特許第6582986号(P6582986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582986熱交換用原紙およびそれを用いた全熱交換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582986
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】熱交換用原紙およびそれを用いた全熱交換素子
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20190919BHJP
   F24F 7/08 20060101ALI20190919BHJP
   F28F 21/00 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   D21H27/00 E
   F24F7/08 101A
   !F28F21/00
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-540497(P2015-540497)
(86)(22)【出願日】2014年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2014076025
(87)【国際公開番号】WO2015050104
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2017年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-207463(P2013-207463)
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】藤山 友道
(72)【発明者】
【氏名】大森 平
(72)【発明者】
【氏名】岨手 勝也
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−012893(JP,A)
【文献】 特開2011−163651(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/099193(WO,A1)
【文献】 特開2008−032390(JP,A)
【文献】 特開2005−325473(JP,A)
【文献】 特開2005−121264(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/033624(WO,A1)
【文献】 特開2013−167408(JP,A)
【文献】 特開2010−248680(JP,A)
【文献】 特開2005−299069(JP,A)
【文献】 特開平10−060796(JP,A)
【文献】 特開2008−014623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 27/00
F24F 7/08
F28F 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS P8121(1995)で規定されるカナダ標準ろ水度が10ml以上100ml以下であるセルロースパルプを90質量%以上有する第1の層と、
JIS P8121(1995)で規定されるカナダ標準ろ水度が150ml以上700ml以下であるセルロースパルプ30質量%以上95質量%以下有する第2の層と、積層構造を有し、
前記積層構造は、1層の前記第1の層および1層の前記第2の層の2層構成または1層の前記第1の層の両面の各々に1層の前記第2の層が配置された3層構成であり、
前記第1の層の目付が28〜40g/mであり、かつ、前記第2の層の目付が5〜20g/mであり、
前記第2の層が、主成分がポリアミドである熱可塑性高分子のナノファイバーを含む、熱交換用原紙。
【請求項2】
前記熱交換用原紙の二酸化炭素遮蔽率が35%以上である請求項1に記載の熱交換用原紙。
【請求項3】
前記第2の層に存在する熱可塑性高分子のナノファイバーの、前記熱交換用原紙に対する含有率が0.5〜65質量%である請求項1または2に記載の熱交換用原紙。
【請求項4】
前記第2の層における熱可塑性高分子のナノファイバーの、前記第2の層に対する含有率が5〜90質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換用原紙。
【請求項5】
吸湿剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換用原紙。
【請求項6】
前記熱交換用原紙の目付が20〜90g/mである請求項1〜5のいずれかに記載の熱交換用原紙。
【請求項7】
前記熱交換用原紙の透湿度が80g/m/hr以上である請求項1〜6のいずれかに記載の熱交換用原紙。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱交換用原紙を用いた全熱交換素子用段ボール。
【請求項9】
請求項8に記載の全熱交換素子用段ボールを積層した全熱交換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換用の原紙、および全熱交換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室内外の空気の顕熱(熱)と潜熱(湿度)を交換しながら換気をする熱交換換気設備は、省エネルギーの担い手として、オフィスビルや工場などの大型建築物に加え、住宅や中小ビルへの普及が進んでいる。
【0003】
熱交換器にある熱交換素子用に使用される熱交換素子原紙は、給気路と排気路との仕切り部材として用いられ、伝熱性、透湿性に加え、汚れた室内の空気(環気)と新鮮な外気(給気)が全熱交換素子内部で混合しないための気体遮蔽性が必要とされる。これらの特性を両立させることで、室内の冷暖房熱や湿度を給気と排気の間で交換しつつも、室内の二酸化炭素や臭気といった汚れた空気が排気される、快適な環境を提供できる換気装置を提供できる。
【0004】
特許文献1には、セルロースパルプと熱可塑性のナノファイバーとを含む全熱交換用原紙が記載されており、ナノファイバーの毛細管現象を利用し高い透湿性を達成可能であることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、親水性繊維からなり、かつ吸湿材を含有する仕切部材、及び前記仕切部材を用いてなる熱交換器が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、多孔質素材にフィルムや樹脂のコート層を重合した積層構造シートを全熱交換素子の仕切部材に用いることによって、排気空気が給気空気に漏洩することのない全熱交換素子を提供できることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、製紙用繊維を主体としたスラリーに、ミクロフィブリル化セルロースおよび吸湿性粉体、必要に応じて熱融着性物質を混合して抄造した基紙に、片面若しくは両面に吸放湿性の塗工層を設けることにより、吸放湿性の向上と難燃剤の溶出を防ぎ、交換すべき空気の混合を極力さけた全熱交換器用紙、及びそれを使用した全熱交換器用エレメントが記載されている。
【0008】
特許文献5にはパルプのショッパーフリーネスの叩解度を40°SRとし、吸湿剤、防炎剤を含浸させることで、二酸化炭素の移行率が1%以下である全熱交換素子用紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−248680号公報
【特許文献2】特開2003−148892号公報
【特許文献3】特開平7−190666号公報
【特許文献4】特開平11−189999号公報
【特許文献5】特開2005−325473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記文献に記載された全熱交換用原紙では、今後要求されている性能、例えば高いシート強度、高い透湿性及び高い気体遮蔽性を十分に満足するものはなかった。
【0011】
そこで、本発明では、シート強力、透湿性及び気体遮蔽性に優れた全熱交換用原紙および全熱交換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するための本発明の熱交換素子は、以下の構成をとるものである。
(1)JIS P8121(1995)で規定されるカナダ標準ろ水度が150ml未満である繊維状物質を主成分とする第1の層と、JIS P8121(1995)で規定されるカナダ標準ろ水度が150ml以上である繊維状物質を有する第2の層とを少なくとも1層ずつ含み、積層構造を有する熱交換用原紙。
【0013】
またここで熱交換用原紙の実施形態は、以下のいずれかの構成をとる。
(2)第1の層の主成分の繊維状物質がセルロースパルプである前記熱交換用原紙。
(3)熱交換用原紙の二酸化炭素遮蔽率が35%以上である前記いずれかの熱交換用原紙。
(4)第2の層に含まれる繊維状物質がセルロースパルプである前記いずれかの熱交換用原紙。
(5)第2の層が、熱可塑性高分子のナノファイバーを含み多孔質層である前記いずれかの熱交換用原紙。
(6)前記ナノファイバーに含まれる熱可塑性高分子の主成分がポリアミドであるとする前記の熱交換用原紙。
(7)前記第2の層に存在する熱可塑性高分子のナノファイバーの、前記熱交換用原紙に対する含有率が0.5〜65質量%である前記いずれかの熱交換用原紙。
(8)前記第2の層における熱可塑性高分子のナノファイバーの、前記第2の層に対する含有率が5〜90質量%である前記いずれかの熱交換用原紙。
(9)吸湿剤を含む前記いずれかの熱交換用原紙。
(10)前記熱交換用原紙の目付が20〜90g/mである前記いずれかの熱交換用原紙。
(11)前記第1の層の目付が15〜50g/mである前記いずれかの熱交換用原紙。
(12)前記第2の層の目付が5〜40g/mである前記いずれかの熱交換用原紙。
(13)前記第1の層の目付が15〜40g/mであり、かつ、前記第2の層の目付が5〜20g/mの範囲である前記いずれかの熱交換用原紙。
(14)前記熱交換用原紙の透湿度が80g/m/hr以上である前記いずれかの熱交換用原紙。
(15)第1の層の両面の方向それぞれに第2の層がある前記いずれかの熱交換素子用原紙。
【0014】
そして上記いずれかの熱交換用原紙を用いたものとして以下の構成がある。
(16)前記いずれかの熱交換用原紙を用いた全熱交換素子用段ボール。
(17)前記の全熱交換素子用段ボールを積層した全熱交換素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シート強度、透湿性及び気体遮蔽性に優れた熱交換用原紙および全熱交換素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】

以下、発明を実施するための形態を説明する。なお、ここで「主成分」という用語を使用しているが、「主成分」という用語を定義するのであれば、50質量%超え、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上を意味することとする。
【0017】
本発明の熱交換用原紙は、第1の層と第2の層とを必須とする積層構造を有する。このような積層構造体とすることで、熱交換用原紙において、第1の層が二酸化炭素やアンモニアなどの室内空気の汚れた成分を遮蔽し、第2の層が湿気の透過性を向上させることができる。その結果、高い気体遮蔽性及び高い透湿性を両立した熱交換用原紙を得ることができる。また第1の層の存在によって、全熱交換素子の成形の際に必要となるシートの強度が低下する傾向があるが、第2の層がシート強度を補うことができる。その結果、紙力増強剤を必ずしも添加することなく、全熱交換素子の成形の際に必要なシート強度を熱交換用原紙に付与することができる。
【0018】
本発明における第1の層は、繊維状物質を主成分としている。繊維状物質としては、例えば、Nパルプ(針葉樹パルプ)、Lパルプ(広葉樹パルプ)、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ、モクメン、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュード、ヘンプ、サイザイルアサ、マニラアサ、ヤシ、バナナ、熱可塑性樹脂繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)等の熱可塑性樹脂からなる繊維)、再生繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン)などが挙げられる。これらの繊維を単独で用いても良いが、これらの中から選ばれた2種以上の繊維が含まれていてもよい。フィブリル化した繊維は、繊維間の空隙からの二酸化炭素の漏洩を効果的に遮蔽する緻密な構造体を形成し易いため、高度にフィブリル化を進めた親水性の繊維状物質を第1の層の主成分とすることが好ましい。また、高度にフィブリル化を進めた親水性の繊維状物質としては、例えば、Nパルプ(針葉樹パルプ)、Lパルプ(広葉樹パルプ)、アラミド繊維、アクリル繊維などが挙げられる。また、これらの繊維を単独で用いても良いが、これらの中から選ばれた2種以上の繊維が含まれていてもよい。第1の層として、更に好ましくは、Nパルプ(針葉樹パルプ)、Lパルプ(広葉樹パルプ)などのセルロースパルプを高度にフィブリル化したものが用いられる。フィブリル化したセルロースパルプを用いることにより、抄紙性がよく、水素結合によるセルロース分子間の相互作用により、より強固に第1の層を形成することが可能である。本発明に用いるセルロースパルプとしては、限定するものではないが、木材等の植物から得られるNパルプ(針葉樹パルプ)やLパルプ(広葉樹パルプ)等を、単独で使用、もしくは併用することができる。これら、フィブリル化が可能な親水性繊維は、ビーター、ディスクリファイナー、デラックスファイナー、ジョルダン、グラインダー、ビーズミル、高圧ホモジナイザーを用いてフィブリル化することができる。
【0019】
第1の層の主成分である繊維状物質は、JIS P8121(1995)で規定されるカナダ標準ろ水度が150ml未満である。カナダ標準ろ水度が150ml未満の繊維状物質を、第1の層の主成分とすることで、第1の層の繊維状物質間の空隙をフィブリル化した繊維状物質で微細化することができる。さらに第1の層を構成する繊維状物質全体のカナダ標準ろ水度が150ml未満であることが好ましい。カナダ標準ろ水度が低いと、第1の層を繊維状物質間の空隙が微細化された緻密な層とすることができ、第1の層が高い気体遮蔽性を発揮するものとすることができる。第1の層の気体遮蔽性をより向上させることができるとの理由により、繊維状物質のカナダ標準ろ水度は、好ましくは100ml以下であり、より好ましくは90ml以下、特に好ましくは30ml以下である。また、繊維状物質のカナダ標準ろ水度の下限については特に限定はないが、第1の層の繊維状物質間の空隙をある程度、残存させることで熱交換用原紙とした際に、熱交換用原紙の透湿性を向上させることができるとの観点、及び第1の層の抄紙での生産の効率性の向上の観点から、繊維状物質のカナダ標準ろ水度は10ml以上であることが好ましい。
【0020】
第1の層の目付は、好ましくは15g/m以上、より好ましくは20g/m以上、更に好ましくは25g/m以上である。一方、50g/m以下、より好ましくは40g/m以下、更に好ましくは35g/m以下である。15g/m以上とすることで、第1の層を二酸化炭素の遮蔽性が高い遮蔽性、例えば35%以上の遮蔽性を付与することができる。ここで、二酸化炭素の遮蔽率は気体遮蔽性の指標とすることが可能である。二酸化炭素遮蔽率が高い第1の層は高い気体遮蔽性を発揮する。一方、50g/m以下とすることで、熱交換用原紙とした際に、熱交換用原紙の透湿性及び伝熱性を向上させることができる。
【0021】
本発明の熱交換用原紙においては、第1の層の目付が15〜40g/mであり、かつ、第2の層の目付が5〜20g/mの範囲であることが好ましい。第1の層の目付および第2の層の目付がそれぞれを上記の範囲とすることで、シート強度、透湿度、気体遮蔽性および伝熱性のすべてにより優れた熱交換用原紙とすることができる。
【0022】
第1の層は高い気体遮蔽性を有することが好ましく、二酸化炭素遮蔽率としては、35%以上が好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。二酸化炭素遮蔽率が低いと、全熱交換素子とした際も熱交換用原紙からの二酸化炭素の漏洩が多くなる傾向があり、素子として要求される有効換気量率が低下する傾向がある。60%以上とすることで、熱交換用原紙を通じての二酸化炭素の漏洩が大幅に遮蔽され、更に70%以上とすることで、二酸化炭素の漏洩がさらに大幅に遮蔽される。その結果、排気からの汚れた成分の再流入を阻止し熱交換装置として有効に換気を行える。
【0023】
本発明における第2の層は、繊維状物質を含有している。繊維状物質としては、例えば、Nパルプ(針葉樹パルプ)、Lパルプ(広葉樹パルプ)、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ、モクメン、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュード、ヘンプ、サイザイルアサ、マニラアサ、ヤシ、バナナ、熱可塑性樹脂繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)等の熱可塑性樹脂からなる繊維)、再生繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン)などが挙げられる。これらの繊維を単独で用いても良いが、これらの中から選ばれた2種以上の繊維が含まれていてもよい。熱可塑性樹脂からなる繊維径1000nm未満のナノファイバーは後で定義しているが、これは、この第2の層で含有される「繊維状物質」には定義上含まれない。
【0024】
抄紙用繊維として扱い易く抄紙性に優れるため、好ましくは、Nパルプ(針葉樹パルプ)、Lパルプ(広葉樹パルプ)などのセルロースパルプが挙げられる。
【0025】
これらの繊維は、ビーター、ディスクリファイナー、デラックスファイナー、ジョルダン、グラインダー、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を用いることにより適度にフィブリル化することができる。
【0026】
第2の層に含まれる繊維状物質のカナダ標準ろ水度は、150ml以上である。繊維状物質のカナダ標準ろ水度を150ml未満とすると、第2の層中に繊維状物質間の空隙を十分に形成することができず熱交換用原紙とした際に高い透湿性を発揮することができなくなる。第2の層中に繊維状物質間の空隙を十分に形成することができない場合に、熱交換用原紙とした際に高い透湿性を発揮することができない理由は、第2の層中の空隙が微小化され過ぎると、層内での水分の移動が凝集と蒸散のみとなり、水分の移動度が小さくなるためである。また、第2の層の繊維状物質のカナダ標準ろ水度を150ml未満とすると、パルプの微細化によって湿潤状態における紙度が低下し、熱交換用原紙とした際に加工性に劣るものとなる。また、上限については、後述するとおり、ナノファイバーを含有させる場合に、抄紙の際に繊維状物質の間からナノファイバーが抜け落ちるのを抑制する観点から、カナダ標準ろ水度を700ml以下とすることが好ましい。
【0027】
第2の層は、上記の第2の層の繊維状物質とは別に熱可塑性高分子のナノファイバーも含むことが好ましい。
【0028】
ここでナノファイバーとは、ナノメートル(nm)レベルの繊維径、いわゆるナノ径を有する繊維を意味し、具体的には繊維径が1nm以上1000nm未満の繊維をいう。なお、繊維断面が円形でない異形断面の場合は同面積の円形に換算したときの繊維径に基づくものとした。
【0029】
好ましい実施形態として使用できるナノファイバーの繊維径は、毛細管現象促進の観点から、750nm以下とすることが好ましく、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。また生産性とのバランスから1nm以上とすることが好ましく。より好ましくは、100nm以上である。 ナノファイバーは熱可塑性高分子からなるものであるが、熱可塑性高分子としては主成分がポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの他、液晶ポリエステル等も挙げられる。また、ポリアミドとしてはナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)などが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。これらの高分子の中でも吸水しやすく、繊維状物質がセルロースパルプである場合、セルロースパルプとの親和性の観点からポリアミドであることが好ましく、ナイロン6が特に好ましい。また、ポリアミド以外の成分を共重合または混合していてもかまわない。
【0030】
なお、ナノファイバーは例えば、特開2005−299069号公報(段落[0045]〜[0057]、段落[0114]〜[0117]など)に記載された方法等により製造することができる。具体的には以下のとおりである。
【0031】
最初に、ナノファイバーの作製原料となる「高分子アロイ繊維」の製造方法について説明する。該高分子アロイ繊維の製造方法は、例えば、以下のような方法を採用することができる。すなわち、溶剤や薬液に対する溶解性の異なる2種類以上の高分子をアロイ化した高分子アロイチップを作製する。これを紡糸装置のホッパーに投入し、溶融部でアロイ溶融体とし、加熱保温用スピンブロック中の紡糸パックに配した口金孔から吐出紡糸した後、チムニーで冷却固化し糸条を形成する。糸条を集束給油ガイド、第1引取ローラ、第2引取ローラを通じさせて巻取機で巻取り、繊維を得る。そしてこれを必要に応じて延伸・熱処理を施し、海島構造を有する高分子アロイ繊維を得る。さらに、これを溶剤や薬液で処理して海成分を脱海し、本発明で用いるナノファイバーを得る。ここで、高分子アロイ繊維中で後にナノファイバーとなる溶剤や薬液に難溶解性の高分子を島成分とし、易溶解性の高分子を海成分とし、この島成分のサイズを制御することによって、ナノファイバーの単繊維数平均繊維径とバラツキを設計することができる。ナノファイバー前駆体である高分子アロイ繊維中での島成分の大きさによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島の大きさの分布は、所望のナノファイバーの繊維径分布に応じて設計される。このため、アロイ化する高分子の混練が非常に重要であり、本発明では混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。
【0032】
第2の層の繊維状物質と熱可塑性高分子のナノファイバーとの組み合わせにより、繊維状物質間の空隙に、ナノファイバーが密に詰まり、毛細管現象によって、高い透湿性を有した層を形成することができる。湿気は、原紙表面で凝集し、表面から裏面に浸透し、裏面にて発散することで、透湿が起こる。ナノファイバーがあることにより、表面から裏面に浸透する際、毛細管現象により早く移動が進み、透湿性がより高くなる。さらに、この第2の層を第1の層と積層することにより、ナノファイバーの存在により高い表面積を有することになった第2の層が給気・排気の空気に触れた場合、ナノ構造を有さない親水性繊維より、湿気を容易に吸着することができる。また、ナノファイバーは熱可塑性高分子材料からなるものであるので、セルロースのように、湿潤時、強度が大きく低下することがなく、本発明の熱交換用原紙は長期にわたり、全熱交換素子の安定した寸法安定性を保つことができる。
【0033】
第1の層とナノファイバー含有する第2の層とを含む積層構造体とすることは、高度な気体遮蔽性と高度な透湿性とを両立できる。ナノファイバーを含有する第2の層の組成物は抄紙工程で搾水性が悪い。第1の層および第2の層を積層して抄紙すると搾水性が改善され、生産性が上がるという効果も生じる。
【0034】
好ましい実施形態である熱交換用原紙において、ナノファイバーの含有率としては、ナノファイバーを含む熱交換用原紙を100質量%とした場合に、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは2.7質量%以上、より好ましくは4.5質量%以上、さらに好ましくは5.5質量%以上、特に好ましくは6.4質量%以上である。好ましくは65%質量以下、より好ましくは58%質量以下である。上記質量%以上とすることで、毛細管現象を促進することでき、透湿性により優れた熱交換用原紙を得ることができる。含有量を多くすることで、毛細管現象を顕著に促進することでき、透湿性に顕著に優れた熱交換用原紙を得ることができる。ただし含有量が多すぎると、抄紙時のシート状態が悪くなり、生産性が低下する。
【0035】
好ましい実施形態である熱交換用原紙において第2の層におけるナノファイバーの含有率としては、第2の層を100質量%とした場合に、好ましくは5質量%以上、より好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。一方、好ましくは90%質量以下、より好ましくは80%質量以下である。上記質量%以上とすることで、毛細管現象を促進することでき、透湿性により優れた熱交換用原紙を得ることができる。一定以上の含有量とすることで、毛細管現象を顕著に促進することでき、透湿性に顕著に優れた熱交換用原紙を得ることができる。一方で、量が多すぎると抄紙時のシート状態が悪化し、生産性が低下する。
【0036】
第2の層がナノファイバーを含有する場合において、第2の層を構成する繊維状物質のカナダ標準ろ水度の下限は200ml以上が好ましく、より好ましくは400ml以上である。また、カナダ標準ろ水度の上限は、700ml以下が好ましく、より好ましくは600ml以下である。カナダ標準ろ水度を200ml以上とすることで、ナノファイバーと混抄した際のろ水性が良好となり、積層構造体を抄紙する際の第2の層の抄紙性が向上し、結果としてナノファイバー含有率の高いライナーシートを容易に得ることができる。一方、カナダ標準ろ水度を700ml以下とすることで、第2の層を構成する繊維状物質の間からナノファイバーが抄紙の際に抜け落ちるのを抑制することができ、所望のナノファイバー含有率を実現することができる。
【0037】
本発明の第2の層の目付は、好ましくは5g/m以上、さらに好ましくは10g/m以上であり、上限は好ましくは40g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下、更に好ましくは20g/m以下である。上記目付の量以上とすることで第1の層との抄き合せにより熱交換用原紙のシート強度を向上させることができ、上記の目付の量以下とすることにより、第1の層と積層して熱交換用原紙とした際の厚みを抑制することが可能となり、熱交換用原紙の伝熱性及び透湿性を向上させることができる。
【0038】
第2の層は、多孔質であることが好ましい。SEMにて熱交換用原紙の断面を観察した際、100μmの正方形の領域に、10μmの正方形またはそれより面積が小さい孔が10個以上空いていることが好ましく、3μmの正方形またはそれより面積小さい孔が10個以上空いていることがより好ましく、更に好ましくは50個以上である。そうすることで、第2の層中に繊維状物質間の空隙を十分に形成することができ、熱交換用原紙とした際に高い透湿性を発揮することができる。
【0039】
本発明の熱交換用原紙の製造方法としては、第1の層と第2の層の原料となる物質をそれぞれ水中に分散し、多層抄きによって積層構造体を形成するのが好ましい。第1の層と第2の層とをおのおの抄紙し、接着等の方法によって積層構造体を形成することもできるが、この方法だと工程が複雑になる上、積層するためにしばしば使用される接着剤の樹脂成分が熱や湿度の透過を妨げる原因となることもある。また、多層抄きにより積層構造体を形成する場合、その積層数に応じて適時抄き上げ部を用意し、抄き合わせることにより、所望の積層構造体を容易に得ることができる。また、抄紙機としては、所望の数の抄き上げ部をもった丸網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機やそれらの組み合わせた抄紙機などを用いることができる。
【0040】
特に、第2の層にセルロースパルプとナノファイバーの混合物を用いる場合、ナノファイバーとセルロースパルプ等の他の構成繊維を分けて、分散させることが好ましい。ナノファイバーはアスペクト比(繊維長/繊維径)が大きく、繊維同士が絡みやすいため、分散剤や浸透剤などを用いて、ビーターやリファイナー等の叩解機で分散することが好ましい。また各構成繊維を混ぜ合わせて、すみやかに抄紙することが好ましい。また、抄紙機としては、丸網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機やそれらの組み合わせた抄紙機などを用いることができる。ナノファイバーを紙の内部に均一に分散配置させるためには、サクション等による脱水機能を有する抄紙機を使用することが、ナノファイバーを抄紙内部で部分的に偏ることを抑制できるので好ましい。
【0041】
本発明の熱交換用原紙の層構成としては、第1の層及び第2の層を少なくとも1層ずつ有している限り特に限定されないが、熱交換用原紙の透湿性を向上させることができるとの観点により、第1の層の両面の方向それぞれに第2の層がある構成とすることが好ましい。
【0042】
熱交換用原紙の透湿性を向上させるため、熱交換用原紙に塩化リチウム、塩化カルシウム等のアルカリ金属塩からなる吸湿剤を含有させることが好ましい。
【0043】
吸湿剤の含有量としては、吸湿剤がない状態での熱交換用原紙を100質量%とした場合に、1〜30質量%の範囲が好ましい。吸湿材を多量に含有することで湿度移行は促進されるが、高湿条件下での原紙の強度が低下する傾向がある。吸湿剤は、コーティング等の塗工やディッピングなどの浸漬による加工で熱交換用原紙に付与することができる。また、その際には、バインダーを併用してもよい。さらに吸湿剤には抗菌剤、制菌剤、難燃剤等の機能剤を同時に付与することかできる。
【0044】
熱交換用原紙の厚みとしては、90μm以下が好ましく、より好ましくは75μm以下、更に好ましくは65μm以下である。熱交換用原紙の厚みは、全熱交換素子の温度交換効率に関係があり、厚いと熱伝導に劣り、温度交換効率が低下する傾向がある。さらに、薄くすることにより、温度交換効率80%以上の全熱交換素子を得ることができる。一方、厚みの10μm以上が好ましい。薄すぎると素子に加工する上で、破れや皺が発生し、全熱交換素子の成形性が難しくなる傾向がある。
【0045】
本発明の熱交換用原紙の目付は、好ましくは20g/m以上、より好ましくは25g/m以上、更に好ましくは30g/m以上である。また、好ましくは90g/m以下、より好ましくは60g/m以下、更に好ましくは50g/m以下である。目付を上記質量以上にすることにより熱交換用原紙の強度が向上し、成形性が良好となる。また、目付を少なくすることにより、熱伝達が高くなり、更に透湿性が良好になるため、温度交換効率と湿度交換効率をより向上することができる。
【0046】
本発明の全熱交換素子の温度交換効率としては、暖房条件において75%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。大きい温度交換効率を有することで、冬場の暖房熱を損失しにくい換気装置を提供できる。ここで、暖房条件とは、外気が温度5℃及び湿度58%、環気が温度20℃及び湿度51%であり、温度交換効率は、風量150mで測定した値とする。
【0047】
本発明の熱交換用原紙の透湿性としては、80g/m/hr以上が好ましく、90g/m/hr以上であることがより好ましい。熱交換用原紙の透湿性が、大きいことで、排気する空気から給気する空気に効率よく水分を移行させることができる全熱交換素子を得ることができる。
【0048】
熱交換用原紙の透湿度は、全熱交換素子として用いたときに湿度交換効率と相関があり、透湿度が高くなればなるほど湿度交換効率が高くなる。
本発明の全熱交換素子の湿度交換効率としては、冷房条件において60%以上が好ましく、より好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上である。60%以上の湿度交換効率を有することで、夏場の高湿である外気が換気により交換され、蒸し暑く感じにくい換気装置を提供できる。ここで、冷房条件とは、外気が温度35℃及び湿度64%、環気が温度27℃及び湿度52%であり、湿度交換効率は、風量150mで測定した値とする。
【0049】
本発明の熱交換用原紙の二酸化炭素遮蔽率としては、35%以上が好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。この値が低いと全熱交換素子とした場合、熱交換用原紙を通じての二酸化炭素の漏洩が大きくなる。さらに、60%以上またさらに70%以上であることが好ましい。
【0050】
本発明における全熱交換素子の二酸化炭素漏洩の指標である有効換気量率としては、85%以上が好ましく、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。85%未満では、汚れた空気の一部が換気装置内で漏洩し室内に戻るために、過剰に換気する必要が生じ好ましくない。
【0051】
熱交換用原紙の密度をコントロールする手法としては、特に規定するものではないが、回転する一対のロール、または複数本のロールの間で押圧させるカレンダー装置やプレス装置により圧密化されることが好ましい。圧密化を行うことにより、原紙の紙厚を薄くすることができ、熱交換を行う際の熱伝達や湿度透過の抵抗が小さくなり、より熱交換しやすくなるといった効果がある。
【0052】
本発明の熱交換用原紙は、全熱交換素子として好適に使用することができる。
【0053】
本発明の熱交換用原紙とコルゲート加工した目付20〜200g/mのセルロースや合成繊維を主成分とする中芯紙を接着剤等で貼り合わせ、片面段ボールを得る。必要に応じて中芯紙に、難燃剤を加工しておいてもよい。コルゲート加工は、中芯紙を形成する互いに噛み合って回転する一対の歯車状のコルゲーターと、熱交換用原紙をコルゲートされた中芯紙に押し付けるプレスロールと、からなる装置により行われる。中芯紙と熱交換用原紙の接着には、中芯紙の段加工された頂点部に接着剤を塗布し、熱交換用原紙を押圧し接着することもできる。また中芯紙、熱交換用原紙の少なくともいずれかに接着成分を含有させ、中芯紙と熱交換用原紙を加熱しながら押圧することで接着させることもできる。
【0054】
さらに、片面コルゲートの段目方向が一段ずつ交差するように片面ダンボールを積層し、全熱交換素子を作製する。
【0055】
全熱交換素子は、片面段ボールを積層することで製造される。片面段ボールの山の頂点に接着剤を塗布し、片面コルゲートの複数を、一枚ずつ交互に交差させて積層させる。交差の角度は好ましくは30°以上150°以下であり、より好ましく90°である。片面コルゲートの複数を、直交させることにより、全熱交換素子として圧力損失を低減することができる。片面段ボールは積層前や積層後に、必要な形状に切断することが可能である。また、片面段ボールは積層前や積層後に圧縮し、山の高さを潰すことが可能である。山の高さを低くすることで、熱交換用原紙の枚数を増やすことができ、温度交換効率と湿度交換効率の面積をさらに増やすことができる。
【0056】
全熱交換素子の形状は、熱交換用原紙に平行な面であって、全熱交換素子の端にある面を底辺とした場合、底辺が多角形の形状が好ましい。すなわち、全熱交換素子は多角柱であることが好ましい。より好ましくは四角柱であり、例えば底辺の形状が正方形、長方形、平行四辺形、台形、ひし形などがある。
【0057】
全熱交換素子の1ユニットの大きさは、熱交換用原紙の面を底辺とした場合、底辺の縦と横の長さは、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上、更に好ましくは200mm以上であり、一方、好ましくは2000mm以下、より好ましくは1000mm以下、更に好ましくは500mm以下である。また、積層する高さは、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上、更に好ましくは200mm以上であり、一方、好ましくは2000mm以下、より好ましくは1000mm以下、更に好ましくは500mm以下である。縦、横の長さや積層する高さが大きすぎると圧力損失が高くなる傾向がある。また積層体を切断する際の加工性が悪くなる傾向がある。また全熱交換素子を熱交換器に設置する施工性が悪くなる傾向がある。
【0058】
全熱交換素子を構成する段ボールの中芯紙が形成する山の高さ(段高)は、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは2.0mm以上である。一方、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下、更に好ましくは3.0mm以下である。ここで、段高とは、一つの山の頂点と底辺の間隔を言う。
【0059】
段高を一定量以下とすることにより、一定の全熱交換素子の大きさの中で、熱交換用原紙の枚数を増やすことができ、温度交換効率と湿度交換効率の面積をさらに増やすことができる。また、段高を一定量以上とすることにより、全熱交換素子の圧力損失がより低下し、熱交換器の送風機への付加が少なくなる。
【0060】
また、全熱交換素子を構成する段ボールの中芯紙が形成する山の間隔(ピッチ)は、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.5mm以上、更に好ましくは3.0mm以上である。一方、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは7.0mm以下、更に好ましくは6.0mm以下である。ここで、ピッチは山の頂点と次の山の頂点との間隔を言う。ピッチを8.0mm以下とすることにより、山の数が多くなるため、全熱交換素子の圧縮による強度が高くなる。ピッチ2.0mm以上とすることにより、山の数を少なくすることができ、それにより熱交換用原紙への接着剤の面積が減るため、温度交換効率と湿度交換効率を高めることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下のとおりである。
【0062】
(1)カナダ標準ろ水度
カナダ標準ろ水度は、JIS P8121(1995)カナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定した。
【0063】
(2)二酸化炭素遮蔽率
幅0.36m、長さ0.60m、高さ0.36m(0.078m)のボックスの開口部(20cm×20cm)に試験片(25cm×25cm)を貼り、ボックス内の濃度が8,000ppmとなるように二酸化炭素を注入し、1時間後のボックス内の二酸化炭素濃度(ppm)を測定し、次式により二酸化炭素遮蔽率(%)を計算した。
二酸化炭素遮蔽率(%)
={(1時間後のボックス内の二酸化炭素濃度−外気二酸化炭素濃度炭素濃度)/(ボックス内の初期二酸化炭素濃度−外気二酸化炭素濃度)}×100
(3)透湿度
透湿度は、JIS Z0208(1976)透湿度(カップ法)の方法により測定した。使用したカップは、直径φ60mmで深さ25mmである。試験片は、直径φ70mmの円形を5枚採取した。試験片は、80℃の温度に設定した乾燥機を用いて1時間処理し、20℃の温度で湿度65%RHに設定した恒温恒湿槽内で1時間処理した。次に、その試験片を、水分測定用塩化カルシウム(和光純薬工業製)の入ったカップに設置し、初期質量(T0)を測定し、20℃の温度で湿度65%RHに設定した恒温恒湿槽内で1時間、2時間、3時間、4時間、および5時間処理し、それぞれの時間での質量(それぞれT1、T2、T3、T4およびT5)を測定した。下記式により透湿度を求め、5枚の平均値を値とした。
透湿度(g/m/hr)={[(T−T0)/T0)+((T−T1)/T1)+((T−T2)/T2)+((T−T3)/T3)+((T−T4)/T4)+((T−T5)/T5)]/5}×100。
【0064】
(4)厚み
厚みは、試料の異なる箇所から長さ200mm、幅200mmの試験片を3枚採取し、温度20℃、湿度65%RHで24hr放置後、それぞれの中央と4隅の5点の厚さ(μm)を測定器(型式ID−112、(株)ミツトヨ製)を用いて1μmまで測定し、平均値を値とした。
【0065】
(5)目付
JIS L1906(2000)5.2の方法により目付を測定した。試料の異なる箇所から長さ200mm、幅250mmの試験片を3枚採取し、温度20℃、湿度65%RHで24時間放置後、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表し、3枚の平均値を値とした。
【0066】
また、第1の層の目付及び第2の層の目付については、各層につき抄き上げ部にて長さ200mm、幅250mmの試験片を3枚採取し、乾燥後、上記と同様の方法により測定した。
【0067】
また、熱交換用原紙の目付けは、抄紙後の質量から求めるものとし、抄紙工程で用いる剤以外の剤(例えば吸湿剤、防炎剤など)が付着している場合は、全て取り除いてから、上記と同様の方法により測定した。
【0068】
(6)ナノファイバーの繊維径および数平均繊維径
ナノファイバーの数平均繊維径は、次のようにして求めた。すなわち、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製S−3500N型)で倍率30,000倍で撮影したナノファイバーの集合体の写真を、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、5mm角のサンプル内で無作為抽出した30本の単繊維直径をnm単位で小数の1桁目まで測定して、少数の1桁目を四捨五入する。サンプリングは、合計10回行って各30本の単繊維直径のデータを取り、合計300本の単繊維直径のデータを取得した。数平均繊維径は単繊維直径の値を積算し、全数で除した単純平均値を使用した。
【0069】
(7)全熱交換素子の温度交換効率と湿度交換効率
JIS B8628(2003)に規定される方法により、室外から熱交換器に導入する空気(外気)と、室内から熱交換器に導入する空気(環気)と、熱交換器から室内に供給する空気(給気)の温度と湿度を測定し温度交換効率と湿度交換効率を求めた。温度と湿度の測定は、温度・湿度データロガー(ティアンドデイ製“おんどとり”(登録商標)TR−71Ui)を使用した。温度と湿度の測定位置は、全熱交換素子から30cm離れた位置で測定した。測定空気は、冷房条件として、外気が温度35℃、湿度64%RHで風量150m/hrとし、環気が温度27℃、湿度52%RHで風量150m/hrとし、湿度交換効率を求めた。また、暖房条件として、外気が温度5℃、湿度58%RHで風量150m/hrとし、環気が温度20℃、湿度51%RHで風量150m/hrとし、温度交換効率を求めた。
【0070】
(8)全熱交換素子の有効換気量率
JIS B8628(2003)に規定される方法により、室内から熱交換器に導入する空気(環気)に8,000ppmの濃度の二酸化炭素を導入し、室外から熱交換器に導入する空気(外気)と、熱交換器から室内に供給する空気(給気)の二酸化炭素濃度を測定し、下記式により有効換気量率を求めた。二酸化炭素濃度は、(株式会社テストー製“CO計測器testo535”)を使用した。測定位置は、全熱交換素子から30cm離れた位置で測定した。測定空気は、外気が温度20℃、湿度50%RHで風量150m/hrとし、環気が温度20℃、湿度50%RHで風量150m/hrとした。
有効換気量率(%)=(給気側二酸化炭素濃度−外気側二酸化炭素濃度)/(環気側二酸化炭素濃度−外気側二酸化炭素濃度)×100
(9)シート強度
シート強度は、丸網抄紙機により熱交換用原紙を長さ100mにわたり抄紙し、その熱交換用原紙を用いて全熱交換素子を成型する工程での方法によって評価した。紙切れが1回以下の原紙(生産性良好)を「良」と判定した。また、紙切れが2回以上の原紙、又は、丸網抄紙機において抄紙不良により熱交換用原紙を長さ100m得られないものを「不良」として判定した。
(10)ナノファイバーの含有率
試料の異なる箇所から長さ200mm、幅250mmの試験片を5枚採取し、温度20℃、湿度65%RHで24時間放置後、それぞれの初期質量(g)を量った。この際、初期質量は、抄紙後の質量から求めるものとし、抄紙工程で用いる剤以外の剤(例えば吸湿剤、防炎剤など)が付着している場合は、全て取り除いてから、上記と同様の方法により量った。
【0071】
次に、ナノファイバーは溶解するが繊維状物質が溶解しない剤(例えばナノファイバーがポリエステル系であれば水酸化ナトリウム溶液、ナイロン系であれば蟻酸)に試料を24時間浸漬させ、水洗後、乾燥させる。その後、温度20℃、湿度65%RHで24時間放置後、それぞれの処理後質量(g)を量った。下記式によりナノファイバーの含有率を求め、5枚の平均値を値とした。
【0072】
ナノファイバー含有率(%)=初期質量(g)−処理後質量(g)/初期質量(g)×100 。
【0073】
比較例11
(第1の層)
針葉樹パルプを水に分散し、ビーターにより表1記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し、第1の層用繊維を得た。
【0074】
(第2の層)
針葉樹パルプを水に分散し、ビーターにより表1記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し、第2の層用セルロース繊維を得た。
【0075】
(熱交換用原紙の作製)
上記で得られた第1の層繊維と第2の層繊維をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第1の層の目付30g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付40g/mの紙を得た。ここで、第2の層を抄き合わせる前の第1の層を採取した。第1の層は目付30g/mであり、二酸化炭素遮蔽率77%であった。
【0076】
吸湿剤として塩化リチウムを含浸加工により7g/m添加し、乾燥することで熱交換用原紙を得た。ここで、熱交換用原紙の断面をSEMにて観察した結果、100μm角の正方形の領域に、10μm角以下の微多孔が12個空いていた。
【0077】
(全熱交換素子の作製)
上記セルロース繊維を用い、別途作製した目付60g/mのセルロースクラフト紙を、中芯紙とし、熱交換用原紙とコルゲート加工を行い、段高さ2mm、段ピッチ5mmの片面段ボールを得た。上記片面段ボールを、段目方向が一段ずつ交差するように積層し、縦350mm、横350mm、高さ200mmの全熱交換素子を作製した。
【0078】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表1に示す。
【0079】
比較例12
アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製、「ケブラー」、1.7dtex、長さ3mm)を、パルパーとファイバライザーにて、表1記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準濾水度(CSF)となるように叩解し、第1の層用の繊維状物質を得た。これを第1の層用の繊維状物質に用いた以外は、比較例11と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0080】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
(ナノファイバーの作製)
融点220℃のナイロン6、40質量%と、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)、60質量%を、2軸型の押出混練機を用いて220℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。
【0082】
上記ポリマーアロイチップを、1軸型の押出機を備えたステープル用の溶融紡糸装置に投入し、235℃で溶融し、スピンブロックに導いた。そして、ポリマーアロイ溶融体を限界濾過径15μmの金属不織布に濾過させ、紡糸温度235℃で、孔径0.3mmの吐出孔を有し口金面温度215℃とした口金から吐出させた。吐出された線状の溶融ポリマーを冷却風で冷却固化し、油剤を付与し、紡糸速度1350m/分で引き取った。得られた未延伸糸を合糸した後、延伸温度90℃、延伸倍率3.04倍、熱セット温度130℃で延伸熱処理し、単繊維繊度3.0dtex、総繊度50万dtexのポリマーアロイ繊維のトウを得た。得られたポリマーアロイ繊維は、強度3.4cN/dtex、伸度45%であった。上記ポリマーアロイ繊維のトウを、95℃に保った5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、ポリマーアロイ繊維中で海成分となっているポリL乳酸成分を加水分解によって除去(脱海)した。次いで酢酸で中和し、水洗、乾燥し、ナノファイバーの繊維束を得て、この繊維束を1mm長にカットした。このカット繊維を、水10Lあたり30gの濃度で、熊谷理機工業(株)製、試験用ナイヤガラビーターに仕込み、5分間予備叩解し、水を切って回収した。次いでこの回収物を自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpmクリアランス0.2mmの条件で6分間叩解した。そして、水を含んで粘土状となった回収物を80℃の熱風乾燥機内で24時間乾燥させ、ナノファイバーを得た。得られたナノファイバーの直径は110〜180nmで、その数平均繊維径は150nmであった。
【0083】
(第2の層)
上記で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー60質量%と、実施例1と同じ方法で得られた第2の層用の繊維状物質40質量%とを、水中で攪拌し混合物を作製した。これを本実施例の第2の層用の材料として用いた。
【0084】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
第2の層の組成を前記のとおりとした他は、実施例1と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0085】
ここで、熱交換用原紙の断面を透過型電子顕微鏡(以下「SEM」という。)にて観察した結果、100μm角の正方形の領域に、3μm角以下の微多孔が98個空いていた。
【0086】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表2に示す。
【0087】
[実施例4]
(第2の層)
実施例3と同じ方法で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー5質量%と、実施例1と同じ方法で得られた第2の層用の繊維状物質95質量%とを、水中で攪拌し混合物を作製した。
【0088】
これを本実施例の第2の層用の材料として用いた。
【0089】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
第2の層の組成を前記のとおりとした他は、実施例1と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0090】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表2に示す。
【0091】
[実施例5]
(第2の層)
実施例3と同じ方法で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー30質量%と、実施例1と同じ方法でえられた第2の層用の繊維状物質70質量%を、水中で攪拌し混合物を作製した。これを本実施例の第2の層用の材料として用いた。
【0092】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
第2の層の組成を前記のとおりとした他は、実施例1と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0093】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表2に示す。
【0094】
[実施例6]
(第2の層)
実施例3と同じ方法で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー70質量%と、実施例1と同様にして得られた第2の層用の繊維状物質30質量%とを、水中で攪拌し混合物を作製した。これを本実施例の第2の層用の材料として用いた。
【0095】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
第2の層の組成を前記のとおりとした他は、実施例1と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0096】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表2に示す。
【0097】
[実施例7]
(熱交換用原紙の作製)
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得られた第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第1の層の目付30g/m、第2の層の目付5g/mから構成される総目付35g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0098】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0099】
[実施例8]
(熱交換用原紙の作製)
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得た第2の層用の材料とをそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付30g/m、第2の層の目付20g/mから構成される総目付50g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0100】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0101】
比較例8
(熱交換用原紙の作製)
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法でえら得た第2の層用の材料とをそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付30g/m、第2の層の目付30g/mから構成される総目付60g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0102】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0103】
比較例9
(第1の層)
針葉樹パルプを水に分散し、ビーターにより表4記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し、第1の層用の繊維を得た。
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
実施例1と同同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第1の層の目付30g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付40g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0104】
ここで、第2の層を抄き合わせる前の第1の層を採取した。第1の層は目付30g/mであり、二酸化炭素遮蔽率51%であった。
【0105】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0106】
[実施例11]
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得た第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付28g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付38g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0107】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0108】
比較例13
比較例11と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得た第2の層用の材料とをそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付26g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付36g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、比較例11と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0109】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0110】
比較例10
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得られた第2の層用の材料とをそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付14g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付24g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0111】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0112】
比較例14
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
比較例11と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得られた第2の層用の材料とをそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付17g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付27g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、比較例11と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0113】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0114】
[実施例15]
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
実施例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と、ナイロン6ナノファイバーおよびセルロースパルプの混合物を第2の層用の材料として、第2の層用の材料、そして上記と同じ第1の層用の繊維状物質、第2の層用の材料の順となるよう3箇所の抄き上げ部にそれぞれ準備し、丸網抄紙機を用いて順次多層抄きにより抄き上げ、上面の第2の層の目付7g/m、第1の層の目付28g/m、下面の第2の層の目付7g/mから構成される総目付42g/mの3層構造である熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。
【0115】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0116】
[実施例16]
(第1の層)
針葉樹パルプを水に分散し、ビーターにより表3記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し、第1の層用の繊維状物質を得た。
【0117】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
上記で得られた第1の層用の繊維状物質と、実施例3と同じ方法で得られた第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きを行った。そして第1の層の目付30g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付40g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で全熱交換素子を作製した。ここで、第2の層を抄き合わせる前の第1の層を採取した。第1の層は目付30g/mであり、二酸化炭素遮蔽率71%であった。
【0118】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0119】
[実施例17]
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
実施例16と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第1の層の目付40g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付50g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で作製した。
ここで、第2の層を抄き合わせる前の第1の層を採取した。第1の層は目付30g/mであり、二酸化炭素遮蔽率84%であった。
【0120】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0121】
比較例11
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
実施例16と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質と第2の層用の材料をそれぞれ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第1の層の目付50g/m、第2の層の目付10g/mから構成される総目付60g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は、実施例1と同じ方法で作製した。
【0122】
ここで、第2の層を抄き合わせる前の第1の層を採取した。第1の層は目付30g/mであり、二酸化炭素遮蔽率89%であった。
【0123】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表3に示す。
【0124】
[比較例1]
(第1の層)
針葉樹パルプを水に分散し、リファイナーにより表1記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し第1の層用の繊維状物質を得た。
【0125】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
上記で得られた第1の層用繊維状物質のみ抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて単層抄きにより第1の層の目付30g/mから構成される総目付30g/mの原紙を得た。
吸湿剤として塩化リチウムを含浸加工により塗工しようとしたところ、加工時に紙切れが多発(2回以上発生)し、全熱交換素子を得ることができなかった。
【0126】
[比較例2]
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
比較例1と同じ方法で得られた第1の層用の繊維状物質を丸網抄紙機を用いて単層抄きにより抄紙し、第1の層の目付40g/mから構成される総目付40g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は実施例1と同じ方法で作製した。
【0127】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表1に示す。
【0128】
[比較例3]
(第2の層)
針葉樹パルプを水に分散し、表1記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し、第2の層用繊維状物質を得た。
【0129】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
上記で得られた第2の層用の繊維状物質のみを抄き上げ部に準備し、丸網抄紙機を用いて多層抄きにより第2の層の目付10g/mから構成される総目付10g/mの原紙を得ようとしたところ、紙切れが発生し、熱交換用原紙を得ることができなかった。
【0130】
[比較例4]
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
比較例3と同じ方法で得られた第2の層用の繊維状物質を丸網抄紙機を用いて単層抄きにより抄紙し、第2の層の目付40g/mから構成される総目付40g/mの熱交換用原紙を得た。これを熱交換用原紙として用いた以外は実施例1と同じ方法で作製した。
【0131】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表1に示す。
【0132】
[比較例5]
(第2の層)
実施例3と同じ方法で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー60質量%と、実施例1と同じ方法で得られた第2の層用の繊維状物質40質量%を、水中で攪拌し混合繊維を作製した。これを第2の層用の材料として用い目付を10g/mとした以外は比較例3と同じ方法で熱交換用原紙を得ようとしたところ、紙切れが発生し、熱交換用原紙を得ることができなかった。
【0133】
[比較例6]
(第2の層)
実施例3と同じ方法で得られた数平均繊維径150nmのナイロン6ナノファイバー60質量%と、実施例1と同じ方法で得られた第2の層用の繊維状物質40質量%を、水中で攪拌し第2の層の材料を作製した。これを第2の層の材料として用い目付を40g/mとした以外は比較例4と同じ方法で作製した。
【0134】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表2に示す。
【0135】
[比較例7]
(第1の層)
針葉樹パルプを水に分散し、リファイナーにより表4記載のJIS P8121(1995)に規定されるカナダ標準ろ水度(CSF)となるように叩解し第1の層の繊維状物質を得た。
【0136】
(熱交換用原紙および全熱交換素子)
第1の層の組成を前記のとおりとした他は実施例3と同じ方法で熱交換用原紙および全熱交換素子を作製した。
【0137】
以上のようにして得られた熱交換用原紙の物性およびそれを用いた全熱交換素子の特性を表4に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
表1〜4に示すとおり、実施例1〜18は比較例1〜7に対し、二酸化炭素遮蔽率が高く気体遮蔽性に優れるため、結果、熱交換器として望ましくない汚れた空気の混入を表す指標である有効換気量率に優れている。さらに、比較例2に対し、高い有効換気量率を確保しつつ、高い透湿性を発現した結果、優れた湿度交換効率を有する。また、積層構造とした結果、比較例1及び4に対し、後加工や全熱交換素子の成形に必要なシート強度を付与することができる。