(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記油圧制御装置は、前記油圧アクチュエータに油圧を供給するパーキング解除状態と前記油圧アクチュエータの油圧を排出するパーキング状態とに切換え可能なパーキング切換えバルブと、前記パーキング切換えバルブを前記パーキング状態に保持するパーキング保持圧を出力可能なレンジ切換えバルブと、を有し、
前記ソレノイド装置は、通電状態にある場合には、前記レンジ切換えバルブに前記パーキング保持圧を出力させる制御圧を出力可能なソレノイドバルブである、
請求項2に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[駆動伝達装置]
以下、図面に沿って本実施形態に係る自動変速機1について説明する。自動変速機1は、
図1に示すように、エンジン7(E/G)から出力された回転を変速して車輪に伝達する駆動伝達部2と、エンジン7の駆動力を用いて作動する機械式のオイルポンプOPと、オイルポンプOPから供給された油圧を用いて駆動伝達部2を制御する油圧制御装置3と、を備え、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプ等のエンジン横置きの車両に搭載されて好適な車両用駆動伝達装置である。
図1(a)は自動変速機1を左方(図中右方が車両前方)から視た側面図であり、
図1(b)は自動変速機1を車両前方から視た正面図である。
【0012】
駆動伝達部2は、第1軸P1上に配置されてエンジン7の出力軸にトルクコンバータ(不図示)を介して接続される入力軸と、第1軸P1に平行な第2軸P2上に配置されて第1軸P1から回転を受取るカウンタシャフトと、第1軸P1及び第2軸P2に平行な第3軸P3上に配置されてカウンタシャフトの回転を左右の車軸に分配する差動装置等を有する。駆動伝達部2には、例えば第1軸P1上に遊星歯車機構を用いて入力軸の回転を変速する多段式変速機構が配置され、入力軸の回転を適宜変速して車輪へと伝達可能に構成される。駆動伝達部2の筐体であるミッションケース2aは、全体として油密状に構成され、変速機構を構成するギヤ及び摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキを含む)や、カウンタシャフト及び差動装置等を収容している。
【0013】
オイルポンプOPは、例えばトルクコンバータのポンプインペラに接続されることで、エンジン7から出力された回転を受取って作動する。このオイルポンプOPは、オイルパンとして用いられるミッションケース2aの下部に滞留した油(ATF:オートマチック・トランスミッション・フルード)を、ストレーナを介して吸引して加圧すると共に、油圧制御装置3に接続された油路に吐出する。
【0014】
なお、本実施形態に係る駆動伝達装置は、トルクコンバータ及び多段式変速機構を有する自動変速機1として説明するが、例えば、発電機かつ原動機としての回転電機と多段式変速機構とを直列的に接続した1モータハイブリッド方式など、他の方式の駆動伝達装置であってもよく、要するに油圧制御装置が駆動伝達部を油圧制御する車両用の駆動伝達装置であればよい。また、FFタイプに限らず、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプ等のエンジン縦置きの車両に搭載される駆動伝達装置として適用してもよい。
【0015】
[油圧制御装置]
次に、オイルポンプOPから供給される油圧を用いて駆動伝達部2を制御する油圧制御装置3について説明する。
図1(b)に示すように、油圧制御装置3は、ミッションケース2aの前側の側面(正面)に立設された状態でミッションケース2aに固定されている。油圧制御装置3は、オイルポンプOPからの油圧をミッションケース2aの内部に給排可能な油路が形成されたバルブボディ4(バルブボディ本体)に、レンジ切換え機構8(
図2参照)を構成する複数のバルブスプール及び複数のソレノイド装置(ON/OFFソレノイド、デューティ制御ソレノイド、リニアソレノイドバルブ等を含む)が配置されて構成されている。これらのソレノイド装置は、正面から視てバルブボディ4の側部に上下方向に並べて配置されたソレノイド列3Sを形成している。バルブボディ4は、例えば、それぞれ油溝を形成された金属製のアッパーボディ及びロアボディを、セパレータプレートを介して積層することで一体的に形成されている。
【0016】
バルブボディ4には、自動変速機1を制御する制御部としてのトランスミッションコントロールユニット5(以下、TCU5とする)が接続されている。このTCU5は、エンジンを制御するエンジンコントロールユニット6(以下、ECU6とする)に電気的に接続されており、ECU6と協働して車両を制御する。また、TCU5は、運転者が操作するシフトレバー又はシフトスイッチ等の操作具に電気的に接続されており、運転者のシフト操作に応じて自動変速機1のシフトレンジを切換える、所謂シフトバイワイヤ方式である。油圧制御装置3には、オイルポンプOPから供給された油圧を調圧するプライマリレギュレータバルブ(不図示)が設けられており、スロットル開度に応じたライン圧P
L(
図2参照)を、後述するレンジ切換え機構8に供給可能に構成されている。
【0017】
バルブボディ4には、バルブボディ4の内部の油温を検知可能な油温センサTS(油温検知部)が配置されている。詳しく説明すると、油温センサTSの少なくとも1つが、バルブボディ4の下端部よりも上方に離間した位置であって、かつ、ソレノイド列3Sの最も下方に位置する第1ソレノイドバルブS1よりも下方に配置されている。なお、TCU5は、油温センサTSの他に車速を検知する車速センサや、アクセル開度を検知するアクセル開度センサ等が接続されており、これらの検出値に基づいて自動変速機1を変速制御する。
【0018】
ここで、TCU5の制御内容が、油温センサTSが検出した油温に依存することを説明する。油は温度が低いほど粘性が上昇する性質があるため、低温ではバルブボディ4及びミッションケース2aの内部の油路抵抗や、潤滑部位における油の撹拌抵抗(例えば、摩擦係合装置による撹拌抵抗)が増加する。このため、例えば低温条件下では、油路抵抗による損失を考慮してライン圧P
Lを高めに設定する制御が行われる。また、解放状態にある摩擦係合装置(クラッチ及びブレーキ)を係合する際に油圧ピストンの無効ストロークを詰めるまでの時間は、油温が低いほど長くなるため、円滑な変速制御を行うために無効ストローク詰めの時間を長めに設定することが考えられる。また、変速機構の変速タイミングを規定する変速マップ(アップシフト及びダウンシフトを実行すべき車速とスロットル開度との関係を示すマップ、テーブル、及び演算式等)や、変速時の油圧出力値を、前回の変速状況に応じてTCU5が学習する構成において、前回の変速が行われた際の油温に応じて学習内容を切換える(例えば、低温用変数と高温用変数とを別個に用意する)ことが考えられる。このような油温に応じた制御を実行することで、TCU5は、外気温や走行状況に対応して自動変速機1を高い精度で制御することができる。
【0019】
[パーキング装置]
自動変速機1には、
図2(a)〜(d)に示すように、車両の移動を規制可能なパーキング装置40が設けられている。このパーキング装置40は、油圧アクチュエータとしての油圧シリンダ42と、油圧シリンダ42に嵌合するピストンと一体的に形成されると共に、先端部にパーキングポールを設けられたパーキングロッド41(ロック部材)と、を備えている。
【0020】
パーキングロッド41は、パーキングポールと自動変速機1の伝動軸に固定されたパーキングギヤ(不図示)とが噛合うことで駆動伝達部2をロックするロック状態と、パーキングポールがパーキングギヤから係脱することで駆動伝達部2をアンロックするロック解除状態とに切換可能である。パーキングロッド41は、油圧シリンダ42の軸方向(図中左右方向)に摺動可能であり、シリンダ底面に近付く方向(図中左方)へ移動することでロック状態(
図2(a)参照)となり、シリンダ底面から遠ざかる方向(図中右方)へ移動することでロック解除状態(
図2(b)〜(d)参照)となる。パーキングロッド41には、パーキングロッド41をシリンダ底面の側へ付勢する付勢部材としてのスプリング43が接続されている。言い換えると、パーキングロッド41は、スプリング43からロック状態に保持される方向の付勢力を継続的に受け取っている。
【0021】
油圧シリンダ42は、バルブボディ4の油路に接続されており、後述するパーキング切換えバルブ30によって油圧の供給状態を制御される。すなわち、パーキング切換えバルブ30からライン圧P
Lに基づくパーキング解除圧P
Nを供給される場合には、パーキングロッド41をロック状態からロック解除状態へと切換える。また、パーキング切換えバルブ30が油圧シリンダ42の油圧を解放する場合には、スプリング43の付勢力によって、油圧シリンダ42の油が排出されると共に、パーキングロッド41がロック解除状態からロック状態へと切換わってロック状態に保持される。
【0022】
本実施形態の場合、パーキング装置40にはパーキングロッド41をロック解除状態に保持可能なソレノイドSPが設けられている。ソレノイドSPは、通電(ON)されることでパーキングロッド41に設けられた係合部にプランジャを係合させることができ、パーキングロッド41がロック解除状態からロック状態へと移行することを規制する。
【0023】
[レンジ切換え機構]
次に、油圧制御装置3に設けられるレンジ切換え機構8について、
図2に基づいて説明する。レンジ切換え機構8は、TCU5からの制御信号に基づいてライン圧P
Lに基づく油圧の供給経路を切換えることで、運転者の選択したシフト位置(ターゲットポジション)に応じて、自動変速機1をパーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、及びドライブ(D)レンジの間で切換える。このレンジ切換え機構8は、ライン圧P
Lに基づく油圧の供給経路を切換える第1切換えバルブ10(レンジ切換えバルブ)及び第2切換えバルブ20と、パーキング装置40への油圧の給排を切換えるパーキング切換えバルブ30とを有している。また、レンジ切換え機構8には、ライン圧P
Lを調圧して制御圧(信号圧)として出力可能なソレノイドバルブとして、第1切換えバルブ10、第2切換えバルブ20、及びパーキング切換えバルブ30をそれぞれ制御する第1ソレノイドバルブS1、第2ソレノイドバルブS2、及び第3ソレノイドバルブS3が設けられている。
【0024】
第1切換えバルブ10は、バルブボディ4に嵌挿されるスプール11と、スプール11とバルブボディ4との間に縮設されるスプリング13と、第1ソレノイドバルブS1からの制御圧が入力される入力ポート12とを有する。スプール11は、第1ソレノイドバルブS1からの制御圧に応じて、左右に分割して図示された2つの位置の間で切換え可能である。以下の説明において、スプール11が図中右側の位置にある状態を第1切換えバルブ10の「ON状態」とし、スプール11が図中左側の位置にある状態を「OFF状態」とする。第1切換えバルブ10は、ON状態及びOFF状態において、第2切換えバルブ20へライン圧P
Lに基づく油圧を供給可能である。また、第1切換えバルブ10は、第2切換えバルブ20を介して、パーキング切換えバルブ30にパーキング装置40への油圧供給を停止させる制御圧(パーキング保持圧P
H)を出力可能である。
【0025】
第2切換えバルブ20は、バルブボディ4に嵌挿されるスプール21と、スプール21とバルブボディ4との間に縮設されるスプリング23と、第2ソレノイドバルブS2からの制御圧が入力される入力ポート22とを有する。スプール21は、第2ソレノイドバルブS2からの制御圧に応じて、左右に分割して図示された2つの位置の間で切換え可能である。以下の説明において、スプール21が図中右側の位置にある状態を第2切換えバルブ20の「ON状態」とし、スプール21が図中左側の位置にある状態を「OFF状態」とする。第2切換えバルブ20は、OFF状態でライン圧P
Lに基づくDレンジ圧P
Dを出力可能であると共に、ON状態でライン圧P
Lに基づくRレンジ圧P
Rを出力可能である。
【0026】
パーキング切換えバルブ30は、直列配置された第1スプール31及び第2スプール32と、第2スプール32とバルブボディ4との間に縮設されるスプリング35と、第3ソレノイドバルブS3からの制御圧(信号圧)が入力される入力ポート33,34と、スプリング35が配置された油室に第2切換えバルブからの油圧(P
H)が供給される入力ポートe2と、を備えている。第1スプール31及び第2スプール32は、左右に分割して図示された上方位置(図中左側の位置)と下方位置(図中右側の位置)との間でそれぞれ移動可能かつ互いに接離可能であり、第3ソレノイドバルブS3から制御圧が入力された場合に上下方向に離間する。
【0027】
第1スプール31は、入力ポートe1を介してライン圧P
Lが入力される油室を形成し、第2スプール32は、出力ポートf1を介してパーキング装置40の油圧シリンダ42に接続される油室を形成している。これらの油室は、バルブボディ4に形成された中間油路m1を介して接続されており、第1スプール31及び第2スプール32の位置によって入力ポートe1と出力ポートf1とを繋ぐ油路の開閉を切換え可能である。すなわち、第1スプール31及び第2スプール32が共に上方位置にあるパーキング状態では、入力ポートe1が第2スプール32によって閉塞されて油圧シリンダ42への油圧供給が停止されると共に、油圧シリンダ42の油圧がドレーンポートEXを介して排出される。また、第1スプール31が上方位置かつ第2スプール32が下方位置にあるパーキング解除状態では、入力ポートe1と出力ポートf1とが中間油路m1を介して連通されて、ライン圧P
Lに基づくパーキング解除圧P
Nを油圧シリンダ42に供給可能となる。
【0028】
レンジ切換え機構8は、これらの切換えバルブ(10,20,30)が、
図2(a)〜(d)の回路図に示すように接続されて構成されている。以下、シフトレンジを切換える際のレンジ切換え機構8の作用について、
図2(a)〜(d)に基づいて順に説明する。
【0029】
運転者がPレンジを選択した場合(
図2(a)参照)には、TCU5は第1ソレノイドバルブS1を通電状態(ON)とする一方で、第2、第3ソレノイドバルブS2,S3を非通電状態(OFF)とする。すると、ON状態の第1切換えバルブ10及びOFF状態の第2切換えバルブ20を介して、ライン圧P
Lに基づくパーキング保持圧P
Hがパーキング切換えバルブ30に供給される。パーキング保持圧P
Hがパーキング切換えバルブ30の入力ポートe2に入力されると、パーキング切換えバルブ30がパーキング状態に保持される。これにより、油圧シリンダ42への油圧供給が停止されると共に、油圧シリンダ42の油圧はドレーンポート(EX)を介して排出される。そして、スプリング43の付勢力によってパーキングロッド41がロック状態(P)に保持されて、駆動伝達部2がロックされるため、車両の移動が規制される。これに並行して、駆動伝達部2の入力側と出力側とが分離された状態となるため、エンジン7が空転して駆動力が車輪へと伝達されない状態となる。
【0030】
運転者がRレンジを選択した場合(
図2(b)参照)には、TCU5は第1、第2及び第3ソレノイドバルブS1,S2,S3を通電状態(ON)とする。すると、ON状態となった第1及び第2切換えバルブ10,20を介して、ライン圧P
Lに基づくRレンジ圧P
Rが出力される。そして、このRレンジ圧P
Rがバルブボディ4の油路を介して分配、調圧されて駆動伝達部2に供給されることで、Rレンジの各変速段が達成される。
【0031】
これに並行して、第2切換えバルブ20がON状態となることで、パーキング保持圧P
Hの出力が停止される。そして、第3ソレノイドバルブS3からの制御圧によって第1スプール31及び第2スプール32が離間して、パーキング切換えバルブ30がパーキング解除状態となる。すると、パーキング解除状態のパーキング切換えバルブ30を介して、ライン圧P
Lに基づくパーキング解除圧P
Nがパーキング装置40の油圧シリンダ42に供給される。これにより、パーキングロッド41がロック解除状態(Not−P)に切換わって、駆動伝達部2がアンロックされる。
【0032】
運転者がNレンジを選択した場合(
図2(c)参照)には、TCU5は第2及び第3ソレノイドバルブS2,S3を通電状態(ON)とする一方で、第1ソレノイドバルブS1を非通電状態(OFF)とする。すると、OFF状態の第1切換えバルブ10とON状態の第2切換えバルブ20とによって、Dレンジ圧P
D及びRレンジ圧P
Rの出力が停止されるため、駆動伝達部2の入力側と出力側とが分離されてエンジン7が空転する状態となる。
【0033】
また、Rレンジの場合と同様に、ON状態の第2切換えバルブ20からはパーキング保持圧P
Hが出力されず、第3ソレノイドバルブS3からの制御圧によってパーキング切換えバルブ30がパーキング解除状態となる。このため、パーキング解除圧P
Nがパーキング装置40の油圧シリンダ42に供給されて、パーキングロッド41がロック解除状態(Not−P)に切換って、駆動伝達部2がアンロックされる。
【0034】
運転者がDレンジを選択した場合(
図2(d)参照)には、TCU5は第1及び第2ソレノイドバルブS1,S2を非通電状態(OFF)とすると共に、第3ソレノイドバルブS3を通電状態(ON)とする。すると、OFF状態の第1切換えバルブ10及びON状態の第2切換えバルブ20を介して、ライン圧P
Lに基づくDレンジ圧P
Dが出力される。そして、Dレンジ圧P
Dがバルブボディ4の油路を介して適宜分配、調圧されて駆動伝達部2に供給されることで、Dレンジの各変速段が達成される。
【0035】
また、Rレンジ及びNレンジの場合と同様に、パーキング切換えバルブ30にはパーキング保持圧P
Hが供給されない。そして、第3ソレノイドバルブS3からの制御圧によってパーキング切換えバルブ30がパーキング解除状態となるため、パーキング解除圧P
Nがパーキング装置40の油圧シリンダ42に供給されて、パーキングロッド41がロック解除状態(Not−P)に切換わって、駆動伝達部2がアンロックされる。
【0036】
なお、Rレンジ、Nレンジ、及びDレンジのいずれかに切換える場合には、パーキングロッド41がロック解除状態となった後にソレノイドSPに通電することで、パーキングロッド41をロック解除状態に固定することができる。このため、パーキング切換えバルブ30を継続的にパーキング解除状態に保持する必要がなく、パーキングロッド41がロック解除状態に切換った後のタイミングで第3ソレノイドバルブS3への通電を停止(OFF)してもよい。
【0037】
なお、通常の使用状態では、パーキング切換えバルブ30の第1スプール31は常に図中の上方位置にあるが、下方位置へと移動することでフェールセーフ作用を発揮可能である。すなわち、第2スプール32のスティック(膠着)等によって、第3ソレノイドバルブS3が非通電状態となったにも関わらず、第2スプール32が下方位置に留まることが考えられる。この場合、出力ポートf1に連通する油室g1とは別個に設けられた予備油室g2に供給される油圧によって、第1スプール31が下方へと移動するように構成されている。これにより、パーキング解除圧P
Nの供給が遮断されるため、第2スプール32がスティックした場合であってもPレンジが選択された際に車両の移動を規制することができる。
【0038】
[エンジン停止状態における油温変化]
ここで、エンジン7が停止した状態(エンジン停止状態)でソレノイド装置に通電された場合に生じ得る現象について説明する。このような場合としては、運転者が車両を発進させる際に、Pレンジ(又はNレンジ)を選択した状態で車両の電源をON(イグニッションオン)した後、エンジン7を始動せずに待機する場合が挙げられる。この場合、本実施形態では第1ソレノイドバルブS1(Nレンジの場合は第2、第3ソレノイドバルブS2,S3)が通電状態となる。また、車両の一時停止時に自動でエンジン7を停止する、所謂アイドリングストップ機能を搭載した車両において、Dレンジに対応するソレノイドバルブ(本実施形態では第3ソレノイドバルブS3)が通電されたままでエンジン7の回転が一時停止した状態(アイドリングストップ状態)となる場合が挙げられる。あるいは、Dレンジが選択された状態で、何らかの理由によりエンジン7が停止(エンジンストール)した場合も挙げることができる。
【0039】
エンジン7の駆動力を利用して作動する機械式のオイルポンプOPは、エンジン7の停止に伴って作動を停止するため、エンジン停止状態では油の循環が停止する。すると、通電状態にあるソレノイド装置から発生する熱は、大気や油に比して熱伝導性の大きいバルブボディ4を介して周囲に伝播する。そして、ソレノイド装置からの発熱がバルブボディ4に配置された油温センサTSに継続的に伝播すると、油温センサTSの検知した油温の値が、実際の油温よりも大きな値となってしまう。上述した通り、本実施形態に係るTCU5は油温に応じて制御内容を変更するように構成されているため、このように検知温度と実際の油温との乖離(ずれ)が発生した状態では、油圧制御の精度が低下してしまう虞がある。
【0040】
このような検知温度と実際の油温との乖離は、エンジン停止状態でソレノイド装置が通電された場合に広く生じ得るものであるが、特に、バルブボディ4がミッションケース2aの側面に配置される構成では、温度の乖離が速やかに進行する場合があることが判明している。すなわち、この構成では、オイルポンプOPの停止に伴ってバルブボディ4の内部における油面が低下する場合があり、通電状態にあるソレノイド装置の位置と油温センサTSの検知位置とが、ミッションケース2aの内部の油量(ATF量)が設定上の適正範囲にある場合の油面よりも上方に露出する可能性がある。このような場合には、油が充填されている場合に比してバルブボディ4を介して伝播する熱量が大きくなり、油温センサTSによる検知温度が実際の油温を超えて上昇しやすくなると考えられる。
【0041】
なお、ここではエンジン停止状態で通電される可能性があるソレノイド装置として、第1、第2、及び第3ソレノイドバルブS1,S2,S3を挙げたが、エンジン停止状態で少なくとも一部のソレノイド装置が通電状態となる構成であれば、後述する制御を適用可能である。また、ここでいうソレノイド装置とは、デューティ制御式や比例電磁式等のソレノイドバルブに加えて、パーキング装置40のソレノイドSPのようなソレノイドバルブ以外のソレノイドを含むものである。
【0042】
[ソレノイドの発熱回避]
本実施形態に係るTCU5は、ソレノイド装置の発熱による油温センサTSの検知温度と実際の油温との乖離を防ぐために、所定の条件の下でソレノイド装置への通電を中断している。以下、本実施形態に係る制御プロセスについて、
図3に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0043】
TCU5は、電力を供給されている状態(TCU:ON)でエンジン7の停止状態(ENG停止)を検知すると、この制御プロセスを開始する。そして、エンジン7の始動が検出されずに所定時間が経過したことを条件として(S1:Y)、通電状態にあるソレノイド装置(例えば、第1ソレノイドバルブS1)への通電を中断(OFF)すると共に、ECU6に信号を送ってエンジン7の始動を規制するスタートロック機能をロック状態とする。ただし、所定時間とは、通電状態にあるソレノイド装置の発熱量や、ソレノイド装置と油温センサとの間隔等を考慮して、油温センサの検知温度と実際の油温との乖離が許容範囲内に収まるように設定された長さの時間であり、例えば60秒の長さに設定される。
【0044】
ソレノイド装置への通電を中断した後、油圧供給可能な状態に復帰する復帰条件の成立を検知(S3:Y)すると、TCU5はソレノイド装置への通電を再開(ON)すると共に、ECU6に信号を送ってスタートロック機能をアンロック状態に変更させる(S4)。ただし、復帰条件とは、エンジン7の始動を要求する始動要求信号が入力された場合など、バルブボディ4に対する油圧供給の開始が予想される条件のことである。始動要求信号には、運転者がキーをSTART位置に入れる操作などのエンジン始動操作による信号の他、アイドリングストップ状態から車両を再発進させる際の発進要求信号(例えば、ブレーキペダルが解放されたことを検知した検知信号に基づく信号)が含まれる。
【0045】
このような制御を実行することにより、ソレノイド装置への通電開始から所定時間後に通電が中断されるため、ソレノイド装置から継続的に熱が発生せず、バルブボディ4を介して油温センサTSへと伝導する熱量を低減させることができる。これにより、油温センサTSが高い精度で油温を検知することを可能として、エンジン7が始動してオイルポンプOPが作動を開始した際に、TCU5が実行する温度に依存する油圧制御の精度を向上させることができる。
【0046】
なお、TCU5の復帰条件は、始動要求信号の入力以外の条件としてもよい。例えば、オイルポンプOPから供給された油圧を一時的に蓄える蓄圧装置(アキュームレータ)を設けて、発進用クラッチの無効ストロークを詰める等の目的で、アイドリングストップ状態からの復帰時に蓄圧装置から油圧を供給する構成では、蓄圧装置からの油圧供給の決定を復帰条件として、蓄圧装置の解放に先立ってソレノイド装置への通電を再開させることが好ましい。この場合、始動要求信号が入力されずに蓄圧装置が解放される場合(例えば、車両がアイドリングストップ状態となった後に、運転者がキーをLOCK位置に入れて車両の電源をOFFにした場合)を、復帰条件に含めると好適である。また、機械式のオイルポンプに加えて電動式のオイルポンプを設ける構成の場合には、電動オイルポンプの作動開始の決定を復帰条件に含めると好適である。
【0047】
[実施例]
次に、本実施形態に係る制御を適用した実施例として、運転者がPレンジを選択した状態で車両を発進操作する際の制御プロセスを、
図4に示すタイミングチャートに基づいて説明する。この実施例では、第1ソレノイドバルブS1がエンジン停止状態で通電されるソレノイド装置に相当し、エンジン7の始動要求信号の入力が復帰条件に相当する。
【0048】
図4において、「Ignition switch」はキースイッチの操作の有無を表しており、1回目のONで車両の電気系統を通電状態(イグニッションオン状態)とした後、2回目のONでエンジン7の始動操作が行われた場合を表している。また、「Ignition」はECU6及びTCU5を含む車両の電気系統の通電状態、「Brake pedal」はブレーキペダルの踏み操作の有無、「E/G speed」はエンジン7の回転数、「Target position」は運転者によって選択されたシフトポジション、「Solenoid S1」は第1ソレノイドバルブS1への通電の有無、「Solenoid S2」は第2ソレノイドバルブS2への通電の有無、「Starter lock」はエンジン7の始動を規制可能なスタータロック機能のロック/アンロックの状態を表している。
【0049】
図4に示すように、車両がイグニッションオン状態となって、スリープ状態(TCU sleep)にあったTCU5が起動されると、TCU5はシフトポジションを確認する。そして、シフトポジションがPレンジであることを確認すると、TCU5はPレンジを達成するように各装置に制御信号を発する。すなわち、
図2(a)も参照して、TCU5は第1ソレノイドバルブS1への通電を開始(ON)すると共に、第2ソレノイドバルブS2を非通電状態(OFF)に保持する。また、TCU5はECU6に信号を送って、エンジン7を始動可能なアンロック状態(Starter unlock)とする。
【0050】
この状態で、エンジン7の始動が検知されずに所定時間Tc=60[秒]が経過すると、TCU5は第1ソレノイドバルブS1への通電を中断(S1 deactivation)し、さらにECU6に信号を送ってエンジン7を始動不能なロック状態とした上で、エンジン7の始動要求を待機する待機状態(Suspend)となる。
【0051】
そして、運転者の操作によるエンジン7の始動要求信号を検知すると、TCU5は第1ソレノイドバルブS1への通電を再開する(S1 re−activation)し、さらにECU6に信号を送ってアンロック状態とする。この場合、始動要求信号とは、シフトポジションがPレンジであることを検知した検知信号と、キースイッチがエンジン始動位置にあることを検知した検知信号と、ブレーキペダルが踏下位置にあることを検知した検知信号との組合せである。
【0052】
このような制御を実行することにより、第1ソレノイドバルブS1への通電開始から所定時間後に通電が中断されるため、第1ソレノイドバルブS1からバルブボディ4を介して油温センサTSへと伝導する熱量を低減させることができる。これにより、油温センサTSが高い精度で油温を検知することを可能として、エンジン7が始動してオイルポンプOPが作動を開始した際に、TCU5が実行する温度に依存する油圧制御の精度を向上させることができる。
【0053】
[本実施形態のまとめ]
本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)は、エンジン(7)の回転を車輪に伝達する駆動伝達部(2)と、
前記エンジン(7)からの駆動力によって作動するオイルポンプ(OP)と、
前記オイルポンプ(OP)から供給される油圧を用いて前記駆動伝達部(2)を制御する油圧制御装置(3)と、を備え、
前記油圧制御装置(3)は、
前記オイルポンプ(OP)から供給される油圧を前記駆動伝達部(2)に給排可能な油路が形成されたバルブボディ本体(4)と、
前記バルブボディ本体(4)に配置されるソレノイド装置(S1,S2,S3)と、
前記バルブボディ本体(4)に配置され、油温を計測可能な油温検知部(TS)と、
前記エンジン(7)が停止した状態で前記ソレノイド装置(S1,S2,S3,SP)への通電を開始して、通電開始から前記エンジン(7)の始動が検出されずに所定時間(Tc)が経過した場合には、前記ソレノイド装置(S1,S2,S3)への通電を中断し、前記オイルポンプ(OP)から前記バルブボディ本体(4)へ油圧供給可能な状態に復帰する復帰条件が成立すると前記ソレノイド装置(S1,S2,S3)への通電を再開する制御部(5)と、を有する。
【0054】
この構成によれば、ソレノイド装置への通電開始から所定時間後に通電が中断されるため、ソレノイド装置から継続的に熱が発生せず、バルブボディを介して油温検知部へと伝導する熱量を低減させることができる。これにより、油温検知部が高い精度で油温を検知することを可能として、エンジンが始動してオイルポンプの作動が開始された際に、制御部が実行する温度に依存する油圧制御の精度を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)は、前記駆動伝達部(2)をロックするロック状態と、前記駆動伝達部(2)をアンロックするロック解除状態とに切換え可能なロック部材(41)と、前記ロック部材(41)を前記ロック状態に保持するように付勢する付勢部材(43)と、前記バルブボディ本体(4)から油圧を供給されることで前記ロック部材(41)を前記ロック状態から前記ロック解除状態へと切換える油圧アクチュエータ(42)と、を有するパーキング装置(40)を備え、
前記ソレノイド装置(S1)は、通電状態にある場合には、前記オイルポンプ(OP)から前記油圧アクチュエータ(42)への油圧供給を停止可能であると好適である。
【0056】
この構成によれば、油圧が供給されない状態ではロック位置に保持されることで安全性を向上可能なパーキング装置を備えると共に、ソレノイド装置を通電状態とした上でエンジンが始動するので、オイルポンプから出力された油圧によってパーキング装置のロックが解除されることを防いで、車両の移動を確実に規制することができる。そして、ソレノイド装置の通電を必要に応じて中断することで、安全性の向上と油圧制御の精度向上とを両立することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る前記油圧制御装置(3)は、前記油圧アクチュエータ(42)に油圧を供給するパーキング解除状態と前記油圧アクチュエータ(42)の油圧を排出するパーキング状態とに切換え可能なパーキング切換えバルブ(30)と、前記パーキング切換えバルブ(30)を前記パーキング状態に保持するパーキング保持圧(P
H)を出力可能なレンジ切換えバルブ(10)と、を有し、
前記ソレノイド装置(S1)は、通電状態にある場合には、前記レンジ切換えバルブ(10)に前記パーキング保持圧(P
H)を出力させる制御圧を出力可能なソレノイドバルブ(S1)であると好適である。
【0058】
この構成によれば、パーキング装置が駆動伝達部をロックした状態でエンジンの始動操作が行われる構成において、パーキング切換えバルブをパーキング状態に保持するソレノイドバルブが通電される場合であっても、通電を必要に応じて中断することで、油圧制御の精度を向上することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)の前記復帰条件には、前記エンジン(7)の始動を要求する始動要求信号が入力された場合が含まれると好適である。
【0060】
この構成によれば、エンジンが停止した状態で車両の主電源がONされてから、エンジンの始動操作まで長時間に亘って放置される場合であっても、ソレノイド装置から発生する熱量を低減させて、油圧制御の精度を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)の前記始動要求信号には、アイドリングストップ状態から車両を再発進させる発進要求信号が含まれると好適である。
【0062】
この構成によれば、アイドリングストップ状態で長時間に亘って放置される場合であっても、ソレノイドバルブから発生する熱量を低減させて、油圧制御の精度を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)は、前記バルブボディ本体(4)は、車両に搭載された状態にある前記駆動伝達部(2)の筐体(2a)の側面に配置され、
前記油温検知部(TS)は、前記バルブボディ本体(4)の下端部から上方に離間して配置されると共に、前記エンジン(7)が停止状態にある場合、前記バルブボディ本体(4)の内部における油面よりも上方に位置すると好適である。
【0064】
この構成によれば、油圧制御装置を駆動伝達機構の筐体の側面に配置して上下方向のコンパクト化を達成することができる。また、油圧制御装置が筐体側面に配置されることで、油温検知部がエンジンと共にオイルポンプが停止した状態における油面よりも上方に位置する構成であっても、ソレノイド装置への通電開始から所定時間後に通電が中断されるため、バルブボディ本体を介して油温検知部へと伝導する熱量を低減させることができる。これにより、油温検知部が高い精度で油温を検知することを可能として、油圧制御の精度を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置(1)において、前記油温検知部(TS)は、車両搭載状態における上下方向において、前記バルブボディ本体(4)の下端部と前記ソレノイド装置(TS)との間に位置する、
と好適である。
【0066】
この構成によれば、上下方向において油温検知部がバルブボディ本体の下端部とソレノイド装置との間に配置され、エンジン停止状態において油温検知部が油面の上方に位置する場合に、バルブボディ本体を介してソレノイド装置の熱が伝導し得る構成において、油温検知部が高い精度で油温を検知することを可能として、油圧制御の精度を向上させることができる。