特許第6582929号(P6582929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582929
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】シンクロナイザーリングの性能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/02 20190101AFI20190919BHJP
   F16D 23/14 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G01M13/02
   F16D23/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-233034(P2015-233034)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-101941(P2017-101941A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】石上 英征
(72)【発明者】
【氏名】竹田 敏和
(72)【発明者】
【氏名】猫塚 英明
(72)【発明者】
【氏名】前田 宏章
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103512747(CN,A)
【文献】 特開2003−337082(JP,A)
【文献】 特開2000−130464(JP,A)
【文献】 特開昭63−261133(JP,A)
【文献】 米国特許第05003817(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00−13/045;99/00
F16D 11/00−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロ単体試験機でシンクロナイザーリングをギヤコーンに押し付けてシンクロナイザーの摩擦特性を評価するシンクロ性能評価装置において、ギヤコーンに押し付けるシンクロナイザーリングの押付速度を可変にした押付速度可変装置を備え、シンクロ摩擦面とギヤコーン面が接触する前に、発生するトルクを、その発生時からギヤコーンに接触するまでの時間(A)のトルク値と回転数を、時間で積分して初期吸収エネルギーを算出し、これを時間(A)で割って初期吸収エネルギー速度を求め、その初期吸収エネルギー速度でシンクロナイザーリングを評価することを特徴とするシンクロ性能評価装置。
【請求項2】
押付速度可変装置は、シンクロナイザーリングの押付速度を、トランスミッションに使用されるシンクロナイザーリングの速度と同じにした請求項1記載のシンクロ性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションのギヤ段の切り替え時に使用されるシンクロナイザーリングの性能評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型トラックで用いられる16段トランスミッションは、本体部4段の前側にHi、Low2段のスプリッター、後ろ側にHiとLow2段のレンジチェンジを持つ2×4×2=16段である。スプリッターHi、Lowは、それぞれ偶数段と奇数段の切り替えを、レンジチェンジにより、1〜8速と9〜16速の切り替えを行っている。
【0003】
ドライバーがシフトチェンジする際に車速が落ちすぎないように早くシフトチェンジできることが求められるため、スプリッターの偶数段、奇数段の切り替えはエアーアクチュエータがスリーブを高速で移動させシフトチェンジを行っている。
【0004】
このシフトチェンジの際、異なる回転数の軸とギヤはシンクロナイザーリングの摩擦面とギヤのコーン面が接触し摩擦力により同期する。
【0005】
通常のシフトチェンジは、ギヤとシンクロナイザーリングが同期してからスリーブがギヤのドグ歯と噛合い、シフトチェンジ完了となるが、シンクロナイザーリングとギヤの同期が遅いと同期が完了する前にスリーブがギヤのドグ歯に飛び込んでしまい、回転差がある状態で接触するためギヤ鳴りを起こしてしまう。
【0006】
よって、シンクロナイザーリングとギヤの同期速度を適正に評価することが必要である。
【0007】
シンクロリングの性能を評価するためにシンクロ単体試験機という装置がある。この装置は一定温度で保たれた試験油槽の中でモータで回転している軸に取り付けられたギヤのコーン部に押付け軸に取り付けられたシンクロリングを設定された荷重で繰り返し押付け摩擦特性を評価するものである。
【0008】
この装置では主に連続で繰り返し押し付けて摩擦係数μの変化と耐久性を評価するモードと一定回転で回っている回転軸のクラッチをきり慣性力で回っているギヤにシンクロリングを押付けギヤが停止するまでの時間とその時のトルクを測定するモードがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−243028号公報
【特許文献2】特開2003−4131号公報
【特許文献3】特開2001−336626号公報
【特許文献4】特開昭63−261133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来のシンクロ単体試験機は押付けが始まってから所定の荷重まで立上る時間(Δt)は一定である。
【0011】
しかし、トランスミッションのメイン段とスプリッターではシフトスピードが異なるため、一定の押付け速度ではそれぞれの段のシンクロ特性を確認することができない問題がある。
【0012】
このスプリッターによるシンクロナイザーリングの押付速度は、メイン段より5〜7倍程度速く、ギヤコーンとシンクロナイザーリング間に形成される油膜によるトルク伝達力が発生するため、油膜を考慮してシンクロ特性を評価する必要がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、シンクロナイザーリングとギヤコーンのシンクロ特性を評価できるシンクロナイザーリングの性能評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、シンクロ単体試験機でシンクロナイザーリングをギヤコーンに押し付けてシンクロナイザーの摩擦特性を評価するシンクロ性能評価装置において、ギヤコーンに押し付けるシンクロナイザーリングの押付速度を可変にした押付速度可変装置を備え、シンクロ摩擦面とギヤコーン面が接触する前に、発生するトルクを、その発生時からギヤコーンに接触するまでの時間(A)のトルク値と回転数を、時間で積分して初期吸収エネルギーを算出し、これを時間(A)で割って初期吸収エネルギー速度を求め、その初期吸収エネルギー速度でシンクロナイザーリングを評価することを特徴とするシンクロ性能評価装置である。
【0015】
押付速度可変装置は、シンクロナイザーリングの押付速度を、トランスミッションに使用されるシンクロナイザーリングの速度と同じに制御するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、シンクロナイザーリングの押付速度を可変にすることでシンクロ特性を的確に評価できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のシンクロナイザーリングの性能評価装置の一実施の形態を示すものである。
図2図1における押付速度可変装置の速度制御の一例を示す図である。
図3】ギヤ鳴りが発生したシンクロナイザーの押付速度における駆動軸回転数(ギヤ回転数)、リング変位、回転トルク、押付荷重の経時変化のデータを示し、(a)は、従来のデータ、(b)は本発明によるデータを示すものである。
図4】ギヤ鳴りが無いシンクロナイザーの押付速度における駆動軸回転数(ギヤ回転数)、リング変位、回転トルク、押付荷重の経時変化のデータを示し、(a)は、従来のデータ、(b)は本発明によるデータを示すものである。
図5】種々のシンクロナイザーリングの初期吸収エネルギー速度とギヤ鳴りの関係を示す図である。
図6】面粗さ(Rz)と初期吸収エネルギー速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
先ず、図1により本発明のシンクロナイザーリングの性能評価装置10を説明する。
【0021】
シンクロナイザーリングの性能評価装置10は、従来のシンクロ単体試験機の押付シリンダ22に押付速度可変装置28とシンクロ特性評価手段30を付加したものである。
【0022】
シンクロ単体試験機は、試験油槽12内に収容されたギヤコーン13とシンクロナイザーリング14からなるトランスミッションT/Mに対して、ギヤコーン13を接続した入力軸11を回転する入力軸側I/Aと、シンクロナイザーリング14を接続した出力軸15を移動してシンクロナイザーリング14をギヤコーン13に押し付ける出力軸側O/Aが配置されて構成される。
【0023】
入力軸側I/Aの入力軸11には、フライホイール16が設けられ、クラッチ17を介してモータ18で入力軸11が駆動され、その回転数が回転計19で検出される。トランスミッション側T/Mのシンクロナイザーリング14は入力軸11に連結され、シンクロナイザーリング14は、出力軸15に連結され、試験油槽12内には、ギヤオイル20が収容される。
【0024】
出力軸側O/Aの出力軸15は、スライド装置21に取り付けられ、押付シリンダ22にて軸方向に移動されて、ギヤコーン13にシンクロナイザーリング14を押し付ける。この際の変位量は変位計23で検出され、押付荷重は押付荷重計(ロードセル)24で検出される。またギヤコーン13にシンクロナイザーリング14を押し付けたときのシンクロナイザーリング14に伝達されるトルクは、出力軸15に取り付けたモーメントセル25を介して回転トルク計26で検出される。
【0025】
押付速度可変装置28は、押付シリンダ22によるシンクロナイザーリング14の押付速度を9mm/sec〜80mm/secの速さに制御できるもので、例えば押付シリンダ22が油圧シリンダであれば、その油圧シリンダに圧油を供給するバルブの開度を制御することで、図2に示すように押付け速度を制御できる。
【0026】
また、押付速度の制御は、油圧シリンダの他にエアシリンダでも、或いは電動アクチュエータによる速度制御などいずれで構成してもよい。
【0027】
回転計19によるギヤ回転数(rpm)、変位計23によるリング変位(μm)、押付荷重計(ロードセル)24による押付荷重(N)及び回転トルク計26による回転トルク(N・m)は、シンクロ特性評価手段30に入力される。
【0028】
シンクロ特性評価手段30は、入力されたデータを基に、シンクロ摩擦面とギヤコーン面が接触する前(油が間にいる状態)にギヤコーンの回転をシンクロナイザーリングに伝えようとする伝達トルクに基づく初期吸収エネルギーを求め、その初期吸収エネルギーから初期吸収エネルギー速度を求めてシンクロナイザーリングを評価する。
【0029】
具体的には、トルクが発生してからシンクロナイザーリングとギヤコーンが接触するまでの時間(A)のトルク値、回転数(角速度)を時間で積分し、初期吸収エネルギーを算出し、それを時間(A)で割り初期吸収エネルギー速度(単位時間t当たりの吸収エネルギー)を下式により求める。
初期吸収エネルギー速度=E/t …(1)
【0030】
(1)式中の初期吸収エネルギーEは、下式(2)で求める。
E=∫T・ω・dt …(2)
E:吸収エネルギー(J)
T:トルク(N/m)
ω:角速度(rad/sec)
t:時間(sec)
【0031】
ここで求めた、初期吸収エネルギーEを時間(A)で割って求めた、初期吸収エネルギー速度(J/sec)を比較することで同期速度の速さがわかる。すなわち、
初期吸収エネルギー速度大=同期速度速い
初期吸収エネルギー速度小=同期速度遅い
と評価することができる。
【0032】
図3は、ギヤ鳴りが発生したシンクロナイザーリングを、シンクロナイザーリングの性能評価装置10で試験したときのデータを示し、(a)は押付速度9mm/secで試験したときのデータの経時変化、(b)は、スプリッターの押付速度と同じ速度(50〜70mm/secで設定)で試験したときのデータの経時変化を示したものである。
【0033】
また図4は、ギヤ鳴りが無かったシンクロナイザーリングを、シンクロナイザーリングの性能評価装置10で試験したときのデータを示し、(a)は押付速度9mm/secで試験したときのデータの経時変化、(b)は、スプリッターの押付速度と同じ速度(50〜70mm/secで設定)で試験したときのデータの経時変化を示したものである。
【0034】
図3(a)と図4(a)は、共に押付速度が9mm/secで試験したときのデータであるが、押付速度が遅いと、シンクロナイザーリングがギヤコーンに接触する時間tcまで、回転トルクは立ち上がらないのに対して、押付速度の速い図3(b)と図4(b)では、シンクロナイザーリングがギヤコーンに接触する時間tc前の時間t0で、回転トルクが立ち上がり、この発生した回転トルクが、油膜により慣性力を吸収した伝達トルクであることが分かる。
【0035】
そこで、時間t0から時間tcまでの回転トルクを上記(2)式をシンクロ特性評価手段30が演算する。
【0036】
但し、上記(2)式中の角速度ωは、回転数をN(rpm)とすると、ω=2πN/60(rad/sec)であり、ギヤ回転数と検出トルクの積を、時間tcからtcまで、積分すると初期吸収エネルギーEが求まる。
【0037】
次に、初期吸収エネルギーEを時間(A)で割ると初期吸収エネルギー速度(J/sec)が求まる。
【0038】
図5は、図3図4のようにして試験した種々の面粗さの異なるカーボンコンポジットからなる摩擦材を用いてシンクロナイザーリング(試料1〜9)とし、これらシンクロナイザーリングの初期吸収エネルギー(J/sec)を算出したものである。
【0039】
この図5で、試料1〜6のシンクロナイザーリングは、ギヤ鳴りが有り、試料7〜9はギヤ鳴りが無かった。この原因は、試料1〜6は、接触前の初期吸収エネルギーが、1000(J/sec)以下と低く、試料7〜9は、接触前の初期吸収エネルギーが、1000(J/sec)を超えており、接触前の回転伝達トルクにより、シンクロナイザーリングの同期速度が速かったものと考えられる。
【0040】
図6は、試料1〜9のカーボンコンポジットからなる摩擦材の表面を10点平均面粗さRzを横軸に、初期吸収エネルギーを縦軸にしてプロットしたものである。
【0041】
この図4より10点平均面粗さRzが32μm以上であれば、初期吸収エネルギーが、1000(J/sec)を超えることが分かる。
【0042】
このことは、10点平均面粗さRzが32μm以上であれば、表面に形成される油膜量が十分に確保され、そのギヤオイルの粘弾性によるトラクション効果で、シンクロナイザーリングがギヤコーンに接触する前に、油膜によるトルク伝達力でシンクロナイザーリングが回転されるため、同期速度が速くなるものと考えられる。
【0043】
このように、従来の押付け速度一定の試験機に対して、押付け速度を可変にすることで、本発明は、スプリッターのような速いシフトチェンジの際のシンクロ特性を確認できるようになる。
【0044】
すなわち、速い押付け速度で試験することにより同期極初期にはシンクロリングとギヤコーンが接触する前(油が間にいる状態)にトルクが伝わることでシンクロ特性に影響があり、これを初期吸収エネルギー速度として定量化することで、シンクロ性能の優れたシンクロリングの開発につなげることができる。
【0045】
シンクロリングの摩擦面は銅、モリブデン溶射、樹脂、カーボンなど様々な種類があり速いシフトチェンジにはどれが優れているか、また、より性能の良いシンクロにするにはどんな膜材質及び膜表面形状が良いかを開発していくための評価装置として、本発明は大きな効果がある。
【符号の説明】
【0046】
10 シンクロナイザーリングの性能評価装置
13 ギヤコーン
14 シンクロナイザーリング
28 押付速度可変装置
30 シンクロ特性評価手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6