(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、前記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、前記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際のナゲット径を2次元軸対称数値解析を用いて予測する方法であって、
2次元軸対称数値解析で用いるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する、弾塑性数値解析工程と、
内側の半径が、前記弾塑性数値解析工程で決定した前記設置半径reqであるリング状のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、2次元スポット溶接数値解析を行うことにより、前記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する、2次元スポット溶接数値解析工程と、
を有する、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法。
一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、前記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、前記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際のナゲット径を予測するコンピュータプログラムであって、
2次元軸対称数値解析で用いるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する、弾塑性数値解析処理と、
内側の半径が、前記弾塑性数値解析処理で決定された前記設置半径reqであるリング状のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、2次元スポット溶接数値解析を行うことにより、前記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する、2次元スポット溶接数値解析処理と、
をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、前記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、前記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際のナゲット径を予測するコンピュータプログラムであって、
一対のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより、前記2枚の被溶接材間の接触力F3Dを求める、F3D算出処理と、
リング状のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより求めた、前記2枚の被溶接材間の接触力F2Dと、前記F3D算出処理で求めた前記接触力F3Dとの誤差が0.1%以下となるように、前記リング状のスペーサの設置半径reqを決定する、設置半径決定処理と、
前記設置半径決定処理で決定された前記設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、2次元スポット溶接数値解析を行うことにより、前記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する、2次元スポット溶接数値解析処理と、
をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらソフトウェアを含め、スポット溶接プロセスの数値解析では、一般的なスポット溶接用電極が軸対称形状であること、積層体は一対の該電極により面直して挟持されることから、スポット溶接プロセスが軸対称問題として取り扱えるとの合理的判断に基づき、2次元軸対称モデルを用いることが一般的である。発明者らも、独自に開発した2次元軸対称モデルを用いたスポット溶接解析プログラムによって、実験で調査したナゲット径を高い精度で予測できることを確認し、膨大な実験の一部を数値解析で代替している。
【0007】
しかしながら、2次元軸対称モデルによってスポット溶接プロセスの数値解析を行うことには、以下に述べるような課題がある。
【0008】
近年開発が進む高張力鋼板や超高張力鋼板(いわゆる、ハイテンや超ハイテン。)では、部材のプレス成形後に大きなスプリングバックが生じる等、部材の寸法精度を確保することが難しくなっている。そのため、これら部材を他部材と接合する場合に、部材同士の合わせ面において隙間(以下において、「板隙」と称することがある。)が生じやすく、その結果、板隙がない状態で選定したスポット溶接条件では、板隙のある積層体を板隙がない場合と同等の品質で接合することができなくなる。これは、板隙がある積層体を電極で加圧して、対面する金属板同士に接触部を形成する際に、金属板の「たわみ」および「たわみ剛性」により、金属板同士の接触界面における接触力分布が、板隙がない場合と異なるためと考えられる。したがって、超ハイテンを含む板組のように、スポット溶接部に板隙が想定される場合には、板隙量(板隙を隔てて配置された部材間の距離。)に応じた適正な溶接条件を別途選定しておく必要がある。板隙がある場合の溶接条件を実験的に選定する場合、一般的には、金属板の間に想定される板隙量に相当する厚さの二つのスペーサ(シム)を、溶接点を挟んで左右に平行に配置した試験体を準備した後、板隙がない場合の適正溶接条件の選定手順と同様に、F、I、およびτが決定される。
【0009】
二つのスペーサの配置形態を、そのまま2次元軸対称モデルで近似することは困難であるため、板隙がある積層体に対するスポット溶接プロセスは、不用意に2次元軸対称問題として取り扱うことは適切ではない。例えば、二枚の金属板の間に板隙量がgとなるよう二つのスペーサが間隔dで平行に配置され、該二つのスペーサの金属板面方向の中間位置(それぞれのスペーサに対して距離がd/2の位置)にスポット溶接をするプロセスを、円板状の二枚の金属板を、それらの中心が一致するよう平行に配置し、その間に板隙量がgとなるよう、前記円板と中心が一致するよう半径がd/2の位置に(リング状の)スペーサを配置して円板の中心をスポット溶接する2次元軸対称プロセスと同等とみなし、2次元軸対称モデルを用いた数値解析を適用しても、正しい予測結果が得られるとは考えにくい。特に、スペーサ間隔が狭い場合や金属板の板厚が大きい場合等、板のたわみ剛性が大きい場合には、2次元軸対称モデルによる検討は一層困難になると考えられる。これに対し、板隙がある場合の実験セットアップを、スペーサも含めて忠実にモデル化し、3次元数値解析を適用することで、板隙がある場合のナゲット径を予測することが可能になると考えられる。しかしながら、スポット溶接の数値解析は、電場、温度場、および力学場の相互変化を連成させ、また、電極/金属板界面や金属板/金属板界面の接触が考慮された非線形性の強い解析である。そのため、一般的に解析負荷が大きく、3次元解析を採用すれば、2次元軸対称解析と比較して大幅に解析負荷が増加することは不可避であり、数値解析を利用する利点が大きく損なわれる。
【0010】
そこで本発明は、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法、コンピュータプログラム、および、当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、数値計算による検討を重ねた結果、金属板を加圧せずに配置した場合に金属板同士が接触しないように金属板間に二つのスペーサを配置した、板隙ありの場合のスポット溶接実験におけるナゲット径の予測を、計算負荷の大きい3次元のスポット溶接解析を用いることなく、計算負荷の小さい複数の解析工程を組み合わせることで、短時間かつ高精度で実現できる手法を知見した。具体的には、まず、スポット溶接プロセスの最初の工程、すなわち、通電前の電極加圧段階(以下において、「スクイズ段階」と称することがある。)で金属板同士を接触させる工程において、前記溶接実験を模擬した3次元モデルを用いて3次元弾塑性数値解析により求められる界面接触力(F3D)と、一対のスペーサの代わりに、前記と同じ板隙量を持つリング状スペーサを金属板間に配置した2次元モデルを用いて2次元軸対称弾塑性解析により求められる界面接触力(F2D)とが略等しくなるよう、リング状スペーサの設置位置(等価半径req)を設定した。次に、このようにして設定した等価半径reqのリング状スペーサが金属板の間に設置される状態を模擬した、2次元軸対称モデルによるスポット溶接解析を行うことにした。その結果、3次元のスポット溶接解析で得られるナゲット径と同等のナゲット径を予測することができ、板隙がある場合のスポット溶接プロセスのナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析を行う場合よりも極めて小さい計算負荷で予測できることを知見した。
本発明は、このような知見に基づいて完成させた。以下、本発明について説明する。
【0012】
本発明の第1の態様は、一対のスペーサが挿入されることによって形成される大きさgの隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、上記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、上記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際の、ナゲット径を予測する方法であって、2次元軸対称数値解析で用いる大きさgの板隙を与えるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する弾塑性数値解析工程と、弾塑性数値解析工程で決定した設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、2次元スポット溶接解析を行うことにより、上記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する2次元スポット溶接解析工程と、を有する、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法である。
【0013】
本発明において、「リング状のスペーサ」は、1対のスペーサを挟む2枚の被溶接材の抵抗スポット溶接を、2次元軸対称モデルで模擬する際に用いられる、「1対のスペーサ」に対応して同じ板隙量を与えるスペーサを言う。周方向は対称であると仮定する2次元軸対称モデルでは、1対のスペーサをそのまま模擬することはできず、これを模擬すると、円板で模擬される二枚の金属板と同一の対称軸上に中心を有する「リング状のスペーサ」になる。また、本発明において、「設置半径req」は、一対のスペーサを挟む2枚の被溶接材の抵抗スポット溶接を行う場合における、スクイズ段階での被溶接材界面の界面接触力と、リング状のスペーサを挟む2枚の被溶接材の抵抗スポット溶接を行う場合における、スクイズ段階での被溶接材界面の界面接触力と、が略同等(例えば、両者の誤差が0.1%以下。)になるときの、リング状のスペーサの内径の1/2を言う。ここで、「界面接触力」は、2枚の被溶接材の接触界面の面積をS、該面積Sの領域に分布する、接触界面における接触圧力をpとするとき、pをSの領域について積分した値として算出される。例えば、界面接触力を有限要素法から算出する際には、いずれも数値解析結果として得られるpおよびSから、次式により算出することができる。
界面接触力=∫
Spds
本発明において、一対のスペーサを挟む2枚の被溶接材の抵抗スポット溶接を行う場合における、被溶接材界面の界面接触力は、実験により求めても良く、有限要素法などの数値解析により求めても良い。
一対のスペーサを用いる抵抗スポット溶接を行う場合の界面接触力と、リング状のスペーサを用いる抵抗スポット溶接を行う場合の界面接触力とが略同等になる、リング状のスペーサの設置半径reqを特定し、これを反映した2次元軸対称モデルを用いる抵抗スポット溶接の2次元数値解析を行う。これにより、一対のスペーサを挟む2枚の被溶接材の抵抗スポット溶接を行う場合のナゲット径を高精度に予測することができる。後述するように、設置半径reqを決定する際に3次元数値解析を用いたとしても、上記方法によりナゲット径を予測する際の所要時間は、抵抗スポット溶接の3次元数値解析によりナゲット径を予測する際の所要時間よりも極めて短い。所要時間の短さは計算負荷が小さいことに由来するので、このような形態にすることにより、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法を提供することができる。
【0014】
また、上記本発明の第1の態様において、上記弾塑性数値解析工程は、一対のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより、上記2枚の被溶接材間のスクイズ段階における界面接触力F3Dを求めるF3D算出工程と、リング状のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより求めた2枚の被溶接材間のスクイズ段階における界面接触力F2Dと、上記F3D算出工程で求めた接触力F3Dとが略一致する、上記リング状のスペーサの設置半径reqを決定する設置半径決定工程と、を有していても良い。
F3D算出工程の計算負荷、および、設置半径決定工程の計算負荷は、何れも小さい。したがって、このような形態であっても、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能である。
【0015】
本発明において、「略一致」とは、例えば、有限要素法による数値解析の要素分割寸法を板厚の1/10に設定した場合に、界面接触力F3Dと界面接触力F2Dとの誤差が0.1%以下であることを言う。
【0016】
本発明の第2の態様は、一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、上記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、上記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際の、ナゲット径を予測するコンピュータプログラムであって、2次元軸対称数値解析で用いるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する弾塑性数値解析処理と、前記の設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、スポット溶接の2次元数値解析を行うことにより、上記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出するスポット溶接の2次元数値解析処理と、をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムである。
【0017】
本発明の第3の態様は、一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の被溶接材を有する積層体を、一対の電極で挟持し、押圧しつつ、通電する過程を経て、上記2枚の被溶接材の接触界面にナゲットを形成することにより、上記2枚の被溶接材を抵抗スポット溶接する際の、ナゲット径を予測するコンピュータプログラムであって、一対のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより、上記2枚の被溶接材間の接触力F3Dを求めるF3D算出処理と、リング状のスペーサを挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより求めた、上記2枚の被溶接材間の接触力F2Dと、F3D算出処理で求めた接触力F3Dとが略一致する、上記リング状のスペーサの設置半径reqを決定する設置半径決定処理と、前記の設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の被溶接材と、該2枚の被溶接材を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、スポット溶接の2次元数値解析を行うことにより、上記リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出するスポット溶接の2次元数値解析処理と、をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムである。
【0018】
本発明の第2の態様、および、本発明の第3の態様は、上記本発明の第1の態様に係る抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法をコンピュータに実行させる際に好適に使用可能な、コンピュータプログラムである。上述のように、本発明の第1の態様は、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能である。したがって、本発明の第2の態様、および、本発明の第3の態様によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、コンピュータプログラムを提供することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、上記本発明の第2の態様、または、上記本発明の第3の態様に係るプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0020】
上述のように、本発明の第2の態様、および、本発明の第3の態様によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能である。本発明の第4の態様は、これらの態様に係るプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体なので、本発明の第4の態様によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法、コンピュータプログラム、および、当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例であり、本発明は以下に説明する形態に限定されない。
【0024】
1.抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法
図1は、本発明の抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法(以下において、「本発明の予測方法」と称することがある。)S10を説明する図である。
図1に示した本発明の予測方法S10は、弾塑性数値解析工程S11と、2次元熱弾塑性数値解析工程S12と、を有している。
【0025】
1.1.弾塑性数値解析工程S11
弾塑性数値解析工程S11は、2次元軸対称数値解析で用いるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する工程である。より具体的には、一対のスペーサを用いる抵抗スポット溶接を行う場合のスクイズ段階の界面接触力と、リング状のスペーサを用いる抵抗スポット溶接を行う場合のスクイズ段階の界面接触力とが略同等になるような、リング状のスペーサの設置半径reqを決定する工程である。
図1に示したように、弾塑性数値解析工程S11は、F3D算出工程S111と、設置半径決定工程S112と、を有している。
【0026】
1.1.1.F3D算出工程S111
F3D算出工程S111(以下において、単に「S111」と称することがある。)は、一対のスペーサを挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより、2枚の金属板間の界面接触力F3Dを求める工程である。ここで、「界面接触力」は、2枚の被溶接材の接触界面の面積をS、該面積Sの領域に分布する、接触界面における接触圧力をpとするとき、pをSの領域について積分した値として算出される。例えば、界面接触力を有限要素法から算出する際には、いずれも数値解析結果として得られるpおよびSから、次式により算出することができる。
界面接触力=∫
Spds
【0027】
上述のように、板隙がある場合のスポット溶接と板隙がない場合のスポット溶接との相違は、板隙がある積層体を電極で加圧して、対面する金属板同士に接触部を形成する際における、金属板の「たわみ」および「たわみ剛性」の有無であると考えられる。3次元解析モデルを用いた弾塑性解析を行うことにより、金属板の「たわみ」および「たわみ剛性」を考慮した数値解析を行うことが可能になると考えられるので、S111では、3次元解析モデルを用いた解析を行う。さらに、例えば剛性の高い金属板同士を接触させる場合や、金属板同士の隙間が広い場合には、金属板の弾性限を超えて変形させた金属板同士を接触させることがあると考えられる。そのため、S111では、3次元解析モデルを用いた弾塑性解析を行う。
【0028】
S111では、一対の電極によって押される2枚の金属板について弾塑性解析を行う。ここで、スポット溶接における金属板接触面の接触圧力分布は、電極の先端形状によって大きく変わる。そのため、S111の3次元解析モデルでは、実際の電極の先端形状(一般には曲面形状)を正確に模擬する。さらに、S111の3次元解析モデルでは、スポット溶接に用いられる一方の電極と一方の金属板との接触界面、金属板同士の接触界面、および、他方の金属板と他方の電極との接触界面を定義する。すなわち、S111の3次元解析モデルでは、電極の先端形状を正確に模擬し、且つ、電極と金属板との界面、および、金属板と金属板との界面を定義する。S111は、このような3次元解析モデルを用いた弾塑性解析を行うことにより、金属板の接触部分の面積Sと、当該接触部分の加圧力Pとを求め、これらを用いて、2枚の金属板間の界面接触力F3Dを求める。S111で行う弾塑性解析は、金属板の接触部分の面積Sと、当該接触部分の接触圧力分布pとを求めることが可能な任意の解析手法を用いることができる。そのような解析手法としては、有限要素法や、差分法等を例示することができる。以下の説明では、有限要素法で弾塑性解析を行う形態のS111を例示しつつ、S111について説明を続ける。
【0029】
上述のように、本発明では、小さい計算負荷でナゲット径を予測する方法を提供するので、S111の計算負荷は小さいことが好ましい。このような観点から、有限要素解析を行う際の電極の表面は剛表面であると仮定することが好ましい。電極の表面が剛表面であると仮定することにより、電極をメッシュで分割する必要がなくなるので、計算負荷を小さくすることが可能になる。さらに、計算負荷を小さくしやすい形態にする観点から、スペーサおよび該スペーサによって挟まれた金属板と電極のみをモデル化する(スペーサよりも外側の電極が配置されない領域が除去された解析モデルを用いる)ことが好ましい。加えて、一対のスペーサの中央にナゲットが形成されること、および、電極の先端は、電極の軸中心に対して対称な形状であることを考慮し、スペーサおよび該スペーサによって挟まれた金属板と電極の1/4の領域のみをモデル化することが好ましい。これらをふまえた、S111で好適に使用可能な3次元解析モデルの一例を、
図2に示す。また、一対のスペーサを挿入することにより形成した隙間を挟んで配置した2枚の金属板、および、当該金属板を挟む一対の電極の配置例を、
図3に示す。
図3において、Fは電極から金属板へ向けて付与される加圧力、gは板隙量、dは一対のスペーサの間隔である。
【0030】
1.1.2.設置半径決定工程S112
設置半径決定工程S112(以下において、単に「S112」と称することがある。)は、リング状のスペーサを挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより求めた、2枚の金属板間のスクイズ段階の界面接触力F2Dと、S111で求めた界面接触力F3Dとが略一致する、リング状のスペーサの設置半径reqを決定する工程である。
【0031】
スポット溶接で得られるナゲット径の予測手法として、2次元軸対称モデルを用いた数値解析手法が多数報告されており、商用ソフトも含め、溶接条件設定の援用ツール等として実用に供されている。しかしながら、2次元軸対称モデルでは、金属板の形状を円板で近似しているため、金属板間の板隙等を設定する場合には、リング状のスペーサが金属板間に挿入された状態をモデル化していることとなる。2次元軸対称モデルでは、一般に実験で供されるような、クーポン状試験片の間に、2つのスペーサを平行に挿入するような部材配置を、正確にモデル化することができない。
実際に、
図3に示したような、厚さgのスペーサを金属板間に間隔dで平行配置し、スペーサ間の中央(d/2位置)を溶接する場合を対象とし、これを2次元軸対称モデルによるスポット溶接数値解析を用いてナゲット径を予測する場合を考えると、後述するように、単純に半径がd/2の位置に厚さgのスペーサを配置した計算では、実際のセットアップを忠実に再現した3次元モデルによる数値解析と、大きく異なる予測結果となる。
【0032】
検討を重ねた結果、本発明者は、3次元の解析モデルを用いた3次元弾塑性数値解析により求められる界面接触力F3Dと、2次元の解析モデルを用いた2次元軸対称弾塑性解析により求められる界面接触力F2Dとが略等しくなるように、リング状スペーサの設置位置(等価半径req)を設定することにより、2次元軸対称モデルを用いるスポット溶接解析によって、3次元のスポット溶接解析で得られるナゲット径と同等のナゲット径を予測可能であることを知見した。そこで、S112では、この等価半径reqを決定するために、弾塑性解析を行う。
【0033】
図4に、S112で好適に使用可能な、2次元軸対称モデルの例を示す。リング状のスペーサの板隙量は、F3D算出工程S111で用いたスペーサの板隙量と略同じである。
図4に示したように、スペーサの板隙量および2次元軸対称モデルである点を除き、S112で使用される解析モデルは、S111で使用される解析モデルが満たす条件(電極の表面形状を正確に模擬する、電極と金属板との界面および金属板と金属板との界面を定義する。)を満たす。これらの条件に加え、S112で使用する解析モデルは、S111で好適に使用される解析モデルと同様に、計算負荷を小さくしやすい形態にする観点から、電極表面が剛表面であると仮定することが好ましい。
【0034】
このような2次元軸対称モデルを用いて、S112では、等価半径reqを決定する。等価半径reqを決定する弾塑性解析を行うにあたり、S112では、リング状のスペーサの設置半径rの初期値r1を決定する。初期値r1の決定方法は特に限定されないが、例えば、r1=d/2とする。このようにして初期値r1を決定したら、内側の半径がr1であるリング状のスペーサを挟むように配置された2枚の金属板を1対の電極で加圧したときの、金属板接触界面の面積S’、および、当該接触界面における接触圧力分布p’を求め、これらを界面接触力F2D=∫
S’p’dsへ代入することにより、初期値r1の場合の界面接触力F2Dを求める。ここに、S’やp’は、例えば有限要素法による数値解析より算出することができる。
【0035】
このようにして、初期値r1の場合の界面接触力F2Dを求めたら、続いて、当該界面接触力F2Dが、S111で求めた界面接触力F3Dと略一致するか否かを判断する。具体的には、例えば、ε=F3D×10
−3として、|F3D−F2D|<εを満たすか否かを判断する。これを満たす場合には、r1=reqとして、次の工程へと進む。これに対し、|F3D−F2D|<εを満たさない場合には、初期値r1はreqではない。そのため、初期値r1のときに求められたF2DよりもF3Dに近いF2Dが得られるように、リング状のスペーサの設置半径rを修正する。便宜上、ここでは、初期値r1を用いて修正された後の設置半径r2を、r2=r1+δ1と表すことにする。このようにして設置半径をr2に修正したら、内径がr2であるリング状のスペーサを用いたときの界面接触力F2Dを求め、この界面接触力F2Dが界面接触力F3Dに略一致するか否かを判断する。略一致しない場合には設置半径をさらに修正し、界面接触力F3Dと略一致する界面接触力F2Dが得られるまで、上記解析を繰り返す。S112では、このような解析を行うことにより、等価半径reqを決定することができる。
【0036】
S112で、設定された半径に基づいて得られた界面接触力F2Dよりも、S111で得られた界面接触力F3Dに近い界面接触力F2Dが得られる半径へと修正する方法としては、種々の求根アルゴリズムを用いて行うことができる。そのような求根アルゴリズムとしては、2分法のほか、ニュートン法等を例示することができる。これらの中でも、プログラミングが容易であり、且つ、計算負荷を小さくしやすい形態にする等の観点から、S112では2分法を用いることが好ましい。
【0037】
S112において、2分法を用いて、界面接触力F2Dが界面接触力F3Dに略一致する等価半径reqを決定する際に、リング状のスペーサの内側の半径を挟む2つの数値の決定方法は、特に限定されない。例えば、初期値r1を挟む2つの数値のうち、r1よりも小さい数値は0にすることができ、r1よりも大きい数値は、d/2よりも十分大きい値、例えば1000mmとすることができる。なお、当該大きい数値として、極端に大きい数値を選定しても、2分法の計算が数回増えるだけなので、計算負荷に大きな影響は及ぼさない。
【0038】
1.2.2次元スポット溶接数値解析工程S12
2次元スポット溶接数値解析工程S12(以下において、単に「S12」と称することがある。)は、S11で決定した設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、スポット溶接の2次元数値解析を行うことにより、設置半径reqであるリング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する工程である。換言すれば、S12は、2次元軸対称モデルを用いてスポット溶接解析を行うことにより、設置半径がreqであるリング状のスペーサを挟んで配置された2枚の金属板を抵抗スポット溶接した際のナゲット径を算出する工程である。
【0039】
上述のように、S112で決定した設置半径reqは、2次元軸対称モデルを用いるスポット溶接解析(S12)によって、3次元のスポット溶接解析で得られるナゲット径と同等のナゲット径を予測する際に用いる、リング状のスペーサの内側の半径である。S12で使用する解析モデルがS112で使用した解析モデルと異なると、3次元のスポット溶接解析で得られるナゲット径と同等のナゲット径を予測し難くなるので、S12では、S112で使用した解析モデルと同じ2次元軸対称モデルを用いて、2次元スポット溶接数値解析を行う。
【0040】
S12で行うスポット溶接数値解析は、一対の電極によって押された金属板が、温度変化を伴いながら非定常に変形状態および応力分布が変化する過程を解析するスポット溶接解析である。金属板の接触界面の抵抗が時々刻々と変化し、所定の加圧力を付与した状態で電気を流すことにより金属板の温度が上がる、という過程を解析可能であれば、任意の数理モデルを使用することができる。S12では、この数理モデルを用いる自作のソフトウェアや、市販ソフトウェアを適宜使用することができる。本発明者らが開発した、S12で使用可能な自作ソフトウェアとしては、「溶接学会全国大会講演概要、vol.72、p.60−61、2003年」に記載したもの等を例示することができる。また、S12で使用可能な市販ソフトウェアとしては、SORPAS(SWANTEC社製)やSYSWELD(ESI社製)等を例示することができる。
【0041】
図5に、S12で好適に使用可能な、2次元軸対称モデルの例を示す。S12で使用される解析モデルも、電極の表面形状を正確に模擬し、且つ、電極と金属板との界面および金属板と金属板との界面を定義する。
【0042】
後述する実施例でも説明するように、S12で算出されたナゲット径は、3次元のスポット溶接解析で得られるナゲット径と高精度に一致し、且つ、S11およびS12を有する本発明の予測方法の計算時間は、3次元のスポット溶接解析の計算時間よりも大幅に小さい。したがって、本発明によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測することが可能な、抵抗スポット溶接のナゲット径予測方法を提供することができる。
【0043】
本発明によりナゲット径が予測される、一対のスペーサが挿入されることによって形成される隙間を挟んで配置された2枚の金属板、および、スペーサの形態(より具体的には、スペーサ間隔d、板隙量g、および、金属板の板厚t。)は、特に限定されない。本発明は、板隙量gが0mmよりも大きい場合を対象とするが、g=0mmとしても、ナゲット径を予測することは可能である。本発明は、スペーサ間隔d、板隙量g、および、金属板の板厚tの値によらず、ナゲット径を高精度に予測可能である。金属板を接触させるために大きな加圧力を必要とする形態(より具体的には、スペーサ間隔dが狭い形態、板隙量gが大きい形態、金属板の板厚tが厚い形態、高強度の金属板を使用する形態。)の場合には、等価半径reqを用いることなくリング状のスペーサの内側の半径rがd/2であるとしてナゲット径を予測する、本発明とは異なる技術の予測精度との差がより顕著になりやすい。それゆえ、このような形態の場合に、本発明の効果が得られやすい。
【0044】
図3に例示した形態の試験で実際に使用される形態を考慮すると、本発明において、スペーサ間隔dは、例えば、10mm以上80mm以下とすることができる。また、板隙量gは、例えば、0.2mm以上2mm以下とすることができる。また、板厚tは、例えば、0.5mm以上3mm以下とすることができる。
【0045】
本発明に関する上記説明では、3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことによって、界面接触力F3Dを求めるS111を有する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明は、実験によって界面接触力F3Dを求める工程を有する形態とすることも可能である。
【0046】
2.コンピュータプログラムおよび当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体
図6は、本発明のコンピュータプログラムを実行させることが可能なコンピュータシステムの形態例を示す図である。
図6に示したコンピュータシステムにおいて、符号100はコンピュータ(PC)である。コンピュータ100は、CPU101を備え、ROM102またはハードディスク(HD)111に記録された、あるいはフレキシブルディスクドライブ(FD)112より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行し、システムバス104に接続される各デバイスを総括的に制御する。上述した本発明の予測方法は、例えば、コンピュータ100のCPU101、ROM102、またはハードディスク(HD)111に記録された本発明のコンピュータプログラムを実行することにより、実施することができる。
【0047】
図6に示したコンピュータシステムにおいて、RAM103は、CPU101の主メモリやワークエリア等として機能する。キーボードコントローラ(KBC)105は、キーボード(KB)109から入力される信号をシステム本体内に入力する制御を行う。また、表示コントローラ(CRTC)106は、表示装置(CRT)110上の表示制御を行う。ディスクコントローラ(DKC)107は、ブートプログラム(起動プログラム:パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラム)、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、および、ネットワーク管理プログラム等を記録するハードディスク(HD)111、および、フレキシブルディスク(FD)112とのアクセスを制御する。また、ネットワークインタフェースカード(NIC)108は、LAN120を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、または、他のコンピュータと双方向のデータのやり取りを行う。
【0048】
本発明のコンピュータプログラムは、2次元軸対称数値解析で用いるリング状のスペーサの設置半径reqを決定する弾塑性数値解析処理と、前記の設置半径reqであるリング状のスペーサ、を挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる、2次元スポット溶接数値解析を行うことにより、リング状のスペーサの中央に形成されるナゲットの径を算出する2次元スポット溶接数値解析処理と、をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムである。本発明のコンピュータプログラムにおいて、弾塑性数値解析処理は、一対のスペーサを挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した3次元解析モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより、2枚の被溶接材間の接触力F3Dを求めるF3D算出処理と、リング状のスペーサを挟んで配置される2枚の金属板と、該2枚の金属板を挟持する一対の電極とを模擬した2次元軸対称モデルを用いる弾塑性解析を行うことにより求めた、2枚の金属板間の接触力F2Dと、上記F3D算出処理で求めた接触力F3Dとが略一致する、リング状のスペーサの設置半径reqを決定する設置半径決定処理と、をコンピュータに実行させるように構成されていても良い。本発明のコンピュータプログラムにおいて、例えば、F3D算出処理は、上記S111をコンピュータに実行させる処理であり、設置半径決定処理は、上記S112をコンピュータに実行させる処理である。また、2次元スポット溶接数値解析処理は、上記S12をコンピュータに実行させる処理である。F3D算出処理、設置半径決定処理、および、2次元スポット溶接数値解析処理の内容は、
図1、および、本発明の予測方法に関する上記説明の内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
本発明のコンピュータプログラムは、本発明の予測方法をコンピュータに実行させるプログラムである。本発明の予測方法は、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測可能なので、本発明によれば、板隙を有する抵抗スポット溶接におけるナゲット径を、抵抗スポット溶接の3次元数値解析よりも小さい計算負荷で予測可能な、コンピュータプログラムを提供することができる。このプログラムおよび当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明に含まれる。
【実施例】
【0050】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明を続ける。
【0051】
(1)実施例1、比較例1A、および、比較例1B
表1に示す溶接条件で、2枚の金属板(1500MPa級の引張強さを有するホットスタンプ(焼入れ)鋼板。以下において、「HS1500」と称することがある。)をスポット溶接した場合のナゲット径を、上記本発明の予測方法で予測した(実施例1)。
一方、比較のため、表1に示す実施例1と同じ溶接条件で、
図3に示したセットアップを忠実に再現した3次元モデルによる解析を行うことにより、ナゲット径を求めた(比較例1A)。比較例1Aでは、スポット溶接中の熱的−電気的―力学的な相互作用をそれぞれ数値モデル化し、溶接中の非定常過程を妥当に計算できるプログラムとして、本発明者らが開発した3次元スポット溶接解析FEMプログラムを利用した。比較例1Aで使用した、3次元モデルの例を、
図7に示す。比較例1Aでは、スポット溶接位置をスペーサ間の中央かつ板幅の中央としたため、プロセスの対称性を考慮して、セットアップ全体の1/4領域をモデル化した。また、板隙量gを与えるにおいて、スペーサをモデル化するのではなく、板隙量gを維持するような変位境界条件を、スペーサ設置相当位置に規定した。
また、実施例1および比較例1Aに加え、実施例1で得られた等価半径req(=24.35mm)に代えて、r=d/2(=10mm)とし、
図5に示す2次元モデルを用いて解析することにより、ナゲット径を予測した(比較例1B)。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1、比較例1A、および、比較例1Bで得られた、ナゲット形成過程の時刻歴の結果を、
図8に示す。また、実施例1および比較例1Aにおける計算時間の結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
図8に示したように、実施例1のナゲット形成予測結果は、3次元のスポット溶接解析を行った比較例1Aの結果と良好に一致したが、r=d/2のリング状スペーサが配置されると仮定した比較例1Bは、特に、ナゲットが形成され始める初期の結果が、実施例1および比較例1Aと大きく異なっていた。
【0056】
また、表2に示したように、3次元のスポット溶接解析を行った比較例1Aの計算時間は17809秒であった。これに対し、本発明の予測方法では、すべての工程に要した計算時間を加算することにより得られる合計の計算時間が2001秒であり、この計算時間は、比較例1Aの計算時間の約1/9であった。以上の結果から、本発明によれば、従来の3次元解析と同等の解析精度を確保しつつ、計算負荷を大幅に低減することが可能であった。
【0057】
(2)実施例2、比較例2A、および、比較例2B
金属板を590MPa級の引張強さを有する鋼板(以下において、「590」と称することがある。)に変更し、これに伴って加圧力を変更した表3に示す溶接条件でスポット溶接した場合のナゲット径を、上記本発明の予測方法で予測した(実施例2)。
一方、溶接条件を表3に示した条件に変更したほかは比較例1Aと同様にして、3次元モデルによる解析を行うことにより、ナゲット径を求めた(比較例2A)。
また、溶接条件を表3に示した条件に変更したほかは比較例1Bと同様にして、
図5に示す2次元モデルを用いて解析することにより、ナゲット径を予測した(比較例2B)。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例2、比較例2A、および、比較例2Bで得られた、ナゲット形成過程の時刻歴の結果を、
図9に示す。
図9に示したように、実施例2のナゲット形成予測結果は、3次元のスポット溶接解析を行った比較例2Aの結果と良好に一致した。
また、
図8および
図9を比較すると、相対的に高強度の鋼板のナゲット径を予測した
図8の方が、
図9よりも、実施例の結果が3次元のスポット溶接解析を行った結果と良く一致し、r=d/2と仮定した比較例の結果との差が顕著であった。すなわち、高強度鋼板の板組の方が、本発明の効果が大きかった。
【0060】
(3)実施例3、参考例3、および、比較例3
表4に示す溶接条件で、2枚の金属板(1500MPa求の引張強さを有するホットスタンプ(焼入れ)鋼板)をスポット溶接した場合のナゲット径を、上記本発明の予測方法で予測した(実施例3)。
一方、溶接条件を表4に示した条件に変更したほかは比較例1Aと同様にして、3次元モデルによる解析を行うことにより、ナゲット径を求めた(比較例3A)。
また、溶接条件を表4に示した条件に変更したほかは比較例1Bと同様にして、
図5に示す2次元モデルを用いて解析することにより、ナゲット径を予測した(比較例3B)。
【0061】
【表4】
【0062】
実施例3、比較例3A、および、比較例3Bで得られた、ナゲット形成過程の時刻歴の結果を、
図10に示す。
図10に示したように、d=60mmの場合は、実施例3の結果と比較例3Bの結果との間に、大きな違いは確認されなかった。これに対し、d=20mmとしたほかは表4に示した溶接条件と同様の溶接条件である場合のナゲット径予測結果を示した
図8において、実施例1と比較例1Bとではナゲット形成予測結果が大きく異なっており、実施例1は比較例1Bよりも、3次元のスポット溶接解析を行った比較例1Aの結果と良好に一致していた。これらの結果から、従来技術よりもナゲット径を高精度に予測可能という本発明の効果は、dが小さい場合に、より得られやすいことが分かった。