特許第6582960号(P6582960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582960
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】マルエージング鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190919BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20190919BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20190919BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20190919BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20190919BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   C22C38/00 302N
   C22C38/52
   C22C38/54
   C21D8/06 B
   C21D6/00 M
   !C21D8/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-247124(P2015-247124)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-216813(P2016-216813A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-104465(P2015-104465)
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】日下 恵太
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健二
(72)【発明者】
【氏名】高林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】植田 茂紀
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−195922(JP,A)
【文献】 特開2014−012887(JP,A)
【文献】 特開2002−161342(JP,A)
【文献】 特開2002−167652(JP,A)
【文献】 米国特許第05393488(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00
C21D 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.10≦C≦0.35mass%、
6.0≦Ni≦9.4mass%、
9.0≦Co≦20.0mass%、
1.0≦(Mo+W/2)≦2.0mass%、
1.0≦Cr≦4.0mass%、
1.4≦Al≦2.0mass%、
Ti≦0.1mass%、
S≦0.0010mass%、
N≦0.0020mass%、及び、
V+Nb≦0.02mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるマルエージング鋼。
【請求項2】
次の(1)式を満たす請求項1に記載のマルエージング鋼。
パラメータX≧45 ・・・(1)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
【請求項3】
0.10≦C≦0.35mass%、
6.0≦Ni≦20.0mass%、
9.0≦Co≦20.0mass%、
1.0≦(Mo+W/2)≦2.0mass%、
1.0≦Cr≦4.0mass%、
0.5≦Al≦2.0mass%、
Ti≦0.1mass%、
S≦0.0010mass%、
N≦0.0020mass%、及び、
0.02<V+Nb≦0.6mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるマルエージング鋼。
【請求項4】
次の(2)式を満たす請求項3に記載のマルエージング鋼。
パラメータX≧10 ・・・(2)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
【請求項5】
前記Vの含有量は、
0.05≦V≦0.6mass%
である請求項3又は4に記載のマルエージング鋼。
【請求項6】
前記Nbの含有量は、
0.05≦Nb≦0.6mass%
である請求項3から5までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【請求項7】
室温における引張強度が2300MPa以上であり、
室温における伸びが8%以上である請求項1から6までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【請求項8】
短軸1.0μm以下、かつ、アスペクト比が10以上のAlN介在物が、100mm2当たり2個以下である請求項1から7までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【請求項9】
0.001≦B≦0.005mass%
をさらに含む請求項1から8までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【請求項10】
0.1≦Si≦1.0mass%
をさらに含む請求項1から9までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【請求項11】
航空機のエンジンシャフトに使用される請求項1から10までのいずれか1項に記載のマルエージング鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルエージング鋼に関し、さらに詳しくは、エンジンシャフトなどに用いられる強度及び靱延性に優れたマルエージング鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
マルエージング鋼は、無炭素又は低炭素で、かつ、Ni、Co、Mo、Tiなどを多量に含む鋼を固溶化熱処理及び焼入れ+時効処理することにより得られる鋼である。
マルエージング鋼は、
(1)焼入れ状態で柔らかいマルテンサイトが生成するため、加工性が良い、
(2)時効処理によってマルテンサイト地にNi3Mo、Fe2Mo、Ni3Tiなどの金属間化合物が析出するため、極めて高強度である、
(3)高強度であるにもかかわらず、靱延性が高い、
という特徴がある。
そのため、マルエージング鋼は、宇宙・航空機用の構造材料(例えば、エンジンシャフト)、自動車用の構造材料、高圧容器、工具材料などに用いられている。
【0003】
従来、航空機用のエンジンシャフトには、250ksi(1724MPa)級18Niマルエージング鋼(Fe−18Ni−9Co−5Mo−0.5Ti−0.1Al)が使用されている。しかしながら、近年の排出ガス規制強化などの大気汚染への改善志向から、航空機においても高効率化が求められている。エンジン設計上、高出力、小型化、軽量化に耐えうる高強度素材に対する要求が大きい。
【0004】
このような高強度素材に関しては、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、C:0.05〜0.20重量%、Si:2.0重量%以下、Mn:3.0重量%以下、Ni:4.1〜9.5重量%、Cr:2.1〜8.0%、Mo:0.1〜4.5重量%又はMoの一部あるいは全量を2倍量で置換したW、Al:0.2〜2.0重量%、Cu:0.3〜3.0重量%を含み、残部鉄及び不可避的不純物からなる超高張力強靱鋼が開示されている。
同文献には、低炭素Ni−Cr−Mo鋼に対してCuとAlを複合添加することにより、靱性、溶接性を大きく損なうことなく、150kg/mm2(1471MPa)以上の強度が得られる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、Ni:約10〜18wt%、Co:約8〜16wt%、Mo:約1〜5wt%、Al:0.5〜1.3wt%、Cr:約1〜3wt%、C:約0.3wt%以下、Ti:約0.10wt%未満、残部がFe及び不可避的不純物からなり、微細な金属間化合物と炭化物の双方を析出させた高強度、高耐疲労性鋼が開示されている。
同文献の表2には、このような材料の引張強度が284〜327ksi(1959〜2255MPa)であり、伸びが7〜15%である点が記載されている。
【0006】
マルエージング鋼は、一般に、靱延性に優れる高強度材であるが、2000MPaを超える引張強度域での靱延性及び耐疲労性の確保が難しいことが知られている。そのため、汎用材として、250ksi級18Niマルエージング鋼が利用されているに留まっている。
一方、汎用材の高グレード材として、特許文献2に記載の鋼種も知られている。しかしながら、航空機の高効率化等に応えるためには、靱延性及び耐疲労性を低下させることなく、更なる高強度化(2300MPa以上)が必要とされている。
【0007】
このような背景から、引張強度が2300MPa以上、伸びが7%以上であり、かつ、疲労特性に優れたマルエージング綱として特許文献3を本願出願人は提案している。しかし、低サイクル疲労特性に影響する介在物として想定されるAlNが薄い平板状に形成しやすく、低サイクル疲労特性を悪化させる場合があり、低サイクル疲労特性を高位安定化させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53−30916号公報
【特許文献2】米国特許第5,393,488号
【特許文献3】特開2014−12887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、2300MPa以上の引張強度を有し、かつ、靱延性及び疲労特性に優れたマルエージング鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る第1のマルエージング鋼は、
0.10≦C≦0.35mass%、
6.0≦Ni≦9.4mass%、
9.0≦Co≦20.0mass%、
1.0≦(Mo+W/2)≦2.0mass%、
1.0≦Cr≦4.0mass%、
1.4≦Al≦2.0mass%、
Ti≦0.1mass%、
S≦0.0010mass%、
N≦0.0020mass%、及び、
V+Nb≦0.02mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを要旨とする。
本発明に係る第2のマルエージング鋼は、
0.10≦C≦0.35mass%、
6.0≦Ni≦20.0mass%、
9.0≦Co≦20.0mass%、
1.0≦(Mo+W/2)≦2.0mass%、
1.0≦Cr≦4.0mass%、
0.5≦Al≦2.0mass%、
Ti≦0.1mass%、
S≦0.0010mass%、
N≦0.0020mass%、及び、
0.02<V+Nb≦0.6mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを要旨とする。
前記第1及び第2のマルエージング鋼は、
室温における引張強度が2300MPa以上であり、
室温における伸びが8%以上である
ものが好ましい。
【0011】
前記第1のマルエージング綱は、次の(1)式を満たしているのが好ましい。
パラメータX≧45 ・・・(1)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
前記第2のマルエージング鋼は、次の(2)式を満たしているのが好ましい。
パラメータX≧10 ・・・(2)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
【発明の効果】
【0012】
主要元素の成分範囲を特定の範囲に限定すると同時に、(1)式又は(2)式を満たすように各元素の含有量を最適化すると、低サイクル疲労特性に影響する介在物として想定されるAlNの形態(析出形状)を制御できる。そのため、引張強度が2300MPa以上、伸びが8%以上であり、かつ、疲労特性が高位に安定したマルエージング鋼が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】塊状AlNのSEM写真である。
図2】平板状AlNのSEM写真である。
図3】化学抽出試験により抽出した塊状AlNのSEM写真である。
図4】化学抽出試験により抽出した平板状AlNのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. マルエージング鋼]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係るマルエージング鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0015】
(1) 0.10≦C≦0.35mass%。
Cは、Mo2CなどのMoを含む炭化物を析出させ、母材強度の向上に寄与する。また、母材中に適量の炭化物が残存していると、固溶化熱処理時にγ粒径の粗大化が抑制される。旧γ粒径が微細であるほど、微細なマルテンサイトが生成し、高強度、かつ、高靱延性が得られる。このような効果を得るためには、C含有量は、0.10mass%以上である必要がある。C含有量は、より好ましくは、0.16mass%以上、さらに好ましくは、0.20mass%以上である。
一方、C含有量が過剰になると、Moを含む炭化物が多量に析出し、金属間化合物を析出させるためのMoが不足する。また、炭化物を固溶させるためには、より高い温度での固溶化熱処理が必要となり、γ粒径の粗大化を招く。その結果、γ粒径の粗大化を抑制し、かつ、炭化物を固溶させるための最適温度範囲が狭くなる。このため、γ粒径の粗大化あるいは未固溶炭化物の影響により伸びが低下する。従って、C含有量は、0.35mass%以下である必要がある。C含有量は、より好ましくは、0.30mass%以下、さらに好ましくは、0.25mass%以下である。
【0016】
(2) Ni:
(2.1)6.0≦Ni≦9.4mass%(V+Nb≦0.02mass%である第1のマルエージング鋼の場合)。
Niは、Ni3Mo、NiAlなどの金属間化合物を析出し、母材強度の向上に寄与する。V及びNbの総量が0.02mass%以下である場合において、このような効果を得るためには、Ni含有量は、6.0mass%以上である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、7.0mass%以上である。
一方、Ni含有量が過剰になると、Ms点の低下により残留オーステナイト量が増加し、十分なマルテンサイト組織が得られないため、強度が低下する。従って、Ni含有量は、9.4mass%以下である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、9.0mass%以下である。
(2.2)6.0≦Ni≦20.0mass%(0.02<V+Nb≦0.6mass%である第2のマルエージング鋼の場合)。
また、V及びNbの総量が0.02mass%超である場合において、上記の効果を得るためには、Ni量は、6.0mass%以上である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、7.0mass%以上であり、より好ましくは、10.0mass%以上であるる。
V及びNbの総量が0.02mass%超である場合は、V炭化物やNb炭化物のピン止め効果により強度が向上するため、Ni含有量は、20.0mass%以下とすることができる。Ni含有量は、優れた強度(例えば、引張強さが2310MPa以上)が得られやすいため、19.0mass%以下とすることが好ましい。また、優れた破壊靱性(例えば、K1Cが32MPa√m以上)が得られやすいため、12.0mass%以上とすることが好ましい。
【0017】
(3) 9.0≦Co≦20.0mass%。
Coは、母相中に固溶させておくことによって、Ni3Mo、NiAlなどの金属間化合物の析出を促進させる効果がある。このような効果を得るためには、Co含有量は、9.0mass%以上である必要がある。Co含有量は、好ましくは、11.0mass%以上、より好ましくは、12.0mass%以上、さらに好ましくは、14.0mass%以上である。
一方、Co含有量が過剰になると、金属間化合物の析出が過剰に促進され、Moを含む炭化物の析出量が減少する。この影響により、伸びが低下する。従って、Co含有量は、20.0mass%以下である必要がある。Co含有量は、より好ましくは、18.0mass%以下、さらに好ましくは、16.0mass%以下である。
【0018】
(4) Mo、W:
(4.1)1.0≦(Mo+W/2)≦2.0mass%(Mo及びWの1種又は2種を用いる場合)。
Wは、W2CなどのWを含む炭化物を形成し、上記したMoを含む炭化物と同様に、母材強度の向上に寄与するため、Moの一部又は全部をWに置換することができる。ただし、mass%で換算すると、Wの添加による強度向上効果はMoの1/2程度である。従って、Mo及びWの含有量は、(Mo+W/2)として1.0mass%以上である必要がある。
一方、MoやW含有量が過剰になると、凝固時に析出するMo2CやW2Cなどの炭化物を固溶させるためにより高い温度での熱処理が必要となる。この結果、γ粒径の粗大化を招く。その結果、γ粒径の粗大化を抑制し、かつ、炭化物を固溶させるための最適温度範囲が狭くなる。このため、γ粒径の粗大化あるいは未固溶炭化物の影響により伸びが低下する。従って、Mo及びWの含有量は、(Mo+W/2)として2.0mass%以下である必要がある。Mo及びWの含有量は、より好ましくは、(Mo+W/2)として1.8mass%以下、さらに好ましくは、1.6mass%以下である。
なお、MoとWを同時に含む場合には、Ni3Moなどの金属間化合物の析出による母材強度分を確保するという理由により、Mo≧0.4mass%とすることが好ましい。
(4.2)1.0≦Mo≦2.0mass%(Moを単独で用いる場合)。
Moは、Ni3Moなどの金属間化合物とMo2CなどのMoを含む炭化物を析出し、母材強度の向上に寄与する。Moを単独で用いる場合、このような効果を得るためには、Mo含有量は、1.0mass%以上である必要がある。
一方、Mo含有量が過剰になると、凝固時に析出するMo2Cなどの炭化物を固溶させるためにより高い温度での熱処理が必要となる。この結果、γ粒径の粗大化を招く。その結果、γ粒径の粗大化を抑制し、かつ、炭化物を固溶させるための最適温度範囲が狭くなる。このため、γ粒径の粗大化あるいは未固溶炭化物の影響により伸びが低下する。従って、Mo含有量は、2.0mass%以下である必要がある。Mo含有量は、より好ましくは、1.8mass%以下、さらに好ましくは、1.6mass%以下である。
(4.3)2.0≦W≦4.0mass%(Wを単独で用いる場合):
Moと同様の理由から、Wを単独で用いる場合、W量は、2.0mass%以上が好ましい。
また、Moと同様の理由から、W量は、4.0mass%以下が好ましい。W量は、好ましくは、3.6mass%以下、さらに好ましくは、3.2mass%以下である。
【0019】
(5) 1.0≦Cr≦4.0mass%。
Crは、延性の改善に寄与する。Cr添加によって延性が改善されるのは、CrがMoを含む炭化物中に固溶し、炭化物の形状を球状化させているためと考えられる。このような効果を得るためには、Cr含有量は、1.0mass%以上である必要がある。Cr含有量は、さらに好ましくは、2.0mass%以上である。
一方、Cr含有量が過剰になると、強度が低下する。これは、Crの過剰添加によって、Moを含む炭化物が粗大化するためと考えられる。従って、Cr含有量は、4.0mass%以下である必要がある。Cr含有量は、より好ましくは、3.5mass%以下、さらに好ましくは、3.0mass%以下であり、係る範囲とすることで、強度だけでなく、破壊靱性特性にも優れたものとなる(例えば、32MPa√m以上)。
【0020】
(6) Al:
(6.1)1.4≦Al≦2.0mass%(V+Nb≦0.02mass%である第1のマルエージング鋼の場合)。
Alは、NiAlなどの金属間化合物を析出し、母材強度の向上に寄与する。また、Al含有量が多いほど、析出するAlNが平板状から球状に変化し、低サイクル疲労特性のバラツキを抑制できる。V及びNbの総量が0.02mass%以下である場合において、このような効果を得るためには、Al含有量は、1.4mass%以上である必要がある。
一方、Al含有量が過剰になると、NiAlなどの金属間化合物が過剰になり、靱延性が低下する。従って、Al含有量は、2.0mass%以下である必要がある。Al含有量は、さらに好ましくは、1.7mass%以下である。
(6.2)0.5≦Al≦2.0mass%(0.02<V+Nb≦0.6mass%である第2のマルエージング鋼の場合)。
また、V及びNbの総量が0.02mass%超である場合は、V炭化物やNb炭化物のピン止め効果による旧オーステナイト粒界の微細化が起こる。旧オーステナイト粒界の微細化は、強度の向上に寄与するだけでなく、AlNの平板状化を抑制する(AlNの長手方向への成長を抑制する)効果を奏する。従って、V及びNbの総量が0.02mass%超である場合は、Al含有量は、0.5mass%以上とすることができる。Al含有量は、さらに好ましくは、0.9mass%以上である。
一方、Al含有量が過剰になると、NiAlなどの金属間化合物が過剰になり、靱延性が低下する。従って、Al含有量は、2.0mass%以下である必要がある。Al含有量は、さらに好ましくは、1.7mass%以下である。
【0021】
(7) Ti≦0.1mass%。
Tiは、TiC、TiNなどを形成し、清浄度を低下させるため、低サイクル疲労特性を悪化させる。従って、Ti含有量は、0.1mass%以下である必要がある。
【0022】
(8) S≦0.0010mass%:
Sは不純物であり、S量が高くなると粗大な硫化物を形成する。硫化物が形成することで疲労特性低下に繋がる他、引張強度の低下を招く。従って、S量は、0.010mass%以下である必要がある。
【0023】
(9) N≦0.0020mass%:
Nは不純物であり、N量が高くなるとAlNなどの窒化物を形成する。窒化物が形成することで疲労特性低下に繋がる。従って、N量は、0.0020mass%以下である必要がある。
【0024】
[1.2. 添加効果のある元素(副構成元素)]
本発明に係るマルエージング鋼は、上述した主構成元素に加えて、以下のような元素をさらに含むことができる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0025】
(10) V及びNb(0.02<V+Nb≦0.6mass%である第2のマルエージング鋼の場合):
(10.1)0.02<V+Nb≦0.6mass%:
本発明において、V及びNbの総量が0.02mass%以下である場合であっても、引張強度及び疲労強度は十分である。しかしながら、所定量のV及び/又はNbを含有させることでM2C炭化物やMC炭化物を形成し、水素脆化特性が向上する。また、V及び/又はNbを含むと、破壊靱性特性に優れたものとなる。この効果は、V及びNbの総量が0.02mass%超で見られる。V及びNbの総量は、好ましくは、0.05mass%以上である。
一方、V及びNbの総量が過剰になると、Mo及びCrの炭化物量が減少し、引張強度が低下する。従って、V及びNbの総量は、0.6mass%以下が好ましい。V及びNbの総量は、さらに好ましくは、0.3mass%以下である。
(10.2)0.05≦V≦0.6mass%:
本発明において、V量が0.02mass%以下である場合であっても、引張強度及び疲労強度は十分である。しかしながら、所定量以上のVを含有させることでM2C炭化物やMC炭化物を形成し、水素脆化特性が向上する。また、Vを含むと、破壊靱性特性に優れたものとなる。この効果は、V量が0.05mass%以上で見られる。V量は、好ましくは、0.1mass%以上である。
一方、V量が過剰になると、Mo及びCrの炭化物量が減少し、引張強度が低下する。従って、V量は、0.6mass%以下が好ましい。V含有量は、さらに好ましくは、0.3mass%以下である。
また、Al量:0.5〜2.0mass%の条件においても、AlNの平板状化を抑制するためには、V量は0.05mass%以上とすることが有効である。
【0026】
(10.3) 0.05≦Nb≦0.6mass%:
NbもVと同様に、Nb量が0.02mass%以下である場合であっても、引張強度及び疲労強度は十分である。しかしながら、所定量以上のNbを含有させることでM2C炭化物やMC炭化物を形成し、水素脆化特性が向上する。また、Nbを含むと、破壊靱性特性に優れたものとなる。この効果は、Nb量が0.05mass%以上で見られる。
一方、Nb量が過剰になると、Mo及びCrの炭化物量が減少し、引張強度が低下する。従って、Nb量は、0.6mass%以下が好ましい。Nb含有量は、さらに好ましくは、0.3mass%以下である。
また、Al量:0.5〜2.0mass%の条件においても、AlNの平板状化を抑制するためには、Nb量は0.05mass%以上とすることが有効である。
【0027】
(11) 0.001≦B≦0.005mass%:
Bは、鋼の熱間加工性を向上させるのに有効な元素であることから添加しても良い。また、Bを含有させることで、靱延性が向上する。これは、Bが粒界に偏析することにより、Sの粒界偏析を抑制するためである。この効果は、B量が0.001mass%以上で見られる。
一方、B量が過剰になると、Nと結合してBNを形成し、靱延性が低下する。従って、B量は、0.005mass%以下が好ましい。
【0028】
(12) 0.3≦Si≦1.0mass%:
Siは、溶解時の脱酸剤として働き、不純物であるOを低減させる。また、Siは、固溶強化により引張強度向上に寄与する。さらに、Si量が多いほど、AlNの析出形状を平板状から球状に変化させることができ、低サイクル疲労特性のバラツキを抑制できる。この効果は、Si量が0.3mass%以上で見られる。
一方、Si量が過剰になると、熱間加工性の低下による鍛造工程での割れを助長する他、強度が過剰となりすぎ、靱延性が低下する。従って、Si量は、1.0mass%以下が好ましい。
【0029】
[1.3. 成分バランス]
本発明に係る第1のマルエージング鋼は、成分元素が上述の範囲にあることに加えて、さらに次の(1)式を満たしていることが望ましい。
パラメータX≧45 ・・・(1)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
また、本発明に係る第2のマルエージング鋼は、成分元素が上述の範囲にあることに加えて、さらに次の(2)式を満たしていることが望ましい。
パラメータX≧10 ・・・(2)
X=5.5[C]+11.6[Si]−1.4[Ni]−5[Cr]−1.2[Mo]+0.7[Co]+41.9[Al]−7[V]−98.4[Nb]+3.3[B]
[]は、各元素の含有量(mass%)。
【0030】
(1)式及び(2)式は、低サイクル疲労強度を高位に安定させるために必要な各成分のバランスを表す経験式である。本発明の成分範囲では、低サイクル疲労特性に影響する介在物としてAlNが想定される。AlNの析出形態は、塊状や板状となることが多いが、中でも低サイクル疲労特性に悪影響を及ぼすAlN形状は板状である。特に、薄い平板状でアスペクト比の高いAlNが悪影響を及ぼす。
【0031】
具体的には、金属組織面をSEMで観察したときに、短軸1.0μm以下、かつ、アスペクト比(長軸/短軸)が10以上の形状を有する平板状AlNが悪影響を及ぼす。前述の平板状AlNは、SEMで観察したときに、100mm2当たり6個以下が好ましい。平板状AlNの個数は、100mm2当たり、好ましくは4個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは0個である。このようにすることで、低サイクル疲労特性に優れたマルエージング鋼とすることができる。
X値が大きくなるほど、AlNの析出形状が平板状になりにくくなる(塊状になりやすくなる)ため、X値が大きくなるほど、低サイクル疲労特性のバラツキを抑制できる。この効果により、低サイクル疲労特性を高位安定させるためには、(a)V及びNbの総量が0.02mass%以下である場合、X値は、45以上が好ましい。
一方、(b)V及びNbの総量が0.02<V+Nb≦0.6mass%である場合は、旧オーステナイト粒界の微細化により、AlNが平板状に析出した場合でも長手方向への成長が抑制され、アスペクト比の高いAlNが出来にくくなるため、X値は、10以上とすることができる。
ここで、塊状のAlN及び平板状のAlNのSEM写真を、それぞれ、図1及び図2に示す。なお、図中の数値は、長軸及び短軸の長さ並びにアスペクト比を示す。
【0032】
また、化学抽出試験により抽出した塊状AlN及び平板状AlNのSEM写真を図3及び図4に示す。化学抽出試験は、例えば、試験片を採取し、酸洗にて表層の付着物等を除去した後、この試験片を臭素メタノールにて化学溶解を行い、孔径φ5μm程度の抽出フィルタを用いてろ過すればよい。塊状AlNは、その下にあるフィルタ孔が透けて観察されないが(図3参照)、AlNの厚さ(短軸)が薄くなると(例えば1.0μm以下)、その下にあるフィルタ孔が透けて観察される(図4参照)。したがって、抽出フィルタ孔上でAlNが透けて観察されるかどうかを、平板状AlNの簡易評価手段として用いることができる。
【0033】
[2. マルエージング鋼の製造方法]
本発明に係るマルエージング鋼の製造方法は、溶解工程と、再溶解工程と、均質化工程と、鍛造工程と、固溶化熱処理工程と、サブゼロ処理工程と、時効処理工程とを備えている。
【0034】
[2.1. 溶解工程]
溶解工程は、所定の成分範囲となるように配合された原料を溶解・鋳造する工程である。使用する原料の履歴や溶解・鋳造条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。強度及び耐疲労性に特に優れたマルエージング鋼を得るためには、鋼の清浄度を高めるのが好ましい。そのためには、原料の溶解は、真空中(例えば、真空誘導炉溶解法)で行うのが好ましい。
【0035】
[2.2. 再溶解工程]
再溶解工程は、溶解工程で得られた鋳塊を再度、溶解・鋳造する工程である。再溶解工程は、必ずしも必要ではないが、再溶解を行うことにより鋼の清浄度がさらに向上し、鋼の耐疲労性が向上する。そのためには、再溶解は、真空中(例えば、真空アーク再溶解法)で行い、かつ、複数回繰り返すのが好ましい。
【0036】
[2.3. 均質化工程]
均質化工程は、溶解工程又は再溶解工程で得られた鋳塊を所定の温度で加熱する工程である。均質化熱処理は、鋳造時に生じた偏析を除去するために行われる。均質化熱処理条件は、特に限定されるものではなく、凝固偏析を除去可能な条件であれば良い。均質化熱処理条件は、通常、加熱温度:1150〜1350℃、加熱時間:10時間以上、である。均質化熱処理後の鋳塊は、通常、空冷されるか、あるいは、赤熱状態のまま次工程に送られる。
【0037】
[2.4. 鍛造工程]
鍛造工程は、均質化熱処理後の鋳塊を鍛造し、所定の形状に加工する工程である。鍛造は、通常、熱間で行われる。また、熱間鍛造条件は、通常、加熱温度:900〜1350℃、加熱時間:1hr以上、終止温度:800℃以上である。熱間鍛造後の冷却方法は、特に限定されない。熱間鍛造は、1回のみ行っても良く、あるいは4〜5工程を連続して行っても良い。
鍛造後、必要に応じて、焼鈍が行われる。焼鈍条件は、通常、加熱温度:550〜950℃、加熱時間:1〜36hr、冷却方法:空冷、である。
【0038】
[2.5. 固溶化熱処理工程]
固溶化熱処理工程は、所定の形状に加工された鋼を所定の温度で加熱する工程である。固溶化熱処理は、母材をγ相単相とし、かつ、Mo炭化物などの析出物を固溶させるために行われる。固溶化熱処理条件は、鋼の組成に応じて最適な条件を選択する。固溶化熱処理条件は、通常、加熱温度:800〜1200℃、加熱時間:1〜10hr、冷却方法:空冷(AC)、衝風冷却(BC)、水冷(WC)又は油冷(OC)である。
【0039】
[2.6. サブゼロ処理]
サブゼロ処理は、固溶化熱処理後の鋼を室温以下の温度に冷却する工程である。サブゼロ処理は、残留しているγ相をマルテンサイト相に変態させるために行われる。マルエージング鋼は、Ms点が低いため、室温に冷却した時点では、通常、多量のγ相が残留している。多量のγ相が残ったまま時効処理を行っても、大きな強度の向上は期待できない。そのため、固溶化熱処理後にサブゼロ処理を行い、残留γ相をマルテンサイト相に変態させる必要がある。サブゼロ処理条件は、通常、冷却温度:−197〜−73℃、冷却時間:1〜10hr、である。
【0040】
[2.7. 時効処理]
時効処理は、マルテンサイト相が生成した鋼を所定の温度で加熱する工程である。時効処理は、Ni3Mo、NiAlなどの金属間化合物と、Mo2Cなどの炭化物を析出させるために行われる。時効処理条件は、鋼の組成に応じて最適な条件を選択する.時効処理条件は、通常、時効処理温度:400〜600℃、時効処理時間:0.5〜24hr、冷却方法:空冷、である。
【0041】
[3. マルエージング鋼の作用]
主要元素の成分範囲を特定の範囲に限定すると同時に、(1)式を満たすように各元素の含有量を最適化すると、低サイクル疲労特性に影響する介在物として想定されるAlNの形態(析出形状)を制御できる。そのため、引張強度が2300MPa以上、伸びが7%以上であり、かつ、疲労特性が高位に安定したマルエージング鋼が得られる。
特に、本発明に係るマルエージング鋼を用いてエンジンシャフトとする場合、エンジンシャフトの長手方向の平行面において、短軸1.0μm以下、かつ、アスペクト比10以上のAlN介在物が、100mm2当たり6個以下とすることができるので、低サイクル疲労特性に優れたエンジンシャフトを得ることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1〜26、比較例1〜25)
[1. 試料の作製]
表1及び表2に示す化学組成の鋼を高周波誘導炉(VIF)で溶解し、50kgの鋼塊を得た。得られたVIF鋼塊を、1200℃×20hrの条件にて均質化処理を行った。その後、破壊靱性試験片用は70mm角棒に、他の試験片用はφ22の丸棒に鍛造した。鍛造後は、軟化のため650℃×16hrの焼鈍処理を施した。
その後、900℃×1hr/空冷の溶体化処理、−100℃×1hrのサブゼロ処理、及び、時効処理を行った。時効処理の条件は、(a)実施例1〜26、51〜54、72、および比較例1〜25、55は、525℃×9hrとし、(b)実施例55〜71、73〜82、および比較例51〜54、56〜73は、450℃×5Hrとした。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
[2. 試験方法]
[2.1. 硬さ]
JIS Z 2244に定めるビッカース硬さ試験方法に準じて、硬さ測定を実施した。荷重:4.9Nで、φ22の丸棒の1/4直径位置にて測定を行った。測定は、5点の平均値を採用した。
【0046】
[2.2. 引張試験]
JIS Z 2241の金属引張試験方法に準じて、引張試験を行った。試験片は、JIS Z 2201 14A号試験片とした。試験温度は、室温とした。
【0047】
[2.3. 低サイクル疲労試験(LCF)]
試験片の長手方向が鍛伸方向と一致するように試験片素材を採取し、JIS法(JIS Z 2242)に準拠して試験片を作製した。これを用いて試験を実施した。試験温度は、200℃とした。また、歪波形は三角波とし、周波数=0.1Hz、歪=0.9%とした。
【0048】
[2.4. SEM観察]
10mm角の試験片を採取し、丸棒材の長手方向に平行な面に相当する観察面を鏡面研磨した。この面全域(100mm2)をSEMにて観察し、介在物を調査した。介在物を同定するために、EDX分析を行った。
短軸1.0μm以下、かつ、アスペクト比(長軸/短軸)10以上のAl介在物をカウントし、100mm2当たりの個数を求めた。
[2.5. 破壊靱性試験]
試験片の切欠き方向が鍛伸方向と一致するように試験片素材を採取し、ASTM法(ASTM E399)に準拠してコンパクトテンション(CT)試験片を作製した。これを用いて試験を実施し、破壊靱性値K1Cを測定した。試験温度は、室温とした。
【0049】
[3. 結果]
表3及び表4に、結果を示す。表3及び表4より、以下のことがわかる。
(1)C量が少ないと、伸びは大きいが、硬さ及び引張強さが低い。一方、C量が過剰になると、硬さ及び引張強度は高いが伸びは小さい。これに対し、他の元素の含有量を最適化すると同時にC量を最適化すると、高強度、高い伸び及び高耐疲労性を両立させることができる。
(2)金属間化合物及び炭化物の析出量に関係するNi、Co、Mo及びAlの含有量が少なすぎる場合、引張強度が低くなりやすい。これに対し、他の元素の含有量を最適化すると同時にこれらの元素の含有量を最適化すると、高強度、高い伸び及び高耐疲労性を両立させることができる。
【0050】
(3)Cr量が少ないと、高強度は得られるが伸びは低い。Cr量が過剰になると、伸びは高いが、強度が低下する。これに対し、他の元素の含有量を最適化すると同時にCr量を最適化すると、高強度、高い伸び及び高耐疲労性を両立させることができる。また、Cr量を3.5mass%以下とすることで、高強度、高い伸び及び高耐疲労性に加えて、高い破壊靱性値を得ることができる。
(4)X値が低いと、伸びは高いが強度は低い。また、AlN介在物の量が増加し、疲労特性が低下する。一方、V及びNbの総量が0.02mass%以下の場合は、X値が45以上になると、また、V及びNbの総量が0.02mass%超の場合は、X値が10以上になると、高強度、高い伸び、高い破壊靱性値及び高耐疲労性を両立させることができる。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
(実施例51〜82、比較例51〜73)
[1. 試料の作製及び試験方法]
表5及び表6に示す組成の合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、試料を作製した。得られた試料を用いて、実施例1と同様にして、特性の評価を行った。なお、表5及び表6には、実施例20〜22及び比較例20〜22の組成も併せて示した。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
[2. 結果]
表7及び表8に、結果を示す。なお、表7及び表8には、実施例20〜22及び比較例20〜22の結果も併せて示した。表7及び表8より、0.02<V+Nb≦0.6mass%の場合において、低Ni量の実施例(実施例25〜54、72)や高Niの実施例65と比べ、Ni量が10.0〜19.0mass%である他の実施例は、優れた引張強さを有するだけでなく、優れた破壊靱性(32以上)となることがわかる。また、Cr3.7mass%の実施例67に比べ、Cr≦3.0mass%である他の実施例は、優れた引張強さを有するだけでなく、優れた破壊靱性(32以上)となることがわかる。
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るマルエージング鋼は、2300MPa以上の非常に高い引張強度を持つため、高強度が要求される部材、例えば、宇宙・航空機用の構造材料、自動車エンジンの無段変速機用部品、高圧容器、工具材料、金型等に使用することができる。
具体的には、本発明に係るマルエージング鋼は、航空機のエンジンシャフト、固体燃料ロケット・モーター・ケース、航空機昇降装置、エンジン・バルブ・スプリング(弁バネ)、強力ボルト、伝達軸、石油・化学工業用高圧容器などに用いることができる。
図1
図2
図3
図4