特許第6582980号(P6582980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582980相分離構造を有する繊維およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582980
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】相分離構造を有する繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/86 20060101AFI20190919BHJP
   D01F 1/09 20060101ALI20190919BHJP
   C08G 63/66 20060101ALI20190919BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   D01F6/86 301A
   D01F1/09
   C08G63/66
   D01F6/92 307C
【請求項の数】8
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-515321(P2015-515321)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058297
(87)【国際公開番号】WO2015146790
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-62204(P2014-62204)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-186505(P2014-186505)
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中川 順一
(72)【発明者】
【氏名】荒西 義高
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽一郎
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−041632(JP,A)
【文献】 特開平07−305227(JP,A)
【文献】 特開2004−225203(JP,A)
【文献】 特開2009−270231(JP,A)
【文献】 特開2009−114604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−9/04
C08G63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子と親水性高分子との共重合体からなり、相分離構造による連続相と分散相を有し、繊維横断面における分散相の最大直径が1〜40nmであり、繊度変動値U%(hi)が0.1〜1.5%であり、前記疎水性高分子がポリエステルであり、前記親水性高分子がポリエチレングリコールであることを特徴とする相分離構造を有する繊維。
【請求項2】
前記疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が、繊維表面の少なくとも一部に露出していることを特徴とする請求項1記載の繊維。
【請求項3】
JIS L1094に基づき、温度10℃、湿度10%RHで測定した摩擦帯電圧が3000V以下であることを特徴とする請求項1または2記載の繊維。
【請求項4】
前記繊維を、窒素:酸素=80vol%:20vol%の混合ガス雰囲気下、混合ガス流量200mL/分、昇温速度30℃/分で室温から160℃まで昇温後、160℃で保持する条件で微分熱重量分析(DTG)をしたとき、160℃に到達した時間を0分とし、立ち上がり半値点までの時間が120分以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の繊維。
【請求項5】
酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の繊維。
【請求項6】
前記酸化防止剤が、フェノール系化合物、イオウ系化合物、ヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項記載の繊維。
【請求項7】
前記酸化防止剤の含有量が、繊維重量の0.01〜2.0重量%であることを特徴とする請求項5または6記載の繊維。
【請求項8】
前記疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が紡糸口金を通過する際の剪断速度が10000〜40000s-1になるように紡糸することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離構造を有する繊維に関するものである。より詳しくは、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されており、さらには、長期保管やタンブラー乾燥に対する繊維特性の耐久性、吸湿性や低温低湿度環境下における制電性に優れ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制された、衣料用途に好適に使用できる繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、安価であり、機械的特性に優れているため、幅広い用途において用いられている。しかし、吸湿性に乏しいため、夏場の高湿時には蒸れ感の発生、冬場の低湿時には静電気の発生など解決すべき欠点を有している。汎用のポリエステルであるポリエチレンテレフタレートの摩擦帯電圧は、温度20℃、湿度40%RHの標準状態において7000〜9000V程度である。摩擦帯電圧は、その値が小さいほど静電気を帯びにくく、着用快適性に優れる。ポリエチレンテレフタレートの場合、極めて制電性に乏しい繊維であると言える。
【0003】
上記の欠点を改善するため、ポリエステル繊維へ制電性を付与する方法について、これまでに種々の提案がなされている。制電性を付与するための一般的な方法として、ポリエステルへの親水性化合物の共重合または親水性化合物の添加などが挙げられる。これらの方法により、制電性を向上させることは可能であるが、冬場の室外、暖房の使用により湿度が非常に低くなった室内などの低温低湿度環境下においては、十分な制電性を得られていないのが現状であった。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリエステルに対し、親水性化合物としてポリオキシアルキレングリコールおよび有機金属塩が添加された制電性ポリエステル繊維が提案されている。この提案では、ポリエステル繊維へポリオキシアルキレングリコールを分散させることで、制電性を付与している。
【0005】
特許文献2では、ポリエチレングリコールが共重合されたポリエステルを芯、ポリプロピレンテレフタレートを鞘とした芯鞘複合繊維が提案されている。この提案では、芯に配置されたポリエチレングリコールが共重合されたポリエステルにより、ポリエステル繊維へ制電性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平7−173725号公報
【特許文献2】日本国特開平11−93022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、温度20℃、湿度40%RHにおいては摩擦帯電圧が600Vと低く、制電性が良好であるものの、温度10℃、湿度10%RHなどの低温低湿度環境下においては十分な制電性が発現しないという課題があった。また、ポリエステルと親水性化合物が共重合していないため、染色時や使用時に親水性化合物が溶出し、制電性の耐久性が低いという課題があった。
【0008】
特許文献2記載の方法においても、特許文献1記載の方法と同様に温度20℃、湿度40%RHにおいては摩擦帯電圧が400Vと低く、制電性が良好であるが、温度10℃、湿度10%RHなどの低温低湿度環境下においては十分な制電性が発現しないという課題があった。
【0009】
また、いずれの場合も、ポリエステルに非相溶のポリエチレングリコールを親水性化合物として用いた場合には、繊度斑が大きく、染め斑や毛羽が発生するという課題があった。さらには、ポリエチレングリコールの酸化分解が抑制されていないため、長期保管やタンブラー乾燥により酸化分解が進行し、吸湿性、低温低湿度環境下における制電性や機械的特性などの繊維特性が低下するという課題があった。
【0010】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されており、さらには、吸湿性や低温低湿度環境下における制電性に優れ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制された、衣料用途に好適に採用できる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の本発明の課題は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体からなり、相分離構造による連続相と分散相を有し、繊維横断面における分散相の最大直径が1〜40nmであり、繊度変動値U%(hi)が0.1〜1.5%であり、前記疎水性高分子がポリエステルであり、前記親水性高分子がポリエチレングリコールである相分離構造を有する繊維によって解決することができる。
【0012】
また、本発明の繊維は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が、繊維表面の少なくとも一部に露出していることが好ましい。
【0013】
さらには、本発明の繊維は、窒素:酸素=80vol%:20vol%の混合ガス雰囲気下、混合ガス流量200mL/分、昇温速度30℃/分で室温から160℃まで昇温後、160℃で保持する条件で微分熱重量分析(DTG)をしたとき、160℃に到達した時間を0分とし、立ち上がり半値点までの時間が120分以上であることが好ましい。また酸化防止剤を含有すること、酸化防止剤が、フェノール系化合物、イオウ系化合物、ヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種であり、酸化防止剤の含有量が、繊維重量の0.01〜2.0重量%であることが好適に採用できる。
【0014】
さらに本発明の繊維は、JIS L1094に基づき、温度10℃、湿度10%RHで測定した摩擦帯電圧が3000V以下であることが好ましい。
【0015】
また、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が紡糸口金を通過する際の剪断速度が10000〜40000s-1になるように紡糸することを特徴とする繊維の製造方法が好適に採用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されており、さらには、長期保管やタンブラー乾燥に対する繊維特性の耐久性、吸湿性や低温低湿度環境下における制電性に優れ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制された繊維を提供することができる。この繊維は、特に衣料用途において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の相分離構造を有する繊維の繊維横断面を例示する図面代用写真である。
図2図2は、本発明の相分離構造を有する繊維の繊維縦断面を例示する図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の繊維は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体からなり、相分離構造による連続相と分散相を有し、繊維横断面における分散相の最大直径が1〜40nmであり、繊度変動値U%(hi)が0.1〜1.5%である。本発明の繊維は、相分離構造を有しているものの、図1に示すように繊維横断面において微細かつ均一な分散相を形成しているため、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されている。また、疎水性高分子と親水性高分子とを共重合することにより、繊維へ吸湿性や制電性を付与することができるとともに、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制されているため、吸湿性や制電性について耐久性を有している。さらには、図2に示すように繊維縦断面において繊維軸と平行な方向に微細かつ均一な筋状の分散相を形成しているため、低温低湿度環境下においても摩擦帯電圧が低く、制電性に優れた繊維を得ることが可能となる。
【0019】
本発明における疎水性高分子は、親水性高分子との共重合が可能であれば、特に制限がなく、好適に採用できる。疎水性高分子の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートは、機械的特性や耐久性に優れ、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましい。
【0020】
本発明における親水性高分子は、疎水性高分子との共重合が可能であれば、特に制限がなく、好適に採用できる。疎水性高分子へ親水性高分子を共重合することで、繊維へ制電性を付与することが可能となる。親水性高分子の具体例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの単独重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール共重合体などの共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールは、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましい。
【0021】
本発明の繊維は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体からなるものである。ポリマーブレンドのような溶融混合とは異なり、疎水性高分子と親水性高分子が共重合によって共有結合を形成しているため、繊維中からの親水性高分子の溶出が抑制されており、製造時における工程間や、製品の使用時において繊維特性の変化が小さく、耐久性に優れる繊維を得ることができる。
【0022】
本発明の繊維は、相分離構造を有するものである。この相分離構造は、重合反応が進行し、疎水性高分子と親水性高分子とが共重合する過程で特異的に発現するものである。すなわち、非相溶の高分子化合物の溶融混合によって発現する相分離構造とは異なり、本発明では重合反応の進行とともに発現する相分離構造であるため、微細かつ均一な分散相が形成される。分散相が微細かつ均一であるため、得られる繊維は相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されている。また、相分離構造を有しているために、低温低湿度環境下における制電性に優れる繊維を得ることができる。
【0023】
重合反応の進行とともに発現する相分離について、具体例を示す。疎水性高分子としてポリエチレンテレフタレート、親水性高分子としてポリエチレングリコールの共重合体の場合、重縮合反応初期にはポリエチレンテレフタレートの前駆体であるビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートとポリエチレングリコールの極性が近いため、相溶状態にあり、反応系は透明である。重縮合反応の進行とともにポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体が生成し、重合開始から約1時間経過すると相分離状態となり、反応系は白濁する。この相分離構造は、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体において、低極性の共重合体、すなわち分子鎖中に占めるポリエチレンテレフタレートの割合が高い共重合体と、高極性の共重合体、すなわち分子鎖中に占めるポリエチレングリコールの割合が高い共重合体が生成し、これらの極性の違いにより発現するものである。
【0024】
本発明の繊維は、相分離構造による連続相と分散相を有するものである。連続相と分散相を構成する成分は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合する割合に応じて変化する。親水性高分子よりも疎水性高分子の割合が多い場合には、分子鎖中に占める疎水性高分子の割合が高い「疎水性高分子−親水性高分子共重合体」が連続相となり、分子鎖中に占める親水性高分子の割合が高い「疎水性高分子−親水性高分子共重合体」が分散相となる。一方、疎水性高分子よりも親水性高分子の割合が多い場合には、分子鎖中に占める親水性高分子の割合が高い「疎水性高分子−親水性高分子共重合体」が連続相となり、分子鎖中に占める疎水性高分子の割合が高い「疎水性高分子−親水性高分子共重合体」が分散相となる。いずれの場合も連続相、分散相の双方が「疎水性高分子−親水性高分子共重合体」からなっており、その組成比が異なっているだけであるため、連続相と分散相の親和性が極めて高い相分離構造である。このため、分散相の溶融滞留時の安定性が極めて高く、溶融滞留中に分散相が粗大化しにくい相分離構造を形成していることを見出した。このため、溶融紡糸によって繊維化した際の繊度斑が改善され、かつ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出を抑制できていることが明らかとなった。
【0025】
本発明において疎水性高分子としてポリエステルを用いる場合、ポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸以外のエステル形成性のジカルボン酸を使用してもよい。エステル形成性のジカルボン酸の具体例として、アジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明において疎水性高分子としてポリエステルを用いる場合、ポリエステルのジオール成分として、エチレングリコール以外のエステル形成性のジオールを使用してもよい。エステル形成性のジオールの具体例として、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明において疎水性高分子としてポリエチレンテレフタレート、親水性高分子としてポリエチレングリコールを用いる場合、ポリエチレングリコールの数平均分子量は7000〜20000であることが好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量が7000以上であれば、ポリエチレンテレフタレートとの共重合により相分離構造が発現するため、繊維化することによって制電性に優れた繊維が得られるため好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量は7500以上であることがより好ましく、8000以上であることが更に好ましい。一方、ポリエチレングリコールの数平均分子量が20000以下であれば、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの重縮合反応性が高く、未反応のポリエチレングリコールを低減することができるため好ましい。また、ポリエチレンテレフタレートとの共重合により、分散相が微細かつ均一で、溶融滞留時における粗大化が抑制された安定な相分離構造が形成され、重縮合反応終了後に重縮合槽からの吐出や、紡糸時に紡糸口金からの吐出が安定し、操業性が良好となるため好ましい。さらには、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された均質な繊維を得ることができるため好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量は17000以下であることがより好ましく、15000以下であることが更に好ましい。
【0028】
本発明において疎水性高分子としてポリエチレンテレフタレート、親水性高分子としてポリエチレングリコールを用いる場合、ポリエチレングリコールの共重合率は10〜20重量%であることが好ましい。ポリエチレングリコールの共重合率が10重量%以上であれば、吸湿性ならびに制電性に優れた繊維が得られるため好ましい。ポリエチレングリコールの共重合率は11重量%以上であることがより好ましく、12重量%以上であることが更に好ましい。一方、ポリエチレングリコールの共重合率が20重量%以下であれば、ポリエチレンテレフタレートとの共重合により微細かつ均一な相分離構造が形成され、重縮合反応終了後に重縮合槽からの吐出や、紡糸時に紡糸口金からの吐出が安定し、操業性が良好となるため好ましい。また、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された均質な繊維を得ることができ、繊維ならびにそれからなる繊維構造体の機械的特性が良好となるため好ましい。ポリエチレングリコールの共重合率は19重量%以下であることがより好ましく、18重量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
本発明において、疎水性高分子(ポリエチレンテレフタレート)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造について発明者らは鋭意検討した結果、前述のとおり、連続相と分散相の親和性が極めて高い相分離構造であるため、溶融状態で剪断を付与すると、相分離構造が微分散化し、やがて消失するが、剪断の付与を停止して一定時間経過すると、再び相分離構造が発現するという特異的な現象を見出した。後述の繊維の製造方法において詳述するが、この特異的な現象を活用することで、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維を得ることに成功した。
【0030】
本発明における疎水性高分子と親水性高分子との共重合体は、副次的添加物を加えて種々の改質が行われたものであってもよい。副次的添加剤の具体例として、相溶化剤、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0031】
本発明の繊維の繊維横断面における分散相の最大直径は、1〜40nmである。繊維横断面における分散相の最大直径の測定方法の詳細については後述する。繊維横断面における分散相の最大直径が1nm以上であれば、吸湿性および制電性に優れた繊維を得ることができる。繊維横断面における分散相の最大直径は3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましく、10nm以上であることが特に好ましい。一方、繊維横断面における分散相の最大直径が40nm以下であれば、繊維ならびにそれからなる繊維構造体の機械的特性が良好であり、耐久性に優れる。また、微細かつ均一な分散相であるため、紡糸時に紡糸口金からの吐出が安定し、操業性が良好となるとともに、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制される。繊維横断面における分散相の最大直径は37nm以下であることがより好ましく、35nm以下であることが更に好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の繊維の繊維縦断面における分散相の最大直径は、1〜40nmであることが好ましい。繊維縦断面における分散相の最大直径の測定方法の詳細については後述する。なお、繊維縦断面における分散相の最大直径とは、繊維軸と垂直方向に対する分散相の直径の最大値である。繊維縦断面における分散相の最大直径が1nm以上であれば、吸湿性および制電性に優れた繊維を得ることができるため好ましい。繊維縦断面における分散相の最大直径は3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましく、10nm以上であることが特に好ましい。一方、繊維縦断面における分散相の最大直径が40nm以下であれば、繊維ならびにそれからなる繊維構造体の機械的特性が良好であり、耐久性に優れるため好ましい。また、微細かつ均一な分散相であるため、紡糸時に紡糸口金からの吐出が安定し、操業性が良好となるとともに、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されるため好ましい。繊維縦断面における分散相の最大直径は37nm以下であることがより好ましく、35nmであることが更に好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0033】
本発明の繊維の全繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、10〜500dtexであることが好ましい。繊維の全繊度が10dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。繊維の全繊度は、30dtex以上であることがより好ましく、50dtex以上であることが更に好ましい。一方、繊維の全繊度が500dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。繊維の全繊度は、400dtex以下であることがより好ましく、300dtex以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の繊維の強度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、機械的特性の観点から2.0〜5.0cN/dtexであることが好ましい。繊維の強度が2.0cN/dtex以上であれば、紡糸、延伸工程や製織、製編工程等において糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時の耐久性に優れるため好ましい。繊維の強度は2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、繊維の強度が5.0cN/dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体とした場合に柔軟性を損なうことがないため好ましい。
【0035】
本発明の繊維の伸度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、工程通過性の観点から10〜60%であることが好ましい。繊維の伸度が10%以上であれば、繊維ならびに繊維構造体の耐摩耗性が良好となり、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性が良好となるため好ましい。繊維の伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。一方、繊維の伸度が60%以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の寸法安定性が良好となるため好ましい。繊維の伸度は55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の繊維の初期引張抵抗度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、JIS L1013:1999の8.10に準じて測定した初期引張抵抗度が10〜100cN/dtexであることが好ましい。繊維の初期引張抵抗度が10cN/dtex以上であれば、工程通過性や取り扱い性が良好であり、機械的特性に優れるため好ましい。繊維の初期引張抵抗度は15cN/dtex以上であることがより好ましく、20cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、繊維の初期引張抵抗度が100cN/dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。繊維の初期引張抵抗度は90cN/dtex以下であることがより好ましく、80cN/dtex以下であることが更に好ましい。
【0037】
本発明の繊維の繊維径は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、3〜100μmであることが好ましい。繊維の繊維径が3μm以上であれば、製糸操業性や高次加工における工程通過性が良好であり、機械的特性に優れた繊維が得られるため好ましい。繊維の繊維径は5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更に好ましい。一方、繊維の繊維径が100μm以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。繊維の繊維径は70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の繊維の沸騰水収縮率は、3〜15%であることが好ましい。繊維の沸騰水収縮率が3%以上であれば、織物を熱収縮させることで織り密度を高めることができ、製織工程における織り張力を適度な範囲に抑えて高密度な織物を製造できるため好ましい。さらには、高密度織物を製造する際に高張力下で製織する必要がなく、製織工程での毛羽やヒケの発生を抑制でき、欠点の少ない織物を工程通過性良く製造することができるため好ましい。繊維の沸騰水収縮率は4%以上であることがより好ましく、5%以上であることが更に好ましい。一方、繊維の沸騰水収縮率が15%以下であれば、沸騰水での処理中に分子鎖の配向度が極端に低下することがなく、沸騰水処理後の強度低下が小さいため好ましい。また、織物を熱収縮させる加工で繊維を十分に収縮させることができ、柔軟な織物が得られるため好ましい。繊維の沸騰水収縮率は12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の繊維の繊度変動値U%(hi)は、0.1〜1.5%である。繊度変動値U%は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、繊度変動値U%(hi)が小さいほど、繊維の長手方向における太さ斑が小さいことを示す。繊度変動値U%(hi)は、工程通過性や品位の観点から小さければ小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として0.1%が下限である。一方、繊維の繊度変動値U%(hi)が1.5%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れており、整経工程や製織、製編工程等で加工張力の変動を抑制することができるため好ましい。さらには、毛羽や糸切れが発生しにくく、染色した際に染め斑や染め筋などの欠点が発生しにくく、高品位な繊維構造体が得られるため好ましい。繊維の繊度変動値U%(hi)は1.2%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.9%以下であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の繊維の単糸直径CV%は、0.1〜15%であることが好ましい。単糸直径CV%は、工程通過性や品位の観点から小さければ小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として0.1%が下限である。一方、繊維の単糸直径CV%が15%以下であれば、製造時ならびに使用時に毛羽の発生を抑制することができるとともに、染色した際に染め斑や染め筋などの欠点が発生しにくく、高品位な繊維構造体が得られるため好ましい。繊維の単糸直径CV%は12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、7%以下であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の繊維の単糸繊度CV%は、0.1〜15%であることが好ましい。単糸繊度CV%は、工程通過性や品位の観点から小さければ小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として0.1%が下限である。一方、繊維の単糸繊度CV%が15%以下であれば、製造時ならびに使用時に毛羽の発生を抑制することができるとともに、染色した際に染め斑や染め筋などの欠点が発生しにくく、高品位な繊維構造体が得られるため好ましい。繊維の単糸繊度CV%は12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、7%以下であることが特に好ましい。
【0042】
本発明の繊維の単糸強力CV%は、0.1〜20%であることが好ましい。単糸強力CV%は、工程通過性や品位の観点から小さければ小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として0.1%が下限である。一方、繊維の単糸強力CV%が20%以下であれば、製造時ならびに使用時に毛羽の発生を抑制することができるとともに、染色した際に染め斑や染め筋などの欠点が発生しにくく、高品位な繊維構造体が得られるため好ましい。繊維の単糸強力CV%は15%以下であることがより好ましく、12%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の繊維の単糸伸度CV%は、0.1〜40%であることが好ましい。単糸伸度CV%は、工程通過性や品位の観点から小さければ小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として0.1%が下限である。一方、繊維の単糸伸度CV%が40%以下であれば、製造時ならびに使用時に毛羽の発生を抑制することができるとともに、染色した際に染め斑や染め筋などの欠点が発生しにくく、高品位な繊維構造体が得られるため好ましい。繊維の単糸伸度CV%は37%以下であることがより好ましく、35%以下であることが更に好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
【0044】
本発明の繊維は、窒素:酸素=80vol%:20vol%の混合ガス雰囲気下、混合ガス流量200mL/分、昇温速度30℃/分で室温から160℃まで昇温後、160℃で保持したときの微分熱重量分析(DTG)において、160℃に到達した時間を0分とし、立ち上がり半値点までの時間が120分以上であることが好ましい。立ち上がり半値点の測定方法の詳細については後述するが、長期保管やタンブラー乾燥に対する耐久性を想定した加速試験として本評価方法を採用した。本発明者らは、本発明における疎水性高分子(ポリエチレンテレフタレート)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造を有する繊維について、160℃での微分熱重量分析(DTG)における立ち上がりピークが親水性高分子(ポリエチレングリコール)の分解によるものであり、このポリエチレングリコールの分解とともに、吸湿性が失われ、吸湿率差(△MR)は低下し、さらには低温低湿度環境下における制電性が失われ、摩擦帯電圧は高くなることを確認している。立ち上がり半値点までの時間は、長期保管やタンブラー乾燥に対する、吸湿性、低温低湿度環境下における制電性、機械的特性などの繊維特性の耐久性の観点から長ければ長いほど好ましい。立ち上がり半値点までの時間は180分以上であることがより好ましく、240分以上であることが更に好ましく、360分以上であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の繊維の吸湿率差(△MR)は、1〜10%であることが好ましい。△MRの測定方法の詳細については後述するが、軽い運動後の衣服内温湿度を想定した温度30℃、湿度90%RHにおける吸湿率と、外気温湿度として温度20℃、湿度65%RHにおける吸湿率の差が△MRである。すなわち、△MRは吸湿性の指標であり、△MRの値が高いほど着用快適性が向上する。繊維の△MRが1%以上であれば、衣服内の蒸れ感が少なく、着用快適性が発現するため好ましい。繊維の△MRは1.5%以上であることがより好ましく、2%以上であることが更に好ましい。一方、繊維の△MRが10%以下であれば、工程通過性や取り扱い性が良好であり、使用時の耐久性に優れるため好ましい。繊維の△MRは9%以下であることがより好ましく、8%以下であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の繊維は、疎水性高分子と親水性高分子が共重合しているため、疎水性高分子と親水性高分子を溶融混合した場合とは異なり、熱水等への親水性高分子の溶出が抑制されている。そのため、吸湿性の耐久性が高く、繊維構造体として好適に採用できる。
【0047】
本発明の繊維は、温度10℃、湿度10%RHにおける摩擦帯電圧が3000V以下であることが好ましい。摩擦帯電圧の測定方法の詳細については後述するが、摩擦帯電圧は制電性の指標であり、摩擦帯電圧の値が低いほど静電気の発生が抑制される。摩擦帯電圧は、着用快適性の観点から小さければ小さいほど好ましく、さらには、温度20℃、湿度40%RHなどの温湿度環境下だけでなく、温度10℃、湿度10%RHなどの低温低湿度環境下において摩擦帯電圧が低く、優れた制電性を発現することが好ましい。温度10℃、湿度10%RHにおける繊維の摩擦帯電圧が3000V以下であれば、冬場の室外、暖房の使用により湿度が非常に低くなった室内などの低温低湿度環境においても静電気の発生が少なく、着用快適性に優れるため好ましい。温度10℃、湿度10%RHにおける繊維の摩擦帯電圧は2500V以下であることがより好ましく、2000V以下であることが更に好ましい。
【0048】
本発明の繊維は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体およびこれ以外の他の(共)重合体からなる複合繊維にすることができる。このとき疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が、繊維表面の少なくとも一部に露出していることが好ましい。例えば、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体を芯鞘複合繊維の芯成分とし鞘成分によって完全に被覆された繊維や、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体を海島複合繊維の島成分とし海成分によって完全に被覆された繊維に比べて、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が繊維表面の少なくとも一部に露出している方が、吸湿性や制電性に優れる繊維を得ることができるため好ましい。なお、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体を芯鞘複合繊維の芯成分とした場合であっても芯成分の少なくとも一部が繊維表面に露出していればよく、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体を海島複合繊維の島成分とした場合であっても島成分の少なくとも一部が繊維表面に露出していればよい。
【0049】
本発明の繊維は、酸化防止剤を含有していることが好ましい。酸化防止剤を含有することにより、長期保管やタンブラー乾燥による親水性高分子の酸化分解を抑制するだけではなく、吸湿性、低温低湿度環境下における制電性、機械的特性などの繊維特性の耐久性が向上するため好ましい。また、本発明者らは、本発明における疎水性高分子(ポリエチレンテレフタレート)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造を有する繊維は、相分離構造を有さない均一構造のポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体からなる繊維と比べ、酸化分解性が高いという課題に対して、後述のとおり、繊維中に十分な量の酸化防止剤を含有させうる方法を見出し、相分離構造を有していながら、酸化分解が抑制され、吸湿性、低温低湿度環境下における制電性、機械的特性などの繊維特性の耐久性に優れた繊維を安定して得ることを可能とした。
【0050】
本発明における酸化防止剤は、フェノール系化合物、イオウ系化合物、ヒンダードアミン系化合物から選ばれることが好ましい。これらの酸化防止剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明におけるフェノール系化合物は、フェノール構造を有したラジカル連鎖反応禁止剤であり、具体例として、2,6−t−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ{5,5}ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル、トコフェロール、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)、2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)メシチレン、1,3,5−トリス[[4−(1,1−ジメチルエチル)−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル]メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのフェノール系化合物は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)、2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)メシチレン(ADEKA製、アデカスタブAO−330)、1,3,5−トリス[[4−(1,1−ジメチルエチル)−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル]メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(東京化成工業製、THANOX1790)は、酸化分解抑制効果が高いため、好適に採用できる。
【0052】
本発明におけるイオウ系化合物は、ラジカルを発生させずに過酸化物を還元し、自身が酸化されるイオウ系酸化防止剤であり、具体例として、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのイオウ系酸化防止剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明におけるヒンダードアミン系化合物は、紫外線や熱により生成したラジカルの捕捉や、酸化防止剤として機能して失活したフェノール系酸化防止剤を再生する効果があるヒンダードアミン系酸化防止剤であり、具体例として、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミンとコハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ])、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンのメチル化重合体、2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザ−20(2,3−エポキシ−プロピル)ジスピロ−[5,1,11,2]−ヘネイコサン−21−オンの重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのヒンダードアミン系化合物は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、洗濯や有機溶剤を使用したクリーニングにより繊維内部からの溶出を抑制する観点から、分子量1000以上の高分子量型ヒンダードアミン系化合物であることが好ましい。特に、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASF製CHIMASSORB2020)は、酸化分解抑制効果が高いため、好適に採用できる。
【0054】
本発明の繊維における酸化防止剤の含有量は、繊維重量の0.01〜2.0重量%であることが好ましい。酸化防止効果を発揮するために十分な量の酸化防止剤を繊維中へ含ませることにより、長期保管やタンブラー乾燥による親水性化合物の酸化分解を抑制することができ、吸湿性、低温低湿度環境下における制電性、機械的特性などの繊維特性の耐久性が向上するため好ましい。酸化防止剤の含有量が0.01重量%以上であれば、酸化分解抑制効果を繊維へ付与できるため好ましい。酸化防止剤の含有量は0.05重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることが更に好ましく、0.15重量%以上であることが特に好ましい。一方、酸化防止剤の含有量が2.0重量%以下であれば、繊維の色調が悪化せず、機械的特性も損なうことがないため好ましい。酸化防止剤の含有量は1.7重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることが更に好ましく、1.0重量%以下であることが特に好ましい。
【0055】
本発明の繊維は、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、真円状の円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形、C字形、H字形、S字形、T字形、W字形、X字形、Y字形などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の繊維は、繊維の形態に関して特に制限がなく、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルなどのいずれの形態であってもよい。
【0057】
本発明の繊維は、一般の繊維と同様に仮撚や撚糸などの加工が可能であり、製織や製編についても一般の繊維と同様に扱うことができる。
【0058】
本発明の繊維からなる繊維構造体の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛、不織布や紡績糸、詰め綿などにすることができる。また、本発明の繊維からなる繊維構造体は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0059】
本発明の繊維は、繊維構造体にする際に交織や交編などによって他の繊維と組み合わせてもよいし、他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造体としてもよい。
【0060】
次に、本発明で使用する疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の製造方法について説明する。具体例として疎水性高分子としてポリエステル、親水性高分子としてポリエチレングリコールを用いて、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体からなる相分離構造の製造方法を以下に示す。
【0061】
本発明では、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体を製造する際に、まずはポリエステル成分単独で、エステル化反応またはエステル交換反応を実施し、ポリエステルオリゴマーを得る。次に、あらかじめポリエチレングリコールが添加されている反応槽へ上記ポリエステルオリゴマーを添加する。なお、この際、ポリエチレングリコールが固体の場合には、70℃以上に加温融解しておき、さらにポリエチレングリコールへポリエステルオリゴマーを添加した後に、十分に撹拌することが好ましい。そうすることで、ポリエチレングリコールの重縮合反応性が向上することに加え、ポリエステルオリゴマー中へのポリエチレングリコールの拡散が速やかに進行し、重縮合反応の進行とともに相分離構造が発現した際に、微細かつ均一で、溶融滞留時における粗大化が抑制された安定な分散相を形成することができる。なお、未反応のポリエチレングリコールを少なくするためには、ポリエステルオリゴマーとポリエチレングリコールが、相溶状態で少なくとも1時間以上、混合撹拌されることが必要である。得られたポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体からなる相分離構造において、分散相が微細かつ均一で、溶融滞留時における粗大化が抑制されていれば、溶融紡糸によって繊維化した際に繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制される。もし上記とは逆に、溶融しているポリエステルオリゴマー中へポリエチレングリコールを添加すると、ポリエステルに対し低比重のポリエチレングリコールが反応槽内の上層に局在化して、ポリエステルオリゴマー中へポリエチレングリコールが拡散するのにかなりの時間を要した。このため、ポリエチレングリコールとポリエステルとの反応率が低下し、未反応のポリエチレングリコールが最終的に残留することになる。そのような場合、分散相は溶融滞留時に粗大化しやすく、溶融紡糸によって繊維化した際に繊度斑の原因になるばかりでなく、親水性高分子のポリエチレングリコール成分が染色時や使用時において溶出しやすくなり、吸湿性や制電性の耐久性が低下する原因となるので注意を必要とする。
【0062】
本発明では、エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応のいずれにおいても、ポリエステルを製造する際の一般的な触媒を使用することができる。エステル化反応は無触媒でも進行するが、触媒としてチタン化合物などを添加してもよい。エステル交換反応の触媒の具体例として、マグネシウム、マンガン、カルシウム、コバルト、亜鉛、リチウム、チタンなどの化合物が挙げられるが、これらに限定されない。重縮合反応の触媒の具体例として、アンチモン、チタン、ゲルマニウムなどの化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明では、繊維の耐熱性や色調を向上させるために、熱安定剤としてリン化合物を添加してもよい。リン化合物の具体例として、リン酸化合物、亜リン酸化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキサイド化合物、亜ホスホン酸化合物、亜ホスフィン酸化合物、ホスフィン化合物などが挙げられる。これらのリン化合物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0064】
本発明では、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体を製造する任意の段階で熱安定剤としてリン化合物を添加することができ、エステル化反応前後、エステル交換反応前後のいずれの段階で添加してもよい。また、耐熱性や色調をさらに向上させるために、重縮合触媒を添加後に反応槽内を減圧にして、重縮合反応が開始されてから終了するまでの間にリン化合物を追加で添加してもよい。この熱安定剤を添加しない場合、親水性高分子のポリエチレングリコールの分子量が低下し、分散相の溶融滞留安定性が低下し、溶融紡糸によって繊維化した際に繊度斑を悪化させる要因となる。
【0065】
本発明では、任意の段階で酸化防止剤を添加することができ、エステル化反応前後、エステル交換反応前後、重縮合触媒を添加後に反応槽内を減圧にして、重縮合反応が開始されてから終了するまでのいずれの段階で添加してもよい。重縮合反応が開始されてから終了するまでの間に添加する場合は、重縮合反応槽内は減圧、常圧のいずれでもよい。上述のとおり、本発明におけるポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体からなる相分離構造を有する繊維は、相分離構造を有さない均一構造のポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体からなる繊維と比べ、酸化分解性が高いため、繊維中に十分な量の酸化防止剤を含有させることが好ましく、エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応中の熱分解による酸化防止剤の失活や、重縮合反応中に減圧下で酸化防止剤が飛散するのを防ぐ観点から、重縮合反応終了直前に酸化防止剤を添加し、重縮合反応槽内を常圧にして撹拌することが好ましい。
【0066】
本発明では、疎水性高分子(ポリエステル)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体の分子量を高めるために、上記の方法で得られた共重合体を用いて固相重合を行ってもよい。固相重合の装置および方法に関して特に制限はないが、不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理を行う。不活性ガスの具体例として、窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどが挙げられるが、これらに限定されない。減圧する際には装置内の圧力を133Pa以下とすることが好ましく、さらに圧力を下げることで固相重合反応に要する時間を短くできるため好ましい。固相重合の処理温度は150〜240℃であることが好ましい。固相重合の処理温度が150℃以上であれば、重合反応が進行し、分子量を高めることができるため好ましい。固相重合の処理温度は170℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることが更に好ましい。一方、固相重合の処理温度が240℃以下であれば、熱分解を抑制することができ、分子量低下や着色を抑制できるため好ましい。固相重合の処理温度は235℃以下であることがより好ましく、230℃以下であることが更に好ましい。
【0067】
前述の疎水性高分子(ポリエステル)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体の製造方法の別の具体例を示す。テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応によって、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽内でビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートのオリゴマー(以下、BHTと称する場合もある)を合成する。該反応槽から250〜270℃に加熱した重縮合反応槽へ移行配管を通じてBHTを移行する際、あらかじめ重縮合反応槽へ加温融解したポリエチレングリコールを投入し、そこへBHTを移行する。その後、約1時間撹拌することでBHT中へポリエチレングリコールを十分に拡散させる。続いて、重縮合触媒を添加して500Pa以下に減圧し、260〜300℃で3〜5時間反応させることでポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体を得ることができる。
【0068】
前記疎水性高分子(ポリエチレンテレフタレート)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造は、ポリエチレンテレフタレートの前駆体であるBHTとポリエチレングリコールとの重縮合反応の進行とともに、低極性の共重合体、すなわち分子鎖中に占めるポリエチレンテレフタレートの割合が高い共重合体と、高極性の共重合体、すなわち分子鎖中に占めるポリエチレングリコールの割合が高い共重合体が生成し、これらの極性の違いにより発現するものである。また、相分離構造中における分散相のサイズは、ポリエチレングリコールの数平均分子量や共重合率、重縮合反応の温度や撹拌速度、あるいはポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体の重合度(分子量)によって制御することが可能である。
【0069】
本発明の繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸法を用いることができるが、本発明の疎水性高分子と親水性高分子との共重合体は相分離構造を形成しており、製糸条件として選択可能な範囲が狭いため、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の特性に応じて適切に製糸条件を設定する必要がある。しかしながら、後述する製造方法の具体例により、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維を安定して得ることができる。
【0070】
一般的に、非相溶のポリマーブレンドやポリマーアロイの系においては、ポリマーが紡糸口金から吐出された直後に、バラス効果により紡糸線の膨らみが発生し、細化挙動が不安定になりやすく、極端な場合には繊維化できないことがある。また、得られる繊維についても繊度斑が大きく、染め斑や毛羽の発生により低品位となる。バラス効果による紡糸線の膨らみを低減する方法については、日本国特開2009−79318号公報に記載のように吐出線速度や剪断速度の低下による吐出安定性の向上や、日本国特開2011−202289号公報に記載のように相溶化剤の添加による相溶性の向上などがよく知られている。本発明の疎水性高分子と親水性高分子との共重合体についても相分離構造を形成しているため、バラス効果による紡糸線の膨らみを抑制する目的で、吐出線速度や剪断速度を低下させたが、紡糸口金からの吐出は不安定であり、得られる繊維は繊度斑が大きく、染め斑や毛羽が多数見られるものであった。ところが、本発明者らは、バラス効果による紡糸線の膨らみを低減する一般的な方法とは逆に、吐出線速度や剪断速度を高めることで、紡糸口金からの吐出の安定化ができることを見出し、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維を安定して得ることを可能にした。これは、疎水性高分子(ポリエチレンテレフタレート)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造が、前述のとおり、溶融状態で剪断を付与した場合に相分離構造が微分散化し、やがて消失するが、剪断の付与を停止して一定時間経過すると再び相分離構造が発現するという特性を有するためであると考えられる。
【0071】
本発明では、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体が紡糸口金を通過する際の剪断速度を10000〜40000s-1とすることが好ましい。紡糸口金を通過する際の剪断速度は、紡糸口金の単孔当たりの吐出量、吐出孔径、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の溶融粘度により決定される。紡糸口金を通過する際の剪断速度が10000s-1以上であれば、紡糸口金からの吐出が安定し、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。紡糸口金を通過する際の剪断速度は12000s-1以上であることがより好ましく、15000s-1以上であることが更に好ましい。一方、紡糸口金を通過する際の剪断速度が40000s-1以下であれば、紡糸応力が高くなり過ぎず、紡糸口金からの吐出が安定するため、シャークスキンやメルトフラクチャー等の発生が抑制され、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。紡糸口金を通過する際の剪断速度は38000s-1以下であることがより好ましく、35000s-1以下であることが更に好ましい。
【0072】
本発明の繊維の製造においては、吐出線速度が10〜100m/分であることが好ましい。吐出線速度は、紡糸口金の単孔当たりの吐出量、吐出孔径、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の溶融粘度により決定される。吐出線速度が10m/分以上であれば、紡糸口金からの吐出が安定し、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。吐出線速度は15m/分以上であることがより好ましく、20m/分以上であることが更に好ましい。一方、吐出線速度が100m/分以下であれば、紡糸応力が高くなり過ぎず、紡糸口金からの吐出が安定するため、シャークスキンやメルトフラクチャー等の発生が抑制され、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。吐出線速度は90m/分以下であることがより好ましく、80m/分以下であることが更に好ましい。
【0073】
本発明の繊維の製造においては、紡糸ドラフトが10〜300であることが好ましい。紡糸ドラフトは、紡糸速度を吐出線速度で除することで算出することができる。紡糸ドラフトが10以上であれば、生産性が良好となるため好ましい。紡糸ドラフトは20以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましい。一方、紡糸ドラフトが300以下であれば、紡糸応力が高くなり過ぎず、製糸性が良好となり、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。紡糸ドラフトは250以下であることがより好ましく、200以下であることが更に好ましい。
【0074】
本発明で用いる紡糸口金は、公知のものを使用することができ、吐出孔数は所望のフィラメント数に応じて適宜選択することができる。吐出孔径は、剪断速度、吐出線速度、紡糸ドラフトに応じて適宜選択することができるが、0.05〜0.50mmであることが好ましい。吐出孔径が0.05mm以上であれば、紡糸パック内の圧力が高くなり過ぎず、紡糸口金からの吐出が安定し、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制された繊維が得られるため好ましい。吐出孔径は0.10mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが更に好ましい。一方、吐出孔径が0.50mm以下であれば、紡糸口金の背面圧が不足することなく、紡糸口金の吐出孔間における吐出斑が抑制されるため好ましい。また、紡糸速度を低下させることなく、紡糸ドラフトを高くすることができ、生産性が良好となるため好ましい。吐出孔径は0.40mm以下であることがより好ましく、0.30mm以下であることが更に好ましい。
【0075】
本発明では溶融紡糸を行う前に、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体を乾燥させ、含水率を300ppm以下としておくことが好ましい。含水率が300ppm以下であれば、溶融紡糸の際に加水分解による分子量低下や水分による発泡が抑制され、安定して紡糸を行うことができるため好ましい。含水率は200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
【0076】
本発明では、溶融紡糸を行う際に酸化防止剤を添加してもよい。上述のとおり、本発明における疎水性高分子(ポリエステル)−親水性高分子(ポリエチレングリコール)共重合体からなる相分離構造を有する繊維は、相分離構造を有さない均一構造のポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体からなる繊維と比べ、酸化分解性が高いため、繊維中に十分な量の酸化防止剤を含有させることが好ましく、さらには、溶融紡糸時に添加することにより、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体を製造する際に添加する場合と比べて、真空下での酸化防止剤の飛散や、熱分解による酸化防止剤の失活を抑制できるため好ましい。溶融紡糸を行う際の酸化防止剤の添加方法として、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体と酸化防止剤を事前にドライブレンドした後に溶融紡糸機へ投入する方法、ポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体と酸化防止剤を別々のフィーダーから溶融紡糸機へ投入する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
本発明では、事前に乾燥したポリエステル−ポリエチレングリコール共重合体のチップをエクストルーダー型やプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機へ供給して溶融し、計量ポンプで計量する。その後、紡糸ブロックにおいて加温した紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過した後、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする。紡糸口金から吐出された繊維糸条は、冷却装置によって冷却固化し、第1ゴデットローラーで引き取り、第2ゴデットローラーを介してワインダーで巻き取り、巻取糸とする。なお、製糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2〜20cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。また、給油装置を用いて繊維糸条へ給油してもよく、交絡装置を用いて繊維糸条へ交絡を付与してもよい。
【0078】
溶融紡糸における紡糸温度は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の融点や耐熱性などに応じて適宜選択することができるが、240〜320℃であることが好ましい。紡糸温度が240℃以上であれば、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、さらには、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は250℃以上であることがより好ましく、260℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が320℃以下であれば、紡糸時の熱分解を抑制することができ、繊維の機械的特性の低下や着色を抑制できるため好ましい。紡糸温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0079】
溶融紡糸における紡糸速度は、疎水性高分子と親水性高分子との共重合体の組成、紡糸温度、紡糸ドラフトなどに応じて適宜選択することができる。一旦溶融紡糸を行って巻き取った後、別途延伸を行う二工程法の場合の紡糸速度は、500〜5000m/分であることが好ましい。紡糸速度が500m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れを抑制することができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は1000m/分以上であることがより好ましく、1500m/分以上であることが更に好ましい。一方、二工程法の紡糸速度が5000m/分以下であれば、繊維糸条を十分に冷却することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は4500m/分以下であることがより好ましく、4000m/分以下であることが更に好ましい。また、一旦巻き取ることなく紡糸と延伸を同時に行う一工程法の場合の紡糸速度は、低速ローラーを500〜5000m/分、高速ローラーを3000〜6000m/分とすることが好ましい。低速ローラーおよび高速ローラーが上記の範囲内であれば、走行糸条が安定するとともに、糸切れを抑制することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。一工程法の場合の紡糸速度は低速ローラーを1000〜4500m/分、高速ローラーを3500〜5500m/分とすることがより好ましく、低速ローラーを1500〜4000m/分、高速ローラーを4000〜5000m/分とすることが更に好ましい。
【0080】
一工程法または二工程法により延伸を行う場合には、一段延伸法または二段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、温水、熱水などの液体浴、熱空(加熱空気)、スチームなどの気体浴、レーザーなどが挙げられるがこれらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0081】
延伸を行う場合の延伸倍率は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.02〜7.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.02倍以上であれば、延伸によって繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が7.0倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸倍率は6.0倍以下であることがより好ましく、5.0倍以下であることが更に好ましい。
【0082】
延伸を行う場合の延伸温度は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、60〜150℃であることが好ましい。延伸温度が60℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるため好ましい。延伸温度は65℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が150℃以下であれば、繊維の熱分解を抑制することができるため好ましい。また、延伸ローラーに対する繊維の滑り性が良好となるため、糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて60〜150℃の熱セットを行ってもよい。
【0083】
延伸を行う場合の延伸速度は、延伸方法が一工程法または二工程法のいずれであるかなどに応じて適宜選択することができる。一工程法の場合には、上記紡糸速度の高速ローラーの速度が延伸速度に相当する。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は、30〜1000m/分であることが好ましい。延伸速度が30m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制できるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は50m/分以上であることがより好ましく、100m/分以上であることが更に好ましい。一方、延伸速度が1000m/分以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は800m/分以下であることがより好ましく、500m/分以下であることが更に好ましい。
【0084】
本発明では、必要に応じて、繊維または繊維構造体のいずれの状態において染色してもよい。本発明では、染料として分散染料を好適に採用することができる。
【0085】
本発明における染色方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機、ビーム染色機、ジッガー、高圧ジッガーなどを好適に採用することができる。
【0086】
本発明では、染料濃度や染色温度に関して特に制限がなく、公知の方法を好適に採用できる。また、必要に応じて、染色加工前に精練を行ってもよく、染色加工後に還元洗浄を行ってもよい。
【0087】
本発明の繊維およびそれからなる繊維構造体は、染め斑や毛羽の発生が抑制されており、吸湿性や低温低湿度環境下における制電性に優れ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制されたものである。そのため、品位や快適性が要求される用途において好適に用いることができる。例えば、一般衣料用途、スポーツ衣料用途、寝具用途、インテリア用途、資材用途などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。
【0089】
A.繊度
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC製電動検尺機を用いて、実施例によって得られた繊維100mをかせ取りした。得られたかせの重量を測定し、下記式を用いて繊度(dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を繊度とした。
繊度(dtex)=繊維100mの重量(g)×100
【0090】
B.強度、伸度
強度および伸度は、実施例によって得られた繊維を試料とし、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸度(%)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度および伸度とした。
伸度(%)={(L1−L0)/L0}×100
【0091】
C.タフネス
繊維のタフネスは、上記Bで算出した強度(cN/dtex)と伸度(%)を用いて下記式によって算出した。
タフネス=強度×(伸度)1/2
【0092】
D.初期引張抵抗度
初期引張抵抗度は、実施例によって繊維を試料とし、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に準じて算出した。上記Bと同様に引張試験を行って荷重−伸長曲線を描き、この曲線の原点近傍において伸長変化に対する荷重変化の最大点を求め、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に記載の式を用いて初期引張抵抗度(cN/dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を初期引張抵抗度とした。
【0093】
E.沸騰水収縮率
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、1m/周の検尺機を用いて、実施例によって得られた繊維からなる かせ(巻数10回)を作製し、24時間静置した。その後、該環境下において、かせへ0.09cN/dtexの荷重を加えて試料長L0を測定した。次いで、かせを98℃の沸騰水中において無荷重で15分間処理後、24時間風乾し、かせへ0.09cN/dtexの荷重を加えて試料長L1を測定した。沸騰水中での処理前後における試料長L0、L1を用いて下記式によって沸騰水収縮率(%)を算出した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を沸騰水収縮率とした。
沸騰水収縮率(%)={(L0−L1)/L0)}×100
【0094】
F.繊維横断面における分散相の最大直径
実施例によって得られた繊維をエポキシ樹脂で包埋した後、LKB製ウルトラミクロトームLKB−2088を用いてエポキシ樹脂ごと、繊維軸に対して垂直方向に繊維を切断し、厚さ約100nmの超薄切片を得た。得られた超薄切片を四酸化ルテニウムの気相中に常温で約4時間保持して染色した後、染色された面をウルトラミクロトームで切断し、四酸化ルテニウムで染色された超薄切片を作製した。染色された超薄切片について、日立製透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA型を用いて、加速電圧100kVの条件で繊維軸に対して垂直な断面、すなわち繊維横断面を観察し、繊維横断面の顕微鏡写真を撮影した。観察は2000倍、8000倍、20000倍、40000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には300個以上の分散相が観察できる最も高い倍率を選択した。撮影された写真について、画像解析ソフト(三谷商事製WinROOF)を用いて、無作為に抽出した300個の分散相の直径を測定し、その最大値を繊維横断面における分散相の最大直径(nm)とした。繊維横断面に存在する分散相は必ずしも真円とは限らないため、真円ではない場合には面積を測定して、真円に換算した際の直径を分散相の直径として採用した。
【0095】
G.繊維縦断面における分散相の最大直径
実施例によって得られた繊維をエポキシ樹脂で包埋した後、LKB製ウルトラミクロトームLKB−2088を用いてエポキシ樹脂ごと、繊維軸に対して平行な方向に繊維を切断し、厚さ約100nmの超薄切片を得た。得られた超薄切片を四酸化ルテニウムの気相中に常温で約4時間保持して染色した後、染色された面をウルトラミクロトームで切断し、四酸化ルテニウムで染色された超薄切片を作製した。染色された超薄切片について、日立製透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA型を用いて、加速電圧100kVの条件で繊維軸に対して平行な断面、すなわち繊維縦断面を観察し、繊維縦断面の顕微鏡写真を撮影した。観察は2000倍、8000倍、20000倍、40000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には300本以上の筋状の分散相が観察できる最も高い倍率を選択した。撮影された写真について、画像解析ソフト(三谷商事製WinROOF)を用いて、無作為に抽出した300本の分散相の直径を測定し、その最大値を繊維縦断面における分散相の最大直径(nm)とした。なお、繊維縦断面における分散相の直径は、繊維軸と垂直方向に対して計測した。
【0096】
H.繊度変動値U%(hi)
繊度変動値U%(hi)は、実施例によって得られた繊維を試料とし、ツェルベガーウースター製ウースターテスター4−CXを用いて、測定速度200m/分、測定時間2.5分、測定繊維長500m、撚り数12000/m(S撚り)の条件で、U%(half inert)を測定した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を繊度変動値U%(hi)とした。
【0097】
I.単糸直径CV%
実施例によって得られた繊維を白金−パラジウム合金で蒸着した後、日立製走査型電子顕微鏡(SEM)S−4000型を用いて、繊維軸に対して垂直な断面、すなわち繊維横断面を観察し、繊維横断面の顕微鏡写真を撮影した。観察は100倍、300倍、500倍、1000倍、3000倍、5000倍、10000倍の各倍率で行い、顕微鏡写真を撮影する際には試料中の全ての単糸が観察できる最も高い倍率を選択した。撮影された写真について、画像解析ソフト(三谷商事製WinROOF)を用いて、単糸直径を測定した。試料中の単糸数が50本以上の場合には無作為に抽出した50本の単糸の単糸直径を測定し、試料中の単糸数が50本未満の場合には同条件で製造した複数の試料を用いて合計50本の単糸の単糸直径を測定した。繊維横断面は必ずしも真円とは限らないため、真円ではない場合には面積を測定して、真円に換算した際の直径を単糸直径として採用した。単糸直径の平均値(X)、単糸直径の標準偏差(σ)を算出した後、下記式によって単糸直径CV%を算出した。
単糸直径CV%=(σ/X)×100
【0098】
J.単糸繊度CV%
単糸繊度は、実施例によって得られた繊維を試料として単糸に分解した後、サーチ社製オートバイブロ式繊度測定器DC−11を用いて、測定試料長25mm、測定試料の繊度(デニール換算値)×0.4gの荷重を付与し、振動数1880Hzの振動を加えて測定した。試料中の単糸数が20本以上の場合には無作為に抽出した20本の単糸の単糸繊度を測定し、試料中の単糸数が20本未満の場合には同条件で製造した複数の試料を用いて合計20本の単糸の単糸繊度を測定した。単糸繊度の平均値(X)、単糸繊度の標準偏差(σ)を算出した後、下記式によって単糸繊度CV%を算出した。
単糸繊度CV%=(σ/X)×100
【0099】
K.単糸強力CV%、単糸伸度CV%
単糸強力および単糸伸度は、実施例によって得られた繊維を試料として単糸に分解した後、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS型を用いて、初期試料長5cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を単糸強力とし、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって単糸伸度(%)を算出した。試料中の単糸数が50本以上の場合には無作為に抽出した50本の単糸の単糸強力および単糸伸度を測定し、試料中の単糸数が50本未満の場合には同条件で製造した複数の試料を用いて合計50本の単糸の単糸強力および単糸伸度を測定した。単糸強力、単糸伸度それぞれについて、平均値(X)、標準偏差(σ)を算出した後、下記式によって単糸強力CV%、単糸伸度CV%を算出した。
伸度(%)={(L1−L0)/L0}×100
単糸強力CV%=(σ/X)×100
単糸伸度CV%=(σ/X)×100
【0100】
L.未反応PEG(ポリエチレングリコール)の含有量
実施例によって得られた繊維500mgをスクリュー管へ秤量し、ヘキサフルオロイソプロパノール2mLを加え、温度20℃、湿度65%RHの環境下において、24時間静置させて溶解させた。スクリュー管へクロロホルム2mLを加えて、混合液を100mLメスフラスコに移した後、スクリュー管中の残渣へクロロホルム6mLを加え、上述のメスフラスコに移し、さらにメスフラスコへアセトニトリルを加え、100mLに定容した。アセトニトリルを添加することで析出した成分を濾過により除去し、エバポレーターを用いて濾液を濃縮乾固させ、アセトニトリル5mLで定容した。定容後の溶液1mLを10mLメスフラスコへ移し、アセトニトリルで10mLに定容後、0.45μmのPTFE製フィルターで濾過し、得られた濾液をHPLC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてHPLC装置(島津製作所製LC−20A)でHPLC測定を行い、予め作成しておいた標準物質(PEG)の検量線より、HPLC測定用試料中に含まれるPEGを定量し、実施例によって得られた繊維中に含まれる未反応PEG含有量(wt%)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を未反応PEG含有量とした。
カラム :ジーエルサイエンス製Inertsil ODS−3(内径3mm、長さ150mm、粒子径5μm)
検出器 :島津製作所製ELSD
移動層 :水(溶媒A)、アセトニトリル(溶媒B)
タイムプログラム:0→15分(溶媒A:溶媒B=60:40→0:100)、15→25分(溶媒A:溶媒B=0:100)
流速 :0.8mL/分
注入量 :10μL
カラム温度:45℃
標準物質 :PEG
【0101】
M.酸化防止剤含有量
実施例によって得られた繊維500mgへ1mol/Lのナトリウムメトキシド−メタノール溶液25mLおよび酢酸メチル25mLを加えて1時間還流させた後、酢酸2mLを加えて中和した。ロータリーエバポレーターを用いて、中和後の混合液を濃縮乾固させ、水50mLを加えた後、クロロホルム20mLで抽出し、クロロホルム層と水層に分離した。ロータリーエバポレーターを用いて、クロロホルム層を濃縮乾固させ、クロロホルム2.5mLを加えて、クロマトグラフィー測定用試料とした。この試料を用い、GC測定またはHPLC測定を行い、標準物質(実施例で用いた酸化防止剤)の検量線より、クロマトグラフィー測定用試料中に含まれる酸化防止剤を定量し、実施例によって得られた繊維中に含まれる酸化防止剤含有量(wt%)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を酸化防止剤含有量とした。
【0102】
N.立ち上がり半値点までの時間
実施例によって得られた繊維を試料とし、試料10mgをアルミニウム容器に入れ、セイコーインスツルメント製TG−DTAにて、窒素:酸素=80vol%:20vol%の混合ガス雰囲気下、混合ガス流量200mL/分、昇温速度30℃/分で室温から160℃まで昇温後、160℃で360分保持した。その後、解析ソフト(セイコーインスツルメント製、Muse)を用いて微分熱重量分析(DTG)を行い、160℃に到達した時間を0分とし、DTGピークの立ち上がり半値点までの時間(min)を算出した。160℃に到達する前にDTGピークの立ち上がり半値点が現れた場合は、立ち上がり半値点までの時間を負の値とし、160℃で360分保持している間にDTGピークが観測されない場合、立ち上がり半値点までの時間を360分以上とした。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を立ち上がり半値点までの時間とした。
【0103】
O.摩擦帯電圧
実施例によって得られた繊維を試料とし、英光産業製丸編機NCR−BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて筒編み約2gを作製した後、炭酸ナトリウム1g/L、日華化学製界面活性剤サンモールBK−80を含む水溶液中、80℃で20分間精練後、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した。
【0104】
摩擦帯電圧(V)は、精練後の筒編みを試料とし、温度10℃、湿度10%RH雰囲気下において、JIS L1094:1997(織物及び編物の帯電性試験方法)5.2に準じて算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を摩擦帯電圧とした。
【0105】
P.吸湿率差(△MR)
吸湿率(%)は、上記Oと同様に作製した精練後の筒編みを試料とし、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)8.10の水分率に準じて算出した。始めに、筒編みを110℃で24時間真空乾燥し、絶乾時の筒編みの重量(W0)を測定した。次いで、温度20℃、湿度65%RHに調湿されたエスペック製恒温恒湿機LHU−123内に筒編みを24時間静置し、筒編みの重量(W1)を測定後、温度30℃、湿度90%RHに調湿された恒温恒湿機内に筒編みを24時間静置し、筒編みの重量(W2)を測定した。筒編みの重量W0、W1により絶乾状態から温度20℃、湿度65%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR1(%)を算出し、筒編みの重量W0、W2により絶乾状態から温度30℃、湿度90%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR2(%)を算出し、下記式によって吸湿率差(△MR)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を吸湿率差(△MR)とした。
吸湿率差(△MR)(%)=MR2−MR1
【0106】
Q.熱水処理後の重量減少率
実施例によって得られた繊維を試料とし、英光産業製丸編機NCR−BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて筒編み約2gを作製した後、浴比1:50、処理温度25℃、処理時間1分でエタノール中へ筒編みを浸漬した。エタノールへの浸漬を計3回繰り返して、筒編みに付着している油剤を除去し、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した後、筒編みの重量(W0)を測定した。なお、浸漬の度に新しいエタノールを使用した。次いで、浴比1:100、処理温度100℃、処理時間60分の条件で熱水処理した。熱水処理後の筒編みを、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥した後、筒編みの重量(W1)を測定した。筒編みの重量W0、W1を用いて下記式によって、熱水処理後の重量減少率(%)を算出した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を重量減少率とした。
重量減少率(%)={(W0−W1)/W0)}×100
【0107】
R.均染性
上記Oと同様に作製した精練後の筒編みを160℃で2分間乾熱セットし、乾熱セット後の筒編みに対して、分散染料として日本化薬製Kayalon Polyester Black EX−SF200を4重量%加え、pHを5.0に調整した染色液中、浴比1:100、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色した。なお、実施例38〜47では、カチオン染料として保土谷化学工業製Cathilon Blue FB−DPを4重量%加え、pHを4.0に調整した染色液中、浴比1:100、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色した。染色後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、「非常に均一に染色されており、全く染め斑が認められない」を◎、「ほぼ均一に染色されており、ほとんど染め斑が認められない」を○、「ほとんど均一に染色されておらず、うっすらと染め斑が認められる」を△、「均一に染色されておらず、はっきりと染め斑が認められる」を×とする判定を行い、○、◎を合格とした。
【0108】
S.品位
上記Rで染色後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、「毛羽が全くなく、品位に極めて優れる」を◎、「毛羽がほとんどなく、品位に優れる」を○、「毛羽があり、品位に劣る」を△、「毛羽が多数あり、品位に極めて劣る」を×とする判定を行い、○、◎を合格とした。
【0109】
実施例1
エステル化反応槽へビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgを投入し、温度250℃に保持した後、高純度テレフタル酸(三井化学製)89.2kgとエチレングリコール(日本触媒製)39.8kgのスラリーを2.5時間かけて順次供給した。供給終了後、エステル化反応を2時間行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、エチレングリコール(日本触媒製)13.6kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)16.8kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを250℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、250℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として三酸化アンチモン30g、酢酸マンガン22gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を250℃から285℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から25Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られた重合反応生成物中におけるポリエチレングリコールの共重合率は14重量%であることを1H−NMRにより確認した。
【0110】
得られたペレットを150℃で12時間真空乾燥した後(乾燥後の含水率95ppm)、エクストルーダー型紡糸機へ供給して溶融させ、紡糸温度290℃、吐出量57g/分で紡糸口金(吐出孔径0.23mm、吐出孔長0.60mm、吐出孔数36、丸孔)から吐出させて紡出糸条を得た。この紡出糸条を風温20℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、3000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取って190dtex−36fの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を第1ホットローラー温度90℃、第2ホットローラー温度130℃、延伸倍率1.9倍の条件で延伸し、100dtex−36fの延伸糸を得た。
【0111】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。得られた繊維は、強度、タフネスなどの繊維特性が良好であった。繊維は相分離構造を有しており、繊維横断面における分散相の最大直径は30nm、繊維縦断面における分散相の最大直径は31nmであり、極めて微細に分散していた。また、相分離構造を有していながら、U%(hi)は1.0%であり、極めて均質な繊維であった。布帛特性については、制電性、吸湿性に極めて優れていた。また、熱水処理後の重量減少率も低く、親水性化合物の溶出が抑制されているとともに、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0112】
実施例2〜4
親水性高分子の共重合率、吐出量、紡糸口金(吐出孔径、吐出孔長、吐出孔数)を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に延伸糸を作製した。
【0113】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。親水性高分子の共重合率が低くなるにつれ、強度、タフネスなどの繊維特性は向上し、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径は小さくなり、U%(hi)は良好となった。一方で、制電性、吸湿性については、親水性高分子の共重合率が高くなるにつれ、良好となった。
【0114】
実施例5〜7
紡糸口金の吐出孔径を表1に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0115】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。吐出孔径が小さくなり、紡糸口金通過時の剪断速度が高くなるにつれ、強度、タフネスなどの繊維特性は向上し、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径は小さくなり、U%(hi)は良好となった。
【0116】
実施例8、9
親水性高分子の共重合率を表2に示すとおり変更した以外は、実施例7と同様に延伸糸を作製した。
【0117】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。親水性高分子の共重合率を変更した場合も、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。
【0118】
実施例10、11
親水性高分子の数平均分子量、紡糸口金(吐出孔径)を表2に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。なお、親水性高分子として、実施例10では数平均分子量11000のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG10000)、実施例11では数平均分子量20000のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG20000)を用いた。
【0119】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。親水性高分子の数平均分子量を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。
【0120】
実施例12、13
紡糸速度を表2に示すとおり変更し、延伸倍率を実施例12では5.7倍、実施例13では2.85倍とした以外は、実施例1と同様に延伸糸を作製した。
【0121】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。紡糸速度を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。
【0122】
実施例14
得られる重合反応生成物に対してチタン原子換算で10ppm相当のクエン酸キレートチタン錯体と高純度テレフタル酸(三井化学製)82.5kgと1,3−プロパンジオール49.1kgを、温度240℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽で、留出物の温度が90℃を下回るまでエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、1,3−プロパンジオール16.7kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)16.8kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを240℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、240℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として酢酸マグネシウム四水和物11gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を240℃から280℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から40Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られた重合反応生成物中におけるポリエチレングリコールの共重合率は14重量%であることを1H−NMRにより確認した。
【0123】
得られたペレットを150℃で12時間真空乾燥した後、エクストルーダー型紡糸機へ供給して溶融させ、紡糸温度265℃、吐出量57g/分で紡糸口金(吐出孔径0.23mm、吐出孔長0.60mm、吐出孔数36、丸孔)から吐出させて紡出糸条を得た。この紡出糸条を風温20℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、3000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取って190dtex−36fの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を第1ホットローラー温度55℃、第2ホットローラー温度130℃、延伸倍率1.9倍の条件で延伸し、100dtex−36fの延伸糸を得た。
【0124】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。疎水性高分子をポリプロピレンテレフタレートに変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。
【0125】
実施例15
得られる重合反応生成物に対してチタン原子換算で10ppm相当のクエン酸キレートチタン錯体と高純度テレフタル酸(三井化学製)82.5kgと1,4−ブタンジオール89.5kgを、温度220℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽で、留出物の温度が90℃を下回るまでエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、1,4−ブタンジオール19.7kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)16.8kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを220℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、220℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として酢酸マグネシウム四水和物11gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を220℃から250℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から60Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られた重合反応生成物中におけるポリエチレングリコールの共重合率は14重量%であることを1H−NMRにより確認した。
【0126】
得られたペレットを150℃で12時間真空乾燥した後、エクストルーダー型紡糸機へ供給して溶融させ、紡糸温度260℃、吐出量57g/分で紡糸口金(吐出孔径0.23mm、吐出孔長0.60mm、吐出孔数36、丸孔)から吐出させて紡出糸条を得た。この紡出糸条を風温20℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、3000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取って190dtex−36fの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を第1ホットローラー温度65℃、第2ホットローラー温度130℃、延伸倍率1.9倍の条件で延伸し、100dtex−36fの延伸糸を得た。
【0127】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。疎水性高分子をポリブチレンテレフタレートに変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。
【0128】
比較例1
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.66)を用いて、実施例1と同様に紡糸、延伸を実施した。
【0129】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。しかしながら、疎水性高分子のみからなる繊維であるため相分離構造を有していなかった。布帛特性については、均染性、品位に極めて優れるものの、摩擦帯電圧は9800Vであり制電性は極めて低く、△MRは0.1%であり吸湿性も極めて低いものであった。
【0130】
比較例2〜4
親水性高分子の数平均分子量を表3に示すとおり変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。なお、親水性高分子として、比較例2では数平均分子量3400のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG4000)、比較例3では数平均分子量6000のポリエチレングリコール(アルドリッチ製PEG6000)、比較例4では数平均分子量100000のポリエチレングリコール(明成化学工業製R−150)を用いた。
【0131】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。比較例2では強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。しかしながら、ポリエチレングリコールの数平均分子量が7000未満であるため、相分離構造を有していなかった。布帛特性については、均染性、品位に極めて優れるものの、摩擦帯電圧は7600Vであり制電性に劣るものであった。比較例3においても、比較例2と同様に、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られたものの、ポリエチレングリコールの数平均分子量が7000未満であるため、相分離構造を有していなかった。また、布帛特性については、均染性、品位に極めて優れるものの、摩擦帯電圧は6900Vであり制電性に劣るものであった。比較例4ではポリエチレングリコールの数平均分子量が高いために、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径が大きく、粗大な相分離構造を形成していた。そのため、強度、タフネスなどの繊維特性が低いことに加え、U%(hi)が高く、極めて不均質な繊維であり、使用に耐えないものであった。布帛特性については、均染性、品位に極めて劣るものであった。
【0132】
比較例5
親水性高分子の共重合率を表3に示すとおり変更した以外は、実施例8と同様に延伸糸を作製した。
【0133】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。親水性高分子の共重合率が高いため、紡糸口金からの吐出が不安定になった結果、強度、タフネスなどの繊維特性が極めて低いことに加え、U%(hi)が高く、極めて不均質な繊維であり、使用に耐えないものであった。布帛特性については、均染性、品位に極めて劣るものであった。
【0134】
比較例6、7
親水性高分子の共重合率、吐出量、紡糸口金(吐出孔径、吐出孔長、吐出孔数)を表3に示すとおり変更し、延伸倍率を比較例6、7ともに3.3倍とした以外は、実施例12と同様に延伸糸を作製した。
【0135】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。比較例6では、紡糸口金通過時の剪断速度が低いため、紡糸口金からの吐出が極めて不安定となった結果、強度、タフネスなどの繊維特性が極めて低いことに加え、U%(hi)が高く、極めて不均質な繊維であり、使用に耐えないものであった。布帛特性については、均染性、品位に極めて劣るものであった。比較例7では、紡糸口金通過時の剪断速度が高いため、紡糸応力が高くなり、紡糸口金からの吐出が不安定となった結果、U%(hi)がやや高く、均質性に欠ける繊維であった。布帛特性については、均染性、品位において合格レベルに至らなかった。
【0136】
比較例8
実施例4において、BHTを移行した後、その上からポリエチレングリコールを加熱融解せずに粉末状態で重縮合槽へ投入し、さらには、ポリエチレングリコール投入後に250℃で1時間撹拌を行わずにすぐに重合を開始した点以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0137】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。ポリエチレングリコールを粉末状態で添加し、さらにはポリエチレングリコールを投入後に撹拌を行わず、エステル化反応生成物へのポリエチレングリコールの分散が不十分な状態で重合を開始したため、重合反応生成物中において粗大な相分離構造が形成された結果、溶融紡糸によって繊維化した場合においても、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径が大きく、粗大な相分離構造を形成していた。そのため、強度、タフネスなどの繊維特性は低く、U%(hi)が高く、均質性に欠ける繊維であった。布帛特性については、均染性、品位において合格レベルに至らなかった。
【0138】
比較例9
エステル化反応槽へビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgを投入し、温度250℃に保持した後、高純度テレフタル酸(三井化学製)89.2kgとエチレングリコール(日本触媒製)39.8kgのスラリーを2.5時間かけて順次供給した。供給終了後、エステル化反応を2時間行い、エステル化反応生成物を得た。エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを250℃に加温された重縮合槽へ移行した後、250℃で1時間撹拌し、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として三酸化アンチモン30g、酢酸マンガン22gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を250℃から285℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から25Paまで減圧した後、重合反応を2時間30分行った。その後、重縮合槽内を窒素パージして常圧に戻して、粉末状態の数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)14.4kg、酸化防止剤(重縮合反応開始後に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180gを重縮合槽内へ添加し、重縮合槽内の圧力を大気圧から25Paまで減圧した後、重合反応を30分行った。重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0139】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。ポリエチレングリコールを粉末状態で添加し、さらにはポリエチレングリコールを添加した後の重合反応時間が短いため、重合反応生成物中において粗大な相分離構造が形成された結果、溶融紡糸によって繊維化した場合においても、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径が大きく、粗大な相分離構造を形成していた。そのため、U%(hi)が高く、均質性に欠ける繊維であった。また、ポリエチレングリコールを添加した後の重合反応時間が短いため、未反応PEG含有量、熱水処理後の重量減少率はともに高く、均染性、品位においても合格レベルに至らなかった。
【0140】
比較例10
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)88kg、数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)12kg、酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)150gを二軸エクストルーダーを用いて285℃で溶融混練し、5mm程度にカッティングしてペレットを作製し、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0141】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールを溶融混練した場合、繊維横断面および繊維縦断面における分散相の最大直径が大きく、U%(hi)は高く、均質性に欠ける繊維であった。また、未反応PEG含有量、熱水処理後の重量減少率がともに高く、均染性、品位においても合格レベルに至らなかった。
【0142】
比較例11
比較例2において、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)の添加量を600gに変更した以外は、比較例2と同様に延伸糸を作製した。
【0143】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維が得られた。しかしながら、ポリエチレングリコールの数平均分子量が7000未満であるため、相分離構造を有していなかった。布帛特性については、均染性、品位に極めて優れるものの、摩擦帯電圧は7200Vであり制電性に劣るものであった。
【0144】
実施例16
エステル化反応槽へビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgを投入し、温度250℃に保持した後、高純度テレフタル酸(三井化学製)89.2kgとエチレングリコール(日本触媒製)39.8kgのスラリーを2.5時間かけて順次供給した。供給終了後、エステル化反応を2時間行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、エチレングリコール(日本触媒製)13.6kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)14.4kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを250℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、250℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として三酸化アンチモン30g、酢酸マンガン22gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を250℃から285℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から25Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。その後、ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cm3の容器に、酸化防止剤(重縮合反応開始後に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)480gを入れて反応缶上部より添加し、重縮合槽内を窒素パージして常圧に戻して10分撹拌後、重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0145】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、重縮合反応開始後に酸化防止剤を添加することで、重縮合反応中における真空下での酸化防止剤の飛散や、熱分解による酸化防止剤の失活が抑制されており、繊維中の酸化防止剤含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0146】
実施例17〜19
実施例16において重縮合反応開始後に添加する酸化防止剤を、実施例17では2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)メシチレン(ADEKA製、アデカスタブAO−330)420g、実施例18では1,3,5−トリス[[4−(1,1−ジメチルエチル)−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル]メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(東京化成工業製、THANOX1790)384g、実施例19ではジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASF製CHIMASSORB2020)384gに変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0147】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。いずれの酸化防止剤を用いた場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、いずれの酸化防止剤も重縮合反応開始後に酸化防止剤を添加することで、繊維中の酸化防止剤含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0148】
実施例20〜22
実施例16において重縮合反応開始前に酸化防止剤を添加せず、重縮合反応開始後に添加する酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)を、実施例20では480g、実施例21では1200g、実施例22では2400gに変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0149】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。重縮合反応開始後に添加する酸化防止剤の添加量を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、いずれの添加量においても、繊維中の酸化防止剤含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解も抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0150】
実施例23
エクストルーダー型紡糸機において、実施例4で得られたペレットをメインフィーダーから、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)をサブフィーダーから100:0.4の重量比で供給した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0151】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、溶融紡糸時に酸化防止剤を添加することで、繊維中の酸化防止剤含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0152】
実施例24
エクストルーダー型紡糸機において、実施例4で重縮合反応開始前に酸化防止剤を添加せずに作製したペレットをメインフィーダーから、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)をサブフィーダーから100:0.4の重量比で供給した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0153】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、溶融紡糸時に酸化防止剤を添加することで、繊維中の酸化防止剤含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0154】
実施例25
得られる重合反応生成物に対してチタン原子換算で10ppm相当のクエン酸キレートチタン錯体と高純度テレフタル酸(三井化学製)82.5kgと1,3−プロパンジオール49.1kgを、温度240℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽で、留出物の温度が90℃を下回るまでエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、1,3−プロパンジオール16.7kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)16.8kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを240℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、240℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として酢酸マグネシウム四水和物11gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を240℃から280℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から40Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。その後、ポリプロピレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cm3の容器に、酸化防止剤(重縮合反応開始後に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)480gを入れて反応缶上部より添加し、重縮合槽内を窒素パージして常圧に戻して10分撹拌後、重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例14と同様に延伸糸を作製した。
【0155】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。疎水性高分子をポリプロピレンテレフタレートに変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解も抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0156】
実施例26
得られる重合反応生成物に対してチタン原子換算で10ppm相当のクエン酸キレートチタン錯体と高純度テレフタル酸(三井化学製)82.5kgと1,4−ブタンジオール89.5kgを、温度220℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽で、留出物の温度が90℃を下回るまでエステル化反応を行い、エステル化反応生成物を得た。続いて、1,4−ブタンジオール19.7kg、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)16.8kgを順に重縮合槽へ投入した後、エステル化反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル化反応生成物110.6kgを220℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、220℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)180g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)120g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)30gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として酢酸マグネシウム四水和物11gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を220℃から250℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から60Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。その後、ポリブチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cm3の容器に、酸化防止剤(重縮合反応開始後に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)480gを入れて反応缶上部より添加し、重縮合槽内を窒素パージして常圧に戻して10分撹拌後、重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例15と同様に延伸糸を作製した。
【0157】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。疎水性高分子をポリブチレンテレフタレートに変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解も抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0158】
実施例27〜36
エクストルーダー型紡糸機において、実施例27、35、36では実施例1で作製したペレット、実施例28では実施例3で作製したペレット、実施例29〜31では実施例4で作製したペレット、実施例32では実施例8で作製したペレット、実施例33では実施例10で作製したペレット、実施例34では実施例11で作製したペレットをメインフィーダーから、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)をサブフィーダーから100:0.4の重量比で供給し、実施例27は実施例1と同様に、実施例28は実施例3と同様に、実施例29は実施例5と同様に、実施例30は実施例6と同様に、実施例31は実施例7と同様に、実施例32は実施例8と同様に、実施例33は実施例10と同様に、実施例34は実施例11と同様に、実施例35は実施例12と同様に、実施例36は実施例13と同様に延伸糸を作製した。
【0159】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表5に示す。親水性高分子の数平均分子量および共重合率、紡糸口金通過時の剪断速度、紡糸速度を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、溶融紡糸時に酸化防止剤を添加することで、繊維中の酸化防止剤の含有量が高く、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されていた。また、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であり、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0160】
実施例37
実施例4において、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)の添加量を600gに変更した以外は、実施例4と同様に延伸糸を作製した。
【0161】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表5に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。布帛特性については、制電性、吸湿性に極めて優れていた。また、熱水処理後の重量減少率も低く、親水性化合物の溶出が抑制されているとともに、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0162】
実施例38
エステル交換反応槽へジメチルテレフタレート8.7kg、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル(SSIA)(三洋化成工業製)370g、エチレングリコール(日本触媒製)5.6kgからなるスラリーを投入し、エステル交換反応触媒として酢酸リチウム二水和物21.5g、酢酸コバルト四水和物2gを添加して、エステル交換反応を240℃で2時間行い、エステル交換反応生成物を得た。続いて、70℃に加熱して溶融した数平均分子量8300のポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)1.2kgを重縮合槽へ投入した後、エステル交換反応槽と重縮合槽を連結する移行配管を通じて、得られたエステル交換反応生成物を240℃に加温された重縮合槽へ移行した。移行完了後、240℃で1時間撹拌した。その後、酸化防止剤(重縮合反応開始前に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)15g、消泡剤としてシリコン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSF433)7g、熱安定剤としてリン酸トリメチル(和光純薬製)4.3gを添加して10分撹拌した後、重合触媒として三酸化アンチモン3gを加えて5分撹拌した。続いて、60分かけて重縮合槽内の温度を240℃から285℃まで昇温するとともに、重縮合槽内の圧力を大気圧から25Paまで減圧した後、重合反応を3時間行った。その後、ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cm3の容器に、酸化防止剤(重縮合反応開始後に添加)としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)40gを入れて反応缶上部より添加し、重縮合槽内を窒素パージして常圧に戻して10分撹拌後、重合反応生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の重合反応生成物を得た。得られたペレットを用いて、実施例4と同様に延伸糸を作製した。なお、表6に示すSSIA共重合率は、重合反応物中に含まれる硫黄元素の重量の割合である。
【0163】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されており、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であった。また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が共重合されているため、カチオン可染性を示し、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0164】
実施例39、40
5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合率を表6に示すとおり変更した以外は、実施例38と同様に延伸糸を作製した。
【0165】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合率を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されており、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であった。また、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0166】
実施例41、42
親水性高分子の共重合率を表6に示すとおり変更した以外は、実施例38と同様に延伸糸を作製した。
【0167】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。親水性高分子の共重合率を変更した場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されており、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であった。また、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0168】
実施例43〜47
実施例38〜42において、重縮合反応開始後に酸化防止剤を添加せず、溶融紡糸を行う際に、エクストルーダー型紡糸機において、各実施例で得られたペレットをメインフィーダーから、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(BASF製、Irganox1010)をサブフィーダーから100:0.4の重量比で供給した以外は、各実施例と同様に延伸糸を作製した。
【0169】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。いずれの場合も、強度、タフネスなどの繊維特性は良好であり、U%(hi)は低く、均質な繊維であった。さらには、立ち上がり半値点までの時間は360分以上を示し、酸化分解が抑制されており、制電性、吸湿性、熱水処理後の重量減少率についても良好であった。また、均染性、品位についても合格レベルであった。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
【表5】
【0175】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の繊維は、相分離構造を有しているにも関わらず、繊度斑が小さく、染め斑や毛羽の発生が抑制されており、さらには、長期保管やタンブラー乾燥に対する繊維特性の耐久性、吸湿性や低温低湿度環境下における制電性に優れ、染色時や使用時において親水性化合物の溶出が抑制されたものである。そのため、衣料用の織編物や不織布などの繊維構造体として好適に用いることができる。
図1
図2