動する。振動するショット材220が放熱ベース140の裏面に打ち付けられることにより、
図2(B)に示されるように、放熱ベース140の裏面に複数の窪み141が形成され、窪み141が複数重なり合って構成される。
【0021】
ショットピーニング処理装置200では、様々な処理条件を設定することで、窪み141の窪み幅、深さ等を制御することができる。
ショット材220は、例えば、金属(金属合金含む)、セラミックス、ガラス等を用いることができる。また、このようなショット材220の平均粒径として、例えば、0.3mm、0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm等の材質を用いることができる。なお、ショット材220の平均粒径は、各ショット材220をSEM(Scanning Electron Microscope)によりそれぞれ観察して、その粒径を計測して平均を取ることで得られる。このショット材220の形状は、角ばった形状でも、球状でもよい。また、放熱ベース140の表面に形成した保護膜上にショットピーニング処理を行う場合のショット材は球状であることが好ましい。なぜならば、このような保護膜上のショットピーニング処理に角ばったショット材を利用すると、保護膜に亀裂が生じ、剥離等が生じてしまうことがあるからである。
【0022】
また、超音波振動装置210による超音波振幅(振幅)は、例えば、35μm、55μm、70μm、80μmとすることができ、振動時間(処理時間)は、例えば、5秒、10秒、15秒、20秒、100秒とすることができる。これらの条件を組み合わせることで、放熱ベース140の裏面に形成する複数の窪み141の数、サイズ等を適宜制御することができる。
【0023】
ここで、ショットピーニング処理により放熱ベース140に形成される窪み141について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態におけるショットピーニング処理により放熱ベースに形成された窪みのSEM像の模式図である。
【0024】
なお、
図3(A)は、ショットピーニング処理により放熱ベース140に形成された窪み141の一つ分の上面のSEM像の模式図であり、
図3(B)は、当該窪み141の一つ分の断面のSEM像の模式図である。
【0025】
平滑な放熱ベース140にショットピーニング処理を短時間行うと、ショット材220が放熱ベース140の裏面に衝突して、加工痕として窪み141が生じ、このような窪み141が重なることなく、散らばって形成される。この際の一つの窪み141は、ショット材220の形状を転写したように形成される。そのため、ショット材220が球状であれば、
図3(A)に示されるように、窪み141は球の一部のようになる。その窪みの断面は、
図3(B)に示されるように、円弧状となる。なお、この際の窪み141の幅を窪み幅とする。そして、沢山のショット材220が衝突すると、窪み141が重なり合って、球状の窪みが並んだ、等方的な仕上げ面が形成される。
【0026】
また、例えば、ショットピーニング処理を行う前の裏面の算術平均粗さRaが0.18μmであり、最大高さRzが2μmである放熱ベース140に対してショットピーニング処理を行う場合について説明する。
【0027】
なお、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の表面粗さの測定は、触針式表面粗さ計によって行うことができる。測定条件は、カットオフ長は2.5mm、測定長さは12.5mm、速度は0.3mm/s、カットオフの種別はガウシアンとして測定した。
【0028】
このような放熱ベース140の裏面に対して、以下の様々な処理条件によりショットピーニング処理を行う。すなわち、ショット材220がSUS304、ショット材220の平均粒径が1mm、超音波振動装置210の振幅が35μmで、処理時間が20秒間であるとする。このような処理条件に基づくショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRaは、2.3μm、最大高さRzは、15.9μmとなる。
【0029】
また、別の処理条件として、ショット材220がSUS304、ショット材220の平均粒径が4mm、超音波振動装置210の振幅が80μmで、処理時間が20秒間であるとする。このような処理条件に基づくショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRaは、8.1μm、最大高さRzは、67.9μmとなる。
【0030】
次に、このようなショットピーニング処理が行われた放熱ベース140を含む半導体装置100の製造方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施の形態における半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【0031】
なお、ショットピーニング処理工程については半導体装置100の製造方法の説明後に説明する。
[ステップS10] 放熱ベース140に、例えば、下に凸(凹状)になるような反り(初期反り)を与える。なお、この工程は省略することも可能である。
【0032】
これは、後に、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140をはんだを介して積層して加熱してはんだ接合する際に、各部材間の熱膨張率係数により放熱ベース140が上に凸に反ることを見越して、予め、放熱ベース140にこのような初期反りを与えておくものである。
【0033】
[ステップS11] 放熱ベース140上にはんだ板を介して積層基板120を設け、積層基板120の回路板122上にはんだ板を介して半導体チップ110を設けて、各部材をセットする。
【0034】
[ステップS12] 加熱して、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140との各部材間に配置されたはんだ板を溶融し、溶融したはんだを固化することで、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140とに対するはんだ付けを行う。
【0035】
[ステップS13] 半導体チップ110に対するワイヤボンディングを行って、配線接続を行う。
[ステップS14] ケース150に端子の取り付けを行う。
【0036】
[ステップS15] ステップS11でセットした半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140とをケース150に収納して、ケース150を接着して半導体装置100を組み立てる。
【0037】
なお、この際、ケース150の裏面側では、放熱ベース140の裏面が露出している。
[ステップS16] ケース150内の半導体チップ110と積層基板120と放熱ベース140のおもて面とを樹脂またはシリコーンゲルで封止する。
【0038】
[ステップS17] ケース150の端子を曲げて、蓋を取り付ける。
[ステップS18] 放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンドを100μmの厚さになるように塗布する。
【0039】
[ステップS19] サーマルコンパウンド160を塗布した放熱ベース140の裏面に放熱フィン170を取り付け、放熱フィン170を放熱ベース140に対してネジで固定する。
【0040】
以上により、放熱フィン170が取り付けらえた半導体装置100が製造される。
このような半導体装置100の製造方法において、放熱ベース140に対するショットピーニング処理工程は、ステップS10で初期反りを付与するために行ってもよいし、ステップS12〜S17のいずれかの工程の後に行うことができる。なお、他の工程に影響を与えないという観点からすれば、ステップS17の工程の後に、ショットピーニング処理を行うことが好ましい。
【0041】
次に、放熱ベース140に対するショットピーニング処理において、様々な処理条件に基づく放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRa、最大高さRzの変化について説明する。様々な処理条件としては、例えば、ショット材220の平均粒径、超音波振動装置210による処理時間、超音波振動装置210による超音波振幅をそれぞれ変化させるものとする。なお、ショットピーニング処理を行わない放熱ベース140の裏面は、平滑な表面である。
【0042】
まず、放熱ベース140の裏面に対するショットピーニング処理において、ショット材220の平均粒径に対する放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRa、最大高さRzの変化について
図5を用いて説明する。
【0043】
図5は、実施の形態におけるショットピーニング処理のショット材の平均粒径に対する算術平均粗さ及び最大高さの変化を表すグラフである。
なお、当該グラフの横軸は、ショット材220の平均粒径(mm)を表している。また、当該グラフの左側の縦軸は、算術平均粗さRa(μm)を、右側の縦軸は、最大高さRz(μm)をそれぞれ表している。
【0044】
また、この場合のショットピーニング処理の他の処理条件は、ショット材220は、SUS304、処理時間は20秒、超音波振幅は70μmである。
図5のグラフによれば、ショット材220の平均粒径が増加するにつれて、算術平均粗さRaも、最大高さRzも共に増加することが分かる。すなわち、ショット材220が大きくなることで、ショット材220の運動エネルギーが増加するために、放熱ベース140を打ち付ける力が増加し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが増加していることが考えられる。特に、ショット材220の平均粒径が1mm〜5mmでは、算術平均粗さRa及び最大高さRzは平均粒径に対してほぼ比例して増加している。
【0045】
次いで、放熱ベース140の裏面に対するショットピーニング処理において、超音波振動装置210における処理時間に対する放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRa、最大高さRzの変化について
図6を用いて説明する。
【0046】
図6は、実施の形態におけるショットピーニング処理の処理時間に対する算術平均粗さ及び最大高さの変化を表すグラフである。
なお、当該グラフの横軸は、処理時間(秒)を表している。また、当該グラフの左側の縦軸は、算術平均粗さRa(μm)を、右側の縦軸は、最大高さRz(μm)をそれぞれ表している。
【0047】
また、この場合のショットピーニング処理の処理条件は、ショット材220は、SUS304、ショット材220の平均粒径は2mm、超音波振幅は70μmである。この場合において、処理時間が5秒、10秒、15秒、20秒における算術平均粗さRa及び最大高さRzを計測した。
【0048】
図6のグラフによれば、算術平均粗さRa及び最大高さRzは、超音波振動装置210による処理時間にほとんど依存することなく、ほぼ一定であることが分かる。
次いで、放熱ベース140の裏面に対するショットピーニング処理において、超音波振動装置210における超音波振幅に対する放熱ベース140の裏面の算術平均粗さRa、最大高さRzの変化について
図7を用いて説明する。
【0049】
図7は、実施の形態におけるショットピーニング処理の超音波振幅に対する算術平均粗さ及び最大高さの変化を表すグラフである。
なお、当該グラフの横軸は、超音波振幅(μm)を表している。また、当該グラフの左側の縦軸は、算術平均粗さRa(μm)を、右側の縦軸は、最大高さRz(μm)をそれぞれ表している。
【0050】
また、この場合のショットピーニング処理の処理条件は、ショット材220は、SUS304、ショット材220の平均粒径は2mm、超音波振動装置210による処理時間は20秒である。この場合において、超音波振幅が、35μm、55μm、70μm、80μmにおける各算術平均粗さRa及び最大高さRzを計測した。
【0051】
図7のグラフによれば、超音波振幅が増加するにつれて、算術平均粗さRaも、最大高さRzも共に増加することが分かる。すなわち、超音波振幅が増加することで、振動によりショット材220に与えられるエネルギーが増加するために、放熱ベース140を打ち付ける力が増加し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが増加していることが考えられる。
【0052】
したがって、
図5〜
図7のグラフから、算術平均粗さRa及び最大高さRzは、ショット材220の平均粒径及び超音波振動装置210の超音波振幅の増加に伴って、増加し、超音波振動装置210の処理時間には依存しないことが分かる。
【0053】
次に、放熱ベース140に対するショットピーニング処理において、ショット材220の平均粒径を変化させた際の放熱ベース140の裏面に形成される(1つの)窪みの径(窪み幅(
図3参照))の変化について
図8を用いて説明する。
【0054】
図8は、実施の形態におけるショットピーニング処理のショット材の平均粒径に対する窪み幅の変化を表すグラフである。
なお、当該グラフの横軸は、ショット材220の平均粒径(mm)を表している。また、当該グラフの縦軸は、窪み幅(mm)を表している。
【0055】
また、この場合のショットピーニング処理の処理条件は、ショット材220は、SUS304、超音波振動装置210による処理時間は20秒、超音波振幅は70μmである。この場合において、ショット材220の平均粒径が0.3mm、1mm、2mm、3mm、4mm、6mmにおける各窪み幅を計測した。
【0056】
図8のグラフによれば、ショット材220の平均粒径が増加するにつれて、窪みの窪み幅も増加することが分かる。これは、ショット材220の平均粒径が増加するため、放熱ベース140の裏面に打ち付けられる面積も増加することから、ショット材220による窪みの窪み幅も増加することが考えられる。
【0057】
また、言い換えると、ショット材220の平均粒径が小さければ、窪みの窪み幅も減少することになる。このように、一つ一つの窪みは球状であり、それらが重なり合って、球状の等方的な仕上げ面が形成される。
【0058】
次に、放熱ベース140に対して、ショットピーニング処理を行った場合、または、行わない場合の半導体装置100の放熱性について説明する。
まず、放熱ベース140に対して、ショットピーニング処理を行った場合、または、行わない場合の半導体装置100の上昇温度を計測する熱サイクル試験について
図9を用いて説明する。
【0059】
図9は、実施の形態における放熱ベースに対する熱サイクル試験を説明するための図である。
なお、
図9(A)は、熱サイクル試験で用いられるサンプルとして、ショットピーニング処理が行われる放熱ベース140の平面図、
図9(B)は、熱サイクル試験を行う熱サイクル試験装置600の模式図をそれぞれ示している。
【0060】
実施の形態で行う熱サイクル試験のサンプルとして、
図9(A)に示される、放熱ベース140を用いる。
この放熱ベース140は、四隅にネジ孔142を備え、裏面に3箇所の処理領域143が設けられている。
【0061】
このような放熱ベース140のショットピーニング処理が行われていない場合(非処理)の算術平均粗さRaは0.18μm、最大高さRzは2μmである。
一方、放熱ベース140の各処理領域143にショットピーニング処理が行われた場合の処理領域143における算術平均粗さRaは5.3μm、最大高さRzは38.4μmである。但し、この場合のショットピーニング処理の処理条件は、ショット材220はSUS304、ショット材220は球状で、その平均粒径は2mm、超音波振動装置210による処理時間は20秒、超音波振動装置210により超音波振幅は70μmである。
【0062】
このようなサンプルに対して熱サイクル試験を行う熱サイクル試験装置600は、
図9(B)に示されるように、側部に設けられた放熱フィン170に、サーマルコンパウンド160(その厚さは100μm程度)を介して放熱ベース140がネジで固定されている。また、放熱ベース140のおもて面には、はんだ(図示を省略)を介して積層基板120及び半導体チップ110が設けられている。
【0063】
なお、放熱ベース140の処理領域143に対応して、半導体チップ110が放熱ベース140の表面側に設置されてもよい。半導体チップ110を駆動させた場合、半導体チップ110が発熱源となるため、その放熱ベース140の裏面部が熱変形を繰り返す。そのため、ポンプアウトを抑制するには、半導体チップ110に設置された位置に対応した放熱ベース140の裏面に処理領域143を設けることが効果的である。なお、放熱ベース140の裏面
の全面に処理してもよい。
【0064】
熱サイクル試験装置600では、このようにして取り付けられた放熱ベース140を25度から140度の間で温度変化させて、その際の放熱ベース140の温度を計測する。なお、熱サイクル試験装置600による温度変化は、25度から140度まで90秒かけて温度上昇させ、その後、140度から25度まで120秒かけて温度低下させて、1サイクルとする。熱サイクル試験装置600は、100サイクルごとに、放熱ベース140の中心部に設けられた温度計により放熱ベース140の温度を計測する。熱サイクル試験装置600は、このような温度計測を、2000サイクルまで行う。
【0065】
また、熱サイクル試験装置600は、ショットピーニング処理が行われていない放熱ベース140に対しても上記と同様の温度計測を行う。
次に、このようにして熱サイクル試験装置600により計測されたショットピーニング処理が行われた放熱ベース140と、ショットピーニング処理が行われていない放熱ベース140との熱サイクル試験における上昇温度について
図10を用いて説明する。
【0066】
図10は、実施の形態における放熱ベースのサイクル数に対する上昇温度を表すグラフである。
なお、
図10では、横軸は、熱サイクル試験のサイクル数(回)を、縦軸は、上昇温度(度)をそれぞれ表している。なお、上昇温度とは、1サイクル後の放熱ベース140が所定温度から上昇した温度を表す。また、「◇(白抜きひし形)」は、ショットピーニング(SP)処理を行っていない放熱ベース140の場合の、「■(黒抜き四角形)」は、ショットピーニング(SP)処理を行っている放熱ベース140の場合の上昇温度の変化をそれぞれ表している。
【0067】
図10のグラフによれば、ショットピーニング処理を行っていない放熱ベース140では、サイクル数が400回まで、ほとんど、温度が上昇していない。しかし、サイクル数が400回を超えると温度の上昇が開始する。その後は、サイクル数が増加するにつれて、上昇温度も増加していることが分かる。
【0068】
これは、サイクル数が400回程度までの温度変化では、放熱ベース140があまり変化せず、ポンプアウトがほとんど生じていないことが考えられる。すなわち、放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160が垂れ落ちることなく、放熱ベース140(裏面)全体にサーマルコンパウンド160が塗布された状態が維持されていることが考えられる。したがって、サイクル数が400回程度までは、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性が低下せずに維持されていることが考えられる。
【0069】
ところが、サイクル数が400回程度を超えると、放熱ベース140に変化が生じ始めるに伴い、ポンプアウトも生じ始めることが考えられる。すなわち、放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160の垂れ落ちが生じ始め、放熱ベース140(裏面)全面に塗布されたサーマルコンパウンド160の塗布分布に斑が生じ始める。したがって、サイクル数が400回程度を超えると、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性が低下し始める。このため、サイクル数が400回程度を超えて、サイクル数が更に増加するにつれて、上昇温度も増加することが考えられる。
【0070】
一方、
図10のグラフによれば、ショットピーニング処理を行った放熱ベース140では、サイクル数が2000回まで増加しても、温度が最大5度程度上昇するに留まり、ほとんど温度が上昇していない。
【0071】
これは、ショットピーニング処理を行っていない場合と同様に、サイクル数が400回程度までの温度変化では、放熱ベース140があまり変化せず、ポンプアウトがほとんど生じていないことが考えられる。すなわち、放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160が垂れ落ちることなく、放熱ベース140(裏面)全体にサーマルコンパウンド160が塗布された状態が維持されていることが考えられる。したがって、サイクル数が400回程度までは、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性が低下せずに維持されていることが考えられる。
【0072】
また、ショットピーニング処理を行っていない場合と同様に、サイクル数が400回程度を超えると、放熱ベース140に変化が生じ始めることが考えられる。しかしながら、放熱ベース140は、その裏面にショットピーニング処理により形成された窪みのアンカー効果により放熱ベース140の裏面に塗布されたサーマルコンパウンド160に対する密着性が向上する。このため、サイクル数の増加に伴い放熱ベース140が変化しても、ポンプアウトによるサーマルコンパウンド160の垂れ落ちが抑制されて、放熱ベース140(裏面)全体に対するサーマルコンパウンド160の塗布分布の斑の発生が抑制されることが考えられる。したがって、サイクル数が増加しても、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性が低下せずに維持されることが考えられる。
【0073】
ところで、このようにショットピーニング処理を行わなかった場合または行った場合の放熱ベース140に対して熱サイクル試験を2000回まで行った後の放熱ベース140及び放熱フィン170に付着されているサーマルコンパウンド160の観察を行った。
【0074】
以下では、ショットピーニング処理を行っていない場合または行った場合の放熱ベース140及び放熱フィン170の観察結果について、
図11及び
図12を用いてそれぞれ説明する。
【0075】
図11は、実施の形態におけるショットピーニング処理が行われていない放熱ベースに対する熱サイクル試験の観察結果を示す図であり、
図12は、実施の形態におけるショットピーニング処理が行われた放熱ベースに対する熱サイクル試験の観察結果を示す図である。
【0076】
なお、
図11(A),12(A)は、放熱ベース140の裏面(サーマルコンパウンド160の塗布面)側を示し、
図11(B),12(B)は、放熱フィン170の主面(放熱ベース140との接合面)側を示す図である。
【0077】
また、
図11及び
図12では、サーマルコンパウンド160が垂れ落ちて、抜けてしまっている領域を破線で囲って表している。
ショットピーニング処理が行われなかった場合では、既述の通りポンプアウトが生じていることから、
図11(A)に示されるように、放熱ベース140の裏面の図中上側の中央部及び図中下側の中央部にサーマルコンパウンド160が垂れ落ちて、抜けてしまっている領域161a,161bが生じていることが分かる。
【0078】
同様に、
図11(B)に示されるように、放熱フィン170の主面の図中上側の中央部及び図中下側の中央部にもサーマルコンパウンド160が垂れ落ちて、抜けてしまっている領域162a,162bが生じていることが分かる。
【0079】
これに対して、ショットピーニング処理が行われた場合では、
図12(A)に示されるように、放熱ベース140の裏面の図中上側の中央部及び図中下側の中央部にサーマルコンパウンドが垂れ落ちて、抜けてしまっている領域163a,163b,163cが生じている。しかし、ショットピーニング処理が行われて放熱ベース140の裏面に窪みが形成されているために放熱ベース140に対するサーマルコンパウンド160の密着性が向上していることから、この領域163a,163b,163cは、
図11(A)の場合(領域161a,161b)と比較すると、十分小さい。すなわち、放熱ベース140に対するサーマルコンパウンド160の面積が
図11(A)の場合と比較すると十分広い。
【0080】
同様に、
図12(B)に示されるように、放熱フィン170の主面の図中上側の中央部及び図中下側の中央部のサーマルコンパウンドが垂れ落ちて、抜けてしまっている領域164a,164bも、
図11(B)の場合(領域162a,162b)と比較すると小さいことが分かる。
【0081】
以上から、ショットピーニング処理が行われる場合の放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160の面積は、ショットピーニング処理が行われない場合と比較して広い。つまり、ショットピーニング処理が行われることにより、ポンプアウトの発生が抑制されている。このため、ショットピーニング処理が行われた場合は、行われない場合よりも、放熱ベース140及び放熱フィン170による放熱性の低下が抑制される。
【0082】
したがって、
図9〜
図12から、放熱ベース140に対するショットピーニング処理の処理条件が、ショット材220がSUS304、ショット材220の平均粒径が2mm、超音波振動装置210による処理時間が20秒、超音波振動装置210により超音波振幅が70μmである場合には、サーマルコンパウンド160の放熱ベース140に対する濡れ性が向上し、ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)が向上することが分かる。
【0083】
更に、このようなショットピーニング処理の処理条件で球状のショット材220の平均粒径を2mm以外に設定した場合においても、上記の熱サイクル試験を行った。
このような場合における熱サイクル試験の結果について、
図13を用いて説明する。
【0084】
図13は、実施の形態におけるショットピーニング処理のショット材の平均粒径に対する熱サイクル試験の結果を示す図である。
図13では、「ショット材の平均粒径(mm)」に対して、「算術平均粗さRa(μm)」、「最大高さRz(μm)」、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」、「サーマルコンパウンドの濡れ性」がそれぞれ示されている。なお、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」が向上した場合には「〇」を、向上しなかった場合には「×」を記している。同様に、「サーマルコンパウンドの濡れ性」が向上した場合には「〇」を、向上しなかった場合には「×」を記している。
【0085】
「ショット材の平均粒径(mm)」は、既述の2mmに加えて、0.3mm、0.5mm、1mm、3mm、4mm、5mm、6mm、8mmの場合において熱サイクル試験を行った。なお、この場合のショットピーニング処理の他の処理条件は、既述の通り、ショット材220はSUS304、処理時間は20秒、超音波振幅は70μmである。
【0086】
このような場合における熱サイクル試験の結果は、
図13に示されるように、「ショット材の平均粒径(mm)」が0.3mm、0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mmの場合には、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」及び「サーマルコンパウンドの濡れ性」の向上が認められた。
【0087】
しかし、「ショット材の平均粒径(mm)」が8mmの場合には、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」及び「サーマルコンパウンドの濡れ性」が向上しないことが認められた。
【0088】
したがって、ショット材220の平均粒径としては、0.3mm程度〜6mm程度が好適であることが考えられる。また、このショット材220の平均粒径の場合には、算術平均粗さRaは、1μm〜10μm、最大高さRzは12μm〜71.5μmである。このショット材220の平均粒径の範囲について以下で検討する。
【0089】
まず、放熱ベース140に対するショットピーニング処理におけるショット材220の平均粒径が小さくなると、
図7に示したように、窪み幅も小さくなることから、放熱ベース140の裏面の重なり合った複数の窪みの表面積が小さくなる。このように重なり合った複数の窪みの表面積が小さい放熱ベース140の裏面は、当該裏面に塗布したサーマルコンパウンド160に対する摩擦力も小さくなってしまう。このため、放熱ベース140からサーマルコンパウンド160が流れやすくなり、ポンプアウトが生じてしまうことが考えられる。
【0090】
また、放熱ベース140に対するショットピーニング処理におけるショット材220の平均粒径が小さくなると、
図5にも示したように、算術平均粗さRa及び最大高さRzが小さくなる。そして、サーマルコンパウンド160に含まれるフィラーの平均粒径は、0.1μm程度〜10μm程度であった。このため、放熱ベース140に対するショットピーニング処理におけるショット材220の平均粒径が小さくなると、サーマルコンパウンド160に含まれるフィラーが放熱ベース140に形成された窪みに入り込まない場合が発生する。よって、放熱ベース140に対するサーマルコンパウンド160の濡れ性が低下し、また、放熱ベース140のサーマルコンパウンド160に対する密着性が向上せずに、ポンプアウトの発生が抑制されなくなることが考えられる。
【0091】
したがって、ショット材220の平均粒径が0.3mmを下回ると、上記のような理由により、ポンプアウトの発生が抑制されず、また、サーマルコンパウンドの濡れ性が向上しなくなることが考えられる。
【0092】
一方、放熱ベース140に対するショットピーニング処理におけるショット材220の平均粒径が、例えば、6mm程度を超えるように大きくなると、
図5にも示したように、算術平均粗さRa及び最大高さRzも大きくなる。このため、サーマルコンパウンド160の塗布量が少ない場合には、放熱ベース140と放熱フィン170との距離が大きくなり、サーマルコンパウンド160が流れ出すことが考えられる。そこで、この場合に、放熱ベース140の窪み全体が埋まるように、サーマルコンパウンド160を塗布しようとすると、サーマルコンパウンド160の塗布量が増加して、放熱ベース140から放熱フィン170への放熱性が低下してしまう。
【0093】
上記から、ショット材220の平均粒径は小さすぎても、大きすぎても放熱ベース140から放熱フィン170への放熱性を低下させてしまう。
よって、ショット材220の平均粒径は、0.3mm程度〜6mm程度であることが好ましい。また、ショット材220がこのような範囲である場合に、放熱ベース140の裏面に形成される重なり合った複数の窪みは、その算術平均粗さRaは1μm〜10μmであり、その最大高さRzは12μm〜71.5μmであることが好ましい。
【0094】
また、ショット材220がこのような範囲であることから、
図8を踏まえると、放熱ベース140の裏面に形成される窪みの窪み幅は、少なくとも、0.17mm〜0.72mmであることが好ましい。
【0095】
次に、参考例として、ショットピーニング処理を行わずに、裏面をサンドペーパーで研磨した放熱ベース140を熱サイクル試験装置600により上記と同様の熱サイクル試験を行った場合の熱サイクル試験の結果について、
図14を用いて説明する。
【0096】
図14は、参考例としてのサンドペーパーを用いた場合の熱サイクル試験の結果を示す図である。
図14では、「サンドペーパー」に対して、「算術平均粗さRa(μm)」、「最大高さRz(μm)」、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」、「サーマルコンパウンドの濡れ性」がそれぞれ示されている。なお、ショットピーニング処理を行った場合に対して「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」が向上した場合には「〇」を、向上しなかった場合には「×」を記している。同様に、ショットピーニング処理を行った場合に対して「サーマルコンパウンドの濡れ性」が向上した場合には「〇」を、向上しなかった場合には「×」を記している。
【0097】
「サンドペーパー」は、その粗さが、#400(400番)、#1200(1200番)を用いて放熱ベース140の裏面の処理領域141が均一になるように研磨処理を行っている。
【0098】
このような場合における熱サイクル試験の結果は、
図14に示されるように、「サンドペーパー」が#400、#1200のいずれの場合において、平滑な表面の場合に比べて「ポンプアウトに対する特性」及び「サーマルコンパウンドの濡れ性」は向上する。しかし、ショットピーニング処理を行った場合に対して、「ポンプアウトに対する特性(耐久性、信頼性)」及び「サーマルコンパウンドの濡れ性」が向上しないことが認められた。サンドペーパーで放熱ベース140の裏面を研磨することより、一方向に延伸する溝が複数形成される。この際、半導体チップ110の動作発熱に基づく温度変化に応じて放熱ベース140が変形すると、放熱ベース140の裏面のサーマルコンパウンド160は、放熱ベース140の裏面に形成された溝部によりアンカー効果により密着性が向上する。しかしながら、放熱ベース140の裏面のサーマルコンパウンド160は、放熱ベース140の変形具合によっては、放熱ベース140の裏面に形成された溝部に沿って外部に押し出されてしまう。すなわち、ポンプアウトが生じてしまう。そして、このように放熱ベース140の裏面に複数の溝部が形成されると、放熱ベース140の裏面に塗布するサーマルコンパウンド160に対する濡れ性も均一でなくなるため、低下する。
【0099】
したがって、放熱ベース140の裏面をサンドペーパーで研磨する場合よりも、放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を行って、複数の小さい窪み141を形成して、窪み141が複数重なり合って構成されることで、放熱ベース140のサーマルコンパウンドの濡れ性を向上させ、ポンプアウトを防止することができるようになる。
【0100】
このように、上記半導体装置100では、放熱ベース140の裏面に複数の窪み141が形成され、窪み141が複数重なり合って構成されている。放熱ベース140の裏面の複数の窪み141は、放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を行うことで形成される。この際のショットピーニング処理の処理条件として、ショット材220がSUS304、処理時間が20秒、超音波振幅が70μmである際に、ショット材220の平均粒径を0.3mm〜6mmとすることが好ましい。このような処理条件に基づきショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160を介して放熱フィン170を設けると、放熱ベース140の重なり合った複数の窪み141がアンカー効果によりサーマルコンパウンド160に対する密着性が向上する。このため、半導体チップ110の動作による半導体装置100の温度変化に応じて、放熱ベース140が変形しても、放熱ベース140の裏面のサーマルコンパウンド160の外部への押し出しが抑制される。したがって、サーマルコンパウンド160のポンプアウトが抑制されるため、半導体装置100の放熱性の低下が抑制され、半導体装置100の信頼性が維持されるようになる。