特許第6582839号(P6582839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582839
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20190919BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20190919BHJP
   A47C 7/72 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   B60N2/90
   B60N2/58
   !A47C7/72
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-197168(P2015-197168)
(22)【出願日】2015年10月2日
(65)【公開番号】特開2017-65656(P2017-65656A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】新妻 健一
【審査官】 毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−025949(JP,A)
【文献】 特開2008−254485(JP,A)
【文献】 特開2004−352239(JP,A)
【文献】 特開2007−253807(JP,A)
【文献】 実開昭60−104352(JP,U)
【文献】 特開2015−067140(JP,A)
【文献】 特開平03−099955(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0227372(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
B60N 3/00− 3/18
A47C 7/00− 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション材を表皮材にて覆うことで形成されたシートバックと、
該シートバックの背面を構成し、表示画面を形成する有機エレクトロルミネッセンス材料を備えるシート状の表示画面形成体と、を備え、
該表示画面形成体の外縁部のうちの少なくとも一部は、前記表皮材のうち前記シートバックの背面に配置される端部と隣り合った状態で当該端部に締結されており、
前記表皮材が前記クッション材を覆った状態において、前記表皮材の端部が前記少なくとも一部に対して張力を付与することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記表皮材は、前記シートバックにおいて前記背面とは反対側の表面を構成する第一部分と、該第一部分と連続しており前記乗物用シートの幅方向における前記シートバックの一端面を構成する第二部分と、該第二部分とは反対側で前記第一部分と連続しており前記幅方向における前記シートバックの他端面を構成する第三部分と、を有し、
前記第二部分の端部及び前記第三部分の端部の双方は、前記幅方向において間隔を空けて配置されており、
前記有機エレクトロルミネッセンス材料が前記間隔内に位置した状態で前記表示画面形成体の前記外縁部中、前記幅方向における端部に位置する部分が前記双方のうち、対応する端部に締結されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記シートバックの状態は、前記背面が後方を向いている第一状態と、前記背面が上方を向いている第二状態と、の間で切り替え可能であり、
前記シートバックの状態が前記第二状態にあるときに、前記有機エレクトロルミネッセンス材料の表面のうち、前記表示画面を形成する方の面が上方を向いていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
鉛直方向に対する前記表示画面形成体の傾き角度を調整するために前記表示画面形成体を駆動する駆動機構を更に備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記シートバックは、リクライニング装置を介してシートクッションと連結されており、
前記リクライニング装置が作動することにより、前記シートクッションに対する前記シートバックの倒れ角度が変更可能であり、
前記倒れ角度が変更した際、前記駆動機構は、前記傾き角度が変更後の前記倒れ角度に応じた角度となるように前記表示画面形成体を駆動することを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記シートバックと、前記シートバックに連結されたシートクッションと、を有するシート本体と、
該シート本体をスライド移動させるためのスライドレール機構と、を備え、
該スライドレール機構によって前記シート本体がスライド移動した際、前記駆動機構は、前記傾き角度がスライド移動後の前記シート本体の位置に応じた角度となるように前記表示画面形成体を駆動することを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記乗物用シートの幅方向に沿う回動軸を中心として前記表示画面形成体を回動させる機構であり、
前記傾き角度は、前記駆動機構が前記表示画面形成体を回動させることで、前記表示画面の上端が下端よりも後方に位置しているときの角度から、前記下端が前記上端よりも後方に位置しているときの角度へ切り替わることを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記駆動機構は、前記表示画面形成体の下端部を後方に押すことで前記回動軸を中心として前記表示画面形成体を回動させることを特徴とする請求項7に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記シートバックにおいて前記表示画面形成体の下方に配置され、前記表示画面形成体の回動動作に連動して前後方向に伸縮する伸縮部材を更に備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記乗物用シートは、前記シートバックと、シートクッションと、ヘッドレストと、を有し、
前記シートバックは、リクライニング装置を介してシートクッションと連結されており、
前記伸縮部材は、蛇腹状に形成された襞部を有し、前記表示画面形成体の回動動作に連動して前記襞部が屈伸することで前後方向に伸縮することを特徴とする請求項9に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、シートバックの外表面の一部を有機エレクトロルミネッセンス材料によって構成した乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートをはじめとする乗物用シートにおいて、シートバックの外表面の一部を有機エレクトロルミネッセンス材料(以下、有機EL材料)によって構成することは、既に知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両用シートによれば、シートカバーの一部を可撓性の有機EL材料(特許文献1では有機ELパネル)により構成することで、シートの色柄等のデザインを容易に変更することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、情報等を表示する際の表示画面として有機EL材料を用いる場合には、当該表示画面を見る者にとって好適な位置に有機EL材料を配置されることが求められる。また、有機EL材料を配置する際には、表示画面が良好に形成されるように、有機EL材料における弛み等の発生を抑制して適切に配置する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シートバックの外表面において有機EL材料によって表示画面を形成する乗物用シートとして、有機EL材料が好適な位置に適切に配置された乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、クッション材を表皮材にて覆うことで形成されたシートバックと、該シートバックの背面を構成し、表示画面を形成する有機エレクトロルミネッセンス材料を備えるシート状の表示画面形成体と、を備え、該表示画面形成体の外縁部のうちの少なくとも一部は、前記表皮材のうち前記シートバックの背面に配置される端部と隣り合った状態で当該端部に締結されており、前記表皮材が前記クッション材を覆った状態において、前記表皮材の端部が前記少なくとも一部に対して張力を付与することにより解決される。
【0007】
以上のように構成された乗物用シートでは、有機EL材料を備えるシート状の表示画面形成体がシートバックの背面に位置している。これにより、上記乗物用シートの後方に位置する者(例えば、上記乗物用シートよりも後方に位置する座席に座っている者)にとって表示画面が見易くなる。また、表皮材がクッション材を覆った状態では、表示画面形成体が表皮材の端部からの張力によって張られている。これにより、有機EL材料を含む表示画面形成体において弛みや皺が発生するのを抑制し、表示画面を良好に形成することが可能となる。
【0008】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記表皮材は、前記シートバックにおいて前記背面とは反対側の表面を構成する第一部分と、該第一部分と連続しており前記乗物用シートの幅方向における前記シートバックの一端面を構成する第二部分と、該第二部分とは反対側で前記第一部分と連続しており前記幅方向における前記シートバックの他端面を構成する第三部分と、を有し、前記第二部分の端部及び前記第三部分の端部の双方は、前記幅方向において間隔を空けて配置されており、前記有機エレクトロルミネッセンス材料が前記間隔内に位置した状態で前記表示画面形成体の前記外縁部中、前記幅方向における端部に位置する部分が前記双方のうち、対応する端部に締結されているとよい。
上記の構成であれば、乗物用シートの幅方向における表示画面形成体の両端部を表皮材の端部に引っ張られるようになる。これにより、表示画面形成体がより適切に張られるようになり、表示画面形成体における弛みや皺の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0009】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックの状態は、前記背面が後方を向いている第一状態と、前記背面が上方を向いている第二状態と、の間で切り替え可能であり、前記シートバックの状態が前記第二状態にあるときに、前記有機エレクトロルミネッセンス材料の表面のうち、前記表示画面を形成する方の面が上方を向いているとよい。
上記の構成であれば、シートバックの状態を第二状態に切り替えることで、有機EL材料の表面のうち、表示画面を形成する方の面が上方に向くようになる。これにより、表示画面がより見易くなる。
【0010】
また、上記の乗物用シートにおいて、鉛直方向に対する前記表示画面形成体の傾き角度を調整するために前記表示画面形成体を駆動する駆動機構を更に備えているとよい。
上記の構成であれば、駆動機構によって表示画面形成体の傾き角度を、表示画面がより見易くなる角度に調整することが可能となる。
【0011】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックは、リクライニング装置を介してシートクッションと連結されており、前記リクライニング装置が作動することにより、前記シートクッションに対する前記シートバックの倒れ角度が変更可能であり、前記倒れ角度が変更した際、前記駆動機構は、前記傾き角度が変更後の前記倒れ角度に応じた角度となるように前記表示画面形成体を駆動するとよい。
上記の構成では、リクライニング装置によってシートクッションに対するシートバックの倒れ角度(前傾度合い)が変更された際、表示画面形成体の傾き角度を変更後の倒れ角度に応じて調整する。これにより、倒れ角度が変更された後にも、表示画面が見易くなる角度にて表示画面形成体の傾き角度を調整することが可能となる。
【0012】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックと、前記シートバックに連結されたシートクッションと、を有するシート本体と、該シート本体をスライド移動させるためのスライドレール機構と、を備え、該スライドレール機構によって前記シート本体がスライド移動した際、前記駆動機構は、前記傾き角度がスライド移動後の前記シート本体の位置に応じた角度となるように前記表示画面形成体を駆動するとよい。
上記の構成では、スライドレール機構によってシート本体がスライド移動した際、表示画面形成体の傾き角度をスライド移動後のシート本体の位置に応じて調整する。これにより、シート本体がスライド移動した後にも、表示画面が見易くなる角度にて表示画面形成体の傾き角度を調整することが可能となる。
【0013】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記駆動機構は、前記乗物用シートの幅方向に沿う回動軸を中心として前記表示画面形成体を回動させる機構であり、前記傾き角度は、前記駆動機構が前記表示画面形成体を回動させることで、前記表示画面の上端が下端よりも後方に位置しているときの角度から、前記下端が前記上端よりも後方に位置しているときの角度へ切り替わるとよい。
上記の構成では、駆動機構が表示画面形成体を回動させることにより、表示画面形成体の傾き角度が、表示画面の上端が下端よりも後方に位置しているときの角度(以下、回動前角度)から、表示画面の下端が上端よりも後方に位置しているときの角度(以下、回動後角度)へ切り替わる。このように傾き角度が回動前角度から回動後角度に切り替わるように表示画面形成体を駆動することで、表示画面がより見易くなる。
【0014】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記駆動機構は、前記表示画面形成体の下端部を後方に押すことで前記回動軸を中心として前記表示画面形成体を回動させるとよい。
上記の構成では、表示画面形成体の下端部を後方に押すことで表示画面形成体を回動させる。このような構成であれば、表示画面形成体の傾き角度をより簡易な構成にて調整することが可能となる。
【0015】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックにおいて前記表示画面形成体の下方に配置され、前記表示画面形成体の回動動作に連動して前後方向に伸縮する伸縮部材を更に備えるとよい。
上記の構成では、表示画面形成体の回動動作に連動して伸縮部材が前後に伸縮する。これにより、表示画面形成体の傾き角度を調整する際、シートバックの下端部(厳密には、表示画面形成体の下方に位置する部分)が表示画面形成体の回動動作に追従して伸縮するようになる。この結果、傾き角度の調整が円滑に行われるようになる。
【0016】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記乗物用シートは、前記シートバックと、シートクッションと、ヘッドレストと、を有し、前記シートバックは、リクライニング装置を介してシートクッションと連結されており、前記伸縮部材は、蛇腹状に形成された襞部を有し、前記表示画面形成体の回動動作に連動して前記襞部が屈伸することで前後方向に伸縮するとよい。
上記の構成では、上述の伸縮部材をより簡単な構成とすることが可能となる。すなわち、表示画面形成体の傾き角度を調整する際、より簡易な構成にて、シートバックの下端部を表示画面形成体の回動動作に追従させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の乗物用シートによれば、有機EL材料によって形成される表示画面を見易くすると共に、有機EL材料を含む表示画面形成体における弛みや皺の発生を抑制して表示画面を良好に形成することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、乗物用シートの幅方向における表示画面形成体の両端部を表皮材の端部に引っ張ることで、表示画面形成体をより適切に張り、表示画面形成体における弛みや皺の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、シートバックの状態を第二状態に切り替えることで、有機EL材料の表面のうち、表示画面を形成する方の面を上方に向けることで、表示画面をより見易くすることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、表示画面形成体の傾き角度を、表示画面がより見易くなる角度に調整することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、シートクッションに対するシートバックの倒れ角度が変更された後にも、表示画面が見易くなる角度にて表示画面形成体の傾き角度を調整することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、シート本体がスライド移動した後にも、表示画面が見易くなる角度にて表示画面形成体の傾き角度を調整することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、駆動機構が表示画面形成体を回動させることにより、表示画面形成体の傾き角度を、表示画面がより見易くなる角度に調整することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、表示画面形成体の傾き角度をより簡易な構成にて調整することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、表示画面形成体の傾き角度を調整する際、シートバックの下端部が表示画面形成体の回動動作に追従して伸縮する結果、傾き角度が円滑に調整されるようになる。
また、本発明の乗物用シートによれば、表示画面形成体の傾き角度を調整する際、より簡易な構成にて、シートバックの下端部を表示画面形成体の回動動作に追従させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施例に係る乗物用シートを示す図である。
図2図1中のA−A断面を示す図である。
図3】シートバックの状態が倒伏状態にあるときの乗物用シートを示す図である。
図4】本発明の第二実施例に係る乗物用シートを示す図である。
図5図1中のB−B断面を示す図である。
図6図6の(A)及び(B)は、表示画面形成体の傾き角度が調整される様子を示す図である。
図7】駆動機構の第一変形例を示す図である。
図8】駆動機構の第二変形例を示す図である。
図9】駆動機構の第三変形例を示す図である。
図10】表示画面の角度調整に関する制御系統を示す図である。
図11】伸縮部材を含むシートバックの側方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<<本発明の実施例について>>
本発明は、乗物の乗員が着座する乗物用シートに関するものである。以下では、乗物の一例として車両を例に挙げ、車両に搭載された乗物用シート(以下では「車両用シート」とも呼ぶ)の構成を本発明の具体的実施例として説明することとする。ただし、以下に説明する実施例は、あくまでも本発明の理解を容易にするための一例にすぎず、本発明を限定するものではない。つまり、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0020】
また、本発明は、車両用シートのみに限らず、車両以外の乗物に搭載されるシート、例えば、飛行機や船舶等に搭載される乗物用シートにも適用可能である
【0021】
また、以下の説明中、「前後方向」とは、車両用シートに着座した乗員から見た際の前後方向、すなわち、車両の走行方向と一致する方向である。また、「幅方向」とは、車両用シートの幅(横幅方向)であり、具体的には車両を正面から見たときの左右方向と一致する方向である。また、「上下方向」とは、車両の走行路に対して垂直な方向、すなわち、鉛直方向に相当する方向である。
なお、以下に説明するシート各部の位置や姿勢等については、特に断る場合を除き、車両用シートが着座可能な状態にあるときの内容であることとする。
【0022】
本発明の車両用シートの特徴について概説すると、シートバックの外表面、特に背面の一部又は全部が有機EL材料からなるシートである。ここで、有機EL材料は、文字情報や画像(静止画や動画)を表示する表示画面を形成する。
【0023】
ちなみに、本発明の車両用シートは、その後方に他のシート(すなわち、後部座席)が配置されたものであり、具体的には、運転席や助手席を構成するシート、あるいは三列分の車両用シートを有する車両にあっては一列目のシート及び二列目のシートである。つまり、有機EL材料が形成する表示画面は、その後方のシートに着座した者によって見られることになる。
【0024】
そして、本発明の車両用シートでは、表示画面を構成する有機EL材料がシートバックの背面に配置されているため、表示画面を見る者にとって見易い位置に表示画面が形成されるようになる。以下、有機EL材料を利用した車両用シートのバリエーションとして、二つの実施例(第一実施例及び第二実施例)を挙げて説明することとする。
【0025】
<第一実施例>
第一実施例に係る車両用シートS1は、図1に示すように、一般的な車両用シートと同様の基本的構成を有している。具体的に説明すると、第一実施例に係る車両用シートS1は、乗員を後方から支えるシートバックSaと、乗員の臀部を支えるシートクッションSbと、を有する。また、シートバックSaの上端には、乗員の頭部を支えるヘッドレストScが取り付けられている。
【0026】
シートバックSaは、不図示のシートバックフレームの前方位置にクッション材Cをセットし、当該クッション材Cを表皮材Rに覆うことで構成されている。そして、第一実施例に係る車両用シートS1では、シートバックSaの背面が有機EL材料を備えるシート状の表示画面形成体1によって構成されている。この表示画面形成体1は、可撓性を有し、例えば、外縁部に縫い代としての生地部1aを有する略矩形状の有機ELパネルによって構成されている。
【0027】
第一実施例に係るシートバックSaについて詳しく説明すると、シートバックSaの外表面を構成する表皮材Rは、図2に示すように、後方が開放された袋形状となっている。より厳密に説明すると、シートバックSaの外表面を構成する表皮材Rは、シートバックSaにおいて背面とは反対側の表面(乗員の背に当接する面)を構成する第一部分r1を有する。
【0028】
さらに、表皮材Rは、第一部分r1と連続しておりシートバックSaの幅方向一端面を構成する第二部分r2と、第二部分r2とは反対側で第一部分r1と連続しておりシートバックSaの幅方向他端面を構成する第三部分r3と、を有する。ここで、表皮材Rがクッション材Cを覆っている状態にあるとき、第二部分r2の幅方向端部及及び第三部分r3の幅方向端部の双方は、幅方向において間隔を空けて配置されている。これにより、シートバックSaの背面の略全域に亘って表皮材Rを欠くようになる。
【0029】
一方、上記の間隔内には、表示画面形成体1中の有機EL材料(以下、パネル本体1b)が位置している。そして、表示画面形成体1の外縁部、すなわち、生地部1aが表皮材Rの端部に締結されている。より厳密に説明すると、生地部1a中、幅方向端部に位置する部分が、第二部分r2の幅方向端部及及び第三部分r3の幅方向端部のうち、対応する端部(より近く位置する方の端部)に縫合されている。
【0030】
また、表皮材Rがクッション材Cを覆った状態では、表皮材Rの端部が表示画面形成体1の外縁部、すなわち生地部1aの少なくとも一部に対して張力を付与する。具体的には、シートバックSaの幅方向一端側では、第二部分r2の幅方向端部が生地部1a中、幅方向一端側に位置する端部と隣り合っており、当該端部を引っ張って張力を付与する。同様に、シートバックSaの幅方向他端側では、第三部分r3の幅方向端部が生地部1a中、幅方向他端側に位置する端部と隣り合っており、当該端部を引っ張って張力を付与する。
【0031】
以上のように第一実施例では、シートバックSaの背面のうち、幅方向一端から他端までの領域が表示画面形成体1によって構成されている。また、表示画面形成体1については、その外縁部である生地部1aの少なくとも一部が表皮材Rの端部に隣り合っており、当該端部に締結されている。さらに、表皮材Rの端部は、これに締結されている生地部1aに対して張力を付与する。これにより、表示画面形成体1は、表皮材Rがクッション材を覆った状態では当該表皮材Rの端部によって幅方向外側へ引っ張られることになる。この結果、表示画面形成体1において弛みや皺が生じるのを抑制し、以て、パネル本体1bが表示画面を良好に形成するようになる。
【0032】
ところで、第一実施例では、シートバックSaの下端部がリクライニング装置Srを介してシートクッションSbの後端部に連結されている。そして、シートバックSaは、リクライニング装置Srの機能により前傾するように回動し、図3に示すようにシートクッションSbと折り重なる位置まで倒伏することが可能である。つまり、第一実施例に係る車両用シートS1は、折り畳み可能に構成されており、着座姿勢と収納姿勢との間で姿勢を切り替える。シートバックSaの状態は、切り替え可能であり、シート姿勢が着座姿勢であるときには背面が向いている状態(以下、「第一状態」と呼ぶ)にあり、シート姿勢が収納姿勢であるときには背面が上方を向いている状態(以下、「第二状態」と呼ぶ)にある。
【0033】
一方、シートバックSaの背面を構成する表示画面形成体1においては、パネル本体1bが有する表面のうち、露出する方の面が表示画面を形成する。したがって、シート姿勢が着座姿勢であるとき(すなわち、シートバックSaの状態が第一状態であるとき)には、パネル本体1bの表面のうち、表示画面を形成する方の面が後方を向いていることになる。また、シート姿勢が収納姿勢であるとき(すなわち、シートバックSaの状態が第二状態であるとき)には、図3に示すように、表示画面の形成面が上方を向いていることになる。
【0034】
以上のように車両用シートS1を折り畳んだ際に、パネル本体1bの表面のうち、表示画面の形成面が上方を向いていれば、表示画面がより見易くなる。特に、シートバックSaの状態が第二状態であるときにシートバックSaの背面、及び、パネル本体1bにおける表示画面の形成面がともに水平面(フラットな面)であると、より一層表示画面が見易くなる。
【0035】
<第二実施例>
第二実施例に係る車両用シートS2は、図4に示すように、シート本体Shと、シート本体Shの下方に設置されたスライドレール機構Tとを有する。シート本体Shは、乗員を後方から支えるシートバックSaと、乗員の臀部を支えるシートクッションSbと、を有する。第二実施例に係るシートバックSaは、第一実施例と同様、不図示のシートバックフレームに支えられたクッション材Cを表皮材Rで覆うことにより構成されている。
【0036】
また、シートバックSaの下端部は、リクライニング装置Srを介してシートクッションSbの後端部に連結されている。したがって、第二実施例では、リクライニング装置Srが作動することにより、シートクッションSbに対するシートバックSaの倒れ角度を変更することが可能である。ここで、倒れ角度とは、シートクッションSbとシートバックSaとがなす角の大きさであり、シートバックSaが前傾(または後傾)した際に大きさが変化する角度のことである。
【0037】
スライドレール機構Tは、シート本体Shを前後方向にスライド移動させるためのものであり、その構成については一般的なスライドレール機構と同様である。このため、スライドレール機構Tの構成についての説明は省略することとする。
【0038】
第二実施例に係るシートバックSaについて改めて説明すると、シートバックSa内の後方部(乗員の背を当接する側とは反対側の部分)に、比較的剛性が高いボード材からなるバックパネルSpが配置されている。このバックパネルSpの背面は、図5に示すように表皮材Rにて覆われている。
【0039】
また、表皮材Rのうち、バックパネルSpの背面を覆う部分には、矩形状の開口Hが形成されている。そして、この開口Hの内側にパネル本体1bが位置するように表示画面形成体1が設けられている。つまり、第二実施例では、表示画面形成体1が表皮材RとともにシートバックSaの背面を構成している。
【0040】
より具体的に説明すると、上記の開口Hを通じてパネル本体1bの表面(厳密には、表示画面が形成される方の表面)が露出する位置に、表示画面形成体1が配置されている。かかる位置では、表示画面形成体1の外縁部である生地部1aが、表皮材Rの端部、具体的には開口Hの周縁部に位置する部分と隣接している。その上で、生地部1aが表皮材R中、開口Hの周縁部に位置する部分に縫合締結されている。
【0041】
そして、表皮材Rがクッション材Cを覆った状態では、表皮材R中、開口Hの周縁部に位置する部分が生地部1aに対して、開口Hの外側に向かう張力を付与する。これにより、表示画面形成体1は、表皮材Rがクッション材を覆った状態では当該表皮材Rの端部によって引っ張られることになる。この結果、表示画面形成体1において弛みや皺が生じるのを抑制し、以て、パネル本体1bが表示画面を良好に形成するようになる。
【0042】
ところで、第二実施例では、上述したバックパネルSpが幅方向に沿う回動軸を中心にして回動可能な状態で設けられている。また、表示画面形成体1は、バックパネルSpが回動すると、これに伴って同一の方向に回動する。これにより、図6の(A)及び(B)に示すように、上下方向に対する表示画面形成体1の傾き角度(図中、記号θにて表す角度)が変化する。つまり、第二実施例では、傾き角度θを調整するために表示画面形成体1を駆動する駆動機構10が設けられていることになる。以下、駆動機構について詳しく説明する。
【0043】
駆動機構10は、図6の(A)及び(B)に示すように、上述したバックパネルSpと、アクチュエータ11と、を主な構成要素とする。バックパネルSpは、その上端部にて回動軸12に支持されている。この回動軸12は、幅方向に沿った軸である。そして、バックパネルSpは、回動軸12周りに回動することが可能である。なお、バックパネルSpが初期位置にあるとき、傾き角度θは、表示画面の上端が下端よりも後方に位置しているときの角度(回動前角度)となっている。
【0044】
アクチュエータ11は、バックパネルSpの下端部を後方に押す機器である。そして、バックパネルSpが初期位置に在るときにアクチュエータ11がバックパネルSpの下端部を後方に押すと、これに伴って、表示画面形成体1の下端部が後方に押されるようになる。この結果、表示画面形成体1がバックパネルSpと一体的に回動するようになる。つまり、駆動機構10は、表示画面形成体1の下端部を後方に押すことで回動軸12を中心として表示画面形成体1を回動させるものである。
【0045】
なお、表示画面形成体1の下端部が後方に押されて表示画面形成体1が回動軸12を中心として回動すると、傾き角度θは、表示画面の上端が下端よりも後方に位置しているときの角度(回動後角度)となる。このように傾き角度θが回動前角度から回動後角度に切り替わることで、表示画面が前傾姿勢となり、その後方から表示画面を見る者にとって表示画面がより一層見易くなる。
【0046】
以上のように第二実施例では、表示画面形成体1を回動させる駆動機構の一例として、アクチュエータ11が表示画面形成体1の下端部を押すこととした。かかる構成であれば、比較的簡単な構成により表示画面形成体1を回動させる(換言すると、傾き角度θを調整する)ことが可能となる。ただし、これに限定されるものではない。駆動機構の変形例としては、例えば図7図8に図示した構成が考えられる。図7に図示の駆動機構20は、回動軸22とバックパネルSpが一体化されており、回動軸22を不図示のモータの駆動力によって回動させることで、回動軸22及びバックパネルSpを一体的に回動させるものである。
【0047】
図8に図示の駆動機構30は、バックパネルSpの前面を上下方向に摺動する楔型スライダ31を備えたものである。この楔型スライダ31は、バックパネルSpの前方に配置された壁部材33とバックパネルSpとの間に形成された隙間内を移動する。一方、当該隙間は、シートバックSaの上端に近付くにつれて幅(前後方向の幅)が狭くなっている。このため、楔型スライダ31が上方に向かってバックパネルSpの前面上を摺動すると、バックパネルSpが次第に後方に押されて回動軸32を中心として回動するようになる。
【0048】
また、上述のケースでは、バックパネルSpの上端側を回動軸12に支持し、バックパネルSpの下端を可動端としたが、これに限定されるものではない。図9に示すように、バックパネルSpの下端側を回動軸12に支持し、バックパネルSpの上端を可動端としてもよい。このような構成の場合、バックパネルSpの上端部(換言すると、表示画面形成体1の上端部)を前方に押す機器、若しくは前方に引く機器を用いることで傾き角度θを回動前角度から回動後角度へ切り替えることが可能となる。
【0049】
なお、上述したアクチュエータ11は、図10に示すように、コントローラの一例である車両用ECU(Electric Control Unit)13によって制御されることになっている。すなわち、第二実施例では、傾き角度θが車両用ECU13によって能動的に調整(制御)されることになっている。
【0050】
より詳しく説明すると、車両用シートS2周辺には諸々のセンサが取り付けられており、各センサからの出力信号が車両用ECU13に向けて送信される。上記のセンサの中には、シートバックSaの倒れ角度を検知するセンサ(以下、倒れ角度センサ14)が含まれている。この倒れ角度センサ14は、リクライニング装置Srが作動して倒れ角度が変更した際、変更後の倒れ角度に応じた信号を車両用ECU13に向けて出力する。車両用ECU13は、倒れ角度センサ14からの出力信号を受信すると、当該出力信号に応じた動作量だけアクチュエータ11を動作させる。これにより、アクチュエータ11を含む駆動機構10が、変更後の倒れ角度に応じた量だけ表示画面形成体1を回動させるようになる。この結果、表示画面形成体1の傾き角度θが変更後の倒れ角度に応じた角度に設定される。
【0051】
以上のように第二実施例では、リクライニング装置SrによってシートバックSaの倒れ角度(前傾度合い)が変更された際、表示画面形成体1の傾き角度θを変更後の倒れ角度に応じて調整する。これにより、変更後の倒れ角度を反映して、表示画面形成体1の傾き角度θを表示画面が見易くなる角度に調整することが可能となる。
【0052】
一方、上記のセンサの中には、シート本体Shのスライド移動範囲における当該シート本体Shの現在位置を検知するセンサ(以下、スライド位置センサ15)が含まれている。このスライド位置センサ15は、スライドレール機構Tによってシート本体Shがスライド移動した際、スライド移動後のシート本体Shの位置に応じた信号を車両用ECU13に向けて出力する。車両用ECU13は、スライド位置センサ15からの出力信号を受信すると、当該出力信号に応じた量だけ動作量だけアクチュエータ11を動作させる。これにより、アクチュエータ11を含む駆動機構10が、スライド移動後のシート本体Shの位置に応じた量だけ表示画面形成体1を回動させるようになる。この結果、表示画面形成体1の傾き角度θがスライド移動後のシート本体Shの位置に応じた角度に設定される。
【0053】
以上のように第二実施例では、スライドレール機構Tによってシート本体Shがスライド移動した際、表示画面形成体1の傾き角度θをスライド移動後のシート本体Shの位置に応じて調整する。これにより、スライド移動後のシート本体Shの位置を反映して、表示画面形成体1の傾き角度θを表示画面が見易くなる角度に調整することが可能となる。
【0054】
なお、第二実施例では、シートバックSaの倒れ角度やシート本体Shの位置をセンサによって検知し、当該センサからの出力信号に基づいて車両用ECU13がアクチュエータ11の動作量(換言すると、傾き角度θ)を制御することとした。すなわち、上述の構成では、センサ及び車両用ECU13による電子制御によって傾き角度θの調整が実現されることとした。ただし、これに限定されるものではなく、シートバックSaの倒れ角度やシート本体Shの位置を機械式な検知器により検知してもよい。また、かかる構成において、当該検知器が検知結果に応じて動いた際に、不図示の伝達機構によって当該検知器の動きがアクチュエータ11に伝達されることで、アクチュエータ11が検知結果に応じた分だけ動作してもよい。
【0055】
第二実施例に係るシートバックSaの構成について更に説明すると、シートバックSaの外表面のうち、背面下部に位置する部分は、図11に示すように、前後方向に伸縮自在な伸縮部材2によって構成されている。この伸縮部材2は、シートバックSaにおいて表示画面形成体1の下方に配置されており、表皮材RとともにバックパネルSpの背面を覆っている。また、伸縮部材2は、蛇腹状に形成された襞部2aを有する。なお、伸縮部材2は、弾性を有する生地から成るものであってもよく、あるいは、弾性を樹脂材料から成るものであってもよい。
【0056】
そして、伸縮部材2は、表示画面形成体1が回動すると、その回動動作に連動して前後方向に伸縮する。より具体的に説明すると、初期位置にあるバックパネルSpの下端部がアクチュエータ11によって後方に押されることで表示画面形成体1が回動すると、その回動動作に連動して襞部2aが伸長することで伸縮部材2が後方に向かって伸びる。一方、バックパネルSpの下端部がアクチュエータ11による押圧から解放されると、伸縮部材2は、襞部2aに生じる復元力にて元の状態(伸長する前の状態)に復元するように前方に向かって縮む。この結果、バックパネルSp及び表示画面形成体1が元の位置(すなわち、初期位置)に戻されるようになる。
【0057】
以上のように第二実施例では、シートバックSaにおいて表示画面形成体1の下方に伸縮部材2が設けられていることにより、表示画面形成体1の傾き角度の調整時にシートバックSaの下端部(厳密には、表示画面形成体1の下方に位置する部分)が表示画面形成体1の回動動作に追従して伸縮するようになる。この結果、傾き角度の調整が円滑に行われるようになる。なお、第二実施例に係る伸縮部材2には襞部2aが形成されていることから、比較的簡易な構成にて、シートバックSaの下端部を表示画面形成体1の回動動作に追従させることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 表示画面形成体
1a 生地部(外縁部)
1b パネル本体(有機エレクトロルミネッセンス材料)
2 伸縮部材
2a 襞部
10,20,30 駆動機構
11 アクチュエータ
12,22,32 回動軸
13 車両用ECU
14 倒れ角度センサ、15 スライド位置センサ
31 楔型スライダ
33 壁部材
C クッション材
H 開口
R 表皮材
r1 第一部分、r2 第二部分、r3 第三部分
S1 車両用シート(乗物用シート)
Sa シートバック、Sb シートクッション
Sc ヘッドレスト、Sh シート本体
Sp バックパネル
Sr リクライニング装置、T スライドレール機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11