(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記自動運転作動制御部は、前記自動運転制御が作動中に前記トルクセンサが非作動状態であると判定されると、現在の前記第2の電流指令値を徐々に小さくすることで前記電動モータに入力する駆動電流を徐変してマニュアルステアリング状態へと移行する制御を行う請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、寸法の関係や比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(実施形態)
(構成)
本実施形態に係る車両1は、
図1に示すように、左右の転舵輪となる前輪4FR及び4FLと後輪4RR及び4RLとを備えている。前輪4FR及び4FLは、電動パワーステアリング装置3によって転舵される。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置3は、
図1に示すように、ステアリングホイール31と、ステアリングシャフト32と、第1のユニバーサルジョイント34と、ロアシャフト35と、第2のユニバーサルジョイント36とを備える。
電動パワーステアリング装置3は、更に、ピニオンシャフト37と、ステアリングギヤ38と、タイロッド39と、ナックルアーム40と、操舵角センサ43と、トルクセンサ100とを備える。
ステアリングホイール31に運転者から作用された操舵力は、ステアリングシャフト32に伝達される。
【0010】
そして、ステアリングシャフト32に伝達された操舵力は、第1のユニバーサルジョイント34を介してロアシャフト35に伝達され、さらに、第2のユニバーサルジョイント36を介してピニオンシャフト37に伝達される。このピニオンシャフト37は、入力軸37aと出力軸37bとを有する。入力軸37aの一端は第2のユニバーサルジョイント36に連結され、他端はトーションバー(不図示)を介して出力軸37bの一端に連結されている。出力軸37bに伝達された操舵力はステアリングギヤ38を介してタイロッド39に伝達される。更に、このタイロッド39に伝達された操舵力はナックルアーム40に伝達され、前輪4FRおよび4FLを転舵させる。
【0011】
ここで、ステアリングギヤ38は、ピニオンシャフト37の出力軸37bに連結されたピニオン38aとこのピニオン38aに噛合するラック38bとを有するラックアンドピニオン形式に構成されている。したがって、ステアリングギヤ38は、ピニオン38aに伝達された回転運動をラック38bで車幅方向の直進運動に変換している。
また、ピニオンシャフト37の出力軸37bには、操舵補助力を出力軸37bに伝達する操舵補助機構41が連結されている。
操舵補助機構41は、出力軸37bに連結したウォームギヤ機構で構成される減速ギヤ42と、この減速ギヤ42に連結された操舵補助力を発生する電動モータ200と、電動モータ200のハウジングに固定支持されたコントロールユニット(ECU)300とを備えている。
【0012】
電動モータ200は、3相ブラシレスモータであり、図示しない環状のモータロータと環状のモータステータとを備えている。モータステータは、径方向内側に突出する複数の極歯を円周方向に等間隔に備えて構成され、各極歯には励磁用コイルが巻き回されている。そして、モータステータの内側に、モータロータが同軸に配設されている。モータロータは、モータステータの極歯と僅かの空隙(エアギャップ)をもって対向しかつ外周面に円周方向に等間隔に設けられた複数の磁石を備えて構成されている。
モータロータはモータ回転軸に固定されており、モータステータのコイルにコントロールユニット300を介して3相交流電流を流すことでモータステータの各歯が所定の順序に励磁されてモータロータが回転し、この回転に伴ってモータ回転軸が回転する。
【0013】
操舵角センサ43は、ステアリングホイール31の操舵角θsを検出する。この操舵角センサ43が検出した操舵角θsは、コントロールユニット300に入力される。
トルクセンサ100は、ステアリングホイール31に付与されて入力軸37aに伝達された操舵トルクTsを検出する。このトルクセンサ100が検出した操舵トルクTsは、コントロールユニット300に入力される。
コントロールユニット300は、マイクロコントローラを含んで構成され、車載電源であるバッテリー52から電源供給されることによって作動する。ここで、バッテリー52の負極は接地され、その正極はエンジン始動を行うイグニッションスイッチ53(以下、「IGNスイッチ53」と記載する場合がある)を介してコントロールユニット300に接続されると共に、IGNスイッチ53を介さず直接、コントロールユニット300に接続されている。
【0014】
コントロールユニット300には、操舵角θs及び操舵トルクTsの他に、車速センサ50で検出した車速Vsが入力される。そして、これらに応じた操舵補助トルクを操舵系に付与する操舵補助制御(操舵アシスト)を行う。具体的には、上記操舵補助トルクを電動モータ200で発生するための操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)を公知の手順で算出し、算出した操舵補助指令値に基づいて電動モータ200の電流指令値を算出する。そして、算出した電流指令値とモータ電流検出値とにより、電動モータ200に供給する駆動電流をフィードバック制御する。
【0015】
また、コントロールユニット300は、例えば自動駐車制御や車線維持制御等の電動パワーステアリング装置3を利用した自動運転制御を行う自動運転制御装置55と通信可能に接続されている。
自動運転制御装置55は、車両1に搭載された不図示のカメラや距離センサなどの信号に基づき自動運転制御のための目標操舵角θs
*を生成し、生成した目標操舵角θs
*をコントロールユニット300に出力する。また、自動運転制御に切り換わったことを識別する信号、例えばドライバによって自動運転作動用のボタンやスイッチ等が操作されることで出力される信号に基づき切替指令を生成する。そして、生成した切替指令をコントロールユニット300に出力する。
【0016】
次に、
図2に基づき、電動パワーステアリング装置の主要部の構成について詳細に説明する。
図2において、符号5はハウジングであって、このハウジング5は、入力軸側ハウジング部5aと出力軸側ハウジング部5bとに2分割された構造を有する。入力軸側ハウジング部5aの内部には、入力軸37aが軸受6aによって回転自在に支持されている。また、出力軸側ハウジング部5bの内部には出力軸37bが軸受6b及び6cによって回転自在に支持されている。
【0017】
そして、入力軸37a及び出力軸37bは、入力軸37aの内部に配設されたトーションバー30を介して連結されている。
入力軸37a、トーションバー30及び出力軸37bは同軸に配置されており、入力軸37aとトーションバー30とはピン結合し、また、トーションバー30と出力軸37bとはスプライン結合している。
また、出力軸37bには、これと同軸で且つ一体に回転するウォームホイール7が固着されており、電動モータ200で駆動されるウォーム8と出力軸側ハウジング部5b内で噛合している。ウォームホイール7は金属製のハブ7aに合成樹脂製の歯部7bが一体的に固定されている。電動モータ200の回転力は、ウォーム8及びウォームホイール7を介して出力軸37bに伝達され、電動モータ200の回転方向を適宜切り換えることにより、出力軸37bに任意の方向の操舵補助トルクが付与される。
【0018】
次に、
図3に基づき、入力軸37a及び出力軸37b間のトルクを検出するトルクセンサ100を構成するトルク検出部10の構成について説明する。
トルク検出部10は、入力軸37aに形成されたセンサシャフト部11と、入力軸側ハウジング部5aの内側に配置された1対の検出コイルL1及びL2と、両者の間に配置された円筒部材12とを備える。
センサシャフト部11は磁性材料で構成されており、センサシャフト部11の表面には、
図3に示すように、軸方向に延びた複数(
図3の例では9個)の凸条11aが円周方向に沿って等間隔に形成されている。また、凸条11aの間には溝部11bが形成されている。
【0019】
センサシャフト部11の外側には、センサシャフト部11に接近して導電性で且つ非磁性の材料、例えばアルミニウムで構成された円筒部材12がセンサシャフト部11と同軸に配置されており、
図2に示すように、円筒部材12の延長部12eは出力軸37bの端部2eの外側に固定されている。
円筒部材12には、前記したセンサシャフト部11の表面の凸条11aに対向する位置に、円周方向に等間隔に配置された複数個(
図3では9個)の長方形の窓12aからなる第1の窓列と、この第1の窓列から軸方向にずれた位置に、窓12aと同一形状で、円周方向の位相が異なる複数個(
図3では9個)の長方形の窓12bからなる第2の窓列とが設けられている。
【0020】
円筒部材12の外周は、同一規格の検出コイルL1及びL2が捲回されたコイルボビン18を保持するヨーク15a及び15bで包囲されている。即ち、検出コイルL1、L2は円筒部材12と同軸に配置され、検出コイルL1は窓12aからなる第1の窓列部分を包囲し、検出コイルL2は窓12bからなる第2の窓列部分を包囲する。
ヨーク15a及び15bは、
図2に示すように、入力軸側ハウジング部5aの内部に固定され、検出コイルL1,L2の出力線は、コイルボビン18に圧入されたコイル側端子にコイル先端部分を絡げて半田固定した状態で、基板スルーホールに挿入し、半田付けで接続されている。
【0021】
次に、操舵トルクTsの大きさと検出コイルL1のインダクタンスL1i及び検出コイルL2のインダクタンスL2iとの関係について説明する。
即ち、
図4に示すように、右操舵トルク発生時は、円筒部材12が時計方向に回転するから、操舵トルクTsが増大するに従って検出コイルL1のインダクタンスL1iは増加し、検出コイルL2のインダクタンスL2iは減少する。また、左操舵トルク発生時は、円筒部材12が反時計方向に回転するから、操舵トルクTsが増大するに従って検出コイルL1のインダクタンスL1iは減少し、検出コイルL2のインダクタンスL2iは増加する。
【0022】
(トルクセンサ100とコントロールユニット300との接続関係)
次に、トルクセンサ100とコントロールユニット300との電気的な接続関係について説明する。
トルクセンサ100は、
図5に示すように、1対の検出コイルL1,L2とトルクセンサ回路150とで構成され、検出コイルL1,L2とトルクセンサ回路150とはピンP1〜P4を介して接続されている。トルクセンサ回路150とコントロールユニット300とは接地部TS−GND(グランド)で共通接続されると共に、コントロールユニット300からトルクセンサ回路150へ回路用の電源電圧TS−Vcc、定電圧用の基準電圧TS−Vrefが供給され、トルクセンサ回路150からコントロールユニット300へ操舵トルクTsを示すメイントルク信号TS−Main及びサブトルク信号TS−Subが入力される。
【0023】
(トルクセンサ回路150)
次に、トルクセンサ回路150の詳細な構成を説明する。
トルクセンサ回路150は、
図6に示すように、操舵トルクTsを検出するブリッジ回路BLDを備える。
このブリッジ回路BLDは、検出コイルL1及び抵抗Z1,Z2が直列に接続された第1アームと、検出コイルL2及び抵抗Z3,Z4が直列に接続された第2アームとから構成されている。
更に、トルクセンサ回路150は、電流増幅部151と、発振部152と、メイン増幅全波整流部153と、サブ増幅全波整流部154と、メイン平滑中立調整部155と、サブ平滑中立調整部156と、監視部160と、回路要素161と、定電圧供給部162と、ノイズフィルタ163とを備える。
【0024】
電源電圧TS−Vccは、ノイズフィルタ163を介して回路要素161に入力され、回路要素161は、入力された電源電圧TS−Vccを各回路要素及び電流増幅部151に供給する。また、基準電圧TS−Vrefは、ノイズフィルタ163を介して定電圧供給部162に入力される。
発振部152は、定電圧供給部162からの定電圧(基準電圧TS−Vref)の供給を受けて所定周波数の交流電圧を発振出力し、電流増幅部151は、発振部152の出力する交流電圧を増幅する。この増幅された交流電圧Voscが第1アーム及び第2アームに供給される。
【0025】
なお、トルクが作用していない状態で、ブリッジ回路BLDの第1アーム及び第2アームに等しい電流が流れて検出コイルL1の端部(ピン)P1の電圧V3と、検出コイルL2の端部(ピン)P3の電圧V4とが等しくなるように、予め検出コイルL1及びL2の特性を揃えておく。加えて、抵抗Z1と抵抗Z2の接合点の電圧V3と抵抗Z3と抵抗Z4の接合点の電圧V4とが等しくなるように、抵抗Z1〜Z4を揃えておく。
検出コイルL1の接合点P1の電圧V3と、検出コイルL2の接合点P3の電圧V4とは、メイン増幅全波整流部153に入力される。そして、メイン増幅全波整流部153は、電圧V3と電圧V4をこれらの差分の電圧信号に変換し増幅すると共に整流する。更に、整流後の電圧信号は、メイン平滑中立調整部155に入力され、メイン平滑中立調整部155は、この電圧信号の出力波形を調整し、調整後の電圧信号をノイズフィルタ163に入力する。ノイズフィルタ163は、入力された電圧信号のノイズ成分を低減し、ノイズ低減後の電圧信号を、メイントルク信号TS−Mainとして出力する。
【0026】
また、抵抗Z1と抵抗Z2の接合点の電圧V1と、抵抗Z3と抵抗Z4の接合点の電圧V2は、サブ増幅全波整流部154に入力される。そして、サブ増幅全波整流部154は、電圧V1と電圧V4をこれらの差分の電圧信号に変換し増幅すると共に整流する。更に、サブ平滑中立調整部156は、この電圧信号の出力波形を調整し、調整後の電圧信号をノイズフィルタ163に入力する。ノイズフィルタ163は、入力された電圧信号のノイズ成分を低減し、ノイズ低減後の電圧信号を、サブトルク信号TS−Subとして出力する。
メイントルク信号TS−Main及びサブトルク信号TS−Subは、コントロールユニット300に入力され、その差が零であるか零以外であるかを診断する。そして、零の場合はブリッジ回路BLDを構成する回路要素は正常であると診断し、差が零以外の信号の場合は、ブリッジ回路BLDを構成する回路要素が故障していると診断して、必要な処置、例えば警告表示をするほか、操舵トルクTsを無効にするなどの処理をする。
【0027】
ここで、上述したトルクセンサ100ではブリッジ回路BLDを構成しているため、ピンP1とピンP3が短絡した場合(即ち、1対の検出コイルL1及びL2が短絡した場合)には電圧V3及びV4が同一になってしまい、全体のインピーダンス変化が発生しても一定値となってしまう。このようなピン間が短絡したようなトルクセンサを搭載した電動パワーステアリング装置では、トルク入力が一定のアシスト制御になってしまい、運転者がステアリングホイール31を操舵してもアシストされず、マニュアルステアリング状態となってしまう。その結果、運転者に不快感を与えてしまう。
この短絡による故障は、上述した差分による故障診断では検出することができない。そのため、本実施形態では、この短絡によるトルクセンサ100の非作動状態を検出する機能を有するプログラム(以下、「作動確認用プログラム」と記載する場合がある)を含むモータ制御プログラムが、コントロールユニット300に実装されている。
【0028】
(コントロールユニット300)
次に、コントロールユニット300の具体的な機能構成について説明する。
コントロールユニット300は、
図7に示すように、指令値演算部21と、指令値補償部22と、モータ制御部23と、舵角制御部24と、切替部25と、作動確認部26とを備えている。
指令値演算部21は、操舵補助指令値演算部61と、位相補償部62と、トルク微分回路63と、を備える。
【0029】
操舵補助指令値演算部61は、操舵トルクTs及び車速Vsをもとに、操舵補助指令値算出マップを参照して操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)を演算する。ここで、操舵補助指令値算出マップは、横軸に操舵トルクTs、縦軸に操舵補助指令値をとり、車速Vsをパラメータとした特性線図で構成されている。操舵補助指令値は、操舵トルクTsの増加に対して最初は比較的緩やかに増加し、さらに操舵トルクTsが増加すると、その増加に対して操舵補助指令値が急峻に増加するように設定されている。この特性曲線の傾きは、車速Vsの増加に従って小さくなるように設定されている。
【0030】
位相補償部62は、操舵補助指令値演算部61で演算した操舵補助指令値に対して位相補償を行い、位相補償後の操舵補助指令値を加算器78に出力する。ここでは、例えば、(T1s+1)/(T2s+1)のような伝達特性を操舵補助指令値に作用させるものとする。
トルク微分回路63は、操舵トルクTsを微分した操舵トルク変化率をもとに操舵トルクTsに対する補償値を算出し、これを加算器78に出力する。
指令値補償部22は、角速度演算部71と、角加速度演算部72と、収斂性補償部73と、慣性補償部74と、SAT推定フィードバック部75と、を少なくとも備える。
【0031】
角速度演算部71は、回転角センサ200aで検出したモータ回転角θを微分してモータ角速度ωを算出する。角加速度演算部72は、角速度演算部71で演算したモータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを算出する。
収斂性補償部73は、角速度演算部71で演算したモータ角速度ωを入力し、車両1のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール31が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、収斂性補償値Icを算出する。
慣性補償部74は、電動モータ200の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止するための慣性補償値Iiを算出する。
【0032】
SAT推定フィードバック部75は、操舵トルクTs、モータ角速度ω、モータ角加速度α及び指令値演算部21で演算した操舵補助指令値を入力し、これらに基づいてセルフアライニングトルクSATを推定演算する。
そして、加算器76は、慣性補償部74で算出した慣性補償値IiとSAT推定フィードバック部75で算出したセルフアライニングトルクSATとを加算し、その結果を加算器77に出力する。
加算器77は、加算器76の加算結果と収斂性補償部73で算出した収斂性補償値Icとを加算し、その結果を指令補償値Icomとして加算器78に出力する。
【0033】
加算器78は、位相補償部62が出力した位相補償後の操舵補助指令値に、トルク微分回路63が出力した補償値と、指令値補償部22が出力した指令補償値Icomとを加算し、補償後の操舵補助指令値を出力する。この補償後の操舵補助指令値は、モータ制御部23に入力する。
モータ制御部23は、電動モータ200の実電流を検出する電流検出器80と、電流指令値演算部81と、減算器82と、電流制御部83と、モータ駆動部85と、を備える。
電流指令値演算部81は、加算器78が出力した操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)から電動モータ200の第1の電流指令値Ireftを演算する。そして、演算した第1の電流指令値Ireftを切替部25に出力する。
【0034】
減算器82は、作動確認部26から入力された第3の電流指令値Irefc(後述)と、電流検出器80で検出したモータ電流検出値(実電流値It)との電流偏差を演算し、これを電流制御部83に出力する。
電流制御部83は、上記電流偏差に対して比例積分(PI)演算を行って電圧指令値を出力するフィードバック制御を行う。即ち、上記電流偏差が「0」となるように演算された電圧指令値をモータ駆動部85に出力する。
モータ駆動部85は、電動モータ200に駆動電流を供給するためのインバータ回路(不図示)を備えている。モータ駆動部85は、電流制御部83が出力した電圧指令値に基づいてデューティ演算を行い、電動モータ200の駆動指令となるデューティ比を演算する。そして、そのデューティ比に基づいてインバータ回路を駆動して電動モータ200を駆動制御する。即ち、デューティ比によって制御された駆動電流を電動モータ200に供給する。
【0035】
舵角制御部24は、自動運転制御装置55からの目標操舵角θs
*と、操舵角センサ43からの操舵角θs(以下、「実操舵角θs」と記載する場合がある)と、トルクセンサ100からの操舵トルクTsと、角速度演算部71からのモータ角速度ωとに基づき自動運転制御のための第2の電流指令値Irefmを演算する。そして、演算した第2の電流指令値Irefmを切替部25に出力する。
具体的に、舵角制御部24は、操舵トルクTsに基づき、予め設定したトルク閾値以上の操舵トルクTsに応じた目標操舵角補正値θhaを演算し、この目標操舵角補正値θhaによって目標操舵角θs
*を補正する。そして、補正後の目標操舵角θs
*と実操舵角θsとの差分を0とするための第2の電流指令値Irefmを演算する。
切替部25は、自動運転制御装置55からの切替指令Asに応じて、作動確認部26に出力する電流指令値を、第1の電流指令値Ireft及び第2の電流指令値Irefmのいずれか一方に切り換える。例えば、切替指令Asの値が「0」のときは、第1の電流指令値Ireftに切り換え、「1」のときは、第2の電流指令値Irefmに切り換える。
【0036】
(作動確認部26)
次に、作動確認部26の機能構成を説明する。
作動確認部26は、
図8に示すように、トルク変動判定部260と、作動判定部261と、電流指令値制御部262とを備える。なお、これら各機能部の機能は、コントロールユニット300の備えるプロセッサ(不図示)によって上述した作動確認用プログラムを実行することで実現される。
トルク変動判定部260は、操舵角センサ43の出力及びトルクセンサ100の出力を監視し、操舵角センサ43で検出される操舵角θsに変化がある毎に、この変化に対してトルクセンサ100から出力される操舵トルクTsに変動があるか否かを判定する。
【0037】
なお、本実施形態のトルク変動判定部260は、操舵角θsの微分値を演算し、この微分値に基づき操舵角θsの変化の有無を判定する。例えば、現在の操舵角θs(t)から、1つ前に取得した操舵角θs(t−1)を減算することで微分値を演算する。
また、変化の有無については、微分値が予め設定した閾値以上のときに変化ありと判定し閾値未満のときに変化なしと判定するなど操舵角θsの分解能やノイズ環境等に応じて閾値を設定する構成としてもよい。
また、本実施形態のトルク変動判定部260は、操舵角θsと同様に、操舵トルクTsの微分値を演算し、この微分値に基づき操舵トルクTsの変動の有無を判定する。例えば、現在の操舵トルクTs(t)から、1つ前に取得した操舵トルクTs(t−1)を減算することで微分値を演算する。トルク変動の有無についても上記操舵角θsの変化と同様に閾値との比較で判定するようにしてもよい。
【0038】
そして、トルク変動判定部260は、トルク変動の判定結果を示す情報であるトルク変動情報TCを作動判定部261に出力する。ここで、トルク変動情報TCは、例えば、値が「1」であるときにトルクセンサ100の出力する操舵トルクTsに変動があったことを示し、値が「0」であるときにトルクセンサ100の出力する操舵トルクTsに変動が無かったことを示す情報である。
作動判定部261は、トルク変動判定部260からのトルク変動情報TCに基づき、トルクセンサ100が1対の検出コイルL1及びL2の短絡によって非作動状態となっているか否かを判定する。
【0039】
具体的に、作動判定部261は、トルク変動判定部260からのトルク変動情報TCに基づき、トルク変動情報TCがトルクセンサ100の出力する操舵トルクTsに変動があったことを示す値である場合に、トルクセンサ100は非作動状態ではない(作動状態である)と判定する。一方、トルク変動情報TCがトルクセンサ100の出力する操舵トルクTsに変動がなかったことを示す値である場合に、トルクセンサ100は非作動状態であると判定する。
そして、作動判定部261は、トルクセンサ100が非作動状態であると判定すると、非作動状態であることを示す判定結果Tanを電流指令値制御部262に出力する。一方、非作動状態ではないと判定すると、作動状態であることを示す判定結果Tanを電流指令値制御部262に出力する。ここで、判定結果Tanは、例えば、値が「1」であるときにトルクセンサ100が非作動状態であることを示し、値が「0」であるときにトルクセンサ100が作動状態であることを示す情報である。
【0040】
電流指令値制御部262は、作動判定部261からの判定結果Tanに基づきトルクセンサ100が非作動状態であるか否かを判定する。そして、非作動状態であると判定した場合は、自動運転制御装置55からの切替指令Asに基づき、自動運転制御が作動しているか否かを判定する。自動運転制御が作動していないと判定したときは、直ちにアシスト動作を停止する第3の電流指令値Irefc(例えば指令値「0」)を減算器82に出力してマニュアルステアリング状態を維持する。具体的に、本実施形態では、トルクセンサ100が非作動状態である間は、切換部25からの入力に関係なく、値「0」の第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力する。
なお、この構成に限らず、電動パワーステアリング装置3が電磁クラッチによってステアリングシャフトへの動力(操舵補助トルク)の伝達及び遮断を行う機能を備えている場合は、電磁クラッチによって動力の伝達を遮断することでマニュアルステアリング状態を維持するようにしてもよい。
【0041】
一方、自動運転制御が作動していると判定したときは、自動運転制御を徐変させる第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力する。例えば、現在の第2の電流指令値Irefmを徐々に小さくしていくようにした第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力して、最終的にマニュアルステアリング状態に移行する。以降は自動運転制御が作動していないときと同様に、自動運転制御の作動を禁止すると共にマニュアルステアリング状態を維持する。
電流指令値制御部262は、トルクセンサ100が非作動状態ではない(作動状態である)と判定している期間では、切替部25からの第1の電流指令値Ireft又は第2の電流指令値Irefmを、そのまま第3の電流指令値Irefcとして減算器82に出力する。
【0042】
(作動確認処理)
次に、作動確認部26で実行する作動確認処理について説明する。なお、作動確認処理は、メインルーチンに呼び出されて実行されるサブルーチンである。
コントロールユニット300のプロセッサにおいて、作動確認処理が開始されると、
図9に示すように、まず、ステップS100に移行する。
ステップS100では、トルク変動判定部260において、操舵角センサ43で検出される操舵角θsを取得して、ステップS102に移行する。
ステップS102では、トルク変動判定部260において、ステップS100で取得した操舵角θsと1つ前に取得した操舵角θsとに基づき微分演算を行い、この微分結果に基づき操舵角θsが変化したか否かを判定する。そして、変化したと判定した場合(Yes)は、ステップS104に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、一連の処理を終了して元の処理に復帰する。
【0043】
ステップS104に移行した場合は、トルク変動判定部260において、トルクセンサ100から出力される、操舵角θsの変化に対応する操舵トルクTsを取得して、ステップS106に移行する。
ステップS106では、トルク変動判定部260において、ステップS104で取得した操舵トルクTsと1つ前に取得した操舵トルクTsとに基づき、操舵トルクTsの変動が無かったか否かを判定する。そして、変動が無かったと判定した場合(Yes)は、その結果を示すトルク変動情報TCを作動判定部261に出力して、ステップS108に移行する。一方、変動があったと判定した場合(No)は、その結果を示すトルク変動情報TCを作動判定部261に出力し、一連の処理を終了して元の処理に復帰する。
【0044】
ステップS108に移行した場合は、作動判定部261において、トルクセンサ100が非作動状態であることを示す判定結果Tanを電流指令値制御部262に出力して、ステップS110に移行する。
ステップS110では、電流指令値制御部262において、判定結果Tanからトルクセンサ100が非作動状態であると判定すると、自動運転制御装置55からの切替指令Asに基づき、現在自動運転制御が作動中であるか否かを判定する。そして、作動中であると判定した場合(Yes)は、ステップS112に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS114に移行する。
【0045】
ステップS112に移行した場合は、電流指令値制御部262において、現在の第2の電流指令値Irefmを徐々に小さくした第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力してマニュアルステアリング状態に移行させて、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
一方、ステップS114に移行した場合は、電流指令値制御部262において、アシストトルクを「0」とする第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力してマニュアルステアリング状態を維持して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
【0046】
(動作)
次に、
図10〜
図11に基づき、本実施形態の動作について説明する。
IGNスイッチ53がオン状態となって、バッテリー52からコントロールユニット300を含む各種装置に電源が供給されると、操舵角センサ43、トルクセンサ100等を含む各種センサが検出を開始する。そして、操舵角センサ43から出力された操舵角θsと、トルクセンサ100から出力された操舵トルクTsとがコントロールユニット300に入力される。
加えて、コントロールユニット300でメインプログラムが実行され、作動確認処理が開始されると、トルク変動判定部260は、操舵角センサ43から出力される操舵角θsを取得し、取得した操舵角θsとコントロールユニット300の備えるRAM等のメモリに記憶された1つ前に取得した操舵角θsとに基づき操舵角θsの微分値を演算し、この微分値に基づき操舵角θsに変化があったか否かを判定する。
【0047】
ここでは、変化があったとして、トルク変動判定部260は、この変化に応じてトルクセンサ100から出力される操舵トルクTsを取得し、取得した操舵トルクTsとコントロールユニット300の備えるRAM等のメモリに記憶された1つ前に取得した操舵トルクTsとに基づき操舵トルクTsの微分値を演算し、この微分値に基づき操舵トルクTsに変動があったか否かを判定する。
ここでは、
図10(a)に示す操舵角θsの変化に対して、
図12(b)に示すように、操舵トルクTsの変動があったとする。これにより、トルク変動判定部260は、トルク変動があったことを示すトルク変動情報TCを作動判定部261に出力する。
【0048】
作動判定部261は、入力されたトルク変動情報TCに基づき、トルク出力に変動があることから、トルクセンサ100は非作動状態ではないと判定し、作動状態であることを示す判定結果Tanを電流指令値制御部262に出力する。
電流指令値制御部262は、入力された判定結果Tanに基づき、トルクセンサ100が作動状態であることから、入力される第1の電流指令値Ireft(現在、自動運転制御が作動していないとする)をそのまま第3の電流指令値Irefcとして減算器82に出力する。
【0049】
その後、自動運転制御が実施されたことによって操舵角θsが変化したとする。
これにより、トルク変動判定部260において、トルクセンサ100から出力される操舵角θsの変化に対応する操舵トルクTsが取得され、操舵トルクTsの変動があったか否かが判定される。ここでは、
図10(c)に示すように、操舵トルクTsの変動が無かったとする。これにより、トルク変動判定部260は、トルク変動が無かったことを示すトルク変動情報TCを作動判定部261に出力する。
作動判定部261は、入力されたトルク変動情報TCに基づき、トルク出力に変動が無かったことからトルクセンサ100は非作動状態であると判定する。そして、非作動状態であることを示す判定結果Tanを電流指令値制御部262に出力する。
【0050】
引き続き、電流指令値制御部262は、入力された判定結果Tanからトルクセンサ100が非作動状態であると判定し、自動運転制御装置55からの切替指令Asに基づき自動運転制御が作動しているか否かを判定する。
ここでは、自動運転制御が作動しているため、電流指令値制御部262は、現在の第2の電流指令値Irefmに基づき、例えば、
図11に示すように、現在のモータ駆動電流が徐々に小さくなるように第2の電流指令値Irefmを徐々に小さくした値の第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力する。これにより、アシストトルクを徐々に小さくしていってマニュアルステアリング状態に移行する。マニュアルステアリング状態に移行後は、値「0」の第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力してマニュアルステアリング状態を維持し、以降の自動運転制御の作動を禁止する。
【0051】
一方、トルクセンサ100が非作動状態であると判定したときに、自動運転制御が作動していない場合は、値「0」の第3の電流指令値Irefcを減算器82に出力してマニュアルステアリング状態を維持し、以降の自動運転制御の作動を禁止する。
なお、この構成に限らず、自動運転制御の作動を禁止する信号を自動運転制御装置55に出力して、自動運転制御装置55側で作動を禁止する処理(例えば、切替指令Asを「0」に固定等)を行う構成とするなど他の構成としてもよい。
ここで、コントロールユニット300はモータ制御装置に対応し、電流指令値演算部81は電流指令値演算部に対応し、減算器82、電流制御部83及びモータ駆動部85はモータ制御部に対応し、トルク変動判定部260はトルク変動判定部に対応し、作動判定部261は作動確認部に対応し、舵角制御部24は舵角制御部に対応する。
【0052】
(実施形態の効果)
(1)本実施形態に係るコントロールユニット300は、電流指令値演算部81が、ステアリングシャフト32に入力される操舵トルクTsに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する1対の検出コイルL1及びL2と、1対の検出コイルL1及びL2に直列接続されてブリッジ回路BLDを形成する1対の抵抗Z1,Z2及びZ3,Z4とを有し、ブリッジ回路BLDの電圧に基づいて操舵トルクTsを検出するトルクセンサ100で検出した操舵トルクTsに基づき操舵補助用の第1の電流指令値Ireftを演算する。減算器82、電流制御部83及びモータ駆動部85が、電流指令値演算部81で演算した第1の電流指令値Ireftに基づき、ステアリングシャフト32に与える操舵補助トルクを発生する電動モータ200を駆動制御する。トルク変動判定部260が、ステアリングホイール31の操舵角θsを検出する操舵角センサ43で検出された操舵角θsの変化に応じて、トルクセンサ100で検出される操舵トルクTsが変動したか否かを判定する。作動判定部261が、トルク変動判定部260の判定結果(トルク変動情報TC)に基づき、トルクセンサ100で検出される操舵トルクTsが変動したと判定した場合にトルクセンサ100は作動状態であると判定し、トルクセンサ100で検出される操舵トルクTsが変動しなかったと判定した場合にトルクセンサ100は1対の検出コイルL1及びL2の短絡による非作動状態であると判定する。
【0053】
この構成であれば、操舵角センサ43で検出した操舵角θsが変化したときにトルクセンサ100で検出される操舵トルクTsの変動の有無に基づきトルクセンサ100が1対の検出コイルL1及びL2の短絡による非作動状態であるか否かを判定することが可能となる。
これによって、既存のハードウェア構成を利用した簡易な演算処理や判定処理によってトルクセンサ100が非作動状態となっているか否かを判定することが可能となるので、非作動状態の判定に必要な機能の一部又は全部をソフトウェアによって容易に実装することが可能となる。即ち、既存のセンサ出力を利用して非作動状態の発生の有無を判定することが可能となるので、信号を入力するための回路等が不要となり、従来と比較して、簡易な構成でトルクセンサ100の作動状態を確認することが可能となる。
【0054】
(2)本実施形態に係るモータコントロールユニット300は、舵角制御部24が、当該コントロールユニット300を備える電動パワーステアリング装置3の搭載された車両1の備える自動運転制御装置55からの目標操舵角θs
*と、操舵角センサ43で検出された操舵角θsとに基づき自動運転制御用の第2の電流指令値Irefmを演算する。減算器82、電流制御部83及びモータ駆動部85が、舵角制御部24で演算された第2の電流指令値Irefmに基づき電動モータ200を駆動制御する自動運転制御を行う。電流指令値制御部262が、トルクセンサ100が非作動状態であると判定されると、自動運転制御の作動前は以降の自動運転制御の作動を禁止し、自動運転制御が作動中は強制的にマニュアルステアリング状態へと移行してから以降の自動運転制御の作動を禁止する。
この構成であれば、自動運転制御が作動中にトルクセンサ100が非作動状態となることによる不具合の発生を低減することが可能となる。
【0055】
(3)本実施形態に係るコントロールユニット300は、電流指令値制御部262が、自動運転制御の作動中にトルクセンサ100が非作動状態になったと判定されると、現在の第3の電流指令値Irefc(第2の電流指令値Irefm)を徐々に小さくすることで電動モータ200に入力する駆動電流を徐変してマニュアルステアリング状態へと移行する制御を行う。
この構成であれば、トルクセンサ100が非作動状態であると判定されたときに、自動運転制御が作動している場合は、自動運転制御(舵角制御)を即座に停止せずに徐々に停止状態へと移行させることが可能となる。
これによって、例えば、自動運転制御による操舵角の制御が行われている最中に、いきなり舵角制御を停止してマニュアルステアリング状態へと移行するようなことを防ぐことが可能となる。
【0056】
(4)本実施形態に係る電動パワーステアリング装置3は、上記コントロールユニット300を備える。
この構成であれば、上記(1)〜(3)に記載のコントロールユニット300と同等の作用及び効果を得られる。
【0057】
(変形例)
(1)上記実施形態では、電動モータ200として、3相ブラシレスモータを例に挙げて説明したが、この構成に限らず、電動モータ200を、4相以上のブラシレスモータから構成したり、ブラシモータから構成したりするなど他の構成としてもよい。
(2)上記実施形態では、本発明をピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置に適用した例を説明したが、この構成に限らず、例えば、コラムアシスト式又はラックアシスト式の電動パワーステアリング装置に適用する構成としてもよい。